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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1342613
審判番号 不服2016-8932  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-15 
確定日 2018-07-24 
事件の表示 特願2014-502791「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出及び修復するためのシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月15日国際公開、WO2012/154320、平成26年 5月 1日国内公表、特表2014-510956〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年3月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年3月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年11月27日:翻訳文の提出
平成27年 3月10日:審査請求
同年 7月 9日:拒絶理由通知(7月14日発送)
同年10月 8日:手続補正書・意見書の提出
平成28年 2月18日:拒絶査定(2月22日送達)
同年 6月15日:審判請求
同年10月28日:拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」と
いう。10月31日発送)
平成29年 4月27日:手続補正書・意見書の提出
同年 7月12日:最後の拒絶理由通知(7月14日発送)
平成30年 1月12日:手続補正書・意見書の提出

第2 平成30年1月12日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年1月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、その特許請求の範囲の請求項12については、
本件補正前(平成29年4月27日付け手続補正後のもの)に、
「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出及び修復するための方法であって、
前記エレクトロクロミックデバイスが動作状態にあるときに、該デバイスの熱画像を取得するステップと、
前記熱画像を表す熱撮像データを処理するステップであって、前記熱画像の1つ又は複数のピクセルにおいて検出された温度振幅を所定の値と比較することにより前記エレクトロクロミックデバイス上の欠陥を検出するとともに、該検出された欠陥に対応する前記エレクトロクロミックデバイスの位置を求める、ステップと、
求められた位置に基づいて、前記エレクトロクロミックデバイス上の前記検出された欠陥の修復を制御するステップであって、前記修復は、レーザ光を放出して、前記検出された欠陥に対応する前記デバイスの位置をアブレーションする、ステップと、
熱撮像を用いて、前記検出された欠陥が十分に修復されたか否かを検証するステップと、
を含む、方法。」とあったものを、

「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出及び修復するための方法であって、
前記エレクトロクロミックデバイスが動作状態にあるときに、レンズを使用して該デバイスの熱画像を取得するステップであって、前記欠陥を含む部分について検出された温度振幅の、前記欠陥を有さない前記エレクトロクロミックデバイスの隣接部分についての温度振幅に対する信号対雑音比を増大させるように、前記レンズの位置決めと前記エレクトロクロミックデバイスに印加される電圧とを制御するステップと、
前記熱画像を表す熱撮像データを処理するステップであって、前記熱画像の1つ又は複数のピクセルにおいて検出された温度振幅を所定の値と比較することにより前記エレクトロクロミックデバイス上の欠陥を検出するとともに、該検出された欠陥に対応する前記エレクトロクロミックデバイスの位置を求める、ステップと、
求められた位置に基づいて、前記エレクトロクロミックデバイス上の前記検出された欠陥の修復を制御するステップであって、前記修復は、レーザ光を放出して、前記検出された欠陥に対応する前記デバイスの位置をアブレーションする、ステップと、
熱撮像を用いて、前記検出された欠陥が十分に修復されたか否かを検証するステップと、
を含む、方法。」と補正する内容を含むものである(下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)。

2 補正目的
上記「1」の補正内容は、本件補正前の請求項12に係る発明を特定するために必要な「デバイスの熱画像を取得するステップ」について、
(1)「レンズを使用してデバイスの熱画像を取得するステップ」であって、
(2)「欠陥を含む部分について検出された温度振幅の、欠陥を有さないエレクトロクロミックデバイスの隣接部分についての温度振幅に対する信号対雑音比を増大させるように、レンズの位置決めとエレクトロクロミックデバイスに印加される電圧とを制御するステップ」であると、
特定するものであり、その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
よって、本件補正後の請求項12についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項12に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「第2 1」に記載したとおりである。

(2)引用文献に記載の事項
ア 当審拒絶理由通知において引用文献1として引用した国際公開第01/07901号(2001年2月1日国際公開。以下「引用文献1」という。)

(ア)引用文献1には、以下の記載がある。
a 「INFRARED THERMOGRAPHIC METHOD FOR PROCESS MONITORING AND CONTROL OF MULTILAYER CONDUCTIVE COMPOSITIONS」(第1頁上段)
(日本語訳:
多層導電性組成物の工程監視および制御のための赤外線サーモグラフィー法)

b 「14. A method of determining the location of short circuits in a device comprising at least two electronically conductive layers separated by an electronically insulating layer, said method comprising the steps of: placing said device in the field of view of a thermographic camera; applying a predetermined current and voltage to said conductive layers of said device; observing through said thermographic camera any increases in surface temperature in said device which indicate the location of a short circuit.
15. A method according to claim 14, wherein said device is selected from the group consisting of primary batteries, rechargeable batteries, supercapacitors and electrochromic elements. 」(第22頁)
(日本語訳:
14.電気絶縁層により互いに分離された少なくとも二つの導電層を含む装置において短絡の位置を特定する方法であり、サーモグラフィカメラの視界内に同装置を配置する工程と、所定電流と電圧を同装置の同導電層に印加する工程と、同サーモグラフィカメラを通して、短絡位置を示す同装置における表面温度の上昇を観察する工程を含む、同方法。
15.前記装置が、一次電池、充電可能電池、超コンデンサ、エレクトロクロミック素子から成るグループから選択される、請求項14に記載の方法。)

