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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05K
管理番号 1342969
異議申立番号 異議2017-701053  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-10 
確定日 2018-06-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6123214号発明「導電性基板用金属粒子分散体、及び導電性基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6123214号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1、2、4〕、〔5、6、8、9〕について訂正することを認める。 特許第6123214号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6123214号の請求項1?9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年10月3日に特許出願され、平成29年4月14日にその特許権の設定登録がされ、同年5月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?9に係る特許に対して、平成29年11月10日に特許異議申立人秋山満(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年1月18日付けで取消理由が通知され(以下、「取消理由通知」という。)、その指定期間内である同年3月22日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して同年5月23日に異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年3月22日の訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である」とあるのを、
「前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、及び請求項4も同様に訂正する。)。
(下線は、特許権者が付与。以下同様。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物であり、且つ、前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上である」とあるのを、
「前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である」に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である」とあるのを、
「前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6、8及び9も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物であり、且つ、前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上である」とあるのを、
「前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項8及び9も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
訂正前の明細書の段落【0012】に「前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である」とあるのを、
「前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の明細書の段落【0016】に「前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物であり、且つ、前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上である」とあるのを、
「前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である」に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の明細書の段落【0171】に「実施例12?21」とあるのを、
「実施例12?20、参考例21」に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の明細書の段落【0181】の【表2】に、「実施例21」とあるのを、
「参考例21」に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の明細書の段落【0182】に「実施例2?10及び12?21」とあるのを、
「実施例2?10及び12?20」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に「ハロゲン化炭化水素」と記載されているのを、概念的により下位の「ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチル」へと訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではない。
また、「ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチル」の構成は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の段落【0016】の「前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。」、及び段落【0120】の「中でも、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される少なくとも1種である」との記載に開示されているから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1においてハロゲン化炭化水素としてハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルを特定したことに伴い、訂正後の請求項1との関係で、訂正後の請求項2に係る発明において不合理を生じさせないため、「且つ、前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上である」という記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2は、択一的記載の要素の削除を行うものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3に「ハロゲン化炭化水素」と記載されているのを、概念的により下位の「ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチル」へと訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではない。
また、「ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチル」の構成は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の段落【0016】の「前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。」、及び段落【0120】の「中でも、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される少なくとも1種である」との記載に開示されているから、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項3においてハロゲン化炭化水素としてハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルを特定したことに伴い、訂正後の請求項5との関係で、訂正後の請求項6に係る発明において不合理を生じさせないため、「且つ、前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上である」という記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4は、択一的記載の要素の削除を行うものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものでもない。

(5)訂正事項5?9について
訂正事項5?9は、訂正事項1?4に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正で、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、これらの訂正事項は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2、4〕、〔5、6、8、9〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上述のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である、導電性基板用金属粒子分散体。
【化1】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【化2】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【化3】

(一般式(II)中、A’は、直接結合又は2価の連結基、R^(10)は、水素原子又はメチル基、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)で示される1価の基である。R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(14)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【請求項2】
前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である、請求項1に記載の導電性基板用金属粒子分散体。
【化4】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))t-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、-CO-CH=CH_(2)、-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項3】
金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(III)で表される構成単位とを有し、前記一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したグラフト共重合体であって、
前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である、導電性基板用金属粒子分散体。
【化5】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【化6】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【化7】

(一般式(III)中、R^(16)は、水素原子又はメチル基、Lは、直接結合又は2価の連結基、Polymerは、下記一般式(IV)又は一般式(V)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。)
【化8】

(一般式(IV)及び一般式(V)中、R^(17)は水素原子又はメチル基であり、R^(18)は炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-CO-O-R^(22)又は-O-CO-R^(23)で示される1価の基である。R^(19)及びR^(20)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(21)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(24)で示される1価の基であり、R^(22)は、炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)で示される1価の基である。R^(23)は炭素数1?18のアルキル基であり、R^(24)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
mは1?5の整数、n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【化9】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基が、アルキル基の場合、置換基としてハロゲン原子、ニトロ基を有していてもよく、上記炭化水素基が、アリール基又はアラルキル基の場合、芳香環の置換基として、炭素数1?4の直鎖状、分岐状のアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項4】
前記金属粒子が、金、銀、銅、及びこれらの酸化物から選ばれる1種以上を含む金属粒子である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の導電性基板用金属粒子分散体。
【請求項5】
金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である、導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有する、導電性基板の製造方法。
【化10】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【化11】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R2及びR3は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【化12】

(一般式(II)中、A’は、直接結合又は2価の連結基、R^(10)は、水素原子又はメチル基、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)で示される1価の基である。R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(14)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【請求項6】
前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である、請求項5に記載の導電性基板の製造方法。
【化13】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]u-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。Reは、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、-CO-CH=CH_(2)、-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項7】
金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(III)で表される構成単位とを有し、前記一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したグラフト共重合体であって、
前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である、導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有する、導電性基板の製造方法。
【化14】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【化15】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【化16】

(一般式(III)中、R^(16)は、水素原子又はメチル基、Lは、直接結合又は2価の連結基、Polymerは、下記一般式(IV)又は一般式(V)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。)
【化17】

(一般式(IV)及び一般式(V)中、R^(17)は水素原子又はメチル基であり、R^(18)は炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-CO-O-R^(22)又は-O-CO-R^(23)で示される1価の基である。R^(19)及びR^(20)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(21)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(24)で示される1価の基であり、R^(22)は、炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)で示される1価の基である。R^(23)は炭素数1?18のアルキル基であり、R^(24)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
mは1?5の整数、n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【化18】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基が、アルキル基の場合、置換基としてハロゲン原子、ニトロ基を有していてもよく、上記炭化水素基が、アリール基又はアラルキル基の場合、芳香環の置換基として、炭素数1?4の直鎖状、分岐状のアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項8】
前記焼成処理する工程が、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより焼成処理する工程である、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項9】
前記焼成処理する工程が、パルス光の照射により焼成処理する工程である、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1、2、4?6、8及び9に係る特許に対して平成30年1月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1.本件特許の請求項1、2及び4?6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2.本件特許の請求項1、2、4?6、8及び9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲第1号証:再公表特許第2005/087413号
甲第2号証:特開2008-248255号公報
甲第3号証:特開2004-287366号公報
甲第4号証:特開2006-9085号公報

請求項1、2及び4?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるか、又は請求項1、2、4?6、8及び9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1、2及び4?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるか、又は請求項1、2、4?6、8及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証(特に、【請求項1】、段落【0033】、【0036】、【0052】、【0054】、【0082】、【0151】を参照。また、段落【0033】に高分子顔料分散剤として「ディスパービッグ2000」が挙げられていることを参照。)には、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、「合金ナノ粒子含有溶液の製造方法及び合金ナノ粒子含有溶液」に関して、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「合金ナノ粒子と、高分子顔料分散剤と、溶媒とを含有し、
前記高分子顔料分散剤が、ディスパービッグ2000である、スクリーン印刷により基材に塗布でき、高耐久性金属調薄膜形成材料、高耐久性導電材料、導電材料等に適用される合金ナノ粒子含有溶液。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、「着色樹脂組成物、カラーフィルタ、及び液晶表示装置」に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
色材、溶剤、分散剤及びバインダ樹脂を含有する着色樹脂組成物であって、バインダ樹脂が(A)エポキシ含有(メタ)アクリレート5?90モル%、(B)(A)成分と共重合し得る他のラジカル重合性化合物10?95モル%を共重合させ、得られた共重合物に含まれるエポキシ基の10?100モル%に(C)不飽和一塩基酸を付加させ、前記(C)成分を付加したときに生成される水酸基の10?100モル%に(D)多塩基酸無水物を付加させて得られる樹脂であって、且つ、分散剤が、(G)側鎖に4級アンモニウム塩基を有するAブロックと、4級アンモニウム塩基を有さないBブロックとからなる、A-Bブロック共重合体及び/又はB-A-Bブロック共重合体を含有することを特徴とする着色樹脂組成物。
【請求項2】
(G)側鎖に4級アンモニウム塩基を有するAブロックと、4級アンモニウム塩基を有さないBブロックとからなる、A-Bブロック共重合体及び/又はB-A-Bブロック共重合体のAブロックが、下記一般式(1)で示される部分構造を含有することを特徴とする、請求項1に記載の着色樹脂組成物。
【化1】

(上記一般式(1)中、R_(1a)、R_(2a)及びR_(3a)は各々独立に、水素原子、又は置換されていてもよい環状若しくは鎖状の炭化水素基を表す。或いは、R_(1a)、R_(2a)及びR_(3a)のうち2つ以上が互いに結合して、環状構造を形成していてもよい。R_(4a)は、水素原子又はメチル基を表す。Xは、2価の連結基を表し、Y^(-) は、対アニオンを表す。)」

イ 段落【0197】の【表2】、及び段落【0198】の【表3】には、「ビックケミー社製のDisperbyk-2000(変性アクリル系ブロック共重合体)」との記載がある。

(3)甲第3号証
甲第3号証には、「着色レジスト用顔料分散液、感光性着色組成物、及び、カラーフィルター」に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
少なくとも、顔料、少なくとも下記式(A)で表される構成単位と下記式(B)で表される構成単位とが連結した分子構造を含み、且つポリエーテル鎖及び酸性官能基を含まない共重合体からなる顔料分散剤、少なくとも酸性官能基を備えた構成単位と光硬化性官能基を備えた構成単位とSP値が10以上で酸性官能基を含まない構成単位とが連結した分子構造を有する共重合体、及び、有機溶剤を含有する、着色レジスト用顔料分散液。
【化1】

(式中、R^(a)、R^(b)及びR^(c)は、各々独立に、水素原子、又は置換されていてもよい環状若しくは鎖状の炭化水素基を表すか、R^(a)、R^(b)及びR^(c)のうち2つ以上が互いに結合して環状構造を形成する。R^(d)は水素原子又はメチル基を表す。Xは2価の連結基を表し、Y-は対アニオンを表す。)
【化2】

(式中、R^(e)は水素原子又はメチル基を表す。R^(f)は置換基を有していてもよい環状又は鎖状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。)」

イ 「【0272】
(試験例1:市販品顔料分散剤)
熱分解GCMS、FT-IR、イオン性ハロゲン塩の測定、及び酸価、アミン価測定を用いた分析試験により、Disperbyk-2000(ビックケミージャパン(株)製)が、本発明に係る上記式(A)で表される構成単位と上記式(B)で表される構成単位とが連結した分子構造を含み、且つ酸性官能基及びポリエーテル鎖を含まない共重合体からなる顔料分散剤であることを確認した。なお、熱分解GCMS及びFT-IRの測定は、下記測定条件により行った。」

ウ 「【0273】
<熱分解GCMS>
・・・(中略)・・・
(結果)
図5にトータルイオンクロマトグラムを示し、拡大チャートと各ピークのマススペクトルを以下の図に示す。図6に示されるように1.967分にメチルメタクリレート由来のピーク(1)が検出された。図7に示されるように7.974分にブチルメタクリレート由来のピーク(2)が検出された。図8に示されるように8.702分にメタクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドの分解ピークであるベンジルクロライド由来のピーク(3)が検出された。 ・・・(後略)」

エ 「【0274】
<FT-IR>
・・・(中略)・・・
(結果)
図12に示されるように、2960cm^(-1)及び1470cm^(-1)に本発明の式(A)の一部に該当するベンジルジメチルアンモニウムクロライド由来のピークが検出され、1740cm^(-1)に本発明の式(B)に該当する(メタ)アクリレート由来のピークが検出された。」

オ 「【0275】
<イオン性ハロゲン塩の測定>
試料単独または試料の有機溶剤溶液を純水と激しく攪拌し、水層に硝酸銀水溶液を加え、不溶物が発生することでイオン性ハロゲンの存在を検出した。その結果、本発明の式(A)に該当するメタクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド由来の塩素イオンが検出された。」

カ 「【0278】
以上の分析結果より、、Disperbyk-2000(ビックケミージャパン(株)製)が本発明に係る上記式(A)で表される構成単位と上記式(B)で表される構成単位とが連結した分子構造を含み、且つポリエーテル鎖及び酸性官能基を含まない共重合体からなる顔料分散剤であることが確認できた。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、「金属微粒子分散体の製造方法、該方法で製造された金属微粒子分散体を用いた導電性インキ、および非接触型メディア」に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項7】
請求項5または6記載の金属微粒子分散体および金属粉を含む導電性インキ。」

