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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F24C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F24C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F24C |
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管理番号 | 1343031 |
異議申立番号 | 異議2018-700291 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-06 |
確定日 | 2018-08-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6212165号発明「調理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6212165号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6212165号の請求項1?15に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)6月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年(平成22年)6月30日、フランス)を国際出願日とする特願2013-517455号の一部が、平成28年5月26日に新たな特許出願とされ、平成29年9月22日に特許権の設定登録がなされ(特許掲載公報の発行日は平成29年10月11日)、その後、平成30年4月6日に特許異議申立人 ショット アクチエンゲゼルシャフト(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 2.本件発明 特許第6212165号の請求項1?15の特許に係る発明(以下、それぞれ「特許発明1」?「特許発明15」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも1つの加熱手段と、制御および/またはモニタ手段と、少なくとも1つの発光装置とを含む内部要素を備え、 前記内部要素が、バナジウム酸化物を用いて着色した少なくとも1枚のガラス-セラミック・プレートで覆われており、 少なくとも1つの前記発光装置は、前記ガラス-セラミック・プレートを通して見られる赤色の発光装置ではなく、 前記内部要素の少なくとも一部を隠すための少なくとも1つのマスキング手段が、前記ガラス-セラミック・プレートの上または下または中に配置され、 前記ガラス-セラミック・プレートが、アルミノケイ酸リチウム系であり、その化学組成が、重量%で表わして以下の範囲内にある成分、すなわち、 SiO_(2) 52?75% Al_(2)O_(3) 18?27% Li_(2)O 2.5?5.5% K_(2)O 0?3% Na_(2)O 0?3% ZnO 0?3.5% MgO 0?3% CaO 0?2.5% BaO 0?3.5% SrO 0?2% TiO_(2) 1.2?5.5% ZrO_(2) 0?3% P_(2)O_(5) 0?8% を有し、 V_(2)O_(5)の形態で表わされるバナジウム酸化物の重量%が、0.01?0.06%であり、 前記ガラス-セラミック・プレートは、3?6mmの厚みを有し、本質的に、3%?40%の範囲の光透過率と、420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有する、調理装置。 【請求項2】 少なくとも1つの前記加熱手段が、誘導加熱手段又は輻射加熱手段である、請求項1に記載の装置。 【請求項3】 前記加熱手段が誘導加熱手段であるとき、マスキング手段が発光装置を除くほぼすべての内部要素を隠すことができ、又は加熱手段が輻射加熱手段であるとき、マスキング手段が発光装置と加熱要素を除くほぼすべての内部要素を隠すことができる、請求項1又は2に記載の装置。 【請求項4】 前記ガラス-セラミック・プレートが、本質的に3%?25%の光透過率を有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の装置。 【請求項5】 前記ガラス-セラミック・プレートが、本質的に、420?480nmの範囲内の少なくとも1つの波長で少なくとも0.8%の分光透過率を有する、請求項1?4のいずれか一項に記載の装置。 【請求項6】 前記ガラス-セラミック・プレートの厚さが3?4mmの範囲である、請求項1?5のいずれか一項に記載の装置。 【請求項7】 前記ガラス-セラミック・プレートが、鉄酸化物及び/又はコバルト酸化物から選択された他の着色用酸化物を有する、請求項1?6のいずれか一項に記載の装置。 【請求項8】 Fe_(2)O_(3)の形態で表わされる鉄酸化物の重量%が0.02?0.2%である、請求項7に記載の装置。 【請求項9】 コバルト酸化物の重量%が0.01?0.12%である、請求項7に記載の装置。 【請求項10】 前記マスキング手段が前記ガラス-セラミック・プレートの上および/または下に堆積させたコーティングであり、該コーティングが、輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有する、請求項1?9のいずれか一項に記載の装置。 【請求項11】 前記コーティングが、有機材料をベースとした層又は無機材料をベースとした層である、請求項10に記載の装置。 【請求項12】 前記マスキング手段が、前記ガラス-セラミック・プレートの下に位置していて、該ガラス-セラミック・プレートにしっかりと固定されていてもいなくてもよく、輻射光を吸収および/または散乱する能力を有する材料で構成されている、請求項1?9のいずれか一項に記載の装置。 