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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16F
管理番号 1343003
異議申立番号 異議2017-701034  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-06 
確定日 2018-06-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6129780号発明「油圧式ダンパ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6129780号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6129780号の請求項1ないし4及び6ないし8に係る特許を維持する。 特許第6129780号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6129780号の請求項1?8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成26年4月30日に特許出願され、平成29年4月21日にその特許権の設定登録がされ、同年5月17日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?8に係る特許に対して、平成29年11月6日に特許異議申立人澤田康子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年1月24日付けで取消理由が通知され(以下、「取消理由通知」という。)、その指定期間内である同年3月29日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して同年5月29日に異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年3月29日の訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「シリンダと、
前記シリンダ内を前記シリンダの軸方向に移動可能なピストンと、
前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の側方に設けられる、クッション用部材、および前記クッション用部材の外周形状と対応する内周形状を有するクッション室からなるクッション機構と、
を有し、
前記ピストンの前記シリンダの軸方向の移動に伴って、前記クッション用部材が前記クッション室の外にある状態から前記クッション室に挿入可能であり、
前記クッション用部材が前記クッション室に挿入された状態において、前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の前記クッション室側にある所定部分が、
前記ピストンの速度の上昇に伴う作動油の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有し、
前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続されることを特徴とする油圧式ダンパ。」に訂正する。(下線は、特許権者が付与。以下同様。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を、
「前記所定部分に第2の流路が接続され、
前記第2の流路に、前記所定部分の作動油による圧力が前記所定値に達することにより開放されるリリーフ弁が設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の油圧式ダンパ。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を、
「前記所定部分が、前記ピストンと前記シリンダ内の前記シリンダの軸方向の端面との間の部分であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の油圧式ダンパ。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7を、
「前記所定部分が、前記クッション室であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の油圧式ダンパ。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において「前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続される」という事項を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、願書に添付した図面の【図1】及び【図4】には、所定部分のシリンダの軸方向の端部にあるシリンダの端面に、オリフィスを設けた流路(図1の流路43及び53、並びに図4の流路63及び73を参照。)が接続されていることが開示されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4に記載の「流路」を「第2の流路」と言い換えることにより、訂正後の請求項1の「第1の流路」と区別するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2は、「流路」を「第2の流路」と言い換えただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4及び5について
訂正事項4は、訂正前の請求項6が訂正前の請求項5を引用する記載であったものを、請求項5の削除にともなって、請求項5を引用しないものとする訂正である。
訂正事項5は、訂正前の請求項7が訂正前の請求項5を引用する記載であったものを、請求項5の削除にともなって、請求項5を引用しないものとする訂正である。
したがって、訂正事項4及び5は、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

そして、これらの訂正事項は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上述のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4及び6?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」及び「本件発明6」?「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4及び6?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内を前記シリンダの軸方向に移動可能なピストンと、
前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の側方に設けられる、クッション用部材、および前記クッション用部材の外周形状と対応する内周形状を有するクッション室からなるクッション機構と、
を有し、
前記ピストンの前記シリンダの軸方向の移動に伴って、前記クッション用部材が前記クッション室の外にある状態から前記クッション室に挿入可能であり、
前記クッション用部材が前記クッション室に挿入された状態において、前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の前記クッション室側にある所定部分が、
前記ピストンの速度の上昇に伴う作動油の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有し、
前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続されることを特徴とする油圧式ダンパ。」
【請求項2】
前記クッション用部材は、前記ピストンから前記シリンダの軸方向の側方に突出するように設けられ、
前記クッション室は、前記シリンダ内の前記シリンダの軸方向の端面に設けられる凹部であることを特徴とする請求項1記載の油圧式ダンパ。
【請求項3】
前記クッション用部材および前記クッション室は、前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の両側で設けられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の油圧式ダンパ。
【請求項4】
前記所定部分に第2の流路が接続され、
前記第2の流路に、前記所定部分の作動油による圧力が前記所定値に達することにより開放されるリリーフ弁が設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の油圧式ダンパ。
【請求項6】
前記所定部分が、前記ピストンと前記シリンダ内の前記シリンダの軸方向の端面との間の部分であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の油圧式ダンパ。
【請求項7】
前記所定部分が、前記クッション室であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の油圧式ダンパ。
【請求項8】
前記ピストンには、前記ピストンを前記シリンダの軸方向に貫通する流路が設けられ、当該流路にオリフィスが設けられることを特徴とする請求項7記載の油圧式ダンパ。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して平成30年1月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2003-42216号公報
甲第2号証:特開2003-56515号公報
甲第3号証:特開昭57-134032号公報
甲第5号証:特開平9-256676号公報

