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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 A23D 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 A23D |
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管理番号 | 1342024 |
異議申立番号 | 異議2018-700279 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-03 |
確定日 | 2018-07-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6212653号発明「油脂及び油脂含有食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6212653号の請求項1ないし6及び8に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6212653号の請求項1ないし6及び8に係る特許についての出願は、2016年2月23日(優先権主張 2015年2月27日、日本国)を国際出願日とするものであって、平成29年9月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年4月3日に特許異議申立人 川端 慶子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 特許第6212653号の請求項1ないし6及び8に係る特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6及び8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 0.01?8質量%のバージンココナッツオイルを含有する植物油脂であって、前記バージンココナッツオイルを除いた部分が、次のA、B、C、およびDの何れか1つ或いは2つ以上の組み合わせである、植物油脂。 A:全構成脂肪酸に占めるラウリン酸含有量が30質量%以上である油脂 B:全構成脂肪酸に占めるラウリン酸含有量が30質量%以上である油脂と炭素数16以上の構成脂肪酸を90質量%以上含む油脂との混合比が質量比で30:70?70:30である混合油脂のエステル交換油脂、または、その分別油、硬化分別油、分別硬化油 C:構成脂肪酸に含まれる炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸の含有量が50質量%以上である油脂 D:パーム系油脂 【請求項2】 前記バージンココナッツオイルが、揮発成分中にδ-デカラクトン(δ-Decalactone)を含む、請求項1に記載の植物油脂 【請求項3】 前記バージンココナッツオイルに含まれる、前記揮発成分中のδ-デカラクトン(δ-Decalactone)の濃度が2ppm以上である、請求項2に記載の植物油脂。 【請求項4】 前記バージンココナッツオイルの酸価が2以下である、請求項1?3の何れか1項に記載の植物油脂。 【請求項5】 前記全構成脂肪酸に占めるラウリン酸含有量が30質量%以上である油脂が、ヤシ油、パーム核油、ババス油、及びこれらの硬化油、分別油、分別硬化油である、請求項1?4の何れか1項に記載の植物油脂。 【請求項6】 請求項1?5の何れか1項に記載の植物油脂を油脂中に70質量%以上含有する食品(ただし、ショートニングおよび当該ショートニングを使用した菓子類は除く)。 【請求項8】 植物油脂に0.01?8質量%のバージンココナッツオイルを含有させ、前記バージンココナッツオイルを除いた部分が、次のA、B、C、およびDの何れか1つ或いは2つ以上の組み合わせであるように調整する、前記植物油脂のコク味を強める方法。 A:全構成脂肪酸に占めるラウリン酸含有量が30質量%以上である油脂 B:全構成脂肪酸に占めるラウリン酸含有量が30質量%以上である油脂と炭素数16以上の構成脂肪酸を90質量%以上含む油脂との混合比が質量比で30:70?70:30である混合油脂のエステル交換油脂、または、その分別油、硬化分別油、分別硬化油 C:構成脂肪酸に含まれる炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸の含有量が50質量%以上である油脂 D:パーム系油脂 3.申立理由の概要 特許異議申立人は、下記の証拠を提出し、請求項1ないし6及び8に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1ないし6及び8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (1)特開2003-304808号公報(以下「甲1」という。) (2)Fabian M.Dayrit、外5名、「Quality characteristics of virgin coconut oil:Comparisons with refined coconut oil」、Pure Appl.Chem、2011年8月11日、Vol.83、No.9、p.1789-1799(同「甲2」) (3)「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」、日本工業規格、p.1-4(同「甲3」) (4)日本マーガリン工業会の「JAS規格」に関するウェブページ画面の印刷物、p.1-2、[2018年4月2日検索](URL http://www.j-margarine.com/jas/jas.html)(同「甲4」という) (5)マーガリン類の日本農林規格、平成28年2月24日農林水産省告示第489号、平成28年2月24日、p.1-5(同「甲5」という) (6)特開平4-11838号公報(同「甲6」) 4.