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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1342980
異議申立番号 異議2017-700416  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-25 
確定日 2018-06-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6014988号発明「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板,及びそれを有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6014988号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔2,3,5,7〕,〔4,6〕について訂正することを認める。 特許第6014988号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6014988号の請求項1?請求項5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願(特願2011-226358号)は,平成23年10月14日に出願され,平成28年10月7日に特許権の設定登録がされたものである。
本件特許について,平成28年10月26日に特許掲載公報が発行されたところ,特許掲載公報の発行の日から6月以内である平成29年4月25日に,特許異議申立人 大池聞平から特許異議の申立て(異議2017-700416号)がされた。
その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成29年 8月10日付け:取消理由通知書
平成29年10月16日付け:意見書(特許権者)
平成29年11月20日付け:取消理由通知書
平成30年 1月23日付け:訂正請求書
(この訂正請求書(平成30年2月22日付け手続補正書による補正後のもの)による訂正の請求を,以下「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を,以下「本件訂正」という。)
平成30年 1月23日付け:意見書(特許権者)
平成30年 3月28日付け:意見書(特許異議申立人)

第2 本件訂正請求について
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は,以下のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に「前記λ/4位相差フィルムが,斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。」と記載されているのを,二つの請求項に分け,請求項1の記載を引用して記載されたものを請求項4として「前記λ/4位相差フィルムが,斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。」に訂正するとともに,請求項2及び請求項3の記載を引用して記載されたものを請求項5として「前記λ/4位相差フィルムが,斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。」に訂正する。
請求項4の記載を引用して記載された請求項5(訂正後の請求項6及び7)についても,同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」と記載されているのを,二つの請求項に分け,請求項1及び請求項4の記載を引用して記載されたものを請求項6として「請求項1又は4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」に訂正するとともに,請求項2?請求項4の記載を引用して記載されたものを請求項7として「請求項2,3又は5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」に訂正する。

(3) 訂正事項3
明細書の【0016】に「 2.0≦X+Y≦3.0・・・・・式(1)
0.5≦Y・・・・・・・・・・・式(2)
(式(1)及び式(2)中,Xはアセチル基置換度を表し,Yはプロピオニル基置換度とブチリル基置換度との和を表す。)
100nm≦r≦500nm・・・式(3)
1.4<n<1.47・・・・・・式(4)
3.前記散乱体が,表面処理シリカ分散物であることを特徴とする前記2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
4.前記λ/4位相差フィルムが,斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする前記1?3項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
5.前記1?4項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」と記載されているのを,「2.前記λ/4位相差フィルムが,下記式(1)及び式(2)を満足するセルロースエステルと,散乱体とボイドとを含有し,かつ前記散乱体の平均粒径(r)と屈折率(n)とが,下記式(3)及び式(4)とを満足することを特徴とする第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
2.0≦X+Y≦3.0・・・・・式(1)
0.5≦Y・・・・・・・・・・・式(2)
(式(1)及び式(2)中,Xはアセチル基置換度を表し,Yはプロピオニル基置換度とブチリル基置換度との和を表す。)
100nm≦r≦500nm・・・式(3)
1.4<n<1.47・・・・・・式(4)
3.前記散乱体が,表面処理シリカ分散物であることを特徴とする前記2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
4.前記λ/4位相差フィルムが,斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする前記1項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
5.前記λ/4位相差フィルムが,斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする前記2又は3項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
6.前記1又は4項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
7.前記2,3又は4項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1) 一群の請求項について
訂正事項1による訂正に係る本件訂正前の請求項は,請求項4,及び請求項4の記載を引用する請求項5である。また,訂正事項2による訂正に係る本件訂正前の請求項は,請求項5である。そして,訂正事項3による訂正に係る本件訂正前の請求項は,請求項2,及び請求項2の記載を引用する請求項3?5である。
ここで,本件訂正請求は,本件訂正前の請求項2?請求項5について訂正の請求をしたものである。また,特許請求の範囲の各請求項の引用関係からみて,本件訂正請求は,一群の請求項ごとにされたものといえる。
したがって,本件訂正請求は,特許法120条の5第4項の規定に適合する。

(2) 訂正事項1及び訂正事項2について
訂正事項1及び訂正事項2による訂正は,請求項2及び請求項3の記載を引用して記載された請求項4及び請求項5を,請求項2及び請求項3を引用しないものとして訂正後の請求項4及び請求項5とし,その余を請求項6及び請求項7とする訂正である。したがって,訂正事項1及び訂正事項2による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる,「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」を目的とする訂正に該当する。
また,訂正事項1及び訂正事項2による訂正は,訂正前の請求項4及び請求項5を,それぞれ二つの請求項に書き分けたにすぎないものである。したがって,訂正事項1及び訂正事項2による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は,明細書の【0016】の記載が,訂正後の特許請求の範囲の記載と整合しなくなって明瞭でないものとなることを,回避するための訂正である。したがって,訂正事項3による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる,「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また,訂正事項3による訂正は,【0016】の記載を特許請求の範囲の記載に合わせて書き分けたにすぎないものである。したがって,訂正事項3による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
そして,【0016】の訂正に係る一群の請求項の全ては,訂正後の請求項2?請求項7であるところ,本件訂正請求は,訂正後の請求項2?請求項7について訂正することを求めるものである。

(4) 小括
本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであり,また,同法同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定にも適合する。そして,本件訂正請求は,同法120条の5第4項の規定に適合するとともに,同法同条第9項で準用する同法126条4項の規定にも適合する。
本件訂正による訂正後の請求項の引用関係からみて,訂正後の一群の請求項は,請求項〔2,3,5,7〕,〔4,6〕である。
よって,訂正後の請求項〔2,3,5,7〕,〔4,6〕について,訂正することを認める。

第3 本件特許発明について
前記「第2」のとおり,本件訂正は認められることとなったので,本件特許の請求項1?請求項7に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。)は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板であって,前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°であり,前記λ/4位相差フィルムの,前記λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である(ただし,垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く。)ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。

【請求項2】
前記λ/4位相差フィルムが,下記式(1)及び式(2)を満足するセルロースエステルと,散乱体とボイドとを含有し,かつ前記散乱体の平均粒径(r)と屈折率(n)とが,下記式(3)及び式(4)とを満足することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
2.0≦X+Y≦3.0・・・・・式(1)
0.5≦Y・・・・・・・・・・・式(2)
(式(1)及び式(2)中,Xはアセチル基置換度を表し,Yはプロピオニル基置換度とブチリル基置換度との和を表す。)
100nm≦r≦500nm・・・式(3)
1.4<n<1.47・・・・・・式(4)

【請求項3】
前記散乱体が,表面処理シリカ分散物であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。

【請求項4】
前記λ/4位相差フィルムが,斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。

【請求項5】
前記λ/4位相差フィルムが,斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。

【請求項6】
請求項1又は4に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。

【請求項7】
請求項2,3又は5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」

第4 取消の理由について
平成30年1月23日に付けで特許権者に通知した取消の理由は,概略,以下のとおりである。
1 36条6項1号
本件訂正前の請求項1?請求項5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから,本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 29条2項(甲1)
本件訂正前の請求項1?請求項5に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である甲1(特開2009-139812号公報)に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

3 29条2項(甲2)
本件訂正前の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である甲2(特開2002-62430号公報)に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
また,本件訂正前の請求項4及び5に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である甲2及び甲1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項4及び請求項5に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

4 29条2項(甲3)
本件訂正前の請求項1,4及び5に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である甲3(特開2010-217846号公報)に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,これら請求項に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

第5 当合議体の判断
1 甲1について
(1) 甲1の記載
本件出願前に頒布された刊行物である甲1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す(以下,同様である。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺方向に対して遅相軸が45±5°をなし,かつゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定であって,光源から130°の位置における散乱光強度を検出する測定をする場合において,フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が,0.05以下であることを特徴とするロール状の位相差フィルム。
【請求項2】
前記位相差フィルムが,アクリル系重合体,およびピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物を,少なくとも一種含有するセルロースエステルフィルムであることを特徴とする請求項1記載のロール状の位相差フィルム。
【請求項3】
偏光子と前記請求項1または2に記載の位相差フィルムを有することを特徴とする円偏光板。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機EL素子に用いられる位相差フィルムに関し,透明性が高く生産性の高いロール状の位相差フィルム,ロール状の位相差フィルムの製造方法および円偏光板に関する。
【背景技術】
…(省略)…
【0005】
即ち有機ELディスプレイは,その構造上陰極が光反射性の強い金属鏡面となっているため,発光していない状態では外光反射が著しく目立つことになり黒味が劣化する。
【0006】
外光反射を防止するために,従来よりλ/4板(またはλ/2)と呼ばれる位相差フィルムと直線偏光板を積層した円偏光板が用いられている。
【0007】
この黒味に対しては位相差フィルムの透明性が相関し,ヘイズが比較的低いポリカーボネート樹脂やノルボルネン系樹脂が好ましく用いられている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら,これらの樹脂は,波長分散性が不十分のため,その調整に位相差フィルムを複数使用することとなり,結局,満足な黒味が得られる程にはヘイズを低くすることはできていない。
【0009】
もともと円偏光板の使用は,ディスプレイの斜め方向からの視認性を劣化させる原因ともなっており,今後の大型化において増加する様々な角度から見られるケースに対して,斜めからの視認性の改良も必要とされている。
【0010】
この斜めからの視認性の改良のために,位相差フィルムに塗設する配向液晶層からの検討もあったが,結局その基材となるフィルムが満足のいくものではなかったため,課題の解決にはいたっていない(特許文献2)。
【0011】
一方,前記円偏光板を作成するにあたっては,従来,透明樹脂フィルムを製膜した後,これをフィルムの長尺方向または幅手方向に延伸して光学的にフィルム面内に遅相軸を出現させ,必要な面積だけ切り出してから,遅相軸と直線偏光板の透過軸が斜め45°付近になるように配置し,直線偏光板と貼り合わせるという方法が採られてきた。
【0012】
この方法には,位相差フィルムの切り出し時のロスや切り出し作業自体の手間などで生産性を上げることができないという課題や,個々の位相差フィルムと直線偏光板との貼合軸調整バラツキに起因する性能変動が生じやすいなどの課題があった。
【0013】
この課題に対して斜方延伸方法(特許文献3)や,前記特許文献2の配向液晶層の塗布が試みられたが,これらの技術だけでは,生産性という点では改善があったものの,画質の黒味を十分には改善することができなかった。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は,有機ELディスプレイにおいて,黒味の表現に優れた位相差フィルム,生産性の高い位相差フィルムの製造方法をおよびこの位相差フィルムを使用した偏光板を提供することにある。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
…(省略)…
【0037】
〈セルロースエステル〉
本発明のセルロースエステルとしては特に限定はないが,セルロースエステルとして炭素数2?22程度のカルボン酸エステルであり,芳香族カルボン酸のエステルでもよく,特に炭素数が6以下の低級脂肪酸エステルであることが好ましい。
…(省略)…
【0041】
本発明に好ましいセルロースアセテートフタレート以外のセルロースエステルとしては,下記式(1)及び(2)を同時に満足するものが好ましい。
【0042】
式(1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(2) 0≦Y≦1.5
式中,Xはアセチル基の置換度,Yはプロピオニル基またはブチリル基,もしくはその混合物の置換度である。」

エ 「【0202】
(微粒子)
本発明に係るセルロースエステルフィルムは,微粒子を含有することが好ましい。
…(省略)…
【0204】
微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく,特に二酸化珪素が好ましい。
【0205】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5?400nmが好ましく,更に好ましいのは10?300nmである。
【0206】
これらは主に粒径0.05?0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく,平均粒径100?400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。
【0207】
セルロースエステルフィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.01?1質量%であることが好ましく,特に0.05?0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成の偏光板保護フィルムの場合は,表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0208】
二酸化珪素の微粒子は,例えば,アエロジルR972,R972V,R974,R812,200,200V,300,R202,OX50,TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており,使用することができる。
…(省略)…
【0211】
これらの中でもアエロジル200V,アエロジルR972Vが偏光板保護フィルムの濁度を低く保ちながら,摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本発明で用いられる偏光板保護フィルムにおいては,少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2?1.0であることが好ましい。
…(省略)…
【0250】
〈延伸工程〉
本発明で目標とするレターデーション値Ro,Rtを得るには,セルロースエステルフィルムが本発明の構成をとり,更に延伸操作により屈折率制御を行うことが好ましい。
【0251】
本発明においては,長尺方向に対して遅相軸が45±5°をなすことを特徴とし,そのためには角度を調整して延伸する方法が採用される。
【0252】
角度を調整する方法としては,製膜方向に延伸し又は収縮を規制してから,前記製膜方向に対して傾斜方向に延伸し又は収縮を規制することが好ましく,例えば,特開2003-340916号公報実施例1に使用された延伸装置を用いた方法,図4に示す特開2005-284024号公報図1,製造例2に記載の延伸装置を用いた方法,特開2007-30466号公報に記載の延伸方法,特開2007-94007号公報実施例1に使用された延伸装置を用いた方法等を好ましく用いることができ,流延後オンラインで延伸製膜されてもよいし,製膜後改めて延伸してもよい。
…(省略)…
【0263】
本発明のセルロースエステルフィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し,製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は45°±5°であることが好ましく,45°±3°であることがより好ましい。
【0264】
このθ1は配向角として定義でき,θ1の測定は,自動複屈折計KOBRA-21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。θ1が各々上記関係を満たすことは,表示画像において高い輝度を得ること,光漏れを抑制または防止することに寄与でき,カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
…(省略)…
【0299】
また,本発明のセルロースエステルフィルムにさらに液晶層を塗布することにより,さらに広い範囲にわたるレターデーション値を得ることが出来る。
<垂直配向液晶層>
本発明の位相差フィルムは,フィルムの上にフィルムの厚み方向に配向する液晶分子を塗布し固定化した層(垂直配向液晶層)を有することができる。
【0300】
この垂直配向液晶層は,位相差フィルムの位相差をさらに調整する際に設けることが好ましい。
…(省略)…
【0306】
垂直配向液晶層のRtは,基材フィルムのRtを相殺するような設定にして,円偏光フィルムの視角特性をよくする意図があり,従って,基材フィルムのRtに応じて垂直配向液晶層の塗布条件(液晶分子の種類,塗布液中の液晶分子濃度,乾燥後の膜厚など)を適切に選択することが重要である。
…(省略)…
【0319】
〈直線偏光フィルム〉
直線偏光フィルムとしては,吸収型の直線偏光フィルムである限りにおいて限定されるものではなく,公知の種々の形態のものを適用可能である。一般的には,ポリビニルアルコールのような親水性高分子からなるフィルムを,ヨウ素のような二色性染料で処理して延伸したものや,ポリ塩化ビニルのようなプラスチックフィルムを処理してポリエンを配向させたもの等からなる偏光フィルムの他,当該偏光フィルムを封止フィルムでカバーして保護したもの等が用いられる。
【0320】
〈円偏光フィルムの構成〉
本発明の円偏光フィルムの断面構成を図で示す。図7?図9(当合議体注:図5?図7の誤記である。)は,本発明の実施態様の概略図であるが,本発明はこれに限定されるものではない。
…(省略)…
【0324】
〈有機EL素子の構成〉
図8は,本発明の円偏光素子を有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に使用した場合の,好ましい実施態様の概略図である。」
(当合議体注:図5?図8は以下の図である。)
【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


オ 「【実施例】
【0334】
以下,本発明について実施例を挙げて説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
〈ロール状の位相差フィルム-1の作製〉
ロール状の位相差フィルム-1を溶液流延法により下記の通り作製した。
【0335】
〈微粒子分散液〉
微粒子 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後,マントンゴーリンで分散を行った。
【0336】
〈微粒子添加液〉
メチレンクロライド 99質量部
セルロースエステルA 4質量部
微粒子分散液 11質量部
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースエステルAを添加し,加熱して完全に溶解させた後,これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。
【0337】
濾過後のセルロースエステル溶液を充分に攪拌しながら,ここに微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に,二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し,上記組成の微粒子添加液を調製した。
【0338】
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルAを攪拌しながら投入した。これを加熱し,攪拌しながら,完全に溶解し,更に可塑剤及び紫外線吸収剤を添加,溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し,主ドープ液を調製した。使用した素材は,表1に示す。
【0339】
【表1】


【0340】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 57質量部
セルロースエステルA 100質量部
本発明のアクリル系重合体 表2記載
本発明の糖エステル化合物 表2記載
可塑剤(A),(B),(C) 1:1:1の質量比 0.5質量部
トリメチロールプロパントリス(3,4,5-トリメ
トキシベンゾエート) 5.5質量部
主ドープ液100質量部と微粒子添加液2質量部となるように加えて,インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi-Mixer,SWJ)で十分に混合し,次いでベルト流延装置を用い,幅2mのステンレスバンド支持体に均一に流延した。
【0341】
ステンレスバンド支持体上で,残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ,ステンレスバンド支持体から剥離した。
【0342】
その後,特開2007-94007号公報の実施例1に記載の装置(延伸装置1)を用い,温度185℃,倍率1.5倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行い,乾燥させてロール状の位相差フィルム-1を得た。
【0343】
〈ロール状の位相差フィルム-2の作製〉
前記ロール状の位相差フィルム-1の作製において,延伸装置を特開2003-340916号公報実施例1に記載の装置(延伸装置2)に変更し,温度185℃,倍率1.5倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行った。
【0344】
〈ロール状の位相差フィルム-3の作製〉
前記ロール状の位相差フィルム-1の作製において,延伸装置を特開2007-30466号公報に記載の装置(延伸装置3)に変更し,温度185℃,倍率1.5倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行った。
【0345】
〈ロール状の位相差フィルム-4,5の作製〉
前記ロール状の位相差フィルム-1の作製において,本発明のアクリル系重合体,糖エステル化合物を表2記載のように変更し作製した。
【0346】
〈ロール状の位相差フィルム-6の作製〉
前記ロール状の位相差フィルム-1の作製において,本発明のアクリル系重合体,糖エステル化合物の代わりに可塑剤(A),(B),(C)の総量を5.5質量部に変更し作製した。
【0347】
得られたロール状の位相差フィルムを一部切り出し,ヘイズ,散乱光強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0348】
《レターデーションRo,Rtの測定》
得られたフィルムから試料35mm×35mmを切り出し,25℃,55%RHで2時間調湿し,自動複屈折計(KOBRA21DH,王子計測(株))で,590nmにおける垂直方向から測定した値とフィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値より算出した。
【0349】
《ヘイズ》
ヘイズメーター1001DP型,日本電色工業(株)製を使用してJIS K-6714に準じて測定した。
…(省略)…
【0353】
【表2】


