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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1343475
審判番号 不服2016-9932  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-01 
確定日 2018-08-22 
事件の表示 特願2013-267526「標的増幅及びシークエンシングを使用した非侵襲的な胎児遺伝子型スクリーニング」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月24日出願公開、特開2014- 73134〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成25年12月25日の出願であって、平成20年(2008年)7月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年7月23日、アメリカ)を国際出願日とする特願2010-517480号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成26年 1月24日 手続補正書・上申書
平成26年 4月28日 手続補正書・上申書
平成27年 3月16日付け 拒絶理由通知書
平成27年 9月24日 意見書・誤訳訂正書
平成28年 2月22日付け 拒絶査定
平成28年 7月 1日 審判請求書
平成28年 8月10日 手続補正書(方式)
平成29年 6月 6日付け 拒絶理由通知書
平成29年12月13日 意見書

第2 当審の通知した拒絶理由
平成29年6月6日付けで当審が通知した拒絶理由の概略は、この出願は適法な分割出願ではないから、この出願の請求項に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

第3 分割出願の実体的要件について
1.出願の分割が適法にされたと認められる要件について
この出願は、特許法第44条第1項の規定による特許出願であるところ、同法第44条第1項には、次のように規定されている。

「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十3条第3項において準用する第五十1条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。」

また、同法第2項には、次のように規定されている。

「前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十9条の2に規定する他の特許出願又は実用新案法第3条の2に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用及び第三十条第三項の規定の適用については、この限りでない。」

同法第44条第1項の規定によれば、特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであるから、特許出願の分割が適法にされたと認められるためには、以下の(要件1)及び(要件2)を満たす必要がある。

そして、同条第2項に規定する新たな特許出願がもとの特許出願のときにしたものとみなされる(以下、「出願時遡及」という。)という効果が認められるためには、出願時遡及の効果はもとの特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「出願当初の明細書等」という。)に記載した事項に対して与えられるものであり、もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内でない新規事項について出願時遡及の効果を与えてはならないことは、補正の制限(特許法第17条の2)の趣旨から鑑みて当然であることを踏まえると、以下の(要件3)も満たす必要がある。

(要件1)もとの特許出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)に記載された発明の全部が新たな特許出願の請求項に係る発明とされたものではないこと。

(要件2)新たな特許出願の明細書等に記載された事項が、もとの特許出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。

(要件3)新たな特許出願の明細書等に記載された事項が、もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内であること。

2.要件3についての検討
新たな特許出願であるこの出願が、要件3を満たすものかを以下に検討する。
(1)平成27年9月24日付け誤訳訂正書の請求項1に特定される事項
新たな特許出願の明細書等に該当する、平成27年9月24日付け誤訳訂正書の請求項1には、以下の事項が記載されている。
「胎児及び母体の細胞から遊離したゲノムDNAを含有する母体の血液試料を分析することにより胎児の異数性の存否を判定する方法であって:
第一の染色体上の第一の特定の標的遺伝子座からDNAを増幅し、そして1つ以上の第二の染色体上の第二の特定の標的遺伝子座からDNAを増幅する工程;
当該増幅したDNAをシークエンシングして配列タグを取得する工程;
第一の染色体上の第一の特定の標的遺伝子座からの第一の配列タグの量を決定する工程;
1つ以上の第二の染色体上の第二の特定の標的遺伝子座からの第二の配列タグの量を決定する工程;
当該第一の配列タグの量と第二の配列タグの量を比較して、第一の染色体において胎児の異数性が存在するか否かを判定する工程;
を含む、方法。」

