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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1342773
審判番号 不服2017-7284  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-22 
確定日 2018-08-02 
事件の表示 特願2013-115524「スペーサ固定用糸、及びその製造方法、並びにスペーサ固定用糸付きスペーサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月15日出願公開、特開2014-233367〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下、「本願」という。)は、平成25年5月31日の特許出願であって、平成28年8月24日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年10月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成29年2月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成29年5月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がされたものである。

第2 平成29年5月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年5月22日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所を明示するために請求人が付したものである。)
「 【請求項1】
骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用糸であって、
マルチフィラメント構造を有する複数の糸と、
前記複数の糸の少なくとも一方の端部に形成された硬化部と、
前記複数の糸の前記硬化部同士を接着剤によって接合してなる接合部とを有し、
前記硬化部は前記マルチフィラメント構造を構成する繊維同士が融着したものであり、
前記接合部は、前記接合部が形成されていない部分よりも高い曲げ強度を有するとともに、容易に分離可能であることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項2】
請求項1に記載のスペーサ固定用糸において、前記接合部が離型剤を含むことを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスペーサ固定用糸において、前記接合部の前記複数の糸を互いに分離する際に必要な力が、引張強度で0.2?0.6 Nであることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のスペーサ固定用糸において、前記接合部の先端圧縮強度が、7?19 Nであることに記載のスペーサ固定用糸において、前記接合部の3点曲げ強度が、1.5?9.5 Nであることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載のスペーサ固定用糸において、前記接合部の先端圧縮強度が、7?19 Nであることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のスペーサ固定用糸において、前記接着剤が、α-シアノアクリレート系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、エチレン・酢酸ビニル樹脂系、クロロプレンゴム系、ポリイミド系、シリコーン系、フィブリンであることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項7】
骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用糸を製造する方法であって、
マルチフィラメント構造を有する複数の糸の少なくとも一方の端部を硬化する工程、及び前記複数の糸の前記硬化部同士を接着剤によって接合する工程からなり、
前記硬化は、前記マルチフィラメント構造を構成する繊維同士を熱融着することにより行うことを特徴とするスペーサ固定用糸の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のスペーサ固定用糸の製造方法において、前記接合する工程の前に、前記複数の糸の端部に離型剤を被覆する工程を有することを特徴とするスペーサ固定用糸の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のスペーサ固定用糸の製造方法において、離型剤の被覆量が、糸1 cm当たり0.5?400μgであることを特徴とするスペーサ固定用糸の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のスペーサ固定用糸の製造方法において、前記離型剤が、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、パラフィン、又はワックスであることを特徴とするスペーサ固定用糸の製造方法。
【請求項11】
骨同士の間隙に挿入される、貫通孔を有するスペーサであって、
前記請求項1?6のいずれかに記載のスペーサ固定用糸を前記貫通孔に挿通してなることを特徴とするスペーサ固定用糸付きスペーサ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成28年10月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用糸であって、
マルチフィラメント構造を有する複数の糸と、
前記複数の糸の少なくとも一方の端部に形成された硬化部と、
前記複数の糸の前記硬化部同士を接着剤によって接合してなる接合部とを有し、
前記硬化部は前記マルチフィラメント構造を構成する繊維同士が融着したものであり、
前記接合部は、前記接合部が形成されていない部分よりも高い曲げ強度を有するとともに、容易に分離可能であることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項2】
請求項1に記載のスペーサ固定用糸において、前記接合部の前記複数の糸を互いに分離する際に必要な力が、引張強度で0.2?0.6 Nであることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスペーサ固定用糸において、前記接合部の3点曲げ強度が、1.5?9.5 Nであることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のスペーサ固定用糸において、前記接合部の先端圧縮強度が、7?19 Nであることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載のスペーサ固定用糸において、前記接着剤が、α-シアノアクリレート系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、エチレン・酢酸ビニル樹脂系、クロロプレンゴム系、ポリイミド系、シリコーン系、フィブリンであることを特徴とするスペーサ固定用糸。
【請求項6】
骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用糸を製造する方法であって、
マルチフィラメント構造を有する複数の糸の少なくとも一方の端部を硬化する工程、及び前記複数の糸の前記硬化部同士を接着剤によって接合する工程からなり、
前記硬化は、前記マルチフィラメント構造を構成する繊維同士を熱融着することにより行うことを特徴とするスペーサ固定用糸の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のスペーサ固定用糸の製造方法において、前記接合する工程の前に、前記複数の糸の端部に離型剤を被覆する工程を有することを特徴とするスペーサ固定用糸の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のスペーサ固定用糸の製造方法において、離型剤の被覆量が、糸1 cm当たり0.5?400μgであることを特徴とするスペーサ固定用糸の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のスペーサ固定用糸の製造方法において、前記離型剤が、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、パラフィン、又はワックスであることを特徴とするスペーサ固定用糸の製造方法。
【請求項10】
骨同士の間隙に挿入される、貫通孔を有するスペーサであって、
前記請求項1?5のいずれかに記載のスペーサ固定用糸を前記貫通孔に挿通してなることを特徴とするスペーサ固定用糸付きスペーサ。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正後の請求項2を追加し、請求項の数を10から11に増加させる補正を含むものである。
そして、この請求項の数の増加は、多数項引用形式で記載された一つの請求項を、引用請求項を減少させて独立形式の請求項とする場合や、構成要件が択一的なものとして記載された一つの請求項について、その択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合のように、補正前の請求項が実質的に複数の請求項を含むものであるときに、これを補正に際し独立の請求項とすることによるものではなく、実質的に新たな請求項を追加することによるものである。
したがって、本件補正後の請求項2を追加する補正は、特許法第17条の2第5項各号に規定する請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、特許請求の範囲における誤記の訂正及び特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成28年10月26日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1?10に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2013-66519号公報(平成25年4月18日出願公開)
引用文献2.特開2011-217829号公報(平成23年11月4日出願公開)

