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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B62M
審判 一部申し立て 2項進歩性  B62M
管理番号 1342018
異議申立番号 異議2018-700112  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-14 
確定日 2018-06-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6179703号発明「電動用ハブ装置および電動自転車」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6179703号の請求項1?4、6に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6179703号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年12月5日に特許出願され、平成29年7月28日に特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?4、6に係る特許に対し、平成30年2月14日に、特許異議申立人末吉直子(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明
特許第6179703号の請求項1?4、6に係る発明(以下「本件発明1?4、6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4、6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
フレームに対して固定されるハブ軸と、このハブ軸に対して回転自在なハブ体と、このハブ体に配設されてハブ体を回転させるモータとを有する電動用ハブ装置であって、
モータのステータが固定されかつハブ軸が係合されたモータハウジングと、
ハブ軸に外嵌されるとともにフレームに係合されて、ハブ軸の軸心回りに回転することを規制された状態で取り付けられた回り止め部材とを備え、
前記ハブ体は、モータを外周側から覆う部分と、モータを一側方から覆う一方の側面部と、モータを他側方から覆う他方の側面部と、を有し、前記ハブ体の外周側から覆う部分および両側面部が回転自在に配設され、
前記ハブ体における前記一方の側面部に開口部が設けられ、
前記モータハウジングに前記開口部より突出した部分が設けられ、
前記モータハウジングにおける前記開口部より突出した部分と前記回り止め部材とが互いに接触した状態でねじにより固定されている
ことを特徴とする電動用ハブ装置。
【請求項2】
モータが、車輪に補助駆動力を加える補助駆動力発生動作と、車輪からの力により電力を発生する回生動作とに切替えられて使用されることを特徴とする請求項1に記載の電動用ハブ装置。
【請求項3】
ハブ軸が左右に分割されており、ハブ軸の間に、ハブ軸と同軸心で回転する回転軸が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の電動用ハブ装置。
【請求項4】
前記回り止め部材における、側面視にて、ねじを挿通するねじ挿通孔部と重ならない箇所に、モータに接続された接続配線を外部に案内する配線取出用切欠部が形成されていることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の電動用ハブ装置。
【請求項6】
前記請求項1?5の何れか1項に記載の電動用ハブ装置を備えたことを特徴とする電動自転車。」

第3.申立理由の概要
申立人は、証拠として、次の甲第1?6号証を提出し、以下の申立理由1及び2により、本件発明1?4、6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開2004-142631号公報
甲第2号証:特開2012-121337号公報
甲第3号証:特開2009-12542号公報
甲第4号証:特開2000-53068号公報
甲第5号証:特開2011-255842号公報
甲第6号証:実願昭47-147155号(実開昭49-111960号) のマイクロフィルム

1.申立理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件発明1?4、6は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。したがって、本件発明1?4、6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2.申立理由2(特許法第29条第2項)
本件発明1?4、6は、甲第1号証に記載された発明、周知技術(甲第2、3号証)及び周知技術(甲第4?6号証)に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明1?4、6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

第4.甲各号証の記載事項等
1.甲第1号証
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。以下同様。
(1a)「【請求項1】
フロントハブ(3)に前輪(4)を駆動するハブモーター(1)を設けている電動自転車であって、ハブモーター(1)は、中心部に位置する固定部(10)と、この固定部(10)の外周側にあって固定部(10)に対して回転される回転部(11)とを備えており、
ハブモーター(1)の固定部(10)は、フロントフォーク(2)の先端部(2B)に固定されると共に、フロントフォーク(2)に固定している回り止プレート(5)に固定され、回り止プレート(5)は、フロントフォーク(2)の先端部(2B)と、先端部(2B)から上方に離れた位置にあるフロントフォーク(2)の中間連結部(2A)とに連結されている電動自転車。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フロントハブにモーターを内蔵させている電動自転車に関する。」

(1c)「【0006】
本発明は、このような欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、ハブモーターが回転する反作用の回転トルク等、又は振動等に対してしっかりとフロントフォークにハブモーターを固定できる電動自転車を提供することにある。」

