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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1342666
審判番号 不服2016-12156  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-10 
確定日 2018-07-25 
事件の表示 特願2013-547376号「組成物,栄養組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年7月5日国際公開,WO2012/091548,平成26年1月20日国内公表,特表2014-501117号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2011年8月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月28日,オランダ(NL))を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は概ね以下のとおりである。
平成27年 5月12日 拒絶理由通知
同年11月18日 意見書及び手続補正書
平成28年 4月 6日 拒絶査定
同年 8月10日 拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書
同年 9月21日 手続補正書(請求の理由の補正)
同年 9月26日 手続補足書(参考資料第1?3号証)
平成29年 5月10日 上申書


第2 平成28年8月10日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月10日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,補正前の請求項4に,
「【請求項4】
少なくとも2種の成分の,哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を改善するため,哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を維持するため,または哺乳動物の日常生活の活動を行う能力の低下を減少させるための組成物であって,前記少なくとも2種の成分は,
(i)ヌクレオシド均等物であって,ヌクレオシド,デオキシヌクレオシド,核酸塩基,モノヌクレオチド,オリゴヌクレオチド,ポリヌクレオチド,およびこれらの生理学的に許容可能なエステルからなる群から選ばれるヌクレオシド均等物,
(ii)DHA,DPAおよびEPAからなる群から選ばれるn-3ポリ不飽和脂肪酸,
(iii)ビタミンB6,ビタミンB9およびビタミンB12からなる群から選ばれるビタミンB,
(iv)ホスホリピッド,
(v)ビタミンC,ビタミンEおよびセレンからなる群から選ばれる抗酸化剤,および
(vi)コリン,
からなる群から選ばれ,少なくとも1種の(i)ヌクレオシドまたは少なくとも1種の(iii)ビタミンBが存在する組成物。」
とあるのを,
「【請求項4】
少なくとも2種の成分の,哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を改善するため,哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を維持するため,または哺乳動物の日常生活の活動を行う能力の低下を減少させるための組成物であって,
前記組成物は,前記哺乳動物の毎日のカロリー摂取量を増加することなく,体重を増加または維持するのに役立ち,前記哺乳動物は15-25.0の範囲内の体容積指数を有する人間であり,
前記少なくとも2種の成分は,
(i)ヌクレオシド均等物であって,ヌクレオシド,デオキシヌクレオシド,核酸塩基,モノヌクレオチド,オリゴヌクレオチド,ポリヌクレオチド,およびこれらの生理学的に許容可能なエステルからなる群から選ばれるヌクレオシド均等物,
(ii)DHA,DPAおよびEPAからなる群から選ばれるn-3ポリ不飽和脂肪酸,
(iii)ビタミンB6,ビタミンB9およびビタミンB12からなる群から選ばれるビタミンB,
(iv)ホスホリピッド,
(v)ビタミンC,ビタミンEおよびセレンからなる群から選ばれる抗酸化剤,および
(vi)コリン,
からなる群から選ばれ,少なくとも1種の(i)ヌクレオシドまたは少なくとも1種の(iii)ビタミンBが存在する組成物。」
とする補正を含むものである。(下線は補正箇所を示す。)

2 本件補正の目的
上記補正は,補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「哺乳動物」について,「前記哺乳動物は15-25.0の範囲内の体容積指数を有する人間であり」と限定するとともに,「哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を改善するため,哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を維持するため,または哺乳動物の日常生活の活動を行う能力の低下を減少させるための組成物」について,「前記哺乳動物の毎日のカロリー摂取量を増加することなく,体重を増加または維持するのに役立」つと限定するものであって,補正前後の請求項4に記載された発明の間で,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わるものではないから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の上記請求項4に係る発明(以下「本願補正発明4」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 本願補正発明4の独立特許要件について
(1)引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された特表2010-531351号公報(以下「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。(「・・・」は記載の省略を意味する。また,下線は当審が付した。以下同じ。)
(1a)「【請求項1】
a.ウリジン又はウリジンリン酸,並びに
b.ドコサヘキサエン酸及び/又はエイコサペンタエン酸
を含み,ミニメンタルステート検査が24?26点の被験者において,記憶力の改善,及び/又は記憶機能障害の治療若しくは予防における使用を目的とする組成物であって,被験者に経腸的に投与する,上記組成物。
【請求項2】
・・・
【請求項3】
リン脂質,コリン,ビタミンE,ビタミンC,セレン,ビタミンB12,ビタミンB6及び葉酸を含む,請求項1又は2に記載の組成物。」

