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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1343586
審判番号 不服2017-11390  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-01 
確定日 2018-08-23 
事件の表示 特願2016-245965「フェノール樹脂発泡板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日出願公開、特開2017-210594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月24日に出願した特願2016-103355号(以下、「原出願」という。)の一部を同年12月19日に新たな特許出願としたものであって、同日に上申書が提出され、平成29年2月14日付けで拒絶理由が通知され、同年4月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月1日付けで拒絶査定がされ、同年8月1日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成29年8月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年8月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成29年8月1日付けの手続補正の内容
平成29年8月1日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成29年4月24日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。
なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
フェノール樹脂と、粉状のフェノール樹脂硬化物と、酸性硬化剤と、ハロゲン化不飽和炭化水素を含む発泡剤と、を含むフェノール樹脂発泡層の上下面に面材を備えるフェノール樹脂発泡板であって、
前記ハロゲン化不飽和炭化水素がトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり、
前記発泡剤におけるハロゲン化不飽和炭化水素の質量比が50質量%以上であり、
前記フェノール樹脂発泡層のICP発光分光分析により定量される硫黄の量が4.0質量%以下であり、
前記粉状のフェノール樹脂硬化物の含有量は前記フェノール樹脂100質量部に対して0.01質量部以上50質量部以下であり、
前記酸性硬化剤がパラトルエンスルホン酸、及びキシレンスルホン酸の少なくとも1種を含み、
熱伝導率が0.0185W/m・K以下であり、
平均気泡径が50μm以上99.8μm以下であり、
密度が20kg/m^(3)以上31.2kg/m^(3)以下である、
フェノール樹脂発泡板(ただし、沸点が120℃以上550℃以下の高沸点炭化水素を含むものを除く。)。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
フェノール樹脂と、粉状のフェノール樹脂硬化物と、酸性硬化剤と、シリコーン系界面活性剤と、ハロゲン化不飽和炭化水素を含む発泡剤と、を含むフェノール樹脂発泡層の上下面に面材を備えるフェノール樹脂発泡板であって、
前記ハロゲン化不飽和炭化水素がトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり、
前記発泡剤におけるハロゲン化不飽和炭化水素の質量比が50質量%以上であり、
前記フェノール樹脂発泡層のICP発光分光分析により定量される硫黄の量が4.0質量%以下であり、
前記粉状のフェノール樹脂硬化物の含有量は前記フェノール樹脂100質量部に対して0.01質量部以上50質量部以下であり、
前記酸性硬化剤がパラトルエンスルホン酸、及びキシレンスルホン酸の少なくとも1種を含み、
熱伝導率が0.0185W/m・K以下であり、
平均気泡径が50μm以上99.8μm以下であり、
密度が20kg/m^(3)以上31.2kg/m^(3)以下である、
フェノール樹脂発泡板(ただし、沸点が120℃以上550℃以下の高沸点炭化水素を含むものを除く。)。」

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「フェノール樹脂発泡層」について、「フェノール樹脂と、粉状のフェノール樹脂硬化物と、酸性硬化剤と、ハロゲン化不飽和炭化水素を含む発泡剤と、を含むフェノール樹脂発泡層」とあるのを「フェノール樹脂と、粉状のフェノール樹脂硬化物と、酸性硬化剤と、シリコーン系界面活性剤と、ハロゲン化不飽和炭化水素を含む発泡剤と、を含むフェノール樹脂発泡層」とさらに限定するものであり、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載事項等
ア 引用文献2の記載事項及び引用発明
(ア)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008-24868号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「フェノール樹脂フォーム及びその製造方法」に関して、おおむね次の記載(以下、順に「記載事項2a」のようにいい、総称して「引用文献2の記載事項」という。)がある。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

2a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が10kg/m^(3)以上100kg/m^(3)以下の、炭化水素を含有するフェノール樹脂フォームであって、独立気泡率が90%以上、熱伝導率が0.015W/m・K以上0.023W/m・K以下、平均気泡径が20μm以上150μm以下の範囲にあり、かつ気泡径分布の標準偏差がその平均気泡径の7%以下であり、さらに該フォームの横断面積に占めるボイドの面積割合が0.5%以下であり、かつ気泡壁に孔が存在しない均一微細気泡構造を有することを特徴とするフェノール樹脂フォーム。
【請求項2】
熱伝導率が0.015W/m・K以上0.021W/m・K以下、平均気泡径が40μm以上100μm以下の範囲にあり、かつ該フォームの横断面積に占めるボイドの面積割合が0.2%以下である請求項1に記載のフェノール樹脂フォーム。」

2b 「【技術分野】
【0001】
均一微細気泡構造を有するフェノール樹脂フォーム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
・・・(略)・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フェノール樹脂フォームを製造するにあたり、原料の一部に、廃材であるフェノール樹脂フォーム、もしくは安価な増量剤を利用することでコストダウンを実現するとともに、微細かつ均一な気泡構造を有し、熱伝導率が低いフェノール樹脂フォームを提供することを目的とする。」
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フェノール樹脂フォームの積極的な再利用、もしくは安価な粉体を増量剤として利用することによる原料費の削減を実現しながら、性能及び外観良好なフェノール樹脂フォームを提供することができる。」

2c 「【0033】
フェノール樹脂フォームは一般に触媒由来の遊離酸を含んでいるため、大量に発泡性フェノール樹脂組成物に粉体としてフェノール樹脂フォーム粉を添加した際、発泡性フェノール樹脂組成物が反応して分子量が高くなり取り扱いが困難となったり、硬化したりする恐れがある。これを防止するため、必要であればフェノール樹脂フォーム粉の洗浄等の処理を施すことができる。洗浄には水や弱アルカリ性水溶液等が利用できる。」

2d 「【0040】
本発明に用いられる界面活性剤は、一般にフェノール樹脂フォームの製造に使用されるものを使用できるが、中でもノニオン系の界面活性剤が効果的であり、例えば、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であるアルキレンオキサイドや、アルキレンオキサイドとヒマシ油の縮合物、アルキレンオキサイドとノニルフェノール、ドデシルフェノールのようなアルキルフェノールとの縮合生成物、更にはポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系化合物、ポリアルコール類等が好ましい。界面活性剤は一種類で用いても良いし、二種類以上を組み合わせて用いても良い。また、その使用量についても特に制限はないが、フェノール樹脂組成物100重量部当たり0.3?10重量部の範囲で好ましく使用される。」

