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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1341979
異議申立番号 異議2016-701141  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-14 
確定日 2018-05-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5936299号発明「近赤外線カットフィルター、およびそれを備える固体撮像素子ならびに固体撮像装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5936299号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5、7?9〕、〔6、10?17〕について訂正することを認める。 特許第5936299号の請求項1?5、7?17に係る特許を維持する。 特許第5936299号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5936299号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る発明についての出願は、平成22年11月8日に特許出願され、平成28年5月20日に特許権の設定登録がされ、同年6月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?9に係る特許について、同年12月14日に特許異議申立人石井良夫により特許異議の申立て(以下、「特許異議申立(その1)」という。)がなされ、同年12月20日に特許異議申立人竹口美穂により、特許異議の申立て(以下、「特許異議申立(その2)」という。)がなされ、平成29年5月31日付けで取消理由が通知され、同年8月7日に意見書の提出がなされ、同年10月27日に特許異議申立人竹口美穂から上申書の提出がなされ、同年12月1付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成30年2月5日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年3月23日に特許異議申立人竹口美穂により意見書の提出がなされ、同年3月26日に特許異議申立人石井良夫により意見書の提出がなされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年2月5日になされた訂正請求による訂正(以下、当該訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?17について訂正するものであって、その内容は以下のとおりである(下線は、当合議体が付したものである。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦2/5」及び「(iii)30≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000」と記載されているのを、それぞれ「(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦3.7/50」及び「(iii)50≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?5及び7?9についても、同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「前記樹脂層が、近赤外線吸収剤を含有する」と記載されているのを、「前記樹脂層が、近赤外線吸収剤を含有し、該樹脂層と前記ガラス基板との間の密着性を確保する密着層を有し、前記積層板の両面に前記誘電体多層膜を有する」に訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?5及び7?9についても、同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(4) 訂正事項4
a 訂正事項4-1
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1?5のいずれか1項」に訂正する。
請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8及び9についても、同様に訂正する。

b 訂正事項4-2
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1?7のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1?5および7のいずれか1項」に訂正する。

c 訂正事項4-3
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1?7のいずれか1項」と記載されているのを、それぞれ「請求項1?5および7のいずれか1項」に訂正する。

(5) 訂正事項5
a 訂正事項5-1
特許請求の範囲の請求項6に、「前記ガラス基板と前記樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。」と記載されているのを、請求項1の記載を引用するものについて、独立形式の記載に改めて、「ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、下記式(ii)および(iii)を満たす積層板を含み、
前記ガラス基板と前記樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有し、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し、透過率が下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルター。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦2/5
(iii)30≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上
(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満」に訂正し、新たな請求項10とする。

b 訂正事項5-2
特許請求の範囲の請求項6のうち、請求項2の記載を引用するものについて、訂正事項5-1による訂正に伴って、訂正後の請求項10の記載を引用する形式の記載に改めて、「前記樹脂層が、近赤外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項10に記載の近赤外線カットフィルター。」 とし、新たな請求項11とする。

c 訂正事項5-3
特許請求の範囲の請求項6のうち、請求項3の記載を引用するものについて、訂正事項5-1及び5-2による訂正に伴って、訂正後の請求項10または11の記載を引用する形式の記載に改めて、「前記積層板が、下記(i)の要件を満たすことを特徴とする請求項10または11に記載の近赤外線カットフィルター。
(i)吸収極大波長を600?800(nm)に有する」とし、新たな請求項12とする。

d 訂正事項5-4
特許請求の範囲の請求項6のうち、請求項4の記載を引用するものについて、訂正事項5-1?5-3による訂正に伴って、訂正後の請求項10?12の記載を引用する形式の記載に改めて、「前記樹脂層が、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、および環状オレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする請求項10?12のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。」とし、新たな請求項13とする。

e 訂正事項5-5
特許請求の範囲の請求項6のうち、請求項5の記載を引用するものについて、訂正事項5-1?5-4による訂正に伴って、訂正後の請求項11?13の記載を引用する形式の記載に改めて、「前記近赤外線吸収剤が下記(iv)を満たすことを特徴とする請求項11?13のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
(iv)大気中で熱重量分析にて測定した5%重量減少温度が250℃以上である」とし、新たな請求項14とする。

f 訂正事項5-6
特許請求の範囲の請求項7に、「前記樹脂層のガラス基板が積層された面の反対側の面に、可視光反射防止層が形成されていることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。」と記載されているのを、請求項7のうち、請求項6の記載を引用するものについて、訂正事項5-1?訂正事項5-5による訂正に伴って、訂正後の請求項10?14の記載を引用する形式の記載に改めて、「前記樹脂層のガラス基板が積層された面の反対側の面に、可視光反射防止層が形成されていることを特徴とする請求項10?14のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。」に訂正し、新たな請求項15とする。

d 訂正事項5-7
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1?7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像用素子。」と記載されているのを、請求項8のうち、請求項6を引用するものについて、訂正事項5-1?訂正事項5-6による訂正に伴って、訂正後の請求項10?15の記載を引用する形式の記載に改めて、「請求項10?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像用素子。」に訂正し、新たな請求項16とする。

e 訂正事項5-8
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1?7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。」と記載されているのを、請求項9のうち、請求項6を引用するものについて、訂正事項5-1?訂正事項5-6による訂正に伴って、訂正後の請求項10?15の記載を引用する形式の記載に改めて、「請求項10?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。」に訂正し、新たな請求項17とする。

2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0173】、【0182】、【0183】、【0184】【表1】の実施例K’-13の記載及び【0030】の記載に基づいて、「(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)」の数値範囲における上限値を、「2/5」から、「3.7/50」として、「(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)」の数値範囲を限定するとともに、「ガラス基板の厚み(μm)」の数値範囲における下限値(μm)を、「30」から「50」として、「ガラス基板の厚み(μm)」の数値範囲を限定する訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、この訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?5及び7?9についても、同様のことがいえる。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、「近赤外線カットフィルター」を、「該樹脂層と前記ガラス基板との間に密着性を確保する密着層を有」するものに限定するとともに、「前記積層板の両面に前記誘電体多層膜を有」するものに限定する訂正である。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、この訂正に係る「前記積層板の両面に前記誘電体多層膜を有する」ことに関しては、本件特許の願書に添付した明細書の【0106】には、「本発明において、誘電体多層膜は・・・両面に設けてもよい。・・・両面に設ける場合には、高い強度を有し、ソリの生じにくい近赤外線カットフィルターを得ることができる。」との記載がある。
また、この訂正に係る「該樹脂層と前記ガラス基板との間に密着性を確保する密着層を有」することに関しては、本件特許の願書に添付した明細書の【0084】には、「≪硬化層≫ 前記樹脂層とガラス基板は、互いに化学的な組成、および熱線膨張率が異なるため、樹脂層とガラス基板との間に硬化層を設けて、それらの十分な密着性を確保することが好ましい。本発明に用いる硬化層は樹脂層とガラス基板との間の密着性を確保できる材料からなれば、特に限定されないが、例えば、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有すると、樹脂層とガラス基板との密着性が高くなるため好ましい。」との記載があり、当該記載から、「(該)樹脂層と(前記)ガラス基板との間」に「密着性を確保する密着層」を設けることが記載されていることは、当業者にとって自明のことと認められる。
してみると、この訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?5及び7?9についても、同様のことがいえる。

(3) 訂正事項3?訂正事項5
訂正事項3及び訂正事項5による訂正は、請求項6を削除するとともに、他の請求項を引用する形式で記載されていた訂正前の請求項6のうち請求項1の記載を引用するものについて、独立形式に改めて、訂正後の請求項10とし、さらに、訂正前の請求項6のうち請求項2?5の記載を引用するものと、訂正前の請求項7?9のうち請求項6を直接又は間接的に引用するものとについて、当該独立形式に改めた訂正後の請求項10等の記載を直接又は間接的に引用する形式の記載に改めて、訂正後の請求項11?14と、訂正後の請求項15?17とするものである。
また、訂正事項4による訂正は、訂正事項3及び訂正事項5による訂正の結果、訂正前の請求項7?9のうち請求項6を直接又は間接的に引用するものが、当該独立形式に改めた訂正後の請求項10等の記載を直接又は間接的に引用する形式の記載に改められたことに伴って、請求項7?9の引用先に係る記載から請求項6の記載を引用する部分を除くものである。
したがって、訂正事項3?訂正事項5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、請求項間の引用関係の解消を目的とする訂正である。
また、この訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 訂正における一群の請求項の存否
訂正事項1?訂正事項5に係る本件訂正前の請求項1?9について、請求項2?9はそれぞれ請求項1の記載を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に適合してなされたものである。
ここで、特許権者から、訂正後の請求項10の訂正が認められる場合、請求項6及び請求項10?17は、請求項1?5及び7?9とは別途訂正することが求められていることから、訂正単位を、訂正後の請求項〔1?5、7?9〕、〔6、10?17〕として取り扱うこととする。

3 訂正の適否のまとめ
前記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とし、同条第3項及び第4項の規定に適合し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5,7?9〕、〔6,10?17〕について請求項ごとに訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
上記「第2」のとおり、訂正後の請求項〔1?5、7?9〕、〔6,10?17〕について本件訂正が認められるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5、7?17に係る発明(以下、それぞれを「本件訂正発明1」?「本件訂正発明5」、「本件訂正発明7」?「本件訂正発明17」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5、7?17に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、下記式(ii)および(iii)を満たす積層板を含み、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し、透過率が下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルター。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦3.7/50
(iii)50≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上
(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満

【請求項2】
前記樹脂層が、近赤外線吸収剤を含有し、
該樹脂層と前記ガラス基板との間の密着性を確保する密着層を有し、
前記積層板の両面に前記誘電体多層膜を有することを特徴とする請求項1に記載の近赤外線カットフィルター。

【請求項3】
前記積層板が、下記(i)の要件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線カットフィルター。
(i)吸収極大波長を600?800(nm)に有する

【請求項4】
前記樹脂層が、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、および環状オレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。

【請求項5】
前記近赤外線吸収剤が下記(iv)を満たすことを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
(iv)大気中で熱重量分析にて測定した5%重量減少温度が250℃以上である

【請求項7】
前記樹脂層のガラス基板が積層された面の反対側の面に、可視光反射防止層が形成されていることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。

【請求項8】
請求項1?5および7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像用素子。

【請求項9】
請求項1?5及び7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。

【請求項10】
ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、下記式(ii)および(iii)を満たす積層板を含み、
前記ガラス基板と前記樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有し、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し、透過率が下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルター。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦2/5
(iii)30≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上
(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満

【請求項11】
前記樹脂層が、近赤外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項10に記載の近赤外線カットフィルター。

【請求項12】
前記積層板が、下記(i)の要件を満たすことを特徴とする請求項10または11に記載の近赤外線カットフィルター。
(i)吸収極大波長を600?800(nm)に有する

【請求項13】
前記樹脂層が、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、および環状オレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする請求項10?12のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。

【請求項14】
前記近赤外線吸収剤が下記(iv)を満たすことを特徴とする請求項11?13のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
(iv)大気中で熱重量分析にて測定した5%重量減少温度が250℃以上である

【請求項15】
前記樹脂層のガラス基板が積層された面の反対側の面に、可視光反射防止層が形成されていることを特徴とする請求項10?14のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。

【請求項16】
請求項10?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像用素子。

【請求項17】
請求項10?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。」

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?9に対して、平成29年12月1付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、概略以下のとおりである。
(1)取消理由1(特許法第29条第2項(引用例1を主引用例とする場合))
上記請求項1?9に係る発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(特許法第29条第2項(引用例2を主引用例とする場合))
上記請求項1?9に係る発明は、当業者が引用例2に記載された発明及び引用例3の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(特許法第29条第2項(引用例3を主引用例とする場合))
上記請求項1?9に係る発明は、当業者が引用例3に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(引用例等一覧)
引用例1:特開2008-181121号公報
(特許異議申立(その1)における甲第1号証、特許異議申立(その2)における甲第5号証)
引用例2:中国特許出願公開第101750654号明細書
(特許異議申立(その1)における甲第2号証、特許異議申立(その2)における甲第1号証)
引用例3:特開2009-132091号公報
(特許異議申立(その2)における甲第4号証)

3 取消理由1(引用例1を主引用例とする場合)についての判断
(1) 引用例1に記載された事項
引用例1には、以下の事項が記載されている。(下線部は、当合議体が付したものである。以下、同じ。)
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターであって、
該フィルターは、厚みが200μm未満であり、かつ基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成されたものであることを特徴とする光選択透過フィルター。
【請求項2】
前記光選択透過フィルターは、基材及び光選択透過層からなり、
該基材は、耐リフロー性機能フィルムからなることを特徴とする請求項1記載の光選択透過フィルター。
【請求項3】
前記耐リフロー性機能フィルムは、下記(a)?(c)から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2記載の光選択透過フィルター。
(a) フッ素化芳香族ポリマー、多環芳香族ポリマー、ポリイミド樹脂、含フッ素高分子化合物及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一種を含んでなる耐リフロー性樹脂フィルム
(b) ガラスフィルム
(c) (a)及び(b)を積層させてなる積層フィルム
【請求項4】
前記光選択透過フィルターは、厚みが100μm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
【請求項5】
前記光選択透過フィルターは、厚みが30?90μmであることを特徴とする請求項4記載の光選択透過フィルター。
【請求項6】
前記光選択透過フィルターは、厚みが1?10μmである光選択透過層を有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
【請求項7】
前記光選択透過フィルターは、誘電体多層膜からなる光選択透過層を有することを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
【請求項8】
前記基材は、厚みが100μm以下のガラスフィルム、又は、厚みが100μm以下のガラスフィルムと耐リフロー性樹脂フィルムとの積層フィルムであることを特徴とする請求項3?7のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
【請求項9】
前記光選択透過フィルターは、波長が400?600nmにおける光の透過率が85%以上であり、かつ800?1000nmにおける光の透過率が5%以下の赤外カットフィルターであることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
【請求項10】
前記光選択透過フィルターは、波長が300?380nmにおける光の透過率が5%以下の紫外線・赤外線カットフィルターであることを特徴とする請求項9記載の光選択透過フィルター。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光選択透過フィルターに関する。より詳しくは、レンズユニット等の光学用途やオプトデバイス用途に有用であり、その他、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等として用いることができる光選択透過フィルターに関する。」

ウ 「【背景技術】
【0002】
光選択透過フィルターは、例えば、機械部品、電気・電子部品、自動車部品等として有用であり、特に光学部材として好適に用いられるものである。例えば、カメラモジュールにおいては、光学ノイズとなる赤外線(特に波長>800nm)を遮断し、反対波より吸収波の方が小さくなるように、赤外線を遮断(カット)するフィルターが用いられている。現在は、ガラスに金属等を蒸着させ無機多層膜とし、各波長の屈折率を制御した赤外線遮断ガラスが用いられている。近年、光学部材等においては、例えば、デジタルカメラモジュールが携帯電話に搭載されるなど小型化が進み、光学部材の小型化が一層求められている。それにともなって、デジタルカメラモジュール等に用いられる赤外線をカットするフィルターや、レンズ等を有するレンズユニットの小型化が望まれるところである。
【0003】
近赤外線カットフィルターに関し、特定のガラス転移温度と線膨張係数とを有する熱可塑性樹脂製の透明基板の一方の面に、屈折率の異なる誘電体層を交互に積層した誘電体多層膜からなる近赤外線反射膜を有し、前記透明基板の他方の面に等価屈折率膜、反射防止膜、ハードコート膜からなる群より選ばれる少なくとも1種の機能膜を有する近赤外線カットフィルターが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ノルボルネン系樹脂製基板と近赤外線反射膜とを有する近赤外線カットフィルターが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、赤外線を反射又は遮断する膜を蒸着形成する場合は、蒸着時には数百℃以上の温度がかかるため、基板材料の耐熱性が必要となる。そのために、基板材料の耐熱性を充分なものとし、種々の赤外線を遮断する材料を様々な方法により形成できるようにする工夫の余地があった。
【0004】
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、光を選択的に遮断し、可視光等の特定波長の透過率が高く、しかも充分に薄く、更に充分に薄くても耐熱性に優れた光選択透過フィルター、及び、該光選択透過フィルターを有するレンズユニットを提供することを目的とするものである。」

エ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターについて種々検討したところ、光選択透過フィルターを薄くして、焦点距離を短くし、光路を短縮することができ、光選択透過フィルターを用いたカメラモジュール等の光学部材において有用であることを見いだした。また、光選択透過フィルターの基材を特定の構成とすることにより、薄膜化と耐半田リフロー(耐熱)性を両立できる光選択透過フィルターとなることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、光選択透過フィルターを備えるレンズユニットを小型化することができ、このような光学用途やオプトデバイス用途や、その他、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の様々な用途に好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターであって、上記フィルターは、厚みが200μm未満であり、かつ基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成されたものである光選択透過フィルターである。
本発明はまた、光選択透過フィルターとレンズとを備えるレンズユニットでもある。」

