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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1341951
異議申立番号 異議2017-700046  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-19 
確定日 2018-05-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5954257号発明「車両用ウインド材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5954257号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5954257号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5954257号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年6月24日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立て期間内である平成29年1月19日に特許異議申立人宮本邦彦(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年3月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月29日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年6月27日に申立人より意見書の提出がされ、平成29年9月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年12月1日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年1月10日に申立人より意見書が提出されたものである。その後、平成30年3月2日付け審尋に対し、平成30年4月4日に特許権者より審尋回答書が提出された。
なお、平成29年5月29日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
平成29年12月1日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5954257号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し」と記載しているのを、
「前記透明樹脂基材は、単一の樹脂材料から成り、かつ、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?4についても同様に訂正する。)。

(2) 訂正事項2
明細書の段落【0010】に
「前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し」と記載しているのを、
「前記透明樹脂基材は、単一の樹脂材料から成り、かつ、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し」に訂正する。

2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「透明樹脂基材」について、訂正後の請求項1の「単一の樹脂材料から成り、かつ、」との記載を加入することにより、透明樹脂基材の構成を具体的に特定し、更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項1は、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2?4についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は「透明樹脂基材」の構成を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2?4に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、願書に添付した明細書の
「基材2は、主成分としてポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を含む。図2,3を用いて説明する実験では、基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)を用いた。」(【0030】)という記載、
「(光硬化により製造した透明積層体)
[実施例1?15、比較例1?4]
基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)又はポリメチルメタクリレート((株)カネカ製)を用いた。まず、厚さ3mmの基材2上に、保護膜3が所定の厚みになるようスペーサを接着した。続いて、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した、保護膜3を構成する塗料組成物を流延し、80℃で3分間加熱を行った。続いてPETフィルムで押さえつけ余分な塗料組成物を除去した。その後、PETフィルムでカバーした状態で、200nm以上400nm以下の波長域の光を、照度が505mW/cm^(2)の条件で、水銀ランプを用いて照射し、8400mJ/cm^(2)の積算露光量で塗料組成物を硬化させた。これにより、透明積層体1を得た。」(【0062】)、及び、
「(熱硬化により製造した透明積層体)
[実施例16,17]
基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)を用いた。まず、厚さ3mmの基材2上に、保護膜3が所定の厚みになるようスペーサを接着した。続いて、硬化触媒としてフタルイミドDBU2.5部を混合した、保護膜3を構成する塗料組成物を流延し、80℃で3分間加熱を行った。続いてコーターブレードで余分な塗料組成物を除去した。その後、120℃で11時間加熱を行い、塗料組成物を硬化させた。これにより、透明積層体1を得た。」(【0063】)
のそれぞれに記載された、基材2が「ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)」という単一の樹脂材料から構成されることを示す記載に基づくものである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正事項であるところ、訂正前の請求項1?4に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項2は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正であり、上記訂正事項1において示したとおり、明細書の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

(3) 一群の請求項、及び、願書に添付した明細書の訂正に係る請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?4について、請求項2?4は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項2は、当該一群の請求項を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合する。

3 まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第4項ないし第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1?4」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項1】
透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明保護膜とを備えた車両用ウインド材であって、
前記透明樹脂基材は、単一の樹脂材料から成り、かつ、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し、
前記透明保護膜は、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下、重合性不飽和化合物が50重量%以上75重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物を含み、
前記透明保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有することを特徴とする車両用ウインド材。
【請求項2】
前記透明樹脂基材は、室温下で10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有し、かつ、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を主成分とすることを特徴とする、請求項1記載の車両用ウインド材。
【請求項3】
前記透明保護膜は、前記シリコーン樹脂組成物が、かご型シルセスキオキサン樹脂以外の材料を含む場合に、はしご型シルセスキオキサン樹脂及びランダム型シルセスキオキサン樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両用ウインド材。
【請求項4】
前記透明保護膜は、紫外線吸収剤を含むことを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の車両用ウインド材。

第4 取消理由の概要
当審で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、本件特許異議の申立てにおいて申立てられた全ての申立理由が通知された。

[理由1] 本件発明1は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(甲1)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

[理由2] 本件発明1?4は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2-1) 本件発明1?4は、甲1に記載された発明及び甲3?6、8?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(理由2-2) 本件発明1?4は、甲5に記載された発明及び甲1、3、4、6、8?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

<刊行物>
甲1.国際公開第2012/063637号
甲2.出光興産株式会社のウェブサイトの「タフロン物性一覧表」、「タフロン主要グレード」
甲3.特開2005-314586号公報
甲4.特開2003-137944号公報
甲5.特開平4-33936号公報
甲6.国際公開第2009/104407号
甲7.国際公開第2012/133079号
甲8.特開2011-34841号公報
甲9.特開2004-123936号公報
甲10.国際公開第2004/085501号の再公表特許
(なお、甲2及び甲7は、本件優先日後に頒布されたものであるが、技術常識を示すものとして示したものである。)

[理由3] 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1の「保護膜は、・・・シリコーン樹脂組成物を含み」との記載による特定について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、保護膜3にシリコーン樹脂組成物が含まれることについての記載や示唆はないから、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

第5 取消理由についての判断
1 理由1について
(1) 甲1に記載された発明
甲1には、その実施例1に着目しつつ甲1の記載全体を総合すると、
「 透明性を有する30?300μmのポリカーボネートフィルムからなる基材層4の片面に透明樹脂層であるハードコート層2が積層一体化されたハードコートフィルム積層体1と、
前記ハードコートフィルム積層体1の基材層4に射出成形で溶融一体化させた、透明性を有する厚み3mmのポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7と、
からなる自動車の窓ガラス用射出成形体であって、
前記ハードコート層2はアクリロイル基を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を25部、ジペンタエリスリトール65部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート10部、及びヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した光硬化性樹脂組成物を前記基材層4に硬化後の厚みが0.05mmとなるように塗布したものである、
自動車の窓ガラス用射出成形体。」の発明(以下「甲1発明」という。)
が記載されている([0001]、[0006]、[0025]、[0027]?[0034]、[0037]、[0040]?[0041]、[0045]?[0046]、[0048]、[0052]?[0054]、[請求項8]?[請求項11]、[図3]等参照)。