3 引用文献
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は、当審で付したものである。)
(ア)「【0001】
本発明は、スペーサを骨に固定する際に用いられるスペーサ固定用具及びこのスペーサ固定用具を備えるスペーサに関する。」

(イ)「【0014】
すなわち、本発明のスペーサ固定用具は、骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用具であって、
複数の糸と、
前記各複数の糸の少なくとも一方の端部に設けられた、前記糸より高い剛性を有する針状部材とからなり、
前記針状部材は、前記複数の糸を少なくとも一方の端部で結束し、かつ必要時に分離できるように、長手方向側部において連結されていることを特徴とする。」

(ウ)「【0021】
本発明のスペーサ固定用具は、複数の糸と前記糸より高い剛性を有する針状部材とからなり、前記針状部材又はそれらの連結部で前記複数の糸を容易に分離できるように構成されているので、骨及びスペーサに設けた貫通孔に複数の糸を容易に挿通することができるとともに、挿通した後に複数の糸同士を容易に分離することができ、スペーサを固定し骨同士の間隙を確保する操作を容易かつ確実に行うことができる。」

(エ)「【0038】
前記針状部材11が連結された状態でのその長手方向における曲げ強度は、前記針状部材11を前記貫通孔131a、131b及びスペーサSの貫通孔S1に挿通することができる程度の強度を有していれば良く、下記試験法による強度が0.5 N以上であるのが好ましく、1?5 N程度であるのがより好ましく、2?3 N程度であるのが最も好ましい。前記針状部材11の曲げ強度を前記範囲に設定すれば、前記針状部材11は、十分に高い剛性を有するようになり、前記挿通操作をより確実かつ容易に行うことができる。
【0039】
・・・
【0040】
なお、同じ方法で測定した各前記糸10a、10bの長手方向における曲げ強度は、0.02?0.1 N程度であるのが好ましく、0.025?0.09 N程度であるのがより好ましい。このような曲げ強度を有する糸10a、10bは、比較的柔軟性が高いため、スペーサSを棘突起130の切断部(骨)130a、130bに固定する操作を行い易い。」

