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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47L
管理番号 1342273
審判番号 不服2017-3276  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-06 
確定日 2018-07-10 
事件の表示 特願2014- 36351号「掃除機ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月10日出願公開、特開2014-128702号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年6月9日(パリ条約による優先権主張2009年6月9日、英国(GB))に出願した特願2010-132236号の一部を平成26年2月27日に新たな特許出願としたものであって、平成27年2月20日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成27年8月20日に意見書が提出され、その後、平成28年2月1日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成28年5月9日に意見書が提出されたが、平成28年10月31日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年3月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
表面処理電気器具のための攪拌装置であって、
1x10^(-5)から1x10^(12)Ω/sqの範囲の表面抵抗率を有する剛毛の少なくとも1つの実質的に連続な列が本体から外向きに延びた回転可能な本体、を含み、前記剛毛は、炭素繊維から形成されており、前記回転可能な本体は、更に別の表面攪拌手段を含むことを特徴とする装置。」

第3 引用刊行物
1 刊行物1
(1)刊行物1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-136457号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は家庭用電動掃除機、特に被掃除面に空気を吹付けて塵埃を浮遊させ、それを吸引する排気循環式掃除機に関するものである。
・・・略・・・
【0007】これに対し、図9のような従来の排気循環式掃除機では、吸引式掃除機が抱える上述の問題は回避できるものの、正圧の排気を吸引ノズル内に返送するため、これにより吸引力の強い部分(高負圧域)が狭められ、マットやフローリングなどの表面に静電気で吸着している髪の毛やペット毛等を集塵するのに、吸引力が不足するという問題があった。そしてこの静電気対策として、従来吸込ノズルに除電部を設けて除電を行うという提案もあるが、一般的な除電にすぎず、排気循環式掃除機で役立つような効果的な除電効果は期待できないものであった。このように、排気循環式掃除機は電動送風機39の出力を比較的小さくできるという利点はあるものの、吸込部37内を高真空にして外部の空気を大量に吸引するものではなく、静電気で吸着している塵埃を吸引するのはかなり難しいものであった。
【0008】そこでこのような従来の問題点を解決するために、本発明は、室内の空気を汚すことなく掃除を行なうことができ、マットやフローリング表面に静電気によって吸着している髪の毛やペット毛等も確実に集塵する排気循環式掃除機を提供することを目的とする。」(段落【0001】ないし【0008】)

イ 「【0027】(実施の形態1)図1は本発明の実施の形態1における排気循環式掃除機の全体構成図を示す。図2は本発明の実施の形態1における排気循環式掃除機の吸込ノズルの拡大図で、図3は本発明の実施の形態1における排気循環式掃除機の吸込ノズル底面の拡大図である。
【0028】図1において、1は被掃除面の1つである床面である。2は吸込ノズル、3はノズル継手、4は掃除機本体、5は集塵室、6は集塵フィルタである。7はファンケーシング、8は吸込ファン、9は吸込ファン吸込口、10はモータ、11は吸込ファン吐出口である。そして、ファンケーシング7、吸込ファン8、吸込ファン吸込口9、モータ10、吸込ファン吐出口11が本実施の形態1の排気循環式掃除機の電動送風機を構成するものである。
【0029】12は掃除機本体4に設けられた第1排気通路、13は操作用の取手、14は掃除機を起動したり、停止するための動作スイッチ、15はモータ10などに給電する電源コードである。16は、吸込ノズル2内の第1排気通路12の端部に設けられ、床面1に排気を吹き付けることができる第1吹付部である。17は吸込ノズル2内で第1吹付部16により2分割された一方の第1吸込室、18は同じく第1吹付部16により2分割された他方の第2吸込室である。19は第1吸込室17に設けられた第1吸込口、20は第2吸込室18に設けられた第2吸込口である。この第1吸込口19と第2吸込口20によって床面1を覆った吸込ノズル2内の空気を吸込ファン8の作用で吸引する。21は第1吸込室17を床面1に向けて開口された第1開口、22は第2吸込室18を床面1に向けて開口された第2開口である。
【0030】23は、第1吹付部16の前方で第1吸込室17側壁面に設けられ、静電気を除電するために導電性材料で形成された第1除電部材である。第1除電部材23の先端は床面1と微小距離の位置に置かれている。24はローラ、25は第1除電部材23の両端に設けられた第2排気通路である。」(段落【0027】ないし【0030】)

