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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1343519
審判番号 不服2016-15355  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-13 
確定日 2018-08-20 
事件の表示 特願2014-125020「光感応性酸発生剤およびそれらを含むフォトレジスト」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日出願公開、特開2014-225023〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年11月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年11月3日 米国)を国際出願日とする特願2002-545309号の一部を、平成20年2月14日に新たな特許出願とした特願2008-32677号とし、その一部を平成24年11月22日に新たな特許出願とした特願2012-255880号とし、その一部を平成26年6月18日に新たな特許出願としたものである。
そして、平成26年7月17日に手続補正とともに上申書が提出され、平成27年6月5日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月4日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年6月6日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年10月13日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「審判請求時の補正」という。)がなされた。
その後、平成29年9月1日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、その応答期間中の平成30年3月5日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。


第2 本件発明
平成30年3月5日になされた本件補正は、明細書の段落【0008】のみを補正するものであって、特許請求の範囲の記載を補正していない。
したがって、本願の請求項1?3に係る発明は、審判請求時の補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「 組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み、その光感応性酸発生剤が放射線で露光されることにより
化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H
(式中、Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル、置換されていてもよい炭素環式芳香族基、置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基であることはなく、CF_(3)(CFH)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはない。)
で表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる、フォトレジスト組成物。」(以下、「本件発明」という。)


第3 当審拒絶理由の概要
1 理由1(サポート要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本件の明細書の段落【0006】、段落【0009】の記載に基づけば、本件発明が解決しようとする課題は、ポジ型、ネガ型のいずれのフォトレジスト組成物においても使用することができる強い酸であって、相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向がないフォトレジスト組成物を提供することであると思われる。
そして、本件明細書には、実施例3として、ジ(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウム1,1-ジフルオロ-1-スルホネート-2-(1-ナフチル)エチレン(化学式IAで、R=R^(1)=4-t-ブチルフェニル;R^(3)=ナフチル;R^(4)=R^(5)=Hである化合物)を合成して化合物が得られたことが記載されており、実施例4として、実施例3により調整した化合物を、レジスト成分、樹脂バインダー、乳酸エチルと共に混合してフォトレジストを調整することが示唆されている。
光感応性酸発生剤化合物を含む化合物に関する技術分野においては、置換基が異なれば、反応性や酸としての強度、溶解性、移動特性など、様々な特性に影響を与えることが知られており、どのような特性となるかは事前に予測がつかず、実際に試みないと分からない分野である。しかしながら、本件明細書には、実施例3として、化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸のうち、RがナフチルでありR^(1)とR^(2)がそれぞれ水素である化合物を発生する光感応性酸発生剤化合物のみが開示されているに過ぎない。実施例3の化合物についてすら、フォトレジスト組成物とした際の、発生する酸の強さや相分離の有無、移動傾向や、解像度などが明らかにされていない。R、R^(1)、R^(2)を、請求項1において特定された範囲の置換基に置き換えた場合に、光官能性酸発生剤化合物として本件発明が解決しようとする課題を解決する化合物が得られるとする根拠が何ら示されておらず、フォトレジスト組成物として必要な特性を備えるかどうかも実証されていないから、そのような化合物を含む本件請求項1?3に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2 理由2(明確性)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

一般に、「アルキル基」とは、「パラフィン炭化水素から水素1原子を除いた残りの原子団.すなわち一般式C_(n)H_(2n+1)で表される1価の基.」(岩波 理化学事典 第5版,岩波書店)を意味する技術用語であるから、一般的な技術用語の定義に基づけば、「アルキル」には、脂環式基は含まれないと解釈するべきである。しかしながら、段落【0008】の記載によると、C_(4-20)アルキルについて、好ましくは脂環式基と記載されており、脂環式基が、アルキルに包含されるように記載されている。そうすると、本件請求項1?3に係る発明における「C_(1-20)アルキル」に脂環式基が含まれるのか否かが不明確となっており、特許を受けようとする発明の範囲を特定できない。
以上より、請求項1?3に係る発明の記載は不明確である。

3 理由3(進歩性)
本件出願の下記の請求項に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)請求項1?3に係る発明は、引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)請求項1に係る発明は、引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、請求項2,3に係る発明は、引用文献2の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)請求項1?3に係る発明は、引用文献3の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 理由4(拡大先願)
本件出願の下記の請求項に係る発明は、その優先権主張の日前の特許出願であって、その優先権主張の日後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその優先権主張の日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

請求項1?3に係る発明は、引用出願4に記載されていたに等しい発明である。

<引用文献等一覧>
1.特開2000-147753号公報
2.旧東ドイツ国経済特許第295421号明細書
3.特開平8-53442号公報
4.特願2000-321128号(特開2002-131897号)


第4 判断
1 理由1(サポート要件)
(1)本件出願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(下線は合議体が付与した。)
ア 技術分野
「【技術分野】
【0001】
背景技術
1.技術分野及び背景技術
本発明は、新規な光感応性酸発生剤化合物(PAGs)およびそれらの化合物を含むフォトレジスト組成物に関する。詳しくは、本発明は、放射線で露光されることによりα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる光感応性酸発生剤化合物に関する。ポジ型およびネガ型の化学的に増幅されたレジストは、このようなPAGsを含み、たとえばサブ300nmおよびサブ200nmのような短い波長の放射線で像を形成するものが特に好まれている。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術
フォトレジストは、基板に像を転写するための感光性の膜である。それらはネガまたはポジの像を形成する。基板の上にフォトレジストを塗布してから、その塗膜を紫外光線のような活性化エネルギー源にパターンを有するフォトマスクを介して露光すると、フォトレジスト塗膜に潜像が形成される。このフォトマスクには放射線を透過しない領域と透過する領域があり、それによって下層の基板に所望の像が転写される。このレジスト塗膜の潜像パターンを現像すると、レリーフ像が得られる。

(中略)

【0005】
最近になって、ある種の「化学的に増幅された」フォトレジスト組成物が報告されるようになってきた。そのようなフォトレジストはネガ型でもポジ型でもよく、光で生成した酸の単位あたりで、複数の架橋反応(ネガ型レジストの場合)または脱保護反応(ポジ型レジストの場合)を起こす原理によっている。言い換えれば、光で生成した酸が触媒的にはたらくのである。ポジ型の化学増幅レジストの場合、ある種のカチオン性光開始剤を用いて、フォトレジストバインダーに懸垂しているある種の「ブロック」基を脱離させたり、フォトレジストバインダーの主鎖を構成するある種の基を脱離させている。たとえば、米国特許第5,075,199号、同第4,968,581号、同第4,883,740号、同第4,810,613号、同第4,491,628号、および、カナダ国特許出願第2,001,384号を参照されたい。そのようなレジストの塗膜層を露光させてブロック基を選択的に脱離させることで、極性官能基、たとえばカルボキシル、フェノールまたはイミド基を生成させると、その結果、レジストの塗膜層中の露光された領域と露光されない領域の間で溶解特性に差が生じることになる。」