(1d)「【0012】
さらに、ハブモーター1は、固定部10に回転できるように連結されるローター18と、このローター18の回転を減速する減速機構21である遊星歯車22と、この遊星歯車22で回転される内歯歯車23と、この内歯歯車23を固定すると共に、ステーター19の外周側にあって、ステーター19と遊星歯車22とを収納している回転部11とを備えて、固定部10をフロントフォーク2に固定して、回転部11をスポーク40を介して前輪4のリム41に連結することができる。」

(1e)「【0015】
図1と図2に示す電動自転車は、フロントハブ3に、前輪4を駆動するハブモーター1を設けている。ハブモーター1は、図3ないし図5に示すように、中心部に位置する固定部10と、この固定部10の外側にあって固定部10に対して回転される回転部11とを備えている。フロントハブ3とフロントフォーク2の連結部分の拡大側面図を図6に、図6のカバー8を外した状態を図7に示す。ハブモーター1の固定部10は、図7に示すように、フロントフォーク2に固定している回り止プレート5に固定され、回り止プレート5は、フロントフォーク2の先端部2Bと、先端部2Bから上方に離れた位置にあるフロントフォーク2の中間連結部2Aとに連結されて、ハブモーター1の固定部10をフロントフォーク2にしっかりと回転しないように固定している。
【0016】
ハブモーター1の断面図を図3に示す。この図のハブモーター1は、フロントフォーク2に固定する固定部10を中心部に設けている。固定部10は、ハブモーター1の中心に配設される固定軸12を有する。この固定軸12は、ハブモーター1の両端に突出して同軸上に配設されている。両側の固定軸12は、雄ネジを設けており、ここにナット6をねじ込んでフロントフォーク2に固定する。図において右側の固定軸12には、回り止プレート5も固定している。図のハブモーター1は、両側において、固定軸12よりも太い外形のストッパ部13を設けている。ストッパ部13は、フロントフォーク2を当接して固定するフォーク当接面14を有する。図において左側のフロントフォーク2は、フォーク当接面14とナット6に挟着して固定され、右側のフロントフォーク2は、回り止プレート5を介してナット6とフォーク当接面14とに挟着して固定される。この構造で回り止プレート5を固定するために、図3ないし図5のハブモーター1は、右側のストッパ部13に、回り止プレート5を固定する固定面15を設けている。固定面15は、フォーク当接面14よりも突出する平面である。言いかえると、フォーク当接面14を固定面15よりも凹部としている。回り止プレート5の固定面15とフォーク当接面14の段差は、フロントフォーク2の先端部2Bの厚さにほぼ等しく、あるいはフロントフォーク2の先端部2Bの厚さよりもわずかに小さくしている。固定軸12にねじ込まれるナット6は、回り止プレート5を固定面15に押圧し、さらに、フロントフォーク2をフォーク当接面14に押圧して、回り止プレート5とフロントフォーク2とをハブモーター1の固定部10に固定する。この固定面15は、回り止プレート5を固定する止ネジ7をねじ込む雌ネジ孔16を設けている。止ネジ7は、回り止プレート5を貫通して雌ネジ孔16にねじ込まれて、回り止プレート5を固定部10に固定する。図のハブモーター1は、固定部10の片側、図3において右側に回り止プレート5を固定している。ただ、本発明の電動自転車は、ハブモーターの両側に回り止プレートを固定することもできる。両側に回り止プレートを固定するハブモーターは、固定部の両側に固定面を設ける。
【0017】
ハブモーター1は、固定部10をフロントフォーク2に固定して、回転部11をスポーク40を介して前輪4のリム41に連結している。ハブモーター1は、回転部11を回転させて前輪4を回転させる。ハブモーター1は、回転しないように、回り止プレート5を介してフロントフォーク2に固定される。図7ないし図9に示す回り止プレート5は、金属板をプレス加工して製作したもので、固定プレート部5Aとアーム部5Bとを有する。ただし、回り止プレート5は、プラスチックを成形して製作することもできる。固定プレート部5Aは、ハブモーター1の固定部10の中心にある固定軸12を貫通させて固定する。アーム部5Bは、固定プレート部5Aからフロントフォーク2に沿って延長される。図の回り止プレート5は、ハブモーター1のリード線30を延長コード31に接続するコネクター32の装着部51を設けている。
【0018】
固定プレート部5Aは、ハブモーター1の固定軸12を貫通させる中心孔52と、止ネジ7を貫通するサブ孔53とを設けている。サブ孔53は、中心孔52の両側に開口している。中心孔52は固定軸12の外径よりもわずかに大きい内径で、サブ孔53は止ネジ7の外径よりもわずかに大きい。この固定プレート部5Aは、中心孔52に固定軸12を挿通し、固定軸12にねじ込まれたナット6で固定され、さらにサブ孔53を貫通して固定部10の雌ネジ孔16にねじ込まれる止ネジ7でも固定される。すなわち、ナット6と止ネジ7の両方でしっかりと固定される。図1に示すように、前輪4に泥除け42を固定する自転車は、泥除け42を固定するステー43Aも固定軸12に固定される。また、バスケット46を固定するために、別のステー43Bも固定軸12に固定している。これらのステー43A、43Bの先端は、平板状で開口を有し、この開口に固定軸を貫通させて固定している。また、ステー43A、43Bは、先端をリング状に湾曲して、この湾曲部に固定軸12を挿通することもできる。固定軸12にねじ込まれるナット6は、ステー43A、43Bと、回り止プレート5と、フロントフォーク2を挟着してハブモーター1の固定部10に固定する。」

