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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1341707
審判番号 不服2016-12902  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-26 
確定日 2018-06-20 
事件の表示 特願2013-556535「全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂、該樹脂を含むフィルム、該フィルムを含む軟性金属張積層板、及び該軟性金属張積層板を具備する軟性印刷回路基板」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月 7日国際公開、WO2012/118262、平成26年 4月 3日国内公表、特表2014-508206〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)11月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年3月3日 韓国(KR))を国際出願日とする特許出願であって、平成27年10月28日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月26日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月26日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年8月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲についての手続補正書が提出され、同年9月29日付けで前置報告がされ、平成29年6月28日付けで当審から拒絶理由が通知されたところ、同年10月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成29年10月2日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂及びフィラーを含む高分子フィルムであって、
前記フィラーは有機フィラー及び無機フィラーからなる群から選択される少なくとも1種であり、且つ前記全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂100重量部に対して20重量部であり、
前記全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂は、
6-ヒドロキシ-2-ナフト酸から誘導される繰り返し単位(A)25モル部と、
4-アミノフェノールから誘導される繰り返し単位(B)37.5モル部と、
イソフタル酸から誘導される繰り返し単位(C)37.5モル部と、を含み、
前記全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂の重量平均分子量が1,000?100,000であり、ガラス転移温度が200?300℃である高分子フィルム。」


第3 当審から通知した拒絶理由
当審が平成29年6月28日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。

「(理由1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(理由2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(理由3)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2006-199769号公報(原審における引用文献1)
引用文献2:特開昭62-50329号公報(当審において新たに引用する文献)
引用文献3:国際公開第2010/77015号(同上)
(対応日本公報:特表2012-514067号公報)
引用文献4:特開2010-278202号公報(同上) 」


第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、当審で通知した拒絶理由の理由3について、その理由があり、補正された請求項1に記載された発明(本願発明)は、依然として、引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることはできないものであり、その余について検討するまでもなく、本願発明は拒絶すべきもの、と判断する。

1 引用文献の記載等
(1) 引用文献1に記載された事項
ア-1 「【請求項1】
構成単位として、(A)芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の単位と(B)芳香族ジカルボン酸由来の単位と(C)芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来の単位とを含み、(A)?(C)単位の合計に対して、(A)の単位が10モル%?30モル%未満、(B)及び(C)の単位がそれぞれ35モル%を超え45モル%以下であることを特徴とする芳香族ポリエステルを提供するものである。
【請求項3】
(A)の単位が下式(a)
-O-Ar_(1)-CO- (a)
(式中、Ar_(1)は、1,4-フェニレン、2,6-ナフタレンまたは4,4‘-ビフェニレンを表わす。)
で示されることを特徴とする請求項1又は2記載の芳香族ポリエステル。
【請求項4】
(B)の単位が下式(b)
-CO-Ar_(2)-CO- (b)
(式中、Ar_(2)は、1,4-フェニレン、1,3-フェニレンまたは2,6-ナフタレンを表わす。)
で示されることを特徴とする請求項1?3いずれかに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項5】
(C)の単位が下式(c)
?X-Ar_(3)-NH- (c)
(式中、Ar_(3)は1,4-フェニレン,1,3-フェニレンまたは2,6-ナフタレンを表わし、Xは-O-または-NH-を表わす。)
で示されることを特徴とする請求項1?4いずれかに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項7】
請求項1?6いずれかに記載の芳香族ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含有することを特徴とする芳香族ポリエステル液状組成物。
【請求項11】
請求項7?10の液状組成物を支持基板上に流延し、該液状組成物から溶媒を除去することを特徴とする芳香族ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項11の製造方法により得られることを特徴とする芳香族ポリエステルフィルム。」(請求項1、3ないし5、7,11及び12)

イ-1 「【0004】
しかしながら、上記公知の芳香族ポリエステルは、非プロトン性溶媒に対する溶解性が必ずしも十分満足し得るものではなく、例えば肉厚のフィルムを製造する時等、支持体の上に溶液を流延し乾燥するという工程を場合によっては2回以上施す必用がある等の問題に遭遇した。
本発明の目的は、上記問題の解決、すなわち非プロトン性溶媒に対する溶解性が向上された芳香族ポリエステルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】」