【0354】
実施例2
〈ロール状の位相差フィルム-7の作製〉
ロール状の位相差フィルム-7を溶融流延法により図9に記載の装置を使用し下記の通り作製した。
【0355】
(ペレット作製)
セルロースエステルB 100質量部
本発明のアクリル系重合体 表3記載
本発明の糖エステル化合物 表3記載
(温度130℃で5時間乾燥,ガラス転移点:Tg=
174℃)
トリメチロールプロパントリス(3,4,5-トリメ
トキシベンゾエート) 1質量部
IRGANOX-1010(チバスペシャルティケミ
カルズ社製) 1質量部
SumilizerGP(住友化学(株)製) 0.5質量部
上記材料に,シリカ粒子(平均粒径0.1μm)0.05質量部を加え,窒素ガスを封入したV型混合機で30分混合した後,ストランドダイを取り付けた2軸押出し機(PCM30(株)池貝社製)を用いて240℃で溶融させ,長さ4mm,直径3mmの円筒形のペレットを作製した。このとき,せん断速度は,25(mm/s)に設定した。
【0356】
得られたペレットを100度5時間乾燥させ,含水率100ppmとし,幅300mmのTダイを取り付けた単軸押出し機(GT-50;(株)プラスチック工学研究所社製)に供給して押出し機およびTダイを250℃に設定して製膜を行った。
【0357】
Tダイ表面にはハードクロムメッキを施し面粗度0.1Sの鏡面仕上げを行った。Tダイから出たフィルムは110℃に温度調整したクロムメッキ鏡面の第1冷却ロールに落下させた。
【0358】
第1冷却ロールに密着したフィルムは,第1冷却ロールの円周部分を中心角10°搬送された後,弾性タッチロールで押圧した。このとき,フィルムの幅手250mmの全面に対し,4N/mmの圧力で接触した。
【0359】
押圧されたフィルムは第1冷却ロール5中心角150°の円周部分で接触した後,さらに,第2冷却ロール(温度110℃),第3冷却ロール(温度80℃)の合計3本の冷却ロールに順に外接させて,冷却固化してフィルムとし,剥離ロールによって剥離した。
【0360】
その後,延伸装置1を用い,温度170℃,倍率1.25倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行い,乾燥させてロール状の位相差フィルム-7を得た。
【0361】
本発明のアクリル系重合体および糖エステル化合物を表3に記載のように変更して同様の位相差フィルム-8?19を作製した。
【0362】
位相差フィルム-12ではセルロースエステルCを,位相差フィルム-15ではセルロースエステルDを位相差フィルム-7と同量使用した。
【0363】
位相差フィルム-17では,本発明のアクリル系重合体,糖エステル化合物の代わりに,トリメチロールプロパントリス(3,4,5-トリメトキシベンゾエート)を5質量部使用した。
【0364】
得られたロール状の位相差フィルムを一部切り出し,ヘイズ,散乱光強度の評価を行った。結果を表3に示す。
【0365】
【表3】


【0366】
本発明の試料は,ヘイズと散乱光強度差が小さく良好である。
実施例3
前記ロール状の位相差フィルムを用いて円偏光板を作製した。
【0367】
(円偏光板の作製)
実施例1および2の試料-1?19の一方の面に下記垂直配向液晶化合物を含有する塗布液D-1を塗布し,温風を当てて乾燥後,UV照射して層全体を硬化させた。垂直配向液晶層の厚みはRt=0±3nmとなるよう各々調整した。
【0368】
垂直配向液晶化合物:大日本インキ化学
工業株式会社製UCL-018 16質量部
メチルエチルケトン 16.8質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 67.2質量部
次に,厚さ120μmのポリビニルアルコールの長尺フィルムを,MD方向に一軸延伸(温度110℃,延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g,ヨウ化カリウム5g,水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し,次いでヨウ化カリウム6g,ホウ酸7.5g,水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗,乾燥しロール状の偏光子を得た。
【0369】
次いで,下記工程1?5に従って前記偏光子と,実施例1,2に記載のロール状の位相差フィルム-1?19と,裏面側にはロール状のコニカミノルタタックKC4UY(コニカミノルタオプト(株)製)を偏光板保護フィルムとして長尺方向で貼り合わせ,円偏光板1?19を作製した。
【0370】
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し,次いで水洗し乾燥して,偏光子と貼合する側(垂直配向液晶層を塗布していない方の面)を鹸化した位相差フィルムを得た。
【0371】
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1?2秒浸漬した。
【0372】
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き,これを工程1で処理したセルロースエステルフィルムの上にのせて配置した。
【0373】
工程4:工程3で積層した位相差フィルムと偏光子と裏面側セルロースエステルフィルムを圧力20?30N/cm^(2),搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0374】
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光子と位相差フィルムと裏面側セルロースエステルフィルムとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し,円偏光板-1?19を作製した。」

カ 「【0376】
(有機EL素子の作製)
…(省略)…
【0381】
有機EL素子のガラス基板に,本発明の円偏光板1?20をアクリル系粘着剤を介して貼付け試料とした。
【0382】
なお,円偏光板は,有機EL素子1のガラス基板と直線偏光板の間に本発明の位相差フィルムが位置するように貼り合わせた。」

(2) 甲1発明
ア 甲1の【0367】-【0374】には,実施例1(【0334】-【0353】)の位相差フィルム1-位相差フィルム6,及び実施例2(【0354】-【0365】)の位相差フィルム7-位相差フィルム19を使用してなる,円偏光板1-円偏光板19が開示されている。
ここで,上記位相差フィルムは,いずれも,その材料(【0335】,【0340】,【0355】及び【0362】)からみて,セルロースエステル及び微粒子を含有するものである。また,上記位相差フィルムは,その製造工程(【0334】-【0346】及び【0354】-【0363】)からみて,斜め延伸されてなる位相差フィルムということができ,また,延伸にともない,延伸方向に長いボイドが形成されていることは明らかである。
そして,甲1の【0005】-【0014】の記載からみて,上記円偏光板は,特に,有機ELディスプレイの外光反射を防止するために用いられる円偏光板といえる。
イ 甲1発明1
甲1の記載及び上記アを踏まえると,甲1には,以下の円偏光板1が記載されている(以下「甲1発明1」という。)。
「 有機ELディスプレイの外光反射を防止するために用いられる円偏光板1であって,
セルロースエステル,微粒子及びボイドを含有し,斜め延伸されてなるロール状の位相差フィルムの一方の面に,垂直配向液晶化合物を含有する塗布液を塗布し,温風を当てて乾燥後,UV照射して層全体を硬化させ,
ロール状の偏光子と,ロール状の位相差フィルムと,裏面側にロール状のコニカミノルタタックKC4UYを偏光板保護フィルムとして長尺方向で貼り合わせ作製してなり,
セルロースエステルはアセチル基置換度が1.65,プロピオニル基置換度が0.8のものであり,
位相差フィルムのヘイズが0.12である円偏光板1。」

ウ 甲1発明2-甲1発明6
甲1には,円偏光板2-円偏光板6(以下,それぞれ「甲1発明2」-「甲1発明6」という。)も記載されており,これらは,円偏光板1(甲1発明1)と以下に示すヘイズにおいて相違し,その余は同一のものである。
円偏光板2:位相差フィルムのヘイズが0.13
円偏光板3:位相差フィルムのヘイズが0.11
円偏光板4:位相差フィルムのヘイズが0.15
円偏光板5:位相差フィルムのヘイズが0.17
円偏光板6:位相差フィルムのヘイズが0.20

エ 甲1発明7
甲1には,次の円偏光板7も記載されている(以下「甲1発明7」という。)。
「 甲1発明1の円偏光板1において,
微粒子を,シリカ粒子(平均粒径0.1μm)とし,
セルロースエステルを,アセチル基置換度が1.31,プロピオニル基置換度が1.23のものに替えてなり,
位相差フィルムのヘイズが0.11である円偏光板7。」

オ 甲1発明8-甲1発明19
甲1には,円偏光板8-円偏光板19(以下,それぞれ「甲1発明8」-「甲1発明19」という。)も記載されており,これらは,円偏光板7(甲1発明7)と以下に示す事項において相違し,その余は同一のものである。
円偏光板8:位相差フィルムのヘイズが0.09
円偏光板9:位相差フィルムのヘイズが0.11
円偏光板10:位相差フィルムのヘイズが0.08
円偏光板11:位相差フィルムのヘイズが0.05
円偏光板12:セルロースエステルのアセチル基置換度が1.23でプロピオニル基置換度が1.52,位相差フィルムのヘイズが0.09
円偏光板13:位相差フィルムのヘイズが0.05
円偏光板14:位相差フィルムのヘイズが0.04
円偏光板15:セルロースエステルのアセチル基置換度が1.29でプロピオニル基置換度が1.36,位相差フィルムのヘイズが0.07
円偏光板16:位相差フィルムのヘイズが0.09
円偏光板17:位相差フィルムのヘイズが0.33
円偏光板18:位相差フィルムのヘイズが0.06
円偏光板19:位相差フィルムのヘイズが0.04

(3) 対比
以下,「円偏光板1」?「円偏光板19」を,「円偏光板」と総称することがある。また,「甲1発明1」?「甲1発明19」についても,「甲1発明」と総称することがある。

本件特許発明1と甲1発明を対比すると,甲1発明の「円偏光板」は,いずれも「有機ELディスプレイの外光反射を防止するために用いられる」ものである。また,その層構成は,「ロール状の偏光子と,ロール状の位相差フィルムと,裏面側にロール状のコニカミノルタタックKC4UYを偏光板保護フィルムとして長尺方向で貼り合わせ」たものである。ここで,円偏光板に関する技術常識を考慮すると,甲1発明の「位相差フィルム」は,「λ/4位相差フィルム」であり,その遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は45°である。
そうしてみると,甲1発明の「円偏光板」は,偏光子と斜め延伸されてなる位相差フィルムとが積層された有機ELディスプレイ用円偏光板であって,前記位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°である円偏光板といえる。
したがって,甲1発明の「偏光子」,「位相差フィルム」及び「円偏光板」は,それぞれ,本件特許発明1の「偏光子」,「λ/4位相差フィルム」及び「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板」に相当する。また,甲1発明の「円偏光板」は,本件特許発明1の「偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板であって,前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°であり」という要件を満たす。
(当合議体注:甲1発明9等では,延伸角度が45°ではないため,遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°と厳密に一致しない可能性もあるが,仮にこの点を相違点とするとしても,円偏光板の趣旨に鑑みれば,当業者が容易に設計できる範囲内の事項にすぎない。)

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「 偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板であって,前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°である,有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は,以下の点で相違する。
(甲1相違点1)
本件特許発明1の「λ/4位相差フィルム」は,「前記λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である」のに対して,甲1発明の内部ヘイズは不明である点。

(甲1相違点2)
本件特許発明1の「円偏光板」は,「垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く」ものであるのに対して,甲1発明の「円偏光板」は,「位相差フィルムの一方の面に,垂直配向液晶化合物を含有する塗布液を塗布し,温風を当てて乾燥後,UV照射して層全体を硬化させ」て作製されたものであるから,「垂直配向液晶層を有する円偏光板」である点。

(5) 判断
ア 甲1相違点1について
内部ヘイズは,ヘイズから表面ヘイズを除いたものである。また,甲1発明の位相差フィルムの内部ヘイズには偏り(直線偏光の方向に応じた相違)があると考えられる。ここで,甲1発明に関しては,ヘイズは判明しているが,表面ヘイズは不明であり,内部ヘイズの偏りの状態も不明である。
しかしながら,甲1発明の位相差フィルムのヘイズについてみると,最も小さいものは0.04(甲1発明14)であり,最も大きなものは0.33(甲1発明17)となっている。また,甲1発明の位相差フィルムには微粒子が所定量含まれる。そうしてみると,表面ヘイズを除く等しても,その内部ヘイズが0.01%よりも小さくなるとは考えがたい。
そうしてみると,甲1発明の位相差フィルムのヘイズから表面ヘイズを除き,かつ,内部ヘイズの偏りを勘案するとしても,甲1発明1?甲1発明19のうちいくつかは,「位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内」にあると考えられる。
したがって,甲1発明1?甲1発明19との関係においては,甲1相違点1は,相違点ではない。

(特許権者の主張について)
甲1相違点1に関して,特許権者は,「本件特許発明は,外光反射の抑制と表示の均一性の相反する二つの課題を両立させる偏光板の発明です。すなわち,本件特許発明は,従来の無偏光光に対するヘイズの調製では,外光反射の防止と表示の均一性を両立できないところ,ヘイズは低い方が良いという技術常識に反し,内部ヘイズに着眼し,λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズを特定範囲に規定することにより,有機EL表示素子の反射防止機能を有するとともに発光ムラ(表示の均一性)が改善されることを見いだしたものであります。つまり,外光反射においては低ヘイズが望ましく,一方表示ムラにおいてはある程度ヘイズがあることが望ましいことを見出し,さらに偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板においては,位相差フィルムが装置内に組み込まれ,接着剤等で貼り合せられることから,表面ヘイズの影響よりむしろ内部ヘイズの影響が大きいことを見出したことによって,本件特許発明に到達したものです。」と主張する。

しかしながら,外光反射の抑制の観点からみた場合に,λ/4位相差フィルムのヘイズが比較的低い方が好ましいことは,技術的にみて明らかである。そして,甲1の【0007】,【0008】及び【0366】の記載からみて,甲1発明は,ヘイズを低くすることにより外光反射を抑制した発明といえる。また,甲1発明のうち,少なくとも,甲1発明8,甲1発明10?甲1発明16,甲1発明18及び甲1発明19については,ヘイズが0.1%以下であるから,内部ヘイズも0.1%以下である。また,外部ヘイズが相当程度小さいと仮定しない限り,甲1発明1?甲1発明4,甲1発明7及び甲1発明9の内部ヘイズも,0.1%以下である。
次に,本件特許発明1において求められる「表示の均一性」とは,発光にムラのある青発光素子,緑発光素子及び赤発光素子の3色の発光素子からなる一つの画素が均一な白と認識されず,例えば青色に近い白の部分や赤色に近い白の部分等が観察され表示品位を落とす(本件特許の明細書の【0027】)という問題に対する「表示の均一性」である。ここで,甲1には,このような観点からの表示の均一性に関する記載は存在しない。しかしながら,一つの画素が均一な白と認識されず,青色に近い白の部分や赤色に近い白の部分等が観察されるという問題は,画素レベルでの表示ムラの問題である。そして,このような問題は,ヘイズが僅かでもあれば,解決される問題と考えられる。また,甲1発明は,ヘイズを低くすることを考慮した発明ではあるが,ヘイズを全くなくすことを意図した発明ではない。すなわち,甲1発明の位相差フィルムには,濁度を低く保ちながらフィルムの摩擦係数を下げることを目的として,微粒子が含まれる(【0211】)。そうしてみると,甲1発明の位相差フィルムにおいても,本件特許発明において求められる表示の均一性が保たれているといえる。したがって,外光反射の抑制と表示の均一性の両立という課題は,甲1発明のような低ヘイズの位相差フィルムにおいては,解決済みの課題と考えられる。
なお,表面ヘイズの影響よりむしろ内部ヘイズの影響が大きいという知見は,本件特許の発明の詳細な説明に開示された知見ではない。また,本件特許発明1には,ヘイズを表す指標として,一般に広く使用されているヘイズではなく,ヘイズと相関関係にある内部ヘイズを採用したにすぎない発明も含まれる。換言すると,本件特許発明1の範囲には,内部ヘイズのみが小さい発明のみならず,ヘイズが小さい発明が含まれる。そして,単にヘイズを押さえた発明との関係においては,本件特許発明1と甲1発明は,相違しないといえる。
したがって,特許権者の主張は採用できない。

イ 甲1相違点2について
甲1発明は,甲1の特許請求の範囲に記載された発明の具体的実施例であるところ,甲1の特許請求の範囲に記載された発明は,垂直配向液晶層を発明特定事項として具備しない。また,甲1の【0300】の記載からみても,垂直配向液晶層は,「位相差フィルムの位相差をさらに調整する際に設けることが好ましい」ものにすぎない。
これら甲1の記載に接した当業者ならば,甲1発明は,「垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く」円偏光板の発明の実施例でもあると理解するといえる。
したがって,甲1発明において垂直配向液晶層の構成を除くことは,甲1が予定している事項にすぎない。

(特許権者の主張について)
甲1相違点2に関して,特許権者は,「甲1発明の実施例では,その垂直配向液晶層のある状態で,偏光板が完成されており,垂直配向液晶層を設けていない記載はありません。わざわざ,実施例で使用したフィルム自体を用いて,垂直配向液晶層を除いて,偏光板を作成する思想はありません。」と主張する。

しかしながら,甲1発明の実施例は,甲1の請求項1に記載された発明をサポートする実施例である。そして,甲1の請求項1に記載された発明は,垂直配向液晶層を発明特定事項として具備するものではない。したがって,甲1発明の垂直配向液晶層は,位相差フィルムの位相差をさらに調整する際に設けられる,任意付加的な構成と理解されるべきである。

念のため,甲1発明において垂直配向液晶層の構成を除くことを,当業者が具体的に想起できるかについて確認すると,以下のとおりである。
すなわち,甲1発明における垂直配向液晶層は,有機ELディスプレイの今後の大型化において増加する様々な角度から見られるケースに対して,斜めからの視認性の改良も必要とされているという課題に対応するために設けられたものである(【0009】,【0010】及び【0306】)。
しかしながら,甲1が出願された後,本件特許出願時までの有機ELディスプレイの開発動向は,大型化には向かわず,スマートフォンなどの小型かつ正面から見ることを前提としたディスプレイに向かうこととなった。
そうしてみると,本件特許の出願前(当時)の当業者ならば,斜めからの視認性に着目した甲1発明の課題や課題解決手段に拘泥することなく,甲1発明の垂直配向液晶層は,むしろ除かれても支障がないものと理解するといえる。
したがって,特許権者の主張は採用できない。

ウ 効果について
本件特許発明1の効果は,「外光反射が少なく表示の均一性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を提供することができる。」(【0017】)というものである。
しかしながら,前記(5)アのとおりであるから,本件特許発明1の効果は,甲1発明が奏する効果にすぎない。

