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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 A61J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1342589
審判番号 不服2017-4594  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-03 
確定日 2018-07-26 
事件の表示 特願2013- 66765「輸液容器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 6日出願公開、特開2014-188193〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 8月 2日付け:拒絶理由通知書
平成28年10月 3日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年12月26日付け:拒絶査定
平成29年 4月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年 6月12日 :上申書の提出

第2 平成29年4月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年4月3日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「輸液が収容される筒状の容器本体と、この容器本体に形成された互いに対向する一対の口部とを備え、前記容器本体は輸液の排出に追随するように変形する輸液容器であって、
前記容器本体は、断面偏平形状の胴部と、この胴部から一方の口部へ渡って形成された第1肩部と、当該胴部から他方の口部へ渡って形成された第2肩部とを有しており、
前記断面偏平形状の胴部は、互いに対向する2つの湾曲部と、互いに平行に対向する2つの側壁部とで構成され、当該各湾曲部の頂部間寸法D1と当該各側壁部間寸法D2とが以下の関係式を満たし、
前記第1肩部における前記各湾曲部へ連続する第1角部分、前記第2肩部における前記各湾曲部へ連続する第2角部分、前記第1肩部における前記各側壁部へ連続する第1肩壁、及び前記第2肩部における前記各側壁部へ連続する第2肩壁のそれぞれ近傍に、角張った角部が形成されておらず、
前記第1角部分が、外方へ膨らむR状に形成され、この第1角部分の曲率半径が、6mm?20mmとされ、
前記第2角部分が、外方へ膨らむR状に形成され、この第2角部分の曲率半径が、6mm?20mmとされていることを特徴とする輸液容器。
1.4<D1/D2<2.0」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年10月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「輸液が収容される筒状の容器本体と、この容器本体に形成された互いに対向する一対の口部とを備え、前記容器本体は輸液の排出に追随するように変形する輸液容器であって、
前記容器本体は、断面偏平形状の胴部と、この胴部から一方の口部へ渡って形成された第1肩部と、当該胴部から他方の口部へ渡って形成された第2肩部とを有しており、
前記断面偏平形状の胴部は、互いに対向する2つの湾曲部と、互いに平行に対向する2つの側壁部とで構成され、当該各湾曲部の頂部間寸法D1と当該各側壁部間寸法D2とが以下の関係式を満たし、
前記第1肩部における前記各湾曲部へ連続する第1角部分、前記第2肩部における前記各湾曲部へ連続する第2角部分、前記第1肩部における前記各側壁部へ連続する第1肩壁、及び前記第2肩部における前記各側壁部へ連続する第2肩壁のそれぞれ近傍に、角張った角部が形成されていないことを特徴とする輸液容器。
1.4<D1/D2<2.0」