ウ 「【0036】図2、図3において、本実施の形態1の排気循環式掃除機を用いて吸引する時の吸込ノズル2の動作、作用について説明する。循環風は、第1排気通路12を通り第1吹付部16から床面1に矢印d1で示すように吹付けられ、床面1で流れの向きを変えるが、床面1上の塵埃はこのときの動圧(衝撃力)で巻き上がり、第1吸込室17及び第2吸込室18内でそれぞれ浮遊状態となる。このとき吸込ファン8が運転されているから、塵埃はこの吸引作用で矢印eおよび矢印fで示すように第1吸込口19および第2吸込口20を通って吸込まれる。
【0037】第1吹付部16を吸込ノズル2の中間に設けて吸込ノズル2内を2つに分割しているのは、第1に、第1吸込室17で集塵できなかった塵埃を、吸込ノズル2の走行により再度第2吸込室18内で第2段目の集塵することで集塵能力の向上を図るためである。また、第2の理由として、床面1に吹付けられた後に様々な方向に反射する循環風を前後2室で分けて吸込むことで、吸込ノズル2からの循環風の漏れ防止が図れることがあげられる。例えば、吸込ノズル2の先頭に第1吹付部16を設けると、第1吹付部16の前方への流れは外部への漏れとなるが、第1吹付部16を吸込ノズル2の中間に設けることで漏れ防止が可能になるものである。
【0038】ところで、床面1にはフローリング、畳、絨毯、塩ビマット等、様々な種類があり、それに散在する塵埃も、砂や埃、人間やペット等の体毛、木綿や羊毛やアクリル等の化学繊維の糸屑、食物の欠片等、多種多様なものが存在する。これらの床面1と塵埃との組合せで、帯電系列の離れた、例えば塩ビマット上に人毛やペット毛、ポリプロピレン性の絨毯上にナイロンの糸屑等の組合せができ、しかも冬場の室内のような低温低湿度の環境であればあるほど、床面1と塵埃の間に摩擦帯電や剥離帯電による静電気が発生し、塵埃が床面1上に吸着された状態となり、掃除機で集塵することが非常に困難になってしまう。とくに排気循環式掃除機は正圧の循環風を吸込ノズル2に戻すから、吸込ノズル2内の負圧域は比較的狭くなり、静電気で吸着している塵埃を吸引するには、更に動圧を上げるか、静電気を除電するしかない。
【0039】そこで、本発明の実施の形態1における排気循環式掃除機においては、第1吹付部16の前方で第1吸込室17側壁面に、導電性材料で形成された第1除電部材23を設置し、これにより床面の静電気をコロナ放電等で除去し、静電気の発生した床面での集塵性能の向上を図っている。ここでの第1除電部材の材料としては、ステンレス等の金属繊維、アクリルもしくはナイロン繊維の表面にCu_(9)S_(5)等の導電性皮膜を形成した導電性皮膜繊維、カーボン繊維、カーボン複合繊維、導電性ゴム、導電性シリコン、導電性ウレタン等があげられる。また例えば、導電性皮膜繊維とナイロン繊維等を混合した混毛繊維(混合材料)等を使用することも可能で、この場合はナイロン繊維が導電性皮膜繊維を保護するため、耐摩耗性が向上する。」(段落【0036】ないし【0039】)