ウ-1 「【0018】
本発明における芳香族ポリエステルは、構成単位として、上記のような単位を含むことを特徴とするものであるが、その製造方法としては、各単位に対応したモノマーすなわち芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族アミン、芳香族ジオール等、またはこれらのエステル形成性誘導体及び/又はアミド形成性誘導体を用い、常法、例えば特開2002-220444号、特開2002-146003号等に記載の方法等に準拠することにより製造し得る。
また各モノマーの使用モル%は、上記構成単位において示したモル%とほぼ同一であることはいうまでもない。
【0019】
ここで、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等におけるカルボン酸のエステル形成性誘導体、アミド形成性誘導体としては、例えばカルボキシル基が酸ハロゲン化物、酸無水物などの反応活性が高くエステル、アミド等を生成する反応を促進するような誘導体となっているものや、カルボキシル基がアルコール類やエチレングリコール等のエステルであって、エステル交換反応によりエステルを、アミド交換反応によりアミドを生成するような誘導体となっているものが挙げられる。
また芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸、アミノフェノール等におけるフェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えばフェノール性水酸基が低級カルボン酸類とのエステルであって、エステル交換反応によりエステルを生成するような誘導体となっているものが挙げられる。
芳香族ジアミン、アミノフェノール等におけるアミノ基のアミド形成誘導体としては、例えばアミノ基が、低級カルボン酸類とのアミドであって、アミド交換反応によりアミドを生成するような誘導体となっているものが挙げられる。
【0020】
本発明における芳香族ポリエステルの代表的製法としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸、アミノフェノール、芳香族ジアミン、芳香族ジオール等のフェノール性水酸基やアミノ基を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物と、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等のカルボキシル基とでエステル交換、アミド交換することにより重縮合する溶融重合方法などが挙げられる。
ここで、アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量は、フェノール性水酸基とアミノ基の合計に対して、通常1.0?1.2倍当量であり、好ましくは1.05?1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が1.0倍当量未満では、重縮合時にアシル化物や原料モノマーなどが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向があり、また、1.2倍当量を超える場合には、得られる芳香族ポリエステルが着色する傾向がある。
【0021】
アシル化反応は、通常130?180℃で5分?10時間反応させるが、140?160℃で10分?3時間反応させることがより好ましい。
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は,特に限定されないが、例えば、無水酢酸、・・・などが挙げられ、これらは2種類以上を使用してもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは、無水酢酸である。
【0022】
エステル交換、アミド交換においてはカルボキシル基がアシル基、アミド基の総量の0.8?1.2倍当量になるように調整することが好ましい。
またエステル交換、アミド交換は、130?400℃で0.1?50℃/分の割合で昇温しながら行なうことが好ましく、150?350℃で0.3?5℃/分の割合で昇温しながら行なうことがより好ましい。この際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0023】
なお、アシル化反応、エステル交換、アミド交換は、触媒の存在下に行なってもよい。
触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N-ジメチルアミノピリジン、N?メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。
これらの触媒の中で、N,N-ジメチルアミノピリジン、N?メチルイミダゾールなどの窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002-146003参照)
【0024】
エステル交換、アミド交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固層重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことが好ましい。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、180?350℃で、1?30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお適当な攪拌機構を備えることにより溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。固相重合後、得られた芳香族ポリエステルは、公知の方法によりペレット化し、成形してもよい。
芳香族ポリエステルの製造装置としては、回分装置、連続装置いずれも用いることができる。」

エ-1 「【0025】
かくして、本発明の芳香族ポリエステルが製造されるが、 芳香族ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で、公知のフィラー、添加剤等を含有していても良い。
フィラーとしては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、スチレン樹脂などの有機系フィラー、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムなどの無機フィラーなどが挙げられる。
添加剤としては、公知のカップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。
また、芳香族ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体などのエラストマーなどを一種または二種以上を含有していても良い。」