エ 小括
本件特許発明1は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(6) 本件特許発明2?本件特許発明5について
ア 対比
甲1発明のセルロースエステルのアセチル基置換度及びプロピオニル基置換度(とブチリル基置換度との和),並びに,甲1発明の「位相差フィルム」が「斜め延伸されてなる」ことを考慮して,本件特許発明5と甲1発明を対比すると,両者は,前記甲1相違点1及び甲1相違点2に加えて,次の点で相違する(当合議体注:引用する請求項によっては相違点でない場合もある。)。
(甲1相違点3)
本件特許発明5の「λ/4位相差フィルム」は,「散乱体」「を含有し,かつ前記散乱体の平均粒径(r)と屈折率(n)とが,下記式(3)及び式(4)とを満足する」「表面処理シリカ分散物である」のに対して,甲1発明1?甲1発明6は「微粒子」を含み,また,甲1発明7?甲1発明19は「微粒子」として「シリカ粒子(平均粒径0.1μm)」を含むが,その余は明らかでない点。
(当合議体注:式(3)及び式(4)は,以下のとおりである。)
100nm≦r≦500nm・・・式(3)
1.4<n<1.47・・・・・・式(4)

イ 判断
甲1の実施例の記載を参照しても,甲1発明の「微粒子」が具体的に何なのか,特定できない。そうしてみると,甲1発明を理解しようとする当業者ならば,必然的に甲1の他の記載箇所を参照すると考えられるところ,甲1の【0202】?【0211】には,「本発明に係るセルロースエステルフィルムは,微粒子を含有することが好ましい…特に二酸化珪素が好ましい…粒径0.05?0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく,平均粒径100?400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい…これらの中でもアエロジル200V,アエロジルR972Vが偏光板保護フィルムの濁度を低く保ちながら,摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。」と記載されている。また,アエロジルの屈折率が1.46であること,及びアエロジルR972Vが表面処理されたシリカであることは,例示するまでもなく当業者に周知の事項である。
したがって,これら記載に接した当業者が,甲1発明の「微粒子」として,例えばアエロジルR972Vを選択するとともに,平均粒径rを「100nm≦r≦500nm」の要件を満たす範囲内で調製したもの(例:甲1発明7の「平均粒径0.1μm」)を所定量使用することにより,甲1発明と同様のヘイズの位相差フィルムを得ることは,甲1の記載に従う当業者が自然に行う事項にすぎない。
以上勘案すると,甲1相違点3に係る本件特許発明5の構成を具備した円偏光板を得ることは,甲1発明を具体化する当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。
甲1相違点1及び甲1相違点2についての判断は,前記(5)ア及びイと同様である。また,効果については,前記(5)ウと同様である。
したがって,本件特許発明5は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

本件特許発明2?本件特許発明4は,以上のとおり判断してなる本件特許発明5から,請求項2,請求項3及び/又は請求項4に記載された発明特定事項を除いたものである。
したがって,本件特許発明5と同様の理由により,本件特許発明2?本件特許発明4は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(7) 本件特許発明6及び本件特許発明7について
本件特許発明7と甲1発明を対比すると,円偏光板に関する前記甲1相違点1?甲1相違点3(当合議体注:引用する請求項によっては相違点でない場合もある。)に加えて,一応,以下の相違点が見いだされる。
(甲1相違点4)
本件特許発明7は,本件特許発明2,本件特許発明3又は本件特許発明5の「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有する」「有機エレクトロルミネッセンス表示装置」であるのに対して,甲1発明は,「円偏光板」である点。

しかしながら,甲1発明の「円偏光板」は,「有機ELディスプレイの外光反射を防止するために用いられる」ものであるから,甲1発明を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置は,甲1発明から自ずと導き出される構成にすぎない。
また,甲1相違点1?甲1相違点3についての判断は,前記(5)ア及びイ,並びに,前記(6)イで述べたとおりである。そして,効果については,前記(5)ウと同様である。
したがって,本件特許発明7は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
本件特許発明6についても,同様である。

(8) 小括
本件特許発明1?本件特許発明7は,甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,請求項1?請求項7に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

2 甲2に基づく29条2項の取消の理由について
(1) 甲2の記載
本件出願前に頒布された刊行物である甲2には,以下の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,液晶表示装置,有機ELディスプレイ等の表示装置に用いられるセルロースフィルム及びその製造方法に関し,更に詳しくは,位相差機能を備えた長尺位相差フィルム,光学フィルム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年,薄型軽量ノートパソコンの開発が進んでいる。それに伴って,液晶表示装置等の表示装置で用いられる偏光板の保護フィルムもますます薄膜化,高性能化への要求が強くなってきている。
…(省略)…
【0004】液晶表示装置等に使用されている位相差フィルムは,偏光板と組み合わせて使用することで,色補償,視野角拡大等の問題を解決するために用いられており,可視光領域の波長に対して直線偏光を円偏光に変換したり逆に円偏光を直線偏光に変換する機能を有している。1枚の位相差フィルムで上記の効果を得るには,位相差フィルムに入射する波長(λ)において位相差がλ/4になることが好ましい。
…(省略)…
【0005】また,プラズマディスプレイや有機EL素子を用いたディスプレイ等の前面板における反射防止フィルムとして利用することで,反射光の色付きを低減することが可能である。また,タッチパネル等の反射防止にも利用することができる。」

イ 「【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,均一な位相差機能を有し,加えて面品質(押され故障,膜厚偏差が少ない)に優れ,更に,リターデーション値R0の制御が容易で,均一な位相差特性を有する光学フィルムを生産性よく製造できるセルロースエステルフィルム,長尺位相差フィルム,光学フィルムとその製造方法を提供することにあり,またこれらを用いた表示品質に優れる偏光板及び表示装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は,以下の構成により達成された。
【0014】1.炭素数2?4のアシル基を置換基として有し,グルコース残基における2位,3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり,かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含むことを特徴とするセルロースエステルフィルム。」

ウ 「【0042】以下に,本発明を更に具体的に説明する。本発明のセルロースエステルフィルムは,炭素数2?4のアシル基を置換基として有し,グルコース残基における2位,3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり,かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含むことを特徴とする。
…(省略)…
【0063】本発明のセルロースエステルフィルムを四分の一波長板として用いる場合は,R590は,147.5±20nmが好ましく,更に147.5±10nmであることが好ましい。同様にR550は,137.5±20nmが好ましく,更に137.5±10nmであることが好ましい。この範囲とすることで,良好な四分の一波長板の機能が得られる。
…(省略)…
【0069】また,本発明のセルロースエステルフィルムは,ヘイズが1.0%以下であることが好ましく,更に好ましくはヘイズ0.5%以下であり,特に好ましくは0?0.1%未満である。透過率については,90%以上であることが好ましく,特には92%以上であることが好ましい。
【0070】また,本発明のセルロースエステルフィルムは,中心線表面粗さRaが0.5?20nmの範囲であることが好ましく,これにより極めて平滑な表面を有するセルロースエステルフィルムを得ることができる。
…(省略)…
【0156】また,本発明において,セルロースエステルフィルム中に,取扱性を向上させる為,例えば二酸化ケイ素,二酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,炭酸カルシウム,カオリン,タルク,焼成ケイ酸カルシウム,水和ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム,ケイ酸マグネシウム,リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子などのマット剤を含有させることができる。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さくできるので好ましい。微粒子の2次粒子の平均粒径は0.01?5.0μmの範囲で,その含有量はセルロースエステルに対して0.005?0.3質量%が好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子には有機物により表面処理されている場合が多いが,このようなものはフィルムのヘイズを低下できるため好ましい。
…(省略)…
【0157】さらに,請求項7に係る発明では,1次平均粒子径が20nm以下であり,見かけ比重が70g/リットル以上の酸化珪素微粒子を含むことが特徴であり,これによりR0値が110nm以上のフィルムでヘイズを低くできる点で好ましい。1次粒子の平均径が20nm以下で見かけ比重が70g/リットル以上の酸化珪素微粒子は,例えば,気化させた四塩化珪素と水素を混合させたものを1000?1200℃にて空気中で燃焼させることで得ることができる。これらは,例えば,上記の日本アエロジル(株)製のAER0SIL 200V,AER0SIL R972Vの商品名で市販されており使用することができる。
…(省略)…
【0190】また,本発明のセルロースエステルフィルムは,偏光板の一方の面に貼合して円偏光板を作製することができる。すなわち,本発明の光学フィルムを四分の1波長板として用いた偏光板の場合,自然偏光を円偏光に変換できる円偏光板となる。これは,プラズマディスプレーや有機ELディスプレー等の前面板に設置することで反射防止フィルムや防眩フィルムとして働き,着色や視認性の劣化を防止できる。また,タッチパネルの反射防止にも使用できる。」

エ 「【0192】
【実施例】以下に,本発明を実施例により具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0193】実施例1〔セルロースアセテート1の作製〕
…(省略)…
【0195】〔ドープ液1の調製〕
…(省略)…
【0196】〔紫外線吸収剤溶液1の調製〕
…(省略)…
【0199】〔セルロースエステルフィルム1(光学フィルム1)の作製〕上記ドープ液1の100質量部に対して,前記紫外線吸収剤溶液1を2質量部の割合で加え,スタチックミキサーにより十分混合した後,ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度30℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から25℃の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後,更にステンレスベルトの裏面に,15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後,ステンレスベルトから剥離した。剥離時のセルロースエステルフィルム中の残留溶媒量は100質量%であった。次いで,横延伸機(テンター)を用いて剥離したウェブの両端をクリップで掴み,クリップ間隔を巾方向に変化させることで,120℃で巾方向に1.5倍延伸した。延伸終了後,一旦,フィルム温度を80℃まで冷却した後,周速の異なるローラーを用いて130℃で長さ方向に1.1倍延伸した。更にローラー搬送しながら130℃で10分間乾燥させ,膜厚120μmのセルロースエステルフィルム1(光学フィルム1)を作製した。
…(省略)…
【0203】〈ヘイズ測定〉JIS K7105-1981に準じてヘイズを測定した。
【0204】〈R0値,Rt値の測定〉フィルム巾方向の端部から反対側端部間で等間隔に10カ所(順にA点からJ点とする)サンプリングし,自動複屈折計KOBRA-21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて,23℃,55%RHの環境下で,波長590nmにおける3次元屈折率測定を行い,遅相軸方向の屈折率Nx,進相軸方向の屈折率Ny,厚さ方向の屈折率Nzを測定し,下式により,Rt値,R0値を算出した。
【0205】R0=(Nx-Ny)×d
Rt={(Nx+Ny)/2-Nz}×d
なお,式中のdは,フィルムの厚み(nm)である。
…(省略)…
【0207】なお,セルロースエステルフィルム1の遅相軸の方向は,フィルムの巾方向に対し±2度の範囲に収まっていることを確認した。
【0208】〔保護フィルムAの作製〕
…(省略)…
【0209】〔偏光板1の作製〕
…(省略)…
【0210】別途,厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部,ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し,50℃で4倍に延伸して偏光膜(偏光子1)を作製した。
【0211】上記作製した偏光子1の片面に,上記のアルカリ鹸化処理済み光学フィルム1を,その反対面に上記のアルカリ鹸化処理済み保護フィルムAを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として,各々貼り合わせて偏光板1を作製した。
【0212】上記偏光板1の作製に当たり,光学フィルム1は,フィルムロールの巾方向の両端部及び中央部からそれぞれフィルムサンプルを切り出し,それぞれについて2枚づつ(合計6枚)偏光板1を作製した。なお,偏光子1の偏光軸と光学フィルム1の巾方向とのなす角度は,45度となるように貼り合わせた。」

オ 「【0245】実施例5〔セルロースアセテート5の作製〕
…(省略)…
【0247】〔ドープ液5の調製〕
…(省略)…
【0248】〔紫外線吸収剤溶液5の調製〕
…(省略)…
【0249】〈高分子紫外線吸収剤2の合成〉
…(省略)…
【0251】〔セルロースエステルフィルム5(光学フィルム5)の作製〕上記調製したドープ液5の100質量部に対して,前記紫外線吸収剤溶液5を2質量部の割合で加え,スタチックミキサーにより十分混合した後,ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度30℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から30℃の温水を接触させて,温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後,更にステンレスベルトの裏面に,15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後,ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は100質量%であった。次いで,横延伸機(テンター)を用いて剥離したウェブの両端をクリップで掴み,クリップ間隔を巾方向に変化させることで,100℃で巾方向に1.5倍延伸した。延伸終了後,一旦,フィルム温度を60℃まで冷却した後,周速の異なるローラーを用いて130℃で長さ方向に1.05倍延伸した。更にローラー搬送しながら130℃で10分間乾燥させ,膜厚100μmのセルロースエステルフィルム5(光学フィルム5)を得た。
…(省略)…
【0253】〔セルロースアセテートフィルム5の特性評価〕得られたフィルムロールからフィルムサンプルを切り出し,実施例1に記載したと同様の方法にて,膜厚むら,ヘイズ,R0値,Rt値の測定及び面押され故障の評価を行い,得られた結果を表1に示した。なお,セルロースアセテートフィルム5の遅相軸の方向は,フィルムの巾方向に対し±2度の範囲に収まっていることを確認した。
【0254】〔偏光板5の作製〕
…(省略)…
【0255】実施例1で作製した偏光子1の片面に上記のアルカリ鹸化処理済みの光学フィルム5を,その反対面に実施例1で作製したアルカリ鹸化処理済み保護フィルムAを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて各々貼り合わせ偏光板5を作製した。
【0256】なお,光学フィルム5は,フィルムロールの巾方向の両端部及び中央部からそれぞれフィルムサンプルを切り出し,それぞれについて2枚づつ(合計6枚)偏光板5を作製した。偏光子1の偏光軸と光学フィルム5の巾方向とのなす角度は,45度となるように貼り合わせた。」

カ 「【0273】
【表1】


【0274】また,表1より明らかなように,本発明に係る実施例1?実施例6で作製したセルロースアセテートフィルムは,比較例に対して,膜厚ムラが少なく,ヘイズも低く,R0値,Rt値のバラツキが少なく,かつ面押され故障の発生が極めて少ないことがわかる。」
(当合議体注:【0205】の定義からみて,R0は面内方向のリターデーション値である。)

(2) 甲2発明
ア 甲2発明1
甲2には,実施例1として,以下の偏光板1が記載されている(以下「甲2発明1」という。)。なお,ヘイズ及び面内方向のリターデーション値は,【表1】の記載に基づくものである。
「 巾方向に1.5倍延伸した光学フィルム1を作製し,
偏光子1の片面に光学フィルム1を,その反対面に保護フィルムAを各々貼り合わせて作製した偏光板1であって,
光学フィルム1の遅相軸の方向は,フィルムの巾方向に対し±2度の範囲であり,ヘイズが0.1%,面内方向のリターデーション値の測定値が147-149nmであり,
偏光子1の偏光軸と光学フィルム1の巾方向とのなす角度は,45度である,
偏光板1。」

イ 甲2発明2
甲2には,実施例5として,以下の偏光板5も記載されている(以下「甲2発明2」という。)。
「 巾方向に1.5倍延伸した光学フィルム5を得,
偏光子1の片面に光学フィルム5を,その反対面に保護フィルムAを各々貼り合わせて作製した偏光板5であって,
光学フィルム5の遅相軸の方向は,フィルムの巾方向に対し±2度の範囲であり,ヘイズが0.1%,面内方向のリターデーション値の測定値が146-148nmであり,
偏光子1の偏光軸と光学フィルム5の巾方向とのなす角度は,45度である,
偏光板5。」

(3) 対比
本件特許発明1と甲2発明1を対比する。
甲2発明1の「光学フィルム1」は,「面内方向のリターデーション値の測定値が147-149nm」であるから,λ/4位相差フィルムとして機能する。また,甲2発明1の「偏光板1」は,「偏光子1の片面に光学フィルム1を…貼り合わせて作製した」ものであるところ,「光学フィルム1の遅相軸の方向は,フィルムの巾方向に対し±2度の範囲であり」,「偏光子1の偏光軸と光学フィルム1の巾方向とのなす角度は,45度である」。
そうしてみると,甲2発明1の「偏光板1」は,円偏光板として機能する。そして,甲2発明1の「偏光子1」及び「光学フィルム1」は,それぞれ本件特許発明1の「偏光子」及び「λ/4位相差フィルム」に相当するとともに,本件特許発明1の「前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°であり」の要件を満たす。また,甲2発明1の「偏光板1」と本件特許発明1の「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板」は,「偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された」「円偏光板」という構成で共通する。
加えて,甲2発明1は,垂直配向液晶層を具備しないから,本件特許発明1の「ただし,垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く。」という要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲2発明1は,次の構成で一致する。
「 偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された円偏光板であって,前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°である(ただし,垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く。)円偏光板。」

そして,本件特許発明1と甲2発明1は,以下の点で相違する。
(甲2相違点1)
本件特許発明1の「λ/4位相差フィルム」は,「λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である」であるのに対して,甲2発明1の「光学フィルム1」は,「λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である」か明らかではない点。

(甲2相違点2)
本件特許発明1は,「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用」の円偏光板であるのに対して,甲2発明1は,「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用」とは特定されていない点。

(5) 判断
ア 甲2相違点1について
甲2発明1の光学フィルム1のヘイズは0.1である。また,甲2発明1は,光学フィルム中に微粒子を含まない。したがって,上記ヘイズは,そのほとんどが表面ヘイズと解され,「λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値」は,極めて小さいといえる。
しかしながら,甲2の【0156】には,概略,光学フィルムの取扱性を向上させるため,2次粒子の平均粒径が0.01?5.0μmの微粒子を,セルロースエステルに対して0.005?0.3質量%含有させることが好ましいことが記載されている。
そうしてみると,当業者が,甲2発明1のヘイズを極端に悪化させない範囲内で,甲2発明1の光学フィルム1を,微粒子を含むものとして作製することは甲2に記載された示唆に従う通常の創意工夫の範囲内の事項といえる。また,このように作製されてなる光学フィルムは,本件特許発明1の「λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である」という要件を満たすものになると考えられる。

イ 甲2相違点2について
甲2の【0005】や【0190】には,甲2発明1の「偏光板1」を,有機ELディスプレー用の円偏光板とすることが示唆されている。
したがって,甲2発明1の偏光板1を「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用」,すなわち「有機エレクトロルミネッセンス表示装置」に適したものとして設計することは,当業者が所望とする用途に応じてなし得る事項にすぎない。

