• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G10H
管理番号 1343035
異議申立番号 異議2018-700418  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-22 
確定日 2018-07-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6236555号発明「電子ハイハット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6236555号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6236555号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成29年1月31日に特許出願され、平成29年11月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人西谷敬之により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6236555号の請求項1?7に係る特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである
ただし、(A)?(F)は当審で付与した。以下各構成要件を「構成要件A」?「構成要件F」という。

(本件発明1)
(A)演奏者によって叩かれる打面を構成するトップシンバルと、
(B)棒状に形成されて前記演奏者による操作に応じて上下動することにより前記トップシンバルを上下動可能に支持する上下動ロッドと、
(C)前記トップシンバルに対して下方の位置に上下方向に不動状態で設けられた固定支持体と
(D)を備えた電子ハイハットであって、
(E)前記固定支持体および同固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッドのうちの一方に設けられて他方に向けて光を照射する発光部および受光した光を光電変換する光電変換部をそれぞれ有した光センサと、
(F)前記固定支持体および同固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッドのうちの前記他方に設けられて前記光センサから照射された前記光を同光センサ側に反射する反射体と
(D)を備えることを特徴とする電子ハイハット。

(本件発明2)
請求項1に記載した電子ハイハットにおいて、
前記光センサは、
前記固定支持体に設けられており、
前記反射体は、
前記上下動ロッドに設けられていることを特徴とする電子ハイハット。

(本件発明3)
請求項2に記載した電子ハイハットにおいて、
前記上下動ロッドは、
前記反射体または同反射体を支持する反射体ホルダを介して前記トップシンバルを支持することを特徴とする電子ハイハット。

(本件発明4)
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した電子ハイハットにおいて、
前記反射体は、
前記上下動ロッドの周囲にリング状に形成されていることを特徴とする電子ハイハット。

(本件発明5)
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した電子ハイハットにおいて、さらに、
前記光センサの周囲に壁状に起立して囲む筒壁部を備え、
前記筒壁部は、
前記光センサに対して上下方向に相対変位する前記反射体の変位範囲の全部を含む高さに形成されていることを特徴とする電子ハイハット。

(本件発明6)
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した電子ハイハットにおいて、さらに、
前記トップシンバルに対して下方に設けられて、下降する前記トップシンバルが突き当たるボトム台座を備え、
前記固定支持体は、
前記ボトム台座に設けられていることを特徴とする電子ハイハット。

(本件発明7)
請求項6に記載した電子ハイハットにおいて、さらに、
前記ボトム台座を支持する固定ロッドを備え、
前記上下動ロッドは、
前記トップシンバルを回転可能に支持しており、
前記固定ロッドは、
前記ボトム台座を回転可能に支持していることを特徴とする電子ハイハット。

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として下記甲第1?5号証(以下「甲1」?「甲5」という。)を提出し、本件発明1、2、4、6は、甲1に記載された発明であり、仮に本件発明4、6が甲1に記載された発明でないとしても、本件発明4は、甲1?3に記載された発明に基づいて容易に発明でき、本件発明6は、甲1?2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるから、本件発明1、2、4、6は、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張し、本件発明3、7は、甲1?2に記載された発明に基づいて容易に発明でき、本件発明5は、甲1、4、5に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。


甲第1号証:米国特許第8410348号明細書
甲第2号証:特開2009-128806号公報
甲第3号証:特開2003-316355号公報
甲第4号証:特開2000-88536号公報
甲第5号証:特開2008-90170号公報

第4 甲各号証の記載、及び甲各号証に記載された発明又は技術
1 甲1
(1)甲1の記載事項
甲1(米国特許第8410348号明細書)には、「CLOSING POSITION SENSOR」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。訳は異議申立人が作成したものを示す。)。

ア「Referring to FIG. 1b, which is a cross-sectional side view of the sensor of the present invention applied in an electronic hi-hat, the sensor of the present invention is to detect the distance between an upper cymbal 31 and a lower cymbal 32, more specifically the electronic hi-hat 3 comprising a plurality of elements and each electronic hi-hat is different with the number and types of electronic elements. The drawings in the present invention provided here only to illustrate the relevant elements in regards to the specialty of the technology of the present invention.」(3欄66行?4欄8行)
[訳:図1bは、電子ハイハットに適用される本発明のセンサの側面断面図である。図1bを参照すると、本発明のセンサは、上部シンバル31と下部シンバル32との間の距離を検出する。より具体的には、電子ハイハット3は、複数の構成要素を備えており、各電子ハイハットは、電子的な構成要素の数や種類が異なる。本発明の図面は、本発明の技術の専門分野に関する関連要素を例示するために提供されている。]

