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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1343025
異議申立番号 異議2018-700147  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-22 
確定日 2018-08-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6216907号発明「ハードコートフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6216907号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6216907号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)8月23日を国際出願日とする出願であって、平成29年9月29日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年10月18日に特許掲載公報が発行され、その特許に対し、平成30年2月22日に特許異議申立人 松井 佳章(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」といい、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層された第1のハードコート層と、前記第1のハードコート層における前記基材フィルム側とは反対の主面側に積層された第2のハードコート層とを備えたハードコートフィルムであって、
前記基材フィルムがポリイミドフィルムであり、
前記第1のハードコート層および前記第2のハードコート層が、互いに異なる材料からなり、
前記第1のハードコート層の屈折率と前記第2のハードコート層の屈折率との差が、絶対値で0.04以下であり、
前記第1のハードコート層の厚さおよび前記第2のハードコート層の厚さの合計が、7μm以上、35μm以下であり、
フレキシブルディスプレイを構成する、繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される
ことを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記第1のハードコート層および前記第2のハードコート層が、活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり、
前記第1のハードコート層が、前記第2のハードコート層よりも柔らかい材料からなる
ことを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記第1のハードコート層が、アルキレンオキシドによって変性された活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり、
前記第2のハードコート層が、アルキレンオキシドによって変性されていない活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記活性エネルギー線硬化性成分が、多官能性(メタ)アクリレート系モノマーであることを特徴とする請求項2または3に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記第1のハードコート層の屈折率が、1.40以上、1.80以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記第2のハードコート層の屈折率が、1.40以上、1.80以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
前記第1のハードコート層の厚さが、3μm以上、30μm以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。
【請求項8】
前記第2のハードコート層の厚さが、0.75μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。
【請求項9】
前記ポリイミドフィルムの厚さが、5μm以上、300μm以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。
【請求項10】
前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側には、粘着剤層が積層されていることを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証?甲第6号証を提出するとともに、次の申立て理由を主張している。

・申立て理由(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1?10に係る特許は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
(異議申立人提出の甲号証)
甲第1号証:特開2008-165041号公報
甲第2号証:特開2004-163752号公報
甲第3号証:特開2016-2764号公報
甲第4号証:特開2005-96298号公報
甲第5号証:特開2013-228720号公報
甲第6号証:特開平11-300873号公報

第4 甲第1号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2008-165041号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審にて付した。)。
1 「【請求項1】
厚さ60?100μmの透明基材上に、第1の光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含有する中間層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ2?4μmの中間層、及び第2の光硬化性樹脂を含有するハードコート層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ10?25μmのハードコート層の少なくとも2つの層が、順に積層されてなることを特徴とする、ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記透明基材が、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、又はポリエステルを主体とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記中間層が、光硬化性の重合性単量体を含有する前記第1の光硬化性樹脂を光重合させて形成された有機ポリマーと、有機金属化合物を熱重合させて形成された無機ポリマーを含む、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
・・・略・・・
【請求項17】
前記透明基材と、前記中間層との間に、少なくとも透明基材と、前記中間層形成用樹脂組成物の一部の硬化物とが混合した浸透層を有する、請求項1乃至16のいずれかに記載のハードコートフィルム。」

