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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1342620
審判番号 不服2017-2881  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-28 
確定日 2018-07-24 
事件の表示 特願2013-531730「可逆的に変形可能な人工角膜および植え込むための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日国際公開、WO2012/044624、平成25年11月 7日国内公表、特表2013-540521〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2011年(平成23年)9月27日(パリ条約に基づく優先権主張 2010年9月30日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とするものであって、平成27年8月10日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月11日に意見書とともに手続補正書が提出され、特許請求の範囲及び明細書について補正がなされた。
その後、平成28年2月26日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月30日に意見書とともに手続補正書が提出され、特許請求の範囲について補正がなされたが、平成28年10月27日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成29年2月28日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲について更に補正がなされたものである。

第2 平成29年2月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年2月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成29年2月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成28年5月30日付けで補正された特許請求の範囲を更に補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前>
「【請求項1】
角膜組織を置き換えるように角膜ポケットへ植え込まれるように構成された人工角膜であって、
前記人工角膜は、円筒形の外側周辺壁を有する中央オプティクおよびリムを含むモノリシック体を備え、
前記人工角膜は、角膜の切除された部分から形成された空間に植え込まれ、前記空間は、中央前方開口部を含み、
前記中央前方開口部は、前記中央オプティクの直径より小さい直径を有し、
前記中央オプティクのオプティク高さが、前記人工角膜が角膜に植え込まれたときに±50μmの公差内で前記角膜ポケットの深さと一致する、
人工角膜。」

(2)<補正後>
「【請求項1】
角膜組織を置き換えるように角膜ポケットへ植え込まれるように構成された人工角膜であって、
前記人工角膜は、円筒形の外側周辺壁を有する中央オプティクおよびリムを含むモノリシック体を備え、
前記人工角膜は、可逆的に変形可能であり、
前記人工角膜は、通常の生理学的活動中に角膜と共に曲がることが可能であり、
前記人工角膜は、角膜の切除された部分から形成された空間に植え込まれ、前記空間は、中央前方開口部を含み、
前記中央前方開口部は、前記中央オプティクの直径より小さい直径を有し、
前記中央オプティクのオプティク高さが、前記人工角膜が角膜に植え込まれたときに±50μmの公差内で前記角膜ポケットの深さと一致する、
人工角膜。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の「人工角膜」について「前記人工角膜は、可逆的に変形可能であり」及び「前記人工角膜は、通常の生理学的活動中に角膜と共に曲がることが可能であり」との発明特定事項を追加しようとするものであって、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同法同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「人工角膜」であると認める。

(2)刊行物
(2-1)刊行物1
これに対して、原審の平成28年2月26日付け拒絶の理由に引用された、本件の優先日前に頒布された刊行物である特表2004-516862号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の発明が記載されていると認める。

ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「人工角膜」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付したものである。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
眼の角膜に形成された前記角膜前面に開口し且つ前記角膜後面にはデスメ膜が損なわれないよう開口していない凹部内に設置される人工角膜において、
円の対称軸を有すると共に、中央領域において互いに距離eだけ離隔している半径Raの球面キャップ形状の前面(44)及び半径Rpの球面キャップ形状の後面(46)、並びに、前記対称軸と一致する軸を有し且つその頂部が前記前面の前方に位置している実質的に円錐台状の側壁(48)を含んだ、柔軟性のある透明の材料からなる部材(42)を備えており、
前記対称軸を含む平面内における前記側壁の断面と前記後面の断面との角度aが10?35°であることを特徴とする人工角膜。
【請求項2】
前記角度aが約25?30°であることを特徴とする請求項
1に記載の人工角膜。
【請求項3】
前記部材における前記距離eが400?500μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の人工角膜。
・・・
【請求項15】
前記部材(42)の側面に接続され、その後面(80a,90)が前記部材(42)の後面と同一の球面キャップ状の面上に位置する、100μm以下の厚みeを有する環状スカート(80,86)をさらに備えていることを特徴とする請求項1?12のいずれか1項に記載の人工角膜。
【請求項16】
前記スカートが前記部材と同じ材料からなることを特徴とする請求項15に記載の人工角膜。
【請求項17】
前記スカートが前記部材と異なる材料からなることを特徴とする請求項15に記載の人工角膜。
【請求項18】
前記スカートの厚みが20?50μmであることを特徴とする請求項15?17のいずれか1項に記載の人工角膜。」

