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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09G
管理番号 1342721
審判番号 不服2017-18398  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-11 
確定日 2018-08-21 
事件の表示 特願2014-531358「画像のダイナミックレンジ変換のための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日国際公開、WO2013/046096、平成26年12月 4日国内公表、特表2014-532195、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年9月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年9月27日欧州特許庁、2012年1月20日米国、2012年3月21日欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月27日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年1月26日付けで手続補正がされ、同年4月14日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月14日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年12月11日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年9月14日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。

平成29年1月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-16に係る発明は、以下の引用文献1-6に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-10108号公報
2.特開2010-114839号公報
3.国際公開第99/23637号
4.特開2009-27663号公報
5.特開2008-206168号公報
6.特開2005-86226号公報

第3 本願発明
本願請求項1-15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明15」という。)は、平成29年12月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「少なくとも符号化画像及び対象ディスプレイリファレンスを含む画像信号を受信するための第1受信機であって、前記対象ディスプレイリファレンスは、前記符号化画像が符号化において対象とした対象ディスプレイのダイナミックレンジを示す、第1受信機と、
ディスプレイからデータ信号を受信するための第2受信機であって、前記データ信号は、少なくとも1つの輝度仕様を含むディスプレイのディスプレイダイナミックレンジ指標を含む、第2受信機と、
受信された前記ディスプレイダイナミックレンジ指標及び前記対象ディスプレイリファレンスに応じて、前記符号化画像にダイナミックレンジ変換を適用することによって出力画像を生成するダイナミックレンジプロセッサと、
前記出力画像を含む出力画像信号を前記ディスプレイに出力するための出力部と
を含む、画像処理装置。」

なお、本願発明2-15の概要は、以下のとおりである。
本願発明2-14は、本願発明1を減縮する発明である。
本願発明15は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図とともに次の事項が記載されている(下線は、当審による。)。

ア 「【0001】 本発明は、撮像装置に係り、特に、画像データのダイナミックレンジを圧縮するのにかかる時間を低減するのに好適な撮像制御装置、撮像装置及び撮像制御方法等に関する。」

イ 「【0038】
〔形態18〕 更に、形態18の撮像制御装置は、形態17の撮像制御装置において、
前記第1の合成画像データの画像を出力する出力装置の出力可能な階調範囲に係る情報を、前記出力装置から取得する階調情報取得手段と、
前記出力可能な階調範囲に対応する複数種類のトーンカーブの情報を記憶するトーンカーブ情報記憶手段と、を備え、
前記階調変換手段は、前記トーンカーブ情報記憶手段に記憶された、前記階調情報取得手段で取得した情報に対応する種類のトーンカーブの情報を用いて、前記ブロード化した第1の合成画像データに対して、ガンマ変換を施す。
【0039】
このような構成であれば、階調情報取得手段によって、第1の合成画像データの画像を出力する出力装置から、該出力装置の出力可能な階調範囲に係る情報が取得される。そして、階調変換手段において、補正後のゲイン分布を用いてヒストグラムがブロード化された第1の合成画像データに対して、前記取得した情報に対応する種類のトーンカーブの情報を用いたガンマ変換が施される。
【0040】
これによって、撮像制御装置に接続された出力装置の画像の出力性能に応じた階調変換を施すことができるので、出力装置の性能に柔軟に対応できるシステムを容易に構築することができるという効果が得られる。
ここで、上記階調範囲に係る情報とは、表示可能な階調範囲の情報そのもの、階調範囲を算出できる情報などの他、階調変換手段側で出力装置の機種に対応する表示可能な階調範囲のデータテーブルを用意できれば、出力装置の機種情報なども含む情報となる。」

ウ 「【0046】 〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づき説明する。図1?図10は、本発明に係る撮像制御装置、撮像装置及び撮像制御方法の第1実施形態を示す図である。
まず、本発明に係る撮像システムの構成を図1に基づき説明する。図1は、本発明に係る撮像システム1の構成を示すブロック図である。
撮像システム1は、図1に示すように、撮像装置2と、表示装置3とを含んで構成される。
撮像装置2は、撮像素子10と、撮像制御装置20とを含んで構成され、撮像制御装置20は、HDR信号処理部30と、フレームメモリ40とを含んで構成される。
【0047】 撮像素子10は、レンズ11と、マイクロレンズ12と、カラーフィルタアレイ13と、HDRセンサ14とを含んで構成される。」