【請求項13】 前記マスキング手段が、前記ガラス-セラミック・プレートの中または下面上に位置する不均質部で構成され、その不均質部が、輻射光の散乱現象または屈折現象によって画像を変形させることができる、請求項1?9のいずれか一項に記載の装置。 【請求項14】 バナジウム酸化物を用いて着色した調理装置用のガラス-セラミック・プレートであって、 少なくとも1つの面が、輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有するコーティングで覆われており、 前記ガラス-セラミック・プレートがアルミノケイ酸リチウム系であり、その化学組成が、重量%で表わして以下の範囲内にある成分、すなわち、 SiO_(2) 52?75% Al_(2)O_(3) 18?27% Li_(2)O 2.5?5.5% K_(2)O 0?3% Na_(2)O 0?3% ZnO 0?3.5% MgO 0?3% CaO 0?2.5% BaO 0?3.5% SrO 0?2% TiO_(2) 1.2?5.5% ZrO_(2) 0?3% P_(2)O_(5) 0?8% を有し、 V_(2)O_(5)の形態で表わされるバナジウム酸化物の重量%が0.01?0.06%であり、 前記ガラス-セラミック・プレートは、3?6mmの厚みを有し、本質的に、3%?40%の光透過率と、420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有する、 ガラス-セラミック・プレート。 【請求項15】 前記コーティングが、有機材料をベースとした層又は無機材料をベースとした層である、請求項14に記載のプレート。」 3.申立理由の概要 異議申立人は、証拠として甲第1号証 ?甲第10号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲10」と略記する。)を提出し、以下の取消理由を主張する。 (1)取消理由1.特許法第29条第2項 特許発明1?15は、甲1に記載された発明又は甲3に記載された発明及び甲2,4?10に記載された事項に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許発明1?15に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。 <甲号証一覧> 1.甲1:国際公開第2010/040443号 2.甲2:実験報告書 3.甲3:特開2004-251615号公報 4.甲4:特表2010-520144号公報 5.甲5:特開2006-125645号公報 6.甲6:特開2007-99615号公報 7.甲7:独国特許出願公開第3503576号明細書 8.甲8:欧州特許出願公開第317022号明細書 9.甲9:ショット社パンフレット(Innovation) 10.甲10:特開2004-211910号公報 (2)取消理由2.特許法第36条第6項第2号 本件特許の請求項1,14の「少なくとも0.6%の分光透過率」と、請求項1,14の「本質的に3%?40%の光透過率」、請求項5の「少なくとも0.8%の分光透過率」と、請求項4の「本質的に3%?25%の光透過率」という記載が明確でないから、特許発明1,4,5,14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。 (3)取消理由3.特許法第36条第6項第1号、及び、同法第36条第4項第1号 本件特許の請求項1には、「本質的に、3%?40%の範囲の光透過率と、420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有」するとの記載があるが、本件特許明細書の実施例1?6で開示されているのは、光透過率が、3.2?15.7%の範囲であり、分光透過率(465nmのみ)が、0.7?3%の狭い範囲のみである。また、420?480nmの範囲内の各波長で分光透過率が少なくとも0.6%であるプレートを実施するにはV_(2)O_(5)のみならず、V_(2)O_(5)以外の着色用酸化物の配合についても相互に調整する必要があり、過度の試行錯誤が必要である。 本件特許の請求項14についても同様。 したがって、本件特許明細書の実施例に開示された数値範囲外について、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものになるから、特許発明1,14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。 また、本件特許明細書は、実施例に開示された数値範囲外について、当業者が実施できる程度に十分に記載されていないから、特許発明1,14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。 4.甲各号証の記載 (1)甲1について 甲1には、以下の記載がある。なお、甲1のファミリー文献である特表2012-505136号公報の記載を訳文として示した。 「高温石英混合結晶を主な結晶相として有し、避けることのできない極微量を除いては、化学的清澄剤用の酸化ヒ素及び/又は酸化アンチモンを含有しない、ガラスセラミックからなる、カラー表示能力が改善された透明な有色クックトップ又はハブであって、 450nmより大きい可視光の全波長範囲における0.1%を超える透過率、0.8%?2.5%の可視光透過率、及び45%?85%の1600nmの赤外線における透過率を特徴とする、クックトップ又はハブ。」(請求項1、特表2012-505136号公報の請求項1) 「ガラスセラミック調理表面の下の技術部品の憂慮すべき視認性(disturbing visibility)を防止するために、また輻射加熱要素、とりわけ明るいハロゲンヒータによって生じるまぶしさを防ぐために、ガラスセラミッククックトップ又はハブは、その光透過率が制限される。