イ 「【請求項10】
基材上に、請求項7?9いずれか1項に記載の導電性インキを用いて形成された導電回路と、該導体回路に導通された状態で実装されたICチップとを具備する非接触型メディア。」

4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「合金ナノ粒子」は、本件発明1の「金属粒子」に相当する。
以下同様に、「高分子顔料分散剤」は、「分散剤」に、
「溶媒」は、「溶剤」に、
「合金ナノ粒子含有溶液」は、「金属粒子分散体」に、それぞれ相当する。

また、甲1発明の合金ナノ粒子含有溶液は、「スクリーン印刷により基材に塗布でき、高耐久性金属調薄膜形成材料、高耐久性導電材料、導電材料等に適用される」から、「導電性基板」に用いるものであるということができる。

甲第2号証及び甲第3号証における記載から、ディスパービッグ2000は、甲第3号証に記載の式(A)及び式(B)(「3(3)ア」を参照。)で表される構成単位をブロック部として有する変性アクリルブロック共重合体であることが理解される。
更に、甲第3号証(「3(3)ウ?オ」を参照。)の記載から、ディスパービッグ2000の式(A)における第4級アンモニウム塩の部位は、ジメチルアミノ基をハロゲン化炭化水素であるベンジルクロライドと反応させて塩を形成したものであることが理解される。
ここで、甲第3号証に記載の式(A)及び式(B)は、それぞれ本件発明1の一般式(I)及び一般式(II)と同じであるから、ディスパービッグ2000は、
「前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、ベンジルクロライドとが塩を形成したブロック共重合体」であり、
「(一般式I)(省略)
(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
(一般式I-a)(省略)
(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
(一般式II)(省略)
(一般式(II)中、A’は、直接結合又は2価の連結基、R^(10)は、水素原子又はメチル基、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)で示される1価の基である。R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(14)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)」
との構成を備えているといえる。

ここで、上記「ベンジルクロライド」と、本件発明1の「ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチル」とは、「ハロゲン化炭化水素」という限りにおいて共通する。

以上のことから、本件発明1と甲1発明とは次の点で一致する。
「金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、ハロゲン化炭化水素とが塩を形成したブロック共重合体である、導電性基板用金属粒子分散体。
(一般式I)(省略)
(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
一般式(I-a)(省略)
(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
一般式(II)(省略)
(一般式(II)中、A’は、直接結合又は2価の連結基、R^(10)は、水素原子又はメチル基、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)で示される1価の基である。R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(14)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
分散剤における、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と塩を形成するものに関して、
本件発明1においては、「酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上」であるのに対して、
甲1発明においては、ベンジルクロライドである点。

上記相違点について検討する。
(ア)特許法第29条第1項第3号(新規性)について
上記相違点は、分散剤において、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と塩を形成するものに関して異なるから、実質的な相違点である。
そして、上記相違点に係る本件発明1の構成については、甲第1号証に記載ないし記載されているに等しいとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)ということはできない。

(イ)特許法第29条第2項(進歩性)について
甲1発明においては、市販されているディスパービッグ2000を用いている。
当該ディスパービッグ2000の、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と塩を形成するものを、ベンジルクロライドに代えて、「酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上」とする点については、甲第1?4号証のいずれにも記載も示唆もされていないし、周知技術であると認める証拠があるものではない。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、異議申立人は、平成30年5月23日の意見書において、甲第5及び6号証を挙げ、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と塩を形成するものとして「有機リン酸化合物」を用いることに進歩性は認められない旨を主張している。
しかし、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と塩を形成するものとして「酸性有機リン化合物」(有機リン酸化合物)を用いる点は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載されているから、異議申立人の上記主張は、訂正の請求の内容に付随して生じたものではなく、実質的に新たな理由及び証拠を提示するものである。
したがって、上記主張は、新たな取消理由としては採用しない(特許庁「審判便覧」の「67-05.4 P」の「1.(2)」を参照。)。

(ウ)小括
以上のことから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)ということはできないし、また、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

イ 本件発明1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2及び4について
本件発明1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2及び4は、本件発明1をさらに限定したものであるので、同様に、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)ということはできないし、また、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1に係る導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有する、導電性基板の製造方法に関するものであって、上記相違点に係る本件発明1の構成と同じ構成を備えるものである、
そうすると、本件発明5は、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)ということはできないし、また、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

エ 本件発明5の記載を直接又は間接的に引用する本件発明6、8及び9について
本件発明5の記載を直接又は間接的に引用する本件発明6、8及び9は、本件発明5をさらに限定したものであるので、同様に、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)ということはできないし、また、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許法第29条第2項(進歩性)について
(ア)本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。
[相違点]
分散剤における、一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したものに関して、
本件発明3においては、「グラフト共重合体」であるのに対して、
甲1発明においては、ブロック共重合体である点。

上記相違点について検討する。
甲1発明においては、市販されているディスパービッグ2000を用いている。
当該ディスパービッグ2000の、一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したものを、ブロック共重合体に代えて、「グラフト共重合体」とする点については、甲第1?4号証のいずれにも記載も示唆もされていないし、周知技術であると認める証拠があるものではない。
そうすると、上記相違点に係る本件発明3の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明3は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)本件発明3の記載を引用する本件発明4について
本件発明3の記載を引用する本件発明4は、本件発明3をさらに限定したものであるので、同様に、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)本件発明7について
本件発明7は、本件発明3に係る導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有する、導電性基板の製造方法に関するものであって、上記相違点に係る本件発明3の構成と同じ構成を備えるものである、
そうすると、本件発明7は、本件発明3と同様に、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(エ)本件発明7の記載を引用する本件発明8及び9について
本件発明7の記載を引用する本件発明8及び9は、本件発明7をさらに限定したものであるので、同様に、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(ア)異議申立人は、本件発明1?9において、ブロック共重合体の変性量が何ら特定されていないところ、本件特許明細書等の実施例では限られた範囲の変性量しか実施されておらず、それ以外の変性量の場合の効果に関して何も実証されていないから、本件発明1?9は明細書の開示範囲を逸脱するものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する(異議申立書32ページ3行?8行)。
しかし、本件特許明細書等の段落【0121】の「本発明で用いられる重合体において、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上の含有量は、良好な分散安定性が発揮されるのであればよく、特に制限はないが、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位に対して、0.05?2.0モル当量程度、好ましくは0.1?1.0モル当量、より好ましくは0.2?0.8モル当量とすることが、金属粒子の分散性、分散安定性を向上し、沈降を抑制し、有機成分の残存の少ない金属膜を得ることができる点から好ましい。尚、上記酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素を2種以上併用する場合、これらを合計した含有量が上記範囲内にあればよい。」との記載、及び技術常識を踏まえれば、変性量を変化させても、効果の程度が変わるというにすぎず、また、発明を実施するにあたって、変性量は当業者が適宜設定する事項であるといえる。
そうすると、本件発明1?9において、ブロック共重合体の変性量が何ら特定されていないとしても、それによって、本件発明1?9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は理由がない。

(イ)異議申立人は、本件発明1及び5において、ブロック共重合体の塩を形成する化合物として、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化炭化水素という広い範囲で化合物を特定し、本件発明3及び7においても同様に広い範囲で化合物を特定しているところ、本件特許明細書等の実施例では特定の化合物しか使用されておらず、それ以外の種類の化合物を使用した場合の効果に関しては何も実証されていないから、本件発明1?9は明細書の開示範囲を逸脱するものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する(異議申立書32ページ9行?17行)。
しかし、本件特許明細書等の段落【0095】の「本発明の分散剤は、上記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上(以下、変性剤と称することがある。)とが塩を形成した重合体である。本発明においては、上記特定の変性剤を用いることにより、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位を塩形成することにより、前記金属粒子との親和性が向上し、金属粒子の分散性及び分散安定性に優れたものとすることができ、沈降を抑制できる。」、及び段落【0096】の「酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素は、前記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位と塩形成し得るものの中から、適宜選択して用いることができる。」との記載、並びに技術常識を踏まえれば、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と塩を形成すればよいのであり、また、本件特許明細書等の段落【0097】?【0120】には、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素の具体例について多数列挙されている。
そうすると、本件発明1?9において、実施例で用いられた具体的な化合物が特定されていないとしても、それによって、本件発明1?9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
導電性基板用金属粒子分散体、及び導電性基板の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基板用金属粒子分散体、及び導電性基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上に導電性の配線を施した回路基板の製造には、金属箔を貼り合せた基材上にフォトレジストを塗布し、所望の回路パターンを露光し、ケミカルエッチングによりパターンを形成する方法等が用いられてきた。上記フォトレジスト法によれば、導電性の配線として金属箔を用いるため、体積抵抗率が小さく、高性能の導電性基板を製造することができる。一方、当該方法は工程数が多く、煩雑であるとともに、フォトレジスト材料を要する等の欠点があった。
【0003】
これに対し、金属粒子を分散させた金属粒子分散体を用いて、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの印刷プロセスにより、基材に直接パターンを印刷し、金属粒子を焼結させることにより、回路パターンを形成する手法が注目されている。基材に直接パターンを印刷する手法によれば、従来のフォトレジスト法等と比較して、生産性が飛躍的に向上する。
【0004】
金属粒子は、微細化することにより、劇的に融点が低下することが知られている。これは、金属粒子の粒径が小さくなるのに伴って、粒子の比表面積が増加し、表面エネルギーが増大することによるものである。この効果を利用すれば、金属粒子同士の焼結を従来よりも低温で進行させることができ、従来用いることが困難であった、耐熱性の低い樹脂基材に対しても、印刷による回路形成が可能となると期待された。しかしながら、金属粒子の粒径が小さいほど、分散性や分散安定性が良好な分散体を調製することは困難であった。
【0005】
特許文献1には、インクジェット印刷方式を利用して、導電性金属ペーストにより回路パターンを形成する方法が記載されている。特許文献1では、金属超微粒子が互いに直接接触しない状態とするため、当該金属超微粒子に含まれる金属元素と配位的な結合が可能な窒素、酸素、硫黄原子を含む基を有する化合物により、金属超微粒子を被覆する手法が記載されている。金属表面の被膜に利用される窒素、酸素、硫黄原子を含む基を有する化合物としては、アルキルアミン、アルカンチオール、アルカンジオール等が挙げられている。特許文献1では、導電性金属ペーストの焼成を行う際に、当該アルキルアミン等が金属表面離脱するように、具体的には、炭素数が4?20の比較的低分子の化合物が挙げられている。
【0006】
特許文献2には、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩を粒子表面に有する金属粒子、カチオン系界面活性剤及び低極性非水溶剤を含む金属分散液が記載されている。特許文献2によれば、金属粒子の粒子表面に有するメルカプトカルボン酸乃至その塩は、溶剤中で解離して電気的に陰性となっており、当該メルカプトカルボン酸イオンとカチオン系界面活性剤が静電的に結合することにより、低極性非水溶剤中に金属粒子が分散安定性を保持できると記載されている。
しかしながら、特許文献1及び2の手法は、いずれも低分子量の化合物を用いて金属粒子を分散するものであり、金属粒子の分散安定性が不十分であった。
【0007】
特許文献3には、特定の金属微粒子と、特定のポリエステル骨格を有する高分子分散剤と、分散媒を含有する金属微粒子分散体が記載されている。
特許文献3によれば、上記特定の高分子分散剤が金属微粒子の分散性に高い効果を示し、しかも後の焼結工程で容易に揮散されると記載されている。しかしながら、後述の比較例で示されるように、特許文献3の手法では、金属微粒子分散体の保存安定性が十分でなく、一定期間保管後には金属粒子の沈降がみられることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-324966号公報
【特許文献2】特開2008-127679号公報
【特許文献3】国際公開第2011/040189号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
金属粒子の分散性や分散安定性を向上するために、分散剤として高分子分散剤を用いて金属粒子を分散させた場合には、特に低温で焼成したときや、短時間で焼成したときに、金属膜に当該高分子分散剤が残存することがあり、得られた基板の体積抵抗率が高くなり、導電性基板として十分な性能が得られない場合があった。一方、分散剤の残存を抑制するために、分散剤の添加量を少なくしたり、低分子量の分散剤を用いると、金属粒子の分散性、分散安定性が不十分となってしまう。
そのため、分散性、分散安定性が高く、かつ、焼成後に高い導電性を有する膜が形成可能な分散体を得ることは非常に難しい課題であった。
【0010】
本発明は、このような状況下になされたものであり、分散性、分散安定性に優れ、金属粒子の沈降が抑制され、焼成後の膜中における有機成分の残存が抑制された導電性基板用金属粒子分散体、及び、焼成後の有機成分の残存が抑制され、優れた導電性を有する導電性基板が得られる、導電性基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の金属粒子と特定の分散剤を組み合わせて用いることにより、分散性、分散安定性に優れるとともに、低温、或いは短時間で焼成した場合であっても、膜中から有機成分が分解乃至除去されやすく、その結果、高い導電性を有する膜が形成できるとの知見を得た。
本発明は、係る知見に基づいて完成したものである。
【0012】
本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体は、金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体であることを特徴とする。
【0013】
【化1】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【0014】
【化2】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0015】
【化19】

