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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1342551
審判番号 不服2016-6990  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-12 
確定日 2018-07-18 
事件の表示 特願2014-553759「分散相重合用のリビングポリ(N-ビニルラクタム)反応安定剤」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日国際公開、WO2013/113750、平成27年 2月16日国内公表、特表2015-504959〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年1月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年1月31日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月11日付け(発送日:同年8月18日)で拒絶理由が通知され、同年12月11日に手続補正書及び意見書が提出され、平成28年1月7日付け(発送日:同年1月12日)で拒絶査定がされたところ、これに対して、同年5月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年6月3日付けで前置報告書が作成され、平成29年5月30日付け(発送日:同年6月6日)で当審から拒絶理由が通知され、同年10月20日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成29年10月20日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであって、そのうち、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「反応安定剤の存在下での分散相重合の工程(E1)を含む、ポリマーの製造方法であって、次のもの:
- 少なくとも1つのエチレン系不飽和モノマー;
- 少なくとも1つのフリーラジカル源;および
- N-(ビニルラクタム)モノマー単位とチオカルボニルチオ基-S(C=S)-とを含むポリマー鎖を含む反応安定剤
が水相で接触させられ、反応安定剤上に存在するチオカルボニルチオ基がザンテートであり、工程(E1)が、40℃未満の温度で行われる、方法。」

第3 平成29年5月30日付けの拒絶理由の概要
当審における平成29年5月30日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、以下のものを含むものである。

「1 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・・

・・・
(1)請求項1ないし13

(2)引用文献等
引用文献1 特開2009-173943号公報
引用文献2 Graema Moad, et al. Radical addition-fragmentation chemistry in polymer synthesis, Polymer, 49 (2008) 1079-1131.」

第4 当審拒絶理由についての判断
1 刊行物の記載事項
(1)引用文献1には、次の記載がある。
ア「ポリマー粒子の水性分散液を製造し、そしてこの水性分散液を1つ又はそれ以上のペイント用成分と一緒にすることを含む、ペイントの製造方法であって、
前記水性分散液が、次の工程、
(i)連続水性相と、1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマーを含む分散有機相と、該有機相用の安定剤としての両親媒性RAFT剤とを有する分散液を作製し、そして
(ii)該両親媒性RAFT剤の制御下で該1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマーを重合してポリマー粒子の水性分散液を形成させる工程を含む方法によって製造された、ポリマー粒子の水性分散液である、
ここで、前記両親媒性RAFT剤が、一般式(4)で表せられる、
【化6】

〔ここで、各Xは独立してエチレン系不飽和モノマーの重合残基であり、nは0から100の範囲の整数であり、R^(1)は1個又はそれ以上の親水性基で置換されてもよい有機基であり、
そしてZ基が、ラジカル付加の方にチオカルボニル基の十分な反応性を促進し得る一方、重合の容認され得ない遅延になる程度まではフラグメント化速度を遅くしないいかなる基でもある。]
ペイントの製造方法。」
(特許請求の範囲 請求項7)

イ「本発明の方法は、有利には、慣用界面活性剤を必要とすることなしにポリマー粒子の水性分散液を形成する能力を与える。加えて、該方法は、RAFT制御重合下でポリマー粒子を形成する手段を与える。」
(段落【0022】)

