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審決分類 審判 一部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  H01M
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01M
審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  H01M
審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01M
審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01M
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  H01M
管理番号 1341960
異議申立番号 異議2017-700942  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-03 
確定日 2018-05-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6107946号発明「非水電解質二次電池用負極材及び二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6107946号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕,11について訂正することを認める。 特許第6107946号の請求項1?8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6107946号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)4月28日(優先権主張 平成25年5月23日)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月17日に特許権の設定登録がされ、同年4月5日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月3日付けで請求項1?8に対し、特許異議申立人である河村真人(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年11月28日付けで当審から申立人に対して審尋がされ、同年12月27日付けで申立人から回答書が提出され、平成30年1月11日に当審から申立人に対して手続補正指令書(方式)が発送され、同年1月23日付けで申立人から手続補正書(方式)が提出され、同年2月20日付けで当審から特許権者に対して取消理由が通知され、同年4月18日付けで特許権者から意見書の提出とともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたものである。
なお、以下の第2,第3のとおり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)により特許異議の申立てがされた請求項1?8は全て削除されたため、特許法第120条の5第5項ただし書の規定に基づき、当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知をするとともに相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることはしなかった。

第2 本件訂正の適否について

1 本件訂正請求の趣旨

本件訂正請求の趣旨は「特許第6107946号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり、訂正後の請求項1?11について訂正することを認める。」というものである。

2 訂正事項

本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?24のとおりである。なお、下線は特許権者が訂正箇所を示すために付したものである。

(1)訂正事項1

請求項1を削除する。

(2)訂正事項2

請求項2を削除する。

(3)訂正事項3

請求項3を削除する。

(4)訂正事項4

請求項4を削除する。

(5)訂正事項5

請求項5を削除する。

(6)訂正事項6

請求項6を削除する。

(7)訂正事項7

請求項7を削除する。

(8)訂正事項8

請求項8を削除する。

(9)訂正事項9

請求項1を引用する請求項7を引用する請求項9を独立形式に改める。

(10)訂正事項10

請求項1を引用する請求項5を引用する請求項8を引用する請求項9を独立形式に改める。

(11)訂正事項11

請求項9の「リチウムをドープする工程」について、「(I)又は(II)」のうち、「(I)」を削除して「(II)」のみに限定する。

(12)訂正事項12

請求項9の「(II)」の「珪素複合粉末」を「珪素複合体粉末」に訂正する。

(13)訂正事項13

請求項10を削除する。

(14)訂正事項14

請求項11を削除する。

(15)訂正事項15

明細書の段落【0007】において、[1]?[8]、[10]及び[11]を削除し、[9]を、「[9].珪素の微結晶又は微粒子が、二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体に対して、リチウム2質量%以上10質量%未満を含有するリチウム含有珪素複合体であって、X線回折においてSi(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた上記微結晶又は微粒子の結晶子の大きさが8.0nm以下であるリチウム含有珪素複合体からなる非水電解質二次電池用負極材、又は
上記リチウム含有珪素複合体の表面に導電性物質の被膜を有する非水電解質二次電池用負極材を製造する方法であって、
珪素の微結晶又は微粒子が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体粉末、又は
珪素の微結晶又は微粒子が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体粉末の表面に、導電性物質の被膜を有する導電性珪素複合体粉末に対して、
リチウムをドープする工程を含み、
この工程が、上記珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末を、リチウム金属と溶剤の存在下で混練混合し、混練混合後に熱処理を施して珪酸リチウムを形成する工程
である非水電解質二次電池用負極材を製造する方法。」に訂正する。

(16)訂正事項16

明細書の段落【0043】の「珪素複合体は、さらにリチウムを含有することが好ましい。例えば、得られた珪素複合粉末又は導電性珪素複合体粉末に対してリチウムをドープすることにより初期容量効率や初期の充放電サイクル時の容量劣化(初期容量低下率)を抑えた負極活物質を作製することが可能である。」を「珪素複合体は、さらにリチウムを含有することが好ましい。例えば、得られた珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末に対してリチウムをドープすることにより初期容量効率や初期の充放電サイクル時の容量劣化(初期容量低下率)を抑えた負極活物質を作製することが可能である。」に訂正する。

(17)訂正事項17

明細書の段落【0044】の「例えば、珪素複合粉末又は導電性珪素複合体粉末に水素化リチウムや水素化リチウムアルミニウム、リチウム合金等を混合した後、加熱処理する方法や、珪素複合粉末又は導電性珪素複合体粉末をリチウム金属と溶剤の存在下で混練混合し、該混練混合後に熱処理を施して珪酸リチウムを形成して、リチウムをプリドープする方法が挙げられる。」を「例えば、珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末に水素化リチウムや水素化リチウムアルミニウム、リチウム合金等を混合した後、加熱処理する方法や、珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末をリチウム金属と溶剤の存在下で混練混合し、該混練混合後に熱処理を施して珪酸リチウムを形成して、リチウムをプリドープする方法が挙げられる。」に訂正する。