2 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ、例えば、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクションディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表面を保護する目的等で使用される、透明基材上にハードコート層を設けたハードコートフィルム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)又は陰極管表示装置(CRT)等の画像表示装置における画像表示面は、取り扱い時に傷がつかないように、耐擦傷性を付与することが要求される。これに対して、基材フィルムにハードコート(HC)層を形成させた光学積層体(以下、ハードコートフィルムと呼称する。)を利用することにより、画像表示装置の画像表示面の耐擦傷性を向上させることが一般になされている。
【0003】
一般的にプラスチック表面を硬質化する技術としては、オルガノシロキサン系、メラミン系等の熱硬化性樹脂をコーティングしたり真空蒸着法やスパッタリング法等で金属薄膜を形成する方法、あるいは多官能アクリレート系の活性エネルギー線硬化性樹脂をコーティングする方法などが挙げられる。
しかし、ハードコートフィルムの表面硬度を充分高くするため、例えば、鉛筆硬度を5H以上とするために、ハードコートフィルム上のハードコート層を厚くしすぎると、ハードコートフィルムが湾曲した時に、ハードコート層の柔軟性が足りずにハードコート層が割れやすくなる。
【0004】
透明基材フィルムの表面に2層構成のハードコート層を設けることにより、ハードコートフィルムの硬度を向上させる方法が提案されている。
特許文献1には、プラスチック基材フィルムの少なくとも一方の面に、厚さ3?50μmの1層若しくは多層からなる緩衝層を設け、更に該緩衝層上に厚さ3?15μmのハードコート層を形成してなるハードコートフィルムであって、前記プラスチック基材フィルム、緩衝層、及びハードコート層の各々の鉛筆硬度は、この順序で増大した値を有し、ハードコートフィルム全体として鉛筆硬度4H?8Hを有するハードコートフィルムが提案されている。
特許文献1に記載された発明によれば、緩衝層が、プラスチック基材フィルムの変形に応じたハードコート層の変形を緩衝する作用を有し、且つ、各形成層の鉛筆硬度を順次増大させることによって、ハードコートフィルム全体の硬度を向上させることができ、更に、耐割れ性及び耐擦傷性に優れたフィルムを得ることができる。
【0005】
また、特許文献2には、透明プラスチック基材の少なくとも一方の面に硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルム若しくはシートであって、前記基材上に第1のハードコート層としてラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂のブレンドからなる硬化樹脂被膜層を、また、第2のハードコート層として、ラジカル重合型樹脂のみから成る硬化樹脂被膜層を、この順に形成した2層構成から成る硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルムが開示されている。
特許文献2に記載された発明によれば、第1のハードコート層に含まれるカチオン重合型樹脂が有する硬化収縮緩和作用により、ハードコートフィルム全体の硬度を向上させることができ、更に、耐割れ性及び耐擦傷性に優れたフィルムを得ることができる。
【0006】
また、特許文献3には、基材と、基材表面に形成された第1の被膜および該第1被膜上に形成された第2被膜を含むハードコート層とからなり、第1被膜及び/又は第2被膜は、微粒子を含有する樹脂から形成され、かつ第1被膜を形成する樹脂相の硬度が第2被膜を形成する樹脂相の硬度よりも小さい、ハードコート膜付基材が開示されている。
特許文献3に記載された発明によれば、第1の被膜が有する応力緩和作用により、ハードコートフィルム全体の硬度を向上させることができ、更に、耐割れ性及び耐擦傷性に優れたフィルムを得ることができる)。
【0007】
・・・略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1?3に記載されたハードコートフィルムは、表面硬度と共にハードコート層の割れにくさも考慮されている。しかし、表面のハードコート層の割れにくさについては、未だ充分に改善されていない。
上記実情に鑑み、本発明は、高い表面硬度を有し、且つ、耐割れ性及び耐擦傷性に優れたハードコートフィルム、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
・・・略・・・
すなわち、本発明のハードコートフィルムは、厚さ60?100μmの透明基材上に、第1の光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含有する中間層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ2?4μmの中間層、及び第2の光硬化性樹脂を含有するハードコート層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ10?25μmのハードコート層の少なくとも2つの層が、順に積層されてなることを特徴とする。
【0010】
本発明のハードコートフィルムは、中間層の、主に熱硬化性樹脂の硬化物による剛性と、主に光硬化性樹脂の硬化物による適度な柔軟性、弾性とを併せ持つことから、当該中間層が厚さ60?100μmの透明基材単体では不足している剛性を補うため、ハードコート層が大きく変形しにくく、且つ、透明基材の変形に対して中間層が追随することにより、ハードコート層にかかる外部応力を緩和することができるため、ハードコートフィルム全体の硬度を5H以上に高めることができる。
【0011】
前記透明基材は、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、又はポリエステルを主体とすることが好ましい。」

