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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A24F
管理番号 1341973
異議申立番号 異議2017-700308  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-28 
確定日 2018-06-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5999716号発明「液体基質の減少判定手段を有するエアロゾル生成システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5999716号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3-6、11〕、7、8、9、10、〔12-15〕について訂正することを認める。 特許第5999716号の請求項3ないし6、11ないし15に係る特許を維持する。 特許第5999716号の請求項1及び2並びに7ないし10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5999716号の請求項1ないし15に係る特許についての出願は、2011年12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月24日欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成28年9月9日にその特許権の設定登録がされた。
そして、平成29年3月28日に特許異議申立人鈴木孝司より全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成29年 6月27日付け 取消理由通知
同年 9月27日付け 意見書(特許権者)
同年10月19日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成30年 2月13日付け 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 3月23日付け 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年2月13日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に「前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサをさらに備え、前記電気回路は、前記温度センサにより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の温度をモニタし、前記温度センサにより感知される温度に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気作動式エアロゾル生成システム。」と記載されているのを、「エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システムであって、
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、
前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータと、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成された電気回路と、
を備え、
前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサをさらに備え、前記電気回路は、前記温度センサにより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の温度をモニタし、前記温度センサにより感知される温度に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成され、
前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって感知される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、
ことを特徴とする電気作動式エアロゾル生成システム。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「前記電気回路は、前記少なくとも1つの加熱要素の電気抵抗を測定し、該測定した電気抵抗から前記加熱要素の前記温度を解明するように構成される、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル生成システム。」と記載されているのを、「エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システムであって、
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、
前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータと、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成された電気回路と、
を備え、
前記電気回路は、前記少なくとも1つの加熱要素の電気抵抗を測定し、該測定した電気抵抗から前記加熱要素の前記温度を解明するように構成され、
前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって解明される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、
ことを特徴とする電気作動式エアロゾル生成システム。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から3のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル生成システム」と記載されているのを、「請求項3に記載の電気作動式エアロゾル生成システム」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1から10のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル生成システム」と記載されているのを、「請求項3から6のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル生成システム」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12に「液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータとを備えた電気作動式エアロゾル生成システムにより液体エアロゾル形成基質の減少を判定する方法であって、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を自動的に判定するステップを含むことを特徴とする方法。」と記載されているのを、「液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータとを備えた電気作動式エアロゾル生成システムにより液体エアロゾル形成基質の減少を判定する方法であって、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を自動的に判定するステップを含み、
