ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q |
---|---|
管理番号 | 1341748 |
審判番号 | 不服2016-14606 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-09-29 |
確定日 | 2018-06-27 |
事件の表示 | 特願2013-527424「結腸直腸がんのエピジェネティックマーカー及び該マーカーを使用する診断法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月22日国際公開、WO2012/034170、平成25年12月26日国内公表、特表2013-545437〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成23年9月13日(パリ条約による優先権主張 平成22年9月13日 オーストラリア)を国際出願日とする出願であって、 平成27年7月8日付け拒絶理由通知に対して平成28年1月13日に意見書および手続補正書が提出され、同年5月26日付けで拒絶査定がなされ、同年9月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成29年6月7日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに対して同年12月12日に意見書、同年12月13日付けで手続補足書が提出されたものである。 本願の請求項1?9に係る発明は、平成28年1月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載の事項により特定されるものであり、そのうち、請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。 「【請求項6】 個体における大腸新生物の発症若しくは発症の素因についてスクリーニングする又は大腸新生物をモニターする方法であって、 前記個体由来の生体試料において (i)Hg19座標chr 12:24964278..25102308及びその転写開始部位の2kb上流により定義される領域、 (ii)BCAT1及びその2kb上流の遺伝子領域 から選択されるDNA領域の発現のレベルを評価することを含み、 対照レベルと比べて群(i)及び/又は(ii)のDNA領域の発現のより低いレベルは大腸新生物又は新生物状態の発症の素因を示している、 方法。」 第2 当審の判断 1.本願発明の解決しようとする課題 本願発明の解決しようとする課題は、請求項6の記載および発明の詳細な説明の段落【0016】【0017】の記載より、個体における大腸新生物の発症若しくは発症の素因(以下、「大腸新生物の発症等」という。)についてスクリーニングすることができる方法、又は、個体における大腸新生物の発症等についてモニターすることができる方法の提供であると認められる。 そして、本願発明には、 「(i)Hg19座標chr 12:24964278..25102308及びその転写開始部位の2kb上流により定義される領域、 (ii)BCAT1及びその2kb上流の遺伝子領域 から選択されるDNA領域」(以下、これらの(i)(ii)の領域をまとめて「BCAT1遺伝子領域」という。)について、個体における発現レベルと対照における発現レベルとを比べ、個体の発現レベルが対照の発現レベルより低い場合に、個体が「大腸新生物の発症等」を示すものと評価することを含むことが特定されており、この評価とは、個体が「大腸新生物の発症等」を有する場合に、「BCAT1遺伝子領域」の発現が低下するという関係があることを前提としていると認められる。 したがって、本願明細書に“大腸新生物の発症等”と“「BCAT1遺伝子領域」の低い発現レベル”との間に有意な関係があることが示されていれば、本願明細書に上記課題が解決できることが示されているといえる。 2.本願明細書の記載 本願明細書には、「BCAT1遺伝子領域」や、遺伝子の「発現レベル」に関して、以下の事項が記載されていると認められる。 ア 「【0052】 すべてのCpGの70?80%はメチル化されている。CpGは、多くの遺伝子の5’調節領域に存在しメチル化されていないことが多い「CpGアイランド」と呼ばれるクラスターにグループ化されていることがある。がんなどの多くの疾患過程では、遺伝子プロモーター及び/又はCpGアイランドは、遺伝性の転写サイレンシングに付随する異常な高度メチル化を獲得する。DNAメチル化は遺伝子の転写に2つの方法で影響を与え得る。第一に、DNAのメチル化は、それ自体が転写タンパク質の遺伝子への結合を物理的に阻害し、したがって転写を遮断することがある。第二に、メチル化されたDNAには、メチル-CpG-結合ドメインタンパク質(MBD)として知られるタンパク質が結合し得る。