ウ「本発明において用いるのに適した両親媒性RAFT剤は、一般式(4)
【化5】

(ここで、各Xは独立してエチレン系不飽和モノマーの重合残基であり、nは0から100好ましくは0から60最も好ましくは0から30の範囲の整数であり、R^(1)は1個又はそれ以上の親水性基で置換されてもよい有機基であり、そしてZはラジカル付加の方にチオカルボニル基の十分な反応性を促進し得る一方、重合の容認され得ない遅延になる程度まではフラグメント化速度を遅くしないいかなる基でもある)を有するものを包含する。好ましいR^(1)基は、・・・。好ましいZ基は、置換又は非置換アルコキシ、置換又は非置換アリールオキシ、置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換ヘテロシクリル、置換又は非置換アリールアルキル、置換又は非置換アルキルチオ、置換又は非置換アリールアルキルチオ、ジアルコキシ-又はジアリールオキシ-ホスフィニル[-P(=O)OR^(2)_(2)]、ジアルキル-又はジアリール-ホスフィニル[-P(=O)R^(2)_(2)]、置換又は非置換アシルアミノ、置換又は非置換アシルイミノ、置換又は非置換アミノ、R^(1)-(X)_(n)-S-及びいかなるメカニズムによっても形成されたポリマー鎖を包含し、ここでR^(1)、X及びnは上記に定義されたとおりであり、そしてR^(2)は置換又は非置換C_(1)?C_(18)アルキル、置換又は非置換C_(2)?C_(18)アルケニル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換ヘテロシクリル、置換又は非置換アラルキル、置換又は非置換アルカリールから成る群から選択される。・・・」
(段落【0033】)

エ「重合は、通常、フリーラジカルの源からの開始を必要とする。開始ラジカルの源は、適当な化合物(過酸化物、ペルオキシエステル又はアゾ化合物のような熱開始剤)の熱誘発ホモリチック開裂、モノマー(たとえば、スチレン)からの自然発生、レドックス開始系、光化学開始系、又は電子ビーム、X線若しくはガンマ線のような高エネルギー放射線のような、フリーラジカルを発生させるいかなる適当な方法によっても与えられ得る。開始系は、反応条件下で、開始剤又は開始ラジカルと反応の条件下の両親媒性RAFT剤との不都合な相互作用が実質的にないように選ばれる。開始剤は、理想的には、反応媒質中における所要溶解性も有すべきである。
・・・
レドックス開始剤系は、反応媒質中における所要溶解性を有しかつ重合の条件下でラジカル生成の適切な速度を有するように選ばれる。この開始系は、次の酸化体及び還元体の組合わせを包含し得るが、しかしそれらに制限されない。すなわち、
酸化体: ペルオキシ二硫酸カリウム、過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド
還元体: 鉄(II)、チタン(III)、チオ亜硫酸カリウム、重亜硫酸カリウム。」
(段落【0067】?【0070】)

オ「懸濁重合用の好ましい開始系は、重合されるべきモノマー中に認められ得るくらいに可溶であるものである。・・・容易に入手できる化合物の他のクラスは、アセチル及びベンゾイルペルオキシドのようなアシルペルオキシドクラス、並びにクミル及びt-ブチルペルオキシドのようなアルキルペルオキシドである。t-ブチル及びクミルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドもまた、広範に用いられる。懸濁法に適用できる好都合な開始方法は、ラジカル生成が比較的温和な温度において起こるレドックス開始である。これは、熱誘発凝集過程がないようにポリマー粒子の安定性を維持するのを助け得る。」
(段落【0073】)

カ「広範囲のエチレン系不飽和モノマーが、本発明の方法に従って用いられ得る。適当なモノマーは、フリーラジカル法により重合され得るものである。該モノマーはまた、他のモノマーと重合されることが可能であるべきである。様々なモノマーの共重合性を決定する因子は、当該技術において十分に文献に記載されている。たとえば、Greenlee,R.Z.,Polymer Handbook,第3版(編者Brandup,J.及びImmergut.E.H.),Wiley,ニューヨーク,1989,p.II/53が参照される。かかるモノマーは、一般式(14)を有するものを包含する。すなわち、
【化9】

