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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1343580
審判番号 不服2017-8430  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-09 
確定日 2018-08-23 
事件の表示 特願2015-181735「液晶パネル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月23日出願公開,特開2017-58445〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-181735号(以下「本件出願」という。)は,平成27年9月15日に出願された特許出願であって,その手続等の経緯は,以下のとおりである。
平成28年11月17日付け:拒絶理由通知書
平成29年 1月19日付け:意見書
平成29年 1月19日付け:手続補正書
平成29年 3月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年 6月 9日付け:審判請求書
平成29年 6月 9日付け:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)
平成30年 6月12日 :面接(審判請求人からの技術説明)

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明は,本件補正により補正された,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 液晶セルと,前記液晶セルの両面に貼りつけられた一対の偏光板を備え,
前記液晶セルのサブピクセルの面積が0.1mm^(2)以下であり,
各前記偏光板は,偏光子と,前記偏光子上に配置された保護フィルムと,を備える偏光板であって,
前記偏光板の外形形状は660mm以上の長辺及び370mm以上の短辺を有する矩形であり,
前記偏光板の平均の偏光度は99.98%以上であり,
偏光度99%未満かつ最大径30μm以上の欠陥部の個数が10個/m^(2)以下である,
液晶パネル。」

なお,本件補正は請求項の削除を目的とした補正である。

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である,特開2013-210488号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
なお,原査定においては,周知技術を示す文献として,以下の文献も挙げられている。
引用文献2:特開2015-47749号公報
引用文献3:特開2007-108726号公報
引用文献4:特開2014-206632号公報
引用文献5:特開2015-163952号公報
引用文献6:特開2015-163998号公報
引用文献7:特開2013-210513号公報
引用文献8:特開2014-206725号公報

