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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60J
管理番号 1342259
審判番号 不服2017-13647  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-13 
確定日 2018-08-01 
事件の表示 特願2014-245640号「防眩装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開、特開2016-107740号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月4日の出願であって、平成28年12月22日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月7日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年9月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
本願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1ないし5(以下「引用文献1ないし5」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特開2010-184643号公報
2.実願昭58-037338号(実開昭59-142121号)のマイクロフィルム
3.特開2006-315892号公報
4.特開2005-335410号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2005-136561号公報(周知技術を示す文献)

備考
引用文献1には、外部に存在する光源を検知し、光源の位置を算出してその位置に基いて、ウインドシールドの光の透過率を下げる発明が記載されている(特に、引用文献1「0064」を参照。)。
本願請求項1に係る発明と引用文献1に記載の発明とを対比するに、光の透過率を下げる手段の点において、本願請求項1に係る発明では、特定の周波数の光に反応して色が変化する部材に、移動体の内部から特定の周波数の光を照射して行い、特定周波数の光を移動体の外部に対して遮断する部材を特定の周波数の光に反応して色が変化する部材の前に配置するのに対して、引用文献1に記載の発明では、他の手段しか開示されていない点。
上記相違点について検討するに、引用文献2には、特定の周波数の光に反応して色が変化するウインドシールド(特に、引用文献2「偏光ウインドシールドガラス」を参照。)に、移動体の内部から特定の周波数の光(特に、引用文献2「紫外線3」を参照。)を照射して、光の透過率を下げることが記載されている(特に、引用文献2明細書第3頁1?3行,第1図を参照。)。
引用文献1に記載の発明は、ウインドシールドの光の透過率を下げる思想を有しているのだから、そのための手段として、ウインドシールドの光の透過率を下げることのできる公知、周知の手段を用いることは、当業者の通常の創作能力の発揮であるので、引用文献1に記載の発明に、引用文献2に記載の発明を適用することに、格別な困難性はない。
そして、ここで引用文献2に記載の発明は紫外線を用いる発明であるが、紫外線をガラスに用いる際に、紫外線の外部への漏洩を防ぐために、遮断シートを設ける発明が公知である(引用文献2[0027]「紫外線が外部に漏れることが防止される」を参照。〔審決注:前記引用文献2は引用文献3の誤記と認める。〕)。
引用文献3に記載の発明は車両用ではないが、引用文献3に記載の発明で遮断シートを設けているのは、特定周波数の光(紫外線)を用いたことにより生じる問題を防ぐためであるので、引用文献2に記載の発明のように、紫外線を用いる際に、あわせて引用文献3に記載の、遮断シートを用いることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。
また、引用文献3に記載の発明の遮断シートの配置については、紫外線が外部へ漏れるのを防止するためから、特定の周波数の光に反応して色が変化する部材よりも外側、ここでは前となる。
したがって、引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明及び引用文献3に記載の発明を基に、本願請求項1に係る発明の構成を得ることは、当業者において容易になし得たことである。

