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審決分類 審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F24H
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F24H
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F24H
審判 一部申し立て 2項進歩性  F24H
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F24H
管理番号 1342985
異議申立番号 異議2017-700653  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-27 
確定日 2018-07-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6051844号発明「潜熱回収型温水生成用機器およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6051844号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6051844号の請求項1、4に係る特許を維持する。 特許第6051844号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6051844号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許は、平成24年12月22日(優先権主張平成23年12月26日)に特許出願され、平成28年12月9日にその特許権の設定登録(特許掲載公報の発行日:平成28年12月27日)がされ、これに対して平成29年6月27日に特許異議申立人 久門 享(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1ないし4に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。
そして、その後の手続は以下のとおりである。
・平成29年8月22日付け取消理由通知(発送日:平成29年8月24日)
・平成29年10月20日に特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
・平成29年11月27日に申立人による意見書の提出
・平成29年12月7日付け取消理由通知(発送日:平成29年12月11日)
・平成30年2月8日に特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
・平成30年4月17日付け訂正拒絶理由通知(発送日:平成30年4月19日)
・平成30年5月14日に特許権者による意見書及び平成30年2月8日付け訂正請求書についての手続補正書の提出

第2 訂正の請求について
1 平成30年5月14日付け手続補正書による補正について
(1)補正の適否の判断
ア 訂正事項2の補正について
補正後の訂正事項2は、請求項2を削除するものであって、それにより審理の対象がなくなることにすぎず、審理遅延を生じさせるものではないから、訂正事項2の補正は、平成30年2月8日付け訂正請求書の要旨を変更するものではない。

イ 訂正事項4及び5の補正について
補正後の訂正事項4及び5は、訂正事項2による請求項2の削除に整合させて、請求項4及び5において請求項2を引用しないようにしたものであるから、訂正事項4及び5の補正は、平成30年2月8日付け訂正請求書の要旨を変更するものではない。

(2)小括
したがって、平成30年5月14日付け手続補正書による補正は、平成30年2月8日付け訂正請求書の要旨を変更するものではなく、これを認める。

2 訂正の請求の趣旨
平成30年5月14日付け手続補正書により補正された平成30年2月8日付け訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし6について訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものである。
なお、平成29年10月20日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定に基づき、取り下げられたものとみなす。

3 本件訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「フェライト系ステンレス製の部材を備えている、潜熱回収型温水生成機器であって、前記部材の表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されていることを特徴とする、潜熱回収型温水生成用機器。」とあるのを、
「アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス製の部材を備えている、潜熱回収型温水生成用機器であって、前記部材の表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されていることを特徴とする、潜熱回収型温水生成用機器。」に訂正する(下線は、訂正箇所を示す。以下、この項において、同様。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1ないし3のいずれかに記載の潜熱回収型温水生成用機器であって、前記フェライト系ステンレス製の部材は、潜熱を含む気体から熱回収を行なうための伝熱管であり、全体が熱交換器として構成されている、潜熱回収型温水生成用機器。」とあるのを、
「請求項1に記載の潜熱回収型温水生成用機器であって、前記フェライト系ステンレス製の部材は、潜熱を含む気体から熱回収を行なうための伝熱管であり、全体が熱交換器として構成されている、潜熱回収型温水生成用機器。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1ないし4のいずれかに記載の潜熱回収型温水生成機器を製造するための方法であって、前記フェライト系ステンレス製の部材の表層部に前記クロム酸化膜を形成するための高温酸化用の熱処理工程を有しており、この熱処理工程においては、前記フェライト系ステンレス製の部材を1000?1200℃の温度で120分を超えない範囲で加熱し、かつ加熱温度が900℃以上の際の雰囲気を10^(-1)?10^(-2)Paの真空雰囲気、または露点が-80?-90℃の水素雰囲気とすることを特徴とする、潜熱回収型温水生成機器の製造方法。」とあるのを、「請求項1または4のいずれかに記載の潜熱回収型温水生成機器を製造するための方法であって、前記フェライト系ステンレス製の部材の表層部に前記クロム酸化膜を形成するための高温酸化用の熱処理工程を有しており、この熱処理工程においては、前記フェライト系ステンレス製の部材を1000?1200℃の温度で120分を超えない範囲で加熱し、かつ加熱温度が900℃以上の際の雰囲気を10^(-1)?10^(-2)Paの真空雰囲気、または露点が-80?-90℃の水素雰囲気とすることを特徴とする、潜熱回収型温水生成機器の製造方法。」に訂正する。

4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「フェライト系ステンレス製の部材」について、「アルミニウムを含有する」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
特許明細書等には、明細書の段落【0023】、【0026】及び【0030】並びに図3及び4において、フェライト系ステンレス製の部材がAlを含有することが記載されている。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「フェライト系ステンレス製の部材」について、「アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス製の部材」と発明特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するというものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アに記載したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するというものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するというものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アに記載したとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するというものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正事項2及び3の訂正による請求項2及び3の削除に伴い、訂正前の請求項2及び3を引用している請求項4について、請求項2及び3を引用しないように整合を図ったものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、請求項2及び3の削除に伴い、請求項4が請求項2及び3の記載を引用しないものとするのであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、請求項2及び3の削除に伴い、請求項4が請求項2及び3の記載を引用しないものとするのであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正事項2及び3の訂正による請求項2及び3の削除に伴い、訂正前の請求項2及び3を引用している請求項5について、請求項2及び3を引用しないように整合を図ったものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、請求項2及び3の削除に伴い、請求項5が請求項2及び3の記載を引用しないものとするのであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、請求項2及び3の削除に伴い、請求項5が請求項2及び3の記載を引用しないものとするのであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

5 一群の請求項について
本件訂正請求は、請求項〔1-6〕という一群の請求項について請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

6 まとめ
以上のとおり、訂正事項1ないし5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、また、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に適合するから、結論のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件特許の請求項1及び4に係る発明(以下、順に「本件発明1」、「本件発明4」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス製の部材を備えている、潜熱回収型温水生成用機器であって、
前記部材の表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されていることを特徴とする、潜熱回収型温水生成用機器。
【請求項4】
請求項1に記載の潜熱回収型温水生成用機器であって、
前記フェライト系ステンレス製の部材は、潜熱を含む気体から熱回収を行なうための伝熱管であり、全体が熱交換器として構成されている、潜熱回収型温水生成用機器。」

2 取消理由の概要
(1)平成29年8月22日付けで通知した取消理由
平成29年8月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
ア 取消理由1-1
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1に係る特許は取り消すべきものである。