オ 「【0008】
本発明の光選択透過フィルターは、光の透過率を選択的に低減し、厚みが200μm未満である。特に光学部材に好適に用いることができるものである。
〔光選択透過フィルターの構成〕
上記光選択透過フィルターは、厚みが200μm未満である。光選択透過フィルターの厚みとしては、該光選択透過フィルターの最大厚みが200μm未満であることをいう。上記光選択透過フィルターの厚みとしてより好ましくは、薄膜化要求に対応し得る点で、100μm以下であり、更に好ましくは、90μm以下であり、特に好ましくは、75μm以下であり、最も好ましくは、50μm以下である。また、耐リフロー性、特に260℃の温度における耐熱性に優れる点で、上記光選択透過フィルターの厚みとして好ましくは、1μm以上であり、より好ましくは、10μm以上であり、更に好ましくは、30μm以上である。光選択透過フィルターの厚みの範囲としては、1?90μmであることが好ましく、より好ましくは、10?90μmであり、更に好ましくは、30?90μmであり、特に好ましくは、30?75μmであり、最も好ましくは、30?60μmである。
【0009】
上記光選択透過フィルターの厚みを200μm未満とすることにより、光選択透過フィルターを、小型化、軽量化することができ、種々の用途に好適に用いることができる。特に、光学部材等の光学用途において好適に用いることができる。光学用途においては、他の光学部材と同様に光選択透過フィルターも小型化、軽量化が強く求められており、従来用いられてきた厚みが200μm以上のフィルターでは、これらの要求を満たすことはできなかった。本発明の光選択透過フィルターは、厚みを200μm未満とすることで、薄膜化を達成でき、特にレンズユニットに用いた場合に、レンズユニットの低背化を実現することができる。言い換えると200μm未満の薄い光選択透過フィルターを光学部材として用いた場合に、光路を短縮することができ、該光学部材を小さくすることができる。具体的には、カメラモジュールにおいては、レンズと光選択透過フィルターとシーモスセンサーとを有することとなる。・・・(中略)・・・図1に示すように、光選択透過フィルターは、所望の波長の光(カメラモジュールにおいては、例えば、700nm以上の波長の光)をカットし、シーモスセンサーの誤作動を防ぐ役割がある。カメラモジュールに光選択透過フィルターを入れると、焦点距離が伸びるため、バックフォーカスが伸張し、モジュールが大きくなる。光選択透過フィルターの厚みがtで屈折率nが1.5程度の場合、図2に示すように、バックフォーカスが約t/3伸張し、モジュールが大きくなるが、光選択透過フィルターを薄くして、焦点距離を短くし、モジュールを小さくすることができる。それにより、例えば、1/10インチの光学サイズの光路長としては、光選択透過フィルターなしの場合の120%以下とすることが好ましい。より好ましくは、110%以下であり、更に好ましくは、105%以下である。
【0010】
上記光選択透過フィルターは、基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成されたものである。これによれば、光選択透過フィルターを耐リフロー性に優れるものとすることができ、光選択透過フィルターの厚みが薄くても耐熱性に優れたものとすることができる。また、上記光選択透過フィルターは、耐リフロー性機能フィルムで構成されたものであることが好ましい。すなわち、上記構成の光選択透過フィルターにおいては、基材(基材フィルム)が耐リフロー性機能フィルムであることが好ましい。光選択透過フィルターが耐リフロー性機能フィルムで構成された耐リフロー性に優れるものとすることにより、該光選択透過フィルターを実装する際の耐熱性を充分なものとすることができ、リフローブルカメラモジュール等として好適に用いることができる。また、基材に低屈折率材料及び高屈折率材料(例えば、無機酸化物等)を蒸着することで、基材と積層させて光選択透過層を形成する場合には、蒸着による耐熱性が必要となり、この点からも、耐リフロー性を有するものであることが好ましい。なお、耐リフロー性機能フィルムとは、ハンダ付け工程の加熱に耐えるフィルムであることをいい、カメラモジュール次世代仕様として有望視されているReflowable仕様のフィルムである。このように、光選択透過フィルターが充分な耐熱性を有することにより、自動実装化が可能となり、実装コストが充分に低減され、各種用途に好適に用いることができる。耐熱性と光の選択透過性に優れる観点から、上記光選択透過フィルターは、基材及び光選択透過層からなり、上記基材は、耐リフロー性機能フィルムからなることが好ましい。
上記光選択透過フィルターは、耐熱性を有するものであることが好ましい。・・・(中略)・・・。耐リフロー性を有することにより、光選択透過フィルターを種々の用途に好適に用いることができ、特にカメラモジュール等の光学用途に好適である。
【0011】
上記耐リフロー性機能フィルムとは、・・・(中略)・・・特に好ましくは、260℃・3min、かつ200℃・5hrで形状を保持するものである。耐リフロー性がない場合は、上記条件で保持した場合に、フィルムが溶解し形状を保てず、蒸着することができなかったり、形状が変化して実装することができなくなるおそれがある。本発明において耐リフロー性を有するとは、熱を加える前後での形状・寸法変化が、元の形状・寸法の20%以下であることをいう。形状・寸法変化として好ましくは、5%以下であり、更に好ましくは、1%以下である。
なお、250℃・3minで形状を保持しているとは、実装時の耐リフロー性が充分であることを示し、200℃・5hrで形状を保持しているとは、光選択透過フィルターの基材上に機能性材料層を積層させる蒸着時の耐リフロー性が充分であることを示す。また、260℃・3minで形状を保持する場合には、実装時の耐リフロー性がより向上されていることを示す。
・・・(中略)・・・
【0013】
上記光選択透過フィルターは、選択的に低減させる波長以外の波長(すなわち、光選択透過フィルターを透過する波長)の透過率が一定であることが好ましい。特に、カメラモジュールや、撮像レンズのレンズユニットにおける光ノイズを遮断するためのフィルター等の光学用途に用いる場合、可視光380?780nmの透過率が可視光の全波長域において一定であることが好ましい。上記用途においては、可視光のうち、波長400?600nmで、一定であることが特に好ましい。透過する光の強さが波長に依存せず一定であると、特定の波長の光に強弱が生じず、透過光が着色しないこととなる。したがって光選択透過フィルターを透過した光が着色せず、上記用途に好適に用いることができることとなる。
上記透過率としては高い方が好ましい。具体的には、85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上である。透過率が低いと、光選択透過フィルターを通過する光の強度が充分確保されず、上記用途に好適に用いることができないおそれがある。
上記光選択透過フィルターとして、より好ましくは、可視光のうち、波長400?600nmで、全波長の透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上である。なお、反射又は吸収により所望の波長を遮断することが好ましい。
【0014】
上記光選択透過フィルターは、このような機能を有し、厚みが200μm未満であり、かつ基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成されたものである限り、その構成、形態等は特に限定されないが、機能性材料層(光選択透過層、反射防止層、等価屈折率膜、ハードコート層、光学補償層等)を基材の上に形成する形態が好ましい。機能性材料層とは、機能性材料で構成された層である。機能性材料層及び機能性材料については後に詳述する。所望の光を選択的に透過し、それ以外の光をカットする機能を有する光選択透過層としては、低減する光の波長に応じて、構成等を適宜選択することができるが、耐熱性に優れる点からは、光選択透過層が、無機層からなることが好ましい。例えば、基材の上(入射光の入射する側)に低屈折率材料及び高屈折率材料を40?60層(6μm)程度積層させた構造の多層膜(多層蒸着層、多層蒸着膜、誘電体多層膜とも言う。)であることが好ましい。特に、所望の光を充分に低減させたい場合、多層構造とすることが好ましい。多層構造とすることで、選択的に低減する波長の透過率を、当該全波長領域において容易に10%以下にすることができることとなる。言い換えると、透過させたい波長領域の透過率は高く、低減させたい波長領域の透過率は低いシャープな光選択透過フィルターとすることができる。具体的には、光選択透過フィルターが780nm?10μmの赤外光を低減する赤外カットフィルターである場合、780nmを境に透過率が急変することとなる。例えば、780nm未満の光は透過率70%以上で透過し、780nm以上では透過率10%以下しか透過しない。このように、透過率がシャープに変わることで、例えば、カメラモジュールに用いる場合、シーモスセンサーに届く光から赤外光を選択的に除去できる等の利点がある。
【0015】
上記多層膜を光選択透過層として有する光選択透過フィルターにおいては、低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に積層させて、光選択透過層を形成し、低減させたい波長(例えば、赤外領域や紫外領域等)の光を選択的に反射させるとともに、入射光と反射光の位相を半波長ずれるようにして、光の透過率を選択的に低減させることとなる。また、上記光選択透過層は、誘電体層Aと、誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜からなる光選択透過層(例えば、赤外線反射膜、紫外線反射膜又は紫外線・赤外線反射膜等。)であってもよい。このような誘電体多層膜を少なくとも透明基板(基材)の一方の面に有することにより、所望の波長の光を選択的に反射する能力に優れた光選択透過フィルターとすることができる。このように、光選択透過フィルターは、誘電体多層膜からなる光選択透過層を有することが好ましい。なお、光選択透過層は、単層構造であっても多層構造であってもよく、基材の片面又は両面にあってもよい。光選択透過層については、後に詳述する。」

カ 「【0016】
〔基材〕
上記光選択透過フィルターを構成する基材の材料としては、耐リフロー性機能フィルムを含むものであれば特に限定されず、有機材料、無機材料、有機・無機複合材料のいずれであってもよく、これらは1種又は2種以上を用いてもよい。上記有機材料は、取り扱いやすく、無機材料(例えば、ガラス)は、透明性・熱膨張率に優れ(透明性が高く、熱膨張率が小さい)、有機・無機複合材料は、両者の特徴を備えたものが好適である。これらの材料は、いずれも好適に用いることができるが、耐リフロー性を有する材料であることが好ましい。具体的には、上記耐リフロー性機能フィルムが、下記(a)?(c)から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。好ましい耐リフロー性樹脂フィルムの(a)としては、(1)フッ素化芳香族ポリマー、(2)多環芳香族ポリマー、(3)ポリイミド樹脂、(4)含フッ素高分子化合物及び(5)エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む耐リフロー性樹脂フィルムであることが好ましい。無機材料として好ましくは、(b)ガラスフィルムである。また、有機・無機複合材料の(c)としては、(a)と(b)との積層フィルムが特に好ましい。
このように、上記光選択透過フィルターは、基材として、フッ素化芳香族ポリマー、多環芳香族ポリマー、ポリイミド樹脂、含フッ素高分子化合物、エポキシ樹脂及びガラスフィルムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む光選択透過フィルターもまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0017】
上記(a)の(1)?(5)として特に好ましくは、
(1)フッ素化芳香族ポリマーとしては、下記式(1-1)、(1-2):
【0018】
【化1】
・・・(中略)・・・
【0019】
・・・(中略)・・・で表されるポリエーテルケトン、特にフッ素化ポリエーテルケトン(FPEK)、
(2)多環芳香族ポリマーとしては、下記式(2):
【0020】
【化2】
・・・(中略)・・・
【0025】
・・・(中略)・・・
(5)エポキシ樹脂としては、熱硬化性エポキシ樹脂組成物、光硬化性エポキシ樹脂組成物が好ましい。
・・・(中略)・・・
(b)のガラスフィルムとしては、SCHOTT社製ガラスコード:D263、30μmである。
(c)の積層フィルムとしては、上述した(a)の(1)?(5)と(b)とを積層してなる積層フィルムの場合、(b)と積層する特に好ましい(a)としては、(1)、(5)、又は、(1)と(5)との複合樹脂である。
光選択透過フィルターを構成する材料の(1)?(5)及び(b)の詳細については、後に説明する。
【0026】
上記基材の材料としては、1種又は2種以上を好適に用いることができる。2種以上を用いる場合は、混合したり、積層したりして用いることができる。中でも、2種以上を積層させて基材が多層構造を有する形態とすると、用いる材料の複数の特性が発揮されて、基材として好適に用いることができる。有機材料を無機材料の一方又は両方に積層させた基材を用いると、機能性材料層を基材の上に更に積層させる場合に、基材の変形が生じず、光学部材として好適に用いることができる。具体的には、ガラスフィルムの片面又は両面に有機樹脂を形成する形態が好ましい。より好ましくは、両面に有機樹脂を形成させる形態である。積層する有機樹脂としては、上述した(1)?(5)を用いることが好ましい。また、光選択透過フィルターの薄型化及び曲げ強度の向上の点からは、ガラスフィルムの厚みは100μm以下であることが好ましく、すなわち、上記基材は、厚みが100μm以下のガラスフィルムと耐リフロー性樹脂フィルムとの積層フィルムであることが好ましい。また、割れを防ぐという観点では、機能性材料層をのせた後に有機物を積層させてもよい。
上記基材の厚みとしては、光選択透過フィルターの形状に応じて適宜選択することができ、通常は、フィルム状である。
上述した基材は、通常用いられる方法によりフィルムを得ることができる。例えば、(1)?(5)の樹脂材料は、溶剤キャスト法、溶融成形法等により成膜することができる。(b)については、注型、塗布等することで得ることができる。
【0027】
上記基材としては、上述した材料であればいずれも好適に用いることができるが、光選択透過フィルターを200μm未満、より好ましくは100μm以下に薄膜化が必要なカメラモジュール等の用途においては、無機材料を用いる場合は、有機材料及び/又は有機・無機複合材料と共に用いる形態が好ましい。カメラモジュール等の光学用途に光選択透過フィルターを用いる場合は、光選択透過フィルターが充分に薄く光選択透過性に優れるだけでなく、強度や柔軟性に優れることが求められる。光選択透過フィルターを構成する基材も同様に、強度や柔軟性に優れることが必要である。無機材料、例えば、ガラスを単独で基材として用いた光選択透過フィルターは、光学用途としては強度や柔軟性が充分ではない場合がある。したがって、光選択透過フィルターを薄型化して、光焦点距離を充分に短くするとともに、強度や柔軟性を優れたものとするために、無機材料を基材に用いる場合は、無機材料をその他の材料と共に用いる形態が好ましい。無機材料をその他の材料と共に用いることで、搬送中に破損したり、成形時や機器への組入時、多層化や機能性の付与を行うための後工程中に割れ等が生じず、作業性に優れた基材とすることができる。例えば、ガラスを150μm以下まで薄膜化したものと有機材料とを共に用いることで、ガラス単独の場合に比べて強度、柔軟性、作業性が充分に優れたものとなり、光学用途に好適に用いることができる光選択透過フィルターとすることができる。
【0028】
〔密着性に優れる基材〕
上記基材としては、隣接する層(例えば、光選択透過層)との密着性に優れる観点からは、上記(a)の(1)?(5)、(b)及び(c)の中でも、(1)フッ素化芳香族ポリマー、(2)多環芳香族ポリマー、(3)ポリイミド樹脂、及び、(5)エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。具体的には、FPEK(フッ素化芳香族ポリマー)、PEN(多環芳香族ポリマー)、ポリイミド(ポリイミド樹脂)、エポキシ樹脂(エポキシ樹脂)が好ましい。より好ましくは、PENである。
上記基材として上述のような樹脂フィルムを用いると、機能性材料層として、例えば、無機層を蒸着して形成する場合、蒸着した無機層と基材との密着性に優れる蒸着フィルムとすることができる。このように、機能性材料層と基材とを有する光選択透過フィルターであって、該基材は、フッ素化芳香族ポリマー、多環芳香族ポリマー、ポリイミド樹脂、及び、エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一種を含むものである光選択透過フィルターもまた、本発明の好ましい形態の一つである。なお、機能性材料層は、後述するものから適宜選択して用いることができる。
【0029】
上記光選択透過フィルターの特に好ましい形態としては、光選択透過層と基材(樹脂フィルム)とからなる積層フィルムであり、該樹脂フィルムは、エポキシ樹脂、FPEK、ポリイミド及びPENから選ばれる少なくとも一種を含むことである。これによれば、光選択透過層と樹脂フィルムとの密着性に優れる光選択透過フィルターとすることができる。・・・(中略)・・・光選択透過層を構成する材料としては、誘電体多層膜を用いることが好ましく、シリカやチタニア等を用いることがより好ましい。また、密着性の観点からは、光選択透過層としてシリカやチタニアを用い、かつ樹脂フィルムとしてPENを用いることが更に好ましい。上記光選択透過層の厚さは、150nm以上であることが好ましく、より好ましくは1.5μm以上である。
【0030】
上記基材は、耐熱性を有するものであることが好ましい。基材の耐熱温度としては10%分解温度が200℃以上であることが好ましく、250℃以上がより好ましく、300℃以上が更に好ましく、350℃以上が最も好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)は、80℃以上であることが好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上が更に好ましく、250℃以上が最も好ましい。
上記耐熱性の樹脂フィルムとしては、基材全体として上記耐熱性を有するものであればよく、基材の構造や構成する材料は特に限定されない。基材の構造としては、上述した単層構造及び多層構造のいずれも好適に用いることができる。また、基材を構成する材料は、上述の中から適宜選択して用いることが好ましい。また、耐熱性の樹脂フィルムに含まれる該有機材料は耐熱性を有するものあることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0035】
〔光選択透過フィルターの作製方法〕
上記基材への機能性材料層の形成方法としては、基材上に機能性材料層が密着し、光選択透過フィルターとして用いることができる限り特に限定されない。例えば、基材上に光選択透過層を形成する場合、基材フィルムを蒸着装置等の中に設置し、その基材の上に(片面又は両面)光選択透過層を蒸着により形成して密着させる。その後、基材及び光選択透過層からなる部分(基材上に光選択透過層が形成された部分)を、適宜必要なサイズに切り出し、光選択透過フィルターとする。経済性の観点からは、基材上の光選択透過層の面積が大きい(基材と光選択透過層との面積が近い)ほど、多数個の光選択透過フィルターを切り出せるため好ましい。光選択透過層の光選択透過性の均一化を図る観点からは、基材上の光選択透過層の面積が小さいほど、光選択透過層の膜厚や平滑性にむらが生じないため好ましい。基材のサイズと、その上に形成する光選択透過層の面積や形状は、上記の観点から適宜設定することが好ましい。
光選択透過フィルターの切り出し方法は、レーザーカット、打ち抜き法、ダイシングカットなどを用いることができる。量産の観点からは、打ち抜き法がより好ましい。
基材が有機材料である場合、どのような切り出し方法を用いても、基材の欠け、われ等が生じないため好ましい。更に、基材が無機材料からなる場合では切り出しが困難な、円形、多角形等の形状にも対応できる。上述したことから、有機材料からなる基材に光選択透過層を蒸着し、打ち抜き法により、光選択透過フィルターを得ることが最も好ましい。すなわち、所望の波長の光を選択的に低減する光選択透過フィルターを製造する方法であって、該製造方法は、有機材料からなる基材に光選択透過層を蒸着により形成する工程と、蒸着を行った基材を打ち抜き法により切り出す工程とを含む光選択透過フィルターの製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
・・・(中略)・・・
【0037】
上記光選択透過フィルターは、両面が機能性材料で積層された構造を持つことが好ましい。例えば、基材の両面が機能性材料で積層された構造を持つことが好ましい。光選択透過フィルターの両面を機能性材料で積層させた機能性材料層を形成することにより、より充実した機能を有する光選択透過フィルターとすることができる。このように、フィルターの両面に機能を持つ光選択透過フィルターもまた、本発明の好ましい形態の一つである。また、蒸着により機能性材料を積層させる場合には、両面に材料を蒸着させることになることから、蒸着時及び/又は実装時のカールを抑制することができ、種々の用途により好適な光選択透過フィルターとすることができる。
上記機能性材料層としては、光選択透過フィルターに付与する機能によって適宜選択することができ、光選択透過層、強靱性を有する層、光選択透過フィルターにかかる応力等を吸収するバッファー層(中間層、緩和層)、補強層、親水層、撥水層、反射防止層、位相差層、屈折率調節層、粘着層、導電層、絶縁層、光学補償層等から適宜選択することができる。また、光選択透過層に加えて、更に機能性材料層を形成する場合には、基材と光選択透過層の中間の熱膨張率を有する層を更に積層してもよい。
上記光選択透過フィルターにおいて、基材の両面には、それぞれ異なった機能性材料を積層させてもよく、同じ機能性材料を積層させてもよい。上記の中でも好ましくは、(1)両面が光選択透過層である形態、(2)片側が光選択透過層でもう一方が反射防止層である形態、(3)片側が光選択透過層でもう一方が反射防止層/光選択透過層である形態である。これらの中でも、(1)の形態が好ましい。なお、上記機能性材料層は、それぞれの機能が最も発揮できる形態に積層されることが好ましい。本発明においては、光選択透過層を適宜選択することにより所望の波長の透過率を低減させることができる。例えば、赤外光を低減する場合、上記(1)?(3)の形態の中でも光選択透過層が、赤外カット層となる。
【0038】
〔耐熱性に優れた形態〕
上記光選択透過フィルターは、耐リフロー性機能フィルム(例えば、耐リフロー性樹脂フィルム)の両面に、機能性材料層を積層してなる光選択透過フィルターであることが好ましい。基材を耐リフロー性機能フィルムとし、基材の両表面に機能性材料層を積層させた光選択透過フィルターとすることで、より耐熱性を向上させることができる。また、機能性材料層が光選択透過層である場合、該光選択透過層は、光の透過率を選択的に低減するものであればよく、単層であってもよいし、多層膜であってもよく特に限定されない。
・・・(中略)・・・
【0041】
上記選択的に低減する波長の透過率、それ以外の波長の透過率としては、上述と同様であることが好ましい。すなわち、赤外カットフィルターは、780?1000nmの赤外線の透過率を選択的に5%以下に低減するものが好ましい。その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましいが、フィルターの用途に応じて特定の波長域の透過率のみが高いものであってもよい。例えば、上記赤外カットフィルターをカメラモジュールとして用いる場合には、赤外光の透過率が5%以下であり、可視光(380?780nm)の透過率が85%以上であることが好適である。より好ましくは90%以上である。また、可視光の中でも400?600nmの波長域の光の透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好適である。また、可視光の中でも400?700nmの波長域の透過率が85%以上であることが好ましく、より好ましくは、90%以上である。なお、本発明の赤外カットフィルターにおいては、その他(赤外線領域以外)の波長の透過率としては、より好ましくは、85%以上であり、更に好ましくは、90%以上である。すなわち、上記光選択透過フィルターは、波長が400?600nmにおける光の透過率が85%以上であり、かつ800?1000nmにおける透過率が5%以下の赤外カットフィルターであることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0044】
上記紫外線・赤外線カットフィルターは、撮像レンズ用における光ノイズを遮断するためのフィルターとして、特に好適に用いることができる。撮像レンズ用等における光ノイズ遮断を目的とする光選択透過フィルターとしては、可視光領域の400?600nmにおける各波長での光透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは、90%以上である。また、紫外線領域の350nm以下の紫外線の透過率が5%未満であることが好ましい。特に380nm以下の紫外線の透過率が5%未満であることが好ましい。また、上記光選択透過フィルターが、波長が400?600nmにおける光の透過率が85%以上であり、かつ800?1000nmにおける透過率が5%以下であり、更に波長が300?380nmにおける光の透過率が5%以下の紫外線・赤外線カットフィルターであることが特に好ましい。赤外線領域では、800nm?1μmの波長の光を遮断することが好ましい。具体的には、800nm?1μmにおける透過率が5%以下であることが好ましい。より好ましくは800nm?1.5μmにおける透過率が5%以下であり、更に好ましくは800nm?2.5μmにおける透過率が5%以下である。」