(2) 本件発明1と甲1発明の対比、判断
甲1発明の「透明樹脂層であるハードコート層2」は、本件発明1の「透明保護膜」に相当し、また、甲1発明の「透明性を有する30?300μmのポリカーボネートフィルムからなる基材層4」と当該「基材層4に射出成形で溶融一体化させた、透明性を有する厚み3mmのポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7」とからなる構造体は、本件発明1の「透明樹脂基材」に相当する。そうすると、甲1発明の「基材層4の片面に」「積層一体化された」「ハードコート層2」は、本件発明1の「透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明保護膜」に相当する。
また、甲1発明の「自動車の窓ガラス用射出成形体」は、本件発明1の「車両用ウインド材」に相当する。
また、甲1発明の「アクリロイル基を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を25部、ジペンタエリスリトール65部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート10部、及びヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した光硬化性樹脂組成物」は、光硬化性樹脂組成物中に籠型シルセスキオキサン樹脂を24質量%[=25/(25+65+10+2.5)]、重合性不飽和化合物を73質量%[=(65+10)/(25+65+10+2.5)]含むといえることから、本件発明1の「アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下、重合性不飽和化合物が50重量%以上75重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物」に相当する。
また、甲1発明の「ハードコート層2」の「硬化後の厚みが0.05mm」であることは、本件発明1の「透明保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有する」ことに相当する。

よって、本件発明1と甲1発明とは、
「 透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明保護膜とを備えた車両用ウインド材であって、
前記透明保護膜は、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下、重合性不飽和化合物が50重量%以上75重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物を含み、
前記透明保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有する、車両用ウインド材。」
である点で一致し、以下の点において相違する。

(相違点1)
透明樹脂基材に関して、本件発明1は、単一の樹脂材料から成るのに対して、甲1発明は、ポリカーボネートフィルムからなる基材層4と当該基材層4に射出成形で溶融一体化させたポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7とからなる点。

(相違点2)
透明樹脂基材の物性について、本件発明1は、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有しているのに対して、甲1発明は、30?300μmのポリカーボネートフィルムからなる基材層4と当該基材層4に射出成形で溶融一体化させた厚み3mmのポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7とからなるものであるが、その物性については明らかにされてない点。

そこでまず、上記相違点1について検討する。
甲1発明の「ポリカーボネートフィルム」と「射出成形したポリカーボネート樹脂」とは、共に「ポリカーボネート」を原料とするものの、一方は「フィルム」として加工されたものであり、他方は「射出成形」されたものであり、それにより異なる物性も生じ得ることを考慮すれば、両者を一体化させたものが「単一の樹脂材料」であるとすることはできない。
そうすると、上記相違点1は、実質的な相違点であるということができる。
よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、その特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

2 理由2について
2-1 理由2-1について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、上記1(2)に示したとおりである。

イ 相違点についての判断
まず、上記相違点1について検討する。
甲1発明は、甲1の発明の詳細な説明中の「背景技術」([0002])及び「発明が解決しようする課題」([0006])の記載を参照すると、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂の射出成形品の表面を保護するために用いられる硬化性フィルムについて、非常に表面硬度が高く、樹脂成形品に対する密着性や金型への追従性に優れた射出成形用ハードコートフィルム積層体を提供することを目的とするものであるところ、甲1発明は、ハードコートフィルムに相当する基材層4と当該基材層4に射出成形で溶融一体化させる樹脂成形体の2つの樹脂材料で構成することが、その課題解決のための前提構成であることが理解される。
よって、甲1に接した当業者にとって、甲3?6、8?10に「単一の樹脂材料」の成形体が示されていたとしても、甲1発明について、ハードコートフィルムに相当する基材層4と当該基材層4に射出成形で溶融一体化させる樹脂成形体の2つの樹脂材料で構成することを変更する動機は生じ得えないし、変更することには阻害要因があるといえる。
よって、上記相違点1は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3?6、8?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(1)のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲3?6、8?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2?4についても同様に、甲1発明及び 甲3?6、8?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-2 理由2-2について
(1) 甲5に記載された発明
甲5には、
「 ポリカーボネート成形品の表面に、少なくとも(A)(メタ)アクリル官能性ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン20?90重量部、(B)ポリアクリレートまたはポリメタクリレート80?10重量部及び(c)光重合開始剤からなる紫外線硬化性組成物を塗布し、紫外線を照射して硬化させて、厚さ0.5?20μmの硬化被膜を形成した、自動車用窓ガラス。」の発明(以下「甲5発明」という。)
が記載されている(特許請求の範囲、発明の詳細な説明中の[産業上の利用分野]の欄、[発明が解決しようとする課題]の欄、第3頁右上欄下から3行?左下欄6行、第7頁左下欄下から2行?左下欄下から5行の記載等参照)。

(2) 本件発明1?4と甲5発明の対比、判断
本件発明1?4と甲5発明とを対比し、本件発明1?4の「透明保護膜」が甲5発明の「硬化被膜」に相当し、甲5発明の「(メタ)アクリル官能性ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン」は、アクリロイル基を有するラダー型シルセスキオキサン樹脂といえることを踏まえると、両者は少なくとも以下の点において相違する。