イ 取消理由1-2
本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項4に係る特許は取り消すべきものである。

<引用刊行物>
甲第1号証:特開2002-106970号公報
甲第2号証:特開2000-345301号公報
甲第3号証:特開平4-183846号公報
甲第4号証:特開2000-345316号公報

(2)平成29年12月7日付けで通知した取消理由
平成29年12月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
ア 取消理由2-1
特許請求の範囲の記載の請求項1及び4には、「潜熱回収型温水生成用機器」という物の発明が記載されているが、その物の製造方法が記載されているといえ、また、「前記部材に高温酸化用の熱処理が加えられたことにより形成され」との事項が、形成されたクロム酸化膜の状態にどのような影響があるのか不明であり、クロム酸化膜の構造や特性が明らかであるとはいえないため、請求項1及び4に係る発明は明確でないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

イ 取消理由2-2
本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項4に係る特許は取り消すべきものである。

<引用刊行物>
甲第1号証:特開2002-106970号公報
甲第4号証:特開2000-345316号公報

3 甲各号証について
(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、図面とともに以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】 被加熱流体を流すパイプを有し,該パイプに接触する燃焼排ガスに含有される水分が凝縮する際の潜熱を回収するよう構成された潜熱回収用熱交換器において,上記パイプは,JIS規格におけるSUS436J1L,SUS436L,SUS444のいずれかのフェライト系ステンレス鋼よりなることを特徴とする潜熱回収用熱交換器。
【請求項2】 被加熱流体を流すパイプを有し,該パイプに接触する燃焼排ガスに含有される水分が凝縮する際の潜熱を回収するよう構成された潜熱回収用熱交換器において,上記パイプは,C;0.025%以下(重量比以下同じ),Si;0.75%以下,Mn;1.00%以下,P;0.040%以下,S;0.030%以下,Cr;17.00?19.00%,Ni;0.60%以下,Mo;0.40?0.80%,N;0.0150%以下,Ti;8×(C+N)?0.80%,残部Feよりなるフェライト系ステンレス鋼よりなることを特徴とする潜熱回収用熱交換器。」

(イ)「【0001】
【技術分野】本発明は,耐食性に優れた潜熱回収用熱交換器およびこれを備えた燃焼機器に関する。
【0002】
【従来技術】例えば給湯器などの燃焼機器においては,ガスバーナの燃焼による加熱だけでなく,その燃焼排ガスに含まれる水分の潜熱を回収して利用し,エネルギー効率を向上させることが行われている。この潜熱回収には,アルミニウム製,オーステナイト系ステンレス鋼およびチタン製の潜熱回収用熱交換器が用いられる。
【0003】潜熱回収用熱交換器2は,後述する図1に示すごとく,燃焼機器1内に内蔵させ,一次熱交換器10を加熱するガスバーナ3の燃焼排ガス39と接触するよう配置される。また,潜熱回収用熱交換器2は,直線部211とU字状部212とを交互に連結して複数回折り返した状態に配置したパイプ21と,その周囲に配設された多数のフィン22とより構成されている。なお,フィン22を設けずにパイプ21の形状そのものをジャバラ状にしたものもある。
【0004】そして,燃焼機器1の運転時には,潜熱回収用熱交換器2の上記フィン22およびパイプ21にガスバーナ3の燃焼排ガス39を接触させる。これにより,燃焼排ガス中に含まれている水分がフィン22およびパイプ21上にて凝縮し,その潜熱を回収することができる。そして,この回収した潜熱は,パイプ21内を流れる被加熱流体に伝えられる。また,潜熱回収用熱交換器2上において凝縮した水分は,下方のドレン受け部4に受けられ,外部に排出される。
【0005】
【解決しようとする課題】ところで,上記従来の潜熱回収用熱交換器のうち,アルミニウム製の潜熱回収用熱交換器の場合には,次のような問題がある。即ち,上記燃焼排ガスには,NO_(x),SO_(x),CO_(2)等が含まれ,その凝縮水は例えば硝酸等のような金属を腐食させる成分を含んだものとなる。そのため,潜熱回収用熱交換器は,一次熱交換器のような単なる流体との熱交換を行う通常の熱交換器に比べて非常に腐食しやすい環境に晒されることとなる。そして従来より上記パイプ21等が腐食することが問題となっている。
【0006】従来より,パイプ21等に関して,上記腐食の問題を解消すべく,材料自体の選択の変更,表面を保護するコーティング材の選択等による種々の対策が検討されてきた。しかしながら,上記パイプ等の本来の要求特性である高い熱伝導率を有し,さらに十分な耐食性を有する安価な材料を選択するのは非常に困難である。
【0007】例えばチタンは耐食性は優れるが,熱伝導率も低く,非常に高価であるため,実際の製品に適用するにはコスト面に問題がある。オーステナイト系ステンレスの場合には,熱伝導性が低く,比較的高価なNiを使用している。また,コーティング材による被覆は熱伝達性を低下させる場合がある。また,上記パイプは,U字状部と直線部とを連結するためにろう付けを行う。そのため,パイプの材質としてはろう付け性も良好なものを選択する必要がある。
【0008】本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,熱伝導性,耐食性,ろう付け性に優れると共に比較的安価なパイプおよびフィンを有する潜熱回収用熱交換器およびこれを備えた燃焼機器を提供しようとするものである。」

