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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
管理番号 1342679
審判番号 不服2015-18088  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-05 
確定日 2018-07-27 
事件の表示 特願2011-100847「眼鏡用レンズ、眼鏡、眼鏡レンズの設計方法、及び設計装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月29日出願公開、特開2012-233959〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2011-100847号(以下、「本件出願」という。)は、平成23年4月28日に出願された特許出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成24年 5月16日提出:手続補正書
平成26年12月 3日付け:拒絶理由通知書
平成27年 5月 1日提出:意見書
平成27年 5月 1日提出:手続補正書
平成27年 6月 1日付け:拒絶査定
平成27年10月 5日提出:審判請求書
平成27年10月 5日提出:手続補正書
平成28年11月 1日付け:拒絶理由通知書
平成29年 5月 1日提出:意見書
平成29年 5月 1日提出:補正書
平成29年 9月 1日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成29年12月 5日提出:意見書
平成29年12月 5日提出:手続補正書

第2 平成29年12月5日提出の手続補正書による手続補正についての補正却下の決定

[結論]
平成29年12月5日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成29年12月5日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前の請求項1-請求項10を、それぞれ、本件補正後の請求項1-請求項10とする補正であるところ、本件補正前の請求項6の記載、及び本件補正後の請求項6の記載は、それぞれ、以下の(1)及び(2)のとおりのものである(下線部は、当合議体が付したものであり、本件補正による補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前の請求項6
「 【請求項6】
装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれるスタイリッシュゾーンを設けることと、
前記スタイリッシュゾーンの内側にコンフォートゾーンを設けることと、
を含み、
前記スタイリッシュゾーンには、非点収差の値がマイナスの極値をとる点、および、前記非点収差の値がプラスの極値をとる点を含ませ、前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の20度から30度の範囲であり、回旋角の30度から40度の範囲にて最初の極値を配し、回旋角の40度から50度の範囲にて非点収差がゼロとなる点を配し、非点収差がゼロとなる点よりも回旋角が大きい範囲にて次の極値を配し、かつ、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値をプラス側またはマイナス側に増大させ、
前記スタイリッシュゾーンにおける非点収差の前記最初の極値の絶対値は、前記コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きくする、眼鏡レンズの設計方法。」

(2)本件補正後の請求項6
「 【請求項6】
装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれるスタイリッシュゾーンを設けることと、
前記スタイリッシュゾーンの内側にコンフォートゾーンを設けることと、
を含み、
前記スタイリッシュゾーンには、非点収差の値がマイナスの極値をとる点、および、前記非点収差の値がプラスの極値をとる点を含ませ、
前記スタイリッシュゾーンにおける非点収差の前記最初の極値の絶対値は、前記コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きくするよう設計し、
以下の条件(1)?(9)のいずれかを満たすよう設計する、眼鏡レンズの設計方法。
(1)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の23度であり、回旋角の33度にて最初の極値を配し、回旋角の41度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。
(2)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がマイナス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の30度であり、回旋角の36度にて最初の極値を配し、回旋角の45度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の50度にて次の極値を配する。
(3)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の90度方向では24度、180度方向では26度であり、
回旋角の90度方向では、回旋角の34度にて最初の極値を配し、回旋角の44度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の50度にて次の極値を配し、
回旋角の180度方向では、回旋角の34度にて最初の極値を配し、回旋角の44度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の50度にて次の極値を配する。
(4)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の24度であり、回旋角の34度にて最初の極値を配し、回旋角の42度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の48度にて次の極値を配する。
(5)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の25度であり、回旋角の34度にて最初の極値を配し、回旋角の43度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の48度にて次の極値を配する。
(6)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の26度であり、回旋角の35度にて最初の極値を配し、回旋角の44度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。
(7)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の28度であり、回旋角の35度にて最初の極値を配し、回旋角の45度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。
(8)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がマイナス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の30度であり、回旋角の37度にて最初の極値を配し、回旋角の46度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。
(9)
前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がマイナス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の30度であり、回旋角の36度にて最初の極値を配し、回旋角の47度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。」

2 当合議体の判断
(1) 本件補正後の特許請求の範囲における請求項6には、「眼鏡レンズの設計方法」として、「装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれるスタイリッシュゾーンを設けることと、前記スタイリッシュゾーンの内側にコンフォートゾーンを設けることと、を含み、前記スタイリッシュゾーンには、非点収差の値がマイナスの極値をとる点、および、前記非点収差の値がプラスの極値をとる点を含ませ」、「前記スタイリッシュゾーンにおける非点収差の前記最初の極値の絶対値は、前記コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きくするよう設計し」、「条件(1)?(9)のいずれかを満たすように設計する」ことが記載されている。

そこで、上記条件(1)から(9)を発明特定事項とする補正を含むとともに、「前記スタイリッシュゾーンにおける非点収差の前記最初の極値の絶対値は、前記コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きくするよう設計」することを発明特定事項とする補正を含む本件補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否かを検討する。

(2) 当初明細書等には、以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
・・・中略・・・
【請求項7】
装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれ、処方度数に基づく平均屈折力の補正よりも非点収差の補正が優先された第1の領域を設けることと、
前記第1の領域の内側に、前記非点収差の補正よりも前記平均屈折力の補正が優先された第2の領域設けることと、
を含む、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項8】
請求項7に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記第2の領域を設けることは、前記処方度数がマイナスである場合に、前記処方度数の絶対値が大きいほど前記第2の領域の設計上の径を小さくすることを含む、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記第2の領域を設けることは、前記眼鏡レンズの処方が、度数がマイナスの乱視矯正を含む場合に、前記第2の領域の設計上の形状を楕円にすることを含む、眼鏡レンズの設計方法。」

イ 「【0001】
本発明は、眼鏡用レンズ、眼鏡、眼鏡レンズの設計方法、及び設計装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
処方度数に対する平均屈折力を補正すること、すなわち、平均屈折力誤差を小さくすること、および、非点収差を小さくすることの少なくとも2つの要素は、鮮明な視野が得られるように眼鏡レンズを設計する上で欠かせない要素であった。たとえば、特許文献1には、浅いベースカーブを用いつつ、平均屈折力誤差と非点収差のみでなく、歪曲収差も抑えることができる眼鏡レンズを提供することが記載されている。特許文献1の眼鏡レンズは、外面が球面、内面が回転対称非球面であり、視角で0?30°の範囲となる中央部では平均屈折力誤差と非点収差とに重点を置いて収差を補正し、周辺部では歪曲収差に重点を置いて収差を補正する。これにより、装用時、眼球運動でカバーされる範囲については明瞭な像が得られ、網膜の周辺部には歪曲の小さい像が形成されるため、装用者には良好な視界が得られる。このような収差補正の重み付けにより、平均屈折力誤差、非点収差、歪曲収差の全てをレンズ全域で補正しなくとも、装用時の体感的な光学性能を良好に保つことができ、これにより良好な光学性能と薄型化のための浅いベースカーブの採用とを両立させることができることが記載されている。」

ウ 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、引用文献1に記載の眼鏡レンズは、レンズの中央部では明瞭な像が得られるものの、周辺部の非点収差が十分でないため、周辺部の像が歪んだり、不鮮明になるおそれがあった。このような周辺部の像の歪みは、装用感の低下や、着用者(眼鏡をかけた人)の顔の輪郭が歪んで見えるなどといったファッション性の低下を引き起こすことがある。
【0005】
眼鏡は視力を補う大切な医療用具であるとともに個人の印象を左右する大切なファッションアイテムでもある。したがって、さらに使いやすく、ファッション性も高い眼鏡および眼鏡レンズが要望されている。」

エ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれ、処方度数に基づく平均屈折力の補正よりも非点収差の補正が優先された第1の領域と、第1の領域の内側に形成され、非点収差の補正よりも平均屈折力の補正が優先された第2の領域と、を有する眼鏡レンズである。
【0007】
本態様の眼鏡レンズは、回旋角が20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれる領域に、平均屈折力にある程度の誤差を許容し、その代りに非点収差を良好に補正した第1の領域を含む。回旋角が大きな領域で平均屈折力の補正を優先すると、非点収差を補正しようとしても回旋角が大きくなると非点収差が増大してしまう。このため、回旋角が大きな領域で遠方を見たときに鮮明な像を得ることが難しい。しかしながら、回旋角が大きな領域で平均屈折力のある程度の誤差を許容すると非点収差の補正が容易になり、非点収差を0または0近傍にすることが可能なので、遠方を見たときにある程度鮮明で歪みの少ない像を得ることができる。また、回旋角が大きな領域で平均屈折力のある程度の誤差を許容することにより、眼鏡レンズの外面(ベースカーブ)の形状および/または内面の形状の選択肢が増える。したがって、さらに使いやすく、ファッション性も高い眼鏡レンズを提供できる。
【0008】
第1の領域は、非点収差の値(非点収差)がマイナスの極値をとる点およびプラスの極値をとる点を含むことが望ましい。第1の領域において、非点収差がマイナス側およびプラス側に極値を持つように変化させることにより、回旋角が大きな範囲で第1の領域の非点収差が0を中心として振動するので、非点収差が0から大きく発散することがない。
【0009】
また、第1の領域は回旋角が増加する方向において、径方向度数の値(径方向度数)と周方向度数の値(周方向度数)とが相互に接近および交差した後にさらに接近するように変化する領域を含むことが望ましい。径方向度数と周方向度数とを近付けることにより非点収差をゼロに近づけることができる。したがって、回旋角が大きな第1の領域の非点収差が0を中心として振動し、回旋角が大きな範囲でさらに明瞭な像が得られる眼鏡レンズを提供できる。
【0010】
さらに、第1の領域の処方度数に対する平均屈折力の最大誤差は30%以下であることが望ましい。これにより、平均屈折力の誤差が大きくなりすぎることを抑制できるので、回旋角が大きな第1の領域でさらに明瞭な像が得られる眼鏡レンズを提供できる。
【0011】
非点収差の補正に対して平均屈折力の補正が優先された第2の領域は、回旋角が増加する方向において、径方向度数の値と周方向度数の値とが相互に離れるように変化する領域を含むことが望ましい。平均屈折力は径方向度数と周方向度数との平均なので、眼鏡レンズの中央部の第2の領域における平均屈折力の変動を抑制できる。したがって、非点収差の補正に対して平均屈折力の補正が優先された、平均屈折力誤差が小さく、処方度数に合致する、あるいは処方度数に近い平均屈折力を中央部分に備えた眼鏡レンズを提供できる。
【0012】
この眼鏡レンズにおいて、処方度数がマイナスの場合には、処方度数の絶対値が大きいほど第2の領域の設計上の径が小さいことが望ましい。処方度数がマイナスの場合は視野角よりも回旋角の方が小さくなるので第2の領域を小さくしても十分な視野角が得られる。また、一般に、処方度数がマイナスになるほど眼鏡レンズは厚くなりやすい。したがって、処方度数の絶対値が大きい場合に、非点収差が抑制された第1の領域を広く確保することにより、眼鏡レンズとしての使いやすさを損ねずに、かつ、ファッション性がいっそう高い眼鏡レンズを提供できる。
【0013】
この眼鏡レンズの処方が、度数がマイナスの乱視矯正を含む場合には、第2の領域の設計上の形状が楕円であることが好ましい。乱視補正の処方は、乱視軸により度数が異なる。このため、視野角に対して乱視軸により回旋角が異なるので、第2の領域の設計上の形状を楕円にすることで第1の領域をさらに広くすることができる。したがって、乱視矯正を含めた眼鏡レンズとしての使いやすさを損ねずに、ファッション性がいっそう高い眼鏡レンズを提供できる。
【0014】
・・・中略・・・
【0015】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲に含まれ、処方度数基づく平均屈折力の補正に対して非点収差の補正が優先された第1の領域を設けることと、第1の領域の内側に、非点収差の補正に対して平均屈折力の補正が優先された第2の領域設けることと、を含む、眼鏡レンズの設計方法である。これにより、回旋角の大きな第1の領域において明瞭な像をえることができて使いやすく、かつ、ファッション性も高い眼鏡レンズを設計し、提供できる。
【0016】
この眼鏡レンズの設計方法の第2の領域を設けることは、処方度数がマイナスである場合に、処方度数の絶対値が大きいほど第2の領域の設計上の径を小さくすることを含むことが望ましい。また、第2の領域を設けることは、眼鏡レンズの処方が、度数がマイナスの乱視矯正を含む場合に、第2の領域の設計上の形状を楕円にすることを含むことが望ましい。」