キ 「【0050】
〔基材の材料〕
以下、本発明の光選択透過フィルターの基材として好適に用いることができる、上記(a)としての、(1)フッ素化芳香族ポリマー、・・・(中略)・・・(5)エポキシ樹脂、無機材料としての(b)ガラスフィルム、(c)の有機無機複合樹脂としての(b)と(c)との積層フィルムについて、説明する。これらは、単独で用いてもよいし、積層させてもよい。また、透明性を維持するように混合体として用いてもよい。この場合、液状にして混合してもよい。
(1)フッ素化芳香族ポリマー
上記フッ素化芳香族ポリマーとしては、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位により構成された重合体等が挙げられ、具体的には、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステル等が挙げられる。
本発明の組成物は、これらのフッ素化芳香族ポリマーの1種を含有するものであってもよく、2種以上を含有するものであってもよい。
【0051】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーとしては、上記したものの中でも、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合を含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましく、下記一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルであることがより好ましい。なお、一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0052】
・・・(中略)・・・
【0080】
(5)エポキシ樹脂
上記エポキシ樹脂としては、熱硬化性エポキシ樹脂組成物、光硬化性エポキシ樹脂組成物が好ましい。・・・(中略)・・・
【0081】
(b)ガラスフィルム
耐曲げ強度に優れる点から、ガラスフィルムは、厚みが100μm以下であることが好ましい。より好ましくは、50μm以下である。具体的には、シリカを主成分とする形態であればよく、透明性が80%(照射光波長500nm)で確保できれば、その他の成分の割合及び種類等は限定されない。ガラスフィルムとしては、SCHOTT社製、D263が好ましい。
【0082】
(c) 上述した(a)の(1)?(5)と(b)との積層フィルム
(b)と積層する特に好ましい(a)としては、(1)、(5)又は(1)と(5)との複合樹脂である。好ましい形態としては、ガラスフィルムの両面に(a)の(1)?(5)を含む樹脂膜を積層させる形態が挙げられ、特に好ましくは(1)、(5)又は(1)と(5)との複合樹脂をガラスフィルムの両面に積層させた形態である。」

ク 「【0083】
〔光選択透過層〕
以下、本発明の光選択透過層について、説明する。
上記光選択透過層としては、各波長の屈折率を制御できる無機多層膜、所望の波長の光を反射する機能を有する透明導電膜、所望の波長の光を吸収する機能を有する分散膜等を好適に用いることができる。無機多層膜としては、基材やその他の機能性材料層の上に、真空蒸着法、スパッタリング法等により、低屈折率材料及び高屈折率材料を交互に積層させた屈折率制御多層膜が好ましい。透明導電膜としては、インジウム-スズ系酸化物(ITO)等の赤外線を反射する膜としての透明導電膜が好ましい。赤外線吸収性の分散膜としては、ITO等の無機ナノ粒子や、有機色素を無機、有機バインダー(基材)に分散させた膜等が好ましい。無機多層膜、透明導電膜、無機ナノ粒子を無機バインダーに分散させた膜等の無機材料からなる無機層が耐熱性に優れる点で好ましい。中でも、無機多層膜が好ましい。
【0084】
上記無機多層膜としては、誘電体層Aと、誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜が好適である。
〈誘電体層A〉
上記誘電体層Aを構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を通常用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.2?1.6の材料が選択される。
上記材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、・・・(中略)・・・などが好適である。
【0085】
〈誘電体層B〉
誘電体層Bを構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.7?2.5の材料が選択される。
上記材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、・・・(中略)・・・などが好適である。
【0086】
〈積層方法〉
・・・(中略)・・・
【0088】
上記誘電体多層膜の積層数は、透明基板の一方の面にのみ上記誘電体多層膜を有する場合は、通常10?80層の範囲で、好ましくは25?50層の範囲である。一方、透明基板の両面に上記誘電体層膜を有する場合は、上記誘電体層の積層数は、基板両面の積層数全体として、通常10?80層の範囲であり、好ましくは25?50層の範囲である。
【0089】
本発明の光選択透過フィルターは、光の透過率を選択的に低減するものである。このような光選択透過フィルターにおいて、所望の波長の光をカットする機能は、上述したように、多層膜を形成する形態であることが好適であるが、その他の形態を有していてもよい。
例えば、赤外線の透過率を低減させる赤外カットフィルターにおいては、(1)可視光を透過し近赤外線を遮蔽する金属酸化物からなる薄膜を基材表面に形成する形態や、(2)赤外吸収機能を有する(例えば、赤外吸収色素を含有する)塗布膜を形成する形態、(3)基材に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態等が好適である。その他の波長を選択的に低減する場合でも同様であり、このような形態を用いることで、多層膜(多層蒸着層)の積層数を低減できたり省略したりすることができ、光選択透過フィルターの膜厚を薄くできる。例えば、上記(1)の形態においては、単層構造の薄膜とすることができる。したがって、光路を短縮することができ、カメラモジュール等の光学部材において有用なものとすることができる。基材として有機材料、具体的には、樹脂組成物を用いる場合は、多層膜を形成する際の基材のカールを抑制でき、低コスト化にも効果がある。基材として無機材料、具体的には、ガラスを用いる場合は、多層蒸着層(多層膜)の厚みが薄くなるために基材の割れを抑制できる。
【0090】
上記(1)可視光を透過し近赤外線を遮蔽する金属酸化物からなる薄膜を基材表面に形成する形態としては、酸化インジウム系、酸化スズ系、酸化亜鉛系、酸化タングステン系などからなる赤外反射及び吸収機能の少なくとも一方を有する薄膜が好ましい。特に、SnやTi等の4価の金属元素又はフッ素を0.1?20原子%(/インジウム)の割合で固溶してなるIn_(2)O_(3)系酸化物;Sb、P等の5価の金属元素又はフッ素を0.1?20原子%(/スズ)の割合で固溶してなるSnO_(2)系酸化物;B、Al、In等の3価金属元素又は4価金属元素又はフッ素を0.1?20原子%(/亜鉛)の割合で固溶してなるZnO系酸化物;WO_(3)で示される酸化タングステン系;In、Znを金属成分とする複合酸化物(In-Zn系、In-Mg系、In-Sn系、Sn-Zn系等)等の可視光を透過し近赤外線を遮蔽する金属酸化物からなる薄膜を基材表面に形成する方法が好ましい。このような薄膜は、スパッタリング法、真空蒸着法等により形成することが好適である。
上記(2)赤外吸収機能を有する塗布膜を形成する形態としては、上記酸化物からなる超微粒子を含む塗布膜、金属フタロシアニン等の赤外吸収色素を含有する塗布膜を形成する方法が好ましい。このような塗布膜は、超微粒子や赤外吸収色素を有し、有機バインダーや無機バインダーをバインダーとして用いた塗料を成膜する方法が好適である。
上記(3)基材に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態としては、基材が有機材料(例えば、樹脂組成物)である場合は、樹脂組成物に上記酸化物や色素を練り込んでフィルム状に成型する方法が好適である。また基材が無機材料(例えば、ガラス)である場合には、Fe等の金属元素を固溶することにより得られる赤外線吸収ガラスを用いることが好適である。
・・・(中略)・・・
【0094】
〔光選択透過フィルターの好ましい構成〕
本発明に係る光選択透過フィルターは、上記基材の少なくとも一方の面に、上記誘電体多層膜からなる光選択透過層を有し、上記基材の他方の面には他の機能性材料層を有することが好ましい。
【0095】
また、本発明に係る光選択透過フィルターは、上記基材の両面に上記誘電体多層膜からなる光選択透過層を有するものであってもよい。
このような特徴を有することにより、本発明に係る光選択透過フィルターは、反りや誘電多層膜の割れが少なくなる。また、光選択透過フィルターの曲げ強度を向上させ、反りを少なくする観点からは、光選択透過フィルターは、厚みが1?10μmである光選択透過層を有することが好ましい。」

ケ 「【0099】
〔光選択透過フィルターの用途〕
本発明の光選択透過フィルターとしては、赤外カットフィルター、紫外カットフィルター、紫外線・赤外線カットフィルター等が挙げられる。本発明に係る赤外カットフィルターは、優れた赤外線カット能を有し、割れにくい。したがって自動車や建物などのガラスなどに装着される熱線カットフィルターなどとして有用であるのみならず、特に、デジタルスチルカメラや携帯電話用カメラなどのCCDやCMOSなどの固体撮像素子の視感度補正に有用である。本発明に係る紫外カットフィルターは、優れた紫外線カット能を有し、割れにくい。したがって、紫外線保護フィルター、視感度補正用等として有用である。本発明に係る紫外線・赤外線カットフィルターは、優れた赤外線及び紫外線カット能を有し、割れにくく、撮像レンズ用における光ノイズを遮断するためのフィルターとして有用である。
【発明の効果】
【0100】
本発明の光選択透過フィルターは、上述の構成よりなり、光を選択的に遮断し、可視光等の特定波長の透過率が高く、しかも充分に薄く、耐熱性に優れた光選択透過フィルターであり、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の様々な用途に好適に用いられるものである。」

コ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0101】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0102】
1.基材
(1)FPEKフィルムの作成
<FPEKの合成>
温度計、冷却管、ガス導入管、及び、攪拌機を備えた反応器に、BPDE(4,4′-ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル) 16.74部、HF(9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン) 10.5部、炭酸カリウム 4.34部、DMAc(ジメチルアセトアミド) 90部を仕込んだ。この混合物を80℃に加温し、8時間反応した。反応終了後、反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、フッ素化芳香族ポリマーを得た。反応式を下記に示す。フッ素化芳香族ポリマーは、下記反応式で得られた繰り返し単位を含むフッ素化芳香族ポリマーである。
【0103】
【化14】

【0104】
上記ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は242℃、数平均分子量(Mn)が70770、表面抵抗値は1.0×10^(18)Ω/cm^(2)以上であった。
<基材の形成>
溶剤キャスト法により50μmのフィルム(以下、FPEKフィルムと言う。)を得た。なお、製膜について、溶剤キャスト法を用いた際の溶媒は、酢酸エチルとトルエンの混合溶媒を用いた。
【0105】
・・・(中略)・・・
【0108】
(6)ガラスフィルム
SCHOTT社製ガラスコード:D263、厚み30μmを用いた。
【0109】
(7)ガラス/FPEKフィルムの作成
(7-1)ガラス/FPEKフィルム
フッ素化ポリエーテルケトン(FPEK)1.57gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.45gに添加して均一に撹拌した。スピンコート法を用いて、ガラスフィルム(30μm)上に5μm膜を成膜した後、150℃で乾燥した。
(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム
FPEKを両面にコートする場合には、(7-1)において片面をコートした後ガラス面に(7-1)と同じ操作を行った。
【0110】
・・・(中略)・・・
【0113】
2.基材の物性評価
上記基材(1)?(10)について、屈折率測定、アッベ数測定、照射光波長500nmの透過率(%)測定、260℃耐熱評価及び曲げ試験を行った結果を表1に示す。
すべての基材において500nm透過率が80%以上であり、良好な透明性を示した。曲げ試験では、(6)のガラスフィルムはR=10mmで割れが生じたのに対し、有機材料を積層した(7-1)?(8-2)では、耐曲げ角度が10mm未満へと改善され、ガラスフィルムに柔軟性が付与されたことが明らかとなった。260℃耐熱評価では、(9)のPETフィルム及び(10)のアートンフィルムが溶け落ちたのに対し、他の耐リフロー性機能フィルムからなる基材は高い耐熱性を示した。
上記基材(1)?(10)について、以下の方法により屈折率測定、アッベ数測定、照射光波長500nmの透過率(%)測定、260℃耐熱評価及び曲げ試験を行った。
・・・(中略)・・・
(260℃耐熱評価)
上記基材(1)?(10)について、以下の方法により耐熱性を評価した。
基材を2cm×1cmの形状とし、フィルムの上端(1cmの辺を上端とする。)を固定し、260℃、3minオーブンにて加熱を行った。
加熱後の基材の状態を表1に示す。
【0114】
(曲げ試験)
上記基材(1)?(10)について、基材の強度を曲げ試験により評価した。プラスチック製円錐型を用いて、図3に示すように、該円錐型に基材(1)?(10)を沿わせて、基材に割れが生じる径(直径R)を求めた。基材の幅は10mmとした。厚みは上述のとおりである。また、基材と円錐型の接触部分は、半円領域のみとした。
R=30mmからスタートして、0.2mm/sで直径を縮めた。試験は25℃で行った。
なお、基材(7-1)及び(8-1)については、ガラスを内にして、すなわち、ガラス面を円錐型に沿わせて評価を行い、径を求めた。結果を表1に示す。曲げ試験では、(6)のガラスフィルムは、R=10mmであり、測定、搬送、線状、加工工程で、樹脂フィルムに比べれば慎重に取り扱う必要があるといえる。(1)?(5)、(9)及び(10)のフィルムはR<1mmであり、柔軟性に優れ、取り扱い性の面で有利である。
【0115】
【表1】

