• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1343614
審判番号 不服2017-638  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-17 
確定日 2018-09-25 
事件の表示 特願2012-279346「定着装置及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-178487、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年12月21日の出願であって、平成28年1月18日付けで補正書が提出され、同年3月29日付けで拒絶理由が通知され、同年6月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月22日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年8月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月16日付けで同年8月26日付け手続補正書による手続補正が却下されるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ(同査定の謄本の送達日 同年10月18日)、これに対し、平成29年1月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされたものである。
そして、その後当審において、平成30年3月6日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年5月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月23日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由2」という。また、当審拒絶理由1及び2を「当審拒絶理由」と総称する。)が通知され、同年7月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし17に係る発明は、平成30年7月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものと認められる。本願の請求項1ないし17に係る発明(以下、順に「本願発明1」ないし「本願発明17」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
加熱源と、
前記加熱源によって部分加熱される回転可能な定着部材と、
前記定着部材に圧接し、前記定着部材との間にニップ部を形成する回転可能な加圧部材と、
前記定着部材又は前記加圧部材を回転させる回転駆動手段と
を備えた定着装置において、
前記加熱源は、前記定着部材の周方向で、前記ニップ部以外の少なくとも一部を加熱し、
前記定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、前記加熱源への電力供給を停止し、前記定着部材回転停止後に前記定着部材を少なくとも第一の所定量回転させ、
前記第一の所定量は、少なくとも前記加熱領域の一部が、前記ニップ部に達する量であり、
さらに、前記定着部材が定着処理終了の理由で停止した後、前記加熱源が消灯した状態で所定時間内に前記定着部材が所定温度に達した場合、前記定着部材を第二の所定量回転させ、
前記定着部材はベルトであり、内部にニップ形成部材と支持部材を有し、前記ニップ形成部材は前記支持部材によって支持され、
前記加熱源と前記支持部材との間に反射部材を有し、
前記加熱源は、輻射熱ヒータであり、
前記ニップ形成部材は、前記ニップ部で、前記定着部材を介して、前記加圧部材と対向し、
前記支持部材は、前記ニップ形成部材を介して前記加圧部材からの加圧力を受けることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記第一の所定量は、前記定着部材の停止時に、少なくとも前記加熱源に最近接した前記定着部材の箇所が、前記ニップ部に移るのに必要な量であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記定着部材が周長L1を有し、前記加熱源によって部分加熱される前記定着部材の範囲がL2であって、前記第一の所定量がL1-L2であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記ニップ部における記録媒体搬送経路の上流側と下流側に夫々、記録媒体検知手段が設けられ、前記定着部材の停止時に、それら記録媒体検知手段の間に記録媒体がないと判定された場合には、定着部材を正転させることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記ニップ部における記録媒体搬送経路の上流側と下流側に夫々、記録媒体検知手段が設けられ、前記定着部材の停止時に、それら記録媒体検知手段の間に記録媒体があると判定された場合には、定着部材を逆転させることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項6】
記録媒体の記録媒体搬送方向長さを記憶する記憶装置を備え、前記記憶装置で記憶された記録媒体の長さに応じて、定着部材の逆転量を変更することを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記定着部材の逆転に関して、前記記録媒体の搬送方向長さに応じて、その上限を設定することを特徴とする請求項5又は6に記載の定着装置。
【請求項8】
定着部材停止後に前記定着部材を第一の所定量回転させる場合の定着部材の回転速度は、前記定着部材停止前の回転速度以下であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項9】
前記定着部材はベルトであり、厚さが0.4mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項10】
前記定着部材はベルトであり、厚さが0.2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項11】
前記定着部材の直径は20?40mmであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項12】
前記定着部材の直径は30mmであることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項13】
前記定着部材はベルトであり、基材と弾性層と離型層からなることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項14】
請求項1?13のいずれか一項に記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【請求項15】
画像形成装置は、定着装置の下流側に排紙ローラを有していることを特徴とする請求項14に記載の画像形成装置。
【請求項16】
画像形成装置は、前記定着部材を回転駆動する第1のモータと、前記排紙ローラを回転駆動する第2のモータを有し、前記第1のモータと前記第2のモータは独立したモータであることを特徴とする請求項15に記載の画像形成装置。
【請求項17】
画像形成装置は、前記定着部材を回転駆動する第1のモータと、前記排紙ローラを回転駆動する第2のモータを有し、前記第1のモータと前記第2のモータは共通のモータであることを特徴とする請求項15に記載の画像形成装置。」

第3 原査定の理由について

1.原査定の理由の概要
原査定は、平成28年6月22日付けの拒絶理由によるものであって、その概要は以下のとおりである。

理由1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1について

・請求項 1-22
・引用文献等 1-4

●理由2について

・請求項 18-22
・備考
請求項18には、「前記支持部材」と記載されているが、請求項18のその記載より前の記載及び請求項18が引用する請求項1-15、17には「支持部材」は記載されておらず、当該記載は明確でない。
よって、請求項18および請求項18を引用する請求項19-22に係る発明は、明確でない。

<引用文献等一覧>
1.特開2007-3998号公報
2.特開2005-121899号公報
3.特開2003-323068号公報
4.特開2002-31989号公報

2.原査定の理由の判断
(1)原査定の理由1(進歩性)について
ア.引用文献
(ア)引用文献1
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-3998号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。

