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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1343482
審判番号 不服2017-2091  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-13 
確定日 2018-08-22 
事件の表示 特願2014-504279「流体に対して高バリア性を有するタンクの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日国際公開、WO2012/140010、平成26年 8月 7日国内公表、特表2014-518779〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年4月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年4月11日 フランス)を国際出願日とする出願であって、平成27年11月13日付け(発送日:同年11月17日)で拒絶理由が通知され、平成28年5月17日に手続補正書及び意見書が提出され、同年9月30日付け(発送日:同年10月11日)で拒絶査定がされたところ、これに対して、平成29年2月13日に拒絶査定不服審判が請求され、同年11月8日付け(発送日:同年11月14日)で当審から拒絶理由が通知され、平成30年2月14日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成30年2月14日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであって、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「少なくとも次の段階:
a)ポリアミド組成物を射出成形することによる1つ以上の構成要素の製造と、
b)タンクを得るために、段階a)で得られた前記1つまたは複数の構成要素を、任意選択的に1つ以上の他の構成要素と組み立てることと
を含む、流体に対して高バリア性を有する前記タンクの製造方法であって、
前記ポリアミド組成物が、5重量%?40重量%の衝撃強度を改良する試剤を含み、かつ次の特性:
- 1000秒^(-1)の剪断勾配およびポリアミドの融点+35℃に等しい温度で、標準ISO 11443に従って測定される、50?700Pa.sの溶融粘度、および
- 40℃の温度および20%の相対湿度で測定される、10g.mm/m^(2).日以下
のガソリンSP95 E10透過率
を示し、
前記試剤が、前記試剤の総重量に対して、
少なくとも20重量%の、ポリアミドと反応する官能基を含む前記衝撃強度を改良する試剤、および/または
少なくとも10重量%の、ポリアミドと反応する官能基を含む相溶化剤
を含み、かつ
前記ポリアミド組成物がシクロデキストリン、シリカ、およびポリフェニレンスルフィド(PPS)を欠き、組成物の総重量に対して1重量%?7重量%の範囲の含有率のノボラック樹脂を含む
方法。」

第3 平成29年11月8日付けの拒絶理由の概要
当審における平成29年11月8日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、概略以下の内容を含んでいる。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・・

・・・
第2 拒絶の理由
1 理由1(第29条第2項)
(1)請求項1ないし15

(2)引用文献等
引用文献1 特表2007-502358号公報
引用文献2 国際公開第2009/069725号
引用文献3 特開昭63-237918号公報
引用文献4 特開2000-117836号公報
引用文献5 特開2000-43145号公報
引用文献6 特開2002-284991号公報
(引用文献1ないし6は、当合議体において新たに引用するものである。)
・・・
(5)引用文献1に記載された発明に基づく進歩性について
ア 本願発明1について
・・・
f まとめ
したがって、本願発明1は、引用製法発明1、すなわち、引用文献1に記載された発明および周知技術から当業者が容易に想到し得た発明である。
・・・」

第4 当審拒絶理由についての判断
1 刊行物の記載事項
引用文献1には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
内燃機関で使用される燃料の輸送または貯蔵に適し、流体透過バリヤ特性が改善され、
(a)100重量部のポリアミドと、
(b)5?50重量部のフェノールノボラック樹脂と
を含むポリアミド樹脂組成物から作製されることを特徴とする成形品。
【請求項2】
さらに、組成物の全重量を基準として5?40重量パーセントのエチレン/α-オレフィンコポリマー衝撃改質剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の成形品。
【請求項8】
燃料タンクの形態であることを特徴とする請求項1に記載の成形品。」(特許請求の範囲 請求項1、2および8)

