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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1341983
異議申立番号 異議2017-700682  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-11 
確定日 2018-06-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6103506号発明「無機繊維断熱材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6103506号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6103506号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6103506号(以下「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成29年3月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年7月11日に特許異議申立人伊藤映美(以下「申立人1」という。)により、平成29年9月27日に特許異議申立人河井清悦(以下「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされ、平成29年11月9日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年1月15日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、平成30年2月21日に申立人1から、平成30年2月19日に申立人2から、それぞれ意見書が提出されたものである。

第2 訂正の請求
1.訂正の内容
平成30年1月15日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6103506号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。(下線部は、訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記無機繊維マットの、前記無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対する配向角度が、0°より大きく20°までで傾いている、」とあるのを、
「前記無機繊維マットの、前記無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対する配向角度が、3°?10°で傾いており、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?9も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「傾いている、ことを特徴とする、無機繊維断熱材」とあるのを、
「傾いており、前記無機繊維が、ガラス繊維である、ことを特徴とする、無機繊維断熱材」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?9も同様に訂正する。)

2.訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1?9について、請求項2?9は請求項1を直接あるいは間接的に引用するから、訂正事項1及び2によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正事項1について
ア.訂正の目的について
訂正事項1は、無機繊維マットの、無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対する配向角度について、本件訂正前の請求項1に「0°より大きく20°までで傾いている」とあるのを、「3°?10°で傾いており」と数値範囲を限定するものであり、また、訂正後の請求項1を引用する請求項2?9についても同様に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)に記載した事項の範囲内であること、並びに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0032】の「無機繊維マットの積層数が6?10であれば、無機繊維マットの目付は350?550g/m^(2)で均質で配向角度が3?10°となり、所望する高い断熱性の無機繊維断熱材を得ることができる。」との記載に基づくものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(3)訂正事項2について
ア.訂正の目的について
訂正事項2は、無機繊維について、「ガラス繊維」と限定するものであり、また、訂正後の請求項1を引用する請求項2?9についても同様に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.本件特許明細書に記載した事項の範囲内であること、並びに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0020】の「無機繊維マットを構成する無機繊維としては、ガラス繊維、スラグ繊維、バサルト繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維が挙げられる。好ましくは、ガラス繊維である。」との記載に基づくものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

3.まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?9に係る発明(以下「本件発明1?9」という。)は、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の無機繊維マットが積層された無機繊維断熱材であり、
前記無機繊維マットを構成する無機繊維の繊維径が3?5μmであり、その繊維長が20mm以上であり、
前記無機繊維同士がその接合点で熱硬化性結合剤により結合され、
前記各無機繊維マットの目付が300?600g/m^(2)であり、
前記無機繊維マットの、前記無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対する配向角度が、3°?10°で傾いており、
前記無機繊維が、ガラス繊維である、
ことを特徴とする、無機繊維断熱材。
【請求項2】
前記無機繊維が、含まれる酸化物の総質量に基づき、60?72質量%のSiO_(2)+Al_(2)O_(3)、1?7質量%のB_(2)O_(3)、14?22質量%のNa_(2)O+K_(2)O、及び6?15質量%のMgO+CaOを含有するガラス繊維である、請求項1に記載の無機繊維断熱材。
【請求項3】
前記熱硬化性結合剤が、アミド化反応、イミド化反応、エステル化反応及びエステル交換反応のいずれかの反応で硬化する熱硬化性樹脂である、請求項1又は2に記載の無機繊維断熱材。
【請求項4】
前記熱硬化性結合剤が、アルデヒド縮合性樹脂である、請求項1又は2に記載の無機繊維断熱材。
【請求項5】
前記無機繊維断熱材の総質量中、3?10質量%の前記熱硬化性結合剤を含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の無機繊維断熱材。
【請求項6】
請求項1に記載の無機繊維断熱材の製造方法であって、以下の工程、
3?5μmの繊維径及び20mm以上の繊維長を有する無機繊維を生成する工程、
前記無機繊維に熱硬化性結合剤を付与する工程、
前記熱硬化性結合剤を付与された無機繊維を堆積し、300?600g/m^(2)の目付を有する無機繊維マットを形成する工程、
前記無機繊維マットを積層する工程、
前記積層された無機繊維マットを圧縮しながら加熱し、前記熱硬化性結合剤により前記無機繊維を結合させて無機繊維断熱材を得る工程、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記無機繊維マットを形成する工程において、前記無機繊維の堆積が、下方からの吸引及び上方からの空気流の吹き付けにより行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記無機繊維マットを積層する工程が、前記無機繊維マットを折り返すことにより行われる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記無機繊維マットを積層する工程において、前記無機繊維マットが、垂直方向の積層数が4?12となるように積層される、請求項6?8のいずれか1項に記載の方法。」

第4 当審の判断
1.平成29年11月9日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要
(理由1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2)本件特許は、明細書、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

以下、申立人1による特許異議申立書を「申立書1」、申立人2による特許異議申立書を「申立書2」とする。 また、「甲第1号証」等を「甲1」等とする。 また、「刊行物1に記載された発明」等を「刊行物1発明」等とし、「刊行物1に記載された事項」等を「刊行物1記載事項」等とする。

