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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C03B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C03B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C03B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C03B |
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管理番号 | 1341981 |
異議申立番号 | 異議2017-700978 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-11 |
確定日 | 2018-05-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6112122号発明「化学強化用フロートガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6112122号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第6112122号の請求項1ないし7、9ないし13に係る特許を維持する。 特許第6112122号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6112122号は、平成25年12月27日(優先権主張 2012年12月27日 日本国)を国際出願日とする特願2014-554596号について、平成29年 3月24日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1?13に係る特許に対し、平成29年10月11日付けで特許異議申立人 松村 朋子により特許異議の申立てがされ、平成29年12月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年 2月20日付けで意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年 3月26日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成30年 2月20日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1?22よりなる。 (ア)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (イ)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (ウ)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (エ)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (オ)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (カ)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (キ)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (ク)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 (ケ)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9の「請求項1?8のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「請求項1?7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正する。 (コ)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項10の「請求項1?9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「請求項1?7、9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正する。 (サ)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項13の「請求項1?12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス」を、「請求項1?7、9?12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス」に訂正する。 (シ)訂正事項12 願書に添付した明細書の段落【0016】の「1.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (ス)訂正事項13 願書に添付した明細書の段落【0016】の「2.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (セ)訂正事項14 願書に添付した明細書の段落【0016】の「3.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (ソ)訂正事項15 願書に添付した明細書の段落【0016】の「4.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (タ)訂正事項16 願書に添付した明細書の段落【0016】の「5.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (チ)訂正事項17 願書に添付した明細書の段落【0016】の「6.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (ツ)訂正事項18 願書に添付した明細書の段落【0016】の「7.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。 (テ)訂正事項19 願書に添付した明細書の段落【0016】の「8.」を削除する。 (ト)訂正事項20 願書に添付した明細書の段落【0016】の「9.」において、「前項1?8のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「前項1?7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正する。 (ナ)訂正事項21 願書に添付した明細書の段落【0016】の「10.」において、「前項1?9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「前項1?7、9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正する。 (ニ)訂正事項22 願書に添付した明細書の段落【0016】の「13.」において、「前項1?12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス」を、「前項1?7、9?12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス」に訂正する。 2.訂正の適否 (ア)訂正事項1?7について 訂正事項1?7は、請求項1?7に記載された化学強化用フロートガラスについて、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」にそれぞれ訂正するものであり、訂正前の請求項1?7では、100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力及び圧縮応力層深さについて特定されていないのに対し、訂正後の請求項1?7は、100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下であることを特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、当該訂正事項1?7は、本件特許明細書の段落【0058】の「本発明の化学強化用フロートガラスは化学強化したガラスの表面圧縮応力が650MPa以上であることが好ましく、圧縮応力層の深さは20μm以下であるところに用いるのに特に好適である。」との記載及び【表10】の実施例「G13」に関する記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 (イ)訂正事項8について 訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項8を削除する訂正である。 すなわち、当該訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項8は、請求項を削除する訂正であり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 (ウ)訂正事項9?11について 訂正事項9?11は、請求項9,10,13において、請求項8を引用しない記載にそれぞれ訂正するものである。 すなわち、当該訂正事項9?11は、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項9?11は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (エ)訂正事項12?18について 訂正事項12?18は、上記訂正事項1?7に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0016】の「1.」?「7.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正するものである。 したがって、当該訂正事項12?18は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項12?18は、訂正事項1?7と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 (オ)訂正事項19について 訂正事項19は、上記訂正事項8に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0016】の「8.化学強化温度がT(単位:K)、化学強化時間がt(単位:時間)である化学強化に用いられ、且つSiO_(2)を含有し、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、SrO、BaO、ZrO_(2)、Na_(2)OおよびK_(2)Oの各質量百分率表示含有量を用いて次式で求められるdolが20以下である前項1?7のいずれか1に記載の化学強化用フロートガラス。 dol=-0.13×Al_(2)O_(3)-1.88×MgO-2.41×CaO-1.85×SrO-1.35×BaO-1.59×ZrO_(2)+1.50×Na_(2)O+2.42×K_(2)O-129359/T+9.28×t^(0.5)+182.88 なお、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、SrO、BaO、ZrO_(2)、Na_(2)OおよびK_(2)Oは必須成分ではない。化学強化に用いられる塩はKNO_(3)濃度が95?100質量%であるものが典型的である。」を削除するものである。 したがって、当該訂正事項19は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項19は、訂正事項8と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 (カ)訂正事項20?22について 訂正事項20?22は、上記訂正事項9?11に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0016】の「9.」において、「前項1?8のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「前項1?7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正し、 「10.」において、「前項1?9のいずれか1に記載の化学強化用フロートガラス」を、「前項1?7および9のいずれか1に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正し、 「13.」において、「前項1?12のいずれか1に記載の化学強化用ガラス」を「前項1?7、9?12のいずれか1に記載の化学強化用ガラス」に訂正するものである。 したがって、当該訂正事項20?22は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項20?22は、訂正事項9?11と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 3.一群の請求項について 訂正事項1?8に係る訂正前の請求項1?8を訂正事項9?11に係る訂正前の請求項9?13が直接または間接的に引用していることから、訂正前の請求項1?13は、一群の請求項である。 したがって、訂正事項1?11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項について請求するものである。 そして、本件特許明細書に係る訂正事項12?22は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に規定するこの一群の請求項の全てについて請求するものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項及び第9項の規定によって準用する第126条第4項乃至第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 上記「第2.」のとおり、本件訂正請求による訂正が認められるから、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?7,9?13に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」、「本件発明9」?「本件発明13」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7,9?13に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na_(2)O^(2))が0.040以下である化学強化用フロートガラス。 ここで、それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値である。 【請求項2】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値であるΔイオン交換量1が0.32以下である化学強化用フロートガラス。 ここで、イオン交換量1は下記式(2-1)により求められる値である。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度)…式(2-1) 式(2-1)において、規格化Na_(2)O表面濃度は表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 また、Sn濃度はトップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量である。 【請求項3】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(3-1)により求められるW1が56以下である化学強化用フロートガラス。 W1=-16×(ΔH/Si)-6.47×(Sn濃度差)-43.8×(Δイオン交換量1)…式(3-1) 式(3-1)において、ΔH/Siは、トップ面における規格化水素濃度からボトム面における規格化水素濃度を減じた値である。規格化水素濃度とは、深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 式(3-1)において、Sn濃度差はボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))を減じた差であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量である。 