3 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証の段落【0021】、【0025】、【図1】及び【図2】を参照すると、ピストン12がシリンダ9のストローク端付近の領域まで変位した状態において、前記ピストン12に対し前記シリンダ9の軸方向のストローク端側にある所定部分(第4オリフィスポート28とリリーフ弁22が有る部分、又は第4オリフィスポート39とリリーフ弁20が有る部分)が、前記ピストン12の速度の上昇に伴う油液の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有しているといえる。
上記事項及び甲第1号証の、特に段落【0005】、【0008】?【0025】、【0030】、【0033】及び【図1】?【図5】の記載を総合すると、甲第1号証には、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、油圧ダンパに関して、実施形態として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「シリンダ9と、
前記シリンダ9内を前記シリンダ9の軸方向に移動可能なピストン12と、
を有し、
ピストン12がシリンダ9のストローク端付近の領域まで変位した状態において、前記ピストン12に対し前記シリンダ9の軸方向のストローク端側にある所定部分が、
前記ピストン12の速度の上昇に伴う油液の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有し、
前記所定部分のシリンダの側壁に第4オリフィス33、44を設けた第4オリフィスポート28、39が接続される油圧ダンパ。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、「クッション機構付き油圧シリンダ」に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0009】ヘッド13のシリンダチューブ12への取り付け側には、スリーブ132が形成されている。このスリーブ132の外周面は、シリンダチューブ12の内周面に嵌合している。一方、スリーブ132の内側には、ロッド11が挿通する貫通孔131と同心にクッション孔133が形成されている。このクッション孔133の内径は、貫通孔131の内径、すなわち、ロッド11の外径よりも大径に設定され、さらに、前述のクッションリング20の外径よりも僅かに大径に設定されている。このため、ロッド11或いはクッションリング20とクッション孔133との間には隙間が形成され、この隙間もロッド側油室17の一部となっている。ロッド側ポート19は、このクッション孔133内に連通するように形成されている。
【0010】一方、シリンダボトム121の内壁にも、ロッド11と同心のクッション孔122が形成されている。このクッション孔122の内部もボトム側油室16の一部であり、クッション孔122の入口においてボトム側油室16の内径が大きく変化(縮小)するようになっている。クッション孔122の内径は、前述のクッションリング21の外径よりも僅かに大径に設定されている。また、ボトム側ポート18は、このクッション孔122内に連通するように形成されている。」

イ 「【0012】このようにクッションリング21がクッション孔122内に挿入されることにより、ボトム側油室16からボトム側ポート18に至る作動油の通路面積は、クッション孔122の断面積から、クッション孔122とクッションリング21との隙間分の断面積まで絞られることになる。これにより、ボトム側ポート18から排出される作動油の流量は減少し、ボトム側油室16内の作動油の油圧が上昇する。すなわち、排出側油室であるボトム側油室16内にクッション圧が発生する。このクッション圧によってロッド11の慣性力は吸収され、縮みエンドにおけるピストン14の移動速度が減少し、ピストン14とシリンダボトム121との衝突が緩衝される。」

ウ 「【0014】このようにクッションリング20がクッション孔133内に挿入されることにより、ロッド側油室17からロッド側ポート19に至る作動油の通路面積は、クッション孔133とロッド11との隙間分の断面積から、クッション孔133とクッションリング20との隙間分の断面積まで絞られることになる。これにより、ロッド側ポート19から排出される作動油の流量は減少し、ロッド側油室17内の作動油の油圧が上昇する。すなわち、排出側油室であるロッド側油室17内にクッション圧が発生する。このクッション圧によってロッド11の慣性力は吸収され、伸びエンドにおけるピストン14の移動速度が減少し、ピストン14とヘッド13との衝突が緩衝される。」

エ 「【0038】図3に示すように、本実施形態にかかる油圧シリンダ40は、ヘッド13内にクッション孔133とクッションリング20との隙間通路をバイパスしてロッド側油室17とロッド側ポート(第1油路)19とを結ぶ油路(第2油路)41を備え、この油路41にリリーフ弁42を設けている。リリーフ弁42は、ロッド側油室17内の油圧が所定値を上回ったときに油路41を導通させるような構造となっている。」