(1b)「【0001】
本発明は,ミニメンタルステート検査24?26点の被験者において,記憶機能を改善するための組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
記憶障害は多くの人,特にアルツハイマー病患者及び/又は高齢者における重大な欠陥である。このような障害は,しばしば重大な影響,例えば,生活の質の低下,日常生活の活動の実施困難等を伴い,入院又は施設収容に至る可能性がある。
【0003】
・・・
【発明の概要】
【0004】
栄養療法は,記憶障害の症状が比較的軽度,すなわち,ミニメンタルステート検査(MMSE)のスコアが24?26点の被験者に特に望まれる。本発明者らは,この特定のサブグループにおいて,記憶力の改善は被験者の日常生活の活動及び生活の質に非常に大きな効果を示すことを認識してきた。この被験者サブグループは,病的経路が発現し始めたばかりである点が特徴的である。MMSEテストにおいては,(30点満点中)27点以上であれば,事実上,正常である。認知症患者では,20?26点は軽度認知症を,10?19点は中度認知症を,そして10点未満は重度認知症を意味する。20?26点のグループ内において,24?26点のサブグループの記憶障害は,病的経路が発現し始めたばかりであるため,可逆でさえあり得るというのが,本発明者らの信じるところであった。被験者のこのサブグループの記憶機能を改善することは,医薬による治療の必要を遅らせるか,又は投与量を減少させる可能性があるため,極めて望ましい。さらに,MMSE24?26点の被験者での改善は,被験者を入院させるか,又は施設に収容する必要の延期,自立して生活できる期間の延長,生活の質の向上,又は日常的な活動を遂行できる能力の向上をもたらすことが可能である。」

(1c)「【0033】
(例1)
125ml当たりに,以下を含む包装された組成物:
エネルギー125kcal,タンパク質3.9g,炭水化物16.5g,脂肪4.9g。
【0034】
脂肪には,1.5gのDHA+EPA及び106mgのリン脂質(大豆レシチン),コリン400mg,UMP(ウリジン一リン酸)625mg,ビタミンE40mgα-TE,ビタミンC80mg,セレン60μg,ビタミンB12 3μg,ビタミンB6 1mg,葉酸400μgが含まれる。
【0035】
ミネラル及び微量元素:ナトリウム125mg,カリウム187.5mg,塩化物156.3mg,カルシウム100mg,リン87.5mg,マグネシウム25mg,鉄2mg,亜鉛1.5mg,銅225μg,マンガン0.41mg,モリブデン12.5μg,クロム8.4μg,ヨード16.3μg。ビタミン:ビタミンA200μg-RE,ビタミンD3 0.9μg,ビタミンK6.6μg,チアミン(B1)0.19mg,リボフラビン(B2)0.2mg,ナイアシン(B3)2.25mg-NE,パントテン酸(B5)0.66mg,ビオチン5μg。」

上記(1a)及び(1c)より,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明>
「ミニメンタルステート検査が24?26点の被験者において,記憶力の改善,及び/又は記憶機能障害の治療若しくは予防における使用を目的とし,被験者に経腸的に投与する,組成物であって,125ml当たりに,以下を含む包装された組成物:
エネルギー125kcal,タンパク質3.9g,炭水化物16.5g,脂肪4.9g。
ただし,脂肪には,1.5gのDHA+EPA及び106mgのリン脂質(大豆レシチン),コリン400mg,UMP(ウリジン一リン酸)625mg,ビタミンE40mgα-TE,ビタミンC80mg,セレン60μg,ビタミンB12 3μg,ビタミンB6 1mg,葉酸400μgが含まれる。」