式(3-1)において、Δイオン交換量1はトップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値である。イオン交換量1は下記式により求められる。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度) 前記式において、規格化Na_(2)O表面濃度は、表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 【請求項4】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(4-1)により求められるW2の絶対値が56以下である化学強化用フロートガラス。 W2=9.18×Δ[(イオン交換量1)/(H/Si)]+49…式(4-1) 式(4-1)において、Δ[(イオン交換量1)/(H/Si)]は、トップ面におけるイオン交換量1を同面における規格化水素濃度H/Siで除した値からボトム面におけるイオン交換量1を同面における規格化水素濃度H/Siで除した値を減じた値である。 ここで、イオン交換量1は下記式により求められる。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度) 前記式において、規格化Na_(2)O表面濃度は、表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる 蛍光X線分析による測定値である。また、Sn濃度はトップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量である。 規格化水素濃度とは、深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 【請求項5】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(5-1)により求められるW3が58以下である化学強化用フロートガラス。 W3=744×[(ΔN-Na_(2)O)+0.01×(Sn濃度差)]…式(5-1) 式(5-1)において、ΔN-Na_(2)Oは、トップ面における表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度からボトム面における表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた値である。ここで、それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 式(5-1)において、Sn濃度差は、ボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))を減じた差であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量である。 【請求項6】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるイオン交換量2から該ボトム面におけるイオン交換量2を減じた値であるΔイオン交換量2が0.33以下である化学強化用フロートガラス。 ここで、イオン交換量2は下記式(6-1)により求められる値である。 イオン交換量2=-0.02×(H/Si)+5.54×(N-Na_(2)O濃度)-0.037×(Sn濃度)…式(6-1) 式(6-1)において、H/Siは規格化水素濃度であり、規格化水素濃度とは深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 式(6-1)においてN-Na_(2)O濃度は表面Na_(2)O濃度を深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である規格化Na_(2)O表面濃度である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 Sn濃度は、単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))であり、Sn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときのSnO_(2)換算付着質量である。 【請求項7】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた差ΔN-Na_(2)Oの2乗(ΔN-Na_(2)O)^(2)が5.0×10^(-4)以下である化学強化用フロートガラス。それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値である。 【請求項9】 質量百分率表示で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、MgOを0?17%、CaOを0?22%、SrOを0?8%、BaOを0?8%、ZrO_(2)を0?5%含有する請求項1?7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス。 【請求項10】 請求項1?7、9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラスであって、質量百分率表示で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0.01?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、ZrO_(2)を0?5%含有し、MgO、CaO、SrOまたはBaOを含有する場合MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が5?25%であり、Na_(2)OおよびAl_(2)O_(3)の含有量の比Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が1.5以上である化学強化用フロートガラス。 【請求項11】 請求項10に記載の化学強化用フロートガラスであって、Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が6以下である化学強化用フロートガラス。 【請求項12】 請求項9、10または11に記載の化学強化用フロートガラスであって、CaO、SrOまたはBaOを含有しCaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が1?7%である化学強化用フロートガラス。 【請求項13】 圧縮応力層深さが20μm以下である化学強化ガラスを製造する方法であって、請求項1?7、9?12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラスを化学強化することを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。」 2.取消理由について (1)訂正前の請求項1?13に係る特許に対して、平成29年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1)本件請求項8及びこれを引用する請求項9?13に係る特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2)本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第3号証?甲第5号証(以下、「甲3」?「甲5」という。)の記載を考慮すると、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された甲第1号証または甲第2号証(以下、「甲1」、「甲2」という。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 3)本件特許の請求項9?13に係る発明は、甲3?5の記載を考慮すると、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された甲1または甲2に記載された発明と甲第6号証?甲第8号証((以下、「甲6」?「甲8」という。)に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 甲1:特公平5-3420号公報 甲2:特公平6-51580号公報 甲3:国際公開第2013/005588号 甲4:国際公開第2013/146438号 甲5:国際公開第2013/146439号 甲6:山根正之他編、ガラス工学ハンドブック、株式会社朝倉書店、1999年7月5日、358?362頁、414?417頁 甲7:特開2010-275126号公報 甲8:特開昭61-101433号公報 (2)取消理由1)について 請求項8に対して通知した取消理由に対し、平成30年 2月20日付けで行われた訂正の請求により、請求項8は削除された。 (3)取消理由1)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。 (4)取消理由2)、3)について (a)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 甲1には、次の記載がある。 (ア)「〔産業上の利用分野〕 本発明は薄板で大面積の建築用および車輌用窓ガラス、料理用ガラス成型品、その他各種成型品はもとより、ことに光ディスク、磁気ディスクなどの電子材料として好適なガラス基体をフロート法ガラスとくにソーダ石灰系フロートガラスでうるための化学強化方法に関する。」 (イ)「〔発明が解決しようとする問題点〕 本発明は表面平滑性、平坦性に優れた薄板フロートガラスの化学強化処理に際して、研磨工程を要することなく、反りの発生を可及的小さく抑える新規な方法を提供することを目的とする。 〔問題点を解決するための手段〕 本発明は溶融ガラスを溶融金属浴上に供給し、成形されたフロート法ガラスを化学強化する方法において、予め前記溶融金属との非接触面(以下トツプ面という)を接触面(以下ボトム面という)・・・」 (ウ)「〔実施例〕 実施例 1・・・フロート法により製板された板ガラスに化学強化するに際してはまず前記の装置によりまず加熱処理を行う。すなわち加熱炉1内の雰囲気温度を600℃にした状態で、まず直径300mmφ、厚さ1mmの円盤形状のフロートガラス6をトップ面を上にして載せた回転台5を架台13を介し、低速で走行しているネツトコンベア3の炉外部において、位置規制部材15に係合するよう載置する。・・・フロートガラスは回転しながら、むらがないように加熱され、ネツトコンベア3の進行に伴い温度が上昇する。やがてガラス6のトツプ面は輻射伝熱と対流伝熱により炉内雰囲気温度迄上昇する。この時ガラス6のボトム面は、輻射熱がフアイバーウール14で被覆された載置台7により遮断され、ほとんど対流伝熱のみとなりトツプ面より低い温度に迄しか上昇しない。この状態をほぼ8分間維持した後フロートガラスは回転台5とともに炉外に搬出され同時に載置台7は、ラツク4との歯合が外れ回転をやめ、前処理が完了する。次いで、前処理されたフロートガラスを通常の化学強化方法、例えば、フロートガラスを490℃の硝酸カリウム溶液に2.5時間浸漬してガラス表層のNa^(+)イオンをK^(+)イオンでイオン交換せしめて化学強化する。このようにして得られた5枚のガラスの特性値を表1に掲載する。 実施例 2 実施例1と同一のガラスを用い、加熱条件を温度500℃、加熱時間13分にして、その他の条件は実施例1と同じ条件で化学強化する。このようにして得られたフロートガラスの特性値を表1に掲載する。 実施例 3 実施例1と同一のガラスを用い、ガラスを回転させずに、加熱温度、時間、化学強化処理条件は実施例1と同じ条件で化学強化する。このようにして得られたフロートガラスの特性値を表1に掲載する。」 (エ)「 」 (オ)「また本発明によるガラスは表面圧縮応力が2500?3500kg/cm^(2)、曲げ破壊強度が4500?6000kg/cm^(2)で充分な強度を有し建築用、車輌用などの各種の用途にも好適なものである。」(第6欄第39-42行) 記載事項(オ)によれば、甲1に記載された発明は、表面圧縮応力が2500?3500kg/cm^(2)、曲げ破壊強度が4500?6000kg/cm^(2)程度である化学強化ガラスを得ることを目的としているものであるから、記載事項(エ)の実施例1?3の化学強化処理されたガラスは、表面圧縮応力が2500?3500kg/cm^(2)(245?343MPaに相当)である化学強化フロートガラスといえる。 してみれば、記載事項(イ)?(オ)によれば、甲1の実施例1?3には、 「化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、 硝酸カリウム溶液により490℃にて2.5時間化学強化したときの反り量が、-0.05?0.15mm/300mm径、-0.10?0.12mm/300mm径、または-0.10?0.4mm/300mm径であり、表面圧縮応力が2500?3500kg/cm^(2)(245?343MPa)である化学強化用フロートガラス」が記載されていると認められる。 (b)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 甲2には、次の記載がある。 (ア)「〔産業上の利用分野〕 本発明は薄板で大面積の建築用、車輌用ガラス、什器等各種成形品に利用されるソーダー石灰フロートガラスとりわけ光デイスク等の電子材料分野に利用されるフロートガラスの化学強化方法に関する。」 (イ)「本発明はフロートガラスをアルカリイオン置換によつて強化するに際して反りの発生を抑制する新規な方法を提供するものである。」(第3欄第24-26行) (ウ)「フロート成形時において溶融ガラスは溶融金属(通常Sn)面に沿つてその上を延展して平滑面(以下ボトム面という)を形成し、他方その上面は雰囲気に接して平滑な自由表面(以下トツプ面という)を形成する。」(第3欄第36-39行) (エ)「以上のようにしてフロートガラスのトツプ面のソーダー濃度を減ずる処理を施して後、フロートガラス全面にわたりイオン半径の大きいアルカリイオン、通例カリウムによりイオン置換しガラスに表面圧縮層を形成させるべく処理する。 この処理は従来公知の方法を採用し得る。すなわち硝酸カリや硫酸カリ等のカリウムを含有する塩の浴中、ガラスの歪点ないし徐冷点の温度範囲で30分?数時間フロートガラスを浸漬したり、あるいはフロートガラスの全面をカリウムを含有する塩でスプレー、塗布等の操作により被覆し、徐冷点以下の温度に加熱することにより20?50μmのカリウム置換層を形成させる。」(第4欄第43行-第5欄第4行) (オ)「実施例1 フロートガラスとしてサイズが300mmφ、厚みが1mmのものを5枚準備した。 加熱炉には抵抗加熱式電気炉を用い、炉の側壁の一ケ所には炉外からガスを導くべくガス導入管を貫通しかつ炉内においてはガス導入管より分岐した複数のガスノズルをガラスを炉内に配置したときにそのトツプ面に対面するように配設しておく。 予め加熱炉内を550℃に熱し、次いでガラスをスチール製枠体に立架けたものを炉内に導き、その後100℃に予熱したエアーに10VOl%CBrF_(3)ガスを混入した混合ガスを43l/分の割合で3分間ガラスのトツプ面に吹付けた。 その後ガラスを取出して放冷、水洗しアルカリイオン置換処理に付した。 アルカリイオン置換処理は従来公知の方法に基づき490℃に加熱した硝酸カリ浴中にスチール製支持具に懸吊したガラスを浸漬し、150分保持後ガラスを取出して放冷、水洗した。 ・・・ 結果を第1表実施例1に示す。 実施例2 実施例1と同様のフロートガラス5枚についてソーダー低減処理条件だけ変え、あとは実施例1と同様に処理し試験に供した。 ソーダー低減処理においては、100℃に予熱したエアーに5vol%HFガスを混入したものを52l/分の割合で3分間予め500℃に加熱したガラスのトツプ面に吹付けた。 結果を第1表実施例2に示す。 実施例3 実施例1と同様のフロートガラス5枚についてそのトツプ面に10wt%濃度のNH_(4)Cl水溶液約12ccを塗布して乾燥の後、550℃に加熱した実施例1と同一の加熱炉(ただしガス吹付は行わない)に導入し10分間保持した。以降はガラスを取出し放冷、水洗して後実施例1と同様の条件でアルカリイオン置換処理し試験に供した。 結果を第1表実施例3に示す。」 (カ)「 」 記載事項(ウ)、(オ)、(カ)によれば、甲2の実施例1?3には、 「化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、 硝酸カリ浴により490℃にて150分間化学強化したときの反り量が、0.06?0.15mm/300mm径であり、曲げ破壊強度が4300?6100kg/cm^(2)である化学強化用フロートガラス」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 (c)本件発明1と、甲1に記載された発明との対比、判断 (i)対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の硝酸カリウム溶液は、本件発明1の100%硝酸カリウムに相当する。 