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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G06F
管理番号 1342031
異議申立番号 異議2018-700097  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-05 
確定日 2018-07-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6181806号発明「透明導電性フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6181806号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6181806号の請求項1乃至3に係る特許についての出願は、平成23年3月8日(優先権主張 平成22年12月27日)に出願された特願2011-50469号の一部を平成28年4月27日に新たな特許出願としたものであって、平成29年7月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成30年2月5日に特許異議申立人 岩崎勇(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成30年4月24日付けで取消理由を通知し、平成30年6月22日付けで意見書が提出されたものである。
2.本件発明
「【請求項1】
可撓性透明基材、および可撓性透明基材上に形成され結晶化されたインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層を備え、
前記可撓性透明基材は、ポリエステル系樹脂からなる透明基体フィルムとアンダーコート層とを含み、
前記アンダーコート層は、有機物、又は無機物と有機物との混合物により形成され、
前記透明導電層は、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、-0.3%?-1.5%であり、
前記透明導電層の圧縮残留応力が0.4?2GPaであり、
前記透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上である、透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明導電層の膜面において、最大粒径が200nm以下の結晶含有量が、50面積%を超える、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記透明導電層の膜面において、最大粒径が100nm以下の結晶含有量が5面積%を超え、残りの結晶の最大粒径が100nmを超え200nmの分布幅に存在する、請求項1又は2に記載の透明導電性フィルム。」
なお、請求項1乃至請求項3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」乃至「本件発明3」という。)は、いずれも、「透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上である」との発明特定事項を有する発明であるが、該発明特定事項を有する発明は、本件特許についての出願の原出願である特願2011-50469号の優先権の主張の基礎とされた先の出願である特願2010-290499号の明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されていないから、本件発明1乃至3についての当該優先権の主張は認められない。
3.取消理由の概要
当審において、請求項1乃至3に係る特許に対して平成30年4月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1乃至3に係る発明における「前記透明導電層は、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、-0.3%?-1.5%であり」との発明特定事項は明確でないから、請求項1乃至3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。
4.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
特許法第36条第6項第2号について
透明導電層が加熱により結晶化されることや該結晶化によりその寸法が変化することは周知の技術事項であるが、加熱により結晶化し寸法が変化した透明導電層を、その構造や機能によって直接特定することは困難であり、実際的ともいえないから、不可能・非実際的事情があるものと理解できる。
そうすると、「前記透明導電層は、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、-0.3%?-1.5%であり」との特定があることによって、本件発明1乃至3が不明確となっているとまではいえない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、請求項1乃至3に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1乃至3に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。
また、申立人は、特許異議申立書において、請求項1乃至3に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、請求項1乃至3に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、請求項1乃至3に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1乃至3に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。
イ.甲号証の記載
本件特許についての出願の原出願の出願日である平成23年3月8日前に頒布された刊行物である甲第3号証?甲第8号証には、次の技術事項が記載されている。
(ア)甲第3号証(特開2011-28945号公報)
(あ)請求項1?6の記載
「【請求項1】