(1f)「【0030】
図3に示すように、ステーター19は、固定部10に回転しないように固定される。ローター18は、固定部10にベアリング25を介して回転できるように連結される。図のローター18は、両端の回転軸24をベアリング25を介して回転できるように固定部10に装着している。回転軸24の左端には、歯車26を設けて、減速機構21に連結している。」

(1g)「【0032】
【発明の効果】
本発明の電動自転車は、フロントフォークの先端にハブモーターを設けて、このハブモーターが回転するときに発生する強い反作用の回転トルクに対して、また、これとは反対回転方向の回生制動時の回転トルクに対して、さらには、振動や衝撃に対して、ハブモーターが回転されないようにしっかりと固定できる特長がある。それは、本発明の電動自転車が、ハブモーターの固定部を、フロントフォークに固定している回り止プレートに固定すると共に、この回り止プレートを、フロントフォークの先端部と、先端部から上方に離れた位置にあるフロントフォークの中間連結部とに連結して、回り止プレートを介してハブモーターの固定部をフロントフォークに固定しているからである。」

(1h)甲第1号証には、以下の【図3】及び【図7】が示されている。


(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、フロントハブ3に前輪4を駆動するハブモーター1を設けている電動自転車のハブ構造が記載されていると認められるところ、上記(1)の甲第1号証の記載事項から次のことが認定できる。

ア.段落【0016】の「ハブモーター1の断面図を図3に示す。この図のハブモーター1は、フロントフォーク2に固定する固定部10を中心部に設けている。」との記載及び「図のハブモーター1は、両側において、固定軸12よりも太い外形のストッパ部13を設けている。」(記載事項(1e))との記載、並びに【図3】(記載事項(1h))を参酌すると、固定部10の両側において、固定軸12よりも太い外形のストッパ部13を設けていること。
イ.段落【0030】の「ステーター19は、固定部10に回転しないように固定される。ローター18は、固定部10にベアリング25を介して回転できるように連結される。図のローター18は、両端の回転軸24をベアリング25を介して回転できるように固定部10に装着している。」(記載事項(1g))の記載、及び段落【0012】の「ハブモーター1は、固定部10に回転できるように連結されるローター18と、このローター18の回転を減速する減速機構21である遊星歯車22と、この遊星歯車22で回転される内歯歯車23と、この内歯歯車23を固定すると共に、ステーター19の外周側にあって、ステーター19と遊星歯車22とを収納している回転部11とを備え」(記載事項(1d))との記載から、ハブモータ1は、固定部10に回転しないように固定されるステーター19と両端の回転軸24をベアリング25を介して回転できるように固定部10に装着しているローター18と、ステーター19の外周側にあって、ステーター19を収納している回転部11とを備えていること。