a.「【0024】
定着部(定着装置)7は、2つのローラすなわち、通電により発熱する熱源であるコイル状のヒータ(加熱ローラヒータ)7dを軸芯部に内蔵した、加熱ローラ(定着ローラ)7aとこれに圧接された加圧ローラ7bによってニップ部7cを形成するように構成されている。図2に示すように、加熱ローラ7aにはどの紙幅も通過する中央部(ローラの搬送可能領域幅の略幅方向中央部)へ温度を検出するための第1の温度検出手段としてのサーミスタ41を配置し、加圧ローラ7bには841幅(定型でA0サイズ)のみ該当する端部(例えば搬送可能領域幅の中心から外側65%以上の部位)にこの部分の温度を検出するための第2の温度検出手段としてのサーミスタ42を配置している。なお、この第2の温度検出手段は、前記搬送可能領域幅中央部に設定或いは検出された定着用紙幅に対応して決まる通紙範囲よりも外側の部位の温度を検出できる部位に設けてあればこれ以外の部位に設けるようにしても良い。
【0025】
感光体5と転写部6との間には、上流側が給送通路8,9に接続されたシート搬送路10が設けられている。給送通路9には搬送ローラ9aが配列され、シート搬送路10における感光体5の上流側にはレジストローラ11が配置され、定着部7の上流側にはシート(用紙)を押えるコロ12が配置され、定着部7の下流側には排出ローラ13が配置されている。シート搬送路10の下流側の端部には排出トレイ(図示せず)にシートを排出する排出口14が形成されている。シート搬送路10中に配列された感光体5、定着部7、レジストローラ11、排紙ローラ13は、シートとしてのロール紙22,23を搬送するシート搬送系の部材としての機能を有し、これらの感光体5、定着部7の加熱ローラ7a、レジストローラ11及び排紙ローラ13の駆動側は、それぞれ伝動装置(図示せず)を介して共通の搬送モータ15から回転力を受けることにより回転駆動される。なお、本実施の形態では、給送通路9中の搬送ローラ9aの駆動側も搬送モータ15からの回転力を受けるように構成されている。


b.「【0032】
定着部に対しての基本的な温度制御として、転写紙への定着部7での与熱量過多による、シワ等の搬送品質劣化を抑制するために、加圧ローラ温度が上昇してくると、加熱ローラの設定温度を段階的に下げて動的に変更していくことで適正与熱量とする。加熱ローラ温度、加圧ローラ温度は紙種、紙厚によって狙いの温度(設定温度)を切り替えている。使用用紙の設定は、手動操作によっても良いが、紙種、紙厚の自動検出としこれと連動させて、使用用紙に適した適切な狙いの温度設定に自動切り換え制御を行う。設定温度に対応して例えば、以下のような制御を行う。
【0033】
A=初期設定加圧ローラ温度、B=初期設定加熱ローラ温度
C=現状加圧ローラ温度、D=現状加熱ローラ制御温度
x:制御ステップ数
x=(C-A)/3
D=B-x(ステップ数20以降は、Dは一定温度とする。)、
として温度制御を行う。」

c.「【0037】
この点を考慮し、A0サイズの用紙まで通紙可能な実施形態の広幅画像形成装置においては、加圧ローラサーミスタは841幅紙定着時以外は非通紙範囲にあたるように搬送可能領域幅の中心から外側65%以上の部位に配置されており、検知した加熱ローラ温度が下限値の制御温度を超えていて、しかも、加圧ローラ温度が一定温度にまで上昇したら、ヒータをOFFし装置全体の機能を一度停止させるよう制御すれば、通常に使用される各種紙幅の用紙が連続使用された場合(連続通紙)における非通紙範囲の温度上昇による不具合を抑制することが可能になる。
【0038】
但し、上記のように定着部を停止(ヒータOFF、ローラ駆動停止)状態で保持した場合には非通紙範囲の冷却は部分的なものとなり、偏った温度分布が永く続くこととなる。よって、例示装置では、ヒータをOFFすると同時に定着部ローラのみ空回転させる。このように回転を維持することによって、熱拡散性の良い加熱ローラを放熱の手段として用いると共に、円周方向ではニップ部7cを中心に全体を均一に冷却させることが可能となる。
【0039】
このように、加圧ローラ温度が一定温度まで冷却したことをサーミスタ42で検知したら、ローラ回転状態のままで加熱ローラヒータ7dをONにして設定温度内に到達したところで装置を使用可とする。具体的には、前述した温度制御過程中で、
x>26となった場合には、それ以降のJOBは停止して、ヒータをOFFして定着部の2つのローラ(加熱ローラ7a、加圧ローラ7b)を回転させて冷却モードに入り、
「お待ち下さい」とのメッセージを表示する。
そして、x<3となった時、ヒータをONして再び加熱を行い現状加熱ローラ制御温度:Dが、所定の制御温度(初期設定加熱ローラ温度:B)に到達したら、
「使用可」とのメッセージを表示し、定着動作要求を受け付ける。」

d.上記b.によれば、「制御ステップ数x=(現状加圧ローラ温度C-初期設定加圧ローラ温度A)/3」であるといえる。

上記の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「通電により発熱する熱源であるコイル状のヒータ7dを軸芯部に内蔵した、加熱ローラ7aとこれに圧接された加圧ローラ7bによってニップ部7cを形成するように構成され、
定着部7の加熱ローラ7aは、伝動装置を介して共通の搬送モータ15から回転力を受けることにより回転駆動され、
定着部に対しての基本的な温度制御として、転写紙への定着部7での与熱量過多による、シワ等の搬送品質劣化を抑制するために、加圧ローラ温度が上昇してくると、加熱ローラの設定温度を段階的に下げて動的に変更していくことで適正与熱量とし、
加圧ローラサーミスタは841幅紙定着時以外は非通紙範囲にあたるように搬送可能領域幅の中心から外側65%以上の部位に配置されており、検知した加熱ローラ温度が下限値の制御温度を超えていて、しかも、加圧ローラ温度が一定温度にまで上昇したら、ヒータをOFFし装置全体の機能を一度停止させるよう制御し、
ヒータをOFFすると同時に定着部ローラのみ空回転させ、
制御ステップ数x=(現状加圧ローラ温度C-初期設定加圧ローラ温度A)/3としたとき、
前述した温度制御過程中で、x>26となった場合には、それ以降のJOBは停止して、ヒータをOFFして定着部の2つのローラ(加熱ローラ7a、加圧ローラ7b)を回転させて冷却モードに入り、x<3となった時、ヒータをONして再び加熱を行い現状加熱ローラ制御温度:Dが、所定の制御温度に到達したら、定着動作要求を受け付ける
定着部7。」