【0116】
3.光選択透過フィルターの作成
<光選択透過層の形成>
一辺が60mmの基材の両面に、蒸着基板温度180℃で赤外線を反射する多層膜〔シリカ(SiO_(2):膜厚120?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm)層とが交互に積層されてなるもの、積層数は片面25層ずつ両面に蒸着:計50層〕を蒸着により形成し、光選択透過フィルター(光学フィルター)を製造した。
4.光選択透過フィルターの評価
<透過率の測定>
この光学フィルターの分光透過率曲線を測定した。基材としてFPEKを用いた場合の結果を図4に示す。
図4のグラフの横軸は波長、縦軸は透過率を示すが、このグラフから明らかなように、波長400?600nmの可視域における透過率は約85%以上、また波長750?1000nmの近赤外域における透過率は5%以下であり、光選択透過フィルターとして優れた性能を示した。
(分光透過率測定)
Shimadzu UV-3100(島津製作所製)を用いて300?1000nmにおける透過率を測定した。
【0117】
上記基材(2)?(8-2)及び(10)も同様にして、光選択透過層を形成し、光選択透過フィルターを得た。これらの光選択透過フィルターの400?600nm及び750?1000nmの透過率の測定結果を表2に示す。
【0118】
【表2】


【0119】
(260℃耐熱評価)
上記基材(1)?(8-2)及び(10)を用いて作製した光選択透過フィルターについて、以下の方法により耐熱性を評価した。
基材を2cm×1cmの形状とし、フィルムの上端(1cmの辺を上端とする。)を固定し、260℃、3minオーブンにて加熱を行った。
加熱後の光選択透過フィルターの状態を表2に示す。
(曲げ試験)
上記基材(1)?(8-2)及び(10)を用いて作製した光選択透過フィルターについて、強度を曲げ試験により評価した。プラスチック製円錐型を用いて、図3に示すように、該円錐型に基材(1)?(8-2)及び(10)を沿わせて、光選択透過フィルターに割れが生じる径(直径R)を求めた。光選択透過フィルターの幅は10mmとした。また、光選択透過フィルターと円錐型の接触部分は、半円領域のみとした。R=30mmからスタートして、0.2mm/sで直径を縮めた。試験は25℃で行った。
光選択透過フィルターの厚み、及び、曲げ試験の結果を表2に示す。
【0120】
上述した実施例及び比較例では、FPEKフィルム、PENフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素化ポリイミドフィルム、PFAフィルム、エポキシ樹脂及びガラスフィルムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む基材を用いて光選択透過フィルターを調製しているが、厚みが200μm未満である限り、光の透過率を選択的に低減することができるようなものであれば、光路を短縮し、光学部材を小さくする機構は同様である。したがって、赤外線の透過率を選択的に低減し、厚みが200μm未満であれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。また、基材を耐リフロー性のフィルムとすることにより、フィルターの厚みが200μm未満であっても、耐熱性に優れるフィルターとなる。更に、例えば、(2-1)及び(2-2)の260℃耐熱評価による結果で示されるように、フィルターの厚みが30μm以上であることが、260℃耐熱性に優れる点で好ましい。そして、少なくとも、フッ素化芳香族ポリマー、多環芳香族ポリマー、ポリイミド樹脂、含フッ素高分子化合物、エポキシ樹脂及びガラスフィルムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む基材を用いて光選択透過フィルターを調製する場合においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。また、基材にガラスが含まれる場合であっても、フィルターの厚みを200μm以下とすることで、耐熱性は問題なく、耐曲げ強度が発現してくる。そして、ガラスフィルムに耐リフロー性樹脂を積層した基材とすることで、耐熱性に優れながら、フィルターの耐曲げ強度を向上させたものとすることができる。」

サ 「【図面の簡単な説明】
【0121】
・・・(中略)・・・
【図4】図4は、光選択透過フィルターの分光透過率曲線を示す図である。」

シ 「【図4】



ス 段落【0117】及び【0118】【表2】より、「基材の種類」を「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」とした「光選択透過フィルター」、及び「基材の種類」を「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」とした「光選択透過フィルター」は、「400?600nm」の「透過率(%)」が「90以上」であり、「750?1000nm」の「透過率(%)」が「5以下」であることが把握できる。

セ 「光選択透過フィルターの厚み、及び、曲げ試験の結果」を示す引用例1の段落【0118】【表2】の「光選択透過フィルターの厚み(μm)」欄より、「(6)ガラスフィルム」の厚み「35(μm)」と「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」の厚み「40(μm)」との厚みの差が「5(μm)」であること、また、「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」の厚み「40(μm)」と「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」の厚み「45(μm)」との厚みの差が「5(μm)」であることが把握できる(段落【0115】【表1】からも同様な事項が把握できる。)。
してみると「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」を「基材」とした「光選択透過フィルター」において、「FPEK」の厚みは「5μm」であることが把握できる。また、「(7-1)において片面をコートした後ガラス面に(7-1)と同じ操作を行った」「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」を「基材」とした「光選択透過フィルター」においては、「FPEK」の厚みはそれぞれ「5μm」であることも把握できる。

ソ 上記セより、「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」についての、「フッ素化ポリエーテルケトン(FPEK)1.57gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.45gに添加して均一に撹拌した。スピンコート法を用いて、ガラスフィルム(30μm)上に5μm膜を成膜した後、150℃で乾燥した」という記載は、「5μm膜を成膜した後、150℃で乾燥」するという意味ではなく、「フッ素化ポリエーテルケトン(FPEK)1.57gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.45gに添加して均一に撹拌し」、「スピンコート法を用いて、ガラスフィルム(30μm)上に」「成膜した後、150℃で乾燥し」て、「FPEK」の「5μm膜」を成膜したという意味に解するのが相当である。
そうすると、上記セより、「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、ガラスフィルムの両面に「FPEK」の「5μm膜」を成膜したものである。

タ 引用例1の段落【0118】の【表2】から、「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」を用いた「光選択透過フィルター」の厚みが「40μm」であり、「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」を用いた「光選択透過フィルター」の厚みが「45μm」であることが看取されるから、「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」上に形成した多層膜の合計の膜厚、及び「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」上に形成した多層膜の合計の膜厚はいずれも「5μm」(=40-30-5=45-30-5×2)である。

チ 上記ア?タより、引用例1には、「基材」を「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」、又は「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」とした「光選択透過フィルター」として、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「一辺が60mmの基材である、
フッ素化ポリエーテルケトン(FPEK)1.57gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.45gに添加して均一に撹拌し、スピンコート法を用いて、ガラスフィルム(30μm)上に成膜した後、150℃で乾燥して、FPEKの5μm膜を成膜した、(7-1)ガラス/FPEKフィルム
又は、
(7-1)において片面をコートした後ガラス面に(7-1)と同じ操作を行って、ガラスフィルムの両面にFPEKの5μm膜を成膜した、(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム
の両面に、蒸着基板温度180℃で赤外線を反射する多層膜〔シリカ(SiO_(2):膜厚120?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm)層とが交互に積層されてなるもの、積層数は片面25層ずつ両面に蒸着:計50層〕を合計の膜厚が5μmとなるように蒸着により形成して製造した、光選択透過フィルターであって、
400?600nmの透過率(%)が90以上であり、750?1000nmの透過率(%)が5以下である、
光選択透過フィルター。」

(2)本件訂正発明と引用発明1との対比・判断
ア 本件訂正発明1について
(ア) 一致点及び相違点
本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」は、「30μm」の厚みの「ガラスフィルム」の上に、「5μm」の厚みの「FPEK」の膜を成膜したものである。
また、引用発明1の「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、「30μm」の厚みの「ガラスフィルム」の両面に、「5μm」の厚みの「FPEK」の膜を成膜したものである。

b 引用発明1の「30μm」の厚みの「ガラスフィルム」は、本件訂正発明1の「ガラス基板」に相当する。
引用発明1の「5μm」の厚みの「FPEK」の膜は、本件訂正発明1の「樹脂層」に相当する。
そうすると、上記aより、引用発明1の「一辺が60mmの基材」である「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」、又は「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、本件訂正発明1の「積層板」に相当する。
また、上記aより、引用発明1の「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」又は「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」と、本件訂正発明1の「積層板」は、「ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し」ている点で共通する。

c 上記aより、「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」においては、「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みは、1/6(=5μm/30μm)である。
また、「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」においては、「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みは、1/3(=(5μm+5μm)/30μm)である。

d 引用発明1の「赤外線を反射する多層膜」は、「シリカ(SiO_(2):膜厚120?190nm)層」と「チタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm)層」とが交互に積層され、片面25層ずつ両面に計50層とされたものである。「シリカ(SiO_(2))」と「チタニア(TiO_(2))」は誘電体であることは技術常識である。
そうすると、引用発明1の「赤外線を反射する多層膜」は、本件訂正発明1の「誘電体多層膜」に相当する。
また、上記bより、引用発明1と、本件訂正発明1は、「前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し」ている点で共通している。

e 引用発明1における「400?600nm」の波長領域が可視光の領域であること、「750?1000nm」の波長領域が近赤外線の領域であることは、技術常識である。
そうすると、引用発明1は、基材の両面に赤外線を反射する多層膜を形成し、可視光の領域である「400?600nmの透過率(%)」を「90以上」とし、近赤外線の領域である「750?1000nmの透過率(%)」を「5以下」としているのであるから、引用発明1の「光選択透過フィルター」は、近赤外線を遮断するフィルターということができる。
してみると、引用発明1の「光選択透過フィルター」は、本件訂正発明1の「近赤外線カットフィルター」に相当する。

f 透過率は、対象物の被測定面に対して垂直方向から測定することが通常であるから、引用発明1における「透過率(%)」は、すべて、光透過選択フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率と解するのが自然である。

g 引用発明1は、「400?600nmの透過率(%)が90以上であ」るから、波長430?580nmの範囲における透過率の平均値は90%以上である。
そうすると、上記eとfより、引用発明1は、本件訂正発明1の、「透過率が」、「(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上」「を満たす」という構成を備えている。

h 上記a?gより、本件訂正発明1と引用発明1は、次の一致点で一致し、次の相違点1及び相違点2で相違する。
(一致点)
ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有する積層板を含み、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し、透過率が下記(A)を満たす近赤外線カットフィルター。
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上

(相違点1)
積層板が、
本件訂正発明1では、式(ii)および(iii)を満たしているのに対して、
引用発明1では、「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」は、「ガラスフィルム」の厚みが「30μm」、「FPEK」の膜の厚みが「5μm」であって、「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みが1/6であり、
「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、「ガラスフィルム」の厚みが「30μm」、「FPEK」の膜の厚みがそれぞれ「5μm」であって、「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みが1/3であるから、式(ii)および(iii)のいずれも満たしていない点。
ここで、式(ii)および(iii)は下記のものである。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦3.7/50
(iii)50≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000

(相違点2)
近赤外線カットフィルターの透過率が、
本件訂正発明1では、下記(B)?(D)を満たすのに対して、
「(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満」
引用発明1では、
「750?1000nmの光透過選択フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率(%)が5以下である」ものの、上記(B)?(D)を満たすかどうか不明である点。

(イ) 相違点1についての判断
a 引用例1の段落【0005】の記載によれば、引用例1における発明が解決しようとする課題は、「光を選択的に遮断し、可視光等の特定波長の透過率が高く、しかも充分に薄く、更に充分に薄くても耐熱性に優れた光選択透過フィルター」を提供することである。
また、引用例1の段落【0008】には、「光選択透過フィルター」の厚みに関して、薄膜化の点で、最も好ましくは50μm以下であること、耐リフロー性、特に260℃の温度における耐熱性に優れる点で、更に好ましくは30μm以上であること、「光選択透過フィルター」の厚みの範囲としては、最も好ましくは30?60μmであることが記載されている。
さらに、引用例1の段落【0081】には、「ガラスフィルム」の厚みについて、耐曲げ強度に優れる点から、ガラスフィルムは、より好ましくは、50μm以下であることが記載されている。

b 上記aからは、引用発明1の「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」である場合の「光選択透過フィルター」の厚み「40μm」、「ガラスフィルム」の厚み「30μm」、あるいは、「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」である場合の「光選択透過フィルター」の厚み「45μm」、「ガラスフィルム」の厚み「30μm」は、薄膜化及び耐熱性の観点から、最も好ましい「光選択透過フィルター」の厚み(30?50μm)に設定されているとともに、耐曲げ強度の観点から、より好ましい「ガラスフィルム」の厚み(50μm以下)に設定されていることが理解される。そうすると、当業者が、引用発明1において、「ガラスフィルム」の厚みをより厚い方向に調整することがあったとしても、薄膜化及び耐曲げ強度の観点から劣ったものとなるような値に設定しようとすることはないというべきである。
そして、引用発明1において、「ガラスフィルム」の厚みを、「光選択透過フィルター」が最も好ましい厚み(30?50μm)となる範囲及び「ガラスフィルム」のより好ましい厚み(50μm以下)範囲の中で変更する限り、相違点1に係る本件訂正発明1の式(ii)及び(iii)を満足することはない。すなわち、「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」を用いた引用発明1において、「ガラスフィルム」の厚みを「30μm」から「40μm」に変更して、引用発明1(光選択透過フィルター)の厚みを「40μm」から最も好ましい範囲の上限である「50μm」となるように調整しても、当該ガラスフィルムの厚みは式(iii)を満足せず、かつ、「樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み」の値(=5/40)は式(ii)を満足しない。また、「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」を用いた引用発明1において、「ガラスフィルム」の厚みを「30μm」から「35μm」に変更して、引用発明1(光選択透過フィルター)の厚みを「45μm」から最も好ましい範囲の上限である「50μm」となるように調整しても、当該ガラスフィルムの厚みは式(iii)を満足せず、かつ、「樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み」の値(=10/35)は式(ii)を満足しない。
よって、引用発明1において、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ) 以上のとおりであるから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ) 平成30年3月26日提出の意見書における特許異議申立人石井良夫の主張について
上記意見書において、特許異議申立人石井良夫は、甲第1号証(引用例1)の段落【0026】及び段落【0115】【表1】に基づき、甲1発明は、訂正された式(ii)及び(iii)を満足する構成を含むものであるから、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2(引用例2)記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである旨主張している。
しかしながら、引用発明1は、ガラスフィルムの厚みを引用例1の発明が解決しようとする課題である薄型化及び耐熱性の点で最も好ましい厚みの範囲に設定するものであって、その範囲を超える値を採用して、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることに動機付けがないことは、上記(イ)で述べたとおりであるから、特許異議申立人石井良夫の上記主張を採用することはできない。

(オ) 平成30年3月23日提出の意見書における特許異議申立人竹口美穂の主張について
a 特許異議申立人竹口美穂は、上記意見書において、引用例1の段落【0109】の「ガラスフィルム(30μm)上に5μm膜を成膜した後、150℃で乾燥した。」という記載を根拠に、「樹脂層の厚みは、5μm×0.13=0.65μmとなる。そうすると、引用例1の光選択透過フィルターの上記厚みの比は、0.65/30=約0.022となり、本件訂正発明1に規定される上記厚みの比を満たす。」旨主張している。
しかしながら、引用例1の段落【0109】の上記記載は、「150℃で乾燥」後に膜厚が「5μm」となるように成膜することを意味すると解するのが相当であることは、上記3(1)ア(ソ)で述べたとおりである。
してみると、特許異議申立人竹口美穂の上記主張を採用することはできない。

b また、特許異議申立人竹口美穂は、上記意見書において、特許異議申立(その2)における甲第18号証(特開2007-47443号公報)の段落【0013】、【0014】、【0027】、図1等に、略0.5mmのガラス基板と、0.5?10μmの厚みの混合層(樹脂層)とを積層した光学多層膜フィルタが記載されていることから、甲第18号証には、樹脂層とガラス基板の厚みの比を0.001以上0.02以下の光学多層膜フィルタが記載されており、また、光選択透過フィルターのガラス基板の厚みを50?1000μmとすることも周知技術である(例えば、甲第18号証参照。)から、本件訂正発明1は、引用例1の記載の事項及び当該技術分野における技術常識に基づいて当業者が容易に想到できる発明であるといえる旨主張している。
しかしながら、甲第18号証の上記記載は、ガラス基板あるいは混合層(樹脂層)の厚みを例示的あるいは一般的に示すだけであって、当該構成のものが、薄膜化及び耐曲げ強度の観点で、引用発明1と同等であることを示しているわけではなく、かつ、当該構成を採用することによって、薄膜化及び耐曲げ強度が劣ったものとなるというデメリットを上回るようなメリットが得られることを開示しているわけではない。
してみると、特許異議申立人竹口美穂の上記主張を採用することはできない。