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第5項までの要件を満たしている。
また、「第5 当審の判断」に示すように、補正後の請求項1ないし5に係る発明は、独立特許要件を満たすものであるから、同法同条第6項にも適合する。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年9月13日に提出された手続補正書により補正された請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1ないし5に係る発明(以下「本願発明1ないし5」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
移動体から当該移動体の外部に存在する光源を検知する光源検知部と、
当該移動体を運転する運転者の前方に面状に配置されて、特定周波数の光に反応して色が変化する特定周波数光反応部材と、
前記光源検知部の出力に基づいて前記特定周波数光反応部材の面内での前記光源の位置を算出する光源位置算出部と、
算出された光源の位置に基づいて前記特定周波数の光を移動体の内部から前記特定周波数光反応部材に照射する光照射部と、
前記特定周波数光反応部材の前記前方に配置されて、前記移動体の内部から前記特定周波数光反応部材を透過した前記特定周波数の光を前記移動体の外部に対して遮断する特定周波数光遮断部材と、を備え、
前記移動体の内部から外部に向けて、前記光照射部、前記特定周波数光反応部材、前記特定周波数光遮断部材の順に配置されている
ことを特徴とする防眩装置。
【請求項2】
前記特定周波数光反応部材は、前記移動体のウインドシールドの内面に配設された特定周波数光反応シートである
請求項1に記載の防眩装置。
【請求項3】
前記特定周波数光遮断部材は、前記ウインドシールドの外面に配設された特定周波数光遮断シートである
請求項2に記載の防眩装置。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の防眩装置において、
前記移動体を運転する運転者の顔の向きを検知する顔向き検知部をさらに備え、
前記光源位置算出部は、前記顔向き検知部の出力から運転者の視界を併せて算出して、少なくともこの算出した運転者の視界が含まれる位置を前記算出された光源の位置として決定する
ことを特徴とする防眩装置。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか一項に記載の防眩装置において、
前記移動体を運転する運転者の瞳孔の位置から視線を検知する視線検知部をさらに備え、
前記光源位置算出部は、前記視線検知部の出力と前記光源検知部の出力とに基づき、前記算出する光源の位置を、運転者の視線が含まれる位置として決定する
ことを特徴とする防眩装置。」

第5 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明
引用文献1には、「車両の防眩装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。
(1a)「【技術分野】
「【0001】
本発明は、車両の防眩技術に関する。特に、視野を確保しつつグレア光を効果的に遮ぎる技術に関する。」
・・・
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、車両の走行環境によらず、乗員の視野を必要以上に遮ることなく視認性を向上させる技術を提供することを目的とする。」
(1b)「【0015】
図1は、本実施形態の車両用防眩システム100を搭載した車両10の関連部分を概略的に示した図である。また、図2は、本実施形態の車両用防眩システム100の機能ブロック図である。本実施形態の車両用防眩システム100は、運転席または助手席の前方に備え付けられたサンバイザ22を用い、直射日光等の強力なグレア光源30からの光を遮蔽し、眩惑を防ぐ。
【0016】
このため、本実施形態の車両用防眩システム100は、車両10内の乗員20の目21およびその周辺の画像を取得する乗員撮影装置110と、グレア光源30およびその周辺の画像を取得する光源撮影装置120と、車両のサンバイザ22に設置され透過率を変更可能な調光パネル140と、調光パネル140の透過率を変更する駆動回路150と、乗員撮影装置110および光源撮影装置120からの入力を処理し、駆動回路150を動作させる信号を出力する情報処理装置160と、サンバイザ回転角センサ、サンバイザ傾斜センサ、座席位置センサ、背もたれ角度センサ等のセンサ170を備える。」
(1c)「【0021】
本実施形態の車両用防眩システム100は、乗員20から見たグレア光源の方向、位置に応じて、調光パネル140の透過率を調整する位置および範囲を特定する。透過率は、光源撮影装置120で撮影した画像から得られるグレア光源30の明るさだけでなく、乗員20の目21からグレア光源に向かう光源方向と乗員20の視線方向とが成す角を考慮して決定される。情報処理装置160は、上記各構成で取得した信号を処理し、調光パネル140の透過率を調整する位置および範囲と、透過率自体とを示す制御信号を駆動回路150に出力する。
【0022】
以上の処理を実現するため、本実施形態の情報処理装置160は、図2に示すように、目位置検出部210と、視線方向算出部220と、グレア光源特定部230と、視線光源角度算出部240と、調光パネル位置検出部250と、調光位置決定部260と、透過率決定部270と、制御部290と、を備える。これらの各機能は、情報処理装置160内のCPUが、記憶装置に格納されているプログラムをメモリにロードして実行することにより実現される。」
(1d)「【0036】
調光位置決定部260は、グレア光源特定部230が検出および算出したグレア光源30の画像上の領域および光源方向と、調光パネル位置検出部250が算出した調光パネル140の位置とを用い、調光パネル140上でのグレア光源30の位置および大きさを算出する。そして、算出結果に基づき、調光パネル140の、透過率を低減させる領域を透過率調製領域と決定する。透過率調整領域は、例えば、グレア光源30の領域の大きさの50%増しなどのルールを予め定め、ルールに従って決定する。
・・・
【0038】
透過率決定部270は、グレア光源特定部230が特定したグレア光源30の明るさおよび順応輝度と、視線光源角度算出部240が算出した視線光源角度θとに基づき、透過率を決定する。そして、調光位置決定部260が決定した透過率調整領域について、当該透過率を実現する電圧を出力するよう指示する制御信号を駆動回路150に出力する。」
(1e)引用文献1には、以下の図1ないし3が図示されている。