ここで、
U及びWは独立して、-CO_(2)H、-CO_(2)R^(2)、-COR^(2)、-CSR^(2)、-CSOR^(2)、-COSR^(2)、-CONH_(2)、-CONHR^(2)、-CONR^(2)_(2)、水素、ハロゲン及び随意に置換されたC_(1)?C_(4)アルキル・・・から成る群から選択され、そして
Vは、水素、R^(2)、-CO_(2)H、-CO_(2)R^(2)、-COR^(2)、-CSR^(2)、-CSOR^(2)、-COSR^(2)、-CONH_(2)、-CONHR^(2)、-CONR^(2)_(2)、-OR^(2)、-SR^(2)、-O_(2)CR^(2)、-SCOR^(2)及び-OCSR^(2)から成る群から選択され、・・・
有用なエチレン系不飽和モノマーの特定例は、次のものを包含する。すなわち、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート(すべての異性体)、ブチルメタクリレート(すべての異性体)、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、メタクリル酸、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、メタクリロニトリル、アルファ-メチルスチレン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート(すべての異性体)、ブチルアクリレート(すべての異性体)、2-エチルヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、アクリル酸、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、アクリロニトリル、スチレン、官能性のメタクリレート、アクリレート及びスチレンであってしかもグリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート(すべての異性体)、ヒドロキシブチルメタクリレート(すべての異性体)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、イタコン酸無水物、イタコン酸、グリシジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート(すべての異性体)、ヒドロキシブチルアクリレート(すべての異性体)、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、トリエチレングリコールアクリレート、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-エチロールメタクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-エチロールアクリルアミド、ビニル安息香酸(すべての異性体)、ジエチルアミノスチレン(すべての異性体)、アルファ-メチルビニル安息香酸(すべての異性体)、ジエチルアミノアルファ-メチルスチレン(すべての異性体)、p-ビニルベンゼンスルホン酸、p-ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、トリエトキシシリルプロピルメタクリレート、トリブトキシシリルプロピルメタクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジエトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジブトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジメトキシシリルプロピルメタクリレート、ジエトキシシリルプロピルメタクリレート、ジブトキシシリルプロピルメタクリレート、ジイソプロポキシシリルプロピルメタクリレート、トリメトキシシリルプロピルアクリレート、トリエトキシシリルプロピルアクリレート、トリブトキシシリルプロピルアクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジエトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジブトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジメトキシシリルプロピルアクリレート、ジエトキシシリルプロピルアクリレート、ジブトキシシリルプロピルアクリレート、ジイソプロポキシシリルプロピルアクリレートから選択されたもの、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート、ビニルクロライド、ビニルフルオライド、ビニルブロマイド、マレイン酸無水物、N-フェニルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール、ブタジエン、エチレン及びクロロプレン。このリストは、網羅されていない。」
(段落【0079】?【0082】)

キ「ペイント、プライマー、充填剤、シーラント及び接着剤用途に用いるためのポリマー粒子の水性分散液を形成させることに関して、RAFT制御重合の顕著な特徴は、ポリマー粒子の構造を制御する能力である。有利には、本発明の方法は、ポリマー粒子の全体にわたって重合モノマーの分布を適応させる手段を与える。特に、該方法は、ポリマー粒子の戦略的場所において特定の又は特殊なモノマーを重合する手段を与える。
・・・
上記に記載されたように、ポリマー粒子形成という特質はまた、粒子の内部組成が制御されることを可能にし得る。特に、内部コア及び外部シェルを与えるために、粒子の内部組成は、粒子の表面組成から変動され得る。最も単純な場合、特定のモノマーが方法のある段階において重合されそして異なるモノマーがより後の段階において重合されてブロックコポリマーを形成することにより、粒子が形成され得る。このようにして、軟質皮膜を形成する外部を有する硬質ポリマー粒子、及び皮膜を形成しない硬質スキンを有する軟質弾性粒子が形成され得る。」
(段落【0099】?【0101】)