刊行物1:特開2005-61611号公報(申立書1の甲1、申立書2の甲8)
刊行物2:特開平8-118352号公報(申立書1の甲2)
刊行物3:特開2006-161972号公報(申立書1の甲3、申立書2の甲5)
刊行物4:特開平3-12342号公報(申立書1の甲4、申立書2の甲1)
刊行物5:特開平8-91864号公報(申立書1の甲5)
刊行物6:特開2002-302855号公報(申立書1の甲6、申立書2の甲11)
刊行物7:特開平7-139691号公報(申立書1の甲7)
刊行物8:特開2009-155172公報(申立書1の甲8、申立書2の甲6及び甲12)
刊行物9:特開2007-211161号公報(申立書1の甲9、申立書2の甲7)
刊行物10:特開2013-249586号公報(申立書1の甲10)
刊行物11:特開2007-70741号公報(申立書1の甲11、申立書2の甲9)
刊行物12:国際公開第97/01006号(申立書2の甲2)
刊行物13:特開2013-99936号公報(申立書2の甲3)
刊行物14:特開平7-227926号公報(申立書2の甲4)
刊行物15:特開2007-239297号公報(申立書2の甲10)

<理由1:第29条第2項
(1)刊行物1を主たる引用例とする理由
ア.本件発明1及び4に対し
本件発明1及び4は、刊行物1発明及び刊行物2?刊行物7記載事項に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
イ.本件発明2に対し
本件発明2は、刊行物1発明及び刊行物2?刊行物8記載事項に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
ウ.本件発明3に対し
本件発明3は、刊行物1発明1及び刊行物2?刊行物10記載事項に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
エ.本件発明5に対し
本件発明5は、刊行物1発明及び刊行物2?刊行物11記載事項に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
オ.本件発明6?9に対し
本件発明6?9は、刊行物1発明並びに刊行物2?刊行物7記載事項及び刊行物9記載事項に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

(2)刊行物4を主たる引用例とする理由
ア.本件発明1及び4に対し
本件発明1及び4は、刊行物4発明、刊行物12記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
イ.本件発明2に係る発明に対し
本件発明2は、刊行物4発明、刊行物12記載事項、刊行物8記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
ウ.本件発明3に対し
本件発明3は、刊行物4発明、刊行物12記載事項、刊行物9記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
エ.本件発明5に対し
本件発明5は、刊行物4発明、刊行物12記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
オ.本件発明6に対し
本件発明6は、刊行物4発明、刊行物12記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
カ.本件発明7に対し
本件発明7は、刊行物4発明、刊行物12記載事項、刊行物8記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
キ.本件発明8及び9に対し
本件発明8及び9は、刊行物4発明、刊行物12記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

<理由2:第36条第4項第1号及び第6項第2号>
(1)請求項1に関して
本件特許の請求項1の「前記無機繊維マットを構成する無機繊維の繊維径が3?5μmであり、その繊維長が20mm以上であり、」に関して、本件特許の明細書には、無機繊維マットを構成する繊維長の定義や計測方法についての説明がされていない。
また、本件特許の請求項1の記載では、無機マットを構成する全ての無機繊維の繊維長が20mm以上なのか、無機マットを構成する一部の繊維長が20mm以上であるのかが明らかでない。
よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1に係る発明を実施できるように明確かつ十分に記載したものではない。
また、本件特許の請求項1の「前記無機繊維マットを構成する無機繊維の繊維径が3?5μmであり、その繊維長が20mm以上であり、」の記載は明確でない。

(2)請求項2?9に関して
請求項2?9に関しても、請求項1と同様な記載不備がある。

2.理由2について
事案に鑑み、まず理由2について検討する。
(1)特許法第36条第4項第1号に係る理由(実施可能要件)
ア.無機繊維マットを構成する繊維の製造法及び繊維長について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0021】
無機繊維の繊維径は、3?5μmであり、好ましくは3?4μmである。このような無機繊維の製造方法は、例えば、特開平2009-155172号公報に開示の通り、既に公知である。本件明細書において、この公開公報を必要に応じて参照する。遠心法で繊維径3μm未満の繊維を製造しようとすると、遠心法での繊維化の際に、繊維が上方からの高温の空気の吹き付けにより、切れやすくなって、20mm未満の長さの繊維が多く含まれるようになり、集綿工程で行われる下方からの吸引の影響から繊維が無機繊維マットの厚み方向に配向しやすくなり、得られる無機繊維断熱材の熱伝導率が上昇して、断熱材としての性能が低下する問題が生じる。
繊維径が5μmを超えると、単位体積あたりの繊維の本数が少なくなり、無機繊維断熱材内の繊維の充填率が低くなり、空気の対流が生じやすくなる。これにより、得られる無機繊維断熱材の熱伝導率が上昇し、断熱性能が低下する。
【0022】
無機繊維の繊維長は、20mm以上であり、好ましくは、25mm以上である。繊維長が20mm未満であると、前述のように、繊維が無機繊維マットの厚み方向に配向しやすくなり、無機繊維断熱材の熱伝導率が上昇する場合がある。
本発明において、繊維長の上限はない。遠心法で製造できる範囲内で20mm以上の繊維長であれば、本発明の目的とする断熱性の高い無機繊維断熱材を製造することができる。
無機繊維の配向角度は、マットの厚み方向と垂直な方向に対してほぼ平行な角度である。本発明において「マットの厚み方向」とは、マットの対向する最大の面積を有する2面間の距離を示す方向をいい、幅、奥行き、高さのうち、最も短いものに沿う方向をいう。」
「【0048】
(実施例1)
含まれる酸化物の総質量に基づき、65.0質量%のSiO_(2)+Al_(2)O_(3)、5.0質量%のB_(2)O_(3)、16.2質量%のNa_(2)O+K_(2)O、及び11.5質量%のMgO+CaOを含有するガラス組成物を溶融させ、特開2009-155172号公報の図1に記載の繊維形成装置を使用して、遠心法にて、スピナーの周速度50m/s、平均オリフィス径0.3mm、溶融ガラス温度1150℃の条件により、繊維径3μm、繊維長20mm以上のガラス繊維を形成させた後に、結合剤1を噴霧し、下方からの吸引及び上方からの空気流の吹き付けにより、集綿ベルト上に目付350g/m^(2)、幅2000mmのガラス繊維マットを形成した。」
上記【0021】、【0022】、及び【0048】の記載によれば、本件発明1?9のガラス繊維は、特開2009-155172号公報の繊維形成装置により繊維長20mm以上の繊維長が形成できるとされる。