エ 「【0061】 次に、図5?図7に基づき、HDR信号処理部30及びフレームメモリ40の構成を説明する。
ここで、図5は、撮像制御装置20の詳細な構成を示すブロック図である。
HDR信号処理部30は、図5に示すように、プリプロセス部31と、輝度画像生成部32と、本線系処理部33と、メモリインターフェース(以下、メモリIFと称す)34とを含んで構成される。
プリプロセス部31は、HDRセンサ14からの画素信号(画素データS1?S3)に対して、超短露光時間T1の画素データS1を用いた固定パターンノイズの除去処理、クランプ処理などを行う。
【0062】 具体的に、固定パターンノイズの除去処理は、短露光時間T2及び標準露光時間T3の画素データから、超短露光時間T1の画素データを各対応する画素毎に減算する処理となる。つまり、超短露光時間T1の画素データは、リセット直後の画素信号に対応するデータであるため、電荷の蓄積量が少なく、固定パターンノイズの成分に支配されているので、このデータを、他の露光時間のデータから減算することで、固定パターンノイズの成分のみを除去することができる。
【0063】 また、クランプ処理は、HDRセンサ14からの画素データS1?S3を受信し、それが遮光領域の信号か否かを検出し、遮光領域と検出された場合はその信号レベルが黒(基準)レベルになるように、全ての入力画素データの直流成分をクランプする処理となる。
そして、固定パターンノイズの除去処理及びクランプ処理を経た画素データS1?S3は、メモリIF34を介して、フレームメモリ40にセンサセルアレイの画素の配列順と対応する順番で格納される。以下、露光時間T1?T3にそれぞれ対応する撮像画像データ(1フレーム分の画素データ)を、画素データと同様に、撮像画像データS1?S3と称す。
【0064】 輝度画像生成部32は、フレームメモリ40から、メモリIF34を介して、画素データS1及びS2を読み出し、読み出した画素データS1及びS2から、トーンマッピング処理のための輝度画像データPを生成する。
本線系処理部33は、フレームメモリ40から、メモリIF34を介して、撮像画像データS1?S3を読み出すと共に、輝度画像データPを読み出して、これら読み出した画像データに基づき、HDR合成処理、トーンマップ処理、色処理、ガンマ変換処理を行う。そして、ガンマ変換後の画像データをLDR画像データとして、表示装置3に出力する。
【0065】 メモリIF34は、フレームメモリ40に対するデータの書き込み及びデータの読み出しを調停する機能を有している。具体的に、プリプロセス部31、輝度画像生成部32及び本線系処理部33からの、データの読出要求及び書込要求に応じて、正常に読み書きが行われるように、これらの調停を行う。そして、各構成部からの要求に応じた、フレームメモリ40からのデータの読み出し、及びフレームメモリ40へのデータの書き込み処理を実行する。」


オ 「【0073】 次に、図7に基づき、本線系処理部33の詳細な構成を説明する。
ここで、図7は、本線系処理部33の詳細な構成を示すブロック図である。
本線系処理部33は、図7に示すように、LM330A?330Cと、HDR合成処理部331と、LM332と、輝度画像→ゲイン変換器333と、LUT(Lookup table)334と、トーンマップ用乗算器335とを含んだ構成となっている。
【0074】 本線系処理部33は、更に、色処理部336と、LM337と、ガンマ変換部338と、LUT339とを含んだ構成となっている。
LM330Aは、メモリIF34を介して、フレームメモリ40から読み出した、超短露光時間T1の画素データS1をライン単位で格納するためのメモリである。
LM330Bは、メモリIF34を介して、フレームメモリ40から読み出した、短露光時間T2の画素データS2をライン単位で格納するためのメモリである。
【0075】 LM330Cは、メモリIF34を介して、フレームメモリ40から読み出した、標準露光時間T3の画素データS3をライン単位で格納するためのメモリである。
HDR合成処理部331は、LM330A?330Cに格納された画素データS1?S3に対して、露光時間T1及びT3、並びにT2及びT3の比率に応じたゲインをそれぞれ求めると共に、求めたゲインによって画素データS1及びS2の正規化を行う。更に、正規化した画素データS1?S2と、画素データS3とに対して、それぞれ重み付け処理を行う。更に、重み付けされた画素データS1?S3を合成して、HDR画素データ(HDR_RAW画素データ)を生成する。例えば、画素データS1?S3がそれぞれ10ビットのデータであるとして、16ビットのHDR画素データを生成する。なお、1フレーム分のHDR画素データが、HDR画像データ(HDR_RAW画像データ)となる。
【0076】 LM332は、メモリIF34を介して、フレームメモリ40から読み出した、輝度画像データPを構成する複数の輝度画素データをライン単位で格納するためのメモリである。
輝度画像→ゲイン変換器333は、LM332に格納された輝度画素データの入力に対して、各輝度画素データの示す輝度値に対応したゲインを、LUT334から読み出して、トーンマップ用乗算器335に出力する。
【0077】 LUT334は、予め下式(1)に従って算出された、各輝度値Pに対するゲインK(P)を格納したデータテーブルである。本実施形態では、HDR画像データの輝度のヒストグラムを、ブロード化するゲインK(P)が格納されている。