ク「本発明に従って生成され得るラテックスの粒子サイズ特性もまた、低レベルの酸モノマーが小さいポリマー粒子を安定化することが可能であることにおいて驚きである。40nmの数平均粒子サイズを有するポリマー粒子は、通常の加工技法によっては製造するのが容易でなく、一般に、より小さい粒子に関連した追加の表面積を安定化するために、より多量の界面活性剤の使用を要する。本発明に従って得られ得る粒子サイズ特性は、ポリマー固形分を基準として10%若しくはそれ以上の界面活性剤充填量又はそれ以上でもってのみ、先行技術方法を用いて達成され得る。ペイント、プライマー、シーラント及び接着剤のような、ポリマーラテックスがその湿潤状態にて用いられるたいていの用途について、この過剰の界面活性剤は、該ラテックスから誘導される皮膜の性質に悪影響を及ぼし得る。」
(段落【0105】)

ケ「式(4)の両親媒性RAFT剤は、多数の方法により製造され得る。好ましくは、それらは、次の一般式(5)
【化10】

〔ここで、Z及びR^(1)は、先に定義されたとおりである〕
を有するRAFT剤の制御下でエチレン系不飽和モノマーを重合することにより製造される。
・・・
エチレン系不飽和モノマーは、フリーラジカル法により重合され得るいかなるかかるモノマーでもあり得る。・・・」
(段落【0109】?【0111】)

(2)引用文献2の記載
引用文献2には、次の記載がある。
なお、記載について括弧書きで合議体訳を付した。

ア「abbreviations:・・・NVCBz, N-vinylcarbazole; NVP, N-vinylpyrroridone;・・・」
(略字:・・・NVCBz,N-ビニルカルバゾール;NVP,N-ビニルピロリドン・・・)
(第1079頁下欄)

イ「3.2. Thiocarbonylthio compounds
Thiocarbonylthio RAFT agents include certain dithioesters, trithiocarbonates, xanthates, dithiocarbamates and other compounds. Fig.2 provides general guidance on how to select the appropriate thiocarbonylthio RAFT agent for a particular monomer. It should be clear that with just two RAFT agents it should be possible to exert effective control over the vast majority of polymerizations.・・・A cyanoalkyl dithiocarbamate (e.g.,257) or xanthate (e.g.,290) enables similar control over RAFT polymerizations of vinyl acetate, vinyl pyrrolidone and similar monomers.」
(3.2. チオカルボニルチオ化合物
チオカルボニルチオRAFT剤は、あるジチオエステル、トリチオカルボナート、ザンテート、ジチオカルバメートとその他の化合物を含んでいる。図2は、特定のモノマーに対して適したチオカルボニルチオRAFT剤の選択についての一般的な指針を示す。2群のRAFT剤により大部分の重合は効率的に制御し得ることが、明らかであろう。・・・シアノアルキルジチオカルバメート(例257)やザンテート(例290)は、ビニルアセテート、ビニルピロリドンや類似のモノマーのRAFT重合において、同様に制御を可能とする。」
(第1092頁右欄第16行?第1093頁左欄第3行)

ウ「


(図2 様々な重合に対するRAFT剤の選択基準[46,47,204]。Zについて、左から右に向けて付加速度が減少し、開裂速度が増加する。Rについて、左から右に向けて開裂速度が減少する。点線は制御が不十分なこと(すなわち、VAcの場合では分子量の劣った分散度やかなりの遅延)を示している。)
(第1092頁 図2)

エ「3.2.4. Xanthates
RAFT polymerization with xanthates is sometimes called MADIX(macromolecular design by interchange of xanthate)[46,438].Xanthate RAFT agents are listed in Table 22.
O-Alkyl xantates have been widely exploited for RAFT polymerization of VAc, NVP and related vinyl monomers(such as NVCBz, NVI) where the propagating radical is a relatively poor homolytic leaving group.They are generally less effective (have low transfer constants) in polymerization of styrenic and acrylic monomors and offer no control for methacrylic polimers.」
(3.2.4. ザンテート
ザンテートによるRAFT重合は、MADIX(ザンテートの交換反応を用いた高分子設計)といわれることもある[46,438]。ザンテートRAFT剤が表22に記載されている。
O-アルキルザンテートは、その成長ラジカルが、比較的反応性の低いホモリシス脱離基であるVAc、NVPや類似のビニルモノマー(例えば、NVCBz、NVI)のRAFT重合に広く開発されてきた。それらは、一般的に、スチレン系やアクリル系モノマーの重合には効果的ではなく(移動定数が低い)、メタクリル系重合体に対して制御しない。)
(第1104頁左欄下から4行?右欄第4行)