オ 「【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)は実施例の眼鏡を装着した様子を示す図、図1(b)は比較例の眼鏡を装着した様子を示す図。
・・・中略・・・
【図5】実施例の眼鏡レンズの概要を示す図。
【図6】図6(a)は実施例1のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図、
・・・中略・・・
【図7】図7(a)は比較例1のレンズに対し実施例1のレンズの外面の形状を変えた様子を示す図、図7(b)は比較例1のレンズに対し実施例1のレンズの内面の形状を変えた様子を示す図。
【図8】眼鏡レンズを設計および製造する概略の過程を示すフローチャート。
・・・中略・・・
【図10】図10(a)はマイナスレンズを通して見たときの視野角を説明する図、図10(b)はプラスレンズを通して見たときの視野角を説明する図。
【図11】度数に対する回旋角βの関係を視野角α別に示す図。
【図12】処方度数に基づいてコンフォートゾーンの回旋角度を設定する関数の一例を示す図。
【図13】図13(a)は実施例2のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図、
・・・中略・・・。
【図15】図15(a)は実施例3の90度方向のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図、図15(b)は実施例3の180度方向のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図。
【図16】楕円形のコンフォートゾーンを示す図。
・・・中略・・・
【図19】図19(a)は実施例4のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図、
・・・中略・・・
【図20】図20(a)は実施例5のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図、
・・・中略・・・
【図21】図21(a)は実施例6のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図、
・・・中略・・・
【図22】図22(a)は実施例7レンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図
・・・中略・・・
【図23】図23(a)は実施例8のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図、
・・・中略・・・
【図24】図24(a)は実施例9のレンズのパワーエラーおよび非点収差を含む特性を示す図」

カ 「【発明を実施するための形態】
【0021】
図1にユーザー(装着者)が眼鏡を装着した様子を示している。図1(a)は、本発明の実施例の眼鏡レンズ10をフレーム(眼鏡フレーム)5に取り付けた眼鏡1をユーザー2が装着した様子を示し、図1(b)は比較例の眼鏡レンズ19(一般的な単焦点レンズ)を同じフレーム5に取り付けた眼鏡9をユーザー2が装着した様子を示している。図1(b)に示した眼鏡9では、眼鏡レンズ19の周辺部を通して見えるユーザー2の顔の輪郭の一部2aが眼鏡レンズ19の周辺部の収差のために他の部分2bから大きくずれている。一方、図1(a)に示した眼鏡1では、眼鏡レンズ10の周辺部を通して見えるユーザー2の顔の輪郭の一部2aは他の部分2bからほとんどずれていない。したがって、眼鏡1は、眼鏡レンズ10を通して装着者2が見られたときの違和感(装着者2を他の人が見たときの違和感)が少ないスタイリッシュな眼鏡1となっている。
【0022】
このように、眼鏡(メガネ)は、視力を補う大切な医療用具であるとともに、ユーザー個人の印象を左右する大切なファッションアイテムである。すなわち、眼鏡は、医療用として適正な度数および使いやすいデザイン(設計)が求められるとともに、ファッションアイテムとしてなるべく薄いレンズで、「見た目」(レンズを通したときの)が良好であり、さらに、ユーザーのイメージに沿った眼鏡に仕上がっていることが要望される。したがって、近年の眼鏡には、快適な装着感とともに、スタイリッシュな外観を備えたものが要望されている。
【0023】
・・・中略・・・
【0026】
図5に、実施例の眼鏡レンズ10を示している。この眼鏡レンズ10は、爽快な装用感とスタイリッシュな外観との両立を実現した眼鏡レンズであり、中央部のフィッティングポイントFPを中心とした円形のコンフォートゾーン(第2の領域)15と、その外側のスタイリッシュゾーン(第1の領域)16とを含む。この眼鏡レンズ10は、中央のコンフォートゾーン15により快適な装用感を提供し、外側のスタイリッシュゾーン16によりスタイリッシュな外観を提供することができ、見るときも見られたときも高品質な眼鏡レンズとなっている。
・・・中略・・・
【0027】
コンフォートゾーン15は、快適な見え方のために設計されるゾーンであり、レンズ10の中央部にクリアでスッキリとした視界を確保する。そのため、コンフォートゾーン15においては、平均屈折力AvPは処方度数SPHに対する誤差(平均屈折力誤差、パワーエラー)が小さくなるように設計(補正、調整)され、非点収差ASの値も小さくなるように補正されている。
【0028】
スタイリッシュゾーン16は、レンズ周辺部で厚み・ウズを抑える設計が採用されたゾーンであり、スタイリッシュな外観を確保する。さらに、この眼鏡レンズ10においては、スタイリッシュゾーン16は、見られたときに違和感が少ないだけではなく、見るときの違和感も少なくなるように設計されている。すなわち、この眼鏡レンズ10におけるコンフォートゾーン15とスタイリッシュゾーン16とを比較すると、スタイリッシュゾーン(第1の領域)16は、装着者の眼球の回旋角βが20度から60度の範囲に含まれる領域であって、処方度数SPHに対する平均屈折力AvPの補正に対して遠方視の非点収差ASの補正が優先された領域であり、コンフォートゾーン(第2の領域)15は、スタイリッシュゾーン16の内側の領域であって、非点収差ASの補正に対して平均屈折力AvPの補正が優先された領域となっている。
【0029】
すなわち、この眼鏡レンズ10のスタイリッシュゾーン16は、コンフォートゾーン15との比較では、ある程度のパワーエラーを容認する一方、非点収差ASをパワーエラーの発生よりも優先して補正し、非点収差ASを0近傍に振動または収束させている。したがって、スタイリッシュゾーン16においては、処方度数SPHが確保できないことにより像の鮮明さが低下することがあっても、非点収差ASの悪化による像のボケを抑制し、パワーエラーを容認しながらできる限り鮮明な像が得られるようにしている。また、非点収差ASを改善することにより像の歪みやウズの発生も抑制される。このため、この眼鏡レンズ10のスタイリッシュゾーン16は、スタイリッシュな外観に加えて、眼鏡レンズ10の周辺部として十分に鮮明な像が得られるように設計されている。」