ウ 効果について
本件特許発明1の効果は,甲2発明1が奏する効果であるか,甲2発明1から予測可能な範囲内のものにすぎない。

エ 小括
本件特許発明1は,甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(6) 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲2発明1を比較すると,両者は,前記甲2相違点1及び甲2相違点2に加えて,以下の点で相違する。
(甲2相違点3)
本件特許発明の「λ/4位相差フィルム」は,「斜め延伸λ/4位相差フィルムである」のに対して,甲2発明1の「光学フィルム1」は,巾方向に延伸されたものである点。

しかしながら,λ/4位相差フィルムとして,「斜め延伸λ/4位相差フィルム」は,甲1に記載されている(甲1発明の位相差フィルム。)。また,甲1発明の位相差フィルムは,ロール状の偏光子と貼り合わせ作製されるのに適したものである。
そうしてみると,生産効率等を考慮した当業者が,甲2発明1の「光学フィルム1」における延伸方向を,甲1発明の位相差フィルムのように斜め延伸とし,甲2相違点3に係る本件特許発明4の構成を具備するものとすることは,容易に発明できた事項である。
また,甲2相違点1及び甲2相違点2については,前記(5)ア及びイと同様である。そして,本件特許発明4が奏する効果は,当業者が甲2発明1及び甲1発明から予測可能な範囲内のものにすぎない。

したがって,本件特許発明4は,甲2発明1及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(7) 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲2発明1を対比すると,前記甲2相違点1?甲2相違点3(当合議体注:引用する請求項によっては相違点でない場合もある。)に加えて,一応,以下の相違点が見いだされる。
(相違点4)
本件特許発明6は,本件特許発明1又は本件特許発明4のいずれかの「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有する」「有機エレクトロルミネッセンス表示装置」であるのに対して,甲2発明1は,「偏光板1」である点。

しかしながら,甲2の【0005】や【0190】には,甲2発明1の「偏光板1」を有機ELディスプレー用の円偏光板とすることが示唆されている。
そうしてみると,甲2発明1の「偏光板1」を有する有機エレクトロルミネッセンス装置を作製することは,甲2に示唆された範囲内の事項にすぎない。
また,甲2相違点1?甲2相違点3についての判断は前記(5)ア及びイ及び(6)で述べたとおりである。そして,本件特許発明6の効果は,少なくとも,甲2発明1及び甲1発明から予測可能な範囲内のものにすぎない。
したがって,本件特許発明6は,甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(8) 甲2発明2について
甲2発明1に替えて,甲2発明12に基づいて検討しても,同様である。

(9) 特許権者の主張について
甲2相違点1に関して,特許権者は,「甲2発明1及び甲2発明2は,共に微粒子を含有させていないフィルムです。低ヘイズが好ましいとする甲2発明において(甲2明細書段落0274参照),わざわざ実施例1と5のフィルムを選択し,微粒子を添加してヘイズを上げることは,甲2発明から当業者は行うものではありません。」と主張する。

しかしながら,甲2発明1及び甲2発明2のヘイズは,0.0%(実施例4)?0.2%(実施例2及び実施例3)である実施例の中では中程度の0.1%である。したがって,ヘイズが0.0%である実施例4において,当業者が微粒子を含有させることはないと考えられるが,甲2発明1及び甲2発明2に関しては,光学フィルムの取扱い性の向上を重視した当業者ならば,微粒子を含有させるといえる。
したがって,特許権者の主張は採用できない。

(10) 小括
本件特許発明1は,甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,請求項1に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。また,本件特許発明4及び本件特許発明6は,甲2に記載された発明及び甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,請求項4及び請求項6に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

3 甲3に基づく29条2項の取消の理由について
(1) 甲3の記載
本件出願前に頒布された刊行物である甲3には,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースエステルフィルム,偏光板,液晶表示装置およびセルロースエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
…(省略)…
【0004】
高コントラストのVA方式の液晶表示装置に用いられる位相差フィルムとして,100≦Ro≦200nmであり,Nz係数が小さいフィルムが適していることが知られている(特許文献1?3)。
【0005】
この条件を達成する位相差フィルムの製造方法として,特許文献1では,高い延伸倍率で延伸することで,理想的なRt/Roの範囲のフィルムを作製する方法が記載されているが,延伸倍率が高すぎると,ヘイズ(特に内部ヘイズ)が高くなる傾向があり,そのため思ったようにコントラストが高くならないという問題があった。
…(省略)…
【0010】
【特許文献1】特開2002-62430号公報」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は,Roが大きく,Nz係数が小さく,また内部ヘイズおよび配向角のばらつきが小さいセルロースエステルフィルムおよびその製膜方法,また生産性が高く,コントラストの高い偏光板,液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0013】
1.100≦Ro≦180,かつ0.8≦Nz≦1.3を満たし,フィルム1枚での全ヘイズHtが0.1≦Ht≦0.3であり,全ヘイズに対する内部ヘイズHiの割合Hi/Htが0.1≦Hi/Ht≦0.5,幅手方向に遅相軸をもち,遅相軸の配向角のばらつきが±0.2度であり,かつセルロースエステルフィルムの全体の質量に対して含有溶媒量が0.01質量%以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。」

ウ 「【0035】
以下,本発明の各要素を詳細に説明する。
【0036】
<セルロースエステル>
本発明に用いるセルロースエステルは,炭素数2?22程度のカルボン酸エステルであり,芳香族カルボン酸のエステルでもよく,特にセルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0037】
セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味している。水酸基に結合するアシル基は,直鎖であっても分岐してもよく,また環を形成してもよい。さらに別の置換基が置換してもよい。
【0038】
同じ置換度である場合,炭素数としては炭素数2?6のアシル基の中で選択することが好ましい。本発明のセルロースエステルとしては,下記式(i)および(ii)を同時に満足するものが好ましい。
【0039】
式(i) 2.2≦X+Y≦2.7
式(ii) 0.5≦Y≦1.5
式中,Xはアセチル基の置換度,Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度,X+Yは総アシル基の置換度を表す。
…(省略)…
【0132】
〈マット剤〉
本発明では,フィルムの滑り性を付与するためにマット剤を添加することが好ましい。
…(省略)…
【0134】
粒径や形状(例えば針状と球状など)の異なる粒子を併用することで高度に透明性と滑り性を両立させることもできる。これらの中でも,セルロースエステルと屈折率が近いので透明性(ヘイズ)に優れる二酸化珪素が特に好ましく用いられる。
【0135】
二酸化珪素の具体例としては,アエロジル200V,アエロジルR972V,アエロジルR972,R974,R812,200,300,R202,OX50,TT600,NAX50(以上日本アエロジル(株)製),シーホスターKEP-10,シーホスターKEP-30,シーホスターKEP-50(以上,株式会社日本触媒製),サイロホービック100(富士シリシア製),ニップシールE220A(日本シリカ工業製),アドマファインSO(アドマテックス製)等の商品名を有する市販品などが好ましく使用できる。
…(省略)…
【0137】
粒子の大きさは,可視光の波長に近いと光が散乱し,透明性が悪くなるので,可視光の波長より小さいことが好ましく,さらに可視光の波長の1/2以下であることが好ましい。粒子の大きさが小さすぎると滑り性が改善されない場合があるので,80nmから180nmの範囲であることが特に好ましい。」

エ 「<偏光板および液晶表示装置>
本発明の偏光板について説明する。
【0187】
本発明の偏光板は,一般的な方法で作製することができる。
…(省略)…
【0193】
また,偏光板の作製時には,本発明の位相差フィルムの面内遅相軸と偏光子の透過軸が平行あるいは直交するように貼合することが好ましい。」

オ 「【実施例】
【0195】
以下,実施例により本発明を説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
【0196】
〈セルロースエステルフィルム1の作製〉
80℃で6時間乾燥した(水分率200ppm)のアセチル基の置換度1.30,プロピオニル基の置換度1.20,総アシル基置換度2.5,数平均分子量65000(重量平均分子量200000)のセルロースアセテートプロピオネート100質量部,化合物48(株式会社ADEKA)を12質量部,リン系化合物としてPEP-36(株式会社ADEKA)0.01質量部,Irganox1010(チバ・ジャパン株式会社製)0.5質量部,SumilizerGS(住友化学株式会社製)0.24質量部,アエロジルR972V(日本アエロジル(株)製)0.1質量部を真空ナウターミキサーで80℃,1Torrで3時間混合しながら,さらに乾燥した。
…(省略)…
【0199】
得られたフィルムを予熱ゾーン,延伸ゾーン,保持ゾーン,冷却ゾーン(各ゾーン間には各ゾーン間の断熱を確実にするためのニュートラルゾーンも有する)を有するテンターに導入し,幅手方向に140℃で60%延伸した後,120℃まで冷却し,120℃を維持し熱処理を行った。
【0200】
その後,テンター内のクリップの搬送速度を延伸中のクリップの搬送速度よりも遅くしながら,搬送方向に30%収縮,幅方向に30%延伸した。その後,クリップ把持部を裁ち落として,膜厚40μm,フィルム幅2300mmのセルロースエステルフィルム1を得た。
【0201】
セルロースエステル,可塑剤,製造条件を表1のように変更した以外は本発明のセルロースエステルフィルム1と同様にして,本発明および比較のセルロースエステルフィルム2?8,12,13を得た。
…(省略)…
【0209】
【表1】


【0210】
上記作製したセルロースエステルフィルム1?13を用いて,下記要領で偏光板および液晶表示装置を作製した。
【0211】
《偏光板の作製》
…(省略)…
【0214】
上記偏光膜の片面に同様にケン化処理したコニカミノルタオプト(株)製KC4UY,その反対面側に前記アルカリケン化処理したセルロースエステルフィルムを完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として,偏光子の透過軸とフィルムの面内遅相軸が平行になるように各々ロール トゥ ロールで貼り合わせ,乾燥して偏光板1?11を作製した。
…(省略)…
【0218】
自動複屈折計KOBRA-21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて,23℃,55%RHの環境下24時間放置したフィルムにおいて,同環境下,波長が590nmにおけるフィルムのリターデーション測定を行った。上述の平均屈折率と膜厚を入力し,面内リターデーション(Ro)および厚み方向のリターデーション(Rt)の値を得た。
【0219】
〔ヘイズの測定〕
濁度計(NDH2000,日本電色工業(株)製)を用いて,23℃,55%RHの環境下24時間放置したフィルムにおいて,同環境下,フィルムのヘイズ測定を行った。
全ヘイズ(Ht) :JISK7136に準じて測定されたヘイズ値(%)。
内部ヘイズ(Hi):得られた位相差フィルムの表面にグリセリン数滴を滴下し,厚さ1.3mmのガラス板(MICRO SLIDE GLASS品番S9213,MATSUNAMI製)2枚で両側から挟んだ状態で測定したヘイズ値から,ガラス2枚の間にグリセリンを数滴滴下した状態で測定したヘイズを引いた値(%)。
…(省略)…
【0224】
【表2】


【0225】
上表から,本発明の位相差フィルムを用いることで,正面コントラストの高い液晶表示装置を提供することができることが分かった。」

(2) 甲3発明
ア 甲3発明1
甲3の【0214】には,以下の偏光板1が記載されている(以下「甲3発明1」という。)。なお,材料,延伸条件は【0196】,【0199】及び【0200】の記載に基づくものであり,また,面内リターデーション値(Ro)及び内部ヘイズ(Hi)は【表2】の記載に基づくものである。
「 偏光膜の片面にコニカミノルタオプト(株)製KC4UY,その反対面側にセルロースエステルフィルムを,偏光子の透過軸とセルロースエステルフィルムの面内遅相軸が平行になるように各々ロール トゥ ロールで貼り合わせ,乾燥して作製した偏光板1であって,
セルロースエステルフィルムは,アセチル基の置換度が1.30,プロピオニル基の置換度が1.20のセルロースアセテートプロピオネート,及びアエロジルR972Vを含有し,幅手方向に60%延伸し,熱処理を行い,幅方向に30%延伸したものであり,
セルロースエステルフィルムの面内リタ-デーションは140nmであり,内部ヘイズは0.01と計算される,
偏光板1。」

イ 甲3発明2及び甲3発明5
同様に,甲3には以下の偏光板2及び偏光板5(以下「甲3発明2」及び「甲3発明3」という。)も記載されている。
(ア)甲3発明2
「 甲3発明1において,
幅手方向の延伸を60%から70%に変更し,
内部ヘイズが0.02と計算される,
偏光板2。」

(イ)甲3発明3
「 甲3発明1において,
アセチル基の置換度を1.2,プロピオニル基の置換度を1.1,幅手方向の延伸を60%から65%に変更し,
内部ヘイズが0.02と計算される,
偏光板5。」

(3) 対比
本件特許発明1と甲3発明2を対比する。
甲3発明2の「偏光膜」は,その文言のとおり偏光子として機能するものである。また,甲3発明2の「セルロースエステルフィルム」の「面内リタ-デーションは140nm」であるから,λ/4位相差フィルムとして機能するものである。したがって,甲3発明2の「偏光膜」及び「セルロースエステルフィルム」は,それぞれ本件特許発明1の「偏光子」及び「λ/4位相差フィルム」に相当する。
また,甲3発明2の「偏光板2」は,「偏光膜…の反対面側にセルロースエステルフィルムを…貼り合わせ」たものである。したがって,甲3発明2の「偏光板2」と本件特許発明1の「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板」は,「偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された」「偏光板」の点で共通する。
そして,甲3発明2は,垂直配向液晶層を具備しないから,本件特許発明1の「ただし,垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く。」という要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲3発明2は,次の構成で一致する。
「 偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された偏光板(ただし,垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く。)。」

そして,本件特許発明1と甲3発明2は,以下の点で相違する。
(甲3相違点1)
本件特許発明1は,「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板」であるのに対して,甲3発明2の「偏光板2」は,「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用」とはされておらず,また,「円偏光板」でもない点。
(当合議体注:甲3の全体の記載からみて,甲3発明2の「偏光板2」は,液晶表示装置用のものである。)

(甲3相違点2)
本件特許発明1の「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板」は,「前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°」であるのに対して,甲3発明2の「偏光板2」は,「偏光子の透過軸とセルロースエステルフィルムの面内遅相軸が平行」である点。

(甲3相違点3)
本件特許発明1の「λ/4位相差フィルム」は,「λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である」のに対して,甲3発明2は,これが明らかではない点。

(5) 判断
ア 甲3相違点1及び甲3相違点2について
甲3発明2の「セルロースエステルフィルムの…内部ヘイズは0.02と計算される」から,その高い透明性からみて,有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板におけるλ/4位相差フィルムとしての利用に適したものといえる。また,甲3発明2の「セルロースエステルフィルム」を円偏光板におけるλ/4位相差フィルムとして利用する場合においては,偏光膜とロール トゥ ロールでの貼り合わせを可能とするため,必然的に,周知の45°斜め延伸を採用することとなる。
そうしてみると,甲3発明2の「偏光板2」を「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板」として設計し直した結果として,「前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°」のものとすることは,当業者が容易に発明できたことである。

イ 甲3相違点3について
甲3発明2において,セルロースエステルフィルムの延伸方向を斜め延伸に変更したからといって,幅方向延伸と比較して,内部ヘイズが大きく悪化するとは考えられない。また,「λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値」が,無偏光に対する内部ヘイズ値の半分にまで低下する理由も考えられない。
したがって,甲3発明2の「偏光板2」を「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板」とした後の「λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値」は,本件特許発明1の「0.01?0.1%の範囲内」という要件を満たすと考えられる。

ウ 効果について
本件特許発明1の効果は,甲3発明2から予測可能な範囲内のものである。

(6) 本件特許発明4及び本件特許発明6について
前記(5)アで述べたようにしてなる甲3発明2の「セルロースエステルフィルム」は,斜め延伸λ/4位相差フィルムである。また,前記(5)アで述べたようにしてなる甲3発明2の「偏光板2」は,「有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板」であるから,甲3発明2を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置は,自ずと導き出される構成にすぎない。
したがって,本件特許発明1と同様の理由により,本件特許発明4及び本件特許発明6は当業者が容易に発明できたものである。

(7) 甲3発明3について
甲3発明2に替えて,甲3発明3に基づいて検討しても,以上(3)-(6)と同様である。

(8) 特許権者の主張について
甲3相違点1及び甲3相違点2に関して,特許権者は,「甲3発明は,訂正後の本件特許発明とは,全く異なる発明です。元々内部ヘイズ値が小さいフィルムを作成するのが目的の一つです。したがって,λ/4位相差フィルムの記載も,円偏光板の記載も,有機エレクトロルミネッセンス表示装置用の記載もありません。」と主張する。
しかしながら,甲3が出願された後,本件特許出願時までに,有機エレクトロルミネッセンス表示装置を備えたスマートフォンが広く市販されることとなった。
このような状況を考慮すると,甲3発明2又は甲3発明3を有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板とすることは,本件特許出願前(当時)の当業者が容易に発明できたことといえる。

念のため,甲3の記載を確認すると,甲3の【0004】には「高コントラストのVA方式の液晶表示装置に用いられる位相差フィルムとして,100≦Ro≦200nmであり,Nz係数が小さいフィルムが適していることが知られている(特許文献1?3)。」と記載されている。そして,甲3の【0004】に記載された特許文献1とは甲2のことであり,その【0005】や【0190】には,甲2に記載のセルロースエステルフィルムを有機ELディスプレー用の円偏光板とすることが示唆されている。
したがって,甲3に,円偏光板や有機エレクトロルミネッセンス表示装置用に関する記載がないことは,特許権者が主張するとおりであるけれども,甲3に記載のセルロースエステルフィルムを円偏光板や有機エレクトロルミネッセンス表示装置用とすることは,当業者ならば容易に思い到ることができた事項といえる。
したがって,特許権者の主張は採用できない。

(9) 小括
本件特許発明1,本件特許発明4及び本件特許発明6は,甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,請求項1,請求項4及び請求項6に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