そうすると、本件発明1と、甲1発明とは、 「100%硝酸カリウムによる化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラス」である点で一致し、下記(相違点1-1)、(相違点1-2)で相違する。 (相違点1-1) 本件発明1は、425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力深さが18μm以下であるのに対し、甲1発明では、490℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が2500?3500kg/cm^(2)(245?343MPa)であり圧縮応力深さが明らかでない点。 (相違点1-2) 本件発明1は、トップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na_(2)O^(2))が0.040以下であるのに対し、甲1発明では、この点が明らかでない点。 (ii)判断 相違点1-1について検討する。 申立人が意見書と共に提出した甲第10号証(作花済夫編、ガラスの辞典、株式会社朝倉書店、1985年9月20日、第306?309頁)には、以下の記載がある。 (A)「イオン交換は拡散律速反応であるため交換量は処理時間の平方根に比例する。また、処理温度は高いほど交換速度は速まるがあまり高すぎるとガラスの粘性流動による応力緩和が生じ強度は逆に低下する」(第307頁下から第4行?第308頁第2行) (B)「 」 記載事項(A)によると、イオン交換による交換速度について、処理温度が高いほど交換速度が早まるが、あまり処理温度が高すぎるとガラスの粘性流動による応力緩和が生じ、強度が逆に低下することが記載されているから、この記載だけによれば、甲1発明において、化学強化処理する際の温度を490℃から425℃に下げた場合には、表面圧縮応力が高まることが予想される。 しかしながら、記載事項(B)のSiO_(2)-Al_(2)O_(3)-Na_(2)O系ガラスの処理時間と曲げ強度の関係を示すグラフを見てみると、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-Na_(2)O系ガラスを2.5時間化学強化した際の曲げ強度は、処理温度が500℃を超える例については、処理温度が高いほど、曲げ強度が低下することが見て取れるものの、処理温度が500℃までの例では、反対に、処理温度が高いほど曲げ強度が高まることが見て取れる。 そうすると、処理温度が高ければ圧縮応力が低下すると一概にはいえない。 してみれば、甲1発明において、化学強化する際の温度を490℃から425℃に下げた場合に、表面圧縮応力が470MPaよりも高くなるものとはいえない。 したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。 また、記載事項(イ)より、甲1発明は、反りの発生を小さくすることを目的とするものであるところ、甲1発明において、表面圧縮応力を2500?3500kg/cm^(2)から上げた場合には、強化応力による反りの発生が大きくなることが当然に予想されるから、甲1発明において、425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力を470MPa以上にあげることには阻害要因がある。 したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (d)本件発明1と、甲2に記載された発明との対比、判断 (i)対比 本件発明1と甲2発明を対比する。 甲2発明の硝酸カリ浴は、本件発明1の100%硝酸カリウムに相当し、甲2発明の150分間は、本件発明1の2.5時間に相当する。 また、記載事項(エ)によれば、甲2発明は、カリウム置換層が20?50μmである化学強化ガラスを得ることを目的としているものであるから、化学強化された際のカリウム置換層が20?50μmである化学強化用フロートガラスと認められる。 そうすると、本件発明1と、甲2発明とは、 「100%硝酸カリウムによる化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラス」である点で一致し、下記(相違点2-1)、(相違点2-2)で相違する。 (相違点2-1) 本件発明1は、425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力深さが18μm以下であるのに対し、甲2発明では、490℃にて150分間化学強化したときのカリウム置換層が20?50μmであり、曲げ破壊強度が4300?6100kg/cm^(2)であり、表面圧縮応力が明らかでない点。 (相違点2-2) 本件発明1は、トップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na_(2)O^(2))が0.040以下であるのに対し、甲2発明では、この点が明らかでない点。 (ii)判断 相違点2-1について検討する。 甲2発明は、表面圧縮応力が明らかではないものの、曲げ破壊強度が4300?6100kg/cm^(2)程度であり、この数値は、甲1記載事項(オ)より、甲1発明と同様であることから、甲2発明も甲1発明と同程度、すなわち、2500?3500kg/cm^(2)(245?343MPaに相当)程度の表面圧縮応力を有するものと認められる。 そうすると、(c)(ii)での判断と同様のことが甲2発明についてもいえるから、甲2発明において、化学強化する際の温度を490℃から425℃に下げた場合に、表面圧縮応力値が470MPaよりも高くなるものとはいえない。 したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえない。 また、記載事項(イ)より、甲2発明も、反りの発生を小さくすることを目的とするものであるから、容易性についても、(c)(ii)での判断と同様のことが甲2発明についてもいえる。 したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (e)本件発明2?7,9?13について 本件発明2?7は、本件発明1と同様に、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラス」であるから、上記(c)、(d)と同様に、甲1に記載された発明または甲2に記載された発明とはいえないし、甲1または甲2に記載された発明及び甲6?8に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 また、本件発明9?13は、本件発明1?7のいずれかを引用し、本件発明1?7をさらに限定する発明であるから、甲1または甲2に記載された発明及び甲6?8に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (5)取消理由2)、3)についてのまとめ 以上のとおりであるから、請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1?7,9?13に係る特許は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たすものである。 3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由の概要 申立人は、上記取消理由の他に、訂正前の請求項8に係る発明は、不明瞭であることから、訂正前の請求項8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。 (2)申立理由について 本件訂正請求により、訂正前の請求項8は削除された。 したがって、この申立理由には理由がない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?7,9?13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?7,9?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項8は削除されたため、本件特許の請求項8に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 化学強化用フロートガラス 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、化学強化用フロートガラスに関する。 【背景技術】 【0002】 近年、携帯電話または携帯情報端末(PDA)等のフラットパネルディスプレイ装置において、ディスプレイの保護および美観を高めるために、画像表示部分よりも広い領域となるように薄い板状のカバーガラスをディスプレイの前面に配置することが行われている。 【0003】 このようなフラットパネルディスプレイ装置に対しては、軽量および薄型化が要求されており、そのため、ディスプレイ保護用に使用されるカバーガラスも薄くすることが要求されている。 【0004】 しかし、カバーガラスの厚さを薄くしていくと、強度が低下し、使用中または携帯中の落下などによりカバーガラス自身が割れてしまうことがあり、ディスプレイ装置を保護するという本来の役割を果たすことができなくなるという問題がある。 【0005】 このため従来のカバーガラスは、耐傷性を向上させるため、フロート法により製造されたフロートガラスを、化学強化することで表面に圧縮応力層を形成しカバーガラスの耐傷性を高めている。 【0006】 フロートガラスは化学強化後に反りが生じて平坦性が損なわれることが報告されている(特許文献1)。該反りは、フロート成形時に溶融錫と接触していないガラス面(以下、トップ面ともいう。)と、溶融錫と接触しているガラス面(以下、ボトム面ともいう。)との化学強化の入り方が異なることにより生じるとされている。 【0007】 従来、フロートガラスのトップ面が、ボトム面と化学強化の入り方が異なる理由としては、フロート成形時において溶融金属との接触するガラス面に溶融金属が侵入するためと考えられてきた(特許文献1)。 【0008】 特許文献1では、フロート方式で製造され、加工された板状体を表面研磨せずに、Liイオン若しくはNaイオンまたはこれらの混合無機塩に浸漬または接触した後に化学強化することにより、前記反りを改善することが開示されている。 【0009】 また、従来、前記反りを低減するために、化学強化による強化応力を小さくしたり、フロートガラスのトップ面およびボトム面を研削処理または研磨処理等することにより表面異質層を除去した後に化学強化する対処方法がなされている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0010】 【特許文献1】日本国特許第2033034号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 しかしながら、特許文献1に記載の方法では、化学強化前に混合無機塩にフロートガラスを浸漬処理することが必要であり、煩雑である。また、強化応力を小さくする方法では化学強化後のフロートガラスの強度が不十分となる虞がある。 【0012】 さらに、化学強化前にフロートガラスのトップ面およびボトム面を研削処理または研磨処理等する方法は、生産性を向上させる観点から問題があり、これらの研削処理または研磨処理等を省略することが好ましい。 【0013】 したがって、本発明は、化学強化後の反りを効果的に抑制することができる化学強化用フロートガラスを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0014】 本発明者らは、フロート法により製造したソーダライムガラスを化学強化するとボトム面とトップ面の化学強化の入り方に差が生じて反る主原因は、必ずしもフロート成形時において溶融金属と接触するガラス面に侵入する当該金属ではなく、トップ面とボトム面におけるヤケ程度の差、すなわち水和・脱アルカリ程度の差であることを見出した。 【0015】 さらに、これらの影響を抑えることで、トップ面とボトム面との化学強化による強化の入りやすさを均衡化し、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減できることを見出した。また、圧縮応力層の深さ(DOL)が典型的には20μm以下、15μm以下または10μm以下である低DOL領域においてヤケの影響が特に大きくなっており、この領域においてヤケ程度の影響を抑えることで化学強化後におけるフロートガラスの反りを効果的に低減できることを見出した。この知見に基づいて、本発明を完成させた。 【0016】 すなわち、本発明は以下の通りである。 1.100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na_(2)O^(2))が0.040以下である化学強化用フロートガラス。 ここで、それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値である。 2.100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値であるΔイオン交換量1が0.32以下である化学強化用フロートガラス。 ここで、イオン交換量1は下記式(2-1)により求められる値である。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度)…式(2-1) 式(2-1)において、規格化Na_(2)O表面濃度は表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 また、Sn濃度はトップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))である。本明細書で単位面積当たりのSn付着量の単位が「as SnO_(2)μg/cm^(2)」とされているのは、単位面積当たりのSn付着量が、SnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量で示されることを明示するためであり、本明細書においては単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))は単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))と同義である。 3.100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(3-1)により求められるW1が56以下である化学強化用フロートガラス。 W1=-16×(ΔH/Si)-6.47×(Sn濃度差)-43.8×(Δイオン交換量1)…式(3-1) 式(3-1)において、ΔH/Siは、トップ面における規格化水素濃度からボトム面における規格化水素濃度を減じた値である。規格化水素濃度とは、深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス中和用の電子銃使用有 式(3-1)において、Sn濃度差はボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))を減じた差であり、ガラスがSnO_(2)を含有しない場合はボトム面単位面積当たりのSn付着量に等しい。 式(3-1)において、Δイオン交換量1はトップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値である。 ここで、イオン交換量1は下記式により求められる。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度) 前記式において、規格化Na_(2)O表面濃度は、表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 4.100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(4-1)により求められるW2の絶対値が56以下である化学強化用フロートガラス。 W2=9.18×Δ[(イオン交換量)/(H/Si)]+49…式(4-1) 式(4-1)において、Δ[(イオン交換量)/(H/Si)]は、トップ面におけるイオン交換量1を同面における規格化水素濃度H/Siで除した値からボトム面におけるイオン交換量1を同面における規格化水素濃度H/Siで除した値を減じた値である。 ここで、イオン交換量1は下記式により求められる。