2e「【0041】
本発明で使用する発泡剤に含まれる炭化水素含有量は50重量%以上であることが望ましく、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。炭化水素の含有量が50重量%未満であると、発泡剤の地球温暖化係数が大きくなり好ましくない。本発明のフェノール樹脂フォームの製造に用いる発泡剤に含有される炭化水素としては、炭素数が3?7の環状または鎖状のアルカン、アルケン、アルキンが好ましく、発泡性能、化学的安定性(2重結合を有しない。)及び化合物自体の熱伝導率の観点から、炭素数4?6のアルカンもしくはシクロアルカンがより好ましい。具体的には、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、シクロヘキサン、等を挙げることができる。その中でも、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ネオペンタンのペンタン類及びノルマルブタン、イソブタン、シクロブタンのブタン類は本発明のフェノール樹脂フォームの製造においてその発泡特性が快適である上に、熱伝導率が比較的小さいことから特に好ましい。
【0042】
本発明では、これら炭化水素を2種類以上混合して使用することもできる。具体的にはペンタン類5?95重量%とブタン類95?5重量%との混合物は広い温度範囲で良好な断熱特性を示すので好ましい。その中でもノルマルペンタンまたはイソペンタンとイソブタンの組み合わせは、低温域から高温域までの広い範囲で高断熱性能を有し、これら化合物が安価であるのも使用に際して有利な点といえる。また、発泡剤として炭化水素と、沸点の低い1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン等のHFC類を併用するとフェノール樹脂フォーム低温特性を向上させることも可能であるが、混合発泡剤としての地球温暖化係数が大きくなるので、HFC類を併用することはそれほど好ましいとはいえない。また、発泡核剤として窒素、ヘリウム、アルゴン、空気などの低沸点物質を発泡剤に添加して使用しても良い。」

2f 「【0043】
本発明で使用する酸硬化触媒は特に限定はしないが、水を含む酸を使用すると発泡体気泡壁の破壊等が起こる恐れがある。そのため無水リン酸や無水アリールスルホン酸が好ましいと考えられる。無水アリールスルホン酸としてはトルエンスルホン酸やキシレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、置換フェノールスルホン酸、キシレノールスルホン酸、置換キシレノールスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等があげられ、これらを一種類で用いても、二種類以上の組み合わせでもよい。また、硬化助剤として、レゾルシノール、クレゾール、サリゲニン(o-メチロールフェノール)、p-メチロールフェノール等を添加してもよい。また、これらの硬化触媒を、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の溶媒で希釈してもよい。」

2g 「【実施例】
【0062】
次に、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<フェノール樹脂の合成>
反応器に52重量%ホルムアルデヒド3500kgと99重量%フェノール2510kgを仕込み、プロペラ回転式の攪拌機により攪拌し、温調機により反応器内部液温度を40℃に調整した。次いで50重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えながら昇温して、反応を行わせた。オストワルド粘度が60センチストークス(25℃における測定値)に到達した段階で、反応液を冷却し、尿素を570kg(ホルムアルデヒド仕込み量の15モル%に相当)添加した。その後、反応液を30℃まで冷却し、パラトルエンスルホン酸一水和物の50重量%水溶液でpHを6.4に中和した。
【0064】
この反応液を、60℃で脱水処理して粘度及び水分量を測定したところ、40℃における粘度は5,800mPa・s、水分量は5重量%であった。これをフェノール樹脂A-Uとする。
【0065】
(実施例1)
フェノール樹脂A-U:100重量部に対して、界面活性剤としてエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドのブロック共重合体(BASF製、プルロニックF-127)を2.0重量部の割合で混合した。
【0066】
フェノール樹脂フォーム(旭化成建材(株)製、ネオマフォーム)端材を、転動ボールミル(乾式、直径900mm×1,500mm)にて面材剥離及び粗粉砕してから、篩(篩目開き:1.2mm)により面材を除去した後、振動ボールミル(乾式、内径150mm、1筒15.5L×2筒)を用いて圧密化微粉砕を行い、篩(篩目開き:0.5mm)により大粒径のフォーム粉を除去した後、嵩密度183kg/m^(3)のフェノール樹脂フォーム粉を作製した。このフェノール樹脂フォーム粉をレーザー回析光散乱方式粒径分布測定装置で測定したところ、平均粒径は26.4μmであった。
【0067】
この粉末を、フェノール樹脂A-U:100重量部に対して8重量部添加し、二軸押し出し機((株)テクノベル製)によって混練した。フェノール樹脂フォーム粉含有フェノール樹脂100重量部に対して、発泡剤としてイソペンタン50重量%とイソブタン50重量%の混合物7重量部、酸硬化触媒としてキシレンスルホン酸80重量%とジエチレングリコール20重量%の混合物11重量部からなる組成物を25℃に温調したミキシングヘッドに供給し、マルチポート分配管を通して、移動する下面材上に供給した。使用する混合機(ミキサー)は、特開平10-225993号に開示したものを使用した。即ち、上部側面にフェノール樹脂に界面活性剤と粉体を添加した樹脂組成物、及び、発泡剤の導入口があり、回転子が攪拌する攪拌部の中央付近の側面に硬化触媒の導入口を備えている。攪拌部以降はフォームを吐出するためのノズルに繋がっている。即ち、触媒導入口までを混合部(A)、触媒導入口?攪拌終了部を混合部(B)、攪拌終了部?ノズルを分配部(C)とし、これらにより構成されている。分配部(C)は先端に複数のノズルを有し、混合された発泡性フェノール樹脂組成物が均一に分配されるように設計されている。また混合部(A)の中央側面と混合部(B)の最下部には系内の温度が測定できるように、温度センサー(D)がセットされている。さらに、各混合部及び分配部はそれぞれ温度調整を可能にするための温調用ジャケットを備えている。この温度センサー(D)で計測された温度は、36.4℃であった。
【0068】
面材としてはポリエステル製不織布(旭化成せんい(株)製「スパンボンドE05030」、秤量30g/m^(2)、厚み0.15mm)を使用した。
【0069】
下面材上に供給した発泡性フェノール樹脂組成物は、上面材で被覆されると同時に、上下面材で挟み込むようにして、85℃のスラット型ダブルコンベアへ送り、15分の滞留時間で硬化させた後、110℃のオーブンで2時間キュアしてフェノール樹脂フォームを得た。この際に利用したスラット型ダブルコンベアは、硬化中に発生する水分を外部に放出できるように設計したものである。上下面材で被覆された該発泡性フェノール樹脂組成物は、スラット型ダブルコンベアにより上下方向から面材を介して適度に圧力を加えることで板状に成形した。この上下方向側から圧力を加えたときの発泡性フェノール樹脂組成物の40℃における粘度は、8,800mPa・sであった。」

2h 「【0082】
上記実施例及び比較例に用いた、発泡性フェノール樹脂組成物中に添加する粉体の特徴、及び最初にこの上下方向側から圧力を加えたときの発泡性フェノール樹脂組成物の40℃における粘度を表1に、得られたフェノール樹脂フォームの評価結果を表2に、各々示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】