透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に酸化インジウムを主成分とした透明導電膜が積層された透明導電性フィルムであって、透明導電性フィルムの少なくとも一方向の120℃60分における収縮率が0.20?0.70%であり、120℃60分熱処理後の透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径が30?1000nmで、かつ、透明導電膜の結晶質部に対する非晶質部の比が0.00?0.50であることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率HMDと、透明導電性フィルムの幅方向の120℃60分における収縮率HTDが(1)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
0.00%≦|HMD-HTD|≦0.30% (1)
【請求項3】
透明導電膜が、酸化インジウムを主成分とし、酸化スズを0.5?8質量%含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
120℃60分熱処理後の透明導電膜の酸化インジウムの結晶粒径の変動係数が0.00?0.30であることを特徴とする請求項1?3に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
透明プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に硬化型樹脂硬化層を形成した積層フィルムからなる基材上の少なくとも一方の面に酸化インジウムを主成分とした透明導電膜が積層された透明導電性フィルムであって、透明導電性フィルムの少なくとも一方向の120℃60分における収縮率が0.20?0.70%であり、120℃60分熱処理後の透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径が30?1000nmで、かつ、透明導電膜の結晶質部に対する非晶質部の比が0.00?0.50であることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項6】
前記硬化型樹脂が紫外線硬化型樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の透明導電性フィルム。」
(い)段落0008の記載
「【0008】
本発明の目的は、上記の従来の問題点に鑑み、タッチパネルに用いた際のペン摺動耐久性に優れ、特にポリアセタール製のペンを使用し、5.0Nの荷重で30万回の摺動試験後でも透明導電性薄膜が破壊されない透明導電性フィルムを産業上利用できる手段で提供するとともに、適度な熱収縮率を透明導電性フィルムに持たせることによって大型のタッチパネルの上部電極として使用する際などにおいて熱処理で適度に収縮させて平面性の良好ものに仕上げることができる透明導電性フィルムを提供することにある。」
(う)段落0010の記載
「【0010】
上記の通り、本発明によれば、透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に透明導電膜を成膜するときに120℃60分熱処理後の透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径、結晶/非晶の割合、結晶粒径の変動係数を制御することによって、非常に優れたペン摺動耐久性を持つ透明導電性フィルムを作製できるとともに、透明導電性フィルムは適度な熱収縮性も持たせられるので、得られた透明導電性フィルムと用いると、ペン摺動耐久性が優れ、かつ平面性が良好なペン入力用タッチパネルを作製することができる。」
(え)段落0027?0029の記載
「【0027】
以上のようにして透明導電性薄膜をプラスチックフィルム上に成膜した透明導電性フィルムは、通常の結晶化のための150℃程度の加熱工程を有していない。このため、透明フィルムの残留歪が緩和されることはなく、熱収縮性の透明導電性フィルムを得ることが可能となる。このため、タッチパネルの上部電極として使用する際などにおいて熱処理で適度に収縮させて平面性の良好なものに仕上げることが可能である。すなわち、透明導電性フィルムの少なくとも一方向の120℃60分における収縮率が0.20?0.70%であることが好ましい。収縮率は0.25?0.65%の範囲であることがさらに好ましく、0.30?0.50%であることが特に好ましい。
また、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率HMDと、透明導電性フィルムの幅方向の120℃60分における収縮率HTDは、(1)式を満足することが好ましい。
0.00%≦|HMD-HTD|≦0.30% (1)
【0028】
<透明プラスチックフィルム基材>
本発明で用いる透明プラスチックフィルム基材とは、有機高分子をフィルム状に溶融押出し又は溶液押出しをして、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムであり、有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルファン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、セルロースプロピオネート、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー等が挙げられる。
【0029】
これらの有機高分子のなかで、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレート等が好適である。また、これら
の有機高分子は他の有機重合体の単量体を少量共重合したり、他の有機高分子をブレンドしてもよい。」
(お)段落0055の記載
「【0055】
(6)結晶粒径の変動係数
透過型電子顕微鏡下で透明導電膜層に観察されるすべての酸化インジウムの結晶粒径を算出し、それらから平均結晶粒径、標準偏差を計算する。標準偏差を平均結晶粒径で割った値を変動係数とする。」
(か)段落0060?0071の記載
「【0060】
〔実施例1?13〕
透明プラスチックフィルム基材は、両面に易接着層を有する二軸配向透明PETフィルム(東洋紡績社製、A4340、厚み188μm)を用いた。硬化型樹脂硬化層として、光重合開始剤含有アクリル系樹脂(大日精化工業社製、セイカビームEXF-01J)100質量部に、共重合ポリエステル樹脂(東洋紡績社製、バイロン200、重量平均分子量18,000)を3質量部配合し、溶剤としてトルエン/MEK(8/2:質量比)の混合溶媒を、固形分濃度が50質量%になるように加え、撹拌して均一に溶解し塗布液を調製した。二軸配向透明PETフィルムの両面に塗膜の厚みが5μmになるように、調製した塗布液をマイヤーバーを用いて塗布した。70℃で1分間乾燥を行った後、紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、UB042-5AM-W型)を用いて紫外線を照射(光量:300mJ/cm^(2))し、塗膜を硬化させた。