以上より、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)
<引用発明>
「車両10内の乗員20の目21およびその周辺の画像を取得する乗員撮影装置110と、グレア光源30およびその周辺の画像を取得する光源撮影装置120と、車両のサンバイザ22に設置され透過率を変更可能な調光パネル140と、調光パネル140の透過率を変更する駆動回路150と、乗員撮影装置110および光源撮影装置120からの入力を処理し、駆動回路150を動作させる信号を出力する情報処理装置160と、を備え、
情報処理装置160は、調光位置決定部260と、透過率決定部270と、を備え
調光位置決定部260は、調光パネル140上でのグレア光源30の位置および大きさを算出し、算出結果に基づき、調光パネル140の、透過率を低減させる領域を透過率調製領域と決定し、
透過率決定部270は、透過率を決定し、調光位置決定部260が決定した透過率調整領域について、当該透過率を実現する電圧を出力するよう指示する制御信号を駆動回路150に出力する
車両用防眩システム100」

(2)引用文献2の記載事項
引用文献2には、「車両用速度感知型可視範囲可変ウインド装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている
(2a)明細書1頁4?15行
「2.【実用新案登録請求の範囲】
偏光ウインドガラスに紫外線照射器により紫外線を照射し、紫外線の照射範囲のみ偏光させて、偏光ウインドガラスを半透明または不透明に偏光させるようになっており、上述紫外線照射器を駆動するサーボモータは、車両の速度センサとポテンショ型抵抗器の各出力電圧の差によって制御されるよう連結してあって、車両の速度に応じて駆動される紫外線照射器が、偏光ウインドガラスへの紫外線の照射範囲を移動させて、偏光ウインドガラスの可視範囲を変化させることを特徴とする車両用速度感知型可視範囲可変ウインド装置。」
(2b)明細書1頁17行?2頁17行
「この考案は、車両の速度に応じてウインドシールドガラスの可視範囲を変化させるようにした例えば、特開昭56-39919に示されるような車両用速度感知型可視範囲可変ウインド装置に関する。・・・この考案の目的は、低速走行時は、ウインドシールドガラスの下方から車両前方近傍の路面がはっきり確認でき、高速走行時には、ウインドシールドガラスの下方部分を半透明または不透明に偏光させ、ウインドシールドガラスの可視範囲を変化させることによって、大型トラック等において視線移動が大きいことによる運転者の疲労を低減するとともに、高速走行時に、視線が車両前方近傍の路面に移ることによって生じる先行走行車への異常接近を防止して、従来の性能をさらに向上させるものである。」
(2c)明細書4頁下から3行?5頁5行
「第1図ないし第3図は、この考案の実施例を示しており、ウインドシールドガラスを偏光ウインドシールドガラス1とし、この偏光ウインドシールドガラス1は、紫外線照射器2によって紫外線3が照射されるようになっており、紫外線3の照射範囲4のみ偏光ウインドシールドガラス1の偏光機能を発揮させて、半透明または不透明に偏光させるようになっている。」
(2d)引用文献2には以下の第1図が図示されている。