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
本件出願前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光性積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は,液晶表示装置などの表示装置における偏光の供給素子等として広く用いられている。…(省略)…偏光子層(偏光フィルム)においては,高い光学性能が求められるとともに,近年,液晶表示装置のノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などモバイル機器への展開などに伴い,薄肉軽量化が求められている。
【0003】
薄型の偏光板の製造方法の一例として,基材フィルムの表面にポリビニルアルコール系樹脂を含む溶液を塗布して樹脂層を設けた後,基材フィルムと樹脂層からなる積層フィルムを延伸し,次いで染色,架橋(固定),乾燥し,樹脂層から偏光子層を形成することにより,偏光子層を有する偏光性積層フィルムを得る方法が提案されている。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
…(省略)…
【0007】
本発明は,幅方向に延伸するとともに縦方向に収縮して偏光性積層フィルムを製造する方法において,さらに優れた偏光性能を有する偏光性積層フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は,鋭意研究の結果,最終的な幅方向の延伸倍率および縦方向の収縮倍率が同じであっても,延伸過程における幅方向の延伸速度および縦方向の収縮速度によって偏光性能に違いが生じること見出し本発明に至った。
…(省略)…
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によると,幅方向に延伸するとともに縦方向に収縮する方法において,より優れた偏光特性を有する偏光性積層フィルムを製造することができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の偏光性積層フィルムの製造方法は,長尺状の基材フィルムと,ポリビニルアルコール系樹脂層とが積層された長尺状の積層フィルムを幅方向に延伸するとともに縦方向に収縮して延伸フィルムを得る延伸工程と,延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色する染色工程と,を含む偏光性積層フィルムの製造方法である。
…(省略)…
【0020】
[積層フィルム]
本発明の製造方法では,長尺状の基材フィルムと,ポリビニルアルコール系樹脂層とが積層された長尺状の積層フィルムを用いる。
【0021】
(基材フィルム)
基材フィルムに用いられる樹脂としては,たとえば,透明性,機械的強度,熱安定性,延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられ,それらのガラス転移温度Tgまたは融点Tmに応じて適切な樹脂を選択できる。
…(省略)…
【0035】
基材フィルムは,ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層との密着性を向上させるために,少なくともポリビニルアルコール系樹脂層が形成される側の表面に,コロナ処理,プラズマ処理,火炎処理等を行ってもよい。また密着性を向上させるために,基材フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層が形成される側の表面に,プライマー層等の薄層を形成してもよい。
【0036】
(プライマー層)
プライマー層としては,基材フィルムとポリビニルアルコール系樹脂層との両方にある程度強い密着力を発揮する材料であれば特に限定されない。
…(省略)…
【0053】
(ポリビニルアルコール系樹脂層)
ポリビニルアルコール系樹脂層に用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては,ポリ酢酸ビニル系樹脂をけん化したものを用いることができる。
…(省略)…
【0062】
(延伸工程)
本発明における延伸工程では,積層フィルムを幅方向に延伸するとともに,縦方向に収縮する。延伸工程においては,ポリビニルアルコール系樹脂層の幅方向における延伸工程開始時の長さに対する延伸時の長さの倍率であるTD倍率と,縦方向における延伸工程開始時の長さに対する収縮時の長さの倍率であるMD倍率とが,1.0<TD倍率≦3.0である第1期間では下記式(1)の関係を満たし,TD倍率>3.0である第2期間では下記式(2)の関係を満たしながら,前記延伸および前記収縮を行なう。
【0063】
MD倍率≦(-0.2)×TD倍率+1.2 式(1)
MD倍率≦(-0.1/3)×TD倍率+0.7 式(2)
…(省略)…
【0079】
(染色工程)
ここでは,延伸した積層フィルムの樹脂層を,二色性色素で染色する。二色性色素としては,たとえば,ヨウ素や有機染料などが挙げられる。
…(省略)…
【0090】
(偏光子層)
偏光子層は,具体的には,一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させたものである。
【0091】
本発明の製造方法により製造される偏光性積層フィルムの偏光子層の厚さ(延伸後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚さ)は好ましくは10μm以下,さらに好ましくは7μm以下である。偏光子層の厚さを10μm以下とすることにより,薄型の偏光性積層フィルムを構成することができる。
【0092】
本発明の製造方法により作製された偏光性積層フィルムは,そのまま偏光板とて用いることもできるし,偏光子層の表面に保護フィルムを貼合して,さらに基材フィルムを剥離して,偏光子層と保護フィルムとからなる偏光板として用いることもできる。」

