• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1343280
審判番号 不服2017-7076  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-17 
確定日 2018-09-06 
事件の表示 特願2014-549321「電流センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日国際公開、WO2013/097542、平成27年 2月 2日国内公表、特表2015-503735、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願: 平成24年10月30日
(パリ条約による優先権主張(外国庁受理2011年12月30日、中国)を伴う国際出願)
拒絶査定: 平成29年1月12日(送達日:同年同月17日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成29年5月17日
手続補正: 平成29年5月17日
拒絶理由通知: 平成30年1月17日(発送日:同年同月18日)
手続補正: 平成30年4月4日
意見書: 平成30年4月4日
拒絶理由通知: 平成30年6月21日
(以下、「当審拒絶理由」という。発送日:同年同月22日)
手続補正: 平成30年7月24日(以下、「本件補正」という。)
意見書: 平成30年7月24日


第2 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
MTJセンサブリッジ、前記MTJセンサブリッジの近くにあってテスト電流を搬送する導体、および少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器と前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の横に設置される磁石を備えるシングルチップ電流センサであって、
前記MTJセンサブリッジは、1つまたは複数のMTJ抵抗器を含み、
前記MTJ抵抗器および前記MTJ温度補償抵抗器は、それぞれ、1つまたは直列に接続された複数のMTJ素子を備え、
前記MTJ素子のすべては、同じ温度係数、RHおよびRLを有し、
前記RHは高い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であり、前記RLは低い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であり、
前記磁石が、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の横に置かれることによって、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の中の前記MTJ素子の自由層をバイアスする磁場を産出し、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の中の前記MTJ素子の自由層の磁化方向が、そのピンド層の磁化方向と反平行になるようにし、したがって前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器が、前記電流センサの測定範囲で温度の関数としてのみ変化する高い抵抗状態になるようにし、
前記MTJセンサブリッジは、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器と直列に接続されてセンサブリッジ電圧出力を安定化し、前記導体の中のテスト電流によって産出された磁場を測定することによって前記テスト電流を決定し、次いで前記テスト電流は出力電圧として提供されるシングルチップ電流センサ。
【請求項2】
前記MTJセンサブリッジはハーフブリッジである、請求項1に記載のシングルチップ電流センサ。
【請求項3】
前記MTJセンサブリッジはフルブリッジである、請求項1に記載のシングルチップ電流センサ。」


第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-145241号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審による。)

「【0015】
検出素子10は、基板40上に形成されたトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)であり、絶縁層14を挟んで上部に位置する上部電極18と下部に位置する下部電極17とを含む。検出素子10の上部電極18は、コンタクトホールに形成された導電部46を介在して配線層43と接続される。配線層43は、基板40上に形成された測定部20と電気的に接続される。図2には、測定部20を構成する半導体素子の代表としてMOS(Metal-Oxide Semiconductor)トランジスタ29が示されている。」

「【0075】
なお、バイアス磁界Hb0の発生方法としては、この変形例1で挙げたような永久磁石でもよいし、検出素子10(TMR素子)の下部電極を用いてバイアス電流を流す方法でもよい。もしくは、別途作製した配線に電流を流す方法でもよい。」

「【0081】
[実施の形態2]
実施の形態2では、TMR素子が磁界検出用の検出素子の他に、参照素子として利用さ
れる。
【0082】
外部磁界Hexに比べて大きいバイアス磁界Hbを印加しているとみなせる場合に、バイアス磁界Hbの方向と固着層の磁化の方向を平行または反平行とすることで、TMR素子の抵抗を最小抵抗Rminまたは最大抵抗Rmaxに固定することができる。このようなTMR素子は、参照素子として図1の抵抗素子22の代わりに使用することができる。すなわち、同じ特性を有した複数のTMR素子を用意し、そのうちの一部を外部磁界Hexに応じた抵抗を発生させる検出素子として使用し、その他のTMR素子を参照素子として使用する。そして検出素子と参照素子の抵抗値の差から外部磁界Hexを求めることによって、周囲の温度によって変化するTMR素子の抵抗値の変化を補償して外部磁界Hexを正確に求めることが可能になる。以下、図14、図15を参照して具体的に説明する。」