3 「【発明の効果】
【0033】
本発明のハードコートフィルムは、厚さ80μm前後の透明基材とハードコート層との間に、光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含む中間層を設けることにより、当該中間層に剛性と、適度な柔軟性、弾性とをバランスよく持たせることができ、ハードコートフィルムの表面が割れにくく、且つ、鉛筆硬度を5H以上に達成することができる。
【0034】
本発明のハードコートフィルムの製造方法によれば、得られるハードコートフィルムにおいて、厚さ80μm前後の透明基材とハードコート層との間に、光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含む中間層を設けることにより、当該中間層が透明基材単体では不足している剛性を補い、且つ、透明基材の変形に対して中間層が追随することにより、ハードコート層にかかる外部応力を緩和することができる。また、更に、透明基材-中間層間に、両層の材料を含む浸透層を有するため、急激な屈折率の変化がなくなり、屈折率差に起因する干渉縞の発生を防止することができる。更に、当該特定の樹脂が前記透明基材に浸透して硬化しているので、透明基材-中間層間の密着性が優れたものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
・・・略・・・
【0039】
以下、透明基材、中間層、ハードコート層、浸透層について、それぞれ詳細に説明する。
1.透明基材
本発明に用いられる透明基材は、透明性(光透過性)の高いプラスチックフィルム又はシートであり、光学積層体の透明基材として用い得る物性を満たすものであれば特に限定されることはなく、適宜選んで用いることができる。
・・・略・・・
透明なプラスチックフィルム又はシートを形成する材料で好ましいものとしては、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、又はポリエステルを主体とするものが挙げられる。ここで、「主体とする」とは、基材構成成分の中で最も含有割合が高い成分を示すものである。
【0040】
・・・略・・・
【0041】
本発明に用いられる透明基材として、最も透明性に優れた材料は、セルロースアシレートであり、中でもトリアセチルセルロースを用いることが好ましい。
・・・略・・・
【0044】
2.中間層
本発明に用いられる中間層は、第1の光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含有する中間層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ2?4μmの層である。中間層は、主に熱硬化性樹脂の硬化物による剛性と、主に光硬化性樹脂の硬化物による適度な柔軟性、弾性とを併せ持つ層であり、厚さ60?100μmの透明基材単体では不足している剛性を補うため、ハードコート層が大きく変形しにくく、且つ、透明基材の変形に対して中間層が追随することにより、ハードコート層にかかる外部応力を緩和することができる。」

5 「【0206】
(iv)ハードコート層形成工程
本工程においては、第2の光硬化性樹脂を含有するハードコート層用塗工組成物を当該浸透層上に塗布、乾燥し、硬化させて、ハードコート層を形成する。
第2の光硬化性樹脂については、「I.ハードコートフィルム」において説明したものを用いることができる。
塗布、乾燥方法は、上記中間層と同様に行うことができる。また、硬化方法は、(iii)の光照射工程と同様に行うことができる。
【0207】
上記工程(iii)において、硬化として光による硬化のみを行った場合、工程(iv)のハードコート層への光による硬化工程の後で、更に透明基材、浸透層、中間層、ハードコート層が順に積層された積層体を加熱し、浸透層及び中間層の熱硬化を行い、ハードコート層を形成する。光硬化を行った中間層と光硬化を行ったハードコート層との積層体を加熱することにより、中間層-ハードコート層間の密着性が向上し、干渉縞が出にくくなる。これは、中間層を完全に硬化させないことで、架橋点密度が低い状態になるため、ハードコート層成分が中間層に浸透し、屈折率の界面をなくすことができるからである。」