イ 本件訂正発明2?5、7?9について
本件訂正発明2?5、7?9は、いずれも前記相違点1に係る本件訂正発明1の構成を具備する発明である。
したがって、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2?5、7?9は、引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件訂正発明10について
(ア) 一致点及び相違点
a 本件訂正発明10と引用発明1との対比は、本件訂正発明1についての上記(2)ア(ア)a,b,d,e,fの対比と同様である。
また、上記(2)ア(ア)a,cと同様な対比により、引用発明1の「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」又は「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、本件訂正発明10の「(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦2/5」及び「(iii)30≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000」を満たしている。

b 上記aより、本件訂正発明10と引用発明1は、次の一致点で一致し、上記(2)ア(ア)hにおいて認定した相違点2に加えて、次の相違点3で相違する。
(一致点)
ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、下記式(ii)および(iii)を満たす積層板を含み、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し、透過率が下記(A)を満たす有する近赤外線カットフィルター。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦2/5
(iii)30≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上

(相違点3)
本件訂正発明10では、「前記ガラス基板と前記樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有し」ているのに対して、
引用発明1では、上記構成を有していない点。

(イ) 相違点3についての検討
引用例1には、「ガラス基板」と「樹脂層」の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する、すなわち、これら(a)ないし(c)の3つの構造単位を有する硬化層を設けることについては記載も示唆もされていない。
また、光選択透過フィルター(近赤外線カットフィルター)のガラス基板と樹脂層との間に、上記(a)ないし(c)の3つの構造単位を有する硬化層を設けることは、引用例2,3及び特許異議申立(その2)において甲第14号証として提出された特開2010-79140号公報のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、本件特許の出願の前に周知の事項であったとも認められない。
そして、本件訂正発明10は、「ガラス基板と樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有」することにより、樹脂層とガラス基板との密着性が高くなるという作用・効果を奏するものである(本件特許明細書段落【0084】を参照。)。
してみると、引用発明1において、上記相違点3に係る本件訂正発明10の構成とすることは、当業者が容易になし得たということはできない。

(ウ) 以上のとおりであるから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明10は、引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件訂正発明11?17について
本件訂正発明11?17は、いずれも前記相違点3に係る本件訂正発明10の構成を具備する発明である。
したがって、本件訂正発明10と同様の理由により、本件訂正発明11?17は、引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 取消理由2(引用例2を主引用例とする場合)についての判断
(1) 引用例2に記載された事項
引用例2には、以下の事項が記載されている(なお、引用例2の日本語訳として、特許異議申立(その2)における甲第2号証を用いた。)。
ア 「






(日本語訳)
「特許請求の範囲
1、透過率が、下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルター;
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上。
(B)波長800?1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下。
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値が75nm未満。
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が15nm未満。
2、波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である吸収剤を含有した透明樹脂製基板と、近赤外線反射膜とを有することを特徴とする請求項1に記載の近赤外線カットフィルター。
3、前記透明樹脂製基板が下記(E)および(F)を満たすことを特徴とする請求項2に記載の近赤外線カットフィルター;
(E)波長600?800nmに吸収極大がある。
(F)波長430?800nmの波長領域において、基板の垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる、吸収極大以下で長い波長(Za)と、波長580nm以上の波長領域において、基板の垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Zb)との差の絶対値が75nm未満。
4、前記透明樹脂製基板が、ノルボルネン系樹脂製基板であることを特徴とする請求項2または3に記載の近赤外線カットフィルター。
5、前記吸収剤が前記透明樹脂100重量部に対して0.01?10.0重量部含有されてなる請求項2?4のいずれかに記載の近赤外線カットフィルター。
6、前記近赤外線反射膜が誘電体多層膜であることを特徴とする請求項2?5のいずれかに記載の近赤外線カットフィルター。
7、前記近赤外線カットフィルターが固体撮像装置用であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の近赤外線カットフィルター。
8、請求項1?6のいずれかに記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。
9、請求項1?6のいずれかに記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とするカメラモジュール。」

イ 「



(日本語訳)
「技術分野
[0001] 本発明は、近赤外線カットフィルターに関する。詳しくは、本発明は、十分な視野角を持ち、特にCCD、CMOS等の固体撮像素子用視感度補正フィルターとして好適に用いることができる近赤外線カットフィルターに関する。」

ウ 「



(日本語訳)
「[0005] また、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などにはカラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサが使用されているが、これら固体撮像素子はその受光部において近赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードを使用しているために、視感度補正を行うことが必要であり、近赤外線カットフィルターを用いることが多い。このような近赤外線カットフィルターとしては、従来から、各種方法で製造されたものが使用されている。例えば、ガラスなど透明基材の表面に銀等の金属を蒸着して近赤外線を反射するようにしたもの、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の透明樹脂に近赤外線吸収色素を添加したものなどが実用に供されている。
[0006] しかしながら、ガラス基材に金属を蒸着した近赤外線カットフィルターは製造コストがかかるだけでなく、カッティング時に異物として基材のガラス片が混入してしまうという問題があった。さらに、基材として無機質材料を用いる場合は、近年の固体撮像装置の薄型化・小型化に対応していくためには限界があった。」

エ 「



(日本語訳)
「発明内容
[0013] 本発明は、視野角が広く、さらに、近赤外線カット能に優れ、吸湿性が低く、異物やソリのない、特にCCD、CMOS等の固体撮像装置用に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを得ることを目的とする。さらに、前記近赤外線カットフィルターを具備することにより、薄型で耐衝撃性に優れた固体撮像装置を提供することを目的とする。」

オ 「



(日本語訳)
「[0026] 本発明によれば、特定の波長に吸収極大を持つ吸収剤を含有した透明樹脂製基板と近赤外線反射膜とを組みわせて用いることにより、吸収(透過)波長の入射角依存性が小さく、視野角の広い近赤外線カットフィルターを製造することができる。
[0027] 本発明によれば、前記近赤外線カットフィルターを具備することにより固体撮像装置、カメラモジュールを薄型化、小型化をすることができる。」

カ 「



(日本語訳)
「具体的な実施の方法
[0042] 以下、本発明について具体的に説明する。
[0043] 〔近赤外線カットフィルター〕
[0044] 本発明の近赤外線カットフィルターは、その透過率が、下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする。
[0045] (A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上、好ましくは78%以上、さらに好ましくは80%以上の値をとることが望ましい。本発明では、厚さ0.1mmでの全光線透過率が高い透明樹脂および当該波長領域に吸収を持たない吸収剤を用いることで、このような波長430?580nmにおいて、高い透過率を有する近赤外線カットフィルターを得ることができる。
[0046] 近赤外線カットフィルターを固体撮像装置やカメラモジュール等のレンズユニットにおける視感度補正用フィルター等に用いる場合、波長430?580nmの透過率の平均値が上記範囲であり、一定であることが好ましい。
[0047] 透過率の平均値としては高い方が好ましい。透過率の平均値が高いと、フィルターを通過する光の強度が充分確保され、上記用途に好適に用いることができる。
[0048] 一方、透過率の平均値が低いと、フィルターを通過する光の強度が充分確保されず、上記用途に好適に用いることができないおそれがある。
[0049] (B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が、20%以下、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下の値をとることが望ましい。本発明では、透明樹脂基板上に高い近赤外線反射能を有する所定の近赤外線反射膜を有することで、このような波長800?1000nmにおいて、十分に低い透過率を有する近赤外線カットフィルターを得ることができる。
[0050] 本発明の近赤外線カットフィルターは近赤外線の波長(800nm以上)を選択的に低減させるものであるため、透過率の平均値は低い方が好ましい。透過率の平均値が低いと、近赤外線カットフィルターは、近赤外線を十分にカットすることができる。」

キ 「



(日本語訳)
「[0052] (C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値(|Xa-Xb|)が75nm未満、好ましくは72nm未満、さらに好ましくは70nm未満の値をとることが望ましい。本発明では、透明樹脂に下記の特定の吸収剤を用いることで、所定の透過率となる波長の差の絶対値が上記所定の範囲となる近赤外線カットフィルターを得ることができる。
[0053] 近赤外線カットフィルターの(Xa)と(Xb)の差の絶対値が上記範囲にあると、近赤外線の波長領域付近の波長(Xa)と(Xb)の間で透過率が急変することとなるため、近赤外線を効率よくカットすることができ、また、下記(Ya)と(Yb)の差の絶対値が小さくなり、吸収波長の入射角依存性が小さく、視野角の広い近赤外線カットフィルターを得ることができる。」

ク 「



(日本語訳)
「[0054] (D)波長560?800nm、好ましくは580?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値(|Ya-Yb|)が15nm未満、好ましくは13nm未満、さらに好ましくは10nm未満の値をとることが望ましい。本発明では、透明樹脂に下記の特定の吸収剤を用いることで、所定の透過率となる波長の差の絶対値が上記所定の範囲となる近赤外線カットフィルターを得ることができる。
[0055] このように、波長580?800nmの範囲において、(Ya)と(Yb)の差の絶対値が上記範囲にあると、このようなフィルターをPDP等に用いた場合には、ディスプレイを斜め方向から見た場合にも、垂直方向から見た場合と同等の明るさ及び色調を示し、視野角の広い近赤外線カットフィルターを得ることができる。
[0056] 一方、(Ya)と(Yb)の差の絶対値が15nm以上である近赤外線カットフィルターをPDP等に用いると、ディスプレイを見る角度により明るさが著しく減じたり、色調が反転したり、特定の色が見えにくくなったりするおそれがあり、上記用途に好適に用いることができない場合がある。
[0057] ここで、「視野角」とは、ディスプレイなどを上下左右から見た場合に、どの位の角度まで画面を正常に見ることが可能かを示す指標のことである。
[0058] 本発明においては、近赤外線カットフィルターを上下左右から見た場合に、どの位の角度まで画面を正常に見ることが可能かを示す指標のことをいう。
[0059] 正常に見ることができるかどうかの判断として、本発明では、波長580?800nmの範囲において、フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、フィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が15nm以下となることを一つの基準とする。
[0060]上記近赤外線カットフィルターの厚みは、該フィルターの透過率が上記(A)?(D)を満たせば制限はないが、50?250μm、好ましくは50?200μm、さらに好ましくは、80?150μmであることが望ましい。
[0061] 近赤外線カットフィルターの厚みが上記範囲にあると、フィルターを、小型化、軽量化することができ、固体撮像装置等さまざまな用途に好適に用いることができる。特にカメラモジュール等レンズユニットに用いた場合には、レンズユニットの低背化を実現することができるため好ましい。
[0062] 本発明の近赤外線カットフィルターは、波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である吸収剤を含有した透明樹脂製基板と、近赤外線反射膜とを有することが好ましい。」

ケ 「



(日本語訳)
「[0063] ≪透明樹脂製基板≫
[0064] 本発明に用いられる透明樹脂製基板は、透明樹脂と吸収極大が波長600?800nmであり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である少なくとも1種の吸収剤を含むことが好ましい。」

コ 「



(日本語訳)
「[0074] <透明樹脂>
[0075] 本発明で用いる透明樹脂としては、本発明の効果を損なわないものである限り特に制限されないが、例えば、熱安定性およびフィルムへの成形性を確保し、かつ、100℃以上の蒸着温度での高温蒸着により誘電体多層膜を形成しうるフィルムとするため、ガラス転移温度(Tg)が、110?380℃、好ましくは110?370℃、さらに好ましくは120?360℃である樹脂を用いることができる。また、透明樹脂のガラス転移温度が、120℃以上、好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上である場合には、誘電体多層膜をより高温で蒸着形成し得るフィルムが得られるため望ましい。
[0076] また、厚さ0.1mmでの全光線透過率が、75?94%であり、好ましくは78?93%であり、更に好ましくは80?92%である樹脂を用いることができる。全光線透過率がこのような範囲であれば、透明樹脂から得られる基材フィルムが、光学フィルムとして良好な透明性を示す。」

サ 「



(日本語訳)
「[0208] <吸収剤>
[0209] 本発明に用いられる透明樹脂には、波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値(|Aa-Ab|)が75nm未満、好ましくは65nm未満である吸収剤を少なくとも1種含有させて使用する。この吸収剤としては、例えば、近赤外線を吸収する染料や顔料、金属錯体系化合物を用いることができる。」

シ 「



(日本語訳)
「[0216] このような吸収剤としては、近赤外線を吸収する色素として作用する金属錯体系化合物や染料、顔料を用いることができ、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物などを挙げることができる。具体的には、たとえば、Lumogen IR765、Lumogen IR788(BASF製)、ABS643、ABS654、ABS667、ABS670T、IRA693N、IRA735(Exciton製)、SDA3598、SDA6075、SDA8030、SDA8303、SDA8470、SDA3039、SDA3040、SDA3922、SDA7257(H.W.SANDS製)、TAP-15、IR-706(山田化学工業製)などの市販品を用いることもできる。
[0217] また、本願の吸収剤としては金属を含有せずC,H,O,Nのみからなるシアニン系色素を用いると|Aa-Ab|が特に小さくなるため好ましい。このような吸収剤として、ABS643、ABS654、ABS667、ABS670Tなどを挙げることができる。」

ス 「



(日本語訳)
「[0234] ≪近赤外線反射膜≫
[0235] 本発明に用いられる近赤外線反射膜は、近赤外線を反射する能力を有する膜である。このような近赤外線反射膜としては、アルミ蒸着膜、貴金属薄膜、酸化インジウムを主成分とし酸化錫を少量含有させた金属酸化物微粒子を分散させた樹脂膜、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜などを用いることができる。
[0236] 本発明の近赤外線カットフィルターは、このような近赤外線反射膜を有しているため、特に上記(B)の特徴を有することになる。そのため、近赤外線を十分にカットすることのできるフィルターを得ることができる。
[0237] 本発明において、近赤外線反射膜は透明樹脂製基板の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。片面に設ける場合は、製造コストや製造容易性に優れ、両面に設ける場合には、高い強度を有し、ソリの生じにくい近赤外線カットフィルターを得ることができる。
[0238] これら近赤外線反射膜の中では、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜を好適に用いることができる。
[0239] 高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常は1.7?2.5の材料が選択される。
[0240] これら材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、・・・(中略)・・・などが挙げられる。
[0241] 低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常は1.2?1.6の材料が選択される。
[0242] これら材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、・・・(中略)・・・などが挙げられる。
・・・(中略)・・・
[0245] また、誘電体多層膜における積層数は、5?50層、好ましくは10?40層であることが望ましい。」

セ 「



(日本語訳)
「[0247] <近赤外線カットフィルターの用途>
[0248] これら本発明で得られる近赤外線カットフィルターは、視野角が広く、優れた近赤外線カット能をする。したがってカメラモジュールのCCDやCMOSなどの固体撮像素子用視感度補正用として有用である。特に、デジタルスチルカメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ、携帯情報端末、パソコン、ビデオゲーム、医療機器、USBメモリー、携帯ゲーム機、指紋認証システム、デジタルミュージックプレーヤー、玩具ロボット、おもちゃ等に有用である。さらに、自動車や建物などのガラス等に装着される熱線カットフィルターなどとしても有用である。」

ソ 「



(日本語訳)
「[0257] [実施例]
[0258] 以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り「重量部」および「重量%」を意味する。
[0259]
・・・(中略)・・・
[0266] (4)分光透過率:
[0267] 日立製作所社製の分光光度計(U-4100)を用いて測定した。
[0268] ここで、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率は、図2のようにフィルターに対し垂直に透過した光を測定した。
[0269] また、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率は、図3のようにフィルターの垂直方向に対して30°の角度で透過した光を測定した。
[0270] 尚、この透過率は、(Yb)を測定する場合を除き、光が基板、フィルターに対して垂直に入射する条件で、該分光光度計を使用して測定したものである。(Yb)を測定する場合には、光がフィルターの垂直方向に対して30°の角度で入射する条件で該分光光度計を使用して測定したものである。」

タ 「



(日本語訳)
「[0285] [実施例1]
[0286] 合成例1で得た樹脂A100重量部に、BASF社製の吸収剤「Lumogen IR765、(吸収極大;765nm、|Aa-Ab|=62nm)」を0.12重量部加え、さらにトルエンを加えて溶解し、固形分が30%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で8時間、100℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0287] この基板の分光透過率曲線を測定し、吸収極大波長と、(Za)、(Zb)を求めた。この結果を表1に示す。
[0288] この基板の吸収極大波長は759nmであった。また、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる、吸収極大以下で最も長い波長(Za)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Zb)との差の絶対値(|Za-Zb|)は65nmであった。
[0289] 続いて、係る基板の一面に、蒸着温度150℃で近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO_(2):膜厚120?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm )層とが交互に積層されてなるもの,積層数40〕を形成し厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを得た。この近赤外線カットフィルターの分光透過率曲線を測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。この結果を表1に示す。
[0290] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は86%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0291] 波長800nm以下の波長領域において、透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値(|Xa-Xb|)は60nmであった。
[0292] また、波長560?800nmの範囲において、フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、フィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値(|Ya-Yb|)は5nmであった。」


チ 「



(日本語訳)
「[0293] [実施例2]
[0294] 吸収剤をABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)0.04重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0295] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0296] この基板の吸収極大波長は668nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は38nmであった。この結果を表1に示す。
[0297] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定した。
[0298] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は90%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0299] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は31nmであった。
[0300] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は3nmであった。この結果を表1に示す。」