オ-1 「【0029】
このようにして得られる芳香族ポリエステルフィルムの厚みは、特に限定されることはないが、製膜性や機械特性の観点から、0.5?500μmであることが好ましく、取り扱い性の観点から1?200μmであることがより好ましい。
また本発明の芳香族ポリエステルフィルムは、機械的強度に優れるのみならず、高周波特性、低吸湿性などの優れた特性を示すので、近年注目されているビルドアップ工法などによる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板、フレキシブルプリント配線板、テープオートメーテッドボンディング用フィルム、その他8ミリビデオテープの基材、業務用デジタルビデオテープの基材、透明導電性(ITO)フィルムの基材、偏光フィルムの基材、各種調理食品用、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム、抗菌性フィルム、気体分離用フィルム等に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2-ヒドロキシー6-ナフトエ酸(以下、HNAと略称する)414g(2.2モル)、4-ヒドロキシアセトアニリド(以下、APAPと略称する)666g(4.4モル)、イソフタル酸(以下、IPAと略称する)731g(4.4モル)及び無水酢酸955g(9.35モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。次いでこれを室温まで冷却して粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で10時間保持した後、室温まで冷却して再び粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下240℃で3時間保持し、固相で重合反応を進めて芳香族ポリエステル粉末を得た。」

カ-1 「【0034】
実施例1
製造例1で得られた芳香族ポリエステル粉末20gをN-メチルピロリドン80gに加え、160℃に加熱した結果、完全に溶解し透明な溶液が得られることを確認した。この溶液を攪拌及び脱泡し、芳香族ポリエステル溶液を得た。得られた溶液を銅箔上に塗布厚み300μmでバーコートした後、ホットプレート上にて80℃で1時間、さらに120℃で1時間加熱処理を行ない、更に窒素雰囲気下、300℃で1時間熱処理した。得られた樹脂つき銅箔から銅箔をエッチング除去したところ、膜厚み25μmの十分な強度を有する芳香族ポリエステルフィルムが得られた。」

キ-1 「【0038】
表1



(2) 引用文献2に記載された事項
ア-2 「〔A〕炭素原子数が8ないし16の芳香族ジカルボン酸成分単位100モルに対して、
〔B〕一般式〔 I 〕

〔式中、R^(1)およびR^(2)はいずれも水素原子または低級アルキル基を示す〕で表わされるアミノフエノール類成分単位が20ないし100モル、および
〔C〕一般式〔II〕

〔式中、Xは直接結合または炭素原子数が1ないし8のアルキリデン基、酸素原子、カルボニル基、硫黄原子、スルフイニル基およびスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を示す〕で表わされる芳香族二核ビスフエノール類成分単位が0ないし80モルの範囲、
からなり、かつ該〔B〕成分と該〔C〕成分とのモル比(〔B〕/〔C〕)が100/0ないし20/80の範囲から構成され、該〔A〕成分と該〔B〕成分および/または該〔C〕成分とが交互に配列して形成される芳香族ポリエステルアミドであつて、o-クロルフエノール中で30℃で測定した極限粘度〔η〕が0.4dl/g以上であることによつて特徴づけられる芳香族ポリエステルアミド。」(請求項1)

イ-2 「本発明の芳香族ポリエステルアミドは、従来の芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドにくらべて耐熱性が優れており、かつ強度、耐衝撃性などの機械的性質にも優れているので、従来よりも高温で使用することが可能となる。また、本発明の芳香族ポリエステルアミドは電気絶縁性、とくに高温条件の電気絶縁性に優れ、成形加工性にも優れ、成形加工物の透明性にも優れている。従つて、本発明の芳香族ポリエステルアミドは構造材料、基板材料、機械部品、電気電子部品など種々の用途に利用することができ、特に、耐熱性に優れた電気絶縁材料として工業的価値が大である。」(第5頁左下欄第4ないし16行)

ウ-2 「



(3) 引用文献3に記載された事項
引用文献3は韓国語で記載されているので、摘示箇所の段落を示し、内容は対応する日本語公報(特表2012-514067号公報)の訳文により示す。

ア-3 「[請求項1] 芳香族ジオールから由来する反復単位(A)20ないし40モル%と、
フェノール性水酸基を有する芳香族アミンから由来する反復単位(B)、及び芳香族ジアミンから由来する反復単位(B′)のうち少なくとも一つの反復単位20ないし40モル%と、
芳香族ジカルボン酸から由来する反復単位(C)20ないし60モル%と、を含み、
前記芳香族ジオールから由来する反復単位(A)は、レゾルシノールから由来する反復単位(RCN)を含む芳香族ポリエステルアミド共重合体。
[請求項4]
前記反復単位(B)は、3-アミノフェノール、4-アミノフェノール及び2-アミノ-6-ナフトールからなる群から選択される1種以上の化合物から由来し、前記反復単位(B′)は、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン及び2,6-ナフタレンジアミンからなる群から選択される1種以上の化合物から由来し、前記反復単位(C)は、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸からなる群から選択される1種以上の化合物から由来する請求項1に記載の芳香族ポリエステルアミド共重合体。
[請求項5]
数平均分子量が1,000ないし20,000であり、溶融温度が250ないし400℃である請求項1に記載の芳香族ポリエステルアミド共重合体。」(対応日本語公報 特許請求の範囲の請求項1、4、5)