(ウ)「【0009】
【課題の解決手段】請求項1の発明は,被加熱流体を流すパイプを有し,該パイプに接触する燃焼排ガスに含有される水分が凝縮する際の潜熱を回収するよう構成された潜熱回収用熱交換器において,上記パイプは,JIS規格におけるSUS436J1L,SUS436L,SUS444のいずれかのフェライト系ステンレス鋼よりなることを特徴とする潜熱回収用熱交換器にある。
【0010】本発明において最も注目すべき点は,上記特定のフェライト系ステンレス鋼を上記潜熱回収用熱交換器のパイプに適用したことである。ここで,上記JIS規格は,日本工業規格である。そして,上記SUS436J1L,SUS436L,SUS444は,いずれもフェライト系ステンレス鋼の成分規格である。具体的な成分規格は後述する表1に示す。なお,表1には,残部鉄(Fe)の表示は省略してある。
【0011】次に,本発明の作用効果につき説明する。本発明の潜熱回収用熱交換器においては,上記のごとく,特定の3種類のフェライト系ステンレス鋼のいずれかを上記パイプ及びフィンに適用する。そのため,後述する実施形態例に示すごとく,上記パイプ及びフィンは,熱伝導性,耐食性,ろう付け性に優れたものとすることができる。
【0012】特に,潜熱回収用熱交換器は,通常の熱交換器の場合よりも過酷な腐食環境に晒される。この場合にも,本発明の潜熱回収用熱交換器におけるパイプは,十分な耐食性を発揮する。また,上記特定の3種類のフェライト系ステンレス鋼は,ろう付け性にも優れている。
【0013】さらに,上記特定の3種類のフェライト系ステンレス鋼は,オーステナイト系ステンレス鋼の場合のような高価なNiを用いておらず,材料自体が比較的安価であり,さらに溶接性にも優れるので,シームレス管よりも安価な溶接管を採用することができ,その分さらにコストダウンを図ることができる。
【0014】次に,請求項2の発明は,被加熱流体を流すパイプを有し,該パイプに接触する燃焼排ガスに含有される水分が凝縮する際の潜熱を回収するよう構成された潜熱回収用熱交換器において,上記パイプは,C;0.025%以下(重量比以下同じ),Si;0.75%以下,Mn;1.00%以下,P;0.040%以下,S;0.030%以下,Cr;17.00?19.00%,Ni;0.60%以下,Mo;0.40?0.80%,N;0.0150%以下,Ti;8×(C+N)?0.80%,残部Feフェライト系ステンレス鋼よりなるよりなることを特徴とする潜熱回収用熱交換器にある。上記のフェライト系ステンレス鋼は,川崎製鉄(株)製の表品名「R432LTMステンレス鋼」で,Tiを上記のごとく含有するものである。以下,上記フェライト系ステンレス鋼を「Rステンレス鋼」と称することもある。この場合には,特に優れた耐食性を示すと共に上記請求項1の発明と同様に優れた効果を発揮する。」

(エ)「【0029】
【発明の実施の形態】実施形態例1
本発明の実施形態例にかかる潜熱回収用熱交換器および燃焼機器につき,図1?図3を用いて説明する。本例における燃焼機器1は,図1に示すごとく,被加熱流体7を流すパイプ11,21と,該パイプ11,21の周囲に配設されたフィン12,22とをそれぞれ有する一次熱交換器10および潜熱回収用熱交換器2を直列に接続してなる。そして,上記一次熱交換器10をガスバーナ3の燃焼により加熱すると共に,上記潜熱回収用熱交換器2を上記ガスバーナ3の燃焼排ガス39と接触させてその潜熱を回収するよう構成されている。
【0030】本例では,潜熱回収用熱交換器2を構成するパイプ21及びフィン22は,いずれも,JIS規格におけるSUS436J1L,SUS436L,SUS444,及び川崎製鉄(株)製「R432LTM」(Rステンレス鋼)の4種類のいずれかのフェライト系ステンレス鋼を適用する。これらの成分組成を表1に示す。なお,表1には,残部Feの記載を省略した。
【0031】
【表1】



(オ)「【0036】次に,本例の潜熱回収用熱交換器2及び燃焼機器1の作用効果につき説明する。本例の潜熱回収用熱交換器2においては,上記のごとく,特定の4種類のフェライト系ステンレス鋼のいずれかを上記パイプ21及びフィン22に適用する。そのため,パイプ21及びフィン22は,熱伝導性,耐食性,ろう付け性に優れたものとすることができる。
【0037】そのため,本例の潜熱回収用熱交換器2は,燃焼機器1を運転した際に生ずる,燃焼排ガスの凝縮水という非常に腐食性の強い溶液に接触した場合においても,十分に腐食を抑制することができる。
【0038】さらに,上記特定の4種類のフェライト系ステンレス鋼は,オーステナイト系ステンレス鋼の場合のような高価なNiを含有しておらず,材料自体が比較的安価であり,さらに溶接性にも優れるので,シームレス管よりも安価な溶接管を採用することができ,その分さらにコストダウンを図ることができる。それゆえ,潜熱回収用熱交換器2,およびこれを備えた燃焼機器1は,耐久性に優れ,かつ,比較的安価なものとなる。」

(カ)「【0040】実施形態例3
本例では,実施形態例1における潜熱回収用熱交換器2に使用することができるパイプ21,フィン22の材質の優れた特性を評価すべく試験を行った。この試験のために,本発明の潜熱回収用熱交換器におけるパイプ及びフィンに使用できる,JIS規格におけるSUS436J1L,SUS436L,SUS444,及び上記Rステンレス鋼のフェライト系ステンレス鋼として,5種類の試験片(試料No.E1?E5)を準備し,さらに比較のための試験片(試料No.C1?C11)を準備した。試験片としては,表2に示すごとく,種々の金属材料を準備した。
【0041】また,本例の試験としては,表3に示すごとく,平均腐食速度の測定,熱伝導率の測定,ろう付け性評価を行った。
・・・
【0045】各評価項目の結果を表3に示す。これらの表から知られるように,平均腐食速度,熱伝導率,Niろう付け及びCuろう付け性のすべてが◎あるいは○のものは,上述したJIS規格におけるSUS436J1L(1種類),SUS436L(2種類),SUS444(1種類),及び上記Rステンレス鋼の5種類のフェライト系ステンレス鋼だけであることがわかる。
【0046】また,これら5種類のフェライト系ステンレス鋼は,材料価格も比較的安く,また,溶接性に優れるため,比較的安価な溶接管を上記パイプとして適用することができる。このように,上記の5種類のフェライト系ステンレス鋼は,潜熱回収用熱交換器を構成するパイプおよびフィンを構成する材料として最適であることがわかる。」

(キ)「【0047】
【表2】


【0048】
【表3】



(ク)「【0049】実施形態例4
本例では,図1に示した構成と同様の構成の実験用燃焼機器1を用いて,実際に運転をし,耐食性をテストした。この燃焼機器1においては,上記被加熱流体としては水を,上記ガスバーナ3の燃料としては都市ガスを用いた。そして,上記潜熱回収用熱交換器2におけるパイプ21およびフィン22の材質としては,上記実施形態例3(表2)におけるE1?E5およびC1?C3のものを用いた。これらは,実施形態例3における熱伝導率が良好なものを代表にして選んだものである。
【0050】試験は,それぞれ1000Hr運転することにより行った。そして,各潜熱回収用熱交換器におけるパイプの平均腐食深さを測定した。また,テスト期間中に2回凝縮水をサンプリングし,そのpHおよび各成分の濃度測定を行った。その結果を図5および表4に示す。
【0051】図5は,横軸に時間,縦軸に平均腐食深さをとったものである。同図から知られるごとく,本発明品である特定のフェライト系ステンレス鋼を用いた潜熱回収用熱交換器2は,殆ど腐食の進行が見られなかった。これに対し,比較のC1?C3はいずれも,徐々に腐食が進行していった。また,表4より知られるごとく,凝縮水は硝酸イオンを60ppm以上含有し,pH2.9という強い酸性を示していたこともわかった。」

