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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
管理番号 1343042
異議申立番号 異議2018-700460  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-05 
確定日 2018-08-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6243146号発明「エアフィルタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6243146号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6243146号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年 6月13日に特許出願され、平成29年11月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年 6月 5日付けで特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。) により特許異議の申立て(以下、「申立て」という。)がされたものである。

第2 本件発明
特許第6243146号の請求項1?4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

第3 特許異議申立の理由について
申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、本件特許は、特許法第36条第4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり(以下、「申立理由1」という。)、また、証拠として甲第1号証(以下、「甲1」という。)を提出し、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから(以下、「申立理由2」という。)、取り消すべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲1:特開平10-272329号公報

第4 当審の判断
1 申立理由1について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、申立書において、概ね以下のように主張している。
ア 「(1点目)」(申立書3、4ページ)
本件発明の技術課題は、エアフィルタ全体の重量を軽減すること、すなわち、本件発明のエアフィルタを、枠材の内周面にべた塗りされ設けられたシール材を備えるエアフィルタよりも軽量なものとすることである。
本件発明は、「前記第1のろ材と前記枠材とは、上下流方向と交差する方向に線状に設けられたシール材により接着され、当該シール材は、前記第1のろ材の上面及び下面の上流側端部に設けられ」と特定されるシール材(シール材1)と、「前記第2のろ材と前記枠材とは、上下流方向と交差する方向に線状に設けられたシール材により接着され、当該シール材は、前記第2のろ材の上面及び下面の下流側端部に設けられている」と特定されるシール材(シール材2)を備えていれば、シール材1とシール材2との間の枠材の内周面に設けられる第3のシール材(シール材3)の有無を問わないものとなっている。
すなわち、枠材の内周面にべた塗りされ設けられたシール材を備えた形態のエアフィルタも含んでいるため、本件発明の上記技術課題を解決することができないから、本件発明は実施可能でない。

イ 「(2点目)」(申立書4、5ページ)
本件発明は、シール材1及びシール材2を備えていれば、シール材1及びシール材2の線幅(線の太さ)は問わないものとなっているから、少なくとも何れか一方の線幅が太く、シール材1とシール材2との間の枠材の内周面の面積が極めて小さい形態のエアフィルタも含んでいる。
そうすると、このようなエアフィルタは、枠材の内周面にべた塗りされ設けられたシール材を備えた形態のエアフィルタの重量と同程度となり、上記技術課題を解決できないから、本件発明は実施可能でない。

ウ 「(3点目)」(申立書5?7ページ)
本件発明のエアフィルタは、「第1のろ材の上面及び下面の上流側端部」及び「第2のろ材の上面及び下面の下流側端部」の2箇所に加えて、「第1のろ材の上面及び下面の下流側端部」及び「第2のろ材の上面及び下面の上流側端部」にもシール材を設けられた形態のエアフィルタを含むといえるものであって、このようなエアフィルタが上記技術課題を解決することができないから、本件発明は実施可能でない。

(2)判断
実施可能要件について
(ア) 「(1点目)」について
枠材の内周面において、線状に設けられたシール材1と線状に設けられたシール材2との間に、べた塗りのシール材3を設けると、シール材1及びシール材2は、シール材3と一体化して「線状」とはいえないから、本件発明の実施に含まれないことは明らかである。

(イ) 「(2点目)」について
本件明細書に、シール材の塗布幅(前後方向の幅)は、プレフィルタ(第1のろ材)及びフィルタパック(第2のろ材)の前後方向の長さよりも充分に狭いものであり、シール材の塗布幅(前後方向の幅)を、例えば、4?8mmとすることが好ましい(段落【0038】)と記載されていることから、本件発明の「線状」とは、シール材の塗布幅が、ろ材の長さよりも充分に狭いことを意味しているといえる。
そうすると、べた塗りされ設けられたシール材と区別できないような線幅が太い(塗布幅が大きい)シール材は、「線状」といえないから、本件発明の実施に含まれないことは明らかである。

(ウ) 「(3点目)」について
本件明細書の【発明を実施するための形態】の欄には、例えば、エアフィルタは、線状のシール材43が、枠材の右側板33の左側面の前後方向の中間部に上下方向に設けられ、右側板33の左側面とフィルタパック20のろ材の右端部とが接着され、また、線状のシール材44が、枠材の左側板34の右側面の前後方向の中間部に上下方向に設けられ、左側板34の右側面とフィルタパック20のろ材の左端部とが接着されていることが記載されているとおり(段落【0038】、【0042】、【0043】)、本件発明で特定した「第1のろ材の上面及び下面の上流側端部」並びに「第2のろ材の上面及び下面の下流側端部」以外に線状のシール材が存在していることが記載されているから、本件発明で特定した「第1のろ材の上面及び下面の上流側端部」並びに「第2のろ材の上面及び下面の下流側端部」以外に、第1のろ材及び第2のろ材と枠材とが「線状に設けられたシール材」により接着されていたとしても、本件発明の実施に含まれることは明らかである。