2 引用発明
引用文献1には、特に上記摘示(1)アより、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ポリマー粒子の水性分散液を製造し、そしてこの水性分散液を1つ又はそれ以上のペイント用成分と一緒にすることを含む、ペイントの製造方法に用いるポリマー粒子の水性分散液の製造方法であって、
前記水性分散液が、次の工程、
(i)連続水性相と、1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマーを含む分散有機相と、該有機相用の安定剤としての両親媒性RAFT剤とを有する分散液を作製し、そして
(ii)該両親媒性RAFT剤の制御下で該1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマーを重合してポリマー粒子の水性分散液を形成させる工程を含む方法によって製造された、ポリマー粒子の水性分散液である、
ここで、前記両親媒性RAFT剤が、一般式(4)で表せられる、
【化6】


〔ここで、各Xは独立してエチレン系不飽和モノマーの重合残基であり、nは0から100の範囲の整数であり、R^(1)は1個又はそれ以上の親水性基で置換されてもよい有機基であり、
そしてZ基が、ラジカル付加の方にチオカルボニル基の十分な反応性を促進し得る一方、重合の容認され得ない遅延になる程度まではフラグメント化速度を遅くしないいかなる基でもある。]
方法。」

3 対比・判断
ア 対比
引用発明の「分散有機相」に含まれる「1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー」は、本願発明の「少なくとも1つのエチレン系不飽和モノマー」に相当する。
引用発明の「両親媒性RAFT剤」の「

」部分は、チオカルボニルチオ基であって、さらに、「-(X)n-」部分は、エチレン系不飽和モノマーの重合により形成されているから、引用発明の「両親媒性RAFT剤」は、本願発明の「チオカルボニルチオ基-S(C=S)-を含むポリマー鎖を含む反応安定剤」に相当する。
そして、引用発明において、「(i)連続水性相と、1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマーを含む分散有機相と、該有機相用の安定剤としての両親媒性RAFT剤とを有する分散液を作製し、そして (ii)該両親媒性RAFT剤の制御下で該1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマーを重合してポリマー粒子の水性分散液を形成させる」ことは、本願発明において、「- 少なくとも1つのエチレン系不飽和モノマー;およびチオカルボニルチオ基-S(C=S)-を含むポリマー鎖を含む反応安定剤が水相で接触させられる」ことに相当する。
さらに、引用発明において、「(ii)該両親媒性RAFT剤の制御下で該1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマーを重合してポリマー粒子の水性分散液を形成させる」ことが、本願発明の「反応安定剤の存在下での分散相重合の工程(E1)」に相当する。
また、引用発明の「ポリマー粒子の水性分散液の製造方法」は、本願発明の「ポリマーの製造方法」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、

[一致点]
「 反応安定剤の存在下での分散相重合の工程(E1)を含む、ポリマーの製造方法であって、次のもの:
- 少なくとも1つのエチレン系不飽和モノマー;および
- チオカルボニルチオ基-S(C=S)-を含むポリマー鎖を含む反応安定剤
が水相で接触させられる、方法。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は「少なくとも1つのエチレン系不飽和モノマー」および「反応安定剤」と共に「少なくとも1つのフリーラジカル源」が水相で接触させられると特定するのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
反応安定剤に関し、本願発明は「N-(ビニルラクタム)モノマー単位」を含み、反応安定剤上に存在する「チオカルボニルチオ基がザンテート」であると特定するのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。