(2)もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載した事項
この出願の原出願である特願2010-517480号の外国語書面の翻訳文(以下、「出願当初の明細書等」という。)には、胎児及び母体の細胞から遊離した核酸を含有する母体の血液試料を分析することに関して、段落[0013]?[0014]に記載されており、また、段落[0066]?[0090]、[0155]?[0201]等には、「デジタルPCR」という方法であって、抽出されたDNAを1つのウェルに約1個の標的鋳型が含まれる濃度まで希釈する工程、リアルタイムPCRを行う工程、異数性に関わる染色体遺伝子座が陽性であるウェルとの個数と、他の染色体の遺伝子座が陽性であるウェルの個数をカウントする工程を含む方法で、胎児の異数性を決定することが記載されており、段落[0223]?[0243]等には、「超並列ゲノムシークエンシング」という方法であって、母親および胎児を起源とするゲノムDNAを含む母体血漿中のゲノムDNA断片のランダムシークエンシングを行い、各断片のDNA配列を得る工程、データベース検索を行い、該DNA断片の各々がヒトゲノムのどの染色体に由来するかを確認する工程、異数性に関与する染色体の、他の染色体に対する相対的サイズを、基準ヒトゲノムまたは非疾患性の代表的標本から期待される該染色体の相対的サイズと比較する工程、該染色体の獲得または喪失を同定する工程を含む方法で、妊婦の血漿中の胎児染色体の異数性を同定することが記載されていると認められる。

(3)当審の判断
上記(2)で示した出願当初の明細書等の記載は、上記(1)に示した請求項1に特定される事項と一致するものではなく、また、これらの記載から、請求項1に特定される事項が自明であるとも認められない。

(4)平成26年4月28日付け上申書について
上記(1)に示した請求項1に特定される事項は、平成26年4月28日付け手続補正書の請求項1にも記載されている事項であり、この手続補正書について、同じく平成26年4月28日付け上申書には、「請求項1は、母体の血液試料を分析することにより胎児の異数性を判定する方法に関し、当該事項は本願明細書[0067]に基づきます。請求項1の方法は、以下の工程を含みます。
DNAを増幅する工程は、本願明細書[150]?[152]に基づきます。
増幅したDNAをシークエンシングして配列タグを取得する工程は、本願明細書[0234]に基づきます。
複数の標的遺伝子座の配列タグの量を決定する工程は、本願明細書[0234]及び[0235]に基づきます。
上記配列タグの量を比較に基づいて胎児の異数性を判定する工程は、本願明細書[0235]に基づきます。」と記載されている。
ここで、本願明細書の段落[0067]、[150]?[152]、[0234]、[0235]は、それぞれ、原出願の当初明細書の段落[0067]、[150]?[152]、[0234]、[0235]に相当する。

原出願の当初明細書の段落[0067]には、「これを試験するために、発明者らはまず、デジタルPCRが、PLCA4 mRNA(Lo, YMD, et al. 2007 Nat Med 13, 218-223)の対立遺伝子の比率を判定可能であるかを検証した。該mRNAは第21番染色体由来の胎盤性転写産物であり、母体血漿中に存在するため、胎児のトリソミー21及び正倍数体を峻別することが出来る。このアプローチは、デジタルRNA-SNP法と称される。それから、発明者らは、デジタルPCRの精度増大により、遺伝的多型に依存しない胎児染色体の異数性の検出が可能となるか否かを検証した。発明者らは、これを、デジタル相対的染色体量(RCD)解析と称する。前者のアプローチは多型依存的であるものの定量的識別能の要求は低く、一方で後者のアプローチは、多型非依存的であるが、高精度の定量的識別能を要求する。」と記載されており、該記載は、「デジタルPCR」についての記載であると認められる。