イ「The detecting unit 11 is disposed on the lower cymbal 32, and more specifically is disposed on the inner side of the lower cymbal 32, even more specifically, is disposed near the pillar 33 of the lower cymbal 32, more preferably, is disposed at the center or near the center of the lower cymbal 32 so that the measuring errors causing by the distance of the upper cymbal 31 or lower cymbal 32 are minimized. When the user applies force or releases force against the pedal 34 of the electronic hi-hat 3, the distance between the upper cymbal 31 and the lower cymbal 32 is changed, to produce a distance value which is detected by the detecting unit 11, which in turn generates a corresponding first signal, and the signal converting unit 12 then convers the first signal to a corresponding second signal.」(4欄9?22行)
[訳:検出部11は、下部シンバル32の上に配置され、より具体的には、下部シンバル32の内側に配置され、更により具体的には、下部シンバル32のピラー33の近傍に配置され、より好ましくは、上部シンバル31又は下部シンバル32の距離に起因する測定誤差が最小になるように、下部シンバル32の中心または中心付近に配置される。使用者が電子ハイハット3のペダル34に力を加えるか、若しくは、解除すると、上部シンバル31と下部シンバル32との間の距離が変化し、その距離値が検出部11によって検出されると共に、その距離値に対応する第1の信号が検出部11によって生成される。信号変換ユニット12は、その第1の信号に対応する第2の信号に第1の信号を変換する。]

ウ「After reading the present invention, it is not hard for a person of ordinary skill in the art to understand the present invention is also operable to have the detecting unit 11 disposed on the upper cymbal 31, and more specifically disposed on the inner side of the upper cymbal 31, or even more specifically as shown in FIG. 1c, disposed near the pillar 33 on the upper cymbal 31, and more preferably at the center or near the center position of the upper cymbal 31.」(4欄23?30行)
[訳:本発明を読めば、検出部11を上部シンバル31上に配置すること、より具体的には、上部シンバル31の内側に配置すること、更により具体的には、図1cに示すように、上部シンバル31のピラー33の近傍に配置すること、より好ましくは、上部シンバル31の中心または中心付近に配置することが可能であると理解することは、当業者であれば困難ではない。]

エ「In the present invention, the detecting unit 11 is an optical, sonic or magnetic sensor. More specifically, an optical sensor calculated the time of the light beam (laser beam) takes to hit the upper cymbal 31 or the lower cymbal 32 and reflect back, so as to calculate distance between the lower cymbal 31 and the upper cymbal 32 or the distance between the lower cymbal 32 and the upper cymbal 31. The operation principal of sonic sensor is the same as the optical sensor, replacing the light beam with a sound source. The magnetic sensor utilizes the change of magnetic field of the upper cymbal 32 or the lower cymbal 31 with respect to each other upon the distance of the upper cymbal 31 or the lower cymbal 32, to change the output voltage or other signal, thereby generating a first signal accordingly.」(4欄31?44行)
[訳:本発明において、検出部11は、光学式、音波式、または磁気式のセンサである。より具体的には、光線(レーザ光線)が上部シンバル31又は下部シンバル32に当たって反射するのに要した時間を光センサが算出し、下部シンバル31と上部シンバル32との間の距離、若しくは、下部シンバル32と上部シンバル31との間の距離を算出する。音波センサの動作原理は光センサと同様であり、光線を音源に置き換える。磁気センサは、上部シンバル31又は下部シンバル32の距離に応じて上部シンバル32又は下部シンバル31の磁場の変化を利用して、出力電圧またはその他の信号を変化させ、その変化に応じた第1の信号を生成する。]

