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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1343387
審判番号 不服2017-13672  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-13 
確定日 2018-08-16 
事件の表示 特願2014-515680「アルカリ現像型の熱硬化性樹脂組成物,プリント配線板」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月21日国際公開,WO2013/172435〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2014-515680号(以下「本件出願」という。)は,2013年(平成25年)5月16日(優先権主張 2012年(平成24年)5月17日)に出願されたものとみなされた特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成28年 2月24日付け:拒絶理由通知書
平成28年 5月 2日提出:手続補正書
平成28年 9月16日付け:拒絶理由通知書
平成29年 1月26日提出:手続補正書
平成29年 5月12日付け:補正の却下の決定
(平成29年1月26日提出の手続補正書による補正の却下)
平成29年 5月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年 9月13日提出:審判請求書
平成29年 9月13日提出:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年9月13日提出の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正は,明細書及び特許請求の範囲について補正するものであるところ,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 アルカリ現像性樹脂,熱反応性化合物,光塩基発生剤,および,着色剤,を含み,
前記着色剤が,黒色着色剤,白色着色剤および黄色着色剤から選択される少なくとも1種であり,
選択的な光照射後の加熱で前記アルカリ現像性樹脂と前記熱反応性化合物が付加反応することにより,アルカリ現像によるネガ型のパターン形成が可能となることを特徴とするアルカリ現像型の熱硬化性樹脂組成物。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。
「 アルカリ現像性樹脂,熱反応性化合物,光塩基発生剤,および,黒色着色剤,を含み,
前記黒色着色剤の配合量が,前記熱反応性化合物100質量部に対し1?10質量部であり,
選択的な光照射後,現像前の加熱で前記アルカリ現像性樹脂と前記熱反応性化合物が付加反応することにより,アルカリ現像によるネガ型のパターン形成が可能となることを特徴とするアルカリ現像型の熱硬化性樹脂組成物。」

2 本件補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された,[A]「着色剤」の選択肢を「黒色着色剤」に減ずるとともに,[B]願書に最初に添付した明細書の【0080】及び【0144】(表9の実施例33及び37)の記載に基づいて,「黒色着色剤」の配合量を,「前記熱反応性化合物100質量部に対し1?10質量部」とすることを含むものである。そして,これら補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である,「着色剤」の種類及び配合量を限定するものである。また,明細書の【0001】及び【0006】の記載からみて,本件補正前の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)と本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
そうしてみると,これら補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

3 本件補正後発明
本件補正後発明は,上記1(2)に記載したとおりのものである。

4 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され,本件出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特開平11-71450号公報(以下「引用文献1」という。)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示し,替わりに,刊行物の記載において付されていた下線は消去してある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)潜在性塩基触媒として,次式I,IIまたはIII:
【化1】

{式中,Ar_(1) は次式IV,V,VIもしくはVII:
【化2】

で表される芳香族基…(省略)…で表される化合物の少なくとも1種;
(B)塩基で触媒される反応中で反応可能な有機化合物の少なくとも1種;ならびに(C)所望により,増感剤からなる組成物。
…(省略)…
【請求項8】 (A)請求項1で定義された式I,式IIまたは式IIIで表される化合物;
(B)塩基で触媒される付加反応または置換反応において反応可能な有機化合物の少なくとも1種;ならびに(C)所望により,増感剤からなる組成物を硬化させる方法であって(1)前記組成物を波長200ないし700nmを持つ光で照射して,式I,式IIまたは式IIIの感光性前駆体から塩基触媒を発生させ,および(2)次いで段階(1)において光発生した塩基を触媒として使用して,熱硬化させる方法。
【請求項9】 熱硬化段階(2)の後に現像段階(3)が続く請求項8記載の方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は潜在性塩基(latent bases)としてのα-アミノケトン化合物を含む塩基で触媒される(base catalysed)硬化性組成物ならびにこのような組成物を硬化する方法,特にラジカル重合性成分との組合せによる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】熱硬化性樹脂の中でエポキシ樹脂は硬化のために使用できる化学反応および材料の多様性およびその結果としての多くの種々の特性により極めて広範囲の用途が見いだされている。
…(省略)…
【0004】
【発明が解決しようとする課題】エポキシドの独自の特性は適当な感光性組成物が利用可能ならば光画像形成用途(photoimaging applications)に使用できることである。本来エポシドは典型的なフリーラジカル化学によっては硬化できず,そして,そのためビニルエーテルまたはアクリレートのような適当な反応性グループもまた存在する場合にそれらはラジカル光重合系において使用できるのみである。これはいつも望ましいとは限らない。…(省略)…従って,エポキシ基含有感光性組成物を硬化させるために使用できる有効な光発生性塩基触媒が必要とされている。本発明の目的は,まずエポキシドへの重付加の塩基性触媒用に使用できる第三アミン触媒を光化学的に発生させるための新規な方法を提供することであり,第二に相当する組成物を提供することである。
…(省略)…
【0008】
【課題を解決するための手段】ラジカル重合性組成物の光硬化のための開始剤として既に公知である,特定の化合物が塩基を発生させる(base generating)化合物,即ち照射されると塩基を発生する化合物 (" 光塩基発生剤(photobase generator) " )としても適当であり,そのため塩基で触媒される反応において使用できることが今や見いだされた。」