一方、原出願の当初明細書の段落[0234]、[0235]には、それぞれ、「一つの態様において、ヒトゲノムおよびヒト血漿DNA試料の単一端シークエンシングのために、我々はIlluminaゲノムアナライザーを使用した。Illuminaゲノムアナライザーは、フローセルと呼ばれる固体表面上に捕獲された、クローン的に増大された単一のDNA分子をシークエンシングする。各々のフローセルは、8個の個々の標本または標本のプールをシークエンシングするための8つのレーンを有する。各々のレーンは、ヒトゲノム中における30億塩基対の配列の一部のみである、約200Mbの配列を生じさせることが可能である。各々のゲノムDNAまたは血漿DNA試料は、一つのフローセルのレーンを使用してシークエンシングされた。生じた短い配列タグは、ヒト基準ゲノム配列と整列され、そして染色体の複製起点が示された。各々の染色体に整列された、個々のシークエンシングされたタグの総数は表にされ、そして基準ヒトゲノムまたは非疾患性の代表的標本から期待される各々の染色体の相対的なサイズと比較された。染色体の獲得または喪失はその後同定された。」([0234])、「記載された手法は、本明細書において記載された遺伝子/染色体用量の方法の一つの例示にすぎない。代替的に、ペアエンドシークエンシング(paired end sequencing)が行われ得る。シークエンシングされた断片の長さとCampbell他(Nat Genet 2008;40:722-729)によって記載された基準ゲノムにおいて期待されたものとを比較する代わりに、整列され、シークエンシングされたタグ数が数えられ、そして染色体の位置に従ってソートされる。染色体領域、または染色体全体の獲得または喪失は、タグの数と基準ゲノムにおいて期待される染色体の大きさ、または非疾患性の代表的な標本のものとを比較することによって決定された。」([0235])と記載されており、これらは、段落[0232]の「超並列ゲノムシークエンスアプローチの一つの側面において、全ての染色体から代表的データが、同時に生産され得る。特定の断片の起源は、予め選択されない。シークエンシングはランダムに行われ、それからデータベース検索が行われ、特定の断片がどこに由来するかを確認する。」という記載から、「超並列ゲノムシークエンシング」についての記載であると認められる。

そうすると、上記上申書においては、請求項1に係る発明が、「デジタルPCR」法の一部の工程と、「超並列ゲノムシークエンシング」法の一部の工程とを含む方法であると説明されていると認められるが、そのような方法は、出願当初の明細書等には記載されていないし、出願当初の明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成29年12月13日付け意見書において、「明細書段落0067は、請求項1及び7の柱書の補正の根拠として妥当ではなく、誤って引用しておりました。」と述べている。
そして、補正の根拠として、本願明細書の段落[0223]?[0243]を挙げ、「エマルジョンPCR及びその他の方策を使用する、超並列ゲノムシークエンシング」という表題が付けられた段落[0223]に、「核酸分子のデジタル読出しが、母体血漿中のトリソミー21等の胎児染色体異数性の検出に使用され得るというもう一つの例を記載する。」と記載されていること、および、段落[0224]に、「態様によっては、母体バックグラウンド核酸を含有する生体試料中に僅かに存在する限定的な量の胎児核酸から推察され得る遺伝的情報の量を最大化することによる、胎児染色体の異数性の非侵襲的検出が可能となる。」と記載されていることが、請求項1の「胎児及び母体の細胞から遊離したゲノムDNAを含有する母体の血液試料を分析することにより胎児の異数性の存否を判定する方法」を支持していると述べている。
また、段落[0223]?[0226]は、シークエンシングとデジタルPCRを対比して記載していること、段落[0223]に記載されている「特定の遺伝子座を標的とするデジタルPCRサンプリングの数は、同一の標本中で無限に増大させることは出来ない。」という限定は、シークエンシングの増大した能力と対比されること、段落[0227]?[0243]は、胎児の異数性を検出するためのシークエンシングの使用及びバイオインフォマティクス手順について、更なる詳細を提供していることを述べている。
そして、これらのことから、請求項1に記載されている方法がシークエンシングに関するものであることは、本願明細書の段落[0227]?[0243]に基づいており、本願請求項1に記載の発明は、原出願の当初明細書に記載されていた事項であるから、本願は、分割出願の実体的要件を満たしている旨、主張している。
しかしながら、請求項1に係る発明のそれぞれの工程や、請求項1の記載において用いられている用語が、段落[0223]?[0243]における審判請求人の指摘する記載のうちのどの記載に基づくものであるかについて十分な説明がなされておらず、また、どの記載に基づくものか、明らかでもないため、依然として、請求項1に係る発明が、原出願の当初明細書に記載されているとは認められず、また、原出願の当初明細書の記載から自明な事項であるとも認められない。