オ「



(2) 甲1に記載された発明
上記(1)ア?オによると、甲1には、「電子ハイハット」が記載されており、当該電子ハイハットは、次の構成を備えている。

ア 上部シンバル
上記(1)ア及び上記(1)オの図1bによると、当該電子ハイハットは、「上部シンバル」を備えている。

イ ペダルに接続され、上下動する棒
上記(1)イによると、電子ハイハットのペダルに力を加えるか、解除すると、上部シンバルと下部シンバルの間の距離が変化し、上記(1)オの図1bによると、上部シンバルに接続され、ペダルを踏むことにより上下動する棒があることは明らかである。
したがって、当該電子ハイハットは、「ペダルに接続され、上下動する棒であって、ペダルに力を加えるか、解除することにより、上部シンバルが上下動する、棒」を備えている。

ウ 下部シンバル
上記(1)ア及び上記(1)オの図1bによると、下部シンバルは、上部シンバルより下方の位置にあり、ペダルに力を加えるか、解除することにより変位しない。
したがって、当該電子ハイハットは、「上部シンバルより下方の位置にあり、ペダルに力を加えるか、解除することにより変位しない下部シンバル」を備えている。

エ 光学式センサ
上記(1)エによると、「検出部」は、「光学式センサ」であって、上部シンバル又は下部シンバルに配置され、光線が下部シンバル又は上部シンバルに当たって反射するのに要した時間を算出し、上部シンバルと下部シンバルとの間の距離を算出する。
したがって、当該電子ハイハットは、「上部シンバル又は下部シンバルに配置され、光線が下部シンバル又は上部シンバルに当たって反射するのに要した時間を算出し、上部シンバルと下部シンバルとの間の距離を算出する光学式センサ」を備えている。

オ 甲1発明
上記ア?エによると、甲1には、次の「電子ハイハット」(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(甲1発明)
(a)上部シンバルと、
(b)ペダルに接続され、上下動する棒であって、ペダルに力を加えるか、解除することにより、上部シンバルが上下動する、棒と、
(c)上部シンバルより下方の位置にあり、ペダルに力を加えるか、解除することにより変位しない下部シンバルと、
(d)上部シンバル又は下部シンバルに配置され、光線が下部シンバル又は上部シンバルに当たって反射するのに要した時間を算出し、上部シンバルと下部シンバルとの間の距離を算出する光学式センサと、
(e)を備えた電子ハイハット。

((a)?(e)は、各構成を区別するために当審で付与した。以下各構成を「構成a」?「構成e」という。)

2 甲2
(1)甲2の記載事項
甲2(特開2009-128806号公報)には、「ハイハット形電子パッド」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

ア「【0030】
HHパッド体PDTは、支持部50に水平に且つ揺動自在に支持される。支持部50は、不図示のスタンドにおいて立設される可動支柱47(図9参照)に固定される。可動支柱47は、ペダル48(図9参照)の踏み込み操作により下降動作し、踏み込みを解除すると、不図示の付勢手段によって上昇する。従って、支持部50は、ペダル操作によって上下動作する可動支柱47と一体に上下動作する。可動支柱47からペダル48までのスタンドの構成は、アコースティックHH用のものと同じであり、市販のものが採用可能である。」

イ「【0038】
ところで、フェルト支持部材51の基部51a、フェルト52、53、固定用ナット56、57のそれぞれの外郭形状は問わない。すなわち、フレーム40の貫通穴40daを貫通してしまわない程度に大きければ、円形でなくてもよい。また、固定用ナット56、57の筒状部51dに対する固定は、螺合方式でなくてもよく、上下方向の所望の位置に固定できる構成であればよい。さらに、フェルト52、53は、弾性部材で構成されていればよく、フェルト製に限られない。」

ウ「【0052】
演奏時において、HHパッド体PDTは、支持部50に対して水平方向に回転し得る。しかし、回り止めピン54が、回り止め穴40cの左右の内壁に当接係合することで、HHパッド体PDTの回転角度範囲が規制される。一方、HHパッド体PDTは、打撃により揺動するが、回り止めピン54と回り止め穴40cとの係合によって、その揺動角度範囲も規制される。」