ウ 「【実施例】
【0093】
実施例1?8および比較例1?5の偏光性積層フィルムを以下のようにして作製した。
[実施例1?8]
(1)基材フィルムの作製
エチレンユニットを5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製「住友ノーブレン W151」,融点Tm=138℃)からなる樹脂層の両側にプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学(株)製「住友ノーブレンFLX80E4」,融点Tm=163℃)からなる樹脂層を配置した3層構造の基材フィルムを,多層押出成形機を用いた共押出成形により作製した。得られた基材フィルムの合計厚みは100μmであり,各層の厚み比(FLX80E4/W151/FLX80E4)は3/4/3であった。
【0094】
(2)プライマー層の形成
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製「Z-200」,平均重合度1100,平均ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し,濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(住友化学(株)製「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末6重量部に対して5重量部混合した。得られた混合水溶液を,コロナ処理を施した上記基材フィルムのコロナ処理面上にグラビアコーターを用いて連続で塗工し,80℃で10分間乾燥させることにより,厚み0.2μmのプライマー層を形成し,プライマー層/基材フィルムの構成からなるフィルムを作成した。さらに,基材フィルムの反対側に同様の処理を施し,0.2μmのプライマー層を形成してプライマー層/基材フィルム/プライマー層の構成からなるフィルムを得た。
【0095】
(3)ポリビニルアルコール系樹脂層の形成
ポリビニルアルコール粉末(クラレ(株)製「PVA124」,平均重合度2400,平均けん化度98.0?99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し,濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液を,上記プライマー層上にカンマコーターを用いて連続で塗工し,80℃で5分間乾燥させることにより,基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層からなる3層構造の積層フィルムを作製した。ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは10.6μmであった。さらに,基材フィルムの反対側の面にも同様の処理を施し,10.3μmのポリビニルアルコール系樹脂層を形成して,樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/樹脂層の構成からなる積層フィルムを得た。
【0096】
(4)延伸工程
上記の積層フィルムを160℃の熱風下でMD方向に収縮させながらTD方向に延伸した。延伸工程途中のMD倍率およびTD倍率を制御しながら,最終的なMD倍率が0.40,最終的なTD倍率が5.8の延伸フィルムを得た。なお,延伸工程途中において,TD倍率1.6の時MD倍率0.71,TD倍率2.0の時MD倍率0.63,TD倍率3.0のときMD倍率0.52,TD倍率4.0の時MD倍率0.45,TD倍率5.0の時MD倍率0.41となるように延伸を行ない,最終的にTD倍率5.8,MD倍率0.40の延伸フィルムを作製した。図4に,延伸工程の開始点(MD倍率1.0,TD倍率1.0)から最終点(MD倍率0.40,TD倍率5.8)に至るまでに経たTD倍率およびMD倍率の経路を示す。なお,図4中には,式(1)で規定される上限値と,式(2)で規定される上限値についても示す。図4より,実施例1?8では,式(1)で規定される上限値と,式(2)で規定される上限値を下回るMD倍率となる経路を経たことがわかる。
【0097】
(5)染色工程
延伸した積層フィルムについて,次の手順で偏光性延伸フィルムを作製した。まず,延伸フィルムをヨウ素とヨウ化カリウムとを含む水溶液である30℃の染色溶液に下記の表1に示す時間浸漬して,ポリビニルアルコール系樹脂層の染色を行ない,ついで10℃の純水で余分なヨウ素液を洗い流した。次に,ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む水溶液である72℃の架橋溶液に600秒間浸漬させた。その後,10℃の純水で4秒間洗浄し,最後に80℃で300秒間乾燥させることにより,偏光性積層フィルムを得た。
【0098】
(6)偏光板の作製
偏光性積層フィルムを用いて,次の手順で偏光板を作製した。まず,ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製「KL-318」,平均重合度1800)を95℃の熱水に溶解し,濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(住友化学(株)製「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末2重量部に対して1重量部混合し,接着剤溶液とした。
【0099】
次に,得られた偏光性積層フィルムの両面に,トリアセチルセルロース(コニカミノルタオプト(株)製「KC4UY」)をけん化処理した透明保護フィルムを,上述の接着剤水溶液を用いて貼り合わせた。その後,80℃で5分間乾燥させて,透明保護フィルム/接着剤層/偏光子層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/偏光子層/接着剤層/透明保護フィルムの9層からなる積層フィルムを得た。
【0100】
この積層フィルムから,基材フィルムを剥離除去し,基材フィルムの両側に存在していた「保護フィルム/接着剤層/偏光子/プライマー層」の構成の偏光板を得た。
【0101】
[比較例1?5]
延伸工程での,開始点(MD倍率1.0,TD倍率1.0)から最終点(MD倍率0.40,TD倍率5.8)に至るまでに経たMD倍率およびTD倍率の経路が異なる点,および染色溶液への浸漬時間を下記の表2に示す時間とした点以外は,実施例1?8と同様にして比較例1?5の偏光板を作製した。延伸工程での経路は,具体的には,TD倍率1.6の時MD倍率0.92,TD倍率2.0の時MD倍率0.88,TD倍率3.0のときMD倍率0.75,TD倍率4.0の時MD倍率0.63,TD倍率5.0の時MD倍率0.50となるように延伸を行ない,最終的にTD倍率5.8,MD倍率0.40の延伸フィルムを作製した。図4に,延伸工程の開始点(MD倍率1.0,TD倍率1.0)から最終点(MD倍率0.4,TD倍率5.8)に至るまでに経たMD倍率およびTD倍率の経路を示す。図4より,比較例1?5ではMD倍率の変化量に対してTD倍率の変化量が一定となるような経路を経て延伸されており,MD倍率について式(1)で規定される上限値と,式(2)で規定される上限値を上回る値となった場合があることがわかる。
【0102】
(7)評価
実施例1?8および比較例1?5の偏光板について,紫外可視分光光度計V-7100(日本分光(株)製)を用いて,単体透過率および偏光度を測定した。表1および表2に結果を示す。図5は,実施例1?8および比較例1?5の偏光板の偏光度と単体透過率をプロットしたグラフである。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
表1,表2および図5より,実施例1?8の偏光板は,比較例1?5の偏光板と比較して優れた偏光性能を有することがわかる。なお,図5において,実施例1?8の偏光板と同じ条件で延伸工程を行なった場合は,曲線B1で表わされる偏光性能を示し,比較例1?5の偏光板と同じ条件で延伸工程を行なった場合は,曲線B2で表わされる偏光性能を示すことを予想される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の製造方法により作製される偏光性積層フィルムは,液晶表示装置をはじめとする各種表示装置に有効に適用することができる偏光板の作製に用いることができる。」