イ 発明の概要
「【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、新規な光感応性酸発生剤化合物(PAGs)を発見したが、これらはポジ型、ネガ型のいずれのフォトレジスト組成物においても使用することができる。特に、放射線に露光されることにより任意に置換されるα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を生成する光感応性酸発生剤が得られる。
【0007】
ここで述べられるα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸とは、そのアルキル基部分がすべての置換可能な位置で、フッソ原子により完全には置換されていない、すなわちそのアルキル基はパーフルオロ基ではないが、スルフォン酸基に連接する炭素原子(即ち、α)で2つのフッ素原子が置換されている(即ち-CF_(2)-基)を有するアルキルスルホン酸のことである。たとえば、好適なα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸は化学式RCF_(2)SO_(3)Hで表されるものを含んでおり、この式において、Rはフッ素以外、たとえば水素、置換されていてもよいC_(1-18)アルキル基であって、フッ素原子や他のハロのような他の電子吸引基によって完全には置換されていないものであり、置換されていてもよいアリール基、たとえば置換されていてもよい炭素環式芳香族基とくにフェニル、ナフチルまたはアントラセニル、または置換されていてもよいヘテロ脂環式基またはヘテロ芳香族基であって、好ましくは1から3個の多環または縮合環を有し、環の構成員は1?3のヘテロ原子(N、OまたはS)である、たとえば置換されていてもよいチエニル基などである。
【0008】
一般に好ましいα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸は化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表されるものを含み、この式において、Rは比較的大きな容積の基、たとえば置換されていてもよいC_(4-20)アルキルであり;好ましくは脂環式基、たとえばシクロヘキシル、アダマンチルなど;置換されていてもよい炭素環式芳香族基、たとえば置換されていてもよいフェニル、ナフチルまたはアントラセニル;または置換されていてもよいヘテロ脂環式基またはヘテロ芳香族基であって、好ましくは1から3個の多環または縮合環を有し、環の構成員は1?3のヘテロ原子(N、OまたはS)である、たとえば置換されていてもよいチエニル基などであり;そしてR^(1)とR^(2)はそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基であり、好ましくはR^(1)とR^(2)はそれぞれ水素である。
【0009】
我々は、本願のPAGを含むフォトレジストが優れたリソグラフィックの結果を示すことができることを発見した。とりわけ、光発生するα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸は強い酸であるが、相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向がない。さらに、大きな容積の基、たとえば炭素、ヘテロ脂環式基やアリール基などを含むことにより、リソグラフィック効果に好ましい影響を与えうるレジスト形成のさらに進んだ技術を可能とする。
【0010】
α, α-ジフルオロアルキルスルホン酸は、様々な光反応分子から光発生し得るものであり、非イオン化合物だけでなく、たとえばオニウム塩のようなイオン化合物も含んでいる。一般に好ましい本願のPAG化合物は、光活性化することによりα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生することができ、次のようなオニウム化合物を含む;スルホニウムおよびヨードニウム化合物;およびスルホネート化合物、たとえばN-オキシイミドスルホネート、N-オキシイミノスルホネート、フェノリックスルホネート、アリールアルキルスルホネート、特にベンジリックスルホネート;ジスルホン;ジアゾスルホン;α,α-メチレンジスルホン、ジスルホニルヒドラジンなどである。
【0011】
本発明の好ましい光酸発生剤化合物は、次の置換基を1または複数有するものを含む;シクロペンチル、シクロヘキシル、置換されていてもよいフェニル、ペンタフルオロフェニル、置換されていてもよいチエニル、置換されていてもよいナフチル、置換されていてもよいアダマンチル、または置換されていてもよいイソボニルなどであり、とくにこのような置換基は、その化合物を光活性化することによりスルホン酸を合成する光酸発生剤化合物の部分である。

(中略)

【0013】
本発明のPAGsは、ポジ型またはネガ型の化学増幅フォトレジストに好適に使用される。すなわち、ネガ型レジスト組成物では、光感応性酸により促進される架橋反応が起こり、レジストの塗膜層で露光された部分が非露光部分よりも現像剤に溶解しにくくなるし、またポジ型レジスト組成物では、1または複数の組成物成分の酸に不安定な基で光感応性酸により促進される脱保護反応が起こり、レジストの塗膜層で露光された部分が非露光部分よりも水性現像剤に溶解しやすくなるのである。像を形成するのに好ましい波長は、サブ300nmおよびサブ200nm、たとえば248nm、193nmおよび157nmである。I線(365nm)のようなより長い波長も使用でき、特にその場合は増感剤が追加のレジスト成分として使用される。
【0014】
本発明の特に好ましいフォトレジストは、本願で開示されるように像を形成するのに効果的な量である1または複数のPAGsおよび以下のグループより選ばれる樹脂を含んでいる;
【0015】
1)248nmで像を形成するのに特に適した化学増幅されたポジ型レジストを与えることが可能な、酸に不安定な基を含むフェノール樹脂。このタイプの樹脂として特に好ましい樹脂は、次のようなものである:i)ビニルフェノールとアルキルアクリレートの重合単位を有するポリマーであり、重合させたアルキルアクリレート(これにはメタクリレートも含む)単位が光感応性酸の存在下で脱ブロック反応できるもの。光感応性酸誘導脱ブロック反応することが可能なアルキルアクリレート(これにはメタクリレートも含む)を例示すれば、たとえば、t-ブチルアクリレート、t-ブチルメタクリレート、メチルアダマンチルアクリレート、メチルアダマンチルメタクリレート、および光感応性酸誘導反応が可能なその他の非環状アルキルアクリレートおよび脂環式アクリレート(これにはメタクリレートも含む)があり;そのようなポリマーについては、米国特許第6,042,997号および同第5,492,793号(ここに引用することにより、本明細書に取入れたものとする)に記載されている;ii)ビニルフェノール、置換されていてもよいビニルフェニル(たとえばスチレン)でヒドロキシ基またはカルボキシ基を置換基として含まないもの、および上記のポリマーi)に記載した脱ブロック基を有するアルキルアクリレート(これにはメタクリレートも含む)の重合単位を有するポリマーであり、たとえば米国特許第6,042,997号(ここに引用することにより、本明細書に取入れたものとする)に記載されているようなもの;およびiii)光感応性酸と反応するアセタールまたはケタール部分を含む繰返し単位、および随意にフェニルまたはフェノール性基のような芳香族基繰返し単位を有するポリマーで、たとえば米国特許第5,929,176号および同第6,090,526号(ここに引用することにより、本明細書に取入れたものとする)に記載されているようなポリマー。
【0016】
2)サブ200nm波長、たとえば193nmで像を形成するのに特に適した化学増幅されたポジ型レジストを与えることが可能で、フェニルまたはその他の芳香族基を実質的または完全に含まない樹脂。このタイプの樹脂として特に好ましいのは、次のようなものである:i)たとえば置換されていてもよいノルボルネンのような、非芳香族基の環式オレフィン(環内二重結合)の重合単位を有するポリマーで、たとえば米国特許第5,843,624号および同6,048,664号(ここに引用することにより、本明細書に取入れたものとする)に記載されているようなポリマー;ii)たとえばt-ブチルアクリレート、t-ブチルメタクリレート、メチルアダマンチルアクリレート、メチルアダマンチルメタクリレートおよびその他の非環状アルキルアクリレートおよび脂環式アクリレートのようなアルキルアクリレート単位を含むポリマー;たとえば米国特許第6,057,083号、欧州特許出願公開EP第01008913A1号、同EP第00930542A1号、および米国の出願番号第09/143,462号(1998年8月28日出願、米国特許6,136,501号)(これら全てが、ここに引用することにより、本明細書に取入れたものとする)に記載されているようなポリマー;および、iii)重合させた無水物単位、特に重合させた無水マレイン酸および/または無水イタコン酸単位を有するポリマーで、たとえば、欧州特許出願公開EP第01008913A1号および米国特許第6,048,662号(これらいずれも、ここに引用することにより、本明細書に取入れたものとする)に開示されているようなポリマー;および/または、タイプi)、ii)またはiii)の樹脂の1種または複数を組み合わせたもの、すなわち、非芳香族環式オレフィン単位を重合させたポリマー、アルキルアクリレート(これにはメタクリレートも含む)を含むポリマー;および/または、重合させた無水物単位を有するポリマーの1種または複数を組み合わせたものである。」