「【0085】
磁界検出装置2は、図1の抵抗素子22に代えて、TMR素子である参照素子50を含む。すなわち、磁界検出装置2は、磁界を検出する検出素子10と、電圧源21と、抵抗素子として用いられる参照素子50と、電圧増幅回路23Aと、制御部25Aと、バイアス電流供給部としての電流源31、33とを含む。ここで、電圧源21および電圧増幅回路23Aが検出素子10の抵抗値を測定するための測定部20Aを構成する。
【0086】
検出素子10は、基板40上に形成されたTMR素子であり、絶縁層14を挟んで上部に位置する上部電極18と下部に位置する下部電極17とを含む。実施の形態1の場合と同様に、上部電極18は強磁性層(自由層)を含み、下部電極17は強磁性層(固着層)を含む。検出素子10の上部電極18は、コンタクトホールに形成された導電部46を介在して配線層43と接続される。検出素子10の下部電極17は、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部44を介在して配線層41と接続され、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部45を介在して配線層42と接続される。コンタクトホールに形成された導電部44,45は、寄生抵抗を低減し、下部電極17上の電流分布を均一にするために、多数を並列して設けられている。導電部44および導電部45は、検出素子10の接合部を跨いでY軸方向の両側に設けられる。検出素子10の接合部の詳細な構成については実施の形態1と同様であるので説明を繰返さない。
【0087】
参照素子50は、基板40上に形成されたTMR素子であり、絶縁層54を挟んで上部に位置する上部電極58と下部に位置する下部電極57とを含む。検出素子10の場合と同様に、上部電極58は強磁性層(自由層)を含み、下部電極57は強磁性層(固着層)を含む。固着層の磁化ベクトルMpの方向はY軸方向に固定される。参照素子50の上部電極58は、コンタクトホールに形成された導電部66を介在して配線層63と接続される。参照素子50の下部電極57は、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部64を介在して配線層61と接続され、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部65を介在して配線層62と接続される。コンタクトホールに形成された導電部64,65は、寄生抵抗を低減し、下部電極57上の電流分布を均一にするために、多数を並列して設けられている。導電部64および導電部65は、参照素子50の接合部を跨いでY軸方向の両側に設けられる。参照素子50の接合部の詳細な構成については検出素子10と同様であるので、説明を繰返さない。」

「【0092】
次に、測定部20Aの構成について説明する。電圧源21は、配線層62と配線層42との間に接続される。これによって、直列接続された参照素子50および検出素子10に定電圧が印加される。定電圧印加の手段として、ツェナーダイオードなどを利用してもよい。
【0093】
電圧増幅回路23Aの入力ノードは、一体形成された配線層43,63に接続される。電圧増幅回路23Aは、参照素子50および検出素子10の接続ノードNd1の電圧Vd1を増幅して出力電圧Voutとして制御部25に出力する。電圧増幅回路23Aは、実施の形態1と同様に、差動増幅回路と参照電圧源とによって構成することができる。このように検出素子10と参照素子50とからなるハーフブリッジを構成することによって、検出素子10の上部電極18と下部電極17との間の抵抗値に応じた大きさの出力電圧Voutが制御部25Aに出力される。」

「【0097】
次に、磁界検出装置2の動作について説明する。外部磁界Hexが変化すると、自由層の磁化の向きが変化し、固着層の磁化の向きとなす角度が変化するため、検出素子10の抵抗が変化する。このとき、検出素子10には、たとえば10Oe程度のバイアス磁界が発生するように下部電極17にバイアス電流が供給される。実施の形態1で説明したように、バイアス磁界にはヒステリシス低減などの効果がある。
【0098】
一方、参照素子50の下部電極57にはX軸方向のバイアス電流Ibが供給され、たとえば、100Oeの磁界が生成される。これによって、外部磁界によらずに常に参照素子50の自由層の磁化方向を固着層の磁化方向に対して概略一定に保つようにして、参照素子50が基準抵抗として用いられる。TMR素子の抵抗について、固着層の磁化方向と自由層の磁化方向とのなす角度θについて前述の(1)式の関係があるので、好ましくは、自由層の磁化方向を固着層の磁化方向に対して平行または反平行とすることが好ましい。これによって、参照素子50の抵抗は、TMR素子の最大抵抗または最小抵抗を示すようになるので、外部磁界の影響を受けにくくなる。このため、実施の形態2では、参照素子50の下部電極57の磁化方向MpをY軸方向にしている。参照素子50を用いることによって、周囲の温度によって変化するTMR素子の抵抗値の変化を補償して外部磁界Hexを正確に求めることができる。」