4 36条6項1号の取消の理由について
(1) 発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板,及びそれを有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
…(省略)…
【0008】
外光の反射を抑制する観点からλ/4位相差フィルムは,散乱による偏光の乱れを抑制することが必要であり,例えば特許文献2に記載の低ヘイズのものを使用するのが一般的である。
…(省略)…
【0011】
有機エレクトロルミネッセンス表示素子の発光ムラを改善する手法として,高ヘイズのλ/4位相差フィルムを使用し,散乱によりムラを低減することが考えられるが,前記の外光反射抑制の性能を落とすことになり,外光反射の抑制と表示の均一性の二つの課題を両立することは困難であった。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は,上記問題・状況に鑑みてなされたものであり,その解決課題は,外光反射が少なく表示の均一性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を提供することである。また,上記有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
…(省略)…
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により,外光反射が少なく表示の均一性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を提供することができる。また,上記有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することができる。
【0018】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については,明確にはなっていないが,以下のように推察している。すなわち外光の反射防止に係る偏光子とλ/4位相差フィルムとの円偏光フィルムとしての機能と,発光素子から発せられる光に関わるムラの発生とを,45°偏光入射時のλ/4位相差フィルムの内部ヘイズを適度な値に制御することにより,反射防止機能に係る円偏光特性への影響を少なくして,無偏光の光拡散に係るムラの改善を達成するため,両立できるものであると考えている。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
…(省略)…
【0028】
図2は,有機エレクトロルミネッセンス表示装置の外光の反射防止及び発光素子からの光の状態を表した模式図である。」
(当合議体注:図2は以下の図である。)


エ 「【0029】
図2(a)は外光の反射防止機能を偏光状態変化を用いて模式的に表している。外光34は,偏光子31,λ/4位相差フィルム32からなる円偏光板を通り,発光素子33に入射する際に偏光子31の影響により直線偏光35(ここでは,偏光子の吸収軸が0°と仮定したため90°の電場振動方向を持つ直線偏光)となる。次に,λ/4位相差フィルム32に入射し円偏光36に変換され,発光素子中の反射電極により反射された円偏光37は,再びλ/4位相差フィルム32に入射し直線偏光38(この時の電場の振動方向は0°)に変換される。直線偏光38は,偏光子31に吸収されるため表示装置外に出ることなく反射防止機能が発現する。
【0030】
図2(b)は,有機エレクトロルミネッセンス素子の発光素子33からの光出射を模式的に表わしている。発光素子33から出た光は,無偏光39でありλ/4位相差フィルム32を透過し,偏光子31まで到達した無偏光40は光量の低減を伴って偏光子31を通り,直線偏光41となって素子外部へと出射する。
【0031】
図2(a)に着目すると,外光の反射防止機能のためには特にλ/4位相差フィルムの遅相軸に対して45°の電場振動を持つ直線偏光に対しての内部ヘイズが小さいことが好ましい。また,図2(b)に着目すると,画素の均一な白表示のためにはλ/4位相差フィルムの内部ヘイズが大きいことが好ましい。
【0032】
以上のことを考慮すると,遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時のλ/4位相差フィルムの内部ヘイズを適度な値に制御することにより有機エレクトロルミネッセンス素子の外光反射の抑制と表示の均一性を達成することができる。」

オ 「【0035】
図3は45°偏光に対する内部ヘイズの起因となる集合体の模式図である。45°偏光が入射すると,散乱体51とボイド52の界面,散乱体51とセルロースエステル53,ボイド22とセルロースエステル53の界面で電場の乱れが発生し内部ヘイズの上昇を引き起こすと考えられる。各々の界面における屈折率の差が小さい方が,45°偏光入射時の内部ヘイズは抑制され,また界面の面積が小さい方が偏光入射時の内部ヘイズは抑制される。」
(当合議体注:図3は以下の図である。)


カ 「【0041】
<λ/4位相差フィルム>
本発明に記載のλ/4位相差フィルムの素材は特に限定されないが,波長分散特性の観点,偏光子への密着性や透明性の観点からセルロースエステルを用いることが好ましい。」

(2) 当合議体の判断
【0013】の記載からみて,本件特許発明1の,発明が解決しようとする課題は,外光反射が少なく表示の均一性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を提供することと考えられる。そして,【0031】の記載からみて,[A]外光反射を少なくするためには,λ/4位相差フィルムの遅相軸に対する電場振動面のなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズが小さいことが好ましいことが理解できる。また,【0030】及び【0031】の記載からみて,[B]表示の均一性のためには,無偏光に対するλ/4位相差フィルムの内部ヘイズが大きいことが好ましいことが理解できる。そして,通常は,上記[A]及び[B]は両立しないところ,【0035】の記載からみて,[C]上記[A]及び[B]は,内部ヘイズの起因となる,セルロースエステル,散乱体及びボイド相互間の屈折率差及び界面の面積の制御により達成されることが理解できる。

以上を踏まえて本件特許発明1について検討すると,以下のとおりである。
[A]外光反射を少なくすることに関して,本件特許発明1は,λ/4位相差フィルムの遅相軸に対する電場振動面のなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズの上限値が0.1%であるという構成を具備する。また,0.1%という値は,技術的にみて,ヘイズ値としては小さい方と評価することができる。したがって,本件特許発明1は,[A]外光反射を少なくするという発明が解決しようとする課題との関係においては,確かに,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていない。

次に,[B]表示の均一性に関してみると,本件特許発明1は,無偏光に対するλ/4位相差フィルムの内部ヘイズ値を発明特定事項として具備していない。すなわち,本件特許発明1には,無偏光に対するλ/4位相差フィルムの内部ヘイズが,表示の均一性を確保することができる程度に大きいとはいえない発明が含まれる。したがって,本件特許発明1は,[B]表示の均一性という発明が解決しようとする課題との関係においては,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものである。

以上のとおりであるから,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。
本件特許発明2?本件特許発明7についても同様である。

(3) 特許権者の主張について
特許権者は,「無偏光がλ/4位相差フィルムに入射した際には,進相軸方向及び遅相軸方向の入射の光の成分が1:1であることを意味しますが,45°偏光の場合もλ/4位相差フィルムに入射した際には進相軸方向及び遅相軸方向成分は1:1となります。違いは位相がずれているかどうかだけであり,均一性を評価するのに入射光は45°偏光で問題はありません。」と主張する。
しかしながら,本件特許の発明の詳細な説明の【0008】及び【0011】の記載からみて,外光の反射を抑制する観点からの低ヘイズと,有機エレクトロルミネッセンス表示装置の発光ムラを改善する観点からの高ヘイズとは,両立することが困難だったものと理解される。そうしてみると,当業者が,λ/4位相差フィルムの遅相軸に対する電場振動面のなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズの下限値が0.01%であることにより,有機エレクトロルミネッセンス表示装置の発光ムラを改善する観点からの高ヘイズが確保される(外光の反射を抑制する観点からの低ヘイズの範囲である0.1%以下という数値範囲から,0.01%未満の範囲を除くだけで有機エレクトロルミネッセンス表示装置の発光ムラを改善する観点からの高ヘイズも確保できる)と理解することは困難である。
したがって,特許権者の主張は採用できない。

(4) 小括
本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,取り消されるべきものである。

第6 まとめ
本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,取り消されるべきものである。また,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,取り消されるべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板、及びそれを有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板、及びそれを有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電極間に発光層を設け、これに電圧を印加して発光を生じる有機エレクトロルミネッセンス素子は、平面型照明、光ファイバー用光源、液晶ディスプレイ用バックライト、液晶プロジェクタ用バックライト、ディスプレイ装置等の各種光源として盛んに研究、開発が進められている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光効率、低電圧駆動、軽量、低コストという点で優れており、近年極めて注目を浴びている素子である。
【0004】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極から電子を、陽極から正孔を注入し、両者が発光層で再結合することにより、発光層の発光特性に対応した可視光線の発光を生じさせるものである。陽極には、透明導電性材料の中では最も電気伝導度が高く、比較的仕事関数が大きく、高い正孔注入効率が得られるという点から、専ら酸化インジウムスズ(ITO)が使用される。一方、陰極には、通常金属電極が使用されるが、電子注入効率を考慮し、仕事関数の観点から、Mg、MgAg、MgIn、Al、LiAl等の材料が使用される。
【0005】
これらの金属材料は、光反射率が高く、電極(陰極)としての機能の他に、発光層で発光した光を反射し、出射光量(発光輝度)を高める機能も担っている。すなわち、陰極方向に発光した光は、陰極である金属材料表面で鏡面反射し、透明なインジウムITO電極(陽極)から出射光として取り出されることになる。
【0006】
しかしながら、このような構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極が光反射性の強い鏡面となっているため、発光していない状態(黒表示時)では外光の反射により表示品位が低下する問題がある。具体的には、室内照明の映り込み等、明所では黒色が表現できなくなり、ディスプレイ装置用の光源として使用するには、明室コントラストが極端に低いという問題点を有する。
【0007】
この問題を改善するために、鏡面の外光反射防止に円偏光板を使用することが、特許文献1に開示されている。典型的な反射防止用の円偏光板は、偏光子とλ/4位相差フィルムを積層した構成からなり、偏光子の吸収軸とλ/4位相差フィルムの遅相軸とのなす角を45°にすることにより外光の反射を抑制する機能を発揮する。
【0008】
外光の反射を抑制する観点からλ/4位相差フィルムは、散乱による偏光の乱れを抑制することが必要であり、例えば特許文献2に記載の低ヘイズのものを使用するのが一般的である。
【0009】
また、偏光子との密着性に優れるセルロースエステル樹脂からなる低ヘイズのλ/4位相差フィルムが特許文献3に記載されている。
【0010】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、前述のように発光層や透明電極等を蒸着等により積層し作製される。均一な素子作製は有機エレクトロルミネッセンス素子の一つの課題であるが、その到達度はいまだ不十分であり、発光層やITO電極(陽極)等の厚さムラや伝導率のムラに起因して発光ムラが発生し表示の均一性が劣化することで表示品位が低下する問題があった。
【0011】
有機エレクトロルミネッセンス表示素子の発光ムラを改善する手法として、高ヘイズのλ/4位相差フィルムを使用し、散乱によりムラを低減することが考えられるが、前記の外光反射抑制の性能を落とすことになり、外光反射の抑制と表示の均一性の二つの課題を両立することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8-321381号公報
【特許文献2】特開2009-98648号公報
【特許文献3】特開2010-217846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、外光反射が少なく表示の均一性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を提供することである。また、上記有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について偏光と内部散乱との関係に着目して検討した結果、有機エレクトロルミネッセンス素子用の円偏光板を構成するλ/4位相差フィルムの、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である場合に外光反射の抑制と表示の均一性を両立できることを見出し本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板であって、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°であり、前記λ/4位相差フィルムの、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である(ただし、垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く。)ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
【0016】
2.前記λ/4位相差フィルムが、下記式(1)及び式(2)を満足するセルロースエステルと、散乱体とボイドとを含有し、かつ前記散乱体の平均粒径(r)と屈折率(n)とが、下記式(3)及び式(4)とを満足することを特徴とする第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
2.0≦X+Y≦3.0・・・・・式(1)
0.5≦Y・・・・・・・・・・・式(2)
(式(1)及び式(2)中、Xはアセチル基置換度を表し、Yはプロピオニル基置換度とブチリル基置換度との和を表す。)
100nm≦r≦500nm・・・式(3)
1.4<n<1.47・・・・・・式(4)
3.前記散乱体が、表面処理シリカ分散物であることを特徴とする前記2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
4.前記λ/4位相差フィルムが、斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする前記1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
5.前記λ/4位相差フィルムが、斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする前記2又は3項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
6.前記1又は4項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
7.前記2,3又は5項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により、外光反射が少なく表示の均一性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を提供することができる。また、上記有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することができる。
【0018】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。すなわち外光の反射防止に係る偏光子とλ/4位相差フィルムとの円偏光フィルムとしての機能と、発光素子から発せられる光に関わるムラの発生とを、45°偏光入射時のλ/4位相差フィルムの内部ヘイズを適度な値に制御することにより、反射防止機能に係る円偏光特性への影響を少なくして、無偏光の光拡散に係るムラの改善を達成するため、両立できるものであると考えている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の表示品位の低下を説明するための模式図である。
【図2】有機エレクトロルミネッセンス表示装置の外光の反射防止及び発光素子からの光の状態を表した模式図である。
【図3】45°偏光に対する内部ヘイズの起因となる集合体の模式図である。
【図4】斜め延伸テンターの模式図である。
【図5】内部ヘイズ測定用試料の模式図である。
【図6】有機エレクトロルミネッセンス表示装置の構成の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板は、偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板であって、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°であり、前記λ/4位相差フィルムの、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である(ただし、垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く。)ことを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項5までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0021】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記λ/4位相差フィルムが、前記式(1)及び式(2)を満足するセルロースエステルと散乱体とボイドとを含有し、かつ、前記散乱体の平均粒径(r)と屈折率(n)とが、前記式(3)及び式(4)とを満足することが好ましい。
【0022】
また、前記散乱体が、表面処理シリカ分散物であること、さらに、前記λ/4位相差フィルムが、斜め延伸λ/4位相差フィルムであることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0023】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を好適に具備する。
【0024】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「?」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0025】
以下図を用いて本発明を説明する。
【0026】
図1は、有機エレクトロルミネッセンス素子の表示品位の低下を説明するための模式図である。図1(a)は青発光素子21a、緑発光素子22a、赤発光素子23aの3色の発光素子からなる一つの画素が均一に発光した場合を表している。
【0027】
図1(a)のように3色の発光素子が均一発光した場合には、映像を表示した場合通常の観察距離で人間の目には画素24aは均一な白として認識される。図1(b)は、発光にムラのある青発光素子21b、緑光素子22b、赤発光素子23bの3色の発光素子の3色の素子からなる一つの画素24bが発光している場合を表している。ムラのある発光は、一つの画素24bが均一な白と認識されず、例えば青色に近い白の部分や赤色に近い白の部分等が観察され表示品位を落とす。
【0028】
図2は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の外光の反射防止及び発光素子からの光の状態を表した模式図である。
【0029】
図2(a)は外光の反射防止機能を偏光状態変化を用いて模式的に表している。外光34は、偏光子31、λ/4位相差フィルム32からなる円偏光板を通り、発光素子33に入射する際に偏光子31の影響により直線偏光35(ここでは、偏光子の吸収軸が0°と仮定したため90°の電場振動方向を持つ直線偏光)となる。次に、λ/4位相差フィルム32に入射し円偏光36に変換され、発光素子中の反射電極により反射された円偏光37は、再びλ/4位相差フィルム32に入射し直線偏光38(この時の電場の振動方向は0°)に変換される。直線偏光38は、偏光子31に吸収されるため表示装置外に出ることなく反射防止機能が発現する。
【0030】
図2(b)は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光素子33からの光出射を模式的に表わしている。発光素子33から出た光は、無偏光39でありλ/4位相差フィルム32を透過し、偏光子31まで到達した無偏光40は光量の低減を伴って偏光子31を通り、直線偏光41となって素子外部へと出射する。
【0031】
図2(a)に着目すると、外光の反射防止機能のためには特にλ/4位相差フィルムの遅相軸に対して45°の電場振動を持つ直線偏光に対しての内部ヘイズが小さいことが好ましい。また、図2(b)に着目すると、画素の均一な白表示のためにはλ/4位相差フィルムの内部ヘイズが大きいことが好ましい。
【0032】
以上のことを考慮すると、遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時のλ/4位相差フィルムの内部ヘイズを適度な値に制御することにより有機エレクトロルミネッセンス素子の外光反射の抑制と表示の均一性を達成することができる。
【0033】
本発明の円偏光板に使用されるλ/4位相差フィルムは、下記式(1)及び式(2)を満足するセルロースエステルと散乱体とボイドとを含有し、かつ、前記散乱体の平均粒径(r)と屈折率(n)とが、下記式(3)及び式(4)とを満足することが好ましい。
【0034】
式(1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(2) 0.5≦Y
(上記式(1)及び式(2)中、Xはセルロースエステルのアセチル基置換度を表し、Yはプロピオニル基置換度とブチリル基置換度の和を表す)
式(3) 100nm≦r≦500nm
式(4) 1.4<n<1.47
45°偏光入射時のλ/4位相差フィルムの内部ヘイズは、散乱体と散乱体の周辺に存在する空隙(ボイド)及びフィルム素材の屈折率により制御が可能である。
【0035】
図3は45°偏光に対する内部ヘイズの起因となる集合体の模式図である。45°偏光が入射すると、散乱体51とボイド52の界面、散乱体51とセルロースエステル53、ボイド22とセルロースエステル53の界面で電場の乱れが発生し内部ヘイズの上昇を引き起こすと考えられる。各々の界面における屈折率の差が小さい方が、45°偏光入射時の内部ヘイズは抑制され、また界面の面積が小さい方が偏光入射時の内部ヘイズは抑制される。
【0036】
上記式(1)及び式(2)の範囲に置換度を制御したセルロースエステルを用いることにより、λ/4位相差フィルムの屈折率を約1.47?1.48の範囲に制御することが可能である。X+Yはアセチル基置換度とプロピオニル基置換度とブチリル基置換度の総和を表し、この値が下がるとセルロースエステルの屈折率は上昇する方向であり、Yの値の低下もアセチル基に比較して長鎖の側鎖を持つ割合が低下するために屈折率が上昇する。
【0037】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、他のアシル基が置換されたセルロースエステルが含まれていても良い。
【0038】
また、上記式(3)の散乱体の平均粒径(r)により散乱体の界面の面積を制御することが可能であり、rが大きくなるほど45°偏光入射時の内部ヘイズを大きくする。
【0039】
上記式(4)中の散乱体の屈折率nの制御により、散乱体とボイド及び散乱体とセルロースエステルの屈折率差を制御することが可能である。各々の界面での屈折率差を小さくすれば45°偏光入射時の内部ヘイズを抑制することができる。
【0040】
また、45°偏光に対する内部ヘイズを引き起こす界面は、偏光の電場の方向と水平な方向の面が垂直な面よりも大きく影響するため、これらを考慮して45°偏光入射の内部ヘイズを調整することができる。
【0041】
<λ/4位相差フィルム>
本発明に記載のλ/4位相差フィルムの素材は特に限定されないが、波長分散特性の観点、偏光子への密着性や透明性の観点からセルロースエステルを用いることが好ましい。中でも、効果の発現の観点から、前述した式(1)及び(2)を満たすセルロースエステルを含有することが好ましい。
【0042】
本発明に記載の「λ/4位相差フィルム」とは、ある特定の波長の直線偏光を円偏光に(又は、円偏光を直線偏光に)変換する機能を有するものをいう。λ/4位相差フィルムは、所定の光の波長(通常、可視光領域)に対して、層の面内の位相差値Roが約1/4である。本発明のλ/4位相差フィルムは、波長550nmで測定したRo(550)が110?170nmの範囲内でありRo(550)が120?160nmであることが好ましく、Ro(550)が130?150nmであることがさらに好ましい。
【0043】
本発明のλ/4位相差フィルムは、可視光の波長の範囲においてほぼ完全な円偏光を得るため、可視光の波長の範囲においておおむね波長の1/4のリターデーションを有する位相差フィルであることが好ましい。
【0044】
「可視光の波長の範囲においておおむね1/4のリターデーション」とは、波長400から700nmにおいて長波長ほどリターデーションが大きく、波長450nmで測定した下記式(3)で表されるリターデーション値であるRo(450)と波長550nmで測定したリターデーション値であるRo(550)の比Ro(450)/Ro(550)が、0.72?0.92であることが青色の再現にとって好ましく、0.77?0.87であることが特に好ましい。また、波長550nmで測定したリターデーション値であるRo(550)と波長650nmで測定したリターデーション値であるRo(650)の比Ro(550)/Ro(650)が、0.84?0.97であることが赤色の再現にとって好ましく、0.84?0.92であることが特に好ましい。
【0045】
式(3):Ro=(nx-ny)×d
式中、nx、nyは、23℃・55%RH、450nm、550nm又は650nmにおける屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう。)、ny(フィルム面内で遅相軸に直交する方向の屈折率)であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。
【0046】
Ro、Rtは自動複屈折率計を用いて測定することができる。自動複屈折率計KOBRA-WPR(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、各波長での複屈折率測定によりRoを算出する。
【0047】
λ/4位相差フィルムの遅相軸と後述する偏光子の吸収軸とのなす角度は45°である。この角度が実質的に45°になるように積層すると円偏光板が得られる。実質的に45°とは、40?50°であり、本発明では40?50°であることが必要である。λ/4位相差フィルムの面内の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、41?49°であることが好ましく、42?48°であることがより好ましく、43?47°であることが更に好ましく、44?46°であることが最も好ましい。
【0048】
<散乱体>
本発明に係る内部ヘイズ値はλ/4位相差フィルムに散乱体として微粒子を含ませることで調整することができる。
【0049】
微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0050】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えばアエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0051】
樹脂の例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0052】
散乱体は作製されたフィルムがハンドリングされる際に、傷が付いたり、搬送性が悪化することを防止するためのマット剤としても機能することができる。
【0053】
散乱体は前記式(3)及び(4)を満足することが、本発明の効果の発現の観点から好ましい。
【0054】
微粒子は、5?400nmの一次平均粒径の粒子から2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径(r)が100nm≦r≦500nmであることが本発明の効果発現の観点から好ましい。フィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.01?1質量%であることが好ましく、特に0.05?0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のλ/4位相差フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0055】
散乱体の屈折率(n)は効果発現の観点から1.4<n<1.47であることが好ましい。上記散乱物では、酸化アルミニウムC(日本アエロジル製)1.77、酸化チタンP25 2.5、二酸化珪素系(日本アエロジル製)1.45であり、入手のしやすさ、屈折率の観点等から、二酸化珪素の分散物であることが好ましい。
【0056】
二酸化珪素の微粒子は、例えばアエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0057】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがλ/4位相差フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
【0058】
本発明に係るλ/4位相差フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2?1.0であることが好ましい。
【0059】
散乱体は分散液中あるいは塗布液中で、分散安定化を図るために、あるいはバインダー成分との親和性、結合性を高めるために、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理、界面活性剤やカップリング剤等による化学的表面処理がなされていることが好ましい。特に、散乱体が表面処理シリカ分散物であることが好ましい。表面処理は、無機化合物又は有機化合物を用いて実施することができる。表面処理に用いる無機化合物の例としては、アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム及び酸化鉄が挙げられる。中でもシリカが好ましい。表面処理に用いる有機化合物の例としては、ポリオール、アルカノールアミン、ステアリン酸、シランカップリング剤及びチタネートカップリング剤が挙げられる。中でも、シランカップリング剤が最も好ましい。カップリング剤としては、アルコキシメタル化合物(例、チタンカップリング剤、シランカップリング剤)が好ましく用いられる。中でも、シランカップリング処理が特に有効である。
【0060】
散乱体はフィルム中で平均粒径(r)が100?500nmである必要がある。好ましくは、150?400nm、更に好ましくは、200?350nmである。フィルム中での平均粒径(r)は断面写真を撮影し観察することで確認できる。上記平均粒径(r)が、500nmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、100nmより小さい場合は、充分な巻き取り性の改善効果が見られず、特に、セルロースエステルフィルムの膜厚が20?65μmの場合は顕著である。
【0061】
また、散乱体の平均粒径(r)は、分散時の分散時間、及び分散温度を変化させて調整することができる。
【0062】
粒径の測定法について述べる。まず当該粒子を含む本発明の試料の光学顕微鏡写真(1000倍透過モード)を撮影し、この写真に写った粒子の直径を画像処理装置LUZEX-III(ニレコ社製)で100個測定し、その平均値を算出してこの平均粒径を本発明における平均粒径(r)とした。
【0063】
また、散乱体の屈折率は公知の方法で測定できる。
【0064】
ヘイズはフィルム内部のものと表面のものに分離できるが、内部ヘイズとは、フィルムの内部の散乱因子により発生するヘイズであり、内部とは、フィルム表面から5μm以上の部分をいう。偏光板保護フィルムとしては、液晶パネルのコントラストを高める上で内部ヘイズが低いことが要求される。
【0065】
この内部ヘイズは、フィルム屈折率±0.05の屈折率の溶剤をフィルム界面に滴下して、フィルム表面のヘイズをできるだけ無視できる状態にして、ヘイズメーターにより測定される。例えば濁度計(型式:NDH 2000、日本電色工業(株)製)を用い、JIS K-7136に基づきながら、光源部分に偏光子を設置することで偏光光源とし、偏光の電場振動方向と試料の遅相軸が45°の関係になるように試料を適宜回転設置した状態で測定することができる。
【0066】
用いる偏光子は偏光度が99%以上、好ましくは99.95%以上のものがよい。透過率が40%のものを使用できる。例えばG1220DUN、SEG1425DU、TEG1465DU(以上日東電工(株)製)等を使用できる。
【0067】
(可塑剤)
本発明の光学フィルムにおいては、フィルム中に少なくとも一種の可塑剤を添加してもよい。可塑剤とは、一般的には高分子中に添加することによって脆弱性を改良したり、柔軟性を付与したりする効果のある添加剤であるが、例えば本発明における好ましい態様の樹脂の場合、単独での溶融温度よりも溶融温度を低下させるため、また同じ加熱温度において樹脂単独よりも可塑剤を含むフィルム構成材料の溶融粘度を低下させるために、可塑剤を添加する。また、セルロースエステルの親水性を改善し、光学フィルムの透湿度改善するためにも添加されるため透湿防止剤としての機能を有する。
【0068】
ここで、フィルム構成材料の溶融温度とは、当該材料が加熱され流動性が発現された状態の温度を意味する。本発明に係る樹脂を溶融流動させるためには、少なくともガラス転移温度よりも高い温度に加熱する必要がある。ガラス転移温度以上においては、熱量の吸収により弾性率あるいは粘度が低下し、流動性が発現される。
【0069】
本発明のλ/4位相差フィルムは、以下に示すポリエステル樹脂、一般式(PEI)で表される化合物、一般式(PEII)で表される化合物、カルボン酸糖エステル化合物を可塑剤として好ましく含有することができる。
【0070】
〈ポリエステル樹脂〉
本発明において用いることができるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールを重合することにより得られ、ジカルボン酸構成単位(ジカルボン酸に由来する構成単位)の70%以上が芳香族ジカルボン酸に由来し、かつジオール構成単位(ジオールに由来する構成単位)の70%以上が脂肪族ジオールに由来する。
【0071】
芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位の割合は70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0072】
脂肪族ジオールに由来する構成単位の割合は70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。ポリエステル樹脂は、二種以上を併用してもよい。
【0073】
前記芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、4,4′-ビフェニルジカルボン酸、3,4′-ビフェニルジカルボン酸等及びこれらのエステル形成性誘導体が例示できる。
【0074】
ポリエステル樹脂には本発明の目的を損なわない範囲でアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸を用いることができる。
【0075】
前記脂肪族ジオールとして、エチレングリコール、1,3-プロピレンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオール等及びこれらのエステル形成性誘導体が例示できる。
【0076】
ポリエステル樹脂には本発明の目的を損なわない範囲でブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等のモノアルコール類や、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類を用いることもできる。
【0077】
ポリエステル樹脂の製造には、公知の方法である直接エステル化法やエステル交換法を適用することができる。ポリエステル樹脂の製造時に使用する重縮合触媒としては、公知の三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酢酸チタン等のチタン化合物、塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物等が例示できるが、これらに限定されない。
【0078】
好ましいポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合樹脂、ポリエチレン-1,4-シクロヘキサンジメチレン-テレフタレート共重合樹脂、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキレート樹脂、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート-テレフタレート共重合樹脂、ポリエチレン-テレフタレート-4,4′-ビフェニルジカルボキシレート樹脂、ポリ-1,3-プロピレン-テレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート樹脂等がある。
【0079】
より好ましいポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合樹脂、ポリエチレン-1,4-シクロヘキサンジメチレン-テレフタレート共重合樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート樹脂が挙げられる。
【0080】
ポリエステル樹脂の固有粘度(フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=60/40質量比混合溶媒中、25℃で測定した値)は、0.7?2.0dl/gが好ましく、より好ましくは0.8?1.5dl/gである。固有粘度が0.7以上であるとポリエステル樹脂の分子量が充分に高いために、これを使用して得られるポリエステル樹脂組成物からなる成形物が成形物として必要な機械的性質を有すると共に、透明性が良好となる。固有粘度が2.0以下の場合、成形性が良好となる。
【0081】
〈一般式(PEI)で表される化合物:芳香族基末端ポリエステル系化合物〉
本発明のλ/4位相差フィルムは、下記一般式(PEI)で表される化合物(以下、「芳香族基末端ポリエステル系化合物」ともいう。)とセルロースエステル樹脂を含有することを特徴とする。本発明においては、当該一般式(PEI)で表される化合物を含有させることにより、位相差を自在にコントロールすることができて目的のλ/4位相差へのコントロールが容易、フィルムに硬度を付与しハードコートや防眩性ハードコートを表面加工した際の硬度が向上するという効果が得られる。
【0082】
一般式(PEI):B-(G-A)_(n)-G-B
(Bは、ベンゼンモノカルボン酸残基を表す。Gは、炭素数2?12のアルキレングリコール残基、炭素数6?12のアリールグリコール残基、又は炭素数が4?12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素数4?12のアルキレンジカルボン酸残基又は炭素数6?12のアリールジカルボン酸残基を表す。また、nは、0以上の整数を表す。)
一般式(PEI)中、Bで表されるアリールカルボン酸残基とGで表されるアルキレングリコール残基又はオキシアルキレングリコール残基又はアリールグリコール残基、Aで表されるアルキレンジカルボン酸残基又はアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系化合物と同様の反応により得られる。
【0083】
使用される芳香族基末端ポリエステル系化合物のアリールカルボン酸成分としては、例えば安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ一種又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0084】
用いることのできる芳香族基末端ポリエステル系化合物の炭素数2?12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、2-n-ブチル-2-エチル-1,3プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用される。
【0085】
特に炭素数2?12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0086】
また、上記芳香族基末端ポリエステル系化合物の炭素数4?12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0087】
芳香族基末端ポリエステル系化合物の炭素数4?12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えばコハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ一種又は二種以上の混合物として使用される。
【0088】
炭素数6?12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0089】
本発明で使用される芳香族基末端ポリエステル系化合物は、nが1以上100以下であることが好ましく、数平均分子量が、好ましくは300?1500、より好ましくは400?1000の範囲が好適である。
【0090】
また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、ヒドロキシ(水酸基)価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、ヒドロキシ(水酸基)価は15mgKOH/g以下のものである。
【0091】
本発明に係る一般式(PEI)で表される芳香族基末端ポリエステル系化合物は、セルロースエステル樹脂に対して、0.5?30質量%含有させることが好ましい。
【0092】
以下に、本発明に用いることのできる芳香族基末端ポリエステル系化合物の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0093】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

