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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01J
管理番号 1343019
異議申立番号 異議2017-700654  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-27 
確定日 2018-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6051245号発明「荷電粒子顕微鏡内で試料を検査する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6051245号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、11について訂正することを認める。 特許第6051245号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6051245号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、平成28年12月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成29年6月27日に特許異議申立人伊東妙子(以下「特許異議申立人」という。)により異議の申立てがされ、平成29年9月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月27日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)に対して特許異議申立人から平成30年2月15日に意見書が提出され、平成30年3月23日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年4月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年3月23日付けの訂正拒絶理由において、平成29年12月27日に提出された訂正請求書に添付された特許請求の範囲における訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する何れの事項を目的とする訂正ではない訂正事項が含まれていることを通知した。
これに対して、平成30年4月12日に特許権者から訂正請求書についての手続補正書が提出され、当合議体は、当該手続補正書による補正は、軽微な瑕疵の補正で、訂正請求書の要旨を変更しないものであり、そして、当該補正によって上記訂正拒絶理由は解消したものと判断した。

よって、本件訂正請求による訂正の内容は、上記訂正請求書についての手続補正書に記載されているとおりであり、以下の訂正事項1及び2からなる。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「走査透過型荷電粒子顕微鏡内で試料を検査する方法であって:前記試料に照射するため、・・・(略)・・・セグメントからの信号を結合して、各走査位置での前記検出器からのベクトル出力を生成するとともに、・・・(略)・・・」と記載されているものを、「走査透過型荷電粒子顕微鏡内で非磁性の試料を検査する方法であって:前記試料に照射するため、・・・(略)・・・セグメントからの信号を結合して、各走査位置での前記検出器からの静電気勾配のベクトル出力を生成するとともに、・・・(略)・・・」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項11に「走査透過型の荷電粒子顕微鏡であって:試料を保持する試料ホルダと、・・・(略)・・・ 前記制御装置は、各走査位置で前記検出器からのベクトル出力を生成するように前記検出器の異なるセグメントからの信号を結合し、・・・(略)・・・」と記載されているものを、「走査透過型の荷電粒子顕微鏡であって:非磁性の試料を保持する試料ホルダと、・・・(略)・・・前記制御装置は、各走査位置で前記検出器からの静電気勾配のベクトル出力を生成するように前記検出器の異なるセグメントからの信号を結合し、・・・(略)・・・」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には「試料」の具体例として「非磁性試料」が記載されていることから、「試料」として「非磁性試料」を用いてなる発明は明細書に記載されているものと認められる。
また、訂正事項1に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には「ベクトル出力」の具体例として「そのようなベクトル出力の例は、大きさ(傾斜値)と方向(最大傾斜線)の両方を有する静電場勾配又は電場である。」が記載されていることから、「ベクトル出力」として「静電場勾配のベクトル出力」を用いてなる発明は明細書に記載されているものと認められる。
したがって、上記訂正事項1の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、訂正前の「走査透過型荷電粒子顕微鏡内で試料を検査する方法」を「走査透過型荷電粒子顕微鏡内で非磁性の試料を検査する方法」と限定したもの及び訂正前の「検出器からのベクトル出力」を「検出器からの静電気勾配のベクトル出力」と限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には「試料」の具体例として「非磁性試料」が記載されていることから、「試料」として「非磁性試料」を用いてなる発明は明細書に記載されているものと認められる。
また、訂正事項2に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には「ベクトル出力」の具体例として「そのようなベクトル出力の例は、大きさ(傾斜値)と方向(最大傾斜線)の両方を有する静電場勾配又は電場である。」が記載されていることから、「ベクトル出力」として「静電場勾配のベクトル出力」を用いてなる発明は明細書に記載されているものと認められる。
したがって、上記訂正事項2の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、訂正前の「試料を保持する試料ホルダ」を「非磁性の試料を保持する試料ホルダ」と限定したもの及び訂正前の「検出器からのベクトル出力」を「検出器からの静電気勾配のベクトル出力」と限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、これら訂正は一群の請求項ごとに対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕、11について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
走査透過型荷電粒子顕微鏡内で非磁性の試料を検査する方法であって:
前記試料に照射するため、線源から照射体を通るように導かれる荷電粒子のビームを提供する段階と、
前記試料を横断する荷電粒子の束を検出する検出器を提供する段階であって、前記検出器は、複数の検出セグメントを有するように構成される、段階と、
前記試料の表面にわたって前記ビームを走査させ、走査位置の関数として前記検出器の出力を記録することで、前記試料の荷電粒子画像を蓄積する段階と、
前記検出器の異なるセグメントからの信号を結合して、各走査位置での前記検出器からの静電気勾配のベクトル出力を生成するとともに、このデータをまとめることでベクトル場を得る段階と、
前記ベクトル場に2次元積分操作を施すことにより、前記ベクトル場を数学的に処理し、これにより、スカラー場である積分ベクトル場画像を生成する段階と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記検出器は、四分円を含むように構成され、
前記ベクトル出力は、四分円の相補的な組の間で差分信号を計算することにより、生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出器は、画素のアレイを含む画素化検出器として構成され、
前記ベクトル出力は、
画素値を比較することで前記検出器上の前記束の重心の位置を決定する段階、
前記検出器上の前記重心の座標位置を表す段階、
を含む処理を用いて生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記検出器は、位置感応検出器である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記積分ベクトル場画像は、フィルタリング、開口角補正、デコンボリューション補正、及び上記の組み合わせを含む群から選ばれる少なくとも1つの操作を実施することにより、後処理される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記積分ベクトル場画像は、ラプラシアン操作を実施することにより、さらに操作される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記積分ベクトル場画像は、一回微分操作を実施することにより、さらに操作される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ベクトル場(チルダ)Eの数学的処理は、デカルト座標(x,y)で、前記試料上での前記ビームの走査経路に沿って、次式
【数27】