[相違点3]
重合の工程(E1)の温度に関し、本願発明は「40℃未満の温度で行われる」と特定するのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点1
引用文献1には、上記摘示(1)エに、「重合は、通常、フリーラジカルの源からの開始を必要とする」と記載されているから、引用発明においても、フリーラジカルの源を用いることが必要と解される。
そして、フリーラジカルの源の供給のタイミングに関し、引用発明において、フリーラジカルの源は(ii)のエチレン系不飽和モノマーの重合の開始のために用いられるから、その重合の開始までに「1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー」及び「両親媒性RAFT剤」と共に「少なくとも1つのフリーラジカルの源」が「水」性分散液に配合されることは明らかである。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮に、相違するとしても、上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者にとり想到容易である。

(イ)相違点2
引用文献1には、上記摘示(1)ケに両親媒性RAFT剤を製造する方法として、一般式(5)


〔ここで、Z及びR^(1)は、先に定義されたとおりである〕
を有するRAFT剤の制御下で、フリーラジカル法により重合され得るエチレン系不飽和モノマーを重合することにより製造されることが記載されており、一般式(5)を有するRAFT剤のS-R^(1)の間にエチレン性不飽和モノマーが重合により導入された形で一般式(4)の構造を有する両親媒性RAFT剤が製造されることとなるから、一般式(5)の構造を有するRAFT剤中のZ基は、一般式(4)の構造を有する両親媒性RAFT剤のZ基に一致する。

チオカルボニルチオ化合物であるRAFT剤は、一般にZ基の種類により、ジチオエステル系化合物、トリチオカルボナート系化合物、ザンテート系化合物、トリチオカルバマート系化合物及びその他(F-RAFT剤、ホスホリルジチオエステル系化合物、ジチオカルバザート化合物及びビニローグチオノチオ化合物)と区分されることが知られている(Handbook of RAFT Polymerization,(編者Christopher Barner-Kowolik),Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA,2008,p235,239、及び、引用文献2のp1092-1080等参照)。

引用文献1には、上記摘示ア(ウ)に、一般式(4)で表される両親媒性RAFT剤のZ基として複数の置換基が記載されるところ、上記の区分に従えばそれらは結局次の5種類に区分される。
・ジチオエステル系化合物:置換又は非置換アルキル、置換又は非置換アリール、置換又は非置換ヘテロシクリル、置換又は非置換アリールアルキル
・トリチオカルボナート系化合物:置換又は非置換アルキルチオ、置換又は非置換アリールアルキルチオ、R^(1)-(X)_(n)-S-
・ザンテート系化合物:置換又は非置換アルコキシ、置換又は非置換アリールオキシ
・トリチオカルバマート系化合物:置換又は非置換アシルアミノ、置換又は非置換アシルイミノ、置換又は非置換アミノ
・その他:ジアルコキシ-又はジアリールオキシ-ホスフィニル[-P(=O)OR^(2)_(2)]、ジアルキル-又はジアリール-ホスフィニル[-P(=O)R^(2)_(2)]、いかなるメカニズムによっても形成されたポリマー鎖(当審注 ポリマー鎖の種類によっては先の4種のいずれかに区分されうる)
引用文献1には、実施例において、RAFT剤として、ジチオエステル系化合物、トリチオカルボナート系化合物を用いた例が記載されているところ、同文献に挙示されたわずか5種類の両親媒性RAFT剤のZ基のうち、たまたま実施例に記載されない3種類の両親媒性RAFT剤のZ基のうちの1種類を試してみようとすることは、当業者にとってさして困難なことではないから、引用文献1に接した当業者にとり、ジチオエステル系化合物、トリチオカルボナート系化合物のRAFT剤に替えて、ジチオエステル系化合物、トリチオカルボナート系化合物と同等のものとして認識されているザンテート系化合物やトリチオカルバマート系化合物のRAFT剤を使用することは通常検討することであって、ザンテート系化合物のRAFT剤を選択することに格別の創意を必要とするものと認めることはできない。

