• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  H01M
管理番号 1342962
異議申立番号 異議2016-700783  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-26 
確定日 2018-06-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5882857号発明「固体酸化物形燃料電池セルおよびセルスタック装置ならびに燃料電池モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5882857号の特許請求の範囲を平成30年3月5日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5882857号の請求項3-5に係る特許を取り消す。 特許第5882857号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5882857号の請求項1乃至5に係る特許についての出願は、平成24年7月30日に特許出願され、平成27年10月30日付けで手続補正がされ、平成28年2月12日付けでその特許権の設定登録がされ、平成28年3月9日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成28年8月26日に特許異議申立人井上敬也(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年12月9日付けで取消理由の通知及び審尋がされ、平成29年2月1日に意見書及び回答書の提出並びに訂正の請求がされ、その訂正の請求に対して申立人から平成29年6月2日に意見書が提出され、平成29年8月28日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成29年9月19日付けで意見書が提出され、平成29年10月31日付けで上申書が提出され、平成30年1月4日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成30年3月5日に意見書の提出及び訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたものである。

第2 訂正の適否について
1.訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおり、訂正前の特許請求の範囲を訂正後の特許請求の範囲に訂正するものである。

(1)訂正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
ジルコニアからなる固体電解質層と、該固体電解質層の一方側に設けられた燃料極層と、他方側に設けられたLaおよびSrを含有するペロブスカイト型複合酸化物からなる酸素極層と、前記固体電解質層と前記酸素極層との間に設けられたセリアからなる中間層と、該中間層に形成された、前記固体電解質層側から前記酸素極層側に延びる複数の柱状Srジルコネートとを具備しており、
前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭いことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項2】
前記柱状Srジルコネートが、前記中間層を構成する結晶粒子の粒界に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項3】
前記中間層が前記固体電解質層側に形成された第1中間層と、前記酸素極層側に形成された第2中間層とを有し、前記第1中間層に柱状Srジルコネートが形成されていることを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池セルを複数具備してなるとともに、複数の前記固体酸化物形燃料電池セルを電気的に接続してなることを特徴とするセルスタック装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池セルを収納容器内に複数収納してなることを特徴とする燃料電池モジュール。」

(2)訂正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ジルコニアからなる固体電解質層と、
該固体電解質層の一方側に設けられた燃料極層と、
他方側に設けられたLaおよびSrを含有するペロブスカイト型複合酸化物からなる酸素極層と、
前記固体電解質層と前記酸素極層との間に設けられ、セリアからなり、前記固体電解質層側に形成された第1中間層と、前記酸素極層側に形成された第2中間層とを有する中間層と、
前記第1中間層を構成する結晶粒子の粒界に形成され、前記固体電解質層側から前記酸素極層側に延びる複数の柱状Srジルコネートと、を具備しており、
前記柱状Srジルコネートの平均の幅は、前記第1中間層を構成する結晶粒子の平均の幅より狭いことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項4】
請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池セルを複数具備してなるとともに、複数の前記固体酸化物形燃料電池セルを電気的に接続してなることを特徴とするセルスタック装置。
【請求項5】
請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池セルを収納容器内に複数収納してなることを特徴とする燃料電池モジュール。」

2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、特許請求の範囲の請求項1、2を削除し(訂正事項1)、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を、引用形式の記載から独立形式の記載にする(訂正事項2)とともに、「前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭いこと」を、「前記柱状Srジルコネートの平均の幅は、前記第1中間層を構成する結晶粒子の平均の幅より狭いこと」に訂正(訂正事項3)し、請求項1、2の削除に伴い、請求項4、5の引用請求項を「請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の」から「請求項3に記載の」へと訂正(訂正事項4)するものである。
訂正事項1、4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
訂正事項3は、「柱状Srジルコネートの幅」、「結晶粒子の幅」が「平均の幅」であること、「中間層」が「第1中間層」であることを明瞭にするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件訂正により請求項3に付加された「前記柱状Srジルコネートの平均の幅は、前記第1中間層を構成する結晶粒子の平均の幅より狭いこと」は、明細書の段落0010に記載された「前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭いこと」における、「柱状Srジルコネートの幅」、「中間層を構成する結晶粒子の幅」を、明細書の段落0041、段落0059に記載された事項及び技術常識に基づいて、「柱状Srジルコネートの平均の幅」、「第1中間層を構成する結晶粒子の平均の幅」とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
さらに、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、本件訂正は一群の請求項1乃至5に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第3号、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。

第3 当審の判断
1.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(1)(特許法第17条の2第3項)について
(1)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(1)の概要
平成27年10月30日付けの手続補正書による、「前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭い」ことを請求項1に付加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、本件の請求項1及び請求項1を引用する請求項2乃至5に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。