上記各記載事項及び上記認定事項から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「フロントハブ3に前輪4を駆動するハブモーター1を設けている電動自転車のハブ構造であって、ハブモーター1は、中心部に位置する固定部10と、この固定部10の外周側にあって固定部10に対して回転される回転部11とを備えており、
ハブモーター1の固定部10は、フロントフォーク2の先端部2Bに固定されると共に、フロントフォーク2に固定している回り止プレート5に固定され、回り止プレート5は、フロントフォーク2の先端部2Bと、先端部2Bから上方に離れた位置にあるフロントフォーク2の中間連結部2Aとに連結されており、
ハブモーター1は、固定部10に回転しないように固定されるステーター19と両端の回転軸24をベアリング25を介して回転できるように固定部10に装着しているローター18と、ステーター19の外周側にあって、ステーター19を収納している回転部11とを備え、
回り止プレート5は、固定プレート部5Aを有し、固定プレート部5Aは、ハブモーター1の固定部10の中心にある固定軸12を貫通させて固定され、
該固定軸12は、雄ネジを設けており、ここにナット6をねじ込んでフロントフォーク2に固定され、固定部10は、該固定部10の両側において、固定軸12よりも太い外形のストッパ部13を設け、該ストッパ部13は、フロントフォーク2を当接して固定するフォーク当接面14と回り止プレート5を固定する固定面15を設け、固定軸12にねじ込まれるナット6は、回り止プレート5を固定面15に押圧し、さらに、フロントフォーク2をフォーク当接面14に押圧して、回り止プレート5とフロントフォーク2とをハブモーター1の固定部10に固定し、この固定面15は、回り止プレート5を固定する止ネジ7をねじ込む雌ネジ孔16を設けており、止ネジ7は、回り止プレート5を貫通して雌ネジ孔16にねじ込まれて、回り止プレート5を固定部10に固定する電動自転車のハブ構造。」

2.甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【0023】
回転軸35は両ハブ軸24,25間に位置し、これら各軸24,25,35は同一軸心28上に配置されている。
モータハウジング32は、回転軸35の軸心28方向において分割された一方のハウジング体36と他方のハウジング体37とからなる。ステータ33は両ハウジング体36,37間に挟まれており、両ハウジング体36,37は複数本のねじ39によって連結されている。
【0024】
ハブ体26の胴部材30の一端部は、軸受け41を介して、一方のハウジング体36に回転自在に支持されている。また、一方のハブ軸24は一方のハウジング体36に固定されて設けられている。さらに、他方のハブ軸25は、取付部材43に挿入されて、ハブ体26の外部から内部へ突入している。尚、他方のハブ軸25は、一端部に、径方向外向きに突出した係合部42を有している。」

(2b)「【0028】
図6?図8に示すように、支持枠50は、円筒状のボス部52と、ボス部52の周囲に設けられた複数の脚部53とを有している。ボス部52には、軸受収納用凹部54と係合凹部55と連通孔部56とが形成されている。このうち、軸受収納用凹部54はハブ軸24,25の軸心28方向においてカバー部材31の貫通孔40に対向する側の面に形成されており、係合凹部55は軸心28方向において軸受収納用凹部54とは反対側の面に形成されている。軸受収納用凹部54と係合凹部55とは連通孔部56を介して連通している。図4に示すように、他方のハブ軸25の一端部はボス部52に挿入されており、係合部42は、係合凹部55に嵌まり込んで、他方のハブ軸25の引抜方向Aからボス部52に係合している。また、各脚部53の先端部はねじ58によって他方のハウジング体37に連結されて固定されている。」