c 「While measurement of electrical resistance provides a fast, convenient, inexpensive, and reliable method of quality control during the fabrication of all the devices listed above, it does not provide any information about the location of the defects. The problem is made more difficult by the fact that in most cases, once bonded, such devices cannot be disassembled into their constituent layers to facilitate defect location by optical examination. Such defect location information would be extremely useful in optimizing fabrication procedures and process parameters by indicating, for example, whether the shorting defects are located mostly at the edges of the faulty devices or inside the electrode area. Once the exact location of the defects is indicated, further testing using, for example, microscopic examination of a cross-section of the device at the defect location may reveal its direct cause and lead to changes in process conditions and/or procedures to alleviate the problem.
Therefore, there remains a need in the art for improved methods of detecting defects, particularly the location of defects in insulating layers of multi-layer bonded assemblies so that manufacturing processes may be improved.」(第6頁第25行ないし第7頁第13行)
(日本語訳:
電気抵抗の測定は、上記列挙した全ての装置の製造中に迅速、簡便、安価かつ信頼性の高い品質管理方法となるものの、欠陥の位置に関するいかなる情報も提供しない。この問題は、ほとんどの場合そのような装置は一旦結合されると、光学検査による欠陥位置特定を容易にするために構成層に分解することができないためにより困難になっている。このような欠陥位置情報は、例えば、短絡欠陥がほとんど欠陥装置の縁部に位置するかあるいは電極領域内に位置するかどうかを示すので、製造手順および工程パラメータを最適化する際に非常に有用である。欠陥の正確な位置が示されると、例えば、欠陥位置での装置断面の顕微鏡検査を使用する更なる検査により、その直接的な原因を明らかにでき、問題軽減のために工程条件および/または手順を変えることが可能になる。
したがって、製造工程の改善を可能にするために欠陥を検出する改良された方法、特に多層接合集合体の絶縁層中の欠陥の位置を検出する方法が、当業界では依然として必要とされている。)

d 「It has been discovered that even a high-resistance, so-called 'soft short', point defect between the two conductive layers with an ohmic resistance of 100-200 kohm generates sufficient local increase in temperature of the surrounding material to become clearly detectable with a commercial-grade thermography camera, such as Avio TVS-2000 manufactured by Nippon Avionics, Ltd., which has a nominal temperature resolution of 0.1°C, when a DC voltage of 10-20 V is applied to the conducting layers. This implies that as little as 1-2 mW of dissipated power can be detected in such multi-layer structures by causing an increase of about 0.2-0.3°C in local temperature.
When a sample with a lower-resistance electrical short-circuit defect was studied, an applied voltage of less than 0.5 volt was sufficient to visualize the location of the defect. It was also discovered that the very low current (of the order of several mA) flowing through such a detectable defect is stable in time and does not cause further degradation of the device. Of course, if a less sensitive camera were used, the current might have to be increased to the level where the local heating effect would exceed thermal stability of the component materials and result in their thermal degradation.」(第12頁第16行ないし第13頁第3行)
(日本語訳:
オーミック抵抗が100?200kΩである二つの導電層の間の高抵抗な、いわゆる「ソフトショート」の点欠陥でさえ、10-20Vの直流電圧が導電層に印加されたとき、市販のサーモグラフィカメラ、例えば公称温度分解能が0.1℃である日本アビオニクス社製Avio TVS-2000を用いて明快に検出可能となるに十分な周囲材料の温度の局地的上昇を起こすことが分かっている。これは、局所温度で約0.2-0.3℃の上昇を引き起こすことによって、そのような多層構造においてわずか1-2mWの散逸電力も検出され得ることを意味する。
低抵抗の電気的短絡欠陥を有する試料の観察では、0.5ボルト未満の印加電圧でも欠陥の位置を視覚化できた。このような検出可能な欠陥を流れる非常に低い電流(数mA程度)は、時間的に安定であり、装置をさらに劣化させないことも分かった。もちろん、感度のより低いカメラを使用した場合、局所加熱効果が構成材料の熱安定性を上回って熱劣化を生じさせるレベルにまで、電流を増加させる必要もあり得る。)

e 「Example 3
A multi-layer unextracted plastic Li-ion cell laminate having the structure as depicted in FIG. la and exhibiting DC resistance of 1.2 kohm was placed on a laboratory bench in the field of view of a thermographic camera Avio TVS-2000. The two metal tabs of the battery preform were connected to a regulated power supply (HP E3610A) set to a maximum current of 0.5 A. As shown in the thermographic image of Fig. 3, when the voltage applied to the terminals of the battery preform was slowly raised to 1.9 V, two small areas located at the edges of the preform appeared on the screen, indicating a slightly raised temperature (no more than 0.2-0.3°C above the environment's temperature) at these two locations, and indicating the exact location of the two electrical short-circuits. Microscopic examination indicated that in one case, the electrical short was caused by a wire-like non-flattened protrusion left after cutting through the metal grid. In the second case, the battery preform was trimmed too closely through all the layers, with some grains of the electronically conducting materials connecting the two opposing electrodes.

Example 4
A multi-layer extracted and air-dried plastic Li-ion cell laminate having the structure as depicted in FIG. lb and exhibiting DC resistance of 120 kohm was placed on a laboratory bench in the field of view of a thermographic camera Avio TVS-2000. The common negative (copper grid) tab and one of the two positive (aluminum grid) metal tabs of the battery preform were connected to a regulated power supply (HP E3610A) set to a maximum current of 0.5 A. When the voltage applied to the terminals of the battery preform was slowly raised to about 15 V, one small brighter area located in the middle of the external positive electrode appeared on the screen, indicating a slightly raised temperature (no more than 0.2-0.3°C above the environment's temperature) at this location, indicating the exact location of the electrical short-circuit. Microscopic examination revealed the presence of a very short section of an aluminum wire derived from the grid trimming operation and embedded in the top-most positive electrode.」(第16頁第4ないし第17頁第8行)
(日本語訳:
例3
図1aに示す構造を有し、12kΩの直流抵抗を示す多層非抽出プラスチックリチウムイオン電池積層体を、サーモグラフィカメラ Avio TVS-2000の視界内で実験台上に配置した。電池プリフォームの二つの金属タブは、最大電流0.5Aに設定された調整電源(HPE3610A)に接続された。図3のサーモグラフィ画像に示すように、電池プリフォームの端子に印加される電圧を1.9Vまでゆっくり上昇させると、プリフォームの縁部に位置する二つの小さな領域が画面上に現れ、それら二つの位置での僅かな温度上昇(環境温度より0.2?0.3℃以下高い)を示し、二つの電気的短絡の正確な位置を示した。顕微鏡検査では、ある例では、金属グリッドを切断した後に残ったワイヤ状の平坦でない突出部によって電気的短絡が生じたことが示された。第2の例では、電池プリフォームは、全ての層を通して極めて入念に切り揃えられ、導電材料の粒子の一部が、二つの相対する電極を接続した。