(一般式(II)中、A’は、直接結合又は2価の連結基、R^(10)は、水素原子又はメチル基、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)で示される1価の基である。R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(14)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【0016】
前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物であることが好ましい。
【0017】
【化20】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、-CO-CH=CH_(2)、-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【0018】
本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体は、金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、前記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(III)で表される構成単位とを有し、前記一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したグラフト共重合体であって、
前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物であることを特徴とする。
【0019】
【化21】

(一般式(III)中、R^(16)は、水素原子又はメチル基、Lは、直接結合又は2価の連結基、Polymerは、下記一般式(IV)又は一般式(V)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。)
【0020】
【化22】

(一般式(IV)及び一般式(V)中、R^(17)は水素原子又はメチル基であり、R^(18)は炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-CO-O-R^(22)又は-O-CO-R^(23)で示される1価の基である。R^(19)及びR^(20)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(21)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(24)で示される1価の基であり、R^(22)は、炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)で示される1価の基である。R^(23)は炭素数1?18のアルキル基であり、R^(24)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
mは1?5の整数、n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【0021】
【化23】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。 R^(b)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基が、アルキル基の場合、置換基としてハロゲン原子、ニトロ基を有していてもよく、上記炭化水素基が、アリール基又はアラルキル基の場合、芳香環の置換基として、炭素数1?4の直鎖状、分岐状のアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【0022】
本発明に係る導電性基板の製造方法は、前記本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有することを特徴とする。
本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体、及び本発明に係る導電性基板の製造方法においては、前記金属粒子が、金、銀、銅、及びこれらの酸化物から選ばれる1種以上の金属粒子であることが、導電性の点から好ましい。
【0023】
本発明に係る導電性基板の製造方法は、前記焼成処理する工程が、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより焼成処理する工程であることが、膜中における有機成分を分解乃至除去しやすい点から好ましい。
本発明に係る導電性基板の製造方法は、前記焼成処理する工程が、パルス光の照射により焼成処理する工程であることが、膜中における有機成分を分解乃至除去しやすい点から好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、分散性、分散安定性に優れ、金属粒子の沈降が抑制され、焼結後の有機成分の残存が抑制された導電性基板用金属粒子分散体、及び、焼結後の膜中における有機成分の残存が抑制され、優れた導電性を有する導電性基板が得られる、導電性基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の製造方法により得られる導電性基板の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体、及び導電性基板の製造方法について説明する。
なお、本発明において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルのいずれかであることを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートのいずれかであることを意味する。
【0027】
[導電性基板用金属粒子分散体]
本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体は、金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、少なくとも下記一般式(I)で表される構成単位を有し、当該構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成した重合体であることを特徴とする。
【0028】
【化7】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【0029】
【化8】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0030】
上記特定の組み合わせにより、上記のような特定の効果を発揮する作用としては、未解明の部分もあるが、以下のように推定される。
従来、金属粒子分散体は、焼成時に有機成分が残存するのを抑制するために、比較的低分子量の分散剤が用いられてきた。しかしながら、低分子量の分散剤では、分散性や分散安定性が不十分であった。特に、金属粒子は、分散体中の各成分と比較して、比重が大きいことから、保存時に金属粒子が沈降するという問題があった。
本発明の金属粒子分散体は、分散剤として、一般式(I)で表される構成単位を有し、当該構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成した重合体を用いて金属粒子を分散することにより、溶剤に対して不溶性となる分散剤中の塩形成部位が、金属粒子に強く吸着することで安定化するものと推定される。このように、上記特定の分散剤が、金属粒子を取り囲んで、溶剤中で安定して存在するため、金属粒子同士の凝集が生じにくく、分散性及び分散安定性に優れ、金属粒子が沈降することを抑制することができるものと推測される。
また、上記特定の分散剤を用いると、低温或いは短時間で焼成した場合であっても、膜中から有機成分が分解乃至除去されやすいため、分散剤の残存が少なく、得られた金属膜は体積抵抗率が低く優れた導電性を有するものとなる。このメカニズムは未解明ではあるが、上記特定の分散剤を用いると、従来の高分子分散剤と比べて、金属粒子の分散性が向上し、分散粒子が小さくなることにより融着しやすくなること、及び、上記特定の分散剤が、比較的低温であっても分解乃至揮発しやすいことが推定される。
更に、上記特定の分散剤は、一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位において塩を形成している酸性有機リン化合物やスルホン酸化合物が、還元性や酸化抑制効果を有しているのではないかと推定される。また、一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位自体も還元性や酸化抑制効果を有しているものと推定される。これらの相乗効果で、優れた導電性を達成できると推定される。
また、本発明の導電性基板用金属微粒子分散体は、分散安定性が高く、且つ、低粘度とすることができるため、インクジェットインク印刷を行う場合に吐出安定性に優れ、良好なパターニングが可能となる。
【0031】
本発明の導電性基板用金属粒子分散体は、少なくとも金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有するものであり、本発明の効果が損なわれない限り、必要に応じて他の成分を含有してもよいものである。
以下、このような本発明の導電性基板用金属粒子分散体の各成分について順に詳細に説明する。
【0032】
<金属粒子>
本発明において金属粒子は、焼成後に導電性を生じる金属粒子の中から適宜選択すればよい。金属の種類としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、スズ、鉄、クロム、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、インジウム、亜鉛、モリブデン、マンガン、チタン、アルミニウム等が挙げられる。なお、本発明において金属粒子とは、金属状態の粒子に加えて、合金状態の粒子や、金属化合物の粒子等も含まれるものである。また、例えば、金属状態の粒子の表面が酸化されて金属酸化物となっている場合や、2種以上の金属がコアシェル構造を形成している場合等のように、1つの粒子中に、金属、合金、及び金属化合物の1種以上が含まれていてもよいものである。
金属粒子としては、中でも、高い導電性を有し、かつ微粒子を容易に維持できる点から、金、銀、銅、ニッケル及びこれらの酸化物から選ばれる1種以上を含む金属粒子であることが好ましく、金、銀、銅及びこれらの酸化物から選ばれる1種以上を含む金属粒子であることがより好ましい。
【0033】
上記金属化合物としては、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物等が挙げられる。これらの金属化合物は、焼成時に分解されて、金属状態となるものが好ましい。銀を有する金属化合物としては、例えば、酸化銀、有機銀化合物等が挙げられる。また、銅を有する金属化合物としては、例えば、酸化第一銅、酸化第二銅、及びこれらの混合物などの銅酸化物等が挙げられる。
また、合金としては、例えば、銅-ニッケル合金、銀-パラジウム合金、銅-スズ合金、銀-銅合金、銅-マンガン合金等が挙げられる。
上記金属粒子は、有機保護剤によって表面が被覆されているものであってもよい。
【0034】
金属粒子は、上記金属、合金、及び金属化合物粒子の1種以上を含む金属粒子のうち、1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記金属粒子の調製方法は、従来公知の方法から適宜選択すればよい。例えば、メカノケミカル法などにより金属粉を粉砕する物理的な方法;化学気相法(CVD法)や蒸着法、スパッタ法、熱プラズマ法、レーザー法のような化学的な乾式法;熱分解法、化学還元法、電気分解法、超音波法、レーザーアブレーション法、超臨界流体法、マイクロ波合成法等による化学的な湿式法等を用いて金属粒子を得ることができる。
【0036】
例えば、蒸着法では、高真空下で分散剤を含む低蒸気圧液体中に加熱蒸発した金属の蒸気を接触させて微粒子を製造する。
また、化学還元法の1種としては、錯化剤及び有機保護剤の存在下で、金属酸化物と還元剤とを溶剤中で混合して生成する方法が挙げられる。
【0037】
上記錯化剤とは、当該錯化剤が有する配位子のドナー原子と、金属イオン又は金属原子とが結合して、金属錯体化合物を形成するものである。上記ドナー原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が好適に挙げられる。窒素原子がドナー原子である錯化剤としては、例えば、アミン類、イミダゾール及びピリジン等の窒素含有複素環式化合物類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、上記有機保護剤は、精製した金属粒子の分散安定化や、粒径制御のために用いられるものであり、具体的には、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等のタンパク質系;デンプン、デキストリン等の天然高分子;ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系;ポリビニルアルコール等の親水性合成高分子の他、脂肪酸、アルキルアミン等の比較的低分子量の化合物であってもよい。中でも、分散安定性の点からは、タンパク質系の有機保護剤が好ましい。
なお、上記の方法の他、市販の金属粒子を適宜用いることができる。
【0038】
金属粒子の平均一次粒径は、用途に応じて適宜設定すればよいものであるが、通常、1?1000nmの範囲で設定される。中でも、分散性、分散安定性に優れ、沈降物を生じにくい点から、金属粒子の平均一次粒径が2?500nmであることが好ましい。
なお、上記金属粒子の平均一次粒径は、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で求めることができる。具体的には、個々の一次粒子の短軸径と長軸径を計測し、その平均をその粒子の粒径とした。次に100個以上の粒子についてそれぞれ粒子の体積(質量)を、求めた粒径の直方体と近似して求め、体積平均粒径として求めそれを平均粒径とした。なお、電子顕微鏡は透過型(TEM)、走査型(SEM)又は走査透過型(STEM)のいずれを用いても同じ結果を得ることができる。
【0039】
本発明の導電性基板用金属粒子分散体において、金属粒子の含有量は、用途に応じて適宜選択されれば良いが、分散性の点から、金属粒子分散体の全量に対して、5?95質量%であることが好ましく、更に、20?90質量%の範囲内であることがより好ましい。本発明においては、後述する分散剤と組み合わせて用いることにより、従来に比べて金属粒子の含有量を高めた場合であっても、金属粒子の分散性や分散安定性に優れ、沈降物を生じにくいものとすることができる。
【0040】
<分散剤>
本発明において用いられる分散剤は、少なくとも下記一般式(I)で表される構成単位を有し、当該構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成した重合体である。
【0041】
【化9】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【0042】
【化10】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0043】
本発明における金属粒子は、窒素部位を有する上記一般式(I)で表される構成単位が、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成した重合体を分散剤として用いることにより、分散性及び分散安定性が向上する。また、上記分散剤は、導電性基板を製造する際の焼成処理により分解乃至揮散されやすく、得られた導電性基板は、有機成分の残存が抑制され、導電性に優れている。
【0044】
一般式(I)において、Aは、直接結合又は2価の連結基である。直接結合とは、下記一般式(I-1)のように、Qが連結基を介することなく炭素原子に直接結合していることを意味する。
【0045】
【化11】

(一般式(I-1)中、R^(1)及びQは、一般式(I)と同様である。)
【0046】
Aにおける2価の連結基としては、例えば、炭素数1?10のアルキレン基、アリーレン基、-CONH-基、-COO-基、炭素数1?10のエーテル基(-R’-OR”-:R’及びR”は、各々独立にアルキレン基)及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
中でも、分散性の点から、一般式(I)におけるAは、直接結合、-CONH-基、又は、-COO-基を含む2価の連結基であることが好ましい。
例えば、Aが-COO-基を含む2価の連結基でQが上記一般式(I-a)で表される基である場合、一般式(I)で表される構成単位は下記式(I-2)で表される構造が挙げられる。
【0047】
【化12】