次に、MBDタンパク質は、ヒストンデアセチラーゼ、及びヒストンを修飾しそれによりサイレントクロマチンと呼ばれる緻密で不活性なクロマチンを形成することができる他のクロマチン再構築タンパク質などの追加のタンパク質を遺伝子座に動員する。DNAメチル化とクロマチン構造間のこの連関は非常に重要である。特に、メチル-CpG-結合タンパク質2(MeCP2)の喪失はレット症候群に関与しており、メチル-CpG-結合ドメインタンパク質2(MBD2)はがんにおいて高度メチル化された遺伝子の転写サイレンシングを媒介する。」 イ 「【0153】 上文で詳述されているように、高度メチル化は転写サイレンシングに関連している。したがって、大腸新生物の素因又は発症についてスクリーニングする基礎を提供するこれら遺伝子のメチル化レベルの増加に加えて、これら遺伝子の発現レベルの下方調節も診断的に価値がある。本発明のこの態様に従えば、遺伝子「発現産物」又は「遺伝子の発現」への言及は、転写産物(たとえば、一次RNA又はmRNA)又はタンパク質などの翻訳産物への言及である。この点に関して、生成される発現産物(すなわち、RNA又はタンパク質)のレベルの変化、遺伝子に会合しているクロマチンタンパク質の変化、たとえば、アミノ酸位番号9若しくは27のリジン上でのメチル化されたヒストンH3の存在(抑制的修飾)又はDNAのメチル化の変化などの、発現を下方調節するよう作用するDNAそれ自体の変化についてスクリーニングすることにより遺伝子の発現レベルの変化を評価することが可能である。これらの遺伝子及びその遺伝子発現産物は、それがRNA転写物であれ、発現を下方調節するよう作用するDNAの変化であれ、コードされたタンパク質であれ、「新生物マーカー」と総称される。」 ウ 「【0161】 マーカーの発現の下方調節についてスクリーニングする点に関して、DNAレベルで検出可能である変化は遺伝子発現活性の変化、したがって、発現産物レベルの変化を示していることも当業者には周知であろう。そのような変化には、DNAメチル化の変化が含まれるが、これに限定されない。したがって、「発現レベルをスクリーニングする」及びこれらの「発現レベル」と対照「発現レベル」の比較への本明細書での言及は、遺伝子/DNAメチル化パターンなどの、転写に関係しているDNA因子を評価することへの言及として理解されるべきである。これらのことは、ある程度上文に詳細に説明されている。」 エ 「【0164】 一つの好ましい実施形態では、遺伝子発現のレベルはタンパク質産物をコードする遺伝子を参照することにより測定され、さらに具体的には、上記発現レベルはタンパク質レベルで測定される。」 オ 「【0206】 実施例2 結腸直腸がん細胞株、HCT116、HT29及びSW480の亜硫酸水素塩処理されたDNA由来の並びに全血から単離されたDNA由来のメチル化されたDNA画分は、下に記載されるビオチン捕獲法を使用して調製され、メチル化されたDNAのライブラリーは、Applied Biosystems SOliD塩基配列決定システムを使用して塩基配列決定された。・・・ 【0218】 ・・・・これにより、結腸がん細胞株DNAのそれぞれと血液DNAを比較して、著しい差次的メチル化が存在する遺伝子及びプロモーター領域の同定が可能になった。次に、8つのプールされたがんDNAと8つのプールされた正常DNA試料の分析から得られたこれらの遺伝子の亜硫酸水素塩タグメチル化プロファイル(図2)を使用して、臨床試料においても著しい差次的メチル化を示すビオチン捕獲法を通じて同定された遺伝子のリスト(表4)を開発した。表4では、遺伝子又は遺伝子座名は最初の列に示されている。関連する遺伝子の染色体位置は次の2つの列に示されており、第四と第五列ではビオチン捕獲分析において塩基配列決定された最初と最後のCpG部位の位置が与えられている。DNA試料それぞれにおいて分析されたCpG部位の数及び計数されたメチル化されたCpGの総数は、その後の列に与えられている。これらの領域における結腸がん細胞株DNAと血液DNA間のメチル化レベルの明白な差は明らかである。 【0219】 とりわけ、表4においてアステリスクを付けて特定されている5つの遺伝子、IRX1、DLX5、SALL1、SLC32A1及びZNF471も、一次スクリーニングのための亜硫酸水素塩タグ法を使用して高度に差次的にメチル化された遺伝子として同定されていた。」 カ 「図2-1(b) (図2-1(b)には、BCAT1遺伝子の差次的メチル化プロットが示されている。) キ 「【0220】 表4 (表4は、臨床試料において差次的メチル化を示すもの同定された遺伝子のリストであり、2列目にBCAT1遺伝子が記載されている。) 3.当審の判断 (1)サポート要件違反について まず、本願発明にいう「BCAT1遺伝子領域」は、上記2.のカ、キに記載されるBCAT1遺伝子を包含すると認められ、「BCAT1遺伝子領域」の発現レベルとは、請求項6を引用する請求項7の「前記発現レベルが、mRNA発現又はタンパク質発現である、請求項6に記載の方法。」