イ-3 「技術分野
[1] 本発明は、芳香族ポリエステルアミド共重合体、高分子フィルム、プリプレグ、プリプレグ積層体、金属箔積層板及びプリント配線板に関する。より詳しくは、低熱膨脹率、低誘電率及び低誘電損失を有し、透明度が向上した芳香族ポリエステルアミド共重合体、前記芳香族ポリエステルアミド共重合体を採用した高分子フィルム、プリプレグ、プリプレグ積層体、及び前記プリプレグまたはプリプレグ積層体を採用した金属箔積層板、プリント配線板に関する。
背景技術
[2] 最近、電子機器の小型化及び多機能化によって、プリント配線板の高密度化及び小型化が進められており、銅箔積層板は、スタンピング加工性及びドリル加工性に優れ、価格が低いので、電子機器のプリント配線板用の基板として広く利用されている。
[3] かかるプリント配線板用の銅箔積層板に利用されるプリプレグは、半導体の性能及び半導体パッケージング製造工程の条件に適するように、下記の主要特性を満足せねばならない。
[4] (1)金属熱膨張率に対応可能な低熱膨脹率
[5] (2)1GHz以上の高周波領域における低誘電率及び誘電安定性
[6] (3)約270℃のリフロー工程に対する耐熱性
[7] (合議体注:空欄である。)
[8] 前記プリプレグは、エポキシまたはビスマレイミドトリアジンから由来する樹脂をガラス織布に含浸させた後、半硬化させて製造する。次いで、前記プリプレグに銅箔を積層し、樹脂を硬化させて銅箔積層板を製造する。かかる銅箔積層板は薄膜化されて、270℃のリフロー工程など高温工程を経るが、かかる高温工程を経ることから、薄膜形態の銅箔積層板が熱変形し、結果として収率が低下するなどの問題点がある。また、エポキシまたはビスマレイミドトリアジン樹脂は、それ自体の高い吸湿性により、低吸収性への改善が要求されており、特に1GHz以上の高周波領域での誘電特性が劣化して、高周波及び高速処理を要求する半導体パッケージング用のプリント配線板に適用しがたいという問題点がある。したがって、かかる問題点を引き起こさない低誘電性のプリプレグが要求されている。」(対応日本語公報第3頁19行、段落【0001】ないし【0004】)

ウ-3
「[10] 本発明の一具現例は、低熱膨脹率、低誘電率及び低誘電損失を有する芳香族ポリエステルアミド共重合体を提供する。
・・・
[12] 本発明のさらに他の具現例は、前記芳香族ポリエステルアミド共重合体を採用することで、低熱膨脹率、低誘電率及び低誘電損失を有し、透明度が向上したプリプレグ及びプリプレグ積層体を提供する。
[13] 本発明のさらに他の具現例は、前記プリプレグまたはプリプレグ積層体を採用した金属箔積層板及びプリント配線板を提供する。」(対応日本語公報段落【0006】ないし【0009】)

エ-3 「[99] 前記のように製造された芳香族ポリエステルアミド共重合体は、溶剤に溶解され、望ましくは、400℃以下で光学的異方性を表す溶融体を形成できるサーモトロピック(thermotropic)液晶ポリエステルアミド共重合体でありうる。具体的に、前記芳香族ポリエステルアミド共重合体は、溶融温度が250℃ないし400℃であり、数平均分子量が1,000ないし20,000でありうる。」(対応日本語公報段落【0037】)