(2)対比
本願補正発明4と引用発明とを対比すると,次のとおりである。
ア 上記(1b)によれば,ミニメンタルステート検査が24?26点の被験者における記憶力の改善等は,日常的な活動を遂行できる能力の向上をもたらすこと等が可能であるところ,引用発明の「記憶力の改善,及び/又は記憶機能障害の治療若しくは予防における使用を目的とする」ことは,本願補正発明4の「哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を改善するため,哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を維持するため,または哺乳動物の日常生活の活動を行う能力の低下を減少させるため」に含まれるものである。

イ 本願明細書の「本発明による組成物は,好ましくは,ピリミジンヌクレオシドまたはその均等物,例えばシチジンまたはその均等物,あるいはウリジンまたはその均等物を含む。さらに好ましくは,本発明による組成物は,ウリジンまたはその均等物,好ましくは,ウリジン(すなわち,リボシル・ウラシル),デオキシウリジン(デオキシリボシル・ウラシル),ウリジン・ホスフェート(UMP,dUMP,UDP,UTP),核酸塩基ウラシルおよびアシル化ウリジン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のウリジンまたはその均等物を含む。好ましくは,本発明による組成物は,ウリジン・モノホスフェート(UMP),ウリジン・ジホスフェート(UDP)およびウリジン・トリホスフェート(UTP)から選ばれるウリジン・ホスフェートを含む。もっとも好ましくは,本発明による組成物は,UMP含む。」(【0108】)の記載によれば,引用発明の「UMP(ウリジン一リン酸)」は,本願補正発明4の「(i)ヌクレオシド均等物であって,ヌクレオシド,デオキシヌクレオシド,核酸塩基,モノヌクレオチド,オリゴヌクレオチド,ポリヌクレオチド,およびこれらの生理学的に許容可能なエステルからなる群から選ばれるヌクレオシド均等物」に含まれるものである。

ウ 引用発明の「DHA+EPA」は,本願補正発明4の「(ii)DHA,DPAおよびEPAからなる群から選ばれるn-3ポリ不飽和脂肪酸」に含まれるものである。

エ 葉酸がビタミンB9であることは技術常識であるところ,引用発明の「ビタミンB6」,「葉酸」及び「ビタミン12」は,本願補正発明4の「(iii)ビタミンB6,ビタミンB9およびビタミンB12からなる群から選ばれるビタミンB」に含まれるものである。

オ 引用発明の「リン脂質(大豆レシチン)」は,本願補正発明4の「(iv)ホスホリピッド」に相当する。

カ 引用発明の「ビタミンC」,「ビタミンE」及び「セレン」は,本願補正発明4の「(v)ビタミンC,ビタミンEおよびセレンからなる群から選ばれる抗酸化剤」に含まれるものである。