【0061】
透明導電性フィルムを得る手法は上記の〔1〕?〔3〕の方法を採用している。
これらの実施例における透明導電膜作製条件は表1に記載した。また、各実施例において共通の作製条件は以下の通り。
真空槽にフィルムを投入し、2.0×10^(-4)Paまで真空引きをした。次に、酸素分圧が1.5×10^(-2)Paになるように酸素を導入し、その後不活性ガスとしてアルゴンを導入し全圧を0.5Paにした。実施例7のボンバード工程における導入ガスも、前記と同じである。
酸化スズを含む酸化インジウム焼結ターゲット、あるいは酸化スズを含まない酸化インジウム焼結ターゲットに1W/cm^(2)の電力密度で電力を投入し、DCマグネトロンスパッタリング法により、透明導電膜を成膜した。膜厚についてはフィルムがターゲット上を通過するときの速度を変えて制御した。また、スパッタリング時の成膜雰囲気の不活性ガスに対する質量数28のガス分圧の比については、ガス分析装置(インフィコン社製、トランスペクターXPR3)を用いて測定した。
【0062】
まず上記方法で作製した透明導電性フィルムの収縮率を測定した。
以上のようにして得られた透明導電性フィルムを一方のパネル板として用い、他方のパネル板として、ガラス基板上にプラズマCVD法で厚み20nmのインジウム-スズ複合酸化物薄膜(酸化スズ含有量:10質量%)からなる透明導電性薄膜(日本曹達社製、S500)を成膜した透明導電性ガラスを用いて、この2枚のパネル板(250mm×190mm)を透明導電性薄膜が対向するように、直径30μmのエポキシビーズを介して配置し、パネル板の4辺を両面テープ(日東電工社製:No.500)を用いて貼り合せて、12インチサイズのタッチパネルを作製した。この後、平面性を向上させるためにタッチパネルを120℃60分の熱処理を行った。
このタッチパネルを用いてペン摺動耐久性試験およびタッチパネルの平面性を評価した。
さらにタッチパネルから透明導電性フィルムを切り出して、透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径、結晶質部に対する非晶質部の比、結晶粒径の変動係数、透明導電性フィルムの全光線透過率、表面抵抗値、透明導電膜の膜厚の測定を行った。
【0063】
〔実施例14〕
透明プラスチックフィルム基材は、両面に易接着層を有する二軸配向透明PETフィルム(東洋紡績社製、A4340、厚み188μm)を用い、この一方の面にのみ実施例1と同様の硬化型樹脂硬化層を形成した。さらこの硬化型樹脂硬化層上に、実施例1と同様にして透明導電性薄膜を成膜し、透明導電性フィルムを得た。評価およびタッチパネルの作製は実施例1と同様にして行った。
【0064】
〔実施例15〕
透明プラスチックフィルム基材は、両面に易接着層を有する二軸配向透明PETフィルム(東洋紡績社製、A4340、厚み188μm)を用い、この一方の面にのみ実施例1と同様の硬化型樹脂硬化層を形成した。さらこの硬化型樹脂硬化層を形成していない面上に、実施例1と同様にして透明導電性薄膜を成膜し、透明導電性フィルムを得た。評価およびタッチパネルの作製は実施例1と同様にして行った。
【0065】
〔実施例16〕
透明プラスチックフィルム基材は、両面に易接着層を有する二軸配向透明PETフィルム(東洋紡績社製、A4340、厚み188μm)を用い、硬化型樹脂硬化層を形成しなかった。さらにPETフィルムの一方の面に実施例1と同様にして透明導電性薄膜を成膜し、透明導電性フィルムを得た。評価およびタッチパネルの作製は実施例1と同様にして行った。
【0066】
〔比較例1?8〕
透明プラスチックフィルム基材は、両面に易接着層を有する二軸配向透明PETフィルム(東洋紡績社製、A4340、厚み188μm)を用い、この両面に実施例1と同様の硬化型樹脂硬化層を形成した。これらの比較例の透明導電膜作製条件については、実施例と同じく表1に記載。また、各比較例において共通の作製条件についても実施例1?13と同じである。また、実施例と同様にしてタッチパネルを作製し、評価を行った。測定結果を表3に示した。
【0067】
〔比較例9〕
比較例8と同様にして透明導電性フィルムを作製した。この後、透明導電性フィルムの結晶化のために180℃2分の加熱処理を行った。この後、また、実施例と同様にしてタッチパネルを作製し、評価を行った。測定結果を表3に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表2、3に記載のとおり、実施例1?16記載の透明導電性フィルムは、ペン摺動耐久試験後も摺動部が透明で、ON抵抗も10kΩ以下であり、かつ非常に優れたペン摺動耐久性が得られた。さらにタッチパネルの平面性も良好であった。比較例1、2、4、6、9はペン摺動耐久試験後に摺動部が白化し、ON抵抗も10kΩ以上であり、ペン摺動耐久性が十分でなかった。比較例3、5、7、8、10はペン摺動耐久試験は優れているが、他の特性が劣っている。比較例3は全光線透過率が実用的な水準よりも低いために使用に適さない。比較例5は表面抵抗が実用的な水準よりも高いため使用に適さない。比較例7、8、10はタッチパネルの平面性が十分でない。」
以上の記載によれば、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲3発明]
「少なくとも有機物を含む易接着コート層を有するPETフィルムを用いた透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に、酸化スズを含む酸化インジウムの透明導電膜をDCマグネトロンスパッタリング法により成膜した透明導電性フィルムであって、
上記DCマグネトロンスパッタリング法で作製した透明導電性フィルムを一方のパネル板として用い、他方のパネル板として、ガラス基板上にプラズマCVD法で厚み20nmのインジウム-スズ複合酸化物薄膜(酸化スズ含有量:10質量%)からなる透明導電性薄膜(日本曹達社製、S500)を成膜した透明導電性ガラスを用いて、この2枚のパネル板(250mm×190mm)を透明導電性薄膜が対向するように、直径30μmのエポキシビーズを介して配置し、パネル板の4辺を両面テープ(日東電工社製:No.500)を用いて貼り合せて、12インチサイズのタッチパネルを作製し、
平面性を向上させるためにタッチパネルを120℃60分の熱処理を行い、
このタッチパネルを用いてペン摺動耐久性試験、タッチパネルの平面性の評価を行い、