(2) 引用発明
引用文献1の【0093】?【0103】の記載からは,偏光度が99.98%以上の偏光板を作製可能な製造方法を把握することができる。また,引用文献1の【0106】には,「本発明の製造方法により作製される偏光性積層フィルムは,液晶表示装置をはじめとする各種表示装置に有効に適用することができる」と記載されている。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,「MD方向」及び「TD方向」を,それぞれ「幅方向」及び「縦方向」に書き改めるとともに,用語を統一して記載した。
「 基材フィルムを作製し,
ポリビニルアルコール水溶液に架橋剤を混合した混合水溶液を基材フィルム上に塗工し乾燥させ,プライマー層/基材フィルム/プライマー層の構成からなるフィルムを得,
ポリビニルアルコール水溶液をプライマー層上に塗工し乾燥させ,ポリビニルアルコール系樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層の構成からなる積層フィルムを得,
積層フィルムを幅方向に収縮させながら縦方向に延伸し延伸フィルムを作製し,
延伸フィルムを染色溶液に浸漬し架橋溶液に浸漬させて,偏光性積層フィルムを得,
ポリビニルアルコール水溶液に架橋剤を混合し,接着剤溶液とし,
偏光性積層フィルムの両面に透明保護フィルムを,接着剤溶液を用いて貼り合わせ,透明保護フィルム/接着剤層/偏光子層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/偏光子層/接着剤層/透明保護フィルムの9層からなる積層フィルムを得,
積層フィルムから基材フィルムを剥離除去して得た,基材フィルムの両側に存在していた「保護フィルム/接着剤層/偏光子/プライマー層」の構成の偏光板であって,
偏光度が99.98%以上であり,
液晶表示装置をはじめとする各種表示装置に有効に適用することができる,
偏光板。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 偏光板
引用発明の「偏光板」は,「保護フィルム/接着剤層/偏光子/プライマー層」の構成のものである。ここで,引用発明全体の構成からみて,引用発明の「保護フィルム」,「偏光子」及び「偏光板」は,その文言が意味するとおりの機能を果たすものである。また,引用発明の「偏光板」は,偏光子と,前記偏光子上に配置された保護フィルムとを備えるものといえる。
そうしてみると,引用発明の「保護フィルム」,「偏光子」及び「偏光板」は,本願発明の「保護フィルム」,「偏光子」及び「偏光板」に相当する。また,引用発明の「偏光板」は,本願発明の「偏光板」の,「偏光子と,前記偏光子上に配置された保護フィルムと,を備える偏光板であって」という要件を満たすものである。