各加熱サイクルの一部にわたって前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサにより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、ことを特徴とする方法。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1を引用して記載する請求項3を、請求項1を引用しない記載へと改めるものを含むから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項1は、温度センサの感知に係る請求項3に、請求項3を引用して記載する訂正前の請求項8の構成を導入するとともに、訂正前の請求項8の「感知又は解明される前記温度の上昇率」を「感知される前記温度の上昇率」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、明細書の発明の詳細な説明には、温度センサの測定により発明を実施することが記載されているから(【0076】)、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用して記載する請求項5を、請求項1を引用しない記載へと改めるものを含むから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2は、電気抵抗から温度を解明することに係る請求項5に、請求項5を引用して記載する訂正前の請求項8の構成を導入するとともに、訂正前の請求項8の「感知又は解明される前記温度の上昇率」を「解明される前記温度の上昇率」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、明細書の発明の詳細な説明には、加熱要素の抵抗の検出により温度が求められることについての説明が記載されているから(【0080】?【0085】)、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3は訂正前の請求項1を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4は訂正前の請求項2を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、上記訂正事項3及び4における訂正前の請求項1及び2の削除に伴い、訂正前の請求項4の請求項1及び2を引用する記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5は、請求項1及び2を引用する記載を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6、7、8及び9
訂正事項6、7、8及び9は、それぞれ訂正前の請求項7、8、9及び10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6、7、8及び9は訂正前の請求項7、8、9及び10を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項10
訂正事項10は、上記訂正事項3及び4における訂正前の請求項1及び2の削除、並びに上記訂正事項6、7、8及び9における訂正前の請求項7、8、9及び10の削除に伴い、訂正前の請求項11の請求項1、2、7、8、9及び10を引用する記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項10は、請求項1、2、7、8、9及び10を引用する記載を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)訂正事項11
訂正事項11は、訂正前の請求項12において、液体エアロゾル形成基質の減少を自動的に判定する構成について、「各加熱サイクルの一部にわたって前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される」点を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、明細書の発明の詳細な説明には、加熱要素の温度上昇率を用いて液体エアロゾル形成基質の減少を判定すること(【0068】?【0071】)、及び温度センサの測定により発明を実施すること(【0076】)、がそれぞれ記載されているから、訂正事項11に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(9)一群の請求項に係る訂正
訂正事項1ないし10に係る訂正前の請求項1ないし11について、訂正前の請求項2ないし11はそれぞれ訂正前の請求項1を直接または間接に引用するものであるから、訂正事項1ないし10に係る請求項1ないし11は一群の請求項である。
訂正事項11に係る訂正前の請求項12ないし15について、訂正前の請求項13ないし15はそれぞれ訂正前の請求項12を直接または間接に引用するものであるから、訂正事項11に係る請求項12ないし15は一群の請求項である。
したがって、訂正事項1ないし11に係る訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(10)独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、訂正事項1ないし11には、特許法120条の5第9項で準用する同法126条7項の規定が適用されない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条4項、及び、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。そして、特許権者から、請求項3から11は、請求項1及び2とは別途訂正をすることの求めがあったことから、訂正後の請求項1、2、〔3-6、11〕、7、8、9、10、〔12-15〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項3ないし6及び11ないし15に係る発明(以下、「本件発明3ないし6及び11ないし15」という。)は、その特許請求の範囲の請求項3ないし6及び11ないし15に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