(イ)「(ポリアミド)
本発明で使用するポリアミドは、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、またはより高い次元のポリマーとすることができる。これは、2つ以上のポリアミドのブレンドとすることもできる。適切な脂肪族ポリアミドの例は、ポリアミド6、66、46、610、69、612、10、10、11、12である。テレフタル酸およびその誘導体やイソフタル酸およびその誘導体のようなモノマーから誘導された芳香族ポリアミドを使用することもできる。例としては、6T/66、6TXT、MXD6、6T/6I、9T、および10Tがある。ただし、「T」は、テレフタル酸またはその誘導体から誘導されたポリマーを指し、「MXD」は、m-キシリレンジアミンを指す。ポリアミドと熱可塑性ポリマーのブレンドを使用することもできる。
ポリアミドは、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、もしくはその誘導体、他の脂肪族および芳香族ジカルボン酸、ならびに脂肪族アルキレンジアミン、芳香族ジアミン、ならびに/または脂環式ジアミンから誘導することができる。また、ラクタムまたはアミノ酸から誘導することもできる。
脂肪族ポリアミドコポリマーまたは脂肪族ポリアミドターポリマーの例としては、ポリアミド66/6コポリマー、ポリアミド66/68コポリマー、ポリアミド66/610コポリマー、ポリアミド66/612コポリマー、ポリアミド66/10コポリマー、ポリアミド66/12コポリマー、ポリアミド6/68コポリマー、ポリアミド6/610コポリマー、ポリアミド6/612コポリマー、ポリアミド6/10コポリマー、ポリアミド6/12コポリマー、ポリアミド6/66/610ターポリマー、ポリアミド6/66/69ターポリマー、ポリアミド6/66/11ターポリマー、ポリアミド6/66/12ターポリマー、ポリアミド6/610/11ターポリマー、ポリアミド6/610/12ターポリマー、およびポリアミド6/66/PACM(ビス-p-(アミノシクロヘキシル)メタン)ターポリマーがある。
これらのうち、ポリアミド66/6コポリマー、ポリアミド6/66/610ターポリマー、ポリアミド6/66/612ターポリマー、および2つ以上のこれらポリマーの混合物が好ましい。特に好ましいのは、ポリアミド66単位とポリアミド6単位のモル比が98:2?2:98であるポリアミド66/6コポリマー;・・・
ポリアミド66、11、12、6/10、6/12、および10/10は、流体(液体と気体)燃料材料の透過に対して良好なバリヤ特性、ならびに良好な機械的諸特性、成形適性、および耐薬品特性を必要とする用途で使用するための物品を成形する際に使用する場合特に有利である。燃料材料は、炭化水素、またはアルコールなど他の燃料を含む炭化水素であることが好ましい。・・・」(段落【0011】?【0015】)

(ウ)「 (フェノールノボラック樹脂)
本発明で使用するフェノールノボラック樹脂は、通常のプラスチック成形品用の樹脂で使用できる範囲で制限されない。本発明で使用するフェノールノボラック樹脂の量は、上述のポリアミド100重量部を基準として5?50重量部、または好ましくは10?30重量部である。5重量部未満しか存在しない場合、溶融状態において流動性が高く、流体透過バリヤ特性が改善された組成物を得ることができない。50重量部を超えて存在する場合、物理的諸特性は著しく低下する。
(衝撃改質剤)
本発明のポリアミド樹脂組成物は、任意選択的に、エチレン-α-オレフィンからなるエラストマー、エチレン-プロピレン-ジエンからなるエラストマー、およびエチレン-不飽和カルボン酸からなるエラストマー、エチレン-不飽和カルボン酸エステルからなるエラストマー、エチレン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルからなるエラストマー、α-オレフィン-不飽和カルボン酸エステルからなるエラストマー、α-オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルからなるエラストマー、エチレン-α-オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステルからなるエラストマー、および上記に記載したエラストマーのグラフト改質材料からなる群から選択される少なくとも1種を含む改質ポリマーを含むエラストマー衝撃改質剤をさらに含むことができる。2つ以上の未改質エラストマー、または改質エラストマーをブレンドすることもできる。上記に記載した未改質エラストマーの少なくとも1種、および上記に記載した改質エラストマーの少なくとも1種をブレンドすることもできる。本質的にカルボン酸-無水カルボン酸で改質されたエチレン-プロピレン-ジエンからなるエラストマーを使用できることが好ましい。本質的に無水カルボン酸で改質されたエチレン-プロピレン-ジエンからなるエラストマーは、例えばエチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエンとエチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエン-g-無水マレイン酸の混合物;エチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエン/ノルボマジエン-g-無水マレイン酸フマル酸;エチレン/1,4-ヘキサジエン/ノルボマジエン-g-無水マレイン酸モノエチルエステル;エチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエン/ノルボマジエン-g-フマル酸;エチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエンとエチレン/無水マレイン酸モノエチレンエステルの混合物;エチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエンとエチレン/マレイン酸モノブチルエステルの混合物;エチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエンとエチレン/無水マレイン酸の混合物などとすることができる。」(段落【0016】?【0017】)