イ 偏光度
引用発明の「偏光板」は,「偏光度が99.98%以上」である。
したがって,引用発明の「偏光板」は,本願発明の「偏光板」の,「前記偏光板の平均の偏光度は99.98%以上であり」という要件を満たすものである。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明(の偏光板)と引用発明は,次の構成で一致する。
「 偏光子と,前記偏光子上に配置された保護フィルムと,を備える偏光板であって,
前記偏光板の平均の偏光度は99.98%以上である,
偏光板。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は,「液晶セルと,前記液晶セルの両面に貼りつけられた一対の偏光板を備え」,「前記液晶セルのサブピクセルの面積が0.1mm^(2)以下」である「液晶パネル」であるのに対して,引用発明は,「偏光板」である点。

(相違点2)
本願発明の「偏光板」の外形形状は,「660mm以上の長辺及び370mm以上の短辺を有する矩形」であるのに対して,引用発明は,このように特定されたものではない点。

(相違点3)
本願発明の「偏光板」は,「偏光度99%未満かつ最大径30μm以上の欠陥部の個数が10個/m^(2)以下」であるのに対して,引用発明は,このように特定されたものではない点。

(3) 判断
ア 相違点1について
液晶セルの両側に偏光板を貼合して液晶パネルとすることは周知であり,また,どの程度のサブピクセル面積の液晶セルを用いるかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項である。
すなわち,例えば,上記引用文献8の【0258】には,「透過型の液晶表示装置は,通常,バックライトと液晶セル,および透過軸が直交する2枚の偏光板から構成され,該2枚の偏光板は該液晶セルの視認側とバックライト側に粘着剤層を介して貼合されている。」と記載されている。
また,「液晶セルのサブピクセルの面積が0.1mm^(2)以下」ということは,解像度が47ppi以上ということであるから,当業者が必要に応じて適宜選択しうる範囲内の液晶セルのサブピクセルの面積といえる。
(当合議体注:サブピクセルの面積が0.1mm^(2)ということは,RGBのピクセルの面積が0.3mm^(2)以下ということであり,これは,一辺が約0.55mm以下の正方形の面積に相当する。そして,1インチ(25.4mm)を0.55mmで割ると,46と計算されるから,解像度が47ppi以上の通常の液晶セル(RGB,正方形)ならば,「サブピクセルの面積が0.1mm^(2)以下」ということになる。これに対して,旧来のMacOSが前提とする解像度は72ppi,Windowsの解像度は96ppi,32インチ(約710mm×400mm)で1366×768ピクセル(フルハイビジョンではないハイビジョン)の液晶セルの解像度は49ppiである。)
そして,引用発明の「偏光板」は,「液晶表示装置をはじめとする各種表示装置に有効に適用することができる」ものである。
そうしてみると,本件出願の出願前の技術水準を前提とする当業者が,引用発明の「偏光板」を用いて,「液晶セルと,前記液晶セルの両面に貼りつけられた一対の偏光板を備え」,「前記液晶セルのサブピクセルの面積が0.1mm^(2)以下」である「液晶パネル」とすることは,容易に発明できたことである。

イ 相違点2について
偏光板を所定寸法以上の長方形として取り扱うことは周知である。
すなわち,本件出願の出願前において,660mm以上の長辺及び370mm以上の短辺を有する矩形(30インチ以上)の液晶セルに対応する外形の偏光板は,ありふれたものである。例えば,引用文献5の【0022】には,「偏光板Aの形状は特に制限されないが,長辺700mm以上短辺400mm以上の方形(典型的には長方形)の偏光板枚葉体であることが好ましい。」と記載されている。また,引用文献7の【0133】及び【0134】には,それぞれ,「偏光板を,偏光子の延伸方向に711mm,垂直方向に405mmの長方形にカットしたものを第1の偏光板とし,偏光子の延伸方向に405mm,垂直方向に700mmの長方形にカットしたものを第2の偏光板とした。」及び「IPSモードの液晶セルを含む液晶表示装置[LGD社製の液晶テレビ:型式32LE7500の液晶パネル(画面サイズ:32インチ)]から,液晶パネルを取り出し,液晶セルの上下に配置されていた光学フィルムを全て取り除いた後,前記液晶セルのガラス面(表裏)を洗浄した。このようにして液晶セルAを作製した。上記偏光板のセットにおける第1の偏光板と第2の偏光板を,それぞれ,前記液晶セルAの視認側とその反対側(バックライト側)に,アクリル系粘着剤(厚み20μm)を介して貼り合わせて液晶パネルを作製した。」と記載されている。
そうしてみると,本件出願の出願前の技術水準を前提とする当業者が,上記液晶セルの外形形状に合わせて,引用発明の「偏光板」を「外形形状は660mm以上の長辺及び370mm以上の短辺を有する矩形」のものとすることは,容易に発明できたことである。