(イ)引用文献2
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2005-121899号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【0054】
<定着装置>
次に、本発明の定着装置の一例を図2を参照しながら説明する。
【0055】
この例の定着装置50は、加熱回転体である加熱ローラ1、この加熱ローラ1に下方から摺接(当接)する加圧回転体である加圧ローラ2、加熱ローラ1を加熱する加熱源3、定着入口ガイド4及び加熱ローラ1の温度を検出する温度検知部材5などによって構成されており、加熱ローラ1及び加圧ローラ2によって用紙Pを加熱・加圧しつつ矢印Kp方向に挟持・搬送する。
【0056】
加熱ローラ1と加圧ローラ2との間には、これら2つのローラ1,2の長手方向(図2において紙面と直行する方向)に沿って帯状の定着ニップ部Nが形成されており、その定着ニップ部Nの上流側(用紙Pの搬送方向(矢印Kp方向)の上流側)に定着入口ガイド4が配設されている。」

b.「【0060】
加熱ローラ1の加熱源3は誘導コイル3aによって構成されている。誘導コイル3aは、素線径が0.1?0.8mm程度の絶縁被服銅線を10?150本程度束ねたリッツ線を5?20回程度巻いたものを用いている。
【0061】」

c.「【0074】
また、定着装置50は、例えば、図10に示すように、加圧ローラ2を厚み1mm程度のアルミニウム製の金属ローラ表面2eに20μm程度のPFAのコート層2cを設けた構成とするとともに、加圧ローラ2の内部にハロゲンランプ6を設けて加圧ローラ2も加熱する構成としてもよい。このような構成を採用すると、待機時において、加熱ローラ1が誘導コイル3aにて加熱されると同時に、加圧ローラ2からの熱が定着ニップ部Nを通じて伝達されて加熱ローラ1が加熱されるようになる。

d.「【0078】
-加熱ローラの間欠回転制御-
以下、加熱ローラの間欠回転制御について説明する。
【0079】
まず、温度検知部材5を図4に示す位置Aに設置し、温調温度を120℃で10分間待機させたときの復帰時間と、定着温度170℃に復帰した直後にべた画像を定着させたときの光沢むらを評価した。その結果を下記の表1に示す。
【0080】
【表1】
この表1の結果から、待機中に全く加熱ローラ1を回転しない場合は、若干の光沢むらが出現することがわかる。
【0081】
そこで、待機中、2分間に1回の割合で加熱ローラ1を半回転させ、待機経過時間がトータルで10分に達した時点で、170℃までの復帰時間及び復帰直後のべた画像の光沢むら評価を行ったところ、加熱ローラ1を所定時間ごとに回転(間欠回転)することで待機中の加熱ローラ1の温度を均一化でき、復帰時間の短縮及び定着画像の光沢むらを改善することができた。このような効果が得られる理由は、加熱ローラ1を停止状態で加熱したときの被加熱領域が加熱ローラ1の回転により誘導コイル3aによる非発熱領域まで回転され、逆に、加熱ローラ1の非加熱領域が誘導コイル3aによる発熱領域に移動することで、待機中の加熱ローラ1の周方向における温度むらを低減でき、その結果として、光沢むらのない画像が得られたことによる。
【0082】
さらに、加熱ローラ1の被加熱領域が、加圧ローラ2との定着ニップ部Nに位置するように回転させると、待機中においても加圧ローラ2に対して熱供給量を増やすことが可能となり、復帰時間の短縮も可能になる。
【0083】
以上の間欠回転動作は、所定時間ごとに加熱ローラ1を回転させた場合であるが、本発明はこれに限られることなく、加熱ローラ1の温度検出情報を用いて間欠回転制御を行うようにしてもよい。
【0084】
この場合、図1に示すように、加熱ローラ1の発熱領域に設置した温度検知部材5の検出値が予め設定された設定温度(例えば160度)に達した時点で加熱ローラ1を所定角度だけ回転(例えば半回転)するという制御を行えばよい。また、この場合、ファーストコピー時間を短縮するために、上記した設定温度を、プリント開始信号が送られてから用紙Pが、定着ニップに突入するまでの時間内に加熱ローラ1が定着可能温度に到達できるような温度に設定することが好ましい。」

e.上記b.によれば「加熱ローラ1の加熱源3は誘導コイル3aによって構成されている」から、上記c.及びd.における「誘導コイル3a」が「加熱源3」であることは明らかである。

f.上記d.から、段落【0081】及び【0082】に記載された事項、並びに、段落【0083】及び【0084】に記載された事項は、それぞれ「加熱ローラ1の待機中の間欠回転制御」であるといえる。

上記の記載事項を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「加熱回転体である加熱ローラ1、この加熱ローラ1に下方から摺接(当接)する加圧回転体である加圧ローラ2、加熱ローラ1を加熱する加熱源3などによって構成されており、
加熱ローラ1と加圧ローラ2との間には、これら2つのローラ1,2の長手方向に沿って帯状の定着ニップ部Nが形成されており、
待機時において、加熱ローラ1が加熱源3にて加熱されると同時に、加圧ローラ2からの熱が定着ニップ部Nを通じて伝達されて加熱ローラ1が加熱され、
加熱ローラ1の待機中の間欠回転制御として、
2分間に1回の割合で加熱ローラ1を半回転させると、加熱ローラ1を停止状態で加熱したときの被加熱領域が加熱ローラ1の回転により加熱源3による非発熱領域まで回転され、逆に、加熱ローラ1の非加熱領域が加熱源3による発熱領域に移動することで、待機中の加熱ローラ1の周方向における温度むらを低減でき、その結果として、光沢むらのない画像が得られ、
さらに、加熱ローラ1の被加熱領域が、加圧ローラ2との定着ニップ部Nに位置するように回転させると、待機中においても加圧ローラ2に対して熱供給量を増やすことが可能となり、復帰時間の短縮も可能になり、
加熱ローラ1の温度検出情報を用いて間欠回転制御を行うようにしてもよく、
この場合、加熱ローラ1の発熱領域に設置した温度検知部材5の検出値が予め設定された設定温度(例えば160度)に達した時点で加熱ローラ1を所定角度だけ回転(例えば半回転)するという制御を行う
定着装置50。」