(イ)「【0001】
本発明は、人工角膜に関する。
【0002】
より正確にいうと、本発明は、透明性を失ってしまった角膜の中央に開口を形成した後、角膜内に設置可能な眼用人工装具に関する。
【0003】
添付されている図1には、眼の角膜10の中央部が示されている。角膜は、互いに重ね合わされた複数の膜又はラメラから形成されている。ここでは後面、即ち角膜の内面12から順に、複数の再生しない細胞の層から構成される内皮14、デスメ膜16、角膜支質を形成する中間ラメラ18、ボーマン膜20、そして角膜の前面24を構成する上皮22が描かれている。上皮は、再生化気質の大きな細胞の複数層から構成されている。角膜全体の厚みは中央部において略500ミクロン(μm)であり、支質部分と上皮とが全厚の97%を占めている。」

(ウ)「【0004】
公知の人工角膜移植技術では、角膜の厚み方向に貫通する円柱形通路26状に切開が形成される。支質内移植人工角膜として最も広く知られているタイプの人工角膜は、角膜内にこの人工角膜を機械的に所定位置に保持するための角膜支質を形成する中間ラメラ18間に挿入される環状スカートを有する、上記通路26に設置される円柱形の光学部から構成されている。このような支質内移植人工角膜によると、満足されないどころか明らかにずさんな結果に至ることが知られている。
【0005】
このような理由から他の構成の人工角膜についての複数の提案がなされており、特に本出願人による国際公開第97/27824号パンフレットでは、上記円柱形の光学部に、角膜内にて人工角膜を機械的に保持するため角膜内面に押圧される後側部スカートを施すという提案がなされている。このような解決法によってより満足のいく結果が得られる。」

(エ)「【0010】
本発明の目的は、患者の角膜の後面がどのような状態であっても、角膜に貫通孔を形成することなく、角膜内への設置及びそこで効果的に保持されるのに適した人工角膜を提供することである。
【0011】
この目的を達成するため、本発明は、眼の角膜に形成された角膜前面に開口し且つ角膜後面にはデスメ膜が損なわれないよう開口していない凹部内に設置される人工角膜において、円の対称軸を有すると共に、中央領域において互いに距離eだけ離隔している半径Raの球面キャップ形状の前面及び半径Rpの球面キャップ形状の後面、並びに、対称軸と一致する軸を有し且つその頂部が前面の前方に位置している実質的に円錐台状の側壁を含んだ、柔軟性のある透明の材料からなる部材を備えており、対称軸を含む平面内における側壁の断面と後面の断面との角度aが10?35°であることを特徴とする人工角膜を提供する。
【0012】
上記人工角膜によると、全体として円錐台状であるため、デスメ膜及び内皮に穴をあける必要がなく、同様の形状である角膜の中央部における凹部内に当該人工角膜を収容することが可能であることが理解されるであろう。このように収容されるにもかかわらず、その円錐台形状のため、人工角膜は角膜内にてデスメ膜に押圧されながら有効に保持される。上記角度aが35°より大きくなると、取り外れの可能性が大きくなる。
・・・
【0016】
本発明のより好適な実施の形態における人工角膜は、当該人工角膜を形成する部材の側面に接続され、その後面が人工角膜の後面と同一の球面キャップ状の面上に対応するよう配置される、100μm以下の厚みeを有する環状スカートをさらに備えている。
【0017】
上記スカートは、人工角膜の後面への細胞増殖に対するバリアとしての機能を果たす。上記スカートは、天然の角膜内にてこの人工角膜を保持する機械的な役割は全く持たない。これによりスカートを100μm以下、より好ましくは50μm以下という非常に薄くすることが可能となっている。また、スカートのヤング係数は1メガパスカル(MPa)以下であるのが好ましいことから、このスカートは機械的強度が小さいことが理解されるであろう。」

(オ)「【0020】
本発明に係る人工角膜は、デスメ膜の前面における、角膜の中央部に設けられた厚みのある層状の凹部内に設置されるものである。図2から、凹部28が円の対称軸YY’を持っているのがわかる。凹部は、角膜中央前方に頂部を持ち且つデスメ膜16で終了される円錐台壁面30を有する。また凹部は、奥行e’、角膜前面における直径D’2、デスメ膜近傍における直径D’1を呈している。」

