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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1342670
審判番号 不服2016-18724  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-13 
確定日 2018-07-25 
事件の表示 特願2011-254986「光学的な表面を保護すること」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月14日出願公開,特開2012-113306〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2011-254986号(以下,「本件出願」という。)は,平成23年11月22日(パリ条約による優先権主張2010年11月24日,アメリカ合衆国,2011年11月21日,アメリカ合衆国)の出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成27年 8月12日付け:拒絶理由通知書
平成27年11月17日差出:意見書,手続補正書
平成28年 2月26日付け:拒絶理由通知書(最後の拒絶の理由)
平成28年 7月27日差出:意見書
平成28年 8月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成28年12月13日差出:審判請求書,手続補正書
平成29年 9月19日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知」という。)
平成29年12月14日差出:意見書,手続補正書

第2 本願発明について
1 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?請求項19に係る発明は,平成29年12月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項19に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項10に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明10」という。)。
「 光学的に透過性の材料の保護層の外表面の少なくとも一部内に形成された複数の凹所の各々内に,光学的に透過性の材料の反射防止層のそれぞれの部分を配設することであり,前記反射防止層が,前記保護層の平均断面厚さよりも小さい平均断面厚さを有し,前記反射防止層が,前記反射防止層の外表面からの光ビームの反射を低減するように構成され,前記保護層が,前記反射防止層の前記それぞれの部分を,接触されることから保護するように構成される,配設することと,
前記複数の凹所の各々が複数の光学的なデバイスのうちのそれぞれ一つから外方に配置されるように,光学的な組み立て品を形成することと,
を有する方法。」
また,請求項16に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明16」という。)。
「 光学的に透過性の材料の反射防止層で光ビームを受けることであり,前記反射防止層は,光学的に透過性の材料の保護層の外表面の少なくとも一部内に形成された凹所内に配置された外表面を有することで,前記反射防止層の前記外表面が接触されないよう前記凹所及び前記保護層によって保護されるようにされており,前記凹所及び前記反射防止層の前記外表面がさらに,前記反射防止層の前記外表面から内方に配置された光学的なデバイスの光経路に沿って配置されており,前記反射防止層が,前記保護層の平均断面厚さよりも小さい平均断面厚さを有する,受けることと,
前記反射防止層を使用して前記光ビームを変調することと,
を有する方法。」