オ 「【0044】次に、本実施形態にかかる油圧シリンダ40の作用及び効果について説明する。まず、本実施形態にかかる油圧シリンダ40も従来の油圧シリンダ6と同様に、ロッド11が伸張時のストロークエンド(伸びエンド)に達したときには、ピストン14の後端側近傍に装着されたクッションリング20がヘッド13に形成されたクッション孔133内に挿入されることにより、ロッド側油室17内にはクッション圧が発生する。」

カ 「【0046】ここでは、クッション圧が所定値(通常のクッション圧+α)を超えた場合に、上記の圧力差に伴なう力がバネ421の付勢力を上回るようにバネ421の付勢力が設定されている。したがって、ロッド11に作用する慣性力が大きくピストン14の移動速度が減速しきれない場合でも、クッション圧が所定値を超えたところでリリーフ弁42が開くので、クッション孔133とクッションリング20との隙間通路を経由することなくロッド側油室17からロッド側ポート19へ直接圧油を排出することができ、クッション圧の急激な上昇を抑制することができる。つまり、ロッド側油室17内でのサージ圧の発生を防止して、シリンダチューブ12の破損や、シリンダチューブ12の膨張によるシリンダチューブ12とヘッド13との隙間からの油漏れを防止することができる。」

キ 「【0048】図5に示すように、本実施形態にかかる油圧シリンダ50は、シリンダボトム121内にクッション孔122とクッションリング21との隙間通路をバイパスしてボトム側油室16とボトム側ポート(第1油路)18とを結ぶ油路(第2油路)51を備え、この油路51にリリーフ弁52を設けている。リリーフ弁52は、ボトム側油室16内の油圧が所定値を上回ったときに油路51を導通させるような構造となっている。」

ク 「【0056】ここでは、クッション圧が所定値(通常のクッション圧+α)を超えた場合に、上記の圧力差に伴なう力がバネ521の付勢力を上回るようにバネ521の付勢力が設定されている。したがって、ロッド11に作用する慣性力が大きくピストン14の移動速度が減速しきれない場合でも、クッション圧が所定値を超えたところでリリーフ弁52が開くので、クッション孔122を経由することなくボトム側油室16からボトム側ポート18へ直接圧油を排出することができ、クッション圧の急激な上昇を抑制することができる。つまり、ボトム側油室16内でのサージ圧の発生を防止して、シリンダチューブ12の破損等の不具合を防止することができる。」

上記事項、【図3】及び【図5】の記載を総合すると、甲第2号証には、「ピストン14に装着されたクッションリング20、21が、クッション孔133、122内に挿入されることにより、作動油の通路面積は、クッション孔133、122とクッションリング20、21との隙間通路の断面積まで絞られ、ロッド側又はボトム側油室17、16内の油圧が上昇し、ロッド側又はボトム側油室17、16内にクッション圧が発生し、クッション圧が所定値を超えたところでリリーフ弁42、52が開くこと」(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。

(3)甲第3号証
甲第3号証には、「油圧シリンダのクッション装置」に関して、次の事項が記載されている。
「然るに、シリンダlの室B内に圧油を供給すると、ピストン7が高速で第3図右方に移動し、クッションプランジャ,クッションリング等のクッション部材8が穴2内に嵌入してクッション工程に入る。この時、室A内の圧力が高くなって、ピストン7の慣性力の吸収作用を行うと共に、圧油は油路21を通って室C内に流入し、プレート駆動用ピストン15に作用し、ばね22のばね力に抗して上方に押し上げる。プレート駆動用ピストン15が押し上げられると、シャフト19により該プレート駆動用ピストン15と連結するプレート11がプレート室12内に引き込まれるため、穴2の流路面積が増加し、油液の流動抵抗を減少させることにより、ピストン7のストロークを安定的に制御することができる。
一方、クッション行程に入っても室A内の圧力があまり上昇せず、ピストン7の慣性力に対し所期の抵抗力が得られない時には室C内の圧力が高くならない。このため、プレート11をプレート室12内に引き込むことができず、従って穴2の流路面積が絞られたままとなって、室Aから流出する圧油により、大きな流動抵抗を与えることになり、ピストン7に対するクッション作用を増大させる。」(3ページ左上欄7行?右上欄10行)

上記事項、及び第1?4図の記載を総合すると、甲第3号証には、「ピストン7のクッション部材8が穴2内に嵌入してクッション工程に入り、室A内の圧力が高くなり、ピストン7の慣性力の吸収作用を行うと共に、圧油は油路21を通って室Cに流入し、プレート駆動用ピストン15を押し上げ、穴2の流路面積が増加し、油液の流動抵抗を減少させること」(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されている。