エ「【0075】
図9に示すように、ボトム台座80は、台座支持部84に支持される。台座支持部84の中心には挿通穴84bが形成される。台座支持部84は、挿通穴84bに可動支柱47が摺動自在に挿通された状態で、不図示のスタンドに対して所定の固着具にて固定され、演奏時においても上下に動かない。なお、台座支持部84は、設置面に対して上下方向の位置が固定されていて、可動支柱47の上下移動を許せば、どのような配設態様でもよい。ペダル48の踏み込み操作により、可動支柱47が挿通穴84b内を上下に摺動する。台座支持部84の半径方向中央部には、上方に向かって位置決め支柱85が突設されている。
【0076】
一方、ボトム台座80は、アルミニウム等の金属でなる重量部81と弾性材82とからなり、ドーナツ状に構成され、側面視ではほぼ逆台形を呈する。重量部81は、金属製に限られず、ある程度の重量を有する材料で構成すればよい。弾性材82は、ゴム材や硬質のスポンジ等の弾性のある材料で構成されるが、動作検出ユニットUNTの弾性部63よりも硬質である。好ましくは、押圧力を受ける当初は弾性変形しにくく、一旦変形が始まると軽い力で弾性変形していくような材料乃至構成であるのが好ましい。」

オ「【0077】
重量部81の下部に凹部81aが形成され、凹部81a内に、弾性材82が嵌合されている。重量部81の上部には、薄い滑り材83が貼着されている。そして、ボトム台座80の半径方向中央の穴に、台座支持部84から上方に突出した位置決め支柱85が挿通され、弾性材82の下面82aが、台座支持部84の上面である支持面84a上に当接している。従って、ボトム台座80は、台座支持部84に対して固定されておらず、単に載置されているだけである。」

カ「【図9】



(2)甲2に記載された技術
上記(1)ア及び上記(1)カの図9によると、甲2には、「可動支柱47が支持部50を介してHHパッド体PDTを支持する」技術が記載されている。

上記(1)イ及び上記(1)カの図9によると、甲2には、「支持部50のフェルト支持部材51の基部51aが円形である」技術が記載されている。

上記(1)エ及び上記(1)カの図9によると、甲2には、「重量部81がボトム台座80に設けられ、ボトム台座80が台座支持部84で支持される」技術が記載されている。

上記(1)ウ、オ及び上記(1)カの図9によると、甲2には、「HHパッド体PDTは、支持部50に対して水平方向に回転し得ることや、台座支持部84がボトム台座80を回転可能に支持する」技術が記載されている。

3 甲3
(1)甲3の記載事項
甲3(特開2003-316355号公報)には、「電子打楽器」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

ア「【0014】そのスタンド部2は、伸縮可能でロックねじ22によって固定される本体パイプ21と、それを起立状態で支持する3本の脚部材23と、その各脚部材23の上端部をまとめて本体パイプ21に位置調節可能に固定する上端取付部24と、各脚部材23の中間部と本体パイプ21の下端部とを結ぶ3本のステイ25を備えている。各脚部材23の下端にはゴム足26を被着している。 そして、本体パイプ21内には可動シャフト27を有し、その上部はハイハット部1の中心を貫通して上方に突出している。なお、この可動シャフト27の上部は、ハイハット部1内で後述する制御信号出力手段5を操作できる長さがあれば、ハイハット部1から突出していなくてもよい。また、この可動シャフト27の下端部は本体パイプ21から突出して、ペダル操作部3のフットペダル31の前端部に係着されている。その可動シャフト27は、本体パイプ21との間に係着した図示しないスプリングによって常に上昇する方向に付勢されている。その本体パイプ21の下端部はペダル操作部3のフレーム32に固着されている。
【0015】したがって、可動シャフト27は、ペダル操作部3のフットペダル31が矢示A方向に踏み込み操作されるとその付勢力に抗して下降し、踏み込まれないときはその付勢力によって上昇し、フットペダル31の操作に応じて上下動する。これらのスタンド部2及びペダル操作部3の構成は、自然打楽器用のハイハットスタンド及びフットペダル装置と同様である。ハイハット部1は、自然打楽器のシンバルに似た上方に凸曲面をなす円板状の上部11と、それを支持するフランジ部を有する皿状の下部12とから構成されている。上部11の表面に打撃面11aとその中央部には自然打楽器のシンバルのカップに対応するカップ部11bを、外周部には自然打楽器のシンバルのエッジに対応するエッジ部11cが設けられている。このハイハット部1の詳細については後述する。」