本件発明3「【請求項3】
エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システムであって、
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、
前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータと、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成された電気回路と、
を備え、
前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサをさらに備え、前記電気回路は、前記温度センサにより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の温度をモニタし、前記温度センサにより感知される温度に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成され、
前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって感知される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、
ことを特徴とする電気作動式エアロゾル生成システム。」
本件発明4「【請求項4】
前記電気回路は、前記加熱要素に所定の電力を印加するように構成される、
ことを特徴とする請求項3に記載の電気作動式エアロゾル生成システム。」
本件発明5「【請求項5】
エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システムであって、
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、
前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータと、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成された電気回路と、
を備え、
前記電気回路は、前記少なくとも1つの加熱要素の電気抵抗を測定し、該測定した電気抵抗から前記加熱要素の前記温度を解明するように構成され、
前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって解明される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、
ことを特徴とする電気作動式エアロゾル生成システム。」
本件発明6「【請求項6】
前記電気回路は、前記少なくとも1つの加熱要素を流れる電流及び前記少なくとも1つの加熱要素に加わる電圧を測定し、該測定した電流及び電圧から前記少なくとも1つの加熱要素の前記電気抵抗を求めることにより、前記少なくとも1つの加熱要素の前記電気抵抗を測定するように構成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の電気作動式エアロゾル生成システム。」
本件発明11「【請求項11】
前記液体エアロゾル形成基質を前記液体貯蔵部から前記電気ヒータに運ぶための毛細管芯をさらに備える、
ことを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル生成システム。」
本件発明12「【請求項12】
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータとを備えた電気作動式エアロゾル生成システムにより液体エアロゾル形成基質の減少を判定する方法であって、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を自動的に判定するステップを含み、
各加熱サイクルの一部にわたって前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサにより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、ことを特徴とする方法。」
本件発明13「【請求項13】
電気作動式エアロゾル生成システムのための電気回路であって、請求項12に記載の方法を実行するように構成される、
ことを特徴とする電気回路。」
本件発明14「【請求項14】
電気作動式エアロゾル生成システムのためのプログラム可能な電気回路上で実行された時に、該プログラム可能な電気回路に請求項12に記載の方法を実行させる、
ことを特徴とするコンピュータプログラム。」
本件発明15「【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラムを記憶する、
ことを特徴とするコンピュータ可読記憶媒体。」

2 取消理由(決定の予告)の概要
訂正前の請求項1ないし15に係る特許に対して平成29年10月19日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
[甲号証]
甲第1号証 特開2004-97617号公報
甲第2号証 特開平5-220974号公報
甲第3号証 特開平5-57901号公報
甲第4号証 特開昭58-166219号公報
甲第5号証 国際公開第2009/118085号
甲第6号証 特開2000-41654号
なお、以下それぞれを「甲1」等という。
[取消理由]
請求項1ないし7及び請求項11ないし15に係る発明は、甲1発明、甲2発明及び周知技術(甲5、甲6)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 甲号証の記載
(1)甲1には、以下の各事項が記載されている。
(1a)「【0044】
図2は本実施形態の医療用薬剤吐出装置の断面構成図である。11は図1に示したサーマルインクジェットヘッドと電気的接続を達成するフレキシブル基板である。ヘッドの形態にあわせフレキシブルでないプリント基板であっても、TAB形態の基板であってもよい。この基板は3のカートリッジケースに配置された接続基板13と電気的接続を達成し、14の制御回路部に配線される。