(ウ)引用文献3
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2003-323068号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【0053】定着装置219は、第1のハロゲンヒータ222を内包する定着ローラ221と、第2のハロゲンヒータ224を内包する加圧ローラ223と、定着ローラ221への搬送状態を検出する定着ローラ前センサ220と、定着ローラ221からの搬送状態を検出する定着排出センサ225と、を有する。」

b.「【0140】定着ローラ221と加圧ローラ223を逆回転させることで定着ローラ221の入口前に記録シートPを送り返し、実施例1ないし実施例3のいずれかに示した検知手段(定着ローラ前センサ220、520、820)の精度を上げることができる。
【0141】また、前記検知処理によって巻き付きジャムが検知されたときには、定着ローラ221と加圧ローラ223を、さらに一定長逆回転させる。
【0142】この処理をフローチャートで表したものが、図10である。
【0143】まず、S1001で、レジ前センサ211を記録シートPが通過した後、当該記録シートPが予期されたタイミングで定着排出センサ225を通過しない場合、プリンタ制御部233が定着排出遅延ジャムと判断する。
【0144】そして、巻き付きジャムの可能性が大とみなし、S1002で、定着ローラ221と加圧ローラ223を一定の長さ分逆回転させる。
【0145】次に、S1003で、実施例1ないし実施例3のいずれかに示した検知手段(定着ローラ前センサ220、520、820)により、巻き付きジャムの検知を行う。
【0146】S1003で、巻き付きジャムを検知した場合、プリンタ制御部233は、表示パネル235および外部装置236に巻き付きジャムの発生を表示させてユーザに通知する(S1006)。
【0147】そして、S1007で、定着ローラ221と加圧ローラ223をさらに一定長逆回転させて、終了する(S1008)。
【0148】S1003で、巻き付きジャムを検知しなかった場合、プリンタ制御部233は、定着ローラ前センサ220以外の各センサ203、204、208、211、225、226によって各部シート搬出経路チェックを行う(S1004)。
【0149】そして、S1004の各部シート搬出経路チェックによってジャムを検知したら、プリンタ制御部233は、そのジャム箇所のアナウンスを表示パネル235および外部装置236に表示してユーザに通知して(S1006)、終了する(S1008)。」

d.上記a.は実施例1についての記載であり、上記b.は実施例4についての記載であるところ、上記b.の段落【0140】の記載から見て、実施例4は実施例1を基に「定着ローラ221と加圧ローラ223を逆回転させ」たものであって、上記a.の事項を備えるものと認められる。

上記の記載事項を総合すると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

「第1のハロゲンヒータ222を内包する定着ローラ221と、第2のハロゲンヒータ224を内包する加圧ローラ223と、を有し、
レジ前センサ211を記録シートPが通過した後、当該記録シートPが予期されたタイミングで定着排出センサ225を通過しない場合、プリンタ制御部233が定着排出遅延ジャムと判断し、定着ローラ221と加圧ローラ223を一定の長さ分逆回転させ、
次に、検知手段(定着ローラ前センサ220、520、820)により、巻き付きジャムの検知を行い、
巻き付きジャムを検知した場合、プリンタ制御部233は、表示パネル235および外部装置236に巻き付きジャムの発生を表示させてユーザに通知し、定着ローラ221と加圧ローラ223をさらに一定長逆回転させて、終了し、
巻き付きジャムを検知しなかった場合、プリンタ制御部233は、定着ローラ前センサ220以外の各センサ203、204、208、211、225、226によって各部シート搬出経路チェックを行い、
各部シート搬出経路チェックによってジャムを検知したら、プリンタ制御部233は、そのジャム箇所のアナウンスを表示パネル235および外部装置236に表示してユーザに通知して、終了する
定着装置219。」

(エ)引用文献4
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2002-31989号公報(以下「引用文献4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【請求項1】 定着ローラ及び加圧ローラを有する定着手段と、前記定着ローラ又は加圧ローラを回転させる駆動部材と、装置本体に開閉可能に装着された外装カバーとを有し、外装カバーの開扉時に前記駆動部材への通電を停止する画像形成装置において、前記駆動部材が外装カバーの開扉時において、駆動部材への通電が停止された状態でも、該駆動部材の回転・停止を行なうことができる制御手段を設けたことを特徴とする画像形成装置。
(中略)
【請求項4】 制御手段は、外装カバーの開扉時において、正逆回転可能なモータへの通電が停止された状態において、正逆回転可能なモータの正回転・停止と、逆回転・停止とを繰返えすことができる正逆繰返えしスイッチによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
(中略)
【請求項6】 定着ローラの温度センサを有し、正逆回転モータの正逆回転繰返えし時においても、温度センサが定着ローラが所定温度以下であると検知した場合には、正逆繰返えしスイッチが正逆回転モータを駆動しないことを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。」

上記の記載事項を総合すると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。

「定着ローラ及び加圧ローラを有する定着手段と、前記定着ローラ又は加圧ローラを回転させる駆動部材と、装置本体に開閉可能に装着された外装カバーとを有し、外装カバーの開扉時に前記駆動部材への通電を停止する画像形成装置において、前記駆動部材が外装カバーの開扉時において、駆動部材への通電が停止された状態でも、該駆動部材の回転・停止を行なうことができる制御手段を設け、
制御手段は、外装カバーの開扉時において、正逆回転可能なモータへの通電が停止された状態において、正逆回転可能なモータの正回転・停止と、逆回転・停止とを繰返えすことができる正逆繰返えしスイッチによって構成され、
定着ローラの温度センサを有し、正逆回転モータの正逆回転繰返えし時においても、温度センサが定着ローラが所定温度以下であると検知した場合には、正逆繰返えしスイッチが正逆回転モータを駆動しない画像形成装置。」

イ.本願発明1について
(ア)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
後者の「ヒータ7d」は前者の「加熱源」に相当し、同様に、「定着部7」は「定着装置」に相当する。
後者の「加熱ローラ7a」は「定着部7」を構成するものであり、また、「通電により発熱する熱源であるコイル状のヒータ7dを軸芯部に内蔵した」ものであるから「ヒータ7d」によって加熱され回転可能であることは明らかである。そうすると、後者の当該「加熱ローラ7a」と、前者の「前記加熱源によって部分加熱される回転可能な定着部材」とは、「加熱源によって加熱される回転可能な定着部材」との概念で共通する。
後者は「加熱ローラ7aとこれに圧接された加圧ローラ7bによってニップ部7cを形成する」から、その「加圧ローラ7b」は前者の「前記定着部材に圧接し、前記定着部材との間にニップ部を形成する回転可能な加圧部材」に相当する。
後者においては、「定着部7の加熱ローラ7aは、伝動装置を介して共通の搬送モータ15から回転力を受けることにより回転駆動され」るから、その「搬送モータ15」は前者の「前記定着部材又は前記加圧部材を回転させる回転駆動手段」に相当する。
後者の「検知した加熱ローラ温度が下限値の制御温度を超えていて、しかも、加圧ローラ温度が一定温度にまで上昇した」状態は「異常」な状態であって、その際に「ヒータをOFF」することは、「異常停止」であるといえるから、後者の「検知した加熱ローラ温度が下限値の制御温度を超えていて、しかも、加圧ローラ温度が一定温度にまで上昇したら、ヒータをOFFし装置全体の機能を一度停止させるよう制御し、ヒータをOFFすると同時に定着部ローラのみ空回転させ」と、前者の「前記定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、前記加熱源への電力供給を停止し、前記定着部材回転停止後に前記定着部材を少なくとも第一の所定量回転させ」とは、「定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、加熱源への電力供給を停止し、前記定着部材を回転させ」との概念で共通する。

