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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
管理番号 1342851
審判番号 不服2017-10044  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-06 
確定日 2018-08-07 
事件の表示 特願2013-143327「ジベンゾ[1,4]アザボリニン構造を含むリン光発光体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月 3日出願公開、特開2014- 58504〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年7月9日(パリ条約による優先権主張 2012年7月10日 2013年3月13日 いずれも米国(US))の出願であって、出願後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成28年10月14日付け 拒絶理由通知
平成29年 1月24日 意見書・手続補正書の提出
同年 2月27日付け 拒絶査定
同年 7月 6日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提 出
同年 8月22日付け 補正の却下の決定・拒絶理由通知
平成30年 2月28日 意見書・手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?23に係る発明は、平成30年2月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、次のとおりである。

「以下の式のいずれか1つで表される化合物:
【化1】

【化2】

(上記式中、
X_(1)、X_(2)は、C及びNからなる群から選択され;
Aは、5員又は6員の炭素環又はヘテロ環であり;
R_(3)及びR_(4)は、モノ、ジ、トリ、テトラ置換、あるいは非置換を表し;
R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)はそれぞれ独立に、水素、重水素、ハライド、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボニル、カルボン酸、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ及びそれらの組み合わせからなる群から選択され;
R_(5)は、モノ、ジ、トリ、テトラ置換、あるいは非置換を表し;
R_(5)は、水素、重水素、ハライド、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボニル、カルボン酸、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ及びそれらの組み合わせからなる群から選択され;
ここで、任意の2つの隣接するR_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、及びR_(5)は任意選択により結合して環を形成してもよく、その環はさらに置換されていてもよく;
ここで環Aは以下のもの:
【化3】

[式中、R_(6)は、前記R_(5)と同じ意味を有し;
Yは、BR、NR、PR、O、S、Se、C=O、S=O、SO_(2)、CRR′、SiRR′、及びGeRR′からなる群から選択され;
R、R′は独立に、水素、重水素、ハライド、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボニル、カルボン酸、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ及びそれらの組み合わせからなる群から選択され;
R、R′は任意選択によりいずれかの隣接する置換基と結合して環を形成してもよい。]
からなる群から選択され;
L_(2)は金属Mに配位した配位子であり;
各L_(2)は同じであるか又は異なり;かつ
L_(2)は以下の:
【化4】

【化5】

(上記式中、R_(a)、R_(b)、R_(c)、及びR_(d)は、モノ、ジ、トリ、又はテトラ置換、あるいは非置換を表すことができ;
R_(a)、R_(b)、R_(c)、及びR_(d)は独立に、水素、重水素、ハライド、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボニル、カルボン酸、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ及びそれらの組み合わせからなる群から選択され;
R_(a)、R_(b)、R_(c)、及びR_(d)のうち2つの隣接する置換基は、任意選択で場合により結合されて縮合環を形成するかあるいは多座配位子を形成していてもよい。)
からなる群から選択され;
mは、1から前記金属Mに結合しうる配位子の最大数までの値であり;
m+nは、前記金属Mに結合しうる配位子の最大数であり;
前記金属Mは、Ir及びPtからなる群から選択される金属である)。」

第3 当審が通知した拒絶理由
当審が平成29年8月22日付けで通知した拒絶理由は理由1?4を含むところ、そのうち、理由3、4は次のとおりである。

[理由3]本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合しないため、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
具体的には、次の事項を指摘している。
「本願発明1の化合物の製造方法に関連して、発明の詳細な説明には、・・・本願発明1の化合物を製造するための具体的な反応条件や当該化合物及び反応中間体化合物の物性についての記載はない。
・・・本願発明1の化合物について、反応条件を含め具体的にどのような方法で製造できるかを記載したものではない。また、段落0133?0136には、本願発明1の化合物に相当すると認められる特定の2つの化合物について、その合成経路が記載されているところ、当該経路には、合成に用いる試薬等の物質が記載されているのみで、反応条件などその他の具体的な製造条件及び合成される化合物の物性について記載するものではない。
しかし、一般に、化合物はその種類によって製造方法は異なり、また、化合物の製造においては、反応に用いる試薬等の物質及びその合成経路が示されれば当該化合物の製造条件が理解できるというものではなく、試薬等の物質の他、反応温度、反応時間、溶媒の有無及びその種類、試薬等の物質の量、精製の有無及びその手段等の各種製造条件の設定が必要である。また、その物性についても、通常、化合物毎に各種物性は異なるから、得られた物質の各種の物性を、目的とする化合物の物性と比較することによって目的とする化合物が製造できたことを確認するものと認められる。したがって、そのような具体的な製造条件の記載、物性の記載のない上記した発明の詳細な説明の記載では、本願発明1の化合物を具体的にどのような条件の下であれば製造できるか、また、得られた物質が本願発明1の化合物であるかを確認する方法は明らかでなく、それらの記載がなくとも、出願時の技術常識に基づき当業者が本願発明1の化合物を製造し、使用し得るものともいえないから、本願発明1の化合物を製造するには、当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤が必要になるといえる。
・・・
してみると、本願発明1について、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。
本願発明1の化合物をさらに限定するか、本願発明1の化合物を用いる発明である本願請求項2?34に係る発明についても同様である。」