なお、審判請求人は、当合議体からの質問に対して、平成30年2月2日付けのFAXおよび平成30年2月26日付けのFAXにおいても、上記請求項1に特定される事項が出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内であることを釈明しているが、上記FAXに記載された事項を参酌しても、依然として、上記請求項1に特定される事項は出願当初の明細書等には記載されていないし、出願当初の明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。

3.小括
以上のとおり、この出願の明細書等と、もとの特許出願である原出願の出願当初の明細書等を比較すると、この出願の明細書等である平成27年9月24日付け手続補正書の請求項1の記載は、上記の理由により、原出願の出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえないから、この出願の明細書等に記載された事項は、原出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内であるとはいえず、要件3を満たしていない。

したがって、この出願は要件3を満たしておらず、適法な分割出願であるとはいえないので、出願時遡及は認められず、この出願の請求項1?23に係る発明についての特許法第29条第1項第3号第29条第2項、特許法第29条の2等の規定に関する判断の基準日は、この出願の現実の出願日である平成25年12月25日である。

第4 特許法第29条第1項第3号、または同法第29条第2項について
1.本願発明
この出願の請求項7に係る発明は、平成27年9月24日付け誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項7に係る発明(以下、「本願発明7」という。)は、次のとおりである。

【請求項7】
胎児を妊娠した女性の対象の生物学的試料中の胎児の異数性の存否を判定する方法であって、当該生物学的試料が、胎児及び女性の対象の細胞から遊離したゲノムDNAを含有し、当該方法が:
当該生物学的試料中の第一の染色体上の第一の特定の標的遺伝子座、及び1つ以上の第二の染色体上の第二の特定の標的遺伝子座からのDNAを増大(enrich)して、増大した試料を取得する工程;
当該増大した試料中のDNA分子をシークエンシングして、配列タグを取得する工程;
第一の染色体上の第一の特定の標的遺伝子座からの第一の配列タグの量を決定する工程;
1つ以上の第二の染色体上の第二の特定の標的遺伝子座からの第二の配列タグの量を決定する工程;
当該第一の量と第二の量との比較に基づき、第一の染色体において胎児の異数性が存在するか否かを判定する工程;
を含む、方法。

2.刊行物に記載された事項
平成29年6月6日付け拒絶理由通知書で引用した下記の刊行物について、以下「引用文献1」という。

引用文献1:特表2010-534068号公報

引用文献1には、以下の記載がある。

(1)「【0223】
VII.エマルジョンPCR及びその他の方策を使用する、超並列ゲノムシークエンシング
ここで、発明者らは、核酸分子のデジタル読出しが、母体血漿中のトリソミー21等の胎児染色体異数性の検出に使用され得るというもう一つの例を記載する。胎児染色体の異数性は、染色体又は染色体領域の量が異常であることにより引き起こされる。誤診断を最少化するために、非侵襲的検査は、高い感受性及び特異性を有することが望ましい。しかしながら、胎児DNAは母体血漿及び血清中で絶対的に低濃度で存在し、全てのDNA中ごく一部を占めるに過ぎない。よって、特定の遺伝子座を標的とするデジタルPCRサンプリングの数は、同一の標本中で無限に増大させることは出来ない。故に、実行されるデジタルPCRサンプリングの数を増大させずに、1つの標本から取得され得るデータの量を増大させるのに、特異的な標的遺伝子座の複数のセットの解析が用いられ得る。」(【0223】)