(一般式(I-2)中、R^(1)は、一般式(I)と同様であり、R^(2)及びR^(3)は、一般式(I-a)と同様であり、R^(4)は、炭素数1?8のアルキレン基、-[CH(R^(5))-CH(R^(6))-O]_(x)-CH(R^(5))-CH(R^(6))-又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-(CH_(2))_(y)-であり、R^(5)及びR^(6)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を表す。)
【0048】
R^(4)における炭素数1?8のアルキレン基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種オクチレン基などである。
R^(5)及びR^(6)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
xは1?18の整数、好ましくは1?4の整数、より好ましくは1?2の整数であり、yは1?5の整数、好ましくは1?4の整数、より好ましくは2又は3である。zは1?18の整数、好ましくは1?4の整数、より好ましくは1?2の整数である。
上記R^(4)としては、分散性の点から、炭素数1?8のアルキレン基が好ましく、中でも、R^(4)がメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基であることが更に好ましく、メチレン基及びエチレン基がより好ましい。
【0049】
一般式(I-a)における、R^(2)及びR^(3)の、ヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基における炭化水素基は、例えば、アルキル基、アラルキル基、アリール基などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、アルキル基の炭素数は、1?18が好ましく、中でも、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ビフェニルメチル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数は、7?20が好ましく、更に7?14が好ましい。
また、アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は、6?24が好ましく、更に6?12が好ましい。なお、上記好ましい炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
ヘテロ原子を含む炭化水素基とは、上記炭化水素基中の炭素原子がヘテロ原子でおきかえられた構造を有する。炭化水素基が含んでいてもよいヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子等が挙げられる。
また、炭化水素基中の水素原子は、炭素数1?5のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。
【0050】
また、Qにおける置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基としては、例えば、5?7員環の含窒素複素環単環、又はこれらの縮合環が挙げられ、更に別のヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していていもよい。また、含窒素複素環基は芳香族性を有していてもよい。
上記含窒素複素環基を形成する含窒素複素環式化合物としては、具体的には、ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。中でも、ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾール等のヘテロ原子として窒素原子のみを含む含窒素複素環式化合物であることが好ましく、ピリジン、イミダゾール等の芳香族性を有する含窒素複素環基であることがより好ましい。
【0051】
上記含窒素複素環基において、有していてもよい置換基としては、例えば炭素数1?12の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、F、Cl、Brなどのハロゲン原子等が挙げられ、これらを組み合わせて用いることもできる。また、これらの置換基の置換位置、及び置換基数は特に限定されない。
【0052】
上記一般式(I)で表される構成単位としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート等の含窒素(メタ)アクリレート;ビニルイミダゾール、ビニルピリジン等の含窒素ビニル単量体;ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体等から誘導される構成単位が挙げられるが、これらに限定されない。
一般式(I)で表される構成単位は、1種類からなるものであってもよく、2種以上の構成単位を含むものであってもよい。
【0053】
本発明において、分散剤として用いられる、少なくとも一般式(I)で表される構成単位を有し、当該構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成した重合体としては、中でも、後述する特定のブロック共重合体又は後述する特定のグラフト共重合体であることが、分散性及び分散安定性に優れ、金属粒子の沈降を抑制し、かつ導電性基板を製造する際の焼成処理により分解乃至揮散されやすい点から好ましい。
以下、好ましい特定のブロック共重合体、及び好ましいグラフト共重合体について、順に説明する。
【0054】
(ブロック共重合体)
本発明においては、前記分散剤における前記重合体が、前記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、前記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、前記酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体であることが、分散性、分散安定性に優れ、金属粒子の沈降が抑制され、かつ焼成後に有機成分が残存しにくい点から好ましい。
【0055】
【化13】

(一般式(II)中、A’は、直接結合又は2価の連結基、R^(10)は、水素原子又はメチル基、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)で示される1価の基である。R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(14)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【0056】
(一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部)
上記ブロック共重合体は、一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部を有する。一般式(I)で表される構成単位は上述の通りなので、ここでの説明は省略する。
一般式(I)で表される構成単位を有するブロック中、一般式(I)で表される構成単位は、3個以上含まれることが好ましい。中でも、分散性、及び分散安定性を向上する点から、3?200個含むことが好ましく、3?50個含むことがより好ましく、更に3?30個含むことがより好ましい。
一般式(I)で表される構成単位は、金属粒子との親和性を有すればよく、1種からなるものであっても良いし、2種以上の構成単位を含んでいてもよい。
【0057】
一般式(I)で表される構成単位を有するブロック共重合体中、一般式(I)で表される構成単位の含有割合は、一般式(I)で表される構成単位を有するブロック共重合体全体を100質量%としたときに、5?60質量%であることが好ましく、10?40質量%であることがより好ましい。
なお、上記構成単位の含有割合は、一般式(I)で表される構成単位を有するブロック共重合体を合成する際の仕込み量から算出される。
【0058】
(一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部)
上記ブロック共重合体は、前記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部を有する。当該ブロック部を有することにより、溶剤親和性をより良好にし、金属粒子の分散性及び分散安定性が良好で、金属粒子の沈降を抑制することができる。
【0059】
一般式(II)において、A’は、一般式(I)におけるAと同様のものとすることができる。中でも、有機溶剤への溶解性の点から、下記式(II-1)で表される構造であることが好ましい。
【0060】
【化14】

(一般式(II-1)中、R^(10)及びR^(11)は、一般式(II)と同様である。)
【0061】
一般式(II)及び一般式(II-1)において、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)を示す。
R^(11)における炭化水素基としては、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、又はアリール基であることが好ましい。
上記炭素数1?18のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、2-エチルヘキシル基、2-エトキシエチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、低級アルキル基置換アダマンチル基などを挙げることができる。
上記炭素数2?18のアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。このようなアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基などを挙げることができる。アルケニル基の二重結合の位置には限定はないが、得られたポリマーの反応性の点からは、アルケニル基の末端に二重結合があることが好ましい。
【0062】
アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられ、更に置換基を有していてもよい。アリール基の炭素数は、6?24が好ましく、更に6?12が好ましい。
また、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ビフェニルメチル基等が挙げられ、更に置換基を有していてもよい。アラルキル基の炭素数は、7?20が好ましく、更に7?14が好ましい。
アリール基やアラルキル基等の芳香環の置換基としては、炭素数1?4の直鎖状、分岐状のアルキル基の他、アルケニル基、ニトロ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
なお、上記好ましい炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0063】
また、上記R^(14)は水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基であって、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよい。
【0064】
上記R^(14)における炭化水素基は、前記R^(11)で示したものと同様のものとすることができる。
上記R^(11)において、x、y及びzは、前記R^(2)で説明したとおりである。
また、上記一般式(II)及び一般式(II-1)で表される構成単位中のR^(11)は、互いに同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0065】
上記R^(11)としては、中でも、後述する溶剤との溶解性に優れたものを用いることが好ましく、具体的には、例えば上記溶剤が、金属粒子分散体の溶剤として一般的に使用されているエーテルアルコールアセテート系、エーテル系、エステル系などの溶剤を用いる場合には、メチル基、エチル基、イソブチル基、n-ブチル基、2-エチルヘキシル基、ベンジル基等が好ましい。
【0066】
さらに、上記R^(11)は、上記ブロック共重合体の分散性能等を妨げない範囲で、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、水素結合形成基等の置換基によって置換されたものとしてもよく、また、上記ブロック共重合体の合成後に、上記置換基を有する化合物と反応させて、上記置換基を付加させてもよい。
【0067】
一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部を構成する構成単位の数は特に限定されないが、溶剤親和性部位と金属粒子親和性部位が効果的に作用し、金属粒子分散体の分散性を向上する点から、10?200個であることが好ましく、10?100個であることがより好ましく、更に10?70個であることがより好ましい。
【0068】
ブロック共重合体中、一般式(II)で表される構成単位の含有割合は、ブロック共重合体全体を100質量%としたときに、40?95質量%であることが好ましく、60?90質量%以上であることがより好ましい。
なお、上記構成単位の含有割合は、一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部を合成する際の仕込み量から算出される。
【0069】
一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部は、溶剤親和性部位として機能するように選択されれば良く、一般式(II)で表される構成単位は1種からなるものであっても良いし、2種以上の構成単位を含んでいてもよい。本発明においては、上記酸と塩形成可能な窒素部位を有する構成単位がブロック部として含まれれば良く、一般式(II)で表される構成単位が2種以上の構成単位を含む場合に、当該ブロック部内は2種以上の構成単位がランダムに配列していてもよい。
【0070】
分散剤として用いられるブロック共重合体において、一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部の構成単位のユニット数mと、一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部の構成単位のユニット数nの比率m/nとしては、0.01?1の範囲内であることが好ましく、0.05?0.7の範囲内であることが、金属粒子の分散性、分散安定性の点からより好ましい。
【0071】
前記ブロック共重合体の結合順としては、上記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部及び一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部を有し、金属粒子を安定に分散することができるものであればよく、特に限定されないが、上記一般式(II)で表される構成単位を含むブロック部が上記ブロック共重合体の一端のみに結合したものであることが、金属粒子との相互作用に優れ、分散剤同士の凝集を効果的に抑えることができる点から好ましい。
【0072】
分散剤の質量平均分子量は、特に限定されないが、金属粒子の、分散性、分散安定性を良好なものとし、沈降を抑制する点から、1000?20000であることが好ましく、2000?12000であることがより好ましく、更に3000?10000であることがより好ましい。
なお、本発明において、質量平均分子量Mwは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されたポリスチレン換算値である。
【0073】
(グラフト共重合体)
本発明においては、前記分散剤における前記重合体が、前記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(III)で表される構成単位とを有し、前記一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したグラフト共重合体であることが、金属粒子の分散性及び分散安定性に優れ、沈降を抑制し、かつ焼成後に有機成分の残存が抑制された金属膜を形成できる点から好ましい。
【0074】
【化15】

(一般式(III)中、R^(1’)は、水素原子又はメチル基、Lは、直接結合又は2価の連結基、Polymerは、下記一般式(IV)又は一般式(V)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。)
【0075】
【化16】