2 当審拒絶理由通知の拒絶の理由
平成29年9月19日付け拒絶理由通知書による拒絶の理由の1つは,概略,本件出願の請求項1?請求項19に係る発明は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2007-227546号公報(以下「引用例1」という。当審拒絶理由通知では「引用例8」と表記。)に記載された発明,並びに,周知技術に基いて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第3 引用例
1 引用例1の記載
(1)引用例1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の半導体基板にエピタキシャル成長した受光層を含みそれぞれにエピタキシャル側電極を形成した受光素子が,複数個,前記共通の半導体基板上に配置された光検出装置であって,
リング状または三日月状のエピタキシャル側電極,入射光をその受光素子へ向かうものに限定して集光する入射側限定集光部,および,前記受光層から見て光入射側と反対側に位置して光入射側からの光を前記受光素子外に放出し易くするための放出手段,のうちの少なくとも一つを備えることを特徴とする,光検出装置。
・・・(略)・・・
【請求項6】
前記受光素子がエピダウン実装されており,前記入射側限定集光部が,前記受光素子の前記半導体基板の光入射面において,当該受光素子に設けられた凹部領域であることを特徴とする,請求項1に記載の光検出装置。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,受光素子を,複数個,配置した光検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イメージセンサへの関心が高まるにつれ,受光素子間の光のクロストーク(受光素子への入射光の隣接素子への混入)による画像乱れが問題とされている(非特許文献1)。・・・(略)・・・図24に示す光検出装置150では,受光素子110がエピダウン実装された場合であるが,クロストークの現象はエピアップ実装された場合でも,同じように生じる。ここで,受光装置は,InP基板101のトップ面には反射防止膜(AR膜)が配置され,ボトム側,すなわち実装側にはn型InPバッファ層102/受光層103/InP窓層104/p部電極107およびSiN保護膜112が形成されている。図25はエピアップ実装の受光素子110を備える光検出装置150を示すが,この光検出装置でも,1つの受光素子110で受光された光が,隣の受光素子でも受光されるというクロストークが生じる。このようなクロストークの結果,隣り合う受光素子(画素)で信号電流が発生し,解像度が劣化し,問題とされる。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,受光素子間に分離溝と金属膜とを設ける構造では,光のクロストークに対して一定の効果はあるが,半導体基板の部分は光が自由に伝播できるため,半導体基板を介して多重反射した光が隣り合う受光素子に混入する。このため,クロストークを十分に抑制することはできない。また,上記構造では,受光素子間に絶縁膜を設け,その上に金属膜を形成するので,絶縁膜に要求される品質の信頼性(信頼性要求度)は非常に高いものとなる。このため,たとえばその絶縁膜中にピンホールのようなものが存在するだけで電気的短絡を生じ,受光素子として機能しなくなる。ひいては歩留まり低下やコスト増への影響も無視できなくなる。また,集積回路上に受光素子を集積配列した構造においては,受光素子間は分離されるが,散乱光は自由に通過できるためクロストークの解決にはならない。
【0006】
上記のクロストークが生じると,各画素間の解像度が劣化する。受光素子間ピッチを小さくするほど,クロストークの増加は顕著になり,画素数を限られたサイズ内に配置することが困難になる。また,受光素子間ピッチを大きくして画素数を増やすと,上述のようにチップサイズが大きくなり,コスト増を招く。
【0007】
本発明は,光のクロストークを抑制する機構を備えた光検出装置を提供することを目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光検出装置は,共通の半導体基板にエピタキシャル成長した受光層を含みそれぞれにエピタキシャル側電極を形成した受光素子が,複数個,共通の半導体基板上に配置された光検出装置である。この光検出装置は,リング状または三日月状のエピタキシャル側電極(以下,エピ側電極),入射光をその受光素子へ向かうものに限定して集光する入射側限定集光部,および,前記受光層から見て光入射側と反対側に位置して光入射側からの光を前記受光素子外に放出し易くするための放出手段,のうちの少なくとも一つを備えることを特徴とする。
・・・(略)・・・
【0014】
上記の受光素子がエピダウン実装されており,入射側限定集光部が,受光素子の半導体基板の光入射面において,当該受光素子に設けられた凹部領域である構成とすることができる。これにより,受光素子に対して,より垂直(凹部の深さ方向)に近い向きの光を集光しやすくなる。より垂直に近い向きの光は,入射側の保護膜と外気との界面で反射されにくいので,隣の受光素子の受光層に混入してゆきにくくなる。
・・・(略)・・・
【0020】
また,上記の凹部領域に,光入射側で屈折率が高く,底面側で屈折率が高くなるような,屈折率傾斜層を埋め込むことができる。この構成により,外気から受光素子へとかけて屈折率が高くなっているので,入射光は屈折率傾斜部でより垂直方向へと屈折し,隣の受光素子へと向かう光を抑制することができる。
【0021】
また,上記の入射側限定集光部が,受光素子の光入射面に位置する光学素子で構成されてもよい。これにより,光学素子により隣の受光素子の受光層へ向かう光を抑制することができる。
【0022】
上記の光学素子をレンズとすることができる。この構成により,レンズという簡単な光学素子により入射光をその受光素子の受光層へと向かわせることができる。
【0023】
上記の光学素子を回折格子としてもよい。この構成によれば,回折格子の構成要素を使用目的に適合するように変えることにより,さらに確実に垂直成分に近い光にして入射することができる。