他方、輻射加熱器は、低出力で動作する場合でも、操作中はっきりと視認することができる必要がある。また表示能力に関しては、一般的な赤色LEDを調理プレートの下に搭載するため、或る程度の光透過率が要求される。これらの要求を満たすために、ガラスセラミッククックトップ又はハブは通常、0.5%?2.5%の光透過率に設定される。これは、着色要素の添加によって達成される。よって、ガラスセラミッククックトップ又はハブは、使用される色要素とは無関係に、使用される発色要素、例えば多くの場合、赤色、赤紫色又は橙褐色による低い光透過率及び透明度に起因して上から見ると黒色に見える。」(第3頁第13?26行、特表2012-505136号公報の段落0012) 「本発明によれば、ガラスセラミッククックトップ又はハブの下の技術部品の憂慮すべき視認性を防ぐこと、及び上から見た黒色の美観を保証することが、0.8%?2.5%の光透過率によって確保される。輻射加熱要素は操作中に視認することができ、通常の視認可能な赤色LEDディスプレイも視認することができる。450nmからの全波長範囲の可視光範囲内における0.1%を超える透過率は、種々のカラーディスプレイをはっきりと認識可能にする。市販の青色、緑色、黄色又は橙色のLEDの光度を鑑みれば、この透過率は十分なものであり、現行の技術水準の観点から有意な改善をもたらす。とりわけ、青色及び緑色を伴うディスプレイが著しく改善された。」(第7頁第3?13行、特表2012-505136号公報の段落0031) 「好ましくは、カラー表示能力が改善された本発明の調理表面の下に、通常の赤色LED又はディスプレイの代わりに又はこれに加えて、青色、緑色、黄色、橙色又は白色のような1つ又は複数の異なる色のLEDが配置される。カラーディスプレイは、通常、LEDからなる発光電子部品から構成される。クックトップ表面の底面は、旧来型のこぶが設けられていてもよく、滑らかなデザインであってもよい。 調理表面の加熱は、輻射加熱器、ハロゲン加熱器、誘導加熱又はガスによって成し遂げることができる。全てのタイプ、例えば、点状又は二次元のディスプレイも可能である。」(第18頁第6?14行、特表2012-505136号公報の段落0067、0068) 「比較用ガラスセラミックのサンプル番号2及び4に関して、出発ガラスにおいて設定されるpO_(2)値は、本発明による光透過率を明示しない。」(第22頁第3?4行、特表2012-505136号公報の段落0087) 「種々の波長における透過率、また光透過率(「明度」Yと同じ意味を有する)に特徴的な本発明の値を表に挙げる。パネルの値は磨き板上で求め、典型的な調理表面の厚みは4mmとする。光学測定は、標準光C(2度)によって行った。」(第22頁第16?20行、特表2012-505136号公報の段落0088) さらに、甲1には、下記のとおり、例番号2(ガラス番号2)に相当する実施例が記載されている(第25?27頁の表1、表2、表2(続き)、特表2012-505136号公報の第22、23頁に記載の表1、表2)。 以上のことから、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「高温石英混合結晶を主な結晶相として有し、避けることのできない極微量を除いては、化学的清澄剤用の酸化ヒ素及び/又は酸化アンチモンを含有しない、ガラスセラミックからなる、カラー表示能力が改善された透明な有色クックトップ又はハブであって、 調理表面の厚みを4mmとし、調理表面の下に、通常の赤色LED又はディスプレイの代わりに又はこれに加えて、青色、緑色、黄色、橙色又は白色のような1つ又は複数の異なる色のLEDが配置され、 調理表面の加熱は、輻射加熱器、ハロゲン加熱器、誘導加熱又はガスによって成し遂げられ、 ガラスセラミックは、ガラス組成が、質量%で、SiO_(2) 65.2%、Al_(2)O_(3) 20.8%、Li_(2)O 3.61%、K_(2)O 0.24%、Na_(2)O 0.58%、ZnO 1.52%、MgO 0.34%、CaO 0.44%、BaO 2.19%、SrO 0.1%、TiO_(2) 3.11%、ZrO_(2) 1.38%、P_(2)O_(5) 0%、V_(2)O_(5) 0.024%、CoO 0%、Fe_(2)O_(3) 0.12%であるガラス(ガラス番号2)を使用して、リチウムーアルミノケイ酸塩タイプの結晶性ガラス(比較用ガラスセラミックの例番号2)としたものであり、 光透過率が3.9%である有色クックトップ又はハブ。」 (2)甲2について 甲2には、甲1について、「表2に記載される実施例2および11の光透過率を、ガラス厚3mm、3.1mm、3.2mm、3.3mm、3.4mm、3.5mmおよび3.6mmについて計算する。」と記載され、その結果について、例えば例番号2については、サンプル厚3mmの場合、波長420?480nmの範囲内で、1.24?2.79%の透過率、光透過率が8.2%であり、サンプル厚3.5mmの場合、波長420?480nmの範囲内で、0.61?1.56%の透過率、光透過率が5.6%という結果が記載されている(表1、3、異議申立人が提出した甲2の実験報告書(翻訳))。 (3)甲3について 甲3には、以下の記載がある。 「本発明の調理器用トッププレートは、C光源におけるCIEのXYZ表示系のY値(明度)が、肉厚3mmで2.5?15である有色結晶化ガラスからなるため、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽でき、青色、緑色、黄色、赤色等の発光素子からの光を十分に透過し、しかも安価である。すなわち、結晶化ガラスが、V_(2)O_(5)等の着色剤を含有し、着色しているため、非透光性塗料を印刷する必要がなく、安価に作製できる。