キ 引用発明の「コリン」は,本願補正発明4の「(vi)コリン」に相当する。

ク 引用発明の「被験者」は,本願補正発明4の「哺乳動物」及び「人間」に相当する。

ケ 引用発明の「組成物」は,本願補正発明4の「組成物」に相当する。

そうすると,両者は次の一致点と相違点とを有する。
<一致点A>
少なくとも2種の成分の,哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を改善するため,哺乳動物の日常生活の活動を行う能力を維持するため,または哺乳動物の日常生活の活動を行う能力の低下を減少させるための組成物であって,
前記哺乳動物は人間であり,
前記少なくとも2種の成分は,
(i)ヌクレオシド均等物であって,ヌクレオシド,デオキシヌクレオシド,核酸塩基,モノヌクレオチド,オリゴヌクレオチド,ポリヌクレオチド,およびこれらの生理学的に許容可能なエステルからなる群から選ばれるヌクレオシド均等物,
(ii)DHA,DPAおよびEPAからなる群から選ばれるn-3ポリ不飽和脂肪酸,
(iii)ビタミンB6,ビタミンB9およびビタミンB12からなる群から選ばれるビタミンB,
(iv)ホスホリピッド,
(v)ビタミンC,ビタミンEおよびセレンからなる群から選ばれる抗酸化剤,および
(vi)コリン,
からなる群から選ばれ,少なくとも1種の(i)ヌクレオシドまたは少なくとも1種の(iii)ビタミンBが存在する組成物。

<相違点A>
本願補正発明4は,15-25.0の範囲内の体容積指数を有する人間を対象に,毎日のカロリー摂取量を増加することなく,体重を増加または維持するのに役立つものであるのに対し,引用発明は,対象とする人間の体容積指数が特定されておらず,体重の増化または維持に係る事項についても明らかでない点。

(3)判断
上記相違点Aについて検討する。
ア まず,体容積指数が15-25.0の範囲は,概ね平均的な肥満度を含む範囲であり,この範囲によって特定の課題を想起することはできない。また,本願明細書をみても,本願補正発明4が,体容積指数が15-25.0の範囲の人間に対して,特に適した構成を有することや,顕著な効果を奏することは何ら示されていない。そうすると,上記体容積指数に係る特定は,格別の技術的意義を有さないものと解せざるを得ず,また,引用発明においても,被験者に体格の制限が課されていないことからして,上記体容積指数の範囲の者は当然に対象となっているものと認められる。

イ つぎに,上記相違点Aの体重に係る特定をみても,毎日のカロリー摂取量を増加せずとも(カロリー摂取量が減少していなければ),体重が維持されるのは普通のことである。そして,引用発明もまた,カロリー摂取量の減少をその使用の前提とするものではないし,特に,ミニメンタルステート検査が24?26点の被験者,すなわち,記憶障害に関して病的経路が発現し始めたばかりの者に対して,記憶機能の改善を通して「日常的な活動を遂行できる能力の向上をもたらすこと」(上記(1b))を課題とするものであり,このような者に対する上記能力の向上が,体重の維持に資する蓋然性はきわめて高い。よって,引用発明は,結果的に体重を維持するのに役立つものといえる。

ウ したがって,上記相違点Aは,実質的な相違ではないか,仮に相違であったとしても,当業者であれば適宜なし得たことにすぎない。

エ なお,審判請求人は,平成28年9月21日の手続補正書の「(イ)本願請求項4の発明について」において,本願補正発明4の効果について,
「毎日のカロリー摂取量を増加することなく,15-25.0の範囲内の体容積指数の人間の体重を増加または維持し,当該人間の日常生活の活動を行う能力を改善したり,維持したりするという顕著な効果を奏する。
本願発明の効果は,参考資料第2号証の表9およびその直前の段落の記載のように,試験開始第24週において,対照群に対して活性研究群のBMIが増加しており,この効果は主に「低」基準線のBMIグループの変化によりもたらされていること等により示されている。」
と主張している。
しかしながら,平成28年9月26日に提出された手続補足書で補足された参考資料第2号証をみても,これに示される実験が,本願補正発明4のものであるか定かではなく,また,そもそも,その公知日は,本願優先日前であるとは認められないから,審判請求人の上記主張は採用できない。

(4)まとめ
したがって,本願補正発明4は,引用発明であるか,仮にそうでないとしても,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し又は第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 小括
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明4
平成28年8月10日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願請求項4に係る発明(以下「本願発明4」という。)は,平成27年11月18日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された事項(上記「第2」の「1 本件補正の内容」の補正前の請求項4参照。)により特定されるとおりのものである。

