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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1341915
審判番号 不服2017-11960  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-09 
確定日 2018-07-04 
事件の表示 特願2016-522646「酢酸ナトリウム三水和物調合物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日国際公開、WO2015/001101、平成28年11月 4日国内公表、特表2016-534169〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、2014年(平成26年)7月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年(平成25年)7月5日 英国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は概略以下のとおりのものである。

平成27年12月24日 国内書面提出
平成28年 1月21日 国際出願翻訳文提出
平成28年12月15日付け 拒絶理由通知
平成29年 3月17日 意見書及び手続補正書提出
平成29年 4月11日付け 拒絶査定
平成29年 8月 9日 本件審判請求

第2 本願発明について

本願の請求項に係る発明は、平成29年3月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
加熱可能材料と調合物を含む吸入装置であって、前記調合物が使用において前記加熱可能材料を加熱する熱源であり、前記調合物は、酢酸ナトリウム三水和物(SAT)と、運動阻害剤と、溶媒とを含み、前記運動阻害剤が、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、グリセロール、ウレア、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリアクリル酸、ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、プルラン、ポリビニルアルコール、およびポリビニルアセテートから成る群より選ばれる、吸入装置。」

第3 原査定における拒絶の理由の概要

原査定における拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献等一覧
1.特表2011-525366号公報
・・・(中略)・・・
7.特開平03-041185号公報(周知技術を示す文献)
8.特開平02-127493号公報(周知技術を示す文献)
・・・(中略)・・・
11.特開昭62-205184号公報(周知技術を示す文献)

第4 当審の判断

1 引用文献

(1) 引用文献

ア 原査定の拒絶の理由に、引用文献1として引用された本願出願の優先日前に頒布された引用文献である特表2011-525366号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「無煙シガレット」(発明の名称)について、以下の記載がある(当審注:促音、拗音は小文字で表記し、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同じ。)。

(1ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己発熱性のサーマルユニットと、ニコチン又はニコチン含有化合物を含むニコチンリザーバーとを備え、
前記サーマルユニットは、熱を放出して結晶化する結晶性物質を含む無煙シガレット。
・・・(中略)・・・
【請求項5】
前記結晶性物質は、含水塩の溶液を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の無煙シガレット。
【請求項6】
前記含水塩は、酢酸ナトリウム三水和物、及び/又はグラウバー塩、及び/又は硝酸マグネシウム六水和物であることを特徴とする請求項5に記載の無煙シガレット。」

(1イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、自己発熱性のサーマルユニットと、ニコチン又はニコチン含有化合物を含むニコチンリザーバーとを備える無煙シガレットに関する。」

(1ウ) 「【0014】
本発明の無煙シガレットは、自己発熱性のサーマルユニットと、ニコチン又はニコチン含有化合物を含むニコチンリザーバーとを備え、前記サーマルユニットは、熱を放出して結晶化する結晶性物質を含むことを特徴とする。本発明によれば、前記結晶性物質の結晶化によって熱が放出されると、この熱が前記ニコチンリザーバーを加熱してニコチンの放出を促し、及び/又は利用者が吸い込む空気を温める。」

(1エ) 「【0017】
さらに、前記結晶性物質は、過飽和した準安定溶液とすることができる。この過飽和溶液は、結晶化反応が開始されたときに、熱を放出することで結晶を析出する。
【0018】
前記結晶性物質(特に溶液状のもの)は、少なくとも常温では、準安定化した過飽和状態で存在しているので、常温で結晶化を開始することができる。
【0019】
前記結晶性物質は、意図されない結晶化を防ぐために、安定剤を含んでいてもよい。しかしながら、前記結晶性物質は安定剤を含んでいなくてもよい。
・・・(中略)・・・
【0021】
有利には、前記結晶性物質は含水塩溶液を含む。有利には、該結晶性物質は、含水塩の過飽和溶液である。
・・・(中略)・・・
【0023】
前記含水塩は、酢酸ナトリウム三水和物、及び/又はグラウバー塩、及び/又は硝酸マグネシウム六水和物とすることができる。これにより、自己発熱性のサーマルユニットと、ニコチン又はニコチン含有化合物を含むニコチンリザーバーとを備える無煙シガレットが提供される。前記サーマルユニットは、酢酸ナトリウム三水和物、及び/又は硫酸ナトリウム、及び/又はグラウバー塩、及び/又は硝酸マグネシウム六水和物の溶液を含むように構成される。この溶液は、前記サーマルユニットの中で準安定化した過飽和状態で存在し、且つ、酢酸ナトリウム三水和物、及び/又は硫酸ナトリウム、及び/又はグラウバー塩、及び/又は硝酸マグネシウム六水和物が結晶化するとき熱を放出する。」