また、Y値(明度)が2.5よりも大きいため、青色、緑色、黄色、赤色等の発光素子からの光を十分に透過でき、15よりも小さいため、調理器内部が透けて見えることがなく、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽できる。尚、Y値(明度)の好ましい範囲は、2.8?13であり、さらに好ましい範囲は、3.0?10である。」(段落0009) 「特に、有色結晶化ガラスとしては、β-ユークリプタイト固溶体を主結晶として60?90質量%析出し、V_(2)O_(5)を含有するLi_(2)O-Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系有色結晶化ガラスが好適である。」(段落0021) 「また、本発明の調理器用トッププレートは、2.5?6mmの肉厚を有すると好ましい。肉厚が2.5mmよりも薄いと、機械的強度が低く、調理時に破壊しやすくなる。6mmよりも厚いと、材料コストが高くなるのは勿論のこと、均質な結晶化を行うことが難しく、均質な結晶化を行うためには、熱処理時間を長くしたり、均熱性の高い結晶化炉を使用する必要があり、コストがアップしやすい。また、機械的な加工精度も得にくいという問題がある。」(段落0023) (段落0026の表1)。 「まず、表1、2の組成となるように、ガラス原料を調合し、表に示す溶融温度で20時間熔融した後、板状に成形して結晶性ガラスを作製した。」(段落0028) 「次に、この結晶性ガラスを、表に示す焼成条件で結晶化を行い、実施例1?8及び比較例の有色低膨張結晶化ガラスを作製した。 表から明らかなように、実施例1?8は、Y値(明度)が2.5?15の間にあり、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽できるとともに、青色、緑色、赤色の発光ダイオードからの光を十分に透過した。」(段落0029、0030) 「Y値(明度)は、肉厚3mmに両面光学研磨した結晶化ガラスからなる板について、分光光度計を用いて測定した波長380?780nmでの透過率を、CIE(国際照明委員会)のC光源におけるXYZ表示系に換算して求めた。」(段落0034) 「透過判定は、作製した結晶化ガラスからなるトッププレート(肉厚4mm)を、電磁加熱調理器に実装した後、トッププレートから真上に1m離れたところに36W蛍光灯を設置し、調理器の内部が透けて見えるかどうかを目視で判定し、全く調理器の内部が透けて見えない場合を「○」、調理器の内部が透けて見える場合を「×」とした。 発光素子の透過判定は、作製した結晶化ガラスからなるトッププレート(肉厚4mm)の裏面より1cm離れたところに赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、青色発光ダイオードを設置し、トッププレートの表面側からこれらの発光ダイオードの光が見えるかどうかを目視で判定し、発光ダイオードからの光が充分に透過して見える場合を「○」、発光ダイオードのからの光が少ししかみえない場合を「△」、発光ダイオードからの光が全く見えない場合を「×」とした。 【産業上の利用可能性】 以上説明したように、本発明の調理器用トッププレートは、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽でき、青色、緑色、黄色、赤色等の発光素子からの光を十分に透過し、しかも安価に作製できるため、電磁加熱(IH)調理器やガス調理器などの調理器用トッププレートとして好適である。」(段落0036?0038) 以上のことから、甲3には、実施例5に関し、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。 「非透光性塗料を印刷することなく、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽できるとともに、青色、緑色、赤色の発光ダイオードからの光を十分に透過し、安価な有色結晶化ガラスからなる肉厚4mmの調理用トッププレートであって、 電磁加熱(IH)調理器やガス調理器などの調理器用トッププレートとして好適であり、 質量%で、SiO_(2) 64.7%、Al_(2)O_(3) 21.8%、Li_(2)O 4%、K_(2)O 0%、Na_(2)O 1.0%、ZnO 1.5%、MgO 0.5%、CaO 0%、BaO 2.0%、TiO_(2) 2.0%、ZrO_(2) 1.5%、P_(2)O_(5) 0%、V_(2)O_(5) 0.03%、CoO 0.05%、Fe_(2)O_(3) 0.1%のガラス原料を溶融し、板状に成形されたリチウムーアルミノケイ酸塩タイプの結晶性ガラスからなり、 そのY値(明度)は、肉厚3mmに両面光学研磨した結晶化ガラスからなる板について、分光光度計を用いて測定した波長380?780nmでの透過率を、CIE(国際照明委員会)のC光源におけるXYZ表示系に換算して求めると3.0であり、かつ、 このトッププレートから真上に1m離れたところに36W蛍光灯を設置し、調理器の内部が透けて見えるかどうかを目視で判定しても、全く調理器の内部が透けて見えることがない、調理用トッププレート。」 (4)甲4について 甲4には、以下の記載がある。 「例えば、少なくとも1つの加熱要素を覆うか又は収容するための、特に、レンジ上面として機能するための、ガラスセラミック製パネルであって、面の少なくとも1つの領域がコートされていて、ここで、反対面において計測される、上述のコート領域と非コート領域の間の総色差デルタE^(*)が約1未満になり、及び/又はコーティングが約70より高い輝度L^(*)を有するガラスセラミック製パネル。」(特許請求の範囲) 加熱領域とディスプレイを除いて、コーティングがパネルの下面全体を覆っているパネルが図1に示されている。 (5)甲5について 甲5には、以下の記載がある。 「透明ガラス板の裏面に遮光膜の形成部と非形成部を有し、非形成部の下方に発光素子が配置される調理器用トッププレートであって、 透明ガラス板の裏面に、発光素子の光線を透過する着色板状体を取り付けてなることを特徴とする調理器用トッププレート。」