「【0132】
以上の手順により、広い磁界範囲で、良好な精度で磁界を測定することができる。また、温度による感度の変化を補正することもできる。また、上記の検出手順によれば、磁界の印加方向が概略一定である磁界を高感度に測定することができるので、たとえば、磁界検出装置3を直流および交流の電流センサとして利用することができる。また、好ましくは、電流源31A,31B,33A,33Bから供給するバイアス電流Ibを、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する直前に流し、出力電圧Voutの取得後に切断することによって、磁界検出装置3の消費電力をさらに小さくできる。また、上記の参照素子50A,50Bにおいて、自由層と固着層の磁化方向を反平行としていたが、逆に平行に設定してもよい。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「磁界を検出する検出素子10と、抵抗素子として用いられる参照素子50と、バイアス電流供給部としての電流源31、33とを含む電流センサであって、(【0085】、【0132】)
検出素子10は、トンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)であり、(【0015】、【0086】)
検出素子10と参照素子50とからなるハーフブリッジを構成し、(【0093】)
バイアス磁界の発生方法としては、永久磁石でもよく、(【0075】)
参照素子50は、TMR素子であり、上部電極58と下部電極57とを含み、上部電極58は強磁性層(自由層)を含み、下部電極57は強磁性層(固着層)を含み(【0087】)、常に参照素子50の自由層の磁化方向を固着層の磁化方向に対して概略一定に保つようにし、バイアス磁界の方向と固着層の磁化の方向を反平行とし、同じ特性を有した複数のTMR素子を用意し、そのうちの一部を検出素子として使用し、その他のTMR素子を参照素子として使用して、周囲の温度によって変化するTMR素子の抵抗値の変化を補償する(【0082】、【0098】)、
電流センサ。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(国際公開第2005/081007号)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「 [0001] 本発明は、巨大磁気抵抗効果もしくはトンネル磁気抵抗効果により磁界検出を行う磁界検出器およびこれを用いた電流検出装置、位置検出装置および回転検出装置に関するものである。」

「 [0003] また、強磁性層間の交換結合作用がなくなる程度に厚い非磁性金属層を持つ強磁性層/非磁性層/強磁性層/反強磁性層からなる構造により、強磁性層/反強磁性層を交換結合させて、その強磁性層の磁気モーメントを固定しいわゆる固着層とし、他方の強磁性層のスピンのみを外部磁界で容易に反転できる自由層とした、いわゆるスピンバルブ膜が知られている。反強磁性体としては、FeMn、IrMn、PtMnなどが用いられている。この場合、2つの強磁性層間の交換結合が弱く小さな磁界でスピンが反転できるので、高感度の磁気抵抗効果素子を提供できることから、高密度磁気記録用再生ヘッドとして用いられている。上記のスピンバルブ膜は、膜面内方向に電流を流すことで用いられる。

[0004] 一方、膜面に対して垂直方向に電流を流す垂直磁気抵抗効果を利用すると、さら に大きな磁気抵抗効果が得られることが知られている。
さらには、強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる 3層膜において、外部磁界によつて 2つの強磁性層のスピンを互いに平行あるいは反平行にすることにより、膜面垂直方向のトンネル電流の大きさが異なることを利用した、強磁性トンネル接合によるトンネル磁気抵抗 (TMR: tunneling magnetoresistance)効果も知られている。」

「 [0007] さらに、単体の磁気抵抗効果素子で測定するのではなく、4個の磁気抵抗効果素子を用いてブリッジ回路を形成し、かつ固着層の磁化方向が逆向きの素子を組合わせ、高出力な磁界検出器を形成する技術が提案されている。(特許文献1参照)」

3.引用文献3について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2007-64813号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0162】
すなわち、磁気抵抗効果素子2.1,2.2に対するバイアス部4.1,4.2の相対的な位置を適切に設定することで、磁界検出装置500の検出範囲を任意に変更することができる。
【0163】
なお、磁界検出装置500においては、ほぼ同一の外部磁界Hexをそれぞれ磁気抵抗効果素子2.1および2.2へ印加することで、外部磁界Hexを検出する。そこで、以下のような電流検出回路に応用することができる。
【0164】
図26は、実施の形態5に従う磁界検出装置500を応用した電流検出回路の要部を示す図である。
【0165】
図26を参照して、磁気抵抗効果素子2.1および2.2の上部に検出対象の電流が流れる電路69が配置される。検出対象の電流が電路69を流れることで、電路69の周方向に電流磁界が生じ、その大きさは電路69に沿って一様である。この電流磁界は、検出対象の電流の大きさに比例するので、電流磁界を検出することで、電流の大きさを測定できる。」

