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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1341761
審判番号 不服2017-3073  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-01 
確定日 2018-06-27 
事件の表示 特願2015- 96913「リバースリンク初期パワー設定」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月24日出願公開、特開2015-167391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年(平成13年)2月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年2月23日 米国)を国際出願日とした特願2001-562857号の一部を、平成24年6月11日に新たな特許出願とした特願2012-132249号の一部を、平成25年3月18日に新たな特許出願とした特願2013-54986号の一部を、平成26年3月3日に新たな特許出願とした特願2014-40770号の一部を、更に平成27年5月11日に新たな特許出願としたものであって、その経緯は概略以下の通りである。

平成28年 3月25日付け:拒絶理由の通知
平成28年 9月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年10月24日付け:拒絶査定
平成29年 3月 1日 :拒絶査定不服審判の請求



第2 本願発明
平成28年9月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
加入者装置における使用のための方法であって、
信号を基地局に送信するステップであって、前記信号は、ネットワークへのアクセスを要求することと関連付けられる、ステップと、
第1のメッセージを前記基地局から受信するステップであって、前記第1のメッセージは、アクセス要求メッセージを送信するためのタイミングおよびパワー調節情報を含む、ステップと、
前記タイミングおよびパワー調節情報に従って、前記アクセス要求メッセージをアップリンク共有チャネル上で前記基地局に送信するステップであって、前記アクセス要求メッセージは、通信接続を確立する要求を示し、および前記加入者装置と関連付けられた識別情報を含む、ステップと、
前記アクセス要求メッセージに応答して、第2のメッセージを前記基地局から受信するステップであって、前記第2のメッセージは、潜在的な衝突を解決するために、前記加入者装置と関連付けられた前記識別情報を示す、ステップと
を備えたことを特徴とする方法。」(以下、「本願発明」という。)



第3 原査定の拒絶の理由
原査定(平成28年10月24日付け拒絶査定)の理由である、平成28年3月25日付け拒絶理由の通知の内容は、概略、次のとおりのものである。

理由3(実施可能要件明確性)及び理由4(サポート要件)
本願請求項1?12に係る各用語・各ステップと、本願発明の詳細な説明及び図面との対応関係を特定できないため、本願請求項1?12に係る発明は明確でない。また、本願請求項1?12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものということができない。
更に、本願発明の詳細な説明が、請求項1?12に係る発明について、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、発明が明確でない。
よって、本願請求項1?12に係る発明は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号の規定により特許を受けることができない。



第4 当審の判断
1 理由4(特許法第36条第6項第1号)について
本願発明の「前記タイミングおよびパワー調節情報に従って、前記アクセス要求メッセージをアップリンク共有チャネル上で前記基地局に送信するステップであって、前記アクセス要求メッセージは、通信接続を確立する要求を示し、および前記加入者装置と関連付けられた識別情報を含む、ステップと、
前記アクセス要求メッセージに応答して、第2のメッセージを前記基地局から受信するステップであって、前記第2のメッセージは、潜在的な衝突を解決するために、前記加入者装置と関連付けられた前記識別情報を示す、ステップ」という発明特定事項から、本願発明は「加入者装置が、該加入者装置が送信した該加入者装置と関連付けられた識別情報を含むアクセス要求メッセージに応答して、潜在的な衝突を解決するために、該識別情報を示す第2のメッセージを受信する」ものであって、ここでいう第2のメッセージの「前記識別情報」は、アクセス要求メッセージに含まれていたと同じ「識別情報」であることが読み取れる。(下線は当審にて付与。以下同じ。)
そこで、本願発明の「第2のメッセージ」が発明の詳細な説明における記載中のどのメッセージに対応するか、以下、検討する。


