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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
管理番号 1343038
異議申立番号 異議2017-701110  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-24 
確定日 2018-08-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6134997号発明「トータルピッチ安定性が改善されているガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6134997号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6134997号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、2013年12月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年12月21日(US)米国、2013年11月27日(US)米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年11月24日付けで特許異議申立人籾井孝文により、甲第1号証?甲第5号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、平成30年1月26日付けで取消理由が通知され、平成30年4月27日に特許権者より、乙第1号証?乙第5号証を証拠方法とする意見書の提出がされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:国際公開第2012/103194号
甲第2号証:特表2014-503465号公報
甲第3号証:特開2009-196879号公報
甲第4号証:平成28年11月1日付け提出の審判請求書
甲第5号証:特表2009-525942号公報
乙第1号証:Kiczenski博士の宣誓書
乙第2号証:米国特許第2774190号明細書
乙第3号証:米国特許第7207193号明細書
乙第4号証:特表2009-502706号公報
乙第5号証:国際公開第2011/049100号

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
ガラス形成剤としてのSiO_(2),Al_(2)O_(3)及びB_(2)O_(3)、ならびにMgO,CaO,SrO及びBaOから成る群より選択される少なくとも3つのアルカリ土類酸化物を含むガラスにおいて、
酸化物基準のモル%で、SiO_(2) 50?85,Al_(2)O_(3) 10.18?20,B_(2)O_(3) 0?10,MgO 0?20,CaO 0?20,SrO 0?20,BaO 0?20を含み、かつ1.05≦(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al_(2)O_(3)≦1.6(ここで、Al_(2)O_(3),MgO,CaO,SrO及びBaOは酸化物成分のモル%を表す)を満たし、さらに
以下の性能規準
A:LTTCにおける圧密が5.5ppm以下、
B:HTTCにおける圧密が40ppm以下、
C:SRTCにおける誘起応力の緩和が50%より小さい、
を示すことを特徴とするガラス。
【請求項2】
酸化物基準のモル%で、SiO_(2) 68?74,Al_(2)O_(3) 10.18?13,B_(2)O_(3) 0?5,MgO 0?6,CaO 4?9,SrO 1?8,BaO 0?5を含むことを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項3】
As_(2)O_(3)及びSb_(2)O_(3)の含有量が0.005モル%より少ないことを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項4】
前記ガラスの内、Li_(2)O,Na_(2)O,K_(2)Oまたはこれらの組合せの含有量が0.1モル%より少ないことを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項5】
1.05≦(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al_(2)O_(3)≦1.2である(ここでAl_(2)O_(3),MgO,CaO,SrO及びBaOは酸化物成分のモル%を表す)ことを特徴とする請求項1記載のガラス。

第3 特許異議の申立てについて
1 取消理由の概要
本件特許発明1?5に係る特許に対して、平成30年1月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(1)取消理由1
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落0095に記載されているように、本件特許発明1の性能規準のうち、LTTC圧密は、「組成ベースの新しく得られた知見を最適化された冷却曲線制御と結びつけた結果として」得られたものであるところ、発明の詳細な説明の段落0099の表2には、その性能規準を満たすガラスは記載されているが、そのガラス組成やその製造プロセスが記載されていないため、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第113条第1項第4号の規定により取り消すべきものである。
(2)取消理由2
本件特許明細書の発明の詳細な説明の表1には、本件特許発明1のガラス組成を満たすガラスが記載され、表2には、本件特許発明1の性能規準(LTTCにおける圧密、HTTCにおける圧密、SRTCにおける誘起応力緩和)を満たすガラスが記載されているが、ガラス組成及び性能規準の全てを満たすガラスは具体的に記載されていないし、その性能規準を得るための制御方法も記載されていないから、本件特許発明1?5は、発明の詳細な説明に記載された発明といえず、また、発明の詳細な説明に記載された「最高解像度薄膜トランジスタの製造に利用できるガラス基板を提供する」との課題を解決できると認識できるものでないため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第113条第1項第4号の規定により取り消すべきものである。