4.引用文献4について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2008-134181号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0031】
図1に示す磁気検出装置1は、磁気抵抗効果素子10と、固定抵抗素子20及び集積回路19(図3参照)が一体化されたICパッケージである。
【0032】
磁石Mなどの磁界発生部材は、前記磁気検出装置1と接触しない。前記磁気抵抗効果素子10の電気抵抗は、流入する前記磁石Mからの外部磁界の方向変化に基づいて変化する。
【0033】
前記磁気抵抗効果素子10は、巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用して、外部磁界により電気抵抗が変化するGMR素子である。一方、前記固定抵抗素子20は、外部磁界によって電気抵抗が変化しない。」

5.引用文献5について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開平08-233867号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0002】
【従来の技術】従来、1つの半導体磁気抵抗素子と3つの基準抵抗によりブリッジに構成された電流検出回路により近接通過電流あるいは磁束変化を電圧信号に変換する検出回路は、図4に示すように、入力端子間に温度補償した電圧を印加し、出力端子間の電圧を一定ゲインの差動増幅器により出力電圧を得るため、該出力電圧は該磁気抵抗素子の抵抗変化に対して出力電気信号が直線的変化とならない。
【0003】すなわち近接通過電流あるいは磁束変化で被検出半導体磁気抵抗素子の抵抗がRからR+Δrになるとする。またこの抵抗変化△rは温度係数β(一般にβ<0)の温度特性を有し、3つの基準抵抗の温度係数は微小で無視できるとすると、端子電圧△Vは、
【0004】
【数式1】 (省略)
となり、この端子電圧ΔVは分母、分子にΔrの項があるため、抵抗変化Δrに対して直線的変化をしない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このため、従来の構成はΔrの小さいところでしか使えない、あるいはフルスケールにおいて直線的に使えない課題を抱えていた。
【0006】またΔrの温度依存性を相殺するため、VINにΔrの温度特性と反対方向の温度特性を持たせることは既知の技術である。・・・」

6.引用文献6について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(特開昭63-179585号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「実施例
この発明の第1の実施例を第1図および第2図に基づいて説明する。すなわち、この磁気抵抗素子の温度補償回路は、磁気抵抗素子1,2と、この磁気抵抗素子1,2に接続されて前記磁気抵抗素子1,2の温度変化による出力電圧の変化を少なくするように前記磁気抵抗素子1,2に印加する電圧を変化する温度特性をもった温度補償回路部3,4を有する電源とを備えている。」(第2頁右下欄第1行?第9行)

7.引用文献7について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7(特開昭49-005382号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「一方,半導体歪計素子のゲージ率が温度上昇に従って低下し,これによってブリッジの出力が低下するのを補償する感度補償方法としては,第3図に示すようにブリッジの入力電源を定電流源Iとし,温度上昇に伴うブリッジ抵抗値の増大を利用してゲージ率の低下に伴うブリッジ出力の低下を補償すべくブリッジの入力電圧を増加させる方法や,第4図に示す様に半導体歪計素子G1,G2に近接して感熱抵抗素子Tを配設し,該感熱抵抗素子Tに対して直列および並列に抵抗r3,r4を接続してブリッジの入力電圧に適当な温度特性を持たせる方法があるが,前述した感度補償を行なうためにブリッジの入力電圧が温度変化に対応して変化することによりブリッジ出力に初期不平衡電圧が含まれている場合には,そのブリッジ入力電圧変化に応じて初期不平衝電圧が変化し,これが見かけ上の熱出力になるという致命的な欠点がある。」(第2頁右上欄第19行?同左下欄第14行)