[理由4]本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合しないため、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
具体的には、次の事項を指摘している。
「本願明細書、図面及び出願時の技術常識からみて、本願発明1の発明が解決しようとする課題は、発光体として用いるための化合物を提供することにあると認める。
発明の詳細な説明には、本願発明1の化合物に関する記載として、一般式で表される化合物についての記載(段落0039?0066)があり、実施例として・・・公知文献を用いた一般的な調製方法に関する記載、特定の2つの化合物について、合成経路と反応に用いる試薬等の物質についての記載(段落0131?0136)があるのみであり、本願発明1の化合物の具体的な製造方法及びその物性についての記載はない。
しかし、・・・一般に、化合物はその種類によって製造方法は異なり、また、化合物の製造においては、反応に用いる試薬等の物質及びその合成経路が示されれば当該化合物の製造条件が理解できるというものではないから、本願発明1の化合物が発明の詳細な説明の記載から具体的な化合物として把握できる化合物であるとはいえない。
してみると、本願発明1が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が上記した本願発明1が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
したがって、本願発明1が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
本願発明1の化合物をさらに限定するか、本願発明1の化合物を用いる発明である本願請求項2?34に係る発明についても同様である。」

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した理由3、4のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しないため、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないため、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 理由3(実施可能要件)について
(1)はじめに
物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明については、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができると解される。

(2)検討
本願発明1の化合物の製造方法に関連して、発明の詳細な説明には、
「【0131】
・・・
【実施例】
【0132】
一般式Iの配位子前駆体は、当業者に公知の方法によって調製できる。好適な方法は、例えば、P. G. CampbellらによるAngew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 6074-6092及びそこに引用された文献で述べられている。一般式Iの本発明の金属錯体は当業者に公知の方法で調製できる。例えば、配位子交換経路によってIrヘテロレプティック錯体を作ることについては国際公開WO2010/028151号パンフレット及びそこに引用された文献に、一般的な四座配位Pt錯化については国際公開WO2012/116231号パンフレット及びそこに引用された文献に、好適な方法が述べられている。本発明の金属錯体は、当業者に公知の方法によって精製することができる。典型的には、処理及び精製は、抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶、及び/又は昇華により、当業者に公知の方法で行われる。
【0133】
式Iのジベンゾ[1,4]アザボリン配位子を含む本発明の金属錯体、例えば、化合物4-1を調製するための方法を以下に詳細に示しており、ここに示されている合成経路を用いる。
【0134】
【化31】