(相違点3)
透明保護膜について、本件発明1?4は、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物を含むものであるのに対して、甲5発明は、アクリロイル基を有するラダー型シルセスキオキサン樹脂を含むものの、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下含まれるものではない点。

上記相違点3について検討すると、甲5発明は、「硬化の際の収縮が少なく、ポリカーボネート成形品の表面と硬化被膜との密着性に優れ、かつ硬化被膜の硬度、体表面損傷性、脆さ、耐熱性、耐水性及び耐候性等に優れた被覆ポリカーボネート成形品の製造方法を提供することを目的とする」([発明が解決しようとする課題]の欄)という課題解決のために、ポリカーボネート成形品の被覆に特定の「アクリロイル基を有するラダー型シルセスキオキサン樹脂」を含ませるようにし、少なくとも(A)(メタ)アクリル官能性ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン20?90重量部、(B)ポリアクリレートまたはポリメタクリレート80?10重量部及び(c)光重合開始剤という組成としたものである。
そうすると、甲5発明において上記特定の「アクリロイル基を有するラダー型シルセスキオキサン樹脂」を用いること及び上記(A)?(C)という組成とすることは、甲5における課題解決のために必要な成分の選択及び成分組成であるから、甲5に接した当業者にとって、当該必要な成分や成分組成を変更しようとする動機は生じ得ない。
そのため、甲1などにみられるような「アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂」が知られていたとしても、甲5発明について、上記相違点3に係る本件発明1?4の構成を得ることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
よって、本件発明1?4は、甲5発明及び甲1、3、4、6、8?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-3 まとめ
以上のとおり、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