(エ)「燃料関連の用途のための部品の多くは、このような部品とともに使用する燃料に対して低透過性を示さなければならない。本発明の物品は、燃料関連の用途、および良好なバリヤ特性を有する物品が液体または気体燃料に対して低い程度の透過性を必要とする他の用途で使用するためのものである。このような応用例には、自動車および貨物自動車、レクリエーション用自動車、芝刈り機、農機具など内燃機関で使用する燃料の輸送または貯蔵に適した物品が含まれる。このような燃料の例は、ガソリン、ディーゼル燃料、および他の炭化水素系燃料である。炭化水素系燃料は、アルコールなど別の成分を含むことがある。アルコールは、メタノールおよび/またはエタノールを含むことがある。本発明の物品の例は、キャニスタ(cannister)、炭素キャニスタケース、燃料弁、燃料注入口、燃料絞り部(fuel neck)、燃料ライン、および燃料タンクである。
本発明の物品は、射出成形、吹込成形、押出、熱成形など知られている任意の手段で形成することができる。」(段落【0022】?【0023】)

(オ)「(実施例1、および比較例1)
成分をドライブレンドし、次いで東芝(Toshiba)によって製造された二軸押出機TEM-35を使用して、温度295℃、スクリュー速度200rpmで混合した。押出機を出ると、溶融ポリマーを水浴で急冷し、ペレット化した。
流体透過性の測定用のディスク(厚さ1/16インチ、直径3インチ)を作製し、(非特許文献1)に従って、40℃で実施した。
表1に示す成分は以下の通りであった。
ナイロン66:ポリアミド66(本願特許出願人製造のザイテル(Zytel(登録商標))FE1111)
ノボラック樹脂:フェノールおよびホルムアルデヒドから調製した数平均分子量約1060のノボラック樹脂
改質EPDM:無水マレイン酸でグラフトしたEPDM(エチレン/プロピレン/ジエンポリオレフィン)
【表1】

下記の表に、透過性試験の結果を示す。
(表2)
流体透過性バリヤ試験は、ガソリン中10%エタノールを使用し、飽和点、40℃での減量速度を決定することによって実施した。
【表2】

実施例1と比較例1の流体透過速度を比較すると、ノボラック添加が流体透過バリヤ特性に対して有効であることが理解できる。」(段落【0025】?【0032】)

2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記摘示(ア)の請求項1、2および8より、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関で使用される燃料の貯蔵に適し、流体透過バリヤ特性が改善され、
(a)100重量部のポリアミドと、
(b)5?50重量部のフェノールノボラック樹脂と
さらに、組成物の全重量を基準として5?40重量パーセントのエチレン/α-オレフィンコポリマー衝撃改質剤を含むポリアミド樹脂組成物から作製され、
燃料タンクの形態である成形品の製造方法。」

3 対比判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリアミド」は、本願発明の「ポリアミド」に相当する。
引用発明の「フェノールノボラック樹脂」は、本願発明の「ノボラック樹脂」に相当する。
引用発明の「エチレン/α-オレフィンコポリマー衝撃改質剤」は、本願発明の「衝撃強度を改良する試剤」に相当し、その配合量について、両者は一致する。
引用発明の「ポリアミド樹脂組成物」は、本願発明の「ポリアミド組成物」に相当する。
引用発明は、シクロデキストリン、シリカおよびポリフェニレンスルフィド(PPS)を含んでいないから、本願発明の「ポリアミド組成物がシクロデキストリン、シリカおよびポリフェニレンスルフィド(PPS)を欠」くことに該当する。
引用発明の「内燃機関で使用される燃料の貯蔵に適し、流体透過バリヤ特性が改善され、ポリアミド樹脂組成物から作製され」、「燃料タンクの形態である成形品の製造方法」は、本願発明の「流体に対して高バリア性を有するタンクの製造方法」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、