2 引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,上記「第2」の「3」の「(1)引用例とその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明4は,上記「第2」の「3 本願補正発明4の独立特許要件について」で検討した本願補正発明4から,「前記組成物は,前記哺乳動物の毎日のカロリー摂取量を増加することなく,体重を増加または維持するのに役立ち,前記哺乳動物は15-25.0の範囲内の体容積指数を有する人間であり,」という限定を除いたものである。
そうすると,本願発明4の発明特定事項をすべて含み,さらに限定したものに相当する本願補正発明4が上記「第2」の「3」に示したとおり,引用発明であるか,仮にそうでないとしても,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明4も同様の理由により,新規性又は進歩性を有さない。


第4 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項15(以下「本願補正発明15」という。)に係る発明について
念のため,本件補正を却下しない場合について以下に検討しておく。

1 本願補正発明15
本願補正発明15は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項15に記載された事項に特定される次のとおりのものであると認める。なお,上記請求項15は,本件補正によってその内容は補正されておらず,平成27年11月18日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項15と同じものである。
「【請求項15】
栄養組成物であって,
i)ウリジンおよび/またはウリジン・モノホスフェート,
ii)DHAおよびEPA,
iii)ビタミンB6,ビタミンB9およびビタミンB12からなる群から選ばれるビタミンB,
iv)ホスホリピッド,
v)ビタミンC,ビタミンEおよびセレンからなる群から選ばれる抗酸化剤,
vi)コリン,および,
vii)タンパク質
を含み,
前記組成物は,ホスファチジル・コリンを含み,ホスファチジル・コリンのコリンに対する重量対重量比は0.26より大きい栄養組成物。」

2 本願補正発明15の進歩性について
(1)引用例とその記載事項
引用例及びその記載事項は,上記「第2」の「3」の「(1)引用例とその記載事項」に記載したとおりである。

(2)対比
本願補正発明15と引用発明とを対比すると,以下のとおりである。
ア 引用発明の「UMP(ウリジン一リン酸)」は,本願補正発明15の「i)ウリジンおよび/またはウリジン・モノホスフェート」に含まれるものである。

イ 引用発明の「DHA+EPA」は,本願補正発明15の「ii)DHAおよびEPA」に相当する。

ウ 葉酸がビタミンB9であることは技術常識であるところ,引用発明の「ビタミンB6」,「葉酸」及び「ビタミン12」は,本願補正発明15の「iii)ビタミンB6,ビタミンB9およびビタミンB12からなる群から選ばれるビタミンB」に含まれるものである。

エ 引用発明の「リン脂質(大豆レシチン)」は,本願補正発明15の「iv)ホスホリピッド」に相当する。また,大豆レシチンが,ホスファチジル・コリンを含むことは技術常識である。

オ 引用発明の「ビタミンC」,「ビタミンE」及び「セレン」は,本願補正発明15の「v)ビタミンC,ビタミンEおよびセレンからなる群から選ばれる抗酸化剤」に含まれるものである。

カ 引用発明の「コリン」は,本願補正発明15の「vi)コリン」に相当する。

キ 引用発明の「タンパク質」は,本願補正発明15の「vii)タンパク質」に相当する。

ク 引用発明の「組成物」は,本願補正発明15の「栄養組成物」に相当する。

そうすると,両者は次の一致点と相違点とを有する。
<一致点B>
栄養組成物であって,
i)ウリジンおよび/またはウリジン・モノホスフェート,
ii)DHAおよびEPA,
iii)ビタミンB6,ビタミンB9およびビタミンB12からなる群から選ばれるビタミンB,
iv)ホスホリピッド,
v)ビタミンC,ビタミンEおよびセレンからなる群から選ばれる抗酸化剤,
vi)コリン,および,
vii)タンパク質
を含み,
前記組成物は,ホスファチジル・コリンを含む,栄養組成物。