3 理由3について
請求項1の「保護膜は、・・・シリコーン樹脂組成物を含み」という記載による特定は、最終的に保護膜となった際の硬化されたシリコーン樹脂組成物の構造を特定しようとするものではなく、本件特許明細書の「保護膜3は、シリコーン樹脂組成物を主成分とする」(【0036】)などの記載を参酌すれば、当該保護膜の形成材料として「シリコーン樹脂を含」むと表現したものであると、当業者であれば理解することができる。
そうすると、本件発明1?4の「保護膜は、・・・シリコーン樹脂組成物を含み」という構成は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないということはできないから、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
よって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車両用ウインド材
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明積層体に関する。具体的には、割れや剥離が生じにくく耐傷付性に優れた透明保護膜を備えた透明積層体、及びかかる透明積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費改善を目的として、車両の軽量化が求められている。そこで従来より、ガラスよりも比重の小さい樹脂を基材とする車両用ウインド材の開発が試みられてきた。しかし、かかる樹脂製ウインド材の場合、樹脂は耐傷付性が悪いため、ウインド材の透明性を充分確保できないという問題があった。
【0003】
かかる問題を解決するために、例えば特許文献1には、ガラスの表面に接着層を介してフィルム積層体が貼着された透明構造体が開示されている。該フィルム積層体は、光硬化性を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を含有した層と、該層上の透明プラスチックフィルム層とからなる。
【0004】
また、例えば特許文献2には、樹脂基材と、該樹脂基材上にかご型シルセスキオキサン樹脂を含む保護膜とを備えた透明有機ガラスが開示されている。
【0005】
これらの技術によれば、かご型シルセスキオキサンを、透明樹脂基材を保護する透明保護膜に適用することにより、樹脂製ウインド材の透明性の維持効果が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-125719
【特許文献2】特開2009-29881
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、基材と保護膜とを備えた車両用ウインド材には、実使用環境での使用中に想定される衝撃や荷重に対する耐荷重性が要求される。この要求を満たすためには、ウインド材の基材の厚さと弾性率を考慮する必要がある。また、保護膜の割れや剥離を防止しつつ耐傷付性を向上させるためには、保護膜自体の厚さを大きくし、さらに基材の耐熱性等も考慮する必要がある。ただし、保護膜の厚さが大きすぎると、ウインド材の製造時の体積収縮による保護膜の割れや剥離、傷付きにつながる。したがって、かご型シルセスキオキサンを保護膜に適用する場合、これらを考慮しながら、その含有割合や保護膜の厚さ等を設定する必要がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1,2では、車両用ウインド材の耐荷重性を考慮した基材の弾性率や厚さの検討が行われておらず、また、保護膜の割れや剥離、傷付き等を生じにくくするための基材の耐熱性や、保護膜の厚さ、組成等についての検討が充分になされていない。
【0009】
そこで、本発明は、車両用ウインド材として要求される耐荷重性が達成され、割れや剥離が生じにくく耐傷付性に優れた透明保護膜を備えた透明積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本願の請求項1に係る発明は、透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明保護膜とを備えた車両用ウインド材であって、前記透明樹脂基材は、単一の樹脂材料から成り、かつ、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し、前記透明保護膜は、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下、重合性不飽和化合物が50重量%以上75重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物を含み、前記透明保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記透明樹脂基材は、室温下で10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有し、かつ、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を主成分とすることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記透明保護膜は、前記シリコーン樹脂組成物が、かご型シルセスキオキサン樹脂以外の材料を含む場合に、はしご型シルセスキオキサン樹脂及びランダム型シルセスキオキサン樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に係る発明は、請求項1?3のいずれか1項に係る発明において、前記透明保護膜は、紫外線吸収剤を含むことを特徴とする。
【0014】(削除)
【0015】(削除)
【0016】(削除)
【0017】(削除)
【発明の効果】
【0018】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0019】
まず、本願の請求項1に係る発明によれば、透明樹脂基材の厚さ、弾性率を前記範囲とすることで、車両用ウインド材として要求される耐荷重性が達成される。また、透明樹脂基材の耐熱性、透明保護膜の厚さ及びシリコーン樹脂組成物中のかご型シルセスキオキサン樹脂の割合を前記範囲とすることで、割れや剥離が生じにくく耐傷付性に優れた透明保護膜を備えた透明積層体が実現される。
【0020】
ここで、透明樹脂基材の耐熱性が向上すると、該基材の変形等が抑制され、透明保護膜の指示面が安定することにより、該保護膜の割れや剥離、傷付きが抑制されることになる。
【0021】
また、請求項2に係る発明によれば、透明樹脂基材のビッカース硬度を前記範囲とすることで、該基材の耐熱性を前記範囲とすることとあいまって、透明保護膜の耐傷付性が向上し、さらに透明樹脂基材がポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を主成分として含むことにより、透明樹脂基材の耐荷重性、透明保護膜の耐傷付性についての効果が具体的に達成される。
【0022】
また、請求項3に係る発明によれば、シリコーン樹脂組成物に、かご型シルセスキオキサン樹脂に加えて、該かご型シルセスキオキサン樹脂以外の他の樹脂を含ませる場合に、これに似た性質を有するはしご型シルセスキオキサン樹脂やランダム型シルセスキオキサン樹脂を用いるので、透明保護膜中で光劣化する部分が減少し、透明保護膜自体の耐候性を向上させることができる。
【0023】
また、請求項4に係る発明によれば、紫外線吸収剤を含むことにより、透明保護膜の紫外線吸収力を向上させることができる。それゆえ、透明積層体の耐候性を向上させることができる。
【0024】(削除)
【0025】(削除)
【0026】(削除)
【0027】(削除)
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態による透明積層体の模式図である。
【図2】透明樹脂基材の耐熱性の範囲についての説明図である。
【図3】透明樹脂基材の弾性率の範囲についての説明図である。
【図4】耐傷付性試験の試験装置を示す。
【図5】表面光沢値の測定装置を示す。
【図6】耐候性試験の試験装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(透明積層体)
図1は、本発明の実施の形態による透明積層体の模式図である。透明積層体1は、透明樹脂基材2(以下、単に基材という)と、該基材2上に設けられた透明保護膜3(以下、単に保護膜という)とを備える。図1では、保護膜3は基材2の一方の面上に設けられているが、両面上に設けられてもよい。
【0030】
基材2は、主成分としてポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を含む。図2,3を用いて説明する実験では、基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)を用いた。
【0031】
図2は、基材の耐熱性についての説明図である。ブラックボックス内に配置した基材2に、実使用環境で想定される0?900W/m^(2)の照度の光を3時間程度照射した。図2中の実線は、実使用環境で想定される最も高い雰囲気温度40℃での実験結果を示している。また、比較のため、雰囲気温度20℃での実験結果を点線で示している。
【0032】
図2に示すように、雰囲気温度40℃での最大到達温度は70℃であった。それゆえ、基材2は、70℃以上の耐熱性を有することが好ましい。この70℃は、ガラス転移温度であって、これを超えると基材2に反りや変形が生じる温度である。
【0033】
図3は、基材の弾性率についての説明図である。一般に、樹脂はガラスの半分程度の比重を有する。また、従来の車両用のガラスウインドの厚さは3mm程度である。それゆえ、樹脂製ウインドの厚さが約6mm以下であれば、従来より軽量化することができるといえる。図3では、1mmの略均一な厚さを有する、一辺が150mmの正方形状の基材2の4辺を固定し、JISK7191B法に準拠して0.6Nの中心集中荷重を加えた場合の、室温での基材2の弾性率と最大たわみ量との関係を示している。
【0034】
車両用ウインドでは、前記条件での最大たわみ量が約0.4mm以下であることが要求される。図3に示すように、最大たわみ量が0.34mmのとき、弾性率は1GPaである。それゆえ、基材2は、室温下で弾性率が1GPa以上とされる。
【0035】
また、基材2の表面硬度が充分大きくなければ、保護膜3に荷重が加わった場合に変形が生じやすくなり、該基材2の変形に応じて保護膜3に生じる傷が大きくなる可能性がある。それゆえ、透明積層体1の車両のウインド材として必要な耐傷付性を確保するために、基材2は、室温下で10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有することが好ましい。
【0036】
保護膜3は、シリコーン樹脂組成物を主成分とする。該シリコーン樹脂組成物は、下記の一般式(1)で表されるかご型シルセスキオキサン樹脂でなり、又は、このかご型シルセスキオキサン樹脂と、はしご型シルセスキオキサン樹脂、ランダム型シルセスキオキサン樹脂、及びかごの一部が開いている不完全なかご型構造のシルセスキオキサン樹脂の少なくとも一つとを含む。
[RSiO_(3/2)]_(n) …(1)
(但し、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基若しくはビニル基、又は下記一般式(2)?(4)のいずれか一つを有する有機官能基であり、nは8、10、12又は14である。) ただし、かご型シルセスキオキサン樹脂としては、これらに限定されず、他の構造を持つものを用いることができ、それぞれ単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0037】
【化1】