【0024】
上記の光学素子をフォトニック結晶を有する構成にしてもよい。これにより,受光素子自体を加工することになり,さらに確実に垂直成分に近い光にして入射することができる」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(実施の形態1)
図1は,本発明の実施の形態1の光検出装置を示す図である。この光検出装置50において,InP基板51のトップ側にAR膜13が配置され,ボトム側すなわち実装側に受光層3を含むエピタキシャル層が形成されている。p部電極は,リング状でも三日月状でもよいが,ここではリング状p部電極7が,SiN保護膜12から露出するように形成されている。p部電極7からは配線電極33が引き出されており,このためp部電極7およびn部電極6は,InP半田34を介在させてマルチプレクサ35の配線に接続される。各受光素子10からの信号は,マルチプレクサ35によって画像形成のために処理される。
・・・(略)・・・
【0033】
図4は,エピダウン実装(フリップチップ実装)の受光素子10を備える光検出装置50を説明する断面図である。受光素子10は,共通のn型InP基板51上に形成され,そのInP基板に形成した素子分離溝17によって隣の受光素子と分離されている。各受光素子ごとに,InP基板側から順に,n型InPバッファ層2/In_(0.53)Ga_(0.47)As受光層3/InP窓層4/p部電極7および保護膜12が形成されている。またマルチプレクサへの接続のための電極配線は,本図を含めて以後の受光素子の図では,省略してある。エピダウン実装における光入射側のInP基板51の表面には,反射防止膜(AR膜:Anti-Reflection)13が設けられている。InPの屈折率は3以上と大きいため,入射光は受光素子に入射する際,少し屈折する。p型領域9は,InP窓層4から受光層3内にまで形成されている。また,n部電極6がn型InPバッファ層2に設けられている。エピ側電極であるp部電極7は,上述のように,実装面側に位置するp型領域9に接してリング状に形成されている。
・・・(略)・・・
【0039】
(実施の形態2)
図7は,本発明の実施の形態2における,光検出装置を示す断面図である。この光検出装置50は,エピダウン実装(フリップチップ実装)の受光素子10のアレイを備える。受光素子10は,共通のn型InP基板51上に形成され,InP基板51に設けられた素子分離溝17によって隣の受光素子と分離されている。各受光素子ごとに,InP基板側から順に,n型InPバッファ層2/受光層3/InP窓層4/保護膜12が形成されている。本実施の形態では,エピダウン実装における光入射側のInP基板51の表面において,受光素子の中央部に凹部22が設けられ,その凹部の底面にAR層23が設けられている点に特徴がある。この凹部22が,入射側限定集光部である。n部電極6はn型InPバッファ層2に設けられ,フリップチップ実装を可能にしている。またエピ側電極であるp部電極7は,実施の形態1と同様に,実装面側のp型領域9に接してリング状に形成されている。
【0040】
図7に示す光検出装置50では,受光層のp型領域に垂直に近い入射角で入ってきた光は,凹部22の底面のAR膜23を通り,受光層内の受光箇所16で受光され,リング状電極7のリング内側または外側を通り抜ける。このため,p部電極で反射されて隣の受光素子に混入することが生じにくくなる。しかし,大きく傾いた入射角で入射する光は,凹部22の側壁面に当たり反射し,または側壁面から入射する。反射した光のうち凹部の底面のAR膜23を通り抜ける光は,その受光素子の受光箇所で受光され,そのまま通り抜ける場合が多い。一方,側壁面で屈折して入射した光は隣の受光素子で受光され,クロストークを生じる。このため,図7に示す受光素子の場合,クロストークは大きく改善されるが,未だ改良の余地はある。
・・・(略)・・・
【0042】
(図7の光検出装置に対する改良例2)
図9は,図7に示す本発明の実施の形態2の光検出装置の改良例2を示す図である。改良例2の光検出装置50は,InP基板51の凹部22に,”光入射側で屈折率が高く,底面側で屈折率が高くなるような,屈折率傾斜層25”が埋め込まれている点に特徴を有する。凹部の底面以外の露出面である,側壁面および頂面が光遮断層24で覆われている点は,図8の改良例1と同じである。したがって,本改良例2は,上記改良例1に対する改良例でもある。
【0043】
上記の屈折率傾斜層25で凹部22を埋め込むことにより,大きく傾いた入射角で入射する光は,屈折率傾斜層25の作用により,垂直方向に近づくように伝播方向を変える。これは,屈折率を底部に向かうほど高くしたことの当然の作用である。また,入射の際から垂直に近い進行方向の光は,進行方向を少し垂直方向に近づけながら伝播する。そして,その受光素子において受光される。このため,大きく傾いた入射光であっても,屈折率傾斜層に入射すると,進行方向を垂直に近づけるようになり,したがって隣の受光素子に向かわない。このため,その受光素子で受光されるので,図7に示す光検出装置に比べて,クロストークをより確実に抑えることができる。
【0044】
上記の屈折率傾斜層の構造としては,光をあまり吸収しない,屈折率の異なる層の組み合わせであれば何でもよい。たとえば,SWIR用受光素子に用いるInPへの光の入射の場合,つぎの屈折率傾斜層の構成を挙げることができる(図10参照):
(屈折率傾斜層R1);(空気:外部)/SiO_(2)(屈折率1.5)/SiON(屈折率1.8)/(InP:受光素子基板)
(屈折率傾斜層R2);(空気:外部)/エポキシ樹脂(屈折率1.6)/SiON(屈折率1.8)/(InP:受光素子基板)
屈折率傾斜層R1の場合,受光素子に対し60°の角度θ(基準垂直線となす角)で入射した光は,SiO_(2)中では35°,SiON中では29°,そしてInP中では17°と,より垂直に変換される。また,屈折率傾斜層R2の場合では,受光素子に対し60°の角度θで入射した光は,エポキシ樹脂中では33°,SiON中では29°,そしてInP中では17°と,やはり垂直に近づけることができる。この結果,上記の屈折率傾斜層25を用いることにより,クロストークを抑制することが可能となる。」