エ 「【0043】(実施の形態2)本発明の実施の形態2における排気循環式掃除機について、図面に基づいて以下説明する。図7は、本発明の実施の形態2における排気循環式掃除機の全体構成図である。実施の形態2の排気循環式掃除機において、実施の形態1の排気循環式掃除機と同符号の部材は基本的に同一のものであるから、詳細な説明は実施の形態1に譲ってここでは省略する。
【0044】図7において、30は回転ブラシ、31は第1排気通路12から分岐された第2吹付部、32は第2除電部材、33は保持溝、34は回転軸、35は保持部材、36は掃除機本体である。本実施の形態2の排気循環式掃除機において、実施の形態1の排気循環式掃除機と異なる点は、第1吸込室17内部に、回転ブラシ30、第2吹付部31、保持部材35、保持溝33、第2除電部材32を有している点である。回転ブラシ30は回転ブレード(図示せず)でもよいし、回転ブラシ30と回転ブレードの双方が一緒に設けられるのでも、両者が混在した形態でもよい。
【0045】次に本実施の形態2の排気循環式掃除機を用いて吸引する時の吸込ノズル2の動作、作用について説明する。動作スイッチ14を入れると実施の形態1と同様の動作が行われるとともに、回転ブラシ30が回転する。回転ブラシ30は、小型のモータ(図示せず)を吸込ノズル2内部に設置してタイミングベルトなどで連結し回転させてもよいし、第2吹付部によって吹付けられる循環風を利用し風力によって回転させてもよい。この回転ブラシ30の回転による衝撃力が付加されることにより、絨毯の内部に混入した塵埃も掻き出すことが可能となり、集塵性能がさらに向上する。また回転ブラシ30のブラシ部を導電性材料で形成した場合は、床面1と接触する前後においてコロナ放電し、床面1の静電気除去性能がさらに向上する。
【0046】この回転ブラシ30のブラシ部の導電性材料として、ステンレス等の金属ブラシ、アクリルもしくはナイロンの表面にCu_(9)S_(5)等の導電性皮膜を形成した導電性皮膜ブラシ、カーボンブラシ、カーボン複合ブラシ、導電性皮膜ブラシとナイロンブラシ等を混合した混毛ブラシ(混合材料)等をあげることができる。また回転ブレード30を用いた場合でブレード部に導電性材料を用いる場合は、導電性ゴム、導電性シリコン、導電性ウレタン等が適当である。
【0047】また回転ブラシ30を第1吸込室17に設置した場合、第1吸込室17の容量は回転ブラシ30を設置する分だけ容量が余分に必要となるが、第1吸込室17の容量は小さくするほど好ましい。その理由は、第1吸込室17の容量が大きいと第1吸込室17内の風速が低下するからである。しかし、過度に小型化を図ると、回転ブラシ30が第1除電部材23に接近し過ぎ、比較的大きさの大きい塵埃が集塵できなくなる。従って回転ブラシ30と第1除電部材23の間の間隔には適度の距離を開けることが必要であって、例えば回転ブラシ30の直径が30mm程度であれば、回転ブラシ30と床面との接触点から第1除電部材23まで距離は15?20mm程度に設定するのが好ましい。
【0048】また、図8の本発明の実施の形態2における排気循環式掃除機の吸込ノズル底面の拡大図に示すように、回転ブラシ30の片側端部に突出された回転軸34を保持する吸込ノズル2の一部を保持部材35とし、脱着可能とすれば回転ブラシ30の洗浄や交換にかかるメンテナンスが容易となる。このとき第1除電部材23を図6に示すような形態とし、吸込ノズル2に保持溝33を設け、第1除電部材23の金属板29の両端部のみを固定する構成とすれば、保持部材35により回転ブラシ30と併せて第1除電部材23の脱着が可能となる。
【0049】第2吹付部31は、矢印d3で示すように第1吸込室17に循環風を吹付けるが、この循環風は第1吹付部から吹付けられる矢印d2で示す循環風と逆方向であるため、これを抑制し吸込ノズル2前方からのエアー漏れの防止が容易となる。
【0050】第2除電部材32は、矢印d1で示す循環風の吸込ノズル2後方からのエアー漏れの防止を行うとともに、これを導電性材料で形成した場合は第1吹付部16から吹出される循環風により静電気が発生しても、これを除電することが可能で、清掃終了後も床面1に静電気を残すことがない。第2除電部材の材料としては、上述した第1除電部材と同様の材料を用いることができる。」(段落【0043】ないし【0050】)

オ 「【0055】請求項5に記載の排気循環式掃除機は、第1除電部材がカーボン繊維であるから、材質的に非常に高い静電気の除去性能を得ることができ、静電気の発生した掃除面での往復回数を減らし無駄の無い掃除ができるため、省エネの掃除機にすることができる。」(段落【0055】)

カ 「【0058】請求項8に記載の排気循環式掃除機は、回転ブラシのブラシ部材及び/または回転ブレードのブレード部材が導電性材料で形成されているので、回転ブラシ及び/または回転ブレードにも静電気除去能力を付加することで、更なる静電気除去能力の向上が可能となり、静電気の発生した掃除面での往復回数を減らし無駄のない掃除ができるため、省エネの掃除機にすることができる。」(段落【0058】)