例4
図1bに図示した構造を有し、120kΩの直流抵抗を示す多層の、抽出され空気乾燥されたプラスチックリチウムイオン電池積層体を、サーモグラフィカメラAvio TVS-2000の視界内で実験台上に配置した。電池プリフォームの共通の負(銅グリッド)タブと二つの正(アルミニウムグリッド)金属タブの一つとを、最大電流0.5Aに設定された調整電源(HP E3610A)に接続した。電池プリフォームの端子に印加する電圧をゆっくりと約15Vまで上昇させると、外部正極の中央に位置する一つの小さくより明るい領域が画面に表れて、この位置での僅かな温度上昇(環境温度より0.2?0.3℃以下高い)を示し、電気短絡の正確な位置を示した。顕微鏡検査により、グリッドの刈込み作業から生じた、最上部の正極に埋め込まれたアルミニウム電線の非常に短い区間の存在が明らかになった。)

f 「 FIG. 3 is a thermographic image of the location of two point defects in a multi-layer unextracted plastic Li-ion battery laminate.」(第9頁第1ないし2行)
(日本語訳:
図3は、多層非抽出プラスチックリチウムイオン電池積層体における2点欠陥の位置のサーモグラフィー画像である。)

(イ)引用文献1に記載された発明
a 上記(ア)aないしcの記載によれば、引用文献1には、
「電気絶縁層により互いに分離された少なくとも二つの導電層を含むエレクトロクロミック素子における欠陥の位置を検出する方法であって、
赤外線サーモグラフィカメラの視界内にエレクトロクロミック素子を配置する工程と、
所定電流と電圧をエレクトロクロミック素子の二つの導電層に印加する工程と、
赤外線サーモグラフィカメラを通して、欠陥の位置を示すエレクトロクロミック素子における表面温度の上昇を観察する工程と、
を含む、方法。」が記載されているものと認められる。

b 上記(ア)d及びeの記載によれば、
上記aの「所定電流……導電層に印加する工程」は、「エレクトロクロミック素子の二つの導電層に印加する電圧をゆっくりと上昇させる工程」であってもよいものと認められる。

c 上記(ア)dの記載によれば、
上記aの「表面温度の上昇」は、「表面温度の局所的上昇」であることが理解できる。

d 上記(ア)e及びfの記載によれば、
上記aの「赤外線サーモグラフィカメラを通して……上昇を観察する工程」は、
「赤外線サーモグラフィカメラからのサーモグラフィー画像において、エレクトロクロミック素子の表面温度が局所的に上昇することで明るい領域となる欠陥の位置を特定する工程」であるといえる。

e 上記aないしdによれば、引用文献1には、エレクトロクロミック素子にける欠陥の位置を検出する手順として、以下の方法が記載されているものと認められる(以下「引用発明1」という。)。

「電気絶縁層により互いに分離された少なくとも二つの導電層を含むエレクトロクロミック素子における欠陥の位置を検出する方法であって、
赤外線サーモグラフィカメラの視界内に前記素子を配置する工程と、
前記素子の二つの導電層に印加する電圧をゆっくりと上昇させる工程と、
前記赤外線サーモグラフィカメラからのサーモグラフィー画像において、前記素子の表面温度が局所的に上昇することで明るい領域となる欠陥の位置を特定する工程と、
を含む、方法。」

イ 当審拒絶理由通知において引用文献2として引用した特表2008-545232号公報(2008年12月11日公表。以下「引用文献2」という。)

(ア)引用文献2には、図とともに以下の記載がある。

a 「【請求項1】
第1の透明電極層と、第2の電極層と、前記第1および第2の電極層の間に挟まれた有機機能層とを有する有機機能装置内での、短絡不具合の発生を抑制する方法であって、
-前記有機機能装置の一部分を同定するステップであって、前記一部分は、短絡不具合の危険性の増大につながる欠陥を含有している、ステップ、
-前記第2の電極層のセグメントを選定するステップであって、前記セグメントは、前記一部分に対応する、ステップ、ならびに
-前記セグメントを前記第2の電極層の残り部から電気的に分離するステップであって、これにより前記欠陥に起因して生じる短絡不具合が排除されるステップ、
を有する方法。
【請求項2】
前記一部分を同定するステップは、
-前記両電極層の間に電圧を印加するステップであって、前記電圧によって、前記欠陥のため前記両電極層の間に電流の流れが生じ、前記一部分に熱が生じるステップと、
-サーモグラフィック技術を用いて、前記一部分を同定するステップと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電圧を印加するステップは、交流電圧を印加することにより行われ、これにより前記熱は、周期的に生じ、
前記一部分を同定するステップは、前記交流電圧の周波数に関連する周波数で作動するIR検出器を用いて行われることを特徴とする請求項2に記載の方法。」

b 「【0021】
有機機能装置の電極層の間に電圧が印加されると、通常、有機機能装置が欠陥を含む部分では、周囲領域に比べて電場がより不均一になり、より大きくなる。局部的に不均一で大きな電場により、装置のこの部分の電極層間には、周囲部分に比べてより多くの電流が流れる。電流の流れは、熱発生につながるため、IRサーモグラフィ、液晶顕微鏡技術、蛍光ミクロサーマル結像技術またはシュリーレン(Schlieren)結像技術のようなサーモグラフィック技術を用いて、欠陥を含む部分を局部的な熱源として同定することができる。
【0022】
別の実施例では、電圧を印加するステップは、交流電圧を印加することにより実施され、これにより熱が周期的に発生しても良く、前記一部分を同定するステップは、交流電圧の周波数に関連する周波数で作動するIR検出器を用いて実施されても良い。
【0023】
通常の場合、IR検出器の作動周波数は、交流電圧の周波数の倍数の周波数である。換言すれば、交流電圧がfRの場合、IR検出器周波数は、n=1,2,…として、nfRであることが好ましい。
【0024】
ロックインIR検出と称されるこの方法により、欠陥を含む部分の位置に関するより多くの情報を得ることができる。
【0025】
特に、振幅画像に加えて、位相画像を取得することができる。
【0026】
位相画像を用いることにより、装置の各種層での熱放射および熱拡散の影響がフィルタ除去され、より高い精度で欠陥を含む位置を同定することが可能となる。」