そうすると、両者は、
「加熱源と、
前記加熱源によって加熱される回転可能な定着部材と、
前記定着部材に圧接し、前記定着部材との間にニップ部を形成する回転可能な加圧部材と、
前記定着部材又は前記加圧部材を回転させる回転駆動手段と
を備えた定着装置において、
前記定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、前記加熱源への電力供給を停止し、前記定着部材を回転させる定着装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
加熱源に関して、前者においては定着部材が加熱源によって「部分加熱され」、加熱源が「定着部材の周方向で、ニップ部以外の少なくとも一部を加熱する」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点2]
定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、定着部材を回転させるのが、前者においては「定着部材回転停止後」であるのに対して、後者においてはそのようなものでない点。

[相違点3]
定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に回転する量が、前者においては、「少なくとも第一の所定量」であって、「第一の所定量は、少なくとも加熱領域の一部が、ニップ部に達する量である」のに対して、後者においてはそのようなものでない点。

[相違点4]
前者が「定着部材が定着処理終了の理由で停止した後、加熱源が消灯した状態で所定時間内に前記定着部材が所定温度に達した場合、前記定着部材を第二の所定量回転させる」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点5]
前者が「定着部材はベルトであり、内部にニップ形成部材と支持部材を有し、前記ニップ形成部材は前記支持部材によって支持され、加熱源と前記支持部材との間に反射部材を有し、前記加熱源は、輻射熱ヒータであり、前記ニップ形成部材は、前記ニップ部で、前記定着部材を介して、前記加圧部材と対向する」のに対して、後者はそのようなものでない点。

(イ)判断
上記相違点4について検討する。

引用発明2は上記「ア.(イ)」のとおりであって、その「加熱ローラ1」は本願発明1の「定着部材」に相当し、同様に「加熱源3」は「加熱源」に相当する。
また、引用発明2の「加熱ローラ1の発熱領域に設置した温度検知部材5の検出値が予め設定された設定温度(例えば160度)に達した時点で加熱ローラ1を所定角度だけ回転(例えば半回転)する」は、本願発明1の「所定時間内に前記定着部材が所定温度に達した場合、前記定着部材を第二の所定量回転させ」に相当する。
しかしながら、引用発明2が「加熱ローラ1の発熱領域に設置した温度検知部材5の検出値が予め設定された設定温度(例えば160度)に達した時点で加熱ローラ1を所定角度だけ回転(例えば半回転)する」という制御を行うのは「加熱ローラ1の待機中」であって、引用発明2は「待機時において、加熱ローラ1が加熱源3にて加熱される」ものである。そうすると、引用発明2における当該制御は加熱源3が加熱されているときに行われるものであって、本願発明1のように「加熱源が消灯した状態で」行われるものではない。
してみると、引用発明2は、相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではない。

また、引用発明3及び4が、相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではないことも明らかである。

そして、本願発明1は、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「定着ニップNでの通紙中は用紙Pによって奪熱されるが、用紙後端が定着ニップNを脱出した(通紙完了)後には用紙Pを介した放熱が行われないため、定着ベルトの温度が上昇する。」(段落【0056】)及び「ヒータの消灯と同時に定着ベルト21の回転が停止するため、放熱が行われずに定着ベルトの温度が急激に上昇し、ベルトの蓄熱状態によっては上限温度を越えてベルトが破損するおそれがある。」(段落【0057】)という課題について、「定着ベルト21の過昇温を防止することができる。」(段落【0058】)という効果を奏するものである。

したがって、本願発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ.本願発明2ないし17について
本願発明2ないし17は、本願発明1をさらに限定したものである。
すると、本願発明2ないし17は、本願発明1と同様に、引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)原査定の理由2(明確性)について
平成30年7月12日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲においては、請求項1で「前記定着部材はベルトであり、内部にニップ形成部材と支持部材を有し、前記ニップ形成部材は前記支持部材によって支持され、前記加熱源と前記支持部材との間に反射部材を有し」との点が特定されるとともに、原査定時の請求項18が削除された。
これにより、特許請求の範囲の記載は明確となった。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

第4 当審拒絶理由について

1.当審拒絶理由の概要
(1)当審拒絶理由1の概要

理由1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(明確性)について

・請求項 17ないし19

請求項17の「画像形成装置は、定着装置の下流側に排紙ローラを有している」と記載されている一方、請求項17が引用する請求項10には「定着装置が排紙ローラを有する」と記載されており、「排紙ローラ」を有するのが「定着装置」であるのか、定着装置の下流側に位置する画像形成装置の他の部分であるのかが不明である。
よって、請求項17ないし19の記載は明確でない。

●理由2(進歩性)について

・請求項 1ないし3及び10ないし19
・引用文献 1及び2

・請求項 4ないし7
・引用文献 1ないし3

・請求項 8及び9
・引用文献 1、2及び4

<引用文献等一覧>
A.特開2002-214966号公報
B.特開2010-32625号公報
C.特開2003-323068号公報(原査定の理由における引用文献3)
D.特開2005-121899号公報(原査定の理由における引用文献2)