(ケ)「【図1】


【図2】


【図3】



イ 甲第1号証には、上記ア(イ)の記載及び(ケ)の図1に示された内容によれば、次の事項からなる発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認める。
「オーステナイト系ステンレス鋼よりなるパイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22を備えている、燃焼排ガス39から潜熱を回収して利用する給湯器などの燃焼機器1。」

ウ 甲第1号証には、上記ア(ア)ないし(ク)の記載及び(ケ)の図1ないし3に示された内容によれば、次の事項からなる発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。
「JIS規格におけるSUS436J1L、SUS436L、SUS444及び品名が「R432LTM」のステンレス鋼のいずれかのフェライト系ステンレス鋼よりなるパイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22を備えている、燃焼排ガス39から潜熱を回収して利用する給湯器などの燃焼機器1。」

(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、図面とともに以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】 鋼成分が質量%で、C:0.03%以下、Si:0.1?0.6%、Mn:0.4%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Cr:20?35%、Mo:0.8?4.0%以下およびN:0.03%以下を含み、場合によってはCu:0.3?1.5%を含有し、さらにNb:0.1?0.6%、Ti:0.05?0.5%およびAl:0.01?0.3%の1種もしくは2種以上を含み、かつこれら成分の間にNb+Ti≧7(C+N)+0.15の関係が成立し、残部は実質的に鉄および不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼であって、Cr濃度が70原子%以上に濃化し、Crの酸化物または水和物を主体とする不動態皮膜が表面に形成されていることを特徴とする金属イオンの耐溶出性に優れたステンレス鋼材。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、清涼飲料水や酒、ビールなどのアルコール飲料水など液体の食品を取り扱う食品工業分野および超純水による洗浄などを行う半導体分野において、それら食品や液体を貯蔵、運搬する容器などを構成する材料に関し、鋼材からの金属イオンの溶出が極めて小さく、上記食品の金属イオンによる汚染や変質がなく安全性の高いステンレス鋼を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】食品や清涼飲料水の中には有機酸を多量に含み酸性を示すものがあり、それらを保管、貯蔵するタンクや機器材料に金属材料を用いた場合、金属材料から溶出した金属イオンにより、食品や飲料水が変色したり変質する場合がある。特に、日本酒の貯蔵においては極微量の鉄イオンの溶出であっても酒が汚染され黄変することから、高級酒においては品質を低下させる。
【0003】また、シリコンウエハーなど半導体精密機器の洗浄に用いられる純水や洗浄用アルコールは極微量の金属イオンの存在により、洗浄能力が低下する上に精密部品の機能性を損なう場合がある。したがって、それらの洗浄液を保管するタンクなどは金属イオンが溶出しにくい材料を用いる必要がある。
【0004】これらの金属イオンの溶出が問題になる分野においては、従来よりFRPや琺瑯製容器が使用されるてきた。しかしながら、それらの材料は強度に問題があり、大震災などに対する耐震性が要求されてきた。この条件を満たすものとして琺瑯等の被覆を施さず、無垢で使用できる金属イオンの溶出のない金属鋼板が求められている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】無垢での使用を前提とし、金属イオンの溶出が少ない素材としてはチタンが挙げられるが、コストの著しい上昇は不可避で、さらに省資源の観点からも普及には問題がある。そこで、比較的安価な耐食性材料であるステンレス鋼の適用が検討されている。一般的なステンレス鋼としてはSUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。しかし、これらのステンレス鋼では表面の不動態皮膜の安定性が不十分であり、食品用途や洗浄液などに対して微量の金属イオンが溶出するため、適用が困難である。したがって、汎用性があり、強固な不動態皮膜を有し、耐溶出性に優れたステンレス鋼の開発が課題である。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、食品、飲料水および洗浄水などに対して金属イオンの溶出が極めて少なく金属材料としてのステンレス鋼ならびにその処理方法について詳細な検討を行ってきた。その結果、耐溶出性を得るためにはCrの酸化物あるいは水和物を主体とする不動態皮膜が有利であり、不動態皮膜中のCr濃度が70原子%以上必要であることがわかった。Cr量を高め、適量のNb、TiおよびAlを添加した含Moフェライト系ステンレス鋼において、Cr濃度が70原子%以上の不動態皮膜を形成したステンレス鋼は金属イオンの耐溶出性に優れ、鋼板の焼鈍・酸洗工程でフッ酸と硝酸の混酸を用いた酸洗仕上げをすることあるいはそれに加え有機酸で酸洗することにより金属イオンの溶出が著しく低減することを見出した。」

(ウ)「【0013】Crはステンレス鋼の不動態皮膜を構成し、Moとともに鋼の耐食性を向上させるとともに不動態皮膜を通して溶出する金属イオンの低減に対して重要な元素である。不動態皮膜中のCr濃度を70%以上にするためならびに塩化物イオンを含む中性あるいは酸性の水溶液環境における孔食や隙間腐食に対する耐食性を得るために、20%を越えて添加することが必要である。しかし、35%を越えると材料が硬質となり加工が困難となるので、Cr量は20?35%とする。
【0014】MoはCrとともに鋼の耐食性向上に対して不可欠な元素であり、その効果はCr量が増すにつれ大きくなる。本発明のCr量レベルにおいては0.8%以上の添加でその効果が認められる。しかし、4%を超える添加は徒に鋼を硬質にし、さらに溶接時の溶け込み性を低下させるため溶接性が低下する。このため、Mo量は0.8?4.0%とする。」

(エ)「【0018】Alは脱酸剤として効果的な元素であるが、本発明を構成する上で重要な元素である。すなわち、NbおよびTiとの複合添加において鋼の焼鈍後のフッ酸と硝酸による酸洗時に良好な不動態皮膜を形成し、耐溶出性と耐食性の改善が著しい。したがって、一定レベルの耐食性を目標とした場合、Moの添加量を低めることができ、軟質でより良好な加工性が得られ、コストの上昇を最小限に抑えることができる利点もある。Al量が0.01%未満ではその効果が得られず、また0.3%を越えて添加すると溶接性を阻害する。したがって、Al量の範囲は0.01?0.3%とする。」