(特許請求の範囲) 「本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、LEDからなるインジケータの配設に対応する遮光膜の非形成領域から、LEDの配線等の調理器内部が見えることがなく、LEDで表示する数字を誤認することがない調理器用トッププレートを提供することを目的とする。」(段落0012) (6)甲6について 甲6には、以下の記載がある。 「可視光及び赤外線に対して透過性であり、かつガラスセラミック板の下面に貴金属フィルムがコーティングされた、調理ユニットの調理面を与えるように作製されるガラスセラミック材料から成るガラスセラミック板であって、 前記貴金属フィルムは、貴金属フィルムへ反射特性を付与する金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金から作製され、前記貴金属フィルムには銀、銅、珪素、ビスマス及び他の非貴金属が貴金属フィルム中の全金属含量に対して0?5重量%含まれ、及び前記貴金属フィルムでコーティングされたガラスセラミック板が赤外スペクトル域において0?12%の分光透過率をもつことを特徴とする前記ガラスセラミック板。」(特許請求の範囲) 「本発明に従ったコーティングを、加熱部分に加えて、ディスプレイ領域、あるいは光表示装置領域中、あるいは調理面にあるタッチ式制御装置等の他の作動部品領域中に設けないことも可能である。」(段落0034) (7)甲7について 甲7には、以下の記載がある。 「ガラスセラミックプレートおよび1つまたはそれより多くのコンロを備え、前記ガラスセラミックプレートの下側に、赤外線加熱管を有する加熱体が配置されており、その接続部が前記加熱体のケース壁の空洞部内に存在している調理面であって、前記ガラスセラミックプレート(1)の下側で、隣接する加熱体のハウジング(3、4)の領域において、高耐熱性のフレキシブルで且つ遮光性の材料性の第1の層(9)、およびその他の、しかしながら本来の調理部位の外側において、前記ガラスセラミックプレート(1)の下側で、上記領域において第1の層(9)を覆う耐熱性且つ高度に光不透過性の材料製のさらなる層(10)が施与されている、前記調理面。」(請求項1、異議申立人が提出した甲7の部分訳の請求項1の訳文)。 (8)甲8について 甲8には、以下の記載がある。 「特にガラスセラミックプレートとして構成された調理プレートおよび少なくとも1つの光源を有する加熱装置を備えた調理装置であって、 各々の加熱装置(3)に、可視光領域に存在する光の一部に対して少なくとも本質的に不透過性の光学フィルタ(7)が配置されていることを特徴とする、前記調理装置。」 「前記フィルタ(7)が、直接的に調理プレート(1)に施与されることを特徴とする、請求項1に記載の調理装置。」 「前記フィルタ(7)が、調理プレート(1)の、光で照射される少なくとも1つの面に施与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の調理装置。」 (請求項1?3、異議申立人が提出した甲8の部分訳の請求項1?3の訳文) (9)甲9について 甲9には、以下の記載がある。 「これは、CERAN(登録商標)クックトップパネルの裏側上の構造化コーティングによって可能になり、且つ、クックトップを通じて光る記号の出現をもたらします。この方法を、調理領域の位置を示すため、ノブまたはスイッチのための視覚的な機能の指示を提供するため、ディスプレイロゴのためなどに使用できます。 例えば、加熱要素の断熱剤と一体化したガラスリングは、調理領域をマーキングすることを可能にし、その際、望ましくない散乱光がクックトップ表面の下の他の部品を投影することはありません。 調理領域のマーキングは以下から構成されています: ・CERAN(登録商標)クックトップパネル裏側の、離散した開口部を備えたコーティング ・加熱部品の直径に適合されたハロゲン光源を有する光るガラスリング ・相応の電子制御システム」(異議申立人が提出した甲9の部分訳) (10)甲10について 甲10には、以下の記載がある。 「透明低膨張ガラス板の非使用面に皮膜が形成され、透明低膨張ガラス板の少なくとも片面が粗面である調理器用トッププレート。」(請求項1) 「実施例は、透明結晶化ガラスからなる基板の非使用面に光沢を有する蒸着膜が形成されていても、照明等からの光が蒸着膜に反射して直接目に入ることがなく、照明等から光が散乱して眩しくなかった。」(段落0043)。 5.当審の判断 (1)特許法第29条第2項について(甲1を主引例とした場合) ア 特許発明1について 特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 相違点1 特許発明1は、「内部要素の少なくとも一部を隠すための少なくとも1つのマスキング手段が、ガラス-セラミック・プレートの上または下または中に配置され」るのに対して、甲1発明は、マスキング手段を備えていない点。 相違点2 特許発明1は、ガラス-セラミック・プレートが「420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有する」のに対して、甲1発明の420?480nmの範囲内の各波長での具体的な分光透過率は不明である点。 (ア)相違点1について 甲1には、「本発明によれば、ガラスセラミッククックトップ又はハブの下の技術部品の憂慮すべき視認性を防ぐこと、及び上から見た黒色の美観を保証することが、0.8%?2.5%の光透過率によって確保される」(第7頁第3?6行、特表2012-505136号公報の段落0031)と記載されており、ガラスセラミックの光透過率を制限することによって内部要素を隠すことが開示されている一方、他の手段により内部要素を隠す旨の示唆はない。 そうすると、甲4?