(一般式(IV)及び一般式(V)中、R^(17)は水素原子又はメチル基であり、R^(18)は炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-CO-O-R^(22)又は-O-CO-R^(23)で示される1価の基である。R^(19)及びR^(20)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(21)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(24)で示される1価の基であり、R^(22)は、炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)で示される1価の基である。R^(23)は炭素数1?18のアルキル基であり、R^(24)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
mは1?5の整数、n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【0076】
分散剤として、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素、よりなる群から選択される少なくとも1種と塩を形成した窒素部位を有する上記一般式(I)で表される構成単位を含む特定のグラフト共重合体を用いることにより、金属粒子の分散性、及び安定性を特に優れたものとすることができる。一方でグラフトされている枝状のポリマー鎖は溶剤への溶解性を有し、金属粒子の分散安定性を向上し、沈降を抑制する。
【0077】
<一般式(III)で表される構成単位>
上記グラフト共重合体は、側鎖にポリマー鎖を含む前記一般式(III)で表される構成単位を有することにより、溶剤親和性が良好になり、金属粒子の分散性及び分散安定性が良好なものとなる。
【0078】
前記一般式(III)において、Lは、直接結合又は2価の連結基である。Lにおける2価の連結基としては、エチレン性不飽和二重結合とポリマー鎖を連結可能であれば、特に制限はない。Lにおける2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、水酸基を有するアルキレン基、アリーレン基、-CONH-基、-COO-基、-NHCOO-基、エーテル基(-O-基)、チオエーテル基(-S-基)、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。なお、本発明において、2価の連結基の結合の向きは任意である。すなわち、2価の連結基に-CONH-が含まれる場合、-COが主鎖の炭素原子側で-NHが側鎖のポリマー鎖側であっても良いし、反対に、-NHが主鎖の炭素原子側で-COが側鎖のポリマー鎖側であっても良い。
【0079】
前記一般式(III)において、Polymerは、前記一般式(IV)又は前記一般式(V)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。
式(IV)中、R^(17)は水素原子又はメチル基であり、R^(18)は炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-CO-O-R^(22)又は-O-CO-R^(23)で示される1価の基である。
R^(18)における炭化水素基としては、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、又はアリール基であることが好ましい。
上記炭素数1?18のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、低級アルキル基置換アダマンチル基などを挙げることができる。
上記炭素数2?18のアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。このようなアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基などを挙げることができる。アルケニル基の二重結合の位置には限定はないが、得られたポリマーの反応性の点からは、アルケニル基の末端に二重結合があることが好ましい。
【0080】
R^(18)における、アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は、6?24が好ましく、更に6?12が好ましい。
R^(18)における、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ビフェニルメチル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数は、7?20が好ましく、更に7?14が好ましい。
【0081】
R^(21)は、水素原子、あるいは炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(24)で示される1価の基であり、R^(22)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、又は-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)で示される1価の基である。R^(23)は、炭素数1?18のアルキル基であり、R^(24)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
上記R^(21)、及びR^(22)のうちの炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基は、前記のR^(18)で示したとおりである。
上記R^(23)、及びR^(24)のうちのアルキル基は、前記のR^(18)で示したとおりである。
上記R^(18)、R^(21)、R^(22)、及びR^(23)が、芳香環を有する基である場合、当該芳香環はさらに置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば炭素数1?5の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基の他、アルケニル基、ニトロ基、F、Cl、Br等のハロゲン原子などが挙げられる。
なお、上記好ましい炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
上記R^(18)及びR^(22)おいて、x、y及びzは、前記Aで説明したとおりである。
【0082】
さらに、上記R^(18)、R^(21)、R^(22)、及びR^(23)は、上記グラフト共重合体の分散性能等を妨げない範囲で、更に、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、水素結合形成基等の置換基によって置換されたものとしてもよい。
【0083】
一般式(III)で表される構成単位に含まれるポリマー鎖は、上記した構成単位のなかでもメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルシクロヘキサンなど由来の構成単位を有するものが好ましい。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0084】
一般式(V)において、mは1?5の整数であり、好ましくは2?5の整数、より好ましくは4又は5の整数である。また、ポリマー鎖の構成単位のユニット数n及びn’は、5?200の整数であればよく、特に限定されないが、5?100の範囲内であることが好ましい。
【0085】
本発明において、上記R^(18)及びR^(22)としては、中でも、後述する溶剤との溶解性に優れたものを用いることが好ましく、金属粒子分散体に使用する溶剤に合わせて適宜選択されれば良い。具体的には、例えば上記溶剤が、金属粒子分散体の溶剤として一般的に使用されているエーテルアルコールアセテート系、エーテル系、エステル系などの溶媒を用いる場合には、メチル基、エチル基、イソブチル基、n-ブチル基、2-エチルヘキシル基、ベンジル基等が好ましい。
ここで、上記R^(18)及びR^(22)をこのように設定する理由は、上記R^(18)及びR^(22)を含む構成単位が、上記溶媒に対して溶解性を有し、上記モノマーの塩基部分が形成する塩形成部位が金属粒子に対して高い吸着性を有するものであることにより、金属粒子の分散性、及び安定性を特に優れたものとすることができるからである。
【0086】
Polymerにおけるポリマー鎖の質量平均分子量Mwは、500?15000の範囲内であることが好ましく、1000?8000の範囲内であることがより好ましい。上記範囲であることにより、分散剤としての十分な立体反発効果を保持できるとともに、立体効果による金属粒子の分散に要する時間の増大を抑制することもできる。
【0087】
また、Polymerにおけるポリマー鎖は、目安として、組み合わせて用いられる溶剤に対して、23℃における溶解度が50(g/100g溶剤)以上であることが好ましい。
当該ポリマー鎖の溶解性は、グラフト共重合体を調製する際のポリマー鎖を導入する原料が上記溶解度を有することを目安にすることができる。例えば、グラフト共重合体にポリマー鎖を導入するために、ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含む重合性オリゴマーを用いた場合、当該重合性オリゴマーが上記溶解度を有すれば良い。また、エチレン性不飽和二重結合を有する基を含むモノマーにより共重合体が形成された後に、共重合体中に含まれる反応性基と反応可能な反応性基を含むポリマー鎖を用いて、ポリマー鎖を導入する場合、当該反応性基を含むポリマー鎖が上記溶解度を有すれば良い。
【0088】
上記ポリマー鎖は、単独重合体でもよく、共重合体であってもよい。また、一般式(II)で表される構成単位に含まれるポリマー鎖は、グラフト共重合体において、1種単独でも良いが、2種以上混合していても良い。
【0089】
上記グラフト共重合体において、前記一般式(I)で表される窒素部位を含む構成単位は、3?80質量%の割合で含まれていることが好ましく、5?50質量%がより好ましく、10?40質量%がさらに好ましい。グラフト共重合体中の窒素部位を含む構成単位の含有量が上記範囲内にあれば、グラフト共重合体中の塩形成部位の割合が適切となり、かつ重合性オリゴマーによる溶剤に対する溶解性の低下を抑制できるので、金属粒子に対する吸着性が良好となり、優れた分散性、及び分散安定性が得られる。
なお、上記構成単位の含有割合は、一般式(I)で表される構成単位を有するグラフト共重合体を合成する際の仕込み量から算出される。
【0090】
また、上記グラフト共重合体の重量平均分子量Mwは、1000?100000の範囲内であることが好ましく、3000?30000の範囲内であることがより好ましく、5000?20000の範囲内であることがさらに好ましい。上記範囲であることにより、金属粒子を均一に分散させることができる。
【0091】
なお、上記重量平均分子量Mwは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値である。測定は、東ソー(株)製のHLC-8120GPCを用い、溶出溶媒を0.01モル/リットルの臭化リチウムを添加したN-メチルピロリドンとし、校正曲線用ポリスチレンスタンダードをMw377400、210500、96000、50400、20650、10850、5460、2930、1300、580(以上、Polymer Laboratories社製 Easi PS-2シリーズ)及びMw1090000(東ソー(株)製)とし、測定カラムをTSK-GEL ALPHA-M×2本(東ソー(株)製)として行われたものである。
【0092】
本発明において、グラフト共重合体の製造方法としては、前記一般式(I)で表される構成単位と、前記一般式(III)で表される構成単位とを有するグラフト共重合体を製造することができる方法であればよく特に限定されない。例えば、下記一般式(I’)で表される窒素含有モノマーと、前記一般式(IV)又は前記一般式(V)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基からなる重合性オリゴマーとを共重合成分として含有して共重合し、グラフト共重合体を製造する方法が挙げられる。必要に応じて更にその他のモノマーも用い、公知の重合手段を用いてグラフト共重合体を製造することができる。
【0093】
【化17】

(一般式(I’)中、R^(1)、A、Qは、一般式(I)と同様である。)
【0094】
また、前記一般式(I’)で表される窒素含有モノマーとその他のエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むモノマーとを付加重合して共重合体が形成された後に、共重合体中に含まれる反応性基と反応可能な反応性基を含むポリマー鎖を用いて、ポリマー鎖を導入しても良い。具体的には例えば、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、水素結合形成基等の置換基を有する共重合体を合成した後に、当該置換基と反応する官能基を含むポリマー鎖とを反応させて、ポリマー鎖を導入したものであっても良い。
例えば、側鎖にカルボキシル基を有する共重合体に、末端にグリシジル基を有するポリマー鎖を反応させたり、側鎖にイソシアネート基を有する共重合体に、末端にヒドロキシ基を有するポリマー鎖を反応させたりして、ポリマー鎖を導入することができる。
なお、上記重合においては、重合に一般的に用いられる添加剤、例えば重合開始剤、分散安定剤、連鎖移動剤などを用いてもよい。
【0095】
<酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素>
本発明の分散剤は、上記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上(以下、変性剤と称することがある。)とが塩を形成した重合体である。
本発明においては、上記特定の変性剤を用いることにより、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位を塩形成することにより、前記金属粒子との親和性が向上し、金属粒子の分散性及び分散安定性に優れたものとすることができ、沈降を抑制できる。
【0096】
酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素は、前記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位と塩形成し得るものの中から、適宜選択して用いることができる。
【0097】
(酸性有機リン化合物)
酸性有機リン化合物としては、中でも、下記一般式(VI)で表される有機リン酸化合物であることが好ましい。
【0098】
【化18】

(式(VI)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、-CO-CH=CH_(2)、-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【0099】
R^(a)、R^(a’)、R^(a’’)、及びR^(e)における炭化水素基としては、例えば、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、及びアリール基などが挙げられる。炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、及びアリール基は、前記一般式(II)におけるR^(11)と同様のものとすることができる。
【0100】
上記アルキル基やアルケニル基は置換基を有していても良く、当該置換基としては、F、Cl、Brなどのハロゲン原子、ニトロ基等が挙げられる。
また、上記アリール基やアラルキル基等の芳香環の置換基としては、炭素数1?4の直鎖状、分岐状のアルキル基の他、アルケニル基、ニトロ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
【0101】
R^(a)、R^(a’)及びR^(a’’)において、sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数である。sは、好ましくは1?4の整数、より好ましくは1?2の整数であり、tは、好ましくは1?4の整数、より好ましくは2又は3である。uは、好ましくは1?4の整数、より好ましくは1?2の整数である。
【0102】
R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)における、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基とは、-R’-O-R”、-R’-(C=O)-O-R”、又は-R’-O-(C=O)-R”(R’及びR”は、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基)で表される基である。1つの基の中に、エーテル結合及びエステル結合を2つ以上有していてもよい。炭化水素基が1価の場合としては、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基が挙げられ、炭化水素基が2価の場合としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、及びこれらの組み合わせの基が挙げられる。
【0103】
一般式(VI)において、Rf及びRhが、互いに結合して環構造を形成しているとは、具体的には、下記一般式(VI-1)で表される構造を有するものである。
【0104】
【化19】

(一般式(VI-1)中、R^(a)、R^(g)、及びR^(i)は、上記一般式(VI)におけるものと同様である。R^(m)は、上記R^(f)及びR^(h)が結合した基であって、更に置換基R^(l)を有していてもよい。)
【0105】
R^(f)とR^(h)が結合して環構造を形成する場合、環構造を形成する炭素原子数は、5?8であることが好ましく、6であること、即ち6員環であることがより好ましい。
置換基R^(l)における、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基は、前記R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)におけるものと同様のものとすることができる。
【0106】
-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHはそれぞれ、例えば、リン酸基の酸性基(OH)に単官能エポキシ化合物、又は単官能オキセタン化合物を反応させることにより、得ることができる。
【0107】
酸性有機リン化合物としては、中でも、有機ホスホン酸モノエステル化合物を含むことが好ましい。本発明において有機ホスホン酸モノエステル化合物とは、有機ホスホン酸が有する2つの酸性基のうちの一つがエステル化された、下記一般式(VI-2)の構造を有するものである。
【0108】
【化20】

(一般式(VI-2)中、R^(b)は、上記一般式(VI)におけるものと同様である。R^(n)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基であり、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよい。R^(c)、R^(d)、R^(e)、s、t、及びuは、上記一般式(VI)におけるものと同様である。)
【0109】
酸性有機リン化合物として、有機ホスホン酸モノエステル化合物を用いることにより、金属粒子の分散性及び分散安定性が向上する点から好ましく、中でも、R^(b)が、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される基であることがより好ましい。
【0110】
R^(n)における炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基は、上記一般式(VI)におけるR^(a)と同様のものとすることができる。
【0111】
上記一般式(VI)で表される有機酸化合物としては、前記一般式(VI)におけるR^(a)及びR^(a’)が、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、メチル基、エチル基、置換基を有していても良いアリール基又はアラルキル基、ビニル基、アリル基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、あるいは、-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、且つ、R^(a’’)が、メチル基、エチル基、置換基を有していても良いアリール基又はアラルキル基、ビニル基、アリル基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)であり、R^(c)及びR^(d)が、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(e)が-CO-CH=CH_(2)又は-CO-C(CH_(3))=CH_(2)であるものが金属粒子の分散性及び分散安定性に優れ、沈降を抑制し、焼結後の有機成分の残存が抑制されたものとすることができる点から好ましい。
【0112】
R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)における炭化水素基としては、例えば、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、及びアリール基などが挙げられる。炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、及びアリール基は、前記一般式(II)におけるR^(11)と同様のものとすることができる。
【0113】
(スルホン酸化合物)
スルホン酸化合物としては、中でも、下記一般式(VII)で表されるスルホン酸化合物であることが好ましい。
【0114】
【化21】