(オ)「【0020】上述した成分のステンレス鋼をフッ酸と硝酸の混酸仕上げにすることによって、フッ酸の作用により介在物などの欠陥が溶解除去されかつ硝酸の作用により、不動態皮膜中のCr濃度が上昇し、Cr濃度が70原子%以上の不動態皮膜が形成され、金属イオンが溶出しにくい強固な不動態皮膜が得られる。さらに、クエン酸や乳酸などの弱酸である有機酸で酸洗すると、不動態皮膜中のFeの酸化物を優先溶解させることにより、Cr濃度が70原子%以上の不動態皮膜が得られることから、より耐溶出性に優れた不動態皮膜が得られる。」

(カ)「【0022】
【表1】



イ 甲2記載の技術事項
上記アの記載によれば、甲第2号証には、次の事項(以下、「甲2記載の技術事項」という。)が記載されていると認める。
「食品や液体を貯蔵、運搬する容器などを構成するアルミニウムを含有するフェライト系ステンレス鋼において、食品、飲料水及び洗浄水などに対する金属イオンの溶出を低減するため、Cr濃度が80原子%又は85原子%のCrの酸化物を主体とする不動態皮膜を形成する事項。」

(3)甲第3号証について
ア 甲第3号証の記載
甲第3号証には、図面とともに以下の記載がある。
(ア)「(1)電解研磨処理を施されたステンレス鋼材であって、その表面に、熱処理のみにて形成された厚さ10?100Åで、60原子%以上のCrを含有する酸化皮膜を有することを特徴とする高純度ガス用ステンレス鋼材。」(【特許請求の範囲】)

(イ)「本発明は、半導体製造装置における高純度ガス配管等の接ガス部材として使用される高純度ガス用ステンレス鋼材及びその製造方法に関する。」(1ページ左下欄下から4行ないし下から1行))

(ウ)「本発明の目的は、水分放出特性に優れ、しかもステンレス鋼材に対する通常熱処理を兼ねて特性改善が図られるステンレス鋼材及びその製造方法を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
電解研磨により平滑化されたステンレス鋼材表面からの残留水分除去に対して、加熱処理は不可欠と考えられる。即ち、加熱処理によりステンレス鋼材表面から含有水分が放出され、更に加熱処理に伴って生成された酸化皮膜により、ステンレス鋼材表面が水分吸着に対して不活性化されるのである。しかし、加熱処理による酸化皮膜が、空気中で生成された酸化皮膜の上に厚く生成されたのでは、酸化皮膜自体に水分が吸着されるようになり、加熱処理による効果は小さい。
本発明者らは、このような新しく分かった問題点を踏まえて、種々の雰囲気及び温度での熱処理による電解研磨表面への水分の吸脱着挙動を調査検討した。その結果、次の知見が得られた。熱処理による酸化皮膜は薄いほうがよい。薄く且つ鋼材表面の水分吸着に対する不活性度の高い酸化皮膜は、空気中で生成された酸化皮膜を一旦除去した後に新たに酸化皮膜を生成させることにより得られる。これは、極低酸素分圧の不活性ガス、真空、あるいは水素雰囲気での900?1200℃の加熱によって達成される。このような高温の加熱処理は、ステンレス鋼材に通常に行われる固溶化熱処理等と兼用することができる。
本発明は上記知見に基づきなされたもので、電解研磨処理を施されたステンレス鋼材表面に、熱処理のみにて形成された厚さ10?100Åで、60原子%以上のCrを含有する酸化皮膜を有する高純度ガス用ステンレス鋼材、及び電解研磨処理を施されたステンレス鋼材を酸素分圧4Pa以下の不活性ガスまたは真空中、もしくは水素ガス中で900℃以上1200℃以下の温度に加熱する上記高純度ガス用ステンレス鋼材の製造方法を要旨とする。
〔作 用〕
次に、本発明における限定理由を詳述し、その作用を明らかにする。
本発明においてステンレス鋼とは、Crを13?30%、Niを40%以下含有するFe基合金を指す。SUS316L鋼を代表とするオーステナイト系ステンレス鋼が例示されるが、その他フェライト系、二相系、マルテンサイト系でも構わない。
本発明のステンレス鋼材における酸化皮膜は、加熱処理によって生成されたもののみとする。これは、空気中で生成された酸化皮膜の上に加熱処理によって酸化皮膜が生成された場合、空気中で生成した酸化皮膜中のCr含有率が低いため、生成された酸化皮膜中のCr含有率が上昇し難く、この結果、水分吸着性が十分に改善されないからである。」(2ページ左下欄6行ないし3ページ左上欄末行)

イ 甲3記載の技術事項
上記アの記載によれば、甲第3号証には、次の事項(以下、「甲3記載の技術事項」という。)が記載されていると認める。
「電解研磨処理を施された高純度ガス用フェライト系ステンレス鋼材において、その表面に、熱処理のみにて形成された、厚さ10?100Åで、60原子%以上のCrを含有する酸化皮膜を有する事項。」