甲9に記載された事項によって示されるように、内部要素の少なくとも一部を隠すためのマスキング手段自体は、調理装置のプレートにおいて周知慣用の技術であるとしても、甲1に接した当業者は、内部要素を隠すための手段として、ガラスセラミックの光透過率を制限しようとするから、マスキング手段を採用しようとは考えない。 もっとも、甲1発明の光透過率は3.9%であって、上記「0.8%?2.5%」よりも大きく、特許発明1とは重複しているから、甲1発明は、内部要素を隠していないと考える余地がある。 しかし、甲1発明が内部要素を隠していないとすれば、甲1の開示に従い、光透過率を0.8%?2.5%に制限することで、内部要素を隠せば足りるのであるから、あえてマスキング手段を採用する必要はない。 よって、甲1発明において、相違点1に係る特許発明1の構成を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (イ)相違点2について 甲1には、カラー表示を改善する旨の記載があるものの、その手段について、「450nmより大きい可視光の全波長範囲における0.1%を超える透過率」と記載されていることから、420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とする動機付けがない。加えて、甲1発明において420?480nmの範囲内の各波長で分光透過率を0.6%以上にしようとすれば、光透過率も上昇すると見込まれるところ、上記(ア)で検討したとおり、甲1では、光透過率を制限することで内部要素を隠そうとするものであるから、当該目的に反することとなる。 よって、甲1発明において、相違点2に係る特許発明1の構成を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (ウ)異議申立人の主張について 異議申立人は、「また、甲第2号証より、甲第1号証のガラスセラミックの例番号2では、例えば、サンプル厚3mmの場合、波長420?480nmの範囲内で、0.0124?0.0279(すなわち、1.24?2.79%)の透過率で、光透過率が8.2%であり、甲第1号証のガラスセラミックの例番号11では、例えば、サンプル厚3mmの場合、波長420?480nmの範囲内で、0.0133?0.0196(すなわち、1.33?1.96%)の透過率で、光透過率が5.0%であることが分かる。 一般に、ガラスセラミックの厚さを薄くすれば、透過率が向上することは当業者であれば自明である。したがって、本件特許の構成h,iは甲第1号証に記載されているのに等しい構成である。」と主張する(異議申立書の第26頁。なお、構成h,iとは、「本質的に、3%?40%の範囲の光透過率と、420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有する」構成のこと。)。 しかし、甲1発明は厚さ4mmなので、甲2のサンプル厚3mmは甲1発明を再現したものではない。 また、異議申立人は、「一般にガラスセラミックの厚さを薄くすれば、透過率が向上することは当業者であれば自明である」(異議申立書の第26頁)とも主張するが、上述したように、甲1においては、着色によりガラスセラミックの光透過率を比較的低いものとして、プレート自体で内部要素を隠すことを意図している以上、甲1発明において、当業者が、ガラスセラミックの厚みを薄くして、透過率を更に向上させようとする動機付けはない。 よって、異議申立人のかかる主張は理由がない。 (エ)まとめ 以上のことから、特許発明1は、甲1発明と、甲2に記載された事項と、甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 特許発明2?13について 特許発明2?13は、特許発明1を更に減縮したものであるから、証拠として更に甲10に記載された事項を考慮しても、特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明と、甲2に記載された事項と、甲4?甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 特許発明14について 特許発明14と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 相違点3 特許発明14は、少なくとも1つの面が、輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有するコーティングで覆われているのに対して、甲1発明は、コーティングを備えていない点。 相違点4 特許発明14は、ガラス-セラミック・プレートが「420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有する」のに対して、甲1発明の420?480nmの範囲内の各波長での具体的な分光透過率は不明である点。 相違点3,4について判断する。 甲6に、可視光及び赤外線に対して透過性であり、かつ、調理ユニットの調理面を与えるように作製されるガラスセラミック板の下面に貴金属フィルムでコーティングする手段が記載されているとしても、上記ア(ア)相違点1についての判断で述べたことと同様に、当業者が、甲1発明に対して、上記相違点3に係るコーティング手段を採用する動機付けはない。 なお、異議申立人は、異議申立書の第33,34頁において、マスキング手段は、調理装置のプレートにおいては甲4?甲9に記載された事項に示されるとおり周知慣用の技術であり、この従来より周知の技術事項を甲1発明に適用することは当業者であれば適宜なしうるという旨の主張もしているが、甲1発明においてマスキング手段を採用する動機付けがないことは、上記ア(ア)相違点1についての判断で述べたとおりである。 また、相違点4についての判断は、上記ア(イ)相違点2についての判断と同様である。 