(4)甲第5号証
甲第5号証には、「構造物棟間緩衝オイルダンパー」に関して、次の事項が記載されている。
「【0012】緩衝オイルダンパーを・・・(中略)・・・該ピストン7には左右の油圧室10a、10bを連結するオリフィス8と、・・・(後略)」(以下、「甲5記載事項」という。)。

4 判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「シリンダ9」は、本件発明1の「シリンダ」に相当する。
以下同様に、「ピストン12」は、「ピストン」に、
「油液」は、「作動油」に、
「第4オリフィス33、44」は、「オリフィス」に、
「第4オリフィスポート28、39」は、「第1の流路」に、
「油圧ダンパ」は、「油圧式ダンパ」に、それぞれ相当する。

以上のことから、本件発明1と甲1発明とは次の点で一致する。
「シリンダと、
前記シリンダ内を前記シリンダの軸方向に移動可能なピストンと、
を有し、
前記ピストンの速度の上昇に伴う作動油の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有する油圧式ダンパ。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
「前記ピストンの速度の上昇に伴う作動油の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有」する部分、及び当該部分に接続される流路の配置に関して、
本件発明1においては、「前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の側方に設けられる、クッション用部材、および前記クッション用部材の外周形状と対応する内周形状を有するクッション室からなるクッション機構と、を有し、前記ピストンの前記シリンダの軸方向の移動に伴って、前記クッション用部材が前記クッション室の外にある状態から前記クッション室に挿入可能であり、前記クッション用部材が前記クッション室に挿入された状態において、前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の前記クッション室側にある所定部分」であり、また、「前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続される」のに対して、
甲1発明においては、「ピストン12がシリンダ9のストローク端付近の領域まで変位した状態において、前記ピストン12に対し前記シリンダ9の軸方向のストローク端側にある所定部分」であり、かかるクッション用部材及びクッション室を有しておらず、また、「前記所定部分のシリンダの側壁に第4オリフィス33、44を設けた第4オリフィスポート28、39が接続される」点。

上記相違点について検討する。
ア 甲第2号証について
甲2記載事項のうち、クッション圧が所定値を超えたところでリリーフ弁42、52が開くことは、ピストン14の速度の上昇に伴う作動油の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有することを意味しており、また、甲2記載事項の「クッションリング20、21」は本件発明1の「クッション用部材」に相当し、以下同様に、「クッション孔133、122」は「クッション室」に、「ロッド側及びボトム側油室17、16」は「所定部分」に、それぞれ相当する。
しかし、甲第2号証においては、ロッド側又はボトム側油室17、16(「所定部分」に相当。)にオリフィスは設けられていないから、甲第2号証には、相違点に係る本件発明1の構成のうち、「前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続される」との構成を示唆するものではない。

イ 甲第3号証について
甲3記載事項のうち、室A内の圧力が高くなり、ピストン7の慣性力の吸収作用を行うと共に、圧油は油路21を通って室Cに流入し、プレート駆動用ピストン15が押し上げ、穴2の流路面積が増加し、油液の流動抵抗を減少させることは、ピストン7の速度の上昇に伴う圧油の圧力の上昇幅が、圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有することを意味しており、
また、甲3記載事項の「クッション部材8」は本件発明1の「クッション用部材」に相当し、以下同様に、「穴2」は「クッション室」に、「室A」は「所定部分」に、それぞれ相当する。
しかし、甲第3号証においては、室A(「所定部分」に相当。)にオリフィスは設けられていないから、甲第3号証は、相違点に係る本件発明1の構成のうち、「前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続される」との構成を示唆するものではない。

ウ 甲第5号証について
甲5記載事項には、ピストン7に左右の油圧室10a、10bを連結するオリフィス8を設けることが記載されている。
しかし、オリフィス8が設けられている場所は、シリンダの端面ではないから、甲第5号証は、相違点に係る本件発明1の構成のうち、「前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続される」との構成を示唆するものではない。