で定義される目的関数Jの関数最小化を含むフィッティング問題として、ポテンシャルφの推定値(ハット)φを見出す段階を有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記関数最小化は、ポアソン解法、基底関数の再構成、Lpノルムに基づく目的関数を用いた残差の最小化、M推定量(エスティメータ)を用いた残差の最小化、異方的重み付け、拡散テンソルの適用、規則化関数の適用、およびこれらの組み合わせを含む群から選ばれる少なくとも1つの手法の支援により実現される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記荷電粒子が電子である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
走査透過型の荷電粒子顕微鏡であって:
非磁性の試料を保持する試料ホルダと、
荷電粒子のビームを生成する荷電粒子源と、
前記試料が照射されるように前記ビームを誘導する照射体と、
前記照射に応じて前記試料を横断する荷電粒子の束を検出する検出器であって、複数の検出セグメントを有するように構成された検出器と、
前記ビームを前記試料の表面に対して走査運動させる走査手段と、
走査位置の関数として、前記検出器の出力を記録することで、前記試料の荷電粒子画像を蓄積する制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
各走査位置で前記検出器からの静電気勾配のベクトル出力を生成するように前記検出器の異なるセグメントからの信号を結合し、このデータをまとめることでベクトル場を得るとともに、
前記ベクトル場に2次元積分操作を施すことにより、前記ベクトル場を数学的に処理し、これにより、スカラー場である積分ベクトル場画像を生成する、
という追加の動作を実行するように構成される、走査透過型の荷電粒子顕微鏡。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし11に係る特許に対して平成29年9月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1、2、10、11に係る特許は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)請求項1ないし11に係る特許は、甲第1号証に記載された発明及びそれぞれ、甲第2ないし10号証に記載された周知技術、技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特開2000-187834号公報
甲第2号証:H.ROSE 「NONSTANDARD IMAGING METHODS IN ELECTRON
MICROSCOPY」Ultramicroscopy 2(1977) p.251-267、および、その部分訳
甲第3号証:特開2009-277619号公報
甲第4号証:特開2012-049130号公報
甲第5号証:特開2004-38362号公報
甲第6号証:特開2012-83147号公報
甲第7号証:特開2009-134991号公報
甲第8号証:特開2010-182423号公報
甲第9号証:特開2007-329081号公報
甲第10号証:特開2007-234778号公報