オ-3 「[121] 前記芳香族ポリエステルアミド共重合体を溶剤に溶解させた組成物溶液には、発明の目的を損傷させない範囲で誘電率及び熱膨張率を調節するために、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムのような無機フィラー;硬化エポキシ、架橋アクリルのような有機フィラーが添加される。特に、高誘電率の無機フィラーを添加してもよい。かかる無機フィラーとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸塩;チタン酸バリウムのチタンまたはバリウムの一部を他の金属に代替したものなどを利用できる。かかる無機フィラー及び/または有機フィラーの含有量は、芳香族ポリエステルアミド共重合体100重量部に対して、0.0001ないし100重量部の割合であることが望ましい。前記無機フィラー及び/または有機フィラーの添加量が0.0001重量部未満であれば、プリプレグの誘電率を十分に高めがたかったり、熱膨張率を低めがたい傾向があり、100重量部を超えれば、芳香族ポリエステルアミド共重合体のバインダーとしての効果が低下する傾向がある。」(対応日本語公報段落【0059】)

(4) 引用文献4に記載された事項
ア-4 「【0006】
本発明は、電気的信頼性を向上させる要求に応える配線基板を提供するものである。」

イ-4 「【0022】
樹脂層10は、フィラー13を含有していることが望ましい。その結果、樹脂層10の熱膨張率を低減させることができる。また、樹脂層10の剛性を高めることができるため、配線基板3の反りを低減することができる。フィラー13としては、例えば酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、又は水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、等のセラミック材料により形成されたものを用いることができる。フィラー13の平均粒子径は、例えば0.2μm以上3μm以下に設定されている。また、フィラー13の熱膨張率は、例えば-5ppm/℃以上10ppm/℃以下に設定されている。」

2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘記事項ア-1ないしキ-1の記載、特に、摘記事項オ-1ないしキ-1の製造例1と【0034】実施例1の記載からみて、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(2.2モル)、4-ヒドロキシアセトアニリド(4.4モル)、イソフタル酸(4.4モル)を反応させて重合した、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸由来の単位と4-ヒドロキシアセトアニリド由来の単位とイソフタル酸由来の単位からなる芳香族ポリエステルを含む、芳香族ポリエステルフィルム。」

3 対比判断
(1) 対比
引用発明における3つのモノマー成分の合計量11モル(注:2.2+4.4+4.4)を100モル部として計算すると、引用発明に係る芳香族ポリエステルは、「2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸由来の単位20モル部と、4-ヒドロキシアセトアニリド由来の単位40モル部と、イソフタル酸由来の単位40モル部を含む芳香族ポリエステル」ということができる。
引用発明の「2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸由来の単位」は、本願発明の「芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される繰り返し単位(A)」であり「6-ヒドロキシ-2-ナフト酸」「から誘導されるもの」に相当する。
引用発明の「4-ヒドロキシアセトアニリド」は、「4-アミノフェノール」のアミノ基(-NH_(2))がアシル化されてアミド(-NH-CO-CH_(3))となった化合物である。引用文献1の段落【0018】?【0020】の記載を考慮すると、引用発明の「4-ヒドロキシアセトアニリド」は、「4-アミノフェノール」と同様に、芳香族ポリエステルにおいて、「-O-(1,4-フェニレン)-NH-」で表される単位(引用文献1の請求項5の式(c))を形成するものと認められる。したがって、引用発明の「4-ヒドロキシアセトアニリド由来の単位」は、本願発明の「フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンから誘導される繰り返し単位(B)」であり「4-アミノフェノール」「から誘導されるもの」に相当する。
引用発明の「イソフタル酸由来の単位」は、本願発明の「芳香族ジカルボン酸から誘導される繰り返し単位(C)」であり「イソフタル酸」「から誘導されるもの」に相当する。
引用発明の「芳香族ポリエステル」は、そのモノマーの構造からみて、本願発明の「全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂を含む高分子フィルムであって、
前記全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂は、
芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される繰り返し単位(A)と、
フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンから誘導される繰り返し単位(B)と、
芳香族ジカルボン酸から誘導される繰り返し単位(C)とを含み、
前記繰り返し単位(A)は、6-ヒドロキシ-2-ナフト酸から誘導されるものであり、前記繰り返し単位(B)は、4-アミノフェノールから誘導されるものであり、前記繰り返し単位(C)は、イソフタル酸から誘導されるものである、高分子フィルム。」
である点で一致し、以下の点において相違する。