6 「【実施例】
【0210】
後述する実施例において行った評価方法は以下のとおりである。
(1)鉛筆硬度試験
・・・略・・・
(2)干渉縞
・・・略・・・
(3)クラック
ハードコートフィルムを直径0.5cmの金属ロールに巻きつけたときのクラック発生の有無を目視により確認した。
(4)ヘイズ
・・・略・・・
【0217】
<実施例1:硬化プロセスA>
基材として80μm厚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士写真フィルム製)を用い、その上に中間層としてウレタンアクリレート(紫光UV1700-B:商品名、日本合成(株)製)90部、シリカハイブリッド樹脂(コンポセランE201:商品名、荒川化学工業製)5部、アルミキレート(ALCH:商品名、川研ファインケミカル製)5部の混合物を溶剤で固形分35%に調製した中間層形成用樹脂組成物を、ドライ厚みで約3μm塗工し、光量10mJで硬化させた。
【0218】
次に前記光硬化後の中間層の上にハードコート層としてウレタンアクリレート(紫光UV1700-B:商品名、日本合成(株)製)70部、シリカ微粒子30部の混合物をドライ厚みで約15μm塗工し、光量200mJで硬化させた。
【0219】
前記光硬化後の中間層と前記光硬化後のハードコート層との積層体を加熱することにより、総厚約98μmのハードコートフィルムを得た。
【0220】
<実施例2>
・・・略・・・
<実施例6>
基材として80μm厚のシクロオレフィンポリマー(COP)フィルムを用い、他は前記実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0225】
<実施例7>
基材として80μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、他は前記実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0226】
<実施例8>
基材として80μm厚のポリカーボネート(PC)フィルムを用い、他は前記実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0227】
<実施例9:硬化プロセスB>
・・・略・・・
【0235】
前記、実施例1?9及び比較例1?6で得られた各ハードコートフィルムの鉛筆硬度、また各ハードコートフィルムにおける各層の形成材料自体の鉛筆硬度を表1に示す。ただし各層の鉛筆硬度は、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に当該各層と同じ厚みの層を形成して得られる評価用積層体の鉛筆硬度とする。なお、表1中の金属元素とは、有機金属化合物に含まれる金属元素を表す。
また、得られたハードコートフィルムの干渉縞の評価、クラックの有無及びヘイズの有無も合わせて表1に示す。但し、干渉縞の程度の評価結果は、○印(干渉縞の発生なし)、△印(干渉縞の発生があったが、製品として許容される)、×印(干渉縞の発生あり)とする。またクラックの有無の評価結果は、○印(クラック無し)、×印(クラック発生)とする。更に、ヘイズの有無の評価結果は、○印(ヘイズ無し)、×印(ヘイズ発生)とする。
実施例1?9で得られた本発明のハードコートフィルムは、鉛筆硬度5Hであり、また、干渉縞、クラック及びヘイズが発生しないという、ハードコートフィルムの性能として必要な性能も満たしている。
【0236】
【表1】



7 上記1の請求項1、上記2の段落【0001】及び上記3の段落【0034】の記載によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「厚さ60?100μmの透明基材上に、第1の光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含有する中間層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ2?4μmの中間層、及び第2の光硬化性樹脂を含有するハードコート層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ10?25μmのハードコート層の少なくとも2つの層が、順に積層されてなるハードコートフィルムであって、
ディスプレイの表面を保護する目的で使用され、
透明基材-中間層間に、両層の材料を含む浸透層を有するため、急激な屈折率の変化がなくなり、屈折率差に起因する干渉縞の発生を防止することができる、
ハードコートフィルム。」(以下、「甲1発明」という。)

第5 申立て理由(特許法第29条第2項)について
1 本件発明1について
ア 対比
(ア) 甲1発明の「厚さ60?100μmの透明基材」は、その「上に、第1の光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含有する中間層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ2?4μmの中間層、及び第2の光硬化性樹脂を含有するハードコート層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ10?25μmのハードコート層の少なくとも2つの層が、順に積層され」て、「ハードコートフィルム」を構成している。
上記の構成及びその機能からみて、甲1発明の「厚さ60?100μmの透明基材」は、本件発明1の「基材フィルム」に相当する。