イ.そして、特開2009-155172号公報(上記刊行物8)には、この繊維形成装置について以下の記載がある。
「【0036】
図1に示すように本繊維化装置は、溶融窯で溶解された1025?1150℃の溶融ガラス4を、フォアハース8に設けたノズル14から流下してスピナー7に供給し、供給された溶融ガラスをスピナー7の高速回転による遠心力でスピナー内を外方向に向かって流動させ後、スピナーの側壁部6に設けたオリフィス10から排出して繊維状ガラスを形成し、この繊維状ガラスに延伸バーナー装置11から燃焼ガス流を吹きつけるとともに、気流噴射装置18から気流例えばエアを吹きつけ、該繊維状ガラスをエアで吹き飛ばすことによって延伸して細繊維化し、所望の繊維径のガラス繊維16が得られるように構成されている。ガラス繊維積層体は、このガラス繊維16を例えば図示していないコンベア上にマット状に所定の厚さ積層し加圧して得られる。このガラス繊維製造方法は、従来から遠心法として定着している技術で、多くの実績と技術の蓄積がある。したがって、本発明のガラス繊維製造方法も遠心法という点で共通しており、この共通部分には従来の蓄積技術を応用したり活用することができる。
【0037】
上記スピナー7は、底部5と側壁部6とによって形成された中空鉢状体で、駆動源(不図示)に連結している軸体9によって高速回転される。スピナー7の側壁部(以下、スピナー側壁部ということもある)6は、通常は本例のように高さ方向に径が一定の円筒壁で形成され、円形の輪郭を有している。しかし、側壁部6は上部に向かって僅かに上広がりに傾斜していてもよい。スピナー7の口径はこの側壁部6の最大外径である。
【0038】
スピナー7の回転速度すなわち側壁部6の周速度としては、35?55m/sが好ましく、より好ましくは40?55m/sである。このような周速度は、スピナー7をほぼ2000?3500rpmで高速回転させることによって得られる。側壁部6の周速度が35m/s未満であると、側壁部において溶融ガラスに所望の遠心力が発生しないため、オリフィス10から吐出される繊維状ガラスの径が太くなり、該繊維状ガラスを細繊維化しても所望の繊維径にするのが困難となる。また、側壁部6の周速度が55m/sを超えると、オリフィス10から吐出された繊維状ガラスの細繊維化において、ガラス繊維16の切断が多くなり、これによってショット17の発生が増加するので好ましくない。周速度が上記範囲であれば、スピナー内に供給された溶融ガラスから繊維径が2?5μmのガラス繊維積層体をショットの発生を抑えながら安定して製造できる。
【0039】
スピナー7の材質は、特に限定されないで、従来知られている材質が適宜使用できる。例えばコバルト、ニッケル、クロムを主成分とするコバルト合金は、溶融ガラスに対する耐食性に優れ耐熱強度が大きいことからスピナー7の材質として適している。本繊維化装置のスピナー7も該コバルト合金で製造するのが好ましく、側壁部6は一定の肉厚を有するコバルト合金壁として形成することができる。」
「【実施例】
【0053】
(ガラス繊維積層体)
ガラス組成がSiO_(2):64質量%、Al_(2)O_(3):2質量%、B_(2)O_(3):5質量%、Na_(2)O+K_(2)O:16質量%、MgO+CaO:13質量%の溶融ガラスから、遠心法ガラス繊維製造装置を用いて表1の条件で実施例1、2、及び比較例1乃至5のガラス繊維積層体(グラスウール)をそれぞれ製造した。次いで、製造された各ガラス繊維積層体の(a)平均繊維径、・・・(d)ガラス繊維の繊維長を測定した。」