本発明に係るセルロースエステルフィルムは、位相差値の変動を抑制して、表示品位を安定化するために、糖エステル化合物を、セルロースエステルフィルムの0.5?30質量%含むことが好ましく、特には、5?30質量%含むことが好ましい。
【0094】
一般式(PEI)で表される芳香族基末端ポリエステル系化合物と糖エステル化合物の含有量は、質量比で99:1?1:99の範囲で選択することができ、両化合物の全体量は、セルロースエステル樹脂に対して、1?40質量%であることが好ましい。
【0095】
〈一般式(PEII)で表される化合物:ヒドロキシ基末端ポリエステル〉
本発明においては、従来、光学フィルムに含有されている種々のポリエステル化合物を用いることができる。例えばポリエステル化合物として、下記一般式(PEII)で表される様に化学構造式の末端部分にヒドロキシ基を有するポリエステル(「ヒドロキシ基末端ポリエステル」という。)を用いることもできる。
【0096】
【化5】

(式中、Bは、炭素数が2?6の直鎖又は分岐のアルキレン、又はシクロアルキレン基を表す。Aは、炭素数が6?14の芳香族環を表す。nは、2以上の自然数を表す。)
上式で表される化合物は、芳香環を有するジカルボン酸(「芳香族ジカルボン酸」ともいう。)と、炭素数が2?6の直鎖又は分岐のアルキレン又はシクロアルキレンジオールから得られ、両末端がモノカルボン酸で封止されていないことが特徴である。
【0097】
炭素数6?16の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,8-ナフタレンジカルボン酸、2,2′-ビフェニルジカルボン酸、4,4′-ビフェニルジカルボン酸、等が挙げられる。その中でも好ましくは、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ビフェニルジカルボン酸である。
【0098】
炭素数が2?6の直鎖若しくは分岐のアルキレン若しくはシクロアルキレンジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。その中でも、好ましくはエタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオールである。
【0099】
中でも、Aが置換基を有していてもよいナフタレン環若しくはビフェニル環であることが本発明の効果を得る上で好ましい。ここで置換基とは、炭素数1以上6以下のアルキル基、アルケニル機、アルコキシル基である。
【0100】
本発明に係るポリエステル化合物のヒドロキシ(水酸基)価(OH価)としては、100mgKOH/g以上500mgKOH/g以下であることが望ましく、170?400mgKOH/gであることがさらに望ましい。ヒドロキシ(水酸基)価がこの範囲より大きくても小さくても、低アセチル基置換度のセルロースアセテートとの相溶性が低下する。
【0101】
この範囲より大きい場合はポリエステル化合物の疎水性が大きくなるため、この範囲より小さい場合はポリエステル化合物同士の分子間相互作用(水素結合等)が強くなるため、フィルム中での析出が進行するためだと考えられる。
【0102】
またヒドロキシ(水酸基)価の測定は、日本工業規格 JIS K1557-1:2007に記載の無水酢酸法等を適用できる。
【0103】
ポリエステル化合物の数平均分子量(Mn)は、下記式から計算することができる。
【0104】
Mn=(分子中のヒドロキシ基(水酸基)の数)×56110/(ヒドロキシ(水酸基)価)
=2×56110/(ヒドロキシ(水酸基)価)
ポリエステル化合物は、常法により上記ジカルボン酸とジオールとのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成できる。
【0105】
以下に、本発明に係るポリエステル化合物を例示する。
【0106】
【化6】

【化7】

一般式(PEII)で表される化合物はセルロースアセテートに対し、1質量%以上5質量%未満添加することが好ましい。
【0107】
(カルボン酸糖エステル化合物)
本発明のλ/4位相差フィルムには、可塑剤として、カルボン酸糖エステル化合物を含有させることも好ましい。当該化合物はセルロースとの相溶性が優れ含有させることで、耐水性が向上するという効果を得ることができる。多量に含有させることができるので、他の添加剤で耐水性が不十分な場合はこの化合物で補完する。
【0108】
なお、本願において、「カルボン酸糖エステル化合物」とは、糖類のヒドロキシ基(水酸基)とカルボン酸のカルボキシ基から導かれるエステル結合を有する化合物をいう。
【0109】
カルボン酸糖エステル化合物を構成するカルボン酸構造単位としては、例えばメチル安息香酸(トルイル酸)等の芳香族カルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族置換脂肪族カルボン酸、ステアリン酸等の脂肪酸が挙げられ、これらカルボン酸は、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基で置換されていても良い。
【0110】
好ましい芳香族カルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ-イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α-イソジュリル酸、クミン酸、α-トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o-アニス酸、m-アニス酸、p-アニス酸、クレオソート酸、o-ホモサリチル酸、m-ホモサリチル酸、p-ホモサリチル酸、o-ピロカテク酸、β-レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o-ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o-ホモベラトルム酸、フタロン酸、p-クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0111】
好ましい脂肪族カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2-エチル-ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0112】
カルボン酸糖エステル化合物を構成する糖類としては、通常、単糖類(monosaccharide)、二糖類(disaccharides)、3?6個の単糖類が結合したオリゴ糖類が挙げられ、これらの内、炭素数が6?48の糖類が好ましく、単糖類及び二糖類が更に好ましい。単糖類としては具体的には、例えばグルコース、果糖、アラビノース、マンノース、ソルビトールが挙げられ、二糖類としては、ショ糖、マルトースが挙げられる。原料の供給面から、グルコース、果糖、ショ糖が特に好ましく、ショ糖が最も好ましい。
【0113】
これら糖類は分子内に複数個のヒドロキシ基(水酸基)を有しており、前述のカルボン酸構造単位とエステル結合を形成することができる。
【0114】
特に、糖類としてショ糖を用いる場合、ショ糖分子内には8個のヒドロキシ基(水酸基)が存在するが、平均のエステル結合の数(「平均エステル置換度」ともいう。)としては、1.0以上あればよく、好ましくは3.0?7.5であり、更に好ましくは3.0?6.0である。
【0115】
本発明においては、特に、下記一般式(5)で表される、総平均置換度が3.0?6.0の範囲内である化合物を含有させることが好ましい。
【0116】
【化8】

なお、一般式(5)中、R_(1)?R_(8)は、水素原子、置換若しくは無置換のアルキルカルボニル基、又は、置換若しくは無置換のアリールカルボニル基を表し、R_(1)?R_(8)は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0117】
一般式(5)で表される化合物の好ましい具体例としては、表1に示す化合物が挙げられる。なお、下表中に記載のRは、R_(1)?R_(8)のうちのいずれかを表す。アルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基の置換基としては、下表に示すアルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基が有するフェニル基、アルコキシ基等の置換基が好ましい。
【0118】
当該一般式(5)で表される化合物、及び参考化合物を、以下に記載するが、これらに限定されない。
【0119】
【化9】