3 甲号証の記載事項
甲第1号証の請求項1には「収束電子線を生成する機構、上記収束電子線が試料透過時に被る偏向の向きと大きさを検出する機構、上記収束電子線を走査する機構から構成される電子顕微鏡」、
段落【0005】には「上記ローレンツ電子顕微鏡法においては、図2に示したように、検出器上に形成される透過電子線のスポットのシフトを、4分割型にした検出器の各検出部(図2中のA,B,C,D)からの信号に演算を施して決定する。例えば図2において、スポットのX軸方向のシフトを得るためには、検出部A,B,C,Dからの信号(それぞれ、単にA,B,C,Dと称する)に、数1なる演算を施す。」、
段落【0006】には「【数1】 Ix=(A-B-C+D)/(A+B+C+D) ……(1)
多くの場合、スポットのシフトはスポットの径の1/100程度とわずかであるので、この演算の結果(Ix)は、スポットのX軸方向へのシフト(δxとする)に比例する。同様に、数2の演算結果(Iy)は、スポットのY軸方向へのシフト(δyとする)に比例する。」、
段落【0007】には「【数2】 Iy=(A+B-C-D)/(A+B+C+D) ……(2)」、
段落【0040】には「電子源、加速機構などから成る電子銃1より供給される電子線2は、収束レンズ系3により収束されて試料4を透過する。試料4を透過した電子線2は、拡大レンズ系5を通り検出器6に至る。検出器6は四分割型であり、直交する境界で隔てられた4個の分割部から構成されている。各分割部からの信号(A,B,C,Dとする)は演算装置7に導かれ、演算装置7内ではこれらの信号について図中に示した演算を行う。」、 段落【0042】には「画像生成装置8では、これらの演算結果(Ix,Iy)および走査コイル9を駆動する走査制御装置10からの電子線2の試料4照射位置に関する信号を基に図中に示した演算を実行し、面内積分磁場のX成分∫dzBxとY成分∫dzBy、位相関数Φ、さらに異なる基準点(xi,yi)(i=1,…,N)で生成した位相関数Φの平均Φav(平均位相関数と称する)の画像を、透過強度Σの像と合わせて生成する。そして、生成したこれらの画像は、濃淡表示、ベクトル表示、任意の間隔での等高線表示などの画像データの一般的な表示法により、画像表示・記憶装置11に表示されかつ記憶される。」、
段落【0061】には「このような機能を備えた電子線装置による磁性膜の検査を含む磁気ディスクの製造方法であれば、それが本実施形態と異なる方法であっても本発明の本質を損なうことなくこれを実施できることも言うまでもない。」と記載されている。(下線は当審で付した。)

以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められ、引用発明を電子顕微鏡と装置として記載した引用発明1が記載されていると認められる。
「収束電子線を生成する機構、上記収束電子線が試料透過時に被る偏向の向きと大きさを検出する機構、上記収束電子線を走査する機構から構成される電子顕微鏡による試料の検査する方法であって、電子線は、収束レンズ系により収束されて試料を透過し、試料を透過した電子線は、拡大レンズ系を通り検出器に至り、検出器は四分割型であり、生成した画像は記憶され、検出部A,B,C,Dからの信号(それぞれ、単にA,B,C,Dと称する)は演算装置に導かれ、演算装置内ではこれらの信号について、
【数1】 Ix=(A-B-C+D)/(A+B+C+D)、
【数2】 Iy=(A+B-C-D)/(A+B+C+D)
の演算を施し、面内積分磁場のX成分∫dzBxとY成分∫dzBy、位相関数Φ、さらに異なる基準点(xi,yi)(i=1,…,N)で生成した位相関数Φの平均Φav(平均位相関数と称する)の画像を、生成する方法。」