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度) 前記式において、規格化Na_(2)O表面濃度は、表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。また、Sn濃度はトップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))である。 規格化水素濃度とは、深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス中和用の電子銃使用有 5.100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(5-1)により求められるW3が58以下である化学強化用フロートガラス。 W3=744×[(ΔN-Na_(2)O)+0.01×(Sn濃度差)]…式(5-1) 式(5-1)において、ΔN-Na_(2)Oは、トップ面における表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度からボトム面における表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた値である。ここで、それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 式(5-1)において、Sn濃度差は、ボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))を減じた差であり、ガラスがSnO_(2)を含有しない場合はボトム面単位面積当たりのSn付着量に等しい。 6.100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるイオン交換量2から該ボトム面におけるイオン交換量2を減じた値であるΔイオン交換量2が0.33以下である化学強化用フロートガラス。イオン交換量2は下記式(6-1)により求められる値である。 イオン交換量2=-0.02×(H/Si)+5.54×(N-Na_(2)O濃度)-0.037×(Sn濃度)…式(6-1) 式(6-1)において、H/Siは規格化水素濃度であり、規格化水素濃度とは深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス中和用の電子銃使用有 式(6-1)においてN-Na_(2)O濃度は表面Na_(2)O濃度を深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である規格化Na_(2)O表面濃度である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 Sn濃度は、単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))である。 7.100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた差ΔN-Na_(2)Oの2乗(ΔN-Na_(2)O)^(2)が5.0×10^(-4)以下である化学強化用フロートガラス。それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値である。 9.質量百分率表示で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、MgOを0?17%、CaOを0?22%、SrOを0?8%、BaOを0?8%、ZrO_(2)を0?5%含有する前項1?7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス。ここでたとえば、「K_(2)Oを0?7%」含有する、とはK_(2)Oは必須ではないが7%まで含有してもよい、の意である。 好ましい組成範囲としては、SiO_(2)を64?77%、Al_(2)O_(3)を0.01?7%、Na_(2)Oを10?18%、K_(2)Oを0?5%、MgOを1?10%、CaOを1?12%、SrOを0?5%、BaOを0?5%、ZrO_(2)を0?3%である。 10.前項1?7、9のいずれか1に記載の化学強化用フロートガラスであって、質量百分率表示で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0.01?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、ZrO_(2)を0?5%含有し、MgO、CaO、SrOまたはBaOを含有する場合MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が5?25%であり、Na_(2)OおよびAl_(2)O_(3)の含有量の比Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が1.5以上である化学強化用フロートガラス。 11.前項10に記載の化学強化用フロートガラスであって、Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が6以下である化学強化用フロートガラス。 12.前項9、10または11に記載の化学強化用フロートガラスであって、CaO、SrOまたはBaOを含有しCaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が1?7%である化学強化用フロートガラス。 13.圧縮応力層深さが20μm以下である化学強化ガラスを製造する方法であって、前項1?7、9?12のいずれか1に記載の化学強化用ガラスを化学強化することを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。 【発明の効果】 【0017】 本発明の化学強化用フロートガラスは、トップ面とボトム面とのヤケ程度の差が小さいため、化学強化による応力を小さくすることなく、また化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。 【図面の簡単な説明】 【0018】 【図1】図1は、化学強化前のソーダライムガラス板(素板)の表層の規格化水素濃度[(SIMS分析による(H/Si)0?10μmの平均H/Siを105?110μmの平均H/Siで除したもの]と規格化Na_(2)O表面濃度(蛍光X線分析による表面Na_(2)O濃度を100μm深さ位置のNa_(2)O濃度で除したもの)との相関関係を示す図である。 【図2】図2は、化学強化前のガラスにおいて、ガラス中のNa^(+)と大気中のH^(+)がイオン交換するメカニズムを示している。 【図3】図3は、化学強化後のソーダライムガラス板のイオン交換量(K_(2)O、wt%)(蛍光X線分析)と、化学強化前(素板)の規格化Na_(2)O表面濃度(蛍光X線分析による表面Na_(2)O濃度を100μm深さ位置のNa_(2)O濃度で除したもの)との相関関係を示す図である。なお、wt%は質量%である。 【図4】図4は、蛍光X線分析によるイオン交換量の算出方法を示す模式図である。 【図5】図5(a)?(d)は、Na^(+)とH^(+)がイオン交換しているソーダライムガラス 板をKNO_(3)の混合溶融塩に浸漬して化学強化した場合にイオン交換量が低下するメカニズムを示す模式図である。 【図6】図6は、化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の二乗の差であるΔ(N-Na_(2)O^(2))(Top-Bottom)を横軸に、Δ反り量を縦軸にプロットしたグラフである。 【図7】図7は、横軸にトップ面とボトム面におけるイオン交換量の差、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフである。 【図8】図8は、トップ面とボトム面におけるイオン交換量を水素濃度で除した値の差を横軸に、Δ反り量を縦軸にプロットしたグラフを示す。 【図9】図9は、化学強化前のトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度差(ΔNa_(2)O)およびSn濃度差(単位面積当たり付着量)およびΔ反り量を因子として重回帰分析したグラフを示す。 【図10】図10は、本発明の化学強化用フロートガラスの製造装置の縦断面図である。 【図11】図11は、本発明の化学強化用フロートガラスを化学強化した後、フラットパネルディスプレイ用のカバーガラスとして用いたフラットパネルディスプレイの断面図である。 【図12】図12は、横軸にW1、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。 【図13】図13は、横軸にW2、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。 【図14】図14は、横軸にW3、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。 【図15】図15は、横軸にトップ面およびボトム面におけるイオン交換量2の差(Δイオン交換量2)、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。 【図16】図16は、横軸にトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度からボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた差の2乗[ΔN-Na_(2)O(Top-Bottom)]^(2)、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。 【図17】図17は、横軸に[(ΔN-Na_(2)O)+0.01×(Sn濃度差)]、縦軸にW3をプロットしたグラフを示す。 【発明を実施するための形態】 【0019】 1.ガラスのヤケ フロート法により製造したソーダライムガラスの表面のHプロファイル(^(1)H^(-)/^(30)Si^(-))を二次イオン質量分析装置(SIMS)により分析したところ、ヤケ(水和および脱アルカリ)層の深さは約3μmであった。したがって、イオン交換深さを20μm以下に化学強化する際には、ボトム面とトップ面の化学強化の入り方に差が生じて反る原因として、トップ面とボトム面におけるヤケ程度の差が重要であると考えられる。 【0020】 本発明において、「ヤケ」とは、ガラス表面が大気による侵食、通常は湿度の影響で劣化する現象をいうが、本発明においてはガラスの表層のアルカリ金属成分、典型的にはNa_(2)Oが脱離している現象をいう。ガラスのヤケの程度は、蛍光X線分析によりNa_(2)O濃度を測定することにより、分析することができる。 【0021】 図1に化学強化前のソーダライムガラス板(素板)の表層における規格化水素濃度(SIMS分析)と規格化Na_(2)O表面濃度(蛍光X線分析による表面Na_(2)O濃度を100μm深さ位置のNa_(2)O濃度で除したもの)との相関関係を示す。図1に示すように、化学強化前のソーダライムガラス板の表層の規格化水素濃度と規格化Na_(2)O表面濃度とは反比例の関係にある。 【0022】 図1のグラフは、図2に示すように、化学強化前のガラスにおいて、ガラスを構成するSi-O-Naと大気中のH_(2)Oが反応し、Na^(+)とH^(+)がイオン交換していることを示している。したがって、ガラスのヤケ程度が大きい程、ガラス表層の規格化水素濃度が増加すると考えられる。 【0023】 図3に化学強化後のソーダライムガラス板のイオン交換量(wt%)(蛍光X線分析)と、素板の規格化Na_(2)O表面濃度との相関関係を示す。ここで、イオン交換量は、図4に示すように、化学強化後のK_(2)O分析値から化学強化前(素板)のK_(2)O分析値を減じた値をイオン交換量とする。 【0024】 図3のグラフから、化学強化前のガラスにおけるNa_(2)O濃度が高いほど、すなわち、ガラスのヤケ程度が小さいほど、化学強化後のイオン交換量が増えることがわかる。 【0025】 図3のグラフから、次のことも考察される。すなわち、図5に示すように、図2に示すようなNa^(+)とH^(+)がイオン交換しているソーダライムガラス板をKNO_(3)の溶融塩に浸漬して化学強化すると、ガラス中にNa^(+)とK^(+)のイオン交換はエントロピー支配の下でイオン交換するが、H^(+)とK^(+)とが交換する場合、ガラス中のHはSiOH(弱酸)としての存在であり、仮にH^(+)とK^(+)がイオン交換した場合HNO_(3)(強酸)が生成することになるため、エンタルピー的にイオン交換しないと考えられる。 【0026】 したがって、ソーダライムガラスの化学強化前のヤケ程度はイオン交換量に影響し、イオン交換量がトップ面とボトム面とで異なることで化学強化後の反りが生じると考えられる。このことから、ソーダライムガラスの化学強化後の反りを制御するためには、化学強化前のガラスのトップ面およびボトム面における、ガラス表層のヤケの程度の差(トップ面とボトム面とにおけるNa_(2)O濃度差)のコントロールが重要であると考えられる。 【0027】 2.Sn濃度 フロート法により製造したソーダライムガラスのボトム面におけるSn(錫)のプロファイル(^(120)Sn^(-)/^(30)Si^(-))を二次イオン質量分析装置(SIMS)により分析したところ、イオン交換された層の深さとSnが侵入した深さは、約7μmであった。したがって、イオン交換深さしたがってDOLが典型的には20μm以下となるような低DOLの化学強化をする際には、ボトム面とトップ面の化学強化の入り方に差が生じて反る原因として、Sn濃度を考慮する必要がある場合があると考えられる。 【0028】 なお、前記Δ(N-Na_(2)O^(2))および(ΔN-Na_(2)O)^(2)はいずれもヤケ程度の差には依存するがSn濃度には直接には依存していない。しかし、フロートバス内でのボトム面へのSnの侵入はガラス表層のNaとのイオン交換によるものと考えられる。そのため、Sn付着量の多いガラスは表層のNa濃度が低くなると考えられる。したがって規格化Na_(2)O表面濃度はSn濃度と関係がある。すなわち、Δ(N-Na_(2)O^(2))および(ΔN-Na_(2)O)^(2)はいずれも明示的ではないがSn濃度に依存しているということができる。 【0029】 フロート成形時においてガラスにSnが侵入することにより、ガラスが高密度化すると、NaイオンとKイオンとがイオン交換する際の経路が小さくなり、イオン交換反応が阻害され、Snが侵入した面(ボトム面)における化学強化が阻害される。このことにより、トップ面とボトム面との化学強化の入り方が異なり、ガラスの反りが生じると考えられる。 【0030】 ガラスのSn濃度は単位面積あたりのSn付着量を測定することにより求める。具体的には、例えば、フッ化水素酸溶液でエッチングして溶液中のSn濃度をICP発光分光分析法により定量して求めることができる。 【0031】 3.水素濃度 本発明の化学強化用フロートガラスは、フロート法により成形され、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する。以下に述べるように、トップ面とボトム面との水素濃度差はフロートガラスを化学強化することにより生じる反りの原因の一つである場合があると考えられる。 【0032】 フロート法によるガラスの製造においては、フロートバスに貯留された溶融金属の表面に上流側から溶融ガラスを連続的に供給してガラスリボンを成形しつつ該フロートバスの下流側端部から成形後のガラスリボンを引き出し、レアーで徐冷することにより板ガラスを製造する。 【0033】 フロート法によるガラスの製造において通常は、ガラス槽窯とフロートバスとの間が、キャナルおよびスパウトでつながっている、流路が絞られるタイプの装置が用いられる。この場合、フロートバス内でガラスを広げる必要があるため、後述する別のタイプの装置に比べてより高温の溶融ガラスを溶融金属表面に流し出して成形する。 【0034】 ところで、ガラス中の水素濃度が高いと、ガラスのSi-O-Siの結合ネットワークの中に水素がSiOHの形で入り、Si-O-Siの結合が切れる。ガラス中の水素濃度が高いとSi-O-Siの結合が切れる部分が多くなり、ガラス転移点などの熱特性が下がるため、高温でガラスを加熱する化学強化の際に応力緩和し、応力が低下する。 【0035】 そのため、フロートガラスにおけるトップ面およびボトム面のうち、水素濃度が高いガラス面には化学強化の際に応力の入り方が小さく、水素濃度が低いガラス面には化学強化の際に応力が入りやすいこととなる。 【0036】 すなわち、ボトム面よりもトップ面の水素濃度が低いフロートガラスを化学強化すると、水素濃度が高いボトム面よりも水素濃度が低いトップ面に応力が強く入り、トップ面側に凸になるようにガラスが反ってしまい、反りが生じると考えられる。 