したがって、特許発明14は、甲1発明と、甲2に記載された事項と、甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 特許発明15について 特許発明15は、特許発明14を更に減縮したものであるから、甲6に、コーティングを無機材料(金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金)をベースとした層であることが記載されているとしても、特許発明14についての判断と同様の理由により、特許発明15は、甲1発明と、甲2に記載された事項と、甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)特許法第29条第2項について(甲3を主引例とした場合) ア 特許発明1について 特許発明1と甲3発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 相違点5 特許発明1は、内部要素の少なくとも一部を隠すための少なくとも1つのマスキング手段が、ガラス-セラミック・プレートの上または下または中に配置されるのに対して、甲3発明は、マスキングを備えていない点。 相違点5について判断する。 上記4.(3)で述べたように、甲3発明は、非透光性塗料を印刷することなく、調理器の内部が透けて見えない発明であるから、そのプレート自体で、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽することが前提の発明である。 このことから、たとえ甲4?甲9に記載された事項によって示されるように、内部要素の少なくとも一部を隠すためのマスキング手段が、調理装置のプレートにおいて周知慣用の技術であるとしても、マスキングを使用せず、そのプレート自体で、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽することが前提となっている甲3発明において、当業者が、一般に光透過性が比較的高いプレートにおいて内部要素を隠すために用いられる当該マスキング手段を採用する動機付けはない。 よって、甲3発明において、相違点5に係る特許発明1の構成を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 したがって、特許発明1は、甲3発明と、甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 特許発明2?13について 特許発明2?13は、特許発明1を更に減縮したものであるから、証拠として更に甲10に記載された事項を考慮しても、特許発明1についての判断と同様の理由により、甲3発明と、甲4?甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 特許発明14について 特許発明14と甲3発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 相違点6 特許発明14は、少なくとも1つの面が、輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有するコーティングで覆われているのに対して、甲3発明は、コーティングを備えていない点。 相違点6について判断する。 甲6に、「可視光及び赤外線に対して透過性であり、かつガラスセラミック板の下面に貴金属フィルムがコーティングされた、調理ユニットの調理面を与えるように作製されるガラスセラミック材料から成るガラスセラミック板」(特許請求の範囲)が記載されているとしても、上記アの判断で述べたことと同様に、プレート自体で内部要素を隠すことが前提となっている甲3発明において、当業者が、上記相違点6に係るコーティング手段を採用する動機付けはない。 なお、異議申立人は、異議申立書の第35,36頁において、マスキング手段は調理装置のプレートにおいては、甲4?甲9に記載された事項に示されるとおり周知慣用の技術であり、この従来より周知の技術事項を甲3発明に適用することは当業者であれば適宜なしうるという旨の主張もしているが、甲3発明においてマスキング手段を採用する動機付けがないことは、上記アの判断で述べたとおりである。 したがって、特許発明14は、甲3発明と、甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 特許発明15について 特許発明15は、特許発明14を更に減縮したものであるから、甲6に、コーティングを無機材料(金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金)をベースとした層であることが記載されているとしても、特許発明14についての判断と同様の理由により、特許発明15は、甲3発明と、甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)特許法第36条第6項第2号について ア 特許発明1,5,14について 異議申立人は、異議申立書の第36頁において、「本件特許請求項1において、「少なくとも0.6%の分光透過率」という下限だけを示すような数値範囲限定がある結果、発明の範囲が不明確である。」と主張する。 特許発明5,14に対しても、特許発明1と同様の理由で不明確であると主張する。 しかし、特許発明1において「420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有する」と特定したことの技術的意義は、本件特許明細書の段落0003,0004,0105等の記載を参照すれば、プレートを通して青色光を十分に知覚することにあると解されるから、かかる技術的事項の特定としては、上記波長での分光透過率の下限を特定することで足りるというべきであり、上限が特定されていなくても、特許発明1が不明確とはいえない。 同様の理由で、特許発明5,14も、不明確とはいえない。 