【0038】
シリコーン樹脂組成物として、かご型シルセスキオキサン樹脂に加えて、これと似た性質を有するはしご型、ランダム型、及びかごの一部が開いている不完全なかご型構造のシロキサン樹脂を用いることで、保護膜3中で光劣化する部分が減少し、保護膜3自体の耐候性を向上させることができる。
【0039】
さらに、シリコーン樹脂組成物は、シルセスキオキサン樹脂の他に不飽和化合物を含んでもよい。
具体的に述べると、不飽和化合物として、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジアクリレート(又は、ジシクロペンタニルジアクリレート)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジアクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンアクリレートメタクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンアクリレートメタクリレート、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカンジアクリレート、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカンジアクリレート、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカンジメタクリレート、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカンジメタクリレート、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカンアクリレートメタクリレート、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカンアクリレートメタクリレート、エポキシアクリレート、エポキシ化油アクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ビニルアクリレート、ポリエン/チオール、シリコーンアクリレート、ポリブタジエン、ポリスチリルエチルメタクリレート、スチレン、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n-デシルアクリレート、イソボニルアクリレート、ジシクロペンテニロキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、又は、他の反応性オリゴマー、モノマーを用いることができる。また、これらの反応性オリゴマーやモノマーは、それぞれ単独で使用してもよく、或いは2種類以上を混合して使用してもよい。
【0040】
一般に、耐傷付性に優れた保護膜3を得るためには、保護膜3の厚さを大きくすることが好ましい。しかし、透明積層体1を製造するための光硬化工程又は熱硬化工程において分子間架橋(硬化)が保護膜3全体に均一に生じない場合には、分子間架橋による体積収縮が大きくなる位置が生じる。これにより、保護膜3に割れが生じやすいという問題がある。また、製造直後には割れが生じなくても、実使用環境下での使用により、体積収縮が大きく生じた位置で、保護膜3の割れや剥離、傷付きが生じやすくなる。この問題は、シリコーン樹脂組成物中に一定以上の割合でかご型シルセスキオキサン樹脂を含むことにより解消しうるが、それでも保護膜3の厚さが大きすぎると、割れや剥離、傷付きを抑制することが困難になる。
【0041】
耐傷付性の観点で、保護膜3の厚さは10μm以上であることが好ましく、このとき、シリコーン樹脂組成物がかご型シルセスキオキサン樹脂を15重量%以上含むことが好ましい。また、実使用環境下で割れや剥離が生じないようにするために、保護膜3の厚さは80μm以下であることが好ましい。
【0042】
また、保護膜3は、紫外線吸収剤や光安定剤、熱線吸収剤等を含んでもよい。紫外線吸収剤は、例えばヒドロキシフェニルトリアジン系の有機系紫外線吸収剤が可能である。また、光安定剤は、例えばヒンダートアミン系光安定剤が可能である。
【0043】
具体的に述べると、紫外線吸収剤としては、例えば2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4,4′-ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、又は、2-(5′-メチル-2′-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3′-t-ブチル-5′-メチル-2′-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3′,5′-ジ-t-ブチル-2′-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類、又は、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート類、又は、フェニルサリシレート、p-オクチルフェニルサリシレート等のサリシレート類、又は、ジエチル-p-メトキシベンジリデンマロネート、ビス(2-エチルヘキシル)ベンジリデンマロネート等のベンジリデンマロネート類、又は、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(メチル)オキシ]-フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(エチル)オキシ]-フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(プロピル)オキシ]-フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ブチル)オキシ]-フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール等のトリアジン類、又は、2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体、2-(2’-ヒドロキシ-5-アクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化タングステン、硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属酸化物微粒子類を用いることができる。これらの紫外線吸収剤は、それぞれ単独で使用してもよく、或いは2種類以上を混合して使用してもよい。
【0044】
また、光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)カーボネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-オクタノイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ジフェニルメタン-p,p′-ジカーバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ベンゼン-1,3-ジスルホネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)フェニルホスファイト等のヒンダードアミン類、又は、ニッケルビス(オクチルフェニルサルファイド、ニッケルコンプレクス-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体を用いることができる。これらの光安定剤は、それぞれ単独で使用してもよく、或いは2種類以上を混合して使用してもよい。
【0045】