ウ.そして、このような遠心法により得られたガラス繊維の長繊維は、乙1?乙3(乙1:欧州特許出願公開第0867551号明細書、乙2:米国特許第5998021号明細書、乙3:Clarke Berdan II、Owens Corning 「MIRAFLEX^(TM )Fiber,the Insulation Glass Fiber for the Twenty-First Century」、[online]、1996年、ACEEE、[平成30年1月12日検索]、<URL:https://aceee.org/files/proceedings/1996/data/papers/SS96_Panel10_Paper01.pdf>)に示されるドレープ長法で、繊維長を測定することが、当業者にとって、技術常識である。
すると、本件特許明細書の記載及び技術常識を踏まえれば、本件発明1?9の繊維長が20mm以上のガラス繊維を形成し、それらの長さを測定して、「繊維径が3?5μmであり、その繊維長が20mm以上」のガラス繊維からなる「無機繊維マット」を構成することができるものといえる。

エ.したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1?9に係る発明を実施できるように明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第2号に係る理由(明確性違反)
上記のように、遠心法により得られたガラス繊維の繊維長の測定方法としてドレープ長法が技術常識であり、本件発明1?9の「繊維長が20mm以上」も、そのような技術常識に基づき、測定し得るものであるから、「繊維長が20mm以上」の記載は明確である。
よって、本件発明1?9は明確でないとはいえない。

(3)申立人1、2の意見書による主張について
申立人1は、意見書において、特開2009-155172号公報には、光学顕微鏡を用いた繊維長の測定方法が記載され、ドレープ長法以外の測定方法がある旨主張する。
しかし、特開2009-155172号公報に記載された測定方法は、ガラス繊維の中の特定長さ以上の繊維の割合を測定する方法が示されているのであり、本件発明1?9のように、ガラス繊維の「繊維長」を測定する方法について記載されたものではない。
また、申立人2は、意見書において、参考資料1?7(参考資料1:特開2008-274139号公報、参考資料2:特開2011-94056号公報、参考資料3:特開2013-154301号公報、参考資料4:特開2013-166923号公報、参考資料5:国際公開第2014/017612号、参考資料6:特開2014-95034号公報、参考資料7:特開2014-237759号公報)を示して、それらには、ドレープ長法以外の測定方法が記載されている旨主張する。
しかし、参考資料1のものは、ガラスファイバーの「平均繊維長」の測定方法であり、本件発明1?9のように、ガラス繊維の「繊維長」を測定するものではない。
さらに、参考資料2?7のものは、いずれも、ガラス繊維に係る測定方法を示すものではない。
よって、申立人1、2の上記主張は、いずれも当を得たものではない。

(4)小括
よって、本件特許明細書の記載及び本件発明1?9は、特許法第36条第4項第1項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件発明1?9に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、理由2によって、取り消されるべきものとすることはできない。