c 「【0063】
図4には、本発明による方法の好適実施例のブロック図を示す。この実施例では、まずステップ501において、発光パネル101、201の電極層104,105の間に、交流電圧が印加される。電極層104、105の間に電圧が印加されると、有機発光パネル101、201の欠陥含有部分102a乃至102gにおいて、電極層104、105間にリーク電流が流れる。この電流の流れにより、欠陥含有部分102a乃至102gに熱が生じる。ステップ501での電極層104、105間の電流印加の結果、有機発光パネル101、201の欠陥含有部分102a乃至102gに対応する多数のパルス状の熱源が得られることになる。ステップ502では、これらの欠陥含有部分102a乃至102gがIR検出器を用いて同定される。この同定には、ロックインサーモグラフィ技術が利用されることが好ましい。
【0064】
ロックインサーモグラフィ技術とは、被検査対象物内で逸散する電力を、周波数fRで周期的に振幅変調する技術を意味する。得られる表面温度変調は、周波数fRに関連したあるフレームレート(整数)で作動するIR検出器によって画像化され、生じたIR画像は、ロックイン方式によりデジタル処理される。従って、ロックインサーモグラフィ技術の効果は、IR画像の各画素が、2位相のロックインアンプで接続されている場合と同様のものとなる。このIR検出器からの画像は、電極層104、105の間に印加される交流電圧の周波数fRの倍数の周波数nfRと同期されたコンピュータで取り込まれることが好ましい。この方法により、パルス情報および振幅情報が得られ、これにより、振幅情報のみを使用した場合よりも高い精度で、欠陥含有部分102a乃至102gの位置(xa,ya)から(xg,yg)が定められる。ステップ502において、欠陥含有部分102a乃至102gが同定されると、ステップ302において、電極層104、105の少なくとも一つのセグメントが選定され、これらのセグメントは、局部的な熱源102a乃至102gに対応する。最後にステップ303では、レーザを用いて、選定されたセグメントがそれぞれの層の残りの部分から電気的に分離される。
【0065】
図5には、本発明による方法の好適実施例を実施する配置が概略的に示されている。ここでは、有機機能装置は、有機発光パネル401の形態であり、図1a乃至1cおよび図2a乃至2cの有機機能装置が含むものと同様の、層103乃至107と、欠陥102a乃至102g(図4では、102dおよび102eが視認できる)とを有する。この有機発光パネル401の第1および第2の電極層104、105は、パルス電圧源402と接続され、この電圧源は、コンピュータ403により制御され、ある周波数fRでパルス作動される。コンピュータ403は、同様にレーザ404およびIR検出器405とも接続される。通常、有機発光パネル401とIR検出器405の間には、レンズ配置(特定の状況に依存して、負または正の倍率を有する)が設置され、これは、この例ではマクロレンズ406の形態である。」

d 図5は、以下のものである。


(ウ)引用文献2に記載された技術事項
a 上記(ア)aの記載からして、
引用文献2には、欠陥部分を同定する方法として、以下の方法が記載されているものと認められる。

(a)「電極層の間に電圧を印加することにより熱が生じる欠陥部分を、サーモグラフィック技術を用いて同定する方法」
(b)「電極層の間に交流電圧を印加することにより周期的に熱が生じる欠陥部分を、交流電圧の周波数に関連する周波数で作動するIR検出器を用いて同定する方法」

b 上記(ア)bの記載から、以下のことが理解できる。
(a)上記aの「欠陥部分」は、「局所的な熱源」であること。

(b)上記a(b)の「交流電圧の周波数に関連する周波数」とは、「交流電圧の周波数と同じ周波数」であってもよいこと(n=1)。

(c)上記a(b)の方法は、交流電圧を印加することにより、振幅画像に加えて、位相画像が得られることから、より高い精度で欠陥部分の位置を同定できること。

c 上記(ア)b及びcの記載を踏まえて、図5を見ると、以下のことが理解できる。
(a)上記a(b)の「IR検出器」は、「欠陥部分」の表面温度変調を画像化するものであって、「前方にレンズが配置されたIR検出器」であること。

(b)上記aの「IR検出器を用いて同定する」とは、
具体的には、
「欠陥部分の表面温度変調を、交流電圧の周波数と同じ周波数で作動する前方にレンズが配置されたIR検出器によって画像化し、生じたIR画像をロックイン方式によりデジタル処理することにより、欠陥部分の位置を同定する」こと。

d 上記aないしcによれば、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる(以下「技術事項A」という。)。

「電極層の間に交流電圧を印加することにより周期的に熱が生じる欠陥部分の表面温度変調を、交流電圧の周波数と同じ周波数で作動する前方にレンズが配置されたIR検出器によって画像化し、生じたIR画像をロックイン方式によりデジタル処理することにより、より高い精度で欠陥部分の位置を同定できること。」

ウ 当審拒絶理由通知において引用文献8として引用した特開平7-28099号公報(1995年1月31日公開。以下「引用文献3」という。)