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)アないしカの記載並びに図1ないし3、7及び8の記載によれば、刊行物1には、排気循環式掃除機のための回転ブラシ30が記載されていることが分かる。

イ 上記(1)エの記載並びに図7及び8の記載によれば、刊行物1には、導電性材料で形成したブラシ部とブラシ部が取り付けられる回転可能な本体の部分(以下「本体部」という。)を含み、回転可能な本体部において、ブラシ部が本体部から外向きに延びた態様である回転ブラシ30が記載されていることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)を総合して、本願発明の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「排気循環式掃除機のための回転ブラシ30であって、
ブラシ部が本体部から外向きに延びた回転可能な本体部、を含み、前記ブラシ部は、導電性材料から形成されている回転ブラシ30。」

2 刊行物2
(1)刊行物2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-60775号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気掃除機用吸込具及び前記吸込具を用いた電気掃除機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来この種の電気掃除機用吸込具は、図10?12に示すようなものが一般的であった。吸込具本体内1にアジテ-タ-2を内設し、上記アジテタ-2は、回転自在な回転子3と、上記回転子の周囲長手方向に複数設けられた突状帯4および微細繊維のカットパイル状の紡績布から成る起毛布ブラシ体5等から構成され、電動モ-タ-(図示せず)あるいは吸込風を利用したエアタ-ビン(図示せず)等を駆動源として利用して上記アジテ-タ-2が回転し、床面6や絨毯面7などの掃除面に突状帯4およびブラシ体5を衝突させることにより、ごみをかきあげ掃除している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のアジテ-タ-の構成では、図11に示すようにブラシ体の先端部は床面と当接するよう設定されているため、絨毯面上では図12に示すようにブラシ体5の毛先のカット端面5aが回転方向の後方に逃げることにより、ごみをかきあげる力が低減する等の課題を有していた。
【0004】本発明は以上のような従来の課題を解決するものであって、特に絨毯上でのごみのかきあげ力を改良し、集塵性能の向上を図った電気掃除機用吸込具を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するために、回転自在のアジテ-タ-を内設し、前記アジテ-タ-を回転子と、前記回転子の周囲の長手方向に設けたブラシ体で形成し、前記ブラシ体を突出代の異なるブラシ群で構成としたものである。」(段落【0001】ないし【0005】)

イ 「【0015】
【実施例】以下、本発明の第1の実施例を、図1?3を用いて説明する。図1、2、3において、吸込具本体11は上部枠体12と下部枠体13にて構成されており、内部に集塵室14を有し、上記集塵室14の掃除面方向には下部枠体13に開口15が設けられている。そして、吸込具後部にはパイプ16を有し、上記パイプ16内部には前記集塵室14から吸引口17を介し電気掃除機本体32よりの吸引を伝達する通路18が設けられている。また、上記集塵室14内にアジテ-タ-19を内設し、上記アジテ-タ-19は、回転自在な回転子20と、上記回転子20の周囲の長手方向に連続した溝部21を複数設け、上記溝部21に突状帯22およびブラシ体23を嵌着して形成されている。上記ブラシ体23は、本発明では微細繊維のカットパイル状の紡績布から成る起毛布ブラシ体を用いており、突出代の異なる2種類のブラシ群から一体にて構成され、突出代の大きいブラシ群24の先端部は床面25と当接する長さに設定し、上記突状帯22の先端部と突出代の小さいブラシ群26先端部が絨毯面27に当接する長さに設定してある。
【0016】上記構成による動作、作用は以下の通りである。アジテ-タ-19は電動モ-タ-(図示せず)あるいは吸込風を利用したエアタ-ビン(図示せず)等の駆動源により回転する。突出代の大きいブラシ群24の先端部は床面25と当接するよう設定し、突状帯22と突出代の小さいブラシ群26先端部は絨毯面27に当接するよう設定してあるため、上記アジテ-タ-19の回転時、床面25上では突出代の大きいブラシ群24の毛先カット面が床面25をはきだすように相対的に移動することにより床面25に付着しているごみのかきあげを行う。また、絨毯面27においては、突状帯22の先端部と突出代の小さいブラシ群26の毛先カット面が絨毯面27をかきわけるように相対的に移動することで、絨毯面27に付着しているごみのかきあげが行え、床面25と絨毯面27のいずれの場合にもそれぞれ適した長さのブラシ群を一個のブラシ体に同時に設けたことにより、回転子へのブラシ体の挿入工数増加等のコストアップも生ずることなく、すべての掃除面を効率良く掃除できるものである。」(段落【0015】ないし【0016】)