(カ)「【0021】
次に、図3を参照しつつ、第1の実施の形態である人工角膜40の詳細について説明する。本実施の形態における人工角膜は、円の対称軸XX’を持つ単一の部材42から構成されている。この部材42は、半径Raの球面キャップ形状を持つ前面44と、同様に半径Rbの球面キャップ形状の後面46と、当該部材42の前面44及び後面46を接続する側壁48とによって画定されている。側壁48は、上記対称軸XX’を軸とし且つ部材42前面44の前方に頂部を有する円錐台形状である。前面44は直径D2の円C2により画定され、後面46は直径D1の円C1により画定されている。側壁48と後面46との接続部の円C1近傍に形成された角度aは、XX’軸を含む平面内において示されたものである。」

(キ)「【0024】
直径D1は4.5?9.5又は10mm、直径D2は3?8mm、前面と後面との間の中央部における距離eは400?500μmであるのが好ましい。
【0025】
人工角膜の中央部の厚みeは、共に非常に厚みの小さいデスメ膜及び内皮を残りとしているので、角膜の中央部の厚みとほぼ等しい。
【0026】
角膜に形成された凹部28は部材42と似た形状であるが若干それより小さく、角膜に形成されたハウジングの側縁部により人工角膜の側面に圧力が作用するようになっている。より詳細には、直径D1’,D2’は、対応する部材42の直径よりも小さく250μmであるのが好ましい。」

(ク)「【0033】
角膜に形成されたハウジング28が円錐台状であり且つ人工角膜がそれを補完する円錐台状であることから、最大面積を呈する端部壁がデスメ膜及び内皮により閉鎖されたこのハウジング内において、人工角膜が機械的に保持されることがわかるだろう。このように、角膜に形成された開口が貫通していなくても、人工角膜は角膜内において効果的に保持される。しかしここで手術直後から一定期間良好な一体性を保証するためには、数日後又は数週間後に吸収される粘着剤をさらに用いるのが好ましい。」

(ケ)「【0037】
次に、図5A及び図5Bを参照しつつ、本発明に係る人工角膜の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態の人工角膜は、上述のものと同一の部材42、及び、この部材42の後面46近傍に配置された環状スカート80によって構成されている。より詳細には、参照番号80aで示すスカート80の後面は、部材42の後面46と同一の球面キャップ状の面上に位置している。スカート80の厚みe’は10?100μm、好ましくは20?50μmであり、スカートの幅lは0.25?2.5mm、好ましくは0.75?1.5mmである。またスカート80に直径10?100μm好ましくは50?80μmの参照番号82で示すような穴を複数設けることで、角膜の繊維細胞や角膜細胞によるその穴の生化学的定着を促進し、長期間の固定を実現するようにするのが好ましい。これら穴82は先ず、例えば生化学的定着性や角膜の支質とデスメ膜との間におけるコラーゲンのブリッジ形成を促進する因子を解放する能力を持つフィブリノゲンなどの、粘着性のある生物分解性材料で満たされる。
【0038】
スカート80は、光学部と同じ材料又は別の材料からなってよい。スカート80を構成する材料をクロロトリフルオロエチレン又はテトラフルオロエチレンとする一方、対応する部材42をヒドロゲルから構成してよい。
【0039】
既に説明したように、人工角膜は、部材42が大きく外側に広がった円錐台状であることにより、天然の角膜内にて保持される。スカート80の唯一の機能は、人工角膜の後面に対して細胞増殖に対するバリアを形成することである。したがってスカートの厚みは非常に小さくてよく、一般には50μm未満である。このようにスカートの厚みを非常に小さくすることによって、当該スカート80が占める環状領域における角膜の変形を小さくすることができる。」

イ 刊行物1発明
(コ)上記記載事項(ア)の「眼の角膜に形成された前記角膜前面に開口し且つ前記角膜後面には・・・開口していない凹部内に設置される人工角膜」は、上記記載事項(エ)に照らせば、「・・・凹部内に収容される人工角膜」とも言い得るものである。

(サ)上記記載事項(ア)の「前記部材(42)の側面に接続され・・・100μm以下の厚みeを有する環状スカート(80,86)」は、同記載事項の「前記スカートが前記部材と同じ材料からなる」点や図5Bの図示内容にも照らせば、「前記部材(42)の側面(48)に継ぎ目無く接続され・・・100μm以下の厚みeを有する環状スカート(80)」であると認められる。