キ 「【0031】
(実施例1および比較例1)
図6(a)に実施例1の眼鏡レンズ10の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示している。遠方視の非点収差ASは無限遠を見たときの非点収差である。パワーエラーPEおよび非点収差ASは、眼鏡レンズ10を掛けて見たときに両面(内面および外面)12および11を透過した状態における非点収差ASをシミュレーションした結果を示している。実施例1の眼鏡レンズ10は、物体側の面(外面)11および眼球側の面(内面)12が回転対称非球面の単焦点レンズであり、処方度数SPHが-10.0Dの近視を矯正するための眼鏡レンズである。パワーエラーPEは、処方度数SPHと平均屈折力AvPとの差の、処方度数SPHに対する割合(%)である。例えば、本例の眼鏡レンズ10は屈折力が-10.0Dであるので、平均屈折力AvPが-9.0DになればパワーエラーPEは差で示すと+1.0Dであり、比で示すと10%である。なお、具体的なレンズデータは以下の通りである。
頂点屈折力[D]:-10.00
外面近軸曲率(0)[D]:0.50
外面近軸曲率(10)[D]:0.49
外面近軸曲率(20)[D]:0.41
外面近軸曲率(30)[D]:0.25
内面近軸曲率(0)[D]:10.50
内面近軸曲率(10)[D]:10.12
内面近軸曲率(20)[D]:8.16
内面近軸曲率(30)[D]:6.14
中心厚[mm]:1.10
【0032】
図6(a)には、さらに、処方度数SPHに対する径方向度数MDの誤差MEを実線で示し、処方度数SPHに対する周方向度数SDの誤差SEを一点鎖線により示している。径方向度数MDはメリジオナル断面方向度数であり、周方向度数SDはサジタル断面方向度数であり、平均度数(平均屈折力)AsPは径方向度数MDと周方向度数SDの平均となる。また、非点収差ASは径方向度数MDと周方向度数SDとの差であり、この図では、径方向度数の誤差MEと周方向度数の誤差SEとの差となる。
【0033】
本例の眼鏡レンズ10は、図6(a)に示すように、眼球の回旋角βが20度から60度の範囲に含まれる領域で、具体的には回旋角βが約23度より大きな領域において、回旋角βが増加すると、非点収差ASの値がマイナス側に極値(as(-))を持ち、0を通過し(as(0))、次にプラス側に極値(as(+))を持つように変化している。さらに、この領域で回旋角βが増加する方向に沿って、径方向度数の誤差MEと周方向度数の誤差SEとが相互に接近および交差した後にさらに接近するように変化している。すなわち、この領域で径方向度数MDと周方向度数SDとが回旋角βが増加する方向に相互に接近および交差した後にさらに接近するように変化している。したがって、この領域では、パワーエラーPEが処方度数SPH(-10.0D)に対して回旋角βが50度で14%程度となっているが、代わりに非点収差ASは0のまわりに収束するように補正されている。なお、処方度数SPHが-10.0Dの眼鏡レンズでは回旋角βが50度付近で内側から見たときに全反射が起きるのでそれ以上の回旋角については評価していない。以下の実施例および比較例においても、処方度数SPHの値によるが全反射が発生する回旋角以上の状態は評価していない。
【0034】
一方、回旋角βが約23度より小さな領域では、径方向度数の誤差MEと周方向度数の誤差SEとは符号が異なり(本例ではMEがマイナス、SEがプラスであり)、かつ、回旋角βが増加する方向に相互に離れるように変化している。すなわち、径方向度数MDと周方向度数SDとが回旋角βが増加する方向に相互に離れるように変化している。この領域では、パワーエラーPEがほぼ0であり、非点収差ASも良好に補正されているが、非点収差ASは回旋角βが増加するにつれて増加している。
【0035】
このように、この眼鏡レンズ10は、回旋角βが約23度の付近を境界17として、外側が処方度数SPHに対する平均屈折力の補正(パワーエラーPE)に対して遠方視の非点収差ASの補正が優先された第1の領域(スタイリッシュゾーン)16となり、その内側、すなわち、境界17より内側の眼鏡レンズ10の中央部が非点収差ASの補正に対して平均屈折力の補正(パワーエラーPE)が優先された第2の領域(コンフォートゾーン)15となっている。
【0036】
・・・中略・・・
【0039】
以上のように、実施例1の眼鏡レンズ10と、比較例1の眼鏡レンズ19とを比較すると、中央部のコンフォートゾーン15の特性はほとんど変わらず、パワーエラーPEおよび非点収差ASは良好に補正されており鮮明な像が得られることがわかる。一方、実施例1の眼鏡レンズ10の周辺部のスタイリッシュゾーン16においては、最大15%程度のパワーエラーPEが容認されている代わりに非点収差ASが0を含み、かつ0近傍において振動しており、比較例1の眼鏡レンズと比較して非点収差が改善されている。したがって、スタイリッシュゾーン16では視力の矯正能力が10数パーセント低下する代わりに非点収差ASが大幅に改善され、加えて歪曲収差も改善されている。
【0040】
また、図7に示すように、眼鏡レンズ10のスタイリッシュゾーン16においては、ある程度のパワーエラーPEを許容しているのでベースカーブ11および内面のカーブ12の選択肢が広がる。たとえば、図7(a)に示すように実施例1の眼鏡レンズ10のベースカーブ11(実線)を、比較例1の眼鏡レンズ19のベースカーブ11(破線)に対して周辺部で大きく(曲率半径を小さく)できる。また、図7(b)に示すように実施例1の眼鏡レンズ10の内面のカーブ12(実線)を、比較例1の眼鏡レンズ19の内面のカーブ12(破線)に対してレンズの周辺部で小さく(曲率半径を大きく)できる。いずれの場合も、眼鏡レンズ10を眼鏡レンズ19に対して薄く軽くすることができる。したがって、この点でも実施例1の眼鏡レンズ10は外観を重視するユーザー(装着者、装用者)に適したものとなっている。
【0041】
このように、実施例1の眼鏡レンズ10は、比較例1の眼鏡レンズ19に対し、掛けて見たときの性能が向上し、さらに、掛けて見られたときの性能も向上している。したがって、ユーザーが使用しやすく、装用感が良好で、ファッション性も高い眼鏡レンズを提供できる。」

ク 「【0042】
図8に、本例の眼鏡レンズ10を設計および製造する方法をフローチャートにより示している。以下に説明する方法は、後述の実施例2ないし実施例9にも適用可能である。ステップ21においてユーザー(装着者、装用者)の眼鏡仕様を取得する。眼鏡仕様には処方度数SPHと、乱視矯正の要否、乱視矯正が必要な場合には乱視度数(C)、乱視軸(Ax)などの情報が含まれる。ついで、ステップ22においてコンフォートゾーン(第2の領域)15の設計上の径を設定する。コンフォートゾーン15の設計上の径は、以降では回旋角βにより表現する。
【0043】
ステップ22においては、ステップ23において処方度数SPHがマイナス(ステップ23がYES、Y)であれば、ステップ24においてコンフォートゾーン15の設計上の径を処方度数SPHに基づいて決定し、処方度数SPHがプラス(ステップ23がNO、N)であればステップ25においてコンフォートゾーン15の設計上の径を処方度数SPHによらず所定の一定の値に設定する。この例では、ステップ24においては、処方度数SPHの絶対値が大きいほど(すなわち処方度数SPHが小さいほど)コンフォートゾーン15の設計上の径、すなわち、回旋角βを小さく設定する。また、ステップ25においては、コンフォートゾーン15の設計上の径、すなわち、回旋角βを30度に設定する。
【0044】
図9に、視標探索時の頭位(眼位)運動を観察した一例を示している。図9に示したグラフは、注視点から水平方向にある角度だけ移動した(所定距離だけ離れた位置に提示された)視標(対象物)を認識するために、頭部がどの程度回旋するかを示している。視標(対象物)を注目させる注視の状態においては、破線41に示すように頭部は対象物の方向に回旋する。これに対して、視標(対象物)を単に認識する程度の弁別視の状態においては、点線42に示すように、頭部の動きは対象物の角度(移動)に対して10度程度小さく(少なく)なる。この観察結果により、眼球の動きにより対象物を認識できる範囲の限界を約10度程度に設定できる。したがって、自然な状態で人間が頭部を動かしながら眼球の動きにより対象物を見るときの視野角αは最大10度程度と考えられる。このため、眼鏡を掛けたときに鮮明な像が得られる領域、すなわち、この眼鏡レンズ10のコンフォートゾーン15は、視野角αで10度以上であることが望ましい。
【0045】
一方、眼球運動のみによって注視できる範囲は注視野と呼ばれ視角半径50度程である。しかしながら、実際に人間が体の正面以外を見る場合には、眼球運動・頭部の運動・体の運動が共同して行われ、眼球運動は視角半径(視野角αで)30度程度の範囲に留まる。また、網膜の周辺部では解像力は低いが視角半径(視野角αで)50度程度の範囲では空間情報を受容しており、像の歪曲は知覚される。したがって、コンフォートゾーン15は視野角αで30度程度の範囲が確保できれば十分であるが、加えてその外側に位置するスタイリッシュゾーン16を通しても適度な空間情報を眼球に入力できることが望ましい。
【0046】
図10に、裸眼の視野角αと、眼鏡レンズを通して見たときの視野角α´との関係を示している。図10(a)は度数がマイナスのレンズL1を通して見た状態を示し、図10(b)は度数がプラスのレンズL2を通して見た状態を示している。レンズ度数がマイナスの場合、眼鏡レンズL1を通して見たときの視野角α´は裸眼の視野角αよりも小さくなり、レンズ度数がプラスの場合、眼鏡レンズL2を通して見たときの視野角α´は裸眼の視野角αよりも大きくなる。したがって、眼鏡レンズを介して裸眼の視野角α(以降においては視野角α)と同等の視野を得ようとして眼球が回旋する角度(回旋角)βは、視野角α´となる。なお、眼鏡レンズを通して見たときの視野角α´と裸眼の視野角αとの関係は、眼球回線距離と眼鏡装用距離との和Aと、眼鏡レンズの度数と、眼鏡レンズの厚みなどの関係により決まる。
【0047】
図11に、標準的な条件で求めた度数と回旋角βとの関係を眼鏡レンズの視野角α別に示している。たとえば、度数が-10.0Dの眼鏡レンズを通して見たときの視野角αとして30度を確保する場合の回旋角βは約23度であり、度数が0.0Dの眼鏡レンズを通して見たときの視野角30度を確保する場合の回旋角βは30度であり、度数が5.0Dの眼鏡レンズを通して見たときの視野角30度を確保する場合の回旋角βは約37度である。したがって、視野角30度を確保するようにコンフォートゾーン15を設計する場合のコンフォートゾーン15の設計上の径は処方度数SPHにより変えることが可能であり、特に、処方度数SPHがマイナスの場合は、コンフォートゾーン15を小さくすることによりスタイリッシュゾーン16の面積を大きくすることができる。一方、処方度数SPHがプラスの場合は、度数が大きいと、度数に対応するコンフォートゾーン15が大きくなりスタイリッシュゾーン16の面積を十分に確保できない。そこでスタイリッシュゾーン16の面積を十分確保できるよう、回旋角βを一定値とすることが好ましい。
【0048】
図12に、本例の眼鏡レンズ10におけるコンフォートゾーン15の設計上の径(半径)DRと処方度数SPHとの関係を、フィッティングポイントFPからの回旋角βを用いて示している。処方度数SPHがマイナスの場合は、処方度数SPHにより理論的に求められる視野角αが30度を確保できる回旋角βをコンフォートゾーン15の設計上の径DRとして採用することでスタイリッシュゾーン16を大きくする。一方、処方度数SPHがプラス(SPHがゼロ以上)の場合は、コンフォートゾーン15の設計上の径DRを回旋角βが30度に固定してスタイリッシュゾーン16を確保する。
【0049】
したがって、図8に示したように、コンフォートゾーン15の設計上の径DRを設定するステップ22においては、ステップ23で処方度数SPHがマイナスであれば、ステップ24において、処方度数SPHの絶対値が増加するとコンフォートゾーン(第2の領域)15の設計上の径DRを減少させる。一方、処方度数SPHがプラスであれば、ステップ25において、処方度数SPHに関わらずコンフォートゾーン15の設計上の径DRを一定に設定する。
【0050】
スタイリッシュな性能よりも装用感を要望するユーザーに対して視野角αを確保することを優先した眼鏡レンズを設計することも可能である。その場合は、ステップ23をキャンセルし、ステップ24において処方度数SPHがプラスの場合も、コンフォートゾーン15の設計上の径DRを処方度数SPHにより調整することが可能である。たとえば、図12のグラフにおいて破線で示すようにコンフォートゾーン15の設計上の径DRを処方度数SPHに対応する回旋角βに設定することができる。
【0051】
次に、ステップ26において眼鏡仕様に乱視矯正の仕様が含まれているか否かを確認する。乱視矯正が含まれていない場合(ステップ26:YES、Y)は、ステップ24またはステップ25で設定された設計上の径DRが採用される。本例の眼鏡レンズ10は回転対称非球面であるので、径DRに基づいて設計されるコンフォートゾーン15の形状は円形となる。乱視矯正の仕様が含まれている場合(ステップ26:NO、N)は、ステップ27において、乱視軸Ax毎に、処方度数SPHに乱視度数Cを加算した値をもとに、ステップ22と同様にしてコンフォートゾーン15の設計上の径DRを求める。したがって、眼鏡仕様に乱視矯正の仕様が含まれている場合は、乱視軸Ax毎に度数が異なるので、乱視軸Axの度数が1つでもマイナスであれば当該乱視軸Ax毎におけるコンフォートゾーン15の設計上の径DRが他の乱視軸Axにおける設計上の径DRと異なる。本例の眼鏡レンズ10は回転対称であるので、設計上の形状が楕円のコンフォートゾーン15が設定される。
【0052】
なお、設計上の径DRおよび設計上の形状は、眼鏡レンズ10の外面11および内面12を滑らかな非球面で設計する前の段階で決められる仮想の径および形状である。したがって、以下で説明するように、外面11および内面12を製造するための非球面が決定され、それらに従って製造された眼鏡レンズ10には、これら設計上の径DRおよび設計上の形状が反映された光学的性質が残るが、必ずしも設計上の径DRおよび設計上の形状がそのままの状態で光学的に検出されるとは限らない。
【0053】
このようにしてコンフォートゾーン15の設計上の径DRが決定されると、ステップ28においてコンフォートゾーン15を形成する外面11および内面12の非球面を設計する。コンフォートゾーン15においては、非点収差ASの補正に対して平均屈折力の補正が優先され、パワーエラーPEが小さくほぼ0(ゼロ)であり、眼鏡仕様の処方度数SPHが得られるような外面11および内面12が決められる。そのような外面11および内面12の1つの例は、径方向度数MD(径方向度数誤差ME)と、周方向度数SD(周方向度数誤差SE)とが回旋角βが増加する方向に相互に離れるように変化するものである。
【0054】
コンフォートゾーン15の設計と並行にあるいは前後して、ステップ29においてスタイリッシュゾーン16を形成する外面11および内面12の非球面を設計する。スタイリッシュゾーン16はコンフォートゾーン15の外側に設けられ、コンフォートゾーン15の設計上の径DRが処方度数SPHにより変わるので、スタイリッシュゾーン16の範囲も処方度数SPHにより変わる。しかしながら、ほとんどの処方度数では、スタイリッシュゾーン16は、回旋角βが20度から60度の範囲に含まれる。そして、スタイリッシュゾーン16は、処方度数SPHに対する平均屈折力の補正に対して遠方視の非点収差ASの補正が優先され、パワーエラーPEをある程度容認する代わりに非点収差ASが0(ゼロ)に近づくように外面11および内面12が決められる。
【0055】
スタイリッシュゾーン16の外面11および内面12の一例は非点収差ASの値が0(ゼロ)を挟んでマイナス側およびプラス側に極値を有するように変化するものである。処方度数SPHがマイナスの場合は、非点収差ASをマイナス側に極値、0、プラス側に極値というように振動させて非点収差ASがゼロにできるだけ収束するように外面11および内面12を設計する。たとえば、径方向度数MD(径方向度数誤差ME)と周方向度数SD(周方向度数誤差SE)とが回旋角βが増加する方向に相互に接近および交差した後にさらに接近するように外面11および内面12を設計することができる。処方度数がマイナスの場合は、径方向度数誤差MEをマイナス側からプラス側に変化させてプラス側において周方向度数誤差SEと交差するように外面11および内面12を設計することができる。
【0056】
なお、スタイリッシュゾーン16の外面11および内面12を設計する際には、許容されるパワーエラーPEの、最大誤差MPEは処方度数SPHに対して30%以内にすることが望ましい。最大誤差MPEは処方度数SPHの25%以内がさらに好ましく、処方度数SPHの20%以内であることがいっそう好ましい。スタイリッシュゾーン16でMPEが30%を超えるとスタイリッシュゾーン16の見え方が極端に悪化し、眼鏡レンズとしての機能を果たさなくなる可能性がある。
【0057】
続いて、ステップ30において、コンフォートゾーン15およびスタイリッシュゾーン16を含む眼鏡レンズ10の外面11および内面12の非球面を設計する。具体的には、上記のステップ28および29において求められた各ゾーン15および16の非球面が滑らかに接続されるような外面11および内面12の非球面を求める。
【0058】
さらに、ステップ31において、得られた外面11および内面12を有する眼鏡レンズ10を掛けて見たときの光学的性能、および眼鏡レンズ10を掛けて見られたときのファッション性などを評価する。ユーザーの要望を満足できる眼鏡レンズ10が設計できると、ステップ32において設計された外面11および内面12を有する眼鏡レンズ10を製造する。」