(18)訂正事項18

明細書の段落【0065】の
「[実施例1:サンプルNo.10?13、リチウムドープ]
参考例1及び参考例2の珪素複合粉末及び導電性珪素複合粉末は、酸化珪素粉末を原料として、熱処理及び炭素コートをしたものであるが、他の元素を導入した場合であっても珪素の半値幅とクーロン効率の関係が成立するかどうかを確認した。実際に電池を構成するにあたって、初回効率の改善に適用されることがあるリチウムを事前ドープした導電性珪素複合粉末を作成した。具体的には、参考例2で得られた珪素の結晶子の大きさが3.5nmの導電性珪素複合体粉末に対して5%の金属リチウムを、ジメチルカーボネート(DMC)存在下で混練混合した後、乾燥して得られたリチウムドープ導電性珪素複合体粉末をアルゴンガス雰囲気下で300℃/hrの昇温速度で昇温し、500?800℃の温度で、3?8時間保持した。
得られた導電性珪素複合体粉末のリチウムドープ品は、Cu-Kα線によるX線回折パターンより、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折ピーク回折線の半価幅よりシェラー法により求めた珪素の結晶子の大きさは、4.4?8.0nmであった。」を
「[実施例1:サンプルNo.10?13、リチウムドープ]
参考例1及び参考例2の珪素複合体粉末及び導電性珪素複合体粉末は、酸化珪素粉末を原料として、熱処理及び炭素コートをしたものであるが、他の元素を導入した場合であっても珪素の半値幅とクーロン効率の関係が成立するかどうかを確認した。実際に電池を構成するにあたって、初回効率の改善に適用されることがあるリチウムを事前ドープした導電性珪素複合体粉末を作成した。具体的には、参考例2で得られた珪素の結晶子の大きさが3.5nmの導電性珪素複合体粉末に対して5%の金属リチウムを、ジメチルカーボネート(DMC)存在下で混練混合した後、乾燥して得られたリチウムドープ導電性珪素複合体粉末をアルゴンガス雰囲気下で300℃/hrの昇温速度で昇温し、500?800℃の温度で、3?8時間保持した。
得られた導電性珪素複合体粉末のリチウムドープ品は、Cu-Kα線によるX線回折パターンより、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折ピーク回折線の半価幅よりシェラー法により求めた珪素の結晶子の大きさは、4.4?8.0nmであった。」に訂正する。

(19)訂正事項19

図面の図3の「実施例1」を「参考例1」に訂正する

(20)訂正事項20

図面の図3の「実施例2」を「参考例2」に訂正する

(21)訂正事項21

図面の図3の「実施例3」を「実施例1」に訂正する

(22)訂正事項22

図面の図4の「実施例1」を「参考例1」に訂正する

(23)訂正事項23

図面の図4の「実施例2」を「参考例2」に訂正する

(24)訂正事項24

図面の図4の「実施例3」を「参考例1」に訂正する

3 一群の請求項について

本件訂正前の請求項1?10は、請求項2?10が、訂正請求の対象である請求項1を引用する関係にあるから、本件訂正前において一群の請求項に該当する。
したがって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

4 明細書の訂正と関係する請求項について

訂正事項15?24に係る本件訂正は、関係する一群の請求項の全てについて行われるものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第4項の規定に適合する。

5 訂正要件の検討

(1)訂正事項1?8,13,14について

ア 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1?8,13,14に係る本件訂正は、本件訂正前の請求項1?8,10,11のそれぞれを削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ 独立特許要件

訂正事項1?8,13,14に係る本件訂正によって、本件訂正前の請求項1?8,10,11は削除されるため、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(2)訂正事項9?12について

ア 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(ア)訂正事項9に係る本件訂正は、本件訂正前の請求項9が請求項1を引用する請求項7を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消するために、その内容を変更することなく請求項1,7の記載を引用しない形に書き替えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(イ)訂正事項10に係る本件訂正は、本件訂正前の請求項9が請求項1を引用する請求項5を引用する請求項8を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消するために、その内容を変更することなく請求項1,5,8の記載を引用しない形に書き替えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項11に係る本件訂正は、本件訂正前の請求項9の「リチウムをドープする工程」について、「下記(I)又は(II)」のうち、「(I)」を削除して「(II)」のみに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(エ)訂正事項12に係る本件訂正は、本件訂正前の請求項9における「珪素複合粉末」という記載を引用先の請求項7,8の「珪素複合体粉末」と訂正して整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ 独立特許要件

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項9に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである理由は見いだせないから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)訂正事項15について

訂正事項15に係る本件訂正は、本件訂正前の明細書の段落【0007】の記載を、本件訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項16?18について

訂正事項16?18に係る本件訂正は、いずれも、本件訂正前の明細書の段落【0043】,【0044】及び【0065】における「珪素複合粉末」及び「導電性珪素複合粉末」という記載を、それぞれ、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7,8や明細書中にある「珪素複合体粉末」及び「導電性珪素複合体粉末」という記載に整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項19?24について

訂正事項19?24に係る本件訂正は、いずれも、本件訂正前の図面の段落【図3】及び【図4】における「実施例1」,「実施例2」及び「実施例3」という記載を、それぞれ、本件訂正前の明細書中にある「参考例1」,「参考例2」及び「実施例1」という記載に整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

6 小括

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号,第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法126条第4項?第7項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1?10〕,11について訂正を認める。

第3 本件発明

前記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1?11に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
珪素の微結晶又は微粒子が、二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体に対して、リチウム2質量%以上10質量%未満を含有するリチウム含有珪素複合体であって、X線回折においてSi(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた上記微結晶又は微粒子の結晶子の大きさが8.0nm以下であるリチウム含有珪素複合体からなる非水電解質二次電池用負極材、又は
上記リチウム含有珪素複合体の表面に導電性物質の被膜を有する非水電解質二次電池用負極材を製造する方法であって、
珪素の微結晶又は微粒子が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体粉末、又は
珪素の微結晶又は微粒子が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体粉末の表面に、導電性物質の被膜を有する導電性珪素複合体粉末に対して、
リチウムをドープする工程を含み、
この工程が、上記珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末を、リチウム金属と溶剤の存在下で混練混合し、混練混合後に熱処理を施して珪酸リチウムを形成する工程
である非水電解質二次電池用負極材を製造する方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)」