4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 特許法第29条第1項第3号について
本件特許発明1と引用発明を対比すると、引用発明は、「試料」が「非磁性試料」ではない点、「ベクトル出力」が「静電場勾配のベクトル出力」ではない点で相違し、本件特許発明11と引用発明1を対比すると、引用発明1は、「試料」が「非磁性試料」ではない点、「ベクトル出力」が「静電場勾配のベクトル出力」ではない点で相違していることから、本件特許発明1、11は、甲第1号証に記載された発明でない。
また、本件特許発明2、10は、本件特許発明1を引用する発明であり、本件特許発明1と同様に上記相違点を有するので、本件特許発明2、10は、甲第1号証に記載された発明でない。

イ 特許法第29条第2項について
上記アの相違点について検討する。
上記甲第1号証は発明の名称には「磁性薄膜評価装置およびそれを用いた磁気ディスク製造方法」と記載され、また、上記甲第1号証の【発明が解決しようとする課題】には「【0017】本発明の目的は、より単純な装置構成で簡便に画像が得られるローレンツ電子顕微鏡法において、面内積分磁場の2成分のみならず任意の間隔での磁力線分布を観察可能にし、観察者が容易に磁場分布状態を把握できるようにした磁性薄膜評価装置を提供することにある。」と記載されており、上記甲第2号証、さらに甲第3ないし10号証を考慮しても、「磁性薄膜評価装置およびそれを用いた磁気ディスク製造方法」の「磁性試料」を「非磁性試料」とすること、「ベクトル出力」を「静電場勾配のベクトル出力」とすることの動機付けは存在しない。
よって、本件特許発明1、11に係る特許は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明することができたものではない。
また、本件特許発明2ないし10は、本件特許発明1を引用する発明であり、そうすると、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし10は、
甲第1号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明することができたものではない。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成30年2月15日に提出された意見書の「3 意見の内容」で、「甲第3号証(特開2009-277619号公報)には、以下の記載がある。『【0028】 また、磁性体試料に代えて、場所によって電場状態(帯電状態)が異なる試料を観察対象とし、上記の磁性体試料観察と同じ手法でその試料を観察するようにしてもよい。そうすれば、試料の電場状態を解析することができる。』甲第3号証に記載されているように、磁性体試料観察と同じ手法で、試料の電場状態を観察することは、技術常識ないし周知技術であり」、「甲第2号証には、『ベクトル場を得た後、積分ベクトル場画像を生成する段階を有するSTEM』が記載されている。甲第2号証には、単に試料のポテンシャルと記載されているが、甲第2号証には、試料のポテンシャルとして知られている磁場ポテンシャルと静電ポテンシャルから、静電ポテンシャルを排除する記載や示唆もない。」、「したがって、本件特許発明の請求項1ないし11は、依然として、甲第1号証ないし甲第10号証に記載の発明により進歩性を有さず、取り消されるべきものである。」旨主張している。
しかし、上記(1)イで説示したように、甲第1号証は「磁性薄膜評価装置およびそれを用いた磁気ディスク製造方法」であることから、甲第1号証に「非磁性試料」、「静電場勾配のベクトル出力」の周知技術を組み合わせる動機付けがなく、特許異議申立人の主張は採用されない。

(2)取消理由通知は、本件特許発明1、11について、特許異議申立理由を採用しており、本件特許発明2ないし10は、本件特許発明1を引用する発明である。
よって、上記(1)で検討したとおり取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許発明1ないし11を取り消すことができないのであるから、全ての特許異議申立理由で本件特許発明1ないし11を取り消すことはできない。

