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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1342715
審判番号 不服2017-9976  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-05 
確定日 2018-08-01 
事件の表示 特願2015- 61007「高圧急速熱処理のための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日出願公開、特開2015-173264〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年(2009年)5月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年5月9日,アメリカ合衆国,2009年5月7日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2011-508706号の一部を,平成27年(2015年)3月24日に新たな出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 4月21日 審査請求
平成28年 5月30日 特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知
平成28年 9月 5日 意見書・手続補正
平成29年 2日28日 拒絶査定・平成28年9月5日付けの補正の却下の決定
平成29年 7月 5日 審判請求・手続補正

第2 審判請求と同時にした手続補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年7月5日に審判請求と同時にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正により,本件補正前の請求項10は,本件補正後の請求項10へ補正された。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,特許請求の範囲の請求項10の記載は次のとおりである。
「【請求項10】
急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を加熱するために構成される第1の熱源と,
前記チャンバー内の圧力を2絶対気圧を上回るように制御するための圧力制御弁と
を含むチャンバー。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の,特許請求の範囲の請求項10の記載は,次のとおりである。(当審注。補正個所に下線を付した。以下,同じ。)
「急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記急速熱処理チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を加熱するために構成される第1の熱源と,
前記急速熱処理チャンバー内の圧力を2絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲の圧力に制御するための圧力制御弁と
を含み,
前記第1の熱源としてのランプヘッドアセンブリが,前記急速熱処理チャンバー中の最大で5絶対気圧の増加した圧力のもとで,0.25mmを上回る量での軸方向の変形を防止する剛性を有する,急速熱処理チャンバー。」

2 補正の適否
本件補正は,補正前の請求項10に記載した発明を特定するために必要な事項である「チャンバー」について「急速熱処理チャンバー」であることを明確にし,当該「急速熱処理チャンバー」内の圧力について「5.0絶対気圧の範囲の圧力」という上限を付加し,さらに「第1の熱源」について「第1の熱源としてのランプヘッドアセンブリが,前記急速熱処理チャンバー中の最大で5絶対気圧の増加した圧力のもとで,0.25mmを上回る量での軸方向の変形を防止する剛性を有する」という限定を付加したものである。
「急速熱処理チャンバー」内の圧力については,本願の外国語書面の翻訳文の段落【0022】に記載された事項,「第1の熱源としてのランプヘッドアセンブリ」については,本願の外国語書面の翻訳文の段落【0031】に記載された事項,に基づいて技術的事項を追加したものであり,本願の外国語書面の翻訳文に記載された事項の範囲内においてされたものであって,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,本件補正事項は,補正前の請求項10に記載された発明と補正後の請求項10に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり,本件補正前の請求項10に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項10に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項)につき,更に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項10に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「【請求項10】急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記急速熱処理チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を加熱するために構成される第1の熱源と,
前記急速熱処理チャンバー内の圧力を2絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲の圧力に制御するための圧力制御弁と
を含み,
前記第1の熱源としてのランプヘッドアセンブリが,前記急速熱処理チャンバー中の最大で5絶対気圧の増加した圧力のもとで,0.25mmを上回る量での軸方向の変形を防止する剛性を有する,急速熱処理チャンバー。」

(2)引用文献および引用発明
ア 引用文献の記載事項

原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2006/087777号(以下,「引用文献」という。)には,図面と共に,次の記載がある。(下線は,当審で付加した。以下同じ。)

(ア)「【0013】
また,本発明に係る加圧式ランプアニール装置において,前記透明部材の厚さtは,アニール処理を行う際の前記処理室内の設計圧力をP(単位:Pa)とし,前記処理室内から前記透明部材が圧力を受ける面の面積をA(単位:mm^(2))とし,前記透明部材の曲げ応力をσb(単位:N/mm^(2))としたときに下記式を満たすものであることを特徴とする加圧式ランプアニール装置。
10(PA/σb)^(1/2)≦t≦75(PA/σb)^(1/2)
【0014】
また,本発明に係る加圧式ランプアニール装置において,前記保持部に保持される被処理基板の表面と略垂直方向の前記処理室の長さが5mm以上100mm以下であることが好ましい。このように処理室の長さを5mm以上100mm以下と短くすることにより,処理室内に配置された被処理基板とランプヒータとの間の距離を短くでき,それによって昇温レートを上げることができる。」