さらにタッチパネルから透明導電性フィルムを切り出して、透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径、結晶質部に対する非晶質部の比、結晶粒径の変動係数、透明導電性フィルムの全光線透過率、表面抵抗値、透明導電膜の膜厚の測定を行った結果、
製造された透明導電性フィルムは、透明導電膜の膜厚が20nm、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率HMDが0.51%、平均結晶粒径が35nm、結晶質部に対する非結晶質部の比が0.02、結晶粒径の変動係数が0.17のものである透明導電性フィルム。」
(イ)甲第4号証(特開2006-127825号公報)
(あ)請求項1の記載
「【請求項1】
200℃で10分間熱処理した際のフィルムの長手方向の熱収縮率が0.0%以上0.5%以下であるポリエステルフィルムと、そのうえに設けられ主として酸化インジウムからなり酸化亜鉛が添加され表面抵抗40Ω/□以下である透明導電層と、からなる色素増感型太陽電池用積層体。」
(い)請求項5の記載
「【請求項5】
ポリエステルフィルムを230℃で10分間熱処理した際のフィルムの長手方向の熱収縮率が0.0%以上2.0%以下である、請求項1記載の色素増感型太陽電池用積層体。」
(う)請求項6の記載
「【請求項6】
ポリエステルフィルムと透明導電層との間に、さらに厚み10?200nmの易接層を有する、請求項1記載の色素増感型太陽電池用積層体。」
(え)段落0028の記載
「【0028】
酸化インジウムには、他の酸化物を添加して導電性と光線透過率を両立させることができる。しかしながら、最も一般的な、酸化スズを添加したインジウム-スズ複合酸化物(ITO)は、低温でポリエステルフィルム上に形成し、適度の表面抵抗の膜を形成することはができるものの、その構造は非晶質或いは非晶質と結晶質が混在した状態であり、このような状態のITO膜は素子形成過程における熱工程温度である150℃程度の温度において結晶質に相転移する。その結果著しい内部応力の増大がITO膜内で起こりクラックの発生や素子の信頼性低下をもたらす。」
(お)段落0058の記載
「【0058】
(7)透明導電層の耐熱性
透明導電層を形成したポリエステルフィルムを、オーブンにて220℃で60分加熱し、その後室温まで冷却する。冷却後、表面抵抗値を任意の10点にて測定し、平均値を求めた。」
(か)段落0060?0071の記載
「【0060】
[実施例1]
<フィルム用ポリマーの作成>
ナフタレン-2,6-ジカルボン酸ジメチル100部、およびエチレングリコール60部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、150℃から238℃に徐々に昇温させながら120分間エステル交換反応を行なった。途中反応温度が170℃に達した時点で三酸化アンチモン0.024部を添加し、エステル交換反応終了後、リン酸トリメチル(エチレングリコール中で135℃、5時間0.11?0.16MPaの加圧下で加熱処理した溶液:リン酸トリメチル換算量で0.023部)を添加した。その後反応生成物を重合反応器に移し、290℃まで昇温し、27Pa以下の高真空下にて重縮合反応を行って、固有粘度が0.63dl/gの、実質的に粒子を含有しない、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートを得た。
【0061】
<ポリエステルフィルムの作成>
このポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度305℃で溶融し、平均目開きが17μmのステンレス鋼細線フィルターで濾過し、3mmのスリット状ダイを通して表面温度60℃の回転冷却ドラム上で押出し、急冷して未延伸フィルムを得た。このようにして得られた未延伸フィルムを120℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で15mm上方より850℃のIRヒーターにて加熱して縦方向に3.2倍に延伸した。この縦延伸後のフィルムの片面に下記の塗剤Aを乾燥後の塗膜厚みが0.15μmになるようにロールコーターで塗工し易接層を形成した。
【0062】
続いてテンターに供給し、140℃にて横方向に.3.3倍に延伸した。得られた二軸配向フィルムを243℃の温度で5秒間熱固定し、固有粘度が0.59dl/g、厚み125μmのポリエステルフィルムを得た。続いて、このフィルムを懸垂状態で、弛緩率0.8%、温度205℃で熱弛緩させた。200℃、10分で処理した際のポリエステルフィルムの長手方向の熱収縮率は0.15%、幅方向の熱収縮率は0.05%であった。また、230℃、10分で処理した際のポリエステルフィルムの長手方向の熱収縮率は1.78%であった。
【0063】
<塗剤A>
四つ口フラスコに、界面活性剤としてラウリルスルホン酸ナトリウム3部、およびイオン交換水181部を仕込んで窒素気流中で60℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、亜硝酸水素ナトリウム0.2部を添加し、さらにモノマー類である、メタクリル酸メチル30.1部、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン21.9部、ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリル酸39.4部、アクリルアミド8.6部の混合物を3時間にわたり、液温が60?70℃になるよう調整しながら滴下した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、攪拌下に反応を継続させ、次いで冷却して固形分が35%重量のアクリルの水分散体を得た。
【0064】
一方で、シリカフィラー(平均粒径:100nm)(日産化学株式会社製 商品名スノーテックスZL)を0.2重量%、濡れ剤として、ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名ナロアクティーN-70)の0.3重量%添加した水溶液を作成した。
アクリルの水分散体15重量部と水溶液85重量部を混合して、塗剤Aを作成した。
【0065】
<ハードコート>
得られたポリエステルフィルムを用い、この易接層側にUV硬化性ハードコート剤(JSR製 デソライトR7501)を厚さ約5μmになるよう塗布し、UV硬化させてハードコート層を形成した。
【0066】
<透明導電層形成>