(3)引用文献3の記載事項
引用文献3には、「ガラス板アッセンブリ、ガラス板表面の光触媒の活性化方法及びタイル施工構造」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている
(3a)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ガラス板又はガラスタイルの表面の光触媒を十分に励起させることができるガラス板アッセンブリ、ガラス板表面の光触媒の活性化方法及びタイル施工構造を提供することを目的とする。」
(3b)「【0026】
この紫外線が当ることにより、光触媒層5が励起され、光触媒作用が奏される。例えば、ガラス板4の室内側に結露等により水が付くと、薄く広がり、水滴状となることがなく、防曇あるいは水垢防止作用が奏される。また、ガラス板4に有機物が付着している場合には、光触媒作用によって生じた活性酸素によって分解され、防カビあるいは防汚作用等が奏される。」
(3c)「【0027】
この実施の形態ではガラス板4の室外側にUVカット層6が設けられているので、紫外線が外部に漏れることが防止される。また、1次コイル11と2次コイル10とによってUVLED8に給電するため、ガラス戸を電源に接続することが不要であり、施工やメンテナンスが容易である。」
(3d)引用文献3には以下の図2が図示されている。


2 対比・判断
(1)対比
ア 引用発明の「車両10」は、その技術的意味、構成からみて、本願発明1の「移動体」に相当し、以下同様に、「乗員20」は「運転者」に、「グレア光源30」は「光源」に、「車両用防眩システム100」は「防眩装置」にそれぞれ相当するといえる。
イ 引用発明の「グレア光源30」は、直射日光等の強力な光の源を指すものであるから(摘示(1b))、車両の外部に存在することが明らかである。そして、引用発明の「光源撮影装置120」は、「グレア光源30およびその周辺の画像を取得する」ものであるから、上記アの相当関係及び図1(摘示(1e))の図示内容をも踏まえると、本願発明1の「移動体から当該移動体の外部に存在する光源を検知する光源検知部」に相当するといえる。
ウ 本願発明1の「特定周波数光反応部材」は、本願明細書の「光源検知部の出力に基づいて運転者の前方に配置された特定周波数光反応部材の面内での光源の位置が算出され、その算出された位置に基づいて光照射部から特定周波数の光が特定周波数光反応部材に照射されるようになる。これにより、特定周波数光反応部材のこの光照射部分の色、すなわち光源からの光の透過率が変化して、運転者の感じる眩しさが軽減されるなど、移動体の前方から入射される光に対しても有効な防眩効果が得られるようになる。」(段落【0007】)との記載から、光源からの光の透過率を変化させる機能を有する部材であるということができる。
これに対して、引用発明の「調光パネル140」は、「車両のサンバイザ22に設置され透過率を変更可能な」ものであり、「車両サンバイザ22」は、運転者の前方に配置されることが明らかであり、かつ、面状の構造物ということができるから、上記アの相当関係をも踏まえると、引用発明の「調光パネル140」と、本願発明1の「当該移動体を運転する運転者の前方に面状に配置されて、特定周波数の光に反応して色が変化する特定周波数光反応部材」とは、「当該移動体を運転する運転者の前方に面状に配置されて、透過率を変更可能な部材」という構成の限度で共通するといえる。
エ 引用発明の「情報処理装置160」が備える「調光位置決定部260」は、「調光パネル140上でのグレア光源30の位置および大きさを算出」する機能を有するものであること、「調光位置決定部260」は「光源撮影装置120からの入力を処理」する「情報処理装置160」に備えられるものであり、図2(摘示(1e))より、「光源撮影装置120」から「情報処理装置160」に入力される信号は、グレア光源特定部230を経由して「調光位置決定部260」に入力されていることが看取できること、及び、「調光パネル140上でのグレア光源30の位置」と、本願発明1の「前記特定周波数光反応部材の面内での前記光源の位置」とは、上記ア及びウの相当関係をも踏まえると、「前記透過率を変更可能な部材の面内での前記光源の位置」という構成の限度で共通するといえることから、引用発明の「調光位置決定部260」と本願発明の「前記光源検知部の出力に基づいて前記特定周波数光反応部材の面内での前記光源の位置を算出する光源位置算出部」とは、上記ア、イ及びウの相当関係をも踏まえると、「前記光源検知部の出力に基づいて前記透過率を変更可能な部材の面内での前記光源の位置を算出する光源位置算出部」という構成の限度で共通するといえる。