(オ)「【0053】
糸10は、モノフィラメント糸で構成してもよく、マルチフィラメント糸で構成してもよい。ここで、モノフィラメント糸とは、長く連続して形成された接続部を有さない一本の繊維のことを言い、マルチフィラメント糸とは、複数のモノフィラメントを撚り合わせて構成された一本の繊維のことを言う。」

(カ)「【0068】
(2)第二の態様
スペーサ固定用具の第二の態様は、前記複数の針状部材11の間に連結部を設けないで、針状部材11をその接合部で分離できるように構成したものである。
【0069】
針状部材11a、11bは、図5に示すように、その基部111に第1の糸10a及び第2の糸10bを接合した断面半円形の棒状の部材であり、それらの平らな面同士を合わせてその一部を必要時に容易に分離できるように接合して接合部13を形成し、全体として断面円形の棒状として、複数の糸10a、10bを結束している。前記第1の糸10a及び第2の糸10bをそれぞれ反対方向に引っ張ったときに、前記接合部13がはがれて前記針状部材11a及び針状部材11bに分離する。・・・
【0070】
・・・
【0071】
前記針状部材11a及び針状部材11bの接合方法は特に限定されないが、圧着、超音波融着、熱癒着、接着等の方法で接合するのが好ましい。ただし、接着によって接合する場合は、生体に対して悪影響を及ぼさないような接着剤を使用する必要がある。」

(a)上記摘記事項(カ)「スペーサ固定用具の第二の態様は、前記複数の針状部材11の間に連結部を設けないで、針状部材11をその接合部で分離できるように構成したものである。・・・前記針状部材11a及び針状部材11bの接合方法は・・・接着等の方法で接合する・・・接着剤を使用する・・・」との記載からみて、「針状部材11」は、「針状部材11a、11b同士を接着剤によって接合した」ものであるといえる。

イ 引用文献1に記載された発明
上記アの摘記事項(ア)?(カ)及び認定事項(a)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用具であって、
マルチフィラメント糸で構成した複数の糸10a、10bと、
前記複数の糸10a、10bの少なくとも一方の端部に設けられた、前記糸10a、10bより高い剛性を有する針状部材11a、11bと、
前記複数の糸10a、10bの少なくとも一方に設けられた針状部材11a、11b同士を接着剤によって接合した針状部材11とからなり、
前記針状部材11a、11bは、その基部111に前記複数の糸10a、10bを接合した棒状の部材であり、
前記針状部材11は、複数の糸10a、10bよりも高い曲げ強度を有するとともに、容易に分離されるスペーサ固定用具。」

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は、当審で付したものである。)
(ア)「【0001】
本発明は、スペーサを骨に固定する際に用いられるスペーサ固定用糸及びこのスペーサ固定用糸を備えたスペーサに関する。」

(イ)「【0014】
本発明のさらにもう一つのスペーサ固定用糸は、骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられ、前記糸がマルチフィラメント糸であり、前記糸の少なくとも一方の端部に、前記マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメント糸同士を溶着してなる硬化部を有することを特徴とする。」

(ウ)「【0019】
本発明のスペーサ固定用糸は、少なくとも一方の端部に、溶着により硬化された硬化部を有するので、スペーサ及び自骨に形成された貫通孔へ容易に挿通することができ、かつ接着剤成分を含まないので生体に対するリスクがない。」

(エ)「【0030】
(1)第一の実施形態
(a) 補強部材として別の糸を融着する場合
図1(a)に示すように、スペーサ固定用糸1は、直径Dを有する1本の糸10と、この糸10の少なくとも一方の端部に形成した、長さLの前記糸10とは別の糸11aを溶着してなる硬化部11とからなる。図1(a)に示すスペーサ固定用糸1は、その両端部に、それぞれ別の糸11aを溶着してなる硬化部11を有する例である。
【0031】
・・・
【0032】
スペーサ固定用糸1の端部に形成した硬化部11は、2つの糸10、11aが接合されて形成されているため、糸10の硬化部11が形成されていない部分よりも剛性(曲げ強度)が高くなっている。このため、スペーサ固定用糸1を、貫通孔131a、131b及びS1に挿通する操作を容易に行うことができる。」