3.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3a)「【0032】
ハブ体15は、ハブ軸14a,14bの軸心17方向における一端部に開口部18を有する円筒状の胴部19と、胴部19の他端部を閉じる円盤状の側壁部20とを備えている。また、モールドモータ16は、ハブ体15の内部に配設されており、モータハウジング22と、モータハウジング22の内部に固定されたステータ23と、モータハウジング22の内部に回転自在に設けられたロータ24と、ロータ24に挿通された回転軸25とを備えたブラシレスモータである。
【0033】
回転軸25は両ハブ軸14a,14b間に位置し、これら各軸14a,14b,25は同一軸心17上に配置されている。また、ステータ23は、鉄心28と、鉄心28に巻装された巻線29とを備え、樹脂30で覆われている。尚、樹脂30は、絶縁性と熱伝導性および耐熱性を有するものであり、例えばフェノール樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の材質からなる。
【0034】
モータハウジング22は、回転軸25の軸心17方向において分割された一方のハウジング体32と他方のハウジング体33とからなる。一方のハウジング体32は、円盤状の側壁部32aと、側壁部32aの外周縁から他方のハウジング体33に向かって突出した円筒状の周壁部32bとを有している。」

(3b)「【0038】
一方のハブ軸14aは一方のハウジング体32に固定されて設けられている。また、他方のハブ軸14bはハブ体15の側壁部20の中央に挿通され、側壁部20は軸受け36を介して他方のハブ軸14bに回転自在に支持されている。また、ハブ体15の胴部19の一端部は、軸受け37を介して、一方のハウジング体32の周壁部32bに回転自在に支持されている。」

4.甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(4a)「【0022】前記モータハウジング6は、図1において右側に位置する有底円筒状のハウジング本体11と、このハウジング本体11の開口を閉塞する蓋体12と、この蓋体12の軸心部の外端面に固定用ボルト13によって固定した連結部材14とから構成している。前記連結部材14は、蓋体12に固定した円板15と、この円板15の軸心部に固定したボルト16とから構成している。なお、ハウジング本体11および蓋体12は、ステータ7やモータコントローラ10が発する熱を放散させ易いように熱伝導率が高い材料、例えばアルミニウム合金によって形成し、連結部材14の円板15とボルト16は、小型でも剛性が高くなるように鋼材によって形成している。」

(4b)「【0026】前記連結部材14の円板15(モータハウジング6の車体フレーム側の端部)には、モータハウジング6がモータ3および遊星減速機4の反力によって回転するのを阻止するためのストッパー24を突設している。このストッパー24は、図2に示すように、フロントフォーク2の前縁と後縁に係合するように円板15の二箇所に形成している。また、この円板15の外周部、すなわち前記ストッパー24より径方向の外側に、ハブ5の車幅方向の一端部を回転自在に支持するための軸受25を嵌合させている。」

5.甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5a)「【0034】
<ハブ軸>
ハブ軸15は、たとえば、鋼鉄製であり、フロントフォーク103の先端の前爪部103aに両端部が回転不能に装着可能である。ハブ軸15の両端外周面には、フロントフォーク103に固定するためのナット部材50が螺合する左右1対の第1雄ねじ部15a及び第2雄ねじ部15bが形成されている。また、第1雄ねじ部15a及び第2雄ねじ部15bの外周面には、互いに平行な二面を有する第1係止部15c及び第2係止部15dが形成されている。第2係止部15dのハブ軸方向内方には、モータケース17の後述する第1ケース部材32を回転不能に連結するための回転係止部15eが形成されている。第1雄ねじ部15aには、ナット部材50と、ロックナット51と、が螺合している。第2雄ねじ部15bには、ナット部材50と、第1ケース部材32をハブ軸15に固定するナット部材52と、が螺合している。ナット部材50の軸方向内方には、第1係止部15c及び第2係止部15dに各別に回転不能に係合し、かつフロントフォーク103の装着溝103bに係合してハブ軸15を回り止めするための回り止めワッシャ54が装着されている。」