(式(VII)中、R^(b)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、-CO-CH=CH_(2)、-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【0115】
R^(b)及びR^(b’)における炭化水素基としては、上記R^(a)と同様のものとすることができる。また、R^(b)及びR^(b’)におけるs、t、uは、上記R^(a)におけるs、t、uと同様のものとすることができる。
【0116】
一般式(VII)で表されるスルホン酸化合物としては、一般式(VI)におけるR^(b)が、メチル基、エチル基、置換基を有していても良いアリール基又はアラルキル基、ビニル基、アリル基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、あるいは、-O-R^(b’)で示される1価の基であり、R^(b’)が、メチル基、エチル基、置換基を有していても良いアリール基又はアラルキル基、ビニル基、アリル基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)であり、R^(c)及びR^(d)が、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(e)が-CO-CH=CH_(2)又は-CO-C(CH_(3))=CH_(2)であるものが金属粒子の分散性及び分散安定性に優れ、沈降を抑制し、焼結後の有機成分の残存が抑制されたものとすることができる点から好ましい。
【0117】
中でも、上記一般式(VII)で表されるスルホン酸化合物は、R^(b)が、置換基を有していても良いアリール基又はアラルキル基、より具体的には、ベンジル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基であることが、金属粒子の分散性の点から好ましい。
【0118】
(ハロゲン化炭化水素)
本発明で用いられるハロゲン化炭化水素は、前記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位と塩形成し得るものである。
当該ハロゲン化炭化水素としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかのハロゲン原子が、飽和又は不飽和の直鎖、分岐又は環状の炭化水素の水素原子と置換されているものが挙げられる。中でも、炭化水素の水素原子の1つがハロゲン原子に置換されたハロゲン化炭化水素であることが、金属粒子の分散性を高める点から好ましい。
また、上記ハロゲン化炭化水素としては、直鎖、分岐鎖又は環状であっても良い。また、炭素数は、1?18であることが好ましく、更に1?7であることが好ましい。
【0119】
上記ハロゲン化炭化水素のうち、ハロゲン化アルキルとしては、炭素数1?18のものが挙げられるが特に限定されない。具体的には、例えば、塩化メチル、臭化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、塩化n-ブチル、塩化ヘキシル、塩化オクチル、塩化ドデシル、塩化テトラデシル、塩化ヘキサデシル等が挙げられる。また、ハロゲン化アリルとしては、例えば、塩化アリル、臭化アリル、ヨウ化アリルが挙げられる。また、上記ハロゲン化アラルキルのアラルキル基としては、炭素数7?18のものが挙げられるが特に限定されない。具体的には、例えば、塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジル、塩化ナフチルメチル、塩化ピリジルメチル、臭化ナフチルメチル、臭化ピリジルメチル等が挙げられる。
【0120】
中でも、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される少なくとも1種であることが、塩形成反応のしやすさと、生成した塩形成部位が金属粒子への吸着性に優れている点から好ましい。
【0121】
本発明で用いられる重合体において、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上の含有量は、良好な分散安定性が発揮されるのであればよく、特に制限はないが、一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位に対して、0.05?2.0モル当量程度、好ましくは0.1?1.0モル当量、より好ましくは0.2?0.8モル当量とすることが、金属粒子の分散性、分散安定性を向上し、沈降を抑制し、有機成分の残存の少ない金属膜を得ることができる点から好ましい。尚、上記酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素を2種以上併用する場合、これらを合計した含有量が上記範囲内にあればよい。
【0122】
<分散剤の製造>
本発明において分散剤に用いられる、塩型ブロック共重合体の製造方法としては、少なくとも一般式(I)で表される構成単位を有し、当該構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物とが塩を形成した重合体を製造することができる方法であればよく特に限定されない。本発明においては、例えば、一般式(I)で表される構成単位を有するモノマーと、応じて他のモノマーとを公知の重合手段を用いて重合した後、後述する溶剤中に溶解又は分散し、次いで該溶剤中に上記酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上を添加し、攪拌(必要に応じて加熱)することにより製造することができる。
上記重合手段としては、一般式(I)で表される構成単位及びその他の構成単位を所望のユニット比で重合し、所望の分子量とすることができる手段であればよく、特に限定されず、ビニル基を有する化合物の重合に一般的に用いられる方法を採用することができ、例えばアニオン重合やリビングラジカル重合等を用いることができる。本発明においては、なかでも、「J.Am.Chem.Soc.」105、5706(1983)に開示されているグループトランスファー重合(GTP)のようにリビング的に重合が進行する方法を用いることが好ましい。この方法によると、分子量、分子量分布等を所望の範囲とすることが容易であるので、該分散剤の分散性、アルカリ現像性等の特性を均一にすることができる。
【0123】
また、本発明において、分散剤として用いる塩型グラフト共重合体の製造方法としては、前記一般式(I)で表される構成単位と、前記一般式(III)で表される構成単位を有し、かつ前記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位と、前記酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したものを製造することができる方法であればよく特に限定されない。本発明においては、前記グラフト共重合多体の製造方法により得られたグラフト共重合体を溶解乃至分散する溶剤中に、上記酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上を添加し、攪拌(必要により加熱)することにより塩型グラフト共重合体を製造することができる。
【0124】
本発明の金属粒子分散体において、分散剤としては、上記重合体を1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、その含有量は、用いる金属粒子の種類等に応じて適宜設定されるが、金属粒子100質量部に対して、通常、0.1?100質量部の範囲であり、1?50質量部であることが好ましく、5?20質量部であることがより好ましい。分散剤の含有量が上記下限値以上であれば、金属粒子分散体の分散性及び分散安定性を優れたものとすることができる。また上記下限値以下であれば、焼成後の膜の導電性に優れている。
【0125】
<溶剤>
本発明の金属粒子分散体おいて、溶剤は、金属粒子分散体中の各成分とは反応せず、これらを溶解もしくは分散可能な有機溶剤であればよく、特に限定されない。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系;メトキシアルコール、エトキシアルコール、メトキシエトキシエタノール、エトキシエトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルアルコール系;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸3-メトキシブチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチルなどのエステル系;アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系;メトキシエチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、メトキシブチルアセテート、エトキシエチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、メトキシエトキシエチルアセテート、エトキシエトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテルアルコールアセテート系;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性アミド系;γ-ブチロラクトンなどのラクトン系;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどの不飽和炭化水素系;n-ヘプタン、n-ヘキサン、n-オクタンなどの飽和炭化水素系などの有機溶剤が挙げられる。
【0126】
これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルアルコール系;メトキシエチルアセテート、エトキシエチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、メトキシエトキシエチルアセテート、エトキシエトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテルアルコールアセテート系;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系;酢酸3-メトキシブチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチルなどのエステル系等を好適に用いることができる。
中でも、本発明に用いられる溶剤としては、MBA(酢酸3-メトキシブチル)、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、DMDG(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)又はこれらを混合したものが、分散剤の溶解性や塗布適性の点から好ましい。
【0127】
本発明の金属粒子分散体における溶剤の含有量は、該金属粒子分散体の各構成を均一に溶解又は分散することができるものであればよく、特に限定されない。本発明においては、該金属粒子分散体中の固形分含有量が、5?95質量%の範囲が好ましく、20?90質量%の範囲がより好ましい。上記範囲であることにより、塗布に適した粘度とすることができる。
【0128】
<その他の成分>
本発明の金属粒子分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、例えば、錯化剤、有機保護剤、還元剤、濡れ性向上のための界面活性剤、密着性向上のためのシランカップリング剤、消泡剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、粘度調製剤等が挙げられる。また、本発明の効果が損なわれない限り、他の分散剤が含まれていてもよい。
【0129】
<金属粒子分散体の製造方法>
本発明において、金属粒子分散体の製造方法は、金属粒子が良好に分散できる方法であればよく、従来公知の方法から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、前記分散剤を前記溶剤に混合、攪拌し、分散剤溶液を調製した後、当該分散剤溶液に、金属粒子と、必要に応じて他の成分を混合し、公知の攪拌機、又は分散機等を用いて分散させることよって、金属粒子分散体を調製することができる。
分散処理を行うための分散機としては、超音波分散機、2本ロール、3本ロール等のロールミル、アトライター、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0130】
[導電性基板の製造方法]
本発明に係る導電性基板の製造方法は、金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、少なくとも下記一般式(I)で表される構成単位を有し、当該構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成した重合体である、導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有することを特徴とする。
【0131】
【化22】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【0132】
【化23】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0133】
本発明の導電性基板の製造方法によれば、焼結後の有機成分の残存が抑制され、優れた導電性を有する導電性基板が得られる。
【0134】
本発明の導電性基板の製造方法は、少なくとも塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有するものであり、本発明の効果が損なわれない限り、必要に応じて他の工程を有していてもよいものである。
以下、このような本発明の導電性基板の製造方法の各工程について、順に説明する。
【0135】
<導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程>
本工程は、導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を基材上に塗布して塗膜を形成する工程である。以下、本工程の詳細を説明する。なお、当該導電性基板用金属粒子分散体の構成成分は、上記本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体と同様のものとすることができるのでここでの説明は省略する。
【0136】
(導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液)
導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液は、上記本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体をそのまま塗布液とすることもできるが、必要に応じて、溶剤や、その他の成分を加えて塗布液としてもよいものである。
溶剤及びその他の成分としては、例えば、上記本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体で挙げられた溶剤や、界面活性剤、シランカップリング剤、消泡剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、粘度調整剤等を用いることができる。更に、本発明の効果が損なわれない範囲で、造膜性、印刷適性や分散性の点から、アクリル樹脂やポリエステル樹脂等の樹脂バインダーを添加してもよい。
【0137】
(基材)
本発明に用いられる基材は、導電性基板に用いられる基材の中から、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、高歪点ガラス、石英ガラス等のガラス、アルミナ、シリカなどの無機材料を用いることができ、さらに高分子材料や、紙などを用いることもできる。前記本発明に係る導電性基板用金属微粒子分散体は、従来よりも低温で焼成処理しても導電性に優れた金属膜が得られることから、従来適用が困難であったソーダライムガラスや、高分子材料であっても好適に用いることができ、特に樹脂フィルムを用いることができる点で非常に有用である。
【0138】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラス-エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリノルボルネン等のポリシクロオレフィン、液晶性高分子化合物等が挙げられる。
【0139】
また、基材表面には、前記金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜をパターン状に形成した場合におけるパターンの形状を制御したり、前記金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜との間の密着性を付与するための処理を行ってもよい。基材表面の処理方法としては、従来公知の方法の中から適宜選択することができる。具体的には、例えば、コロナ処理、UV処理、真空紫外ランプ処理、プラズマ処理などのドライ処理、アミン系シランカップリング剤、イミダゾール系シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤処理などの薬液処理、多孔質シリカや、セルロース系受容層などの多孔質膜形成処理、活性エネルギー線硬化型樹脂層、熱硬化型樹脂層、熱可塑性樹脂層などの樹脂層形成処理を行うことができる。当該処理により、基材表面に撥液性を持たせることにより、基材に金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜をパターン状に形成した際、塗布液の濡れ広がりを抑え、高精細なパターンを形成することが可能である。また、基材表面に多孔質膜などのインク受容層を形成することにより、溶媒成分が浸透し、高精細なパターンを形成することが可能である。逆に、基材表面に親液性を持たせることで、基材に対する塗布性を向上させることができる。これらの基材表面の処理は、用途や目的に応じて使い分けることができる。
【0140】
当該基材の形状は、用途に応じて適宜選択すればよく、平板状であっても、曲面を有するものであってもよいが、通常は平板状である。平板状の基材を用いる場合、当該基材の厚みは、用途に応じて適宜設定すればよく、例えば10μm?1mm程度のものとすることができる。
【0141】
(塗布方法)
上記塗布液を上記基材上に塗布する方法は、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。例えば、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、反転オフセット印刷、スクリーン印刷、スプレーコート、スピンコート、コンマコート、バーコート、ナイフコート、スロットダイコート、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷等の方法が挙げられる。中でも、微細なパターニングを行うことができる点から、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、反転オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、及びインクジェット印刷が好ましい。特に、本発明において用いられる金属粒子分散体は、分散性に優れているため、インクジェットの吐出ノズルにつまりが生じたり、吐出曲がりが生じることがないため、インクジェット印刷にも好適に用いることができる。
【0142】
基材上の塗布液は、印刷後、通常の方法で乾燥してもよい。乾燥後の印刷部分の膜厚は、適宜塗布量や金属粒子の平均一次粒子径等を変化させて制御することができ、用途に応じて適宜調整すればよいものであるが、通常、0.01?50μmの範囲であり、好ましくは、0.1?20μmである。
【0143】
<塗膜を焼成処理する工程>
本工程は、上記工程で得られた塗膜を焼成処理して、金属膜を形成する工程である。
焼成方法は、従来公知の焼成処理方法の中から適宜選択して用いることができる。焼成方法の具体例としては、例えば、焼成炉(オーブン)により加熱する方法の他、赤外線加熱、還元ガス雰囲気下での焼成、レーザーアニールによる焼成、マイクロ波加熱などの方法が挙げられる。
本発明の導電性基板用金属粒子分散体は、低温で焼成した場合や、短時間で焼成した場合であっても有機成分の残留が少ない金属膜を形成することが可能であるため、従来の方法よりも低温で焼成処理してもよい。
【0144】
本発明においては、中でも、焼成処理する工程が、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより焼成処理する工程(以下、プラズマ焼成と称することがある。)、又は、パルス光の照射により焼成処理する工程(以下、パルス光焼成と称することがある。)のいずれかであることが、有機成分の残留が少なく導電性に優れた金属膜が得られる点から好ましい。
これらの方法を用いると、基材への熱ダメージを少なくすることができると共に、焼成時の金属の酸化も抑制できる。また、短時間焼成であるため、生産性が高いというメリットもある。
【0145】
(プラズマ焼成)
マイクロ波表面波プラズマを用いた焼成は、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下で行うのが、得られる焼結膜の導電性の観点から好ましい。
特に、本発明においては、マイクロ波表面波プラズマを、還元性ガス雰囲気下で発生させることが好ましく、中でも、水素ガス雰囲気下で発生させることがより好ましい。これにより、金属粒子表面に存在する絶縁性の酸化物が還元除去され、導電性能の良好な導電パターンが形成される。
【0146】
還元性雰囲気を形成する還元性気体としては、水素、一酸化炭素、アンモニアなどのガス、或いはこれらの混合ガスが挙げられるが、特に、副生成物が少ない点で水素ガスが好ましい。
なお、還元性気体には、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン等の不活性ガスを混合して用いれば、プラズマが発生しやすくなるなどの効果がある。
【0147】
マイクロ波表面波プラズマ処理の前に、金属粒子分散体を含む塗布液を塗布した塗膜に含まれる分散剤等の有機物を除去するために、大気下又は酸素を含む雰囲気下、50?200℃程度の温度で1分から2時間程度焼成してもよい。なお、この処理は減圧下で行ってもよい。この焼成により、有機物が酸化分解除去され、マイクロ波表面波プラズマ処理において、金属粒子の焼結が促進される。
【0148】
前記マイクロ波表面波プラズマの発生方法は、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。例えば、減圧状態の焼成処理室の照射窓からマイクロ波エネルギーを供給し、該焼成処理室内に照射窓に沿う表面波プラズマを発生させる無電極プラズマ発生手段等を用いることができる。
【0149】
上記無電極プラズマ発生手段の具体例としては、例えば、焼成処理室の照射窓から周波数2450MHzのマイクロ波エネルギーを供給し、該処理室内に、電子温度が約1eV以下、電子密度が約1×10^(11)?1×10^(13)cm^(-3)のマイクロ波表面波プラズマを発生させることができる。
なお、マイクロ波エネルギーは、一般に周波数が300MHz?3000GHzの電磁波であるが、例えば、2450MHzの電磁波が用いられる。この際、マイクロ波発振装置にマグネトロンを用いた場合には、精度誤差等のために2450MHz/±50MHzの周波数範囲を持っている。
【0150】
このようなマイクロ波表面波プラズマは、プラズマ密度が高く、電子温度が低い特性を有し、前記塗膜を低温かつ短時間で焼成処理することが可能であり、緻密かつ平滑な金属粒子焼結膜を形成することができる。マイクロ波表面波プラズマは、処理面に対して、面内で均一の密度のプラズマが照射される。その結果、他の焼成方式と比べて、面内で部分的に粒子の焼結が進行する等、不均一な膜が形成されることが少なく、また粒成長を防ぐことができるため、非常に緻密で、平滑な膜が得られる。また、面内処理室内に電極を設ける必要がないので、電極由来の不純物のコンタミネーションを防ぐことができ、また処理材料に対して異常な放電によるダメージを防ぐことができる。
更に、マイクロ波表面波プラズマは、電子温度が低いため、基材をエッチングする能力が小さく、基材に対するダメージを小さくすることができると推察される。
【0151】
(パルス光焼成)
パルス光焼成とは、パルス光の照射により極めて短時間で焼成する方法である。ここで、本発明においてパルス光とは、点灯時間が比較的短時間の光のことをいい、当該点灯時間をパルス幅という。パルス光の光源は特に限定されないが、キセノン等の希ガスが封入されたフラッシュランプやレーザー等が挙げられる。中でも、紫外線から赤外線までの連続的な波長スペクトルをもつ光を照射することが好ましく、具体的には、キセノンフラッシュランプを用いることが好ましい。このような光源を用いた場合には、加熱と同時にUV照射を行ったのと同様の効果を得ることができ、極めて短時間で焼成が可能となる。また、このような光源を用いた場合には、パルス幅と照射エネルギーを制御することにより、金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜、及びその近傍のみを加熱することができ、基材に対する熱の影響を抑えることができる。
本発明において、パルス光のパルス幅は、適宜調整すればよいものであるが、1μs?10000μsの間で設定されることが好ましく、10μs?5000μsの範囲内とすることがより好ましい。また、パルス光の1回あたりの照射エネルギーは、0.1J/cm^(2)?100J/cm^(2)が好ましく、0.5J/cm^(2)?50J/cm^(2)がより好ましい。
パルス光焼成においてパルス光の照射回数は、塗膜の組成や、膜厚、面積などに応じて適宜調整すればよく、照射回数は1回のみであってもよく、2回以上繰り返し行ってもよい。中でも、照射回数を1?100回とすることが好ましく、1?50回とすることが好ましい。パルス光を複数回照射する場合には、パルス光の照射間隔は適宜調整すればよい。中でも照射間隔を10μ秒?2秒の範囲内で設定することが好ましく、100μ秒?1秒の範囲内に設定することがより好ましい。
パルス光を上記のように設定することにより、基材への影響を抑えるとともに、金属粒子の酸化を抑制することが可能であり、且つ、金属粒子分散体に含まれる分散剤も脱離乃至分解しやすく導電性に優れた導電性基板を得ることができる。
【0152】
このようなパルス光焼成は、金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜、及びその近傍のみを加熱することができ、前記塗膜を低温かつ短時間で焼成処理することが可能であり、緻密かつ平滑な金属粒子焼結膜を形成することができる。パルス光焼成は、パルス光のパルス幅と照射エネルギーを適宜調整することで、加熱温度と処理深さを制御することができる。その結果、不均一な膜が形成されることが少なく、また粒成長を防ぐことができるため、非常に緻密で、平滑な膜が得られる。また、極めて短時間で焼成が可能であるので、金属粒子の酸化を抑えることができ、導電性に優れた焼結膜を得ることができる。
上記パルス光焼成は、大気中、大気圧下で行うことが可能であるが、不活性雰囲気下、還元雰囲気下、減圧下で行ってもよい。また、塗膜を加熱しながら、パルス光焼成を行ってもよい。
【0153】
このようにして得られた導電性基板の金属膜の厚みは、用途に応じて適宜調整すればよいものであるが、通常、厚みが0.01?50μm程度であり、0.05nm?30μmであることが好ましく、0.1?20μmであることがより好ましい。
また、上記金属膜の体積抵抗率は、1.0×10^(-4)Ω・cm以下であることが好ましい。
【0154】
本発明の製造方法は、基材上に、金属粒子分散体を含む塗布液をパターン状に塗布して、塗布膜を形成し、該塗布膜を焼成処理して、パターン状の金属膜を形成するパターン状導電性基板の製造方法であってもよい。
【0155】
本発明の導電性基板の製造方法により得られた導電性基板は、焼結後の有機成分の残存が抑制され、優れた導電性を有する。このような導電性基板を用いた電子部材としては、表面抵抗の低い電磁波シールド用フィルム、導電膜、フレキシブルプリント配線板などに有効に利用することができる。
【実施例】
【0156】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0157】
(合成例1 銅粒子の製造)
酸化第二銅64gと、有機保護剤としてゼラチン5.1gを650mLの純水に添加し、混合して混合液とした。15%のアンモニア水を用いて、当該混合液のpHを10に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、攪拌しながら錯化剤として1%のメルカプト酢酸溶液6.4gと、80%のヒドラジン一水和物75gを150mLの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させて、銅粒子を得た。得られた銅粒子を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察したところ、平均一次粒径は、50nmであった。
【0158】
(合成例2 マクロモノマーMM-1の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(略称PGMEA) 100.0質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度90℃に加温した。メタクリル酸メチル50.0質量部、メタクリル酸ブチル15.0質量部、メタクリル酸ベンジル15.0質量部、メタクリル酸エトキシエチル20.0質量部、2-メルカプトエタノール4.0質量部、パーブチルO(日油(株)社製)1.3質量部の混合溶液を1.5時間かけて滴下し、さらに3時間反応した。次に、窒素気流を止めて、この反応溶液を80℃に冷却し、カレンズMOI(昭和電工(株)社製)8.74質量部、ジラウリン酸ジブチルすず0.125質量部、p-メトキシフェノール0.125質量部、及びPGMEA10質量部、を加えて3時間攪拌することで、マクロモノマーMM-1の49.8質量%溶液を得た。得られたマクロモノマーMM-1を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて、N-メチルピロリドン、0.01mol/L臭化リチウム添加/ポリスチレン標準の条件で確認したところ、質量平均分子量(Mw)3657、数平均分子量(Mn)1772、分子量分布(Mw/Mn)は2.06であった。
【0159】
(合成例3 マクロモノマーMM-2の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、ε-カプロラクトン114.14質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度180℃に昇温し、n-オクタデシルアルコール27.049質量部および、ジラウリン酸ジブチルスズ0.1質量部を添加して、7時間反応した。次に、窒素気流を止めて、この反応溶液を80℃程度に冷却し、PGMEA 114.14質量部を加えたのち、カレンズMOI 16.29質量部、p-メトキシフェノール0.1質量部、及びPGMEA10質量部、を加えて、80℃にて3時間攪拌することで、マクロモノマーMM-2の57.40%溶液を得た。得られたマクロモノマーMM-2を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて、N-メチルピロリドン、0.01モル/L臭化リチウム添加/ポリスチレン標準の条件で確認したところ、質量平均分子量(Mw)4139、数平均分子量(Mn)2419、分子量分布(Mw/Mn)は1.71であった。
【0160】
(合成例4 グラフト共重合体GP-1の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、PGMEA85.0質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度85℃に加温した。合成例2のマクロモノマーMM-1溶液66.93質量部(有効固形分33.33質量部)、ジメチルアミノエチルメタクリレート16.67質量部、n-ドデシルメルカプタン1.86質量部、PGMEA20.0質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5質量部の混合溶液を1.5時間かけて滴下し、3時間加熱攪拌したのち、AIBN0.10質量部、PGMEA10.0質量部 の混合液を10分かけて滴下し、さらに同温で1時間熟成することで、グラフト共重合体GP-1の25.3質量%溶液を得た。得られたグラフト共重合体GP-1は、GPC測定の結果、質量平均分子量(Mw)9300、数平均分子量(Mn)4462、分子量分布(Mw/Mn)は2.08であった。なおアミン価は118mgKOH/gであった。
【0161】
(合成例5 グラフト共重合体GP-2の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、PGMEA85.0質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度85℃に加温した。合成例2のマクロモノマーMM-1溶液66.93質量部(有効固形分33.33質量部)、合成例3のマクロモノマーMM-2溶液29.04質量部(有効固形分16.67質量部)、n-ドデシルメルカプタン1.24質量部、PGMEA50.0質量部、AIBN0.5質量部の混合溶液を1.5時間かけて滴下し、3時間加熱攪拌したのち、AIBN0.10質量部、PGMEA10.0質量部の混合液を10分かけて滴下し、さらに同温で1時間熟成することで、グラフト共重合体GP-2の25.6質量%溶液を得た。得られたグラフト共重合体GP-2は、GPC測定の結果、質量平均分子量(Mw)15016、数平均分子量(Mn)6524、分子量分布(Mw/Mn)は2.30であった。なおアミン価は118mgKOH/gであった。
【0162】
(合成例6 有機ホスホン酸エステル化合物(PPA+GMA)の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EMDG)142.61質量部とフェニルホスホン酸(製品名「PPA」日産化学(株)製)50.00質量部、p-メトキシフェノール0.10質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度120℃まで加温した。メタクリル酸グリシジル(GMA)44.96質量部を30分かけて滴下し、2時間加熱攪拌することで、PPAの2価の酸性基の半分がGMAのエポキシ基とエステル化した有機ホスホン酸モノエステル化合物を含む有機ホスホン酸エステル化合物(PPA+GMA)の40.0質量%溶液を得た。エステル化反応の進行は酸価測定により、生成物の組成比は^(31)P-NMR測定により確認した。酸価は190mgKOH/gであり、有機ホスホン酸モノエステル化合物が55%、有機ホスホン酸ジエステル化合物が23%、PPAが22%の組成比であった。
【0163】
(製造例1 分散剤溶液Aの調製)
100mLナスフラスコ中で、PGMEA5.32質量部に、合成例4で得られたグラフト共重合体GP-1 12.16質量部(有効固形分3.08質量部)を溶解させ、更に、ライトエステルP-2M(ジメタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート)を0.52質量部(グラフト共重合体の窒素部位に対して0.30モル当量)を加え、40℃で30分攪拌することで分散剤溶液A(固形分20質量%)を調製した。このとき、グラフト共重合体のアミノ基は、ライトエステルP-2Mと酸-塩基反応により塩形成されている。
【0164】
(製造例2?11 分散剤溶液B?Kの調製)
製造例1において、ライトエステルP-2Mの代わりに、表1に記載の変性剤にそれぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、製造例2?11の分散剤溶液B?Kを得た。
【0165】
(製造例12 分散剤溶液Lの調製)
製造例1において、グラフト共重合体GP-1の代わりに、グラフト共重合体GP-2を用い、ライトエステルP-2Mの代わりに、臭化アリルを用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例12の分散剤溶液Lを得た。
【0166】
(製造例13 分散剤溶液Mの調製)
製造例1において、グラフト共重合体GP-1の代わりに、上記一般式(I)で表される構成単位と上記一般式(II)で表される構成単位とを有するブロック共重合体(商品名:BYK-LPN6919、ビックケミー社製、アミン価120mgKOH/g)を用い、ライトエステルP-2Mの代わりに、ホスホン酸を上記ブロック共重合体の窒素部位に対して3.3モル当量用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例13の分散剤溶液Mを得た。
【0167】
(製造例14?21 分散剤溶液N?Uの調製)
製造例13において、ホスホン酸の代わりに、表1に記載の変性剤を用いた以外は、製造例13と同様にして、製造例14?21の分散剤溶液N?Uを得た。
【0168】
(比較例造例1 分散剤溶液Vの調製)
合成例3でグラフト共重合体GP-1を変性せず、PGMEAで希釈して、固形分20質量%の分散剤溶液Vを得た。
【0169】
【表1】