[一致点]
「流体に対して高バリア性を有するタンクの製造方法であって、
ポリアミド組成物が、5重量%?40重量%の衝撃強度を改良する試剤を含み、
前記ポリアミド組成物がシクロデキストリン、シリカおよびポリフェニレンスルフィド(PPS)を欠き、ノボラック樹脂を含む、方法。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
衝撃強度を改良する試剤に関し、本願発明は「試剤の総重量に対して、少なくとも20重量%の、ポリアミドと反応する官能基を含む前記衝撃強度を改良する試剤」を含むと特定するのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
ポリアミド組成物の溶融粘度に関し、本願発明は対象物を「1000秒^(-1)の剪断勾配およびポリアミドの融点+35℃に等しい温度で、標準ISO 11443に従って測定される、50?700Pa.sを示す」と特定するのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。

[相違点3]
ポリアミド組成物のガソリンSP95 E10透過率に関し、本願発明は対象物を「40℃の温度および20%の相対湿度で測定される、10g.mm/m^(2).日以下」と特定するのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。

[相違点4]
製造方法に関し、本願発明は「少なくとも次の段階: a)ポリアミド組成物を射出成形することによる1つ以上の構成要素の製造と、 b)タンクを得るために、段階a)で得られた前記1つまたは複数の構成要素を、任意選択的に1つ以上の他の構成要素と組み立てることとを含む」と特定するのに対して、引用発明は、製造方法の内容の特定がない点。

[相違点5]
ノボラック樹脂の含有率に関し、本願発明は「組成物の総重量に対して1重量%?7重量%の範囲」と特定するのに対し、引用発明はポリアミド100重量部に対し5?50重量部で配合するものの、組成物の総重量についての特定がない点。

(2)判断
ア 相違点1
本願明細書の段落【0054】には、ポリアミドと反応する官能基を含む耐衝撃性改良材として、無水マレイン酸を含むコポリマーが多く挙げられている。
ここで、引用文献1には、上記摘示(ウ)に衝撃改質剤として、複数のものが示された上で、本質的にカルボン酸-無水カルボン酸で改質されたエチレン-プロピレン-ジエンからなるエラストマーを使用できることが好ましいことが記載され、上記摘示(オ)の実施例において、無水カルボン酸として代表的な無水マレイン酸でグラフトしたEPDMのみを衝撃改質剤とすることが記載されており、これらの記載より、引用文献1には、衝撃改質剤の主成分としてポリアミドと反応する官能基である無水マレイン酸で改質したエチレン-プロピレン-ジエン(EPDM)を選択することが示されているといえる。
そうすると、引用発明において、エチレン/α-オレフィンコポリマー衝撃改質剤として、無水マレイン酸で改質したエチレン-プロピレン-ジエン(EPDM)を主成分とする、すなわち、少なくとも20重量%含むようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明で上記相違点1に係る発明特定事項としたことにより、格別顕著な効果を奏すると認めることができない。

イ 相違点2
引用文献1には、上記摘示(エ)に射出成形などの知られた手段で成形することが記載されている。
そして、射出成形において、材料の成形加工特性を最適化して目的の性能を有する成形品を得ることが重要であること及び主要な成形加工特性として流動性が挙げられ、流動性を左右する材料要因は溶融粘度であることはそもそも周知な事項である(射出成形事典 編集委員会 「射出成形事典」 産業調査会 事典出版センター発行 初版第1刷 2002年4月27日 p58-65 2.3 成形加工特性 の項及び2.3.3 流動性の項参照)。
他方、本願明細書には、溶融粘度の範囲の意味について直接の記載はないものの、段落【0011】の課題を解決するための手段の記載を踏まえると、相違点2に係る溶融粘度の範囲は、射出成形できる粘度の範囲を意味すると推測され、また、本願明細書に記載される、ポリアミドを組成物中に66?80重量%含む実施例及びポリアミドを組成物中に96重量%含む比較例のいずれにおいても、上記溶融粘度は50?700Pa.sの範囲内にある。そうすると、上記溶融粘度の範囲について臨界的意義は認められない。
したがって、引用発明において、射出成形するために粘度を調整し、上記特定の範囲とすることは当業者が容易になし得たことである。
また、本願発明で上記相違点2に係る発明特定事項としたことにより、格別顕著な効果を奏すると認めることができない。

