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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1343028
異議申立番号 異議2018-700349  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-25 
確定日 2018-08-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6220676号発明「真空成形用中空ボード、立体造形物、立体造形物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6220676号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 主な手続の経緯等

特許第6220676号(設定登録時の請求項の数は5。以下「本件特許」という。)は,平成26年1月7日にされた特許出願に係るものであって,平成29年10月6日にその特許権が設定登録された。

そして,本件特許に係る特許掲載公報は平成29年10月25日に発行されたところ,特許異議申立人桑原克昌(以下,単に「異議申立人」という。)は,平成30年4月25日,請求項1?5に係る特許に対して特許異議の申立てをした。

2 本件発明

本件特許の請求項1?5に係る発明は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などという。)。

「【請求項1】
対をなす表層シート間に中間シートを介在させた樹脂製の中空ボードであって,
前記各表層シートが,2?10μmの赤外線透過率が平均25%以上のものであり,前記中間シートが色剤を添加したものであり,
前記各表層シートと中間シートとが同一の種類の樹脂から構成されていることを特徴とする真空成形用中空ボード。
【請求項2】
前記色剤が,カーボンである請求項1記載の真空成形用中空ボード。
【請求項3】
前記中間シートが,一面側に開放された多数の突起を有するキャップシートであり,
一方の表層シートが,前記突起の開放側に添設されるバックシートであり,
他方の表層シートが,前記突起の先端側に添設されるライナーシートである請求項1または2記載の真空成形用中空ボード。
【請求項4】
請求項1,2または3記載の真空成形用中空ボードを真空成形することにより作られた立体造形物。
【請求項5】
請求項1,2または3記載の真空成形用中空ボードを赤外線ヒータにより加熱する工程と,加熱され変形可能な真空成形用中空ボードの真空引きを行う工程とを備えた立体造形物の製造方法。」

3 特許異議の申立ての理由の概要

異議申立人の主張は,概略,次のとおりである。

(1) 本件発明1?5は,特許法(以下,単に「法」という場合がある。)29条2項の規定により特許を受けることができない発明である(本決定の便宜上,以下「取消理由1」という。)。すなわち,本件発明1?5は,甲1に記載された発明を主たる引用発明,甲1?3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 本件発明4は,「立体造形物」(物の発明)であるが,「真空成形することにより作られた」という,その物の製造方法が記載されているから,その特許は,特許法36条6項2号の要件に違反してなされたものである。(本決定の便宜上,以下「取消理由2」という。)

(3) そして,上記取消理由1及び2には理由があるから,本件の請求項1?5に係る発明についての特許は,法113条2号に該当し,また,本件の請求項4に係る発明についての特許は,法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。

(4) また,証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1?3)を提出する。

・甲1: 実願平3-40876号(実開平4-124963号)のマイクロフィルム(決定注:特許異議申立書には,証拠方法として,「甲第1号証:実開平4-124963号公報」と記載されているが,特許異議申立書の具体的な記載内容及び実際に添付されている証拠からみて,当該記載は誤記であると判断した。甲2及び甲3も同様である。)
・甲2: 実願昭52-112893号(実開昭54-39483号)のマイクロフィルム
・甲3: 実願昭51-82173号(実開昭53-2466号)のマイクロフィルム

4 当合議体の判断

当合議体は,以下述べるように,取消理由1及び2には理由はないと判断する。

(1) 取消理由1について

ア 本件発明1について

(ア) 甲1に記載された発明

甲1には,請求項1,段落【0011】,【0014】,【0016】,【0017】,【0018】,【0024】?【0027】,【0031】?【0033】,【0038】などの記載からみて,図1に記載されている合成樹脂中空体として,次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「多数の凸部を有するフイルムであるキャップフイルム2の両面に,平滑なフイルムを貼着してなる多数の中空室を有する合成樹脂中空体において,平滑なフイルムの片側がライナフイルム5であり,他方の側が,バックフイルム3の外側に黒色系以外の着色剤を混練した吸収層7と金属蒸着層8と保護層9の積層フィルムである反射層6を積層したものである,合成樹脂中空体であって,
前記キャップフイルム2,ライナフイルム5,バックフイルム3,吸収層7,保護層9の熱可塑性樹脂が,メルトインデックス=2の低密度ポリエチレンである,
合成樹脂中空体。」

(イ) 一致点及び相違点

本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「平滑なフイルム」である「ライナフイルム5」は,本件発明1の中間シートの一方側の「表層シート」に相当する。
また,甲1発明の「多数の凸部を有するフイルムであるキャップフイルム2」は,本件発明1の「中間シート」に相当する。
さらに,甲1発明の「バックフイルム3の外側に黒色系以外の着色剤を混練した吸収層7と金属蒸着層8と保護層9の積層フィルムである反射層6を積層したもの」(以下,「4層の平滑なフイルム」という。)は,「平滑なフイルム」である限りにおいて,本件発明1の中間シートの他方側の「表層シート」に相当する。
加えて,甲1発明の「ライナフィルム5」と「4層の平滑なフィルム」とは,「キャップフイルム2」の両面に貼着されたものであるところ,このような配置の関係は,本件発明1の「対をなす表層シート間に中間シートを介在させた」との構成に相当するといえる。
そして,甲1発明の「キャップフイルム2,ライナフイルム5,バックフイルム3,吸収層7,保護層9の熱可塑性樹脂が,メルトインデックス=2の低密度ポリエチレンである」ことは,本件発明1の「前記各表層シートと中間シートとが同一の種類の樹脂から構成されている」ことに相当する。
加えて,甲1発明の「合成樹脂中空体」と,本件発明1における「真空成形用中空ボード」とは,「中空ボード」の限りにおいて相当する。

そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

・ 一致点

「対をなす表層シート間に中間シートを介在させた樹脂製の中空ボードであって,
前記各表層シートと中間シートとが同一の種類の樹脂から構成されている,中空ボード。」である点

・ 相違点

<相違点1>
一方側の表層シート(ライナフイルム5側)について,本件発明1は,「2?10μmの赤外線透過率が平均25%以上のもの」と特定するのに対し,甲1発明は,この点を特定しない点。

<相違点2>
他方側の表層シート(4層の平滑なフイルム側)について,本件発明1は,「2?10μmの赤外線透過率が平均25%以上のもの」と特定するのに対し,甲1発明は,バックフイルム3の外側に黒色系以外の着色剤を混練した吸収層7と金属蒸着層8と保護層9の積層フィルムである反射層6を積層した構成であって,この点を特定しない点。

<相違点3>
中間シートに関し,本件発明1は,「色剤を添加した」と特定するのに対し,甲1発明は,色剤は添加していない点。

<相違点4>
中空ボードに関し,本件発明1は,「真空成形用」と特定するのに対し,甲1発明は,用途の特定のない中空体(中空ボード)である点。

(ウ) 相違点についての検討

事案に鑑み,相違点2から検討する。
甲1発明は,「屋外で使用した場合,被包装物への紫外線と赤外線の到達を最小限に食い止め,さらに過度に蓄熱せず,また,防眩性を有する合成樹脂中空体」(段落【0005】)であって,「反射層6で紫外線と一部の赤外線を反射する。赤外線は,紫外線に比して透過性が高いので,反射層6を透過する部分もあるが,これは吸収層7で吸収する」(段落【0017】)ものであるから,反射層や吸収層を含む4層の平滑なフイルムの赤外線透過率が平均25%以上であるとはいえない。
また,4層の平滑なフイルムは,反射層と吸収層を必須とすることで,赤外線の透過を最小限に食い止めるように機能するものであるから,このような4層の平滑なフィルムについて赤外線を透過させるようにすること,すなわち,「2?10μmの赤外線透過率」を平均25%以上とすることには阻害要因がある。

そして,相違点2を含め,上記相違点1?4に係る本件発明1の構成を備えることで,本件発明1は「表層シートと中間シートを均一に軟化させて所望の形状に真空成形できる」という効果が奏されることが具体的な実施例及び比較例の結果から確かめられており,この点については,異議申立人の提示するいずれの証拠にも記載されていない。

そうすると,相違点2は,当業者といえども容易に想到し得るものではない。
よって,その他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明,甲1?3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) 異議申立人の主張の検討

異議申立人は,特許異議申立書において,甲1には,請求項1,段落【0011】,【0014】,【0016】,【0017】,【0018】,【0024】?【0027】,【0031】?【0033】,【0038】などの記載からみて,次のとおりの発明(以下,「甲1引用発明」という。)が記載されていると主張している。
「a.対をなす平滑なフイルム間に,多数の凸部を有するフイルムを介在させた合成樹脂中空体であって,
b.前記各平滑なフイルムが,熱可塑性樹脂製のフイルムであり,
c.前記多数の凸部を有するフイルムが,熱可塑性樹脂製のフイルムであり,
d.前記各平滑なフイルムと前記多数の凸部を有するフイルムとが,同一の種類の樹脂から構成されている
e.合成樹脂中空体。」

しかしながら,甲1に記載の合成樹脂中空体は,「屋外で使用した場合,被包装物への紫外線と赤外線の到達を最小限に食い止め,さらに過度に蓄熱せず,また,防眩性を有する合成樹脂中空体」(段落【0005】)であり,「反射層6で紫外線と一部の赤外線を反射する。赤外線は,紫外線に比して透過性が高いので,反射層6を透過する部分もあるが,これは吸収層7で吸収する」(段落【0017】)ものであって,反射層と吸収層を除外した上記の異議申立人の甲1引用発明は,本件発明1を踏まえて初めて想定できる恣意的なものであるといわざるをえない。
当該甲1引用発明に基づく異議申立人の主張は,採用できない。

イ 本件発明2ないし5について

請求項2?5の記載は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして,本件発明1が甲1発明から想到容易であるということはできないのは上記アで検討のとおりであるから,本件発明2?5も同様の理由により,想到容易であるということはできない。

ウ まとめ

以上のとおり,異議申立人が主張する取消理由1には理由がない。

(2) 取消理由2について

請求項4における「真空成形することにより作られた」との記載は,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎず,当業者は,当該立体造形物を明確に理解できる。
したがって,異議申立人が主張する取消理由2には理由がない。

5 むすび

したがって,異議申立人の主張する申立ての理由及び証拠によっては,特許異議の申立てに係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許が法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。

よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-20 
出願番号 特願2014-684(P2014-684)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 537- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辰己 雅夫  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大島 祥吾
渕野 留香
登録日 2017-10-06 
登録番号 特許第6220676号(P6220676)
権利者 川上産業株式会社
発明の名称 真空成形用中空ボード、立体造形物、立体造形物の製造方法  

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