(シ)上記記載事項(オ)の「角膜前面における直径D’2」は、図2の図示内容にも照らせば、凹部に含まれる「角膜前面に形成された開口の直径(D’2)」と言い得るものである。そして、該「角膜前面に形成された開口の直径(D’2)」は、上記記載事項(キ)に照らせば、「部材(42)の対応する直径よりも小さい」ということができる。

そして、上記記載事項(ア)ないし(ケ)及び上記認定事項(コ)ないし(シ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえ補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。(以下「刊行物1発明」という。)

「角膜に形成された角膜前面に開口し且つ角膜後面には開口していない凹部内に収容される人工角膜において、
前記人工角膜は、円の対称軸を有し、中央領域において互いに距離eだけ離隔している球面キャップ形状の前面(44)と後面(46)、及び、前記対称軸と一致する軸を有している円錐台状の側壁(48)を含み、柔軟性のある透明の材料からなる部材(42)を備えており、
前記人工角膜は、前記(42)の側面(48)に継ぎ目無く接続され、100μm以下の厚みeを有する環状スカート(80)を更に備えており、
前記人工角膜は、前記角膜に形成された凹部内に収容され、前記凹部は、前記角膜前面に形成された開口を含み、
前記開口の直径(D2’)は、前記部材(42)の対応する直径よりも小さく、
前記人工角膜の中央部の厚みeは、角膜の中央部の厚みとほぼ等しい、人工角膜。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
まず、刊行物1発明の「角膜」は、補正発明の「角膜組織」又は「角膜」に相当し、以下同様に、「角膜に形成された角膜前面に開口し且つ角膜後面には開口していない凹部」は「角膜ポケット」又は「角膜の切除された部分から形成された空間」に、「角膜前面に形成された開口」は「中央前方開口部」に、それぞれ相当することは明らかである。

また、刊行物1発明の「角膜に形成された角膜前面に開口し且つ角膜後面には開口していない凹部内に収容される」又は「前記角膜に形成された凹部内に収容され」は、補正発明の「角膜組織を置き換えるように角膜ポケットへ植え込まれる」又は「角膜の切除された部分から形成された空間に植え込まれ」に相当することも明らかである。

次に、それぞれの構成及び機能を踏まえれば、刊行物1発明の「(円の)対称軸と一致する軸を有している」「側壁(48)」は、補正発明の「外側周辺壁」に相当し、以下同様に、「円の対称軸を有し、中央領域において互いに距離eだけ離隔している球面キャップ形状の前面(44)と後面(46)」及び「側壁(48)」を含む「部材(42)」は「中央オプティク」に、「前記開口の直径(D2’)は、前記部材(42)の対応する直径よりも小さく」は「前記中央前方開口部は、前記中央オプティクの直径より小さい直径を有し」に、「人工角膜の中央部の厚みe」は「中央オプティクのオプティク高さ」に、それぞれ相当することも明らかである。

また、刊行物1発明の「100μm以下の厚みeを有する環状スカート(80)」は、全体的な外形形状に着目すると、補正発明の「リム」と“環状部材”である限りにおいて共通し、技術常識にも照らすと、刊行物1発明の「前記(42)の側面(48)に継ぎ目無く接続され、100μm以下の厚みeを有する環状スカート(80)を更に備え」る構成は、補正発明の「中央オプティクおよびリムを含むモノリシック体を備え」る構成と“中央オプティクおよび環状部材を含むモノリシック体を備え」る構成である限りにおいて共通する。

また、刊行物1発明の「前記人工角膜は」「柔軟性のある透明の材料からなる部材(42)を備えており」は、補正発明の「前記人工角膜は、可逆的に変形可能であり、前記人工角膜は、通常の生理学的活動中に角膜と共に曲がることが可能であり」と“人工角膜は、変形可能であり”の限りにおいて共通する。

さらに、刊行物1発明の「前記人工角膜の中央部の厚みeは、角膜の中央部の厚みとほぼ等しい」は、補正発明の「前記中央オプティクのオプティク高さが、前記人工角膜が角膜に植え込まれたときに±50μmの公差内で前記角膜ポケットの深さと一致する」と“中央オプティクのオプティク高さは、角膜の厚み又は角膜ポケットの深さと特定の寸法関係を満たす”限りにおいて共通する。