以上によれば、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりとなる。

<一致点>
移動体から当該移動体の外部に存在する光源を検知する光源検知部と、
当該移動体を運転する運転者の前方に面状に配置されて、透過率を変更可能な部材と、
前記光源検知部の出力に基づいて前記透過率を変更可能な部材の面内での前記光源の位置を算出する光源位置算出部と、
を備える、
防眩装置。

<相違点1>
本願発明1は、透過率を変更可能な部材が、「特定周波数の光に反応して色が変化する特定周波数光反応部材」であり、透過率を変更するための構成として、「算出された光源の位置に基づいて前記特定周波数の光を移動体の内部から前記特定周波数光反応部材に照射する光照射部」という構成を備えるものであるのに対して、引用発明は、透過率を変更可能な部材が、「車両のサンバイザ22に設置され透過率を変更可能な調光パネル140」であり、透過率を変更するための構成として、「調光位置決定部260が決定した透過率調整領域について、当該透過率を実現する電圧を出力するよう指示する制御信号を駆動回路150に出力する」という構成を備えるものである点。

<相違点2>
本願発明1は、「前記特定周波数光反応部材の前記前方に配置されて、前記移動体の内部から前記特定周波数光反応部材を透過した前記特定周波数の光を前記移動体の外部に対して遮断する特定周波数光遮断部材と、を備え、
前記移動体の内部から外部に向けて、前記光照射部、前記特定周波数光反応部材、前記特定周波数光遮断部材の順に配置されている」という構成を有するものであるのに対して、引用発明は、そのような構成を有しない点。