K(P)=1/P_(L)^(i) (1)

但し、指数部iは、1以下の正の実数であり、PLは正規化された輝度値であり「0?1」の範囲の値となる。
【0078】 トーンマップ用乗算器335は、HDR合成処理部331で生成されたHDR画像データを構成する各HDR画素データに対して、輝度画像→ゲイン変換器333から出力されるゲインを乗算することでトーンマッピングを行う。つまり、HDR画像データの各画素データの示す値Yと、トーンマッピング後の値Y’との間には、下式(2)の関係が成立する。

Y’=K(P)×Y (2)
【0079】 本実施形態では、1/4のサイズにリサイズされた輝度画像データPに対してゲイン分布を生成するので、輝度画像→ゲイン変換器333では、4画素の領域毎のゲインが生成されることになる。従って、トーンマップ用乗算器335においては、輝度画像→ゲイン変換器333から出力される1つのゲインを、HDR画像データにおけるカラーフィルタアレイ13で区分される4画素毎に対応するHDR画素データに対して乗算する。
【0080】 トーンマップ用乗算器335においてトーンマッピングしたHDR画素データは、色処理部336へと出力される。
色処理部336は、LM337に格納されたHDR画素データ(処理すべき画素のデータ)と、LM337に格納された、処理すべき画素の周辺のHDR画素データとを用いて色補間処理を行う。すなわち、LM337により遅延された、HDR画素データを用いて、画像の各点について、RGB色空間に規定される色信号(データ)を生成する処理(色信号処理)を行う。
【0081】 具体的に、色処理部336は、色補間処理によって、HDR画素データを、画素毎に、RGBの各色要素にそれぞれ対応するカラーHDR画素データに変換する。
これにより、画素毎に、Rの色要素に対応するR_HDR画素データ、Gの色要素に対応するG_HDR画素データ及びBの色要素に対応するB_HDR画素データを有するカラーHDR画素データが生成される。なお、1フレーム分の画素データS1?S3に対応するカラーHDR画素データからカラーHDR画像データが構成される。
【0082】 LM337は、色処理に必要なトーンマッピング後の画素データをライン単位で格納するメモリである。
ここで、前記LPFを通過した前記輝度画像データPは、画像の局所領域においては、その領域を構成する画素の輝度画像データPがほぼ同じ値なので前記ゲインKもほぼ同じ値となる。そのため、撮像素子を構成する赤色、緑色、青色の画素のゲインが、局所的にみれば同じ値となることから、赤色、緑色、青色のバランスが崩れない。
【0083】 なお、トーンマップ用乗算器335と色処理部336の順番は逆でも良い。すなわち、HDR合成処理後のHDR_RAW画素データに対して色信号処理を施して、R、G、BのカラーHDR画素データを生成後、各々のR、G、Bに対してトーンマップ用の乗算を施す。この場合、乗算処理が3回必要となる。
ガンマ変換部338は、表示装置3の表示可能な階調範囲に対応するトーンカーブの情報が格納されたLUT339から、色処理部336で色処理後の各画素データの示す輝度値に対応した変換値を取得する。つまり、各画素データの示す輝度値を、トーンカーブにおける対応する変換値に置き換えることでガンマ変換を施す。
【0084】 例えば、HDRカラー画素データの階調範囲が20ビットで、表示装置3の表示可能な階調範囲が8ビットである場合は、LUT339に格納された、20ビットの階調範囲の輝度値を8ビットの階調範囲の輝度値に変換するトーンカーブの情報から、各入力輝度値に対応した変換値を取得する。このとき、表示装置3から、その表示可能な階調範囲が解る情報を取得するようにしてもよい。
【0085】 このようにして、トーンマッピングによってヒストグラムがブロード化されたHDRカラー画像データをガンマ変換し、20ビットの階調範囲のHDR画像データを、8ビットの階調範囲のLDRカラー画像データへと変換する。
LUT339は、少なくとも、表示装置3の表示可能な階調範囲に対応するトーンカーブの情報が格納されたデータテーブルである。」