(イ)「【0020】
図1に示すように,加圧式ランプアニール装置はAl製のチャンバー1を有している。チャンバー1の肉厚は従来の減圧式ランプアニール装置に比べて厚く形成されている。このチャンバー1の内表面1aには表面処理が施されている。つまり,チャンバー1のない表面1aには反射膜が形成されている。具体的な表面処理としては,Auメッキ処理又はシュウ酸アルマイト処理を用いることが可能である。これにより,チャンバー1の内表面1aにはAuメッキ膜又はシュウ酸アルマイト膜が形成され,このAuメッキ膜又はシュウ酸アルマイト膜でランプ光を反射させることができる。その結果,昇温レートを上げることができる。また,消費電力を少なくすることができる。また,チャンバー1は図示せぬ冷却機構によって水冷されるように構成されている。
尚,本実施の形態では,前記表面処理としてAuメッキ処理又はシュウ酸アルマイト処理を用いているが,本発明はこれに限定されるものではなく,Al,Au,Ag,Cu,Pt,Tiからなる群から選択された一の金属を主成分としたコーティング膜を用いることも可能である。
【0021】
チャンバー1内には被処理基板としてのウエハ2を載置する載置台3が設けられている。載置台3はランプ光が透過する材料,例えば石英で形成されている。載置台3の上方には石英ガラス4が配置されている。この石英ガラス4は,略円柱部4aとその上部の周囲に形成された鍔部4bから構成されている。石英ガラスの略円柱部4aは,チャンバー内が加圧されるために従来の減圧式ランプアニール装置に比べて厚く形成されている。
【0022】
石英ガラスの略円柱部4aの厚さの決定方法について説明する。
設計圧力(例えば使用圧力×1.2倍)をP(単位:Pa)とし,圧力を受ける面の面積をA(単位:mm^(2))とし,石英ガラスの曲げ応力をσb(単位:N/mm^(2))とした場合の石英ガラスの厚さtは,下記式(1)を満たすことが好ましい。
10(PA/σb)1/2≦t≦75(PA/σb)1/2・・・(1)
【0023】
石英ガラス4の上にはランプヒータ5が配置されており,このランプヒータ5は金属製の筐体6の内部に配置されている。筐体6の上部には排気ダクト7が接続されており,この排気ダクト7は筐体6内の熱を排気するものである。」

(ウ)「【0026】
チャンバー1内に形成される処理室55は狭い方が好ましい。その理由は,所定の圧力まで加圧するのに必要な時間を短くすることができるからである。また,処理室55内の高さ11は低い方が好ましい。その理由は,処理室55内に配置されたウエハ2とランプヒータ5との間の距離を短くでき,それによって昇温レートを上げることができるからである。具体的な処理室55内の高さ11としては,例えば6インチウエハを被処理基板とした場合,5mm以上100mm以下が好ましく,5mm以上50mm以下がより好ましく,22mm程度がさらに好ましい。」

(エ)「【0031】
また,チャンバー1内の処理室55は圧力調整ラインに接続されている。この圧力調整ライン及び前記加圧ライン12によってチャンバー1内の処理室を所定の圧力(例えば1MPa未満)に加圧できるようになっている。前記圧力調整ラインは可変バルブ39を備えており,この可変バルブ39の一方側は第9配管52を介してチャンバー内の処理室に接続されている。第9配管52は圧力計40に接続されており,この圧力計40によって処理室55内の圧力を測定できるようになっている。可変バルブ39の他方側は第10配管に接続されている。