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)ア及びイの記載並びに図1ないし3及び10ないし12の記載によれば、刊行物2には、電気掃除機のためのアジテーターが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)ア及びイの記載並びに図1ないし3及び10ないし12の記載によれば、刊行物2に記載されたアジテーターにおいて、ブラシ体とは別に回転子に設けられた突状帯は、絨毯面に付着しているごみのかきあげを行うことが分かる。

(3)刊行物2記載の技術
上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物2には、次の事項からなる技術(以下「刊行物2記載の技術」という。)が記載されていると認める。
「電気掃除機のためのアジテーターにおいて、ブラシ体を設けた回転子に、更に突状帯を設け、絨毯面に付着しているごみのかきあげを行うこと。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・本願発明の「表面処理電気器具」は、本願の明細書の段落【0012】における「用語「表面処理電気器具」は、広範囲の意味を有することが意図され、かつ何らかの方式で表面を清掃するか又は処理するために表面にわたって作業するための本体及びヘッドを有する広範囲の機械を含む。それは、特に、カーペット掃除機のような単に表面を攪拌する機械と、表面から物質を引き込むための真空掃除機(乾式、湿式、及び湿式/乾式)のような表面に対して吸引を印加するだけの機械と、研磨/ワックス機械、圧力洗浄機、及びシャンプー機械のような表面に対して材料を適用する機械とを含む。」との記載によれば、引用発明の「排気循環式掃除機」を含むことから、引用発明の「排気循環式掃除機」は、本願発明の「表面処理電気器具」に相当する。
・引用発明の「回転ブラシ30」は、本願発明の「攪拌装置」及び「装置」に相当する。
・引用発明の「ブラシ部」は、本願発明の「剛毛の少なくとも1つの実質的に連続な列」に、「剛毛の部材」という限りにおいて一致する。
・引用発明の「本体部」は、本願発明の「本体」に相当する。
・引用発明の「ブラシ部は、導電性材料から形成されている」は、本願発明の「剛毛は、炭素繊維から形成されて」いることに、「剛毛は、導電性材料から形成されて」いるという限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「表面処理電気器具のための攪拌装置であって、
剛毛の部材が本体から外向きに延びた回転可能な本体、を含み、前記剛毛は、導電性材料から形成されている装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、剛毛が「1x10^(-5)から1x10^(12)Ω/sqの範囲の表面抵抗率を有する」のに対して、引用発明は、表面抵抗率が特定されていない点(以下「相違点1」という。)。

[相違点2]
本願発明は、剛毛の部材が「剛毛の少なくとも1つの実質的に連続な列」であるのに対して、引用発明のブラシ部は、そのようになっているか否か不明である点(以下「相違点2」という。)。

[相違点3]
本願発明は、剛毛が「炭素繊維」から形成されているのに対して、引用発明のブラシ部は、炭素繊維から形成されているとまでは特定されていない点(以下「相違点3」という。)。

[相違点4]
本願発明は、回転可能な本体が「更に別の表面攪拌手段」を含むのに対して、引用発明は、「更に別の表面攪拌手段」を含んでいない点(以下「相違点4」という。)。