3.理由1について
(1)刊行物
ア.刊行物1記載事項及び刊行物1発明
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硬化の熱硬化性有機バインダーが付着した無機繊維マットを、密度が150?400kg/m^(3)となるように30秒間以上加圧しながら加熱して成形することを特徴とする真空断熱材用芯材の製造方法。」
「【0004】
しかしながら、上記の遠心法などによって得られるマット状物は、比較的長い繊維で引き出され、かつ湾曲した状態の繊維が堆積されたものであるため、該マット状物においては、繊維が3次元的に絡み合って配向されている。さらにこのマット状物にバインダーを付与して加圧加熱して成形して芯材を得ると、該芯材においては上記の状態でそのまま繊維同士が固着されるため、該芯材を外被材内に挿入して真空断熱材としたものを断熱筐体内に充填すると、この芯材においては繊維が伝熱方向に垂直に配向されていないことから、断熱性が劣るといった問題を有していた。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、繊維配向が伝熱方向に垂直であり、表面が平滑でかつ断熱性に優れた真空断熱材用芯材を、簡便に得ることが可能な方法を提供することである。」
「【0014】
本発明の製造方法の1例を図2(A)?(C)を参照して説明する。図2(A)は、加圧加熱前の複数枚の繊維マット5を積層した状態を示しており、図2(B)は、図2(A)に示す繊維マットの積層体を平板加熱プレス機6により加圧加熱して積層繊維マットを圧縮した状態を示しており、図2(C)は、積層繊維マットをプレス機から解放して得られる圧縮マット、すなわち芯材1を形成した状態を示している。本発明の芯材1(図2(C))は、1例として、図2(A)および図2(B)に示す如き方法で得られる。すなわち、例えば、ガラスウール、ロックウールなどの無機繊維(以下、ガラス繊維を代表例として説明する)を、連続的に溶融紡糸しながらベルトコンベア上に連続的に堆積し、この堆積物に連続的に未硬化の熱硬化性有機バインダーを付与しつつ、シート化してガラス繊維マットとし、該マットをロール状に巻取ったものから、ガラス繊維マット5の複数枚を裁断および積層し(図2(A))、この積層物を、密度が150?400kg/m^(3)となるように30秒間以上、例えば、平板加熱プレス機6などにより、加圧しながら加熱して(図2(B))、圧縮マットである芯材1を成形する(図2(C))ことによって得られる。
【0015】
上記芯材1を構成する、加熱圧縮する前のガラス繊維マット5それ自体は公知であり、ガラス繊維を適当な未硬化の熱硬化性有機バインダーによってマット状に成形してなるものである。このようなガラス繊維マットは種々の密度のものが知られているが、本発明においては、ガラス繊維の平均径が3?5μmであり、加熱圧縮する前のガラス繊維マットの密度が3kg/m^(3)以上であり、該マットの1枚の厚みが10?350mmであることが好適である。」
「【0017】
また、本発明で使用する熱硬化性有機バインダー(以下単に「有機バインダー」という)自体は従来公知のガラス繊維マットの製造に使用されている有機バインダーでよく、好ましくは、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂前駆体の水溶液などが使用できる。・・・」
「【0021】
以上の如く加圧加熱処理されたガラス繊維マットは、加圧加熱処理後に圧力から解放されると、厚みが増して厚くなる(図2(B)→図2(C))。この状態での芯材の密度および厚みは特に限定されないが、一般的には、密度が45?100kg/m^(3)で、厚みが10?70mmであることが好ましい。このような加圧加熱処理によって芯材を構成しているガラス繊維は、その平面方向に対して実質的に水平になり、芯材の表面平滑性が向上し、かつ有機バインダーの熱硬化によって上記の状態が維持される。その結果、該加圧加熱処理された芯材を真空断熱材の芯材として使用することによって、断熱性、表面平滑性および作業性に優れた真空断熱材が得られる。
【0022】
上記図2(A)?図2(C)を参照して説明した本発明の製造方法は、本発明の好ましい1例であり、他の好ましい1例を図3を参照して説明する。図3は、本発明の好ましい実施形態を説明する図であり、図中の符号7は、加圧加熱前の積層繊維マットを、符号8は加熱オーブンを、符号9は加圧加熱コンベアを、10,10’は上流側の一対のロールを、11,11’は下流側の一対のロールを、12は加圧加熱中の積層繊維マットを、1は加圧加熱して製造された積層マット(すなわち、芯材)を示している。
図示の本発明の製造方法では、連続的に溶融紡糸されているガラス繊維を、ベルトコンベアなどの不図示の搬送手段上に連続的に所定の密度で堆積しつつ、該堆積物に連続的に未硬化の有機バインダーを付与してガラス繊維をマット化し、該マットをロール状に巻取ることなく(勿論、巻取ったものを連続的に巻き戻してもよい)、所定の枚数に積層して積層繊維マット7とし、該積層物7を、加熱オーブン8内で駆動されている加圧加熱コンベア9を構成している上流側の一対のロール10,10’および下流側の一対のロール11,11’により連続して押圧し、有機バインダーを熱硬化させる例であり、前記コンベア9を用いることで、押圧保持する時間を有しつつ、所望の芯材1を連続生産できるために好ましい。前記コンベア9の長さはラインスピードにもよるが、10?30mが好ましい。コンベア9の長さが10m未満であると押圧や加熱が不十分となり、平滑な真空断熱材を与える芯材1を得ることができず、一方、コンベア9の長さが30mを超えると装置が大掛かりとなるので好ましくない。また、加圧時間はコンベアで連続的に加圧する場合、30秒間以上であり、60?180秒間であることが好ましい。前記値が30秒間未満であると、押圧や加熱が不十分となり、平滑な真空断熱材を与える芯材1を得ることができず、一方、180秒間を超えると生産効率が劣るか、装置が大掛かりとなるだけで、期待する以上の平滑性を有する真空断熱材が得られず、好ましくない。なお、この例における種々の好適な条件(加圧加熱条件や時間など)は、前記図2を参照した製造方法における条件と同様である。」
「【実施例】
【0026】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1
平均繊維径4μmのガラス繊維にフェノール樹脂バインダーをイグロス(ガラス繊維全量に対する樹脂バインダーの固形分割合)が1質量%となるように噴霧し、バインダーをキュアーしない状態のガラス繊維マットをロール状に巻取った(厚さ約30mm、密度約27kg/m^(3))。このガラス繊維マットを4プライに積層し、平板プレス機で温度200℃、圧縮時厚さ10mm、加圧時密度約320kg/m^(3)、加圧時間5分間の条件で加熱圧縮した。これにより、バインダーがキュアーされ、厚さ約60mm、密度約53kg/m^(3)の真空断熱材用芯材を得た。この芯材をガスバリアー性の高い被覆袋に挿入し、真空シール装置にて袋内の圧力が1.0Paとなるように吸引した後に、袋の開口部を加熱圧着し、厚さ12mm、密度250kg/m^(3)の真空断熱材を得た。」
「【図2】


上記記載事項より、刊行物1には、以下の発明(以下「刊行物1発明1」という。)が記載されている。
「複数枚のガラス繊維マットが、略平行に積層された真空断熱材用芯材であって、
前記ガラス繊維マットを構成する無機繊維の平均径が3?5μmであり、
前記ガラス繊維マットには熱硬化性有機バインダーが付与されており、
前記真空材断熱用芯材を構成しているガラス繊維は、該芯材の平面方向に対して実質的に水平であり、有機バインダーの熱硬化によってその状態が維持されており、
加熱圧縮する前のガラス繊維マットの密度が3kg/m^(3)以上であり、該マットの1枚の厚みが10?350mmである、真空断熱材用芯材。」