ウ 発明を実施するための形態
「【0020】
本発明の第一の側面として、α, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生できるヨードニウムPAGsが提供される。このヨードニウムPAGsは好ましくは次のような置換基を有していてもよい;置換されていてもよいC_(1-18)アルキル、たとえばシクロヘキシル、アダマンチル、イソボルニルなどのようなシクロアルキルだけでなく、t-ブチル、ペンチルなど;置換されていてもよい炭素環式芳香族基、たとえば置換されていてもよいフェニル、ナフチルまたはアントラセニル;および置換されていてもよいヘテロ脂環式基またはヘテロ芳香族基であって、好ましくは1から3個の多環または縮合環を有し、環の構成員は1?3のヘテロ原子(N、OまたはS、好ましくはOまたはS)であり、たとえばチエニル基である。

(中略)

【0030】
本願のさらなる側面として、α, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生できるスルホニウムPAGsが提供される。このスルホニウムPAGsは好ましくは次のような置換基を有していてもよい;置換されていてもよいC1-18アルキル、たとえばシクロヘキシル、アダマンチル、イソボルニルなどのようなシクロアルキルだけでなく、t-ブチル、ペンチルなど;置換されていてもよい炭素環式芳香族基、たとえば置換されていてもよいフェニル、ナフチルまたはアントラセニル;そして、置換されていてもよいヘテロ脂環式基またはヘテロ芳香族基であって、好ましくは1から3個の多環または縮合環を有し、環の構成員は1?3のヘテロ原子(N、OまたはS、好ましくはOまたはS)である、たとえばチエニル基である。

(中略)

【0038】
本願の別の側面として、置換されていてもよいN-オキシイミドスルホネートPAGs(非イオン化合物)であって、α, α-ジフルオロアルキルスルホネート置換基を有し、光活性化されることによりα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生できるものが提供される。とくに、本願の好適なN-オキシイミドスルホネートPAGsは下記の化学式IIIで表されるものを含む。

(中略)

【0046】
本願のさらなる側面として、置換されていてもよいN-オキシイミノスルホネートPAGsであって、α, α-ジフルオロアルキルスルホネート置換基を有し、光活性化されることによりα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生できるものが提供される。とくに好ましい本願のN-オキシイミノスルホネートPAGsは、下記の化学式IVで表されるものを含む。

(中略)

【0058】
本発明のさらなる側面では、置換されていてもよいフェノールスルホネートPAGsであって、1または複数のα, α-ジフルオロアルキルスルホネート置換基を有し、光活性化されることによりα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生できるものが提供される。このような化合物は、1または複数のフェノール性-OH部分に置換されるα, α-ジフルオロアルキルスルホネート基、好ましくは一つのフェニル基に2または3のα, α-ジフルオロアルキルスルホネート基、を有する。とくに好ましい本願のフェノールα, α-ジフルオロアルキルスルホネート化合物は、下記の化学式VIのPAGsを含む:

(中略)

【0065】
さらなる側面では、置換されていてもよいアラルキルスルホネートPAGsであって、1または複数のα, α-ジフルオロアルキルスルホネート基を有するものが提供される。このタイプの好ましいPAGsはベンジール化合物である。このような化合物は、1または複数のベンジール位のカーボンに置換される1または複数のα, α-ジフルオロアルキルスルホネート基、好ましくは一つの塩基性のフェニル基に1または2のα, α-ジフルオロアルキルスルホネート基を有するものである。好ましいベンジールα、α-ジフルオロアルキルスルホネート化合物は下記の化学式VIIのPAGsを含む。

(中略)

【0071】
前述したように、本願のPAGsのさまざまな置換基群は置換されていてもよい。置換される基(置換されたR^(1)からR^(8)を含む)は、好ましくは1または複数の可能な位置で、たとえば次のようなものによって好適に置換される;ハロゲン、たとえばF、Cl Brおよび/またはI、C_(1-16)アルキルを含みC_(1-8)アルキルであるのが好ましいアルキル、C_(1-16)アルコキシを含み1または複数の酸素連鎖を有しC_(1-8)アルコキシであるのが好ましいアルコキシ、C_(2-12)アルケニルを含みC_(2-8)アルケニルであるのが好ましいアルケニル、C_(2-12)アルキニルを含みC_(2-8)アルキニルであるのが好ましいアルキニル、アリールたとえばフェニルまたはナフチル、および置換されていてもよいアリールたとえばハロ、アルコキシ、アルケニル、アルキニルおよび/またはアルキル、置換されていてもよいアリールであって、好ましくは対応する基が前記の炭素数を有するものである。好適な置換されたアリール基は置換されたフェニル、アントラセニルおよびナフチルを含む。
【0072】
ここで使用されるアルキルの用語は、修正していなければ、環式(脂環式)および非環式基の両方について述べているが、もちろん環式基は少なくとも3つの炭素環員を含むであろう。好ましい脂環式基は、たとえばシクロペンチル、シクロヘキシル、架橋した基たとえばアダマンチルなどを含む。好ましい本発明のPAGsのヘテロ脂環式基およびヘテロ芳香族基は、たとえばクマリニル、キノリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジル、フリル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチアゾリル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ピペジニル、モルホリノおよびピロリジニルを含む。

(中略)

【0081】
先に論じたように、本発明のPAGsは、フォトレジスト組成物における放射線感受性成分として有用であり、これにはポジ型およびネガ型両方の化学増幅レジスト組成物が含まれる。
【0082】
典型的には本発明のフォトレジストには、樹脂バインダーおよび先に述べた本発明の光活性成分が含まれる。この樹脂バインダーには、レジスト組成物に対してアルカリ水溶液による現像が可能な性質を付与するような官能基が含まれているのが好ましい。たとえば、ヒドロキシルまたはカルボキシレートのような極性の官能基を含む樹脂バインダーが好ましい。レジスト組成物中では、レジストが水性アルカリ溶液で現像できるようにするのに充分な量の樹脂バインダーを使用するのが好ましい。

(中略)

【0102】
本発明のフォトレジストは、公知の方法にしたがって使用することができる。本発明のフォトレジストは、ドライフィルムとして塗布してもよいが、好ましくは基板上に液状塗料組成物として塗布し、加熱して溶媒を除去・乾燥させて好ましくは塗膜層をタックフリーの状態とし、フォトマスクを介して放射線で露光させ、任意に露光後ベークをおこなってレジストの塗膜層上の露光領域と非露光領域の間の溶解性の差を発生または拡大させ、そして次いで好ましくは水性アルカリ現像剤で現像してレリーフ像を得る。」