ところで,引用文献1の【0002】には,「近年,液晶表示装置のノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などモバイル機器への展開などに伴い,薄肉軽量化が求められている」と記載されており,この記載を前提にすると,引用発明の偏光板は,比較的小さなサイズを前提にしたものと考えることもできる。
しかしながら,引用文献1の【0002】には,「偏光子層(偏光フィルム)においては,高い光学性能が求められる」とも記載され,また,引用発明の偏光板の偏光度は99.98%と優れている。
そうしてみると,引用発明の偏光板は,高い偏光度(コントラスト)が求められる,大画面の液晶表示装置にも適したものといえる。また,30インチ以上の液晶表示装置においても,薄肉化や軽量化が求められることは明らかである。
なお,引用発明と同様の偏光子の製造方法が記載された特開2013-186399号公報の【0070】には,「本発明で用いられる積層フィルムの延伸前の幅方向の長さは,たとえば,100?1000mmである」(下線は当合議体が付した。)と記載されているから,引用発明が前提とする製造方法において「外形形状は660mm以上の長辺及び370mm以上の短辺を有する矩形」の偏光板を製造できることは明らかである。

ウ 相違点3について
光学フィルムの製造をクリーン度の高い環境下で行うことは一般的に求められる要求であり,また,偏光板の製造において,フィルムの貼合を特にクリーン度の高い環境で行うことも知られている。例えば,引用文献2の【0009】及び【0031】には,それぞれ,「本発明者は,光学フィルムに保護フィルムを貼合してフィルム積層体を作製する貼合装置が設置されているエリアを局所的に囲うことで該エリアのクリーン度をクリーンルーム内の他の領域よりも向上させることが容易になることに着目して上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。」及び「具体的には,前記クリーンルームは,例えば,第2のエリアのクリーン度(C2)をクラス100以下,第1のエリアのクリーン度(C1)をクラス1000以下,その他の領域のクリーン度(C0)をクラス10000以下とすれば良い。」と記載されている。また,引用文献3の【0318】には,「本発明のフィルムを作成するためには,前記したように塗布液の精密濾過操作と同時に,塗布部における塗布工程および乾燥室で行われる乾燥工程が高い清浄度の空気雰囲気下で行われ,かつ塗布が行われる前に,フィルム上のゴミ,ほこりが充分に除かれていることが好ましい。塗布工程および乾燥工程の空気清浄度は,米国連邦規格209Eにおける空気清浄度の規格に基づき,クラス10(0.5μm以上の粒子が353個/(立方メートル)以下)以上であることが望ましく,更に好ましくはクラス1(0.5μm以上の粒子が35.5個/(立方メートル)以下)以上であることが望ましい。」と記載されている。さらに,引用文献4の【0033】には,「本実施の形態において,光学補償フィルムの製造ライン10全体,特にバー塗布装置11A,11Bは,クリーンルーム等の清浄な雰囲気に設置するとよい。その際,清浄度はクラス1000以下が好ましく,クラス100以下がより好ましく,クラス10以下が更に好ましい。」と記載されている。
ここで,規格によると,クラス100,クラス10及びクラス1における5μm以上の空中最大塵埃数は,それぞれ29個,2.9個,0.29個とされているから,これらクリーンルームに,30μm以上の塵埃は皆無と考えられる。
また,引用発明の偏光板の偏光度は99.98%以上であるから,液晶パネルに適用した際に,光学的な欠陥に起因する光抜けが目立ちやすいものである。したがって,引用発明の偏光板を製造する当業者ならば,引用発明の偏光板の性能が発揮されるよう,光学的な欠陥は,極力排除するといえる。
そうしてみると,引用発明の偏光板の製造をクラス100以下のクリーンルームで行う等の,十分な対策を講じることにより,「偏光度99%未満かつ最大径30μm以上の欠陥部の個数が10個/m^(2)以下である」偏光板を得ることは,必要とされる性能等に応じて当業者が容易に発明できたことである。
(当合議体注:請求項1の記載上,本願発明において「偏光度99%未満かつ最大径30μm以上の欠陥部の個数が10個/m^(2)以下である」ものは,液晶パネルであるようにも解されるが,技術常識や本件出願の発明の詳細な説明の記載を考慮すると,これが偏光板のものであることは明らかである。また,引用発明を具体化するに際して,製造装置や材料等についても清浄なものを採用する等,すべての環境を整備することは,当然のことである。)