2 補正の適否
本件補正のうち請求項1に対して行う補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1角部分」及び「第2角部分」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の限縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-245642号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。
【0001】
「本発明は、液状の内容物を収容するために用いられる樹脂製容器とその成形方法に関する。」
【0002】
「薬剤等が含まれた輸液を患者に投与するために用いるものとして、輸液を収容した輸液ボトル等の輸液容器が広く普及している。このような輸液容器として、輸液を収容した可撓性のある容器本体、及びこの容器本体に形成された互いに対向する2つの口部を備えたものが知られている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。」
【0004】
「上述の成形方法では生産速度が遅いため、高コストとなる。さらに、厚みの制御が難しいことから、品質もバラツキ易いといった欠点が存在する。一方、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂からなる容器の成形法としてブロー成形法が普及しており、同成形法によって食品、飲料品、薬品、工業用品向けの容器が製造されている。」
【0005】
「ブロー成形法を採用した場合、生産速度が比較的早く生産効率が良い。また、厚みの制御は上述の成形法を採用する場合よりも容易であるために、品質のバラツキは少ない。しかしながら、特許文献1や特許文献2のように、2つの口部を備えた樹脂製容器をブロー成形法で成形しようとしても、一方の口部からブローエアーが抜けてしまうため、当該成形法で成形することができない。その対策として、成形ごとに一方の口部を別の栓部材で閉じてブローエアーを抜けないようにすることも考えられるが、この場合には、成形ごとに栓部材を設ける作業が必要であり、作業状態によってはブローエアーの抜けが生じることや、場合によっては口部形状を変形させてしまうという問題が生じる。」
【0006】
「そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、生産コストが抑えられ、安定した品質の樹脂製容器を成形できる樹脂製容器の成形方法、及びこれにより成形された樹脂容器を提供することを目的とする。」
【0014】
「上記の樹脂製容器として、例えば、薬剤等が含まれた輸液を収容するための輸液容器が挙げられ、コストが抑えられ、安定した品質の当該輸液容器を生産することができる。」
【0017】
「以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂製容器の成形方法を実施するための成形機1の概略横断面図と概略縦断面図であり、図2は樹脂製容器の成形方法に用いるプリフォーム20の断面図とこれに挿入されるストレッチロッド2の図である。以下の説明において、図1及び図2の上下に対応する側を単に上下とする。図1に示す成形機1はブロー成形法を実施するための機器構成を備えており、2つ割のブロー成形金型3と、このブロー成形金型3の上方に位置されるストレッチロッド装置4と、ブローエアーを供給するためのブローエアー装置11と、これらストレッチロッド装置4及びブローエアー装置11を制御する制御部12とで主に構成されている。ブロー成形金型3の各金型3Aには、完成品である輸液ボトル(樹脂製容器)の形状が型取られており、型閉じによって輸液ボトルの形状のキャビティが形成されるようになっている。ブロー成形金型3の各金型3Aには、本体成形部分5と互いに対向する上下の2つの口部分6、7が形成されている。」
【0018】
「本体成形部分5は、横長で上下方向に伸びた筒状のキャビティが形成されるように横長部8と楕円部9とで構成されている。」
【0019】
「図2に示すプリフォーム20は、ポリプロピレン(PP)からなり、上下方向に伸びる円筒状のプリフォーム本体23と、このプリフォーム本体23の上側に形成された円筒状の第1の口部21と、プリフォーム本体23の下側に形成された円筒状の第2の口部22とからなる。」
【0029】
「プリフォーム20の第1の口部21と第2の口部22の形状はほぼ不変であり、プリフォーム本体23のみが2軸延伸されて序々に薄くなっていく。プリフォーム本体23がキャビティの形状まで延伸され、図4に示す輸液ボトル30の容器本体31の形状となる。図5は、樹脂製容器の成形方法で成形された輸液ボトル30の正面図と側面図である。この輸液ボトル30は、プリフォーム本体23を2軸延伸させた容器本体31、及びこの容器本体31に形成された互いに対向する第1、第2の口部21、22を備えている。輸液ボトル30の各部の寸法は次のとおりである。第1、第2の口部21、22の内径はプリフォーム20のものと変わらず、胴外径(長辺)d1は68.5mmであり、胴外径(短辺)d2は41.5mmであり」
【0034】
「本発明の樹脂製容器の成形方法で成形する樹脂製容器は、輸液ボトルに限られず、飲料用、薬品用、工業用等の他の用途に用いる容器であってもよい。成形に使用される樹脂は適宜変更されるものであり、ポリプロピレンの他、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の可撓性を有する公知のものを採用することができる。」

(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 【0017】には「ブロー成形金型3の各金型3Aには、完成品である輸液ボトル(樹脂製容器)の形状が型取られており、型閉じによって輸液ボトルの形状のキャビティが形成されるようになっている。」とあり、【0018】には「本体成形部分5は、横長で上下方向に伸びた筒状のキャビティが形成されるように」とあり、【0029】には「プリフォーム本体23がキャビティの形状まで延伸され、図4に示す輸液ボトル30の容器本体31の形状となる。」とあり、ブロー成形により、プリフォーム本体が筒状のキャビティの形状にまで延伸されて容器本体となることから、容器本体は筒状であると認められる。