ここで、段落【0038】に記載された「出力装置」とは、〔第1実施形態〕における「表示装置3」のことであるから、該「出力装置」を「表示装置3」と読み替えると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、引用発明において、「HDR(カラー)画像データ」とは、「トーンマップ用乗算器335」による「トーンマップ処理」、及び「色処理部336」による「色処理」がなされた後の、「ブロード化されたHDRカラー画像データ」のことを意味する。)

「撮像制御装置20におけるガンマ変換部338(段落【0061】、【0073】、【0074】より。以下、同じ。)であって、
撮像制御装置20は、HDR信号処理部30と、フレームメモリ40とを含んで構成され(【0046】)、
HDR信号処理部30は、プリプロセス部31と、輝度画像生成部32と、本線系処理部33と、メモリインターフェース34とを含んで構成され(【0061】)、本線系処理部33は、フレームメモリ40から、メモリIF34を介して、撮像画像データS1?S3を読み出すと共に、輝度画像データPを読み出して、これら読み出した画像データに基づき、HDR合成処理、トーンマップ処理、色処理、ガンマ変換処理を行い、ガンマ変換後の画像データをLDR画像データとして表示装置3に出力し(【0064】)、
撮像制御装置20は、表示装置3の出力可能な階調範囲に係る情報を、前記表示装置3から取得する階調情報取得手段を備え(【0038】)、
本線系処理部33は、HDR合成処理部331と、トーンマップ用乗算器335と、色処理部336と、ガンマ変換部338とを含み(【0073】、【0074】)、
ガンマ変換部338は、表示装置3の表示可能な階調範囲に対応するトーンカーブの情報が格納されたLUT339から、色処理部336で色処理後の各画素データの示す輝度値に対応した変換値を取得してガンマ変換を施すものであり(【0083】)、例えば、HDRカラー画素データの階調範囲が20ビットで、表示装置3の表示可能な階調範囲が8ビットである場合は、LUT339に格納された、20ビットの階調範囲の輝度値を8ビットの階調範囲の輝度値に変換するトーンカーブの情報から、各入力輝度値に対応した変換値を取得し(【0084】)、ブロード化されたHDRカラー画像データをガンマ変換し、20ビットの階調範囲のHDR画像データを、8ビットの階調範囲のLDRカラー画像データへと変換する(【0085】)が、このとき、表示装置3から、その表示可能な階調範囲が解る情報を取得するようにしてもよい(【0084】)、
ガンマ変換部338(【0074】)。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、【0080】?【0084】の記載からみて、sRGBモニタの見え(色の見え及び明度感)を液晶プロジェクタで忠実に再現できるように、液晶プロジェクタ側のデバイス白色輝度と環境光照度とに応じて順応輝度を算出し、色空間変換を制御するという技術事項が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、第1頁第5-9行、第12頁第2-7行及び図8の記載からみて、周囲光に関する情報やモニタの設定情報に応じて、プロファイルを更新して、モニタの表示特性に応じた処理を施すことにより、異なるモニタ間において、表示される画像の色の見えが同様となるようにするという技術事項が記載されていると認められる。