オ 実施例
「【0106】
実施例1-3:PAGの合成
実施例1:1,1-ジフルオロ-2-(1-ナフチル)エチニレン(前記のスキームで、Rがナフチルである化合物2)
オーブンで乾燥した250mLの一口フラスコにマグネティックスターラー、環流冷却器および窒素注入口を取り付けた。そのフラスコに蒸留したての1-ナフトアルデヒド(17.1g、109mmol)、クロロジフルオロ酢酸ナトリウム(25g、164mmol)およびトリフェニルホスフィン(31.4g、120mmol)を仕込んだ。エチレングリコールジメチルエーテル(75mL)を添加し、その混合物を96時間還流し、その間に沈殿物が作られ、その反応液は暗褐色に変化した。冷却した混合物を濾過し、濾液を濃縮すると黒っぽい半固体のものを生じた。蒸留(62-67℃、1mm)すると無色の液体(14.1g、68%)として目的の化合物が得られた。
NMR(CDCl_(3)):δ7.3-8.0 (m, 7H), 5.83(dd, J_(1)=18Hz), J_(2)=3Hz); MS:M^(+)=190.
【0107】
実施例2:1,1-ジフルオロ-1-スルホン酸-2-(1-ナフチル)エチレン(前記のスキームで、Rがナフチルである化合物3)の合成
実施例1の化合物、すなわち1,1-ジフルオロ-2-(1-ナフチル)エチニレン(8.4g、44.2mmol)、亜硫酸ナトリウム(28g、222mmol)および水(200mL)中のベンゾイルパーオキサイド(1.1g、4.5mmol)からなる二相の混合物を、85℃で67時間加熱した。淡黄色の反応混合物を濾過し、その固形物をテトラヒドロフラン(950mL)で懸濁し、懸濁液を30分間還流した。冷却した懸濁液を濾過し、濾液を濃縮すると淡黄褐色の固体を生じた。その固体をクロロフォルム(500mL)で粉砕し、濾過して得られた無色の固体を乾燥させると所望の生成物(2.85g、22%)が得られた。
NMR(DMSO-d_(6)):δ7.3-8.0 (m, 7H), 5.83(dd, J_(1)=18Hz), J_(2)=3Hz); MS:M^(+)=190.
【0108】
実施例3:ジ(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウム1,1-ジフルオロ-1-スルホネート-2-(1-ナフチル)エチレン(化学式IAで、R=R^(1)=4-t-ブチルフェニル;R^(3)=ナフチル;R^(4)=R^(5)=Hである化合物)の合成
実施例2の生成物の溶液、すなわちジクロロメタン(250mL)に1,1-ジフルオロ-1-スルホン酸-2-(1-ナフチル)エチレン(8.3g、21.4mmol)を入れ、水(150mL)中のジ(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウム硫酸塩(9.04g、20mmol)の溶液で処理した。二相の混合物を室温で17時間勢いよくかき混ぜ、濃アンモニア水を用いて水相のpHを7から8に調製した。層を分離し、有機層を水(1×200mL)で洗浄した。合わさった水性抽出物を、前に得ていた有機相と合わせたジクロロメタン(1×200mL)で抽出した。合わさった有機抽出物を濃縮すると黄褐色の固体が生じた。ベンゼン/ヘキサンそしてエチルアセテート/ヘキサンから再結晶することにより、淡黄色粉(9.7g、73%)として所望の化合物が得られた。
【0109】
実施例4:フォトレジストの調製とリソグラフ加工
以下の成分を混合することで本発明のフォトレジストを調製するが、ここでの量はレジスト組成物の全重量に対する重量%として表されている:
【0110】
レジスト成分 量(重量%)
樹脂バインダー 15
光感応性酸発生剤 3
乳酸エチル 81
【0111】
この樹脂バインダーは、ビニルフェノール単位、スチレン単位およびt-ブチルアクリレートを重合させたものからなるターポリマーである。ここでの光感応性酸発生剤は、上記の実施例3により調製した化合物であった。これらの樹脂とPAG成分は乳酸エチル溶媒中で混合しておく。
【0112】
こうして配合したレジスト組成物をARCでコートした6インチのシリコンウェーハ上にスピンコートし、真空ホットプレート上で130℃で60秒間ソフトベークする。このレジスト塗膜層をフォトマスクを介して248nmで露光させ、この露光した塗膜層を130℃で90秒間露光後ベークをする。次いでこの塗装ウェーハを0.26N水酸化テトラメチルアンモニウムの水溶液で処理して、像形成させたレジスト層を現像し、レリーフ像を得る。」

(2)本件の明細書の段落【0006】には、「本発明者らは、新規な光感応性酸発生剤化合物(PAGs)を発見したが、これらはポジ型、ネガ型のいずれのフォトレジスト組成物においても使用することができる。特に、放射線に露光されることにより任意に置換されるα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸を生成する光感応性酸発生剤が得られる。」と記載されており、段落【0009】には、「我々は、本願のPAGを含むフォトレジストが優れたリソグラフィックの結果を示すことができることを発見した。とりわけ、光発生するα, α-ジフルオロアルキルスルホン酸は強い酸であるが、相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向がない。さらに、大きな容積の基、たとえば炭素、ヘテロ脂環式基やアリール基などを含むことにより、リソグラフィック効果に好ましい影響を与えうるレジスト形成のさらに進んだ技術を可能とする。」と記載されている。
本件明細書には、本件発明が解決しようとする課題について明記されていないものの、前述した記載からみて、ポジ型、ネガ型のいずれのフォトレジスト組成物においても使用することができる強い酸であって、相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向がないフォトレジスト組成物を提供することであると認められる。

(3)本件明細書には、フォトレジスト組成物に含まれる光感応性酸発生剤化合物が発生する、化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸が、ポジ型、ネガ型のいずれのフォトレジスト組成物においても使用することができる強い酸であって、相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向がないという特性を有することについて、理論的な説明がなされていない。また、実施例3として、ジ(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウム1,1-ジフルオロ-1-スルホネート-2-(1-ナフチル)エチレン(化学式IAで、R=R^(1)=4-t-ブチルフェニル;R^(3)=ナフチル;R^(4)=R^(5)=Hである化合物)を合成して化合物が得られたことが記載されているものの、実施例4として、実施例3により調整した化合物を、レジスト成分、樹脂バインダー、乳酸エチルと共に混合してフォトレジストを調整することが示唆されるに留まり、フォトレジストとして調整した際の特性について何も明らかにしていない。

(4)一方、本件発明は、化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる光感応性酸発生剤化合物を含むことを必須の要件としており、Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル、置換されていてもよい炭素環式芳香族基、置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であるもの、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素以外の置換基であるものを包含するものである。
光感応性酸発生剤化合物を含む化合物に関する技術分野においては、置換基が異なれば、反応性や酸としての強度、溶解性、移動特性など、様々な特性に影響を与えることが知られており、どのような特性となるかは事前に予測がつかず、実際に試みないと判らない分野である。しかしながら、本件明細書には、化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表わされる様々なα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸のうち、実施例3として、RがナフチルでありR^(1)とR^(2)がそれぞれ水素である化合物を発生する光感応性酸発生剤化合物のみが開示されているに過ぎない。そして、実施例3の化合物についてすら、フォトレジスト組成物とした際の、発生する酸の強さや相分離の有無、移動傾向や、解像度などの特性を明らかにしていない。R、R^(1)、R^(2)を、本件発明において特定された範囲の置換基に置き換えた場合に、光官能性酸発生剤化合物として本件発明が解決しようとする課題を解決する化合物が得られるとする根拠が何ら示されておらず、フォトレジスト組成物として必要な特性を備えるかどうかも実証されていないから、たとえ、本件出願時の技術常識を参酌したとしても、本件発明が課題を解決できることを、当業者が認識できるとはいえない。