ハードコート層が形成された片面に、主として酸化インジウムからなり酸化亜鉛が7.5重量%添加されたIZOターゲットを用いた直流マグネトロンスパッタリング法により、膜厚260nmのIZOからなる透明導電層を形成した。透明導電層のスパッタリング法による形成は、プラズマの放電前にチャンバー内を5×10^(-4)Paまで排気した後、チャンバー内にアルゴンと酸素を導入して圧力を0.3Paとし、IZOターゲットに2W/cm2の電力密度で電力を印加して行った。酸素分圧は3.7mPaであった。透明導電層の表面抵抗値は14Ω/□であった。
【0067】
次いで、常圧プラズマ表面処理装置(積水化学工業製AP-T03-L)を用いて、窒素気流下(60L/分)、1m/分にて透明導電層表面にプラズマ処理を施した。このとき、表面抵抗値14.5Ω/□、全光線透過率81%、表面張力は72.3mN/mであった。
透明導電層の耐熱性を評価した結果、加熱後の表面抵抗値は16Ω/□であり、表面抵抗値の上昇が小さいことが確認された。
【0068】
<反射防止層>
積層体の透明導電層を形成した面とは反対側の面に、厚さ75nmで屈折率1.89のY2O3層、その上に厚さ120nmで屈折率2.3のTiO2層、さらにその上に厚さ90nmで屈折率1.46のSiO2を、夫々高周波スパッタリング法によって製膜し、反射防止処理層とした。各静電体薄膜を製膜するに際し、いずれも真空度は1×10^(-3)Torrとし、ガスとしてAr:55sccm、O_(2):5sccmを流した。また、基板は製膜行程中、加熱もしくは冷却をすることなく室温のままとした。
【0069】
<多孔質半導体層形成>
積層体の透明導電層の上に、市販されている低温形成型多孔質二酸化チタン層形成用ペースト(昭和電工製SP-200)をバーコーターにて塗布し、大気中200℃で60分間の熱処理を行って厚み3μmになるように多孔質二酸化チタン層を形成し、色素増感型太陽電池の電極を作成した。
【0070】
<色素増感型太陽電池の作成>
この電極をルテニウム錯体(Ru535bisTBA、Solaronix製)の300μMエタノール溶液中に24時間浸漬し、光作用電極表面にルテニウム錯体を吸着させた。また、前記の積層体の透明導電層上にスパッタリング法によりPt膜を堆積して対向電極を作成した。電極と対向電極を、熱圧着性のポリエチレンフィルム製フレーム型スペーサー(厚さ20μm)を介して重ね合わせ、スペーサー部を120℃に加熱し、両電極を圧着する。さらに、そのエッジ部をエポキシ樹脂接着剤でシールする。電解質溶液(0.5Mのヨウ化リチウムと0.05Mのヨウ素と0.5Mのtert-ブチルピリジン、平均粒径20μmのナイロンビーズ3重量%を含む3-メトキシプロピオニトリル溶液)を注入した後、エポキシ系接着剤でシールした。
【0071】
完成した色素増感 型太陽電池は、温度23℃、湿度50%の環境下で1000時間経過させた後にI-V測定(有効面積25mm^(2))を行った。開放電圧、短絡電流密度、曲線因子はそれぞれ、0.74V、7.9mA/cm^(2)、0.69であり、その結果、光発電効率は4.0%であった。」
(き)段落0072の記載
「【0072】
[実施例2]
実施例1と同様に、ハードコート層付きポリエステルフィルムを作成した。
ハードコート層が形成された片面に、主として酸化インジウムからなり酸化亜鉛が7.5重量%添加されたIZOターゲットを用いた直流マグネトロンスパッタリング法により、膜厚130nmのIZOからなる透明導電層を形成した。透明導電層のスパッタリング法による形成は、プラズマの放電前にチャンバー内を5×10^(-4)Paまで排気した後、チャンバー内にアルゴンと酸素を導入して圧力を0.3Paとし、IZOターゲットに2W/cm2の電力密度で電力を印加して行った。酸素分圧は3.7mPaであった。透明導電層の表面抵抗値は28Ω/□であった。」
(く)段落0076の記載
「【0076】
【表1】


(け)段落0077?0079の記載
「【0077】
[実施例4]
実施例2と同様にハードコート層付きのポリエステルフィルムを作成した。
ハードコート層が形成された片面に、主として酸化インジウムからなり酸化錫が10重量%添加されたITOターゲットを用いた直流マグネトロンスパッタリング法により、膜厚170nmのITOからなる透明導電層を形成した。透明導電層のスパッタリング法による形成は、プラズマの放電前にチャンバー内を5×10^(-4)Paまで排気した後、チャンバー内にアルゴンと酸素を導入して圧力を0.3Paとし、ITOターゲットに2W/cm2の電力密度で電力を印加して行った。酸素分圧は4.2mPaであった。透明導電層の表面抵抗値は30Ω/□であった。
【0078】
次いで、常圧プラズマ表面処理装置(積水化学工業製AP-T03-L)を用いて、窒素気流下(60L/分)、1m/分にて透明導電層表面にプラズマ処理を施した。このとき、表面抵抗値31Ω/□、全光線透過率85%、表面張力は72.1mN/mであった。
【0079】
透明導電層の耐熱性を評価した結果、加熱後の表面抵抗値は62Ω/□であり、表面抵抗値の上昇が大きいことが確認された。
実施例2と同様に、電極および色素増感型太陽電池を作成し、I-V測定(有効面積25mm^(2))を行った結果、開放電圧、短絡電流密度、曲線因子はそれぞれ、0.65V、7.1mA/cm^(2)、0.48であり、その結果、光発電効率は2.2%であった。」
(ウ)甲第5号証(国際公開2005-109449号公報)
(あ)請求項1の記載
「1.ポリエチレンテレフタレートフィルムにより形成された層と、架橋性の物質が硬化成膜された硬化層とを少なくとも有する基体上に導電膜を形成してなり、前記基体の150℃で 1時間加熱した後における長手方向(MD)及び横手方向(TD)の収縮率がいずれも0.5%以下であることを特徴とするタッチパネル用導電性フイルム。」
(い)請求項5の記載
「5.導電膜が非晶性のITO(インジウム錫酸化物)である請求項1から4のいずれかに記載のタッチパネル用導電性フィルム。」
(う)第18頁第15行?第21行の記載
「ITO層を付着した後に、ITOを結晶化するために、150℃近辺の温度でアニールすることはよく知られている。 この場合は、硬化層も含んだ透明導電フィルムとしては、 MD及びTD方向の熱収縮率はいずれも0.5%以下とすることができるが、ITO等の導電膜とPETフィルム等の有機物の熱特性の違いにより、このアニール処理により、ITO層と有機物界面との間にストレスが残留し、ペン等による摺動でITO層がはがれたり、層にクラックが入ったりすることがある。」
(え)第18頁最下行?第19頁第8行の記載
「このようにして製造されたPETフィルムの表面に、 表面の硬度アップやタッチパネルとした時のぎらつき防止や反射防止のためのコートがなされることが多いので、易接着処理が片面もしくは両面に塗布されたものを用いても良い。易接着処理としては、コロナ放電、紫外線照射、プラズマ処理、スパッタエッチング処理、プライマー処理等公知の方法が使用できる。プライマー処理における易接着層のコート剤としては、その効果を持つものであれば特に限定されるものではなく、例えばポリエステル系のポリマーやアクリル系のポリマーを塗布することが知られている。この層に滑材としてシリカ等の微粒子を含ませることも可能である。」