エ 新たに追加された証拠、及び取消理由通知において使用しなかった証拠について
平成30年5月29日付けの意見書において新たに追加された参考資料1:特開平2-42223号公報(特に、3ページ左上欄8行?右下欄9行、及び第1図を参照。)には、ピストン21に形成されている凸部22、23が、凹部7、8の開口側のパッキン9、14に当接し嵌合すると、ピストン21の端面21a、21bとシリンダ2の内端面5、6との間(以下、「両端部分」という。)に残留している空気が通路11、16の中途に設けられたオリフィス13、17によって排出流量を制限されることが記載されている(以下、「参考資料1記載事項」という。)。
しかし、上記の両端部分にリリーフ弁は設けられていないから、当該両端部分は、「前記ピストンの速度の上昇に伴う作動油の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有」するものではなく、したがって、当該両端部分は本件発明1の「所定部分」に相当するものではない。
そうすると、参考資料1は、相違点に係る本件発明1の構成のうち、「前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続される」との構成を示唆するものではない。

また、平成30年5月29日付けの意見書において新たに追加された参考資料2:特開2005-36510号公報(特に、段落【0037】、【0038】及び【図5】を参照。)には、ピストン22の突起33が、穴34に入り込むと、液圧シリンダ18の端面とピストン22の突起33側の面との間(以下、「端部分」という。)の液体は小径のオリフィス30より排出されることが記載されている(以下、「参考資料2記載事項」という。)。
しかし、上記の端部分にリリーフ弁は設けられていないから、当該端部分は、「前記ピストンの速度の上昇に伴う作動油の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有」するものではなく、したがって、当該端部分は本件発明1の「所定部分」に相当するものではない。
そうすると、参考資料2は、相違点に係る本件発明1の構成のうち、「前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続される」との構成を示唆するものではない。

なお、異議申立人が、本件特許の請求項7に係る発明に対して、周知技術を説明するために挙げた甲第4号証:特開平7-233842号公報については、取消理由通知において使用しなかった。しかし、甲第4号証に記載されたものは、シリンダの端面にオリフィスを備えていないから、甲第4号証は、相違点に係る本件発明1の構成のうち、「前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続される」との構成を示唆するものではない。

オ 小括
以上のことから、上記相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2、3及び5記載事項、並びに参考資料1及び2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2?4及び6?8について
本件発明2?4及び6?8は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明、甲2、3及び5記載事項、並びに参考資料1及び2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?4及び6?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4及び6?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項5に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5に対して、異議申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内を前記シリンダの軸方向に移動可能なピストンと、
前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の側方に設けられる、クッション用部材、および前記クッション用部材の外周形状と対応する内周形状を有するクッション室からなるクッション機構と、
を有し、
前記ピストンの前記シリンダの軸方向の移動に伴って、前記クッション用部材が前記クッション室の外にある状態から前記クッション室に挿入可能であり、
前記クッション用部材が前記クッション室に挿入された状態において、前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の前記クッション室側にある所定部分が、
前記ピストンの速度の上昇に伴う作動油の圧力の上昇幅が、前記圧力が所定値未満の場合よりも、所定値以上の場合で小さくなる圧力変化特性を有し、
前記所定部分の前記シリンダの軸方向の端部にある前記シリンダの端面に、オリフィスを設けた第1の流路が接続されることを特徴とする油圧式ダンパ。
【請求項2】
前記クッション用部材は、前記ピストンから前記シリンダの軸方向の側方に突出するように設けられ、
前記クッション室は、前記シリンダ内の前記シリンダの軸方向の端面に設けられる凹部であることを特徴とする請求項1記載の油圧式ダンパ。
【請求項3】
前記クッション用部材および前記クッション室は、前記ピストンに対し前記シリンダの軸方向の両側で設けられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の油圧式ダンパ。
【請求項4】
前記所定部分に第2の流路が接続され、
前記第2の流路に、前記所定部分の作動油による圧力が前記所定値に達することにより開放されるリリーフ弁が設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の油圧式ダンパ。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記所定部分が、前記ピストンと前記シリンダ内の前記シリンダの軸方向の端面との間の部分であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の油圧式ダンパ。
【請求項7】
前記所定部分が、前記クッション室であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の油圧式ダンパ。
【請求項8】
前記ピストンには、前記ピストンを前記シリンダの軸方向に貫通する流路が設けられ、当該流路にオリフィスが設けられることを特徴とする請求項7記載の油圧式ダンパ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-19 
出願番号 特願2014-93946(P2014-93946)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F16F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鎌田 哲生  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 尾崎 和寛
小関 峰夫
登録日 2017-04-21 
登録番号 特許第6129780号(P6129780)
権利者 鹿島建設株式会社 センクシア株式会社
発明の名称 油圧式ダンパ  
代理人 井上 誠一  
代理人 井上 誠一  
代理人 井上 誠一  
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