8.引用文献8について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8(特表2005-514611号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0023】
図4は、代替的な実施の形態に従った多重目的センサ350を示す電気的概略図である。図3に示す概略図と同様に、図4は検出端子310、312、314及び316により分けられる4つの磁気抵抗素子302、304、306及び308を含む全ホイートストン・ブリッジ構成を示している。多重目的センサに対する代替的な実施の形態に従うと、ブリッジ電源は抵抗素子322を介して検出端子の一つに結合される電圧源324を含んでいる。図3を参照して記述されたように、電源は外部のものでも内部のものでもよい。したがって、電源はセンサに組み込まれるか、又はセンサの外部にあり得る。抵抗素子322、および次の図面を参照して記述される任意の抵抗素子は非常に低い温度係数、つまり温度に対し感度の低い一つ以上の抵抗を含み得る。本発明は抵抗を使用することに限定されるわけではなく、当業者は異なる構成要素が更に使用できることを理解することが出来るであろう。さらに、ここで記述される抵抗素子は、内部抵抗素子(検出素子に組み込まれている)又は外部抵抗素子(検出素子の外的に結合されている)であり得る。」

「【0032】
図6は代替的な実施の形態に従った多重目的センサとして使用可能な半ホイートストン・ブリッジ構成の電気概略図450である。半ホイートストン・ブリッジ構成は、検出端子310、312及び314により分けられる二つの磁気抵抗素子302及び304を含んでいる。半ホイートストン・ブリッジ構成の代替的な実施の形態に従うと、電圧源324は、例えば非常に低い温度係数つまり温度に対し感度が低い抵抗を含む、抵抗素子322を介して検出端子310に結合されている。先述した図と同様に、二つの電圧測定は磁界センサ読み及び温度センサ読みを決定するように行われる。第一の電圧測定(Vout7)は、磁界センサ読みを決定するために使用され、第二の電圧測定(Vout8)は、温度センサ読みを決定するために使用される。図6を参照すると、Vout7測定は、検出端子312及び314を渡して行われる。「V」が電源324によって供給される一定の電圧であり、「r」が抵抗素子322の抵抗と仮定すると、Vout7は以下の方程式を使用して計算される。
Vout7=Vout8×(R+ΔR)/r=Vout8×R×(1+S×H)/r
=(V-Vout8)×(1+S×H)/2 (方程式14)
図6を参照すると、Vout8測定は、抵抗素子322を渡して行われ、以下の方程式を使用して計算される。
V-Vout8=Vout8×2R/r
=Vout8×2R0×(1+C×T)/r (方程式15)
温度(T)読みは、方程式15を使用して決定することが出来、磁界センサ読みは方程式14を使用して決定することが出来る。全ホイートストン・ブリッジ構成を利用する多重目的センサに対する実施の形態と同じように、図5及び図6を参照して議論される論理素子は、磁気センサ読み及び温度センサ読みを決定するために二つの出力測定を使用可能である。先述した図面を参照して言及されたように、論理素子はプロセッサ、及び/又は、ハードウエア、ソフトウエア、ファームウエアの素子、またはその組み合わせを使用して実現し得る。」


第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
まず、引用発明における「磁界を検出する検出素子10」及び「抵抗素子として用いられる参照素子50」は、いずれも「トンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)」であり、また、「参照素子50」は「周囲の温度によって変化するTMR素子の抵抗値の変化を補償する」ために使用されるものである。したがって、「磁界を検出する検出素子10」及び「抵抗素子として用いられる参照素子50」は、それぞれ本願発明1における「MTJ抵抗器」及び「MTJ温度補償抵抗器」に相当する。そして、引用発明においては、「検出素子10と参照素子50とからなるハーフブリッジ」が構成され、また「バイアス磁界の発生方法としては、永久磁石でも」よいとされており、その場合に永久磁石が素子の横(近傍)に設置されることは当然であるから、引用発明における「磁界を検出する検出素子10と、抵抗素子として用いられる参照素子50と、バイアス電流供給部としての電流源31、33とを含む電流センサ」と、本願発明1における「MTJセンサブリッジ、前記MTJセンサブリッジの近くにあってテスト電流を搬送する導体、および少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器と前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の横に設置される磁石を備えるシングルチップ電流センサ」とは、「MTJセンサブリッジ、および少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器と前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の横に設置される磁石を備える電流センサ」である点で共通する。
また、引用発明の「検出素子10と参照素子50とからなるハーフブリッジ」が少なくとも一つの検出素子10を含み、また「検出素子10と参照素子50」が、それぞれ少なくとも一つの「TMR素子」を備えることは明らかであって、これらの構成は本願発明1における「前記MTJセンサブリッジは、1つ」「のMTJ抵抗器を含み」、「前記MTJ抵抗器および前記MTJ温度補償抵抗器は、それぞれ、1つ」「のMTJ素子を備え、」ることに相当する。
次に、引用発明においては「バイアス磁界の方向と固着層の磁化の方向を反平行とし」て、「参照素子50の自由層の磁化方向を固着層の磁化方向に対して概略一定に保つようにし」ているのであるから、「永久磁石」が「参照素子50」の近傍に配置されることによって、「参照素子50の自由層の磁化方向」を調整する磁場が供給され、その「参照素子50の自由層の磁化方向」をバイアスする磁界の方向と「固着層の磁化の方向」を「反平行と」する構成が設けられることは明らかであり、該構成が本願発明1における「前記磁石が、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の横に置かれることによって、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の中の前記MTJ素子の自由層をバイアスする磁場を産出し、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の中の前記MTJ素子の自由層の磁化方向が、そのピンド層の磁化方向と反平行になるようにし、」ている構成に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「MTJセンサブリッジ、および少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器と前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の横に設置される磁石を備える電流センサであって、
前記MTJセンサブリッジは、1つのMTJ抵抗器を含み、
前記MTJ抵抗器および前記MTJ温度補償抵抗器は、それぞれ、1つのMTJ素子を備え、
前記磁石が、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の横に置かれることによって、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の中の前記MTJ素子の自由層をバイアスする磁場を産出し、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器の中の前記MTJ素子の自由層の磁化方向が、そのピンド層の磁化方向と反平行になるようにされた、
電流センサ。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は「前記MTJセンサブリッジの近くにあってテスト電流を搬送する導体」を備えるのに対し、引用発明がそのような導体を備えているかどうかは不明である点。