(1オ) 「【0076】
前記結晶性物質(特に酢酸ナトリウム又は酢酸ナトリウム溶液)を50℃以上、好ましくは60℃以上で維持、及び/又は処理すると、結晶核を添加した場合だけでなく、自発的な結晶化を防ぐことができると分かった。本発明によれば、この温度範囲内で処理が行われるため、自発的な結晶化が起こることなく、また前述した結晶核の添加をすることなく、前記結晶性物質を確実に前記自己発熱性サーマルユニットの容器の中に充填することができる。これによって、前記自己発熱性サーマルユニットによって構成された前記無煙シガレットに、高い信頼性がもたらされる。結晶化及びそれによる熱の発生は、誤って早期に起こることがなく、利用者によって望まれたときに起こるからである。」

(1カ) 「【0081】
本発明のさらなる態様において、前記結晶性物質は、水和物及び/又は水を含んでおり、前記結晶性物質中の水の脱離圧よりも高い水蒸気圧の下で、供給及び/又は充填される。このようにして、含水塩溶液(すなわち、供給中及び/又は、充填中の物質)に生じる脱水反応を防ぐことができる。この脱水反応は、結晶化の可能性が増加してしまうという点で不利である。従って、供給及び/又は充填する過程は、含水塩溶液、すなわち前記結晶性物質に含まれる水の水蒸気圧よりも高い水蒸気圧下で行われることが好ましい。」

(1キ) 「【0093】
本発明に係る無煙シガレット10は、外部からの熱やエネルギーの供給なしに機能する、自発的なものである。サーマルユニットが活性化すると、過飽和準安定溶液が結晶化し始める。この溶液は、例えば、酢酸ナトリウム三水和物(CH_(3)COONa3H_(2)O)溶液とすることができる。発熱反応中に放出される結晶化熱は、複数の段階において放出される。
【0094】
サーマルユニットが活性化すると、酢酸ナトリウム三水和物は自発的に結晶が析出し、潜熱としてサーマルユニットに蓄えられていた熱を放出する(CH_(3)COO^(-)(水溶液)+Na^(+)(水溶液)→CH_(3)COONa3H_(2)O(固体)+熱)。このときまず最初に、サーマルユニットの中に存在するイオンがイオン格子を形成する。」

(1ク) 「【0142】
本実施形態における、酢酸ナトリウムのサーマルパッドチューブ100は、充填が終わるとすぐに使用され得る。前述した充填操作のために、サーマルパッド、又はサーマルパッドチューブ100をさらに処理することは問題ない。そして、それら、すなわちそれとともにに提供される無煙シガレットは、意図されない酢酸ナトリウムの結晶化なしに、長期間保存することができる。」

イ 原査定の拒絶の理由に、引用文献7(周知技術を示す文献)として引用された本願出願の優先日前に頒布された引用文献である特開平3-41185号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「蓄熱組成物の製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

(2ア) 「発明の技術分野
本発明は、蓄熱組成物の製造方法に関する。」(第1頁左下欄下から第3?2行)

(2イ) 「発明の技術的背景
無機塩水和物にキサンタンガムを添加すると、得られる組成物中の無機塩水和物は、融解した状態すなわち熱エネルギーを貯蔵した状態で安定化し、周囲の雰囲気温度が無機塩水和物の融点未満の温度になっても結晶化しない。・・・(中略)・・・
ところで、このような熱エネルギーの貯蔵に用いられる無機塩水和物としては、広く知られた硫酸ナトリウム10水和物(Na_(2)SO_(4)・10H_(2)O)の他、酢酸ナトリウム・三水和物(CH_(3)COONa・3H_(2)O)などが挙げられる。」(1頁左下欄末行?右下欄下から第4行)