第5 判断
1 相違点の検討
(1)相違点1及び3について
刊行物1には、上記第3の1(1)エにおける段落【0046】の記載によれば、回転ブラシ30のブラシ部にカーボンブラシを用いることが例示されているところ、同刊行物1における上記第3の1(1)ウの段落【0039】の記載によれば、床面の静電気を除去するための除電部材の材料として、「カーボン繊維」を使用することが示唆され、しかも、静電気を除去するためのカーボンブラシを炭素繊維より構成することが、本願の優先日前に周知の技術(以下「周知技術1」という。例えば、実願昭56-169166号(実開昭58-75309号)のマイクロフィルム(特に、明細書10ページ2ないし14行)、特開2002-78951号公報(特に、段落【0014】及び【0022】並びに図3及び5)、特開2001-340613号公報(特に、段落【0007】及び【0023】並びに図5及び7)を参照。)であることを考慮すると、引用発明において、ブラシ部を炭素繊維から形成することは、当業者が適宜なし得たことである。
また、引用発明において、回転ブラシ30(攪拌装置)のブラシ部の導電性材料について、床面1の静電気を除去するために、表面抵抗率を好適化することは、当業者が当然に考慮することである。
そして、本願発明において、剛毛の表面抵抗率を1x10^(-5)から1x10^(12)Ω/sqの範囲としたのは、本願明細書の段落【0005】に記載されているように、清掃される床面上に存在する静電気が剛毛と床面の間の接触時に放電することを可能にするという効果を奏するためであり、その効果は引用発明の回転ブラシ30(攪拌装置)のブラシ部による、床面の静電気を除去する効果と同質の効果といえるところ、本願発明が、剛毛の表面抵抗率を1x10^(-5)から1x10^(12)Ω/sqの範囲としたことについては、これによって際だって優れた効果を奏するものと認めることができず、本願発明の上記効果を奏し得る範囲を示した以上の格別な技術的意義を認めることができない。
そうすると、引用発明において、ブラシ部を炭素繊維から形成し、その表面抵抗率を1x10^(-5)から1x10^(12)Ω/sqの範囲とし、上記相違点1及び3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者にとって格別困難ではない。

(2)相違点2について
掃除機に用いられる回転ブラシにみられるような表面処理電気器具のための攪拌装置において、剛毛の少なくとも1つの実質的に連続な列が回転可能な本体から外向きに延びた構成とすることは、本願の優先日前に周知の技術(以下「周知技術2」という。例えば、刊行物2(特に、段落【0015】及び【0016】並びに図1ないし3)及び特開2003-52584号公報(特に、段落【0017】及び【0018】並びに図1及び3)を参照。)であり、引用発明において、ごみの除去を確実に行うべく、周知技術2を適用して、ブラシ部を「剛毛の少なくとも1つの実質的に連続な列」とし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(3)相違点4について
表面処理電気器具である掃除機において、絨毯面に付着しているごみの除去を確実に行うことは、本願の優先日前において周知の課題であって、引用発明においても当然に考慮すべき内在する課題である。
一方、刊行物2記載の技術は、ブラシ体と共に突状帯(本願発明の「別の表面攪拌手段」に相当。)を回転子(本願発明の「回転可能な本体」に相当。)に設けることで、絨毯面に付着しているごみのかきあげを行うものであり、絨毯面に付着しているごみの除去を確実に行うことを期待できるのであるから、引用発明において、刊行物2記載の技術を適用し、ブラシ部が本体部から外向きに延びた回転可能な本体部(本願発明の「回転可能な本体」に相当。)が更に突状帯(別の表面攪拌手段)を含むようにし、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者にとって格別困難ではない。

なお、請求人は、審判請求書において、「引用文献1と引用文献2の開示を組み合わせると、その組み合わせは当然にこの静電ストリップを含むことになろう。したがって、引用文献1、2の開示に基づいたとき、当業者は、さらにこの静電ストリップをあえて除去して、本願発明にあるように、回転可能な本体に更に別の表面攪拌手段を設けようとはしないであろう。」と主張し、また、「引用文献1においては、静止第1除電部材によって課題は簡易な仕方で解決済みであり、随意的特徴である回転ブラシ30に、更に別の攪拌手段を設けようとする動機付けは働かない。」と主張する。
しかしながら、上述したとおり、引用発明において、絨毯面に付着しているごみの除去を確実に行うという内在する課題によって、刊行物2記載の技術を適用する動機付けはあるから、請求人の上記主張は採用することができない。

2 効果について
そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、刊行物2記載の技術並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

3 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の技術並びに周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-09 
結審通知日 2018-02-13 
審決日 2018-02-27 
出願番号 特願2014-36351(P2014-36351)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 幸弘芝井 隆  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 井上 哲男
槙原 進
発明の名称 掃除機ヘッド  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山本 泰史  
代理人 弟子丸 健  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 松下 満  

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