(1)本願明細書の記載事項
本願明細書には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0045】
フィードバックメッセージ230は、オプションでコード化された情報、又は単一ビットのシーケンスであり、タイムスロット210においてベースステーション20に送信されたメッセージが衝突を起こしたか否かを示す。図示される様に、多数のフィードバックメッセージ230は、エポック、又は半エポックの様な特定の継続時間内に生成されることが出来る。例えば、フィードバックメッセージ230の様なフィードバック情報は、エポックN+1の継続時間A内に送信されることにより、ベースステーション20のエポックNのタイムスロット♯0に於けるメッセージ210の受信に対して衝突が起きたことを示すことが出来る。詳細には、継続時間Aの3つのフィードバックメッセージ230の各々に於いて送信された論理1は、衝突が検出されたことを示すのに対し、論理0設定は、衝突の起きなかったことを示すことが出来る。
・・・(略)・・・
【0072】
メッセージ410が誤りなく受信される時には、ベースステーション20はフィールドユニット14と共にリンクを形成するために応答し、“衝突なし”メッセージをフィードバックチャネル45上でフィールドユニット14に送信する。あるいは、上記の代わりにメッセージ410がエラーなしの序文415を含むが、誤って受信されたデータペイロード情報420を含む時には、ベースステーション20は2つ以上の送信器が同時にメッセージを送信したと推論することができる。衝突検出メッセージは、次にフィードバックチャネル45上を送信されて衝突が起きたことを示す。従ってメッセージ410をモニタリングするベースステーション20のようなターゲット受信器は、多数の送信フィールドユニット14に対しメッセージ衝突が起きたか否かの価値あるフィードバックを提供することができる。」

イ 「【0063】
フィードバックチャネル355の各タイムスロット315は、好ましくは情報の16ビットをサポートするデータフィールドを含む。図示された特定の用途では、情報の10ビットは一般メッセージのために確保され、1ビットが衝突検出ビット325として確保され、5ビットはCRC(巡回冗長性チェック)データ328のための確保されている。
【0064】
一般メッセージ320は、オプションで特にフィールドユニット14に向けられるメッセージである。例えば、多数のフィールドユニット14の各々は、ベースステーション20からフィールドユニット14へのフィードバック情報を受信するための特別のタイムスロット315の使用を割り当てられることができる。割り当てられる時、該当のフィールドユニット14はベースステーション20からのメッセージを受信するために適切なタイムスロット315をモニタリングする。タイムスロット315における特定のメッセージの一つのタイプは、フィールドユニット14へのフィードバック情報であり、そのタイミングまたはパワーはフィールドユニット14から送信されるメッセージがベースステーション20において正しく受信されるように如何に調節されるべきかを示している。
【0065】
タイムスロット315は、オプションで割り当てられない場合もあり、またメッセージ自体はフィールドユニット14にメッセージが向けられるアドレスを含むことができる。従って改変された実施形態では、フィードバックメッセージはフィールドユニット14に非同期で送信することができる。」

ウ 「【0120】
ACKがステップ970において受信される時には、ステップ980においてプロセスフローは続行し、追加メッセージはベースステーション20から受信され、ステップ950において送信されたメッセージは希望のパワーレベルで受信されたか否かを示す。上述のようにその後のメッセージがベースステーション20において希望のパワーレベルで受信されるようにそのパワー出力レベルを如何に調節するかを示す情報がフィールドユニット14に送信されることができる。従ってフィールドユニット14のパワー出力レベルは、その後のメッセージ送信のために調節される。」