(イ)引用発明
記載事項2gによると、引用文献2には、実施例1として、下面材上に供給した発泡性フェノール樹脂組成物を、上面材で被覆されると同時に、上下面材で挟み込むようにして、85℃のスラット型ダブルコンベアへ送り、15分の滞留時間で硬化させた後、110℃のオーブンで2時間キュアして得た上下面材で被覆されたフェノール樹脂フォームが記載されている(【0069】)。
そして、記載事項2gによると、上記発泡性フェノール樹脂組成物は、フェノール樹脂A-U:100重量部に対して、界面活性剤としてエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドのブロック共重合体(BASF製、プルロニックF-127)を2.0重量部の割合で混合し(【0065】)、フェノール樹脂フォーム粉を8重量部添加し(【0067】)、発泡剤としてイソペンタン50重量%とイソブタン50重量%の混合物を7重量部添加し(【0067】)、酸硬化触媒としてキシレンスルホン酸80重量%とジエチレングリコール20重量%の混合物を11重量部添加したものである(【0067】)。
また、記載事項2hによると、上記フェノール樹脂フォームにおける発泡性フェノール樹脂組成物が発泡したものは、熱伝導率が0.018W/m・Kであり、平均気泡径が72μmであり、フォーム密度が27.1kg/m^(3)である(【0084】の【表2】の実施例1の欄)から、フェノール樹脂発泡体といえる。

したがって、引用文献2の記載事項を、実施例1に関して整理すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「フェノール樹脂A-U100重量部と、フェノール樹脂フォーム粉8重量部と、酸硬化触媒としてキシレンスルホン酸80重量%とジエチレングリコール20重量%の混合物11重量部と、界面活性剤としてエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドのブロック共重合体(BASF製、プルロニックF-127)2.0重量部と、発泡剤としてイソペンタン50重量%とイソブタン50重量%の混合物7重量部とを含む発泡性フェノール樹脂組成物からのフェノール樹脂発泡体の上下面に面材を被覆しているフェノール樹脂フォームであって、熱伝導率が0.018W/m・Kであり、平均気泡径が72μmであり、フォーム密度が27.1kg/m^(3)であるフェノール樹脂フォーム。」

イ 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-157937号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「フェノール樹脂発泡体及びその製造方法」に関して、おおむね次の記載(以下、「引用文献3の記載事項」という。)がある。

・「【0001】
本発明は、フェノール樹脂発泡体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年省エネに関する意識向上及び、次世代省エネ基準の義務化等により住宅の高気密、高断熱が求められてきている。このような住宅の断熱性能向上に伴い、必要とされる断熱材の厚みが増すことが予想されるが、室内の居住スペースの圧迫及び壁体内の空間に制限があることから、断熱材の厚みが増すことに伴う設計変更が必要となるといった問題が生じていた。また、断熱材は壁体内に施工されるため、居住しながらの新品への交換は非常に困難であることから、長期間に渡って断熱性能を維持することも要求されている。
【0003】
住宅用途の断熱材としてはグラスウール、ロックウールをはじめとする繊維系の断熱材、又はスチレン、ウレタン、フェノール樹脂を発泡させた発泡プラスチック系の断熱材が用いられている。このうち発泡プラスチック系の断熱材は、気泡内に内包される発泡剤の種類及び状態によって断熱性能が大きく影響を受けることが知られている。
【0004】
従来、発泡プラスチック系断熱材の製品に用いる発泡剤として熱伝導率が低いクロロフルオロカーボン(CFC)が使用されていたが、CFCは、オゾン層の破壊及び気候変動に大きく寄与することから1987年に採択されたモントリオール議定書により使用の廃止が規定された。この結果、オゾン破壊係数、地球温暖化係数の比較的低いハイドロフルオロカーボン(HFC)への発泡剤の転換が行われたが、HFCは依然として高い地球温暖化係数を有していることから、炭化水素系の発泡剤への発泡剤転換が進められてきた。
【0005】
炭化水素系の発泡剤は、そのオゾン破壊係数及び地球温暖化係数が低く、環境保全という観点では優れた発泡剤である。しかし、炭化水素系の発泡剤は可燃性であるため、これを用いる場合、製造設備を防爆仕様にする必要があり、設備が非常に高価になる傾向がある。また、断熱材の気泡に内包された可燃性の炭化水素系の発泡剤は、発泡プラスチック系断熱材の燃焼性を高めてしまう。特に酸素指数が26容量%以下の断熱材は、指定可燃物となるためその保管場所、保存方法に制限が設けられるといった問題がある。さらに、前述の断熱材が施工された建築物にて火災が発生した場合、断熱材が火炎の延焼速度を早めてしまうといった課題もあった。
【0006】
特許文献1、2、3、4及び5には、オゾン破壊係数がほぼゼロであり、地球温暖化係数が低く、かつ難燃性である塩素化又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンとして多くのガス種が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-546892号公報
【特許文献2】特開2013-64139号公報
【特許文献3】特開2010-522819号公報
【特許文献4】特表2009-513812号公報
【特許文献5】特開2011-504538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1?5において多くの塩素化又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンが開示されているが、中でも1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンはオゾン破壊係数及び地球温暖化係数が低く、更に難燃性を有しているという特徴がある。しかしながら、上記文献においては、易燃性のポリスチレン、ポリウレタン樹脂の発泡体にこれらが適用された具体例しか記載されておらず、塩素化又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンの難燃性が充分に発揮されているとはいえない。
一方、フェノール樹脂発泡体はフェノール樹脂自体が難燃性を有しているが、可燃性の炭化水素系発泡剤を用いた場合には難燃性が阻害され、充分に難燃性を発揮できないことが懸念される。
ここで、上述の塩素化又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンは、フェノール樹脂発泡体用途には最適化されていない。1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは、フェノール樹脂との親和性が高いために、独立気泡率が低下したり、発泡剤の発泡体外への拡散速度が速いことから長期使用による熱伝導率の経時変化が大きくなったりすることが懸念される。
【0009】
本発明は、環境負荷を抑えながら、難燃性に優れ、さらに優れた断熱性能を長期間に渡って維持可能なフェノール樹脂発泡体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、発泡剤として塩素化又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンを用いることで、環境負荷を抑えながら、難燃性に優れ、さらに優れた断熱性能を長期間に渡って維持可能なフェノール樹脂発泡体が得られること、及びそのフェノール樹脂発泡体の製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下に関する。
[1] フェノール樹脂と、塩素化ハイドロフルオロオレフィン又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンのうち少なくともいずれか一方を含む発泡剤とを含有し、
密度が10kg/m^(3)以上150kg/m^(3)以下であり、
10℃の環境下における熱伝導率が0.0175W/m・k以下であり、かつ
23℃の環境下における熱伝導率が0.0185W/m・k以下である、フェノール樹脂発泡体。
[2] 酸素指数が28容量%以上である、[1]記載のフェノール樹脂発泡体。
[3] 110℃の雰囲気に14日間放置条件後の10℃環境下における熱伝導率が、0.0185W/m・k以下である、[1]または[2]記載のフェノール樹脂発泡体。
[4] 独立気泡率が90%以上であり、平均気泡径が50μm以上200μm以下であり、かつボイド面積率が0.2%以下である、[1]?[3]のいずれかに記載のフェノール樹脂発泡体。
[5] 前記発泡剤が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン及び1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンからなる群より選ばれる少なくとも1種のオレフィンを含む、[1]?[4]のいずれかに記載のフェノール樹脂発泡体。
[6] フェノール樹脂、界面活性剤、硬化触媒及び発泡剤を含有する発泡性フェノール樹脂組成物を面材上で発泡及び硬化させる工程を含む、フェノール樹脂発泡体を製造する方法であって、
前記発泡剤が、塩素化ハイドロフルオロオレフィン又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンのうち少なくともいずれか一方を含み、
前記フェノール樹脂の重量平均分子量Mwが400以上3000以下で、前記フェノール樹脂の数平均分子量Mnに対する前記重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが1.5以上6.0以下であり、前記重量平均分子量Mw及び前記数平均分子量Mnがゲル浸透クロマトグラフィーによって求められる値である、方法。
[7] 前記発泡性フェノール樹脂組成物が、前記フェノール樹脂及び水を含むフェノール樹脂原料と、前記界面活性剤と、前記硬化触媒と、前記発泡剤とを含有する混合物であり、前記フェノール樹脂原料の水分率が、前記フェノール樹脂原料の質量を基準として1質量%以上20質量%以下である、[6]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オゾン破壊係数及び地球温暖化係数が極めて低い発泡剤を用いながら、難燃性に優れ、さらに優れた断熱性能を長期間に渡って維持可能なフェノール樹脂発泡体及びその製造方法を提供することができる。」