制御回路部は、サーマルインクジェットヘッドユニットを動作制御する機能の他に、装置の動作履歴を記憶するメモリ回路、端末装置としての機能を達成する回路を含む。12は薬剤を充填したカートリッジである。12と2のホルダーは着脱可能であってもよい。または薬剤とヘッドユニットが分離できないよう一体型に構成することも可能である。また、1、2および12で構成されるサーマルインクジェットヘッド部は薬剤とともに消耗部品としてもよい。この場合、このユニットに関しての使用状況をモニターすることで適切な交換が利用者によってなされる構成となる。3のカートリッジケースには、ヘッド部が確実に装着できるよう、導入するガイド(図示せず)があり、装着後は5の制御部にて装着されたことを検知し、使用可能な状態であることを利用者に知らせる機能を有する。」
(1b)「【0058】
[第1、第2、および第3の実施形態のメインブロック図およびフローチャート]
図4は、第1、第3の実施例を適用した薬剤吐出装置のメインシーケンスを示すフローチャートである。第1の実施例の場合、通常吐出量以下の少量吐出を定期的に繰り返すシーケンスを特徴とする。フローチャートの定義済み処理は、初期チェック(S102)と通常待機状態の処理(S107)に大きく2つに分かれ、通常待機状態の処理結果を判別し(S108)、ループさせるか終了するかを決定する。また、薬液残量または規定量のチェックを行い(S103)、薬液残量が規定量以下になった場合等に、薬剤の交換を促す警告を行う(S105)。
【0059】
電子カルテ等の情報に従い設定する薬剤の交換のタイミングの警告を通常待機状態の前に実行することで、利用者に合わせた最適な薬剤吐出と交換指示ができるよう工夫されている。各処理の機能については図5と図7に示す。」
(1c)


(1d)「【0060】
図5は図4のサブルーチンである初期チェック処理を示すフローチャートである。本構成の薬剤吐出装置電源(S101)を投入すると、ディスプレイ8には初期チェック中を示す表示がされる(S201)。薬剤吐出装置の構成上、電源再投入は前回電池切れの可能性を示唆するものである。よって、装置情報として前記14の駆動制御回路内のメモリに履歴を記録(更新)する(S202)。その後長時間吐出させなかった薬剤を正常吐出させるために、立ち上げ時少量吐出を実行する(S203)。この少量吐出駆動は、サーマルインクジェットヘッドユニットの回復に必要な時間、吐出駆動条件が選択され、後に説明する待機状態時の少量吐出よりも長時間行われることが多い。同様に吐出駆動条件も、待機状態時の少量吐出エネルギと比較して大きい場合がある。サーマルインクジェットヘッドユニットの吐出口は非常に小さいため、長時間放置されると薬剤が凝集し吐出口をふさぐ可能性がある。そのために通常の吐出条件よりも大きな吐出エネルギを作用させ、固着した薬剤を除去するためである。」
(1e)「【0061】
図6は図4のサブルーチンである通常待機状態処理(S106)を示すフローチャートである。この処理の中で、最初少量吐出等に必要な吐出エネルギを十分得られるか電源電圧レベルのチェックを行う(S301)。この時の電圧が規定レベル以下の場合、ディスプレイ8に警告表示をし(S302)、バッテリ-交換を利用者に促す。その後ビープ音等で警告し(S303)、履歴をメモリに保存(S304)、電源をオフする(S305)。
【0062】
電源電圧が正常の場合、次にキャップスイッチをモニターする(S306)。この時、キャップが開放している場合、ディスプレイ8に警告表示をする(S307)。
【0063】
このスイッチが開放を指示している場合、利用者が薬剤吐出の要求をしているか、もしくはキャップ開放のまま放置されたかどちらかである。しかしながら、キャップ開放のままだと薬剤が固着する恐れがあるため、N秒のタイマーを設定(308)し利用者の要求を待つ(S309)。ここでN秒経過しても薬剤吐出ボタン7が押されないことを確認する(S310)と、再びキャップ開放の警告をディスプレイ8に表示し(S311)、警告ビープ音を鳴らす(S312)。利用者がキャップを閉めれば(S313)キャップスイッチの状態が閉められたと判断され(S314)、警告ビープ音を解除する(S315)。もし、利用者がキャップを閉めなければ、放置状態と判別され、異常終了となり電源をオフする(S316)。この状態移行は薬剤の固着が予測されるので、前述の初期チェック処理(S102)に移行する。
【0064】
上記キャップ開放状態で薬剤吐出ボタン7が押されると、電子カルテ情報等に従い、利用者の吸引とともに薬剤吐出が行われる(S318)。薬剤吐出後、その履歴が前記14の駆動制御回路内メモリに記録(更新)され(S319)、正常終了として本サブルーチンを終了する。薬剤吐出中は、ディスプレイ8に吐出中の表示がなされる(S315)。キャップスイッチが開放でない場合、本発明の最も特徴的な動作である少量吐出を行うシーケンスに移行する。キャップされている時は基本的に待機状態であるため、薬剤吐出装置は薬剤の固着が生じない時間範囲内で少量吐出を行う(S322)。この時の薬剤固着が生じない時間をT秒とし、タイマー駆動により時間管理する(S320)。T秒カウントタイマーは薬剤の処方により時間があらかじめ決められており、14の駆動制御回路内メモリーデータとして管理されている。薬剤少量吐出後、その履歴が前記14の駆動制御回路内メモリに記録(更新)され(S323)、正常終了として本サブルーチンを終了する。薬剤少量吐出中は、ディスプレイ8に少量吐出中の表示がなされる(S321)。
【0065】
上記通常待機処理のサブルーチンが終了すると、その返り値をもとにメインシーケンスにて通常待機処理のループ実行するか、異常終了するかを判断する。終了する場合は既に電源がオフされている。本薬剤吐出装置は通常待機状態処理を常にループ実行し、利用者の薬剤吐出要求にいつでも応えられるよう待機している。この処理を実行することで信頼性の高い薬剤吐出装置を提供できるものである。」
(1f)「【0083】
[本発明のデータベースとの通信機能を活用した実施例]
本実施形態の薬剤吐出装置は、全体を制御するCPUを含むコントローラ、利用者の健康管理をサポートする入出力デバイスとしての薬剤吐出部、無線通信をサポートする通信部、制御プログラムや各種データを格納する内部メモリー、分離型メモリーとして個人に関するデータを格納するメモリーカード、I/Oインタフェース、薬剤吐出装置の機能制御を利用者が指示したり緊急通報(エマージェンシー)スイッチ等の各種スイッチを含むキースイッチ、液晶ディスプレイやマイク、スピーカなどの表示・音声入出力部、生体認証用のセンサー、及び電源として2次電池などの充電可能なバッテリーとを備えている。
【0084】
薬剤吐出部はサーマルインクジェットヘッドユニット等で構成され、所定量の液状の薬剤が収容されたタンク、及びタンクから供給された薬剤を微小液滴として吐出する吐出ヘッドを有するカートリッジと、カートリッジを駆動制御する制御部と、カートリッジあるいはタンクに付与されたコードを読み取ったり、利用者の吸入状態(負圧)を検出するためのセンサーとを含んでおり、ミストあるいはエアロゾルを吐出形成して吸気の際に肺から薬剤を体内に投与する。」