ケ 「【0059】
(実施例2および比較例2)
図13(a)に実施例2の眼鏡レンズ10の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示し、径方向度数の誤差MEを実線で示し、周方向度数の誤差SEを一点鎖線により示している。実施例2の眼鏡レンズ10も外面11および内面12が回転対称非球面の単焦点レンズであり、処方度数SPHが+2.0Dの遠視を矯正するための眼鏡レンズである。なお、具体的なレンズデータは以下の通りである。
頂点屈折力[D]:2.00
外面近軸曲率(0)[D]:3.97
外面近軸曲率(10)[D]:3.79
外面近軸曲率(20)[D]:3.23
外面近軸曲率(30)[D]:2.42
内面近軸曲率(0)[D]:2.00
内面近軸曲率(10)[D]:1.99
内面近軸曲率(20)[D]:1.80
内面近軸曲率(30)[D]:1.49
中心厚[mm]:2.70
【0060】
この眼鏡レンズ10も、眼球の回旋角βが20度から60度の範囲に含まれる領域で、具体的には回旋角βが30度より大きな領域において、非点収差ASの値がプラス側に極値(as(+))を持ち、0を通過し(as(0))、次にマイナス側に極値(as(-))を持つように変化している。さらに、この領域で回旋角βが増加する方向に沿って、径方向度数の誤差MEと周方向度数の誤差SEとが相互に接近および交差した後にさらに接近するように変化している。この例では、プラス側にシフトした径方向誤差MEがマイナス側にシフトして周方向誤差SEと交差している。したがって、この領域では、パワーエラーPEが処方度数SPH(2.0D)に対して回旋角βが50度で20%程度となっているが、代わりに非点収差ASは0のまわりに収束するように補正されている。
【0061】
一方、回旋角βが30度より小さな領域では、径方向度数の誤差MEと周方向度数の誤差SEとが回旋角βが増加する方向に相互に離れるように変化している。したがって、この領域では、パワーエラーPEがほぼ0であり、非点収差ASも良好に補正されているが、非点収差ASは回旋角βが増加するにつれて増加している。
【0062】
したがって、この眼鏡レンズ10は、回旋角βが30度を境界17として、外側(回旋角βが大きい方)が処方度数SPHに対する平均屈折力の補正(パワーエラーPE)に対して遠方視の非点収差ASの補正が優先された第1の領域(スタイリッシュゾーン)16となり、その内側、すなわち、境界17より内側の眼鏡レンズ10の中央部が非点収差ASの補正に対して平均屈折力の補正(パワーエラーPE)が優先された第2の領域(コンフォートゾーン)15となっている。
【0063】
・・・中略・・・
【0066】
以上のように、処方度数SPHがプラスの眼鏡レンズにおいても、処方度数SPHがマイナスの眼鏡レンズと同様に、パワーエラーPEおよび非点収差ASが良好に補正されており鮮明な画像が得られるコンフォートゾーン15を中央部に設け、パワーエラーPEが容認されている代わりに非点収差ASが0を含み、ようにかつ0近傍において振動する(0に近い値をとる)スタイリッシュゾーン16を周辺部に設けることができる。また、処方度数SPHがプラスの眼鏡レンズにおいても、スタイリッシュゾーン16を設けることにより、眼鏡レンズ10を掛けて見たときの周辺部における性能および掛けて見られときの性能がともに改善されていることがわかる。
【0067】
・・・中略・・・
【0068】
なお、本例の処方度数SPHがプラスの眼鏡レンズ10は、図8のステップ22において説明したようにコンフォートゾーン15の設計上の径DRを30度に設定しているが、視野角αが30度となるようにコンフォートゾーン15を広げることも可能である。その場合、スタイリッシュゾーン16が小さくなるが、コンフォートゾーン16の機能が得られる範囲が広くなる。」

コ 「【0069】
(実施例3および比較例3)
図15(a)および(b)に実施例3の眼鏡レンズ10の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示し、径方向度数の誤差MEを実線で示し、周方向度数の誤差SEを一点鎖線により示している。実施例3の眼鏡レンズ10は処方度数SPHが-5.0D、乱視度数Cが-1.0D、乱視軸Axが180度の乱視矯正を含む眼鏡レンズである。図15(a)は90度方向の軸に沿った各数値の変化を示し、図15(b)は乱視軸Axに沿った180度方向における各数値の変化を示す。なお、具体的なレンズデータは以下の通りである。
球面屈折力[D]:-5.00
乱視屈折力[D]:-1.00
乱視軸:180度
外面近軸曲率( 0)[D]:1.00
外面近軸曲率(10)[D]:0.98
外面近軸曲率(20)[D]:0.82
外面近軸曲率(30)[D]:0.50
180度方向 内面近軸曲率(0)[D]:6.00
180度方向 内面近軸曲率(10)[D]:5.62
180度方向 内面近軸曲率(20)[D]:4.32
180度方向 内面近軸曲率(30)[D]:2.52
90度方向 内面近軸曲率(0)[D]:7.00
90度方向 内面近軸曲率(10)[D]:6.60
90度方向 内面近軸曲率(20)[D]:5.15
90度方向 内面近軸曲率(30)[D]:3.12
中心厚[mm]:1.10
【0070】
この眼鏡レンズ10においては、図15(a)および(b)に示すように乱視矯正が加味されているのでそれぞれのカーブは複雑になっているが、設計的には90度方向では、回旋角βが約24度を境界17として外側がスタイリッシュゾーン16となり、内側がコンフォートゾーン15となっている。また、180度方向では、回旋角βが約26度を境界17として外側がスタイリッシュゾーン16となり、内側がコンフォートゾーン15となっている。
【0071】
このため、図16に示すように、この眼鏡レンズ10においては、破線で示すように、設計上のコンフォートゾーン15の形状は、フィッティングポイントFPを中心とした90度方向10aにおける設計上の径DRが短く、180度方向10bにおける設計上の径DRが長い楕円形である。したがって、乱視矯正を含まない他の眼鏡レンズ10の例では、コンフォートゾーン15がフィッティングポイントFPを中心とした円形であるのとは異なっている。しかしながら、コンフォートゾーン15およびスタイリッシュゾーン16の構成は実施例1の眼鏡レンズ10と共通する。
【0072】
・・・中略・・・
【0074】
以上のように、眼鏡仕様に乱視矯正を含む眼鏡レンズにおいても、パワーエラーPEおよび非点収差ASが良好に補正されており鮮明な画像が得られるコンフォートゾーン15を中央部に設け、パワーエラーPEが容認されている代わりに非点収差ASが0を含み、ように0近傍において振動する値をとるスタイリッシュゾーン16を周辺部に設けることができる。また、乱視矯正用の眼鏡レンズにおいても、スタイリッシュゾーン16を設けることにより、眼鏡レンズ10を掛けて見たときのレンズ周辺部における性能および掛けて見られときの性能がともに改善できる。」