・「【0026】
本実施形態において該発泡剤中に含まれる塩素化又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンの総含有量は、発泡剤の総質量を基準として、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、とりわけ好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。該発泡剤に含まれる塩素化又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンの含有量が30質量%未満であると、断熱性能と難燃性が低下する傾向がある。」

ウ 引用文献4の記載事項
原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特許第5805345号公報(平成27年11月4日発行、以下、「引用文献4」という。)には、「フェノール樹脂発泡体」に関して、おおむね次の記載(以下、「引用文献4の記載事項」という。)がある。

・「【0001】
本発明は、フェノール樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂発泡体は、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐腐食性等に優れることから、断熱材として種々の分野で採用されている。例えば建築分野では、合成樹脂建材、特に壁板内装材として、フェノール樹脂発泡体製壁板が採用されている。
フェノール樹脂発泡体は通常、フェノール樹脂、発泡剤、酸触媒(硬化剤)、界面活性剤等を含む発泡性フェノール樹脂組成物を発泡、硬化させることによって製造される。このようにして製造されたフェノール樹脂発泡体は独立気泡を有し、独立気泡中には発泡剤から発生したガスが含まれる。
フェノール樹脂発泡体の発泡剤として、イソプロピルクロリドとイソペンタンとの混合物を用いることが提案されている。かかる混合物を発泡剤として用いたフェノール樹脂発泡体は、本質的に気泡欠陥が無く、安定かつ低い熱伝導率を示すとされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4939784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、イソペンタンは可燃性であり、発泡剤としてイソプロピルクロリドとイソペンタンとの混合物を用いたフェノール樹脂発泡体は、独立気泡中に可燃性のガスを含むため、難燃性が不充分である。
発泡剤としてイソプロピルクロリドのみを用いた場合、イソペンタンとの混合物よりは難燃性は改善するが、独立気泡のセル径が大きくなり、熱伝導率が高くなって断熱性が低下する問題がある。
【0005】
本発明の目的は、難燃性および断熱性に優れたフェノール樹脂発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
<1>レゾール型フェノール樹脂と、発泡剤と、酸触媒と、界面活性剤とを含む発泡性フェノール樹脂組成物を発泡、硬化させてなるフェノール樹脂発泡体であって、
前記発泡剤が、イソプロピルクロライドとハロゲン化不飽和炭化水素とからなり、
前記発泡剤におけるイソプロピルクロライドと前記ハロゲン化不飽和炭化水素との質量比が、イソプロピルクロライド:ハロゲン化不飽和炭化水素=9:1?7:3であり、
前記ハロゲン化不飽和炭化水素が、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)またはトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)であり、
平均気泡径が120μm以下であり、
熱伝導率が0.019W/m・K以下であることを特徴とするフェノール樹脂発泡体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、難燃性および断熱性に優れたフェノール樹脂発泡体を提供できる。」

・「【0011】
(発泡剤)
発泡剤は、2種以上のハロゲン化炭化水素を含む。
発泡剤として2種以上のハロゲン化炭化水素を併用することにより、1種のハロゲン化炭化水素を用いる場合に比べて、フェノール樹脂発泡体中の独立気泡の平均気泡径が小さくなる。これは、2種以上のハロゲン化炭化水素のうち、沸点の低いものが、発泡性フェノール樹脂組成物を発泡させる際に核剤として機能するためと考えられる。また、ハロゲン化炭化水素は、イソペンタン等の脂肪族炭化水素に比べて熱伝導率が低い。平均気泡径が小さく、独立気泡中のガスの熱伝導率が低いことにより、フェノール樹脂発泡体の熱伝導率が従来よりも低く、断熱性が優れる。
また、ハロゲン化炭化水素は難燃性であるため、イソペンタン等の脂肪族炭化水素を用いる場合に比べて、フェノール樹脂発泡体の難燃性が優れる。
【0012】
ハロゲン化炭化水素としては、発泡剤として公知のものを用いることができ、例えば塩素化炭化水素、塩素化フッ素化炭化水素、フッ素化炭化水素、臭素化フッ素化炭化水素、ヨウ素化フッ素化炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素は、水素の全てがハロゲンで置換されたものでもよいし、水素の一部がハロゲンで置換されたものでもよい。
・・・(略)・・・
【0014】
塩素化フッ素化炭化水素としては、分子内に塩素とフッ素と2重結合を含むものが挙げられ、例えば、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエテン(E及びZ異性体)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)(E及びZ異性体)(HoneyWell社製、商品名:SOLSTICE LBA)、・・・(略)・・・等が挙げられる。
・・・(略)・・・
【0016】
ハロゲン化炭化水素としては、オゾン破壊係数(ODP)および地球温暖化係数(GWP)が小さく、環境に与える影響が小さい点で、ハロゲン化不飽和炭化水素が好ましく、塩素化フッ素化不飽和炭化水素またはフッ素化不飽和炭化水素がより好ましい。」