<相違点1>
本願発明は、全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂について、「重量平均分子量が1,000?100,000であり、ガラス転移温度が200?300℃である」と特定しているのに対し、引用発明は、芳香族ポリエステルの重量平均分子量とガラス転移温度は特定していない点。

<相違点2>
本願発明は、フィラーを含み、「前記フィラーは有機フィラー及び無機フィラーからなる群から選択される少なくとも1種であり、且つ前記全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂100重量部に対して20重量部」であると特定しているのに対し、引用発明は、フィラーを含むことを特定していない点。

<相違点3>
本件発明は、全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂の繰り返し単位の割合について、単位(A)25モル部、(B)37.5モル部、(C)37.5モル部からなるのに対し、引用発明では、単位(A)20モル部、(B)40モル部、(C)40モル部(3つのモノマー成分の合計量11モル(注:2.2+4.4+4.4)を100モル部として計算)からなり、繰り返し単位の割合が異なる点。

(2) 判断
上記相違点について、検討する。
ア 相違点1について
a ガラス転移温度について
高分子のガラス転移温度は、高分子を構成するモノマーの種類と量比によって、ある程度特定されるものであるところ、引用発明の「芳香族ポリエステル」は、本願発明の「全芳香族ポリエスルアミド樹脂」を構成する構造単位と同じ構成単位、すなわち、6-ヒドロキシ-2-ナフト酸から誘導されるから誘導される繰り返し単位(A)、4-アミノフェノールから誘導される繰り返し単位(B)及びイソフタル酸から誘導される繰り返し単位(C)からなり、かつ、両者の間でこれらのモノマーの量比が近接しているので、引用発明の「芳香族ポリエステル」のガラス転移温度は、本願発明の「全芳香族ポリエステルアミド樹脂」と同程度である蓋然性が極めて高いものである。
また、基板材料や電気電子部品などに使用される芳香族ポリエステルアミドにおいて、200?300℃程度のガラス転移温度は一般的であることも踏まえれば(引用文献2 摘記事項ア-2ないしウ-2、特にウ-2の表1の実施例1?4のガラス転移温度等参照)、引用発明において、ガラス転移温度を200?300℃程度にすることは、当業者が容易になし得る事項にすぎない。

b 重量平均分子量1,000?100,000との範囲について
引用発明の「芳香族ポリエステル」は、エステル交換及びアミド交換による重縮合後に固相重合により、高分子量化を図っていることから(引用文献1摘記事項ウ-1、オ-1【0031】)、低分子量のものではなく、フィルムに適したある程度の分子量を有するものである。そして、本願発明の「全芳香族ポリエステルアミド樹脂」も類似の製造方法を採用し、縮重合反応によりプレポリマーを製造後に、固相重合により高分子化を図っているから(本願の明細書の段落【0042】ないし【0044】、【0065】ないし【0066】)、引用発明の「芳香族ポリエステル」の重量平均分子量は、本願発明の「全芳香族ポリエステルアミド樹脂」と同程度の重量平均分子量の範囲のものと推認されるものである。
また、引用文献3に記載されているように、金属箔積層板、プリント配線板に用いる芳香族ポリエステルアミド樹脂として数平均分子量で1,000ないし20,000程度のものが用いられることや(摘記事項エ-3)、数平均分子量及び重量平均分子量はともに高分子の分子量を表すためによく用いられる指標であることを踏まえれば、引用発明において、「芳香族ポリエステル」の分子量を、重量平均分子量1,000?100,000程度の範囲に設定することは、当業者であれば容易になし得ることであり、特段の創意工夫は見出せない。

イ 相違点2について
有機フィラーおよび無機フィラーの配合について、引用文献1には、「芳香族ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で、公知のフィラー、添加剤等を含有していても良い。」「フィラーとしては、例えば、・・・有機フィラー、・・・無機フィラーなどが挙げられる。」(摘記事項エ-1)と記載され、有機フィラーや無機フィラーを配合して良いことも記載されている。
そして、フィラーは、樹脂の熱膨張率や基板の反りを低減させる効果を有することも周知であり(引用文献4 摘記事項イ-4)、引用文献3には、引用文献1と同じく、プリント配線板などに用いられるポリエステルアミド共重合体100重量部に対して、0.0001?100重量部の範囲で有機フィラーや無機フィラーを添加して、熱膨張率を調節することが記載されていること(摘記事項オ-3)を考慮すれば、引用発明において、熱膨張率や反り低減等のために、有機フィラーや無機フィラーを適当量用いることは当業者が容易になし得た事項である。