(2)当審拒絶理由2の概要

(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



・請求項 2、4ないし7、9及び15ないし18

1.請求項2には「前記所定量」と記載されているが、請求項2が引用する請求項1には「所定量」について「第一の所定量」及び「第二の所定量」という複数の記載があるから、「前記所定量」が「第一の所定量」又は「第二の所定量」のいずれを指すのかが明らかでない。
よって、請求項2、並びに、請求項2を引用する請求項4ないし7及び15ないし18の記載は明確でない。

2.請求項9の「定着装置は排紙ローラを有し」という記載は、「定着装置」と「排紙ローラ」とがどのような位置関係にあることを指すのかが不明である。
よって、請求項9の記載は明確でない。

2.当審拒絶理由の判断
(1)当審拒絶理由1の理由2(進歩性)について
ア.引用文献
(ア)引用文献A
当審拒絶理由1で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-3998号公報(以下「引用文献A」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【0027】図25は本発明の適用されるシステムを示す回路図で、加熱源としてハロゲンヒータ12を内蔵した加熱ロール10と、加熱ロール10に圧接するように設置された加圧部材20と、加熱ロールの温度を検知する温度検知部材22と、加熱源に電力を供給する電源のコネクタ32と、、加熱ロール10が過度に加熱されることを防止し、加熱源(ハロゲンヒータ12)と直列に結合した過昇温防止装置30とを備えた熱定着装置である。温度検知部材22は検知した温度に基づき加熱源に供給する電力を制御する温度制御装置(図示省略)を備えている。本発明の第1の発明では加熱源(ハロゲンヒータ12)は、加熱ロール10の中央よりも過昇温防止装置30寄りに設置されている。
【0028】図1は、本発明の第1の発明の実施例を示すもので、加熱ロール10と加圧部材20の断面を示している。加熱源(ハロゲンヒータ12、14)は加熱ロール10の中央より過昇温防止装置30に近づけてある。また、加熱源は発熱量が大きいものほど、加熱ロール中央よりも前記過昇温防止装置寄りに設置する。
【0029】過昇温時に特に問題となるのは、用紙が加熱ロール10と加圧部材20の間に挟まれている状態で加熱・加圧部材対が停止し、用紙が発火に至ることである。加熱源(ハロゲンヒータ12、14)を過昇温防止装置30に近づけ、加熱ロール10と加圧部材20とのニップ24から遠ざけることにより、過昇温時において最も発火しやすい用紙近傍の温度を低く押さえ、過昇温防止装置30近傍を重点的に加熱し、より速く安全に過昇温防止装置30を動作させることができる。また、通常動作中の、最も過昇温防止装置30の温度の上がる連続プリント時では、加熱ロール10が回転し均一に加熱されることによって、過度の加熱による過昇温防止装置30の誤動作を防ぐことができる。」

b.「【0034】次に、画像形成プロセスを途中で停止する際、加熱源への電源遮断と同時に加熱ロール10が停止させると、加熱源の特性により加熱ロール10の温度がオーバーシュートしてしまう問題がある。そこで加熱源の電源を遮断し、その後、所定の時間が経過した後に、加熱ロール10の回転を止めるシーケンス制御装置を備えた。所定の時間はタイマ設定により適切に定めることができる。この手段により加熱ロール10の温度のオーバーシュートを防ぎ、用紙のジャム検出直後の過昇温防止装置30の温度を下げることができた。従って、通常動作時の過昇温防止装置30の誤動作を防ぎつつ、過昇温防止装置30の設定温度を低く設定することができ、また、過昇温防止装置30を加熱ロール10に近く設定することができ、過昇温時の安全性を高めることができた。また、過昇温防止装置30の設定温度を低くすることによってコストを下げることができた。」

c.「【0037】図8は従来の用紙ジャム発生時の過昇温防止装置の作動を示すもので用紙ジャム発生と同時に加熱ロールの回転を停止した。用紙ジャムによる加熱ロール停止後に加熱ロール温度78が上昇し、その変動に伴い過昇温防止装置の温度80も図示のように変動した。定着装置の作動は82のようであった。図9は改善後の用紙ジャム発生時の温度推移を示すもので、用紙ジャム発生後1秒間は加熱ロールの回転を続けた。加熱ロール温度84、過昇温防止装置温度86、定着装置の作動88に示すように改善された。」

d.「【0041】次に、配光分布の異なる複数のハロゲンヒータを用いて、用紙サイズ又はプリント枚数等のプリント条件に応じてハロゲンヒータを切り替えながら定着を行う本発明の第3の発明の場合について、図12を参照して説明する。図12は加熱ロール130と加圧部材140の横断面図である。加熱ロール130は2本のハロゲンヒータ90A,90Bを内蔵している。例えば、ハロゲンヒータ90Aは加熱領域が狭く、幅の狭い用紙に対応するものであり、ハロゲンヒータ90Bは加熱領域が広く、幅の広い用紙に対応するものである。そして、プリント条件に応じてハロゲンヒータ90A,90Bを切り替えて使用する。加熱ロール130は回転方向132の方向に回転し、加圧部材140はこれに従動する。加熱ロール130と加圧部材140とは圧着されており、そのニップ134に用紙を挟んで2つのロール(加熱ロール130と加圧部材140)間を通過させ、ニップ134を通過する時に用紙上のトナーが用紙に熱定着される。温度検知部材110は温度検出部112を加熱ロール130の外表面に接触させている。このような配置において、従来のように、ハロゲンヒータ90A、90B共に配光リップルの谷に温度センサ110を設置した場合、ニップ134の部分の温度114は図14に示すようになる。すなわち、ハロゲンヒータ90Bを用いたとき、ロール周上温度最低の部分(ハロゲンヒータの上流)をモニタして制御するためニップ部の温度114は高くなる。逆にハロゲンヒータ90Aを用いたとき、図13に示すようにロール周上温度の最高の部分(ハロゲンヒータの下流)をモニタして制御するため、ニップ部の温度116は低くなる。」