イ「【0020】そこで次に、この発明に特有の構成要素であるべダル操作に応じた制御信号を発生するための制御信号出力手段5について、図3乃至図5も参照して説明する。図3は上述したハイハット部の下部側とこれから説明するコアプレートの斜視図であり、図4はそのゴムブロックとメンブレンスイッチのみを拡大して示す斜視図である。図5はメンブレンスイッチを用いた制御信号発生回路の一例を示す。この実施形態における制御信号出力手段5は、図1及び図3に示すように、メンブレンスイッチ51と、それをオン・オフ操作するための可撓性部材であるゴムブロック52と、そのゴムブロック52を押圧操作するための押圧部材である円板状のコアプレート54と、そのコアプレート54を下端部に固着した円筒状のコア55とによって構成されている。コアプレート54とコア55は金属製であり、自然楽器の可動シンバルと同等の質量(重さ)を持たせるとよい。なお、53はダミーのゴムブロックであり、ゴムブロック52がコアプレート54によって押圧操作される際のバランスをとるために設けられている。そのため、ゴムブロック52と53は同じ材質および形状のものであり、ハイハット部1の下部12の中心に対して対称に配置されている。」

ウ「【0037】なお、上述した実施形態では、ペダル操作に連動するゴムブロック52の変形に応じて信号を発生するセンサとして4個の接点を並行に配置したメンブレンスイッチ51を使用した。しかし、接点の数は任意に増減することができ、無段階のセンサを使用することもできる。例えば、メンブレンスイッチ51の代りに、感圧センサを使用してもよい。あるいは、ゴムブロック52等の可撓性部材に歪センサを搭載し、変形する可撓性部材の歪を検知して信号を発生するようにしてもよい。さらにまた、反射型フォトセンサなどの光センサを使用して、コアプレート54又は可撓性部材の変位を検知して信号を発生するようにしてもよい。」

エ「【図1】



(2) 甲3に記載された技術
上記(1)ア?エによると、甲3には、「ハイハット部1の上部11及び下部12とは別体に構成されるコアプレート54を可動シャフト27の周囲に円板状に形成し、そのコアプレート54の変位を光センサによって検知する」技術が記載されている。

4 甲4
(1)甲4の記載事項
甲4(特開2000-88536号公報)には、「ストロークセンサ」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

ア「【0056】図6(A)において、ストロークセンサ59のハウジング61は、ゴム等で形成され、上方から力を加えることによって変形する。ハウジング61が取付けられたベース部材58には、下方から2本の光ファイバ65、66が導入され、光結合部材64に結合されている。光結合部材64は、図6(B)に示すように、光ファイバ65、66と結合されたレンズ68、69を含む。光ファイバ65から出射する光は、レンズ68によって集光され、もしくは発散を防止しつつ、ハウジング61の内側上面62に投射され、反射された光はレンズ69によって光ファイバ66内に導入される。レンズ68と69は、鍵盤の鍵を一杯に押下げた時、最も伝送される光量が多くなるように設定される。なお、反射面62は白色反射面でかつ鏡面加工されることが望ましい。
【0057】ストロークセンサとしては、図6に示すものの他、種々の構成をとることができる。ただし、図6に示す構成のように、ベース部材58とハウジング61によって光が出射、入射する空間を完全に取囲むことにより、外界との遮光および防塵効果を兼ねることが好ましい。」

イ「【図6】



(2)甲4に記載された技術
上記(1)ア?イによると、甲4には、「ストロークセンサとして、ベース部材58とハウジング61によって光が出射、入射する空間を完全に取囲む」技術が記載されている。

5 甲5
(1)甲5の記載事項
甲5(特開2008-90170号公報)には、「鍵盤楽器のペダル装置」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

ア「【0044】
さらに、ペダルカバー15のヒレ部23およびガイド部21の水平部21bによって、シャーシ3内に下方および上方から侵入する外光が遮断される。したがって、ペダル取付部26がカバー4で覆われることと相まって、光センサ5の受光素子5bに受光される外光の量を十分に抑制でき、それにより、光センサ5の安定した動作を確保し、ペダル2の踏込み量を精度良く検出することができる。また、ペダルカバー15に、上記の遮光用のヒレ部23および水平部21b、さらには発光素子5aからの光を反射する反射面部(天壁15aの前部15d)が、一体に形成されているので、これらを別個に設ける必要がなくなり、それにより、製造コストを削減することができる。」