(2)本件補正
本件特許は、平成27年10月30日付け手続補正書により、「前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭い」ことを、請求項1及び段落0010に付加する補正(以下、「補正事項1」という。なお、上記手続補正書において、補正事項1以外は補正されていない。)がされた特許出願に対してされたものであり、さらに、該補正事項1が、明瞭でない記載の釈明を目的とした本件訂正により、請求項3において、「前記柱状Srジルコネートの平均の幅は、前記第1中間層を構成する結晶粒子の平均の幅より狭い」と訂正されたものである。

(3)判断
上記補正事項1が、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)、特許請求の範囲又は図面(これらも合わせて以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものか否かについて検討する。

当初明細書の段落0041には、「柱状Srジルコネート9aの平均幅は、中間層5の任意断面におけるSEM写真に基づき求めることができる」と記載されており、また、結晶粒子の平均幅をSEM写真に基づき求める方法として、SEM写真に任意に直線を引き、この直線を横切る、複数の結晶粒子についてそれぞれの幅を測定し平均値を求める測定方法は当業者に周知(例えば、特許第5153968号の段落0013、図1を参照されたい。)のものである。
特許権者が平成29年10月31日に提出した上申書によれば、「柱状Srジルコネートの幅」及び「中間層を構成する結晶粒子の幅」の測定方法として上記周知の測定方法を用いて実際に本件図面の図2を測定すると、その結果、柱状Srジルコネートの幅が、中間層を構成する結晶粒子の幅より狭いことが確認できる。
しかしながら、このことは単に、図2のSEM写真において、実際に上記測定方法により測定すれば、「柱状Srジルコネートの幅」が、「中間層を構成する結晶粒子の幅」よりも狭くなっていることが確認できるということを示しているにすぎず、「柱状Srジルコネートの幅」と「中間層を構成する結晶粒子の幅」とに着目して両者を比較し前者が後者より狭いことを特定するという技術的思想が当初明細書等に記載されているという根拠とはならない。
この点について、特許権者は、平成30年3月5日付け意見書の第5頁第12-21行で、次のように主張している。
「本願の図1(b)においては、柱状Srジルコネートの幅と第1中間層を構成する結晶粒子の幅とが、異なるように図示されている。これは、言い換えれば、図2の複雑なSEM写真における特徴事項である、柱状Srジルコネートの幅と、第1中間層を構成する結晶粒子の幅とが異なるという技術的思想をわかりやすく具現化したことが明示されているのである。すなわち、「柱状Srジルコネートの幅」と、「第1中間層を構成する結晶粒子の幅」とに着目して両者を比較するという技術的思想が、出願当初から当初明細書等に内在しており、それを単に模式的に具現化したものが、本願の図1(b)に示されているだけであることは、誰もが理解できるものである。」
確かに、図2のSEM写真の模式図である図1(b)では、第1の中間層5aにおいて、柱状Srジルコネートの幅(9aの黒い部分)と結晶粒子の幅(9aの間の白い部分)とが異なることが看取できるし、平成29年10月31日付けの上申書に記載された上記の測定方法によって、図2の柱状Srジルコネートの幅と結晶粒子の幅とを測定すると、柱状Srジルコネートの幅は結晶粒子の幅よりも狭くなっていることが確認できる。
しかしながら、柱状Srジルコネートの幅が中間層を構成する結晶粒子の幅より狭いとの事項については、図1(b)もしくは図2において単に事後的に確認し得るということにとどまるのであり、当初明細書等には、柱状Srジルコネートの幅が中間層を構成する結晶粒子の幅より狭いとの事項についての明示的な記載は全く認められない。
この点について、当初明細書の記載に基づいて、以下、詳細に検討する。
当初明細書には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。

本件ア「【背景技術】
【0002】
近年、次世代エネルギーとして、固体酸化物形燃料電池セルを収納容器内に収容した燃料電池モジュールが種々提案されている。
【0003】
このような固体酸化物形燃料電池セルとして、互いに平行な一対の平坦面を有し、内部に燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路を有するとともに、Niを含有してなる導電性支持体の一方側の平坦面上に、燃料極層、固体電解質層および酸素極層を順に積層し、他方側の平坦面上にインターコネクタを積層してなる固体酸化物形燃料電池セル(以下、単に燃料電池セルということがある)が提案されている。
【0004】
そして、固体電解質層と酸素極層との間には、固体電解質層と酸素極層との間で反応しないように中間層を形成した燃料電池セルが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
このような燃料電池セルは、中間層は、固体電解質層側に形成された緻密質な第1中間層と、酸素極層側に形成された多孔質な第2中間層とから構成されている。」

