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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B02B
管理番号 1343303
審判番号 無効2015-800174  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-04 
確定日 2018-08-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第5306571号「旨み成分と栄養成分を保持した精白米または無洗米の製造装置」の特許無効審判事件についてされた平成28年10月 3日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10236号、平成29年 9月21日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5306571号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5306571号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る発明についての出願(以下「本件出願」という。)は、出願日が平成17年5月11日の特許出願であって、平成25年7月5日に特許権の設定登録(請求項の数2)がされたものである。
そして、その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成27年 9月 4日付け 審判請求書の提出(請求人)
同年11月30日付け 審判事件答弁書(被請求人)
平成28年 1月12日付け 審判事件弁駁書の提出(請求人)
同年 5月18日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年 5月23日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 6月 2日 第1回口頭審理
同年10月 3日 一次審決
平成29年 9月21日 判決言渡
(平成28年(行ケ)第10236号)
平成30年 3月26日 審決の予告

なお、審決の予告に対して、被請求人からは指定した期間内に何らの応答もなかった。

第2 本件発明
本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2には、以下の事項が記載されているところ、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)及び請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という。)は、それぞれ順に請求項1及び2に記載された事項により特定されるものである。

「【請求項1】
外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を、該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、
全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い、
前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、
且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること、及び、無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。
【請求項2】
外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を、該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、
全精白行程を、一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い、前記精白ロールには、円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32、32’)が、始点(34)と終点(35)の中ほどの、アールを有する曲点(33)にて、167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり、かつ突条(32、32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が、該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること、及び、無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」

第3 無効理由についての当事者の主張の概要
1 請求人の主張
請求人は、概略以下の無効理由を主張する。
(1)無効理由1(方法的記載)
本件特許の請求項1及び2の記載は、「無洗米の製造装置」の発明でありながら精米方法あるいは装置の使用方法若しくは精米装置の製造方法を表す記載でなされているから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである(以下「無効理由1」という。)。
具体的には、
ア 請求項1及び2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し、」なる記載
イ 請求項1及び2の「該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載
ウ 請求項1及び2の「舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、」なる記載
エ 請求項1及び2の「前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させ」なる記載
オ 請求項1及び2の「該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ、」なる記載
カ 請求項1及び2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を、無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う」なる記載
キ 請求項1の「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い」なる記載
ク 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、」なる記載
ケ 請求項1の「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること、」なる記載
コ 請求項2の「全精白行程を、一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い、」なる記載
サ 請求項2の「前記精白ロールには、円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32、32’)が、始点(34)と終点(35)の中はどの、アールを有する曲点(33)にて、167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり、かつ突条(32、32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が、該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること、」なる記載
は方法的記載である。

(2)無効理由2(著しく不明確な記載)
本件特許の請求項1及び2の記載は、著しく不明瞭な記載を含んでいるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由2」という。)。
具体的には、
ア 請求項1及び2の「食味上もよくない黄茶色の物質の層」なる記載
イ 請求項1及び2の「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載
ウ 請求項1及び2の「前記精白米には、全米粒の内、『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』、または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が、全体の50%以上を占めるように搗精され、」なる記載
エ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし、」なる記載
オ 請求項1の「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とする」なる記載
カ 請求項1及び2の「無洗米機を備えた」なる記載
は著しく不明瞭な記載である。

(3)無効理由3(進歩性欠如)
本件発明1及び2は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由3」という。)。

<証拠方法>
甲第1号証:「加除式 農業技術大系 作物編 1 基本編・イネ基礎編」、第11刷、社団法人 農山漁村文化協会、1995年12月10日、p.技 676の2-技 676の3
甲第2号証:特公平5-21628号公報
甲第3号証:特開平6-63429号公報
甲第4号証:特開2004-283030号公報
甲第5号証:特開2002-355567号公報
甲第6号証:特開平3-154643号公報
甲第7号証:特開2001-246272号公報
甲第8号証:特開昭62-102837号公報
甲第9号証:特開2004-337805号公報
甲第10号証:特公昭43-14378号公報