ウ 「【0011】
【発明の実施の形態】式I,式IIまたは式IIIで表される化合物の少なくとも1種が本発明の組成物に存在する。
…(省略)…
【0023】特別に好ましいものは式Iで表される化合物が(4-モルホリノ-ベンゾイル)-1-ベンジル-1-ジメチルアミノプロパンであるものである。
…(省略)…
【0025】さらにまた,Ar_(1) が式IVで表される…(省略)…化合物が好ましく,特に(4-メチルチオベンゾイル)-1-メチル-1-モルホリノエタンである。」
(当合議体注:【0023】及び【0035】に挙げられた化合物の商品名は,それぞれ「イルガキュア369」及び「イルガキュア907」である。)

エ 「【0031】本発明によれば,式I,IIおよびIIIで表される化合物は潜在性塩基触媒,即ちそれは輻射線硬化性系において光化学的に活性化される塩基の発生剤として使用できる。硬化できる系は例えば置換反応,付加反応または縮合反応であってよい塩基触媒反応において反応できる有機化合物である。
【0032】塩基は組成物の曝露された領域においてのみ光発生し,そのため例えば光塩基触媒によって硬化される光画像形成可能な熱硬化性組成物が,さらにラジカル重合工程の必要性も全くなく容易に製造できる。そのため本発明の方法はエチレン性不飽和二重結合を必ずしも含まない組成物を硬化するために有益であり,そしてアニオンの機構により硬化される新しい光画像形成可能な熱硬化性の組成物を提供する。
【0033】潜在性塩基でまたは記載した方法においてそれぞれ硬化される成分(B)は一般的に少なくとも1つのエポキシド基と塩基の存在下でエポキシドと反応可能な基の少なくとも1つを含む化合物である。成分(B)は少なくとも1つのエポキシド化合物と塩基の存在下でエポキシドと反応可能な化合物の少なくとも1つを含む化合物との混合物であってもよい。
【0034】塩基の存在下でエポキシドと反応できる化合物は特にカルボン酸のようなカルボキシル化合物および酸無水物およびチオールである。
…(省略)…
【0038】塩基によって触媒される系の成分は室温または高められた温度で反応しそして多くの用途に適当な架橋されたコーティング系を形成する。
【0039】新規な組成物中の成分(A)は通常0.1-20重量%,好ましくは1-10重量%,例えば1-5重量%で存在する。
…(省略)…
【0067】本発明による組成物のための他の慣用の添加剤は意図する用途によるが,蛍光増白剤,充填剤,顔料,染料,湿潤剤,均展剤,流れ調整剤および定着剤である。」