2 取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由1について
上記取消理由1について検討するにあたり、まず、本件特許の優先日における技術常識を確認すると、乙第3号証の第3欄第22行?第5欄第57行及び図2には、板ガラスの製造方法における冷却シーケンスについて、コンピュータに基づく数理的モデル化によって、ガラスの応力を制御するために冷却シーケンスを最適化することが記載されている。また、甲第3号証の段落0059、乙第4号証の要約、及び、乙第5号証の段落0042には、ガラスの圧密の問題に対処するために、冷却速度を制御することが記載されている。
これらの記載からすると、ガラスの製造方法において、目的とする圧密が得られるように冷却曲線を最適化することは、当業者が通常行っていたことであり、当該技術分野の技術常識であるといえる。
以下、上記取消理由1について検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の表2をみたとき、本件特許発明1の性能規準(LTTCにおける圧密、HTTCにおける圧密、SRTCにおける誘起応力緩和)を全て満たすガラス(ガラス1、6及び7)が記載されているものの、これらガラスの具体的な組成も、当該性能基準を得るための具体的な制御方法も示されていない。
しかしながら、発明の詳細な説明の表1には、本件請求項1で特定するガラス組成を満たす24の具体的なガラス組成が記載されているともに、段落0023には、「表1はTPVの3つの様相-低温圧密、高温圧密及び応力緩和-の全てを同時に制御することができるガラス組成を開示している。」と記載されているから、請求項1で特定する性能規準を満たすガラス1、6及び7は、表1のガラス組成のいずれかのものであると当業者は認識できる。
ここで、段落0095には、「より低い(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al_(2)O_(3)比がより低いLTTC圧密に相関されている。この高速緩和機構の制御に対する組成ベースの新しく得られた知見を最適化された冷却曲線制御と結び付けた結果として、いくつかの組成において、・・・T(ann)に無関係な、より低いLTTC圧密が得られた。」と記載されており、さらに、上記技術常識を踏まえると、表1のガラス組成のガラスを用いて、請求項1で特定する性能基準を満たすように、冷却曲線を最適化して、本件特許発明1?5のガラスを製造することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものといえない。
(なお、乙第1号証によって、表1のバッチ材料20に相当するガラス組成を用いて、LTTCにおける圧密が5.3ppm、HTTCにおける圧密が36ppm、SRTCにおける誘起応力緩和が38%未満であるガラスが得られたことが、具体的に裏付けられている。)
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明1?5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、その記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

(2)取消理由2について
上記(1)で検討したとおり、発明の詳細な説明の段落0095の記載や上記技術常識を踏まえれば、表1のガラス組成のガラスを用いて、冷却曲線制御を最適化すれば、本件特許発明1?5のガラスを得られることは、当業者であれば当然に認識できることといえる。
また、発明の詳細な説明の段落0095?0098には、最高解像度薄膜トランジスタの製造に利用できるガラス基板を製造するにあたって、HTTCにおける圧密に加えて、LTTCにおける圧密、及び、SRTCにおける誘起応力緩和の管理が有益であることが記載されていることから、ガラスが、LTTCにおける圧密が5.5ppm以下、HTTCにおける圧密が40ppm以下、SRTCにおける誘起応力緩和が50%より小さいとの性能規準を満たすことによって、上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、本件特許発明1?5は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第2項に関する申立理由について
特許異議申立人は、本件特許発明1?5は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことを主張している。
この点について検討すると、甲第1号証(表2の実施例10)には、「SiO_(2)が71.79モル%、Al_(2)O_(3)が12.61モル%、B_(2)O_(3)が1.72モル%、MgOが3.94モル%、CaOが5.03モル%、SrOが1.21モル%、BaOが3.54モル%、SnO_(2)が0.12モル%、Fe_(2)O_(3)が0.01モル%、ZrO_(2)が0.02モル%を含有し、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al_(2)O_(3)が1.09であるガラス組成を有し、アニール点が806℃であるガラス。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
また、甲第3号証には、その段落0010?0014、及び、段落0089の記載によれば、ガラス基板の製造プロセス中の徐冷工程の温度管理を最適化することによって、保持温度450℃で10時間保持したときの熱収縮率が25ppm以下であるガラス基板を得ることを可能にするという技術的事項が記載されている。
そして、特許異議申立人は、甲1発明の圧密が、図1に示されているように、典型的な基礎組成のガラス1の圧密の20%以下であることを根拠に、甲1発明は、HTTCにおける圧密が40ppm以下であることが自明である旨を主張するが、甲第1号証には、当該圧密が高温領域の圧密であることも、圧密の絶対値も記載されていないから、かかる主張は採用できない。
また、特許異議申立人は、450℃で保持したときの低温圧縮を抑制する技術思想が甲第3号証に記載されているから、甲1発明において、LTTCにおける圧密を5.5ppm以下にすることは当業者が容易になし得ることを主張しているが、甲第3号証には、450℃で保持したときの低温圧密を25ppm以下とすることを記載するにとどまり、5.5ppm以下にすることは示されていないから、かかる主張も採用できない。
そうすると、甲1発明は、LTTCにおける圧密が5.5ppm以下、HTTCにおける圧密が40ppm以下、SRTCにおける誘起応力緩和が50%より小さいとの性能規準を全て満たすものではなく、この点は、甲第3号証に記載のガラス基板も同じである。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものでない。
次に、本件特許発明2?5について検討すると、これら発明は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、本件特許発明1に対する判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものでない。
以上のとおり、本件特許発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許法第36条第6項第1号に関する申立理由について
特許異議申立人は、本件特許発明1の「LTTCにおける圧密が5.5ppm以下」との性能規準は、ガラス組成のみで実現できるものでなく、ガラスの製造プロセスにおける冷却曲線制御の最適化を伴って実現できるものであるから、「冷却曲線制御の最適化」という特定事項を欠いている本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないと主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、「ガラス」に関する物の発明であって、製造方法の発明でないから、「冷却曲線制御の最適化」という製造工程に係る特定事項は、本件特許発明1の課題解決手段にあたらない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-30 
出願番号 特願2015-549720(P2015-549720)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C03C)
P 1 651・ 536- Y (C03C)
P 1 651・ 121- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増山 淳子飯濱 翔太郎  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 宮澤 尚之
山崎 直也
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6134997号(P6134997)
権利者 コーニング インコーポレイテッド
発明の名称 トータルピッチ安定性が改善されているガラス  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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