【0170】
(参考例1 金属粒子分散体の調製)
合成例1の銅粒子6.0質量部、分散剤溶液A 2.25質量部(固形分換算0.45質量部)、PGMEA 6.75質量部を混合し、ペイントシェーカー(浅田鉄工製)にて予備分散として2mmジルコニアビーズで1時間、さらに本分散として0.1mmジルコニアビーズ4時間分散し、金属粒子分散体1を得た。
【0171】
(実施例2?10、参考例11、及び実施例12?20、参考例21)
参考例1において、分散剤溶液Aを分散剤溶液B?Uに変更した以外は、実施例1と同様にして、金属粒子分散体2?21を得た。
【0172】
(比較例1)
参考例1において、分散剤溶液Aの代わりに、ソルスパース3000(ルーブリゾール社製)を固形分換算で0.45質量部を用い、PGMEAを加えて全量を15質量部とした以外は、参考例1と同様にして、比較金属粒子分散体1を得た。
【0173】
(比較例2)
参考例1において、分散剤溶液Aの代わりに、ソルプラスD540(ルーブリゾール社製)を固形分換算で0.45質量部を用い、PGMEAを加えて全量を15質量部とした以外は、参考例1と同様にして、比較金属粒子分散体2を得た。
【0174】
(比較例3)
参考例1において、分散剤溶液Aの代わりに、hypermer KD-9(CRODA社製)を固形分換算で0.45質量部を用い、PGMEAを加えて全量を15質量部とした以外は、参考例1と同様にして、比較金属粒子分散体3を得た。
【0175】
(比較例4)
参考例1において、分散剤溶液Aを分散剤溶液Vに変更した以外は、参考例1と同様にして、比較金属粒子分散体4を得た。
【0176】
(評価)
<分散性評価>
金属粒子の分散性の評価として、各実施例及び比較例で得られた金属粒子分散体中の金属粒子の平均粒径の測定を行った。平均粒径の測定には、日機装製「マイクロトラック粒度分布計UPA-EX150」を用いた。結果を表2に示す。
【0177】
<沈降物評価>
各実施例及び比較例で得られた金属粒子分散体を、冷蔵(5℃)で1週間静置し、静置後の金属微粒子分散体中の沈降物を目視で観察した。結果を表2に示す。
沈降物がなければ分散安定性に優れているといえる。
【0178】
<導電性評価>
(1)光焼成による導電性基板の作製
各実施例及び比較例で得られた金属粒子分散体を、ポリイミドフィルム(商品名:カプトン300H、東レ・デュポン株式会社製、厚さ75μm)上にワイヤーバーで塗布して、100℃で15分乾燥して、膜厚が1μmの塗膜とした。その後、パルスドキセノンランプ装置(SINTERON 2000 (Xenon Corporation製))を用いて、パルス幅500μ秒、印加電圧3.8kVで1回照射して、導電性基板とした。
【0179】
(2)プラズマ焼成による導電性基板の作製
各実施例及び比較例で得られた金属粒子分散体を、ポリイミドフィルム(商品名:カプトン300H、東レ・デュポン株式会社製、厚さ75μm)上にワイヤーバーで塗布して、80℃で15分乾燥して、膜厚が1μmの塗膜とした。その後、水素ガスを導入圧力20Paで導入しながら、マイクロ波表面波プラズマ処理装置(MSP-1500、ミクロ電子株式会社製)を用いて、マイクロ波出力600Wで90秒間焼成し、導電性基板を得た。
【0180】
(3)シート抵抗値の測定
表面抵抗計((株)ダイアインスツルメンツ製「ロレスタGP」、PSPタイププローブ)を用いて、上記(1)及び(2)で得られた各実施例及び比較例の導電性基板の金属膜に4探針を接触させ、4探針法によりシート抵抗値を測定した。結果を表1に示す。シート抵抗値が低いほど導電性に優れている。なお、本測定法によるシート抵抗値の測定上限は10^(8)Ω/□であった。
【0181】
【表2】