(ア)引用文献3には、図とともに以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

a 「【請求項2】 基板上に形成した少なくとも、エレクトロクロミック層と、これを挟む一対の電極層、とからなる全固体型エレクトロクロミック素子の製造方法において、該素子上で前記一対の電極層が接触する欠陥部分にレーザー光を照射して、前記欠陥部分を除去することを特徴とする駆動時の漏れ電流が微小な全固体型エレクトロクロミック素子の製造方法。」

b 「【0002】
【従来の技術】電圧を印加すると可逆的に電解酸化または還元反応が起こり、可逆的に着消色する現象をエレクトロクロミズムという。
【0003】このような現象を示すエレクトロクロミック(以下、ECと略す)物質を用いて、電圧操作により着消色するEC素子(以下、ECDと略す)を作り、このECDを光量制御素子(例えば調光ガラスや防眩ミラー等)あるいは7セグメントを利用した数字表示素子に利用しようとする試みは、約20年以上も前から行われている。
【0004】例えば、ガラス基板の上に透明電極膜(陰極)、三酸化タングステン薄膜、二酸化ケイ素のような絶縁膜、電極膜(陽極)を順次積層してなるECD(特公昭52-46098号参照)が全固体型ECDとして知られている。
【0005】このECDに電圧を印加すると三酸化タングステン(WO_(3))薄膜が青色に着色する。漏れ電流が微小な場合には電圧印加を止めても、この着色状態は長時間維持される(メモリー性と呼ばれている)。その後、このECDに逆の電圧を印加するか、又は一対の電極間を短絡すると、WO_(3)薄膜の青色が消えて無色になる。この着消色する機構は詳しくは解明されていないが、WO_(3) 薄膜及び絶縁膜(イオン導電層)中に含まれる少量の水分がWO_(3)の着消色を支配していると理解されている。」

c 「【0012】
【発明が解決しようとする課題】調光ガラスに限らず全てのECDにおいて、ECD駆動時の漏れ(リーク)電流が大きいと、不均一な着消色となり(特に大型ECDの場合に顕著である)、またメモリー性が低下するという問題が発生する。不均一な着消色は、ECD着色時に時間が経過しても着色濃度がECDの全面で一定とならないで濃淡差(色むら)ができ、また消色時にも濃淡差(色むら)が目立つ現象であり、外観不良や着色濃度低下の原因となる。
【0013】漏れ電流が大きい程、不均一な着消色やメモリー性低下が顕著になって問題となる。漏れ電流は、大型のECD程大きく、また全固体型ECDで特に大きくなりやすい。
【0014】本発明の目的は、駆動時の漏れ電流が微小な全固体型エレクトロクロミック素子及びその製造方法を提供することにある。」

d 「【0019】
【作用】本発明者等は鋭意研究の結果、…異物Tを介して一対の電極層I,I’が接触する…ことにより、…前記異物Tと共にEC層Eが脱落し、その後の工程で形成する一方の電極層I’が前記EC層Eの脱落跡に露出した他方の電極層I(EC層形成の前工程で基板上に形成したもの)と直接接触する…ことにより、この接触部分(欠陥部分)Dで漏れ電流が発生することを見出して、本発明をなすに至った。」

e 「【0029】実施例1
下部電極層となるITO層(下部)Iを形成した基板G(150mm ×80mm、ITO層の面積抵抗10Ω)上に、DCスパッタリングにより、酸化イリジウムと酸化スズとの混合物からなる可逆的電解酸化層、酸化タンタルのイオン導電層、酸化タングステン層であるEC層E、および上部ITO電極層I’(面積抵抗20Ω)を順次形成して、全固体型ECDを作製した。このECDに着色電圧2Vを印加して素子を駆動させたとき、約15mAの漏れ電流が発生し、図4のA1で示すように、不均一な着色状態となった。
【0030】着色透過率が周辺よりも明確に高い部分を眼による観察で確認した後、顕微鏡にてその部分を詳細に観察したところ、約50μmの径の欠陥部分Dがあることが判明した。
【0031】次に、図6および図1(c) に示すように、20倍の対物レンズMにより約100μm径に集光したNe-YAGレーザー光Lを欠陥部分Dに照射して、蒸発および/または飛散を引き起こすことにより、欠陥部分Dを除去した(Rの部分)。欠陥部分Dの除去により、ECDの漏れ電流は約0.2 mAとなった。
【0032】欠陥部分Dの除去前後における本実施例ECDの着色時の透過率分布A1, A2を図4に示す。欠陥部分Dを除去することにより、漏れ電流が激減し、着色時の一様性が著しく向上している(色むらなし)ことが判る。尚、特にデータは示さないが、消色時も気になる色むらは観察されなかった。」

f 「【0038】
【発明の効果】以上の通り、本発明にかかる全固体型ECDは、駆動時の漏れ電流が微小であるから、色むらのない均一な着消色が可能である。また、本発明にかかる全固体型ECDの製造方法によれば、漏れ電流の原因となる素子上の欠陥部分を簡単に除去することができ、漏れ電流の微小な全固体型ECDを製造できる。」

g 図1は、以下のものである。


h 図4は、以下のものである。


i 図6は、以下のものである。


(イ)引用文献3に記載された発明
a 上記(ア)aないしcの記載からして、引用文献3には、
「基板上に形成した少なくとも、エレクトロクロミック層と、これを挟む一対の電極層とからなる、電圧操作により可逆的に着消色するエレクトロクロミック素子において、
該素子上で前記一対の電極層が接触する欠陥部分にレーザー光を照射して、前記欠陥部分を除去する方法。」が記載されているものと認められる。

b 上記(ア)dの記載からして、
上記aの「素子上で前記一対の電極層が接触する欠陥部分」は、漏れ電流が発生する部分であると認められる。

c 上記(ア)eの記載を踏まえて、図1、図4及び図6を見ると、以下のことが理解できる。
(a)上記aの「一対の電極層」は、
一対の透明電極層であってもよいこと。

(b)上記aの「欠陥部分」は、
電圧を印加して素子を駆動させた際に、着色透過率が周辺よりも明確に高い部分として目視により検出できること。

(c)上記(a)の「(目視により検出した)欠陥部分」に、Ne-YAGレーザー光を照射して、蒸発および/または飛散を引き起こすことにより、前記欠陥部分を除去すること。

(d)上記(c)の工程の後に、エレクトロクロミック素子の着色状態を目視により確認すること。

d 上記(ア)fの記載によれば、
上記aの「欠陥部分を除去する方法」は、「欠陥部分を修復する方法」であるといえる。

e 上記aないしdによれば、引用文献3には、エレクトロクロミック素子における欠陥部分を検出及び修復する方法として、以下の方法が記載されているものと認められる(以下「引用発明3」という。)。