(オ)「【0042】
図3及び図4に示すゲートバルブ49の開口部を開き,搬送ロボット53により前記シリコンウエハを処理室55内に導入し,図1に示す載置台3上に前記シリコンウエハを載置する。次いで,ゲートバルブ49の開口部を閉じ,加圧ライン12の酸素ガス供給源29から第1配管,逆止弁15,第2配管,フィルタ18,第3配管,バルブ24,第4配管,レギュレータ27,第5配管,マスフローコントローラ32,第6配管,バルブ35,第7配管,加熱ユニット37,第8配管51を通して酸素ガスを処理室55内に導入する。これと共に,圧力調整ラインの可変バルブ39を徐々に閉じていくことにより,処理室55内を酸素雰囲気としながら徐々に加圧する。そして,処理室55内は1MPa未満の所定の圧力まで加圧され,その圧力で維持される。
【0043】
次に,ランプヒータ5から石英ガラス4を通してランプ光をシリコンウエハに照射する。これにより,PZT膜が600℃まで急速に加熱され,600℃の温度で1分間保持される。その結果,PZTと酸素が素早く反応され,PZT膜が結晶化される。
(中略)
【0047】
次に,上記加圧式ランプアニール装置によるランプアニール処理実験及びその結果について説明する。
図6は,上記加圧式ランプアニール装置によってランプアニール処理を施すウエハ2を示す平面図である。参照符号62?65は,ウエハ2にランプアニール処理を施した際にウエハ2の表面上の温度を測定した位置を示すものである。ウエハ2の直径は150mmであり,測定位置62と測定位置65との間の距離は140mmである。
【0048】
図7は,600℃の温度,酸素ガスによって0.9MPaの圧力で加圧式ランプアニール処理を施した際のウエハ上の測定位置62?65それぞれの温度と時間の関係を示すグラフである。
図7によれば,ヒーターを予備加熱する為にオンした際の測定位置63の温度が41.0℃であり,RTA(実プロセス)を行う為にヒーターをオンした際の測定位置63の温度が86.9℃であり,実プロセスの昇温レートが107℃/秒であり,600℃になるまで約4.8秒要し,600℃まで昇温された直後のオーバーシュート67が4.5℃であった。
【0049】
図8は,700℃の温度,酸素ガスによって0.9MPaの圧力で加圧式ランプアニール処理を施した際のウエハ上の測定位置62?65それぞれの温度と時間の関係を示すグラフである。
図8によれば,ヒーターを予備加熱する為にオンした際の測定位置63の温度が99.5℃であり,RTA(実プロセス)を行う為にヒーターをオンした際の測定位置63の温度が144.5℃であり,実プロセスの昇温レートが110.1℃/秒であり,700℃まで昇温された直後のオーバーシュート67が4.7℃であった。
【0050】
図9は,900℃の温度,酸素ガスによって0.9MPaの圧力で加圧式ランプアニール処理を施した際のウエハ上の測定位置62?65それぞれの温度と時間の関係を示すグラフである。
図9によれば,ヒーターを予備加熱する為にオンした際の測定位置63の温度が49.2℃であり,RTA(実プロセス)を行う為にヒーターをオンした際の測定位置63の温度が90.3℃であり,実プロセスの昇温レートが158.5℃/秒であり,900℃まで昇温された直後のオーバーシュート67が2.8℃であった。その後の測定位置62?65における均熱は,1分後が±10.35℃であり,5分後が±6.70℃であり,10分後が±4.15℃であった。ヒーターオフ66の後の降温レートが42.4℃/秒であった。ヒーターをオフした後311秒経過した時68の温度が100℃であった。」

(カ)図1には,以下のものが記載されているものと認められる。
「加圧式ランプアニール装置のチャンバー1であって,
処理室55と,
処理室55内で熱的に処理されるウエハ2を載置する載置台3と,
ウエハ2を加熱するためのランプヒータ5と,
処理室を所定の圧力(例えば1MPa未満)に加圧できる圧力調整ライン の可変バルブ39と,
処理室を1MPa未満に加圧できる圧力調整ラインの可変バルブ39と,
石英ガラス4の上にはランプヒータ5が配置され,このランプヒータ5は金属製の筐体6の内部に配置されているチャンバ-1。」
さらに,図1には,チャンバー1の石英ガラス4の側面に接する壁を石英ガラス4の厚みと等しい厚みとすることが記載されている。

イ 引用発明
前記ア(ア)ないし(カ)の記載から,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「加圧式ランプアニール装置のチャンバー1であって,
処理室55と,
処理室55内で熱的に処理されるウエハ2を載置する載置台3と,
ウエハ2を加熱するためのランプヒータ5と,
処理室55を1MPa未満に加圧できる圧力調整ラインの可変バルブ39と,
石英ガラス4の上にはランプヒータ5が配置され,このランプヒータ5は金属製の筐体6の内部に配置されているチャンバ-1。」