(イ) 甲1発明の積層構造からみて、甲1発明の「熱硬化性樹脂を含有する中間層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ2?4μmの中間層」は、「透明基材」上に積層された「第1の層」ということができる。また、甲1発明の「第2の光硬化性樹脂を含有するハードコート層形成用樹脂組成物の硬化物からなる、厚さ10?25μmのハードコート層」は、該「第1の層」における「透明基材」側とは反対の面側に積層された「ハードコート層」である「第2の層」ということができる。
本件発明1についても、本件発明1の「前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層された第1のハードコート層」、及び「前記第1のハードコート層における前記基材フィルム側とは反対の主面側に積層された第2のハードコート層」は、それぞれ、「基材フィルム」上に積層された「第1の層」、及び該「第1の層」における「基材フィルム」側とは反対の面側に積層された「ハードコート層」である「第2の層」ということができる。
そうすると、上記(ア)より、甲1発明と、本件発明1は、「基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面側に積層された第1の層と、前記第1の層における前記基材フィルム側とは反対の面側に積層されたハードコート層である第2の層とを備え」ている点で共通する。

(ウ) 甲1発明の「第1の光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含有する中間層形成用樹脂組成物の硬化物からなる」「中間層」は、「熱硬化性樹脂を含有」している点で、「第2の光硬化性樹脂を含有するハードコート層形成用樹脂組成物の硬化物からなる」「ハードコート層」とは、互いに異なる材料からなる。
そうすると、上記(イ)より、甲1発明と、本件発明1は、「第1の層」および「第2の層」が、「互いに異なる材料からなり」という事項を備えている点で共通する。

(エ) 甲1発明の「中間層」は「厚さ2?4μm」、「ハードコート層」は「厚さ10?25μm」であるから、甲1発明の「中間層」の厚さおよび「ハードコート層」の厚さの合計は「12?29μm」となる。
そうすると、上記(イ)より、甲1発明と、本件発明1は、「第1の層の厚さおよび第2の層の厚さの合計が7μm以上、35μm以下である」という事項を備えている点で共通する。

(オ) 上記(ア)?(エ)より、甲1発明の「ハードコートフィルム」は、本件発明1の「ハードコートフィルム」に相当する。

(カ) 上記(ア)?(オ)より、本件発明1と甲1発明とは、
「基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面側に積層された第1の層と、前記第1の層における基材フィルム側とは反対の面側に積層されたハードコート層である第2の層とを備えたハードコートフィルムであって、
前記第1の層および前記第2の層が、互いに異なる材料からなり、
前記第1の層の厚さおよび前記第2の層の厚さの合計が、7μm以上、35μm以下である、
ハードコートフィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1においては、「前記基材フィルムがポリイミドフィルムであ」るのに対して、
甲1発明においては、「透明基材」(基材フィルム)の材料が特定されていない点。

(相違点2)
本件発明1は、「フレキシブルディスプレイを構成する、繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される」ものであるのに対して、
甲1発明は、「ディスプレイの表面を保護する目的で使用される」ものである点。

(相違点3)
本件発明1においては、「第1の層」が「ハードコート層」であるのに対して、
甲1発明においては、「第1の層」が「第1の光硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂を含有する中間層形成用樹脂組成物の硬化物からなる」「中間層」であり、該「中間層」が「ハードコート層」であるのか不明である点。

(相違点4)
本件発明1においては、「前記第1の層」の屈折率と「前記第2の層」の屈折率との差が「絶対値で0.04以下である」のに対して、
甲1発明においては、「前記第1の層」の屈折率と「前記第2の層」の屈折率との差が不明である点。

(相違点5)
本件発明1においては、「第1の層」が、「基材フィルム」の「主面」側に積層され、「第2の層」が、「第1の層」における「基材フィルム」側とは反対の「主面」側に積層されているのに対して、
甲1発明においては、そのようになっているのか不明である点。