(5)請求人は、平成30年3月5日に提出した意見書において、本願発明が「R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hの基本骨格を有するものであれば、最終的に好ましいレリーフ像を得ることができる、という技術的思想に基づくもの」とし、「当業者であれば、本願明細書の記載を基にしてR(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)HのR、R^(1)、R^(2)基を適宜変更し、本願発明を実施することができるものであり、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであります。」と主張している。
しかしながら、拒絶理由1は、本件発明がサポート要件を満たしていないというものである。そして、前記(4)に記載したとおり、本件明細書には、実施例3を含め、本件発明に包含される光感応性酸発生剤化合物の特性について何も明らかにしていないものであるから、本件発明が課題を解決することを認識することができない。

(6)以上のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2 理由3(進歩性)
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項及び引用発明1
本件出願の優先権主張の日前の平成12年5月26日に公開された刊行物である引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は、発明の認定に用いた箇所を示す。以下同様。)

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】露光された被膜を現像するに十分な量の少なくとも1種のイオン性化合物及び少なくとも1種の非イオン性化合物からなる光酸発生剤の混合物、並びに樹脂バインダーからなるフォトレジスト組成物。

(中略)

【請求項5】 非イオン性化合物が、イミドスルホネート、N-スルホニルオキシイミド、スルホネートエステル、ニトロベンジル化合物、ジスルホン化合物またはハロゲン化化合物である請求項1に記載のフォトレジスト組成物。
【請求項6】 イオン性化合物および非イオン性化合物の両方によって発生される光酸が、パーフルオロアルキルスルホン酸である請求項1に記載のフォトレジスト組成物。」

(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】比較的最近、深UV光線(deep UV radiation)で光イメージングすることができるフォトレジストに対する関心が高まってきた。こうしたフォトレジストは、より長い波長による露光における、さらに小さい形状の画像を形成する可能性をもたらす。当業者に認識されているように、「深UV光線」とは、約350nm以下の範囲、より一般的には約300nm以下の範囲の波長を有する露光光線を意味する。多くの深UVレジストが報告されてきたが、許容できるフォトスピードおよびその他のリトグラフ特性に加えて、高解像度の細線画像をもたらすことができる新しい深UVレジストが明らかに必要とされている。KrF放射線(約248nm)などのサブ250nmまたはArF放射線(約193nm)などのサブ200nmでイメージングできるレジストに対する関心は格別に高い。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、フォトレジスト組成物に混合して優れたリトグラフ特性をもたらすことができる光酸発生剤化合物(PAG)の新しい混合物、特に化学増幅ポジ型レジストを発見した。好ましいPAG混合物は、深UV光線、特に248nmおよび/または193nmの露光波長に露光させると光活性化することができる。
【0007】本発明のPAG混合物は、少なくとも1種のイオン性PAGおよび少なくとも1種の非イオン性PAGを含む。例えば、代表的なイオン性PAGには、ヨードニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩が挙げられる。適する非イオン性PAGには、例えば、イミドスルホネート、スルホネートエステルおよび光活性化されるとハロ酸(例えば、HBr)を発生させるハロゲン化化合物などが挙げられる。本明細書の記載においては、PAGに関するイオン性および非イオン性という用語は、それらの技術分野で認められた意味に従って用いられる。すなわち、イオン性PAGはその分子中に各々逆に帯電したイオン間の静電引力に有するイオン結合を含有するのに対して、非イオン性PAGはこうしたイオン結合を全くもたず、反対に、一般的にはすべて共有型結合を有する。例えば、モリソンおよびボイド(Morrison and Boyd)による「有機化学(Organic Chemistry;pp.3-5,3,1981)」を参照されたい。」

(ウ)「【0023】本発明のPAG混合物およびフォトレジスト組成物の中で多様な非イオン性PAGを用いることができる。好ましい非イオン光酸発生剤には、以下の式

(中略)

【0026】N-スルホニルオキシイミド光酸発生剤も本発明のPAG混合物および組成物中で非イオン性PAGとして用いるために適し、それらには、国際特許出願公開公報第WO94/10608号に開示されたN-スルホニルオキシイミド、例えば、下記の式、
【0027】
【化5】

【0028】(式中、炭素原子は、単結合、二重結合または芳香族結合を有する2炭素構造を形成し、あるいは3炭素構造を形成し、すなわち、環は代わりに5員環または6員環であり、XaRは、-C_(n)H_(2n+1)(式中、n=1?8)、-C_(n)F_(2n+1)(式中、n=1?8)、樟脳置換基、-2(9,10-ジエトキシアントラセン)、-(CH_(2))_(n)-Zまたは-(CF_(2))_(n)-Z(式中、n=1?4、ZはH)C_(1?6)アルキル、樟脳置換基、-2-(9,10-ジエトキシアントラセンまたはフェニルなどのアリールである)であり、XおよびYは、(1)1個以上のヘテロ原子を含むことが可能な環式環または多環式環を形成する、または(2)縮合芳香族環を形成する、または(3)独立に水素、アルキルまたはアリールであることが可能である、もしくは(4)もう一つのスルホニルオキシイミド含有残基に結合されていてもよく、あるいは(5)ポリマー鎖または主鎖に結合されていてもよく、あるいは炭素原子は、下記の式、
【0029】
【化6】

【0030】(式中、R1はH、1?4個の炭素を有するアセチル、アセタミド、アルキル(m=1?3)、NO_(2)(m=1?2)、F(m=1?5)、Cl(m=1?2)、CF_(3)(m=1?2)、OCH_(3)(m=1?2)(mは別途に1?5でありうる)およびそれらの混合成分からなる群から選択される)を形成し、その場合、XおよびYは、(1)1個以上のヘテロ原子を含むことが可能な環式環または多環式環を形成する、または(2)縮合芳香族環を形成する、または(3)独立に水素、アルキルまたはアリールであることが可能である、もしくは(4)もう一つのスルホニルオキシイミド含有残基に結合されてもよく、あるいは(5)ポリマー鎖または主鎖に結合されてもよい)の化合物が挙げられる。」

ここで、段落【0028】における「-(CH_(2))_(n)-Zまたは-(CF_(2))_(n)-Z(式中、n=1?4、ZはH)C_(1?6)アルキル、樟脳置換基、-2-(9,10-ジエトキシアントラセンまたはフェニルなどのアリールである)であり」との記載は、n=Zであることは不自然であり、また、(9,10-ジエトキシアントラセンの括弧が閉じられていないことから、「-(CH_(2))_(n)-Zまたは-(CF_(2))_(n)-Z(式中、n=1?4、ZはH、C_(1?6)アルキル、樟脳置換基、-2-(9,10-ジエトキシアントラセン)またはフェニルなどのアリールである)であり」とすべき記載の誤記と認められる。

(エ)「【0064】本発明のレジストの樹脂バインダー成分は、一般に、レジストの露光された被膜層をアルカリ水溶液などで現像可能にするために十分な量を用いる。更に詳しくは、樹脂バインダーは、好ましくは、レジストの総固形分の50?約90重量%を含む。」

(オ)「【0066】本発明のフォトレジストは、公知の手順に従って用いることができる。本発明のフォトレジストを乾燥膜としてコーティングしてもよいが、好ましくは、液体被膜組成物として基板上にコーティングし、加熱により乾燥して、好ましくは被膜層が不粘着性になるまで溶媒を除去し、フォトマスクを通して活性化された光線に露光し、任意に、ポスト露光ベーキングして、レジスト被膜層の露光領域と非露光領域との間の溶解度差を設けるかまたは高め、その後、好ましくは水性アルカリ現像剤で現像して、レリーフ画像を形成する。」