・「【0026】
(界面活性剤)
界面活性剤は、気泡径(セル径)の微細化に寄与する。
界面活性剤としては、特に限定されず、整泡剤等として公知のものを使用できる。例えば、ひまし油アルキレンオキシド付加物、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
界面活性剤は、気泡径の小さい気泡を形成しやすい点で、ひまし油アルキレンオキシド付加物およびシリコーン系界面活性剤のいずれか一方または両方を含むことが好ましく、熱伝導率をより低く、難燃性をより高くできる点で、シリコーン系界面活性剤を含むことがより好ましい。」

・「【0047】
本発明のフェノール樹脂発泡体は、制限酸素指数(Limited Oxygen Index;以下「LOI」ともいう。)が28%以上であり、30%以上が好ましい。
LOIは、規定の条件下で、試料が有炎燃焼を維持するのに必要な23℃±2℃の酸素と窒素との混合ガスの最小酸素濃度%(体積分率)であり、燃焼性の指標である。LOIが大きいほど燃焼性が低いことを示し、一般に、LOIが26%以上であれば難燃性を有すると判断されている。
【0048】
フェノール樹脂発泡体のLOIは、発泡剤の種類および組成、界面活性剤の種類、難燃剤の種類および組成とその量等により調整できる。例えば、発泡剤中の可燃性の発泡剤の含有量が少ない(ハロゲン化炭化水素の含有量が多い)ほど、LOIが高い。また、界面活性剤がシリコーン系界面活性剤、特に末端が-OHであるポリエーテル鎖を有するものであれば、他の界面活性剤を用いる場合に比べて、LOIが高い傾向がある。さらに、リン系難燃剤等を添加することでLOIを高くすることができる。」

・「【0054】
<比較例1、参考例1?3、比較例2>
液状レゾール型フェノール樹脂(旭有機材工業株式会社製、商品名:PF-339)100質量部に、界面活性剤としてひまし油EO付加物(付加モル数30)4質量部、ホルムアルデヒドキャッチャー剤として尿素4質量部を加えて混合し、20℃で8時間放置した。
このようにして得られた混合物108質量部に対し、発泡剤として、以下の発泡剤1?5のいずれか1種10.5質量部を加え、酸触媒としてパラトルエンスルホン酸とキシレンスルホン酸との混合物16質量部を加え、また、充填剤として炭酸カルシウム3質量部、可塑剤としてポリエステルポリオール3質量部を加え、攪拌、混合して発泡性フェノール樹脂組成物を調製した。
この発泡性フェノール樹脂組成物を300×300×45mmの型枠に吐出し、これを70℃の乾燥機中で300秒間加熱して発泡成形した後、成型物を型枠から取り出し、85℃の乾燥機に入れ、5時間養生させてフェノール樹脂発泡体を作製した。
【0055】
発泡剤1:イソプロピルクロリド。
発泡剤2:イソプロピルクロリド:シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン=89:11(質量比)の混合物。
発泡剤3:イソプロピルクロリド:シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン=80:20(質量比)の混合物。
発泡剤4:イソプロピルクロリド:シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン=71:29(質量比)の混合物。
発泡剤5:シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン。」

・「【0059】
<比較例3、参考例4?6、比較例4>
液状レゾール型フェノール樹脂(旭有機材工業株式会社製、商品名:PF-339)100質量部に、界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製、品番「SH193」、ポリエーテル鎖の末端:-OH)4質量部、ホルムアルデヒドキャッチャー剤として尿素4質量部を加えて混合し、20℃で8時間放置した。
このようにして得られた混合物108質量部に対し、発泡剤として、前記の発泡剤1?5のいずれか1種10.5質量部加え、酸触媒としてパラトルエンスルホン酸とキシレンスルホン酸との混合物16質量部を加え、また、充填剤として炭酸カルシウム3質量部、可塑剤としてポリエステルポリオール3質量部を加え、攪拌、混合して発泡性フェノール樹脂組成物を調製した。
この発泡性フェノール樹脂組成物を300×300×45mmの型枠に吐出し、これを70℃の乾燥機中で300秒加熱硬化した後、成型物を型枠から取り出し、85℃の乾燥機に入れ、5時間養生させてフェノール樹脂発泡体を作製した。」

・「【0071】
<実施例13?15、比較例8>
発泡剤2?5におけるシス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンをトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとしたこと以外は、参考例4?6、比較例4と同様にしてフェノール樹脂発泡体を作製した。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「フェノール樹脂A-U」は本願補正発明における「フェノール樹脂」に相当し、以下、同様に、「フェノール樹脂フォーム粉」は「粉状のフェノール樹脂硬化物」に、「酸硬化触媒としてキシレンスルホン酸80重量%とジエチレングリコール20重量%の混合物」は「酸性硬化剤」に、「発泡性フェノール樹脂組成物からのフェノール樹脂発泡体」は「フェノール樹脂発泡層」に、「上下面に面材を被覆している」は「上下面に面材を備える」に、「フェノール樹脂フォーム」は「フェノール樹脂発泡板」に、それぞれ相当する。
引用発明における「界面活性剤としてエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドのブロック共重合体(BASF製、プルロニックF-127)」は、本願補正発明における「シリコーン系界面活性剤」と、「界面活性剤」という限りにおいて一致する。
引用発明における「発泡剤としてイソペンタン50重量%とイソブタン50重量%の混合物」は、本願補正発明における「ハロゲン化不飽和炭化水素を含む発泡剤」及び「前記ハロゲン化不飽和炭化水素がトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり」と、「発泡剤」という限りにおいて一致する。
引用発明における「フェノール樹脂A-U」は100重量部であり、「フェノール樹脂フォーム粉」は8重量部であるから、引用発明は、本願補正発明における「前記粉状のフェノール樹脂硬化物の含有量は前記フェノール樹脂100質量部に対して0.01質量部以上50質量部以下であり」という発明特定事項を有する。
引用発明における「酸硬化触媒としてキシレンスルホン酸80重量%とジエチレングリコール20重量%の混合物11重量部」は、キシレンスルホン酸を含むことから、引用発明は、本願補正発明における「前記酸性硬化剤がパラトルエンスルホン酸、及びキシレンスルホン酸の少なくとも1種を含み」という発明特定事項を有する。
引用発明における「熱伝導率が0.018W/m・Kであり」は、本願補正発明における「熱伝導率が0.0185W/m・K以下であり」に相当する。
引用発明における「平均気泡径が72μmであり」は、本願補正発明における「平均気泡径が50μm以上99.8μm以下であり」に相当する。
引用発明における「フォーム密度が27.1kg/m^(3)である」は、本願補正発明における「密度が20kg/m^(3)以上31.2kg/m^(3)以下である」に相当する。
引用発明に含まれている炭化水素はイソペンタン(沸点27.7℃)とイソブタン(沸点-11.7℃)であるから、引用発明において、沸点が120℃以上550℃以下の高沸点炭化水素を含むものは除かれていることは、明らかである。