(1g)「【0101】
タンクのみを1回毎に交換する際には、吐出ヘッドは複数回使用することとなるが、吐出性能を保証するために、カートリッジが装着されてから使用された回数が所定回数となったらあるいは所定の期間が経過したら、新たなカートリッジとの交換を促すように表示や音で警告を与えると共に、例えば、熱エネルギーを発生するヒータが断線するように構成して、実際の吸入駆動が行えないようにするのが好ましい。そして、新たなカートリッジが装着された際には、IDやパスワードを入力させて利用者を再確認する。」
以上の(1a)ないし(1g)によると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「利用者の健康管理をサポートする入出力デバイスとしての薬剤吐出部を備える薬剤吐出装置であって、
薬剤吐出部はサーマルインクジェットヘッドユニット等で構成され、所定量の液状の薬剤が収容されたタンク、及びタンクから供給された薬剤を微小液滴として吐出する吐出ヘッドを有するカートリッジと、カートリッジを駆動制御する制御部と、カートリッジあるいはタンクに付与されたコードを読み取ったり、利用者の吸入状態(負圧)を検出するためのセンサーとを含んでおり、ミストあるいはエアロゾルを吐出形成して吸気の際に肺から薬剤を体内に投与するものであり、
吐出ヘッドまたはカートリッジは、ヒータを備え、
メインシーケンスとして、初期チェック処理と、薬液残量又は規定量チェックと、通常待機状態処理とを行い、
初期チェック処理では、長時間吐出させなかった薬剤を正常吐出させるために、立ち上げ時少量吐出を行い、
通常待機状態処理では、キャップ開放状態で薬剤吐出ボタンが押されると、利用者の吸引とともに薬剤吐出を行い、キャップ開放状態でない場合は、薬剤の固着が生じない時間範囲内で少量吐出を行い、
通常待機状態処理を常にループ実行し、利用者の薬剤吐出要求にいつでも応えられるよう待機している、薬剤吐出装置。」

(2)甲2には、以下の各事項が記載されている。
(2a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱エネルギによりインクを気化させて、その圧力によりインクを噴射させて印字を行なうインクジェットプリンタにおけるインク残量検出装置に関するものである。」
(2b)「【0006】
【作用】既定量のインクドロップを噴射させたときのヘッドの温度、特にヒータウェハの温度は、インク残量に関係する。本発明によれば、前記ヒータウェハ内部あるいはその近傍に温度検出手段を設け、温度上昇を検出する。例えば、温度の上昇値がある設定値に対してどれだけ大きいかを判断し、その結果によりインク残量が少なくなった場合、あるいは、なくなった場合などの検知を行なうことができる。
【0007】
【実施例】図1は、本発明のインク残量検出装置の一実施例を説明するためのインクジェットヘッドの概略構成図である。図中、1は温度検出手段、2はヒータウェハ、3はチャネルウエハ、4はノズル、5はインクサブタンク、6はインク供給管、7はインクタンク、8はヒートシンクである。チャネルウェハ3のチャネル溝に対応してヒータウェハ2に発熱体が設けられ、チャネル溝の開口は、ノズル4となっている。チャネル溝には、インクサブタンク5からインクが供給される。また、インクサブタンク5には、インク供給管6を通してインクタンク7からインクが供給される。この実施例では、温度検出手段1は、ヒータウエハ2の直下のヒートシンク8に埋め込むようにして構成されており、ヒータウエハ2あるいはその周囲の温度を検出するように設けられている。しかしこれに限定されることなく、温度検出手段1をヒータウエハ2の内部に設けても良いし、ヒータウエハ2の近傍で熱の伝わる位置であればどこに設けても良い。
【0008】図2は、図1で検出された温度に基づいてインク残量を検出する構成の一実施例の概略構成図である。図中、9はA-D変換部、10、11は記憶部、12はルックアップテーブル、13は演算部、14は報知手段である。A-D変換部9は、図1で説明した温度検出手段1からの出力を、デジタル信号に変換する。温度検出手段1における検出動作は、図示しないCPUからの指令により適宜に行なわれる。例えば、プリンタの動作中に1ラインの印字ごと、あるいは、1ページの印字ごとなど、適宜のタイミングで行なうようにすればよい。また、この実施例ではインク残量の検出は、噴射開始前の適当なタイミングと、所定の噴射の終了時に行なわれる。噴射開始前に取り込んだ温度データは、A-D変換部9でA-D変換されて記憶部10に記憶される。また、噴射終了時の温度データは、同様にA-D変換部9でA-D変換されて記憶部11に記憶される。演算部13は、記憶部10のデータと記憶部11のデータを比較して、差の値を演算する。演算された値は、ルックアップテーブル12のデータと比較される。後述するように、その比較結果に基づいて、インクの残量が検出され、残量が少なくなった場合、極少なくなった場合などに、報知手段14が駆動され警告信号を発する。」
(2c)「【0009】噴射開始前と所定の噴射終了時の温度からインク残量が検出できる理由について説明する。図1で説明したサーマルインクジェットプリンタは、ヒータウェハ2内の発熱体にエネルギを与え、その熱エネルギによりインクを気化させ、発生したバブルの圧力によりインクをインクドロップとしてノズルから噴射させるものである。原理上、熱エネルギを用いているため、与えられたエネルギのうち一部はインクドロップが熱エネルギおよび運動エネルギとして持ち去り、一部は再供給されたインクがエネルギを受け取るが、供給されたエネルギの多くはヘッドの昇温によって消費されることになる。そのため、インクドロップの量や再供給されたインクの量によってヘッドの温度上昇の度合いが変化することとなる。
【0010】連続的にインクドロップが噴射されると、噴射により消費されたインクは、スポンジなどのインク保持材が充填されているインクタンク7から、インク供給管6およびインクサブタンク5を通じてノズルへと再供給される。このインクの再供給はノズル付近にかかる負圧によって行なわれる。
【0011】一方、インクタンク中のインク残量が少なくなると、噴射されるインクドロップの体積は図4に示すように小さくなる。これは、インク残量が少なくなってくると、ノズル付近にかかる負圧が大きくなり、インクドロップ噴射後のノズルへのインクのリフィルが阻害され、インク流入量が減少するためであると考えられている。