(2)「【0227】
一つの態様において、ランダムシークエンシングは、妊婦の血漿中に存在するDNA断片に対して行われ、これにより母親又は胎児のいずれかを起源とするゲノム配列が得られる。ランダムシークエンシングは、生体試料中に存在する核酸分子のランダムな部分をサンプリング(シークエンシング)することを含む。配列がランダムであるから、核酸分子(即ちそのゲノム)の異なる小集団(分画)は、各解析においてシークエンシングされ得る。態様によっては、同一の試料を使用しているにも拘らず試料毎に、及び解析毎にこの小集団が変化するときであっても作用し得る。分画の例は、ゲノムの約0.1%、0.5%、又は1%である。他の態様において、この分画は、少なくともこれらの数値のいずれか1つである。
【0228】
バイオインフォマティクスの手法がその後、これらのDNA配列の各々をヒトゲノムへと配置するために使用され得る。かかる配列は、ヒトゲノムの繰り返し領域、または個体間変動、例えばコピー数変動を受ける領域において存在するため、かかる配列比率は、その後の解析から排除される可能性がある。目的の染色体の量、および一つ以上の他の染色体の量がこのようにして決定され得る。
【0229】
一つの態様において、染色体異数性に潜在的に関与する染色体、例えば第21番染色体、第18番染色体、または第13番染色体のパラメーター(例えば分数表示(fractional representation))はしたがって、バイオインフォマティクスの手順の結果から計算され得る。当該分数表示は、全ての染色体配列(例えば臨床的に重要な染色体を含む全ての染色体の幾つかの測定)、または特定の染色体小集団(例えば試験されるもの以外のちょうど一つのもの)の量に基づいて得られる。
【0230】
一つの態様において、パラメーター(例えば、臨床的に重要な染色体の分数表示)はその後、正常の(すなわち正倍数体の)胎児に関与する妊娠において確立された基準範囲と比較される。」(【0227】?【0230】)

(3)「【0232】
超並列ゲノムシークエンスアプローチの一つの側面において、全ての染色体から代表的データが、同時に生産され得る。特定の断片の起源は、予め選択されない。シークエンシングはランダムに行われ、それからデータベース検索が行われ、特定の断片がどこに由来するかを確認する。これを、第21番染色体由来の特定の断片と、第1番染色体由来のもう一つが増幅された状況と対比する。
【0233】
一つの実施例において、かかる配列の割合は、異数性に関与する染色体、例えば本実例において第21番染色体から得られる。かかるシークエンシングの実行により得られたさらに別の配列は、他の染色体に由来し得る。他の染色体と比較した、第21番染色体の相対的大きさを考慮することによって、基準範囲内における、かかるシークエンシングから第21番染色体特異的配列を引き当てる正規化頻度を得ることができる。胎児がトリソミー21を有するならば、かかるシークエンシングから、第21番染色体由来配列を引き当てる正規化頻度は増加し、したがってトリソミー21の検出を可能とするだろう。正規化頻度における変化の程度は、分析試料中における胎児核酸の分別濃度に依存するだろう。
【0234】
一つの態様において、ヒトゲノムおよびヒト血漿DNA試料の単一端シークエンシングのために、我々はIlluminaゲノムアナライザーを使用した。Illuminaゲノムアナライザーは、フローセルと呼ばれる固体表面上に捕獲された、クローン的に増大された単一のDNA分子をシークエンシングする。各々のフローセルは、8個の個々の標本または標本のプールをシークエンシングするための8つのレーンを有する。各々のレーンは、ヒトゲノム中における30億塩基対の配列の一部のみである、約200Mbの配列を生じさせることが可能である。各々のゲノムDNAまたは血漿DNA試料は、一つのフローセルのレーンを使用してシークエンシングされた。生じた短い配列タグは、ヒト基準ゲノム配列と整列され、そして染色体の複製起点が示された。各々の染色体に整列された、個々のシークエンシングされたタグの総数は表にされ、そして基準ヒトゲノムまたは非疾患性の代表的標本から期待される各々の染色体の相対的なサイズと比較された。染色体の獲得または喪失はその後同定された。」(【0232】?【0234】)