6.甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(6a)明細書5ページ3行?9行
「このため切欠平坦部分に嵌合させたハブの抜止め座金14,14’の舌片部17を折曲して切欠7,7’の導入溝部6,6’に挿入することで仮にナット18にゆるみが生じてもハブ軸10の回動は座金14,14’によって抑制されるため一度切欠7,7’の円形孔部5,5’内に位置したハブ軸は切欠より抜出すことはない。」

第5.当審の判断
1.申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について
1-1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア.後者の「フロントフォーク2」は前者の「フレーム」に相当し、後者の「フロントフォーク2に固定され」る「固定軸12」は、前者の「フレームに対して固定されるハブ軸」に相当する。

イ.後者の「ハブモーター1の固定部10の中心にある固定軸12」との構成、及び【図3】の図示内容から、後者の「固定部10に対して回転される回転部11」は、固定軸12に対して回転自在といえるから、前者の「このハブ軸に対して回転自在なハブ体」に相当する。

ウ.本件の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0026】の「モータ24は、モータハウジング32と、モータハウジング32の内部に固定されて樹脂で覆われたステータ33と、ステータ33よりも内周側に回転自在に設けられたロータ34と、ロータ34の中心部に挿通された回転軸35とを備えており」との記載によれば、前者の「モータ」は、「モータハウジング」、「ステータ」、「ロータ」及び「回転軸」とを備えているものといえる。そして、後者の「固定部10」は前者の「モータハウジング」に相当し、以下同様に、「ステーター19」は「ステータ」に、「ローター18」は「ロータ」に、「回転軸24」は「回転軸」にそれぞれ相当するから後者はモータを有するものであり、かつ、後者は「ハブモーター1は、固定部10に回転しないように固定されるステーター19と両端の回転軸24をベアリング25を介して回転できるように固定部10に装着しているローター18と、ステーター19の外周側にあって、ステーター19を収納している回転部11とを備え」るものであるから、後者の「ハブモーター1」は前者の「このハブ体に配設されてハブ体を回転させるモータ」を有するものといえる。
そうすると、後者の「フロントハブ3に前輪4を駆動するハブモーター1を設けている電動自転車のハブ構造」は、上記ア.の「フロントフォーク2」及び「固定軸12」、上記イ.の「回転部11」、及びモータを有するものといえるから、前者の「フレームに対して固定されるハブ軸と、このハブ軸に対して回転自在なハブ体と、このハブ体に配設されてハブ体を回転させるモータとを有する電動用ハブ装置」に相当する。

エ.後者の「固定部10に固定されたステーター19」及び「固定部10の中心にある固定軸12」との事項から、後者の「固定部10」と、前者の「モータのステータが固定されかつハブ軸が係合されたモータハウジング」とは、「モータのステータが固定されたモータハウジング」の限度で共通する。

オ.後者の「固定プレート部5Aを有し、固定プレート部5Aは、ハブモーター1の固定部10の中心にある固定軸12を貫通させて固定され」ており「フロントフォーク2の先端部2Bと、先端部2Bから上方に離れた位置にあるフロントフォーク2の中間連結部2Aとに連結されて」いる「回り止プレート5」は、フロントフォーク2の中間連結部2Aとに連結されていることにより、固定軸12の軸心回りに回転することを規制された状態で取り付けられているといえるから、前者の「ハブ軸に外嵌されるとともにフレームに係合されて、ハブ軸の軸心回りに回転することを規制された状態で取り付けられた回り止め部材」とは、「ハブ軸に外嵌されるとともにハブ軸の軸心回りに回転することを規制された状態で取り付けられた回り止め部材」の限度で共通する。