イ「【図3】



ウ「【図5】



(2)甲5に記載された技術
上記(1)ア?ウによると、甲5には、「光センサ5が設けられるシャーシ3の内部に侵入する外光を、ペダルカバー15のヒレ部23と、ガイド部21の水平部21bとによって遮断する」技術が記載されている。

第5 判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1、甲1発明
本件発明1と甲1発明とを対比するにあたり、本件発明1と甲1発明とを再掲する。

(本件発明1)
(A)演奏者によって叩かれる打面を構成するトップシンバルと、
(B)棒状に形成されて前記演奏者による操作に応じて上下動することにより前記トップシンバルを上下動可能に支持する上下動ロッドと、
(C)前記トップシンバルに対して下方の位置に上下方向に不動状態で設けられた固定支持体と
(D)を備えた電子ハイハットであって、
(E)前記固定支持体および同固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッドのうちの一方に設けられて他方に向けて光を照射する発光部および受光した光を光電変換する光電変換部をそれぞれ有した光センサと、
(F)前記固定支持体および同固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッドのうちの前記他方に設けられて前記光センサから照射された前記光を同光センサ側に反射する反射体と
(D)を備えることを特徴とする電子ハイハット。

(甲1発明)
(a)上部シンバルと、
(b)ペダルに接続され、上下動する棒であって、ペダルに力を加えるか、解除することにより、上部シンバルが上下動する、棒と、
(c)上部シンバルより下方の位置にあり、ペダルに力を加えるか、解除することにより変位しない下部シンバルと、
(d)上部シンバル又は下部シンバルに配置され、光線が下部シンバル又は上部シンバルに当たって反射するのに要した時間を算出し、上部シンバルと下部シンバルとの間の距離を算出する光学式センサと、
(e)を備えた電子ハイハット。

(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

ア 構成要件Aと構成aとを対比する。
甲1発明は「電子ハイハット」であり、ハイハットは上部シンバルを叩く楽器であることは周知のことであるから、構成aの「上部シンバル」は、「演奏者によって叩かれる打面を構成する」といえ、「演奏者によって叩かれる打面を構成するトップシンバル」として、構成要件Aと一致する。

イ 構成要件Bと構成bとを対比する。
構成bの「棒」は、「上下動する」から、「上下動ロッド」といえる。そして、構成bの「棒」は、「ペダルに力を加えるか、解除することにより、上部シンバルが上下動する」から、「前記演奏者による操作に応じて上下動することにより前記トップシンバルを上下動可能に支持する」といえる。
したがって、構成要件Bと構成bとは、「棒状に形成されて前記演奏者による操作に応じて上下動することにより前記トップシンバルを上下動可能に支持する上下動ロッド」として一致する。

ウ 構成要件Cと構成cとを対比する。
構成cの「下部シンバル」は、「上部シンバルより下方の位置にあり、ペダルに力を加えるか、解除することにより変位しない」から、「前記トップシンバルに対して下方の位置に上下方向に不動状態で設けられた」といえる。
また、構成cの「下部シンバル」は、固定されているともいえ、ペダルに力を加えたときに上部シンバルを支持しているといえるから、「固定支持体」といえる。
したがって、構成要件Cと構成cとは、「前記トップシンバルに対して下方の位置に上下方向に不動状態で設けられた固定支持体」として一致する。

エ 構成要件Dと構成eとを対比すると、「電子ハイハット」として一致する。

オ 構成要件E、Fと構成dとを対比する。
構成dの「光学式センサ」は、「上部シンバル又は下部シンバルに配置され、光線が下部シンバル又は上部シンバルに当たって反射するのに要した時間を算出し、上部シンバルと下部シンバルとの間の距離を算出する」から、「一方に設けられて他方に向けて光を照射する発光部および受光した光を光電変換する光電変換部をそれぞれ有した光センサ」といえる。
また、上記ウのとおり、「下部シンバル」は、「固定支持体」である。
そうすると、「一方」、「他方」のどちらかが、「固定支持体」である点で、本件発明1と甲1発明とは、一致する。
しかしながら、「一方」、「他方」のうち、「固定支持体」でない方が、本件発明1においては、「固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッド」であるのに対し、甲1発明においては「上部シンバル」である点で相違する。