また、刊行物1には、刊行物1発明1の製造方法に係る発明(以下、「刊行物1発明2」という。)も記載されている。

イ.刊行物4記載事項及び刊行物4発明
刊行物4には、以下の事項が記載されている。
「ところで、繊維化されたロックウール(結合剤付着1?2%重量比)は繊維化の際吹き出す空気によって運ばれ集綿コンベアー上に次々と堆積し、マット状に成形される。」(2頁左上欄15行?18行)
「上述の方法によって得られたロックウールからマット断熱材を製造するには、先ず、そのようなロックウールを繊維化後、ネットコンベアーで捕集することにより均一な薄いマット状とし、これを折り畳んで斜めに積層し、次いで結合剤を熱硬化させて成型するのである。」(3頁左下欄18行?右上欄3行)
「このようにして繊維化されたロックウール繊維11(結合剤付着量1?3%重量比)は、繊維化の際に前方へ吹きだしている気流に乗って前方へ運搬される。
そのロックウール繊維11を包含した気流の流れを遮るように繊維化の前方近距離に略々垂直状にネット状のコンベアー14が設けである。このコンヘア-14全体の形状は円形状又は三角形状になっておりその一部がロックウールを運搬している気流の流れに略々垂直状に位置している。
また、コンベアー内部より外部へは強力にサクションしている。ロックウール繊維11は、ネット状コンベアー14に吹き付けられるが折れやすい繊維では、吹き付けられる際に折れ、短い繊維になりその集合体であるロックウールマットは、もろく当然加圧にも弱く、好ましい断熱材ではない。
吹き付けられても折れない丈夫な繊維は、繊維化後ロックウール集合体のマットの成型過程からも必須の条件である。
本発明によれば気流で運搬されながらロックウール繊維間同士で巻付き大小の塊になる以前にネットに付着し均一フエルト16になるが、この際、綿重量は、軽く薄いほど折りたたまれる積層数が多くなり形成されるロックウールマットの反発力が大きくなり、好ましいのであるが薄いフエルト状になるに従って、次工程のコンベアー20に乗り移るとき、フエルト状の一部がちぎれたりしてトラブルが起こる。又、綿重量が、多いと折りたたまれ成型されるマットの密度が大きくなり又、定密度に固執すると積層数が少なくなる。従って適当な薄い均一なフェルト状の綿重量は、150?330g/m^(2)である。」(4頁右上欄12行?右下欄3行)
「次いでフエルト16の表および裏をずれのないように挟み、フエルト状全綿幅に見合った対となった平ベルト22、22の間を平ベルト22に沿って下方に移動し、平ベルト対の下端が、振り千秋に大きくトラバースし、従ってフエルト状綿は折りたたまれながら、下方の平ベルト26上で第1図に示したように直角に流れが変わり、順序良く折り畳んで斜めに積層され、密度および厚みのあるマット30が形成される。」(4頁右下欄4行?12行)
「また、トラバース回数を多くすると薄い均一なロックウール綿フエルトは、部分的に綿切れなどが発生したりして正常な折りたたみ積層作用ができない場合もあり、ロックウールマット断熱材密度18?30kg/m^(3)の場合、積層数は3?9層が適当である。」(4頁右下欄13行?18行)
「さらに、断熱材としての形状を整えるために、結合剤を使用するが、これは積層されたロックウールマットの形を固定するために使用されるのであって、通常は熱硬化型のフェノール系樹脂が用いられる。
結合剤の種類によって断熱材を圧縮したときの反発力が変わるが、コストの点でフェノール系樹脂を用いるのである。かかる結合剤はロックウールを繊維化する回転ドラムセットのあとでロックウールに直接ノズルで吹き付けるのが好ましい。
従って、本発明によれば、従来の密度30?55kg/m^(3)を18?30kg/m^(3)にまで低下させることができる。」(5頁右上欄8行?20行)
「ロックウールの繊維径は、平均4?5ミクロンで構成されており、その中に繊維状でない異物が混入されており、未繊維化物と呼んでいる。」(6頁左上欄14行?16行)
「第1図


上記記載事項より、刊行物4には、以下の発明(以下「刊行物4発明1」という。)が記載されている。
「複数のロックウールマット(マット状シート)が積層されたロックウールマット断熱材であり、
ロックウールマット断熱材を構成するロックウールの繊維径が平均4?5μmであり、
ロックウールが熱硬化型のフェノール系樹脂により結合され、
ロックウールマットの目付が150?330g/m^(2)であり、
ロックウールマット断熱材の厚み方向と垂直な方向に対するロックウールマットの配向角度が傾いている、ロックウールマット断熱材。」

また、刊行物4には、以下の発明(以下、「刊行物4発明2」という。)も記載されている。
「複数のロックウールマット(マット状シート)が積層されたロックウールマット断熱材の製造方法であり、
繊維径が平均4?5μmのロックウールを生成する工程、
ロックウールに熱硬化型のフェノール系樹脂を付与する工程、
目付が150?330g/m^(2)のロックウールマットを形成する工程
ロックウールマットを積層する工程、
ロックウールマットを加熱し、熱硬化型のフェノール系樹脂によりロックウールマット断熱材を得る工程、を含む、方法。」