(4) 本願発明の効果について
発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0018】には,「本発明によれば,視認性に優れる大型液晶パネルを実現可能な偏光板が提供される。」と記載されている。ここで,「視認性に優れる」という記載は,定性的なものであり,その基準は必ずしも明らかではない。ただし,本願発明は「偏光度99%未満かつ最大径30μm以上の欠陥部の個数が10個/m^(2)以下である」という構成を具備し,その結果,本件出願の明細書の【0092】及び【0093】に記載された評価結果(画像が鮮明に観察され,白い光抜けがみられないという評価)が得られている。
しかしながら,引用発明の偏光板の偏光度は99.98%以上であるから,液晶パネルに適用した際に,光学的な欠陥に起因する光抜けが目立ちやすいものである(例えば,液晶表示装置における光抜けは,それが1個であるとしても,黒表示をしたときに,直ちに消費者等に気付かれてしまう性質の製品不良である。)。したがって,引用発明の偏光板を製造する当業者ならば,引用発明の偏光板の性能が発揮されるよう,光学的な欠陥は,極力排除するといえる。そして,当業者が,本願発明の液晶パネルを容易に発明できたことは,上記(3)で述べたとおりである。

そうしてみると,本願発明の効果は,引用発明の偏光板により液晶パネルを製造する当業者が自然に求める効果にすぎない。

なお,審判請求人は,本願発明が「液晶セルのサブピクセルの面積が0.1mm^(2)以下であり」かつ「偏光度99%未満かつ最大径30μm以上の欠陥部の個数が10個/m^(2)以下である」ことにより,高精細な大型液晶表示装置において,視認性を高くすることができるという優れた効果を奏することは容易に理解できることであると主張する(審判請求書の10頁,また,平成30年6月12日にINPIT関西(大阪市北区)において行われた面接においても,同趣旨の技術説明があった。)。
しかしながら,「サブピクセルの面積が0.1mm^(2)以下」という精細度の液晶セルは,通常のものであるから,本願発明の欠陥は,通常の液晶セルを製造する当業者ならば当然気付く範囲内のものと考えられる。
そうしてみると,高精細な大型液晶表示装置において,視認性を高くすることができるという効果を,優れた効果ということはできない。

(5) 小括
本願発明は,周知技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-21 
結審通知日 2018-06-26 
審決日 2018-07-10 
出願番号 特願2015-181735(P2015-181735)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀井 康司  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 川村 大輔
樋口 信宏
発明の名称 液晶パネル  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 阿部 寛  
代理人 城戸 博兒  
代理人 三上 敬史  

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