カ.甲第1号証の【図3】(記載事項(1h))において、「回転部11」は、モータ(回転軸24、ローター18、ステーター19、及び固定部10)を外周側から覆う部分と、モータを一側方から覆う一方の側面部と、モータを他側方から覆う他方の側面部と、を有していることが看取できるから、後者の「両端の回転軸24をベアリング25を介して回転できるように固定部10に装着しているローター18と、ステーター19の外周側にあって、ステーター19を収納し」、「固定部10の外周側にあって固定部10に対して回転される回転部11」「を備えており」との構成は、前者の「前記ハブ体は、モータを外周側から覆う部分と、モータを一側方から覆う一方の側面部と、モータを他側方から覆う他方の側面部と、を有し、前記ハブ体の外周側から覆う部分および両側面部が回転自在に配設され」る構成に相当し、さらに、【図3】において、一方の側面部に開口部が設けられ、固定部10に前記開口部より突出したストッパ部13が設けられていることが看取できるから、後者の「固定部10は、該固定部10の両側において、固定軸12よりも太い外形のストッパ部13を設け」る構成は、後者の「前記ハブ体における前記一方の側面部に開口部が設けられ、前記モータハウジングに前記開口部より突出した部分が設けられ」る構成に相当する。

キ.後者の「ストッパ部13は、」「回り止プレート5を固定する固定面15を設け、固定軸12にねじ込まれるナット6は、回り止プレート5を固定面15に押圧し、」「この固定面15は、回り止プレート5を固定する止ネジ7をねじ込む雌ネジ孔16を設けており、止ネジ7は、回り止プレート5を貫通して雌ネジ孔16にねじ込まれて、回り止プレート5を固定部10に固定する」構成は、前者の「前記モータハウジングにおける前記開口部より突出した部分と前記回り止め部材とが互いに接触した状態でねじにより固定されている」構成に相当する。

以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「フレームに対して固定されるハブ軸と、このハブ軸に対して回転自在なハブ体と、このハブ体に配設されてハブ体を回転させるモータとを有する電動用ハブ装置であって、
モータのステータが固定されたモータハウジングと、
ハブ軸に外嵌されるとともにハブ軸の軸心回りに回転することを規制された状態で取り付けられた回り止め部材とを備え、
前記ハブ体は、モータを外周側から覆う部分と、モータを一側方から覆う一方の側面部と、モータを他側方から覆う他方の側面部と、を有し、前記ハブ体の外周側から覆う部分および両側面部が回転自在に配設され、
前記ハブ体における前記一方の側面部に開口部が設けられ、
前記モータハウジングに前記開口部より突出した部分が設けられ、
前記モータハウジングにおける前記開口部より突出した部分と前記回り止め部材とが互いに接触した状態でねじにより固定されている
電動用ハブ装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「モータのステータが固定されたモータハウジング」に関し、
本件発明1は、「ハブ軸が係合され」ているのに対し、
甲1発明は、「固定軸12を有」するものであるが、係合されていることが特定されていない点。

<相違点2>
「回り止め部材」に関し、
本件発明1は、「フレームに係合されて」いるのに対し、
甲1発明は、「固定プレート部5Aを有し、固定プレート部5Aは、ハブモーター1の固定部10の中心にある固定軸12を貫通させて固定され、」
「フロントフォーク2の先端部2Bと、先端部2Bから上方に離れた位置にあるフロントフォーク2の中間連結部2Aとに連結されて」いる構成であり、フロントフォーク2に係合されているものではない点。

(2)判断
本件発明1と甲1発明との間には、上記相違点1、2が存在するから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

1-2.本件発明2?4、6について
本件発明2?4、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本件発明2?4、6は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

2.申立理由2(特許法第29条第2項)について
2-1.本件発明1について
(1)対比
上記1-1.で検討したとおり、本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記相違点1、2で相違する。
(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア.本件発明1の上記相違点2に係る構成に関し、申立人が周知技術として提出した甲第4?6号証には、上記第4.4.?6.の各記載事項を参酌すると、自転車のハブ構造において、以下の技術的事項(以下「甲4?6事項」という。)が記載されている。
(ア)甲第4号証
「モータハウジング6(甲1発明の「固定部10」に対応する。以下()内には甲1発明に対応する構成要素を示す。)がモータの反力によって回転するのを阻止するために、モータハウジング6(固定部10)の円板15(ストッパ部13)には、フロントフォーク2(フロントフォーク2)の前縁と後縁に係合するようにストッパー24を二箇所設けること。」