【化10】

(合成例:一般式(5)で表される化合物)
【化11】

撹拌装置、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.8モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。次に、コルベン内を4×10^(2)Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。そして、次にトルエン1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液300gを添加し、50℃で30分間撹拌後、静置して、トルエン層を分取した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×10^(2)Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A-1、A-2、A-3、A-4及びA-5の混合物を得た。得られた混合物をHPLC及びLC-MASSで解析したところ、A-1が7質量%、A-2が58質量%、A-3が23質量%、A-4が9質量%、A-5が3質量%であった。なお、得られた混合物の一部を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製することで、それぞれ純度100%のA-1、A-2、A-3、A-4及びA-5を得た。
【0120】
本発明でλ/4位相差フィルムに添加される、一般式(1)で表される化合物の総平均置換度は3.0?7.5であるが、当該置換度の範囲は3.0?6.0であることが好ましい。置換度分布は、エステル化反応時間の調節、又は置換度違いの化合物を混合することにより目的の置換度に調整してもよい。
【0121】
(その他添加剤)
本発明に係るλ/4位相差フィルムには、上記可塑剤以外に種々の化合物等を添加剤として含有させることができる。例えば位相差発現剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、光安定剤、紫外線吸収剤、光学異方性制御剤、マット剤、帯電防止剤、剥離剤、等を含有させることができる。
【0122】
(位相差発現剤)
本発明では、位相差(「リターデーション」ともいう。)発現剤を含んでいてもよい。位相差(リターデーション)発現剤は、例えば0.5?10質量%の割合で含有させることができ、さらには、2?6質量%の割合で含有させることが好ましい。位相差(リターデーション)発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いRe発現性を得られる。位相差(リターデーション)発現剤の種類としては、特に定めるものではないが、棒状又は円盤状化合物からなるものを挙げることができる。上記棒状又は円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を位相差(リターデーション)発現剤として好ましく用いることができる。棒状化合物からなる位相差(リターデーション)発現剤の添加量は、セルロースエステルを含むポリマー成分100質量部に対して0.5?10質量部であることが好ましく、2?6質量部であることがさらに好ましい。
【0123】
円盤状の位相差(リターデーション)発現剤は、前記セルロースエステルを含むポリマー成分100質量部に対して、0.5?10質量部の範囲で使用することが好ましく、1?8質量部の範囲で使用することがより好ましく、2?6質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。
【0124】
二種類以上の位相差(リターデーション)発現剤を併用してもよい。
【0125】
位相差(リターデーション)発現剤は、250?400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0126】
〈紫外線吸収剤〉
本発明のλ/4位相差フィルムは、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0127】
前記紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0128】
例えば、5-クロロ-2-(3,5-ジ-sec-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(2-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖及び側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4-ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン928等のチヌビン類があり、これらはいずれもBASFジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
【0129】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
【0130】
この他、1,3,5-トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
【0131】
本発明におけるセルロースエステル溶液は紫外線吸収剤を二種以上含有することが好ましい。また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6-148430号公報記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0132】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
【0133】
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0134】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、λ/4位相差フィルムの乾燥膜厚が30?200μmの場合は、λ/4位相差フィルムに対して0.5?10質量%が好ましく、0.6?4質量%が更に好ましい。
【0135】
〈酸化防止剤〉
酸化防止剤は、例えば、λ/4位相差フィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等によりλ/4位相差フィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記λ/4位相差フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0136】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサンジオール-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレイト等を挙げることができる。
【0137】
特に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0138】
これらの化合物の添加量は、前記重合体(A)とセルロースエステルの総質量に対して質量割合で1ppm?1.0%が好ましく、10?1000ppmが更に好ましい。
【0139】
<長尺延伸フィルムの製造方法>
本発明のλ/4位相差フィルムは、斜め延伸されて製造された長尺延伸フィルムであることが好ましい。長尺フィルム原反を斜め延伸することによって、フィルムの延長方向に対して任意の角度に面内遅相軸を付与することができる。
【0140】
ここで長尺とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管又は運搬される程度の長さを有するもの(フィルムロール)としうる。長尺のフィルムの製造方法では、フィルムを連続的に製造することにより、所望の任意の長さにフィルムを製造しうる。なお、長尺延伸フィルムの製造方法は、長尺フィルム原反を製膜した後に一度巻芯に巻き取り、巻回体にしてから斜め延伸工程に供給するようにしてもよいし、製膜後のフィルム原反を巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給してもよい。製膜工程と斜め延伸工程を連続して行うことは、延伸後の膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺延伸フィルムを得ることができるので好ましい。
【0141】
長尺延伸フィルムの製造方法では、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度に遅相軸を有する長尺延伸フィルムを製造することができる。ここで、フィルムの幅手方向に対する角度とは、フィルム面内における角度である。遅相軸は、通常延伸方向又は延伸方向に直角な方向に発現するので、フィルムの延長方向に対して0°を超え90°未満の角度で延伸を行うことにより、かかる遅相軸を有する長尺延伸フィルムを製造しうる。
【0142】
長尺延伸フィルムの延長方向と遅相軸とがなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができるが、より好ましくは40°?50°であり、具体例としては45°とすることができる。
【0143】
<長尺フィルム原反の製造方法>
長尺延伸フィルムを作製するために用いられる長尺フィルム原反は、公知の方法、例えば溶液キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などによって得ることができる。これらのうち溶液キャスト成形法はフィルムの平面性、透明度に優れ、押出成形法は斜め延伸後の厚さ方向のリターデーションRtを小さくすることが容易となり、残留揮発性成分量が少なくフィルムの寸法安定性にも優れるので好ましい。この長尺フィルム原反は、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
【0144】
本発明では、延伸に供給される長尺フィルム原反の流れ方向の厚さムラσmは、後述する斜め延伸テンター入口でのフィルムの引取張力を一定に保ち、配向角やリターデーションといった光学特性を安定させる観点から、0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満、さらに好ましくは0.20μm未満である必要がある。長尺フィルム原反の流れ方向の厚さムラσmが0.30μm以上となると長尺延伸フィルムのリターデーションや配向角といった光学特性のバラツキが顕著に悪化する。
【0145】
長尺フィルム原反の流れ方向の厚さムラσmを上記範囲とするためには、押出成形法の場合は、特開2004-233604号公報に記載されているような、冷却ドラムに密着させる時の溶融状態の熱可塑性樹脂を安定な状態に保つ方法により達成可能である。具体的には、1)溶融押出法で長尺フィルム原反を製造する際に、ダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;2)溶融押出法で長尺フィルム原反を製造する際に、ダイス開口部から最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で覆い、囲い部材からダイス開口部又は最初に密着する冷却ドラムまでの距離を100mm以下とする方法;3)溶融押出法で長尺フィルム原反を製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂より10mm以内の雰囲気の温度を特定の温度に加温する方法;4)関係を満たすようにダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;5)溶融押出法で長尺フィルム原反を製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂に、最初に密着する冷却ドラムの引取速度との速度差が0.2m/s以下の風を吹き付ける方法;が挙げられる。
【0146】
また、長尺フィルム原反として、幅方向の厚さ勾配を有するフィルムが供給されてもよい。延伸が完了した位置におけるフィルム厚さを最も均一なものとしうるような長尺フィルム原反の厚さの勾配は、実験的に厚さ勾配を様々に変化させたフィルムを延伸することにより、経験的に求めることができる。長尺フィルム原反の厚さの勾配は、例えば厚さの厚い側の端部の厚さが、厚さの薄い側の端部よりも0.5?3%程度厚くなるように調整することができる。
【0147】
長尺フィルム原反の幅は、特に限定されないが、500?4000mm、好ましくは1000?2000mmとすることができる。また、長尺フィルム原反の総膜厚は、特に限定されないが、20?400μm、好ましくは20?200μmの範囲内であることが好ましい。
【0148】
また、上記長尺フィルム原反の幅調整方法として、溶液キャスト成形法、押出成形法にて得られたフィルムを幅手方向に横延伸、若しくは搬送方向に縦延伸をしてもよい。
【0149】
斜め延伸時の延伸温度での好ましい弾性率は、ヤング率で表して、0.01Mpa以上5000Mpa以下、更に好ましくは0.1Mpa以上500Mpa以下である。弾性率が低すぎると、延伸時・延伸後の収縮率が低くなり、シワが消えにくくなり、また高すぎると、延伸時にかかる張力が大きくなり、フィルムの両側縁部を保持する部分の強度を高くする必要が生じ、後工程のテンターに対する負荷が大きくなる。
【0150】
<斜め延伸テンターによる延伸>
本実施形態に係る製造方法における延伸に供される長尺の長尺フィルム原反に斜め方向の配向を付与するために、斜め延伸テンターを用いる。本実施形態で用いられる斜め延伸テンターは、レールパターンやフィルム把持具の搬送速度を多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚さやリターデーションを制御できるフィルム延伸装置であることが好ましい。
【0151】
図4(a)、(b)は本実施形態に係る長尺延伸フィルムの製造方法に用いられる斜め延伸可能なテンターの模式図である。但し、これは一例であって本発明はこれに限定されるものではない。
【0152】
テンター入り口側のガイドロール12-1によって方向を制御された長尺フィルム原反4は、外側のフィルム保持開始点8-1、内側のフィルム保持開始点8-2の位置で把持具(クリップつかみ部ともいう)によって把持される。
【0153】
左右一対のフィルム把持具は互いに等速度で、斜め延伸テンター6にて外側のフィルム把持手段の軌跡7-1、内側のフィルム把持手段の軌跡7-2で示される斜め方向に搬送、延伸され、外側のフィルム把持終了点9-1、内側のフィルム把持終了点9-2によって把持を解放され、テンター出口側のガイドロール12-2によって搬送を制御されて斜め延伸フィルム5が形成される。図中、長尺フィルム原反は、フィルムの送り方向14-1に対して、フィルムの延伸方向14-2の角度(繰出し角度θi)で斜め延伸される。
【0154】
図4(a)、(b)において、把持具の走行速度は適宜選択できるが、通常、1?100m/分である。
【0155】
また、左右一対のフィルム把持具が互いに等速度とは実質的に、左右一対の把持具の走行速度の差として走行速度の1%以下であることを意味する。
【0156】
一般的なテンター装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モーターの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本発明の実施形態で述べる速度差には該当しない。
【0157】
本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルムの製造方法は、上記斜め延伸可能なテンターを用いて行う。このテンターは、長尺フィルム原反を、オーブンによる加熱環境下で、その進行方向(フィルム幅方向の中点の移動方向)に対して斜め方向に拡幅する装置である。このテンターは、オーブンと、フィルムを搬送するための把持具が走行する左右で一対のレールと、該レール上を走行する多数の把持具とを備えている。フィルムロールから繰り出され、テンターの入口部に順次供給されるフィルムの両端を、把持具で把持し、オーブン内にフィルムを導き、テンターの出口部で把持具からフィルムを開放する。把持具から開放されたフィルムは巻芯に巻き取られる。一対のレールは、それぞれ無端状の連続軌道を有し、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持具は、外側を走行して順次入口部に戻されるようになっている。
【0158】
なお、図4(a)、(b)で代表されるように、テンターのレール形状は、製造すべき長尺延伸フィルムに与える配向角θ、延伸倍率等に応じて、左右で非対称若しくは左右対称な形状となっており、手動で又は自動で微調整できるようになっている。本発明においては、長尺の熱可塑性樹脂フィルムを延伸し、配向角θが延伸後の巻取り方向に対して、好ましくは10°?80°の範囲内で任意の角度に設定できるようになっている。
【0159】
また、左右の把持具の走行速度差については、テンターの延伸方式により適宜選択される。
【0160】
また、本発明の実施形態に係る製造方法で用いられる斜め延伸テンターでは、各レール部及びレール連結部の位置を自由に設定できることが好ましい。したがって、斜め延伸テンターは、任意の入り口幅及び出口幅を設定すると、これに応じた延伸倍率にすることができる(下記、図4の○部は連結部の一例である。)。
【0161】
本発明の実施形態に係る製造方法で用いられる斜め延伸テンターにおいて、特に図4(a)、(b)のようにテンター内部において、把持具の軌跡を規制するレールには、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が円弧を描くようにすることが望ましい。
【0162】
図4(a)で示される斜め延伸テンターにおいては、長尺フィルム原反のテンター入口での進行方向14-1は、延伸後のフィルムのテンター出側での進行方向14-2と異なっている。繰出し角度θiは、テンター入口での進行方向14-1と延伸後のフィルムのテンター出側での進行方向14-2とのなす角度である。
【0163】
図4(b)で示される斜め延伸テンターにおいては、長尺フィルム原反のテンター入口での進行方向14-1は、テンター内で繰出し角度θiにてテンター入口での進行方向とは異なる方向に転換され搬送される。その後さらに搬送方向が転換され、最終的には延伸後のフィルムのテンター出側での進行方向一致するような軌跡をとる。本発明においては、上述のように好ましくは10°?80°の配向角θを持つフィルムを製造するため、繰出し角度θiは、10°<θi<60°、好ましくは15°<θi<50°で設定される。繰出し角度θiを前記範囲とすることにより、得られるフィルムの幅方向の光学特性のバラツキが良好となる(小さくなる)。
【0164】
図4(a)(b)で示されるような本発明の実施形態において、テンターの左右の把持具は、前後の把持具と一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。
【0165】
斜め延伸テンター内を走行するフィルムは、フィルムが走行するレールパターンに応じて、テンター内に予熱ゾーン、横延伸ゾーン、斜め延伸ゾーン、保持ゾーン、冷却ゾーン等に区分けされたオーブンを通過する。ただし、必ずしも上記ゾーンの全てを上記順序でフィルムを搬送させる必要はなく、例えば下記組み合わせ例のように、上記ゾーンの一部のみを使用したり、上記ゾーンのうち任意のゾーンを数回使用したりしてもよい。
【0166】
予熱ゾーン/斜め延伸ゾーン/保持ゾーン/冷却ゾーン
予熱ゾーン/横延伸ゾーン/斜め延伸ゾーン/保持ゾーン/冷却ゾーン
予熱ゾーン/斜め延伸ゾーン/横延伸ゾーン/保持ゾーン/冷却ゾーン
予熱ゾーン/横延伸ゾーン1/斜め延伸ゾーン/横延伸ゾーン2/保持ゾーン/冷却ゾーン
予熱ゾーン/横延伸ゾーン1/斜め延伸ゾーン1/横延伸ゾーン2/斜め延伸ゾーン2/保持ゾーン/冷却ゾーン
予熱ゾーンとは、オーブン入口部において、フィルムの両端を把持した把持具の間隔が一定の間隔を保ったまま走行する区間をさす。
【0167】
横延伸ゾーンとは、フィルムの両端を把持した把持具の間隔が開きだし、所定の間隔になるまでの区間をさす。このとき、両端の把持具が走行するレールの開き角度は、両レールともに同じ角度で開いてもよいし、各々異なる角度で開いてもよい。
【0168】
斜め延伸ゾーンとは、フィルムの両端を把持した把持具が、把持具間隔を一定に保ったままあるいは広がりながら、屈曲するレール上を走行しはじめてから両把持具がともに再度直線レール上を走行しはじめるまでの区間をさす。
【0169】
保持ゾーンとは、横延伸ゾーンあるいは斜め延伸ゾーンより後の把持具の間隔が再び一定となる期間において、両端の把持具が互いに平行を保ったまま走行する区間をさす。
【0170】
冷却ゾーンとは、保持ゾーンより後の区間において、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg℃以下に設定される区間をさす。
【0171】
このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、あらかじめ対向する把持具間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
【0172】
各ゾーンの温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンの温度はTg?Tg+30℃、延伸ゾーンの温度はTg?Tg+30℃、冷却ゾーンの温度はTg-30?Tg℃に設定することが好ましい。
【0173】
なお、幅方向の厚さムラの制御のために延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。
【0174】
<偏光板>
本発明においては、長尺状λ/4位相差フィルム(延伸フィルム)を、長尺状の偏光子の少なくとも一方の面に積層して形成される長尺状偏光板とすることが好ましい。
【0175】
本発明に係る偏光板は、偏光子としてヨウ素、又は二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、本発明のλ/4位相差フィルム/偏光子の構成で貼合して製造することができる。
【0176】
偏光子の膜厚は、5?40μm、好ましくは5?30μmであり、特に好ましくは5?20μmである。
【0177】
偏光板は、一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理したλ/4位相差フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
【0178】
偏光板は、更に当該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0179】
<有機エレクトロルミネッセンス表示装置>
図6に、本発明の有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置の構成の一例の断面図を示すがこれに限定されるものではない。
【0180】
ガラスやポリイミド等を用いた基板101上に順に金属電極102、発光層103、透明電極(ITO等)104、封止層105を有する有機エレクトロルミネッセンス素子上に、偏光子107をλ/4位相差フィルム106と保護フィルム108によって挟持した円偏光板を設けて、有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置を構成する。該保護フィルム108には硬化層が積層されていることが好ましい。硬化層は、有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置の表面のキズを防止するだけではなく、円偏光板による反りを防止する効果を有する。更に、硬化層上には、反射防止層を有していてもよい。上記有機エレクトロルミネッセンス素子自体の厚さは1μm程度である。
【0181】
一般に、有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置は、透明基板上に金属電極と発光層と透明電極とを順に積層して発光体である素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)を形成している。ここで、発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、及び電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0182】
有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0183】
有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置においては、発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg-Ag、Al-Liなどの金属電極を用いている。
【0184】
このような構成の有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置において、発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0185】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板は、このような外光反射が特に問題となる有機エレクトロルミネッセンス用表示装置に適している。
【実施例】
【0186】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0187】
<実施例1>
<λ/4位相差フィルム1及び8の作製>
<原反作製>
セルロースエステル樹脂としてアシル基置換度の異なる二種を用いて以下の<ドープ液組成A>及び<ドープ液組成B>の二種のドープ液を作製した。
【0188】
<ドープ液組成A>
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート:アセチル基置換度1.55、プロピオニル基置換度0.9、総置換度2.45;重量平均分子量19万)
100質量部
糖エステル化合物A 10.0質量部
ポリエステルB 2.5質量部
微粒子添加液1 3.5質量部
<ドープ液組成B>
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート:アセチル基置換度1.1、プロピオニル基1.5、総置換度2.6;重量平均分子量19万)
100質量部
糖エステル化合物A 10.0質量部
ポリエステルB 2.5質量部
TINUVIN928(BASFジャパン社製) 1.5質量部
微粒子添加液1 3.5質量部
散乱体を含む微粒子添加液1は以下に示す方法で作製した。
【0189】
〈微粒子分散液1〉
微粒子(アエロジル R812 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0190】
〈微粒子添加液1の調整〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに十分攪拌しながら、微粒子分散液1をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
【0191】
メチレンクロライド 50質量部
微粒子分散液1 50質量部
糖エステル化合物Aは以下の方法で作製したものを用いた。
【0192】
(糖エステル化合物Aの調製)
撹拌装置、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸240g(0.8モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。次に、コルベン内を4×10^(2)Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×10^(2)Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、糖エステル化合物Aを得た。平均置換度は7.3、オクタノール・水分配係数(logP値)は12.43であった。
【0193】
【化12】