オ 「【実施例】
【0056】
本発明例として図20に示す光検出装置を,受光素子を,ピッチ25μmで図2に示すように配置して作製した。・・・(略)・・・本発明例では,図20に示すように,光入射側に,入射側限定集光部である光学素子のレンズ27を設け,実装側にリング状のエピ側電極(p部電極)7を設けた点に特徴を有する。レンズ27はAR膜13の上に配置されている。InP基板51の上に順に,InPバッファ層2/In_(0.53)Ga_(0.47)S受光層3/InP窓層4/保護膜12/レンズ21が形成されている。レンズ21は,放出手段に対応する。」

カ 「【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態1の光検出装置を示す図である。
・・・(略)・・・
【図7】本発明の実施の形態2の光検出装置を示す図である。
・・・(略)・・・
【図9】図7の光検出装置に対する改良例2を示す図である。
【図10】図9の改良例2における屈折率傾斜層の効果を説明する図である。
・・・(略)・・・
【図20】実施例における本発明例の光検出装置を示す図である。
・・・(略)・・・
【符号の説明】
【0062】
1 InP基板,2 InPバッファ層,3 受光層,4 InP窓層,5 拡散マスク,6 n部電極,6r リング状n部電極,7 p部電極,9 p型領域,10 受光素子,12 SiN保護膜,13 AR膜,13b 実装側AR膜,15 pn接合,16 受光箇所,17 素子分離溝,21 リング状電極内側レンズ,21t トップ側のリング状電極内側レンズ,22 凹部,23 凹部底面のAR膜,24 光遮断膜,25 屈折率傾斜層,26 加工処理層,27 光学素子(レンズ),28 光学素子(回折格子),29 光学素子(フォトニック結晶),31 AR多層膜,31a,31b,31c エピタキシャル多層膜,33 配線電極,34 InP半田,35 マルチプレクサ,50 受光素子アレイ,51 InP基板。」