(2)刊行物1を主たる引用例とする理由1について
ア.本件発明1について
本件発明1と刊行物1発明1を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1>本件発明1は、無機繊維マットの、無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対する配向角度が、3°?10°で傾いているのに対し、刊行物1発明1は、真空材断熱用芯材を構成しているガラス繊維は、芯材の平面方向に対して実質的に水平である点。

上記相違点1を検討する。
刊行物1発明1は、従来の真空断熱材芯材が、「繊維が伝熱方向に垂直に配向されていないことから、断熱性が劣る」(刊行物1【0004】)という問題を解決するため、「繊維配向が伝熱方向に垂直であり、表面が平滑でかつ断熱性に優れた真空断熱材用芯材を、簡便に得ること」(刊行物1【0007】)を課題としている。すなわち、刊行物1発明1は、繊維配向を伝熱方向に垂直(真空断熱用芯材の平面方向に水平)を意図した発明である。したがって、刊行物1発明1において、繊維配向を真空断熱用芯材の平面方向に水平な方向から傾けることは、刊行物1発明の課題に反することから、刊行物4?7記載事項(無機繊維からなるマットを斜めに角度をもった状態で一部分が重なるように積層する技術)を刊行物1発明に適用し、あえて真空材断熱用芯材を構成しているガラス繊維を芯材の平面方向に対して3°?10°で傾いているように変更しようとする動機付けがない。
一方、本件発明1は、「配向角度を0°とするためには、定寸の無機繊維マットを積層する以外の方法がないため、連続生産ができず、生産性に大きな問題を有する」(本件特許明細書【0031】)ことを解決することを課題するもので、相違点1に係る構成を有することにより、「所望する高い断熱性の無機繊維断熱材を得ることができる」(本件特許明細書【0032】)という作用効果を奏する。
よって、本件発明1は、刊行物1発明1及び刊行物2?刊行物7記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(2)アの説示及び相違点1に係る本件発明1の構成については刊行物8?11にも記載も示唆もされていないことを踏まえれば、刊行物1発明1及び刊行物2?刊行物7記載事項、あるいは刊行物1発明1及び刊行物2?刊行物8記載事項、あるいは刊行物1発明1及び刊行物2?刊行物10記載事項、あるいは刊行物1発明1及び刊行物2?刊行物11記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件発明6?9について
本件発明6?9は、本件発明1を直接又は間接に引用するもので、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(2)アの説示及び相違点1に係る本件発明1の構成については刊行物9にも記載も示唆もされていないことを踏まえれば、刊行物1発明2、刊行物2?刊行物7記載事項及び刊行物9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)刊行物4を主たる引用例とする理由1について
ア.本件発明1について
本件発明1と刊行物4発明1を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点2>本件発明1は、無機繊維がガラス繊維であり、ガラス繊維の繊維径が3?5μmであり、その繊維長が20mm以上であり、無機繊維マットの、無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対する配向角度が、3°?10°で傾いているのに対し、刊行物4発明1は、無機繊維がロックウールであり、ロックウールの繊維径が平均4?5μmであり、その繊維長については不明であり、ロックウールマット断熱材の厚み方向と垂直な方向に対するロックウールマットの配向角度は特定されていない点。

上記相違点2を検討する。
刊行物4発明1は、従来のロックウールの問題点に鑑み、「高強度ロックウールを利用して開梱時の復元力に富むロックウールマット断熱材の製造方法を提供する」(刊行物4の2頁右下欄)ことを課題としている。そのため、刊行物4発明1において、断熱材を構成する繊維をロックウールとは性質が異なるガラス繊維に変更し、かつガラス繊維の繊維径が3?5μmであり、その繊維長が20mm以上である特定の繊維とすることには、動機付けがない。さらに、刊行物3、6、8、9、11?15にも、無機繊維がガラス繊維であり、ガラス繊維の繊維径が3?5μmであり、その繊維長が20mm以上であり、無機繊維マットの、無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対する配向角度が、3°?10°で傾いている点については記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、「配向角度を0°とするためには、定寸の無機繊維マットを積層する以外の方法がないため、連続生産ができず、生産性に大きな問題を有する」(本件特許明細書【0031】)ことを解決することを課題するもので、相違点2に係る構成を有することにより、「所望する高い断熱性の無機繊維断熱材を得ることができる」(本件特許明細書【0032】)という作用効果を奏する。
よって、本件発明1は、刊行物4発明1、刊行物12記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(3)アの説示及び相違点2に係る本件発明1の構成については刊行物8?9にも記載も示唆もされていないことを踏まえれば、刊行物4発明1、刊行物12記載事項及び周知技術、あるいは刊行物4発明1、刊行物12記載事項、刊行物8記載事項及び周知技術、あるいは刊行物4発明1、刊行物12記載事項、刊行物9記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件発明6?9について
本件発明6?9は、本件発明1を直接又は間接に引用するもので、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(3)アの説示及び相違点2に係る本件発明1の構成については刊行物8にも記載も示唆もされていないことを踏まえれば、刊行物4発明2、刊行物12記載事項及び周知技術、あるいは刊行物4発明2、刊行物12記載事項、刊行物8記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?9は、刊行物1発明及び刊行物2?刊行物11記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、本件発明1?9は、刊行物4発明、刊行物8、9、12記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明1?9に係る特許は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできないから、特許法第113条第2号に該当せず、理由1によって、取り消されるべきものとすることはできない。