ウ 相違点3
引用文献1には、上記摘示(オ)の実施例において、ガソリン中10%エタノールに対する流体透過性バリア試験が行われ、良好な流体透過バリア特性が示すことが記載されていることから、燃料タンクの形態である成形品の製造方法の引用発明においては、上記特定の透過率についての条件を満たすと解される。
よって、相違点3は実質的な相違点ではない。
また、実質的に相違するとしても、引用発明も流体透過バリア特性を改善するものであるから、所望の流体透過バリア特性を得るように、組成物の配合を調整することは当業者が適宜なし得たことであって、その効果も予期し得るものである

エ 相違点4
引用文献1には、上記摘示(エ)に、本発明の物品が射出成形などの知られている手段で形成することができることが記載されている。
そして、燃料タンクの製造方法として、射出成形によりタンクの構成部品を成形し、該構成部品同士を組み立てて、あるいは、他の構成部品と組み立てて行う手法は周知の手法である(例えば、引用文献3の特許請求の範囲、第1頁右下欄第5行?第6行、第2頁右上欄第16行?第3頁左上欄第9行、第1図?第6図、引用文献4の段落【0001】?【0002】、【0018】?【0019】、【0031】、図1、図3、引用文献5の請求項1、4、8、9、段落【0006】、【0021】?【0028】、図1?図12、引用文献6の特許請求の範囲、段落【0035】?【0036】、図2参照。)。
そうすると、引用発明の燃料タンクの形態である成形品の製造方法として、上記周知の手法を採用することは当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明で上記相違点4に係る発明特定事項としたことにより、予想外の格別顕著な効果を奏すると認めることができない。

オ 相違点5
引用発明において、ポリアミド100重量部、フェノールノボラック樹脂5?50重量部、エチレン/α-オレフィンコポリマー衝撃改質剤が組成物の全重量を基準として5?40重量パーセントであるから、各成分の配合量割合からポリアミド樹脂組成物におけるフェノールノボラック樹脂の割合を算出すると、(100-40)×(5?50)/(100+(5?50))?(100-5)×(5?50)/(100+(5?50))≒2.9重量%?31.7重量%であって、本願発明で特定される割合と重複一致している。
そして、引用文献1には上記摘示(ウ)にフェノールノボラック樹脂の量は、ポリアミド100重量部を基準として好ましくは10?30重量部であることが記載されており、この好ましい範囲とした場合、ポリアミド100重量部、フェノールノボラック樹脂10?30重量部、エチレン/α-オレフィンコポリマー衝撃改質剤が組成物の全重量を基準として5?40重量パーセントであるから、各成分の配合量割合からポリアミド樹脂組成物におけるフェノールノボラック樹脂の割合を算出すると、(100-40)×(10?30)/(100+(10?30))?(100-5)×(10?30)/(100+(10?30))≒5.5重量%?21.9重量%であるから、好ましい範囲とした場合であっても、本願発明で特定される割合と重複一致する。
よって、相違点5は実質的な相違点ではない。