【0012】ここで、単位時間にある決まった数のインクドロップを噴射させたときのヘッドの温度の変化を図3に示す。図3において、t1は噴射開始時間、t2は噴射終了時間を示している。図中、aはインクが十分にある通常の状態における温度変動を示したものであり、bはインク残量が少なくなった状態、cはインクがなくなった状態における温度変動を示している。インク残量が少なくなってくると、図4で説明したように、インクドロップの体積は小さくなり、インクの流入量も少なくなるため、インクドロップの持ち去るエネルギおよび新たに流入するインクが奪うエネルギが共に小さくなり、結果としてヘッドの温度上昇は、インク残量が十分ある場合にくらべて大きくなる。T1は噴射開始前の温度、T2は所定の数のインクドロップを噴射したときの温度である。」
(2d)


以上の(2a)ないし(2d)によると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「インクタンクと、CPUと、インク残量検出装置とを備え、
インク残量検出装置は、A-D変換部、記憶部、ルックアップテーブル、演算部と、発熱体が設けられるヒータウェハと、ヒータウェハの温度を検出する温度検出手段とを備え、
演算部は、記憶部に記憶した、噴射開始前のヒータウェハの温度データと、噴射終了時のヒータウェハの温度データとを比較して差の値を演算し、演算した値とルックアップテーブルのデータとの比較結果に基づいて、インクの残量を検出し、残量が少なくなった場合、極少なくなった場合などを判定する、サーマルインクジェットプリンタ。」

4 判断
[取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について]
(1)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「薬剤吐出装置」は、電気作動式であることは自明であり、また、エアロゾルを吐出形成するものであるから、本件発明1の「電気作動式エアロゾル生成システム」に相当する。
また、甲1発明の「液状の薬剤」や「薬液」はいずれも、微小液滴として吐出されエアロゾルを形成するものであるから、本件発明1の「エアロゾル形成基質」及び「液体エアロゾル形成基質」に相当し、甲1発明の「タンク」はこの液状の薬剤が収容されるものであるから、本件発明1の「液体貯蔵部」に相当する。そうすると、甲1発明の「薬剤吐出装置」は、液状の薬剤を受け入れるものであるから、本件発明1の「エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システム」に相当する。
また、甲1発明の「ヒータ」は、液状の薬剤を加熱するための要素を有することは自明であるから、本件発明1の「液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータ」に相当する。
これにより、本件発明3と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システムであって、
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、
液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータと、
を備える電気作動式エアロゾル生成システム。」
[相違点A]
本件発明3では、「加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成された電気回路と、
を備え、
前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサをさらに備え、前記電気回路は、前記温度センサにより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の温度をモニタし、前記温度センサにより感知される温度に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成され、
前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって感知される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される」のに対して、甲1発明では、薬液残量又は規定量チェックを行うものの、加熱要素の温度を測定するための温度センサを備えず、また、上記のように構成された電気回路を備えない点。

イ 判断
相違点Aに係る本件発明3の構成の「電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって感知される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される」という事項は、液体貯蔵部内の液体エアロゾル形成基質が消費される加熱サイクルについて、その加熱サイクルの一部にわたって感知される温度の上昇率について、さらに連続する加熱サイクルにわたってモニタすることで、液体エアロゾル形成基質の減少を判定することを特定している。
これに対し、甲2発明は、「噴射開始前のヒータウェハの温度データと、噴射終了時のヒータウェハの温度データとを比較して差の値を演算」して「インクの残量を検出」するものの、当該演算して得られた値を「連続加熱サイクルにわたって」モニタすることでインクの「減少を判定」するものではないから、甲1発明の「薬液残量又は規定量チェック」の具体化手段として甲2発明のインク残量検出手段を適用しても、相違点Aに係る本件発明3の構成が得られないことは明らかである。
また、甲1発明は、「利用者の健康管理をサポートする入出力デバイスとしての薬剤吐出部を備える薬剤吐出装置」であるのに対し、甲2発明は「インクジェットプリンタ」であるから、両者は技術分野が異なり、組み合わせに係る積極的な動機付けはないし、仮に両者の組合せが可能であるとしても、甲1発明に甲2発明のインク残量の検出手段を適用することに加え、甲2発明の検出手段を、「連続加熱サイクルにわたって」モニタすることでインクの「減少を判定」することを含む手段へと変更することは、他の判定手段をさらに追加することと同等であるから、当該変更を当業者が適宜なし得る設計事項とはいえない。
以上から、相違点Aに係る本件発明3の構成は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
また、相違点Aに係る本件発明3の構成の上記事項については、甲3ないし甲6をみても開示されてないし、同事項が周知技術であるとの証拠も見出せない。

ウ 特許異議申立人の意見(平成30年3月23日付け意見書)について
特許異議申立人は、各加熱サイクルの一部にわたって感知される前記温度の上昇率を測定するものであることが、甲2に開示されている旨の主張をしているが(意見書10及び11ページ)、当該主張は、上記相違点Aに係る本件発明3の構成の「各加熱サイクルの一部にわたって感知される前記温度の上昇率」に対応するものであって、同構成の他の部分である「温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定する」こと、すなわち、温度の上昇率を連続加熱サイクルにわたってモニタすることによる判定(本件明細書【0069】ないし【0070】並びに図3)に対応する具体的な主張はない。したがって、特許異議申立人の主張は採用できないものである。