の記載からみて、BCAT1遺伝子のmRNAの発現レベルやタンパク質の発現レベルを主に意味していると認められる。 そして、上記2.のア?ウのとおり、本願明細書には、DNAメチル化は遺伝子の転写に影響を与え得る、高度メチル化は転写サイレンシングに関連しているなどと、DNAメチル化と遺伝子の発現が関係することについての一般的な記載がなされていると認められる。 また、上記2.のオ?キのとおり、本願明細書の実施例2には、「結腸直腸がん細胞株(HCT116、HT29及びSW480)」と「全血」のDNAを比較し、「結腸直腸がん細胞株(HCT116、HT29及びSW480)」において差次的にメチル化している遺伝子の一つとしてBCAT1遺伝子が同定されたことが記載されていると認められる。 したがって、本願明細書には、大腸新生物とBCAT1遺伝子のメチル化とが関係していることが示されていると認められる。しかし、本願明細書に、大腸新生物とBCAT1遺伝子の低い発現レベルとが関係していること、すなわち、“大腸新生物の発症等”と“「BCAT1遺伝子領域」の低い発現レベル”との間に有意な関係があることについて具体的に示されているとは認められない。 また、上記2.のア?ウのとおり、本願明細書には、DNAメチル化と遺伝子の発現の一般的な関係についての一応の記載もあるが、BCAT1遺伝子においてそのような関係が成り立つ具体的な根拠は示されておらず、一方、mRNAやタンパク質の発現が遺伝子のメチル化のみに制御されるとはいえない。したがって、本願明細書の記載および本願出願時の技術常識から、BCAT1遺伝子のメチル化が実際にBCAT1遺伝子の発現レベル(mRNAやタンパク質の量)の低下をもたらすことを合理的に理解できるとはいえないから、BCAT1遺伝子のメチル化に関する記載が“大腸新生物の発症等”と“「BCAT1遺伝子領域」の低い発現レベル”との間の有意な関係を示すとは認められない。 むしろ、審判請求人の審判請求書における「さらに、本願優先日以前の大腸癌に関するデータには、異なる遺伝子発現データ(遺伝子の発現の上方制御又は下方制御を特定しているデータ)が存在しており、そして、このデータはさらなる解析のための選択の根拠となるものであるが、添付の参考資料のTable 1にも記載されているように、BCAT1の発現は変化しない(上方制御も下方制御もされず)と特定されている。この事実は、BCAT1を大腸癌のマーカーとして診断のための潜在的な利用をさらに検討することを阻害している。」との主張からは、本願優先日以前には、大腸癌においてBCAT1遺伝子の発現レベルは上方制御される場合と下方制御される場合とがあったこと、および、本願優先日後の2014年に刊行された参考資料として示された論文には、大腸癌においてBCAT1の発現レベルは変化しないと示されていることが認められる。 そうすると、大腸癌とBCAT1遺伝子の発現レベルとの関連が不明であるという状況において、BCAT1の発現レベルが低いことが大腸癌と関係していることをいうためには、大腸癌においてBCAT1の発現レベルが低下していることについての具体的な実験結果などを示すことが必要であるといえる。しかし、上記のとおり、本願明細書には、大腸癌におけるBCAT1の発現レベルについての実験結果などは示されていない。 したがって、上記のような状況を考慮すれば、なおさら、本願明細書の記載から、“大腸新生物の発症等”と“「BCAT1遺伝子領域」の低い発現レベル”との間に有意な関係があるとはいえない。 よって、本願明細書の記載から、本願発明の課題が解決できることを理解することはできず、本願発明は、本願明細書において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものとは認められない。 (2)審判請求人の主張について (2-1)平成29年12月12日付け意見書について 審判請求人の上記意見書には、大腸新生物とBCAT1遺伝子のメチル化との関係についての具体的な主張は認められるものの、BCAT1遺伝子の発現レベルについての具体的な主張があるとは認められない。本願発明は、BCAT1遺伝子のメチル化ではなくBCAT1遺伝子の発現レベルを特定するものであるから、審判請求人は、平成29年6月7日付け当審拒絶理由通知の(C)で指摘した本願発明のサポート要件違反の理由について、実質的な反論を行ったとは認められない。 なお、本願明細書には、DNAメチル化と遺伝子の発現が関係することについての一般的な記載がなされており、審判請求人は、上記のとおり、意見書において専らBCAT1遺伝子のメチル化について主張しているから、念のために、BCAT1遺伝子のメチル化から間接的にBCAT1遺伝子の発現レベルの低下を推定することについても検討しておく。 まず、本願発明には、BCAT1遺伝子のメチル化から間接的にBCAT1遺伝子の発現レベルの低下を推定する方法であることは特定されていない。むしろ、上記2.エや請求項7に記載されるように、本願発明は、BCAT1遺伝子の発現レベルに該当するタンパク質の発現レベルを直接測定するような場合を含むものである。 