そうすると、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。

<一致点>
「角膜組織を置き換えるように角膜ポケットへ植え込まれるように構成された人工角膜であって、
前記人工角膜は、外側周辺壁を有する中央オプティクおよび環状部材を含むモノリシック体を備え、
前記人工角膜は、変形可能であり、
前記人工角膜は、角膜の切除された部分から形成された空間に植え込まれ、前記空間は、中央前方開口部を含み、
前記中央前方開口部は、前記中央オプティクの直径より小さい直径を有し、
前記中央オプティクのオプティク高さは、角膜の厚み又は角膜ポケットの深さと特定の寸法関係を満たす、
人工角膜。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。

<相違点1>
補正発明の人工角膜は、中央オプティクの外側周壁が「円筒形」であって、「リム」を更に含むものであるのに対して、
刊行物1発明の人工角膜は、部材(42)の側壁(48)が「円錐台状」であって、「100μm以下の厚みeを有する環状スカート(80)」を更に備えるものである点。

<相違点2>
補正発明の人工角膜は、「可逆的に変形可能であり」かつ「通常の生理学的活動中に角膜と共に曲がることが可能であ」るのに対して、
刊行物1発明の人工角膜は、「柔軟性のある透明の材料からなる部材(42)を備えており」変形可能であるものの、該変形の態様が上記補正発明の態様であるのかが明らかではない点。

<相違点3>
中央オプティクのオプティク高さに関して、補正発明は、「人工角膜が角膜に植え込まれたときに±50μmの公差内で角膜ポケットの深さと一致する」のに対して、
刊行物1発明は、「角膜の中央部の厚みとほぼ等しい」点。

(4)相違点の検討
ア 相違点1について
まず、一般的に、人工角膜において、円筒形の外側周辺壁を有する中央オプティク、及び、人工角膜を角膜に保持するためのリムを備えるよう構成することは、本願の優先日前に周知の技術事項であると認める(例えば、原審で提示された米国特許出願公開第2010/0069915号明細書の[0076]及びFIG.8A、8Bを参照。以下「周知事項A」という。)。

次に、周知事項Aを刊行物1発明に適用する動機付けと阻害要因について、以下検討する。
刊行物1発明における、部材(42)の側壁(48)を「円錐台状」とする技術的意義は、上記記載事項(エ)の「その円錐台形状のため、人工角膜は角膜内にてデスメ膜に押圧されながら有効に保持される」とあるとおり、人工角膜を角膜内に保持することにある。そうすると、刊行物1発明の円錐台状の側壁(48)と周知事項Aのリムは、人工角膜の保持という作用を共通にするから、該側壁(48)の形状を周知事項Aの「円筒形」に設計変更するに当たり、周知事項Aのリムを採用して、人工角膜を保持しようとすることに動機付けが存在する。

また、円錐台状については、刊行物1に「全体として円錐台状であるため、デスメ膜及び内皮に穴をあける必要がなく、同様の形状である角膜の中央部における凹部内に当該人工角膜を収容することが可能である」(上記記載事項(エ))とあり、「角膜に貫通孔を形成することなく」という課題の解決手段として「円錐台状」の人工角膜及び凹部を採用したことが示唆されている。
この点、周知事項Aを刊行物1発明に適用し、人工角膜及び凹部を「円錐台状」から周知事項Aの「円筒形」に設計変更したとしても、人工角膜の保持等のために、必ずしも凹部を貫通孔として、デスメ膜及び内皮に穴を開ける必要はない(例えば、上記米国特許出願公開第2010/0069915号明細書のFIG.9Aないし9Fを参照)。言い換えれば、周知事項Aの適用によっても「角膜に貫通孔を形成することなく」という課題解決が妨げられることはない。
以上のとおり、周知事項Aの適用には動機付けがあり、かつ、阻害要因はない。

よって、周知事項Aを刊行物1発明に適用し、部材(42)の側壁(48)を周知事項Aの「円筒形」に設計変更するとともに、「100μm以下の厚みeを有する環状スカート(80)」を「リム」に置換することで、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。

イ 相違点2について
一般的に、人工角膜において「可逆的に変形可能」であること、及び、「通常の生理学的活動中に角膜と共に曲がることが可能」であることは、本願の優先日前に周知の技術事項であると認める(例えば、前者は上記米国特許出願公開第2010/0069915号明細書の[0013]を、後者は特開平5-329200号公報の段落【0015】を参照。以下「周知事項B」という。)。
してみれば、周知事項Bを刊行物1発明に適用して、相違点2に係る補正発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。