(2ウ) 「キサンタンガム
本発明で用いられるキサンタンガムは、ヘテロ多糖類の一種である細胞外ヘテロ多糖、すなわち細菌Xanthomonas campestrisの培地より得られるD-グルコース、D-マンノース、D-グルクロン酸を構成単位とする分子量200万?5000万程度の親水性多糖類である。・・・(中略)・・・
このような親水性多糖類自体は、もともと高粘度を有しているが、一定の条件下で熱分解あるいは加水分解されて、粘度が低下する。このように低粘度化された親水性多糖類が含まれ、組成分布が均一化された酢酸ナトリウム・三水和物が含まれた蓄熱組成物では、相分離を生じ難く、しかも熱交換器中に容易に充填される。
また、このように熱分解(熱劣化)あるいは加水分解されたキサンタンガムは、酢酸ナトリウム・三水和物と相溶し易い。このようなキサンタンガム分解物を用いることによって、他の構成成分である酢酸ナトリウム・三水和物を、ヒドロゲル状に安定化させることができ、酢酸ナトリウム・三水和物は、その融点未満でも潜熱を放出して固化することはない。また各種の力学的刺激、すなわち振動、衝撃等があっても、酢酸ナトリウム・三水和物は安定しているため、過冷却時の暴発を防止することが可能となる。」(第3頁左上欄第7行?右上欄下から第2行)

(2エ) 「本発明により得られる蓄熱組成物には、プロピレングリコールが配合されていてもよい。蓄熱組成物にプロピレングリコールを配合すると、得られる蓄熱組成物は、低温下(たとえば-15℃)においても、暴発による自己発熱を起こさず、熱エネルギーの貯蔵安定性を増す傾向がある。
このようにプロピレングリコールが蓄熱組成物に配合される場合には、酢酸ナトリウム・三水和物100重量部に対して、プロピレングリコールは、通常、1?5重量部の量で含まれている。」(第4頁左上欄下から第7行?右上欄第3行)

(2オ) 「発明の効果
本発明により得られる蓄熱組成物中には、上記のようにキサンタンガム分解物が含まれているので、得られる蓄熱組成物につき、凝固・融解の操作を長期間に亘り、繰り返して行なっても、有効潜熱が低下せず、低温安定性に優れ、かつ、容器に容易に充填することができる。」(第4頁左下欄下から第3行?右下欄第4行)

ウ 原査定の拒絶の理由に、引用文献8(周知技術を示す文献)として引用された本願出願の優先日前に頒布された引用文献である特開平2-127493号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「蓄熱材」(発明の名称)について、以下の記載がある。

(3ア) 「〔産業上の利用分野〕
この発明は、床暖房などに使用される酢酸ナトリウムを使った蓄熱材に関し、特に容器封入時などの作業性や保存性を向上させた蓄熱材に関するものである。」(第1頁左下欄第9?13行)

(3イ) 「〔従来の技術〕
従来より、暖房用蓄熱材として酢酸ナトリウム三水塩(NaCH_(3)COO・3H_(2)O,融点58℃,融解潜熱60cal/g)が注目されている。
・・・(中略)・・・
一方、NaCH_(3)COO・3H_(2)Oは無水物を析出しやすい性質があり、無水物が析出すれば蓄熱材中のNaCH_(3)COO濃度が低下し、固化熱が減少する。従って、無水物の析出を防止するために、例えば特開昭60-31586号公報では、各種の増粘剤の添加が提案されている。この公報に記載されている増粘剤はポリビニルアルコール(PVA)やポリエチレングリコール(PEG)であり、これらを添加した蓄熱材では固化熱を繰り返して利用するために固相・液相間の相変化を繰り返しても無水物の析出が少なく融解潜熱の変化が少ないものも得られている。」(第1頁左下欄第14行?第2頁左上欄第11行)

(3ウ) 「〔発明が解決しようとする課題〕
上記のような蓄熱材では、過冷却状態の安定な維持は認められず容器封入時などの作業性や保存性に難があるという問題点があった。
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、過冷却状態を安定に維持させて容器封入時などの作業性や保存性を向上できる蓄熱材を得ることを目的とする。」(第2頁左上欄下から第7行?右上欄第1行)