第4 むすび

以上のとおり、本件訂正により特許異議の申立てがされた請求項1?8は全て削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項は存在しなくなったから、請求項1?8に係る本件特許についての特許異議の申立ては却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非水電解質二次電池用負極材及び二次電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として有用な珪素複合体からなる非水電解質二次電池用負極材、及び非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV、Si、B、Zr、Sn等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(例えば、特許文献1:特開平5-174818号公報、特許文献2:特開平6-60867号公報参照)、溶融急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(例えば、特許文献3:特開平10-294112号公報参照)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(例えば、特許文献4:特許第2997741号公報)、負極材料にSi_(2)N_(2)O及びGe_(2)N_(2)Oを用いる方法(例えば、特許文献5:特開平11-102705号公報参照)等が知られている。
【0003】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなく、更なるエネルギー密度の向上が望まれていた。
特に、特許第2997741号公報(特許文献4)では、酸化珪素をリチウムイオン二次電池負極材として用い、高容量の電極を得ているが、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったりし、改良する余地があった。そこで、特許第3952180号公報(特許文献6)及び特許第4081676号公報(特許文献7)において初回効率及びサイクル性の改善がなされてきた。一方、二次電池を電気自動車に使用する場合、エネルギー効率が良いことが重要な要件となる。具体的には、充電時に必要な電気量(充電電気量)に対する放電時に取り出すことができる電気量(放電電気量)の割合であるクーロン効率(放電電気量/充電電気量)の改善が重要な課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-174818号公報
【特許文献2】特開平6-60867号公報
【特許文献3】特開平10-294112号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特開平11-102705号公報
【特許文献6】特許第3952180号公報
【特許文献7】特許第4081676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、充放電容量の大きな電極材料の開発は極めて重要である。このような中で、リチウムイオン二次電池用負極活物質として珪素及び酸化珪素(SiO_(x))は、その容量が大きいということで大きな関心を持たれており、特に、酸化珪素(SiO_(x))は、金属珪素粉末よりも微細な珪素粒子を二酸化珪素中に形成し易いため、珪素の微粒子化によるサイクル特性等の諸特性改善が容易であることから注目されている。しかしながら、珪素粒子のサイズとクーロン効率の関係は、明確になっておらず、クーロン効率の優れた負極材及び二次電池を得る手法については、十分な知見が得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したように、リチウムイオン二次電池用負極材(活物質)として使用した場合、珪素及び酸化珪素(SiO_(x))等の珪素系は、充放電容量が現在主流であるグラファイト系のものと比較してその数倍の容量であることから期待されている反面、繰り返しの充放電によるクーロン効率低下が大きなネックとなっている。本発明者らは、繰り返しの充放電によるクーロン効率低下の原因について、構造そのものからの検討を行い解析した結果、珪素微結晶又は微粒子が、この珪素微結晶又は微粒子とは異なる組成の物質、例えば二酸化珪素に分散させた構造で、さらに、珪素微結晶又は微粒子の結晶子の大きさを8.0nm以下とすることでクーロン効率を向上させることができることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は下記を提供する。
[9].珪素の微結晶又は微粒子が、二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体に対して、リチウム2質量%以上10質量%未満を含有するリチウム含有珪素複合体であって、X線回折においてSi(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた上記微結晶又は微粒子の結晶子の大きさが8.0nm以下であるリチウム含有珪素複合体からなる非水電解質二次電池用負極材、又は
上記リチウム含有珪素複合体の表面に導雷性物質の被膜を有する非水電解質二次電池用負極材を製造する方法であって、
珪素の微結晶又は微粒子が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体粉末、又は
珪素の微結晶又は微粒子が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体粉末の表面に、導電性物質の被膜を有する導電性珪素複合体粉末に対して、
リチウムをドープする工程を含み、
この工程が、上記珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末を、リチウム金属と溶剤の存在下で混練混合し、混練混合後に熱処理を施して珪酸リチウムを形成する工程
である非水電解質二次電池用負極材を製造する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れたクーロン効率を有する非水電解質二次電池用負極材及び非水電解質二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】サンプル1のCu-Kα線によるX線回折のチャートである。
【図2】充放電サイクル数とクーロン効率の関係を示すグラフである。
【図3】Si結晶子サイズとクーロン効率(20サイクル目)の関係を示すグラフである。
【図4】Si結晶子サイズと初期容量低下率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[珪素複合体]
本発明の珪素複合体は、珪素の微結晶又は微粒子(以下、珪素と略す場合がある)が、この微結晶又は微粒子と組成の異なる物質に分散した構造を有する珪素複合体であって、X線回折においてSi(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた上記微結晶又は微粒子の結晶子の大きさが8.0nm以下のものである。また、珪素複合体は、全体として一般式SiO_(x)(0.9≦x<1.6)で表される酸化珪素であることが好ましい。