以上で説明したように、基材2の厚さ、弾性率を所定の範囲とすることで、基材2の材料に樹脂を用いたことによる軽量化の利点を得つつ、車両用ウインド材として要求される耐荷重性が達成される。また、基材2の耐熱性、ビッカース硬度、保護膜3の厚さ及びシリコーン樹脂組成物中のかご型シルセスキオキサン樹脂の割合を所定の範囲とすることで、製造工程中の割れが防止されるとともに、実使用環境における割れや剥離が生じにくく耐傷付性に優れた保護膜3を備えた透明積層体1が実現される。
【0046】
(透明積層体の製造方法)
透明積層体1の製造方法は、前記の基材2を準備する基材準備工程と、保護膜3を構成する塗料組成物を基材2上に塗布する塗布工程と、基材2の耐熱温度(ガラス転移温度)未満の雰囲気温度で光を照射して塗料組成物を光硬化させ、基材2上に保護膜3を設ける光硬化工程等を含む。
【0047】
塗布工程では、シリコーン樹脂組成物、非極性溶媒、塩基性触媒及び光重合開始剤を含む塗料組成物を基材2上に流延する。該シリコーン樹脂組成物として、前記の一般式(1)で表されるかご型シルセスキオキサン樹脂、又は、このかご型シルセスキオキサン樹脂と、はしご型シルセスキオキサン樹脂、ランダム型シルセスキオキサン樹脂、及びかごの一部が開いている不完全なかご型構造のシルセスキオキサン樹脂の少なくとも一つとの混合物を用いる。非極性溶媒は、低沸点の難水溶性溶媒が好ましい。また、塩基性触媒は、アルカリ金属水酸化物、又はテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の水酸化アンモニウム塩等が可能であり、非極性溶媒に可溶性の触媒であることが好ましい。
【0048】
具体的に述べると、非極性溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸エトキシエチル等のエステル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール等のアルコール類、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類、アセトニトリル、ニトロメタン、水等が可能である。これらの非極性溶媒は、それぞれ単独で使用してもよく、或いは2種類以上を混合して使用してもよい。
【0049】
ここで、塗布工程において、紫外線吸収剤や光安定剤を含む塗料組成物を用いることにより、保護膜3が紫外線吸収剤や光安定剤を含有する透明積層体1を作成できる。
【0050】
また、塗布工程において、有機/無機フィラー、可塑剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、核剤、着色剤、架橋剤、分散助剤、樹脂成分等のうち少なくとも1つを添加剤として含む塗料組成物を用いることも可能である。
【0051】
また、塗布工程の前に、保護膜3が所定の厚みになるように、基材2上にスペーサを接着する工程を含んでもよい。さらに、塗布工程の後に、基材2の耐熱温度より充分低い温度(例えば基材2が、耐熱温度が140℃のポリカーボネートや100℃のポリメチルメタクリレートである場合は約80℃)で加熱し、上からフィルム等で余分な塗料組成物を除去する工程を含んでもよい。
【0052】
光硬化工程では、例えば水銀ランプを用いて、200nm以上400nm以下の波長域の光を、照度が1×10^(-2)mW/cm^(2)以上1×10^(4)mW/cm^(2)以下、該波長域での積算光量が5×10^(2)mJ/cm^(2)以上3×10^(4)mJ/cm^(2)以下、の条件で照射する。
【0053】
かかる光硬化工程は、大気開放化で実施してもよく、好ましくは、窒素パージして酸素分圧を小さくした雰囲気下で実施する。さらに、上部に透明部材、例えば透明フィルム、ラミネート又はガラス等を配置して光硬化工程を実施してもよい。
【0054】
以上で説明した方法により、車両用ウインド材として要求される耐荷重性が達成され、割れや剥離が生じにくく耐傷付性に優れた保護膜3を備えた透明積層体1を製造可能である。また、光硬化工程により迅速に保護膜3を設けることができるので、焼成工程による方法よりも歩留まりを向上させることができる。
【0055】
また、光硬化反応はラジカル反応であり、酸素阻害を受ける。前記のように、酸素分圧を小さくした雰囲気下で光硬化工程を実施した場合、かかる酸素阻害を抑制することが可能である。また、上部に透明部材を配置して光硬化工程を実施することにより、透明積層体1の表面の平滑性を向上させることができる。
【0056】
なお、光硬化工程の代わりに熱硬化工程を実施した場合でも、同様に透明積層体1を製造可能である。その場合、塗布工程では、フタルイミドDBU等の硬化触媒を含む塗料組成物を用いる。熱硬化工程では、基材2の耐熱温度より充分低い温度(例えば基材2がポリカーボネートの場合は約120℃)で加熱を行う。熱硬化工程によれば、光硬化工程よりも物理的な障害や熱源からの距離の影響を受けにくいため、製造される透明積層体1の形状自由度を高くすることができるという利点も想定される。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0058】
以下、透明積層体1の実施例を比較例とともに説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。尚、実施例において、部及び%は、重量部及び重量%を意味する。
【0059】
(シリコーン樹脂の合成)
本実施例では、以下の合成例1?3により合成されたシリコーン樹脂を使用した。
[合成例1]
撹拌機、滴下ロート及び温度計を備えた反応容器に、溶媒として2-プロパノール(IPA)40ml、及び塩基性触媒として5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)を加えた。滴下ロートに、IPA15mlと3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製SZ-6030)12.69gを加えた。続いて反応容器を撹拌しながら、室温で3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのIPA溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、非加熱環境で2時間撹拌した。続いて減圧下で溶媒を除去し、トルエン50mlで溶解させた。反応溶液を飽和食塩水で中性になるまで水洗し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。続いて無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮させた。これにより、8.6gの加水分解生成物(シルセスキオキサン)が得られた。かかるシルセスキオキサンは、種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。次に、撹拌機、ディンスターク及び冷却管を備えた反応容器に、得られたシルセスキオキサン20.65g、トルエン82ml及び10%TMAH水溶液3.0gを入れ、徐々に加熱し水を留去した。続いてこれを130℃まで加熱し、トルエンを還流温度で再縮合反応を行った。このときの反応溶液の温度は108℃であった。トルエン還流後2時間撹拌し、反応を終了させた。反応溶液を飽和食塩水で中性になるまで水洗し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。続いて無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮させた。これにより、目的物であるかご型シルセスキオキサン(混合物)が18.77g得られた。得られたかご型シルセスキオキサンは、種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。再縮合反応後の反応物の液体クロマトグラフィー分離後の重量分析を行い、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサンを60%以上含むシリコーン樹脂であることを確認した。