b 【0014】には「上記の樹脂製容器として、例えば、薬剤等が含まれた輸液を収容するための輸液容器が挙げられ、コストが抑えられ、安定した品質の当該輸液容器を生産することができる。」とあり、【0017】には「ブロー成形金型3の各金型3Aには、完成品である輸液ボトル(樹脂製容器)の形状が型取られており」とあるから、樹脂性容器の輸液ボトルは輸液容器ということができる。

c 【0017】には「ブロー成形金型3の各金型3Aには、完成品である輸液ボトル(樹脂製容器)の形状が型取られており、型閉じによって輸液ボトルの形状のキャビティが形成されるようになっている。」とあり、【0018】には「本体成形部分5は、横長で上下方向に伸びた筒状のキャビティが形成されるように横長部8と楕円部9とで構成されている。」とあり、【0029】には「プリフォーム本体23がキャビティの形状まで延伸され、図4に示す輸液ボトル30の容器本体31の形状となる。」とあり、ブロー成形により、プリフォーム本体が横長部と楕円部とで構成された本体成形部分のキャビティの形状まで延伸されて容器本体となることから、容器本体は横長部と楕円部から構成されて図5(a)(b)の正面図・側面図に示される形状となることから、容器本体の断面形状は偏平状といえる。

d 【0029】には、「この輸液ボトル30は、プリフォーム本体23を2軸延伸させた容器本体31、及びこの容器本体31に形成された互いに対向する第1、第2の口部21、22を備えている。・・・。輸液ボトル30の各部の寸法は次のとおりである。第1、第2の口部21、22の内径はプリフォーム20のものと変わらず、胴外径(長辺)d1は68.5mmであり、胴外径(短辺)d2は41.5mmであり」とあり、輸液ボトルの容器本体に、胴があることは明らかである。

e 【0029】には、「プリフォーム本体23がキャビティの形状まで延伸され、図4に示す輸液ボトル30の容器本体31の形状となる。・・・。輸液ボトル30の各部の寸法は次のとおりである。第1、第2の口部21、22の内径はプリフォーム20のものと変わらず、胴外径(長辺)d1は68.5mmであり、胴外径(短辺)d2は41.5mmであり」とあり、図5(a)(b)に図示された輸液ボトルの形状から、胴から第1の口部から渡って肩部が形成されていること、及び、胴から第2の口部に渡って肩部が形成されていること、は明らかである。

f 【0018】には「本体成形部分5は、横長で上下方向に伸びた筒状のキャビティが形成されるように横長部8と楕円部9とで構成されている。」とあり、【0029】には、「プリフォーム本体23がキャビティの形状まで延伸され、図4に示す輸液ボトル30の容器本体31の形状となる。・・・。輸液ボトル30の各部の寸法は次のとおりである。第1、第2の口部21、22の内径はプリフォーム20のものと変わらず、胴外径(長辺)d1は68.5mmであり、胴外径(短辺)d2は41.5mmであり」とあり、ブロー成形により、プリフォーム本体が横長部と楕円部とで構成された本体成形部分のキャビティの形状まで延伸されて容器本体となることから、胴外径(長辺)d1=68.5mmとは、楕円部の頂部間寸法であり、胴外径(短辺)d2=41.5mmとは、横長部間寸法であり、D1/D2=1.65(小数第3位を四捨五入)である。

g 【0018】には「本体成形部分5は、横長で上下方向に伸びた筒状のキャビティが形成されるように横長部8と楕円部9とで構成されている。」とあり、【0029】には、「プリフォーム本体23がキャビティの形状まで延伸され、図4に示す輸液ボトル30の容器本体31の形状となる。・・・。輸液ボトル30の各部の寸法は次のとおりである。第1、第2の口部21、22の内径はプリフォーム20のものと変わらず、胴外径(長辺)d1は68.5mmであり、胴外径(短辺)d2は41.5mmであり」とあり、そして、上記認定事項eから、胴から第1の口部から渡って形成された肩部に楕円部へ連続する角部分、及び、胴から第2の口部から渡って形成された肩部に楕円部へ連続する角部分、があることは明らかである。