また、本願明細書には、DNAメチル化と遺伝子の発現の一般的な関係について記載されているが、上記(1)で述べたとおり、BCAT1遺伝子においてそのような関係が成り立つ具体的な根拠は示されておらず、mRNAやタンパク質の発現が遺伝子のメチル化のみに制御されるとはいえないから、本願明細書の記載から、BCAT1遺伝子のメチル化が実際にBCAT1遺伝子の発現レベルの低下をもたらすことを直ちに理解できるとはいえない。 さらに、本願発明には、BCAT1遺伝子のメチル化を同定するための具体的な方法について特定されていないところ、以下のとおり、従来から知られているような任意のメチル化同定方法によっては、必ずしもメチル化を正確に同定できるとは認められない。 すなわち、審判請求人は、意見書の「(C)請求項6について」において、以下の主張している。 「本願の場合は、従来技術の著者らが、それらのゲノムワイド結腸直腸スキャンにおいてBCAT1を同定しなかったことに多くの理由があると思われます。本願が目標とする発明は高度な技術を必要とし、高度な専門知識を必要とするため、たとえば、従来技術の著者らが実験をうまく設計しておらず、適切なレベルの感度、何らかの方法による組織試料やDNAの損傷、不適当なプローブやプライマーの使用、十分なスキルを備えた実験を行っていない等の理由が挙げられます。」 また、以下のとおり、審判請求人は審判請求書においても、同様の主張を行っていた。 「参考資料として添付した、本願出願後に本願発明者らによって発表された論文(Mitchellら、2014)が明らかにするように、大腸癌診断において高メチル化する遺伝子を特定するために、様々な技術を用い、多くの異なるサンプルを集め、実施し、照合することが発明者に求められた。大腸癌の後成的変化(epigenetic changes)の診断を適切に解析するためにこれら異なる技術をすべて実施し、検証しなくてはならなかった。本研究を必要とみなした研究グループは他にないことから明らかなように、これら研究の設計は明確ではなく、重ねて発表されたデータは不正確であることが現在知られている。上記添付の論文は、大腸癌に後成的変化の特定について論じる広範囲の論文(審査官が引用した文献を含める)を特定している。以下に本論文についてより具体的に論じるが、概してこれらの論文は(本論文の表1のデータと共に)、優先日以前に行われたゲノムワイド解析の全て(そして多くの優先日以降の解析)は、大腸癌において高メチル化される遺伝子としてBCAT1が特定されていないことを考えている。これら論文すべては高メチル化された遺伝子を広範囲にリスト化しているが、BCAT1は一貫してリストに含まれていない。よって、これらの先行技術は、非常に説得力のある形で(また何度も)本発明と反対の教示をしている。 BCAT1は、大腸癌において高メチル化されることが現在知られていることから、先行技術の方法は一貫して信頼性に欠け不正確である点をこれら先行文献が明らかにしている。これら先行技術データの合理的な分析に基づき、当業者が大腸癌を示す後成的変化の分野を研究するために他の遺伝子(例えば、これら論文が高メチル化であると過去に開示した多くの遺伝子のいずれか一つまたはそれ以上)を選んだかもしれないが、BCAT1を解析のために選択することはなかったであろう。本発明の優先日以降であっても、たった二つの発表しか本発明の発明者らのBCAT1に関する発見を確認しておらず、一方で他の論文では、いまだにBCAT1が大腸癌において高メチル化される点について、否定的な結果としている。」 上記の主張から、本願明細書の実施例2に記載された具体的な方法によれば、「結腸直腸がん細胞株(HCT116、HT29及びSW480)」のような大腸癌においてBCAT1遺伝子がメチル化していることが同定されるが、審判請求人が審判請求書で示したような従来技術の方法(さらに、本願優先日以降の方法)では、大腸癌においてBCAT1遺伝子がメチル化していることが同定されないこと、BCAT1遺伝子のメチル化を正確に分析するためには、適当なプローブ、プライマーの使用、適切な実験条件などを満足する、審判請求人がいうところの高度な技術等を必要とする方法、言うなれば『適切な方法』を採用すること必要であることが理解される。 しかし、本願発明にはBCAT1遺伝子の発現レベルについて特定されるのみで、BCAT1遺伝子のメチル化を同定することに関しては何ら特定されていない。もし、BCAT1遺伝子のメチル化から間接的にBCAT1遺伝子の発現レベルの低下を推定できるというのであれば、本願発明は、当然、BCAT1遺伝子のメチル化を同定することを内包しているといえるが、本願発明には、BCAT1遺伝子のメチル化の同定を上記した『適切な方法』で行うことについては特定されていない。本願発明には、BCAT1遺伝子のメチル化からBCAT1遺伝子の発現レベルを推定するために、上記した『適切な方法』以外の従来技術の方法でメチル化を同定する場合も包含されているが、『適切な方法』以外の方法でメチル化を同定した場合には、必ずしも、BCAT1遺伝子のメチル化、ひいてはBCAT1遺伝子の発現レベルが正確に同定できるとは認められないのである。 