2 被請求人の主張
被請求人は、概略以下の主張をする。
(1)無効理由1(方法的記載)について
本件特許の請求項1及び2の記載は、「無洗米の製造装置」の発明であり、いわゆるプロダクトバイプロセスクレームには該当せず、発明特定事項の記載が不明確になるものではないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

(2)無効理由2(著しく不明確な記載)について
本件特許の請求項1及び2の記載は、著しく不明瞭な記載を含んでおらず、請求人主張は理由がない。

(3)無効理由3(進歩性欠如)について
本件発明1及び2は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第10号証に基き当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、作用効果を見ても予測しうる範囲内のものではなく、請求人の主張は失当である。

<証拠方法>
乙第1号証:松尾孝嶺 外編、「稲学大成第1巻 形態編」、第1刷、社団法人 農山漁村文化協会、1990年11月10日、p.67
乙第2号証:特願2005-93152号(特許第4708059号)の平成22年12月6日付け手続補足書
乙第3号証:乙第2号証添付の平成22年11月30日付け試験結果報告書
乙第4号証:「金芽米リーフレット」、平成26年6月被請求人作成
乙第5号証の1:被請求人企画部・間幹雄作成平成23年5月25日付けメール内容印刷物
乙第5号証の2:乙第5号証の1のメールに添付して送付された被請求人企画部・間幹雄作成に係る「金芽米早わかり(第二版)」
乙第6号証:「サタケ TASTY 『テイスティ』」、株式会社 サタケ 広報室、2007年、VOL. 38、p.10
乙第7号証:杣源一郎著、「ガンも認知症も寄せつけない『免疫ビタミン』のすごい力」、初版、株式会社ワニ・プラス、2015年12月25日、p.166-167
乙第8号証:杣源一郎氏の被請求人宛て2016年4月28日付け返信メール
乙第9号証:椎葉究編、「シリアルサイエンスおいしさと栄養の探求」、第1版第1刷、学校法人東京電機大学東京電機大学出版局、2014年7月20日、p.160-161
乙第10号証:松尾孝嶺 外編、「稲学大成第1巻 形態編」、第1刷、社団法人 農山漁村文化協会、1990年11月10日、p.300-301
乙第11号証:星川清親著、「米 イネからご飯まで」、初版、昭和54年2月1日、株式会社 柴田書店、p.120、173
乙第12号証:ホームページ出力物(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構HP内のタイトル「無洗米糠の反芻家畜用飼料としての栄養価値」のページ<URL:https:/www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nilgs/2002/nilgsO2-15.html>)
乙第13号証:被請求人従業員田宮徹弥作成に係る平成28年4月30日付け試験報告書
乙第14号証:米・食味鑑定士協会による平成28年5月16日付け呈色試験結果報告書
乙第15号証の1:米・食味鑑定士協会作成に係る2016年5月17日付けデンプン量測定に関する報告書
乙第15号証の2:一般財団法人日本食品分析センター大阪支所作成に係る2016年5月16日付け分析試験成績書

第4 平成29年9月21日言渡の判決(平成28年(行ケ)第10236号)について
知的財産高等裁判所は、平成29年9月21日言渡の判決(以下「取消判決」という。)において、本件出願の願書に添付した明細書の段落【0001】ないし【0005】、【0007】、【0010】ないし【0025】、【0027】ないし【0033】及び【0035】ないし【0040】並びに図1ないし3、5ないし7の記載を引用し(判決書19ページ5行ないし34ページ8行)、本件発明1及び2について下記1の事項が認められるとし、明確性要件の存否について下記2のとおり判断した。