上記の記載事項を総合すると、引用文献Aには、次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。

「加熱源としてハロゲンヒータを内蔵した加熱ロールと、加熱ロールに圧接するように設置された加圧部材と、加熱ロールが過度に加熱されることを防止し、加熱源(ハロゲンヒータ)と直列に結合した過昇温防止装置とを備えた熱定着装置であって、
加熱源(ハロゲンヒータ)を過昇温防止装置に近づけ、加熱ロールと加圧部材とのニップから遠ざけることにより、過昇温時において最も発火しやすい用紙近傍の温度を低く押さえ、過昇温防止装置近傍を重点的に加熱し、通常動作中は、加熱ロールが回転し均一に加熱され、
加熱ロールは回転し、加圧部材はこれに従動し、加熱ロールと加圧部材とは圧着されており、そのニップに用紙を挟んで2つのロール(加熱ロールと加圧部材)間を通過させ、ニップを通過する時に用紙上のトナーが用紙に熱定着され、
画像形成プロセスを途中で停止する際、加熱源の電源を遮断し、その後、所定の時間が経過した後に、加熱ロールの回転を止め、
用紙ジャム発生後1秒間は加熱ロールの回転を続ける
熱定着装置。」

(イ)引用文献B
当審拒絶理由1で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2005-121899号公報(以下「引用文献B」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【0016】
定着装置1は、図1,2に示すように、所定の軸方向に延びる筒状に形成された可撓性を有する定着ベルト2と、該定着ベルト2が所定の回転経路に沿って回転するように該定着ベルト2をその両端部において支持する経路形成部材3と、該定着ベルト2の外周面に押し当てられて該定着ベルト2との間で定着ニップNを形成し且つ該定着ニップNを通過する被記録材19を加圧する加圧ローラ4と、定着ベルト2の内部に配設されて、加圧ローラ4に加圧される定着ベルト2を内側から支持する支持体5と、定着ベルト2の内部に配設されて該定着ベルト2を内周面から加熱するハロゲンランプ6と、ハロゲンランプ6から支持体5を遮蔽する遮蔽板7とを備えている。」

b.「【0058】
この加圧ローラ4は、その軸心が定着ベルト2の軸方向と平行となった状態で、該定着ベルト2に対して外周側から当接し且つ押し付けられている。詳しくは、加圧ローラ4の両端には、図2,6に示すように、芯金4aを小径化した軸4cが伸び出ており、この軸4cはベアリング41を介して保持レバー42に回動自在に取り付けられている。この保持レバー42は、図示を省略するが、定着ベルト2の方向へ移動可能な状態でフレーム11に対して取り付けられ、保持レバー42がバネ(図示省略)で定着ベルト2側へ付勢されている。こうして、加圧ローラ4は、フレーム11に対して回転自在に支持されると共に、定着ベルト2側に押し付けられる。定着ベルト2の内周側には、詳しくは後述する支持体5が設けられており、加圧ローラ4の押圧力(即ち、加圧力)は該支持体5によって受け止められる。その結果、定着ベルト2の一部は、加圧ローラ4と支持体5とに挟持された状態となり、定着ベルト2と加圧ローラ4の間に定着ニップNが形成される。」

c.「【0063】
前記支持体5は、図1,10に示すように、断面形状がT字形状をし、定着ベルト2の軸方向に延びる棒状の部材である。支持体5は、平板状の平板部51aと平板部51aの幅方向中央に立設されたリブ部51bとで構成された断面T字形状の支持体本体51と、該支持体本体51の平板部51aの、リブ部51bとは反対側に設けられた耐熱性樹脂製の断熱部材52と、定着ニップNを形成しやすくするために、断熱部材52よりも弾性のある耐熱性ゴムからなるニップ形成部材53とを有している。支持体本体51は、定着ベルト2及び経路形成部材3の外側まで伸びており、経路形成部材3の外側でフレーム11に固定されている(図示省略)。」

d.「【0088】
遮蔽板7は、断面山型の板状の部材であって、定着ベルト2の軸方向に直交する断面形状がハロゲンランプ6側に凸状に形成されている。遮蔽板7の材料としては熱放射率が0.1以下のものがよく、銅、アルミニウム、ステンレス等の表面光沢のある金属材料が好ましい。このように、遮蔽板7は、ハロゲンランプ6からの熱線をできる限り吸収しないように、少なくともハロゲンランプ6側の表面が光を反射するように形成されている。」

e.図2からは、「ニップ形成部材53が支持体本体51により支持される」点、「遮蔽板7がハロゲンランプ(加熱源)6と支持体本体51の間に位置する」点、及び、「ニップ形成部材53が、定着ニップNにおいて、定着ベルト2を介して加圧ローラ4と対向する」点を看取することができる。

上記の記載事項を総合すると、引用文献Bには、次の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されているものと認められる。

「定着ベルトと、該定着ベルトとの間で定着ニップを形成し且つ該定着ニップを通過する被記録材を加圧する加圧ローラと、定着ベルトの内部に配設されて、加圧ローラに加圧される定着ベルトを内側から支持する支持体と、定着ベルトの内部に配設されて該定着ベルトを内周面から加熱するハロゲンランプと、ハロゲンランプから支持体を遮蔽する遮蔽板とを備える定着装置であって、
加圧ローラの押圧力(即ち、加圧力)は支持体によって受け止められ、
支持体は、支持体本体と、定着ニップを形成しやすくするニップ形成部材とを有し、
遮蔽板は、ハロゲンランプ側の表面が光を反射するように形成され、
ニップ形成部材が支持体本体により支持され、
遮蔽板がハロゲンランプ(加熱源)と支持体本体の間に位置し、
ニップ形成部材が、定着ニップにおいて、定着ベルトを介して加圧ローラと対向する
定着装置。」

(ウ)引用文献C
当審拒絶理由1で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2003-323068号公報(以下「引用文献C」という。)は、原査定における引用文献3であって、上記「第3 2.(1)ア.(3)」で認定した引用発明3(以下、「第4」においては「引用発明C」という。)が記載されている。

(エ)引用文献D
当審拒絶理由1で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2005-121899号公報(以下「引用文献D」という。)は、原査定における引用文献2であって、上記「第3 2.(1)ア.(2)」で認定した引用発明2(以下、「第4」においては「引用発明D」という。)が記載されている。