イ 判断
事案に鑑み、上記の相違点1と相違点2を合わせて検討する。
(ア) 甲1発明が解決しようとする課題に関し、甲第1号証には、「ハードコートフィルムの表面硬度を充分高くするため、例えば、鉛筆硬度を5H以上とするために、ハードコートフィルム上のハードコート層を厚くしすぎると、ハードコートフィルムが湾曲した時に、ハードコート層の柔軟性が足りずにハードコート層が割れやすくなる。」(段落【0003】)、「表面硬度と共にハードコート層の割れにくさも考慮されている。しかし、表面のハードコート層の割れにくさについては、未だ充分に改善されていない。」、「上記実情に鑑み、本発明は、高い表面硬度を有し、且つ、耐割れ性及び耐擦傷性に優れたハードコートフィルム、及びその製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0008】)と記載されている。また、甲第1号証には、「耐割れ性」の「評価方法」に関し、「(3)クラック ハードコートフィルムを直径0.5cmの金属ロールに巻きつけたときのクラック発生の有無を目視により確認した。」(段落【0210】)と記載されている。
そうすると、上記課題・目的及び「耐割れ性」の「評価方法」についての記載によれば、甲1発明は、ハードコートフィルムの湾曲に対する耐割れ性、具体的には、直径0.5cmの金属ロールに巻き付けて湾曲した時のクラックの発生の有無に着目したものであるとまでは、いうことができる。
しかしながら、ハードコートフィルムが、フレキシブルディスプレイのハードコートフィルムとして使用された場合の繰り返し屈曲に対する耐割れ性、クラックの発生に着目したものであるとまではいうことができない。この点は、甲1発明が前提とするディスプレイとして、フレキシブルディスプレイとすることが不可能なディスプレイも列挙されていること(段落【0001】)からみても、明らかである。そうしてみると、甲第1号証は、甲1発明の「ハードコートフィルム」が、「フレキシブルディスプレイを構成する、繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される」構成を開示・示唆するものではない。

(イ) また、甲1発明の「透明基材」の材料に関し、甲第1号証には、「本発明に用いられる透明基材は、透明性(光透過性)の高いプラスチックフィルム又はシートであり、光学積層体の透明基材として用い得る物性を満たすものであれば特に限定されることはなく、適宜選んで用いることができる。」(段落【0039】)と記載されている。すなわち、甲1発明の「透明基材」は、「ポリイミドである」必要がないものである。加えて、甲1号証において例示された「透明基材」は、「セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、又はポリエステルを主体とするもの」(段落【0039】、請求項3等)にとどまる。加えて、甲第1号証には、「透明基材として、最も透明性に優れた材料は、セルロースアシレートであり、中でもトリアセチルセルロースを用いることが好ましい。」(段落【0041】)と記載され、また、実施例として具体的に示されたものも、透明基材をトリアセチルセルロース(実施例1?5,9等)、シクロオレフィンポリマー(実施例6)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(実施例7)、ポリカーボネート(実施例8)に限られる。
そうすると、甲第1号証は、甲1発明の「透明基材」が「ポリイミドフィルムである」構成を開示・示唆するものでもない。

(ウ) してみると、甲第1号証の記載に基づいて、甲1発明において、上記相違点1に係る、「透明基材」が「ポリイミドフィルムである」構成とするとともに、上記相違点2に係る「フレキシブルディスプレイを構成する、繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される」構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるということはできない。

(エ) 特許異議申立人は、上記相違点1について、「甲第2号証の段落【0015】又は甲第3号証の段落【0027】には、ディスプレイ表面の保護に使用するフィルムの透明基材としてポリイミドが例示されており、甲1発明の透明基材としてポリイミドを使用することは当業者にとって容易である。」旨主張している(特許異議申立書第16頁16?21行)。
また、特許異議申立人は、上記相違点2について、「甲第1号証に、透明基材が変形する場合があること(段落【0029】)、ハードコートフイルムの表面が割れにくいこと(甲第1号証段落【0039】)が記載されており、ハードコートフィルムのフレキシブル部材用途については甲第3号証段落【0001】に記載されている。」、「そのような性能を持つ甲1発明のハードコートフィルムを通常の用途であるフレキシブル部材として使用することは当業者にとって容易である。」旨主張している(特許異議申立書第16頁31行?17頁5行)。