仮に、実質的に相違するとした場合についても検討する。
まず、上記で述べたように、引用発明と本願発明とはノボラック樹脂の含有率について重複してはおり、引用発明において、バリヤ性や物理的諸特性を考慮して(段落【0016】)フェノールノボラック樹脂の配合量を特定される範囲内で調整することは適宜行うことであって、本願発明の範囲とすることも当業者が適宜なし得たことといえる。
そこで、フェノールノボラック樹脂とその配合割合に関し、本願明細書の記載をみると、段落【0056】?【0067】に、「本ポリアミド組成物は、ノボラック樹脂を任意選択的に含むことができる。・・・特に、本組成物が、組成物の総重量に対して、25重量%以上の含有率の衝撃強度を改良する試剤、特にポリオレフィンタイプを含むときに、それは、組成物の総重量に対して、1重量%?7重量%、とりわけ4重量%?6重量%の範囲の、さらには約5重量%の含有率で特に、ノボラックをそれがまた含むために役に立ち得る。・・・ノボラックの存在は特に、機械的特性の特に有利な折衷を得ることを可能にし得る。」と記載されている。
これらの記載より、組成物の総重量に対して、25重量%以上の含有率の衝撃強度を改良する試剤を含むときに、1重量%?7重量%のノボラック樹脂の存在が、機械的特性の特に有利な折衷を得るという効果を奏すると解されるから、当該効果は請求項1の記載された範囲全般に基づくものではなく、本願発明全体の効果とは認められない。
さらに、本願明細書の段落【0080】?【0091】に実施例、比較例が記載されるものの、いずれの例もノボラック樹脂の有無のみならず、主成分であるポリアミドの種類、衝撃強度を改良する試剤であるエラストマーの種類、鎖延長剤であるAralditeの有無などの条件の相違が様々あって、その他の材料組成が共通しノボラック樹脂の有無のみが異なることでノボラック樹脂の効果について対比可能な実施例、比較例は記載されていないから、ノボラック樹脂が寄与する効果が直ちに理解できるような開示はない。
ここで、ポリアミドが線状PA6.6であって、そのVIの値が異なり、Novolac S型のフェノール樹脂(ノボラック樹脂に相当)の有無、Aralditeの有無の点で異なるものの、比較的配合が一応類似している実施例1(ノボラック樹脂を含む実施例に相当。)と実施例2(ノボラック樹脂を含まない比較例に相当。)とを対比する。
23℃でのノッチ付きCharpy衝撃について、ノボラック樹脂及びAralditeを含む実施例1はこれらを含まない実施例2よりも4kJ/m^(2)高いものの、逆に-40℃でのノッチ付きCharpy衝撃について、実施例1は実施例2よりも4kJ/m^(2)低く、ノボラック樹脂を含む実施例1が、機械的特性の折衷の点で特に有利であるともいえない。
そして、バリア性に関するE10透過率について、実施例1が1.7、実施例2が3.7とノボラック樹脂を含む実施例1の方が良好であるものの、引用発明においてもフェノールノボラック樹脂は、バリア性向上のために配合されるものであるから、当該バリア性の効果も予期し得るものである。
そうすると、相違点5の構成を備えることにより、格別顕著な効果が奏されているともいえないから、やはり引用発明において、フェノールノボラック樹脂の配合量を調整し、本願発明の範囲とすることは当業者が適宜なし得たものにすぎない。

カ 平成30年2月14日提出の意見書における主張について
請求人は、平成30年2月14日付けの意見書において、「引用文献1のポリアミド樹脂組成物は、100重量部のポリアミドと5?50重量部のフェノールノボラック樹脂を含みます。ポリアミド組成物に含まれる好ましいフェノールノボラック樹脂の範囲が10?30重量部であると記載されています(引用文献1の[0016])。更に、5重量%未満しか存在しない場合、溶融状態において流動性が高く、流体透過バリヤ特性が改善された組成物を得ることができないことも記載されています([0016])。実施例として、フェノールノボラック樹脂が10重量部含まれるポリアミド樹脂成形用組成物を、引用文献1は実験的に開示しています。しかし、フェノールノボラック樹脂が1?7重量%含まれるポリアミド樹脂成形用組成物は、引用文献1には開示も示唆もされていません。」と主張する。
しかしながら、引用文献1の請求人が指摘する段落【0016】には、フェノールノボラック樹脂の含有量について「ポリアミド100重量部を基準」として5?50重量部とすることが記載されており、「ポリアミド組成物を基準」とすることは記載されてはおらず、上記オの相違点5について述べたとおり、引用発明と本願発明とはノボラック樹脂の含有率について重複しているから、上記主張は採用できない。
そして、フェノールノボラックの配合量については、上記オにおいて述べたとおり、実質的な相違点ではないし、相違するとしても、効果の顕著性も認められないから、重複一致する範囲とすることは当業者が適宜になし得たことである。

キ 小括
したがって、本願発明は、引用発明、すなわち、引用文献1に記載された発明および周知技術(引用文献3ないし6)に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち、平成30年2月14日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-22 
結審通知日 2018-03-27 
審決日 2018-04-09 
出願番号 特願2014-504279(P2014-504279)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 岡崎 美穂
上坊寺 宏枝
発明の名称 流体に対して高バリア性を有するタンクの製造方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  
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