【0011】
銅を対陰極としたX線回折(Cu-Kα)において、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた上記微結晶又は微粒子の結晶子の大きさが8.0nm以下のものであり、好ましくは1?8.0nm、より好ましくは1.0nm以上8.0nm未満であり、さらに好ましくは1.0?7.5nmである。珪素が完全なアモルファスで渾然一体とした状態であると反応性が高くなるため、保管中に特性変化が生じたり、電極作製時にスラリー調製が困難となる場合がある。一方、結晶子の大きさが8.0nmより大きいと珪素粒子の一部に充放電に寄与しない領域が生じ、クーロン効率が低下する。
【0012】
本発明の銅を対陰極としたX線回折(Cu-Kα)装置としては、例えば、Bruker AXS製 New D8 ADVANCE等が挙げられる。なお、半値幅(full width at half maximum,FWHM)に基づき、下記シェラーの式から求めることができる。なお、DIFFAC.EVA(Bruker AXS社製)のXRD解析ソフトと同等もしくはそれ以上の機能を有する解析ソフトを使用して、適切なバックグラウンド処理を行い、半値幅を求める。
L=Kλ/(βcosθ)
L:結晶子径
β:半値幅:ピーク値から、おおよそ±5°(/2θ)の範囲を用いて求めた。
ピーク値:2θ(47.5°)
ピークの広がり2θ(測定半値幅-金属Si半値幅0.089°※)
※金属Si半値幅0.089°は、XRD装置により異なる。
※金属Si半値幅の測定には、結晶歪の無い結晶性Siを使用する。
これによりXRD装置固有の半値幅を見積もる。
測定半値幅から上記Si半値幅を差し引くことで
結晶子サイズに起因する半値幅を求めることができる。
λ:使用X線波長(0.154A)
K:シェラー係数:0.9
θ:回折角
【0013】
珪素の微結晶又は微粒子と組成の異なる物質は、珪素系化合物が好ましく、二酸化珪素がより好ましい。
【0014】
珪素複合体の原料として主に酸化珪素を使用する場合、珪素/二酸化珪素分散中における微結晶又は微粒子の分散量は、2?36質量%、特に10?30質量%程度であることが好ましい。この分散珪素量が2質量%未満では、充放電容量が小さくなる場合があり、逆に36質量%を超えるとサイクル性が劣る場合がある。
【0015】
また、珪素複合体の原料として金属珪素を使用する場合、複合体中の微結晶又は微粒子の分散量は、10?95質量%、特に20?90質量%であることが好ましい。この分散量が10質量%未満では、原料を金属珪素としたメリットが生かせず、逆に、95質量%を超えると珪素粒子の分散状態を維持し難くなるため、クーロン効率が低下する場合がある。
【0016】
上記珪素複合体の表面に導電性物質、好ましくは炭素を主体とする被膜を有することが好ましい。珪素複合体の粒子の表面に導電性を有する物質をコーティングすることにより、集電性能を向上した構造とする。これにより、充放電に寄与しない粒子の発生を防ぎ、初期の繰り返し充放電時のクーロン効率が高い非水電解質二次電池用負極材が得られる。導電性物質としては、金属や炭素等が挙げられる。これら導電性物質のコーティング方法としては、物理蒸着(PVD)や化学蒸着(CVD)等が一般的であるが、電気めっきや、有機物の加熱炭化による炭素形成によることも可能である。
【0017】
珪素複合体は適宜粉砕・整粒等ができる。珪素複合体粒子の平均粒径は、0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μm以上、特に好ましくは0.3μm以上で、上限として30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下が好ましい。平均粒径が小さすぎると、嵩密度が小さくなりすぎて、単位体積当たりの充放電容量が低下し、逆に平均粒径が大きすぎると、電極膜作製が困難になり、集電体から剥離するおそれがある。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均値D_(50)(即ち、累積重量が50%となる時の粒子径(メジアン径)として測定した値である。
【0018】
珪素複合体のBET比表面積は、0.1?30m^(2)/gが好ましく、1?10m^(2)/gがより好ましい。BET比表面積が0.1m^(2)/gより小さいと、表面活性が小さくなり、電極作製時の結着剤の結着力が小さくなり、結果として充放電を繰り返した時のサイクル性が低下する場合があり、逆にBET比表面積が30m^(2)/gより大きいと、電極作製時に溶媒の吸収量が大きくなり、結着性を維持するために結着剤を大量に添加する場合が生じ、結果として導電性が低下し、サイクル性が低下するおそれがある。なお、BET比表面積はN_(2)ガス吸着量によって測定するBET1点法にて測定した値である。
【0019】
[珪素複合体の製造方法]
次に、本発明における珪素複合体の製造方法について説明する。
本発明の珪素複合体は、例えば、一般式SiO_(x)(0.9≦x<1.6)で表される酸化珪素を、不活性ガス又は還元雰囲気下1,100℃以下の温度域で熱処理を施して熱処理する方法が挙げられる。
【0020】
なお、本発明において酸化珪素とは、通常、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得られた非晶質の珪素酸化物の総称であり、本発明で用いられる酸化珪素粉末は一般式SiO_(x)で表され、平均粒径は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上で、上限として30μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下が好ましい。BET比表面積は0.1m^(2)/g以上、より好ましくは0.2m^(2)/g以上で、上限として30m^(2)/g以下、より好ましくは20m^(2)/g以下が好ましい。xの範囲は0.9≦x<1.6、より好ましくは1.0≦x≦1.3、さらに好ましくは1.0≦x≦1.2であることが望ましい。酸化珪素粉末の平均粒径及びBET比表面積が上記範囲外では所望の平均粒径及びBET比表面積を有する珪素複合体粉末が得られず、xの値が0.9より小さいSiO_(x)粉末の製造は困難であり、xの値が1.6以上のものは、熱処理を行った際に生成する不活性なSiO_(2)の割合が大きく、リチウムイオン二次電池として使用した場合、充放電容量が低下するおそれがある。
【0021】
なお、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して一酸化珪素ガスを冷却・析出させるための析出板の温度は、1,050℃以下に管理されていることが好ましい。析出板の一部が1,050℃を超えると、下記の熱処理条件が管理されていても、Si結晶子サイズのばらつきが生じ、所望の珪素含有材料を得ることが困難となるおそれがある。
【0022】
一方、酸化珪素の熱処理の温度が1,100℃より高いと、珪素の結晶子の大きさが10nm以上に成長することにより、クーロン効率の低下を招くおそれがある。熱処理温度は1,050℃以下が好ましく、1,000℃以下がより好ましい。
【0023】