したがって、両者は、
「フェノール樹脂と、粉状のフェノール樹脂硬化物と、酸性硬化剤と、界面活性剤と、発泡剤と、を含むフェノール樹脂発泡層の上下面に面材を備えるフェノール樹脂発泡板であって、
前記粉状のフェノール樹脂硬化物の含有量は前記フェノール樹脂100質量部に対して0.01質量部以上50質量部以下であり、
前記酸性硬化剤がパラトルエンスルホン酸、及びキシレンスルホン酸の少なくとも1種を含み、
熱伝導率が0.0185W/m・K以下であり、
平均気泡径が50μm以上99.8μm以下であり、
密度が20kg/m^(3)以上31.2kg/m^(3)以下である、
フェノール樹脂発泡板(ただし、沸点が120℃以上550℃以下の高沸点炭化水素を含むものを除く。)。」
である点で一致し、以下の点で相違または一応相違する。

<相違点1>
「界面活性剤」に関して、本願補正発明においては、「シリコーン系界面活性剤」と特定されているのに対して、引用発明においては、「エチレンオキサイド-プロピレンオキサイドのブロック共重合体(BASF製、プルロニックF-127)」と特定されている点。

<相違点2>
「発泡剤」に関して、本願補正発明においては、「ハロゲン化不飽和炭化水素を含む発泡剤」及び「前記ハロゲン化不飽和炭化水素がトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり」、「前記発泡剤におけるハロゲン化不飽和炭化水素の質量比が50質量%以上であり」と特定されているのに対して、引用発明においては、「発泡剤としてイソペンタン50重量%とイソブタン50重量%の混合物」と特定されている点。

<相違点3>
本願補正発明においては、「前記フェノール樹脂発泡層のICP発光分光分析により定量される硫黄の量が4.0質量%以下であり」と特定されているのに対し、引用発明においては、ICP発光分光分析により定量される硫黄の量に関して特定されていない点。

(3)相違点についての判断
そこで、相違点1ないし3について、以下に検討する。

ア 相違点1について
記載事項2dによると、引用文献2には、界面活性剤として、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系化合物が好ましい旨の記載がある(【0040】)から、引用文献2には、引用発明において、シリコーン系界面活性剤を使用することの示唆又は動機付けがあるといえる。
また、引用文献4には、難燃性および断熱性に優れたフェノール樹脂発泡体を提供する(【0005】)ために、フェノール樹脂発泡体の界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製、品番「SH193」、ポリエーテル鎖の末端:-OH)を、発泡剤としてトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを組み合わせて使用すること(【0059】及び【0071】)、界面活性剤は、気泡径の小さい気泡を形成しやすい点で、また、難燃性をより高くできる点でシリコーン系界面活性剤を含むことが好ましいこと(【0026】)及び界面活性剤がシリコーン系界面活性剤、特に末端が-OHであるポリエーテル鎖を有するものであれば、他の界面活性剤を用いる場合に比べて、燃焼性の指標であるLOIが高い傾向があること(【0048】)が記載されている。
そして、記載事項2a及び2bによると、引用発明は、熱伝導率が低いフェノール樹脂フォームに関するものであり、そのような部材は、難燃性も求められるものである(必要であれば、引用文献3の【0009】参照。)から、引用発明は、断熱性に加え、難燃性を高めることも課題とするものである。
したがって、引用発明において、難燃性及び断熱性に優れたフェノール樹脂発泡体を提供するために、引用文献4の記載事項を適用し、フェノール樹脂発泡体の界面活性剤として「シリコーン系界面活性剤」を採用して、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
記載事項2eによると、発泡剤に含まれる炭化水素含有量を50重量%未満にすると、地球温暖化係数が大きくなり好ましくない(【0041】)ので、引用発明においては、「発泡剤」として「イソペンタン50重量%とイソブタン50重量%の混合物」を使用したものである。
他方、引用文献3には、炭化水素系の発泡剤は、そのオゾン破壊係数及び地球温暖化係数が低く、環境保全という観点では優れた発泡剤であるが、炭化水素系の発泡剤は可燃性であるため、これを用いる場合、製造設備を防爆仕様にする必要があり、設備が非常に高価になる傾向があること(【0005】)及び1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンはオゾン破壊係数及び地球温暖化係数が低く、更に難燃性を有しているという特徴があること(【0008】)が記載され(なお、引用文献4の【0011】及び【0016】にも同様の記載がある。)、さらに、発泡剤中に含まれる塩素化ハイドロフルオロオレフィンの総含有量は、発泡剤の総質量を基準として、より好ましくは50質量%以上とすること(【0026】)も記載されている。
また、「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」には、シス異性体とトランス異性体の2つのタイプの異性体があることは技術常識であり(必要であれば、引用文献4の【0014】参照。以下、「技術常識」という。)、引用文献3に記載された1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとして、シス異性体及びトランス異性体のどちらを採用するか又はそれらの混合物を採用するかは当業者が適宜決めるべき設計的事項である。
さらに、引用文献3において、「特許文献1、2、3、4及び5には、オゾン破壊係数がほぼゼロであり、地球温暖化係数が低く、かつ難燃性である塩素化又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンとして多くのガス種が開示されている。」(【0006】)として提示された特許文献3である特表2010-522819号公報に「本発明は、オゾン層破壊がごくわずか(低いまたはゼロ)であり、かつGWPが低い、不飽和ハロゲン化ヒドロオレフィンをベースとする発泡剤の使用に関する。この発泡剤は、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)を単独で、またはヒドロフルオロオレフィン(HFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、エーテル/ジエーテルまたは二酸化炭素などの組み合わせで、含む。本発明のHCFO-1233zdは主に、HCFO-1233zdのトランス異性体である。」(【0005】)及び「本発明の好ましい発泡剤組成物、単独での、または組み合わせての、HCFO-1233zd、主にトランス異性体は、ポリウレタンおよびポリイソシアヌレート発泡体の製造で使用されるポリオール混合物への優れた溶解性を示す。本発明のHCFO-1233zd成分の大部分はトランス異性体である。このトランス異性体は、AMES試験においてシス異性体よりも遺伝毒性が極めて低いことが発見された。」(【0009】)と記載されているように、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの内、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、オゾン層破壊がごくわずか(低いまたはゼロ)であり、かつGWPが低いという特徴を有する上に、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンよりも遺伝毒性が低いという特徴を有することは引用文献3における前提技術であり、引用文献3に記載された事項であるといえるし、仮にそうでないとしても、周知(以下、「周知技術」という。)である。
したがって、引用発明において、引用文献3の記載事項、技術常識及び周知技術を適用し、可燃性の高い炭化水素系の発泡剤である「イソペンタン50重量%とイソブタン50重量%の混合物」に代えて、オゾン破壊係数及び地球温暖化係数が低く、更に難燃性を有しているという特徴と遺伝毒性が低いという特徴を有している「トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」を採用し、その際に、発泡剤に含まれる「トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」の含有量を質量比で50%以上として、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
本願明細書には、次の記載がある。