イ.本願発明1について
本願の請求項1に係る発明と、引用発明Aとを対比する。
後者の「加熱源(ハロゲンヒータ)」は前者の「加熱源」に相当し、同様に、「用紙」は「記録媒体」に、「用紙上のトナー」は「未定着画像」に、「熱定着装置」は「定着装置」に、それぞれ相当する。
本願明細書の段落【0005】には「内蔵ハロゲンヒータの設置位置を偏らせることで定着部材を局所的に加熱するもの(部分加熱方式)」と記載されているところ、後者の「加熱源(ハロゲンヒータ)」が「加熱ロール」を加熱することは明らかであって、後者において「加熱源(ハロゲンヒータ)を過昇温防止装置に近づけ、加熱ロールと加圧部材とのニップから遠ざけること」は加熱源(ハロゲンヒータ)の設置位置を偏らせることに他ならないから、後者の加熱は本願明細書でいう「部分加熱方式」であり、後者の「加熱ロール」は部分加熱されるといえる。そして、後者においては「加熱ロールは回転し、加圧部材はこれに従動し、加熱ロールと加圧部材とは圧着されており、そのニップに用紙を挟んで2つのロール(加熱ロールと加圧部材)間を通過させ、ニップを通過する時に用紙上のトナーが用紙に熱定着される」から、後者の「加熱ロール」は前者の「加熱源によって部分加熱される回転可能な定着部材」に相当し、後者の「加圧部材」は前者の「定着部材に圧接し、定着部材との間にニップ部を形成する回転可能な加圧部材」に相当する。
後者において「加熱ロールは回転」するから、加熱ロールが駆動されるとともに、その駆動のための手段が備えられていることは明らかであって、当該手段は、前者の「定着部材又は前記加圧部材を回転させる回転駆動手段」に相当する。
上述の「部分加熱方式」に係る検討を踏まえると、後者の「加熱源(ハロゲンヒータ)を過昇温防止装置に近づけ、加熱ロールと加圧部材とのニップから遠ざけることにより、過昇温時において最も発火しやすい用紙近傍の温度を低く押さえ、過昇温防止装置近傍を重点的に加熱し」は、前者の「前記加熱源は、前記定着部材の周方向で、前記ニップ部以外の少なくとも一部を加熱し」に相当する。
後者において「画像形成プロセスを途中で停止する」のは「用紙ジャム発生後」であり、「用紙ジャム発生」は画像形成プロセスにおける「異常」であるといえる。また、後者は「加熱源の電源を遮断し、その後、所定の時間が経過した後に、加熱ロールの回転を止め」るところ、所定の時間に加熱ロールが回転する量が所定量であることは明らかである。そうすると、後者の「画像形成プロセスを途中で停止する際、加熱源への電源遮断と同時に加熱ロールが停止させると、加熱源の電源を遮断し、その後、所定の時間が経過した後に、加熱ロールの回転を止め」と、前者の「前記定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、前記加熱源への電力供給を停止し、前記定着部材回転停止後に前記定着部材を少なくとも第一の所定量回転させ」とは、「前記定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、前記加熱源への電力供給を停止し、前記定着部材を少なくとも第一の所定量回転させ」との概念で共通する。
例えば、本願明細書にも「輻射熱で定着部材を加熱するハロゲンヒータ」(段落【0004】)と記載されているように、一般に「ハロゲンヒータ」が輻射熱を発することは明らかであるから、後者の「加熱源(ハロゲンヒータ)」は「輻射熱ヒータ」であるといえる。

そうすると、両者は、
「加熱源と、
前記加熱源によって部分加熱される回転可能な定着部材と、
前記定着部材に圧接し、前記定着部材との間にニップ部を形成する回転可能な加圧部材と、
前記定着部材又は前記加圧部材を回転させる回転駆動手段と
を備えた定着装置において、
前記加熱源は、前記定着部材の周方向で、前記ニップ部以外の少なくとも一部を加熱し、
前記定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、前記加熱源への電力供給を停止し、前記定着部材を少なくとも第一の所定量回転させ、
前記加熱源は、輻射熱ヒータであり、
前記加熱源は、前記定着部材に輻射熱を直接与える
定着装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点6]
定着部材が装置電源オン状態にて異常停止する際に、定着部材を少なくとも第一の所定量回転させるのが、前者においては「定着部材回転停止後」であるのに対して、後者においてはそのようなものでない点。

[相違点7]
定着部材を回転させる第一の所定量が、前者では「少なくとも加熱領域の一部が、ニップ部に達する量である」のに対して、後者ではどのような量か明らかでない点。

[相違点8]
前者が「定着部材が定着処理終了の理由で停止した後、加熱源が消灯した状態で所定時間内に前記定着部材が所定温度に達した場合、前記定着部材を第二の所定量回転させる」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点9]
前者が「定着部材はベルトであり、内部にニップ形成部材と支持部材を有し、ニップ形成部材は前記支持部材によって支持され、加熱源と支持部材との間に反射部材を有し、ニップ形成部材は、ニップ部で、定着部材を介して、加圧部材と対向し、支持部材は、ニップ形成部材を介して加圧部材からの加圧力を受ける」のに対して、後者はそのようなものでない点。

(イ)判断
上記相違点8について検討する。

相違点8は、上記「第3 2.(1)イ.(ア)」における相違点4と同様の点である。
そうすると、上記「第3 2.(1)イ.(イ)」において検討したとおり、引用発明C(引用発明3)及び引用発明D(引用発明2)は、相違点8に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではない。

また、引用発明A及びBが、相違点8に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではないことも明らかである。

そして、本願発明1は、上記相違点8に係る本願発明1の発明特定事項を具備することにより、上記「第3 2.(1)イ.(イ)」記載の効果を奏するものである。

したがって、本願発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明AないしDに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ.本願発明2ないし17について
本願発明2ないし17は、本願発明1をさらに限定したものである。
すると、本願発明2ないし17は、本願発明1と同様に、引用発明AないしDに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)当審拒絶理由1の理由1及び当審拒絶理由2(明確性)について
平成30年7月13日付け手続補正書による手続補正により、特許請求の範囲は上記「第2 本願発明」において摘示した請求項1ないし17のとおりに補正された。
このことにより、特許請求の範囲の記載は明確となった。

(3)まとめ
上記「(1)及び(2)」のとおり、当審拒絶理由はいずれも解消した。

第5 むすび

以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-12 
出願番号 特願2012-279346(P2012-279346)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松本 泰典田代 憲司佐々木 創太郎齋藤 卓司  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 畑井 順一
森次 顕
発明の名称 定着装置及び画像形成装置  
代理人 藤田 アキラ  
代理人 今井 秀樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