二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して酸化珪素を生成する際、析出板の温度が500℃以上となることが多く、実質的に500℃以上の熱処理を施した状態で得られることが多い。従って、実質上の熱処理温度の下限は、500℃とみなすことができる。なお、熱処理時間は熱処理温度に応じて10分?20時間、特に30分?12時間程度の範囲で適宜制御することができるが、例えば1,100℃の処理温度においては5時間程度が好適である。
【0024】
上記熱処理は、不活性ガス雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、Ar、He、H_(2)、N_(2)等の上記処理温度にて不活性なガス単独もしくはそれらの混合ガスを用いることができる。
【0025】
また、別の方法として、金属珪素を原料として微結晶又は微粒子を得ることも可能である。例えば、金属珪素を真空中で加熱蒸発させて冷却板に再析出することにより急速冷却させることにより微結晶又は微粒子珪素が得られる。このものに二酸化珪素やアルミナ等を加えて強粉砕・混合することで、珪素の微結晶又は微粒子が当該微結晶又は微粒子と組成の異なる物質に分散した構造を有する珪素複合体を調製できる。
【0026】
上記のように得られた珪素複合体に導電被膜を形成して導電性珪素複合体粉末を製造する方法を説明する。この方法は、原料として酸化珪素粉末を使用する場合、上記熱処理を兼ねることも可能であり、この場合、製造コストの低減に寄与する。なお、本発明の導電性珪素複合体粉末は、珪素の微結晶又は微粒子が当該微結晶又は微粒子と異なる組成の化合物に分散した構造を有する粉末に炭素でコーティングしてなる、好ましくは結晶子サイズが8nm以下の珪素微粒子を含む珪素複合体粉末であれば、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記I?IVの方法を好適に採用することができる。
【0027】
I:一般式SiO_(x)(0.9≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末、又は珪素の微結晶又は微粒子からなる金属珪素粉末に二酸化珪素やアルミナ等を加えて強粉砕・混合することで珪素の微結晶又は微粒子が、当該微結晶又は微粒子と組成の異なる物質に分散した構造を有する珪素複合体粉末を原料として、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下600?1,100℃、好ましくは700?1,050℃、より好ましくは700?1,000℃、さらに好ましくは700?950℃の温度域で熱処理することにより、原料の酸化珪素粉末を珪素と二酸化珪素の複合体に不均化すると共に、その表面を化学蒸着する方法。
【0028】
II:一般式SiO_(x)(0.9≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末、又は珪素の微結晶又は微粒子からなる金属珪素粉末に二酸化珪素やアルミナ等を加えて強粉砕・混合することで珪素の微結晶又は微粒子が、当該微結晶又は微粒子と組成の異なる物質に分散した構造を有する珪素複合体粉末を、あらかじめ不活性ガス気流下で600?1,100℃で加熱したものを原料に、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、600?1,100℃、好ましくは700?1,050℃、より好ましくは700?1,000℃の温度域で熱処理して表面を化学蒸着する方法。
【0029】
III:一般式SiO_(x)(0.9≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末、又は珪素の微結晶又は微粒子からなる金属珪素粉末に二酸化珪素やアルミナ等を加えて強粉砕・混合することで珪素の微結晶又は微粒子が、当該微結晶又は微粒子と組成の異なる物質に分散した構造を有する珪素複合体粉末を原料として、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下500?1,100℃、好ましくは500?1,050℃、より好ましくは500?900℃の温度域で熱処理して炭素を化学蒸着した後、不活性ガス雰囲気下600?1,100℃、好ましくは700?1,050℃、より好ましくは700?1,000℃の温度域で熱処理を施こす方法。
【0030】
IV:一般式SiO_(x)(0.9≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末、又は珪素の微結晶又は微粒子からなる金属珪素粉末に二酸化珪素やアルミナ等を加えて強粉砕・混合することで珪素の微結晶又は微粒子が当該微結晶又は微粒子と組成の異なる物質に分散した構造を有する珪素複合体粉末とショ糖等の炭素源を混合した後、500?1,100℃、好ましくは500?1,050℃、より好ましくは500?900℃の温度域で炭化処理したものを原料として、不活性ガス雰囲気下600?1,100℃、好ましくは800?1,050℃、より好ましくは800?1,000℃の温度域で熱処理を施こす方法。
【0031】
上記I又はIIの方法に関し、600?1,100℃(好ましくは700?1,050℃、特に700?1,000℃)の温度域での化学蒸着処理(即ち、熱CVD処理)において、熱処理温度が600℃より低いと、導電性炭素被膜と珪素複合物との融合、炭素原子の整列(結晶化)が不十分であり、逆に1,100℃より高いと、珪素の微結晶又は微粒子の成長が進み、クーロン効率が低下するおそれがある。
【0032】
一方、上記I?IVの方法に関し、珪素複合体粉末の熱処理によって珪素の結晶子サイズを制御し、一定の品質に維持することが期待できる。この場合、熱処理温度が500℃より低いと、珪素の結晶子サイズを制御することが困難となり、負極材料としての電池特性のばらつきを誘発する可能性がある。逆に1,100℃より高いと、珪素の微結晶又は微粒子の成長が進み、クーロン効率が低下するおそれがある。
【0033】
なお、上記III又はIVの方法においては、炭素コートした後に珪素複合体粉末の熱処理を600?1,100℃、特に800?1,000℃で行うために、炭素コートの処理温度としては800℃より低い温度域での処理でも最終的には炭素原子が整列(結晶化)した導電性炭素被膜と珪素複合物とが表面で融合したものが得られるものである。
【0034】
このように、好ましくは熱CVD(600℃以上での化学蒸着処理)や炭化処理を施すことにより炭素膜を作製するが、処理時間は、炭素量との関係で、適宜設定される。この処理において粒子が凝集する場合があるが、この凝集物をボールミル等で解砕する。また、場合によっては、再度同様に熱CVDを繰り返し行う。
【0035】
なお、上記Iの方法において、化学蒸着及び熱処理を進行させるための処理温度、処理時間、有機物ガスを発生する原料の種類及び有機物ガス濃度を適宜選定する必要がある。熱処理時間は、通常0.5?12時間、好ましくは1?8時間、特に2?6時間の範囲から選ばれるが、この熱処理時間は熱処理温度とも関係し、例えば、処理温度を1,000℃にて行う場合には少なくとも3時間、又は5時間以上の処理を行うことが好ましい。
【0036】