・「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発泡剤としてハロゲン化不飽和炭化水素を使用した場合でも平均気泡径の粗大化を抑制でき、環境負荷の小さいフェノール樹脂発泡板、及びその製造方法を提供できる。」

・「【0019】
また、粉状のフェノール樹脂硬化物は酸性硬化剤として一般的に用いられているスルホン酸に由来する硫黄元素を含んでおり、粉状のフェノール樹脂硬化物を含むフェノール樹脂組成物の硬化のためにも硬化剤が添加される、そのため、粉状のフェノール樹脂硬化物を加えて製造したフェノール樹脂発泡体を、粉状のフェノール樹脂硬化物の原料として繰り返し使用すると、得られるフェノール樹脂発泡層中の硫黄分が多くなっていく可能性がある。フェノール樹脂発泡体は粉状のフェノール樹脂硬化物としての再利用、即ちマテリアルリサイクルされるだけでなく、燃焼用の固形燃料としての再利用、即ちサーマルリサイクルされる場合もあり、硫黄分を多く含むフェノール樹脂発泡体を固形燃料として使用すると、この硫黄に起因してSOxなどの硫黄酸化物がより多く発生することになる。このため、粉状のフェノール樹脂硬化物を含むフェノール樹脂発泡体中の硫黄分は、粉状のフェノール樹脂硬化物を含まないフェノール樹脂発泡体の硫黄分と同等程度とすることが好ましい。
粉状のフェノール樹脂硬化物中の硫黄元素は、硫黄元素を含んでいる酸性硬化剤由来の遊離酸を除去することにより低減することができ、水や弱アルカリ性の水溶液、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、フタル酸エステル、レゾルシノール、アセトンなどの有機溶媒を洗浄液として用いて洗浄することで遊離酸を洗浄液中に溶解して除去することができる。洗浄に使用する洗浄液としては、有機溶媒を使用することで粉状のフェノール樹脂硬化物から溶媒を除去しやすくなるため、極性の有機溶媒を使用するのが好ましい。さらに、粉状のフェノール樹脂硬化物中の遊離酸を除去することでフェノール樹脂発泡体のpHの低下を抑えることができる。
【0020】
フェノール樹脂発泡層中の硫黄の含有量は実施例に記載のICP発光分光分析により測定することができる。
ICP発光分光分析により定量される硫黄の量は、4.0質量%未満が好ましい。
上記範囲内とすることで、硬化剤に由来する硫黄分を含むフェノール樹脂硬化物を添加しても、硫黄濃度の少ないフェノール樹脂発泡体とすることができ、フェノール樹脂発泡体をサーマルリサイクルする際に発生する硫黄酸化物の量を低減することができる。」

・「【実施例】
【0060】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0061】
<フェノール樹脂の合成>
反応器に52重量%ホルムアルデヒド3500kgと99重量%フェノール2510kgを仕込み、プロペラ回転式の攪拌機により攪拌し、温調機により反応器内部液温度を40℃に調整した。次いで50重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えながら昇温して、反応を行わせた。オストワルド粘度が60センチストークス(=60×10-6m2/s、25℃における測定値)に到達した段階で、反応液を冷却し、尿素を570kg(ホルムアルデヒド仕込み量の15モル%に相当)添加した。その後、反応液を30℃まで冷却し、パラトルエンスルホン酸一水和物の50重量%水溶液でpHを6.4に中和した。
この反応液を、60℃で脱水処理して粘度及び水分量を調整し、フェノール樹脂とした。
【0062】
<平均GWP>
発泡剤の平均GWPは、(ハロゲン化不飽和炭化水素の質量%×ハロゲン化不飽和炭化水素のGWP+ハロゲン化飽和炭化水素の質量%×ハロゲン化飽和炭化水素のGWP+炭化水素の質量%×炭化水素のGWP)/100で算出した。
ハロゲン化不飽和炭化水素としてHCFO1233zd-E(GWP:5)、又はHFO1336mzz-Z(GWP:8.9)、ハロゲン化飽和炭化水素として2-クロロプロパン(GWP:9.9)、炭化水素としてイソペンタン(GWP:11)を使用した。ここで、zdはHCFO1233zd-E、mzzはHFO1336mzz-Z、IPCは2-クロロプロパン、IPはイソペンタンを表す。得られた結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例1)
フェノール樹脂発泡体(積水化学工業(株)製、フェノバボード)端材を、転動ボールミル(乾式、直径900mm×1,500mm)にて面材剥離及び粗粉砕してから、篩(篩目開き:1.2mm)により面材を除去した後、振動ボールミル(乾式、内径150mm、1筒15.5L×2筒)を用いて圧密化微粉砕を行い、篩(篩目開き:0.5mm)により大粒径の粉状のフェノール樹脂硬化物を除去し、粉状のフェノール樹脂硬化物を作製した。この粉状のフェノール樹脂硬化物をレーザー回析光散乱方式粒径分布測定装置で測定したところ、平均粒径は27.9μmであった。
この粉末をプロピレングリコールで洗浄した後、洗浄液を濾過して除去した。
【0065】
洗浄した粉状のフェノール樹脂硬化物は、洗浄液を乾燥せずにフェノール樹脂に対して10質量部添加し、二軸押し出し機によって混練し、フェノール樹脂硬化物と含有フェノール樹脂の混合物を作製した。この混合物に、フェノール樹脂100質量部に対して、発泡剤Aを17.6質量部、界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製「品番SH193」、ポリエーテル鎖の末端:-OH)4質量部、酸性硬化剤としてキシレンスルホン酸80重量%とジエチレングリコール20重量%の混合物11質量部からなる組成物を25℃に温調したミキシングヘッドに供給し、マルチポート分配管を通して、移動する下面材上に供給した。使用する混合機(ミキサー)は、特開平10-225993号に開示したものを使用した。即ち、上部側面にフェノール樹脂に界面活性剤と粉状のフェノール樹脂硬化物とを添加した樹脂組成物、及び発泡剤の導入口があり、回転子が攪拌する攪拌部の中央付近の側面に酸性硬化剤の導入口を備えている。攪拌部以降はフォームを吐出するためのノズルに繋がっている。即ち、触媒導入口までを混合部(A)、触媒導入口?攪拌終了部を混合部(B)、攪拌終了部?ノズルを分配部(C)とし、これらにより構成されている。分配部(C)は先端に複数のノズルを有し、混合されたフェノール樹脂組成物が均一に分配されるように設計されている。
【0066】
下面材上に供給したフェノール樹脂組成物は、上面材で被覆されると同時に、上下面材で挟み込むようにして、85℃のスラット型ダブルコンベアへ送り、15分の滞留時間で硬化させた後、110℃のオーブンで2時間キュアした。この際に利用したスラット型ダブルコンベアは、硬化中に発生する水分を外部に放出できるように設計したものである。上下面材で被覆された該フェノール樹脂組成物は、スラット型ダブルコンベアにより上下方向から面材を介して適度に圧力を加えることで板状に成形してフェノール樹脂発泡板とした。なお、面材としてはポリエステル製不織布(旭化成せんい(株)製「スパンボンドE05030」、秤量30g/m2、厚み0.15mm)を使用した。得られたフェノール樹脂発泡体を幅910mm、長さ1820mmに切断し、厚さ45mmのフェノール樹脂発泡板を作製した。
【0067】
・・・(略)・・・
(実施例10)
粉状のフェノール樹脂硬化物を洗浄しなかったこと以外は実施例1と同様にしてフェノール樹脂発泡板の製造を行った。
・・・(略)・・・
【0074】
【表2】