(オ) しかしながら、甲第2号証の段落【0015】は、CRT、LCD、PDP等のフラットパネルディスプレイに用いられるハードコート層が積層された反射防止シートの基材フィルムの材料として挙げられた多数の材料中にポリイミドを例示するにとどまる。また、甲第2号証においては、透明性、強度、寸法安定性に優れた、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンアフタレート等のポリエステル樹脂又はポリカーボネート樹脂からなる基材フィルムが好適であることが開示されているから(段落【0015】)、透明基材の材料として、ポリイミドを積極的に選択することを開示・示唆するものではない。
また、甲第3号証の段落【0001】に「本発明は、熱可塑性樹脂フィルムに光硬化樹脂層を2層以上積層してなる透明な積層体に関するものであり、更に詳しくは、表面硬度と耐屈曲性(曲げ耐久性)に優れ、フレキシブルディスプレイの保護フィルムやタッチパネル基板等として有用な積層体に関するものである。」、段落【0027】に「本発明で使用される熱可塑性樹脂フィルム[I]は、透明性を有するものであればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、トリアセチルセルロース(TAC)等の熱可塑性樹脂からなるフィルムが挙げられる。これらの中でも安価なPETフィルムや耐熱性に優れるポリイミドフィルムが好適である。」との記載があり、甲第3号証には、フレキシブルディスプレイの保護フィルムとして用いられるハードコート層の熱可塑性樹脂フィルム(透明基材)として、安価なPETフィルムや耐熱性に優れるポリイミドフィルムを用いることが開示・示唆されている。

(カ) 一方、本件特許の明細書(段落【0110】?【0117】(実施例1?5、比較例6)、【0127】、【0131】【表1】、【0132】【表2】、【0133】等)には、「フレキシブルディスプレイを構成する、繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される」「ハードコートフィルム」の「基材フィルム」を「PETフィルム」とすると、「屈曲径10mm以下、かつ試験回数2万回以上」繰り返し屈曲させた時、「ハードコート層のクラック・剥がれや、ハードコートフィルムの白化・屈曲跡の発生」等の不良が発生する一方、「基材フィルム」を「ポリイミドフィルム」とすると、「屈曲径5mm以下、かつ試験回数2万回以上」繰り返し屈曲させても当該不良が発生せず、繰り返し屈曲に耐え得る耐屈曲性に優れたものとなること、すなわち、「フレキシブルディスプレイを構成する、繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される」「ハードコートフィルム」の「基材フィルム」に関し「ポリイミドフィルム」と「PETフィルム」は耐屈曲性において顕著な相違があることが開示されている。
そして、このような技術思想は、甲第2号証、甲第3号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
そうしてみると、甲第2号証及び甲第3号証の上記の開示・示唆を考慮したとしても、甲1発明において、「透明基材」が「ポリイミドフィルムである」構成とするとともに、「フレキシブルディスプレイを構成する、繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される」構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるということはできない。
加えて、特許異議申立人が証拠として提出した甲第4号証?甲第6号証のいずれにも、上記のような技術思想は記載も示唆されていない。
したがって、甲1発明において、上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たということはできない。

(キ) 以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2?10について
本件発明2?10は、いずれも上記相違点1及び上記相違点2に係る本件発明1の構成を具備する発明である。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?10は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 以上のとおりであるから、本件発明1?10は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
したがって、異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-26 
出願番号 特願2017-507032(P2017-507032)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山▲崎▼ 和子吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
河原 正
登録日 2017-09-29 
登録番号 特許第6216907号(P6216907)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 ハードコートフィルム  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  

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