h 【0018】には「本体成形部分5は、横長で上下方向に伸びた筒状のキャビティが形成されるように横長部8と楕円部9とで構成されている。」とあり、【0029】には、「プリフォーム本体23がキャビティの形状まで延伸され、図4に示す輸液ボトル30の容器本体31の形状となる。・・・。輸液ボトル30の各部の寸法は次のとおりである。第1、第2の口部21、22の内径はプリフォーム20のものと変わらず、胴外径(長辺)d1は68.5mmであり、胴外径(短辺)d2は41.5mmであり」とあり、そして、上記eから、胴から第1の口部から渡って形成された肩部に横長部へ連続する肩壁、及び、胴から第2の口部から渡って形成された肩部に横長部へ連続する肩壁、があることは明らかである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)の認定事項aないしhから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「輸液が収容される筒状の容器本体と、この容器本体に形成された互いに対向する第1、第2の口部とを備える輸液容器であって、
前記容器本体は、断面偏平形状の胴と、この胴から第1の口部へ渡って成形された肩部と、胴から第2の口部へ渡って形成された肩部とを有しており、
前記断面偏平形状の胴は、楕円部と横長部とで構成され、楕円部間の頂部間寸法である胴外径(長辺)d1、横長部間寸法である胴外径(短辺)d2は、以下を満たし、
前記胴から第1の口部へ渡って形成された肩部における前記楕円部に連続する角部分、前記胴から第2の口部へ渡って形成された肩部から前記楕円部へ連続する角部分、前記胴から第1の口部へ渡って形成された肩部における横長部へ連続する肩壁、前記胴から第2の口部へ渡って形成された肩部における横長部へ連続する肩壁、が形成されている輸液容器
d1/d2=1.65」

イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平7-231927号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は、アミノ酸輸液剤、脂肪乳剤、高カロリー輸液剤などの静脈注射用輸液や経腸栄養剤、高蛋白栄養剤、成分栄養剤、流動食その他の経腸的高カロリー栄養剤などの薬液を充填して加熱滅菌処理する薬液用ブローバッグに関するものである。」
【0004】
「【発明が解決しようとする課題】ところで、内部に薬液を充填した薬液用ブローバッグは、図11に示すように、自立のための底部を有しないので、加熱槽内の棚に胴部の一方を下にして載せ、100℃?120℃の高温で加熱滅菌処理すると、図12に示すように、加熱により軟化した胴部aの下にした壁bは内部の薬液の荷重が加わって平坦状に変形するとともに、胴部aの両端壁c,cにはその湾曲形状に沿って下向きの荷重が作用する。このため、胴部aの両端壁c,cが下にした壁bを押し縮める方向に変形移行していき、その変形移行分が下にした壁bの両端部付近で内方に押し上がって歪みを生じ、その歪みにより皺d,dを生じさせる。図13にはこのようにして胴部aに皺dが生じた薬液用ブローバッグを示してしている。そして、胴部aにこのような皺dが生じると、皺dの部分で容器の強度が低下するばかりでなく、外観性が損なわれることになる。」
【0005】
「本発明は、このような従来の薬液用ブローバッグにおける問題点を解消しようとするものであり、内部に薬液を充填して加熱滅菌処理しても、胴部に皺が生じず、強度性および外観性にすぐれた薬液用ブローバッグを提供することを目的とする。」
【0006】
「【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達成するため、次のように構成した。すなわち、本発明に係る薬液用ブローバッグは、内部に薬液を充填して加熱滅菌処理する薬液用ブローバッグにおいて、バッグの胴部は横断面形状が扁平状であり、胴部の横断面形状の長軸に平行な面が平坦面に形成されているものである。」
【0012】
「【実施例】図1ないし図3には、本発明に係る薬液用ブローバックの一実施例が示されている。このブローバッグ1は、熱可塑性プラスチックのブロー成形により製造されたものであって、胴部2の上端に口部3を、かつ下端に吊片4を備えており、自立のための底部を実質的に有しないものである。
【0013】薬液用ブローバッグ1の胴部2は、横断面形状が扁平状をなしており、その上下中間部分両面は、胴部2の横断面形状の長軸に平行な平坦面Aに形成されている。胴部2の両端面B,Bは、胴部2の横断面形状の長軸に平行な面に対して角度をなすテーパー状の面をなしている。Cは曲面状の両端壁である。上記胴部2の平坦面Aは、胴部2の横断面形状の短軸に直交する向きの投影面積の20%?85%であることが好適である。」