上記(ウ)および(エ)の記載事項によれば、引用例1には以下の発明が記載されているといえる。
「レジストの露光された被膜層をアルカリ水溶液などで現像可能にするために十分な量の樹脂バインダー成分および下記の式のN-スルホニルオキシイミド光酸発生剤を含み、式中のXaRは、-(CF_(2))_(n)-Z(式中、n=1?4、ZはC_(1?6)アルキル、-2-(9,10-ジエトキシアントラセン)またはフェニルなどのアリールである)である、フォトレジスト組成物。

」(以下、「引用発明1」という。)

イ 対比
本件発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「レジストの露光された被膜層をアルカリ水溶液などで現像可能にするために十分な量の樹脂バインダー成分」は、本件発明の「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量」の「樹脂バインダ」に相当する。

(イ)引用発明1の「XaRは、-(CF_(2))_(n)-Z(式中、n=1?4、ZはC_(1?6)アルキル、-2-(9,10-ジエトキシアントラセン)またはフェニルなどのアリールである)である」とされる「N-スルホニルオキシイミド光酸発生剤」は、その構造式から、酸として、XaR-SO_(3)Hを発生させるものであり、「-(CF_(2))_(n)-」のnが1?4であるから、-SO_(3)Hに隣接して必ず「-(CF_(2))-」基を有している。そうすると、引用発明1の「N-スルホニルオキシイミド光酸発生剤」は、放射線で露光されることにより、本件発明において特定される「α,α-ジフルオロアルキルスルホン酸」を選択肢の一つとして発生させる「光感応性酸発生剤化合物」を含むものである。また、引用発明1の「N-スルホニルオキシイミド光酸発生剤」は、本件発明の「CF_(3)(CFH)基であることはなく」との要件を満たしている。
そして、引用発明1はフォトレジスト組成物として機能するものであるから、N-スルホニルオキシイミド光酸発生剤についても、「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量」含有しているといえる。

(ウ)以上より、本件発明と引用発明1とは、
「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み、その光感応性酸発生剤が放射線で露光されることにより
化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H
(式中、Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル、置換されていてもよい炭素環式芳香族基、置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし、CF_(3)(CFH)基であることはない。)
で表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる、フォトレジスト組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本件発明の光感応性酸発生剤化合物が発生させる化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸は、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはないのに対し、引用発明1のN-スルホニルオキシイミド光酸発生剤が発生させる酸は、化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表す場合に、選択肢として、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキル、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基、C_(2)H_(5)(CF_(2))基である場合を含む点。

ウ 判断
[相違点1]について検討すると、選択肢として示された化合物群の中から、いずれの化合物を選択するかは、当業者が適宜選択しうることであるから、引用発明1において、選択肢として、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキル、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基、C_(2)H_(5)(CF_(2))基以外の選択肢を選択することは、当業者が容易になし得ることである。そして、本件明細書の記載を参酌しても、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキル、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基、C_(2)H_(5)(CF_(2))基以外の選択肢を選択したことによって格別な効果を奏するとは認められない。

エ むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項及び引用発明2
本件出願の優先権主張の日前の1991年10月31日に公開された刊行物である引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(ア)「


以下に翻訳文を示す。
「特許請求の範囲
1.1つ以上の感光性成分、1つのポリ(三級ブトキシカルボニル-オキシ-スチレン)及び1つの溶媒又は溶媒混合物から成る、ポジ型に作用する写真複写用化学増幅レジストであって、
前記写真複写用レジストは、一般式I


(式中、R^(1)、R^(2)及びR^(3)は、水素、アルキル、置換されていない又は置換されたアリール又はヘテロアリールを意味し、かつ

は、


かつ、
X=H,F,CF_(3),
Y=F,
Z=H,F,
n=0から6
又は、

(中略)

で表される1つのスルホニウム塩、前記ポリ(三級ブトキシカルボニル-オキシ-スチレン)及び前記溶媒又は溶媒混合物から成っており、前記感光性成分は、全固体含有量に対して4重量%から25重量%の濃度で含まれていることを特徴とするポジ型に作用する写真複写用化学増幅レジスト。」

上記記載によれば、引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。「CF_(3)-(CXY)_(n)-CFZ-SO_(3)^(-)であって、X=H,F,CF_(3),Y=F,Z=H,F,n=0から6である構造を含む一般式Iで表されるスルホニウム塩、ポリ(三級ブトキシカルボニル-オキシ-スチレン)及び溶媒又は溶媒混合物から成る写真複写用化学増幅レジスト。

」(以下、「引用発明2」という。)

イ 対比
本件発明と引用発明2とを対比する。

(ア)引用発明2の「ポリ(三級ブトキシカルボニル-オキシ-スチレン)」は、その機能からみて、本件発明の「樹脂バインダ」に相当する。

(イ)引用発明2の「CF_(3)-(CXY)_(n)-CFZ-SO_(3)^(-)であって、X=H,F,CF_(3),Y=F,Z=H,F,n=0から6である構造を含む一般式Iで表されるスルホニウム塩」と、本件発明の「化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中、Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル、置換されていてもよい炭素環式芳香族基、置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基であることはなく、CF_(3)(CFH)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはない。)で表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる」「光感応性酸発生剤化合物」とは、選択肢の一部として、本件発明において特定される「α,α-ジフルオロアルキルスルホン酸」を発生させる「光感応性酸発生剤化合物」である点で共通する。
そして、引用発明2の一般式Iで表されるスルホニウム塩と、本件発明の光感応性酸発生剤化合物とは、発生される酸が、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはない点でも共通する。

(ウ)そして、引用発明2は写真複写用化学増幅レジストとして機能するものであるから、「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含」むものといえる。

(エ)以上より、本件発明と引用発明2とは、
「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み、その光感応性酸発生剤が放射線で露光されることにより
化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H
(式中、Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル、置換されていてもよい炭素環式芳香族基、置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはない。)
で表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる、フォトレジスト組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点2]本件発明の光感応性酸発生剤化合物が発生させる化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸は、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく、CF_(3)(CFH)基であることはないのに対し、引用発明2のN-スルホニルオキシイミド光酸発生剤が発生させる酸は、化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表す場合に、選択肢として、本件発明が除外した基を含む点。

ウ 判断
上記、[相違点2]について検討すると、選択肢として示された化合物群の中から、いずれの化合物を選択するかは、当業者が適宜選択しうることであるから、引用発明2において、選択肢として、本件発明において除外された基以外の選択肢を選択することは、当業者が容易になし得ることである。そして、本件明細書の記載を参酌しても、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキル、CF_(3)(CFH)基以外の選択肢を選択したことにより格別な効果を奏するとはいえない。

エ むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)引用文献3
ア 引用文献3の記載事項及び引用発明3
本件出願の優先権主張の日前の平成8年2月27日に公開された刊行物である引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項4】 次の式から成る群から選ばれた式を有する請求項1記載の方法によって得られた塩。
【化1】