エ 「【0092】
図7に示されるようにメッセージは、ベースステーション20からフィールドユニット14にページングチャネル41上で送信される。このような一つのメッセージは、基準信号710がベースステーション20から送信されるパワーレベルを示す情報を含むメッセージAである。この値は、ベースステーションアンテナのゲインを考慮に入れたdBm単位で表される。従ってメッセージAは、ベースステーション20が基準信号710を送信する時の有効放射パワーレベル情報を含むことができる。本発明の原理に従えば、アンテナゲイン情報、オフセット情報、訂正情報および一般情報のような追加メッセージがフィールドユニット14に送信されることができる。
【0093】
フィールドユニット14は、メッセージAを解読して基準信号710が送信される時のパワーレベルが求められる。ベースステーション20とフィールドユニット14との間のフォワード経路損失は、次にフィールドユニット14での基準信号710の受信されたパワーレベルとメッセージAにより示される有効放射パワーレベルとを比較することにより求められる。
【0094】
計算されたフォワード経路損失は、フィールドユニット14とベースステーション20との間のリバース経路損失を推定するために用いられる。例えば、リバース経路損失は、フォワード経路損失とはわずかに相違しているもののほぼ同じであると推定される。この推定される経路損失は、メッセージがフィールドユニット14からベースステーション20に送信できる初期設定点を求めるために使用される。
【0095】
ベースステーション20が基準信号710を55dBmの有効放射パワーレベルで送信する場合を考える。上記のようにこの情報は、フィールドユニット14に通常ページングチャネル41上でブロードキャストされるメッセージAを介して送信される。基準信号710の受信されたパワーレベルが22dBmであればフォワード経路損失は55-22dBmとして計算され、またはフォワード経路損失は33dBmとなる。この経路損失に基づいてフィールドユニット14は、ベースステーション20へのメッセージを送信するためのその後の試みに対して妥当なパワー出力レベルを推定することができる。
【0096】
追加メッセージは、ベースステーション20からフィールドユニット14にページングチャネル41上で送信されることができる。例えば、メッセージBは、フィールドユニットに通常ページングチャネル41を介して送信される。メッセージBは、好ましくはコード化された情報を含み、ベースステーション20がその後のメッセージをフィールドユニット14から受け取る希望のパワーレベルを示す。この情報は、特定のフィールドユニット14に向けて送信された特定のメッセージであることができる。従ってフィールドユニット14は、何れのレベルでメッセージが送られることにより、メッセージが希望のパワーレベルで受信されるかを推定する情報を使用することができる。メッセージBが12dBmの希望のパワーレベルを示し、フォワード経路損失が上記のように約33dBmを示す場合には、フィールドユニット14はメッセージを33+12dBmつまり45dBmでベースステーション20に送ることを試みる。
【0097】
とりわけ、リバース経路損失は推定された33dbmよりもはるかに高い可能性がある。このような状況では、ベースステーションは必ずしもフィールドユニット14により送信されたメッセージを検出するとは限らない。しかし、上述のように45dBmのパワー出力設定点は、アクセス要請メッセージ750のようなメッセージがアクセスチャネル51を介して送信される開始点であると考えられる。ベースステーション20において衝突が検出されずACKメッセージ240がページングチャネル41を介して受信されない時には、フィールドユニット14のパワー出力は、その後のメッセージを送信することの試みに対して1dBmから46dBm高めることができる。フィールドユニット14のパワー出力レベルを調節するためのこの手順は、ベースステーション20においてメッセージが検出されるまで反復することができる。
【0098】
ベースステーション20に送信されたメッセージは、メッセージがフィールドユニット14から受信される時のパワーレベルを検出するためにモニタリングされることができる。これを果すには、メッセージCのようなメッセージがパイロットシンボルまたはパイロットシンボルのシーケンスのようなパイロット情報を含むことができる。図8に示されるように、パイロット相関フィルタは、最強のダイバーシティ経路およびサイドパスを特定するために用いられる。一つまたは多数の経路は、次にメッセージがアクセスチャネル51上のベースステーション20において受信される時のパワーレベルを求めるために使用される。メッセージCが正しく受信されることを確保するためにメッセージは、CRCチェックビットのようなエラー検出情報を用いてエラーがないか分析される。本発明のこれらのおよびその他の構成は、本明細書で既に考察された。
【0099】
メッセージCがベースステーション20において受信された後、パワー調節メッセージがベースステーション20において作られることにより、ベースステーションへのその後のメッセージが希望のパワーレベルで受信されるためにフィールドユニット14が如何に調節されるべきかが示される。例えば、メッセージが23dBmで受信されたことをベースステーション20が知った場合、ベースステーション20はメッセージをページングチャネル41上で送信することにより、フィールドユニットからのメッセージが12dBmのような低いパワーレベルにおいて受信されるようにその後のメッセージ送信に対してそのパワー出力レベルをフィールドユニットが引き下げるべきことを示す。」

オ 「【0049】
ページングチャネル41上を送信されるメッセージの一つのタイプは、ACK(確認)メッセージ240である。ACKメッセージ240は、ベースステーション20により送られて、アクセスチャネル51のタイムスロット210に於いて受信されたメッセージが正しく受信されたことを示す。フィードバックチャネル45上のフィードバックメッセージ230と同様に、フィールドユニット14に送信されるACKメッセージも又フィードバックメッセージである。然し、ACKメッセージ240は、フィールドユニット14により送信された前のアクセス要求メッセージが正しく受信されたことを示す。また、ACKメッセージ240は、正式の通信リンクがアクセスを要求しているフィールドユニット14と共に確立されることを示す。例えば、トラフィックチャネルは、データペイロードを送信し、又受信する為にフィールドユニット14に割り当てられることが出来る。」