イ 特許発明1,4,14について 異議申立人は、異議申立書の第37頁において、「本件特許請求項1において、「本質的に3%?40%の範囲の光透過率」という範囲を不確定とさせる表現が含まれるため、発明の範囲が不明確である。」と主張する。特許発明4,14に対しても、特許発明1と同様の理由で不明確であると主張する。 しかし、本件特許明細書の段落0010には、「「前記プレートが本質的に2.3%?40%の範囲の光透過率を持つ」という表現は、そのプレートそのものが、いかなるコーティングも存在しないときに単独でそのような光透過率を持つことを意味するものと理解する。光透過率は、ISO 9050:2003規格によって定義されている。」と説明されているから、本件特許請求項1における「本質的に3%?40%の範囲の光透過率」という記載の意味は明確である。 よって、特許発明1は、明確である。 同様の理由で、特許発明4,14も、明確である。 したがって、特許発明1,4,5,14に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 (4)特許法第36条第6項第1号、第36条第4項第1号について 異議申立人は、異議申立書の第37頁において、「本件特許請求項1には、「本質的に、3%?40%の範囲の光透過率と、420?480nmの範囲内の各波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有」するとの記載があるが、本件特許明細書の実施例1?6で開示されているのは、光透過率が、3.2?15.7%の範囲であり、分光透過率(465nmのみ)が、0.7?3%の狭い範囲のみである。 また、特に、本件特許明細書の段落番号0032?0041の記載より、V_(2)O_(5)以外の着色用酸化物の配合によっても特定の波長での分光透過率は変化するものと認められることから、465nmでの分光透過率を測定した場合の実施例1?6が発明の詳細な説明中にあるとしても、420?480nmの範囲内の各波長で分光透過率が少なくとも0.6%であるプレートを実施するにはV_(2)O_(5)のみならず、V_(2)O_(5)以外の着色用酸化物の配合についても相互に調整する必要があり、過度の試行錯誤が必要であると認められることから、本件特許発明を当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて実施できるとはいえない。また、当業者には当該数値以外について実施例と同様の効果を奏することを確認できない。」と主張する。 また、異議申立人は、異議申立書の第38頁において、特許発明14についても、特許発明1に対する主張と同様の主張を行っている。 しかし、光透過率が3.2?15.7%の実施例が示されている以上、光透過率を3%?40%の範囲とすることは、何ら実施困難なことではない。また、420?480nmという青色の波長領域は、可視光のうち比較的狭い範囲であり、465nmから外れると急激に分光透過率が下がるとする技術常識もないことから、少なくとも465nmでの分光透過率が3.0%である実施例5は、420?480nmの範囲内の各波長でも分光透過率は0.6%以上であると推認できる。 しかも、本件特許明細書の段落0032?0041には、ガラス-セラミックに対してバナジウム酸化物を用いて着色する具体的な方法、バナジウム酸化物と組み合わせて添加することが望ましい他の着色用酸化物とその具体的な成分量(重量%)、コバルト酸化物により、光透過率と、青色と緑色の領域に対応する波長領域の分光透過率を独立に制御する方法、着色剤としての使用は除外すべき成分、着色に寄与しない成分等のガラス-セラミックの着色に関する様々な教示がなされていることから、着色に寄与する成分を減らすことにより、420?480nmでの分光透過率を高めることは、格別困難なこととはいえない。また、プレートを通して青色光を見ることができるという課題が、420nm?480nmでの分光透過率を0.6%以上とすることで解決できることは明らかである。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許発明1,14について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、また、特許発明1,14が、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるともいえない。 したがって、特許発明1,14に係る特許が、特許法第36条第4項第1号、及び、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 6.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-08-03 |
出願番号 | 特願2016-105219(P2016-105219) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(F24C)
P 1 651・ 121- Y (F24C) P 1 651・ 536- Y (F24C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 青木 良憲 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
槙原 進 宮崎 賢司 |
登録日 | 2017-09-22 |
登録番号 | 特許第6212165号(P6212165) |
権利者 | ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフ |
発明の名称 | 調理装置 |
代理人 | 伊藤 健太郎 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 前島 一夫 |
代理人 | 大橋 康史 |
代理人 | 篠 良一 |