オ 「【0071】式I,IIおよびIIIで表される化合物は光塩基発生剤としても適当である。従ってそれらは塩基で触媒される反応を行う方法において使用できる。この方法は上述された組成物を波長200ないし700nmをもつ光で照射することを特徴とする。本発明はそのため,重合される混合物に上述した式I,IIおよびIIIで表される化合物を潜在性塩基として添加し,そして波長200ないし700nmの光で照射して塩基を発生させることを特徴とする,塩基で触媒される重合反応において塩基を光化学的に発生させる方法に関する。…(省略)…ある場合では,照射の間または後に組成物を加熱することが有利である。架橋反応はしばしば促進でき,このためその様相の別の面において本発明は(A)上記で定義した式I,IIおよびIIIで表される化合物,(B)塩基で触媒される付加反応または置換反応で反応可能な有機化合物の少なくとも1種;および(C)所望により,増感剤からなる組成物を硬化する方法であって,(1)該組成物を波長200ないし700をもつ光で照射して式I,IIおよびIIIで表される化合物の感光性前駆体から塩基触媒を発生させそして(2)次いで段階(1)において光発生した塩基を触媒として使用してそれを熱的硬化させることからなる方法に関する。
…(省略)…
【0074】本発明はまた熱硬化段階(2)の後に現像段階(3)が続く上記に記載した方法に関する。現像は,組成物の架橋されていない部分を除去することを意味する。当業者によって適当な現像法はよく知られている。
…(省略)…
【0077】本発明による光塩基発生剤は高温安定性および/または良好な溶媒耐性,低導電性,良好な機械特性が必要とされる用途で,例えばソルダーレジスト,相似被覆,電気装置の封入,ステレオリソグラフィー等におけるような場合に特に有用である。
…(省略)…
【0082】光重合性組成物は例えば,…(省略)…エッチレジストまたは永久レジストとして,および電子回路用のソルダーマスクおよび光画像形成可能な電子回路用の誘電体として…(省略)…種々の目的に使用できる。
…(省略)…
【0085】支持体の塗布は液体組成物,溶液または懸濁液を塗布することにより行うことができる。…(省略)…溶液は公知の塗布技術,例えばスピン塗布,浸漬被覆,ナイフ塗布,カーテン塗布,刷毛塗り,吹付特に静電吹付による吹付,ならびにリバースロール塗布によって,およびまた電気泳動塗装によって支持体に均一に塗布される。また感光性層を一時的に可撓性の支持体に塗布して次いで積層を介して層を転写することにより最終的な支持体,例えば銅張回路板に塗布することもできる。
【0086】塗布される量(塗膜厚)および支持体の性質(層支持材)は所望の適用分野による。塗布厚の範囲は一般に約0.1μmないし100μm以上の値を含む。
【0087】新規な輻射線感受性組成物は光に対して非常に高い感受性をもち,そして膨潤することなく水性アルカリ媒体中で現像され得るネガ型レジストとしての適用が見いだされる。それらはエレクトロニクス(電気メッキレジスト,エッチングレジストもしくはソルダーレジスト)のためのフォトレジストとして…(省略)…適している。
…(省略)…
【0099】…(省略)…組成物は好ましくはレジスト材料,ソルダーマスク…(省略)…において使用され;ならびにレジスト材料,ソルダーマスク…(省略)…として行う方法のために使用される。
【0100】式I,IIおよびIIIで表される化合物は光化学的に活性化できる塩基の発生材であり,紫外線に曝露する前に驚くべき優れた潜在性を示す。それらさらに近紫外領域で高い吸収ならびに分子の置換されたベンゾイル部分の光開裂後の後に高い触媒活性をもつ。」

カ 「【0101】
【実施例】以下の実施例は本発明をより詳細に記載する。明細書の残りの部分および請求の範囲では部および%は特に記載しない限り重量に基づく。
…(省略)…
【0102】実施例1:光塩基活性:照射前のα-アミノケトンの潜在性および照射後の触媒活性の試験
1.(a) 3-5%のカルボキシル官能性をもつポリアクリレート(登録商標カルボセット(Carboset)525 Goodrich,(USA) より提供)200部およびエポキシフェノールノボラック(GY1180,Ciba Specialty Chemicals より提供)100部を混合することによって配合物を製造する。この配合物の試料を示差走査熱量計(Differenticial Scanning Calorimetry:DSC)にかける。DSC曲線(加熱速度10℃/分)は242℃のピーク温度を示す。
1.(b) 3-5%のカルボキシル官能性をもつポリアクリレート(登録商標カルボセット(Carboset)525 Goodrich,(USA) より提供)200部およびエポキシフェノールノボラック(GY1180,Ciba Specialty Chemicals より提供)100部,4-(メチルチオベンゾイル)-1-メチル-1-モルホリノエタン(登録商標イルガキュア(Irgacure) 907,Ciba Specialty Chemicals により提供)6部を混合することによって配合物を製造する。この配合物の試料をDSC(加熱速度10℃/分)にかける。DSC曲線は243℃のピーク温度を示す。第二の試料を金属ハライドランプ(ORC SMX3000,3kW)で40秒間照射すると,ピークは169℃に示される。
1.(c) 3-5%のカルボキシル官能性をもつポリアクリレート(登録商標カルボセット(Carboset)525 Goodrich,(USA) より提供)200部およびエポキシフェノールノボラック(GY1180,Ciba Specialty Chemicals より提供)100部,(4-モルホリノベンゾイル)-1-ベンジル-1-ジメチルアミノプロパン(登録商標イルガキュア(Irgacure) 369,Ciba Specialty Chemicals により提供) 6部を混合することによって配合物を製造する。この配合物の試料をDSC(加熱速度10℃/分)にかける。DSC曲線は212℃のピーク温度を示す。第二の試料を金属ハライドランプ(ORC SMX3000,3kW)で40秒間照射すると,ピークは152℃に示される。」