【0135】
化合物4?13は以下に示す合成経路を用いて製造できる。
【0136】
【化32】

」との記載があるが、本願発明1の化合物を製造するための具体的な反応条件や当該化合物及び反応中間体化合物の物性についての記載はない。
また、【0132】の記載は、本願発明1の化合物に関する化合物の製造方法について、公知の方法により調製できること、また、公知の文献の文献名を挙げて、そこに記載された方法により調製できることを示しているに過ぎず、文献中のどの方法を使用すれば本願発明1の化合物が製造できるのかを具体的に示すものでもない。また、【0133】?【0136】には、特定の2つの化合物について、その合成経路が記載されているところ、当該経路には、単に化学構造式や化合物名/試薬名が記載されているのみで、それらの化合物や試薬をどのように使用して、目的とする化合物を合成するのかは一切記載がなく、また、合成される化合物の物性について記載するものでもない。
しかし、一般に、化合物はその種類によって製造方法は異なり、また、化合物の製造においては、反応に用いる試薬等の物質及びその合成経路が示されれば当該化合物の製造条件が理解できるというものではなく、試薬等の物質の他、反応温度、反応時間、溶媒の有無及びその種類、試薬等の物質の量、精製の有無及びその手段等の各種製造条件の設定が必要である。また、その物性についても、通常、化合物毎に各種物性は異なるから、得られた物質の各種の物性を、目的とする化合物の物性と比較することによって目的とする化合物が製造できたことを確認するものと認められる。したがって、そのような具体的な製造条件の記載、物性の記載のない上記した発明の詳細な説明の記載では、本願発明1の化合物を具体的にどのような条件の下であれば製造できるか、また、得られた物質が本願発明1の化合物であるかを確認するための物性は明らかでなく、それらの記載がなくとも、出願時の技術常識に基づき当業者が本願発明1の化合物を製造し、使用し得るものともいえないから、本願発明1の化合物を製造するには、当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤が必要になるといえる。
なお、仮に【0132】に記載された公知文献の内容を参酌したとしても、それら文献に記載された化合物は本願発明1の化合物とは異なるものである。すなわち、好適な方法の例として記載された上記公知文献(Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 6074-6092)には、本願発明1の化合物の記載はない。また、本願発明1の化合物が新規な化合物であることからみて、同文献で引用された文献に本願発明1の化合物の製造方法が記載されているともいえない。また、【0132】に記載の国際公開WO2010/028151号パンフレット、WO2012/116231号パンフレット及びそれらで引用された文献にも、同様に、本願発明1の化合物の製造方法が記載されているとはいえない。そして、上述のとおり化合物はその種類によって製造方法は異なり、さらに、これらの文献に本願発明1の化合物の物性が記載されるものでもないから、本願発明1の全体にわたって、当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とすることなく、その発明を実施することができるとはいえない。
してみると、物の発明である本願発明1については、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載がなく、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるとはいえないから、本願発明1について、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は平成30年2月28日付けの意見書において、
「今回補正後の請求項1に規定する化合物は、・・・したがって、ジベンゾアザボリンにピリジン環又はそれと等電子構造を有するヘテロ芳香環が結合した二座配位子を有する点で、本願請求項1に規定する化合物は、実施例にその合成経路及び各反応工程において用いる反応剤を示して合成経路を明示した化合物4-1及び4-13と極めて類似しています。・・・また、本願出願時において芳香族化合物同士のカップリング反応は、鈴木・宮浦カップリング反応、右田・小杉・Stille反応等に代表される汎用性が極めて高い反応が複数知られており、・・・当業者は過度の試行錯誤なしに本願請求項1に規定する化合物GS2?GS7を合成し、使用することができるものと思料します。
(1)実施例に示した合成経路をみた当業者であれば過度の試行錯誤なしに化合物4-1及び4-13を製造し使用できることについて
・・・しかし、本願の明細書の段落[0134]に記載した[化31]及び段落[0136]に示した[化32]において用いている出発物質及び各反応工程で用いている化合物及び試薬はいずれも当業者には公知ないし周知の化合物であり、各工程で用いている基本的な化学反応も当業者に既に知られている反応です。・・・さらに各反応も反応結果が予想できない複雑な反応ではなく、芳香族化合物の合成に関する技術常識のある当業者であれば容易に理解でき、その反応条件も有機合成の技術常識の範囲で予測できるか、あるいは予測できないとしても、用いる原料及び反応試薬は明示されていますので、反応温度や反応時間を変えていくつかの実験を行うことで適切な反応条件を容易に見出すことができます。[化32]に示している化合物4-13のPt錯体の合成経路も、出発原料及び各反応工程で用いる試薬は当業者に周知の化合物ばかりであり、・・・出発原料と用いる試薬が明記されており、且つ[化32]には各工程で用いる出発原料、試薬、及び反応生成物が明示されているので、有機合成の知識を有する当業者であれば簡単な実験によって目的生成物が得られる有利な条件(温度、反応時間)を簡単に見出だすことができます。確かに、本願明細書の段落[0133]?[0136]には各原料や溶媒の実際に用いたg数、反応温度、及び反応時間は記載されていませんが、そのような反応条件の最適化は当業者にとって通常行う作業に過ぎず、創作性が必要とされるものではありません。したがって、化合物4-1及び4-13を当業者が実際に合成して入手するための情報としては、本願明細書の[化31]及び[化32]に記載した情報で十分であって、本願の明細書の記載に基づいて、当業者であれば過度の試行錯誤なく化合物4-1及び4-13を製造し使用することができるものと思料します。
・・・
(2)本願請求項1に係る化合物を、当業者が過度の試行錯誤なしに合成し使用できることについて
本願請求項1に規定する金属錯体の配位子はいずれもジベンゾ[1,4]アザボリン縮合環部分とそれに単結合で連結している5又は6員環部分からなるビアリール構造の二座配位子です。一方、本願明細書に具体的な合成法を記載した化合物4-1及び4-13も同様にジベンゾ[1,4]アザボリン環部分とそれに結合したビアリール構造を有する二座配位子です。・・・化合物4-1に対応するGS4だけでなく、GS2?GS7の全てについて当業者は有機合成化学の技術常識に基づいて過度の試行錯誤なくこれらの化合物を合成し、使用できるものと思料します。
Pt錯体についても、・・・請求項1に記載したGS4のみならずGS2?GS7の全てについて当業者は過度の試行錯誤なくこれらのPt錯体を合成し、使用できるものと思料します。」と主張するので、以下に検討する。