(2)「第2のメッセージ」の検討
ア 「第2のメッセージ」を「フィードバックメッセージ230」とする場合
請求人は審判請求書(「3-2 理由3及び4に対する反論」参照)にて、上記発明特定事項に係る事項は本願明細書【0072】、【0045】及び【0063】?【0065】の記載(具体的には「フィードバックメッセージ230」に関する記載)によりサポートされている旨主張しているから、「第2のメッセージ」が「フィードバックメッセージ230」に基づくものかどうかについて検討する。

上記「(1)本願明細書の記載事項」項中の「ア」(以下、記載事項「ア」という。「イ」?「オ」についても同様。)から、「フィードバックメッセージ230」は、タイムスロット210においてベースステーション20に送信されたメッセージが衝突を起こしたか否かを示すメッセージであって、ベースステーション20からフィールドユニット14に送信されるメッセージであることが把握できる。
また、上記記載事項「イ」から、フィールドユニット14に向けられるメッセージがフィールドユニット14のアドレスを含み得ることは把握できる。
ここで、上記「ベースステーション20」及び「フィールドユニット14」は、それぞれ、本願発明の「基地局」及び「加入者装置」に相当するから、上記記載事項「ア」及び「イ」によれば、「フィードバックメッセージ230」は、基地局から加入者装置が受信するメッセージであって、衝突を起こしたか否かを示し、加入者装置のアドレスを含むものといえる。
しかしながら、本願明細書等には、上記記載事項「イ」にある「アドレス」について、ベースステーション20がこのアドレスをどのように取得するのかは何ら示されていないため、当該アドレスがアクセス要求メッセージに含まれていたアドレスかどうかは不明である。
そして、上記発明特定事項では、第2のメッセージの「前記識別情報」がアクセス要求メッセージに含まれていたと同じ「識別情報」であることが規定されていることを鑑みると、本願明細書等に上記発明特定事項が記載されているとするためには、基地局から加入者装置へのメッセージにアドレスを含み得ることが示されているだけでは足りず、そのアドレスがアクセス要求メッセージに含まれていたアドレスであることが示されている必要があるが、上記したように、当該アドレスがアクセス要求メッセージに含まれていたアドレスかどうかは特定できない。
してみると、上記記載事項「ア」及び「イ」にある「フィードバックメッセージ230」は、本願発明の「第2のメッセージ」であるということができないから、上記発明特定事項は「フィードバックメッセージ230」に関する記載に基づくものではなく、請求人の主張を採用できない。

請求人の主張を採用できないことは上記したとおりであるが、念のため、他のメッセージについても検討する。


イ 「第2のメッセージ」を「一般メッセージ320」とする場合
上記記載事項「イ」に基づいて、本願発明における「第2のメッセージ」を、フィードバックチャネル上の「一般メッセージ320」とする場合について検討する。
この場合、「一般メッセージ320」は、「アクセス要求メッセージに応答」するものである必要があるが、当該「一般メッセージ320」がアクセス要求メッセージに応答して送られることは記載されていない。
また、基地局がアドレスをどのように取得するのか何ら示されていないことは、上記「ア 「第2のメッセージ」を「フィードバックメッセージ230」とする場合」にて述べたとおりである。
してみると、上記記載事項「イ」にある「一般メッセージ320」は、本願発明の「第2のメッセージ」とはいえないから、上記発明特定事項は「一般メッセージ320」に関する記載に基づくものではない。


ウ 「第2のメッセージ」を「追加メッセージ」とする場合
上記記載事項「ウ」に基づいて、本願発明における「第2のメッセージ」を、AKCが受信された後の「追加メッセージ」とする場合について検討する。
当該「追加メッセージ」はACKが受信された後、ACKを送信した加入者装置に送信されるメッセージであるから、アクセス要求メッセージを送信した加入者装置の識別情報を含むものといえる。
しかしながら、この「追加メッセージ」はACKを送信した後のメッセージであって、「潜在的な衝突を解決するために」加入者装置に送られるものとはいえない。
してみると、上記記載事項「ウ」にある「追加メッセージ」は、本願発明の「第2のメッセージ」とはいえないから、上記発明特定事項は「追加メッセージ」に関する記載に基づくものではない。