(2)判断
ア 相違点1について
(ア)引用文献2には、「車両の速度に応じてウインドシールドガラスの可視範囲を変化させるようにした・・・車両用速度感知型可視範囲可変ウインド装置」に関し、「低速走行時は、ウインドシールドガラスの下方から車両前方近傍の路面がはっきり確認でき、高速走行時には、ウインドシールドガラスの下方部分を半透明または不透明に偏光させ、ウインドシールドガラスの可視範囲を変化させることによって、大型トラック等において視線移動が大きいことによる運転者の疲労を低減するとともに、高速走行時に、視線が車両前方近傍の路面に移ることによって生じる先行走行車への異常接近を防止して、従来の性能をさらに向上させる」(摘示(2b))という課題(以下「課題A」ということがある。)を解決するために、「偏光ウインドガラスに紫外線照射器により紫外線を照射し、紫外線の照射範囲のみ偏光させて、偏光ウインドガラスを半透明または不透明に偏光させるようになっており、上述紫外線照射器を駆動するサーボモータは、車両の速度センサとポテンショ型抵抗器の各出力電圧の差によって制御されるよう連結してあって、車両の速度に応じて駆動される紫外線照射器が、偏光ウインドガラスへの紫外線の照射範囲を移動させて、偏光ウインドガラスの可視範囲を変化させる」(摘示(2a))技術が記載されているといえる(以下かかる技術を「引用文献2技術」ということがある。)。
これに対して、引用発明は、「車両の防眩技術」の技術分野に属し、「車両の走行環境によらず、乗員の視野を必要以上に遮ることなく視認性を向上させる技術を提供する」(摘示(1a))という課題(以下「課題B」ということがある。)を解決するために、「調光位置決定部260は、調光パネル140上でのグレア光源30の位置および大きさを算出し、算出結果に基づき、調光パネル140の、透過率を低減させる領域を透過率調製領域と決定し、透過率決定部270は、透過率を決定し、調光位置決定部260が決定した透過率調整領域について、当該透過率を実現する電圧を出力するよう指示する制御信号を駆動回路150に出力する」という課題解決手段を備えるものということができる。
そうすると、引用発明は車両用の防眩装置に関する技術分野に属するものであるのに対し、引用文献2技術は、車速に応じてウインドシールドガラスの可視範囲を変化させる技術分野に属するものといえるから、両者は、技術分野が異なるし、上記課題A、Bのとおり、解決しようとする課題も相違するといえる。
したがって、技術分野及び課題の共通性の観点から、引用発明に引用文献2技術を適用する動機付けは存在しないというべきである。
(イ)しなしながら、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」は、「紫外線を照射」すると、「紫外線の照射範囲」が「半透明または不透明」に変化するものであり(摘示(2a))、ガラスが半透明または不透明になるということは、光の透過率が変化することに他ならないから、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」は、透過率を変更可能な部材ということができ、他方、引用発明の「調光パネル140」は、上記(1)ウで述べたように「透過率を変更可能な部材」ということができるから、引用発明の「調光パネル140」と引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」は、透過率を変更可能な部材という限度で共通し、部材としての作用、機能の共通性の観点から、一応、引用発明に引用文献2技術を適用する動機付けが存在するということができる。
(ウ)次に、引用発明に引用文献2技術を適用したときに、上記相違点1に係る本願発明1の構成に至れるかどうかについて検討する。
引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」は、紫外線が照射されると半透明または不透明となるものであるところ、紫外線は特定の周波数を有する電磁波(光)であること、紫外線の照射により半透明または不透明になるということは、紫外線に反応しているということができること、及び上記(イ)で述べたように、「偏光ウインドガラス」は透過率を変更可能な部材ということができることから、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」は、特定の周波数の光に反応して透過率が変更可能な部材ということができる。そして、上記(1)で述べたように、本願発明1の「特定の周波数の光に反応して色が変化する特定周波数反応部材」についても、特定の周波数の光に反応して透過率が変更可能な部材ということができるから、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」と、本願発明1の「特定の周波数の光に反応して色が変化する特定周波数光反応部材」とは、「特定の周波数の光に反応して透過率が変更可能な部材」の限度で共通するといえる。
また、引用文献2技術の「紫外線照射器」は、「偏光ウインドガラス」に対して紫外線を照射するものであるから、本願発明1の「光照射部」に相当するといえる。
しかしながら、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」が紫外線照射により半透明または不透明になることと、「偏光ウインドガラス」の色が変化することとは、以下に述べるように必ずしも同義ないし等価とはいえないから、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」は、「特定の周波数の光に反応して色が変化する」ものということはできない。
(エ)透明は、「すきとおること。くもりなく明らかなこと。〔理〕物体が光などの電磁波をとおすこと。」を意味し、半透明は「透明の程度の少ないこと。なかば透き通っていること。」を意味し、不透明は「すきとおっていないさま。物質が光を通さないこと。」を意味するのであって(いずれも株式会社岩波書店 広辞苑第六版参照)、透明、半透明又は不透明の相互変化は、くもりの度合いが変化すること、つまり、透明度ないし明度が変化することということができるとしても、色が変化すること、すなわち色度ないし色彩が変化することということはできない。
また、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」が紫外線の照射により半透明又は不透明になる現象は、かかる「偏光ウインドガラス」の偏光機能により生じるものであり(摘示(2c))、不透明になるのは光が偏光ウインドガラスを透過しないからであって、偏光ウインドガラス自体の色が変化するものとはいえない。
したがって、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」が半透明または不透明になることと、「偏光ウインドガラス」の色が変化することとは技術的に必ずしも同義ないし等価とはいえない。
(エ)以上より、引用文献2技術の「偏光ウインドガラス」は、本願発明1の「特定の周波数の光に反応して色が変化する」「特定周波数光反応部材」に相当するものとはいえないから、引用発明に引用文献2技術を適用しても、上記相違点1に係る本願発明1の「特定の周波数の光に反応して色が変化する」「特定周波数光反応部材」には至らない。
よって、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献2技術に基づいて当業者が容易に想到しうるものとはいえない。