他方、記載事項2gには、引用文献2に記載された実施例1について記載されている。

これらの記載内容を対比すると、引用文献2に記載された実施例1においては、粉状のフェノール樹脂硬化物の原料が「フェノール樹脂フォーム(旭化成建材(株)製、ネオマフォーム)端材」で「平均粒径は26.4μm」であり、界面活性剤が「2.0重量部」の「エチレンオキサイド-プロピレンオキサイドのブロック共重合体(BASF製、プルロニックF-127)」であり、発泡剤が「7重量部」の「イソペンタン50重量%とイソブタン50重量%の混合物」であるのに対し、本願明細書に記載された実施例10では、それぞれ、「フェノール樹脂発泡体(積水化学工業(株)製、フェノバボード)端材」で「平均粒径は27.9μm」であり、「4質量部」の「シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製「品番SH193」、ポリエーテル鎖の末端:-OH)」であり、「17.6質量部」の「HCFO1233zd-E(当審注:トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのことである。)」である点でのみ相違し、それ以外には酸性硬化剤の種類及び量を含め同一の製造条件で製造されている。
また、本願明細書の【0019】によると、フェノール樹脂発泡層中のICP発光分光分析により定量される硫黄は、酸性硬化剤として用いられているスルホン酸に由来するものである。
そして、引用文献2に記載された実施例1は、本願明細書に記載された実施例10と同様に、酸性硬化剤として、「11重量部(質量部)」の「キシレンスルホン酸80重量%とジエチレングリコール20重量%の混合物」を使用しているから、引用文献2に記載された実施例1のフェノール樹脂発泡層中のICP発光分光分析により定量される硫黄の量は、本願明細書に記載された実施例10と同じ3.1質量%程度である蓋然性が高い。
したがって、引用発明においても、「前記フェノール樹脂発泡層のICP発光分光分析により定量される硫黄の量が4.0質量%以下であり」を満たす蓋然性は高く、相違点3は、実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点3が実質的な相違点であり、引用発明においては、「前記フェノール樹脂発泡層のICP発光分光分析により定量される硫黄の量が4.0質量%以下であり」を満たさないとしても、記載事項2cによれば、引用文献2には、触媒由来の遊離酸を除去するために洗浄等の処理を行うことが記載されているから、引用発明において、洗浄等の処理を行い、「前記フェノール樹脂発泡層のICP発光分光分析により定量される硫黄の量が4.0質量%以下であり」を満たすようにして、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ 効果について
本願補正発明により奏される効果は、本願明細書の記載からみて、「平均気泡径の粗大化を抑制でき、環境負荷の小さいフェノール樹脂発泡板を提供できる」(【0008】)及び「硬化剤に由来する硫黄分を含むフェノール樹脂硬化物を添加しても、硫黄濃度の少ないフェノール樹脂発泡体とすることができ、フェノール樹脂発泡体をサーマルリサイクルする際に発生する硫黄酸化物の量を低減することができる。」(【0020】)というものである。
そして、「平均気泡径の粗大化を抑制でき、環境負荷の小さいフェノール樹脂発泡板を提供できる」という効果は、引用文献2の記載事項、特に記載事項2b及び2eによると、引用発明も奏する効果であり、また、引用文献3(【0011】)及び引用文献4(【0016】及び【0026】)にも記載されている効果である。
また、「硬化剤に由来する硫黄分を含むフェノール樹脂硬化物を添加しても、硫黄濃度の少ないフェノール樹脂発泡体とすることができ、フェノール樹脂発泡体をサーマルリサイクルする際に発生する硫黄酸化物の量を低減することができる。」という効果は、引用発明において、硫黄の量を少なくすれば、燃焼の際に硫黄酸化物の量が低減することは明らかであり、当業者が予測可能なことである。
したがって、本願補正発明により奏される効果は、引用発明、引用文献3の記載事項、引用文献4の記載事項、技術常識及び周知技術からみて、格別顕著なものとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献3の記載事項、引用文献4の記載事項、技術常識及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、平成29年4月24日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)のとおりである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、原出願の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
<引用文献等一覧>
2.特開2008-24868号公報
3.特開2015-157937号公報

3 引用文献の記載事項等
引用文献2の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2 2-2(1)アのとおりである。
また、引用文献3の記載事項は、上記第2[理由]2 2-2(1)イのとおりである。

4 対比・判断
上記第2[理由]2 2-1で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定(シリコーン系界面活性剤を含むという限定)を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に上記限定を加えた本願補正発明が、上記第2[理由]2 2-2(2)ないし(4)のとおり、引用発明、引用文献3の記載事項、引用文献4の記載事項、技術常識及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、引用文献4は、上記限定に対して引用されたものであるから、本願発明は、引用発明、引用文献3の記載事項、技術常識及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献3の記載事項、技術常識及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結語
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-19 
結審通知日 2018-06-26 
審決日 2018-07-10 
出願番号 特願2016-245965(P2016-245965)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
P 1 8・ 575- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飛彈 浩一平井 裕彰  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
発明の名称 フェノール樹脂発泡板およびその製造方法  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 西澤 和純  
代理人 山口 洋  
代理人 川越 雄一郎  

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