(イ)甲第5号証
「モータケース17(モータハウジング)がモータの反力によって回転するのを阻止するために、ナット部材50の軸方向内方には、ハブ軸15(ハブ軸)に、フロントフォーク103(フレーム)の装着溝103bに係合する回り止めワッシャ54(回り止め部材)を装着すること。」

(ウ)甲第6号証
「ハブ軸10(ハブ軸)の脱落を防止するために、ハブ軸10(ハブ軸)に、前フォーク2(フレーム)の切欠7、7’の導入溝部6、6’に挿入する舌片部17を有する抜止め座金14、14’を装着すること。」

イ.甲1発明に甲4?6事項の適用について
(ア)甲4事項の適用について
甲4事項の「ストッパー24」は、甲1発明の「固定部10」の「ストッパ部13」に対応する「モータハウジング6」の「円板15」に設けられるものであるから、仮に、甲1発明に甲4事項を適用したとしても、甲1発明の「ストッパ部13」に「フロントフォーク2」に係合する「ストッパー」を設ける構成にしかならず、本件発明1の相違点2に係る構成には至らない。

(イ)甲5事項の適用について
甲1発明の課題は、甲第1号証の記載事項(1c)に記載されているように、「ハブモーターが回転する反作用の回転トルク等、又は振動等に対してしっかりとフロントフォークにハブモーターを固定できる電動自転車を提供すること」であり、その具体的手段及び効果として、記載事項(1f)の段落【0032】に「本発明の電動自転車は、フロントフォークの先端にハブモーターを設けて、このハブモーターが回転するときに発生する強い反作用の回転トルクに対して、また、これとは反対回転方向の回生制動時の回転トルクに対して、さらには、振動や衝撃に対して、ハブモーターが回転されないようにしっかりと固定できる特長がある。それは、本発明の電動自転車が、ハブモーターの固定部を、フロントフォークに固定している回り止プレートに固定すると共に、この回り止プレートを、フロントフォークの先端部と、先端部から上方に離れた位置にあるフロントフォークの中間連結部とに連結して、回り止プレートを介してハブモーターの固定部をフロントフォークに固定しているからである。」と記載されている。
このように、甲1発明は、「回り止プレート5は、フロントフォーク2の先端部2Bと、先端部2Bから上方に離れた位置にあるフロントフォーク2の中間連結部2Aとに連結されており」との構成を必須とし、これにより「ハブモーターが回転されないようにしっかりと固定できる」ものである。
そうすると、甲1発明の「回り止プレート5」は「フロントフォーク2の」「中間連結部2Aとに連結」して既に「しっかりと固定できる」ものであるから、甲1発明の「回り止プレート5」に代えて、甲第5号証に記載されている「回り止めワッシャ54」を採用する動機付けはないといえる。

(ウ)甲6事項の適用について
甲第6号証の自転車は、ハブ軸にハブモータを配置するものでなく、甲6事項の「舌片部17」は、ハブモータが回転する反作用の回転トルク等に対して前フォークにハブモーターを固定するためのものでないから、甲1発明に適用する動機付けはないといえる。

(エ)甲4?6事項により、ハブ軸を貫通する部材をフロントフォークの先端部に係合させることが周知技術だとしても、上記(イ)で述べたように、甲1発明の「回り止プレート5」は「フロントフォーク2の」「中間連結部2Aとに連結」して既に「しっかりと固定できる」ものであるから、甲1発明の「回り止プレート5」において、当該周知技術を採用する動機付けはないといえる。

また、甲第2、3号証には、本件発明1の上記相違点2に係る構成は記載されていない。
したがって、少なくとも、上記相違点2に係る本件発明1の構成は容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点1を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-2.本件発明2?4、6について
本件発明2?4、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲第2?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4、6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-18 
出願番号 特願2012-265863(P2012-265863)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (B62M)
P 1 652・ 121- Y (B62M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 常盤 務  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
一ノ瀬 覚
登録日 2017-07-28 
登録番号 特許第6179703号(P6179703)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 電動用ハブ装置および電動自転車  

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