1 本件発明1及び2について認められる事項(判決書34ページ9行ないし35ページ6行)
「 ア 本件発明は,白米でありながら,米粒の亜糊粉細胞層と胚芽の表面部を除いた部分又は胚盤を残して,旨み成分と栄養成分を保持した無洗米を製造する装置に関する。
イ 米粒の糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした亜糊粉細胞層5は,その存在がほとんど知られていなかったが,その成分は,澱粉だけではなく,種々の有益成分を含有し,極めて美味しさを感じさせる旨み成分を含み,栄養的にも優れたものである。
「胚芽7の表面部を除去された胚芽8」や「胚盤9」は,消化性が良く,ご飯に甘みを与え,栄養成分も多い。
これらは,米粒の栄養成分及び旨み成分を多く含有しているのであるから,可及的に残すとともに,食味にマイナス作用を与える糊粉細胞層4やそれより表層の物質,いわゆる糠層成分や,胚芽7の表面部を,可能なかぎり除去すればよい。
ウ 従来の精白米は,食べやすいが甘みが少ないし栄養成分が少ない完全精白米か,栄養成分が多いが極めて食味がまずいものしかなかった。それを解決するには,可能な限り中途精米過程で,全体の米粒において,更には1粒当りの米粒において,剥離差を生じなくするとともに,可能な限り高栄養・良食味の亜糊粉細胞層5と胚盤9か,又は,口当たりの悪い胚芽7の表面部を除去した胚芽8が残るようにし,その上で,亜糊粉細胞層5が表面に現れた時に搗精を終わらせることが必要となる。
エ 本件発明の精米装置は,上記ウの課題を解決したものであり,完全精白米を製造していた従来の精米装置を若干変更するだけで実現できる。また,無洗米機を含み,公知の無洗米機を使用できる。」