(相違点2)本願発明1は「シングルチップ」の電流センサであるのに対し、引用発明はシングルチップで構成されるか否かが不明である点。

(相違点3)本願発明1は「前記MTJ素子のすべては、同じ温度係数、RHおよびRLを有し、前記RHは高い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であり、前記RLは低い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であ」るとされているのに対し、引用発明は「同じ特性を有した複数のTMR素子を用意し、そのうちの一部を検出素子として使用し、その他のTMR素子を参照素子として使用」するものではあるが、本願発明1のような「前記MTJ素子のすべては、同じ温度係数、RHおよびRLを有し、前記RHは高い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であり、前記RLは低い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であ」るという構成までは特定されていない点。

(相違点4)本願発明1は「前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器が、前記電流センサの測定範囲で温度の関数としてのみ変化する高い抵抗状態になるように」されているのに対し、引用発明においてはそのような特定はされていない点。

(相違点5)本願発明1においては「前記MTJセンサブリッジは、前記少なくとも1つのMTJ温度補償抵抗器と直列に接続されてセンサブリッジ電圧出力を安定化し、前記導体の中のテスト電流によって産出された磁場を測定することによって前記テスト電流を決定し、次いで前記テスト電流は出力電圧として提供される」のに対し、引用発明においてはそのような特定はされていない点。

(2)相違点についての判断
本願発明1の内容に鑑み、上記相違点3について検討する。
相違点3に係る本願発明1の「前記MTJ素子のすべては、同じ温度係数、RHおよびRLを有し、前記RHは高い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であり、前記RLは低い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であ」るという構成は、上記引用文献2ないし8のいずれにも記載も示唆もされていない。
したがって、その他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1ないし8に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2、3について
本願発明2、3も、相違点3に係る本願発明1の上記構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1ないし8に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1-4について上記引用文献1-8に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、本件補正により補正された請求項1-3は、いずれも「前記MTJ素子のすべては、同じ温度係数、RHおよびRLを有し、前記RHは高い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であり、前記RLは低い抵抗状態での前記MTJ素子の抵抗であ」るという事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1-3は、当業者であっても、引用文献1-8に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について
当審では、平成30年4月4日付け手続補正書の請求項1の「前記MTJ抵抗器および前記MTJ温度補償抵抗器は、それぞれ、1つまたは直列に接続された複数のMTJ素子を備え、前記複数のMTJ素子のすべては、同じ温度係数、RHおよびRLを有し、」という点は、発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが、本件補正において補正された結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-3は、当業者が引用文献1-8に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。



よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-08-27 
出願番号 特願2014-549321(P2014-549321)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01R)
P 1 8・ 121- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 中塚 直樹
▲うし▼田 真悟
発明の名称 電流センサ  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