「基板上に形成した少なくとも、エレクトロクロミック層と、これを挟む一対の透明電極層とからなる、電圧操作により可逆的に着消色するエレクトロクロミック素子において、漏れ電流が発生する欠陥部分を検出及び修復する方法であって、
電圧を印加して前記素子を駆動させる工程と、
前記欠陥部分を、着色透過率が周辺よりも明確に高くなる部分として目視により検出する工程と、
前記目視により検出した欠陥部分に、Ne-YAGレーザー光を照射して、蒸発および/または飛散を引き起こすことにより前記欠陥部分を除去する工程と、
前記目視により検出した欠陥部分を除去した後に、前記素子の着色状態を目視により確認する工程と、
を含む方法。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「エレクトロクロミック素子」、「欠陥」及び「サーモグラフィー画像」は、それぞれ、本願補正発明の「エレクトロクロミックデバイス」、「欠陥」及び「熱画像」に相当し、引用発明1の「サーモグラフィー画像」は、「赤外線サーモグラフィカメラ」により撮像されたものであから、本願補正発明の「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出及び修復するための方法」と、
引用発明1の「電気絶縁層により互いに分離された……エレクトロクロミック素子における欠陥の位置を検出する方法」とは、
「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出するための方法」で一致する。

イ 本願補正発明の「レンズの位置決め」の意味について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

(ア)本願明細書には、以下の記載がある。
「【0025】
熱カメラユニット26は、レンズ27を有する赤外線カメラ等の熱撮像カメラを備えることができる。カメラのレンズ27は、3つの自由度(x,y,z)において移動するように制御可能とすることができ、熱撮像カメラは、熱画像を取得するとともに、取得された熱画像を表す熱撮像データを供給するように制御可能とすることができる。」

「【0035】
ブロック106において、熱画像プロセッサユニット24は、レンズ27と対面しているECデバイス30の表面の上方の所定の位置にレンズ27を移動させるように熱カメラユニット26を制御することができる。」

「【0041】
1つの実施形態では、制御ユニット10は、上述したような欠陥上にロックインする反復的手順の使用等によって、欠陥を含む部分に隣接した、欠陥を有しないEC積層膜の部分について検出された温度振幅に対する、欠陥を含むEC積層膜の部分について検出された温度振幅の信号対雑音比を増大させるように、レンズ27の位置の位置決めとECデバイスに印加される電位とを制御することができる。」

「【0047】
ECデバイスの上方に位置決めされて80μm/ピクセルの分解能を提供する25mmIR対物レンズを有する例示的なシステムの熱カメラユニットと、また、EC膜デバイスの上方に位置決めされて10μm/ピクセルの分解能を提供するMacro1×IR対物レンズも用いた例示的なシステムの熱カメラユニットとを用いて、例示的なECデバイスの熱画像を得た。図8A及び図8Bは、それぞれ25mmレンズ及びMacro1×レンズを用いて取得された図7のECデバイス全体の熱画像を示している。」

「【0059】
ブロック244において、欠陥修復がブロック242においてレーザアブレーションによって行われた位置(複数の場合もある)に対応するEC積層膜の位置(複数の場合もある)の熱画像を取得することができるECデバイス上の位置にレンズ27を移動させるように、熱カメラユニット26を制御することができる。」

上記記載からして、
「レンズの位置決め」とは、熱画像を取得することができるように、エレクトロクロミックデバイスの表面の上方の所定の位置にレンズを移動させることを意味するものと解される。

(イ)一方、引用発明1の「赤外線サーモグラフィカメラ」が「レンズ」を備えていることは当業者にとって明らかではあるものの、その「レンズの位置決め」が制御されているか否かは不明である。

(ウ)してみると、本願補正発明の「エレクトロクロミックデバイスが動作状態にあるときに、……前記レンズの位置決めと前記エレクトロクロミックデバイスに印加される電圧とを制御するステップ」と、
引用発明1の「赤外線サーモグラフィカメラの視界内に前記素子を配置する工程と、……電圧をゆっくりと上昇させる工程」とは、
「エレクトロクロミックデバイスが動作状態にあるときに、レンズを使用して該デバイスの熱画像を取得するステップであって、前記エレクトロクロミックデバイスに印加される電圧とを制御するステップ」で一致する。

ウ 次に、本願補正発明の「温度振幅」の意味について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

(ア)本願明細書には、以下の記載がある。
「【0048】
……同じ短絡についての2つの異なるレンズのそれぞれのピーク温度振幅(温度)間の差が生じる理由は、各ピクセルが複数の領域からの熱放出を平均化し、短絡を含むECデバイスの領域は、通常、約10μmのように小さいからである。その結果、同じ短絡について、或るピクセルがEC積層膜の大きな領域に対応するほど、そのピクセルの熱撮像データは、EC積層膜の背景(基準)温度と比較して、より小さな温度差を有する。換言すれば、欠陥を有しないEC積層膜の部分の温度振幅に対する、EC積層膜内の欠陥の温度振幅(温度)の信号対雑音比は、各ピクセルによって表されるECデバイスの領域のサイズの増加に伴って減少する。」

「【0057】
……ブロック240において、レーザデバイス212から放出されたレーザ光が、検出された短絡の位置に対応する、所定の閾値を超えた温度振幅を有すると判断されたECデバイスの熱画像の単数又は複数のピクセルに対応するECデバイス上の位置(複数の場合もある)に当たることができるように、制御ユニットは、ECデバイスに対してレーザデバイスを位置決めするようにレーザデバイス212の移動を制御することができる。」

【0061】
……EC積層膜内の短絡が修復された後、短絡を有すると識別されたEC積層膜の位置は、もはや高レベルの熱を放射するはずがなく、そのため、修復された短絡の位置に対応する熱画像のピクセル(複数の場合もある)の温度振幅は、所定の閾値未満である。」