【0060】
[合成例2]
撹拌機、滴下ロート及び温度計を備えた反応容器に、溶媒としてIPA120mlと塩基性触媒として5%TMAH水溶液4.0gを加えた。滴下ロートにIPA30mlとビニルトリメトキシシラン10.2gを加えた。続いて反応容器を撹拌しながら、0℃でビニルトリメトキシシランのIPA溶液を60分かけて滴下した。滴下終了後、徐々に室温に戻し、非加熱状態で6時間撹拌した。撹拌後、溶媒から減圧下でIPAを除去し、トルエン200mlで溶解させた。次に、撹拌機、ディンスターク及び冷却管を備えた反応容器に前記で得られたシルセスキオキサン20.65g、トルエン82ml及び10%TMA H水溶液3.0gを入れ、徐々に加熱し水を留去した。続いて、これを130℃まで加熱し、トルエンを還流温度で再縮合反応を行った。このときの反応溶液の温度は108℃であった。トルエン還流後2時間撹拌し、反応を終了させた。続いて反応溶液を飽和食塩水で中性になるまで水洗し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別して濃縮させた。これにより、目的物であるかご型シルセスキオキサン(混合物)が18.77g得られた。得られたかご型シルセスキオキサンは、種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。再縮合反応後の反応物の液体クロマトグラフィー分離後の重量分析を行い、ビニル基を有するかご型シルセスキオキサンを60%以上含むシリコーン樹脂であることを確認した。
【0061】
[合成例3]
水分散型コロイダルシリカ分散液(触媒化成工業(株)製カタロイドSN-35、固形分濃度30%)133部に1Mの塩酸1.3部を加え、よく攪拌した。この分散液を10℃まで冷却し、氷水浴で冷却下メチルトリメトキシシラン162部を滴下して加えた。メチルトリメトキシシランの滴下直後から、反応熱で混合液の温度は上昇を開始し、滴下開始から5分後に60℃まで温度上昇した。続いて冷却の効果で徐々に混合液温度が低下した。混合液の温度が30℃になった段階で、この温度を維持した状態で10時間攪拌し、硬化触媒としてコリン濃度45%のメタノール溶液0.8部、pH調整剤として酢酸5部、希釈溶剤としてイソプロピルアルコール200部を混合した。これにより、オルガノシロキサン樹脂組成物が得られた。
【0062】
(光硬化により製造した透明積層体)
[実施例1?15、比較例1?4]
基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)又はポリメチルメタクリレート((株)カネカ製)を用いた。まず、厚さ3mmの基材2上に、保護膜3が所定の厚みになるようスペーサを接着した。続いて、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した、保護膜3を構成する塗料組成物を流延し、80℃で3分間加熱を行った。続いてPETフィルムで押さえつけ余分な塗料組成物を除去した。その後、PETフィルムでカバーした状態で、200nm以上400nm以下の波長域の光を、照度が505mW/cm^(2)の条件で、水銀ランプを用いて照射し、8400mJ/cm^(2)の積算露光量で塗料組成物を硬化させた。これにより、透明積層体1を得た。
【0063】
(熱硬化により製造した透明積層体)
[実施例16,17]
基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)を用いた。まず、厚さ3mmの基材2上に、保護膜3が所定の厚みになるようスペーサを接着した。続いて、硬化触媒としてフタルイミドDBU2.5部を混合した、保護膜3を構成する塗料組成物を流延し、80℃で3分間加熱を行った。続いてコーターブレードで余分な塗料組成物を除去した。その後、120℃で11時間加熱を行い、塗料組成物を硬化させた。これにより、透明積層体1を得た。
【0064】
[比較例5]
基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)を用いた。まず、厚さ3mmの基材2上に、保護膜3が所定の厚みになるようスペーサを接着した。続いて、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した、保護膜3を構成する塗料組成物を流延し、ブレードで余分な塗料組成物を除去した。続いて標準環境で1時間放置し、120℃で1時間焼成し塗料組成物を硬化させた。これにより、透明積層体1を得た。
【0065】
下記の表1は、各実施例1?17、比較例1?5において使用した基材2の材料、保護膜3の組成及び膜厚を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1において、各記号は以下のものを示す。
基材樹脂
S1:ポリカーボネート(PC)(帝人化成(株)製:L-1250)
S2:ポリメチルメタクリレート(PMMA)((株)カネカ製)
シリコーン樹脂組成物
A:合成例1で得られた化合物(アクリロイル基)
B:合成例2で得られた化合物(ビニル基)
C:合成例3で得られた化合物(オルガノシロキサン樹脂組成物)
D:トリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学(株)製:ライトアクリレートTMP-A)
E:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学(株)製:ライトアクリレートDPE-6A)
F:ジシクロペンタニルジアクリレート(共栄社化学(株)製:ライトアクリレートDCP-A)
G:オクタキス[[3-(2,3-エポキシプロポキシ)プロピル]ジメチルシロキシ]オクタシルセスキオキサン(Mayaterials社製:Q-4)
H:1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(新日本理化社製:リカレジンDME-100)
I:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業社製)
紫外線吸収剤
U1?U3:ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン(株)製:TINUVIN400,TINUVIN477,TINUVIN479)
光安定剤
H1,H2:ヒンダートアミン系光安定剤(BASFジャパン(株)製:TINUVIN123,TINUVIN5100)
【0068】
前記基材S1は、約140℃の耐熱性(JISK7191B法)、並びに室温下で約2.2GPaの弾性率及び約13kgf/mm^(2)のビッカース硬度を有する。同様に、基材S2は、約100℃の耐熱性(JISK7191B法)、並びに室温下で約3.1GPaの弾性率及び約20kgf/mm^(2)のビッカース硬度を有する。
【0069】
また、表1中のシリコーン樹脂組成物に含まれるA?Fのうち、合成例1,2で得られた化合物A,Bが、かご型シルセスキオキサン樹脂を含む。上述のように、合成例1,2で得られた化合物A,Bは、かご型シルセスキオキサン樹脂を60%以上含む。表1中の「かご型の割合(重量%)」では、これを考慮して、シリコーン樹脂組成物に占めるかご型シルセスキオキサン樹脂の割合の範囲を示している。尚、実施例15,16における、シリコーン樹脂組成物に占めるかご型シルセスキオキサン樹脂の割合の範囲は、表1の通りである。また、前記化合物E,Fは、不飽和化合物としてシリコーン樹脂組成物に加えている。