(お)第19頁第9行?第11行の記載
「前記二軸延伸PETフィルムの150℃1時間における収縮率は、 通常MD(流れ方向)で1.0?1.8%であり、TD(横方向)で0.1?1.0%である。」
(か)第22頁第15行?第19行の記載
「結晶化ITOを用いた導電性フィルムにおいて、耐摺動性が必ずしも満足されるものではなかったのは、 ITOの結晶化のための熱処理によりITOの強度や緻密さは増すものの、熱をかけることでPETフィルムが膨張収縮し、ITOとPETフィルムの膨張率と収縮率の違いにより、ITO層に大きなストレスを残していたためと考えられる。」
(エ)甲第6号証(特開平2-194943号公報)
(あ)請求項1?3の記載
「1.有機高分子成型物上に主として結晶質のインジウム酸化物からなる透明導電層を形成してなる導電性積層体において、該結晶質のインジウム酸化物の結晶粒径が0.3μm以下であることを特徴とする透明導電性積層体。
2.該透明導電層が、先ず、有機高分子成型物上に、主としてインジウム酸化物を含む波長550nmの吸光係数が1×10^(-3)?2×10^(-3)[Å-1]、比抵抗が2×10^(-2)Ωcm以下の層を形成し、次いで該層を酸素雰囲気下の加熱処理により主として結晶質のインジウム酸化物からなる層に転化せしめたものであることを特徴とする請求項1記載の透明導電性積層体。
3.加熱処理温度が100?250℃である請求項2記載の透明導電性積層体。」
(い)第1頁左下欄第5行?右下欄第6行の記載
「3.発明の詳細な説明
[利用分野]
本発明は導電性積層体に関し、更に詳しくは有機高分子成型物上に主として結晶質のインジウム酸化物からなる透明導電層を形成してなる導電性積層体に関する。」

(う)第2頁左下欄第15行-第17行の記載
「本発明はかかる現状に鑑みなされたもので、耐久性及び信頼性に優れた導電性積層体を目的としたものである。」
(え)第4頁左上欄第1行-第6行の記載
「本発明に用いられる主としてインジウム酸化物からなる透明導電性層の膜厚は十分な導電性を得るためには、50Å以上であることが好ましく、100Å以上であれば更に好ましい。また、十分に透明度の高い被膜を得るためには、500Å以下である事が好ましく、400Å以下がより好ましい。」

(お)第5頁左下欄第2行-右下欄第11行の記載
「[実施例1?2及び比較例1]
75μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に、有機ケイ素化合物のブタノール、イソプロパノール混合アルコール系溶液(濃度0.6重量%)をバーコーターで塗布し、140℃で1分間乾燥した。乾燥後の膜厚は300Åであった。
該フィルムを直流マグネトロンスパッタ装置内の基板保持台に固定し、真空度2×10^(-5)Torrまで真空槽を排気した。その後、Ar/O_(2)混合ガス(O_(2)25%)を槽内に導入し、真空度を4×10^(-3)Torrに保った後、In/Sn合金(Sn5重量%)よりなるターゲットを用い反応性スパッタリング法により堆積速度を変えて実施例1?2及び比較例1のサンプルの吸光係数及び比抵抗を有するインジウム・スズ酸化物膜を形成した。これらのサンプルを150℃に保った熱風乾燥器により加熱処理を行なった後、透明導電層の膜構造を透過型電子顕微鏡で調べた。
また、加熱処理後のサンプルの550nmにおける透過率,比抵抗,耐屈曲性および発光層と貼合わせた後の断線の程度を調べた。なお、耐屈曲性は、透明導電層が外側になる様に、直径5φの丸棒の周囲に沿って10回繰返し変形させて元に戻した後の抵抗値Rと変形させる前の抵抗値R_(0)の比R/R0と定義する。
結果を表1に示す。
本発明による実施例1,2の透明導電性積層体は耐屈曲性に優れ、発光層と貼合わせた後の断線は皆無であった。」
(オ)甲第7号証(特開平8-64034号公報)
(あ)請求項1?3の記載
「【請求項1】 有機高分子成形物上に非晶質のインジウム-錫酸化物からなる透明導電層を形成し、しかる後に加熱による熱処理によりインジウム-錫酸化物を結晶質に転化させて形成した透明導電性積層体において、熱処理後の結晶質のインジウム-錫酸化物の結晶粒径が15?100nmの範囲であることを特徴とする透明導電性積層体。
【請求項2】 熱処理温度が、100?250℃であることを特徴とする請求項1記載の透明導電性積層体。
【請求項3】 結晶質のインジウム-錫酸化物層の膜厚が、10?50nmの範囲であることを特徴とする請求項1?2のいずれかに記載の透明導電性積層体。」

(い)段落0006の記載
「【0006】そこで本発明は、かかる現状に鑑みなされたもので、高分子成形物上に透明導電層を設けたペン入力時の高荷重耐久性(屈曲耐久性)、光線透過率および信頼性の優れた導電性積層体を得ることを目的とする。」
(う)段落0014?0015の記載
「【0014】これらのフィルムまたはシートは、透明性を損なわない程度において顔料を添加したり、また表面加工、例えばコーティングによる粗面加工を施してもよい。また、これらのフィルムまたはシートは、単独でもラミネートして用いてもよい。さらに、透明導電層との密着性などを向上させるため、透明導電層形成まえに有機高分子成形物上に中間層を形成しても良い。この中間層としては、例えば有機硅素化合物、チタンアルキルエステル、ジルコニウムアルキルエステルなどの有機金属化合物の加水分解により形成された層が好ましく用いられる。あるいはこの中間層は、多層構成としても良い。
【0015】こうした中間層は、有機高分子成形物上に塗布後、乾燥し、加熱、イオンボンバードあるいは紫外線、β線、γ線などの放射線により硬化させる。その際中間層の塗布には、透明有機高分子成形物や塗工液の形状、性質に応じてドクターナイフ、バーコーター、グラビアロールコーター、カーテンコーター、ナイフコーターなどの公知の塗工機械を用いる塗工法、スプレー法、浸漬法などが用いられる。」
(え)段落0021?0025の記載
「【0021】
【実施例1?2、比較例】175μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に、有機硅素化合物のブタノール,イソプロパノール混合アルコール水溶液(濃度0.6重量%)をバーコーターで塗布し、140℃で1分間乾燥した。乾燥後の膜厚は30nmであった。このフィルムを直流方式マグネトロンスパッタ装置内の基板保持台に固定し、真空度6.7mPaまで真空槽を排気した。その後、Ar/O_(2)混合ガス(Ar80%)を槽内に導入し、真空度を0.27Paに保った後、In/Sn合金(Sn5重量%)よりなるターゲットを用い反応性スパッタリング法により堆積速度を変えて作成した後、150℃に保った熱風乾燥機により加熱処理を行い実施例1?2及び比較例1の結晶粒径を有するインジウム-錫酸化物を形成した。