(2) 引用発明
引用文献1の【0102】には,実施例1の1.(b)の配合物として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 3-5%のカルボキシル官能性をもつポリアクリレート200部,
エポキシフェノールノボラック100部,
4-(メチルチオベンゾイル)-1-メチル-1-モルホリノエタン(イルガキュア907)6部を混合することによって製造された,
配合物。」

5 対比及び判断
(1) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア アルカリ現像性樹脂
引用発明の「3-5%のカルボキシル官能性をもつポリアクリレート」は,その「3-5%のカルボキシル官能性」という事項から理解される機能からみて,本件補正後発明の「アルカリ現像性樹脂」に相当する。

イ 熱反応性化合物
引用発明の「エポキシフェノールノボラック」は,その「エポキシ」という事項から理解される機能からみて,本件補正後発明の「熱反応性化合物」に相当する。

ウ 光塩基発生剤
引用発明の「4-(メチルチオベンゾイル)-1-メチル-1-モルホリノエタン(イルガキュア907)」と,本件出願の【0122】に記載された「Irg907:2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン」は,同じ化合物である。
そうしてみると,引用発明の「4-(メチルチオベンゾイル)-1-メチル-1-モルホリノエタン」は,本件補正後発明の「光塩基発生剤」に相当する。

エ 熱硬化性樹脂組成物
引用発明の「配合物」は,その組成からみて,熱硬化性であり,また,樹脂を主成分とする組成物といえる。
そうしてみると,引用発明の「配合物」は,本件補正後発明の「熱硬化性組成物」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「アルカリ現像性樹脂,熱反応性化合物,光塩基発生剤,を含む,
熱硬化性樹脂組成物。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「熱硬化性樹脂組成物」について,本件補正後発明は,「黒色着色剤」を含み,「前記黒色着色剤の配合量が,前記熱反応性化合物100質量部に対し1?10質量部」であるのに対して,引用発明は,「黒色着色剤」を含まない点。

(相違点2)
「熱硬化性樹脂組成物」について,本件補正後発明は,「選択的な光照射後,現像前の加熱で前記アルカリ現像性樹脂と前記熱反応性化合物が付加反応することにより,アルカリ現像によるネガ型のパターン形成が可能となることを特徴とするアルカリ現像型の」熱硬化性樹脂組成物であるのに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(3) 判断
ア 相違点1について
引用文献1の【0077】,【0082】及び【0099】の記載からみて,引用発明は,永久レジストとしての使用に適したものと理解されるところ,永久レジスト中に「黒色着色剤」を含有させることは周知技術であり,また,「熱反応性化合物100質量部に対し1?10質量部」という黒色着色剤の含有量は,当業者が通常設計しうる所定量の範囲内のものと解される。
すなわち,例えば,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-257044号公報の実施例1等(【0071】)においても,有機溶剤を除くレジスト組成物の全成分中に約1%のカーボンブラックが含まれており(ワニスの質量部は固形分換算と理解した。),これを引用発明にあてはめると,黒色着色剤の配合量は,エポキシフェノールノボラック100質量部に対し約3質量部となる。
また,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2011-75678号公報の実施例3等(【0078】)においても有機溶剤を除くレジスト組成物の全成分中に約1%の黒色着色剤(Pigment Black 31等)が含まれており,これを引用発明にあてはめると,黒色着色剤の配合量は,エポキシフェノールノボラック100質量部に対し約3質量部となる。
さらに,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2011-257711号公報の実施例1等(【0056】)においても有機溶剤を除くレジスト組成物の全成分中に約1.5%の黒色着色剤(LUMOGEN BLACK FK4281等)が含まれており,これを引用発明にあてはめると,黒色着色剤の配合量は,エポキシフェノールノボラック100質量部に対し約4.5質量部となる。
そうしてみると,相違点1に係る本件補正後発明の構成を採用することは,引用発明を永久レジストとして具体化する当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項である。