また、上記IIの方法において、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下に熱処理する場合の熱処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5?12時間、特に1?6時間の範囲とすることができる。なお、SiO_(x)の酸化珪素をあらかじめ熱処理する場合の熱処理時間は、通常0.5?6時間、特に0.5?3時間とすることができる。
【0037】
さらに、上記IIIの方法において、珪素複合体粉末をあらかじめ有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下に熱処理する場合の熱処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5?12時間、特に1?6時間とすることができ、不活性ガス雰囲気下での熱処理時間は、通常0.5?6時間、特に0.5?3時間とすることができる。
【0038】
さらに、上記IVの方法において、珪素複合体粉末をあらかじめ炭化処理する場合の処理時間は、通常0.5?12時間、特に1?6時間とすることができ、不活性ガス雰囲気下での熱処理時間は、通常0.5?6時間、特に0.5?3時間とすることができる。
【0039】
本発明における有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸化性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが選択され、例えばメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素の単独もしくは混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環乃至3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独もしくは混合物として用いることができる。また、炭化処理に用いる炭素源としては、多くの有機物が使用可能であるが、一般によく知られているものとして、ショ糖等の炭水化物やアクリロニトリル、ピッチ等の各種炭化水素及びその誘導体が挙げられる。
【0040】
なお、上記熱CVD(熱化学蒸着処理)、熱処理、炭化処理は、非酸化性雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、上記有機物ガス単独あるいは有機物ガスとAr、He、H_(2)、N_(2)等の非酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。
【0041】
この場合、回転炉、ロータリーキルン等の炉芯管が水平方向に配設され、炉芯管が回転する構造の反応装置が好ましく、これにより酸化珪素粉末を転動させながら化学蒸着処理を施すことで、酸化珪素粉末同士に凝集を生じさせることなく、安定した製造が可能となる。炉芯管の回転速度は0.5?30rpm、特に1?10rpmとすることが好ましい。なお、この反応装置は、雰囲気を保持できる炉芯管と、炉芯管を回転させる回転機溝と、昇温・保持できる加熱機構を有しているものであれば特に限定せず、目的によって原料供給機構(例えばフィーダー)、製品回収機構(例えばホッパー)を設けることや、原料の滞留時間を制御するために、炉芯管を傾斜したり、炉芯管内に邪魔板を設けることもできる。また、炉芯管の材質についても特に限定はされず、炭化珪素、アルミナ、ムライト、窒化珪素等のシェラーミックスや、モリブデン、タングステンといった高融点金属、SUS、石英等を処理条件、処理目的によって適宜選定して使用することができる。
【0042】
また、流動ガス線速u(m/sec)は、流動化開始速度u_(mf)との比u/u_(mf)が1.5≦u/u_(mf)≦5となる範囲とすることで、より効率的に導電性被膜を形成することができる。u/u_(mf)が1.5より小さいと流動化が不十分となり、導電性被膜にバラツキを生じる場合があり、逆にu/u_(mf)が5を超えると、粉末同士の二次凝集が発生し、均一な導電性被膜を形成することができない場合がある。なお、ここで流動化開始速度は、粉末の大きさ、処理温度、処理雰囲気等により異なり、流動化ガス(線速)を徐々に増加させ、その時の粉体圧損がW(粉体質量)/A(流動層断面積)となった時の流動化ガス線速の値と定義することができる。なお、u_(mf)は、通常0.1?30cm/sec、好ましくは0.5?10cm/sec程度の範囲で行うことができ、このu_(mf)を与える粒子径としては一般的に0.5?100μm、好ましくは5?50μmとすることができる。粒子径が0.5μmより小さいと二次凝集が起こり、個々の粉末の表面を有効に処理することができない場合がある。
【0043】
珪素複合体は、さらにリチウムを含有することが好ましい。例えば、得られた珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末に対してリチウムをドープすることにより初期容量効率や初期の充放電サイクル時の容量劣化(初期容量低下率)を抑えた負極活物質を作製することが可能である。
【0044】
例えば、珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末に水素化リチウムや水素化リチウムアルミニウム、リチウム合金等を混合した後、加熱処理する方法や、珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末をリチウム金属と溶剤の存在下で混練混合し、該混練混合後に熱処理を施して珪酸リチウムを形成して、リチウムをプリドープする方法が挙げられる。
【0045】
溶剤の存在下でリチウム金属と混練混合する場合、上記溶剤を、ジブチルカーボネート等のカーボネート類、ラクトン類、スルホラン類、エーテル類、炭化水素類から選ばれるリチウム金属及びリチウムをドープした材料と反応しない1種又は2種以上の混合物とすることができる。このような溶剤を用いれば、製造したリチウムをドープした負極材を用いて製造する電池、キャパシタの蓄電デバイスの充放電において分解等の影響をより一層防ぐことができる。
【0046】
また、上記溶剤を、リチウム金属及びリチウムをドープした材料と反応せず、かつ、沸点が65℃以上のものとすることができる。沸点が65℃以上のものとすることで、混練混合時、溶剤の蒸発により、リチウム金属を均一に混合し難くなるのをより一層防ぐことができる。
【0047】
リチウムの含有量(ドープ量)は、珪素複合体粉末に対して、10質量%未満が好ましく、2?8質量%がより好ましい。リチウム含有量が、珪素複合体粉末に対して10質量%以上であっても、例えば、リチウム混合後の熱処理温度を調整、例えば400℃未満、好適には200?380℃にすることにより、結晶子の大きさを8nm以下にすることができる。
【0048】
また、上記混練混合をするとき、旋回周速型混練機を用いて行うことができる。
あるいは、上記混練混合をするとき、厚さ0.1mm以上のリチウム金属と溶剤の存在下で混練混合した後、旋回周速型混練機を用いてさらに混練混合することも可能である。
このように旋回周速型混練機を用いることで効率良く混練混合を行うことができる。またリチウムをプリドープする速度、生産性を考慮すると、厚さ0.1mm以上のリチウム金属を用いるのが好ましい。
【0049】