上記記載からして、
「温度振幅」とは、背景(基準)温度との温度差を意味するものと解される。

(イ)一方、引用発明1の「赤外線サーモグラフィカメラからのサーモグラフィー画像において、……明るい領域となる欠陥の位置を特定する工程」にける「明るい領域」は、周りの温度と比較して温度の高い領域であることから、
本願補正発明の「熱画像を表す熱撮像データを処理するステップであって、前記熱画像の1つ又は複数のピクセルにおいて検出された温度振幅を所定の値と比較することにより前記エレクトロクロミックデバイス上の欠陥を検出するとともに、該検出された欠陥に対応する前記エレクトロクロミックデバイスの位置を求める、ステップ」と、
引用発明1の「赤外線サーモグラフィカメラからのサーモグラフィー画像において、……明るい領域となる欠陥の位置を特定する工程」とは、
「熱画像を表す熱撮像データを処理するステップであって、前記熱画像の1つ又は複数のピクセルにおいて検出された温度振幅を所定の値と比較することにより前記エレクトロクロミックデバイス上の欠陥を検出するとともに、該検出された欠陥に対応する前記エレクトロクロミックデバイスの位置を求める、ステップ」で一致する。

エ 以上のことから、本願補正発明と引用発明1とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出するための方法であって、
前記エレクトロクロミックデバイスが動作状態にあるときに、レンズを使用して該デバイスの熱画像を取得するステップであって、前記エレクトロクロミックデバイスに印加される電圧とを制御するステップと、
前記熱画像を表す熱撮像データを処理するステップであって、前記熱画像の1つ又は複数のピクセルにおいて検出された温度振幅を所定の値と比較することにより前記エレクトロクロミックデバイス上の欠陥を検出するとともに、該検出された欠陥に対応する前記エレクトロクロミックデバイスの位置を求める、ステップと、
を含む、方法。」

オ 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願補正発明は、
「欠陥を含む部分について検出された温度振幅の、前記欠陥を有さない前記エレクトロクロミックデバイスの隣接部分についての温度振幅に対する信号対雑音比を増大させるように、前記レンズの位置決めと前記エレクトロクロミックデバイスに印加される電圧とを制御するステップ」を含むのに対して、
引用発明1は、信号対雑音比を増大させるように、レンズ及び印加される電圧を制御しているか否か不明である点。

<相違点2>
本願補正発明は、
(ア)「求められた位置に基づいて、エレクトロクロミックデバイス上の検出された欠陥の修復を制御するステップであって、前記修復は、レーザ光を放出して、前記検出された欠陥に対応する前記デバイスの位置をアブレーションする、ステップと」、
(イ)「熱撮像を用いて、前記検出された欠陥が十分に修復されたか否かを検証するステップと」を含む、
(ウ)「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を修復するための方法」でもあるのに対して、
引用発明1は、そのようなステップを含む修復するための方法ではない点。

(4)判断
ア 上記<相違点1>について検討する。
(ア)引用文献2に記載された「技術事項A」は、以下のものである。

「電極層の間に交流電圧を印加することにより周期的に熱が生じる欠陥部分の表面温度変調を、交流電圧の周波数と同じ周波数で作動する前方にレンズが配置されたIR検出器によって画像化し、生じたIR画像をロックイン方式によりデジタル処理することにより、より高い精度で欠陥部分の位置を同定できること。」

(イ)引用発明1は、「赤外線サーモグラフィカメラからのサーモグラフィー画像において、……欠陥の位置を特定する工程」を含むものであるところ、より高い精度で「欠陥の位置を特定」するために、
「前方にレンズが配置されたIR検出器の視界内に素子を配置する工程、
素子の二つの導電層に交流電圧を印加する工程、
周期的に熱が生じる欠陥部分の表面温度変調を、交流電圧の周波数と同じ周波数で作動する前方にレンズが配置されたIR検出器によって画像化する工程」を採用することは、当業者が上記「技術事項A」に基づいて容易に想到し得ることである。
また、「表面温度変調」の画像化に際して、S/N比が向上するように、レンズの位置決めと素子に印加される電圧とを制御することに何ら困難性は認められない。

(ウ)以上の検討によれば、引用発明1において、上記<相違点1>に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が上記「「技術事項A」に基づいて容易になし得たことである。

イ 上記<相違点2>について検討する。
(ア)引用文献3に記載された「引用発明3」は、以下のものである。

「基板上に形成した少なくとも、エレクトロクロミック層と、これを挟む一対の透明電極層とからなる、電圧操作により可逆的に着消色するエレクトロクロミック素子において、漏れ電流が発生する欠陥部分を検出及び修復する方法であって、
電圧を印加して前記素子を駆動させる工程と、
前記欠陥部分を、着色透過率が周辺よりも明確に高くなる部分として目視により検出する工程と、
前記目視により検出した欠陥部分に、Ne-YAGレーザー光を照射して、蒸発および/または飛散を引き起こすことにより前記欠陥部分を除去する工程と、
前記目視により検出した欠陥部分を除去した後に、前記素子の着色状態を目視により確認する工程と、
を含む方法。」

(イ)引用発明1と引用発明3とは、「エレクトロクロミック素子」に関する発明である点で共通し、引用発明3では、欠陥部分を検出した後に、その欠陥部分を修復している。
してみると、引用発明1の、「エレクトロクロミック素子における欠陥の位置を検出する方法」で検出した「欠陥」についても、その後、同様に、修復を試みることは、ごく自然なことであるから、
「欠陥部分に、Ne-YAGレーザー光を照射して、蒸発および/または飛散を引き起こすことにより欠陥部分を除去する工程」を採用することは、当業者が引用発明3に基づいて容易に想到し得ることである。
また、何らかの欠陥を修復した後に、その修復が成功したか否かを検証することは、通常なされることであるから、「欠陥部分を除去する工程」の後に、「熱撮像を用いて、検出された欠陥が十分に修復されたか否かを検証するステップ」を採用することも何ら困難性は認められない。