(3)本願補正発明と引用発明の対比
ア 引用発明の「加圧式ランプアニール装置のチャンバー1」は,「ランプアニール」は「急速熱処理」装置の一種であるから,本願補正発明の「急速熱処理チャンバー」に相当する。
イ 引用発明の「処理室55」は,処理する空間を意味するので,本願補正発明の「チャンバー容積部を規定するチャンバー本体」に相当する。
ウ 引用発明の「ウエハ2」は,本願補正発明の「基板」に相当するので,引用発明の「処理室55内で熱的に処理されるウエハ2を載置する載置台3」は,本願補正発明の「急速熱処理チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部」に相当する。
エ 引用発明の「ウエハ2を加熱するためのランプヒータ5」は,熱源として機能するから,本願補正発明の「基板を加熱するための第1の熱源」に相当する。
オ 引用発明の「処理室55内を加圧する際の圧力調整ラインの可変バルブ39」は,下記相違点1の点を除き,本願補正発明の「急速熱処理チャンバー内の圧力を」「制御するための圧力制御弁」に相当する。
カ 引用発明の「石英ガラス4の上にはランプヒータ5が配置され,このランプヒータ5は金属製の筐体6の内部に配置されている」構成は,熱源を含む構成要素なので,本願補正発明と下記相違点2の点を除き,「第1の熱源のとしてのランプヘッドアセンブリ」に相当する。
そうすると,本願補正発明と引用発明とは,下記キの点で一致するが,下記クの点で相違すると認められる。

キ 一致点
「急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記急速熱処理チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を加熱するために構成される第1の熱源と,
前記急速熱処理チャンバー内の圧力を制御するための圧力制御弁と
を含み,
前記第1の熱源としてのランプヘッドアセンブリを有する,急速熱処理チャンバー。」

ク 相違点
相違点1
本願補正発明では 圧力制御弁は2絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲の圧力に制御するのに対して,引用発明では,可変バルブは1MPa未満に加圧できるという点。
相違点2
本願補正発明では,ランプヘッドアセンブリは,前記急速熱処理チャンバー中の最大で5絶対気圧の増加した圧力のもとで,0.25mmを上回る量での軸方向の変形を防止する剛性を有するのに対して,引用発明では,ランプヘッドアセンブリに相当する構成について剛性の数値限定は明示していない点。

(4)相違点についての判断
相違点1について
引用発明における可変バルブが調製できる範囲は,1MPa未満であり,基板処理装置において通常用いられている絶対圧を意味するものと解して絶対気圧に換算すると1MPa=9.869絶対気圧未満となる。すなわち,引用発明における圧力制御範囲は,本願補正発明の圧力制御範囲を含んでいる。引用発明に開示された圧力制御範囲内において,その範囲内に圧力制御範囲を設定することは,圧力制御という観点ではより緩やかな条件の範囲設定であるから,当業者にとって設計的事項と認められる。