キ 「【図1】


【図7】


【図9】


【図10】


【図20】




2 引用発明
引用例1には,図7に断面図が示される実施の形態2の光検出装置が記載されている(段落【0039】)。そこで,引用例1には,当該光検出装置を製造する方法として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 エピダウン実装(フリップチップ実装)の受光素子10のアレイを備える光検出装置50の製造方法であって,
受光素子10は,共通のn型InP基板51上に形成され,InP基板51に設けられた素子分離溝17によって隣の受光素子と分離され,
各受光素子ごとに,InP基板側から順に,n型InPバッファ層2/受光層3/InP窓層4/保護膜12が形成され,
エピダウン実装における光入射側のInP基板51の表面において,受光素子の中央部に凹部22が設けられ,
その凹部の底面にAR層23が設けられる,
光検出装置50を製造する方法。」

第4 本願発明10について
1 対比
(1)本願発明10と引用発明とを対比すると,以下のとおりとなる。
ア 本願発明10の「光学的なデバイス」は,受光素子を下位概念として含む(このことは,本件出願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0008】の記載からも確認される事項である。)。そうしてみると,引用発明の「受光素子10」は,本願発明10の「光学的なデバイス」に相当する。また,引用発明の「光検出装置50」は,「受光素子10のアレイを備える」。そうしてみると,本願発明10の「光学的なデバイス」と,引用発明の「受光素子10」は,複数存在する点で共通する。

イ 引用発明の「凹部22」は,「エピダウン実装における光入射側のInP基板51の表面において,受光素子の中央部に」「設けられ」ている。上記アで指摘したように,「受光素子10」は複数存在するから,「凹部22」も複数存在し,複数の「受光素子10」のうちのそれぞれ一つの中央部に設けられるものと解される(このことは,引用発明を示す図7からも看取される。)。また,「凹部22」は,「エピダウン実装における光入射側のInP基板51の表面」に設けられるから,「InP基板51」の表面のうち,「受光素子10」とは反対側の表面に位置する,すなわち,外方に配置されているものと解される。そうしてみると,引用発明の「凹部22」は,本願発明10の「凹所」に相当する。また,上記アで述べた相当関係を踏まえると,両者は,複数の光学的なデバイスのうちのそれぞれ一つから外方に配置される点で,共通する。

ウ 引用発明の「AR層23」は,Anti-reflection層すなわち反射防止層のことであると解される(このことは,引用例1の段落【0033】からも確認される事項である。)。また,当該「AR層23」は,「凹部の底面に」「設けられている」。そうしてみると,本願発明10の「反射防止層」と引用発明の「AR層23」は,その光学的機能と配設場所に関して一致する。したがって,引用発明の「AR層23」は,本願発明10の「反射防止層」に相当する。また,引用発明の「AR層23」と本願発明10の「反射防止層」は,「反射防止層の外表面からの光ビームの反射を低減するように構成され」ている点で一致する。

エ 引用発明の「InP基板51」は,表面に「凹部23」が設けられている。そうしてみると,本願発明10の「保護層」と引用発明の「InP基板51」は,凹所が配設された層である点で共通する。
また,InP基板が光学的に透過性の材料であることは,技術常識であるから,引用発明の「InP基板51」と本願発明10の「保護層」は,光学的に透過性の材料である点でも共通する。