(4)甲第4号証について
ア 甲第4号証の記載
甲第4号証には、図面とともに以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、オゾン処理で優れた耐食性をステンレス鋼に付与する表面改質方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ステンレス鋼は、表面に形成された不動態皮膜が優れた耐食性を呈することを活用し、屋根,外装材等の建材や温水器構造体等、耐食性が要求される分野で汎用されている。しかし、ステンレス鋼であっても、SUS304,316,430等の汎用鋼ではウォータフロント等の塩害の厳しい環境,塩素イオン濃度の高い水環境,多量の次亜塩素酸を含む殺菌環境等に曝されると、孔食が発生し、腐食生成物で美麗な表面が汚され、場合によっては穴開きに起因する機能低下もある。このような腐食環境に対しては、Cr,Mo等の含有量を増加させた高耐食性ステンレス鋼板やめっき,塗装等の表面処理を施したステンレス鋼板が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】Cr,Mo等の増量は、鋼材コストを上昇させる原因となる。めっきや塗装で耐食性を改善する場合、不動態皮膜で表面が覆われているステンレス鋼に対して良好な密着性でめっき層又は塗膜を形成するため、特殊な前処理やめっき条件又は塗装条件が必要とされ、製造コストが上昇する原因となる。しかも、めっきや塗装が施されたステンレス鋼では、ステンレス鋼特有の美麗な表面性状が損われる。そこで、ステンレス鋼の成分設計を変更することなく、めっき,塗装等の表面処理を必要とせず、安価で且つ効果的な後処理を施すことによりステンレス鋼を表面改質することが望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、オゾンの酸化力でステンレス鋼表面にあるCrを酸化することにより、Cr濃度の高い不動態皮膜を形成し、比較的安価なステンレス鋼であっても大気暴露環境や塩素イオンを含む水環境で優れた耐食性を呈するステンレス鋼を得ることを目的とする。本発明の表面改質方法は、その目的を達成するため、オゾンを溶存させた非酸化性の水溶液にステンレス鋼を浸漬し、Crが50原子%以上に濃化された不動態皮膜をステンレス鋼表面に形成することを特徴とする。非酸化性の水溶液としては、上水,工業用水等の中性水溶液やフッ酸,硫酸,塩酸等の非酸化性酸を含む酸性水溶液が使用可能である。
【0005】
【作用】ステンレス鋼表面に生成する不動態皮膜は、主としてCr,Fe等の水和酸化物からなっており、鋼成分,表面仕上げ等に応じて組成,膜厚等が異なる。一般的に鋼中のCr濃度が高いほど不動態皮膜中のCr濃度も高くなり、耐食性に優れた不動態皮膜が得られる。しかし、鋼成分の変更を伴わずに不動態皮膜を強化した例は少ない。ステンレス鋼の不動態化を促進させ、耐食性に有利な不動態皮膜を形成する手段として、硝酸,重クロム酸等の酸化性の酸にステンレス鋼を浸漬する方法が採用されている。しかし、過酷な腐食性環境に曝されるステンレス鋼の耐食性を向上させようとすると、硝酸,重クロム酸等の酸化力では不充分であり、要求特性を満足する不動態皮膜が形成されない。しかも、硝酸や重クロム酸の使用は、廃液処理時に六価クロム,窒素等に関する規制を受けるため、環境問題上から好ましくない。この点、酸化力がより強く、廃液の問題がない処理液の使用が必要となる。」

(イ)「【0007】被処理材であるステンレス鋼としては、材質に制約を受けることなくマルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系,二相系等、各種ステンレス鋼が使用される。必要な耐食性を確保するためには、Cr含有量が汎用レベル16?18重量%のステンレス鋼が使用される。より一層の耐食性が要求される場合、Cr含有量20重量%以上のステンレス鋼が使用される。ステンレス鋼は、焼鈍・酸洗後、非酸化性のオゾン水に浸漬される。ステンレス鋼は、オゾン水中でオゾンの酸化作用を受けてCrが優先酸化され、不動態皮膜中のCr濃度が高くなる。オゾン処理に先立つ酸洗では、腐食の起点となる表面欠陥を溶解除去するようにフッ酸-硝酸の混酸にステンレス鋼を浸漬することが好ましい。焼鈍・酸洗仕上げに替えて光輝焼鈍仕上げのステンレス鋼を使用した場合でも、オゾン処理によって同様に不動態皮膜中のCr濃度が高くなる。」

(ウ)「【0010】オゾン水は、常温から60℃の温度域に保持される。中性水溶液を使用する場合、常温でもオゾンが十分な酸化作用を呈する。希薄な非酸化性の酸性水溶液を使用する場合、不動態皮膜の溶解能力を大きくするためオゾン水の温度は高いほど好ましい。通常の酸洗処理で実施されている50℃前後に水溶液を昇温すると、不動態皮膜の溶解が促進される。オゾンは、オゾン水の温度を60℃まで上げても分解せず、優れた安定性を呈する。この点、他の酸化剤、たとえば過酸化水素では40℃以上で激しく分解する。オゾン水を用いた浸漬処理では、ステンレス鋼の表面に形成される不動態皮膜のCr濃度が50原子%以上となるようにオゾン水のオゾン濃度,温度,浸漬時間等が設定される。不動態皮膜のCr濃度が50原子%以上になると、Cr含有量が汎用レベル16?18重量%のステンレス鋼であっても、十分な耐食性が得られる。Cr含有量が20重量%以上のステンレス鋼にあっては、より過酷な腐食環境下で要求される耐食性も付与される。」

(エ)「【0016】



イ 甲4記載の技術事項
上記アの記載によれば、甲第4号証には、次の事項(以下、「甲4記載の技術事項」という。)が記載されていると認める。
「温水器構造体を構成するフェライト系ステンレス鋼において、オゾンの酸化力でステンレス鋼表面にあるCrを酸化することにより、Crが50原子%以上に濃化された不動態皮膜を形成する事項。」

4 判断
(1)取消理由1-1、1-2及び2-2(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1について
(ア)甲1発明1に基づく場合について
a 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
・後者における「オーステナイト系ステンレス鋼よりなるパイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22」は、前者における「アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス製の部材」に、「所定のステンレス製の部材」という限りにおいて一致する。
・後者における「燃焼排ガス39から潜熱を回収して利用する給湯器などの燃焼機器1」は、潜熱を回収して温水を生成することは明らかであるから、前者における「潜熱回収型温水生成用機器」に相当する。
そうすると、両者は、「所定のステンレス製の部材を備えている、潜熱回収型温水生成用機器」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点A1]
「所定のステンレス製の部材」に関し、本件発明1においては、「アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス製の部材」であるのに対して、甲1発明1においては、「オーステナイト系ステンレス鋼よりなるパイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22」である点(以下、「相違点A1」という。)。

[相違点A2]
本件発明1においては、「部材の表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されている」のに対して、甲1発明1においては、「パイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22」の表層部に、そのようなクロム酸化膜を備えるか否か不明である点(以下、「相違点A2」という。)。