【0070】
また、表1には、実施例及び比較例によって得られた透明積層体1に対して行った試験の評価結果を示している。
各試験は、下記の方法により行った。
初期外観:各試験を行う前の透明積層体1の外観を目視にて観察した。保護膜3に割れや剥離が生じていない場合は○とした。
耐傷付性試験:図4に示す耐傷付性の試験装置を用いて試験を行った。綿で覆われ、加重腕11に取り付けられた傷付子12を、試験片Gとの間にダストDが存在する状態で、矢印(ア)で示す方向に前後移動させた。加重腕11が印加する加重は2N、傷付子12の移動距離は120mm、往復速度は0.5回/sとし、雰囲気温度20℃で試験を行った。ダストDは、平均粒径300μm以下のシリカ粒子及びアルミナ粒子を含む粒子群とした。表1に示す耐傷付性の数値は、試験開始前の表面光沢値を100とした場合に、所定の回数往復させた後の表面光沢値を示す。表面光沢値は、図5に示す測定装置によって、光源21から試験片Gに光を照射して、受光器22によって受光した反射光の強度に基づいて算出した。光沢保持率(=試験後の表面光沢値/試験前の表面光沢値)が70%未満の場合、実使用環境において充分な耐傷付性が確保できないと判断した。
耐熱密着性試験:長さ50mmのスクラッチを十字に入れ、70℃の環境下に168時間放置した後の透明積層体1の外観を目視にて観察した。保護膜3に剥離が生じていない場合は○とした。
耐候性試験:図6に示すように、キセノン光源31及び散水器32を備えた耐候性試験装置を使用して、1)ブラックパネル温度73℃、湿度35%の条件で、照度180W/m^(2)の光を60minの間照射した。続いて、2)ブラックパネル温度50℃、湿度95%の条件で、照度180W/m^(2)の光を80minの間照射した。1),2)を1サイクルとして、このサイクルを繰り返した。積算照射光量は、200MJ/m^(2)とした。透明積層体1の外観変化を目視にて観察した。保護膜3に割れや色変化が生じていなければ○とした。
【0071】
実施例1?4、比較例1?3では、シリコーン樹脂組成物中のかご型シルセスキオキサン樹脂の割合を15%?25%として、保護膜3の膜厚を変えた。また、実施例5?9では、かご型シルセスキオキサン樹脂の割合を変え、保護膜3の膜厚を30μmとした。また、比較例4,5では、かご型シルセスキオキサン樹脂の割合を0%とした。
【0072】
まず、実施例1と比較例1とを比較すると、膜厚が5μm(比較例1)では光沢保持率が23%と低く、一方、膜厚が10μm(実施例1)では80%と大きく上昇する。それゆえ、耐傷付性の観点で、保護膜3の膜厚は10μm以上が好ましいと判る。
また、実施例2、5?9と比較例4とを比較すると、シリコーン樹脂組成物中のかご型シルセスキオキサン樹脂の割合が0%(比較例4)では光沢保持率が23%と低く、該割合が15%?100%(実施例2、5?9)ではいずれも80%以上と大きく上昇する。それゆえ、耐傷付性の観点で、シリコーン樹脂組成物中のかご型シルセスキオキサン樹脂の割合は15%以上が好ましいと判る。
また、実施例1?4と比較例2,3とを比較すると、保護膜3の膜厚が100μm以上(比較例2,3)では、耐熱密着性試験において保護膜3に剥離が生じ、耐候性試験において保護膜3に割れが生じたが、保護膜3の膜厚が80μm以下(実施例1?4)では生じなかった。また、光沢保持率についても、保護膜3の膜厚が100μm以上(比較例2,3)では70%を下回った。それゆえ、保護膜3の割れや剥離の防止、耐傷付性の観点から、保護膜3の膜厚は80μm以下が好ましいと判る。
【0073】
実施例10?14では、シリコーン樹脂組成物中のかご型シルセスキオキサン樹脂の割合を15%?25%とし、保護膜3の膜厚を30μmとして、保護膜3に紫外線吸収剤や光安定剤を加えた。
【0074】
実施例2と実施例10?14とを比較すると、試験結果に大きな差は認められないが、耐候性試験をより厳しい条件で実施した場合には、保護膜3に紫外線吸収剤や光安定剤を加えることにより黄変や割れ等が抑制される効果が現れると考えられる。
【0075】
実施例15では、他の実施例、比較例と基材樹脂を変更した。各試験結果について、他と大きな変化は認められなかった。
【0076】
実施例16,17では、シリコーン樹脂組成物中のかご型シルセスキオキサン樹脂の割合を15%?30%として、保護膜3の膜厚を変えた。実施例16,17では他の実施例と異なり熱硬化により保護膜3を設けたが、光硬化と同様の結果を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、車両用ウインド材等、移動体のウインド材として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 透明積層体、 2 透明樹脂基材、 3 透明保護膜、 11 加重腕、 12 傷付子、 21 光源、 22 受光器、 31 キセノン光源、 32 散水器、 D ダスト、 G 試験片
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明保護膜とを備えた車両用ウインド材であって、
前記透明樹脂基材は、単一の樹脂材料から成り、かつ、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し、
前記透明保護膜は、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下、重合性不飽和化合物が50重量%以上75重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物を含み、
前記透明保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有することを特徴とする車両用ウインド材。
【請求項2】
前記透明樹脂基材は、室温下で10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有し、かつ、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を主成分とすることを特徴とする、請求項1記載の車両用ウインド材。
【請求項3】
前記透明保護膜は、前記シリコーン樹脂組成物が、かご型シルセスキオキサン樹脂以外の材料を含む場合に、はしご型シルセスキオキサン樹脂及びランダム型シルセスキオキサン樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両用ウインド材。
【請求項4】
前記透明保護膜は、紫外線吸収剤を含むことを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の車両用ウインド材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-17 
出願番号 特願2013-109133(P2013-109133)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 千壽 哲郎
井上 茂夫
登録日 2016-06-24 
登録番号 特許第5954257号(P5954257)
権利者 マツダ株式会社
発明の名称 車両用ウインド材  
代理人 岸本 雅之  
代理人 岸本 雅之  
代理人 福岡 正明  
代理人 山田 卓二  
代理人 江間 晴彦  
代理人 福岡 正明  
代理人 田中 三喜男  
代理人 田中 三喜男  
代理人 江間 晴彦  
代理人 田中 光雄  
代理人 田中 光雄  
代理人 山田 卓二  

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