刊行物の記載 (1)甲1の記載事項 甲1には、以下の記載がある。 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、フレーバーで風味を補強せずに、製菓用サンドクリームや焼菓子類へコク味を提供できるショートニングを提供することである。」 「【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ココナッツオイルに着目し本発明を完成するに至った。」 「【0024】実施例1 ココナッツオイル3重量部、パーム油20重量部、パーム硬化油25重量部、菜種硬化油30重量部、菜種油20.99重量部、レシチン0.2重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.8重量部、トコフェロール0.01重量部で、本発明のショートニングを製造した。このショートニング50重量部をホイップした後、粉乳5重量部、砂糖45重量部を混合してサンドクリームを得た。この本発明のサンドクリームの風味は、コク味が良好であった。 【0025】実施例2 ココナッツオイル10重量部、パーム油10重量部、パーム硬化油25重量部、菜種硬化油30重量部、菜種油24.49重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.5重量部、トコフェロール0.01重量部で、本発明のショートニングを製造した。このショートニング40重量部をホイップした後、粉乳10重量部、液糖50重量部を混合してサンドクリームを得た。この本発明のサンドクリームの風味は、コク味が良好であった。」 (2)甲1に記載された発明 上記(1)の記載より、甲1には下記の発明が記載されている。 ア 「ココナッツオイル3重量部、パーム油20重量部、パーム硬化油25重量部、菜種硬化油30重量部、菜種油20.99重量部、レシチン0.2重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.8重量部、トコフェロール0.01重量部を有するショートニング。」(以下「甲1-1-1発明」という。 イ 「ココナッツオイル3重量部を、パーム油20重量部、パーム硬化油25重量部、菜種硬化油30重量部、菜種油20.99重量部、レシチン0.2重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.8重量部、トコフェロール0.01重量部に添加することによりショートニングにコク味を提供する方法。」(以下「甲1-1-2発明」という。) ウ 「ココナッツオイル10重量部、パーム油10重量部、パーム硬化油25重量部、菜種硬化油30重量部、菜種油24.49重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.5重量部、トコフェロール0.01重量部を有するショートニング。」(以下「甲1-2-1発明」という。) エ 「ココナッツオイル10重量部を、パーム油10重量部、パーム硬化油25重量部、菜種硬化油30重量部、菜種油24.49重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.5重量部、トコフェロール0.01重量部に添加することによりショートニングにコク味を提供する方法。」(以下「甲1-2-2発明」という。) 5.判断 (1)甲1-1-1発明又は、甲1-1-2発明を引用発明とした場合 ア 請求項1ないし5に係る発明について 請求項1ないし5に係る発明と甲1-1-1発明とを対比すると、請求項1ないし5に係る発明は、「バージンココナッツオイルを除いた部分が、次のA、B、C、およびDの何れか1つ或いは2つ以上の組み合わせである」のに対し、甲1-1-1発明は、ココナッツオイルを除いた部分のうち、少なくとも、菜種硬化油、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、トコフェロールは、請求項1ないし5に係る発明のA、B、C、Dのいずれにも該当しない点で相違する(以下「相違点1」という。)。 前記相違点1について検討すると、 甲2ないし甲6を参照しても、菜種硬化油、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、トコフェロールを請求項1ないし5に係る発明のAないしDの何れか1つ或いは2つ以上の組み合わせに変更したり、これらを除いたりする動機付けはない。 したがって、請求項1ないし5に係る発明は、甲1-1-1発明及び甲2ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 請求項6に係る発明について 請求項6に係る発明と甲1-1-1発明と対比すると、甲1-1-1発明における「ココナッツオイル3重量部」、「パーム油20重量部」、「パーム硬化油25重量部」及び「菜種油20.99重量部」は、請求項6に係る発明の「0.01?8質量%のバージンココナッツオイル」、「D:パーム系油脂」、「D:パーム系油脂」、「C:構成脂肪酸に含まれる炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸の含有量が50質量%以上である油脂」に相当する。 そして、甲1-1-1発明の「ココナッツオイル3重量部」、「パーム油20重量部」、「パーム硬化油25重量部」及び「菜種油20.99重量部」の和は、68.99重量部であり、請求項1で特定される油脂A、B、C又はDのいずれにも該当しない「菜種硬化油30重量部」も含めた油脂中の含有量は約69質量%である。 