b 相違点の検討
上記相違点A1及びA2について検討する。
(a)甲2記載の技術事項は、アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス鋼において、Cr濃度が80原子%又は85原子%のCrの酸化物を主体とする不動態皮膜を形成することで耐食性の向上が認められるというものである。
しかしながら、甲2記載の技術事項は、食品や液体を貯蔵、運搬する容器などにおいて、容器を構成する金属材料から溶出した金属イオンにより、食品や飲料水が変色したり変質する、あるいは、半導体精密機器の洗浄に用いられる純水や洗浄用アルコールは極微量の金属イオンの存在により、洗浄能力が低下する上に精密部品の機能性を損なうといった問題を解決すべく、容器を構成する金属材料からの金属イオンの溶出を低減するものであり(上記3(2)ア(イ))、燃焼排ガスから潜熱を回収して利用する給湯器などの燃焼機器において、パイプ及びその周囲に配設された多数のフィンが、NO_(x),SO_(x),CO_(2)等が含まれる燃焼排ガスの凝縮水(例えば硝酸等のような金属を腐食させる成分)により腐食するのを解消すべく、十分な耐食性を有するものとする甲1発明1とは、使用環境や解決しようとする課題が異なる。
また、甲1発明1については、オーステナイト系ステンレス鋼が高価なNiを使用しているため、安価に耐食性を向上させることが課題となる(上記3(1)ア(イ)の段落【0005】ないし【0008】)が、甲2記載の技術事項は、上記3(2)ア(ウ)の記載を考慮すると、Cr濃度が80原子%又は85原子%のCrの酸化物を主体とする不動態皮膜を形成するために、CrとMoの含有量が多量となり、本件特許の明細書の段落【0003】に記載されているとおり高価なものとなることが予測される。
そうすると、甲1発明1において、甲2記載の技術事項を適用する動機付けはない。

(b)甲3記載の技術事項は、半導体製造装置における高純度ガス配管等の接ガス部材として使用される高純度ガス用ステンレス鋼材に関するものであって、加熱処理による酸化皮膜が、空気中で生成された酸化皮膜の上に厚く生成されたのでは、酸化皮膜自体に水分が吸着されるようになり、加熱処理による効果は小さいという問題を解消すべく、薄く且つ鋼材表面の水分吸着に対する不活性度の高い酸化皮膜を得ようとするものであり(上記3(3)ア(ウ))、燃焼排ガスから潜熱を回収して利用する給湯器などの燃焼機器において、パイプ及びその周囲に配設された多数のフィンが、NO_(x),SO_(x),CO_(2)等が含まれる燃焼排ガスの凝縮水(例えば硝酸等のような金属を腐食させる成分)により腐食するのを解消すべく、十分な耐食性を有するものとする甲1発明1とは、使用環境や解決しようとする課題が異なるから、甲1発明1において、甲3記載の技術事項を適用する動機付けはない。
また、甲3記載の技術事項は、アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス鋼に関するものではなく、また、その表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されるものではないから、甲1発明1に甲3記載の技術事項を適用したとしても、上記相違点A1及びA2に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。

(c)甲4記載の技術事項は、アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス鋼ではなく、また、その表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されるものではないから、甲1発明1に甲4記載の技術事項を適用したとしても、上記相違点A1及びA2に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。

(d)また、甲第2号証ないし甲第4号証には、それぞれについて全体の記載を参酌しても、燃焼排ガスから潜熱を回収して温水を生成する機器が備える部材において、上記相違点A1及びA2に係る本件発明1の発明特定事項のように構成することが記載も示唆もされていない。

(e)そうすると、甲1発明1において、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づいて、上記相違点A1及びA2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

c 効果について
そして、本件発明1は、上記相違点A1及びA2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにより、「フェライト系ステンレス製の部材が、耐孔食指数の低い材質であっても、表層部に形成されているクロム酸化膜の存在に基づき、たとえばPH3程度の強酸性の凝縮水に対しても十分に優れた耐食性を示すものとなる。その結果、ステンレスの原材料コストを廉価にして低コスト化を図りつつ、優れた耐食性をもつ潜熱回収型温水生成用機器を提供することができる。」(段落【0010】)という所期の効果(以下、「本件発明の効果」という。)を奏するものである。

d 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明1及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲1発明2に基づく場合について
a 対比
本件発明1と甲1発明2とを対比する。
・後者における「JIS規格におけるSUS436J1L、SUS436L、SUS444及び品名が「R432LTM」のステンレス鋼のいずれかのフェライト系ステンレス鋼よりなるパイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22」は、前者における「アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス製の部材」に、「所定のフェライト系ステンレス製の部材」という限りにおいて一致する。
・後者における「燃焼排ガス39から潜熱を回収して利用する給湯器などの燃焼機器1」は、潜熱を回収して温水を生成することは明らかであるから、前者における「潜熱回収型温水生成用機器」に相当する。
そうすると、両者は、「所定のフェライト系ステンレス製の部材を備えている、潜熱回収型温水生成用機器」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点B1]
「所定のフェライト系ステンレス製の部材」に関し、本件発明1においては、「アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス製の部材」であるのに対して、甲1発明2においては、「JIS規格におけるSUS436J1L、SUS436L、SUS444及び品名が「R432LTM」のステンレス鋼のいずれかのフェライト系ステンレス鋼よりなるパイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22」である点(以下、「相違点B1」という。)。

[相違点B2]
本件発明1においては、「部材の表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されている」のに対して、甲1発明2においては、「パイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22」の表層部に、そのようなクロム酸化膜を備えるか否か不明である点(以下、「相違点B2」という。)。

b 相違点の検討
上記相違点B1及びB2について検討する。
(a)甲2記載の技術事項は、アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス鋼において、Cr濃度が80原子%又は85原子%のCrの酸化物を主体とする不動態皮膜を形成することで耐食性の向上が認められる。
しかしながら、甲2記載の技術事項は、食品や液体を貯蔵、運搬する容器などにおいて、容器を構成する金属材料から溶出した金属イオンにより、食品や飲料水が変色したり変質する、あるいは、半導体精密機器の洗浄に用いられる純水や洗浄用アルコールは極微量の金属イオンの存在により、洗浄能力が低下する上に精密部品の機能性を損なうといった問題を解決すべく、容器を構成する金属材料からの金属イオンの溶出を低減するものであり、燃焼排ガスから潜熱を回収して利用する給湯器などの燃焼機器において、パイプ及びその周囲に配設された多数のフィンが、NO_(x),SO_(x),CO_(2)等が含まれる燃焼排ガスの凝縮水(例えば硝酸等のような金属を腐食させる成分)により腐食するのを解消すべく、耐食性に優れるとともに、熱伝導性、ろう付け性に優れ、かつ安価なもの(上記3(1)ア(イ))とする甲1発明2とは、使用環境や解決しようとする課題が異なる。
また、甲1発明2は、パイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22の構成部材として、「JIS規格におけるSUS436J1L、SUS436L、SUS444及び品名が「R432LTM」のステンレス鋼のいずれかのフェライト系ステンレス鋼」という特定のフェライト系ステンレス鋼を採用することにより、熱伝導性,耐食性,ろう付け性に優れると共に比較的安価なパイプおよびフィンとする課題を解決するもの(上記3(1)ア(イ))であるから、甲1発明2において、他のステンレス鋼を代替的に用いることは想定し得ない。
そうすると、甲1発明2において、甲2記載の技術事項を適用する動機付けはない。