また、引用文献1には、両親媒性RAFT剤の製造において用いるフリーラジカル法により重合され得るエチレン系不飽和モノマーについて、上記摘示(1)ケに、「フリーラジカル法により重合され得るいかなるかかるモノマーでもあり得る」と記載されているが、重合するモノマーとRAFT剤のチオカルボニルチオ化合物との間には好適な組み合わせが存在していることが技術常識であったと認められる。例えば、Graema Moad, et al. 可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合 Material Matters^(TM) 最新高分子合成Modern Polymerization Techniques SIGMA-ALDRICH 2010.06, p4-p6 、及び Handbook of RAFT Polymerization,(編者Christopher Barner-Kowolik),Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA,2008,p3, p192-202, p205-219等には、ジチオエステル系化合物、トリチオカルボナート系化合物からなるRAFT剤の一群は、高活性なモノマー、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸(MA)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMAM)といったメタクリル系、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸(AA)、アクリルアミド(AM)、アクリロニトリル(AN)といったアクリル系、スチレン(St)などの重合に適しており、もう一方のザンテート系化合物、トリチオカルバマート系化合物からなるRAFT剤の一群は、低活性なモノマー、例えば、酢酸ビニル(VAc)、N-ビニルピロリドン(NVP)、またはN-ビニルカルバゾール(NVC)などの重合に適していることが記載されている。
そして、出願人もRAFT剤に関する総説であるとする引用文献2にも、上記摘示(2)イないしエに、重合するモノマーとRAFT剤のチオカルボニルチオ化合物のZ基との選択基準が記載されていて、先の文献と同様に、Z基がOPh、OEtであるザンテート系化合物であれば、NVP(N-ビニルピロリドン)の重合に好適であって、スチレン系、アクリル系のモノマー、メタクリル系のモノマーの重合には適切ではないことが記載されている。
そうすると、引用発明の(i)で使用する両親媒性RAFT剤を製造するにあたり、エチレン系不飽和モノマーとRAFT剤のチオカルボニルチオ化合物のZ基との組み合わせについて、引用文献2に記載の選択基準に従うことが自然といえるから、RAFT剤のチオカルボニルチオ化合物のZ基をザンテートとした場合には、N-(ビニルラクタム)の1種であるN-ビニルピロリドンを重合するエチレン系不飽和モノマーとすることは自然な選択であるといえる。

また、相違点2に係る効果について検討する。
本願明細書には、段落【0007】に本願発明の課題に関連し、「絶対的には有利であるが、これまでに記載されている反応安定剤の限界の一つは、本質的にメタクリレートおよびアルキルアクリレート型の、ある種のビニルモノマーの重合にのみそれらが好適であることである。」と記載され、段落【0008】に本願発明の目的として、「多数の疎水性モノマーの使用に好適な、およびとりわけビニルエステルのおよび疎水性N-ビニルモノマーの分散相重合に好適な分散相重合法を提供する」と記載されている。
しかしながら、本願明細書にはまた、本願発明に係る「N-(ビニルラクタム)モノマー単位とチオカルボニルチオ基-S(C=S)-とを含むポリマー鎖を含む反応安定剤」であるNVP-Xaの存在下での塩化ビニリデン(VDC)の乳化重合(実施例7および実施例8)と、本願発明に係る反応安定とポリマー鎖の種類が異なる反応安定剤であるポリアクリルアミド-Xaの存在下での塩化ビニリデン(VDC)の乳化重合(実施例9)およびポリ(アクリル酸)-Xaの存在下での塩化ビニリデン(VDC)の乳化重合(実施例10)とが記載されているが、いずれの実施例においても、粒径値Dz、粒下分散値の値について同等のものが得られていることから、本願発明に係る反応安定剤を使用したことによる効果の顕著性は認められない。
よって、本願発明で上記相違点2に係る発明特定事項としたことにより、予想外の格別顕著な効果を奏すると認めることができない。