エ 「第2のメッセージ」を「メッセージA」及び「メッセージB」とする場合
上記記載事項「エ」に基づいて、本願発明における「第2のメッセージ」を、ページングチャネル上の「メッセージA」又は「メッセージB」とする場合について検討する。
上記記載事項「エ」の【0092】及び【0096】によれば、「メッセージA」は基準信号の送信パワーレベルの情報を含み、「メッセージB」はアンテナゲイン情報、オフセット情報、訂正情報、一般情報、希望のパワーレベルを示す情報を含むことが把握される。
しかしながら、「メッセージA」の送信パワーレベルの情報、及び、「メッセージB」の希望のパワーレベルを示す情報は、パワー調節のための情報であるから、「潜在的な衝突を解決するため」の情報とはいえない。
また、「メッセージB」の他の情報については具体的な説明がないため、「潜在的な衝突を解決するため」の情報かどうか不明である。
更にいえば、これらの「メッセージA」及び「メッセージB」はいずれも「アクセス要求メッセージ」に応答して送られるものとして記載されていない。
してみると、上記記載事項「エ」にある「メッセージA」及び「メッセージB」は、いずれも本願発明の「第2のメッセージ」とはいえないから、上記発明特定事項は「メッセージA」又は「メッセージB」に関する記載に基づくものではない。


オ 「第2のメッセージ」を「ACKメッセージ240」とする場合
上記記載事項「オ」に基づいて、本願発明における「第2のメッセージ」を、ページングチャネル上の「ACKメッセージ240」とする場合について検討する。
当該「ACKメッセージ240」は、基地局がアクセス要求メッセージを受信し、且つ、衝突を検出しない場合に、アクセス要求メッセージを送信した加入者装置に対して送信されるメッセージである。そうすると、アクセス要求メッセージを送信した加入者装置の識別情報を含むものといえる。
しかしながら、上記記載事項「オ」では、この「ACKメッセージ240」について、アクセス要求メッセージが正しく受信されたこと及び正式な通信リンクが確立されることを示すメッセージとして記載されているのみであって、「潜在的な衝突を解決する」ことについての言及はない。そして、本願発明の詳細な説明全体を確認しても「ACKメッセージ240」と「潜在的な衝突を解決する」こととを関連付ける記載を見出せないことから、「ACKメッセージ240」が「潜在的な衝突を解決するために」加入者装置に送られるのかどうか特定できない。
してみると、上記記載事項「オ」にある「ACKメッセージ240」は本願発明の「第2のメッセージ」とはいえないから、上記発明特定事項は「ACKメッセージ240」に関する記載に基づくものとはいえない。


カ その他
また、本願明細書及び図面全体を検討しても、上記「ア 「第2のメッセージ」を「フィードバックメッセージ230」とする場合」?「オ 「第2のメッセージ」を「ACKメッセージ240」とする場合」で示したメッセージ以外の、基地局から加入者装置に送信されるいずれのメッセージにおいても「第2のメッセージ」の根拠となり得るものは見出せない。
してみると、「第2のメッセージ」は本願発明の詳細な説明中のいずれのメッセージに対応するか特定できないことから、上記発明特定事項は本願明細書及び図面の記載に基づくものではない。


(3)まとめ
以上のように、出願人の主張を考慮しても「第2のメッセージ」が本願発明の詳細な説明中のいずれのメッセージに対応するか特定できないことから、少なくとも上記発明特定事項は発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
加えて、本願発明の「信号を基地局に送信するステップ」等の他の用語及び他のステップについても本願発明の詳細な説明及び図面との対応関係が特定できない。
よって、「本願請求項1?12に係る各用語・各ステップと、本願発明の詳細な説明及び図面との対応関係が特定できないため・・・本願請求項1?12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものということができない」とする拒絶理由は解消されておらず、本願発明は詳細な説明に記載したものであるとはいえないため、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。


2 理由3(特許法第36条第6項第2号)について
本願発明における「信号」、「第1のメッセージ」、「潜在的な衝突を解決するために」、「第2のメッセージ」等の各用語が具体的に何を意味するのか不明であって、上記「2 理由4(特許法第36条第6項第1号)について」にて述べたように、本願発明に係る各用語・各ステップと発明の詳細な説明及び図面との対応関係が特定できないことから、出願時の技術常識及び本願明細書及び図面を考慮しても、本願発明を明確に把握できない。
よって、本願発明は明確でないため、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない。