サ 「【0075】
(実施例4?9および比較例4?9)
図19(a)および(b)に実施例4の眼鏡レンズ10および比較例4の眼鏡レンズ19の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示し、径方向度数の誤差MEを実線で示し、周方向度数の誤差SEを一点鎖線により示している。これらのレンズ10および19は、処方度数SPHが-8.0Dの近視を矯正するための眼鏡レンズである。
・・・中略・・・
【0076】
この実施例4の眼鏡レンズ10においては、回旋角βが約24度を境界17として、外側がスタイリッシュゾーン16となり、内側がコンフォートゾーン15となっている。
【0077】
図20(a)および(b)に実施例5の眼鏡レンズ10および比較例5の眼鏡レンズ19の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示し、径方向度数の誤差MEを実線で示し、周方向度数の誤差SEを一点鎖線により示している。これらのレンズ10および19は、処方度数SPHが-6.0Dの近視を矯正するための眼鏡レンズである。
・・・中略・・・
【0078】
この実施例5の眼鏡レンズ10においては、回旋角βが約25度を境界17として、外側がスタイリッシュゾーン16となり、内側がコンフォートゾーン15となっている。
【0079】
図21(a)および(b)に実施例6の眼鏡レンズ10および比較例6の眼鏡レンズ19の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示し、径方向度数の誤差MEを実線で示し、周方向度数の誤差SEを一点鎖線により示している。これらのレンズ10および19は、処方度数SPHが-4.0Dの近視を矯正するための眼鏡レンズである。
・・・中略・・・
【0080】
この実施例6の眼鏡レンズ10においては、回旋角βが約26度を境界17として、外側がスタイリッシュゾーン16となり、内側がコンフォートゾーン15となっている。
【0081】
図22(a)および(b)に実施例7の眼鏡レンズ10および比較例7の眼鏡レンズ19の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示し、径方向度数の誤差MEを実線で示し、周方向度数の誤差SEを一点鎖線により示している。これらのレンズ10および19は、処方度数SPHが-2.0Dの近視を矯正するための眼鏡レンズである。
・・・中略・・・
【0082】
この実施例7の眼鏡レンズ10においては、回旋角βが約28度を境界17として、外側がスタイリッシュゾーン16となり、内側がコンフォートゾーン15となっている。
【0083】
図23(a)および(b)に実施例8の眼鏡レンズ10および比較例8の眼鏡レンズ19の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示し、径方向度数の誤差MEを実線で示し、周方向度数の誤差SEを一点鎖線により示している。これらのレンズ10および19は、処方度数SPHが+4.0Dの遠視を矯正するための眼鏡レンズである。
・・・中略・・・
【0084】
この実施例8の眼鏡レンズ10においては、回旋角βが30度を境界17として、外側がスタイリッシュゾーン16となり、内側がコンフォートゾーン15となっている。
【0085】
図24(a)および(b)に実施例9の眼鏡レンズ10および比較例9の眼鏡レンズ19の処方度数SPHに対する平均屈折力AsPの誤差(パワーエラー)PEを二点鎖線で示し、遠方視の非点収差ASを破線により示し、径方向度数の誤差MEを実線で示し、周方向度数の誤差SEを一点鎖線により示している。これらのレンズ10および19は、処方度数SPHが+6.0Dの遠視を矯正するための眼鏡レンズである。
・・・中略・・・
【0086】
この実施例9の眼鏡レンズ10においては、回旋角βが30度を境界17として、外側がスタイリッシュゾーン16となり、内側がコンフォートゾーン15となっている。
【0087】
これらの実施例に示すように、処方度数SPHがマイナス側およびプラス側の広い範囲において、本発明に基づきコンフォートゾーン15およびスタイリッシュゾーン16を備えた眼鏡レンズ10を設計および製造し、提供することができる。
【0088】
特に、本例においては、処方度数SPHがマイナスの眼鏡レンズ10においては、眼鏡仕様に含まれる処方度数SPHに応じて、コンフォートゾーン15を小さくする設計を採用している。このため、処方度数SPHがマイナスで、かつ、処方度数SPHの絶対値が大きい眼鏡レンズ10においては、コンフォートゾーン15を小さくし、スタイリッシュゾーン16を広く確保できる。これにより、着用者の処方度数の情報が得られれば、コンフォートゾーン15を当該着用者に適した大きさに設定することができる。すなわち、コンフォートゾーン15を設計するために着用者から特別な情報を取得する必要がなく、一般的な眼鏡仕様の情報に基づいて設計装置などを用いて容易に本例の眼鏡レンズ10を設計できる。
【0089】
処方度数SPHがマイナスで絶対値の大きな眼鏡レンズ10は、こば厚が大きくなりやすく、重く、ファッショナブルな眼鏡レンズが得られにくかった。スタイリッシュゾーン16を広く確保することにより、処方度数SPHがマイナスで絶対値の大きな眼鏡レンズ10であっても、薄く、軽く、そしてファッショナブルな眼鏡レンズ10を提供できる。特に、処方度数SPHが-6.0D以下、さらには、処方度数SPHが-7.0D以下の眼鏡レンズ10において、処方度数SPHに応じてコンフォートゾーン15を小さくする設計を採用することは有効である。」

シ 「【0093】
なお、上記では単焦点レンズにより本発明を説明しているが、コンフォートゾーン15が遠方視に適した遠用部および近方視に適した近用部を含む累進屈折力レンズであってもよい。また、内面および外面の双方が非球面であってもよく、いずれか一方の面が非球面であってもよい。また、上記では、コンフォートゾーン15の視野角α(特に処方度数がマイナスのときの視野角)を30度に設定した例を説明しているが、視野角αは30度以下に設定しても、30度以上に設定してもよい。」

ス 「【図1】



セ 「【図5】



ソ 「【図6】



タ 「【図7】



チ 「【図8】



ツ 「【図10】



テ 「【図11】



ト 「【図12】



ナ 「【図13】



ニ 「【図15】



ヌ 「【図16】



ネ 「【図19】



ノ 「【図20】



ハ 「【図21】



ヒ 「【図22】



フ 「【図23】



ヘ 「【図24】



(3) 上記(2)より、当初明細書等に記載された事項として以下の事項を把握することができる。
ア 発明が解決しようとする課題について、[A]先行技術では、眼鏡レンズ中央部では明瞭な像が得られるものの、眼鏡レンズの周辺部の非点収差の補正が十分でなく、周辺部の像が歪んだり、不鮮明になるおそれがあり、装用感の低下や、着用者の顔の輪郭が歪んで見えるなどといったファッション性の低下を引き起こすことがあったところ、[B]本願発明は、さらに使いやすく、ファッション性も高い眼鏡および眼鏡レンズを提供することを課題とする(段落【0002】?【0005】,【0007】,【0009】,【0012】?【0015】,【0017】,【0019】等)。

イ 発明を解決するための手段である、発明の態様の1つは、「装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲に含まれ、処方度数基づく平均屈折力の補正に対して非点収差の補正が優先された第1の領域を設けることと、第1の領域の内側に、非点収差の補正に対して平均屈折力の補正が優先された第2の領域を設けることと、を含む、眼鏡レンズの設計方法」である(段落【0015】)。

ウ 実施例1?9に適用される眼鏡レンズ10の設計方法は、
「ステップ21」において、ユーザー(装着者、装用者)の「処方度数SPH」、「乱視矯正の要否」、「乱視矯正」が必要な場合には「乱視度数(C)」、「乱視軸(Ax)」などの情報が含まれる「眼鏡仕様」を取得し、
「ステップ22」において、「ステップ23」で「処方度数SPH」がマイナス(「ステップ23」がYES、Y)であれば、「ステップ24」で「コンフォートゾーン」の「設計上の径」(「回旋角β」)を「処方度数SPH」に基づいて決定し、「処方度数SPH」がプラス(「ステップ23」がNO、N)であれば「ステップ25」で「コンフォートゾーン」の「設計上の径」(「回旋角β」)を「処方度数SPH」によらず所定の一定の値に設定し、
「ステップ26」において、取得した「眼鏡仕様」に「乱視矯正」の仕様が含まれているか否かを確認し、「乱視矯正」が含まれていない場合(「ステップ26」:YES、Y)は、「ステップ24」または「ステップ25」で設定された「設計上の径DR」が採用され、「乱視矯正」の仕様が含まれている場合(「ステップ26」:NO、N)は、「ステップ27」において、「乱視軸Ax」毎に、「処方度数SPH」に「乱視度数C」を加算した値をもとに、「ステップ22」と同様にして「コンフォートゾーン」の「設計上の径DR」を求め、
「ステップ28」において、「コンフォートゾーン」を形成する外面11および内面12の非球面が、「コンフォートゾーン」においては、「非点収差ASの補正」に対して「平均屈折力の補正」が優先され、「パワーエラーPE」が小さくほぼ0(ゼロ)であり、「眼鏡仕様」の「処方度数SPH」が得られるように設計され(1つの例として、径方向度数MD(径方向度数誤差ME)と、周方向度数SD(周方向度数誤差SE)とが回旋角βが増加する方向に相互に離れるように変化するように設計され)、
「ステップ29」において、「ステップ28」の「コンフォートゾーン」の設計と並行にあるいは前後して、「スタイリッシュゾーン16」を形成する外面11および内面12の非球面が、「スタイリッシュゾーン」においては、「処方度数SPH」に対する「平均屈折力の補正」に対して遠方視の「非点収差AS」の補正が優先され、「パワーエラーPE」をある程度容認する代わりに「非点収差AS」が0(ゼロ)に近づくように設計され、
「ステップ30」において、「ステップ28」および「ステップ29」において求められた「コンフォートゾーン」および「スタイリッシュゾーン」の非球面が滑らかに接続されるような外面11および内面12の非球面を求め、「コンフォートゾーン」および「スタイリッシュゾーン」を含む「眼鏡レンズ10」の外面11および内面12の非球面を設計し、
「ステップ31」において、得られた外面11および内面12を有する「眼鏡レンズ10」を掛けて見たときの光学的性能、および「眼鏡レンズ10」を掛けて見られたときのファッション性などを評価し、
「ステップ32」において、「ステップ31」でユーザーの要望を満足できる「眼鏡レンズ10」が設計できた場合、設計された外面11および内面12を有する眼鏡レンズ10を製造する、というものである(段落【0042】?【0058】、図8)。