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、【0017】-【0025】及び【0028】の記載からみて、画像を部分画像領域に分けて、各部分画像領域に対して設定された階調数により各部分画像領域を変換した画像データを符号化し、符号データを外部に出力するに際して、各部分画像領域のダイナミックレンジをヘッダなどに付加するという技術事項が記載されていると認められる。

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、【0134】-【0135】の記載からみて、ダイナミックレンジの情報を画像データとともに画像ファイルのヘッダ等に記録して、画像ファイル内にダイナミックレンジ情報を付加しておくことにより、プリンター等の画像出力装置においてその情報を読み込み、合成処理、ガンマ変換、色補正などの処理内容を変えて最適な画像を作成することが可能になるという技術事項が記載されていると認められる。

6 引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献6には、【0039】?【0045】の記載からみて、映像圧縮機能を有する撮像装置において、圧縮されたデジタル映像信号には、各ブロックの最小値とダイナミックレンジのデータとが付加されるいう技術事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「表示装置3」が本願発明1の「ディスプレイ」に相当する。

イ 引用発明における「ブロード化されたHDRカラー画像データ」である「(例えば)20ビットの階調範囲のHDR画像」、及び「(例えば)8ビットの階調範囲のLDRカラー画像」が、それぞれ本願発明1の「符号化画像」、及び「出力画像」に相当する。

ウ 引用発明における「ガンマ変換部338」は、「HDR合成処理部331と、トーンマップ用乗算器335と、色処理部336」で「HDR合成処理、トーンマップ処理、色処理」された後の「各画素データ」、つまり「ブロード化されたHDRカラー画像データ」をガンマ変換しているから、「ブロード化されたHDRカラー画像データ」を前段の「色処理部336」から受信する受信部を有していることは明らかである。
よって、引用発明における「ガンマ変換部338」が、「ブロード化されたHDRカラー画像データ」を受信する受信部を有していることと、本願発明1における「少なくとも符号化画像及び対象ディスプレイリファレンスを含む画像信号を受信するための第1受信機であって、前記対象ディスプレイリファレンスは、前記符号化画像が符号化において対象とした対象ディスプレイのダイナミックレンジを示す、第1受信機」とは、「少なくとも符号化画像を受信するための受信部」の点で共通する。

エ 引用発明における「表示装置3の出力可能な階調範囲に係る情報を、前記表示装置3から取得する階調情報取得手段」は、これにより「表示装置3から、その表示可能な階調範囲が解る情報を取得する」ものであるから、本願発明1における「ディスプレイからデータ信号を受信するための第2受信機であって、前記データ信号は、少なくとも1つの輝度仕様を含むディスプレイのディスプレイダイナミックレンジ指標を含む、第2受信機」に相当するといえる。


オ 引用発明における「ガンマ変換部338」は、「撮像制御装置20」の「階調情報取得手段」によって取得された「表示装置3の表示可能な階調範囲に対応するトーンカーブの情報が格納されたLUT339」を用いて、「ブロード化されたHDRカラー画像データをガンマ変換し、20ビットの階調範囲のHDR画像データを、8ビットの階調範囲のLDRカラー画像データへと変換」しているから、本願発明1における「受信された前記ディスプレイダイナミックレンジ指標に応じて、符号化画像にダイナミックレンジ変換を適用することによって出力画像を生成するダイナミックレンジプロセッサ」とは、「受信された前記ディスプレイダイナミックレンジ指標に応じて、符号化画像にダイナミックレンジ変換を適用することによって出力画像を生成するダイナミックレンジ処理部」の点で共通するといえる。

カ 引用発明の「ガンマ変換部338」は、「ガンマ変換後の画像データをLDR画像データとして表示装置3に出力する」ものであるから、本願発明1における「前記出力画像を含む出力画像信号を前記ディスプレイに出力するための出力部と、を含む、画像処理装置」に相当するものといえる。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「少なくとも符号化画像を受信するための受信部と、
ディスプレイからデータ信号を受信するための第2受信機であって、前記データ信号は、少なくとも1つの輝度仕様を含むディスプレイのディスプレイダイナミックレンジ指標を含む、第2受信機と、
受信された前記ディスプレイダイナミックレンジ指標に応じて、符号化画像にダイナミックレンジ変換を適用することによって出力画像を生成するダイナミックレンジ処理部と、
前記出力画像を含む出力画像信号を前記ディスプレイに出力するための出力部と
を含む、画像処理装置。」