イ 相違点2について
(ア)上記摘示(3c)によれば、引用文献3には、「ガラス板4の室外側にUVカット層6を設けることにより、紫外線が外部に漏れることが防止する技術」が記載されているといえる(以下「引用文献3技術」ということがある。)
そして、引用文献3技術の「UVカット層6」は、機能的にみて、本願発明1の「特定周波数光遮断部材」に相当するといえる。
(イ)引用発明は、そもそも紫外線照射装置を有するものではなく、紫外線が車両の外に漏れ、周囲に影響等を及ぼす等の不都合が生じることは想定されないから、たとえ、「ガラス板4の室外側にUVカット層6を設けることにより、紫外線が外部に漏れることを防止する」引用文献3技術が公知ないし周知ともいえる技術であったとしても、引用発明に引用文献3技術ないし周知技術を適用する動機付けは存在しない。
したがって、引用発明に引用文献3技術を適用することは容易になし得ることとはいえない。
(イ)もっとも、上記第2によれば、原査定では、引用発明に引用文献2技術を適用した際に、車両の外に紫外線を漏洩させないようにするために、併せて引用文献3技術を適用し、相違点2に係る本願発明1の構成とすることは容易想到である旨の論理構成を採用しているようなので、その論理構成が妥当かどうかについて以下検討する。
(ウ)上記ア(ア)で述べたとおり、引用発明は、「車両の防眩技術」の技術分野に属し、「車両の走行環境によらず、乗員の視野を必要以上に遮ることなく視認性を向上させる技術を提供する」という課題を解決するために、「調光位置決定部260は、調光パネル140上でのグレア光源30の位置および大きさを算出し、算出結果に基づき、調光パネル140の、透過率を低減させる領域を透過率調製領域と決定し、透過率決定部270は、透過率を決定し、調光位置決定部260が決定した透過率調整領域について、当該透過率を実現する電圧を出力するよう指示する制御信号を駆動回路150に出力する」という課題解決手段を採用したものということができる。
そうすると、調光位置決定部260、透過率決定部270、駆動回路150等の各手段を備える引用発明によって、「車両の走行環境によらず、乗員の視野を必要以上に遮ることなく視認性を向上させる技術を提供する」という課題、すなわち、視野を必要以上に遮ることなく防眩性を向上させるという課題は既に解決されているということができる。
(エ)ここで、一般に、紫外線は、外に漏れると周囲に影響を及ぼす等の不都合が生じる電磁波であることは技術的に明らかであるから(例えば、特開平5-220991号公報の段落【0004】参照)、当業者は、かかる紫外線の採用が発明の課題解決に当たり必要不可欠なものであるとか、他に代替する手段がないなどの特段の事情がない限り、周囲に影響等を及ぼす等の不都合が生じるような紫外線を外部に漏洩するような使用形態での使用は避けたいと考えるのが自然である。
(オ)上記(ウ)で述べたとおり、引用発明において、必要以上に視野を遮ることなく、防眩性を向上させるという課題は既に解決済みということができるから、引用発明においては、上記(エ)で述べたような特段の事情は見当たらないというべきである。
さらに付言するならば、引用文献2技術のような紫外線が外部に漏洩するような使用形態で紫外線照射器を使用する際に、併せて、引用文献3技術のような紫外線を遮断する部材(UVカット層6)を適用する場合には、かかる紫外線照射器のみならず、紫外線を遮断する部材をも追加することになるから、部品点数やコスト面でのメリットが得にくいというマイナス要素が付加されるということもできる。
以上述べたことに基づき総合的に判断すると、引用発明において、あえて引用文献2技術及び引用文献3技術を併せて採用するような動機付けは存在しないというべきであるから、引用発明、引用文献2技術及び引用文献3技術に基づき、相違点2に係る本願発明1の構成を有するものとすることは当業者が容易に想到しうるものとはいえない。

なお、引用文献4及び5は、本願発明4及び5に対する拒絶の理由に引用された刊行物であるところ、上記相違点に係る本願発明の構成は記載も示唆もされていない。

以上によれば、本願発明1は、引用発明、引用文献2技術及び引用文献3技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2ないし5は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるので、引用発明、引用文献2技術及び引用文献3技術に加え、引用文献4及び5をも参照しても、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、引用発明、引用文献2技術、引用文献3技術、並びに、引用文献4及び5に記載されている事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-07-17 
出願番号 特願2014-245640(P2014-245640)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森本 康正  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 和田 雄二
氏原 康宏
発明の名称 防眩装置  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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