4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由
申立人2は、以下の特許法第36条第6項第1号に係る理由を申し立てている。
本件発明1?9は、無機繊維マットの配向角度が特定されているだけで、無機繊維マットと無機繊維との関係が何ら規定されておらず、無機繊維の配向角度が特定されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1?9の「無機繊維マットの断熱材に対する配向角度」の数値範囲内であれば本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない。そのため、本件特許の特許請求の範囲まで、本件発明の詳細な説明において開示された内容を一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1?9は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(2)上記申立理由についての判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0031】の「無機繊維マットの配向角度(すなわち、無機繊維の配向角度)は、無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対して0°より大きく20°までで傾いている。」との記載から、無機繊維マットの配向角度は、無機繊維の配向角度であることを、当業者は理解できる。したがって、無機繊維マットの配向角度を特定する、本件発明1?9は、無機繊維の配向角度を特定しているといえる。
また、本件訂正により、本件特許請求の範囲の請求項1?9の無機繊維マットの配向角度の数値範囲は「3°?10°で傾いており、」に限定され、本件特許明細書の段落【0032】の「無機繊維マットの積層数が6?10であれば、無機繊維マットの目付は350?550g/m^(2)で均質で配向角度が3?10°となり、所望する高い断熱性の無機繊維断熱材を得ることができる。」との記載、及び【0048】?【0050】の実施例1?3(無機繊維マットの配向角度4°と9°)による説明により、無機繊維マットの配向角度の「3°?10°」の数値範囲であれば、本件発明の課題を解決できることが実施例又は説明によって当業者が認識できる程度に記載されているといえる。
よって、本件発明1?9は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無機繊維マットが積層された無機繊維断熱材であり、
前記無機繊維マットを構成する無機繊維の繊維径が3?5μmであり、その繊維長が20mm以上であり、
前記無機繊維同士がその接合点で熱硬化性結合剤により結合され、
前記各無機繊維マットの目付が300?600g/m^(2)であり、
前記無機繊維マットの、前記無機繊維断熱材の厚み方向と垂直な方向に対する配向角度が、3°?10°で傾いており、
前記無機繊維が、ガラス繊維である、
ことを特徴とする、無機繊維断熱材。
【請求項2】
前記無機繊維が、含まれる酸化物の総質量に基づき、60?72質量%のSiO_(2)+Al_(2)O_(3)、1?7質量%のB_(2)O_(3)、14?22質量%のNa_(2)O+K_(2)O、及び6?15質量%のMgO+CaOを含有するガラス繊維である、請求項1に記載の無機繊維断熱材。
【請求項3】
前記熱硬化性結合剤が、アミド化反応、イミド化反応、エステル化反応及びエステル交換反応のいずれかの反応で硬化する熱硬化性樹脂である、請求項1又は2に記載の無機繊維断熱材。
【請求項4】
前記熱硬化性結合剤が、アルデヒド縮合性樹脂である、請求項1又は2に記載の無機繊維断熱材。
【請求項5】
前記無機繊維断熱材の総質量中、3?10質量%の前記熱硬化性結合剤を含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の無機繊維断熱材。
【請求項6】
請求項1に記載の無機繊維断熱材の製造方法であって、以下の工程、
3?5μmの繊維径及び20mm以上の繊維長を有する無機繊維を生成する工程、
前記無機繊維に熱硬化性結合剤を付与する工程、
前記熱硬化性結合剤を付与された無機繊維を堆積し、300?600g/m^(2)の目付を有する無機繊維マットを形成する工程、
前記無機繊維マットを積層する工程、
前記積層された無機繊維マットを圧縮しながら加熱し、前記熱硬化性結合剤により前記無機繊維を結合させて無機繊維断熱材を得る工程、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記無機繊維マットを形成する工程において、前記無機繊維の堆積が、下方からの吸引及び上方からの空気流の吹き付けにより行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記無機繊維マットを積層する工程が、前記無機繊維マットを折り返すことにより行われる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記無機繊維マットを積層する工程において、前記無機繊維マットが、垂直方向の積層数が4?12となるように積層される、請求項6?8のいずれか1項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-01 
出願番号 特願2014-149152(P2014-149152)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 蓮井 雅之
武井 健浩
登録日 2017-03-10 
登録番号 特許第6103506号(P6103506)
権利者 旭ファイバーグラス株式会社
発明の名称 無機繊維断熱材  
代理人 箱田 篤  
代理人 服部 博信  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 箱田 篤  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 山崎 一夫  
代理人 藤代 昌彦  
代理人 浅井 賢治  
代理人 浅井 賢治  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 藤代 昌彦  
代理人 市川 さつき  
代理人 弟子丸 健  
代理人 市川 さつき  
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