(相違点1)
本願発明1は、「少なくとも符号化画像を受信するための受信部」が、「少なくとも符号化画像及び対象ディスプレイリファレンスを含む画像信号を受信するための第1受信機であって、前記対象ディスプレイリファレンスは、前記符号化画像が符号化において対象とした対象ディスプレイのダイナミックレンジを示す、第1受信機」であって、「ダイナミックレンジプロセッサ」が、「前記対象ディスプレイリファレンスに応じて、前記符号化画像にダイナミックレンジ変換を適用する」ものであるのに対し、
引用発明における「ガンマ変換部338」は、「ブロード化されたHDRカラー画像データ」を前段の「色処理部336」から受信する受信部を含んでいるものの、該受信部は、「ブロード化されたHDRカラー画像データ」とともに、ガンマ変換が施される「ブロード化されたHDRカラー画像」の「階調範囲」(ビット数)が、どのような「表示装置」を対象とした「階調範囲」であるかの情報(本願発明1でいう、「対象ディスプレイリファレンス」に相当する。以下、同じ。)を含んだ信号を受信する受信機ではなく、「ガンマ変換部338」は、上記どのような「表示装置」を対象とした「階調範囲」であるかの情報(「対象ディスプレイリファレンス」)に応じて、「ブロード化されたHDRカラー画像データ」の「ガンマ変換」を行うものではない点。

(相違点2)
本願発明1では、(受信された前記ディスプレイダイナミックレンジ指標に応じて、符号化画像にダイナミックレンジ変換を適用することによって出力画像を生成する)ダイナミックレンジ処理を、「ダイナミックレンジプロセッサ」が行っているのに対し、引用発明では、該ダイナミックレンジ処理に相当する処理を「ガンマ変換部338」が行っているものの、該「ガンマ変換部338」がプロセッサで実現されているか、明らかでない点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点1について検討する。
引用文献1によれば、引用発明は「出力装置(当審注:引用発明における「表示装置3」)の性能に柔軟に対応できるシステムを容易に構築することができ」(引用文献1の段落【0040】)るようにするための発明である。
すると、引用発明の「撮像制御装置20」における「ガンマ変換部338」で処理される「ブロード化されたHDRカラー画像データ」が、「(例えば20ビットの階調範囲で符号化された)HDR画像のデータ」であることは、所与の設計条件とされているものである。
したがって、引用発明において、「ガンマ変換部338」に送られてくる「ブロード化されたHDRカラー画像データ」がどのような「表示装置」を対象とした「階調範囲」であるかの情報(「対象ディスプレイリファレンス」)を、「撮像制御装置20」における「ガンマ変換部338」が敢えて受信し、「ガンマ変換部338」が、上記受信された情報に応じた「トーンカーブの情報が格納さたLUT339」を用いるものとすることは、当業者に動機付けられないことである。

イ また、引用文献2及び3は、本願発明1の発明特定事項でいえば、ディスプレイのディスプレイダイナミックレンジ指標及びディスプレイの環境光照度に応じて、ダイナミックレンジ変換を適用することが示唆されているに過ぎず、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を示唆するものではない。

ウ さらに、引用文献4-6は、本願発明1の発明特定事項でいえば、符号化画像に付加された符号化画像のダイナミックレンジ情報に応じて、ダイナミックレンジ変換を適用することが示唆されているに過ぎず、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように、(符号化画像が符号化において対象とした対象ディスプレイのダイナミックレンジを示す)対象ディスプレイリファレンスに応じて、ダイナミックレンジ変換を適用することを示唆するものではない。


エ したがって、本願発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、当業者といえども、引用文献1-6に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-14について
本願発明2-14は、本願発明1を減縮する発明であるから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1-6に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。

3 本願発明15について
本願発明15は、本願発明1に対応する方法の発明であり、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1-6に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。

第6 原査定について
以上のとおりであって、本願発明1-15は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-6に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-07-30 
出願番号 特願2014-531358(P2014-531358)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G09G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 直行  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 ▲うし▼田 真悟
清水 稔
発明の名称 画像のダイナミックレンジ変換のための装置及び方法  
代理人 特許業務法人M&Sパートナーズ  

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