オ 引用発明は,「凹部の底面にAR層23が設けられる,光検出装置50を製造する方法」であるから,「凹部の底面」に,「AR層23」を設ける工程を有するものと解される。そして,上記ア?エの対応関係を考慮すると,引用発明の「AR層23」を設ける工程と本願発明10の「光学的に透過性の材料の保護層の外表面の少なくとも一部内に形成された複数の凹所の各々内に,光学的に透過性の材料の反射防止層のそれぞれの部分を配設することであり」,「配設すること」とは,「光学的に透過性の材料の」凹所が配設された層「の外表面の少なくとも一部内に形成された複数の凹所の各々内に,光学的に透過性の材料の反射防止層のそれぞれの部分を配設することであり」,「配設すること」の点で共通する。また,引用発明の「光検出装置50を製造する方法」と本願発明10の「方法」は,「方法」の点で共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)を踏まえると,本願発明10と引用発明は,次の構成で一致する。
「 光学的に透過性の材料の凹所が配設された層の外表面の少なくとも一部内に形成された複数の凹所の各々内に,光学的に透過性の材料の反射防止層のそれぞれの部分を配設することであり,前記反射防止層が,前記反射防止層の外表面からの光ビームの反射を低減するように構成される,配設すること,
を有する方法。」

イ 相違点
本願発明10と引用発明とは,以下の点で相違する,あるいは,一応相違する。
(相違点1)
本願発明10に係る「複数の凹所」は,「保護層」に形成され,当該「保護層」は,「前記反射防止層の前記それぞれの部分を,接触されることから保護するように構成され」,また,「前記反射防止層が,前記保護層の平均断面厚さよりも小さい平均断面厚さを有」するのに対して,引用発明に係る「凹部22」は,「InP基板51」に形成され,「InP基板51」が保護層であるかどうか不明であり,また,「AR層23」と「InP基板51」の平均断面厚さの関係が不明である点。

(相違点2)
本願発明10の「方法」は,「前記複数の凹所の各々が複数の光学的なデバイスのうちのそれぞれ一つから外方に配置されるように,光学的な組み立て品を形成すること」を「方法」の一工程として「有する」のに対して,引用発明は,このような工程を有するとは特定されていない点。

2 判断
(1)相違点1について判断する。
引用例1には,引用発明により製造される光検出装置に関して,「大きく傾いた入射角で入射する光は,凹部22の側壁面に当たり反射し,・・・反射した光のうち凹部の底面のAR膜23を通り抜ける光は,その受光素子の受光箇所で受光され,そのまま通り抜ける場合が多い。」と記載されている(段落【0040】)。当該記載からは,底面にAR膜23が設けられた,InP基板51の凹部22には,AR膜23で覆われてなく露出した側壁面が存在してもよいことが読み取れる。このことは,図7からも看取される事項である。当該事項は,AR膜23の平均断面厚さが,凹部22の深さよりも小さいことを意味する。そして,凹部22の深さは,当然に,それが形成されているInP基板51の平均断面厚さよりも小さい。そうしてみると,引用例1には,AR膜23の平均断面厚さを,InP基板51の平均断面厚さよりも小さくしてもよいことが記載されているといえる。したがって,引用発明において,AR膜23の厚さを,上述のような関係を満たすように設計することは,引用例1の記載が示唆する事項に基づいて,当業者であれば容易になし得たことである。
また,以上のように厚さが設計されたならば,「AR層23」の表面は,「InP基板51」の外表面(光入射側の面)よりも奥まった位置に存在する。このような構造に対して,他の物体が「InP基板51」の外表面に接触した場合,前記他の物体が,一定以上の大きさや剛性を備えている場合には,当該物体は「InP基板51」の外表面に接触するだけであり,「AR23」に接触できない。そうしてみると,上記設計による引用発明において,「InP基板51」は,「AR層23」を接触されることから保護する作用を有し,本願発明10に係る「保護層」が備える要件を具備するものと解される。
以上から,引用発明において,相違点1に係る本願発明10の構成を具備させることは,当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について判断する。
引用発明の「光検出装置50」は,「エピダウン実装(フリップチップ実装)の受光素子10のアレイを備える」ものであるから,組み立て品とされるに際しては,受光素子10がボトム側に,複数の凹部22の各々が光入射側に向けられ,実装される(段落【0032】の記載からも確認できる事項である。)。
そうしてみると,引用発明の「方法」は,本願発明10でいう「前記複数の凹所の各々が複数の光学的なデバイスのうちのそれぞれ一つから外方に配置されるように,光学的な組み立て品を形成する」という工程を有することが予定されたものといえる。
したがって,相違点2に係る本願発明10の構成は,引用発明において予定されている構成にすぎない。