エ ここで、実施例1?9に適用される上記眼鏡レンズの設計方法の「ステップ22」においては、「コンフォートゾーン」は「視野角α」で「30度」程度の範囲が確保できれば十分であるが、加えてその外側に位置する「スタイリッシュゾーン」を通しても適度な空間情報を眼球に入力できることが望ましく、また、「レンズ度数」が「マイナス」の場合、「眼鏡レンズL1」を通して見たときの「視野角α´」は裸眼の「視野角α」よりも小さくなり、「レンズ度数」が「プラス」の場合、「眼鏡レンズL2」を通して見たときの「視野角α´」は裸眼の「視野角α」よりも大きくなることから、視野角30度を確保する眼鏡レンズ10における「コンフォートゾーン15」の「設計上の径DR」と「処方度数SPH」との関係は、図12の実線(処方度数SPHが-20?0Dのとき)及び点線(処方度数SPHが0?10Dのとき)で示されたものとなる(処方度数SPHが「-10.0D」の眼鏡レンズを通して見たときの「視野角α」として「30度」を確保する場合の「回旋角β」は「約23度」であり、度数「0.0D」の眼鏡レンズを通して見たときの視野角「30度」を確保する場合の「回旋角β」は「30度」であり、度数「5.0D」の眼鏡レンズを通して見たときの視野角「30度」を確保する場合の「回旋角β」は「約37度」である)ことから、「処方度数SPH」が「マイナス」の場合は、「コンフォートゾーン15」を小さくすることによって、「スタイリッシュゾーンの面積を大きくし、ただし、「処方度数SPH」が「プラス」の場合は、度数が大きいと、度数に対応する「コンフォートゾーン15」が大きくなり「スタイリッシュゾーン16」の面積を十分に確保できないので、「スタイリッシュゾーン16」の面積を十分確保できるよう、図12の実線(処方度数SPHが0?10Dのとき)のように、「回旋角β」を一定値(30度)として、「コンフォートゾーン」の「設計上の径」を設定するようにしたものである(段落【0043】?【0050】、図10?図12)。
そして、「処方度数SPH」がマイナスで絶対値の大きな「眼鏡レンズ10」は、こば厚が大きくなりやすく、重く、ファッショナブルな眼鏡レンズが得られにくかったが、「スタイリッシュゾーン16」を広く確保することにより、「処方度数SPH」がマイナスで絶対値の大きな、特に「処方度数SPH」が「-6.0D」以下、さらには、「処方度数SPH」が「-7.0D」以下等の「眼鏡レンズ10」であっても、薄く、軽く、そしてファッショナブルな「眼鏡レンズ10」を提供できるので、「処方度数SPH」に応じて「コンフォートゾーン15」を小さくする設計を採用することは有効である(段落【0089】)。

オ 実施例1(処方度数SPH-10.0D)、実施例3(処方度数SPH-5.0D、乱視度数Cが-1.0D、乱視軸Axが180度)、実施例4(処方度数SPH-8.0D)、実施例5(処方度数SPH-6.0D)、実施例6(処方度数SPH-4.0D)、実施例7(処方度数SPH-2.0D)は、上記ウ及びエより、マイナスの処方度数SPHに対して、視野角30度の確保を前提とする眼鏡レンズの設計方法により設計された眼鏡レンズの具体例であり、実施例2(処方度数SPH+2.0D)、実施例8(処方度数SPH+4.0D)、実施例9(処方度数SPH+6.0D)は、上記ウ及びエより、プラスの処方度数SPHに対して、視野角の確保とスタイリッシュゾーン16の面積の確保との両立を図った眼鏡レンズの設計方法により設計された眼鏡レンズの具体例である。
また、実施例1?9の各実施例の眼鏡レンズのパワーエラー及び非点収差が、図6(a)、図13(a)、図15(a),(b)、図19(a)、図20(a)、図21(a)、図22(a)、図23(a)、図24(a)に示されているところ、各実施例の「第1の領域(スタイリッシュゾーン)16」と「第2の領域(コンフォートゾーン)15」との境界17の「回旋角β」は、それぞれ「約23度」、「30度」、「90度方向では、約24度、180度方向では、約26度」、「約24度」、「約25度」、「約26度」、「約28度」、「30度」、「30度」であり、各実施例の「スタイリッシュゾーン」における「非点収差」の「最初の極値」の回旋角、「次の極値」の回旋角、「次の極値」の前の非点収差がゼロとなる各回旋角は、それぞれ大体約33度、約49度、約41度(実施例1、図6(a))、大体約36度、約50度、約45度(実施例2、図13(a))、大体約34度、約50度、約44度(実施例3、図15(a)(90°方向))、大体約34度、約50度、約44度(実施例3、図15(b)(180°方向))、大体約34度、約48度、約42度(実施例4、図19(a))、大体約34度、約48度、約43度(実施例5、図20(a))、大体約35度、約49度、約44度(実施例6、図21(a))、大体約35度、約49度、約45度(実施例7、図22(a))、大体約37度、約49度、約46度(実施例8、図23(a))、大体約36度、約49度、約47度(実施例9、図24(a))である。
また、実施例1、実施例3?7については、「スタイリッシュゾーン16」において、「眼鏡レンズ10」の「パワーエラーPE」が、回旋角が増大にするにつれて、単調にプラス側に増大しており、実施例2、実施例8、実施例9(処方度数SPHが+6.0D)については、「スタイリッシュゾーン16」において、「眼鏡レンズ10」の「パワーエラーPE」が、回旋角が増大にするにつれて、単調にマイナス側に減少している。

カ 上記ア?オより、当初明細書等には、眼鏡レンズの設計方法として、
「装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれるスタイリッシュゾーンを設けることと、前記スタイリッシュゾーンの内側にコンフォートゾーンを設けることと、を含み、前記スタイリッシュゾーンには、非点収差の値がマイナスの極値をとる点、および、前記非点収差の値がプラスの極値をとる点を含ませ」るように設計し、以下の(ア)?(ケ)のいずれかを満たすよう設計する、眼鏡レンズの設計方法が記載されているものと認めることができる。
(ア)処方度数を-10.0Dとし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の23度であり、回旋角の33度にて最初の極値を配し、回旋角の41度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。
(イ)処方度数を+2.0Dとし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がマイナス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の30度であり、回旋角の36度にて最初の極値を配し、回旋角の45度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の50度にて次の極値を配する。
(ウ)処方度数を-5.0D、乱視度数Cを-1.0D、乱視軸Axを180度とし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の90度方向では24度、180度方向では26度であり、
回旋角の90度方向では、回旋角の34度にて最初の極値を配し、回旋角の44度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の50度にて次の極値を配し、
回旋角の180度方向では、回旋角の34度にて最初の極値を配し、回旋角の44度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の50度にて次の極値を配する。
(エ)処方度数を-8.0Dとし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の24度であり、回旋角の34度にて最初の極値を配し、回旋角の42度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の48度にて次の極値を配する。
(オ)処方度数を-6.0Dとし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の25度であり、回旋角の34度にて最初の極値を配し、回旋角の43度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の48度にて次の極値を配する。
(カ)処方度数を-4.0Dとし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の26度であり、回旋角の35度にて最初の極値を配し、回旋角の44度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。
(キ)処方度数を-2.0Dとし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がプラス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の28度であり、回旋角の35度にて最初の極値を配し、回旋角の45度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。
(ク)処方度数を+4.0Dとし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がマイナス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の30度であり、回旋角の37度にて最初の極値を配し、回旋角の46度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。
(ケ)処方度数を+6.0Dとし、前記スタイリッシュゾーンにおいては前記回旋角が大きくなるにつれて平均屈折力の誤差の値がマイナス側に増大し、
前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の30度であり、回旋角の36度にて最初の極値を配し、回旋角の47度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配する。

キ 以上まとめると、当初明細書等に記載された技術的事項は、前記エで述べたような、「処方度数SPH」と「視野角α’」との関係を考慮して「回旋角度β(コンフォートゾーンの設計上の径DR)」を決定し、そして、前記ウで述べたステップ28及びステップ29のように、コンフォートゾーン15及びスタイリッシュゾーン16の外面11及び内面12の形状を決定するという技術的思想であり、したがって、上記カのとおり、当初明細書等には、「処方度数SPH」の値と、「回旋角度β(コンフォートゾーンの設計上の径DR)」及び「コンフォートゾーン15」及び「スタイリッシュゾーン16の外面11及び内面12の形状」が一体不可分の関係にある発明が開示されていたということができる。
しかしながら、本件補正後の請求項6に係る発明は、「処方度数SPH」が発明特定事項として含まれていないにもかかわらず、本来ならば、ある特定の「処方度数SPH」と一体不可分の関係にあるはずの「回旋角度β(コンフォートゾーンの設計上の径DR)」、並びに「コンフォートゾーン15及びスタイリッシュゾーン16の外面11及び内面12の形状」が発明特定事項に含まれている。
すなわち、本件補正後の請求項6に係る発明には、「処方度数SPH」の値に関わりなく「回旋角度β(コンフォートゾーンの設計上の径DR)」及び「コンフォートゾーン15及びスタイリッシュゾーン16の外面11及び内面12の形状」が決定されるような発明、例えば、もっぱら、コンフォートゾーン15の大きさ、あるいはスタイリッシュゾーン16の大きさをどの程度にすべきかに応じて「回旋角度β(コンフォートゾーンの設計上の径DR)」が決定され、そして、「コンフォートゾーン15及びスタイリッシュゾーン16の外面11及び内面12の形状」が決定される、というような、当初明細書等に開示されていない技術的思想に基づく発明が含まれており、換言すると、本件補正により、当初明細書等に開示されていない、あるいは当初明細書に開示された技術的思想と相容れない、「処方度数SPH」の値と、「回旋角度β(コンフォートゾーンの設計上の径DR)」及び「コンフォートゾーン15及びスタイリッシュゾーン16の外面11及び内面12の形状」が一体不可分の関係にはない発明が、発明の範囲内に導入されたといえる。