(ウ)以上の検討によれば、引用発明1において、上記<相違点2>に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が引用発明3に基づいて容易になし得たことである。

ウ 効果
本願補正発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果、技術事項Aの奏する効果及び引用発明3の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
本願補正発明は、当業者が引用発明1、技術事項A及び引用発明3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)平成30年1月12日提出の意見書について
請求人は、意見書第2頁の「(2)本願発明と引用文献に記載の発明との対比」において、以下のように主張することから、この点について検討する。

「引用文献1は、予め設定されたDC電圧を印加して欠陥を検出することを示唆しているだけであり、請求項1に係る発明のように、欠陥の検出の際、欠陥部分の温度振幅とその隣接部分の温度振幅との信号対雑音比を調整するとの思想について開示も示唆もありません。」

しかしながら、熱撮像により「欠陥」を検出する際に、検査対象物に周期的な負荷(熱、力、電圧など)を掛けることは、当審拒絶理由通知において引用文献2として引用した特表2008-545232号公報以外に、
例えば、
「Lock-in Thermography - a novel tool for material and device characterization」(本願明細書の【0039】において引用されている論文)、
国際公開第2010/077865号(【要約】)、
特開2009-288090号公報(【要約】)、
特開2007-163390号公報(【要約】)、
特開平11-337511号公報(【要約】)などに記載されているように、本願の優先日(2011年3月31日)時点で周知である。
よって、請求人の上記主張は、上記判断を左右するものではない。

4 補正却下の決定の理由のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項12に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて本件補正前の請求項12として記載したとおりのものである。

「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出及び修復するための方法であって、
前記エレクトロクロミックデバイスが動作状態にあるときに、該デバイスの熱画像を取得するステップと、
前記熱画像を表す熱撮像データを処理するステップであって、前記熱画像の1つ又は複数のピクセルにおいて検出された温度振幅を所定の値と比較することにより前記エレクトロクロミックデバイス上の欠陥を検出するとともに、該検出された欠陥に対応する前記エレクトロクロミックデバイスの位置を求める、ステップと、
求められた位置に基づいて、前記エレクトロクロミックデバイス上の前記検出された欠陥の修復を制御するステップであって、前記修復は、レーザ光を放出して、前記検出された欠陥に対応する前記デバイスの位置をアブレーションする、ステップと、
熱撮像を用いて、前記検出された欠陥が十分に修復されたか否かを検証するステップと、
を含む、方法。」

2 引用文献
引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3(2)」に記載したとおりである。

3 対比
(1)本願発明と引用発明1を対比すると、以下の点で一致する。
<一致点>
「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出するための方法であって、
前記エレクトロクロミックデバイスが動作状態にあるときに、該デバイスの熱画像を取得するステップと、
前記熱画像を表す熱撮像データを処理するステップであって、前記熱画像の1つ又は複数のピクセルにおいて検出された温度振幅を所定の値と比較することにより前記エレクトロクロミックデバイス上の欠陥を検出するとともに、該検出された欠陥に対応する前記エレクトロクロミックデバイスの位置を求める、ステップと、
を含む、方法。」

(2)一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点3>
本願発明は、
ア 「求められた位置に基づいて、前記エレクトロクロミックデバイス上の前記検出された欠陥の修復を制御するステップであって、前記修復は、レーザ光を放出して、前記検出された欠陥に対応する前記デバイスの位置をアブレーションする、ステップと」、
イ 「熱撮像を用いて、前記検出された欠陥が十分に修復されたか否かを検証するステップと」を含む、
ウ 「熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を修復するための方法」でもあるのに対して、
引用発明1は、そのようなステップを含む修復するための方法ではない点。

4 判断
(1)上記<相違点3>について検討する。
(ア)引用文献3に記載された「引用発明3」は、以下のものである。

「基板上に形成した少なくとも、エレクトロクロミック層と、これを挟む一対の透明電極層とからなる、電圧操作により可逆的に着消色するエレクトロクロミック素子において、漏れ電流が発生する欠陥部分を検出及び修復する方法であって、
電圧を印加して前記素子を駆動させる工程と、
前記欠陥部分を、着色透過率が周辺よりも明確に高くなる部分として目視により検出する工程と、
前記目視により検出した欠陥部分に、Ne-YAGレーザー光を照射して、蒸発および/または飛散を引き起こすことにより前記欠陥部分を除去する工程と、
前記目視により検出した欠陥部分を除去した後に、前記素子の着色状態を目視により確認する工程と、
を含む方法。」

(イ)引用発明1と引用発明3とは、「エレクトロクロミック素子」に関する発明である点で共通し、引用発明3では、欠陥部分を検出した後に、その欠陥部分を修復している。
してみると、引用発明1の、「エレクトロクロミック素子における欠陥の位置を検出する方法」で検出した「欠陥」についても、その後、同様に、修復を試みることは、ごく自然なことであるから、
「欠陥部分に、Ne-YAGレーザー光を照射して、蒸発および/または飛散を引き起こすことにより欠陥部分を除去する工程」を採用することは、当業者が引用発明3に基づいて容易に想到し得ることである。
また、何らかの欠陥を修復した後に、その修復が成功したか否かを検証することは、通常なされることであるから、「欠陥部分を除去する工程」の後に、「熱撮像を用いて、検出された欠陥が十分に修復されたか否かを検証するステップ」を採用することも何ら困難性は認められない。

(ウ)以上の検討によれば、引用発明1において、上記<相違点3>に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者が引用発明3に基づいて容易になし得たことである。

(2)効果
本願発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果及び引用発明3の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-26 
結審通知日 2018-03-02 
審決日 2018-03-13 
出願番号 特願2014-502791(P2014-502791)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G02F)
P 1 8・ 121- WZ (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
小松 徹三
発明の名称 熱撮像を用いてエレクトロクロミックデバイス内の欠陥を検出及び修復するためのシステム及び方法  
代理人 大塚 康徳  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康弘  
代理人 永川 行光  
代理人 高柳 司郎  
代理人 木村 秀二  
代理人 木下 智文  
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