(3)発明の効果について
本願発明10は,その方法により製造された光学的な組み立て品において,保護層により,反射防止層が接触されることから保護されるという効果を有するものと考えられる。しかし,当該効果は,上記(1)で指摘したように,引用発明に基づいて当業者が容易に発明できた光学的な組み立て品が有する効果として,当業者が予測できる範囲のものである。

(4)小括
以上のとおりであるから,本願発明10は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第5 本願発明16について
1 対比
(1)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明10の場合と同様にして,本願発明16と引用発明を対比すると,両者は次の構成で一致する。
「 光学的に透過性の材料の反射防止層で光ビームを受けることであり,光学的に透過性の材料の凹所が配設された層の外表面の少なくとも一部内に形成された凹所及び前記反射防止層の外表面がさらに,前記反射防止層の前記外表面から内方に配置された光学的なデバイスの光経路に沿って配置されている,受けること,
を有する方法。」

イ 相違点
本願発明16と引用発明とは,以下の点で相違する。
(相違点3)
本願発明16は,「前記反射防止層は,光学的に透過性の材料の保護層の外表面の少なくとも一部内に形成された凹所内に配置された外表面を有することで,前記反射防止層の前記外表面が接触されないよう前記凹所及び前記保護層によって保護されるようにされて」いて,また,「前記反射防止層が,前記保護層の平均断面厚さよりも小さい平均断面厚さを有する」のに対して,引用発明は,これが明らかでない点。

(相違点4)
本願発明16は,「前記反射防止層を使用して前記光ビームを変調すること」を有するのに対して,引用発明に係る「光検出装置50」を用いる際には,「AR層23」を使用して光ビームを変調することが,なされていない点。

2 判断
(1)相違点3について判断する。
上記相違点1についての判断と同様に(第4 2(1)を参照。),引用発明において,相違点3に係る本願発明16の構成を具備させることは,当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点4について判断する。
引用例1の段落【0042】?【0044】には,引用発明に係る光検出装置の改良例2として,InP基板51の凹部22に,光入射側で屈折率が低く,底面側で屈折率が高くなるような屈折率傾斜層25を埋め込み,それにより入射光の進行方向を垂直に近づけるようにすることが記載されている。ここで,空気とInP基板との間に設けられた上記屈折率傾斜層が,反射防止性能も備えることは,技術常識である(引用例1の段落【0033】に記載されたInPの屈折率,並びに,同【0044】に記載された屈折率傾斜層の各層の屈折率を参照。)。すなわち,引用例1には,反射防止層を使用して,光ビームの進行方向を変調することが示唆されている。
また,光学的なデバイスと組み合わせて用いる反射防止部材に,当該デバイスに係る波長の光だけを透過させる波長フィルタ性能や,外部の装置と当該デバイスとを効率よく光結合させるためのレンズ性能を組み合わせることは,周知の技術である(以下,「周知技術」という。例えば,特開2008-39852号公報の段落【0022】,特開2007-158751号公報の段落【0037】を参照。)。
そうしてみると,引用発明に係る「光検出装置50」において,引用例1の記載が示唆する事項や,上記周知技術を踏まえて,「AR層23」に光ビームを変調する機能を持たせること,並びに,そのようにして製造された「光検出装置50」において,「AR層23」を使用して光ビームを変調することは,当業者が容易になし得たことである。
よって,引用発明に相違点3に係る本願発明16の構成を具備させることは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,本願発明16は,引用発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第6 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明10及び本願発明16は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-22 
結審通知日 2018-02-27 
審決日 2018-03-14 
出願番号 特願2011-254986(P2011-254986)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
佐藤 秀樹
発明の名称 光学的な表面を保護すること  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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