上記(ア)?(ウ)に記載のとおりであって、申立人の主張は採用できるものではなく、発明の詳細な説明は、本件発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものであるとはいえない。

イ 「技術課題」について
なお、上記(1)に記載のとおり、申立人は、本件発明が、技術課題を解決することができないことを主張しているから、サポート要件の観点でも補足的に検討する。
本件明細書によると、本件発明は、捕集効率の異なる複数のろ材を同時に交換するとエアフィルタの全重量が大きくなること(段落【0009】、【0010】)を、発明が解決しようとする課題としていると認められる。
これに対して、本件発明は、
A:「第1のろ材と、
前記第1のろ材よりも捕集効率が高く前記第1のろ材よりも通気路の下流側に前記第1のろ材と接して配置される第2のろ材と、
前記第1のろ材および前記第2のろ材の外周部を囲み、前記第1のろ材および前記第2のろ材を一体に形成する枠材とを備え」る点、
及び
B:「前記第1のろ材と前記枠材とは、上下流方向と交差する方向に線状に設けられたシール材により接着され、当該シール材は、前記第1のろ材の上面及び下面の上流側端部に設けられ、
前記第2のろ材と前記枠材とは、上下流方向と交差する方向に線状に設けられたシール材により接着され、当該シール材は、前記第2のろ材の上面及び下面の下流側端部に設けられている」点
が特定されている。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明(特に、段落【0038】?【0042】)を参照すると、上記特定事項A、Bについて具体的に説明されているところ、上記特定事項Aにより「 ・・・ 枠材30にプレフィルタ10およびフィルタパック20を組み込むことで一体に形成されているため、エアフィルタ1全体を交換することでプレフィルタ10とフィルタパック20とを同時に交換することができる」ものであり、また、上記特定事項Bについて「シール材 ・・・ を線状に設けているため、枠材30の内周面にシール材をべた塗りする場合と比較して、使用するシール材の量を低減することができ、エアフィルタ1のコストを削減すると同時にエアフィルタ1の重量を軽減することができる」こと(段落【0043】)を、当業者が理解できると認められる。
そうすると、本件発明は、上記特定事項A、Bを備えることによって、上記発明が解決しようとする課題を解決できるものであるといえる。
したがって、サポート要件の観点からも、申立人の主張は採用できるものではない。

2 申立理由2について
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】 フィルタ枠内にシール剤を介してフィルタパックを気密に収容してなるエアフィルタであって、前記フィルタパックの前後面の上下端縁を耐熱クリープ温度130?160℃のホットメルトシール剤でシールしたことを特徴とするエアフィルタ。」

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エアフィルタに関し、更に詳しくは、一般ビル空調用の最終フィルタや、半導体産業用、原子力施設の外気処理用等の幅広い分野で使用が可能な中性能エアフィルタに関する。」

c 「【0010】
【実施例】次に、本発明の実施例を図面に基づき説明する。図1に示すものは、本発明の一実施例を示すもので、ジグザク状に折り込んだ濾材1の各折り曲げ空間内にセパレータ2を介装してなるフィルタパック3をパーティクルボードからなる縦610mm×横610mm奥行290mmのフィルタ枠4内に収容し、このフィルタパック3の前後面の上下端縁を耐熱クリープ温度135?140℃のポリアミド系ホットメルトシール剤(マクロメルト、ヘンケル社製)5を用いてシールしたものである。尚、フィルタパック3の両側端面とフィルタ枠4とは接着剤を用いて固定されている。」