(オ)「【0062】
(3)第三の実施形態
図1(d)に示すように、スペーサ固定用糸1は、直径Dを有する1本のマルチフィラメント糸10と、この糸10の少なくとも一方の端部に形成した、前記マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメント糸同士を溶着してなる硬化部11とからなる。図1(d)に示すスペーサ固定用糸1は、その両端部に、前記硬化部11を有する例である。
【0063】
マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメント糸同士を溶着するには、公知のフィルムシーラー等を用いて熱融着することによって行う。熱融着の条件は、第一の実施形態と同様である。
【0064】
硬化部11の長さL、糸10の材質、形状、長さ、作用及び効果等は、第三の実施形態においても、前記補強部材として別の糸を融着して硬化部11を形成する場合とほぼ同様である。硬化部11の曲げ強度は第一及び第二の実施形態よりも若干劣るが、マルチフィラメント糸を用いた第三の実施形態の固定用糸は容易に製造できる点で有利である。」

イ 引用文献2に記載された発明
上記ア(ア)?(オ)から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用糸1であって、前記糸がマルチフィラメント糸10であり、前記糸の少なくとも一方の端部に、前記マルチフィラメント糸10を構成するモノフィラメント糸同士を熱融着して形成した、前記糸より剛性が高い硬化部11を有するスペーサ固定用糸。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「スペーサ固定用具」は、糸を有しており、骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、糸を用いてスペーサを骨に固定するものであるから、本願発明の「スペーサ固定用糸」に相当する。
イ 引用発明1の「マルチフィラメント糸で構成した複数の糸10a、10b」は、本願発明の「マルチフィラメント構造を有する複数の糸」に相当する。
ウ 本願発明の「硬化部」は、明細書の段落【0039】「・・・接合部11は、例えば図1(b)に示すように、平行に並んだ糸10a、10bの端部に形成された硬化部12、12と、前記端部同士の接触部分に形成される断面V字状の隙間に充填された接着剤13とからなる。前記糸10a、10bの端部に形成された硬化部12、12は、マルチフィラメント構造の糸10a、10bを構成する繊維同士を熱融着して形成されている。前記接合部11は、糸10a、10bの端部を熱融着により硬化していること、2本の糸10a、10bが平行に接合され一体となっていること、及び前記断面V字状の隙間に接着剤13が充填されていることにより、糸10a、10bの接合部11以外の部分よりも高い曲げ強度(剛性)を有する。・・・」との記載及び段落【0042】「硬化部12を形成するときの温度(融着温度)は、使用するマルチフィラメント糸の軟化温度以上であるのが好ましい。・・・例えば、糸の材質がポリエステルの場合、処理温度は170?250℃程度であるのが好ましい。処理時間は、所望の曲げ強度が得られる条件を適宜決めるのが好ましい・・・」との記載を考慮すると、複数の糸より高い剛性を有するものであるから、本願発明の「硬化部」と引用発明1の「針状部材11a、11b」とは、「糸より高い剛性を有する部分」である点で共通するといえる。
エ 本願発明の「接合部」と引用発明1の「針状部材11」とは、「糸より高い剛性を有する部分同士を接着剤によって接合してなる接合部」である点で共通する。
オ 本願発明の「前記接合部が形成されていない部分」は、「複数の糸」における前記接合部が形成されていない部分であるから、引用発明1の「複数の糸10a、10bよりも高い曲げ強度」は、本願発明の「前記接合部が形成されていない部分よりも高い曲げ強度」に相当する。