また、上記熱処理を200?1,100℃の温度で施すことができる。活性なリチウムを安定な珪酸リチウムに効率良く化学変化させるため200℃以上とするのが好ましく、また、1,100℃以下とすることによって、Si結晶の成長に起因したクーロン効率の劣化をより防ぐことができる。
【0050】
本発明で得られた珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体の粉末は、これを負極材(負極活物質)として、高容量でかつサイクル特性の優れた非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0051】
この場合、得られたリチウムイオン二次電池は、上記負極活物質を用いる点に特徴を有し、その他の正極、負極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は限定されない。例えば、正極活物質としてはLiCoO_(2)、LiNiO_(2)、LiMn_(2)O_(4)、V_(2)O_(5)、MnO_(2)、TiS_(2)、MoS_(2)等の遷移金属の酸化物及びカルコゲン化合物等が用いられる。電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、2-メチルテトラヒドロフラン等を1種単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0052】
なお、上記導電性珪素複合体粉末を用いて負極を作製する場合、導電性珪素複合体粉末に黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Si等の金属粉末や金属繊維、又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。なお、Si金属粉末は、珪素複合体粉末に対して1質量%未満、もしくは含まれなくても、本願発明の目的とする効果が得られる。
【0053】
ここで、導電剤の添加量は、導電性珪素複合体粉末と導電剤の混合物中1?60質量%が好ましく、10?50質量%がより好ましく、20?50質量%がさらに好ましい。1質量%未満だと充放電に伴う膨張・収縮に耐えられなくなる場合があり、60質量%を超えると、充放電容量が小さくなる場合がある。また、混合物中の全炭素量(即ち、導電性珪素複合体粉末表面の被覆(蒸着)炭素量と、導電剤中の炭素量との合計量)は25?90質量%が好ましく、30?50質量%がより好ましい。全炭素量が25質量%未満だと、充放電に伴う膨張・収縮に耐えられなくなる場合があり、90質量%を超えると充放電容量が小さくなる場合がある。
【0054】
負極(成型体)の調製方法としては下記の方法が挙げられる。上記珪素複合体、必要に応じて導電剤、結着剤等の他の添加剤とに、N-メチルピロリドン又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例、参考例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%を示す。
【0056】
[参考例1:サンプルNo.1?3]
平均粒径3μm、BET比表面積12m^(2)/gの酸化珪素粉末(SiO_(x):x=1.02)を、窒化珪素製トレイに200g仕込んだ後、雰囲気を保持できる処理炉内に静置した。次にアルゴンガスを流入し、処理炉内をアルゴン置換した後、アルゴンガスを2NL/min流入しつつ300℃/hrの昇温速度で昇温し、600?1,000℃の温度で、3?10時間保持した。保持終了後、降温を開始し、室温到達後、粉末を回収した。得られた粉末は、Cu-Kα線によるX線回折パターンより、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折ピーク回折線の半価幅よりシェラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶子の大きさが3.3?4.1nmである下記3種の珪素複合体粉末であった。サンプル1のCu-Kα線によるX線回折のチャートを図1に示す。
【0057】
[電池評価]
得られた珪素複合体粉末を用いて以下の方法にて電池評価を行った。
まず、得られた珪素複合体75%にアセチレンブラック5%、カーボンナノチューブ5%、ポリイミド15%の割合にて分散剤としてN-メチルピロリドンと共に混合することでスラリーとし、このスラリーを厚さ15μmの銅箔に塗布した。この塗布シートを85℃で30分間、真空中で予備乾燥後、ローラープレスにより加圧成形し、さらに400℃で2時間、真空中で乾燥後、最終的には2cm^(2)に打ち抜き、負極とした。
次に、正極活物質としてコバルト酸リチウムを使用して以下の条件で正極を作成した。
まず、コバルト酸リチウム95%にアセチレンブラック1.5%、カーボンナノチューブ1%、ポリフッ化ビニリデン2.5%の割合にて分散剤としてN-メチルピロリドンと共に混合することでスラリーとし、このスラリーを厚さ15μmのアルミ箔に塗布した。この塗布シートを85℃で10分間、大気中で予備乾燥後、ローラープレスにより加圧成形し、さらに130℃で5時間、真空中で乾燥後、最終的には2cm^(2)に打ち抜き、正極とした。ここで、得られた負極及び正極を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートと1,2-ジメトキシエタンの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0058】
作製したリチウムイオン二次電池は、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて、テストセルの電圧が4.2Vに達するまで2.5mAの定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は、セル電圧を4.2Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が0.5mAを下回った時点で充電を終了した。放電は2.5mAの定電流で行い、セル電圧が2.5Vを下回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。
【0059】
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の充放電試験を20サイクル以上行った。
各充放電サイクルにて下記式
クーロン効率[%]=放電電流量/充電電流量×100
に基づきクーロン効率を求め、充放電サイクルとクーロン効率の関係を示すグラフを図2に示す。クーロン効率は、充放電開始時は低いが20回程度の充放電を繰り返すと安定する傾向がある。実際に自動車等で電池を使用する場合、初期の特性よりも安定後の特性が重要であることから、クーロン効率が安定する20回目の値を評価することとした。結果を表1に示す。また、図3は、Si結晶子サイズとクーロン効率(20サイクル目)の関係を示すグラフである。
【0060】
初期の充電容量について、充放電サイクルにおける容量低下を初期容量低下率として評価した。具体的には、第1回目と20サイクル目の充電容量から下式により求めた。
初期容量低下率[%]=(1-(20回目充電容量/1回目充電容量))×100
図4は、Si結晶子サイズと初期容量低下率との関係を示すグラフである。
【0061】
【表1】