2 明確性要件の存否について(判決書35ページ7行ないし42ページ下から2行)
「2 取消事由(明確性要件の存否)について
(1) 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)ア 請求項1及び2の「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,」の部分(以下「記載事項A」という。)について
記載事項Aは,本件発明の無洗米の製造装置における処理対象である玄米粒の構成について,その表層部から深層部に至る各部分の名称を順に列挙するものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性に直接関連するものではない。
イ 請求項1及び2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」の部分(以下「記載事項B」という。)について
記載事項Bは,本件発明の無洗米の製造装置を用いた精米方法又は上記無洗米の製造装置により得られる精白米の性状を表したものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない。
ウ 請求項1及び2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする」の部分(以下「記載事項C」という。)について
記載事項Cは,白米の表面に付着する「肌ヌカ」を無洗米機により分離除去する無洗米化処理を行うことを記載したものであり,本件発明の無洗米の製造装置が無洗米機をその構成の一部としていることを表しているが,それ以上に,上記無洗米の製造装置の構造又は特定を直接特定する記載ではない。
エ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,」の部分(以下「記載事項D」という。)について
記載事項Dの「無洗米の製造装置であって」という部分は,本件発明が無洗米の製造のための装置の発明であることを示す記載であり,発明のカテゴリーを示して,その技術的範囲を定めるものと解される。
記載事項Dの「旨み成分と栄養成分を保持した」という部分は,本件発明の無洗米の製造装置で製造される無洗米の特性を示したものであり,前記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない。
オ 請求項1の「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,」の部分(以下「記載事項E」という。)について
記載事項Eは,それのみでは,これが精米工程,すなわち,方法を表すものなのか,請求項1の無洗米の製造装置に少なくとも摩擦式精米機が含まれているという構造を示すものなのか,必ずしも判然としない。
しかしながら,本件明細書には,実施例として,第1精米機,第2精米機,第3精米機を構成に含み,これらはいずれも噴風摩擦式精米機であるが,第1精米機のみは研削式にする場合もあるという無洗米の製造装置が記載されており(【0030】),玄米は,第1精米機において中途精白米に仕上げられ,第2精米機において,更に精白度を高めた中途精白米に仕上げられ,第3精米機において,最適の白度に仕上げられる(【0032】)のであって,本件発明の精米装置では,「全行程,もしくは終末寄りの工程が噴風摩擦式精米機によって構成され,それが少なくとも全精米工程の少なくとも3分の2以上を占めている。」(【0037】)旨が記載されている。
これらの記載を斟酌すると,記載事項Eは,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,摩擦式精米機が全精白工程の少なくとも3分の2以上の工程を占めるように構成されたとの特定をしていると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる。
カ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」の部分(以下「記載事項F」という。)について
記載事項Fには,「精白除糠網筒の内面」を「ほぼ滑面状とな」すという動詞を用いた記載が含まれているが,「ほぼ滑面状」とされるのは「精白除糠網筒の内面」であり,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置が完成した状態において,「精白除糠網筒の内面」が「滑面」(【0029】),「ほとんど,滑面状」(【0033】),又は「ほぼ滑面状」(【0037】)である旨が記載されており,従来の摩擦式精米機の「精白除糠網筒の内面」には「突起」が設けられていたが,本件発明1の無洗米の製造装置では,これを「滑面」にする旨(【0029】)の記載がある一方,精白除糠網筒の製造方法の記載はないから,記載事項Fは,「精白除糠網筒の内面」が「ほぼ滑面状」である「精白除糠網筒」をその構成に含むことを,精白除糠網筒の内面の状態を示すことにより,特定したものと解される。したがって,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる。
キ 請求項1の「且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」の部分(以下「記載事項G」という。)について
記載事項Gは,本件発明1に係る無洗米の製造装置を構成する精米機が,「精白ロール」を有するという,前記装置の構成を特定する記載と,その運転条件である回転数に関する記載を含むものであり,後者は,本件明細書の「それらの噴風摩擦式精米機の回転数も毎分900回転以上の高速回転で運転される」(【0031】),「本装置は毎分900回の高速回転をさせている」(【0033】)との記載に照らすと,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,上記回転数以上で運転するものと特定していると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を特定するものということができる。
ク 請求項1及び2の「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」の部分(以下「記載事項H」という。)について
記載事項Hは,本件発明に係る無洗米の製造装置の構成には,無洗米機が含まれることを特定している。
本件明細書には,実施例の説明として,無洗米機は,公知の無洗米機(【0031】,【0036】)と記載されているのみであって,当該無洗米機の構造又は特性についての記載は見当たらないが,「公知の無洗米機」であるという意味では特定されているということができる。
ケ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」の部分(以下「記載事項I」という。)について
記載事項Iは,記載事項Dと同内容であり,前記エのとおりである。
(3) 以上の記載事項A?Iについての検討を総合すると,本件発明1の無洗米の製造装置は,少なくとも,摩擦式精米機(記載事項F)と無洗米機(記載事項C)をその構成の一部とするものであり,その摩擦式精米機は,全精白構成の終末寄りから少なくとも3分の2以上の工程に用いられているものである(記載事項E)上,精白除糠網筒(記載事項F)と精白ロール(記載事項G)をその構成の一部とするものであり,その精白除糠網筒の内面は,ほぼ滑面状であって(記載事項F),精白ロールの回転数は毎分900回以上の高速回転とするものである(記載事項G)と認められる。
したがって,上記の無洗米の製造装置の構造又は特性は,記載事項A?Iから理解することができる。
しかしながら,請求項1の無洗米の製造装置の特定は,上記の装置の構造又は特性にとどまるものではなく,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。
このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明に係る無洗米の製造装置のミニチュア機で,白度37前後の各白度に搗精した精米を,洗米するか,公知の無洗米機によって通常の無洗化処理を行い,炊飯器によって炊飯し,その黄色度を黄色度計で計り,黄色度11?18の内の好みの供試米の白度に合わせて搗精を終わらせる時を調整して,本格搗精をすることにより行うこと(【0035】),このようにして仕上がった精白米は,亜糊粉細胞層が米粒表面をほとんど覆っていて,かつ,全米粒のうち,表面が除去された胚芽と胚盤が残った米粒の合計数が,少なくとも50%以上を占めていること(【0036】)が記載されており,結局のところ,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであることが記載されている。したがって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず,その運転条件を調整することにより,そのような精米ができるものとされている。そして,その運転条件は,本件明細書において,毎分900回以上の高速回転で精白ロールを回転させること以外の特定はなく,実際に上記のような精米ができる精白ロールの回転数や,精米機に供給される玄米の供給速度,精米機の運転時間などの運転条件の特定はなく,本件出願時の技術常識からして,これが明らかであると認めることもできない。
ところで,本件明細書の発明の詳細な説明において,亜糊粉細胞層(5)については,「糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした」,「厚みも薄く1層しかない」ものであり(【0015】),「亜糊粉細胞5は・・・整然と目立って並んでいる個所は少なく,ほとんどは顕微鏡でも確認しにくいほど糊粉細胞層4に複雑に貼り付いた微細な細胞であり,それも平均厚さが約5ミクロン程度の極薄のものである」(【0018】)と記載され,胚芽(8)及び胚盤(9)については,「胚芽7の表面部を除去された」ものが胚芽(8)であり,それを更に削り取ると胚盤(9)になる(【0023】)と記載されている。しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,米粒に亜糊粉細胞層(5)と胚芽(8)及び胚盤(9)を残し,それより外側の部分を除去することをもって,米粒に「旨み成分と栄養成分を保持」させることができる旨が記載されており(【0017】?【0023】),玄米をこのような精白米に精米する方法については,「従来から,飯米用の精米手段は摩擦式精米機にて行うことが常識とされている」が,その搗精方法では,必然的に,米粒から亜糊粉細胞層(5)や胚芽(8)及び胚盤(9)も除去されてしまうこと(【0024】,【0025】)が記載されている。また,本件明細書の発明の詳細な説明には,「摩擦式精米機では米粒に高圧がかかり,胚芽は根こそぎ脱落する」から,胚芽を残存させるには,研削式精米機による精米が不可欠とされていた(【0029】)ところ,研削式精米機により精米すると,むらが生じ,高白度になると,亜糊粉細胞層(5)の内側の澱粉細胞層(6)も削ぎ落とされている個所もあれば,糊粉細胞層(4)だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分もあるという状態になること(【0027】)が記載されている。
そうすると,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上において胚盤又は表面を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精することは,従来の技術では容易ではなかったことがうかがわれ,上記のとおり,本件明細書に具体的な記載がない場合に,これを実現することが当業者にとって明らかであると認めることはできない。
本件発明1は,無洗米の製造装置の発明であるが,このような物の発明にあっては,特許請求の範囲において,当該物の構造又は特性を明記して,直接物を特定することが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号904頁参照),上記のとおり,本件発明1は,物の構造又は特性から当該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるということはできない。
(4) 請求項2は,記載事項A?D,H及びIと,「全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い,前記精白ロールには,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)が,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること」(以下「記載事項J」という。)という記載事項からなる。
記載事項Jには,請求項2の無洗米の製造装置につき,「単機型の1回通過式精米機」をその構成の一部とし,その精米機は均圧型の1本の精白ロールをその構成の一部とし,「前記精白ロールは均圧型で,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)があり,その突条は,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,その精白ロールの軸線方向と平行になっている」という構造であることが記載されているということができる。
しかしながら,本件発明2の無洗米の製造装置も,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。
このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず,その運転条件が本件出願時の技術常識から明らかであると認めることもできないことは,本件発明1について前記(3)で判示したとおりである。
以上によると,本件発明2は,物の構造又は特性から当該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるというということはできない。」

第5 無効理由に対する判断
1 無効理由1及び2について
上記第4の取消判決は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本特許無効審判事件について、当合議体を拘束する。
そして、本件特許の請求項1及び2の記載並びに明細書の記載は、取消判決がなされたときと同じである。
よって、本件特許の請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求人の主張する無効理由1及び2は理由がある。

2 無効理由3について
上記第4の取消判決の判示によれば、本件発明1及び2は明確であるということはできないのであるから、本件発明1及び2が、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かの判断、すなわち、請求人の主張する無効理由3についての判断をすることができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許についての無効理由1及び2はいずれも理由がある。
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-15 
結審通知日 2018-06-19 
審決日 2018-07-02 
出願番号 特願2005-139133(P2005-139133)
審決分類 P 1 113・ 537- Z (B02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 窪田 治彦
槙原 進
登録日 2013-07-05 
登録番号 特許第5306571号(P5306571)
発明の名称 旨み成分と栄養成分を保持した精白米または無洗米の製造装置  
代理人 岡 健司  
代理人 平野 和宏  
代理人 高田 一  
代理人 井内 龍二  
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