さらに、構成dにおいては、光線が反射するのは、下部シンバル又は上部シンバルであって、シンバル自体であるから、甲1発明は、「前記固定支持体および同固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッドのうちの前記他方に設けられて前記光センサから照射された前記光を同光センサ側に反射する反射体」を備えていない点で、本件発明1と相違する。

(3)一致点、相違点
以上によると、一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
演奏者によって叩かれる打面を構成するトップシンバルと、
棒状に形成されて前記演奏者による操作に応じて上下動することにより前記トップシンバルを上下動可能に支持する上下動ロッドと、
前記トップシンバルに対して下方の位置に上下方向に不動状態で設けられた固定支持体と
を備えた電子ハイハットであって、
一方又は他方のどちらかは前記固定支持体であって、一方に設けられて他方に向けて光を照射する発光部および受光した光を光電変換する光電変換部をそれぞれ有した光センサと、
を備えることを特徴とする電子ハイハット。

(相違点1)
一方又は他方のうち、固定支持体でない方が、本件発明1においては、「固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッド」であるのに対し、甲1発明においては、「上部シンバル」である点

(相違点2)
本件発明1が、「前記固定支持体および同固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッドのうちの前記他方に設けられて前記光センサから照射された前記光を同光センサ側に反射する反射体」を備えているに対し、甲1発明が当該反射体を備えていない点

(4)判断
本件発明1と甲1発明を対比すると、相違点があるから、本件発明1は、甲1発明でない。
したがって、異議申立人の主張は理由がない。

なお、相違点1、2について検討すると、以下のとおりである。
甲3に記載された技術の「コアプレート54」は、「可動シャフト27」に設けられているものであるが、「ハイハット部1の上部11及び下部12」と、「コアプレート54」及び「可動シャフト27」とは別体に構成され、「ハイハット部1の上部11及び下部12」と、「コアプレート54」及び「可動シャフト27」とは連動して動かないものである。
そうすると、甲1発明と甲3に記載された技術とは、ハイハット自体の構成が異なるものであるから、甲1発明に甲3に記載された技術を適用することに動機付けがなく、本件発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲3に記載された技術に基づいて容易になし得るものではない。
仮に、甲1発明に甲3に記載された技術を適用するとしても、一方又は他方のうち、固定支持体でない方を「固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッド」であるようにし、「前記固定支持体および同固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッドのうちの前記他方に設けられて前記光センサから照射された前記光を同光センサ側に反射する反射体」を備えているようにすることは、甲3に記載も示唆もされておらず、このようなことが自明のこととも認められないから、本件発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲3に記載された技術に基づいて容易になし得るものではない。

また、一方又は他方のうち、固定支持体でない方を「固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッド」であるようにし、「前記固定支持体および同固定支持体より前記トップシンバル側の前記上下動ロッドのうちの前記他方に設けられて前記光センサから照射された前記光を同光センサ側に反射する反射体」を備えているようにすることは、甲2、甲4、甲5に記載も示唆もされておらず、このようなことが自明のこととも認められないから、本件発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲2、甲4、甲5に記載された技術に基づいて容易になし得るものではない。

2 本件発明2、4、6
異議申立人は、本件発明2、4、6は、甲1発明であると主張しているが、本件発明2、4、6が引用する本件発明1が甲1発明でないことは、上記1のとおりであり、異議申立人の主張は理由がない。

3 本件発明3?7
異議申立人は、本件発明3、6、7は、甲1発明及び甲2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものである、本件発明4は、甲1発明及び甲2?3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものである、本件発明5は、甲1発明及び甲4?5に記載された技術に基づいて容易に発明できたものである、と主張している。
しかしながら、本件発明3?7が引用する本件発明1が甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2?5に記載された技術に基づいて容易に発明できたものでないことは、上記1のとおりであり、異議申立人の主張は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立理由によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-19 
出願番号 特願2017-15144(P2017-15144)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G10H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 幸和菊池 智紀  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 小池 正彦
渡辺 努
登録日 2017-11-02 
登録番号 特許第6236555号(P6236555)
権利者 ATV株式会社
発明の名称 電子ハイハット  
代理人 居藤 洋之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