ウ 相違点3について
繰り返し単位の割合について、引用文献1の摘記事項ア-1によれば、「芳香族ポリエステル」の各繰り返し単位の取り得る割合(モル%)は、範囲のあることが記載され、これは本願発明の「全芳香族ポリエステルアミド」の繰り返し単位の割合を含むものであり、また、本願発明と引用発明の繰り返し単位の割合は近接しているから、本願発明の繰り返し単位の割合とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

エ 本願発明の効果について
本願発明の効果について検討する。
本願明細書に記載された実施例をみるに、全芳香族ポリエステルアミド樹脂の繰り返し単位の割合について、表3の実施例1(引用発明と単位のモル比が同じもの)と、実施例2(本願発明に相当)の結果を比較しても、繰り返し単位のモル比の相違により、効果に大きな差異があるものでもなく、また、当該樹脂のガラス転移温度及び重量平均分子量を特定の範囲とし、有機フィラー及び無機フィラーを「20重量部」配合することで、他の場合に比して予測できないような優れた効果が開示されるものでもないから、本願発明が、上記相違点1ないし3に係る構成をとることにより、引用発明に比して格別顕著な効果を奏しているものと認めることはできない。


オ 審判請求人の主張
審判請求人は、平成29年10月2日に提出した意見書において、
進歩性について
本願の請求項1は、「6-ヒドロキシ-2-ナフト酸から誘導される繰り返し単位(A)25モル部と、 4-アミノフェノールから誘導される繰り返し単位(B)37.5モル部と、イソフタル酸から誘導される繰り返し単位(C)37.5モル部と、を含む」という点において、引例1?4と相違します。該相違点に係る具体的な成分及び含有量により、高い寸法安定性、低吸湿率、低誘電定数及び低誘電損失を有する高分子フィルム、軟性金属張積層板及び軟性印刷回路基板を得ることができるという効果を奏します。それに対し、引例1?4には、上記相違点に係る具体的な成分及び含有量について、開示又は示唆がなされていません。
よって、本願の請求項1に係る発明は、引例1?4に対し進歩性を有します。請求項1を引用する請求項2?9も進歩性を有します。」
と主張している。
確かに、引用文献1ないし4に、相違点1ないし3に係る事項について,相違点と同一の表現はないが、これらの文献の記載から容易になし得る事項であることは、上記アないしウで検討したとおりである。
そして、高い寸法安定性の効果について、上記相違点2で検討したとおり、フィラーを配合することにより熱膨張率が低減し、寸法安定性に優れたものとなることはよく知られたことであるから、当業者であれば容易に想到し得るものである。
次に、低吸湿率の効果については、引用文献1にも芳香族ポリエステルフィルムの特性として記載されており(摘記事項オ-1【0029】)、格別なものではない。
最後に、低誘電定数及び低誘電損失の効果について、引用文献1にも芳香族ポリエステルフィルムの特性として高周波特性に優れ、多層プリント基板、フレキシブルプリント配線基板等に使用できることが記載され(摘記事項オ-1【0029】)、また、引用文献3において、プリント配線板用の銅箔積層板に利用されるプリプレグに必要な特性として、高周波領域における低誘電定数及び低誘電損失が挙げられ、これらの特性はプレプレグに用いる樹脂によるものであるから(摘記事項イ-3、ウ-3)、引用発明において、「芳香族ポリエステル」の有している、プリント配線板等の用途に必要な特性(効果)を具体的に確認することが格別なこととはいえない。
したがって、審判請求人の進歩性および効果に対する主張は採用できない。

カ まとめ
よって、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることはできないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることはできないものであるので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-19 
結審通知日 2018-01-23 
審決日 2018-02-05 
出願番号 特願2013-556535(P2013-556535)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉江 渉大木 みのり  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 守安 智
岡崎 美穂
発明の名称 全芳香族ポリエステルアミド共重合体樹脂、該樹脂を含むフィルム、該フィルムを含む軟性金属張積層板、及び該軟性金属張積層板を具備する軟性印刷回路基板  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 伊藤 寛之  

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