そうすると、甲1-1-1発明は、『「ココナッツオイル3重量部」、「パーム油20重量部」、「パーム硬化油25重量部」及び「菜種油20.99重量部」を油脂中に約69質量%含有するショートニング』であるとみることもできる。この場合、甲1-1-1発明の「ココナッツオイル3重量部」、「パーム油20重量部」、「パーム硬化油25重量部」及び「菜種油20.99重量部」が請求項6に係る発明の「請求項1?5の何れか1項に記載の植物油脂」に相当するということができる。 しかし、そうであっても、請求項6に係る発明と甲1-1-1発明とを対比すると、請求項6に係る発明は、「請求項1?5の何れか1項に記載の植物油脂を油脂中に70質量%以上含有する食品(ただし、ショートニングおよび当該ショートニングを使用した菓子類は除く)」であるのに対して、甲1-1-1発明は「請求項1?5の何れか1項に記載の植物油脂を油脂中に約69質量%含有するショートニング」である点で相違する(以下「相違点2」という。)。 前記相違点2について検討すると、甲1-1-1発明は、甲1に、ショートニングの配合についての一実施例として記載されていたものにすぎず、ショートニング以外の食品の配合を検討するにあたり、上記ショートニングの配合を参照したり、更にそれを調整する動機付けは認められないから、甲1-1-1発明の「ココナッツオイル」、「パーム油」、「パーム硬化油」及び「菜種油」の合計含有量を70%以上とした上で、ショートニング以外の食品とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。甲2ないし甲6を参照しても同様である。 したがって、請求項6に係る発明は、甲1-1-1発明及び甲2ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 特許異議申立人は、甲1-1-1発明は、「バージンココナッツオイル、油脂C、D合計含有量はほぼ70質量%で、その他の油脂C’の含有量はほぼ30質量%であり、本件特許発明6の発明特定事項(VI)のうち『植物油脂を油脂中に70質量%以上含有する』の上限(当審注:「下限」の誤記。)にきわめて近似していることから、効果上の差異は見いだせない。」(特許異議申立書31、32ページ)と主張しているが、上記のとおり、甲1-1-1発明の「ココナッツオイル」、「パーム油」、「パーム硬化油」及び「菜種油」を70質量%以上とした上で、ショートニング以外の食品とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない以上、効果上の差異を検討するまでもなく、請求項6に係る発明は、甲1-1-1発明から当業者が容易になし得るものではないので特許異議申立人の主張は採用できない。 ウ 請求項8に係る発明について 請求項8に係る発明と甲1-1-2発明と対比すると、両者は、少なくとも前記相違点1で相違する。 そして、前記相違点1については、前記「ア」で相違点1について示したとおりである。 したがって、請求項8に係る発明は、甲1-1-2発明及び甲2ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (2)甲1-2-1発明又は、甲1-2-2発明を引用発明とした場合 ア 請求項1ないし6に係る発明について 請求項1ないし6に係る発明と甲1-2-1発明と対比すると、前記相違点1又は、相違点2に加え、請求項1ないし6に係る発明の植物油脂は、「0.01?8質量%のバージンココナッツオイルを含有する植物油脂」であるのに対して、甲1-2-1発明は、「ココナッツオイル10重量部」である点でさらに相違する(以下「相違点3」という。)。 前記相違点1及び相違点2については、前記「ア」及び「イ」で相違点1及び相違点2について示したとおりである。 前記相違点3について検討すると、甲1-2-1発明において、「バージンココナッツオイル」を「0.01?8質量%」とする動機はない。 したがって、請求項1ないし6に係る発明は、甲1-2-1発明及び甲2ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 請求項8について 請求項8に係る発明と甲1-2-2発明と対比すると、両者は、少なくとも前記相違点1及び相違点3で相違する。 前記相違点1及び相違点3については、前記「(1)ア」及び「(2)ア」について示したとおりである。 したがって、請求項8に係る発明は、甲1-2-2発明及び甲2ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (3)小括 以上のとおり、請求項1ないし6及び8に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2ないし6に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6及び8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし6及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-07-04 |
出願番号 | 特願2016-554301(P2016-554301) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(A23D)
P 1 652・ 113- Y (A23D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 市島 洋介 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 莊司 英史 |
登録日 | 2017-09-22 |
登録番号 | 特許第6212653号(P6212653) |
権利者 | 日清オイリオグループ株式会社 |
発明の名称 | 油脂及び油脂含有食品 |