ツ 「



(日本語訳)
「[0301] [実施例3]
[0302] 樹脂Aの代わりに合成例2で得た樹脂Bを用い、トルエンの代わりにシクロヘキサンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0303] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0304] この基板の吸収極大波長は759nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は65nmであった。この結果を表1に示す。
[0305] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
[0306] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は86%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0307] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は60nmであった。
[0308] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は5nmであった。この結果を表1に示す。」

テ 「



(日本語訳)
「[0309] [実施例4]
[0310] JSR株式会社製のノルボルネン系樹脂「アートン G」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.04重量部加え、さらに塩化メチレンを加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0311] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0312] この基板の吸収極大波長は668nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は38nmであった。この結果を表1に示す。
[0313] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
[0314] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は90%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0315] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は31nmであった。
[0316] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。」

ト 「



(日本語訳)
「[0317] [実施例5]
[0318] 日本ゼオン株式会社製のノルボルネン系樹脂「ゼオノア 1400R」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.20重量部加え、さらにシクロヘキサンとキシレンの7:3混合溶液を加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で8時間、80℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で24時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0319] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0320] この基板の吸収極大波長は664nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は31nmであった。この結果を表1に示す。
[0321] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
[0322] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は90%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0323] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は25nmであった。
[0324] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。」

ナ 「



(日本語訳)
「[0325] [実施例6]
[0326]三井化学株式会社製のノルボルネン系樹脂「APEL #6015」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.12重量部加え、さらにシクロヘキサンと塩化メチレンの99:1混合溶液を加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、40℃で4時間、60℃で4時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0327] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0328] この基板の吸収極大波長は666nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は32nmであった。この結果を表1に示す。
[0329] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
[0330] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は89%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0331] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は24nmであった。
[0332] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。」

ニ 「



(日本語訳)
「[0333] [実施例7]
[0334] 帝人株式会社製のポリカーボネート樹脂「ピュアエース」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.04重量部加え、さらに塩化メチレンを加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0335] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0336] この基板の吸収極大波長は680nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は46nmであった。この結果を表1に示す。
[0337] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
[0338] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は85%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0339] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は42nmであった。
[0340] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。」

ヌ 「



(日本語訳)
「[0341] [実施例8]
[0342] 住友ベークライト株式会社製のポリエーテルサルホン「FS-1300」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.02重量部加え、さらにN-メチル-2-ピロリドンを加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で4時間、80℃で4時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下120℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0343] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0344] この基板の吸収極大波長は684nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は47nmであった。この結果を表1に示す。
[0345] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
[0346] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は85%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0347] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は41nmであった。
[0348] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は5nmであった。この結果を表1に示す。」

ネ 「



(日本語訳)
「[0349] [実施例9]
[0350] 合成例3で得たポリイミド溶液C100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.2重量部加え、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で4時間、80℃で4時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下120℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0351] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0352] この基板の吸収極大波長は683nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は48nmであった。この結果を表1に示す。
[0353] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
[0354] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は85%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0355] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は42nmであった。
[0356] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は5nmであった。この結果を表1に示す。」

ノ 「



(日本語訳)
「[0357] [実施例10]
[0358] JSR株式会社製のノルボルネン系樹脂「アートン G」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.02重量部加え、さらに塩化メチレンを加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
[0359] この基板の分光透過率曲線を測定した。
[0360] この基板の吸収極大波長は668nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は31nmであった。この結果を表1に示す。
[0361] さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
[0362] 波長430?580nmにおける透過率の平均値は90%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
[0363] (Xa)と(Xb)との差の絶対値は23nmであった。
[0364] また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。」

ハ 「



(日本語訳)
「[0388]表1
[0389]



ヒ 「



(日本語訳)
「[0390] 産業上の利用可能性
[0391] 本発明の近赤外線カットフィルターは、デジタルスチルカメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ、携帯情報端末、パソコン、ビデオゲーム、医療機器、USBメモリー、携帯ゲーム機、指紋認証システム、デジタルミュージックプレーヤー、玩具ロボット、おもちゃ等に好適に用いることができる。さらに、自動車や建物などのガラス等に装着される熱線カットフィルターなどとしても好適に用いることができる。」

フ 特許請求の範囲、段落[0026]、[0054]、[0063]、[0064]、[0208]、[0209]、[0234]、[0235]、[0237]、[0238]、[実施例1]?[実施例10]に係る[0285]?[0389]より、引用例2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「透明樹脂製基板と、透明樹脂製基板の一面に形成され、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜からなる近赤外線反射膜とを有する近赤外線カットフィルターにおいて、吸収(透過)波長の入射角依存性が小さく、視野角の広いものとするために、前記透明樹脂製基板に、波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である吸収剤を含有させた近赤外線カットフィルターであって、
前記誘電体多層膜として、近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO_(2):膜厚120?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm )層とが交互に積層されてなるもの,積層数40〕を用い、
前記吸収剤として、BASF社製「Lumogen IR765(吸収極大;765nm、|Aa-Ab|=62nm)」又はExciton社製「ABS670T(吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)」を用い、
下記(A)?(D)を満たすよう構成した近赤外線カットフィルター。
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が85%以上90%以下。
(B)波長800?1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下。
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値が23nm以上60nm以下。
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が3nm以上5nm以下。」

(2)本件訂正発明と引用発明2との対比・判断
ア 本件訂正発明1について
(ア)一致点及び相違点
本件訂正発明1と引用発明2とを対比する。
a 引用発明2の「近赤外線カットフィルター」は、本件訂正発明1の「近赤外線カットフィルター」に相当する。

b 引用発明2は、透過率が「(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が85%以上90%以下。」という条件を満たしている。
そうすると、引用発明2は、本件訂正発明1の「(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上」という条件を満たしている。

c 引用発明2は、透過率が「(B)波長800?1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下。」という条件を満たしている。
そうすると、引用発明2は、本件訂正発明1の「(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下」という条件を満たしている。

d 引用発明2は、透過率が「(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値が23nm以上60nm以下。」という条件を満たしている。
そうすると、引用発明2は、本件訂正発明1の「(C)800nm以下の波長領域において、「近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満」という条件を満たしている。

e 引用発明2は、「(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が3nm以上5nm以下。」という条件を満たしている。
そうすると、引用発明2は、本件訂正発明1の「(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満」という条件を満たしている。

f 上記a?eより、引用発明2と、本件訂正発明1とは、「透過率」が、本件訂正発明1における透過率の条件「(A)?(D)を満た」している点で共通する。

g 引用発明2は、BASF社製「Lumogen IR765(吸収極大;765nm、|Aa-Ab|=62nm)」又はExciton社製「ABS670T(吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)」を含有した「透明樹脂製基板」と、「透明樹脂製基板の一面に形成され、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜からなる近赤外線反射膜」とを有する。

h 上記gより、引用発明2の「近赤外線反射膜」は、「高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜」であるから、本件訂正発明1の「誘電体多層膜」に相当する。

i 上記gより、引用発明2においては、「透明樹脂製基板」の一面に「誘電体多層膜」である「近赤外線反射膜」を有している。
本件訂正発明1の「積層板」は、「ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し」たものであり、本件訂正発明1は、「前記積層板」の「少なくとも片面」に「誘電体多層膜を有し」ている。
本件訂正発明1の「積層板」は、「誘電体多層膜」に対する「基板」ということができる。
してみると、引用発明2の「吸収剤を含有した透明樹脂製基板」と、本件訂正発明1の「積層板」とは、「基板」である点で共通する。
また、引用発明2の「吸収剤を含有した透明樹脂製基板」と、本件訂正発明1の「積層板」とは、「基板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し」ている点で共通する。

j 上記a?iより、本件訂正発明1と引用発明2とは、次の一致点で一致し、次の相違点4において相違している。

(一致点)
基板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し、透過率が下記(A)?(D)を満たす近赤外線カットフィルター。
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上
(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満

(相違点4)
近赤外線カットフィルターの基板が、
本件特許発明1では、「ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、式(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦3.7/50、および、式(iii)50≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000を満たす積層板」であるのに対し、
引用発明2では、BASF社製「Lumogen IR765(吸収極大;765nm、|Aa-Ab|=62nm)」又はExciton社製「ABS670T(吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)」を含有した透明樹脂製基板である点。

(イ) 相違点4についての判断
a 引用例3には、無機材料から構成される層と有機材料から構成される層とが積層してなるガスバリア性フィルムの具体例として、厚さ30μmガラスフィルム上にFPEKの5μm膜を成膜したFPEK/ガラスフィルム、又は、前記FPEK/ガラスフィルムのFPEK非コート面(ガラス面)にさらにFPEKの5μm膜を成膜したFPEK/ガラス/FPEKフィルムに、機能層(例えば誘電体多層膜)を積層したものを赤外カットフィルターとすることができることが記載されているものの、上記構成の「FPEK/ガラスフィルム」、又は「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、本件訂正発明1の式(ii)及び(iii)を充足するものではない。

b また、引用例3の段落【0009】の記載や段落【0008】、【0011】の記載によれば、引用例3に具体例として記載された、上記構成の「FPEK/ガラスフィルム」、又は「PEK/ガラス/FPEKフィルム」は、その厚みが50μm以下である点で柔軟性に優れ、かつ、無機層の厚みに対して有機層の厚みが10%以上である点で、無機層を充分保護し、無機層の破断を抑制し、ガスバリア性フィルムが壊れた場合でも、無機物の飛散を防止できるものである。

c そうしてみると、引用発明2の透明樹脂製基板に代えて、引用例3にガスバリア性フィルムの具体例として記載された、上記構成の「FPEK/ガラスフィルム」、又は「PEK/ガラス/FPEKフィルム」を採用することができたとしても、引用例3に上記記載に接した当業者が、ガラスフィルム(ガラス基板の厚み)を厚くして、あるいは、ガラスフィルム(ガラス基板の厚み)を厚くすることにより、無機層の厚みに対する有機層の厚みを10%以下として、(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦3.7/50、および、式(iii)50≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000を満たす構成として、あえて柔軟性あるいは無機層の保護や破断抑制の点でより劣ったものとすることは着想しないのであるから、引用発明2において、上記相違点4に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

d 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、引用例2に記載された発明及び引用例3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件訂正発明2?5、7?9について
本件訂正発明2?5、7?9は、いずれも上記相違点4に係る本件訂正発明1の構成を具備する発明である。
したがって、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2?5、7?9は、引用例2に記載された発明及び引用例3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件訂正発明10について
(ア) 一致点及び相違点
a 本件訂正発明10と引用発明2との対比は、上記ア(ア)a?iの対比と同様である。

b 上記aより、本件訂正発明10と引用発明2とは、上記ア(ア)jにおいて認定した一致点で一致し、次の相違点5及び相違点6において相違している。
(相違点5)
本件訂正発明10では、「前記ガラス基板と前記樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有し」ているのに対して、
引用発明2では、上記構成を有していない点。

(相違点6)
近赤外線カットフィルターの基板が、
本件訂正発明10では、「ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、式(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦2/5、および、式(iii)30≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000を満たす積層板」であるのに対し、
引用発明2では、BASF社製「Lumogen IR765(吸収極大;765nm、|Aa-Ab|=62nm)」又はExciton社製「ABS670T(吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)」を含有した透明樹脂製基板である点。

(イ) 相違点5についての検討
a 引用例2、あるいは引用例3のいずれにも、ガラス基板と樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する、すなわち、これら(a)ないし(c)の3つの構造単位を有する硬化層を設けることについては記載も示唆もされていない。
また、近赤外線カットフィルターにおいて、ガラス基板と樹脂層との間に、上記(a)ないし(c)の3つの構造単位を有する硬化層を設けることは、引用例1及び特許異議申立(その2)において甲第14号証として提出された特開2010-79140号公報のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、本件特許の出願の前に周知の事項であったとも認められない。
そして、本件訂正発明10は、「ガラス基板と樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層」を有することにより、樹脂層とガラス基板との密着性が高くなるという作用・効果を奏するものである(本件特許明細書段落【0084】を参照。)。
してみると、引用発明2において、上記相違点5に係る本件訂正発明10の構成とすることは、当業者が容易になし得たということはできない。

(ウ) 以上のとおりであるから、上記相違点6について検討するまでもなく、本件訂正発明10は、引用例2に記載された発明及び引用例3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件訂正発明11?17について
本件訂正発明11?17は、いずれも上記相違点5に係る本件訂正発明10の構成を具備する発明である。
したがって、本件訂正発明10と同様の理由により、本件訂正発明11?17は、引用例2に記載された発明及び引用例3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 取消理由3(引用例3を主引用例とする場合)についての判断
(1) 引用例3に記載された事項
引用例3には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
無機材料から構成される層と有機材料から構成される層とが積層してなるガスバリア性フィルムであって、
該ガスバリア性フィルムは、耐曲げ角度が10mm未満であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記有機材料から構成される層は、無機材料から構成される層の50%以下の厚みであることを特徴とする請求項1記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記有機材料から構成される層は、耐熱性有機材料から構成されたものであることを特徴とする請求項1?2のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記ガスバリア性フィルムは、機能性材料から構成される層が積層してなることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記ガスバリア性フィルムは、赤外カット用又は光学用に用いられることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のガスバリア性フィルムと、レンズとを備えることを特徴とするレンズユニット。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルムに関する。より詳しくは、レンズユニット等の光学用途やオプトデバイス用途に有用であり、その他、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品、包装用材料等として用いることができるガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性フィルムは、例えば、機械部品、電気・電子部品、自動車部品、土木建築材料等として有用であり、また、各種気体を遮断し、飲食品、医薬品、化学薬品、日用雑貨品等の種々の物品を包装する材料としても好適に用いられるものである。近年、光学部材等においては、例えば、デジタルカメラモジュールは携帯電話に搭載されるなど小型化が進み、光学部材の小型化が一層求められている。それにともなって、デジタルカメラモジュール等に用いられる赤外線をカットするフィルターや、レンズ等を有するレンズユニットの小型化が望まれるところである。例えば、カメラモジュールにおいては、赤外線をカットするフィルターや、レンズ等を有するレンズユニットにおいて、可視光を透過させて各種の機能を発揮するだけでなく、薄くて軽いフィルターやレンズ等が求められていた。
【0003】
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、軽量化、小型化が可能であり、透明性、柔軟性、取り扱い性に優れ、機械部品、電気・電子部品、自動車部品、土木建築材料、包装材料等として有用な厚みの薄いガスバリア性フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ガスバリア性フィルムについて種々検討したところ、薄い無機層を有機層で積層させる構造とすると、厚いと柔軟性がなく、薄いと割れやすく、重いといった無機層の性質、及び、耐熱性、ガスバリア性が充分でなく、線膨張係数が大きいといった有機層の性質が充分に克服され、高い透明性、優れたガスバリア性、耐熱性及び寸法安定性といった無機層に由来する特性と、軽量で、成形性や柔軟性に優れるといった有機層に由来する特性が充分に発揮されることを見いだした。通常は、有機膜は線膨張係数が大きく、有機・無機の複合化を行っても線膨張係数を小さくするのは困難であるが、有機層/無機層を積層させることで線膨張係数の違いを緩和することができることも見いだした。例えば、有機フィルム上では無機酸化物を高温で蒸着する場合に生じる変形を抑制し、蒸着後に低温に戻してもガスバリア性フィルムと蒸着した無機酸化物とがカールすることなく、好適なフィルムを得ることができ、取り扱い性に優れるフィルムとすることができる。また、無機層の厚みや柔軟性を特定のものとすることより、薄い無機層が柔軟性あるものとなり、優れたガスバリア性を発揮するとともに、フレキシブルなガスバリア性フィルムとなり、種々の用途に好適に用いることができるものとすることができる。また、無機層の透過率を特定のものとすることより、透明性に優れたフィルムとすることができることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、無機層が有機層で保護され、薄い無機材料の破断を有機材料で抑制・保護するとともに、壊れた際の無機層の飛散を防止し、光学用途やオプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品、包装用材料等の様々な用途に好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、無機材料から構成される層と有機材料から構成される層とが積層してなるガスバリア性フィルムであって、上記ガスバリア性フィルムは、耐曲げ角度が10mm未満であるガスバリア性フィルムである。
本発明はまた、ガスバリア性フィルムと、レンズとを備えるレンズユニットでもある。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明のガスバリア性フィルムは、無機材料から構成される層(無機層とも言う。)と有機材料から構成される層(有機層とも言う。)とが積層してなるものである。このような積層構造とすることで、ガスバリア性に優れるものとし、薄い無機材料(無機層)を有機材料(有機層)で保護し、無機層の破断を抑制するとともに、ガスバリア性フィルムが壊れた際に、無機物の飛散を防止することができる。また、有機フィルム上では無機酸化物を高温で蒸着等すると低温に戻った時にカールしてしまうが、有機材料/無機材料を積層させることで線膨張係数の違いを緩和でき、蒸着を行っても形状変化が実質的にないガスバリア性フィルムとすることができる。」