(4)「【0236】
別の態様において、一回の反応においてシークエンシングされる核酸プール画分は、シークエンシング前にさらに補助的に選択される。例えば、ハイブリダイゼーション型の技術、例えばオリゴヌクレオチドアレイは、特定の染色体、例えば潜在的に異数性の染色体および試験された異数性に関与しない他の染色体(単数または複数)から、核酸配列を初めに補助的に選択するために使用され得る。別の例は、試料プールからの核酸配列の特定の下位群が、シークエンシング前に補助的に選択されるか、または増大される。」(【0236】)

3.当審の判断
(1)引用文献1に記載された発明
2.(1)?(4)の記載から、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「妊婦の血漿中の胎児染色体の異数性を同定するための方法であって、該血漿は、母親および胎児を起源とするゲノムDNAを含み、該方法は、
該血漿中のゲノムDNA断片のランダムシークエンシングを行い、各断片のDNA配列を得る工程、
データベース検索を行い、該DNA断片の各々がヒトゲノムのどの染色体に由来するかを確認する工程、
異数性に関与する染色体の、他の染色体に対する相対的サイズを、基準ヒトゲノムまたは非疾患性の代表的標本から期待される該染色体の相対的サイズと比較する工程、
該染色体の獲得または喪失を同定する工程。」(以下、「引用発明1」という。)

(2)本願発明7と引用発明1の対比
ここで、引用発明1における「断片のDNA配列」は、本願発明7における「配列タグ」に相当する。
そうすると、本願発明7と引用発明1とを対比すると、両者は、
「胎児を妊娠した女性の血漿中の胎児の異数性の存否を判定する方法であって、当該血漿が、胎児及び女性の対象由来のゲノムDNAを含有し、当該方法が:
試料中のDNA分子をシークエンシングして、配列タグを取得する工程;
特定の染色体からの配列タグの量を決定する工程;
他の染色体からの配列タグの量を決定する工程;
当該特定の染色体からの配列タグの量と、他の染色体からの配列タグの量との比較に基づき、特定の染色体において胎児の異数性が存在するか否かを判定する工程;
を含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)本願発明7は、「血漿中の第一の染色体上の第一の特定の標的遺伝子座、及び1つ以上の第二の染色体上の第二の特定の標的遺伝子座からのDNAを増大(enrich)して、増大した試料を取得する工程」を含むと特定されているのに対し、引用発明1は、そのような特定がされていない点

(3)判断
上記相違点について検討する。
2.(4)に記載したとおり、引用文献1には、試料プールからの核酸配列の特定の下位群が、シークエンシング前に補助的に選択されるか、または増大されること、つまり、血漿試料中の特定の核酸配列群がシークエンシングの前に増大されることが記載されており、また、「核酸配列の特定の下位群」とは、複数の核酸を含むものであるから、本願発明7の「第一の染色体上の第一の特定の標的遺伝子座、及び1つ以上の第二の染色体上の第二の特定の標的遺伝子座からのDNA」に相当する。
したがって、上記相違点は、実質的な相違点に当たらない。

したがって、本願発明7は、引用発明1と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明7は、引用例1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項7に係る発明は、引用文献1に記載された発明と同一であるか、引用文献1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-26 
結審通知日 2018-03-27 
審決日 2018-04-09 
出願番号 特願2013-267526(P2013-267526)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C12Q)
P 1 8・ 121- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 耕一郎  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 松田 芳子
高堀 栄二
発明の名称 標的増幅及びシークエンシングを使用した非侵襲的な胎児遺伝子型スクリーニング  
代理人 福本 積  
代理人 古賀 哲次  
代理人 大島 浩明  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 武居 良太郎  

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