エ 小括
以上より、本件発明3は、甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明4
本件発明4は、本件発明3を更に減縮したものであり、本件発明3の発明特定事項を全て含むところ、上記のとおり本件発明3は、甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同様の理由により、本件発明4も甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1発明とを対比すると、一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システムであって、
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、
液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータと、
を備える電気作動式エアロゾル生成システム。」
[相違点B]
本件発明5では、「加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成された電気回路と、
を備え、
前記電気回路は、前記少なくとも1つの加熱要素の電気抵抗を測定し、該測定した電気抵抗から前記加熱要素の前記温度を解明するように構成され、
前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって解明される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される」のに対して、甲1発明では、薬液残量又は規定量チェックを行うものの、加熱要素の温度を測定するための温度センサを備えず、また、上記のように構成された電気回路を備えない点。

イ 判断
相違点Bに係る本件発明5の構成の「前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって解明される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される」という事項は、「温度の上昇率」を「連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより」「液体エアロゾル形成基質の減少を判定する」ことで、上記相違点Aに係る本件発明3の構成の上記事項と実質的に同一である。
したがって、上記相違点Aの判断で述べたことと同様に、甲2ないし甲6をみても、相違点Bに係る本件発明5の構成は開示されておらず、また、同構成は周知技術であるとの証拠も見出せない。

ウ 小括
以上より、本件発明5は、甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明6
本件発明6は、本件発明5を更に減縮したものであり、本件発明5の発明特定事項を全て含むところ、上記のとおり本件発明5は、甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同様の理由により、本件発明6も甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明11
本件発明11は、本件発明3ないし6を更に減縮したものであり、且つ本件発明3又は本件発明5の発明特定事項を全て含むところ、上記のとおり本件発明3又は5は、甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同様の理由により、本件発明11も甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明12について
ア 対比
本件発明12と甲1発明とを対比すると、一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータとを備えた電気作動式エアロゾル生成システム」
[相違点C]
本件発明12は、「電気作動式エアロゾル生成システムにより液体エアロゾル形成基質の減少を判定する方法であって、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を自動的に判定するステップを含み、
各加熱サイクルの一部にわたって前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、ことを特徴とする方法」であるのに対して、甲1発明では、薬液残量又は規定量チェックを行うものの、加熱要素の温度を測定するための温度センサを備えず、また、上記のように構成された電気回路を備えない点。

イ 判断
相違点Cに係る本件発明12の構成の「各加熱サイクルの一部にわたって前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される」という事項は、「温度の上昇率」を「連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより」「液体エアロゾル形成基質の減少を判定する」ことで、上記相違点Aに係る本件発明3の構成の上記事項と実質的に同一である。
したがって、上記相違点Aの判断で述べたことと同様に、甲2ないし甲6をみても、相違点Cに係る本件発明12の構成は開示されておらず、また、同構成は周知技術であるとの証拠も見出せない。

ウ 小括
以上より、本件発明12は、甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件発明13ないし15
本件発明13ないし15は、本件発明12を更に減縮したものであり、本件発明12の発明特定事項を全て含むところ、上記のとおり本件発明12は、甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同様の理由により、本件発明13ないし15も甲1、甲2及び甲3ないし6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 平成29年6月27日付け取消理由通知の「理由1(新規性)」「請求項1、4、7?9、11、12?15」について