【0037】 したがって、フロートガラスにおけるトップ面とボトム面とにおける水素濃度が近いほど、すなわち、トップ面とボトム面との水素濃度差の絶対値の値が小さければ小さいほど、化学強化後のトップ面とボトム面との応力の入り方が均衡する状態に近づき、反りが低減されることとなる。 【0038】 なお、本発明においては平均水素濃度そのものおよび前記平均水素濃度差そのものを精度よく測定することは困難であるので、平均水素濃度に比例する[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)](H/Siともいう。)を平均水素濃度の直接的な指標として、前記平均水素濃度差に比例する「規格化水素濃度のトップ面とボトム面との差」および「規格化強度のトップ面とボトム面との差」を前記平均水素濃度差の直接的な指標としてそれぞれ用いる。 【0039】 ここで、本明細書において、[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]とは、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 【0040】 次に、[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]、規格化強度および規格化水素濃度について説明する。二次イオン質量分析における元素Mの同位体M_(1)の二次イオン強度I_(M1)は、一次イオン強度I_(P)、マトリックスのスパッタ率Y、元素Mの濃度C_(M)(全濃度に対する比)、同位体M_(1)の存在確率α_(1)、元素Mの二次イオン化率β_(M)、および質量分析計の透過効率η(検出器の検出効率を含む)に比例する。 I_(M1)=A・I_(P)・Y・C_(M)・α_(1)・β_(M)・η (式1) 【0041】 ここで、Aは一次イオンビームの走査範囲に対する二次イオンの検出面積の比である。一般的には装置のηを求めるのは困難なためβ_(M)の絶対値を求めることができない。そこで、同じ試料の中の主成分元素などを参照元素として用い、(式1)との比をとることによりηを消去する。 【0042】 ここで参照元素をR、その同位体をR_(j)とした場合、(式2)が得られる。 I_(M1)/I_(Rj)=(C_(M)・α_(1)・β_(M))/(C_(R)・α_(j)・β_(R))=C_(M)/K (式2) ここでKは元素Mの元素Rに対する相対感度因子である。 K=(C_(R)・α_(j)・β_(R))/(α_(1)・β_(M)) (式3) この場合、元素Mの濃度は(式4)より求められる。 C_(M)=K・I_(M1)/I_(Rj) (式4) 【0043】 本発明においては、^(1)H^(-)はM_(1)に、^(30)Si^(-)はR_(j)にそれぞれ対応する。したがって、(式2)より両者の強度比[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]は平均水素濃度C_(H)をKで除したものに等しい。すなわち、[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]は平均水素濃度の直接的な指標である。 【0044】 規格化強度はある深さxにおける[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]を深さ105?110μmにおける[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]で除した値、すなわちある深さxにおけるC_(H)/Kを深さ105?110μmにおけるC_(H)/Kで除した値である。Kは消去されるので結局規格化強度は深さxにおけるC_(H)を深さ105?110μmにおけるC_(H)で除したものと同じであり、すなわち、深さxにおける規格化水素濃度である。 【0045】 なお、規格化水素濃度を算出する際に深さ105?110μmにおける平均水素濃度を基準としたのは、深さ105?110μmの領域は平均水素濃度が変動しない内部領域と考えられるからである。 【0046】 フロートガラスにおけるトップ面およびボトム面の規格化強度(Normalized Intensity)の差の絶対値は、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry、SIMS分析)により、例えば、以下の(i)?(iii)の手順で求められる。なお、以下で示す分析条件は例示であり、測定装置、サンプルなどによって適宜変更されるべきものである。 【0047】 (i)トップ面およびボトム面のそれぞれにおいて、二次イオン質量分析を下記分析条件により、表層からの深さ20μmまで行う。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 【0048】 なお、深さ5μmにおける^(30)Si^(-)の強度よりも深さ55μmにおける^(30)Si^(-)の強度が3%超小さいような場合には、あらかじめガラス基板の表面を45μm程度エッチングしたサンプルで分析することが好ましい。 【0049】 より具体的な分析条件は、例えば、以下である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) スパッタレート:14nm/sec 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 【0050】 四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置としては、例えば、アルバック・ファイ社製ADEPT1010が挙げられる。 【0051】 (ii)二次イオン質量分析により得られた[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]プロファイルの深さ0?10μmにおける[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]を、深さ105?110μmの[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]で除した値を、深さ0?10μmの二次イオン質量分析における規格化強度とする。 【0052】 (iii)二次イオン質量分析により得られた深さ0?10μmにおける規格化強度について、トップ面とボトム面との差の絶対値を算出する。 【0053】 4.イオン交換量 イオン交換量は応力発生因子であり、化学強化後のガラスにおけるK_(2)O濃度と比例関係にある。したがって、トップ面とボトム面におけるイオン交換量の差はK_(2)O濃度の差で分析することができる。K_(2)O濃度は蛍光X線分析により分析することができる。 【0054】 5.反り量 本発明の化学強化用フロートガラスは、化学強化後の反り量の小さいフロートガラスである。フロートガラスの反り量は、接触式表面形状測定器[例えば株式会社東京精密製サーフコム(商品名)]で測定することができる。 【0055】 反り量は、接触式表面形状測定器で測定した際、測定開始点と測定終了点が同レベルになるようにベースライン補正を実施後、最高点と最下点の差として測定する。トップ面凸方向に反った場合はプラス、ボトム面凸方向に反る場合はマイナスとして表現する。 【0056】 化学強化前後におけるフロートガラスの反り量の変化は、下記式により測定することができる。 (式)Δ反り量=(化学強化後反り量)-(化学強化前反り量) 【0057】 本発明においては、10cm角のフロートガラスの中央9cm角の部分について測定し、板厚0.7mmに換算した際のΔ反り量の絶対値が58μm以下、56μm以下、54μm以下または52μm以下であることが好ましい。Δ反り量の絶対値を当該上限以下とすることにより、化学強化後の反りを小さくすることができる。 【0058】 CS(表面圧縮応力)とDOL(圧縮応力層の深さ)は、表面応力計により測定することができる。本発明の化学強化用フロートガラスは化学強化したガラスの表面圧縮応力が650MPa以上であることが好ましく、圧縮応力層の深さは20μm以下であるところに用いるのに特に好適である。圧縮応力層の深さは20μm以下とすることにより、化学強化後の製品について切断することができ、好ましい。この観点からは圧縮応力層の深さは15μm以下であることがより好ましい。 【0059】 6.パラメータ 上記考察から、以下のパラメータが考えられる。 (1)化学強化前のトップ面とボトム面におけるNa_(2)O濃度差とΔ反り量 ソーダライムガラスの化学強化後の反りを制御するためには、化学強化前のガラス表層におけるヤケ程度、水素濃度およびSn濃度のコントロールが重要であると考えられる。 【0060】 ここで、図1に示すように、化学強化前のガラスにおける表層の規格化水素濃度と規格化Na_(2)O表面濃度とは反比例の関係にある。また、図3に示すように、化学強化前のガラスにおける規格化Na_(2)O表面濃度が高いほど化学強化後のイオン交換量が増えており、化学強化前のガラスにおける規格化Na_(2)O表面濃度とイオン交換量とは比例の関係にある。 【0061】 また、ガラス表層の水素濃度の増加が高いとSi-O-Siの結合が切れる部分が多くなり、ガラス転移点などの熱特性が下がるため、高温でガラスを加熱する化学強化の際に応力緩和し、応力が低下する。そのため、化学強化による応力発生はイオン交換量と緩和程度によると考えられる。したがって、化学強化前のガラスにおけるトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度差とΔ反り量とは相関関係があると考えられる。 【0062】 (1A)トップ面およびボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の2乗の差とΔ反り量 図6に横軸にトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗からボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na_(2)O^(2))(Top-Bottom)、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。 【0063】 図6に示すグラフから、化学強化前のソーダライムガラス板のトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の2乗の差Δ(N-Na_(2)O^(2))とΔ反り量とには下記式(1-1)で表される相関関係があることがわかる。 Δ反り量=370×Δ(N-Na_(2)O^(2))+45…式(1-1) 【0064】 式(1-1)においてΔ(N-Na_(2)O^(2))は、化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度を蛍光X線分析により測定した値の2乗の差であり、下記式(1-2)により求められる。 Δ(N-Na_(2)O^(2))=(化学強化前のトップ面における規格化Na_(2)O表面濃度)^(2)-(化学強化前のボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度)^(2)…式(1-2) 【0065】 ここでの規格化Na_(2)O表面濃度は表面Na_(2)O濃度を深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。それぞれのNa_(2)O濃度は蛍光X線法によりNa-Kα線強度を測定し標準試料との相対強度比から算出した値である。なお、深さ100μm位置のNa_(2)O濃度は、表面から100μmの深さまでガラスを削り取った後の表面を蛍光X線で測定したNa_(2)O濃度である。また、Na-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値の分析深さは典型的には3μmである。 【0066】 化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の2乗の差は、0.040以下であり、好ましくは0.035以下、0.030以下または0.025以下である。化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の2乗の差を0.040以下とすることにより、化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。 【0067】 (1B)トップ面およびボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の差の2乗とΔ反り量 図16に横軸にトップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた差の2乗[ΔN-Na_(2)O(Top-Bottom)]^(2)、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。 【0068】 図16に示すグラフから、トップ面の規格化Na_(2)O表面濃度からボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた差の2乗[ΔN-Na_(2)O(Top-Bottom)]^(2)とΔ反り量とには下記式(7-1)で表される相関関係があることがわかる。 【0069】 Δ反り量=18000×(ΔN-Na_(2)O)^(2)+51…式(7-1) 式(7-1)において(ΔN-Na_(2)O)^(2)は、化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度を蛍光X線分析により測定した値の差の2乗であり、下記式(7-2)により求められる。 (ΔN-Na_(2)O)^(2)=[(化学強化前のトップ面における規格化Na_(2)O表面濃度)-(化学強化前のボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度)]^(2)…式(7-2) 【0070】 化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の差の2乗は5.0×10^(-4)以下であり、好ましくは4.5×10^(-4)以下、4.0×10^(-4)以下または3.5×10^(-4)以下である。化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の差の2乗を5.0×10^(-4)以下とすることにより、化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。 【0071】 「7.ガラスの製造方法」の(A)において後述する方法によりNa_(2)O濃度を調整することにより、化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度を調整し、Δ(N-Na_(2)O^(2))または(ΔN-Na_(2)O)^(2)を調整することができる。具体的には、例えば、ガラス徐冷時にトップ面に水蒸気やSO_(2)ガスを吹き付けてトップ面のNa_(2)O濃度を下げる、ボトム面に傷防止を目的として吹付けられるSO_(2)ガス流量を下げてボトム面のNa_(2)O濃度を上げることが好ましい。 【0072】 (2)化学強化後のトップ面とボトム面におけるイオン交換量差とΔ反り量 化学強化後のトップ面とボトム面におけるイオン交換量の差であるΔイオン交換量1とΔ反り量には相関関係があると考えられる。 【0073】 イオン交換量は化学強化前のNa_(2)O濃度に比例すること、Snにより阻害されることから、下記式(2-1)により求めることができる。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度)…式(2-1) 以下、イオン交換量という語はイオン交換量1を表すためにも用いることがある。 【0074】 式(2-1)において、規格化Na_(2)O表面濃度は表面Na_(2)O濃度を深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。また、Sn濃度は、トップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))である。 【0075】 トップ面とボトム面におけるイオン交換量1の差は下記式(2-2)により求めることができる。 イオン交換量1の差=(トップ面におけるイオン交換量1)-(ボトム面におけるイオン交換量1)…式(2-2) 【0076】 図7に、横軸にトップ面とボトム面におけるイオン交換量の差Δイオン交換量1、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図7に示すグラフから、Δイオン交換量1とΔ反り量には下記式(2-3)で表される相関関係があることがわかる。 