イ 相違点2について
引用文献1の【請求項8】,【請求項9】,【0071】,【0074】,【0087】及び【0102】の記載からみて,引用発明の「配合物」あるいは上記アのごとく引用発明を永久レジストとして具体化した「配合物」は,「選択的な光照射後,現像前の加熱で前記アルカリ現像性樹脂と前記熱反応性化合物が付加反応することにより,アルカリ現像によるネガ型のパターン形成が可能となることを特徴とするアルカリ現像型の」ものである。
そうしてみると,相違点2については,実質的な相違点ではない。

ウ 本件補正後発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0011】には,「本発明により,現像によりパターン層の形成が可能なアルカリ現像型の熱硬化性樹脂組成物,プリント配線板を提供することができる。」と記載されている。
引用文献1の【請求項8】,【請求項9】,【0071】,【0074】,【0087】及び【0102】の記載からみて,この効果は,引用発明も奏する効果といえる。

(4) 審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書において,「本願発明のアルカリ現像型の熱硬化性樹脂組成物は,明細書の段落[0013]に記載されているとおり,光照射によって表面で塩基が発生し,この発生した塩基によって光塩基発生剤が不安定化して,さらに塩基が発生します。このように塩基が発生することにより,樹脂層の深部まで化学的に増殖します。そして,深部まで増殖した塩基が,アルカリ現像性樹脂と熱反応性化合物が付加反応する際の触媒として作用することで深部まで樹脂層を硬化させることができます。補正後の本願請求項1に記載の発明は,黒色着色剤を含みますが,本願明細書の実施例2(出願当初の実施例37)と比較例9との対比から明らかなとおり,アンダーカットを生じずに良好な開口パターンやラインパターンを形成することができます。なお,平成28年9月27日付発送(平成28年9月16日起案)の拒絶理由通知書において,審査官殿は各引用文献に記載の発明において,硬化性に影響を与えない範囲において黒色着色剤を含有することは容易である旨が説示されています。しかしながら,補正後の本願発明は,本願明細書の実施例の記載に基づいて黒色着色剤の配合量を熱反応性化合物100質量部に対し1?10質量部で限定しているのであり,この配合量の範囲において,アンダーカットを生じずに良好な開口パターンやラインパターンを形成することができるという有利な効果が実証されています。」(審判請求書の3.(c))。
しかしながら,本件補正後発明は,黒色着色剤が選択的な光(露光光)を吸収するものであることを特定する発明ではなく,熱硬化性樹脂組成物に対する含有量を特定する発明でもない。
また,この点は措いて考えるとしても,引用文献1の【請求項8】,【請求項9】,【0071】,【0074】,【0087】及び【0102】には,引用発明の配合物が,光塩基発生剤の作用により光を照射した部分を選択的に架橋反応させることができ,その後,加熱により架橋反応を促進でき,その結果,ネガ型レジストとしてアルカリ現像できるという,引用発明の特徴的な構成がその原理とともに明確に開示されている。そして,当業者,すなわち,永久レジストを含む,アルカリ現像型の樹脂組成物の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者ならば,引用発明の上記の特徴的な構成を直ちに理解することができる(光ではなく加熱により,熱硬化性樹脂組成物の架橋反応が促進されることの利点を理解する。)。
そうしてみると,当業者が,引用発明の配合物を,永久レジストとして具体化するべく,黒色着色剤を所定量含有させることは,容易に発明することができたことである。また,上記の特徴的な構成を具備する引用発明に黒色着色剤を所定量含有させて永久レジストとしたときには,上記の特徴な構成を具備した黒色永久レジストが得られることとなる。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。

(5) 小括
本件補正後発明は,周知技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 補正の却下の決定の結び
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。
よって,[補正の結果の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定は,本願発明は,本件出願の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づいて,優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という拒絶の理由を含むものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載,及び引用発明は,前記「第2」[理由]4(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明の「黒色着色剤」を「黒色着色剤,白色着色剤および黄色着色剤から選択される少なくとも1種」に拡張するとともに,「前記黒色着色剤の配合量が,前記熱反応性化合物100質量部に対し1?10質量部であり」という発明特定事項を除いたものである。そして,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の事項を付加したものに相当する(本願発明の範囲に含まれる)本件補正後発明は,前記「第2」[理由]5(2)?(5)で述べたとおり,周知技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると,本願発明も,周知技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-18 
結審通知日 2018-06-19 
審決日 2018-07-04 
出願番号 特願2014-515680(P2014-515680)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
P 1 8・ 575- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 純平石附 直弥  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
清水 康司
発明の名称 アルカリ現像型の熱硬化性樹脂組成物、プリント配線板  
代理人 本多 一郎  

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