したがって、仮に、本願発明がBCAT1遺伝子のメチル化から間接的にBCAT1遺伝子の発現レベルの低下を推定するものであるとしても、本願発明は『適切な方法』に限られない、BCAT1遺伝子のメチル化を正確に同定できないような任意の方法によってBCAT1遺伝子のメチル化を同定することを包含するから、本願明細書の記載から、本願発明全体において発明の課題が解決できることを合理的に理解することはできない。 (2-2)平成29年12月13日付けの手続補足書について 審判請求人は、上記手続補足書において文献1?7、広告1、2を示し、また意見書において、以下の点を主張している。 「・・・結腸直腸癌のマーカーとしてのBCAT1メチル化の有用性に関して以下の7つの文献を添付します。」、 「大部分の文献は、血液中の循環腫瘍DNAの検出に焦点を当てていますが、文献1及び2は、本願と同様に結腸直腸組織におけるBCAT1メチル化を実証しています。なお、以前にも示したように、BCAT1は、Coloreaの商標で、米国において結腸直腸癌のマーカーとして商業的に発売されたような優れたマーカーです。」、 「添付の文献、特に文献4の要約における結論は、BCAT1のモニタリングの有用性を検討しています。出願人はまた、本願明細書の結果及び上の文献に基づいた、Clinical Genomicsによって最近公表された2つの広告、電子メール広告(広告1)及び郵便広告(広告2)を添付します。これらの広告は、診断に加えて、モニタリングにおけるBCAT1の有用性を確認しています。 上記広告における、“recurrence”「再発」又は“residual disease”「残存疾患」の検出はモニタリングです。これは、原発性結腸直腸新生物を除去する手術後の患者に対して、新生物の再発(例えば、転移の開始)又は完全に切除されていない腫瘍の検出のために、スクリーニングすることです。これらの検査は、結腸直腸新生物の再発(または除去/収縮)のマーカーとしてのメチル化BCAT1のレベルをスクリーニングするための継続的な定期検査として行われています。」、 「最後に、本願明細書のデータの強さを証明する最も強い証拠は、BCAT1がColoreaの商標で米国において現在結腸直腸癌のマーカーとして市販されているような良いマーカーであることであります。」 しかし、審判請求人が示した文献等には、大腸癌におけるBCAT1遺伝子のメチル化について記載されていると認められるが、BCAT1遺伝子の発現レベルが大腸癌で低下したこと関して具体的な事項が記載されているとは認められない。 また、仮に審判請求人が示した文献等の記載から、大腸癌におけるBCAT1遺伝子の発現レベルに関する何らかの事項が理解できるとしても、上記(1)で述べたとおり、本願明細書には大腸癌におけるBCAT1遺伝子の発現レベルに関する具体的な記載が無いから、本願明細書に記載されていない事項について他の文献等の記載を参酌することはできない。 (3)小括 本願発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものでないか、記載された範囲を超えていると認められるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 第3 むすび 以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明は、請求項6に係る発明について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-01-24 |
結審通知日 | 2018-01-30 |
審決日 | 2018-02-13 |
出願番号 | 特願2013-527424(P2013-527424) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C12Q)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池上 文緒 |
特許庁審判長 |
大宅 郁治 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 高堀 栄二 |
発明の名称 | 結腸直腸がんのエピジェネティックマーカー及び該マーカーを使用する診断法 |
代理人 | 渡辺 欣乃 |
代理人 | 渡辺 欣乃 |
代理人 | 酒巻 順一郎 |
代理人 | 酒巻 順一郎 |
代理人 | 山口 和弘 |
代理人 | 野田 雅一 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 池田 成人 |
代理人 | 山口 和弘 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 池田 成人 |
代理人 | 野田 雅一 |