(2)以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用糸であって、
マルチフィラメント構造を有する複数の糸と、
前記複数の糸の少なくとも一方の端部に形成された、前記糸より高い剛性を有する部分と、
前記複数の糸の前記糸より高い剛性を有する部分同士を接着剤によって接合してなる接合部とを有し、
前記接合部は、前記接合部が形成されていない部分よりも高い曲げ強度を有するとともに、容易に分離可能であるスペーサ固定用糸。」

(相違点)
「糸より高い剛性を有する部分」について、本願発明は、「硬化部」であり、「前記硬化部は前記マルチフィラメント構造を構成する繊維同士が融着したもの」であるのに対し、引用発明1は、「針状部材11a、11b」であり、「前記針状部材11a、11bは、その基部111に前記複数の糸10a、10bを接合した棒状の部材」である点で相違する。

5 判断
上記相違点について検討する。
上記3(1)ア(ウ)並びに3(2)ア(エ)及び(オ)から、引用発明1の「針状部材11a、11b」と、引用発明2の「硬化部11」とは、いずれも、骨同士の間隙にスペーサを挿入した状態で、前記スペーサを前記骨に固定するのに用いられるスペーサ固定用糸において、糸の少なくとも一方の端部に、糸より高い剛性を有する部分を形成することにより、骨及びスペーサに形成された貫通孔への挿通を容易にする点で共通するものであるから、引用発明1における、複数の糸の少なくとも一方の端部に形成された、糸より高い剛性を有する部分である、「針状部材11a、11b」に代えて、引用発明2の「マルチフィラメント糸10を構成するモノフィラメント糸同士を熱融着して形成した」ものである「硬化部11」を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
なお、請求人は、平成29年5月22日に提出された審判請求書において、「引用文献2に記載されたマルチフィラメント構造を構成する繊維同士が融着した硬化部は、引用文献1が問題点として挙げた特開2011-136091号に記載の技術と同様のものであることから、審査官の言うように、引用文献1に記載された発明において、マルチフィラメント構造を構成する繊維同士が融着した硬化部(引用文献2に記載された発明)を採用することは、引用文献1に記載された発明の技術的思想とは矛盾するものであり、当業者であればそのような採用は行わないと考えられます。」旨、主張している。
しかしながら、引用文献1の記載「【0009】 特開2011-136091号(特許文献4)は、複数本の生体親和性材料からなる縫合糸の両端部に、加熱して互いに融着することにより形成された接合部を有し、前記接合部が、前記縫合糸の引張強度より小さい接合力で互いに接合して形成されている骨移植用縫合具を開示しており、ハサミ等を使用しなくても、各縫合糸の接合された部分を互いに引き剥がすことができると記載している。【0010】 しかしながら、特許文献4に記載の骨移植用縫合具の前記接合部は、接合部の剛性が十分でないため、例えば前記正中縦割式拡大椎弓形成術において、自家骨の貫通孔に縫合糸の接合部を挿通する際に、縫合糸が折れ曲がったり膨潤したりして作業が難航する場合がある。」によれば、引用文献1が問題点として挙げているのは、複数本の縫合糸を互いに融着することにより形成された接合部の剛性が十分でないことであり、マルチフィラメント構造を構成する繊維同士が融着した硬化部については言及していない。また、特開2011-136091号の記載をみても、2本の縫合糸1a,1bの端部を融着して接合部1cを形成することは記載されているものの、マルチフィラメント構造を構成する繊維同士が融着した硬化部については記載がない。そうすると、「引用文献2に記載されたマルチフィラメント構造を構成する繊維同士が融着した硬化部は、引用文献1が問題点として挙げた特開2011-136091号に記載の技術と同様のものである」とは認められないから、請求人の上記主張はその前提を欠くものであって、採用することができない。
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-31 
結審通知日 2018-06-05 
審決日 2018-06-18 
出願番号 特願2013-115524(P2013-115524)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西尾 元宏近藤 利充  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 瀬戸 康平
林 茂樹
発明の名称 スペーサ固定用糸、及びその製造方法、並びにスペーサ固定用糸付きスペーサ  
代理人 高石 橘馬  
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