ウ 「【0009】
上記ガスバリア性フィルムは、厚みが100μm以下であることが好ましい。例えば、100μm以下とすることで、この要件を満たすこととなる。また、厚みを100μm以下とすることにより、軽量化、小型化に有利であるという利点がある。特に、光学部材等の光学用途においては、他の光学部材と同様にガスバリア性フィルムも軽量化、小型化が強く求められており、従来用いられてきたガラス板(厚みが200μm程度)では、これらの要求を満たすことはできなかった。例えば、ガラスからなるガスバリア材料を150μm以下まで薄膜化すると、強度や柔軟性が充分ではなく、運搬中に破損したり、成形時や機器への組み込み時、多層化や機能性の付与を行うための後工程中に割れ等が生じ、極度に作業性が悪くなったりする等の問題があった。一方、本発明のガスバリア性フィルムでは、150μm以下、具体的には、100μm以下であっても、耐曲げ角度が10mm未満であり、柔軟性があることから割れや破損を充分に防ぎ、作業性に優れるガスバリア性フィルムとすることができる。
厚みが100μmを超えると、上述のようなフィルムとして好適に用いることができなくなるおそれがあり、柔軟性が損なわれ、ガスバリア性フィルムとして好適に用いることができないおそれがある。下限としては、1μmであることが好ましい。上限としてより好ましくは、80μmであり、更に好ましくは、50μm以下である。ガスバリア性フィルムの厚みとして好ましくは、1?100μmであり、より好ましくは、10?80μmである。厚みがこのような範囲の場合、無機層(特に無機層として薄型ガラスを用いた場合)の強度が充分でなく、無機層単独ではガスバリア性フィルムとしての実用が困難であることが多いが、本発明のガスバリア性フィルムは、無機層と有機層とを積層させることにより、有機層が無機層の補強材として働き、フィルムとして充分な強度を有することとなり、種々の用途に好適に用いることができる。
【0010】
・・・(中略)・・・
【0011】
上記有機材料から構成される層は、無機材料から構成される層の50%以下の厚みであることが好ましい。無機層の厚み100%に対して有機層の厚みを50%以下とすることにより、無機槽の耐熱性、低線膨張係数を充分に発揮できる利点がある。より好ましくは、40%以下であり、更に好ましくは、35%以下であり、特に好ましくは、33.3%以下である。なお、下限としては、10%以上であることが好ましい。このような厚さの有機層とすることにより、無機層を充分保護し、無機層の破断を抑制し、ガスバリア性フィルムが壊れた場合でも、無機物の飛散を防止することができる。また、ガスバリア性は無機層(無機材料の薄膜)を積層することで達成され、ガスを通すという有機層の欠点が克服されることとなる。」

エ 「【0025】
上記ガスバリア性フィルムは、機能性材料から構成される層が積層してなることが好ましい。上記機能性材料から構成される層(機能層)としては、ガスバリア性フィルムに付与する機能によって適宜選択することができ、赤外カット層、紫外線カット層、強靱性を有する層、有機層又は無機層と赤外カット層の中間の熱膨張率を有する層、ガスバリア性フィルムにかかる応力等を吸収するバッファー層(中間層、緩和層)、補強層、親水層、撥水層、反射防止層、位相差層、屈折率調節層、粘着層、導電層、絶縁層、光学補償層等から適宜選択することができる。これらの中でも赤外カット層が好ましい。このように、赤外カット層を有するガスバリア性フィルムもまた、本発明の好ましい形態の一つである。
上記機能層は、上記ガスバリア性フィルムの構成のいずれに積層されてもよく、有機層及び/又は無機層の上及び/又は下に形成させることができる。中でも、ガスバリア性フィルムの最も外側の一方の面又は両方の面を構成する形態が好ましい。このような形態とすることで、機能層の形成が容易となり、機能層の各種機能が充分に発揮され、優れた機能を有するガスバリア性フィルムとすることができる。このように、フィルムの両面に機能性材料から構成される層を持つガスバリア性フィルムもまた、本発明の好ましい形態の一つである。また、このような形態においては、蒸着により機能性材料を積層させる場合には、両面に材料を蒸着させることになることから、蒸着時及び/又は実装時のカールを抑制することができ、種々の用途により好適なガスバリア性フィルムとすることができる。

オ 「【0027】
上記機能層としてIRカット層(赤外カット層)を形成する場合、赤外カット層としては、赤外線の透過率を選択的に低減する機能を有する限り、その構成、形態等は特に限定されない。このような赤外カット層は、低屈折率材料及び高屈折率材料を40?60層(6μm)程度積層させた構造の多層膜(多層蒸着層、多層蒸着膜とも言う。)であることが好ましい。このような赤外カット層を有するガスバリア性フィルムとしては、赤外カット機能を有することとなり、低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に積層させて、IRカット層(赤外カット層)を形成し、赤外領域の波長を選択的に反射させるとともに、入斜光と反射光の位相を半波長ずれるようにして、赤外線の透過率を選択的に低減させることとなる。また、上記赤外カット層は、誘電体層Aと、誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜からなる赤外カット層(赤外線反射膜ともいう。)であってもよい。このような誘電体多層膜を少なくとも透明基板(ガスバリア性フィルム)の一方の面に有することにより、赤外線を反射する能力に優れた赤外カットフィルターとすることができる。なお、赤外カット層は、単層構造であっても多層構造であってもよく、ガスバリア性フィルムの片面又は両面にあってもよい。赤外カット層については、後に詳述する。」

カ 「【0070】
本発明のガスバリア性フィルムは、機能層として赤外カット層を形成することにより、赤外線の透過率を選択的に低減することができる。このようなガスバリア性フィルムにおいて、赤外線をカットする機能は、上術したように、多層膜を形成する形態であることが好適であるが、その他の形態を有していてもよい。例えば、(1)可視光を透過し近赤外線を遮蔽する金属酸化物からなる薄膜を有機層及び/又は無機層表面に形成する形態や、(2)赤外吸収色素を含有する塗布膜を形成する形態、(3)有機層及び/又は無機層に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態等が好適である。このような形態を用いることで、多層膜(多層蒸着層)の積層数を低減できたり省略したりすることができ、ガスバリア性フィルムの膜厚を薄くできるために、ガスバリア性フィルムを光学用途として用いる場合に光路を短縮することができ、カメラモジュール等の光学部材において有用なものとすることができる。赤外カット層を有機層(例えば、樹脂組成物からなる層)に形成する場合は、多層膜を形成する際の有機層のカールを抑制でき、低コスト化にも効果がある。赤外カット層を無機層(例えば、ガラスからなる層)に形成する場合は、多層蒸着層(多層膜)の厚みが薄くなるために無機層の割れを抑制できる。
【0071】
上記(1)可視光を透過し近赤外線を遮蔽する金属酸化物からなる薄膜を有機層及び/又は無機層表面に形成する形態としては、SnやTi等の4価の金属元素又はフッ素を固溶してなるIn_(2)O_(3)系酸化物;Sb、P等の5価の金属元素又はフッ素を固溶してなるSnO_(2)系酸化物;B、Al、In等の3価金属元素又は4価金属元素又はフッ素を固溶してなるZnO系酸化物;In、Znを金属成分とする複合酸化物等の可視光を透過し近赤外線を遮蔽する金属酸化物からなる薄膜を金属表面に形成する方法が好ましい。このような薄膜は、スパッタリング法、蒸着法等により形成することが好適である。
上記(2)赤外吸収色素を含有する塗布膜を形成する形態としては、上記酸化物からなる超微粒子を含む塗布膜、金属フタロシアニン等の赤外吸収色素を含有する塗布膜を形成する方法が好ましい。このような塗布膜は、超微粒子や赤外吸収色素を有し、有機バインダーや無機バインダーをバインダーとして用いた塗料を成膜する方法が好適である。
上記(3)有機層及び/又は無機層に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態としては、有機層(例えば、樹脂組成物)に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる場合は、樹脂組成物に上記酸化物や色素を練り込んでフィルム状に成型する方法が好適である。また、無機層(例えば、ガラス)に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる場合には、Fe等の金属元素を固溶することにより得られる赤外線吸収ガラスを用いることが好適である。」

キ 「【0091】
〔ガスバリア性フィルムの用途〕
本発明のガスバリア性フィルムは、上述の構成とすることにより、優れた赤外線カット能を有し、割れにくい。したがって自動車や建物などのガラスなどに装着される熱線カットフィルターなどとして有用であるのみならず、特に、デジタルスチルカメラや携帯電話用カメラなどのCCDやCMOSなどの固体撮像素子の視感度補正に有用である。」

ク 「【0094】
(1)ガスバリア性フィルムの作製
ガラスフィルム:SCHOTT社製ガラスコード:D263、厚み30μmを用いた。
実施例1(フッ素化芳香族ポリマー:FPEK)
(合成)
温度計、冷却管、ガス導入管、及び、撹拌機を備えた反応器に、BPDE(4,4’-ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル)16.7部、HF(9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン)10.5部、炭酸カリウム4.3部、DMAc(ジメチルアセトアミド)90部を仕込んだ。この混合物を80℃に加温し、8時間反応した。
反応終了後、反応液をブレンダーで激しく撹拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、フッ素化芳香族ポリマー(FPEK)を得た。反応式を下記に示す。FPEKは、下記反応式で得られた繰り返し単位を含むポリマーである。
【0095】
【化14】


【0096】
(フィルムの作製)
FPEK1.57gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.45gに添加して均一に撹拌し、FPEK溶液を得た。スピンコート法を用いて、ガラスフィルム(30μm)上に5μm膜を成膜した後、150℃で乾燥した。(FPEK/ガラスフィルム)(実施例1-1)
さらに、上記で得られたフィルムの1つを、FPEK非コート面(ガラス面)にFPEK溶液をスピンコートし5μm膜を成膜した後、150℃で乾燥した。(FPEK/ガラス/FPEKフィルム)(実施例1-2)」

ケ 「【0104】
〔ガスバリア性膜の評価〕
実施例1?5、比較例1?5について、ガスバリア性フィルムの構成、各フィルム厚さ、有機/無機比率をまとめ、表1に示した。
また500nmにおける透過率測定、曲げ試験、260℃耐熱評価、ガス透過性試験を行い、表1に示した。
【0105】
・・・(中略)・・・
(曲げ試験)
プラスチック製円錐型を用いて、図1に示すように、該円錐型にガスバリア性フィルムを沿わせて、割れが生じる径(直径R)を求めた。ガスバリア性フィルムの幅は10mmとした。
厚みは上述のとおりである。また、ガスバリア性フィルムと円錐型の接触部は、半円領域のみとした。R=30mmからスタートして、0.2mm/sで直径を縮めた。試験は25℃で行った。
【0106】
(260℃耐熱評価)
ガスバリア性フィルムを2cm×1cmの形状とし、フィルムの上端(1cmの辺を上端とする。)を固定し、260℃、3分オーブンにて加熱を行った。加熱後の状態を観察した。
(ガス透過性試験)
・・・(中略)・・・
【0107】
【表1】


【0108】
表1の結果から、すべてのガスバリア性フィルムにおいて500nm透過率が80%以上であり、良好な透明性を示した。
曲げ試験では、比較例1のガラスはR=10mmで割れが生じたのに対し、有機材料を積層した実施例1?5では、耐曲げ角度が10mm未満へと改善され、ガスバリア性フィルムに柔軟性が付与されたことが明らかとなった。
260℃耐熱評価では、比較例2のPETフィルムが溶け落ちたのに対し、実施例1?4、比較例3?5の耐熱性有機材料からなるガスバリア性フィルムは耐性を示した。また、実施例1のFPEK/ガラスフィルムは、260℃耐熱評価後に変化が認められなかったのに対し、実施例5のFPEK/ガラスフィルムは、260℃耐熱評価後にガラスにヒビが入った。このことから、耐熱性を有するガスバリア性フィルムとするには、有機/無機比率が50%以下であることが好ましいことが明らかになった。実施例5では、有機層の比率が増すことにより、無機材料と有機材料の線膨張係数の差が及ぼす影響が顕著になり、無機層が破談したと考えられる。
ガス透過性試験では、比較例2?5の有機材料のみからなるガスバリア性フィルムは酸素を透過したのに対し、無機材料を積層した実施例1?4は酸素透過性が測定限界以下となり、優れたガスバリア性を示した。
【0109】
(2)IRカット層蒸着ガスバリア性フィルムの作製
実施例6?9及び比較例6?9
実施例1?4、比較例1、3?5のガスバリア性フィルム(1辺が60mm)の片面に、蒸着温度180℃で赤外線を反射する多層膜シリカ(SiO_(2):膜厚120nm?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm)層を交互に積層し、積層数50を蒸着により形成した。」

コ 「【0110】
〔IRカット層蒸着ガスバリア性膜の評価〕
上記で作製したIRカット層蒸着ガスバリア性フィルムの蒸着後の形状、透過率を表2に示した。
【0111】
【表2】


【0112】
表2の結果から、蒸着後、比較例6は割れが生じ、柔軟性がなく作業性に乏しいことが分かった。無機層のない比較例7?9を用いたIRカット層蒸着ガスバリア性フィルムは、カールしてしまったが、無機層を有する実施例6?9は変化せず、無機層と有機層とが積層されることで、蒸着条件に耐えることが明らかとなった。透過率測定の結果、実施例6?9は、400nm?500nmでは透過率90%以上、750nm?1000nmでは透過率5%以下と、IRカットフィルターとしても優れた性能を示した。
【0113】
上述した実施例及び比較例では、有機層としてFPEK、フッ素化ポリイミド、フルオレンエポキシ可とう性エポキシを、無機層としてガラスを用いているが、無機材料から構成される層と有機材料から構成される層である限り、耐曲げ角度が10mm未満のガスバリア性フィルムとすることができるようなものであれば、軽量化、小型化が可能であり、透明性、柔軟性、取り扱い性に優れる機構は同様である。したがって、無機材料から構成される層と有機材料から構成される層とが積層させれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、有機層が、フッ素化芳香族ポリマー、多環芳香族ポリマー、ポリイミド樹脂、含フッ素高分子化合物及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、無機層がガラスであるガスバリア性フィルムであるガスバリア性フィルムにおいては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。」

サ 「ガスバリア性フィルムの構成、各フィルム厚さ、有機/無機比率をまとめ」て示した引用例1の段落【107】の【表1】の「ガスバリア性フィルム」の「フィルム厚み(μm)」欄の記載によれば、実施例1-1のガスバリア性フィルム「FPEK/ガラス」、又は実施例1-2のガスバリア性フィルム「FPEK/ガラス/FPEK」においては、「ガラスフィルム(30μm)上に」「成膜」された(各)「FPEK」の膜の厚みが「5μm」、「ガラス」の厚みが「30μm」であることが把握できる。

シ 上記ア?サより、請求項1?5,段落【0006】、【0007】、【0011】、【0025】、【0027】、【0070】、【0071】、【0091】、【0096】、【0104】、【0107】【表1】、【0109】及び【0112】からみて、引用例3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

「無機材料から構成される層と有機材料から構成される層とが積層してなるガスバリア性フィルムに、さらに赤外カット層を積層してなる赤外カットフィルターであって、
前記有機材料から構成される層は、無機材料から構成される層の50%以下、好ましくは40%以下10%以上の厚みであり、
前記有機材料から構成される層は、耐熱性有機材料から構成されたものであり、
前記ガスバリア性フィルムは、機能性材料から構成される層(機能層)が積層してなり、前記機能層としては、赤外カット層、紫外線カット層、強靱性を有する層、有機層又は無機層と赤外カット層の中間の熱膨張率を有する層、ガスバリア性フィルムにかかる応力等を吸収するバッファー層(中間層、緩和層)、補強層、親水層、撥水層、反射防止層、位相差層、屈折率調節層、粘着層、導電層、絶縁層、光学補償層等から適宜選択することができ、
前記ガスバリア性フィルムは、赤外カット用又は光学用に用いることができ、
前記赤外カット層は、好ましくは、低屈折率材料及び高屈折率材料を40?60層程度積層させた構造の多層膜(多層蒸着層、多層蒸着膜)であり、赤外領域の波長を選択的に反射させるとともに、入斜光と反射光の位相を半波長ずれるようにして、赤外線の透過率を選択的に低減させることができ、また、前記赤外カット層は、誘電体層Aと、誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜からなる赤外カット層(赤外線反射膜)であってもよく、このような誘電体多層膜を少なくとも透明基板(前記ガスバリア性フィルム)の一方の面に有することにより、赤外線を反射する能力に優れた赤外カットフィルターとすることができ、
このようなガスバリア性フィルムにおいて、赤外線をカットする機能は、多層膜を形成する形態の他に、有機層及び/又は無機層に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態等も好適であり、このような形態を用いることで、多層膜(多層蒸着層)の積層数を低減できたり省略したりすることができ、上記有機層及び/又は無機層に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態としては、有機層(例えば、樹脂組成物)に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる場合は、樹脂組成物に可視光を透過し近赤外線を遮蔽する金属酸化物や赤外吸収色素を練り込んでフィルム状に成型する方法が好適であり、
ガスバリア性フィルムを、薄い無機層を有機層で積層させる構造とすると、厚いと柔軟性がなく、薄いと割れやすく、重いといった無機層の性質、及び、耐熱性、ガスバリア性が充分でなく、線膨張係数が大きいといった有機層の性質が充分に克服され、高い透明性、優れたガスバリア性、耐熱性及び寸法安定性といった無機層に由来する特性と、軽量で、成形性や柔軟性に優れるといった有機層に由来する特性が充分に発揮され、
通常は、有機膜は線膨張係数が大きく、有機・無機の複合化を行っても線膨張係数を小さくするのは困難であるが、有機層/無機層を積層させることで線膨張係数の違いを緩和することができ、
無機層の厚みや柔軟性を特定のものとすることより、薄い無機層が柔軟性あるものとなり、優れたガスバリア性を発揮するとともに、フレキシブルなガスバリア性フィルムとなり、種々の用途に好適に用いることができるものとすることができ、また、無機層の透過率を特定のものとすることより、透明性に優れたフィルムとすることができ、さらに、無機層が有機層で保護され、薄い無機材料の破断を有機材料で抑制・保護するとともに、壊れた際の無機層の飛散を防止し、光学用途やオプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品、包装用材料等の様々な用途に好適に適用することができ、
前記ガスバリア性フィルムは、上述の構成とすることにより、優れた赤外線カット能を有し、割れにくく、特に、デジタルスチルカメラや携帯電話用カメラなどのCCDやCMOSなどの固体撮像素子の視感度補正に有用であり、
前記ガスバリア性フィルムと、レンズとを備えるレンズユニットを構成することもでき、
前記赤外カットフィルターは、具体的には、厚さ30μmガラスフィルム上にFPEKの5μm膜を成膜したFPEK/ガラスフィルム、又は、前記FPEK/ガラスフィルムのFPEK非コート面(ガラス面)にさらにFPEKの5μm膜を成膜したFPEK/ガラス/FPEKフィルム(1辺が60mm)の片面に、赤外線を反射する多層膜シリカ(SiO_(2):膜厚120nm?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm)層を交互に積層し、積層数50を蒸着により形成した、IRカット層蒸着ガスバリア性フィルムであって、波長400?500nmの可視域における透過率が90%以上であり、波長750?1000nmの近赤外域における透過率が5%以下であるIRカット層蒸着ガスバリア性フィルムとして構成することもできる、
赤外カットフィルター。」