例えば、上記2(1)の特許請求の範囲における請求項6に記載された「条件(1)?(9)」のうちの条件(7)のように、処方度数が特定されない眼鏡レンズに対して、スタイリッシュゾーンが始まる回旋角を28度とし、かつ、回旋角の35度にて最初の極値を配し、回旋角の45度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配するよう設計を行うという事項は、上記ウ?エのとおり、眼鏡レンズの設計においては、スタイリッシュゾーンが始まる回旋角は、視野角30度の確保をその前提として、処方度数に基づき、「処方度数SPH」がマイナスで絶対値の大きな眼鏡レンズに対しても、こば厚が薄く、軽い、ファッショナブルな眼鏡レンズが得られるように、「処方度数SPH」に応じて「コンフォートゾーン15」を小さく「スタイリッシュゾーン16」を大きく設定しているところ、例えば-10.0Dあるいは-12.5D等の処方度数の眼鏡レンズに対して、条件(7)のような設計とすると、視野角及びコンフォートゾーンが不必要に大きくまた広いものとなり、結果としてスタイリッシュゾーンが狭くなり、こば厚が厚く、重く、ファッショナブルでない好ましくない眼鏡レンズの設計を行うこととなる(前記エで述べた、「処方度数SPH」と「視野角α’」との関係を考慮して「回旋角β(コンフォートゾーンの設計上の径DR)」を決定するという技術的思想が反映されなくなる。)。
あるいは、上記2(1)の特許請求の範囲における請求項6に記載された「条件(1)?(9)」のうちの条件(1)のように、処方度数が特定されていない眼鏡レンズに対して、スタイリッシュゾーンが始まる回旋角を23度とし、かつ、回旋角の33度にて最初の極値を配し、回旋角の41度にて非点収差がゼロとなる点を配し、回旋角の49度にて次の極値を配するよう設計を行うという事項は、例えば処方度数が-0.2Dの眼鏡レンズに対して、条件(1)のように設計を行うと、スタイリッシュゾーンは大きくなるものの、コンフォートゾーン・視野角が30度よりも小さいものとなってしまい、眼鏡レンズ中央部で明瞭な像が得られる範囲を狭くなってしまう好ましくない眼鏡レンズの設計を行うこととなる(やはり、前記エで述べた、「処方度数SPH」と「視野角α’」との関係を考慮して「回旋角β(コンフォートゾーンの設計上の径DR)」を決定するという技術的思想が反映されなくなる。)。

したがって、本件補正により、請求項6に記載された「装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれるスタイリッシュゾーンを設けることと」、「前記スタイリッシュゾーンの内側にコンフォートゾーンを設けることと」、「を含み」、「前記スタイリッシュゾーンには、非点収差の値がマイナスの極値をとる点、および、前記非点収差の値がプラスの極値をとる点を含ませ」るように設計する眼鏡レンズの設計方法において、「処方度数SPH」を発明特定事項として含んでいない「条件(1)?(9)のいずれかを満たすよう設計する」ことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

ク また、コンフォートゾーン15は視野角αで30度程度の範囲が確保できれば十分であって、実施例1?9は「視野角α」を30度に設定したものとなっているが、「視野角α」の設定について、当初明細書等の段落【0093】には、「コンフォートゾーン15の視野角α(特に処方度数がマイナスのときの視野角)を30度に設定した例を説明しているが、視野角αは30度以下に設定しても、30度以上に設定してもよい。」旨の記載がある。
ここで、視野角の設定を30度と異なるものとした(例えば、30度より小さくした、あるいは大きくした)場合には、設定された視野角に対応する各「処方度数」における「スタイリッシュゾーンが始まる角度」が異なる(例えば、角度が小さい、あるいは大きい)ものとなることから、「コンフォートゾーン」及び「スタイリッシュゾーン」の角度範囲が変化し(例えば、「スタイリゾーン」の角度範囲が広がり、あるいは狭くなり)、この異なる条件の下で眼鏡レンズの設計を行った場合には、非点収差が0のまわりをどのように振動させるかの設計が異なるものとなること、あるいは、スタイリッシュゾーンにおける、非点収差が最初の極値を取る位置、非点収差がゼロとなる位置、非点収差が次の極値を取る位置もそれぞれ異なるものとなることは技術的に明らかである。
例えば、確保する視野角を40度とする時、処方度数-5.0D?-2.0Dの場合には、図11によれば、スタイリッシュゾーンが始まる回旋角は約34度(処方度数-5.0D)?約40度(処方度数-2.0D)となることから、少なくとも非点収差が最初の極値を取る位置は、実施例の最初の極値の位置より回旋角が増大する方向にずれてしまうことは明らかである。
あるいは、視野角を20度とする時、処方度数-2.0Dの場合には、図11によれば、スタイリッシュゾーンが始まる回旋角は約19度となることから、非点収差が最初の極値を取る位置は、例えば、実施例7の最初の極値の位置より回旋角が増大する方向にずれるような設計になると考えられる。
そうしてみると、視野角を「30度」に設定した眼鏡レンズの設計方法を適用して各実施例1?9の各処方度数の眼鏡レンズを設計した結果である図6(a)、図13(a)、図15(a)(b)、図19(a)、図20(a)、図21(a)、図22(a)、図23(a)、図24(a)の各図から導き出された各数値に基づき、「視野角α」として特定の角度を前提とせず、かつ、処方度数も限定されない眼鏡レンズの設計方法として、上記2(1)の特許請求の範囲における請求項6に記載された「条件(1)?(9)」のいずれかを満たすよう設計する」ことは、やはり当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

ケ さらに、当初明細書等には、上記の眼鏡レンズの設計方法に関し、コンフォートゾーン及びスタイリッシュゾーンの設計の際に、「コンフォートゾーン」を形成する外面11および内面12の非球面が、「コンフォートゾーン」においては、「非点収差ASの補正」に対して「平均屈折力の補正」が優先され、「パワーエラーPE」が小さくほぼ0(ゼロ)であり、「眼鏡仕様」の「処方度数SPH」が得られるように設計され(1つの例として、径方向度数MD(径方向度数誤差ME)と、周方向度数SD(周方向度数誤差SE)とが回旋角βが増加する方向に相互に離れるように変化するように設計され)、「スタイリッシュゾーン16」を形成する外面11および内面12の非球面が、「スタイリッシュゾーン」は、「処方度数SPH」に対する「平均屈折力の補正」に対して遠方視の「非点収差AS」の補正が優先されることや、「スタイリッシュゾーン」は、「パワーエラーPE」をある程度容認する代わりに「非点収差AS」が0(ゼロ)に近づくように設計されること、非点収差の値(非点収差)がマイナス(側)の極値をとる点およびプラス(側)の極値をとる点を含む(持つ)ように変化させることにより、回旋角が大きな範囲で第1の領域の非点収差が0を中心として振動させること、「スタイリッシュゾーン」において、回旋角が増加する方向において、径方向度数の値(径方向度数)と周方向度数の値(周方向度数)とが相互に接近および交差した後にさらに接近するように変化することが記載されているものの、「スタイリッシュゾーン」における非点収差の最初の極値及びその絶対値の大きさ、「コンフォートゾーン」における非点収差の絶対値の最大値及びその大きさに基づいて、「スタイリッシュゾーン」における非点収差の最初の極値の絶対値が、「コンフォートゾーン」における非点収差の絶対値の最大値よりも大きいものとなるように眼鏡レンズを設計することや、そのような設計条件を備えた眼鏡レンズ・眼鏡は、いずれも記載されておらず、また、当初明細書等の記載からみて当業者に自明の事項とも認められない。

そうすると、本件補正により、請求項6に記載された「装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれるスタイリッシュゾーンを設けることと」、「前記スタイリッシュゾーンの内側にコンフォートゾーンを設けることと」、「を含み」、「前記スタイリッシュゾーンには、非点収差の値がマイナスの極値をとる点、および、前記非点収差の値がプラスの極値をとる点を含ませ」るように設計する眼鏡レンズの設計方法において、「前記スタイリッシュゾーンにおける非点収差の前記最初の極値の絶対値は、前記コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きくするよう設計」することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

コ 平成29年12月5日提出の意見書における請求人の主張について
(ア) 請求人は、平成29年12月5日提出の意見書において、条件(1)?(9)に係る具体的な数値の根拠として、「実施例1:[0031]?[0058]、図6(a)」、「実施例2:[0059]?[0068]、図13(a)」、「実施例3:[0069]?[0074]、図15(a)(b)」、「実施例4:[0076]、図19(a)」、「実施例5:[0078]、図20(a)」、「実施例6:[0080]、図21(a)」、「実施例7:[0082]、図22(a)」、「実施例8:[0084]、図23(a)」、「実施例9:[0086]、図24(a)」を挙げているが、各実施例は、所定の処方度数及び視野角30度を確保することを前提としたものであるから、各実施例の処方度数としない、あるいは視野角30度の確保を前提としない、眼鏡レンズの設計方法として、「条件(1)?(9)のいずれかを満たすよう設計する」ことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえないことは、既に述べたとおりである。

(イ) また、請求人は、「前記スタイリッシュゾーンにおける非点収差の前記最初の極値の絶対値は、前記コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きく」することについて、同意見書において、「まず、本願明細書の[0027]に、コンフォートゾーンにおいては非点収差を小さくすることが記載されております。また、[0029]に、スタイリッシュゾーンでは非点収差を振動させることが記載されております。」、「そうなると、コンフォートゾーンにて小さく設定された非点収差が、その外側のスタイリッシュゾーンにて振動することにより、コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも、スタイリッシュゾーンにおける非点収差の最初の極値の絶対値が大きくなるのは自明であると思量されます。この内容は、各実施例の図(図6(a)、図13(a)、図15(a)(b)、図19(a)、図20(a)、図21(a)、図22(a)、図23(a)、図24(a))にも示されております。」旨主張している。
しかしながら、当初明細書等に、コンフォートゾーンにおいては非点収差を小さくすることが記載され、スタイリッシュゾーンでは非点収差を振動させることが記載されているからといって、あるいは、レンズの設計を行った結果である各実施例の各図(図6(a)、図13(a)、図15(a)(b)、図19(a)、図20(a)、図21(a)、図22(a)、図23(a)、図24(a))から、直ちに、眼鏡レンズの設計方法として、コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも、スタイリッシュゾーンにおける非点収差の最初の極値の絶対値が大きくするような設計方法が導かれるとは認められない。

(ウ) そうすると、同意見書における請求人の上記主張はいずれも採用することはできない。

(4) まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲は、平成29年5月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記第2[理由]1(1)参照。)。

(1)当審の拒絶理由
当審で平成29年9月1日付けで通知した拒絶の理由は概略以下のとおりである。

平成29年5月1日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

特許請求の範囲の請求項6について、平成29年5月1日付けでした手続補正は、以下の補正事項1及び補正事項2を含むものである。
(1)補正事項1
「スタイリッシュゾーン」に関し、「前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の20度から30度の範囲であり、回旋角の30度から40度の範囲にて最初の極値を配し、回旋角の40度から50度の範囲にて非点収差がゼロとなる点を配し、非点収差がゼロとなる点よりも回旋角が大きい範囲にて次の極値を配し」ているという発明特定事項を追加する。
(2)補正事項2
「スタイリッシュゾーン」に関し、「前記スタイリッシュゾーンにおける非点収差の前記最初の極値の絶対値は、前記コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きくす」るものという発明特定事項を追加する。
また、特許請求の範囲の請求項9、請求項1、請求項5についても、上記手続補正は、上記補正事項1及び補正事項2と同様な補正事項を含むものである。