(イ)上記(ア)から、引用文献2には次の技術が記載されていると認められる。
「胴部の横断面形状が扁平状であり、胴部の横断面形状の長軸に平行な平坦面と、曲面状の両端壁を有する、薬液が収容される薬液用ブローバッグ」

ウ 引用文献3
(ア)原査定の拒絶の理由で例示され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平4-224757号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
【0001】
「本発明は、糖質輸液剤、電解質輸液剤、血漿増量剤、浸透圧利尿剤、アミノ酸輸液剤、脂肪乳剤、高カロリー輸液剤等の静脈注射用輸液や、経腸栄養剤、高蛋白栄養剤、成分栄養剤、流動食等の経腸的高カロリー栄養剤の薬液を内部に充填する可撓性のプラスチック容器であって、胴部を変形させて薬液の投与を行う、所謂自然滴下タイプのプラスチック容器に関するものである。」
【0002】
「【従来の技術】落としても割れないこと、軽量であるなどの利点により、近年、薬液容器のプラスチック化が急速に進んでいる。なかでも、プラスチック材料の柔軟性を利用して、胴部を変形させて薬液の投与を行う自然滴下タイプのものが多用されている。これは、自然滴下の場合、容器内に空気を供給することなく投与を行うことができ、従って容器内に雑菌の侵入の心配のない衛生的上の利点を有するためである。」
【0015】
「図1ないし図8は、本発明の実施例に係る薬液用プラスチック容器であり、内部に薬液を充填して吊下げた状態を示すものである。薬液の充填は、総内容量の少なくとも3%以上、好ましくは、5%以上のヘッドスペースを残して充填することが重要である。」
【0016】
「図中、1は薬液用プラスチック容器で、薬液用プラスチック容器1は、横断面が楕円形状の胴部3と、その上方端には上方肩部6を介して吊具2を有し、その下方端には下方肩部7を介して口部4が一体に形成されている。吊具2には、薬液用プラスチック容器を吊り棒2bに吊り架けるための吊孔2aが形成され、この吊具2はブロー成形時にパリスンを圧縮することにより形成される板体より成っている。口部4には密封すための栓体5が内部にゴム栓(図示せず)を封入して溶着されている。胴部3は、上記のように、その横断面が楕円形状であり、上方肩部6及び下方肩部7へ連設されている。この胴部3の横断面形状の長軸に平行する壁、つまり略楕円形状の平坦面の壁の中心部分の肉厚を厚肉とした厚肉部8を上方肩部6から胴部3にかけて形成するとともに、下方肩部7から胴部3にかけても厚肉部9を形成する。この厚肉部8、9は、肉厚が0.3?2.5mmであり、その余の部分、つまり略楕円形状の側端面の部分は0.1?1.5mmである。この厚肉部8、9の厚肉の定義は、胴部3、上方肩部6及び下方肩部7の各横断面位置の円周方向の平均肉厚をとり、この平均肉厚よりも厚いことをいうものとする。これは、本実施例の厚肉部の作用上、液面がその各横断面位置を通過する際に、変形のときの各部の剛性を問題とするためであり、このときの剛性の比較は、液面の位置する横断面の内周方向であるためである。上方肩部6及び下方肩部7は、曲線をなして胴部3に連設されている。この曲線は、上記実施例では、平坦面側の壁も側端両面の壁も有しているものであるが、これらのうち片方だけ、あるいは両方とも直線であってもよい。図1に示すように、上方肩部6は、その外形線が上記のように曲線である場合や直線である場合を問わず、その胴部3との連設部分6a及び吊具2との連設部分6bとを直線で結んだときに、その線が平行線をなす角をαとすると、αは5°以上45°以下、好ましくは8°以上40°以下が、本発明の作用上好ましい。肉厚部8、9は、それぞれ上方肩部6から胴部3及び下方肩部7から胴部3へ向けて上下方向に形成するものであり、胴部3の上下方向中心部分10の平坦面を薄肉に形成している。」
【0023】
【発明の効果】本発明は、以上のように構成したので、自然滴下性が良好であり、内部の薬液がほぼ自然滴下により全量排出することができるとともに、自然滴下時には液面の位置が排出量に対して目盛の位置を示し、排出量を正確に読みとることができる。