本件イ「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1、2に記載された燃料電池セルでは、緻密質な第1中間層と固体電解質層との間に、電気絶縁性のSrジルコネートが層状に生成し、この層状のSrジルコネートの厚みが厚い場合には、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗が高くなり、発電性能が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗が低い固体酸化物形燃料電池セルおよびセルスタック装置ならびに燃料電池モジュールを提供することを目的とする。」

本件ウ「【0040】
また、この形態では、中間層5は固体電解質層4側に形成された第1中間層5aと、酸素極層6側に形成された第2中間層5bとを有し、第1中間層5aに柱状Srジルコネート9aが形成されている。第2中間層5bは多孔質であり、第2中間層5の気孔の内面にも、Srジルコネート9bが形成されている。
【0041】
第1中間層5aにおける柱状Srジルコネート9aの平均幅は、0.1?0.6μmとされている。柱状Srジルコネート9aの平均幅は、中間層5の任意断面におけるSEM写真に基づき求めることができる。第1中間層5aは、第2中間層5bよりも高い温度で焼成して形成されている。」

本件エ「【0059】
ここで、第1中間層成形体の原料粉末は、平均粒径0.1?0.3μmと小さいものを用い、第1中層層成形体の焼成温度を1400?1485℃と低くし、焼成時間を1?2時間と短くする。これにより、第1中間層5aを構成する焼結体中の結晶粒子が小さく、大きな粒界が存在する形態となり、その粒界を、固体電解質層4を構成するZrが拡散するためZrが拡散した粒界が多数形成できる。従って、酸素極層6を形成する際、もしくは発電中に、酸素極層6を構成するSrが固体電解質層4側に拡散し、第1中間層5aの粒界を固体電解質層4側に拡散し、第1中間層5aの粒界で柱状Srジルコネート9aが優先的に生成し、第1中間層5aと、固体電解質層4との間には、層状のSrジルコネートが生成しないか、もしくは生成してもごく薄いSrジルコネートであり、固体電解質層4aと酸素極層6との間の電気抵抗を小さくすることができ、発電性能を向上できる。
【0060】
従来は、緻密質な第1中間層5aの粒界が小さいため、固体電解質層4のZrは拡散できないが、酸素極層6のSrは第1中間層5aの小さい粒界を拡散し、固体電解質層4と第1中間層5aとの間に層状のSrジルコネートが生成されていたが、本形態では、緻密質な第1中間層5aの粒界が大きいため、固体電解質層4のZrが第1中間層5aの粒界を拡散し、固体電解質層4と第1中間層5aとの間に層状のSrジルコネートが生成されるよりも、柱状Srジルコネート9aが優先的に形成されるものと考えている。
【0061】
なお、第2中間層5bの気孔内には、第1中間層5aの粒界を介してZrが拡散しており、この第2中間層5bにもSrジルコネート9bが生成することになる。」

ア 上記本件ア、本件イによれば、従来の固体酸化物形燃料電池セルでは、固体電解質層と酸素極層との間には、当該固体電解質層と酸素極層との間で反応しないように、固体電解質層側に形成された緻密質な第1中間層と、酸素極層側に形成された多孔質な第2中間層とから構成されている中間層が形成されているところ、第1中間層が緻密質であるために、第1中間層と固体電解質層との間に、電気絶縁性のSrジルコネートが層状に生成し、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗が高くなり、発電性能が低下するという問題があることに鑑みて、本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」ということがある。)は、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗が低い固体酸化物形燃料電池セルを提供することである。

イ そして、上記本件エによれば、本件発明においては、緻密質な第1中間層を構成する焼結体中の結晶粒子が小さく、大きな粒界が存在する形態としたので、その粒界を、固体電解質層を構成するZrが拡散するため、Zrが拡散した粒界が多数形成できる。すると、第1中間層の結晶粒子の大きな粒界で柱状Srジルコネートが優先的に生成するのに対し、第1中間層と固体電解質層との間には、層状で電気絶縁性のSrジルコネートが生成しなくなるので、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗を小さくすることができる。

ウ また、上記本件エの段落【0059】によれば、第1中間層成形体の原料粉末の平均粒径が0.1?0.3μmと小さいものであると記載されており、この原料粉末が焼成された際に、結晶粒子間の距離は多少短くなるとしても、その粒径自体はほぼ維持されると考えられるから、従来に比べて小さいとされる、第1中間層の結晶粒子の幅は、0.1?0.3μm程度であるといえる。一方、上記本件ウの段落【0041】によれば、柱状Srジルコネートの平均幅は0.1?0.6μmである。したがって、本件発明の課題を解決するために適している、第1中間層の結晶粒子の幅と柱状Srジルコネートの幅(平均幅)として、それぞれ、0.1?0.3μmと0.1?0.6μmの範囲(以下「適する幅の範囲」という。)が示唆されているといえる。