【0182】
[結果のまとめ]
表2の結果から、分散剤として、一般式(I)で表される構成単位を有し、当該構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成した重合体を用いた、実施例2?10及び12?20の金属粒子分散体は、金属粒子の粒径を小さくすることができ、保管後においても沈降物が生じなかった。また、実施例2?10及び12?20を用いて製造された導電性基板は、光焼成、プラズマ焼成のいずれの方法を用いても、優れた導電性を有することが明らかとなった。
一般式(I)で表される構成単位を有し、当該構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成した重合体とは異なる、市販の分散剤を用いた比較例1?3の金属粒子分散体は、金属粒子の分散粒径が大きく、沈降物が生じやすいことが明らかとなった。比較例1?3の金属粒子分散体は、パルス光焼成法を用いた場合には、良好な金属膜を有する導電性基板を得ることができなかった。比較例1及び2の金属粒子分散体は、プラズマ焼成法を用いた場合には、導電性を有する導電性基板を得ることができたが、実施例2?10及び12?20と比較して、抵抗値が大きく、更に、表面の凹凸が大きく、表面平滑性が悪かった。金属粒子の分散粒径が大きいほど、表面平滑性が悪くなるものと推測される。
一般式(I)で表される構成単位を有するが、当該構成単位が有する窒素部位が塩変性されていない重合体を用いた、比較例4の金属粒子分散体は、調製後すぐであれば、実施例と同様に、優れた導電性を有する導電性基板を製造することができた。しかしながら、比較例4の金属粒子分散体は、1週間静置すると沈降物が生じており、分散安定性が悪いことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0183】
1 基材
2 金属膜
100 基板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である、導電性基板用金属粒子分散体。
【化1】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【化2】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【化3】

(一般式(II)中、A’は、直接結合又は2価の連結基、R^(10)は、水素原子又はメチル基、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)で示される1価の基である。R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(14)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【請求項2】
前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である、請求項1に記載の導電性基板用金属粒子分散体。
【化4】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、-CO-CH=CH_(2)、-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項3】
金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(III)で表される構成単位とを有し、前記一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したグラフト共重合体であって、
前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である、導電性基板用金属粒子分散体。
【化5】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【化6】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【化7】

(一般式(III)中、R^(16)は、水素原子又はメチル基、Lは、直接結合又は2価の連結基、Polymerは、下記一般式(IV)又は一般式(V)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。)
【化8】

(一般式(IV)及び一般式(V)中、R^(17)は水素原子又はメチル基であり、R^(18)は炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-CO-O-R^(22)又は-O-CO-R^(23)で示される1価の基である。R^(19)及びR^(20)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(21)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(24)で示される1価の基であり、R^(22)は、炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)で示される1価の基である。R^(23)は炭素数1?18のアルキル基であり、R^(24)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
mは1?5の整数、n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【化9】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c)-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基が、アルキル基の場合、置換基としてハロゲン原子、ニトロ基を有していてもよく、上記炭化水素基が、アリール基又はアラルキル基の場合、芳香環の置換基として、炭素数1?4の直鎖状、分岐状のアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項4】
前記金属粒子が、金、銀、銅、及びこれらの酸化物から選ばれる1種以上を含む金属粒子である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の導電性基板用金属粒子分散体。
【請求項5】
金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位を有するブロック部と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するブロック部とを有し、下記一般式(I)で表される構成単位が有する窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、ハロゲン化アリル、及びハロゲン化メチルよりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したブロック共重合体である、導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有する、導電性基板の製造方法。
【化10】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【化11】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【化12】

(一般式(II)中、A’は、直接結合又は2価の連結基、R^(10)は、水素原子又はメチル基、R^(11)は、炭化水素基、-[CH(R^(12))-CH(R^(13))-O]_(x)-R^(14)又は-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(14)で示される1価の基である。R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(14)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(15)で示される1価の基であり、R^(15)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【請求項6】
前記分散剤において、前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である、請求項5に記載の導電性基板の製造方法。
【化13】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、-CO-CH=CH_(2)、-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項7】
金属粒子と、分散剤と、溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(III)で表される構成単位とを有し、前記一般式(I)で表される構成単位に含まれる窒素部位の少なくとも一部と、酸性有機リン化合物、スルホン酸化合物、及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される1種以上とが塩を形成したグラフト共重合体であって、
前記酸性有機リン化合物が下記一般式(VI)で表される化合物であり、前記スルホン酸化合物が下記一般式(VII)で表される化合物である、導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有する、導電性基板の製造方法。
【化14】

(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R^(1)は、水素原子又はメチル基、Qは、下記一般式(I-a)で表される基、又は、置換基を有していても良い、塩形成可能な含窒素複素環基を表す。)
【化15】

(一般式(I-a)中、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよく、R^(2)及びR^(3)は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【化16】

(一般式(III)中、R^(16)は、水素原子又はメチル基、Lは、直接結合又は2価の連結基、Polymerは、下記一般式(IV)又は一般式(V)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。)
【化17】

(一般式(IV)及び一般式(V)中、R^(17)は水素原子又はメチル基であり、R^(18)は炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-CO-O-R^(22)又は-O-CO-R^(23)で示される1価の基である。R^(19)及びR^(20)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(21)は、水素原子、炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(24)で示される1価の基であり、R^(22)は、炭化水素基、シアノ基、-[CH(R^(19))-CH(R^(20))-O]_(x)-R^(21)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(21)で示される1価の基である。R^(23)は炭素数1?18のアルキル基であり、R^(24)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
mは1?5の整数、n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【化18】

(式(VI)及び式(VII)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a’’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、-C(R^(f))(R^(g))-C(R^(h))(R^(i))-OH、又は、-CH_(2)-C(R^(j))(R^(k))-CH_(2)-OHで示される1価の基である。
R^(b)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R^(e)は、水素原子、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、-CHO、-CH_(2)CHO、又は-CH_(2)COOR^(e’)で示される1価の基であり、R^(e’)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(f)、R^(g)、R^(h)、R^(i)、R^(j)及びR^(k)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R^(f)及びR^(h)は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R^(l)を有していてもよく、R^(l)は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される炭化水素基、又は、アルキル基、アラルキル基、及びアリール基より選択される1価の炭化水素基、並びに、アルキレン基、及びアリーレン基より選択される2価の炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基が、アルキル基の場合、置換基としてハロゲン原子、ニトロ基を有していてもよく、上記炭化水素基が、アリール基又はアラルキル基の場合、芳香環の置換基として、炭素数1?4の直鎖状、分岐状のアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項8】
前記焼成処理する工程が、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより焼成処理する工程である、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項9】
前記焼成処理する工程が、パルス光の照射により焼成処理する工程である、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-11 
出願番号 特願2012-221713(P2012-221713)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H05K)
P 1 651・ 537- YAA (H05K)
P 1 651・ 113- YAA (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 勝久  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6123214号(P6123214)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 導電性基板用金属粒子分散体、及び導電性基板の製造方法  
代理人 山下 昭彦  
代理人 岸本 達人  
代理人 岸本 達人  
代理人 山下 昭彦  

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