審判請求人の主張は、要するに、当業者であれば、過度の試行錯誤をすることなく、化合物4-1及び4-13を製造し、使用することができ、本願発明1の化合物は化合物4-1及び4-13と同様に、過度の試行錯誤をすることなく合成し、使用することができる、というものであるといえる。
一般に、化合物については数多の化合物の製造方法が知られているから、新規な化合物を製造する場合に、類似する化合物の公知の反応を利用して新規な化合物を製造しようとして、その反応を机上で計画することは通常の事項であり、それは当業者が過度の試行錯誤をすることなしにできる事項であるとはいえるが、通常化学物質はその化学構造が異なれば、その反応性等の物性が異なるから、机上で計画したとおりに反応が進行し、目的とする化合物が得られるかは、実際に当該反応を行ってみなければわからないといえ、また、目的とする化合物を得るには、反応の選択及び反応に供する試薬の種類の選択の他、反応温度、反応時間、溶媒の有無及びその種類、試薬等の物質の量、精製の有無及びその手段等の各種製造条件を試行錯誤により決定する必要があり、また、得られた物質が目的とする物質であるかを確認するための各種分析が必要であって、それらに必要な試行錯誤がある一定の選択肢の中から選択することですむものとはいえないから、それが当業者に期待し得る程度の試行錯誤の範囲内であるともいえない。
そして、上述のとおり、本願発明の詳細な説明の【0132】?【0136】に記載された事項は、本願発明1の化合物とは異なる化合物についての記載であるか、単に試薬及び反応経路を示したものに過ぎず、それらの事項が記載されていても、当該反応が実際に進行するかは明らかでなく、また、上記した製造条件、物質の確認についての試行錯誤の必要がなくなるというものでもない。
してみると、当業者であれば、過度の試行錯誤をすることなく、化合物4-1及び4-13を製造し、使用することができ、本願発明1の化合物は化合物4-1及び4-13と同様に、過度の試行錯誤をすることなく合成し、使用することができる、ということはできない。
よって、審判請求人の主張を採用することはできない。

2 理由4について
(1)はじめに
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)検討
本願明細書、図面及び出願時の技術常識からみて、本願発明1の発明が解決しようとする課題は、発光体として用いるための化合物を提供することにあると認める。
発明の詳細な説明には、本願発明1の化合物に関する記載として、一般式で表される化合物についての記載(【0039】?【0066】)があり、実施例として、上記「1 理由3について」の(2)で摘示した、公知文献を用いた一般的な調製方法に関する記載、特定の2つの化合物について、合成経路と反応に用いる試薬等の物質についての記載(【0131】?【0136】)があるのみであり、本願発明1の化合物の具体的な製造方法及びその物性についての記載はない。
そして、上記「1 理由3について」の(2)で述べたとおり、一般に、化合物はその種類によって製造方法は異なり、通常、化合物毎に各種物性は異なり、また、化合物の製造においては、反応に用いる試薬等の物質及びその合成経路が示されれば当該化合物の製造条件が理解できるというものではないし、そのような出願時の技術常識があるものとすることができないから、本願発明1の化合物が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から具体的な化合物として把握できる化合物であるとはいえない。
してみると、本願発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が上記した本願発明1が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
したがって、本願発明1が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年2月28日付けの意見書において、
「本願の発明の詳細な説明の記載と、当技術分野における発光体としてIr錯体及びPt錯体は広く様々な化学構造の化合物を有機ELデバイスの発光体として用いることができるという技術常識によれば、当業者は、本願請求項1に係る化合物が有機ELデバイスの発光体として機能しうることを予測できます。したがって、本願請求項1に係る発明は、本願の発明の詳細な説明に記載した発明であると思料します。」と主張するが、上記(2)で示したとおり、本願発明1の化合物が発明の詳細な説明の記載から具体的な化合物として把握できる化合物であるとはいえないのであるから、化合物自体が発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできず、したがって、当該化合物が、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が上記(2)で示した課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
よって、本願発明1は、本願の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできず、上記主張を採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しないため、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないため、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、その他の点を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-08 
結審通知日 2018-03-12 
審決日 2018-03-27 
出願番号 特願2013-143327(P2013-143327)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C07F)
P 1 8・ 536- WZ (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村守 宏文緒形 友美奥谷 暢子杉江 渉  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 守安 智
冨永 保
発明の名称 ジベンゾ[1,4]アザボリニン構造を含むリン光発光体  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
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