(3エ) 「〔作用〕
この発明においては、酢酸ナトリウムの水溶液に添加したゼラチンが酢酸ナトリウムの無水物の析出と固化を防ぐ。」(第2頁右上欄第7?10行)

(3オ) 「実施例1
NaCH_(3)COO・3H_(2)Oに水を加え、NaCH_(3)COO濃度を58重量%に調整した水溶液にゼラチンを5重量%加え、よく攪拌しながら融解させて粘度の向上した組成物を得た。この組成物は、融解後に容器に充填し続けても途中で一度も固化することは無かった。また、容器中に密閉したものは、室温まで冷却させても固化せず安定に過冷却状態を保っていた。・・・(中略)・・・
実施例2
NaCH_(3)COO・3H_(2)OにL;NaCH_(3)COO・2H_(2)Oを5重量%混合した組成物にゼラチンを3重量%加えてよく攪拌しながら融解させ、破壊可能なカプセル内に封入した核生成材(NaCH_(3)COOとNa_(2)HPO_(4)の混合物)とともにプラスチック製袋内に密封した。この蓄熱材は、一年以上の長期にわたって安定に過冷却状態を保つことができた。・・・(中略)・・・
上記各実施例で説明したように蓄熱材にゼラチンを添加した結果、粘性が向上するなどして次の利点が得られた。
(1) 過冷却の安定性が向上し、またその効果が長期にわたって持続する。
(2) 無水物NaCH_(3)COOの析出も防止できる。」(第2頁右下欄第6行?第3頁右上欄第5行)

(3カ) 「〔発明の効果〕
この発明は以上説明したとおり、主成分として酢酸ナトリウム(NaCH_(3)COO)を50?60重量%含有する水溶液に、ゼラチンを0.5?5重量%添加したので、酢酸ナトリウムの無水物の析出と固化とが防止できて過冷却状態が安定に維持でき、容器封入時などの作業性や保存性が向上した蓄熱材が得られる効果がある。」(第3頁左下欄第12行?末行)

エ 原査定の拒絶の理由に、引用文献11(周知技術を示す文献)として引用された本願出願の優先日前に頒布された引用文献である特開昭62-205184号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「熱エネルギー貯蔵物」(発明の名称)について、以下の記載がある。

(4ア) 「〔産業上の利用分野〕
本発明は低温貯蔵性に優れた熱エネルギー貯蔵物質に関する。」(第1頁左下欄第9?11行)

(4イ) 「〔従来の技術〕
無機塩水和物にキサンタンガムを添加すると、該水和物が融解した状態すなわち熱エネルギーを貯蔵した状態で安定化し、周囲の雰囲気温度が無機塩水和物の融点以下の温度になっても結晶化が生じずに熱エネルギーを貯蔵したままで保存でき、任意の時期に種結晶を投入したりあるいは電気的刺激を与えると、その時点で結晶化が起こり熱エネルギーを放出することはすでに知られている(特開昭59-53578)。同公報によれば、無機塩水和物として酢酸ナトリウム3水和物を使用すると、-20℃まではこのような安定化状態を保ち続けることができると記載されている。」(第1頁左下欄第12行?右下欄第6行)

(4ウ) 「〔発明の構成〕
すなわち本発明は、酢酸ナトリウム3水和物、キサンタンガムおよびグリコール類とからなることを特徴とする熱エネルギー貯蔵物質であって、その好適態様は酢酸ナトリウム3水和物100重量部に対してキサンタンガム0.5?5重量部およびグリコール類1?50重量部の割合からなる熱エネルギー貯蔵物質である。
〔作用〕
・・・(中略)・・・
本発明の他の成分であるグリコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等を例示でき、これらは各単独で用いてもよいし2種以上混合して用いてもかまわない。
本発明の熱エネルギー貯蔵物質は、酢酸ナトリウム3水和物と前記のキサンタンガムおよびグリコール類とから構成される。このうち酢酸ナトリウム3水和物は熱エネルギー貯蔵の主体を成すものであって、潜熱型の熱エネルギー貯蔵性を示す。キサンタンガムは、溶融して熱エネルギーを貯蔵している酢酸ナトリウム3水和物をその状態で安定して保持すると共に、融解状態の熱エネルギー貯蔵物質をヒドロゲル状に固定して系内における組成分布を均一化し、相分離現象を起こしにくくする役目を有する。グリコール類は低温下での酢酸ナトリウム3水和物/キサンタンガム系の暴発反応を防止して自己発熱を起こさないようにし、低温条件下での熱エネルギー貯蔵安定性を増す役目を有する。このような各成分の役目から、熱エネルギー貯蔵物質としての性能を充分に発揮するための各成分の組成割合は、酢酸ナトリウム3水和物100重量部に対してキサンタンガムが0.5?5重量部とくに1?3重量部、グリコール類が1?50重量部とくに1?15重量部である。」(第2頁左上欄第5行?左下欄第9行)