ポリエステルBは以下の方法で作製したものを用いた。
【0194】
(ポリエステルBの調製)
窒素雰囲気下、テレフタル酸ジメチル4.85g、1,2-プロピレングリコール4.4g、p-トルイル酸6.8g、テトライソプロピルチタネート10mgを混合し、140℃で2時間攪拌を行った後、更に210℃で16時間攪拌を行った。次に、170℃まで降温し、未反応物の1,2-プロピレングリコールを減圧留去することにより、比較ポリエステルBを得た。
【0195】
酸価 :0.1
数平均分子量:490
分散度 :1.4
分子量300?1800の成分含有率:90%
ヒドロキシ(水酸基)価:0.1
水酸基含有量:0.04%
ポリエステルBはジカルボン酸に対してモノカルボン酸が2倍モル使用されているので末端がトルイル酸エステルになっている。
【0196】
以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解して二種のドープ液を調製した。次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープ液を温度33℃、2000mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
【0197】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力110N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
【0198】
剥離したセルロースエステルフィルムを、160℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に1%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は15%であった。
【0199】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃で、搬送張力は100N/mとした。
【0200】
以上のようにして、それぞれドープ組成A及びBのドープ液から、乾燥膜厚110μmのロール状の長尺フィルム原反A及びBを得た。
【0201】
<斜め延伸>
(長尺延伸フィルム)の作製
次いで、長尺フィルム原反A及びBをフィルム巻出工程より巻出し、図4で示されるような斜め延伸テンターの模式図を用いて斜め延伸する斜め延伸工程について説明する。
【0202】
このとき、前工程で巻き取ったフィルム巻回体において、その後尾より巻出す形とした。
【0203】
ロール状の長尺フィルム原反A及びBを、図4(a)の装置のスライド可能な繰出装置にセットし、角度θi=47°となるようにレールパターンが設定された斜め延伸テンターに供給した。なお、このときの斜め延伸テンターのゾーン組み合わせとしては、予熱ゾーン、横延伸ゾーン、斜め延伸ゾーン、保持ゾーン、冷却ゾーンを有する組み合わせとした。そのとき、斜め延伸テンターの入口部に最も近いテンター入り口側のガイドロール12-1の主軸と斜め延伸テンターのフィルムの把持開始点(クリップつかみ部)8-1、8-2との距離を80cmとした。クリップは搬送方向の長さが2インチのものを、上記ガイドロールは直径10cmのものを使用した。斜め延伸テンター内にて、予熱ゾーンの温度を190℃、横延伸ゾーンの温度を180℃、斜め延伸ゾーンの温度を175℃、保持ゾーンの温度を175℃、冷却ゾーンの温度を110℃とした。またテンター出口における引取張力200N/mとした。
【0204】
このときの延伸倍率Rは、1.9倍となるように延伸を行った。このときの延伸倍率Rの内訳として横延伸ゾーンにて1.3倍、さらに斜め延伸ゾーンにおいて1.5倍となるように延伸を行った。
【0205】
なお、この際、配向角θは45°となるように斜め方向に延伸を行った。延伸後のフィルムは、斜め延伸テンター出口側のガイドロール12-2で測定した張力の変動を引取モーター回転数に反映させるフィードバック制御を行って、引取張力の変動が3%未満となるように制御した。その後、フィルム両端をトリミングして、エアーフローロールからなる搬送方向変更装置で搬送方向を変更し、スライド可能な巻取装置で巻き取り、2000mm幅のロール状の長尺延伸フィルムを得た。
【0206】
なお、加熱及び延伸する際におけるフィルム移動速度は5m/分とした。
【0207】
また、フィルムの幅方向に渡って温度制御をするための加熱装置を使用して延伸を行った。加熱装置は延伸後のフィルム幅方向のフィルムの厚さが、延伸前の幅方向フィルム厚さ分布と同程度になるように温度制御を行った。
【0208】
このようにして、ドープ液組成Aに由来するλ/4位相差フィルム1と、ドープ液組成Bに由来するλ/4位相差フィルム8の二種のλ/4位相差フィルムとを得た。
【0209】
得られた長尺状のλ/4位相差フィルム(延伸フィルム)は、フィルム長手方向に対し均一なものであった。λ/4位相差フィルムの遅相軸は、フィルムの長手方向に対して45°の角度であった。
【0210】
<λ/4位相差フィルム2?7、9?14の作製>
次にドープ液組成Aとドープ液組成Bに含まれる微粒子添加液1の代わりに、表1に示されるヘイズ値になるようディゾルバーでの攪拌混合時間を変化させた微粒子添加液を用いたことのみ変えて、円偏光板1、8と同様にしてドープ液組成Aに由来するλ/4位相差フィルム2?7とドープ液組成Bに由来するλ/4位相差フィルム9?14を作製した。
【0211】
<円偏光板の作製>
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、沃素1kg、ホウ酸4kgを含む水溶液100kgに浸漬し50℃で6倍に延伸して長尺の偏光膜を作った。この偏光膜を偏光子として、この両面に、以下のアルカリケン化処理を行った配向角の異なる長尺状の上記λ/4位相差フィルム1?14を、それぞれ偏光子を挟持するように完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として偏光子とそれぞれ貼り合わせ偏光板保護フィルム(コニカミノルタオプト社製KC4UY)、偏光子、λ/4位相差フィルムの構成からなる円偏光板1?14を作製した。
【0212】
このとき、偏光子の吸収軸とλ/4位相差フィルムの遅相軸のなす角度は45°であった。
【0213】
〈アルカリケン化処理〉
ケン化工程 2N-NaOH 50℃ 90秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
中和工程 10質量%HCl 30℃ 45秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
上記条件でフィルム試料をケン化、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで80℃で乾燥を行った。
【0214】
<有機エレクトロルミネッセンス表示装置の作製>
ガラス基板上にスパッタリング法によって厚さ80nmのクロムからなる反射電極、反射電極上に陽極としてITOをスパッタリング法で厚さ40nmに成膜し、陽極上に正孔輸送層としてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)をスパッタリング法で厚さ80nm、正孔輸送層上にシャドーマスクを用いて、RGBそれぞれの発光層を100nmの膜厚で形成した。赤色発光層としては、ホストとしてトリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(Alq_(3))と発光性化合物[4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran](DCM)とを共蒸着(質量比99:1)して100nmの厚さで形成した。緑色発光層としては、ホストとしてAlq_(3)と、発光性化合物クマリン6とを共蒸着(質量比99:1)して100nmの厚さで形成した。青色発光層としては、ホストとしてBAlqと発光性化合物ペリレン(Perylene)とを共蒸着(質量比90:10)して厚さ100nmで形成した。
【0215】
【化13】

さらに、発光層上に電子が効率的に注入できるような仕事関数の低い第1の陰極としてカルシウムを真空蒸着法により4nmの厚さで成膜し、第1の陰極上に第2の陰極としてアルミニウムを2nmの厚さで成膜した。ここで、第2の陰極として用いたアルミニウムはその上に形成される透明電極をスパッタリング法により成膜する際に、第1の陰極であるカルシウムが化学的変質をすることを防ぐ役割がある。次に、陰極上にスパッタリング法によって透明導電膜を80nmの厚さで成膜した。ここで透明導電膜としてはITOを用いた。さらに、透明導電膜上にCVD法によって窒化珪素を200nm成膜することで、絶縁膜とした。
【0216】
上記で得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の絶縁膜に接着剤を用いて円偏光板1?14を固定化し、それぞれ対応する有機エレクトロルミネッセンス表示装置1?14を作製した。
【0217】
〈評価〉
(1)配向角θ、面内の位相差値Ro
位相差測定装置(王子計測機器(株)製、KOBRA-WPR)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、遅相軸の配向角θ、及び550nmにおける面内の位相差値Roを求めた。なお、遅相軸の角度は長尺フィルムの長手方向を0°基準とし、時計回り方向が+、反時計まわり方向を-として角度を記載した。
(2)45°偏光を用いた内部ヘイズ
〈内部ヘイズ測定装置〉
ヘイズメーター(濁度計)(型式:NDH 2000、日本電色工業(株)製)
光源は、5V9Wハロゲン球、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)を用いている。
【0218】
本発明においては、この装置にてフィルム屈折率±0.05の屈折率の溶剤をフィルム界面とした場合のフィルムのヘイズ値を測定する。測定はJIS K-7136に基づきながら、光源部分に偏光子を設置することで偏光光源とし、偏光の電場振動方向と試料の遅相軸が45°の関係になるように試料を適宜回転設置した状態で測定した。偏光子としてG1220DUN、(日東電工(株)製)の表面保護フィルム及び剥離ライナー及び粘着層を除去して用いた。
【0219】
内部ヘイズ測定は以下のように行う。図5(a)?(d)を持って説明する。図5は内部ヘイズ測定用試料の模式図である。
【0220】
まず、フィルム以外の測定器具のブランクヘイズ1を測定する。
1.きれいにしたスライドガラス61の上にグリセリン62を一滴(0.05ml)たらす。このとき液滴に気泡が入らないように注意する。ガラスは見た目がきれいでも汚れていることがあるので必ず洗剤で洗浄したものを使用する(図5(a)参照)。
2.その上にカバーガラスを乗せる。カバーガラスは押さえなくてもグリセリンは広がる。
3.ヘイズメーターにセットしブランクヘイズ1を測定する。
【0221】
次いで以下の手順で、試料を含めたヘイズ2を測定する。
4.スライドガラス61上にグリセリン62を0.05m滴下する(図5(a)参照)。
5.その上に測定する試料フィルム63を気泡が入らないように乗せる(図5(b)参照)。
6.試料フィルム63上にグリセリン62を0.05ml滴下する(図5(c)参照)。
7.その上にカバーガラスを載せる(図5(d)参照)。
8.上記のように作製した積層体(上から、カバーガラス/グリセリン/試料フィルム/グリセリン/スライドガラス)をヘイズメーターにセットしヘイズ2を測定する。
9.(ヘイズ2)-(ヘイズ1)=(本発明のλ/4位相差フィルムの45°偏光入射時の内部ヘイズ)を算出する。
【0222】
なお、λ/4位相差フィルムは23℃55%RHにて5時間以上調湿された後に試料作製され、また上記ヘイズの測定は全て23℃55%RHにて行われた。
【0223】
また、上記測定にて使用したガラス、グリセリンを以下のとおりである。
ガラス:MICRO SLIDE GLASS S9213 MATSUNAMI
グリセリン: 関東化学製 鹿特級(純度>99.0%)屈折率1.47
(3)有機エレクトロルミネッセンス表示の均一性
有機エレクトロルミネッセンス表示装置を、一画素を白色200cdで発光させた状態で100画素に関して目視評価を行った。
○:評価者10人のうち白色の色均一性が視認できる割合が10%未満である。
△:評価者10人のうち白色の色均一性が視認できる割合が10%以上30%未満である。
×:評価者10人のうち白色の色均一性が視認できる割合が30%以上である。
(4)外光反射率
有機エレクトロルミネッセンス表示装置を、23℃55%RHの部屋に24時間保存後、電圧を印加せず発光していない状態にして、照度約100lxの環境下に置き、表示パネル上の4隅と中央部の5点について、反射色の黒味レベルを以下のように視感評価を行った。
【0224】
◎:5点とも黒味が引き締まっており問題ない
○:1点において反射光が漏れているものの、十分な黒味がある。
【0225】
×:2点以上において反射光が漏れており、黒味が不十分な点がある
λ/4位相差フィルム1?14、円偏光板1?14及びこれらを用いた有機エレクトロルミネッセンス表示装置1?14の評価結果を表1にまとめて記載する。
【0226】
なお、以下の表中有機エレクトロルミネッセンス表示装置を有機EL表示装置と略記した、またドープ液組成Aから微粒子分散液を除いた液組成をドープ種A、同様にドープ液組成Bから微粒子分散液を除いた液組成をドープ種Bとして示した。
【0227】
更に有機エレクトロルミネッセンス表示装置の表示の均一性、は表示の均一性、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の外光反射率を外光反射率と略記した。
【0228】
【表1】

表1から明らかなように、本発明の試料は外光反射率が低く、表示の均一性に優れた有機エレクトロルミネッセンス表示装置であった。
【0229】
<実施例2>
<原反フィルムの作製>
実施例1と同様の手法でドープ液組成Aを用いて、微粒子分散物1のみを以下のように代えて、流延製膜によりセルロースエステルからなる長尺原反フィルムを得た。
【0230】
微粒子分散物1の散乱体として、同一質量部のシリカ粒子(R812、R972V(日本アエロジル社製)、酸化アルミニウムC(日本アエロジル社製)、酸化チタンP25(日本アエロジル社製)、フッ化マグネシウム(森田化学工業株式会社製)の中から選択し、散乱体の粒径は、微粒子分散液の分散時間を変化させる事により制御を行った。以上のようにして散乱体種と散乱体の平均粒径の異なる15種の原反フィルムを作製した。
【0231】
<ドープ液組成C>
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート:アセチル基置換度1.1、プロピオニル基0.8、総置換度1.9;重量平均分子量19万)
100質量部
糖エステル化合物A 10.0質量部
ポリエステルB 2.5質量部
TINUVIN928(BASFジャパン社製) 1.5質量部
微粒子添加液1 3.5質量部
<ドープ液組成D>
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート:アセチル基置換度1.7、プロピオニル基0.4、総置換度2.1;重量平均分子量19万)
100質量部
糖エステル化合物A 10.0質量部
ポリエステルB 2.5質量部
TINUVIN928(BASFジャパン社製) 1.5質量部
微粒子添加液1 3.5質量部
実施例1と同様の手法で、斜め延伸し、λ/4位相差フィルム15?29、円偏光板15?29の作製、有機エレクトロルミネッセンス表示装置15?29の作製を行い45°偏光入射時の内部ヘイズ、表示均一性、外光反射率を実施例1と同様に評価した。
【0232】
なお微粒子分散物の粒径は、λ/4フィルムを透過型電子顕微鏡による観察により測定した。該粒子を含む本発明の試料の光学顕微鏡写真(1000倍透過モード)を撮影し、この写真に写った粒子の直径を画像処理装置LUZEX-III(ニレコ社製)で100個測定し、その平均値を算出して粒径とした。
【0233】
結果を表2にまとめて記載する。
【0234】
【表2】

表2から明らかなように、本発明の試料は外光反射が少なく表示の均一性に優れた有機エレクトロルミネッセンス表示装置であることがわかる。
【符号の説明】
【0235】
21a、21b 青発光素子
22a、22b 緑発光素子
23a、23b 赤発光素子
24a、24b 画素
31 偏光子
32 λ/4位相差フィルム
33 発光素子
34 外光
35 直線偏光
36 円偏光
37 円偏光
38 直線偏光
39 無偏光
40 無偏光
41 直線偏光
51 散乱体
52 ボイド
53 セルロースエステル
4 長尺フィルム原反
5 長尺延伸フィルム
6 斜め延伸テンター
7-1 外側のフィルム把持手段の軌跡
7-2 内側のフィルム把持手段の軌跡
8-1 外側のフィルム把持開始点
8-2 内側のフィルム把持開始点
9-1 外側のフィルム把持終了点
9-2 内側のフィルム把持終了点
10-1 外側斜め延伸開始点
10-2 内側斜め延伸開始点
11-1 外側斜め延伸終了点
11-2 内側斜め延伸終了点
11-3 外側横延伸ゾーン終点
12-1 テンター入口側のガイドロール
12-2 テンター出口側のガイドロール
13 フィルムの延伸方向
14-1 斜め延伸前のフィルムの搬送方向
14-2 斜め延伸後のフィルムの搬送方向
15 左右把持具同士の搬送速度が異なる部分
W0 斜め延伸前のフィルム幅手長さ
W 斜め延伸後のフィルム幅手長さ
61 スライドガラス
62 グリセリン
63 試料フィルム
101 基板
102 金属電極
103 発光層
104 透明電極
105 封止層
106 λ/4位相差フィルム
107 偏光子
108 保護フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子とλ/4位相差フィルムとが積層された有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板であって、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が45°であり、前記λ/4位相差フィルムの、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸に対して偏光の電場振動面とのなす角度が45°である直線偏光入射時の内部ヘイズ値が0.01?0.1%の範囲内である(ただし、垂直配向液晶層を有する円偏光板を除く。)ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
【請求項2】
前記λ/4位相差フィルムが、下記式(1)及び式(2)を満足するセルロースエステルと、散乱体とボイドとを含有し、かつ前記散乱体の平均粒径(r)と屈折率(n)とが、下記式(3)及び式(4)とを満足することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
2.0≦X+Y≦3.0・・・・・式(1)
0.5≦Y・・・・・・・・・・・式(2)
(式(1)及び式(2)中、Xはアセチル基置換度を表し、Yはプロピオニル基置換度とブチリル基置換度との和を表す。)
100nm≦r≦500nm・・・式(3)
1.4<n<1.47・・・・・・式(4)
【請求項3】
前記散乱体が、表面処理シリカ分散物であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
【請求項4】
前記λ/4位相差フィルムが、斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
【請求項5】
前記λ/4位相差フィルムが、斜め延伸λ/4位相差フィルムであることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板。
【請求項6】
請求項1又は4に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項7】
請求項2、3又は5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-01 
出願番号 特願2011-226358(P2011-226358)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (H05B)
P 1 651・ 537- ZAA (H05B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 井亀 諭  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 川村 大輔
樋口 信宏
登録日 2016-10-07 
登録番号 特許第6014988号(P6014988)
権利者 コニカミノルタ株式会社
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス表示装置用円偏光板、及びそれを有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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