(イ)上記記載から、引用文献3には、次の技術が記載されていると認められる。
「胴部の横断面は平坦面と側端面とを有する楕円形状であり、上方肩部と下方肩部は曲線をなして胴部に連接されている、内部に薬液を充填する薬液用プラスチック容器」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
・引用発明の「互いに対向する第1、第2の口部」は、本件補正発明の「互いに対向する一対の口部」に相当する。
・引用発明の「胴」は、本件補正発明の「胴部」に相当する。
・引用発明の「胴から第1の口部へ渡って成形された肩部」、「胴から第2の口部へ渡って成形された肩部」は、本件補正発明の「胴部から一方の口部へ渡って形成された第1肩部」、「胴部から他方の口部へ渡って形成された第2肩部」にそれぞれ相当する。
・引用発明の「楕円部」、「横長部」は、本件補正発明の「互いに対向する2つの湾曲部」、「互いに対向する2つの側壁部」にそれぞれ相当する。
・引用発明の「楕円部間の頂部間寸法である胴外径(長辺)d1」、「横長部間寸法である胴外径(短辺)d2」は、本件補正発明の「各湾曲部の頂部間寸法D1」、「各側壁部間寸法D2」に相当する。
・引用発明の「胴から第1の口部へ渡って形成された肩部における楕円部に連続する角部分」、「胴から第2の口部へ渡って形成された肩部から楕円部へ連続する角部分」は、本件補正発明の「第1肩部における各湾曲部へ連続する第1角部分」、「第2肩部における各湾曲部へ連続する第2角部分」にそれぞれ相当する。
・引用発明の「胴から第1の口部へ渡って形成された肩部における横長部へ連続する肩壁」、胴から第2の口部へ渡って形成された肩部における横長部へ連続する肩壁」は、本件補正発明の「第1肩部における各側壁部へ連続する第1肩壁」、「第2肩部における各側壁部へ連続する第2肩壁」にそれぞれ相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「輸液が収容される筒状の容器本体と、この容器本体に形成された互いに対向する一対の口部とを備え、
前記容器本体は、断面偏平形状の胴部と、この胴部から一方の口部へ渡って形成された第1肩部と、当該胴部から他方の口部へ渡って形成された第2肩部とを有しており、
前記断面偏平形状の胴部は、互いに対向する2つの湾曲部と、互いに対向する2つの側壁部とで構成され、当該各湾曲部の頂部間寸法D1と当該各側壁部間寸法D2とが以下を満たし、
前記第1肩部における前記各湾曲部へ連続する第1角部分、前記第2肩部における前記各湾曲部へ連続する第2角部分、前記第1肩部における前記各側壁部へ連続する第1肩壁、及び前記第2肩部における前記各側壁部へ連続する第2肩壁が形成されている輸液容器。」

【相違点1】
「輸液容器」について、本件補正発明は、「輸液の排出に追随するように変形する」のに対して、引用発明は、輸液の排出に追随して変形するのかどうか不明な点。

【相違点2】
「頂部間寸法D1」と「側壁部間寸法D2」について、本件補正発明は、互いの側壁部が「平行」に対向して、「1.4<D1/D2<2.0」という関係式を満たすのに対して、引用発明は、D1/D2=1.65であるものの、側壁部が平行に対向しているかどうかが不明な点。