相違点2について
引用発明において,ランプヘッドセンブリに対応する構成要素のうち,最も圧力を受けることが予想されるのは,石英ガラス4である。この石英ガラス4に対して,前記(2)アの段落【0021】には,「石英ガラスの略円柱部4aは,チャンバー内が加圧されるために従来の減圧式ランプアニール装置に比べて厚く形成されている。」と記載されており,加圧による変形に対する配慮が読み取れる。また,その厚み決定にあたって,前記(2)アの段落【0022】には,「設計圧力(例えば使用圧力×1.2倍)をP(単位:Pa)とし,圧力を受ける面の面積をA(単位:mm^(2))とし,石英ガラスの曲げ応力をσb(単位:N/mm^(2))とした場合の石英ガラスの厚さtは,下記式(1)を満たすことが好ましい。
10(PA/σb)1/2≦t≦75(PA/σb)1/2・・・(1)」と記載され,石英ガラスの「曲げ」という変形を所定の範囲に押さえるための石英ガラスの厚みとすることが開示されている。
さらに,前記(2)ア(カ)のとおり,図1には,チャンバの壁の厚みを石英ガラスの厚みと等しくすることが開示されている。
次に,変形の方向については,チャンバ上部に石英ガラスが置かれていることから,チャンバ側から圧力がかかると石英ガラスが凸上になる形での変形,すなわち垂直「軸方向の変形」が問題となり,これが本願補正発明「軸方向の変形」に対応するものである。
前記(2)ウの段落【0026】では,「処理室55内に配置されたウエハ2とランプヒータ5との間の距離を短くでき,それによって昇温レートを上げることができるからである。」と記載されており,当該軸方向の変形は,同距離を長くしてしまう方向なので,高い昇温レートの達成の観点から,当該軸方向の変形を起こさないことが望ましい事が読み取れる。
以上の記載から,引用発明においても,ランプヘッドアセンブリに対応する構成要素に対して,高い剛性が求められる事情について明示されている。
そして,前記(2)オの段落【0048】?【0050】には,0.9MPaの圧力下で利用した実験結果が開示されており,この範囲の圧力において,100℃/秒を越える高速な昇温レートが達成されており,この結果から,圧力下において軸方向の変形を起こしていないことが推察される。
また,本願補正発明の「5絶対気圧の増加した圧力のもとで,0.25mmを上回る量での軸方向の変形」について,その前後でどのようにチャンバーに対する影響を与えるのか,その効果について明細書には記載が無く,当該数値範囲の臨界的意義は見いだせない。
以上の事情を総合すると,引用発明において,ランプヘッドアセンブリに対応する構成要素の軸方向の変形に対する剛性の数値範囲について,本願補正発明における範囲とすることは,加圧下に求められる構成要素の剛性に配慮して,当業者であれば通常設定し得る範囲の数値限定に過ぎず,当業者が容易に設定し得たものと認められる。

(5)まとめ
よって,本願補正発明は,引用文献に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

3 本件補正についてのむすび
以上の検討から,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反してなされたものであるから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年7月5日付けでされた手続補正は,上記のとおり却下され,平成28年9月5日付けでされた手続補正は,平成29年2月28日付けで却下の決定をしているので,本願の請求項10に係る発明は,外国語書面の翻訳文に記載された特許請求の範囲の請求項10に記載された次のとおりのものと認める(以下,「本願発明」という。)。
「【請求項10】
急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を加熱するために構成される第1の熱源と,
前記チャンバー内の圧力を2絶対気圧を上回るように制御するための圧力制御弁とを含むチャンバー。」

2 現査定の拒絶の理由
現査定の拒絶の理由は,この出願の請求項10に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,また,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献:国際公開第2006/087777号

3 新規性
(1)引用文献の記載
引用文献の記載事項は,前記第2の[理由]の2(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
ア 引用発明の「加圧式ランプアニール装置のチャンバー1」は,「ランプアニール」は「急速熱処理」装置の一種であるから,本願発明の「急速熱処理チャンバー」に相当する。
イ 引用発明の「処理室55」は,処理する空間を意味するので,本願発明の「チャンバー容積部を規定するチャンバー本体」に相当する。
ウ 引用発明の「ウエハ2」は,本願発明の「基板」に相当するので,引用発明の「処理室55内で熱的に処理されるウエハ2を載置する載置台3」は,本願発明の「急速熱処理チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部」に相当する。
エ 引用発明の「ウエハ2を加熱するためのランプヒータ5」は,熱源として機能しているから,本願補正発明の「基板を加熱するための第1の熱源
」に相当する。
オ 引用発明の「1MPa未満に加圧できる圧力調整ラインの可変バルブ39」は,当該加圧範囲を絶対気圧換算(1Mpa=9.869絶対気圧)すると,9.869気圧未満となる。この範囲は,本願発明の「約2絶対気圧を上回るように制御する」という加圧範囲と重なるため,引用発明の「処理室55内を1MPa未満に加圧できる圧力調整ラインの可変バルブ39」は,本願補正発明の「前記チャンバー内の圧力を2絶対気圧を上回るように制御するための圧力制御弁」に相当する。
したがって,前記アないしオの検討から,本願発明は,引用文献に記載された発明である。

4 進歩性
本願発明と引用文献に仮に相違点があったとしても,その相違点については構造上の微差に過ぎず,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,又は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-28 
結審通知日 2018-03-06 
審決日 2018-03-19 
出願番号 特願2015-61007(P2015-61007)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑原 清  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 加藤 浩一
大嶋 洋一
発明の名称 高圧急速熱処理のための装置および方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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