(4エ) 「〔発明の効果〕
本発明は以上の構成をとることにより、
《1》(当審注:丸数字の1) 酢酸ナトリウム3水和物が1度融解して熱エネルギーを蓄えた状態になるとヒドロゲル状の安定状態となり、酢酸ナトリウム3水和物の融解温度未満、とくに氷点下の低温条件になっても結晶化せず安定状態が保持され続ける、
《2》(当審注:丸数字の2) ヒドロゲル状の安定状態であると、振動や衝撃といった力学的刺激に反応しなくなり、運搬や保管に神経を使う必要がない、
《3》(当審注:丸数字の3) 安定状態は半永久的に持続する、
・・・(中略)・・・
といった優れた効果を示す。」(第2頁右下欄第12行?第3頁左上欄第7行)

(2) 引用文献1に記載された発明の認定

ア 引用文献1の(1ア)の【請求項1】、【請求項5】、及び【請求項6】、より、引用文献1には、「自己発熱性のサーマルユニットと、ニコチン又はニコチン含有化合物を含むニコチンリザーバーとを備え、前記サーマルユニットは、熱を放出して結晶化する結晶性物質を含む無煙シガレット」であって、「前記結晶性物質は、含水塩の溶液を含」み、「前記含水塩は、酢酸ナトリウム三水和物、及び/又はグラウバー塩、及び/又は硝酸マグネシウム六水和物であること」が記載されていることがわかる。

イ 同(1ウ)の【0014】より、「前記結晶性物質の結晶化によって熱が放出されると、この熱が前記ニコチンリザーバーを加熱してニコチンの放出を促し、及び/又は利用者が吸い込む空気を温める」ことが記載されていることがわかる。

ウ 同(1エ)の【0019】より、「前記結晶性物質は、意図されない結晶化を防ぐために、安定剤を含んでいてもよい」ことが記載されていることがわかる。

エ 同(1カ)の【0081】より、「前記結晶性物質は、水和物及び/又は水を含んで」いることが記載されていることがわかる。

オ 以上のことから、引用文献1には、

「自己発熱性のサーマルユニットと、ニコチン又はニコチン含有化合物を含むニコチンリザーバーとを備え、前記サーマルユニットは、熱を放出して結晶化する結晶性物質を含む無煙シガレットであって、前記結晶性物質は、含水塩の溶液を含み、前記含水塩は、酢酸ナトリウム三水和物、及び/又はグラウバー塩、及び/又は硝酸マグネシウム六水和物である無煙シガレット。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3) 引用文献2?4に記載された事項について

ア 引用文献2には、上記(1)イのとおり記載されているところ、これに接した当業者は、次の技術的事項を理解する。

酢酸ナトリウム・三水和物(CH_(3)COONa・3H_(2)O)(酢酸ナトリウム三水和物)に対して、キサンタンガムを添加すると、酢酸ナトリウム・三水和物(CH_(3)COONa・3H_(2)O)(酢酸ナトリウム三水和物)自体安定化し、過冷却時の暴発を防止し、相分離を生じ難く、結晶化(固化)しないこと〔(2イ)、(2ウ)参照。〕。