(b)甲3記載の技術事項は、半導体製造装置における高純度ガス配管等の接ガス部材として使用される高純度ガス用ステンレス鋼材であって、加熱処理による酸化皮膜が、空気中で生成された酸化皮膜の上に厚く生成されたのでは、酸化皮膜自体に水分が吸着されるようになり、加熱処理による効果は小さいという問題を解消すべく、薄く且つ鋼材表面の水分吸着に対する不活性度の高い酸化皮膜を得ようとするものであり、燃焼排ガスから潜熱を回収して利用する給湯器などの燃焼機器において、パイプ及びその周囲に配設された多数のフィンが、NO_(x),SO_(x),CO_(2)等が含まれる燃焼排ガスの凝縮水(例えば硝酸等のような金属を腐食させる成分)により腐食するのを解消すべく、耐食性に優れるとともに、熱伝導性、ろう付け性に優れ、かつ安価なものとする甲1発明2とは、使用環境や解決しようとする課題が異なる。
また、甲1発明2は、パイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22の構成部材として、「JIS規格におけるSUS436J1L、SUS436L、SUS444及び品名が「R432LTM」のステンレス鋼のいずれかのフェライト系ステンレス鋼」という特定のフェライト系ステンレス鋼を採用することにより、熱伝導性,耐食性,ろう付け性に優れると共に比較的安価なパイプおよびフィンとする課題を解決するものであるから、甲1発明2において、他のステンレス鋼を代替的に用いることは想定し得ない。
そうすると、甲1発明2において、甲3記載の技術事項を適用する動機付けはない。
さらに、甲3記載の技術事項は、アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス鋼ではなく、また、その表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されるものではないから、甲1発明2に甲3記載の技術事項を適用したとしても、上記相違点B1及びB2に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。

(c)甲1発明2は、パイプ21及びその周囲に配設された多数のフィン22の構成部材として、「JIS規格におけるSUS436J1L、SUS436L、SUS444及び品名が「R432LTM」のステンレス鋼のいずれかのフェライト系ステンレス鋼」という特定のフェライト系ステンレス鋼を採用することにより、熱伝導性,耐食性,ろう付け性に優れると共に比較的安価なパイプおよびフィンとする課題を解決するものであるから、甲1発明2において、他のステンレス鋼を代替的に用いることは想定し得ない。
そうすると、甲1発明2において、甲4記載の技術事項を適用する動機付けはない。
さらに、甲4記載の技術事項は、アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス鋼ではなく、また、その表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されるものではないから、甲1発明2に甲4記載の技術事項を適用したとしても、上記相違点B1及びB2に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。

(d)また、甲第2号証ないし甲第4号証には、それぞれについて全体の記載を参酌しても、燃焼排ガスから潜熱を回収して温水を生成する機器が備える部材において、上記相違点B1及びB2に係る本件発明1の発明特定事項のように構成することが記載も示唆もされていない。

(e)そうすると、甲1発明1において、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づいて、上記相違点B1及びB2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

c 効果について
そして、本件発明1は、上記相違点B1及びB2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにより、本件発明の効果(上記(ア)c)を奏するものである。

d 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明2及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を減縮したものであり、本件発明1と同様の理由により、甲1発明1及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、又は、甲1発明2及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)取消理由2-1(特許法第36条第6項第2号)について
ア 検討
取消理由2-1は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項1を引用する請求項4における、「前記部材に高温酸化用の熱処理が加えられたことにより形成され」との記載が不明確というものであったが、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び4には、当該記載が含まれないため、上記取消理由2-1は解消した。

イ まとめ
したがって、請求項1及び4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第1項第3号)について
ア 特許異議申立書における申立理由の概要
本件発明1及び4は、甲第1号証に記載された発明と同一である。

イ 検討
上記(1)の検討を踏まえると、本件発明1は、甲1発明1又は甲1発明2と同一ではなく、また、本件発明4は、甲1発明1又は甲1発明2と同一ではないから、それぞれ特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当しない。

ウ まとめ
したがって、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、平成29年8月22日付けで通知した取消理由1-1及び1-2、平成29年12月7日付けで通知した取消理由2-1及び2-2、並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正により請求項2及び3が削除されたため、請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てについては、対象が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含有するフェライト系ステンレス製の部材を備えている、潜熱回収型温水生成用機器であって、
前記部材の表層部には、クロム濃度が80%〔カチオン原子%〕以上のクロム酸化膜が形成されていることを特徴とする、潜熱回収型温水生成用機器。
【請求項2】 削除
【請求項3】 削除
【請求項4】
請求項1に記載の潜熱回収型温水生成用機器であって、
前記フェライト系ステンレス製の部材は、潜熱を含む気体から熱回収を行なうための伝熱管であり、全体が熱交換器として構成されている、潜熱回収型温水生成用機器。
【請求項5】
請求項1または4のいずれかに記載の潜熱回収型温水生成機器を製造するための方法であって、
前記フェライト系ステンレス製の部材の表層部に前記クロム酸化膜を形成するための高温酸化用の熱処理工程を有しており、
この熱処理工程においては、前記フェライト系ステンレス製の部材を1000?1200℃の温度で120分を超えない範囲で加熱し、かつ加熱温度が900℃以上の際の雰囲気を10^(-1)?10^(-2)Paの真空雰囲気、または露点が-80?-90℃の水素雰囲気とすることを特徴とする、潜熱回収型温水生成機器の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の潜熱回収型温水生成機器の製造方法であって、
前記フェライト系ステンレス製の部材またはこれとは別の部材のロウ付け工程を、さらに有しており、
前記高温酸化用の熱処理工程時において、前記ロウ付け工程におけるロウ材の加熱溶融を行なわせる、潜熱回収型温水生成機器の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-22 
出願番号 特願2012-280349(P2012-280349)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (F24H)
P 1 652・ 851- YAA (F24H)
P 1 652・ 121- YAA (F24H)
P 1 652・ 537- YAA (F24H)
P 1 652・ 853- YAA (F24H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柳本 幸雄  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 槙原 進
紀本 孝
登録日 2016-12-09 
登録番号 特許第6051844号(P6051844)
権利者 株式会社ノーリツ
発明の名称 潜熱回収型温水生成用機器およびその製造方法  
代理人 筒井 雅人  
代理人 筒井 雅人  

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