Δ反り量=103×(Δイオン交換量1)+24…式(2-3) 【0077】 Δイオン交換量1は、0.32以下であり、好ましくは、0.30以下、0.28以下、0.26以下または0.24以下である。 【0078】 上記式(2-1)および(2-2)により求められる化学強化後のトップ面とボトム面におけるイオン交換量1の差を0.32以下とすることにより、化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。 【0079】 「7.ガラスの製造方法」の(A)において後述する方法によりNa_(2)O濃度、ボトム面におけるSn濃度を調整することにより、化学強化後のトップ面とボトム面におけるイオン交換量1の差であるΔイオン交換量1を調整することができる。具体的には、例えば、ガラス徐冷時にトップ面に水蒸気やSO_(2)ガスを吹き付けてトップ面のNa_(2)O濃度を下げる、ボトム面に傷防止を目的として吹付けられるSO_(2)ガス流量を下げてボトム面のNa_(2)O濃度を上げる、フロートバス上流の温度を下げるまたは雰囲気水素濃度を上げてボトム面へのSn侵入量を下げることが好ましい。 【0080】 (3)化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差、Sn濃度差およびイオン交換量差とΔ反り量との相関関係 化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差、Sn濃度差、イオン交換量差およびにΔ反り量を因子として重回帰分析すると、下記式(3-1)が求められる。 【0081】 W1=-16×(ΔH/Si)-6.47×(Sn濃度差)-43.8×(Δイオン交換量1)…式(3-1) 【0082】 式(3-1)において、ΔH/Siは化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差をSIMS分析により測定した値の差(規格化水素濃度の差)であり、下記式(3-2)により求められる。 ΔH/Si=(化学強化前のトップ面における規格化水素濃度)-(化学強化前のボトム面における規格化水素濃度)…式(3-2) 【0083】 式(3-1)において、また、Sn濃度差は、ボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))を減じた差であり、ガラスがSnO_(2)を含有しない場合はボトム面単位面積当たりのSn付着量に等しい。 【0084】 Δイオン交換量1はトップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量を減じた値である。イオン交換量は前記式(2-1)により求められる。 【0085】 図12に横軸にW1、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図12に示すグラフから、W1とΔ反り量には相関関係があることがわかる。 【0086】 式(3-1)において、W1は56以下であり、好ましくは54以下、52以下または50以下である。W1を56以下とすることにより、化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。 【0087】 「7.ガラスの製造方法」の(A)において後述する方法により、水素濃度、ボトム面におけるSn濃度を調整することにより、式(3-1)において、W1を調整することができる。具体的には、例えば、ガラス徐冷時にトップ面に水蒸気やSO_(2)ガスを吹き付けてトップ面のNa_(2)O濃度を下げる、ボトム面に傷防止を目的として吹付けられるSO_(2)ガス流量を下げてボトム面のNa_(2)O濃度を上げる、フロートバス上流の温度を下げるまたは雰囲気水素濃度を上げてボトム面へのSn侵入量を下げることが好ましい。 【0088】 (4)トップ面とボトム面におけるイオン交換量差および化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差とΔ反り量との相関関係 イオン交換量は応力発生因子であり、ガラス表層の水素濃度は応力緩和因子であると考えられる。すなわち、ガラス表層の水素濃度が高くなるほどガラスの密度は下がると考えられる。ガラス中のHはSiOHの状態で存在しており、SiOHはガラス中の連続的な架橋構造Si-O-Siが切断されて生成するため、ガラス表層の水素濃度が増える程ガラスの密度が下がり応力が緩和すると考えられる。 【0089】 化学強化後のガラスの反りは、トップ面とボトム面との応力差のアンバランスによると考えられることから、イオン交換量を水素濃度で除した値と反り量には相関関係があると考えられる。 【0090】 図8に、横軸にトップ面とボトム面におけるイオン交換量を化学強化前のトップ面とボトム面における規格化水素濃度で除した値の差、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。 【0091】 図8に示すグラフから、トップ面とボトム面におけるイオン交換量(イオン交換量)を化学強化前のトップ面とボトム面における規格化水素濃度(H/Si)で除した値の差とΔ反り量には下記式(4-1)で表される相関関係があることがわかる。 【0092】 また、規格化水素濃度、イオン交換量差およびにΔ反り量を因子として、重回帰分析すると、下記式(4-1)が求められる。 W2=9.18×Δ[(イオン交換量)/(H/Si)]+49…式(4-1) 【0093】 式(4-1)において、Δ[(イオン交換量)/(H/Si)]は、トップ面におけるイオン交換量を規格化水素濃度H/Siで除した値からボトム面におけるイオン交換量を規格化水素濃度H/Siで除した値を減じた値である。 【0094】 式(4-1)において、イオン交換量は前記式(2-1)により求められる。 【0095】 図13に横軸にW2、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図13に示すグラフから、W2とΔ反り量には相関関係があることがわかる。 【0096】 式(4-1)において、W2の絶対値は56以下であり、好ましくは54以下、52以下または50以下である。W2の絶対値を56以下とすることにより、化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。 【0097】 「7.ガラスの製造方法」の(A)において後述する方法により、水素濃度を調整することにより、式(4-1)において、W2を調整することができる。具体的には、例えば、ガラス徐冷時にトップ面に水蒸気やSO_(2)ガスを吹き付けてトップ面のNa_(2)O濃度を下げる、ボトム面に傷防止を目的として吹付けられるSO_(2)ガス流量を下げてボトム面のNa_(2)O濃度を上げる、フロートバス上流の温度を下げるまたは雰囲気水素濃度を上げてボトム面へのSn侵入量を下げることが好ましい。 【0098】 (5)化学強化前のトップ面とボトム面におけるNa_(2)O濃度差およびSn濃度差とΔ反り量 ソーダライムガラスの化学強化後の反りを制御するためには、化学強化前のガラス表層のヤケの程度およびSn濃度のコントロールが重要であることから、化学強化前のトップ面とボトム面におけるNa_(2)O濃度差およびSn濃度差とΔ反り量には相関関係があると考えられる。 【0099】 化学強化前のトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度差(ΔN-Na_(2)O)およびSn濃度差およびにΔ反り量を因子として重回帰分析すると、図9に示すように、化学強化前のトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度差およびSn濃度差には下記式(5-1)で表される相関関係があることがわかる。 W3=744×[(ΔN-Na_(2)O)+0.01×(Sn濃度差)]…式(5-1) 【0100】 式(5-1)においてΔN-Na_(2)Oは、化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である規格化Na_(2)O表面濃度の差であり、下記式(5-2)により求められる。ここで、それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 ΔN-Na_(2)O=(トップ面における規格化Na_(2)O表面濃度)-(ボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度)…式(5-2) 【0101】 また、Sn濃度差は、化学強化前のトップ面とボトム面におけるSn濃度差であり、ボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:as SnO_(2)μg/cm^(2))を減じた差であり、ガラスがSnO_(2)を含有しない場合はボトム面単位面積当たりのSn付着量に等しい。 【0102】 図14に横軸にW3、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図14に示すグラフから、W3とΔ反り量には相関関係があることがわかる。 【0103】 式(5-1)において、W3は58以下であり、好ましくは56以下、54以下または52以下である。W3を58以下とすることにより、化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。 【0104】 「7.ガラスの製造方法」の(A)において後述する方法により、Na_(2)O濃度差、Sn濃度差を調整することにより、式(5-1)において、W3を調整することができる。 具体的には、例えば、ガラス徐冷時にトップ面に水蒸気やSO_(2)ガスを吹き付けてトップ面のNa_(2)O濃度を下げる、ボトム面に傷防止を目的として吹付けられるSO_(2)ガス流量を下げてボトム面のNa_(2)O濃度を上げる、フロートバス上流の温度を下げるまたは雰囲気水素濃度を上げてボトム面へのSn侵入量を下げることが好ましい。 【0105】 (6)イオン交換量(水素濃度、Na_(2)O濃度およびSn濃度)の差とΔ反り量 化学強化後のガラスの反りには、トップ面及びボトム面におけるイオン交換量の差が影響しており、イオン交換量には水素濃度、Na_(2)O濃度およびSn濃度が関与していると考えられる。したがって、イオン交換量と規格化水素濃度、規格化Na_(2)O表面濃度およびSn濃度は以下の式(6-1)で表される相関関係を示す。 イオン交換量2=-0.02×(H/Si)+5.54×(N-Na_(2)O濃度)-0.037×(Sn濃度)…式(6-1) 【0106】 図15に横軸にトップ面およびボトム面におけるイオン交換量2の差(Δイオン交換量2)、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図15に示すグラフから、Δイオン交換量2とΔ反り量には相関関係があることがわかる。 【0107】 Δイオン交換量2は、下記式(6-2)により求められる値である。 Δイオン交換量2=(トップ面におけるΔイオン交換量2)-(ボトム面におけるΔイオン交換量2)…式(6-2) 【0108】 式(6-1)において、Δイオン交換量2は0.33以下であり、好ましくは0.31以下、0.29以下または0.27以下である。Δイオン交換量2を0.33以下とすることにより、化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。 【0109】 「7.ガラスの製造方法」の(A)において後述する方法により、水素濃度、Na_(2)O濃度、Sn濃度を調整することにより、式(6-1)において、イオン交換量2を調整することができる。具体的には、例えば、ガラス徐冷時にトップ面に水蒸気やSO_(2)ガスを吹き付けてトップ面のNa_(2)O濃度を下げる、ボトム面に傷防止を目的として吹付けられるSO_(2)ガス流量を下げてボトム面のNa_(2)O濃度を上げる、フロートバス上流の温度を下げるまたは雰囲気水素濃度を上げてボトム面へのSn侵入量を下げることが好ましい。 【0110】 7.ガラスの製造方法 フロートガラスにおけるトップ面とボトム面とのヤケ程度の差が小さく、且つフロート成形時において溶融金属と接触するガラス面に侵入する金属量の差が小さくしてΔ反り量を低減するための方法としては、例えば、以下の(A)?(D)に示す方法が挙げられる。これらの方法は単独で用いても、組み合わせてもよい。 【0111】 (A)フロートバスから出てきたガラスを徐冷する際、SO_(2)ガスをガラスに吹きつけることによりガラスのアルカリ成分Na_(2)OをNa_(2)SO_(4)としてガラスから取り出す。ガラスに吹き付けるSO_(2)ガスの量を調整することで、トップ面とボトム面におけるアルカリの量を同程度にし、ガラスのヤケ程度の差を低減することができる。 【0112】 (B)レアーにて、ガラスのトップ面側に水蒸気を吹き付ける。 【0113】 (C)フロートバスにおける溶融ガラスの滞在時間を短くする。 (D)フロートバス上流域の温度を下げる。 【0114】 以下、図面に基づいて説明するが本発明はこれに限定されない。図10は本発明によるフロートガラスの製造装置の縦断面図である。図10において、12はツイール、22はツイールの下方にある固定耐火物、23はスパウトのリップである。 【0115】 図面には省略されているが、原料をガラス槽窯内へ連続的供給し、ガラス槽窯内の高温領域で原料を溶解し、得られた溶融ガラスを冷却領域に導き温度を調整する。次いで、温度の調整された溶融ガラス1は、接続溝11を通過し、ツイール12とその下方にある固定耐火物22とで形成される間隙2を通過する。次いで、スパウトのリップ23を経て溶融金属浴5へ供給され、ガラスリボン4に成形される。 【0116】 フロートガラスは、板厚が1.5mm以下であることが好ましく、1.1mm以下であることがより好ましい。また、典型的には0.7mm以上であるが必要に応じてこれより薄いものも使用される。 【0117】 本発明の化学強化用フロートガラスは、組成によらずに化学強化後の反りを低減することができるが、化学強化用フロートガラスの組成としては、例えば、以下のガラスの組成が挙げられる。 (i)質量%で表示した組成で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0.01?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、RO(R=Mg、Ca、Sr、Ba)を合量で5?25%、ZrO_(2)を0?5%を含むガラス (ii)質量%で表示した組成で、SiO_(2)を64?77%、Al_(2)O_(3)を0.01?7%、Na_(2)Oを10?18%、K_(2)Oを0?5%、MgOを1?10%、CaOを1?12%、SrOを0?5%、BaOを0?5%、ZrO_(2)を0?3%であるガラス (iii)質量%で表示した組成で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0.01?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、ZrO_(2)を0?5%含有し、MgO、CaO、SrOまたはBaOを含有する場合MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が5?25%であり、Na_(2)OおよびAl_(2)O_(3)の含有量の比Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が1.5以上であるガラス (iv)質量%で表示した組成で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0.01?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、ZrO_(2)を0?5%含有し、MgO、CaO、SrOまたはBaOを含有する場合MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が5?25%であり、Na_(2)OおよびAl_(2)O_(3)の含有量の比Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が1.5以上6以下であるガラス (v)質量%で表示した組成で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0.01?