そして、特許請求の範囲の請求項6についての上記補正事項1及び補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。
また、特許請求の範囲の請求項9、請求項1及び請求項5について、上記補正事項1及び補正事項2と同様な事項を追加する補正事項も、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

(2) 当合議体の判断
(ア)上記補正事項1及び補正事項2による補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるかについて、以下検討する。

a 眼鏡レンズにおける「コンフォートゾーン(第2の領域)」及び「スタイリッシュゾーン(第1の領域)」の位置・範囲及び非点収差・平均屈折力等その光学的な設計に関し、当初明細書等の【請求項1】、段落【0006】、【0007】等には、処方度数に基づく平均屈折力の補正よりも非点収差の補正が優先された(あるいは、平均屈折力にある程度の誤差を許容し、その代りに非点収差を良好に補正した)「第1の領域」が「装着者の眼球の回旋角の20度から60度の範囲のうち少なくとも一部に含まれ」ること、段落【0028】には、「スタイリッシュゾーン(第1の領域)16は、装着者の眼球の回旋角βが20度から60度の範囲に含まれる領域であって、処方度数SPHに対する平均屈折力AvPの補正に対して遠方視の非点収差ASの補正が優先された領域であり、コンフォートゾーン(第2の領域)15は、スタイリッシュゾーン16の内側の領域であって、非点収差ASの補正に対して平均屈折力AvPの補正が優先された領域となっている」こと、段落【0047】には、図11について、「図11に、標準的な条件で求めた度数と回旋角βとの関係を眼鏡レンズの視野角α別に示している。たとえば、度数が-10.0Dの眼鏡レンズを通して見たときの視野角αとして30度を確保する場合の回旋角βは約23度であり、度数が0.0Dの眼鏡レンズを通して見たときの視野角30度を確保する場合の回旋角βは30度であり、度数が5.0Dの眼鏡レンズを通して見たときの視野角30度を確保する場合の回旋角βは約37度である。したがって、視野角30度を確保するようにコンフォートゾーン15を設計する場合のコンフォートゾーン15の設計上の径は処方度数SPHにより変えることが可能であり、特に、処方度数SPHがマイナスの場合は、コンフォートゾーン15を小さくすることによりスタイリッシュゾーン16の面積を大きくすることができる。一方、処方度数SPHがプラスの場合は、度数が大きいと、度数に対応するコンフォートゾーン15が大きくなりスタイリッシュゾーン16の面積を十分に確保できない。そこでスタイリッシュゾーン16の面積を十分確保できるよう、回旋角βを一定値とすることが好ましい。」こと、段落【0048】には、図12について、「図12に、本例の眼鏡レンズ10におけるコンフォートゾーン15の設計上の径(半径)DRと処方度数SPHとの関係を、フィッティングポイントFPからの回旋角βを用いて示している。処方度数SPHがマイナスの場合は、処方度数SPHにより理論的に求められる視野角αが30度を確保できる回旋角βをコンフォートゾーン15の設計上の径DRとして採用することでスタイリッシュゾーン16を大きくする。一方、処方度数SPHがプラス(SPHがゼロ以上)の場合は、コンフォートゾーン15の設計上の径DRを回旋角βが30度に固定してスタイリッシュゾーン16を確保する。」ことがそれぞれ記載されている。
また、実施例1(処方度数SPHが-10.0D、段落【0031】?【0058】、図6(a))、実施例2(処方度数SPHが+2.0D、段落【0059】?【0068】、図13(a))、実施例3(処方度数SPHが-5.0D、乱視度数Cが-1.0D、乱視軸Axが180度、段落【0069】?【0074】、図15(a)、図15(b))、実施例4(処方度数SPHが-8.0D、図19(a))、実施例5(処方度数SPHが-6.0D、図20(a))、実施例6(処方度数SPHが-4.0D、図21(a))、実施例7(処方度数SPHが-2.0D、図22(a))、実施例8(処方度数SPHが+4.0D、図23(a))、実施例9(処方度数SPHが+6.0D、図24(a))について、「第1の領域(スタイリッシュゾーン)16」と「第2の領域(コンフォートゾーン)15」との「境界17」の「回旋角β」を、それぞれ「約23度」(段落【0035】)、「30度」(段落【0062】)、「90度方向では、約24度、180度方向では、約26度」(段落【0070】)、「約24度」(段落【0076】)、「約25度」(段落【0078】)、「約26度」(段落【0080】)、「約28度」(段落【0082】)、「30度」(段落【0084】)、「30度」(段落【0086】)とすることが当初明細書等に記載されている。
また、実施例1?9の各実施例の眼鏡レンズのパワーエラー及び非点収差を示す図6(a)、図13(a)、図15(a),(b)、図19(a)、図20(a)、図21(a)、図22(a)、図23(a)、図24(a)からは、各実施例の「第1の領域(スタイリッシュゾーン)16」と「第2の領域(コンフォートゾーン)15」との境界17の「回旋角β」が上記のとおりの角度であることや、「スタイリッシュゾーン」における「非点収差」の「最初の極値」の回旋角、「次の極値」の回旋角、「次の極値」の前の非点収差がゼロとなる各回旋角について、大体、約33度、約49度、約41度(実施例1、図6(a))、約36度、約50度、約45度(実施例2、図13(a))、約34度、約50度、約44度(実施例3、図15(a)(90°方向))、約34度、約50度、約44度(実施例3、図15(b)(180°方向))、約34度、約48度、約42度(実施例4、図19(a))、約34度、約48度、約43度(実施例5、図20(a))、約35度、約49度、約44度(実施例6、図21(a))、約35度、約49度、約45度(実施例7、図22(a))、約37度、約49度、約46度(実施例8、図23(a))、約36度、約49度、約47度(実施例9、図24(a))となっていることが把握できる。

b しかしながら、当初明細書等には、眼鏡レンズの設計を行う際に、(1)「スタイリッシュゾーン」が始まる回旋角を「20度から30度」の範囲に限ったものとすること、(2)最初の極値を回旋角との関係においてどこに配するべきか、(3)最初の極値を回旋角との関係においてどの数値範囲に配するべきか、(4)最初の極値を配する回旋角の下限値を30度とすること、(5)最初の極値を配する回旋角の上限値を40度とすること、(6)非点収差がゼロとなる点を回旋角との関係においてどこに配するべきか、(7)非点収差がゼロとなる点を回旋角との関係においてどの数値範囲に配するべきか、(8)非点収差がゼロとなる点を配する回旋角の下限値を40度とすること、(9)非点収差がゼロとなる点を配する回旋角の上限値を50度とすること、についての技術思想・設計思想はいずれも記載されておらず、また、当初明細書等の記載からみて当業者にとって自明の事項とも認められない。
同様に、当初明細書等には、眼鏡レンズの設計方法として、(10)「スタイリッシュゾーン」が始まる回旋角を「20度から30度」の範囲に限ったものとし、かつ、最初の極値を配する回旋角を「30度から40度」の範囲に限ったものとし、かつ、非点収差がゼロとなる点を配する回旋角を「40度から50度」の範囲に限ったものとし、かつ、この「40度から50度」の範囲に限定された非点収差がゼロとなる点よりも回旋角が大きい範囲において次の極値を配置したものとすることや、これらの各回旋角の範囲に関する配置条件を備えた眼鏡レンズ・眼鏡は、いずれも記載されておらず、また、当初明細書等の記載からみて当業者に自明の事項とも認められない。
また、当初明細書等には、眼鏡レンズの設計を行う際に、(11)「スタイリッシュゾーン」における非点収差の最初の極値及びその絶対値の大きさ、「コンフォートゾーン」における非点収差の絶対値の最大値及びその大きさに基づいて、スタイリッシュゾーンにおける非点収差の最初の極値の絶対値が、コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きいものとなるように眼鏡レンズを設計することや、そのような設計条件を備えた眼鏡レンズ・眼鏡は、いずれも記載されておらず、また、当初明細書等の記載からみて当業者に自明の事項とも認められない。

c なお、実施例1?9の眼鏡レンズについて、非点収差及びパワーエラーを示す図が描かれているとしても、これらの図は、段落【0009】?【0019】に開示されているような設計思想に基づいて設計された眼鏡レンズにおいて結果として得られた非点収差及びパワーエラーの値を示しているのにすぎないのであって、上記(1)?(11)のような事項を考慮して設計されたものではない(そもそも、上述したように、上記(1)?(11)のような事項は、当初明細書等に記載も示唆もされていない。)。また、眼鏡レンズのパワーエラー(曲線)及び非点収差(曲線)は、段落【0006】?【0019】に開示されているような設計思想が反映された個々の眼鏡レンズに対して結果として得られたひとつのまとまった構成であり、実施例1?9の非点収差及びパワーエラーを示す「各」図における回旋角の「各」数値から、最初の極値の数値範囲、ゼロ点の数値範囲、次の極値の数値範囲を導き出すこと、及び、導き出したこれらの各数値範囲を組み合わせることは、新規事項の追加である。

d よって、特許請求の範囲の請求項6について、「スタイリッシュゾーン」に関し、「前記回旋角が増加する方向において前記スタイリッシュゾーンが始まるのは回旋角の20度から30度の範囲であり、回旋角の30度から40度の範囲にて最初の極値を配し、回旋角の40度から50度の範囲にて非点収差がゼロとなる点を配し、非点収差がゼロとなる点よりも回旋角が大きい範囲にて次の極値を配し」という事項を追加する補正事項1、及び、「前記スタイリッシュゾーンにおける非点収差の前記最初の極値の絶対値は、前記コンフォートゾーンにおける非点収差の絶対値の最大値よりも大きくす」るという事項を追加する補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

(イ) 上記(ア)で述べた理由と同様な理由により、特許請求の範囲の請求項9、請求項1及び請求項5について、上記補正事項1及び補正事項2と同様な事項を追加する補正事項も、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

第4 まとめ
したがって、平成29年5月1日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-05 
結審通知日 2018-03-06 
審決日 2018-03-19 
出願番号 特願2011-100847(P2011-100847)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (G02C)
P 1 8・ 561- WZ (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
河原 正
発明の名称 眼鏡用レンズ、眼鏡、眼鏡レンズの設計方法、及び設計装置  
代理人 福岡 昌浩  
代理人 奥山 知洋  
代理人 阿仁屋 節雄  

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