d「 【図1】



イ 甲1に記載された発明
記載事項a、cによると、甲1に記載のエアフィルタは、フィルタ枠内にシール剤を介してフィルタパックが収容されたものであって、前記フィルタパックの前後面の上下端縁がホットメルトシール剤でシールされている。
記載事項bによると、上記エアフィルタは、気体を濾過するから、気体の流路に配置されるといえる。
記載事項cによると、フィルタパックは、ジグザグ状に折り込んだ濾材の各折り曲げ空間内にセパレータが介装されている。
これらのことから、甲1には、
「気体の流路内に配置されるエアフィルタであって、
フィルタパックと、
前記フィルタパックを収容したフィルタ枠とを備え、
前記フィルタパックは、ジグザグ状に折り込んだ濾材の各折り曲げ空間内にセパレータを介装してなり、
前記フィルタパックとフィルタ枠とは、前記フィルタパックの前後面の上下端縁をホットメルトシール剤でシールした、エアフィルタ。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)発明の対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「気体の流路」は、本件発明1の「通気路」に相当することは明らかである。
甲1発明の「フィルタパック」の「ジグザグ状に折り込んだ」という濾材の形状は、本件発明1の第2のろ材の「プリーツ形状」に相当すると認められる。
そうすると、甲1発明の「フィルタパック」は、ろ材がプリーツ形状を有する点で共通することから、本件発明1の「第2のろ材」に相当する。
甲1発明の「フィルタ枠」は、「フィルタパック」を収容するものであり、記載事項c、dによると、フィルタパックの周囲を囲んでいるといえるから、本件発明1の「枠材」に相当する。
甲1発明の「フィルタパックの前後面の上下端縁をホットメルトシール剤でシール」するということは、記載事項c、dを参照すると、フィルタパックの上下の上流側及び下流側の気体の流路と交差する方向の端部に沿って線状に設けられたシール剤により接着していることを意味すると認められる。
そうすると、甲1発明の「フィルタパックとフィルタ枠とは、前記フィルタパックの前後面の上下端縁をホットメルトシール剤でシールした」ことのうち、フィルタパックとフィルタ枠とは、前記フィルタパックの後面の上下端縁をホットメルトシール剤でシールしたことは、本件発明1の「前記第2のろ材と前記枠材とは、上下流方向と交差する方向に線状に設けられたシール材により接着され、当該シール材は、前記第2のろ材の上面及び下面の下流側端部に設けられている」ことに相当する。

以上のことから、本件発明1は、
「通気路内に配置されるエアフィルタであって、
第2のろ材と、
前記第2のろ材の外周部を囲む、枠材とを備え、
前記第2のろ材は、プリーツ形状を有し、
前記第2のろ材と前記枠材とは、上下流方向と交差する方向に線状に設けられたシール材により接着され、当該シール材は、前記第2のろ材の上面及び下面の下流側端部に設けられている、エアフィルタ。」
である点で、甲1発明と一致し、以下の点で両者は相違している。

相違点1
本件発明1のろ材は、第1のろ材と、前記第1のろ材よりも捕集効率が高く前記第1のろ材よりも通気路の下流側に前記第1のろ材と接して配置される第2のろ材からなるものであって、枠材は、前記第1のろ材及び前記第2のろ材の外周部を囲み、これらを一体に形成するものであり、シール材は、前記第1のろ材の上面及び下面の上流側端部に設けられているものであるのに対して、
甲1発明のろ材は、本件発明1の「第1のろ材」に相当するろ材を備えるものではなく、フィルタ枠は、2つのろ材を一体に形成するものではなく、シール材は、フィルタパックの上面及び下面の上流側端部に設けられているものである点。

相違点2
本件発明1は、第2のろ材のプリーツの折り目に垂直な方向にホットメルトリボンが設けられているものであるのに対して、甲1発明は、フィルタパックの各折り曲げ空間内、すなわちプリーツ内にセパレータを介装している点。

(イ)判断
上記相違点1について検討すると、甲1発明は、ろ材として、本件発明1における「第2のろ材」に相当する、フィルタパックのみを枠内に収容したものであって、甲1には、このフィルタパックを用いることを前提とした発明が記載されているにとどまるものであり、本件発明1のように、ろ材を「第1のろ材」と「第2のろ材」とから構成すること、さらには、「第2のろ材」を、「前記第1のろ材よりも捕集効率が高く前記第1のろ材よりも通気路の下流側に前記第1のろ材と接して配置」することは、何ら記載がなく、また示唆されているものでもない。
そうすると、甲1の記載からは、本件発明1で規定する「第1のろ材」及び「第2のろ材」を備えたことによって構成された、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項を当業者が導出することはできない。

なお、申立人は、申立書において、「エアフィルタ用のろ材として、本件特許発明1で規定されるような2種類のろ材を備えたものを用いることで、長時間にわたり高度なダスト捕集効率を保持し得ることは、周知の技術であり・・・」(申立書8ページ16?18行)と主張しているが、周知の技術であったとの証拠は何ら示されておらず、当該主張は根拠を欠くものであり、仮に捕集効率の異なる2種類のろ材を用いることが周知の技術であったとしても、その配置やシール手段までが周知の技術であったとはいえない。
また、申立人は、本件発明1の2箇所以外の部位におけるシール材の有無を問わないものとなっているから、「・・・本件特許発明1は、甲1発明のエアフィルタを含むものであるといえる。」(申立書9ページ下から11行?下から7行)などと主張しているが、上記(ア)で検討したように、本件発明1と甲1発明とは相違点があるから、このような主張は採用できるものではない。

よって、本件発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-08-08 
出願番号 特願2013-125062(P2013-125062)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B01D)
P 1 651・ 121- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 目代 博茂  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 後藤 政博
小川 進
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6243146号(P6243146)
権利者 日本無機株式会社
発明の名称 エアフィルタ  
代理人 グローバル・アイピー東京特許業務法人  

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