3 理由4(特許法第36条第4項第1号)について
上記「1 理由4(特許法第36条第6項第1号)について」及び「2 理由3(特許法第36条第6項第2号)について」で検討したように、「第1のメッセージ」、「潜在的な衝突を解決するために」、「第2のメッセージ」等の各用語及び「信号を基地局に送信するステップ」等の各ステップについて、本願発明の詳細な説明及び図面との対応関係が特定できず、本願発明は明確でない。
そうすると、本願発明の詳細な説明を参照しても、「第1のメッセージを前記基地局から受信するステップであって、前記第1のメッセージは、アクセス要求メッセージを送信するためのタイミングおよびパワー調節情報を含む、ステップ」及び「前記タイミングおよびパワー調節情報に従って、前記アクセス要求メッセージをアップリンク共有チャネル上で前記基地局に送信するステップであって、前記アクセス要求メッセージは、通信接続を確立する要求を示し、および前記加入者装置と関連付けられた識別情報を含む、ステップ」を含む本願発明において、「第1のメッセージ」に含まれる「送信タイミングおよびパワー調節情報」が如何なる情報であって、当該情報を用いてどのようにして「アクセス要求メッセージ」を送信するのかが把握できない。
加えて、『無線チャネル上でメッセージの衝突が起こる場合、メッセージが正常にデコードできないため、メッセージに含まれる情報を正しく取得できない』という技術常識を考慮すれば、本願発明を当業者が実施可能というためには、本願発明の詳細な説明に第2のメッセージにアクセス要求メッセージを送信した加入者装置のアドレスを含める旨の記載があるだけでは足りず、アクセス要求メッセージが衝突した際、基地局が、衝突したアクセス要求メッセージを送信した加入者装置のアドレスをどのように取得するのかについて当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載することが必要であるが、本願発明の詳細な説明には、その点について何ら記載されていない。
よって、本願発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないため、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しない。


[分割の適否について]
本件が分割要件を満たしているか否かによって実施可能要件の適用条文が変わるため、分割の適否についても以下に検討する。

上記「第1 手続の経緯」で示した分割に係る各出願の関係は次のとおりである。

特願2001-562857号(1代目)(以下、「出願1」という。)
特願2012-132249号(2代目)(以下、「出願2」という。)
特願2013-54986号 (3代目)(以下、「出願3」という。)
特願2014-40770号 (4代目)(以下、「出願4」という。)
特願2015-96913号 (5代目、本願)

本願の出願日が出願1の出願日にまで遡及するためには、少なくとも、本願が出願4に対して、出願4が出願3に対して、出願3が出願2に対して、出願2が出願1に対して、それぞれ分割要件を全て満たし、更に、本願が出願1に対して分割要件のうち実体的要件の全てを満たす必要がある。(必要であれば、審査基準「第VI部 第1章 第1節 特許出願の分割の要件 5.1 分割出願を原出願とする分割出願 (i)?(iii)」及び審査ハンドブック「第VI部 第1章 特許出願の分割」を参照のこと。)

しかしながら、出願1の出願当初明細書(以下、「出願1明細書」という。)が本願明細書と実質的に同じ(出願1明細書にある発明の詳細な説明は、本願明細書から【技術分野】を除き、【図面の簡単な説明】を最終段落に移動させたもの)であること、及び、上記「1 理由4(特許法第36条第6項第1号)について」で示したように、少なくとも上記発明特定事項は本願明細書等におけるいずれの記載に基づくものでもないことを踏まえると、本願発明は出願1明細書及び図面に記載されているといえないことから、本願が出願1に対して分割要件のうち実体的要件の全てを満たすとはいえない。

そうすると、本願の出願日は出願1の出願日にまで遡及せず、本願の出願日が遡及するのは、少なくとも出願2の出願日、すなわち平成24年6月11日までとなり、実施可能要件の適用条文は特許法第36条第4項第1号となる。

なお、仮に、分割要件を満たし、平成13年2月23日を出願日とするものであったとしても、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。



第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-25 
結審通知日 2018-01-30 
審決日 2018-02-13 
出願番号 特願2015-96913(P2015-96913)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H04W)
P 1 8・ 536- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深津 始  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 松永 稔
古市 徹
発明の名称 リバースリンク初期パワー設定  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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