請求項4及び請求項11ないし15については、上記「4」で述べたことと同様に実質相違するから、これらの請求項に係る発明は、甲1に記載された発明とはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)及び平成29年6月27日付け取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項3ないし6及び請求項11ないし15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3ないし6及び請求項11ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1、請求項2及び請求項7ないし10に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項1、請求項2及び請求項7ないし10に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システムであって、
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、
前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータと、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成された電気回路と、
を備え、
前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサをさらに備え、前記電気回路は、前記温度センサにより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の温度をモニタし、前記温度センサにより感知される温度に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成され、
前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって感知される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、
ことを特徴とする電気作動式エアロゾル生成システム。
【請求項4】
前記電気回路は、前記加熱要素に所定の電力を印加するように構成される、
ことを特徴とする請求項3に記載の電気作動式エアロゾル生成システム。
【請求項5】
エアロゾル形成基質を受け入れるための電気作動式エアロゾル生成システムであって、
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、
前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータと、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成された電気回路と、
を備え、
前記電気回路は、前記少なくとも1つの加熱要素の電気抵抗を測定し、該測定した電気抵抗から前記加熱要素の前記温度を解明するように構成され、
前記電気回路は、各加熱サイクルの一部にわたって解明される前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、
ことを特徴とする電気作動式エアロゾル生成システム。
【請求項6】
前記電気回路は、前記少なくとも1つの加熱要素を流れる電流及び前記少なくとも1つの加熱要素に加わる電圧を測定し、該測定した電流及び電圧から前記少なくとも1つの加熱要素の前記電気抵抗を求めることにより、前記少なくとも1つの加熱要素の前記電気抵抗を測定するように構成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の電気作動式エアロゾル生成システム。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記液体エアロゾル形成基質を前記液体貯蔵部から前記電気ヒータに運ぶための毛細管芯をさらに備える、
ことを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル生成システム。
【請求項12】
液体エアロゾル形成基質を貯蔵するための液体貯蔵部と、前記液体エアロゾル形成基質を加熱するための少なくとも1つの加熱要素を含む電気ヒータとを備えた電気作動式エアロゾル生成システムにより液体エアロゾル形成基質の減少を判定する方法であって、
前記加熱要素に印加される電力と結果的に生じる前記加熱要素の温度変化との関係に基づいて、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を自動的に判定するステップを含み、
各加熱サイクルの一部にわたって前記少なくとも1つの加熱要素の温度を測定するための温度センサにより感知される前記少なくとも1つの加熱要素の前記温度の上昇率を、前記液体貯蔵部内の前記液体エアロゾル形成基質が消費される連続加熱サイクルにわたってモニタすることにより、前記ヒータにより加熱される液体エアロゾル形成基質の減少を判定するように構成される、ことを特徴とする方法。
【請求項13】
電気作動式エアロゾル生成システムのための電気回路であって、請求項12に記載の方法を実行するように構成される、
ことを特徴とする電気回路。
【請求項14】
電気作動式エアロゾル生成システムのためのプログラム可能な電気回路上で実行された時に、該プログラム可能な電気回路に請求項12に記載の方法を実行させる、
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラムを記憶する、
ことを特徴とするコンピュータ可読記憶媒体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-29 
出願番号 特願2013-545406(P2013-545406)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A24F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 ひろみ白土 博之  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 藤原 直欣
井上 哲男
登録日 2016-09-09 
登録番号 特許第5999716号(P5999716)
権利者 フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム
発明の名称 液体基質の減少判定手段を有するエアロゾル生成システム  
代理人 須田 洋之  
代理人 近藤 直樹  
代理人 西島 孝喜  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 大塚 文昭  
代理人 上杉 浩  
代理人 西島 孝喜  
代理人 弟子丸 健  
代理人 鈴木 信彦  
代理人 上杉 浩  
代理人 須田 洋之  
代理人 大塚 文昭  
代理人 近藤 直樹  
代理人 鈴木 信彦  

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