(2) 本件訂正発明と引用発明3との対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)一致点及び相違点
本件訂正発明1と引用発明3とを対比する。
a 引用発明3の「赤外カットフィルター」の具体例の「厚さ30μmガラスフィルム上にFPEKの5μm膜を成膜したFPEK/ガラスフィルム」における「厚さ30μmガラスフィルム」及び「FPEKの5μm膜」は、それぞれ本件訂正発明1の「ガラス基板」及び「樹脂層」に相当する。
引用発明3の「赤外カットフィルター」の具体例の「前記FPEK/ガラスフィルムのFPEK非コート面(ガラス面)にさらにFPEKの5μm膜を成膜した」「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」における「厚さ30μmガラスフィルム」及び「FPEKの5μm膜」は、それぞれ本件訂正発明1の「ガラス基板」及び「樹脂層」に相当する。

b 上記aより、引用発明3の「赤外カットフィルター」の具体例の「FPEK/ガラスフィルム」、又は「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、本件訂正発明1の「積層板」に相当する。
また、引用発明3と、本件訂正発明1とは、「ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し」ている点で共通する。

c 引用発明3の具体例の「FPEK/ガラスフィルム」又は「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、ガラスフィルムの厚さが30μm、FPEKの膜の厚みが5μmである。
そうすると、引用発明3の「FPEK/ガラスフィルム」においては、「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みは、1/6(=5μm/30μm)であり、「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」においては、「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みは、1/3(=(5μm+5μm)/30μm)である。

d 引用発明3の具体例の「FPEK/ガラスフィルム」、又は「FPEK/ガラス/FPEKフィルム(1辺が60mm)」の片面に蒸着により形成した、「赤外線を反射する多層膜シリカ(SiO_(2):膜厚120nm?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm)層を交互に積層し、積層数50を蒸着により形成した、IRカット層」は、本件特訂正明1における「誘電体多層膜」に相当する。
してみると、上記bより、引用発明3と、本件訂正発明1とは、「前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し」ている点で共通する。

e 引用発明3の「赤外カットフィルター」は、「波長750?1000nmの近赤外域における透過率が5%以下である」から、「近赤外線」をカットしている。
してみると、引用発明3の「赤外カットフィルター」は、本件訂正発明1の「近赤外線カットフィルター」に相当する。

f 上記a?gより、両者は、次の一致点で一致し、次の相違点7及び相違点8において相違する。

(一致点)
ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有する積層板を含み、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有する近赤外線カットフィルター。

(相違点7)
積層板が、
本件訂正発明1では、式(ii)及び(iii)を満たしているのに対して、
引用発明3では、具体例の「FPEK/ガラスフィルム」又は「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、「ガラスフィルム」の厚さが「30μm」、「FPEKの膜」の厚みが「5μm」であって、「FPEK/ガラスフィルム」の「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みが1/6であり、「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」の「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みが1/3であるから、式(ii)および(iii)のいずれも満たしていない点。
ここで、式(ii)および(iii)は下記のものである。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦3.7/50
(iii)50≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000

(相違点8)
近赤外線カットフィルターの透過率が、
本件訂正発明1は、「(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上、(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下、(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満、(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満」を満たすのに対し、
引用発明3は、具体例のFPEK/ガラスフィルム又はFPEK/ガラス/FPEKフィルムの片面に、多層膜シリカ層とチタニア層を交互に積層し、積層数50を蒸着により形成した、IRカット層蒸着ガスバリア性フィルムにおいて、波長400?500nmの可視域における透過率が90%以上であり、波長750?1000nmの近赤外域における透過率が5%以下である」ものの、上記(A)?(D)を満たすかどうか不明である点。

(イ) 相違点7についての検討
a 引用例3の段落【0009】の記載や段落【0008】、【0011】の記載によれば、引用例3に具体例として記載された、上記構成の「FPEK/ガラスフィルム」、又は「PEK/ガラス/FPEKフィルム」は、その厚みが50μm以下である点で柔軟性に優れ、かつ、無機層の厚みに対して有機層の厚みが10%以上である点で、無機層を充分保護し、無機層の破断を抑制し、ガスバリア性フィルムが壊れた場合でも、無機物の飛散を防止できるものである。

b そうしてみると、引用発明3の具体例である、「FPEK/ガラスフィルム」、又は「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」において、ガラスフィルム(ガラス基板の厚み)を厚くして、(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦3.7/50、および、式(iii)50≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000を満たす構成として、あえて柔軟性あるいは無機層の保護や破断抑制の点でより劣ったものとすることには動機付けがない。
そして、引用例2には、光選択透過フィルター(あるいは、近赤外カットフィルター)において、式(ii)および(iii)を満たす構成とすることについて記載も示唆もない。

c よって、本件訂正発明1は、引用例3に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ) 以上のとおりであるから、上記相違点8について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用例3に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件訂正発明2?5、7?9について
本件訂正発明2?5、7?9は、いずれも前記相違点7に係る本件訂正発明1の構成を具備する発明である。
したがって、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2?5、7?9は、引用例3に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件訂正発明10について
(ア) 一致点及び相違点
a 本件訂正発明10と引用発明3との対比は、本件訂正発明1についての上記ア(ア)a?eと同様である。
ただし、引用発明3の具体例の「FPEK/ガラスフィルム」又は「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」は、ガラスフィルムの厚さが30μm、FPEKの膜の厚みが5μmであり、「FPEK/ガラスフィルム」の「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みは1/6であり、「FPEK/ガラス/FPEKフィルム」の「FPEKの膜」の厚み/「ガラスフィルム」の厚みは1/3であるから、引用発明の具体例は、本件訂正発明10における式(ii)及び(iii)を充足する。

b 上記aより、両者は、次の一致点で一致し、上記ア(ア)fにおいて認定した相違点8に加えて、次の相違点9において相違する。

(一致点)
ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、下記式(ii)および(iii)を満たす積層板を含み、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有する近赤外線カットフィルター。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦2/5
(iii)30≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000

(相違点9)
本件訂正発明10では、「前記ガラス基板と前記樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有し」ているのに対して、
引用発明3では、上記構成を有していない点。

(イ) 相違点9についての検討
引用例3には、ガラス基板と樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する、すなわち、これら(a)ないし(c)の3つの構造単位を有する硬化層を設けることについては記載も示唆もされていない。
また、近赤外線カットフィルターにおいて、ガラス基板と樹脂層との間に、上記(a)ないし(c)の3つの構造単位を有する硬化層を設けることは、引用例2にも記載されておらず、また、本件特許の出願の前に周知の事項であったとも認められない。
してみると、引用発明3において、「ガラス基板と樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有する」構成とすることは、当業者が容易になし得たということはできない。

(ウ) 以上のとおりであるから、本件訂正発明10は、上記相違点8について検討するまでもなく、引用例3に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件訂正発明11?17について
本件訂正発明11?17は、いずれも前記相違点9に係る本件訂正発明10の構成を具備する発明である。
したがって、本件訂正発明10と同様の理由により、本件訂正発明11?17は、引用例3に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)(特許異議申立(その2)における)特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第4項第1号について

ア 特許異議申立人竹口美穂は、訂正前の本件発明1?9の「(B)波長800?1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下」について、本件特許明細書には透過率の「平均値」の算出方法が一切記載されておらず、技術常識上、透過率の「平均値」の算出方法として一義的に定まった手法は存在しないから、本件発明1?9は不明確であり、同様の理由により、発明の詳細な説明は、上記本件発明1?9を全体にわたって当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない旨、主張している。

イ しかしながら、「透過率の平均値」は、一般的には、「所与の波長範囲において、1nm刻みで各波長における透過率を測定し、その透過率の合計を、測定した透過率の数(波長範囲)で除した値」をいうことが当業者にとって自明であるところ、本件特許明細書に明記がなくとも、本件訂正発明における「透過率の平均値」が、前述した値を指していることは明らかである。このことは、本件特許明細書の段落【0122】及び【0123】に、透過率の平均値を日立分光光度計U-4100により測定することが記載されており、当該記載中の日立分光光度計U-4100が1nm刻みで各波長における透過率を測定することが可能であることからも裏付けられる。
そうすると、本件訂正発明1?5、7?17は明確でないとはいえない。

ウ 上記イに示したとおり、「透過率の平均値」は、「所与の波長範囲において、1nm刻みで各波長における透過率を測定し、その透過率の合計を、測定した透過率の数(波長範囲)で除した値」をいうことが当業者にとって自明であるから、発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1?5、7?17を全体にわたって当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

(2)(特許異議申立(その2)における)特許法第36条第6項第1号について

ア 特許異議申立人竹口美穂は、(1)訂正前の本件発明1は、「視野角が広く、さらに、近赤外線カット能に優れ、更にハンダリフロー工程での使用に適した耐熱性を有する、特にCCD、CMOS等の固体撮像装置に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを得ること」を課題とする、ガラス基板の少なくとも片面に「樹脂層」を有し、かつ所定の厚み条件を満たす積層板を含むとともに、この積層板の少なくとも片面に「誘電体多層膜」を有し、所定の透過率条件を満たすという構成の近赤外線カットフィルターであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明において上記課題を解決し効果を発揮できることが記載されているのは、「近赤外線カットフィルター」の「樹脂層」を「近赤外線吸収剤」と「樹脂」とを含むものとするとともに、「近赤外線吸収剤」として、「ABS670T(Exciton社製)」、又は「Lumogen IR765(BASF社製)」を用い、「樹脂」として、「ポリエーテル系樹脂(P-1)」、「ポリイミド系樹脂(P-2)」、「ポリエチレンテレフタラート」、又は「ポリエーテルスルホン」を用い、「近赤外線カットフィルター」の「誘電体多層膜」を、「シリカ(SiO_(2):膜厚20?250nm)層」と「チタニア(TiO_(2):膜厚70?130nm)層」とが交互に積層されてなる(積層数44)「多層蒸着膜」としたもののみであり、(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記「近赤外線吸収剤」とは異なる吸収極大波長又は5%重量減少温度を示す近赤外線吸収剤を用いた場合、「樹脂層」が「近赤外線吸収剤」そのものを含有しない場合、上記「樹脂」とは異なる樹脂を用いた場合、上記「多層蒸着膜」とは異なる「誘電体多層膜」を用いた場合等にも、上記課題を解決し効果を発揮できることは示されておらず、この知見が本件出願時の技術常識であるともいえないから、本願出願時の技術常識に照らしても、上記本件発明1、本件発明1を引用する本件発明2?9にまで、発明の詳細な説明に開示した内容を拡張ないし一般化できないから、本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨、主張している。

イ しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明の、実施例についての記載(段落【0120】?【0184】)、「近赤外線吸収剤」についての記載(段落【0051】?【0055】等)、「樹脂層」についての記載(段落【0032】?【0050】等)、「誘電体多層膜」についての記載(段落【0106】?【0113】等)や「近赤外線カットフィルター」,「積層板」,及び「樹脂層」についての記載(段落【0019】?【0028】、【0058】等)及び当業者の技術常識に基づけば、本件訂正発明1?5、7?17にまで、発明の詳細な説明の開示された内容を拡張ないし一般化できるものと認められるから、本件訂正発明1?5、7?17は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

(3)(特許異議申立(その2)における甲第3号証(特開2006-106570号公報)を主引用例とした)特許法第29条第1項第3号及び第2項について
ア 特開2006-106570号公報(以下、「引用例4」という。)の段落【0022】に記載された「光吸収フィルター」は、「厚さ1mmmのガラス基板の両側に」、「光吸収剤として近赤外線吸収剤を含む顔料インクを塗布し、乾燥した」「膜物質1」及び「ITOを含む組成物」「を塗布し、乾燥した」高屈折率層である「膜物質2」を、「厚さを変化させながら片側25層積層ずつ積層した」ものである。
してみると、引用例4に記載された「膜物質1」及び「膜物質2」を交互に積層したものは、「誘電体多層膜」とはいえない。

イ そうすると、ガラス基板上に形成された「膜物質1」の最も内側の最初の層である「第1の層」以外の24層の層構成が、本件特許発明1の「誘電体多層膜」に相当することを前提とした特許異議申立人竹口美穂の特許異議申立理由を採用することはできない。

(4)(特許異議申立(その2)における甲第1号証(引用例2)を主引用例、甲第5号証(引用例1)を副引用例とした)特許法第29条第1項第3号及び第2項について
ア 本件訂正発明1と引用発明2とを対比すると、一致点及び相違点は、上記4(2)ア(ア)jにおいて認定したとおりである。
そして、引用発明2において、透明樹脂製基板に代えて、引用例1に記載の「(7-1)ガラス/FPEKフィルム」、又は「(7-2)FPEK/ガラス/FPEKフィルム」を採用したとしても、本件訂正発明1の式(ii)及び(iii)を充足せず、また、上記3(2)(イ)bと同様の理由により、引用発明2において、式(ii)及び(iii)を満たす構成とすることには動機付けはない。
よって、引用発明2において、上記相違点4に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものではない。

イ 本件訂正発明10と引用発明2とを対比すると、一致点及び相違点は、上記4(2)ウ(ア)bにおいて認定したとおりである。
そして、光選択透過フィルター(近赤外線カットフィルター)のガラス基板と樹脂層との間に、上記(a)ないし(c)の3つの構造単位を有する硬化層を設けることは、引用例1?3あるいは特許異議申立(その2)において甲第14号証として提出された特開2010-79140号公報のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、本件特許の出願の前に周知の事項であったとも認められない。
よって、引用発明2において、上記相違点5に係る本件発明10の構成とすることは、当業者が容易になし得たものではない。

ウ 上記イとウより、本件訂正発明1?5、7?17に係る発明は、引用例2に記載された発明及び引用例1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立(その1)の理由及び証拠、特許異議申立(その2)の理由及び証拠によっては、請求項1?5、7?17に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に請求項1?5、7?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項6に係る特許は、訂正により、削除されたため、請求項6に対して、特許異議申立人石井良夫及び特許異議申立人竹口美穂がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、下記式(ii)および(iii)を満たす積層板を含み、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し、透過率が下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルター。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦3.7/50
(iii)50≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上
(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満
【請求項2】
前記樹脂層が、近赤外線吸収剤を含有し、
該樹脂層と前記ガラス基板との間の密着性を確保する密着層を有し、
前記積層板の両面に前記誘電体多層膜を有することを特徴とする請求項1に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項3】
前記積層板が、下記(i)の要件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線カットフィルター。
(i)吸収極大波長を600?800(nm)に有する
【請求項4】
前記樹脂層が、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、および環状オレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項5】
前記近赤外線吸収剤が下記(iv)を満たすことを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
(iv)大気中で熱重量分析にて測定した5%重量減少温度が250℃以上である
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記樹脂層のガラス基板が積層された面の反対側の面に、可視光反射防止層が形成されていることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項8】
請求項1?5および7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像用素子。
【請求項9】
請求項1?5および7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。
【請求項10】
ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有し、下記式(ii)および(iii)を満たす積層板を含み、
前記ガラス基板と前記樹脂層の間に、(a)(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構造単位、(b)カルボン酸基含有化合物に由来する構造単位、および(c)エポキシ基含有化合物に由来する構造単位を有する硬化層を有し、
前記積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有し、透過率が下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルター。
(ii)1/700≦(樹脂層の厚み/ガラス基板の厚み)≦2/5
(iii)30≦ガラス基板の厚み(μm)≦1000
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上
(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が1%以下
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が75nm未満
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満
【請求項11】
前記樹脂層が、近赤外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項10に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項12】
前記積層板が、下記(i)の要件を満たすことを特徴とする請求項10または11に記載の近赤外線カットフィルター。
(i)吸収極大波長を600?800(nm)に有する
【請求項13】
前記樹脂層が、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、および環状オレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする請求項10?12のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項14】
前記近赤外線吸収剤が下記(iv)を満たすことを特徴とする請求項11?13のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
(iv)大気中で熱重量分析にて測定した5%重量減少温度が250℃以上である
【請求項15】
前記樹脂層のガラス基板が積層された面の反対側の面に、可視光反射防止層が形成されていることを特徴とする請求項10?14のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項16】
請求項10?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像用素子。
【請求項17】
請求項10?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-22 
出願番号 特願2010-249815(P2010-249815)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川口 聖司  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
河原 正
登録日 2016-05-20 
登録番号 特許第5936299号(P5936299)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 近赤外線カットフィルター、およびそれを備える固体撮像素子ならびに固体撮像装置  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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