【0022】そして得られたサンプルについて、透明導電層の膜構造を透過型電子顕微鏡で調べた。また、サンプルのシート抵抗値を2端子法により測定した。また、このシート抵抗値と膜厚との積より比抵抗を求めた。さらに、550nmにおける光線透過率、耐屈曲耐久性、及び耐屈曲耐久性試験後のサンプルの断線の程度を調べた。なお、耐屈曲耐久性は、透明導電層が外側になる様に、φ6mmの丸棒の周囲に沿って100gの荷重をかけ1分間変形させて元に戻した後の抵抗値Rと変形させる前の抵抗値R0の比R/R0と定義する。結果を表1に示す。
【0023】
【実施例3】175μmのポリエチレンテレフタレートフイルムの片面にプライマー塗工(信越化学製 商品名「PC-7A」)をメチルイソブチルケトンと酢酸nブチルが1:1の比で混合された溶媒で希釈した後135℃で4分間乾燥させた後、ハードコート材料として日本精化製の商品名「NSC-2451」をイソプロパノールで希釈して塗工後、135℃で3分間乾燥させてハードコート層が形成されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。プライマー層の膜厚は0.5μmであり、ハードコート層の膜厚は8μmであった。
【0024】かかるポリエチレンテレフタレートフィルムのハードコートが形成されていない面に有機珪素化合物(日本曹達製 商品名「アトロンNSi」)をイソプロピルアルコールで希釈して塗工し130℃で3分間乾燥させて、約50nmの厚さの下塗り層を形成した。透明導電膜は、実施例1で用いたものと同じスパッタリング装置を用い、真空度6.7mPaまで真空槽を排気した後Ar/O_(2)の混合ガス(Ar98.5%)を導入し真空度を4.0mPaに保持させた後充填度In_(2)O_(3)/SnO_(2)(SnO_(2)5mol %)の酸化物ターゲットに、1.2W/cm2の直流電力を投入して反応性スパッタを行い、しかる後真空槽から取り出して大気中で150℃に保持した熱風乾燥機にて加熱処理を行い形成した。
【0025】得られた透明導電フィルムの特性を実施例1と同じ評価方法にて評価を実施した。結果を表1に記す。
【0026】
【表1】


(カ)甲第8号証(特開2007-200823号公報)
(あ)請求項1?7の記載
「【請求項1】
酸化インジウムと酸化スズの合計に対して酸化スズを9重量%以下の割合で含有する酸化インジウム・スズを主成分としてなる結晶性透明導電性薄膜であって、
当該結晶性透明導電性薄膜は、窒素を0.45原子%以下の割合で含有することを特徴とする結晶性透明導電性薄膜。
【請求項2】
請求項1記載の結晶性透明導電性薄膜が、透明フィルム基材の片面に設けられていることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項3】
導電性薄膜を有する一対のパネル板を、導電性薄膜同士が対向するようにスペーサを介して対向配置してなるタッチパネルにおいて、パネル板の少なくとも一方が、請求項2記載の透明導電性フィルムからなることを特徴とするタッチパネル。
【請求項4】
請求項1記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法であって、
アルゴンガスと窒素ガスを含み、かつ、前記窒素ガスを、アルゴンガスと窒素ガスの合計に対して、3000ppm?13000ppmの範囲で含むアルゴン雰囲気中において、酸化インジウムと酸化スズとの混合物の焼結体を透明導電性薄膜形成材料に用いて気相法により、酸化インジウムと酸化スズの合計に対して酸化スズを9重量%以下の割合で含有する酸化インジウム・スズを成膜して、透明導電性薄膜を形成する工程、
および、当該透明導電性薄膜を加熱処理して結晶化する工程、を有することを特徴とする結晶性透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記アルゴン雰囲気は、酸素ガスを含有することを特徴とする請求項4記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項6】
結晶性透明導電性薄膜を、透明フィルム基材の片面に形成することを特徴とする請求項4または5記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記結晶化工程における加熱処理条件が、135?155℃で、2.5時間以下であることを特徴とする請求項4?6のいずれかに記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法。」

(い)段落0005の記載
「【0005】
本発明は、高抵抗値を有し、かつ高温・高湿の環境下における信頼性の良好な結晶性透明導電性薄膜を提供することを目的とする。」
(う)段落0023の記載
「【0023】
また結晶性透明導電性薄膜において、当該薄膜を形成する結晶の最大粒径は350nm以下であることが好ましい。前記最大粒径は250nm以下、さらには150nm以下であることが好ましい。結晶粒径が小さくなりすぎると、前記薄膜中に非結晶状態に類似した部分が多くなり、高温・高湿の環境下における信頼性が低下するため、結晶粒径が極端に小さくなりすぎないようにするのが望ましい。かかる観点から、結晶の最大粒径は、10nm以上、さらには、30nm以上であるのが好ましい。」
(え)段落0025の記載
「【0025】
本発明の結晶性透明導電性薄膜の膜厚は、厚さが通常10nm以上、好適には10?300nmであるのがよい。前記膜厚は、さらには15?100nm、さらには20?70nmであるのが好ましい。前記膜厚が、厚さが10nmより薄いと、表面電気抵抗が1×103Ω/□以下となる良好な導電性を有する連続被膜となりにくく、厚すぎると、透明性の低下などをきたしやすい。」
(お)段落0033の記載
「【0033】
前記フィルム基材は、その材質に特に限定はなく、適宜なものを使用することができる。具体的には、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、特に好ましいものは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などである。」
(か)段落0038の記載
「【0038】