<相違点B>
本願補正発明15では,ホスファチジル・コリンのコリンに対する重量対重量比(以下「コリン比」という。)は0.26より大きいのに対し,引用発明では,コリン及びホスファチジル・コリン(大豆レシチンに含有)を含むものの,上記コリン比の特定がない点。

(3)判断
上記相違点Bについて検討する。
ア 平成30年2月1日付け面接記録に添付した面接資料の2ページ3ないし5行に記載されるとおり,大豆レシチンには,一般的に約26%のホスファチジル・コリンと約3.6%のコリンが含まれる。よって,引用発明にはおおよそ,リン脂質(大豆レシチン)106mg中にホスファチジル・コリン28mgとコリン3.8mgが含まれることになる。そうすると,引用発明には別途コリン400mgが含まれているから,上記コリン比は約0.069(=28mg/(3.8mg+400mg))となる。

イ 一方,引用例には,
「【0024】
コリン
好ましくは,本組成物はコリン及び/又はホスファチジルコリンを含む。本方法は1日当たり50mgを超える量,好ましくは1日当たり80?2000mg,より好ましくは1日当たり120?1000mg,最も好ましくは1日当たり150?600mgのコリンの投与を含むことが好ましい。本組成物は液剤100ml当たり50mgから3グラムのコリンを含むことが好ましく,100ml当たり200mg?1000mgのコリンを含むことがより好ましい。」
という記載があり,組成物中のコリンをコリンとホスファチジル・コリンとの混合物とすることや,コリンをすべてホスファチジル・コリンとすることが示唆されている。
そして,引用発明において,例えば,コリン400mgのうち62mg以上をホスファチジル・コリンとすれば,そのコリン比は0.26(<(28mg+62mg)/(3.8mg+400mg-62mg))より大きくなり,また,コリン400mgすべてをホスファチジル・コリンとすれば,そのコリン比は約119(=(28mg+400mg)/3.8mg)となるが,引用発明のコリン比をこのような範囲とすることについて阻害する要因は見出せない。
したがって,引用発明において,上記コリン比を0.26より大きいものとすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得たことにすぎない。

ウ なお,審判請求人は,上記コリン比に関連して,平成28年9月21日提出の手続補正書の「(ウ)本願請求項15の発明について」において,
「本願請求項15の栄養組成物は,(15B)の重量対重量比で示されたものより大きい比率でホスファチジル・コリンを含み,本願明細書の段落0191に記載されているように,ホスファチジル・コリンはコリンに比べて効率よく血中コリン濃度を上げることができるため,コリンの含有による被験者の魚臭を少なくし,栄養組成物をより魅力のあるものにすることができます。また,口腔乾燥症の場合粘膜の炎症をなくすことができるという効果を奏する。」
と主張している。
しかしながら,コリンに係る魚臭や口腔乾燥の課題はよく知られており,これを抑えることは普通に試みられることであるし,本願明細書の全記載をみても,上記効果が上記コリン比が0.26より大きい範囲内で奏される格別のものとは認められない。(本願明細書に記載される実施例には,上記コリン比を0.26より大きくし,その効果を確認したものは一つもない。)
よって,審判請求人の上記主張を踏まえても,上記イの判断に変わりはない。

(4)まとめ
以上より,本願補正発明15は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)その他
審判請求人は,平成29年5月10日に提出した上申書において,補正案を提示しているが,補正案の請求項15の特定事項「iii)」及び「v)」や請求項4の特定事項「(iii)」及び「(v)」に係る内容は,上述のとおり引用例に記載されているから,仮に補正案を考慮しても結論は同じである。


第5 むすび
以上のとおり,本願発明4は,引用発明であるか,仮にそうでないとしても,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項に該当し又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また,本願補正発明15は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-23 
結審通知日 2018-02-27 
審決日 2018-03-12 
出願番号 特願2013-547376(P2013-547376)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 中村 則夫
佐々木 正章
発明の名称 組成物、栄養組成物  
代理人 網屋 美湖  
代理人 永井 冬紀  

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