ウ 相違点3について
(ア)刊行物1における示唆(「角膜ポケットの深さ」との寸法関係)
まず、刊行物1には、人工角膜の中央部の厚みeにつき、「角膜の中央部の厚み」のみならず、「角膜ポケットの深さ」たる「凹部の奥行e’」とほぼ等しい寸法関係とすることが示唆されている。
すなわち、「角膜の中央部の厚み」とは、図2によれば「凹部の奥行e’」と「デスメ膜16及び内皮14からなる層の厚み」を足し合わせたものに相当する。ここで、後者の厚みは、角膜全体の厚み(略500μm)の3%を占めるにすぎず、「非常に小さい」ものである(上記記載事項(イ)(キ))。
そうすると、「角膜の中央部の厚み」と「凹部の奥行e’」とは、概念的には異なるものであるものの、寸法関係を特定する上では、同義のものということができる。
してみれば、上記記載事項(キ)の「人工角膜の中央部の厚みeは、共に非常に厚みの小さいデスメ膜及び内皮を残りとしているので、角膜の中央部の厚みとほぼ等しい」は、人工角膜の中央部の厚みeが「凹部の奥行e’」とほぼ等しいことを示唆するものである。

(イ)刊行物1における示唆(人工角膜の公差)
刊行物1には、上記記載事項(ア)の「前記スカートの厚みが20?50μmである」や上記記載事項(エ)の「これによりスカートを100μm以下、より好ましくは50μm以下という非常に薄くすることが可能となっている」との記載がある。
技術常識に照らせば、寸法の公差が設計寸法を超えることはないから、上記記載は、環状スカートの厚みの設計寸法が「20?50μm」又は「50μm以下」である場合に、該厚みの公差、ひいては、人工角膜の厚みeの公差が「20?50μm」又は「50μm以下」の範囲内であることを示唆するものである。

(ウ)技術常識(人工角膜の公差)
ソフト(ハイドロゲル)コンタクトレンズ承認基準においては、レンズ厚さの許容差は、設定値が0.10mm以下のものにあっては、設定値の±(0.010+(設定値×10%))mm以内でなければならないとされている(厚生労働省医薬食品局長「コンタクトレンズ承認基準の改正について」薬食発第0428008号、平成21年4月28日の添付資料「ソフト(ハイドロゲル)コンタクトレンズ承認基準」「4.物理的要求事項」「4.3厚さ」)。該承認基準によれば、厚さの設定値が100μmの場合にあっては、厚さの公差は±20μmと算出することができる。

そして、人工角膜とコンタクトレンズは、同じ眼内レンズの分野に属するものであり、人工角膜をコンタクトレンズと同様に、ハイドロゲルで製造することが広く知られていることに照らせば、人工角膜の厚さの公差は、ソフト(ハイドロゲル)コンタクトレンズの公差と同程度であると認められる。

(エ)容易想到性のまとめ
以上によれば、刊行物1発明の角膜の厚みeにつき、上記(ア)の示唆により、凹部の奥行e’とほぼ等しい寸法関係とするに当たり、上記(イ)又は(ウ)で示した厚みの公差を考慮しつつ、人工角膜が角膜の凹部に埋め込まれたときに±50μmの公差内で凹部の奥行e’と一致するようにすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。
したがって、相違点3の補正発明の構成は、当業者にとって容易である。

(5)小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明、並びに周知事項A及びBに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたところ、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成28年5月30日付けの手続補正書により補正された上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「人工角膜」であると認める。

2 刊行物
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討
本願発明は、上記第2の2で検討した補正発明の「人工角膜」について「前記人工角膜は、可逆的に変形可能であり」及び「前記人工角膜は、通常の生理学的活動中に角膜と共に曲がることが可能であり」との発明特定事項を削除するものである。
そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、上記第2の2(3)に示した<一致点>で一致し、同じく、上記第2の2(3)で示した相違点1及び3で相違している。そして、相違点1及び3の容易想到性については、上記第2の2(4)ア及びウで示したとおりである。

したがって、本願発明は、刊行物1発明、及び周知事項Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-27 
結審通知日 2018-03-02 
審決日 2018-03-13 
出願番号 特願2013-531730(P2013-531730)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川島 徹  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 根本 徳子
平瀬 知明
発明の名称 可逆的に変形可能な人工角膜および植え込むための方法  
代理人 下山 治  
代理人 高柳 司郎  
代理人 高柳 司郎  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 永川 行光  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 木村 秀二  
代理人 永川 行光  
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