上記結晶性透明導電性薄膜は、アンカー層を介して、前記フィルム基材に設けられていてもよい。アンカー層は1層または2層以上設けることができ。アンカー層としては、無機物、有機物または無機物と有機物との混合物により形成する。アンカー層の形成は、フィルム基材と結晶性透明導電性薄膜との密着性を向上させるとともに、結晶性透明導電性薄膜の耐擦傷性や耐屈曲性を向上させ、タッチパネル用としての打点特性の向上に有効である。」
ウ.特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「透明導電性フィルム」は、「少なくとも有機物を含む易接着コート層を有するPETフィルムを用いた透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に、酸化スズを含む酸化インジウムの透明導電膜をDCマグネトロンスパッタリング法により成膜した」ものであり、「透明プラスチックフィルム基材」は、「少なくとも有機物を含む易接着コート層を有するPETフィルム」を用いていることから、甲3発明の「PETフィルムを用いた透明プラスチックフィルム基材」、「酸化スズを含む酸化インジウムの透明導電膜」は、それぞれ、本件発明1の「可撓性透明基材」、「結晶性のインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層」に相当し、甲3発明の「PETフィルムを用いた透明プラスチックフィルム基材」と本件発明1の「可撓性透明基材」は、「ポリエステル系樹脂からなる透明基体フィルムとアンダーコート層」を含み、「前記アンダーコート層は、有機物、又は無機物と有機物の混合物により形成され」ている点で共通していると認められる。
そうしてみると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致する。
[一致点]
「可撓性透明基材、および可撓性透明基材上に形成され結晶化されたインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層を備え、
前記可撓性透明基材は、ポリエステル系樹脂からなる透明基体フィルムとアンダーコート層とを含み、
前記アンダーコート層は、有機物、又は無機物と有機物との混合物により形成された、
透明導電性フィルム。」

一方、甲3発明は、「上記DCマグネトロンスパッタリング法で作製した透明導電性フィルムの収縮率を測定し、得られた透明導電性フィルムを一方のパネル板として用い、・・・タッチパネルを作製し、平面性を向上させるためにタッチパネルを120℃60分の熱処理を行い、・・・タッチパネルから透明導電性フィルムを切り出して、透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径、結晶質部に対する非晶質部の比、結晶粒径の変動係数、・・・透明導電膜の膜厚の測定を行った結果、製造された透明導電性フィルムは、透明導電膜の膜厚が20nm、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率HMDが0.51%、平均結晶粒径が35nm、結晶質部に対する非結晶質部の比が0.02、結晶粒径の変動係数が0.17」というものである。すなわち、「120℃60分の熱処理」を行うのは、「タッチパネルを作製」した後である。
そうしてみると、本件発明1と甲3発明とは、次の相違点を有している。
[相違点1]
本件発明1は、「透明導電層は、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、-0.3%?-1.5%」であるのに対し、上記甲3発明は、透明導電層の結晶化前に対する寸法変化については特定されていない点。
[相違点2]
本件発明1は、「透明導電層の圧縮残留応力が0.4?2GPa」である、のに対し、上記甲3発明は、透明導電層の圧縮残留応力については特定されていない点。
[相違点3]
本件発明1は、「透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上」である、のに対し、上記甲3発明は、透明導電層の圧縮残留応力については特定されていない点。
事案に鑑み、上記相違点2について先に検討する。
この相違点2に関して、甲第3号証?甲第8号証のいずれにも、透明導電層の圧縮残留応力について記載乃至示唆されていない。甲第3号証には、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率HMDについては記載されているが、この収縮率HMDと圧縮残留応力との関係は不明であり、収縮率HMDに基づいて圧縮残留応力が0.4?2GPaという数値が直接導き出せる証拠はない。
してみれば、甲3発明において「透明導電層の圧縮残留応力が0.4?2GPa」とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるということも、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
また、本件発明2、3は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに限定するものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲第3号証に記載された発明であるということも、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。
5.むすび
したがって、請求項1乃至3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1乃至3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-02 
出願番号 特願2016-89619(P2016-89619)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (G06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 間野 裕一  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 安久 司郎
▲吉▼田 耕一
登録日 2017-07-28 
登録番号 特許第6181806号(P6181806)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 透明導電性フィルムおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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