【0062】
[参考例2:サンプルNo.4?9,CVD]
平均粒径3μm、BET比表面積12m^(2)/gの酸化珪素粉末(SiOx:x=1.02)を、窒化珪素製トレイに200g仕込んだ後、雰囲気を保持できる処理炉内に静置した。次にアルゴンガスを流入し、処理炉内をアルゴン置換した後、メタン-アルゴン混合ガスを2NL/min流入しつつ300℃/hrの昇温速度で昇温し、600?1,100℃の温度で、3?10時間保持することにより炭素膜の熱CVDを施した。保持終了後、降温を開始し、室温到達後、粉末を回収した。得られた導電性珪素複合体粉末の蒸着炭素量は5.3?18.5質量%、Cu-Kα線によるX線回折パターンより、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折ピーク回折線の半価幅に基づきシェラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶子の大きさは、3.5?7.1nmであった。
【0063】
[電池評価]
得られた導電性珪素複合体粉末について、参考例1と同じ方法で電池評価を行い、20サイクル目のクーロン効率を求めたところ、99.6?99.7%の優れた値であることが確認できた。結果を表2に示す。参考例1と同様に、珪素の結晶子サイズとクーロン効率(20サイクル目)の関係を図3に示す。参考例1と同様に初期容量低下率を求め、珪素の結晶子サイズと初期容量低下率との関係を図4に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
[実施例1:サンプルNo.10?13、リチウムドープ]
参考例1及び参考例2の珪素複合体粉末及び導電性珪素複合体粉末は、酸化珪素粉末を原料として、熱処理及び炭素コートをしたものであるが、他の元素を導入した場合であっても珪素の半値幅とクーロン効率の関係が成立するかどうかを確認した。実際に電池を構成するにあたって、初回効率の改善に適用されることがあるリチウムを事前ドープした導電性珪素複合体粉末を作成した。具体的には、参考例2で得られた珪素の結晶子の大きさが3.5nmの導電性珪素複合体粉末に対して5%の金属リチウムを、ジメチルカーボネート(DMC)存在下で混練混合した後、乾燥して得られたリチウムドープ導電性珪素複合体粉末をアルゴンガス雰囲気下で300℃/hrの昇温速度で昇温し、500?800℃の温度で、3?8時間保持した。
得られた導電性珪素複合体粉末のリチウムドープ品は、Cu-Kα線によるX線回折パターンより、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折ピーク回折線の半価幅よりシェラー法により求めた珪素の結晶子の大きさは、4.4?8.0nmであった。
【0066】
[電池評価]
得られた導電性珪素複合体粉末について、参考例1と同じ方法で電池評価を行い、20サイクル目のクーロン効率を求めたところ、99.5?99.6%の優れた値であることが確認できた。結果を表3に示す。参考例1と同様に、珪素の結晶子サイズとクーロン効率(20サイクル目)の関係を図3に示す。参考例1と同様に初期容量低下率を求め、珪素の結晶子サイズと初期容量低下率との関係を図4に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
[比較例1:サンプルNo.14?16]
平均粒径3μm、BET比表面積12m^(2)/gの酸化珪素粉末(SiOx:x=1.02)を、窒化珪素製トレイに200g仕込んだ後、雰囲気を保持できる処理炉内に静置した。次にアルゴンガスを流入し、処理炉内をアルゴン置換した後、メタン-アルゴン混合ガスを2NL/min流入しつつ300℃/hrの昇温速度で昇温し、1,300℃の温度で、2?3時間保持することにより熱CVDを施した。保持終了後、降温を開始し、室温到達後、粉末を回収した。得られた導電性珪素複合体粉末の蒸着炭素量は15.0?18.5%、Cu-Kα線によるX線回折パターンより、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折ピーク回折線の半価幅に基づき、シェラーの式により求めた、二酸化珪素中に分散した珪素の結晶子の大きさは、10.6?11.2nmであった。
【0069】
[電池評価]
得られた導電性珪素複合体粉末について、参考例1と同じ方法で電池評価を行い、20サイクル目のクーロン効率を求めたところ、98.4?98.7%であり、実施例及び参考例と比較して1ポイント程度低い値であることが分かった。結果を表4に示す。参考例1と同様に、珪素の結晶子サイズとクーロン効率(20サイクル目)の関係を図3に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
[比較例2:サンプルNo.17?21]
参考例2で得られた珪素の結晶子の大きさが3.5nmの導電性珪素複合体粉末に対して、10%の金属リチウムを有機溶剤存在下で混練混合した後、乾燥して得られたリチウムドープ導電性珪素複合体粉末をアルゴンガス雰囲気下で300℃/hrの昇温速度で昇温し、400?800℃の温度で、2?12時間保持した。
得られた導電性珪素複合体粉末のリチウムドープ品は、Cu-Kα線によるX線回折パターンより、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折ピーク回折線の半価幅よりシェラー法により求めた珪素の結晶子の大きさは、10.6?17.0nmであった。なお、本条件では、アニール温度が実施例1と比較して高いものではないが、リチウムのドープ量が実施例1(Li=5%)と比較して多いため、珪素の結晶子サイズが大きくなったものと思われる。
【0072】
[電池評価]
得られた導電性珪素複合体粉末について、参考例1と同じ方法で電池評価を行い、20サイクル目のクーロン効率を求めたところ、96.3?98.9%であり、実施例及び参考例と比較して1ポイント以上低い値であることが分かった。結果を表5に示す。参考例1と同様に、珪素の結晶子サイズとクーロン効率(20サイクル目)の関係を図3に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
[図による効果の検証]
図3の結果から明らかである通り、クーロン効率は、珪素複合体中の珪素の結晶子の大きさに依存し、結晶子サイズが8nm以下で明確な良好領域を有することが確認できる。この結果は、珪素複合体の組成や導電コートの有無に影響されることがなく、結晶子サイズを適切に管理することで、良好なクーロン効率を有する非水電解質二次電池用負極材及び非水電解質二次電池を提供できることを示している。
【0075】
参考例1と比較して、参考例2及び実施例1は、初期容量低下率が小さく、より高性能な非水電解質二次電池用負極材及び非水電解質二次電池を提供できることが分かる。これは、参考例2においては炭素膜のコーティングによる効果、実施例1においては炭素膜のコーティングとリチウムドープによる効果であると考えられる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
珪素の微結晶又は微粒子が、二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体に対して、リチウム2質量%以上10質量%未満を含有するリチウム含有珪素複合体であって、X線回折においてSi(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた上記微結晶又は微粒子の結晶子の大きさが8.0nm以下であるリチウム含有珪素複合体からなる非水電解質二次電池用負極材、又は
上記リチウム含有珪素複合体の表面に導電性物質の被膜を有する非水電解質二次電池用負極材を製造する方法であって、
珪素の微結晶又は微粒子が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体粉末、又は
珪素の微結晶又は微粒子が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体粉末の表面に、導電性物質の被膜を有する導電性珪素複合体粉末に対して、
リチウムをドープする工程を含み、
この工程が、上記珪素複合体粉末又は導電性珪素複合体粉末を、リチウム金属と溶剤の存在下で混練混合し、混練混合後に熱処理を施して珪酸リチウムを形成する工程
である非水電解質二次電池用負極材を製造する方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)
【図面】




 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-11 
出願番号 特願2015-518174(P2015-518174)
審決分類 P 1 652・ 853- XA (H01M)
P 1 652・ 841- XA (H01M)
P 1 652・ 851- XA (H01M)
P 1 652・ 854- XA (H01M)
P 1 652・ 857- XA (H01M)
P 1 652・ 856- XA (H01M)
最終処分 決定却下  
前審関与審査官 市川 篤  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 長谷山 健
宮本 純
登録日 2017-03-17 
登録番号 特許第6107946号(P6107946)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 非水電解質二次電池用負極材及び二次電池  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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