【相違点3】
「第1角部分」と「第2角部分」について、本件補正発明は、いずれも、それぞれの近傍に角張った角部が形成されず、外方へ膨らむR状に形成され曲率半径が6mm?20mmとされているのに対して、引用発明は、角張った角部が形成されていないのかどうか不明な点。

【相違点4】
「第1肩壁」と「第2肩壁」について、本件補正発明は、いずれも、それぞれの近傍に角張った角部が形成されていないのに対して、引用発明は、角張った角部が形成されていないのかどうか不明な点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 【相違点1】について
可撓性を有する樹脂で輸液容器を構成することで、輸液の排出に伴う負圧により容器が変形されて、輸液を排出できることは、上記(2)ウ(ア)にて示した引用文献3に記載されているほか、新たに例示する特開2004-196332号公報の【0011】にも記載されているように、本願出願時において技術常識である。
そして、上記(2)ア(ア)(【0034】)のとおり、引用文献1には、「成形に使用される樹脂は・・・等の可撓性を有する公知のものを採用することができる」旨が記載されているところ、引用発明も、多かれ少なかれ輸液の排出に伴う負圧により容器が変形されて輸液を排出し得ているものと認められるから、相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に、実質的な相違点であるとしても、引用発明に上記技術常識を適用して、引用発明の輸液容器を適度な可撓性として、輸液の排出に追従して変形するように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

イ 【相違点2】について
引用文献2の【0013】(上記(2)イ(ア))に開示されているように、長軸に平行な平坦面を有する偏平形状の輸液容器は本出願時において従来周知の技術事項であるところ(更に必要であれば、特開2004-196332号公報の【0010】を参照。)、引用発明に上記従来周知の技術事項を適用して、互いの側壁部を平行とするに格別困難性はない。また、引用発明においては、D1/D2=1.65であるところ、引用発明の互いの側壁部を平行としても、本件補正発明で特定する1.4<D1/D2<2.0の範囲に留まると考えられる。

ウ 【相違点3】について
引用文献3の【0016】(上記(2)ウ(ア))に示されるように、肩部から胴部に対して曲線をなして連接されているものは本出願時において従来周知の技術事項である(更に必要であれば、特開2004-196332号公報の【0010】を参照。)。
次に、本件明細書を参酌しても、6mm?20mmという曲率半径の範囲に格別臨界的意義は認められず、また通常の輸液容器のサイズであれば、曲線(曲面)部を設ける場合、6mm?20mmという広範な曲率半径の範囲に入る蓋然性が高い。
これらを併せ考えると、引用発明に、上記従来周知の技術事項を適用して、相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が通常の創作能力の発揮の範囲内のものと解するのが相当である。

エ 【相違点4】について
引用文献3の【0016】(上記(2)ウ(ア))に示されるように、肩部から胴部に対して曲線をなして連接されているものは本出願時において従来周知の技術事項である(更に必要であれば、特開2004-196332号公報の【0010】を参照。)。したがって、引用発明に上記従来周知の技術事項を適用して、第1肩壁、第2肩壁のそれぞれの近傍を曲線をなすようにすることは当業者にとって容易に想到し得ることである。

オ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び従来周知の技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎないから、格別顕著なものということはできない。

カ したがって、本件補正発明は、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についての結び
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年4月3日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項に係る発明は、平成28年10月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2012-245642号公報
引用文献2:特開平7-231927号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記第1角部分が、外方へ膨らむR状に形成され、この第1角部分の曲率半径が、6mm?20mmとされ、前記第2角部分が、外方へ膨らむR状に形成され、この第2角部分の曲率半径が、6mm?20mmとされている」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-23 
結審通知日 2018-05-29 
審決日 2018-06-11 
出願番号 特願2013-66765(P2013-66765)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (A61J)
P 1 8・ 572- Z (A61J)
P 1 8・ 121- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武内 大志  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 船越 亮
長屋 陽二郎
発明の名称 輸液容器  
代理人 藤本 英夫  
代理人 藤本 英夫  

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