【化2】

ここで、mは0又は1の整数を表わし、
Lは-O-,-NR^(12)-(ここでR^(12)は-H又はアルキル基を表わす)及び-(CR^(13)R^(14))_(n) -(ここでR^(13)及びR^(14)は独立して-H又はアルキル基を表わし、そしてnは1から2の整数を表わす)から成る群から選ばれ、
R^(1) ,R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(5) ,R^(6) ,R^(7) ,R^(8) ,R^(9) 及びR^(10)は電子中性基及び電子供与基から成る群からいづれも独立して選ばれ、ここでの隣接したR^(1) ,R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(7) ,R^(8) ,R^(9) ,R^(10)基は任意にはお互に共に環を形成しても良く、そしてR^(11)はハロゲン基、アルキル基、クロロフルオロアルキル基、塩素化アルキル基及び弗素化アルキル基から成る群から選ばれる。
【請求項5】 R^(1) ,R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(5) ,R^(6) ,R^(7) ,R^(8) ,R^(9) 及びR^(10)は約1から約20個の炭素原子を含むアルキル基、ハライド基、置換アミノ基、芳香族基、アリールオキシ基、アルコキシ基から成る群からいづれも独立して選ばれ、ここでR^(1) ,R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(5) ,R^(6) ,R^(7) ,R^(8) ,R^(9) 及びR^(10)が表わすいづれの基は、結合している置換基が結局電気的特性を実質的に変えることがない限り任意には置換されることができる請求項4記載の塩。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】ヨードニウム塩は、多くの画像系において重要な物質である。このものは、重合反応若しくは解重合反応を開始させ、若しくは酸感受性基と反応するのに使用される遊離基、又は強プロトン酸を光化学的にその場で生産するのに使用することができる。一般に、このものは熱的に安定であるが、光化学的に不安定であって、例えばエポキシドタイプの樹脂の硬化のみならず、印刷板、リトグラフフィルム及び校正刷の如き画像関係において理想的な物質である。」

(ウ)【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は、硫酸を含まずまた相応するイオン交換を行うこともなく、ジアリールヨードニウムフルオロアルキルスルホネート塩を合成するための便利で、簡単で、安全で効果的なワンポット方法を新たに見い出した。

(中略)

【0012】本発明はまた、本発明の製造方法に従って得られた塩を提供する。本発明方法に従って得られた好ましい塩は、次に示す式から選ばれるものである。
【化4】

及び
【化5】

ここで、mは0又は1の整数を表わし、Lは-O-,-NR^(12)-(ここでR^(12)は-H又はアルキル基を表わす)及び-(CR^(13)R^(14))_(n) -(ここでR^(13)及びR^(14)は独立して-H又はアルキル基を表わし、そしてnは1から2の整数を表わす)から成る群から選ばれ、R^(1) ,R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(5) ,R^(6) ,R^(7) ,R^(8) ,R^(9) 及びR^(10)は電子中性基及び電子供与基から成る群からいづれも独立して選ばれ、ここでの隣接したR^(1) ,R^(2) ,R^(3) ,R^(4) ,R^(7) ,R^(8) ,R^(9) ,R^(10)基は任意にはお互に共に環を形成しても良く、そしてR^(11)はハロゲン基、アルキル基、クロロフルオロアルキル基、塩素化アルキル基及び弗素化アルキル基から成る群から選ばれる。」

(エ)「【0029】弗素化アルキルスルホン酸
本発明方法において使用されるフルオロアルキルスルホン酸は、式R^(11)-CF_(2) -SO_(3) Hであり、ここでR^(11)はアルキル基(通常、C_(1) ?C_(20))、クロロフルオロアルキル基(通常、C_(1) ?C_(20))、塩素化アルキル基(通常、C_(1) ?C_(20))及び弗素化アルキル基(通常、C_(1) ?C_(20))から成る群から選ばれる。好ましくは、ペルフルオロアルキル基である(例えば、ペルフルオロアルカンスルホン酸)。本発明方法において使用されるフルオロアルキルスルホン酸は、ヨードニウム部分に対して、相応するスルホネートイオンを形成する。」

上記(イ)および(ウ)の記載事項によれば、引用文献3には以下の発明が記載されているといえる。
「強プロトン酸を光化学的にその場で生産するのに使用することができ、次に示す式に示す構造を含み、

R^(11)はアルキル基、クロロフルオロアルキル基、塩素化アルキル基及び弗素化アルキル基から成る群から選ばれる塩。」

イ 対比
本件発明と引用発明3とを対比する。

(ア)引用発明3の塩と本件発明の光感応性酸発生剤化合物とは、選択肢として、本件請求項1に係る発明において特定される「α,α-ジフルオロアルキルスルホン酸」を発生させる「光感応性酸発生剤化合物」を含む点で共通する。

(イ)以上より、本件発明と引用発明3とは、
「光感応性酸発生剤が放射線で露光されることにより
化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H
(式中、Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル、置換されていてもよい炭素環式芳香族基、置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし、CF_(3)(CFH)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはない。)
で表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる光感応性酸発生剤。」を含む点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点3-1]本件発明は、組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダを含むフォトレジスト組成物であるのに対し、引用発明3は、樹脂バインダを含まない塩自体である点。
[相違点3-2]本件発明の光感応性酸発生剤化合物が発生させる化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸は、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基であることはなく、CF_(3)(CFH)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはないのに対し、引用発明3の塩が発生させる酸は、化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表す場合に、選択肢として、本件請求項1に係る発明が除外した基を含む点。

ウ 判断
(ア)[相違点3-1]について
引用例3の記載事項(イ)によれば、当該塩は、印刷板、リトグラフフィルム及び校正刷の如き画像関係において理想的な物質である。そのような塩を樹脂バインダとともにフォトレジスト組成物を構成させることは、文献を挙げるまでもなく周知技術であるから、引用発明3の塩を、樹脂バインダとともに組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに十分な量で含ませ、フォトレジスト組成物とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)[相違点3-2]選択肢として示された化合物群の中から、いずれの化合物を選択するかは、当業者が適宜選択しうることであるから、引用発明3において、選択肢として、本件請求項1において除外された基以外の選択肢を選択することは、当業者が容易になし得ることである。そして、本件明細書の記載を参酌しても、除外された選択肢以外を選択したことにより格別な効果を奏するとはいえない。

エ むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、引用文献3の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)請求人の意見
請求人は、平成30年3月5日に提出した意見書において、「引用文献1-4はいずれも化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させるフォトレジスト組成物から最終的に好ましいレリーフ像を得ることができるという技術的思想を開示していません。」とし、「本願発明は引用文献1-3に記載の発明から容易に想到できたものではなく、進歩性を有するものであります。また、本願発明は引用文献4の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一ではありません。」と主張している。
しかしながら、上記のとおり、引用文献1?3は、何れもフォトレジスト組成物として用いられるものであり、当然に好ましいレリーフ像を得ようとするものである。そして、その効果について検討すると、前記1(3)に記載したとおり、本件明細書にはフォトレジストとして調整した際の特性について何も明らかにされておらず、理論的な説明もないものである。そうすると、本件発明のフォトレジスト組成物が有利な効果を奏するとは到底いえず、進歩性を有するとする根拠を見いだせない。

3 理由4(拡大先願)
(1)引用出願4の記載事項及び引用発明4
本件出願の優先権主張の日前の平成12年10月20日に出願され、その後出願公開された引用出願4の明細書には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、下記構成のポジ型レジスト組成物が提供されて、本発明の上記目的が達成される。
【0010】(1) (A)活性光線の照射により下記一般式(X)で表されるスルホン酸を発生する化合物を少なくとも1種
(B)酸の作用により分解し、アルカリ現像液中での溶解度を増大させる基を有する樹脂
を含有することを特徴とするポジ型レジスト組成物。
【0011】
【化3】