第4 むずび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査透過型荷電粒子顕微鏡内で非磁性の試料を検査する方法であって:
前記試料に照射するため、線源から照射体を通るように導かれる荷電粒子のビームを提供する段階と、
前記試料を横断する荷電粒子の束を検出する検出器を提供する段階であって、前記検出器は、複数の検出セグメントを有するように構成される、段階と、
前記試料の表面にわたって前記ビームを走査させ、走査位置の関数として前記検出器の出力を記録することで、前記試料の荷電粒子画像を蓄積する段階と、
前記検出器の異なるセグメントからの信号を結合して、各走査位置での前記検出器からの静電場勾配のベクトル出力を生成するとともに、このデータをまとめることでベクトル場を得る段階と、
前記ベクトル場に2次元積分操作を施すことにより、前記ベクトル場を数学的に処理し、これにより、スカラー場である積分ベクトル場画像を生成する段階と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記検出器は、四分円を含むように構成され、
前記ベクトル出力は、四分円の相補的な組の間で差分信号を計算することにより、生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出器は、画素のアレイを含む画素化検出器として構成され、
前記ベクトル出力は、
画素値を比較することで前記検出器上の前記束の重心の位置を決定する段階、
前記検出器上の前記重心の座標位置を表す段階、
を含む処理を用いて生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記検出器は、位置感応検出器である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記積分ベクトル場画像は、フィルタリング、開口角補正、デコンボリューション補正、及び上記の組み合わせを含む群から選ばれる少なくとも1つの操作を実施することにより、後処理される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記積分ベクトル場画像は、ラプラシアン操作を実施することにより、さらに操作される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記積分ベクトル場画像は、一回微分操作を実施することにより、さらに操作される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ベクトル場(チルダ)Eの数学的処理は、デカルト座標(x,y)で、前記試料上での前記ビームの走査経路に沿って、次式
【数27】

で定義される目的関数Jの関数最小化を含むフィッティング問題として、ポテンシャルφの推定値(ハット)φを見出す段階を有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記関数最小化は、ポアソン解法、基底関数の再構成、Lpノルムに基づく目的関数を用いた残差の最小化、M推定量(エスティメータ)を用いた残差の最小化、異方的重み付け、拡散テンソルの適用、規則化関数の適用、およびこれらの組み合わせを含む群から選ばれる少なくとも1つの手法の支援により実現される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記荷電粒子が電子である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
走査透過型の荷電粒子顕微鏡であって:
非磁性の試料を保持する試料ホルダと、
荷電粒子のビームを生成する荷電粒子源と、
前記試料が照射されるように前記ビームを誘導する照射体と、
前記照射に応じて前記試料を横断する荷電粒子の束を検出する検出器であって、複数の検出セグメントを有するように構成された検出器と、
前記ビームを前記試料の表面に対して走査運動させる走査手段と、
走査位置の関数として、前記検出器の出力を記録することで、前記試料の荷電粒子画像を蓄積する制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
各走査位置で前記検出器からの静電場勾配のベクトル出力を生成するように前記検出器の異なるセグメントからの信号を結合し、このデータをまとめることでベクトル場を得るとともに、
前記ベクトル場に2次元積分操作を施すことにより、前記ベクトル場を数学的に処理し、これにより、スカラー場である積分ベクトル場画像を生成する、
という追加の動作を実行するように構成される、走査透過型の荷電粒子顕微鏡。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-25 
出願番号 特願2015-33311(P2015-33311)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01J)
P 1 651・ 113- YAA (H01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鳥居 祐樹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
野村 伸雄
登録日 2016-12-02 
登録番号 特許第6051245号(P6051245)
権利者 エフ イー アイ カンパニ
発明の名称 荷電粒子顕微鏡内で試料を検査する方法  
代理人 大西 渉  
代理人 井関 勝守  
代理人 井関 勝守  
代理人 金子 修平  
代理人 金子 修平  
代理人 大西 渉  

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