(ウ)相違点3
引用文献1には、上記摘示(1)エに、開始ラジカルの源として、レドックス開始系が記載され、上記摘示(1)オに、開始ラジカルの源に関連して、ラジカル生成が比較的温和な温度において起こるレドックス開始が記載されている。
そして、ラジカル重合に使用される重合開始剤の1種であるレドックス系開始剤は、通常40度以下の低温重合の開始剤として用いられるものである(高分子学会編、「新高分子実験学 全10巻 第2巻 高分子の合成・反応(1)-付加系高分子の合成-」、共立出版株式会社、1995年6月15日発行、30-34頁 「1.1.8 ラジカル重合試薬 A.開始剤」の表1.10 開始剤の最適使用温度及びd レドックス系開始剤の項 等参照)。
そうすると、引用発明において、引用文献1に示唆されるように開始剤としてレドックス開始系を用いて、レドックス開始系が通常使用される温度で重合を行うようにすることは、当業者にとり想到容易である。

また、相違点3に係る効果について検討する。
分散相重合の工程(E1)の温度に関し、本願明細書には、段落【0010】に、「・・・前記工程(E1)が、反応安定剤のチオカルボニルチオ基-S(C=S)-の分解温度未満の温度で、好ましくは40℃未満の温度で、たとえば30℃以下の温度で好ましくは行われる方法(本発明の方法は、たとえば、室温で有利に行うことができる)である。」、段落【0057】に、「さらに、工程(E0)および(E1)は、低温で、好ましくは40℃未満で、より有利には30℃以下、とりわけ5?25℃の温度で有利に行われる。これらの2つの工程はしたがって、たとえば、室温で行われてもよく、それは、エネルギーコストの観点から、本発明の方法の別の利点である。」と記載されるに止まり、重合温度を異ならせた実証がされていないことからも、重合温度を40℃未満とすることによる、格別の効果が見いだせない。
よって、本願発明で上記相違点3に係る発明特定事項としたことにより、予想外の格別顕著な効果を奏すると認めることができない。

(エ)平成29年10月20日提出の意見書における主張について
審判請求人は、上記意見書において、「・・・引用文献1の[0067] -[0070]には、フリーラジカル源となる開始剤(すなわち、熱開始剤、光化学開始剤、及びレドックス開始剤)ついて一般的に記載されています。[0033] では一般式(4)の両親媒性RAFT剤について記載されています。重合温度について、「懸濁法に適用できる好都合な開始方法は、ラジカル生成が比較的温和な温度において起こるレドックス開始である。」という一般的な記載が[0073] にされています。実施例では、ラテックスを下表のように60℃-85℃に加熱して製造する態様が開示されています。(表は省略)
引用文献2は、RAFTに関する総説です。・・・
引用文献3は、少なくとも一方に重合性モノマーと重合開始剤を含む第1液および第2液を気相中に噴霧、混合し、液滴状で重合させる重合方法に関します。・・・
本願請求項に係る発明の工程(E1)が40℃未満の温度で行われるのに対し、引用文献1は、ラテックスを60℃-85℃に加熱して製造しています。従って、引用文献1に触れた当業者は、実験例より、反応温度は60℃-85℃であり、明細書([0073])に記載されている温和な条件とは実験例の温度範囲であると理解するでしょう。更に、引用文献1には、重合温度を40℃未満にすることを示唆する記載はありません。たとえ、引用文献2に記載されるザンテートの記載及び引用文献3に記載される重合開始剤の記載を、引用文献1に記載の方法に組み合わせたとしても、本願請求項に係る発明を容易には想到することができません。」と主張している。

しかしながら、重合温度については、上記(3)相違点3について述べたとおり、引用文献1に示唆されている。
そして、その効果についても、上記(3)相違点3について述べたとおり、格別のものとはいえない。
したがって、上記主張は採用できない。

ウ まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明および引用文献2に記載の事項から当業者が容易に想到し得た発明である。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち、平成29年10月20日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明および引用文献2に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-13 
結審通知日 2018-02-20 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2014-553759(P2014-553759)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 裕介海老原 えい子安田 周史  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
守安 智
発明の名称 分散相重合用のリビングポリ(N-ビニルラクタム)反応安定剤  
代理人 園田・小林特許業務法人  
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