【0012】一般式(X)中、R_(1a)?R_(13a)は、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、ハロゲン原子、水酸基を表す。Aは、ヘテロ原子を有する2価の連結基または単結合を表す。但し、Aが単結合の場合、R_(1a)?R_(13a)の全てが同時にフッ素原子を表すことはなく、またR_(1a)?R_(13a)の全てが同時に水素原子を表すことはない。mは0?12の整数を表す。nは0?12の整数を表す。qは1?3の整数を表す。」

イ 「【0020】以下、まずこれらポジ型レジスト組成物に含有される化合物、樹脂等の成分について詳細に説明する。
【0021】〔組成物に含有される各成分の説明〕
〔1〕 (A)活性光線の照射により下記一般式(X)で表されるスルホン酸を発生する化合物を少なくとも1種((A)成分又はスルホン酸発生剤ともいう)上記一般式(X)中、R_(1a)?R_(13a)は、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、ハロゲン原子、水酸基を表す。Aは、ヘテロ原子を有する2価の連結基または単結合を表す。但し、Aが単結合の場合、R_(1a)?R_(13a)の全てが同時にフッ素原子を表すことはなく、またR_(1a)?R_(13a)の全てが同時に水素原子を表すことはない。mは0?12の整数を表す。nは0?12の整数を表す。qは1?3の整数を表す。
【0022】R_(1a)?R_(13a)のアルキル基としては、置換基を有してもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基のような炭素数1?12個のものが挙げられる。R_(1a)?R_(13a)のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、沃素原子等が挙げられる。この置換基として好ましくは、炭素数1?4個のアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、沃素原子)、炭素数6?10個のアリール基、炭素数2?6個のアルケニル基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基等が挙げられる。
【0023】Aにおけるヘテロ原子を有する2価の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、-CO-、-COO-、-CONR-、-SO_(2)NR-、-CONRCO-、-SO_(2)NRCO-、-SO_(2)NRSO_(2)-、-OCONR-等が挙げられる。ここで、Rは水素原子、炭素数1?10個のアルキル基を表す。
【0024】上記一般式(X)で表されるスルホン酸としては、R_(1a)?R_(13a)の少なくとも1つがハロゲン原子を表すものが好ましく、さらに好ましくはR_(1a)?R_(13a)の少なくとも1つがフッ素原子を表すものが好ましい。上記の中でも、さらに好ましくは、CF_(8)(CF_(2))_(k)[A(CF_(2))_(k')]_(q)SO_(3)H、CF_(3)(CF_(2))_(k)(CH_(2))_(k')SO_(3)H、CH_(3)(CH_(2))_(k)(CF_(2))_(k')SO_(3)Hで表される化合物が好ましく、CF_(3)CF_(2)-O-CF_(2)CF_(2)SO_(3)Hが特に好ましい。ここで、kは0?12の整数を表す。k’は1?12の整数を表す。qは前述と同義である。」

ウ 「【0181】〔ポジ型レジスト組成物の調製及びその使用〕以上、本発明のポジ型レジスト組成物に含有される各成分を説明した。次に、本発明のポジ型レジスト組成物の調製方法及びその使用方法について説明する。本発明の組成物は、上記各成分を溶解する前記溶媒に溶かして支持体上に塗布する。ここで使用する溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、2-メトキシエチルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等が好ましく、これらの溶媒を単独あるいは混合して使用する。

(中略)

【0184】上記組成物を精密集積回路素子の製造に使用されるような基板(例:シリコン/二酸化シリコン被覆、SiON、TiN、SOG)上にスピナー、コーター等の適当な塗布方法により塗布後、所定のマスクを通して照射し、ベークを行い現像することにより良好なレジストパターンを得ることができる。
【0185】また、露光光源がDUV光の場合、反射防止膜を設けた基板上へレジスト膜を塗布することが好ましい。これにより定在波が低減され、解像力が向上する。好ましい反射防止膜としてはブリュワーサイエンス社のDUVシリーズ、あるいはシプレー社のARシリーズ等が挙げられる。」

エ 上記ア,イの記載によれば、引用出願4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)活性光線の照射によりCH_(3)(CH_(2))_(k)(CF_(2))_(k')SO_(3)H、ここで、kは0?12の整数、k’は1?12の整数、で表されるスルホン酸を発生する化合物を少なくとも1種、(B)酸の作用により分解し、アルカリ現像液中での溶解度を増大させる基を有する樹脂、を含有するポジ型レジスト組成物。」(以下、「引用発明4」という。)

(2)対比
本件発明と引用発明4を対比する。
ア 引用発明4の「(B)酸の作用により分解し、アルカリ現像液中での溶解度を増大させる基を有する樹脂」は、本件発明の「樹脂バインダ」に相当する。

イ 引用発明4の「(A)活性光線の照射によりCH_(3)(CH_(2))_(k)(CF_(2))_(k')SO_(3)H、ここで、kは0?12の整数、k’は1?12の整数、で表されるスルホン酸を発生する化合物」と本件発明の「放射線で露光されることにより 化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中、Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル、置換されていてもよい炭素環式芳香族基、置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基であることはなく、CF_(3)(CFH)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはない。)で表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる」、「光感応性酸発生剤化合物」とは、「放射線で露光されることにより 化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中、Rが置換されていてもよいアルキルであり、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく、CF_(3)(CFH)基であることはない。)で表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる」、「光感応性酸発生剤化合物」である点で共通する。

ウ 引用発明4の「ポジ型レジスト組成物」は、本件発明の「フォトレジスト組成物」に相当する。そして、引用発明4の「ポジ型レジスト組成物」は、レジスト組成物として機能するものであるから、本件発明における「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含」むとする要件を満たしている。

エ 以上より、本件発明と引用発明4とは、
「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み、その光感応性酸発生剤が放射線で露光されることにより 化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中、Rが置換されていてもよいアルキルであり、R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし、R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく、CF_(3)(CFH)基であることはない。)で表わされるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる、フォトレジスト組成物。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
[相違点4]本件発明の光感応性酸発生剤化合物が発生させる化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hで表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸は、式中、RがC_(1-20)アルキルであってC_(21)以上の化合物を含まず、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基であることはなく、C_(2)H_(5)(CF_(2))基であることはないのに対し、引用発明4のスルホン酸を発生する化合物が発生するCH_(3)(CH_(2))_(k)(CF_(2))_(k')SO_(3)Hが、k+k’が20を超える場合を含み、CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)基、C_(2)H_(5)(CF_(2))基を除外していないものであって、本件発明が包含しない化合物を包含している点。

(3)判断
[相違点4]について検討する。
光感応性酸発生剤化合物が発生するα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸として、いずれのα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生するものを選択するかは、開示された官能基の範囲に含まれるもののなかから当業者が適宜なし選択し得るものである。そして、本件発明において包含する化合物群を選択した場合に、効果の差異が生じるともいえない。
したがって、上記[相違点4]は、具体化手段における微差というべきものであるから、両者は実質同一といえる。

(4)むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明4と実質的に同一といえるものである。そして、この出願の発明者が引用出願4に係る引用発明4をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記引用出願4の出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび
以上のとおり本件発明は、特許法第36条第6項1号、特許法第29条第2項、及び、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-03-29 
結審通知日 2018-03-30 
審決日 2018-04-10 
出願番号 特願2014-125020(P2014-125020)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03F)
P 1 8・ 16- WZ (G03F)
P 1 8・ 537- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 裕勝  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 宮澤 浩
清水 康司
発明の名称 光感応性酸発生剤およびそれらを含むフォトレジスト  
復代理人 牛山 直子  
復代理人 中村 正展  
復代理人 佐伯 裕子  
復代理人 佐伯 拓郎  

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