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、ZrO_(2)を0?5%含有し、MgO、CaO、SrOまたはBaOを含有する場合MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が5?25%であり、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が1?7%であり、Na_(2)OおよびAl_(2)O_(3)の含有量の比Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が1.5以上であるガラス 【0118】 成形されたフロートガラスを、不図示の切断機で所定のサイズに切断した後、化学強化することにより化学強化フロートガラスを得ることができる。 【0119】 化学強化は、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)をイオン半径のより大きなアルカリイオン(典型的には、Kイオン)に交換することで、ガラス表面に圧縮応力層を形成する処理である。化学強化処理は従来公知の方法によって行うことができる。 【0120】 以下、本発明のフロートガラスを化学強化した後、フラットパネルディスプレイ用のカバーガラスとして用いた例について説明する。図11は、カバーガラスが配置されたディスプレイ装置の断面図である。なお、以下の説明において、前後左右は図中の矢印の向きを基準とする。 【0121】 ディスプレイ装置10は、図11に示すように、概して筐体15内に設けられた表示パネル20と、表示パネル20の全面を覆い筐体15の前方を囲うように設けられるカバーガラス30とを備える。 【0122】 カバーガラス30は、主として、ディスプレイ装置10の美観や強度の向上、衝撃破損防止などを目的として設置されるものであり、全体形状が略平面形状の一枚の板状ガラスから形成される。カバーガラス30は、図11に示すように、表示パネル20の表示側(前側)から離間するように(空気層を有するように)設置されていてもよく、透光性を有する接着膜(図示せず)を介して表示パネル20の表示側に貼り付けられてもよい。 【0123】 カバーガラス30の表示パネル20からの光を出射する前面には機能膜41が設けられ、表示パネル20からの光が入射する背面には、表示パネル20と対応する位置に機能膜42が設けられている。なお、機能膜41、42は、図11では両面に設けたが、これに限らず前面または背面に設けてもよく、省略してもよい。 【0124】 機能膜41、42は、例えば、周囲光の反射防止、衝撃破損防止、電磁波遮蔽、近赤外線遮蔽、色調補正、および/または耐傷性向上などの機能を有し、厚さおよび形状などは用途に応じて適宜選択される。機能膜41、42は、例えば、樹脂製の膜をカバーガラス30に貼り付けることにより形成される。あるいは、蒸着法、スパッタ法またはCVD法などの薄膜形成法により形成されてもよい。 【0125】 符号44は、黒色層であり、例えば、顔料粒子を含むインクをカバーガラス30に塗布し、これを紫外線照射、または加熱焼成した後、冷却することによって形成された被膜であり、筐体15の外側からは表示パネル等が見えなくなり、外観の審美性を向上させる。なお、符号44は黒色層に限らずたとえば白色層であってもよい。 【実施例】 【0126】 以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。 【0127】 [実施例1] 〔フロートガラスの製造〕 以下に示す組成のガラスを板厚が0.7mmとなるようにフロート法で製造し、10cm×10cmに切断して、例1?4のフロート板ガラスを作製した。 組成A:質量%表示の組成が、SiO_(2):71.5%、Al_(2)O_(3):1.8%、Na_(2)O:13.5%、K_(2)O:0.26%、MgO:4.64%、CaO:7.83%、ZrO_(2):0.03% 組成B:SiO_(2):71.5%、Al_(2)O_(3):1.8%、Na_(2)O:13.5%、K_(2)O:0.26%、MgO:4.64%、CaO:7.83%、ZrO_(2):0.03% 組成C:SiO_(2):71.5%、Al_(2)O_(3):1.8%、Na_(2)O:13.5%、K_(2)O:0.26%、MgO:4.64%、CaO:7.83%、ZrO_(2):0.03% 【0128】 〔評価方法〕 (1)ガラス表層の水素濃度の測定 また、実施例1、2および比較例1?3の各フロートガラスの水素濃度を、二次イオン質量分析により深さ20μmまで分析した。フロートガラスの二次イオン質量分析による[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]プロファイルを示すが、このプロファイルは水素濃度プロファイルと同視してよいものである。 【0129】 二次イオン質量分析の分析条件は以下とした。 測定装置:アルバック・ファイ社製 ADEPT1010 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) スパッタレート:14nm/sec 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 【0130】 深さ0?10μmおよび105?110μmの[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-)]を測定し、深さ0?10μmにおける規格化強度のボトム面(B面)とトップ面(T面)との差を算出した。表1において、「H/Si」は、深さ0?10μm平均値を深さ105?110μm平均値で除した値を表す。 【0131】 なお、検出器のField Aperture:1、検出器のESA Input Lens:550とした。 【0132】 (2)反り量の測定 化学強化前に株式会社東京精密製接触式表面形状測定器(サーフコム1400D(商品名))で反り量を測定した後、各フロートガラスを硝酸カリウム溶融塩により、425℃にて150分化学強化し、化学強化後の反り量も同様に測定し、(式)Δ反り量=化学強化後反り量-化学強化前反り量で表されるΔ反り量を算出した。なお、Δ反り量は、9cm角のフロートガラスにおけるΔ反り量を測定とした。 【0133】 (3)Na_(2)O濃度およびK_(2)O濃度の測定 ガラス表層のNa_(2)O濃度およびK_(2)O濃度は、株式会社リガク社製ZSX PrimusIIを用いて蛍光X線分析によりそれぞれNa-Kα線、K-Kα線強度を測定し、標準試料との相対強度比から濃度を求めた。 【0134】 表1において、「N-Na_(2)O」とは、Na_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である規格化Na_(2)O表面濃度である。なお、Na_(2)O濃度は蛍光X線法によりNa-Kα線強度を測定し標準試料との相対強度比から算出した値である。また、化学強化後のイオン交換量(K_(2)O濃度)は、表1のK_(2)Oイオン交換量の欄に示す。 【0135】 (4)Sn濃度の測定 ガラス表面のSn濃度は、ガラス表面をフッ化水素酸溶液でエッチングして溶液中のSn濃度をICP発光分光分析法により定量した。ICP発光分光分析装置はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS3100を用いた。 【0136】 表1において、組成A?CのガラスはSnO_(2)を含有しないことから、トップ面のSnO_(2)は0であることが明らかであり測定しなかった。以下の表2?6においても同様である。 【0137】 例1?4のガラスの化学強化前における規格化水素濃度[0?10μm平均(H/Si)/105?110μm(平均H/Si)]、N-Na_(2)O濃度(表面濃度/100μm深さ位置濃度、以下規格化Na_(2)O表面濃度ともいう)、K_(2)O濃度およびSn濃度(単位面積当たり付着量)並びに化学強化後のイオン交換量(K_(2)O濃度)およびΔ反り量を求めた結果を表1に示す。 【0138】 トップ面のN-Na_(2)O濃度が1未満であるのは、ボトム面に吹付けられたSO_(2)ガスがトップ面側に回り込んだためと考えられる。また、トップ面のN-Na_(2)O濃度がたとえば例1と例4で異なるのはSO_(2)ガスの吹付け状態が変動していることによると考えられる。 【0139】 【表1】 【0140】 [実施例2] 化学強化前のトップ面とボトム面におけるNa_(2)O濃度差とΔ反り量 化学強化前のソーダライムガラス板のトップ面とボトム面におけるNa_(2)O濃度差とΔ反り量とは相関関係があると考えられることから、表1に示すデータからトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の2乗の差Δ(N-Na_(2)O^(2))を求め、Δ反り量との相関関係について検討した。 【0141】 その結果を表2および図6に示す。図6は、横軸に化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の2乗の差Δ(N-Na_(2)O^(2))(Top-Bottom)、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフである。 【0142】 図6に示すグラフから、化学強化前のソーダライムガラス板のトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の2乗の差Δ(N-Na_(2)O^(2))とΔ反り量とには下記式(1-1)で表される相関関係があることがわかった。 Δ反り量=370×Δ(N-Na_(2)O^(2))+45…式(1-1) 【0143】 式(1-1)においてΔ(N-Na_(2)O^(2))は、化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度を蛍光X線分析により測定した値の2乗の差であり、下記式(1-2)により求められる。 ΔNa_(2)O=(化学強化前のトップ面における規格化Na_(2)O表面濃度)^(2)-(化学強化前のボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度)^(2)…式(1-2) 【0144】 表2および図6に示す結果から、式(1-1)において、Δ(N-Na_(2)O^(2))を0.040以下とすることにより、Δ反り量を58μm以下とすることができることがわかった。 【0145】 【表2】 【0146】 [実施例3] 化学強化後のトップ面とボトム面におけるイオン交換量差とΔ反り量 トップ面とボトム面におけるイオン交換量の差とΔ反り量には相関関係があると考えられることから、表1に示すデータからイオン交換量の差(Δイオン交換量1)を求め、Δ反り量との相関関係について検討した。 【0147】 Δイオン交換量1は、トップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値である。イオン交換量1は下記式(2-1)により求めた。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度)…式(2-1) 【0148】 イオン交換量1の差=(トップ面におけるイオン交換量)-(ボトム面におけるイオン交換量)…式(2-2) 【0149】 その結果を表3および図7に示す。図7は、横軸にトップ面とボトム面におけるイオン交換量1の差Δイオン交換量1、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフである。 【0150】 図7に示すグラフから、Δイオン交換量1とΔ反り量には下記式(2-3)で表される相関関係があることがわかった。 Δ反り量=103×(Δイオン交換量1)+24…式(2-3) 【0151】 表3および図7に示す結果から、Δイオン交換量1を0.32以下とすることにより、Δ反り量を58μm以下とすることができることがわかった。 【0152】 【表3】 【0153】 [実施例4] 化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差、Sn濃度差およびイオン交換量差とΔ反り量 化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差、Sn濃度差、イオン交換量差およびにΔ反り量に相関関係があると考えられることから、これらを因子として、表1に示すデータを元に重回帰分析した結果、下記式(3-1)が求められた。表4に、表1に示すデータから用いたデータを示す。 【0154】 W1=-16×(ΔH/Si)-6.47×(Sn濃度差)-43.8×(Δイオン交換量1)…式(3-1) 【0155】 式(3-1)において、ΔH/Siは化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差をSIMS分析により測定した値の差(規格化水素濃度の差)であり、下記式(3-2)により求めた。 ΔH/Si=(化学強化前のトップ面における規格化水素濃度)-(化学強化前のボトム面における規格化水素濃度)…式(3-2) 【0156】 Δイオン交換量1はトップ面におけるイオン交換量から該ボトム面におけるイオン交換量を減じた値である。イオン交換量は前記式(2-1)により求めた。 【0157】 図12に横軸にW1、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図12に示すグラフから、W1とΔ反り量には相関関係があることがわかった。表4および図12に示す結果から、W1を56以下とすることにより、Δ反り量を58μm以下とすることができることがわかった。 【0158】 【表4】 【0159】 [実施例5] トップ面とボトム面におけるイオン交換量差および化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差とΔ反り量 トップ面とボトム面におけるイオン交換量の差および化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差とΔ反り量には相関関係があると考えられることから、表1に示すデータから、トップ面とボトム面におけるイオン交換量差および化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度差とΔ反り量の相関関係について検討した。 【0160】 その結果を表5および図8に示す。図8は、横軸にトップ面とボトム面におけるイオン交換量の差を化学強化前のトップ面とボトム面における水素濃度の差で除した値、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフである。 【0161】 また、水素濃度、イオン交換量およびにΔ反り量に相関関係があると考えられることから、これらを因子として、表1に示すデータを元に重回帰分析した結果、下記式(4-1)が求められた。 W2=9.18×Δ[(イオン交換量)/(H/Si)]+49…式(4-1) 【0162】 式(4-1)において、Δ[(イオン交換量)/(H/Si)]は、トップ面におけるイオン交換量を規格化水素濃度H/Siで除した値からボトム面におけるイオン交換量を規格化水素濃度H/Siで除した値を減じた値である。イオン交換量は前記式(2-1)により求めた。 【0163】 図13に横軸にW2、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図13に示すグラフから、W2とΔ反り量には相関関係があることがわかった。表5および図13に示す結果から、W2を56以下とすることにより、Δ反り量を58μm以下とすることができることがわかった。 【0164】 【表5】 【0165】 [実施例6] 化学強化前のトップ面とボトム面におけるNa_(2)O濃度差およびSn濃度差とΔ反り量 化学強化前のトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度差およびSn濃度とΔ反り量には相関関係があると考えられることから、これらを因子として、表1に示すデータを元に重回帰分析した。その結果を表6、図9および図17に示す。 【0166】 図17に示すように、化学強化前のトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度差およびSn濃度差には下記式(5-1)で表される相関関係があることがわかった。W3=744×[(ΔN-Na_(2)O)+0.01×(Sn濃度差)]…式(5-1) 【0167】 式(5-1)において、ΔN-Na_(2)Oは、トップ面における規格化Na_(2)O表面濃度からボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度を減じた値であり、下記式(5-2)により求められる。 