イ 引用文献3には、上記(1)ウのとおり記載されているところ、これに接した当業者は、次の技術的事項を理解する。

酢酸ナトリウム三水塩(NaCH_(3)COO・3H_(2)O,融点58℃,融解潜熱60cal/g)(酢酸ナトリウム三水和物)に対して、ポリビニルアルコール(PVA)やポリエチレングリコール(PEG)を添加すると、酢酸ナトリウム三水塩(NaCH_(3)COO・3H_(2)O,融点58℃,融解潜熱60cal/g)(酢酸ナトリウム三水和物)は、無水物の析出を防止することができること、また、キサンタンガムを添加すると、無水物の析出と固化を防ぎ、酢酸ナトリウム三水塩(NaCH_(3)COO・3H_(2)O,融点58℃,融解潜熱60cal/g)(酢酸ナトリウム三水和物)自体安定化し、過冷却状態を保つこと〔(3イ)?(3オ)参照。〕。

ウ 引用文献4には、上記(1)エのとおり記載されているところ、これに接した当業者は、次の技術的事項を理解する。

酢酸ナトリウム3水和物(酢酸ナトリウム三水和物)に対して、キサンタンガムを添加すると、酢酸ナトリウム3水和物(酢酸ナトリウム三水和物)自体安定化し、相分離現象を起こしにくく、結晶化が生じないこと〔(4イ)、(4ウ)参照。〕。

エ 以上のことより、引用文献2?4に記載のとおり、酢酸ナトリウム三水和物の結晶化(相分離)等を防ぎ、安定化させるために、ゼラチン、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、ポリビニルアルコール等の添加剤を用いることが、本願出願の優先日前に公知であると認められる(以下、当該技術を「引用文献2?4記載の従来技術」という。)。

2 対比・判断

(1) 本願発明と引用発明とを対比する。

(2) 本願発明の「加熱可能材料」について、本願明細書の【0018】によれば、「一部の実施態様では、加熱可能材料はニコチンを含む。」と記載されていることもあり、引用発明の「ニコチン又はニコチン含有化合物」は、本願発明の「加熱可能材料」に相当する。

(3) 本願発明の「調合物」は、「使用において前記加熱可能材料を加熱する熱源であ」るところ、引用発明の「結晶性物質」は「結晶化する」際、「熱を放出」するものであり、そして、上記(2)イで述べたように、当該「熱」によって、「ニコチンリザーバーを加熱」、すなわち、ニコチンリザーバーに含まれているニコチンを加熱するものであり、なおかつ、「利用者が吸い込む空気を温める」ものであることから、引用発明の「結晶性物質」は、本願発明の「使用において前記加熱可能材料を加熱する熱源であ」る「調合物」に相当するといえる。

(4) 引用発明の「無煙シガレット」は、上記(3)イで述べたように、「利用者が吸い込む空気を温める」ものであることから、本願発明の「吸入装置」に相当するといえる。

(5) 本願発明の「酢酸ナトリウム三水和物(SAT)」と、引用発明の「酢酸ナトリウム三水和物、及び/又はグラウバー塩、及び/又は硝酸マグネシウム六水和物」とは、「酢酸ナトリウム三水和物」である点で一致する。

(6) そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>

「加熱可能材料と調合物を含む吸入装置であって、前記調合物が使用において前記加熱可能材料を加熱する熱源であり、前記調合物は、酢酸ナトリウム三水和物を含む、吸入装置。」

<相違点1>

調合物について、本願発明が、「運動阻害剤」であって、「前記運動阻害剤が、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、グリセロール、ウレア、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリアクリル酸、ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、プルラン、ポリビニルアルコール、およびポリビニルアセテートから成る群より選ばれる」ものを含んでいるのに対して、引用発明は、そのようなものを含んでいるのか明らかでない点。

<相違点2>

調合物について、本願発明が、溶媒を含んでいるのに対して、引用発明は、そのようなものを含んでいるのか明らかでない点。

(7) 検討

上記相違点について、順に検討する。

ア <相違点1>について

引用文献1の【0019】には、「前記結晶性物質は、意図されない結晶化を防ぐために、安定剤を含んでいてもよい。」と記載されていることから、引用発明は、結晶性物質、すなわち、酢酸ナトリウム三水和物の意図されない結晶化を防ぐために、安定剤を含ませてもよいものであると理解できる。
そして、上記(3)のとおり、酢酸ナトリウム三水和物の結晶化(相分離も含む。)を防ぎ、安定化させるために、ゼラチン、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、ポリビニルアルコール等の添加剤を用いることが、引用文献2?4に記載のとおり知られているから(なお、当該技術は、当該分野における周知技術である。)、意図されない結晶化を防ぐために、引用発明においても、ゼラチン、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、ポリビニルアルコール等の添加剤を用いることは、当業者が容易に想到し得るといえる。
また、本願明細書の【0039】によれば、「SAT調合物は少なくとも1つの運動阻害剤を含んでもよい。そのような添加剤は、自発的に起こるまたは意図せずして起こる相変化、つまり(シード処理などで)誘発させていない望ましくない相変化の可能性を低減させることを目的として調合物に配合する。意図していない相変化は機械的力によっても起こり得る。」と記載されているように、本願発明では、酢酸ナトリウム三水和物(SAT)の意図せずして起こる相変化(結晶化、相分離を含む。)の可能性を低減させるための添加剤を「運動阻害剤」と称している一方、引用発明では、上記のとおり、酢酸ナトリウム三水和物の意図されない結晶化を防ぐための添加剤を「安定剤」と称しており、両者の添加剤共に、酢酸ナトリウム三水和物の意図されない結晶化を防ぐという点で共通することから、当該添加剤について、本願発明のように「運動阻害剤」と称するか、引用発明のように「安定剤」と称するかは、単に表現上の違いに過ぎないということができる。
以上によると、引用発明において、相違点に係る「運動阻害剤」であって、「前記運動阻害剤が、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、グリセロール、ウレア、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリアクリル酸、ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、プルラン、ポリビニルアルコール、およびポリビニルアセテートから成る群より選ばれる」ものを含んでいるという本願発明の構成とすることは、引用発明に、引用文献2?4に記載された事項(引用文献2?4記載の従来技術)を適用することにより当業者が容易に想到し得たことと認められる。

なお、平成29年8月9日に提出された審判請求書第8頁によれば、「これら引用文献1の記載に接した当業者であれば、サーマルユニットに結晶性物質を充填する過程において温度条件や水蒸気圧を適切に調節することで、結晶性物質に安定剤を添加することなく酢酸ナトリウム三水和物の意図されない結晶化を防ごうと考えるのが自然であり、あえて安定剤を添加して酢酸ナトリウム三水和物の結晶化を防止しようとはしないものと考えます。まして、引用文献1において記載も示唆もなされていない、本願発明1に係る特定の運動阻害剤や本願発明2に係る酢酸カリウムを添加することを動機付けられることなどあり得ません。」と述べ、引用発明に、引用文献2?4に記載された事項(引用文献2?4記載の従来技術)を適用する動機付けがないことを主張しているが、引用文献1の【0019】には、「前記結晶性物質は、意図されない結晶化を防ぐために、安定剤を含んでいてもよい。」と記載されていることから、引用文献1には、結晶性物質には、意図されない結晶化を生じる場合があり、それを防ぐためには、安定化剤を添加する手法があるということを開示していると解するのが自然である。そして、本願明細書に、その具体的な態様が無いからといって、意図されない結晶化を防ぐために何らかの添加剤(安定剤)を含ませることを完全に排除するものではないことから、上記請求人の主張は、採用することはできない。
また、同じく審判請求書第9頁によれば、「仮に当業者が引用文献1の記載から安定剤を添加することを動機付けられたとしても、引用文献1に記載の発明とは技術分野、使用目的及び使用態様が全く異なる引用文献2?11の記載事項を参照して、当該文献に開示された各種安定剤を引用文献1における安定剤として採用しようとする動機付けは何ら存在しないものと考えます。」と述べ、引用発明と引用文献2?4の記載事項とは、技術分野、使用目的及び使用態様が全く異なると主張しているが、これら引用文献2?4は、酢酸ナトリウム三水和物自体の安定剤として、本願発明にかかるカルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、キサンタンガム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の運動阻害剤を用いることが周知の技術であることを示す文献に過ぎず、技術分野、使用目的及び使用態様が異なるからといって、安定化が起こらないとか、安定化についての差異が生ずるとまではいえず、そして、引用発明と引用文献2?4の記載事項とは、周知の蓄熱材である酢酸ナトリウム三水和物を用いる点で共通の技術分野に属するものといえ、その意図されない結晶化を防止するという共通の課題を解決しようとするものであるから、引用発明に対して、引用文献2?4記載の従来技術を適用とすることは、当業者が容易に想到し得るものと言わざるを得ず、この主張についても採用することはできない。

イ <相違点2>について

本願発明の「溶媒」について、本願明細書の【0009】によれば、「一部の実施態様では、溶媒はエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、1-プロパノール、メタノール、水、およびアセトンから成る群より選ばれる。」と記載されている。一方、引用発明の「含水塩の溶液を含」む「結晶性物質」については、上記(2)エで述べたように、「前記結晶性物質は、水和物及び/又は水を含んで」いるものである。
してみれば、引用発明の「含水塩の溶液を含」む「結晶性物質」は、「溶媒」「を含」む「調合物」に相当するといえることから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、引用文献2の上記(2エ)には「プロピレングリコール」が、引用文献3の上記(3オ)には「水」が、さらに、引用文献4の(4ウ)には、「エチレングリコール、プロピレングリコール」等のグリコール類が結晶性物質に対して添加されることが記載されており、これらは、それぞれ、本願発明における「溶媒」に相当することは明らかであるから、引用発明の結晶性物質(調合物)に対して、溶媒を含有させる程度のことは、当業者が容易になし得ることである。

ウ <作用効果>について

本願明細書の【0028】によれば、「一部の実施態様では、そのような調合物は同じSATのみから成る調合物よりも高い安定性を示す。本明細書で言う高い安定性とは、過冷却液体状態において同じSATのみを主成分とする調合物よりも安定性が高いことを意味する。特に、過冷却液体状態において安定化した調合物は自発的に結晶化する可能性が低いこと、および/または本明細書で説明する1以上の安定度試験における機械的力を受けて結晶化する可能性が低いことを意味する。」と記載され、また、上記審判請求書第4頁に、「本願発明に係る吸入装置における熱源(調合物)は、酢酸ナトリウム三水和物溶液にカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの特定の運動阻害剤及び/又は酢酸カリウムを含ませることにより、実施例(本願明細書[0088]?[0113])の記載から明らかなように、酢酸ナトリウム三水和物の結晶化が著しく低減されており、高い安定性を有するという効果を奏します。」と記載されているように、本願発明についての効果を述べているが、引用文献2の上記(2ウ)には、キサンタンガムを添加することによって、「酢酸ナトリウム・三水和物を、ヒドロゲル状に安定化させることができ、酢酸ナトリウム・三水和物は、その融点未満でも潜熱を放出して固化することはない。また各種の力学的刺激、すなわち振動、衝撃等があっても、酢酸ナトリウム・三水和物は安定しているため、過冷却時の暴発を防止することが可能となる。」と記載され、また、引用文献3の上記(3オ)には、ゼラチンを添加することによって、「過冷却の安定性が向上し、またその効果が長期にわたって持続する。」、さらに、引用文献4には、キサンタンガムを添加することによって、「酢酸ナトリウム3水和物の融解温度未満、とくに氷点下の低温条件になっても結晶化せず安定状態が保持され続ける」、「ヒドロゲル状の安定状態であると、振動や衝撃といった力学的刺激に反応しなくなり、運搬や保管に神経を使う必要がない」、「安定状態は半永久的に持続する」と記載されており、引用文献2?4には、ゼラチン、キサンタンガム等の添加剤を用いると、酢酸ナトリウム三水和物の液体状態、特に、過冷却液体状態において、振動、衝撃等があっても安定化することが記載されていることから、上記本願発明における作用効果は、引用文献2?4から予測されるものであって、格別顕著なものとは認められない。

(8) 小括

したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1の記載事項、引用文献2?4記載の従来技術、及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 結語

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-01 
結審通知日 2018-02-06 
審決日 2018-02-19 
出願番号 特願2016-522646(P2016-522646)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
國島 明弘
発明の名称 酢酸ナトリウム三水和物調合物  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 池田 成人  
代理人 山口 和弘  
代理人 阿部 寛  
代理人 江守 英太  
代理人 野田 雅一  
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