エ さらに、特許権者が提出した、平成29年10月31日付けの上申書を参照すると、図2に相当する「測定写真」において、固体酸化物形燃料電池セルの第1中間層内に引かれたA線とB線の2箇所で、結晶粒子の幅と柱状Srジルコネートの幅が測定された結果、A線では、結晶粒子の幅が0.333μm、柱状Srジルコネートの幅が0.259μmであり、B線では、結晶粒子の幅が0.312μm、柱状Srジルコネートの幅が0.233μmであり、少数第2位を四捨五入すると、いずれも、上記適する幅の範囲に入っていることが確認できる。

オ つまり、図2において、第1中間層内に引かれたA線及びB線のいずれにおいても、実際に測定された結晶粒子と柱状Srジルコネートの幅は、それぞれ、上記適する幅の範囲である、0.1?0.3μmと0.1?0.6μmの範囲に入っているし、「前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭い」という上記補正事項1の条件も満たしているといえる。

カ しかしながら、当初明細書には、補正事項1の「前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭い」という特定事項を備えた固体酸化物形燃料電池セルであれば、上記アに記載した課題を解決して、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗を小さくすることができるとの優れた効果を奏することまでの開示がなされてはいない。

キ 図2で測定された、第1中間層の柱状Srジルコネートの幅が結晶粒子の幅よりも狭いものであり、図2の実施例が、上記アに記載した課題を解決して、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗を小さくすることができるものであるとしても、単に一つの実施例について、柱状Srジルコネートと結晶粒子の幅が測定されたといえるにすぎず、第1中間層の結晶粒子の幅と柱状Srジルコネートの幅の大小関係と、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗との間に、どのような関係があるかについては、当初明細書等には何ら記載も示唆もされていないし、本件の出願前に当業者に周知の事項であるともいえない。

ク そして、「前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭い」という条件を満たす、第1中間層の結晶粒子の幅と柱状Srジルコネートの幅の中には、図2の実施例で測定された幅のみならず、結晶粒子の幅(粒径)が0.3μmよりも大きく(例えば0.4μm)、当該結晶粒子間の粒界が十分に大きくならないため、柱状Srジルコネートの幅が0.1μm未満(例えば0.05μm)の場合が含まれるところ、このような場合には、第1中間層と固体電解質層との間で、電気絶縁性で層状のSrジルコネートの生成を十分に抑制できず、固体電解質層と酸素極層との間の電気抵抗を小さくすることができるとはいえないから、本件訂正前の請求項1に係る発明が、補正事項1によって補正される発明特定事項を備えることは、必ずしも、当初明細書等に記載した事項と整合するものであるとはいえない。

ケ したがって、「前記柱状Srジルコネートの幅は、前記中間層を構成する結晶粒子の幅より狭い」ことは、当初明細書等に記載した事項ではなく、また、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえない。
よって、補正事項1は、当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
なお、上記補正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とした本件訂正により、請求項3において、「前記柱状Srジルコネートの平均の幅は、前記第1中間層を構成する結晶粒子の平均の幅より狭い」と訂正され、「幅」、「中間層」が、それぞれ、「平均の幅」、「第1中間層」と明瞭化されたが、この訂正によっても、当初明細書等に記載した事項の範囲内となったとはいえない。
したがって、平成27年10月30日付けの手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項3乃至5に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。
また、請求項1及び2に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1及び2に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ジルコニアからなる固体電解質層と、
該固体電解質層の一方側に設けられた燃料極層と、
他方側に設けられたLaおよびSrを含有するペロブスカイト型複合酸化物からなる酸素極層と、
前記固体電解質層と前記酸素極層との間に設けられ、セリアからなり、前記固体電解質層側に形成された第1中間層と、前記酸素極層側に形成された第2中間層とを有する中間層と、
前記第1中間層を構成する結晶粒子の粒界に形成され、前記固体電解質層側から前記酸素極層側に延びる複数の柱状Srジルコネートと、を具備しており、
前記柱状Srジルコネートの平均の幅は、前記第1中間層を構成する結晶粒子の平均の幅より狭いことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項4】
請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池セルを複数具備してなるとともに、複数の前記固体酸化物形燃料電池セルを電気的に接続してなることを特徴とするセルスタック装置。
【請求項5】
請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池セルを収納容器内に複数収納してなることを特徴とする燃料電池モジュール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-27 
出願番号 特願2012-168574(P2012-168574)
審決分類 P 1 651・ 55- ZAA (H01M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 太田 一平  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
千葉 輝久
登録日 2016-02-12 
登録番号 特許第5882857号(P5882857)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 固体酸化物形燃料電池セルおよびセルスタック装置ならびに燃料電池モジュール  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