ΔN-Na_(2)O=(化学強化前のトップ面における規格化Na_(2)O表面濃度)-(化学強化前のボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度)…式(5-2) 【0168】 図14に横軸にW3、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図14に示すグラフから、W3とΔ反り量には相関関係があることがわかった。表6および図14に示す結果から、W3を58以下とすることにより、Δ反り量を58μm以下とすることができることがわかった。 【0169】 【表6】 【0170】 [実施例7] イオン交換量(水素濃度、Na_(2)O濃度およびSn濃度)の差とΔ反り量 イオン交換量には水素濃度、Na_(2)O濃度およびSn濃度が関与していると考えられることから、表7に示すデータから相関式を求めた結果、下記式(6-1)が得られた。 イオン交換量2=-0.02×(H/Si)+5.54×(N-Na_(2)O濃度)-0.037×(Sn濃度)…式(6-1) 【0171】 式(6-1)で求められるイオン交換量2のトップ面とボトム面との差Δイオン交換量2と化学強化後のガラスの反りには、トップ面及びボトム面におけるイオン交換量の差が影響していると考えられることから、式(6-2)で求められるイオン交換量2のトップ面とボトム面との差Δイオン交換量2とΔ反り量との相関関係を調べた。 Δイオン交換量2=(トップ面におけるイオン交換量2)-(ボトム面におけるイオン交換量2)…式(6-2) 【0172】 図15に横軸にトップ面およびボトム面におけるイオン交換量2の差(Δイオン交換量2)、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフを示す。図15に示すグラフから、Δイオン交換量2とΔ反り量には相関関係があることがわかった。 【0173】 表7および図15に示す結果から、式(6-1)において、Δイオン交換量2を0.33以下とすることにより、Δ反り量を58μm以下とすることができることがわかった。 【0174】 【表7】 【0175】 [実施例8] 化学強化前のトップ面とボトム面におけるNa_(2)O濃度差とΔ反り量 化学強化前のソーダライムガラス板のトップ面とボトム面におけるNa_(2)O濃度差とΔ反り量とは相関関係があると考えられることから、表1に示すデータからトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度からボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた差の2乗[ΔN-Na_(2)O(Top-Bottom)]^(2)を求め、Δ反り量との相関関係について検討した。 【0176】 その結果を表8および図16に示す。表8中のたとえば「5.9.E-04」は5.9×10^(-4)の意である。図16は、横軸に化学強化に供するトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度からボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた差の2乗[ΔN-Na_(2)O(Top-Bottom)]^(2)、縦軸にΔ反り量をプロットしたグラフである。 【0177】 図16に示すグラフから、化学強化前のソーダライムガラス板のトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度の差の二乗(ΔN-Na_(2)O)^(2)とΔ反り量とには下記式(7-1)で表される相関関係があることがわかった。 【0178】 Δ反り量=18000×(ΔN-Na_(2)O)^(2)+51…式(7-1) 式(7-1)において(ΔN-Na_(2)O)^(2)は、化学強化に供するガラスのトップ面とボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度を蛍光X線分析により測定した値の差の2乗であり、下記式(7-2)により求めた。 (ΔN-Na_(2)O)^(2)=[(化学強化前のトップ面における規格化Na_(2)O表面濃度)-(化学強化前のボトム面における規格化Na_(2)O表面濃度)]^(2)…式(7-2) 【0179】 表8および図16に示す結果から、式(7-1)において、(ΔN-Na_(2)O)^(2)を5.0×10^(-4)以下とすることにより、Δ反り量を58μm以下とすることができることがわかった。 【0180】 【表8】 【0181】 [ガラス組成例] 本発明の化学強化用フロートガラスの質量百分率表示の組成例G1?G16並びにそれらについて化学強化したときの圧縮応力CS(単位:MPa)および圧縮応力層深さDOL(単位:μm)を表9、表10に示す。 【0182】 表中のNa_(2)O/Al_(2)O_(3)はNa_(2)OおよびAl_(2)O_(3)の含有量の比、ROはMgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計、CaO+SrO+BaOはCaO、SrOおよびBaOの含有量の合計、強化温度(単位:℃)および強化時間(単位:h)は前記化学強化についてのもの、KNO_(3)は化学強化に用いられる溶融塩中のKNO_(3)の濃度(単位:質量%)、dolは前記dolである。なお、溶融塩中のKNO_(3)の濃度が100%でないものの残りの成分はNaNO_(3)である。 【0183】 【表9】 【0184】 【表10】 【0185】 本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2012年12月27日付で出願された日本特許出願(特願2012-285511)に基づいており、その全体が引用により援用される。 【符号の説明】 【0186】 1 溶融ガラス 5 溶融金属浴 10 ディスプレイ装置 15 筐体 20 表示パネル 30 カバーガラス (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na_(2)O^(2))が0.040以下である化学強化用フロートガラス。 ここで、それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値である。 【請求項2】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値であるΔイオン交換量1が0.32以下である化学強化用フロートガラス。 ここで、イオン交換量1は下記式(2-1)により求められる値である。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度)…式(2-1) 式(2-1)において、規格化Na_(2)O表面濃度は表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 また、Sn濃度はトップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量である。 【請求項3】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(3-1)により求められるW1が56以下である化学強化用フロートガラス。 W1=-16×(ΔH/Si)-6.47×(Sn濃度差)-43.8×(Δイオン交換量1)…式(3-1) 式(3-1)において、ΔH/Siは、トップ面における規格化水素濃度からボトム面における規格化水素濃度を減じた値である。規格化水素濃度とは、深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 式(3-1)において、Sn濃度差はボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))を減じた差であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量である。 式(3-1)において、Δイオン交換量1はトップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値である。イオン交換量1は下記式により求められる。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度) 前記式において、規格化Na_(2)O表面濃度は、表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 【請求項4】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(4-1)により求められるW2の絶対値が56以下である化学強化用フロートガラス。 W2=9.18×Δ[(イオン交換量1)/(H/Si)]+49…式(4-1) 式(4-1)において、Δ[(イオン交換量1)/(H/Si)]は、トップ面におけるイオン交換量1を同面における規格化水素濃度H/Siで除した値からボトム面におけるイオン交換量1を同面における規格化水素濃度H/Siで除した値を減じた値である。 ここで、イオン交換量1は下記式により求められる。 イオン交換量1=5.51×(規格化Na_(2)O表面濃度)-0.038×(Sn濃度) 前記式において、規格化Na_(2)O表面濃度は、表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。また、Sn濃度はトップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量である。 規格化水素濃度とは、深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 【請求項5】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(5-1)により求められるW3が58以下である化学強化用フロートガラス。 W3=744×[(ΔN-Na_(2)O)+0.01×(Sn濃度差)]…式(5-1) 式(5-1)において、ΔN-Na_(2)Oは、トップ面における表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度からボトム面における表面のNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた値である。ここで、それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 式(5-1)において、Sn濃度差は、ボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))を減じた差であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときの1cm^(2)あたりのSnO_(2)換算付着質量である。 【請求項6】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるイオン交換量2から該ボトム面におけるイオン交換量2を減じた値であるΔイオン交換量2が0.33以下である化学強化用フロートガラス。 ここで、イオン交換量2は下記式(6-1)により求められる値である。 イオン交換量2=-0.02×(H/Si)+5.54×(N-Na_(2)O濃度)-0.037×(Sn濃度)…式(6-1) 式(6-1)において、H/Siは規格化水素濃度であり、規格化水素濃度とは深さ0?10μmにおける平均水素濃度を深さ105?110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0?10μmにおける平均水素濃度および深さ105?110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。 (分析条件) 測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置 一次イオン種:Cs^(+) 一次加速電圧:5.0kV 一次イオンカレント:1μA 一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60° ラスターサイズ:200×200μm^(2) 検出領域:40×40μm^(2) 二次イオン極性:マイナス 中和用の電子銃使用有 式(6-1)においてN-Na_(2)O濃度は表面Na_(2)O濃度を深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値である規格化Na_(2)O表面濃度である。ここで、Na_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。 Sn濃度は、単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm^(2))であり、Sn付着量はSnがSnO_(2)の形で存在するとしたときのSnO_(2)換算付着質量である。 【請求項7】 100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、 成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na_(2)O表面濃度から該ボトム面におけるNa_(2)O濃度をその深さ100μm位置のNa_(2)O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na_(2)O表面濃度を減じた差ΔN-Na_(2)Oの2乗(ΔN-Na_(2)O)^(2)が5.0×10^(-4)以下である化学強化用フロートガラス。それぞれのNa_(2)O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値である。 【請求項8】(削除) 【請求項9】 質量百分率表示で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、MgOを0?17%、CaOを0?22%、SrOを0?8%、BaOを0?8%、ZrO_(2)を0?5%含有する請求項1?7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス。 【請求項10】 請求項1?7、9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラスであって、質量百分率表示で、SiO_(2)を60?80%、Al_(2)O_(3)を0.01?8%、Na_(2)Oを8?22%、K_(2)Oを0?7%、ZrO_(2)を0?5%含有し、MgO、CaO、SrOまたはBaOを含有する場合MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が5?25%であり、Na_(2)OおよびAl_(2)O_(3)の含有量の比Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が1.5以上である化学強化用フロートガラス。 【請求項11】 請求項10に記載の化学強化用フロートガラスであって、Na_(2)O/Al_(2)O_(3)が6以下である化学強化用フロートガラス。 【請求項12】 請求項9、10または11に記載の化学強化用フロートガラスであって、CaO、SrOまたはBaOを含有しCaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が1?7%である化学強化用フロートガラス。 【請求項13】 圧縮応力層深さが20μm以下である化学強化ガラスを製造する方法であって、請求項1?7、9?12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラスを化学強化することを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-05-17 |
出願番号 | 特願2014-554596(P2014-554596) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C03B)
P 1 651・ 537- YAA (C03B) P 1 651・ 536- YAA (C03B) P 1 651・ 113- YAA (C03B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 増山 淳子 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 宮澤 尚之 |
登録日 | 2017-03-24 |
登録番号 | 特許第6112122号(P6112122) |
権利者 | 旭硝子株式会社 |
発明の名称 | 化学強化用フロートガラス |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |