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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1343684
審判番号 不服2017-15586  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-20 
確定日 2018-09-25 
事件の表示 特願2012-168117「金属ナノ・マイクロ突起黒体及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月6日出願公開,特開2014- 26197,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2012-168117号(以下「本件出願」という。)は,平成24年7月30日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯は以下のとおりである。
平成28年 6月15日付け:拒絶理由通知書
平成28年 9月 9日 :意見書
平成28年 9月 9日 :手続補正書(1)
(この手続補正書(1)による補正を「本件補正」という。)
平成29年 2月14日付け:拒絶理由通知書
平成29年 4月19日 :意見書
平成29年 4月19日 :手続補正書(2)
平成29年 7月21日付け:手続補正書(2)による補正の却下の決定
平成29年 7月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年10月20日 :審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項4に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明4」という。)は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項4に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
亜鉛からなる基板又は亜鉛層を表面に有する基板と,この基板から斜めに成長・形成された亜鉛を主体とする多数のナノ・マイクロ突起とからなり,
このナノ・マイクロ突起の形状が円錐体及び円柱体を含む横断面丸形であり,ナノ・マイクロ突起の底面の3μm以下の直径に対する高さの比であるアスペクト比が3以上であって,
このナノ・マイクロ突起の成長方向に対して30°以内の角度で入射する紫外光又は可視光又は赤外光を95%以上吸収することを特徴とする金属ナノ・マイクロ突起黒体。

【請求項2】
基板面に対して90°の角度で垂直に入射する光に対して,基板面上に基板面に対して60°?90°未満の角度でナノ・マイクロ突起を斜めに成長・形成して,紫外光又は可視光又は赤外光を95%以上吸収するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ・マイクロ突起黒体。

【請求項3】
基板面に対して30°?90°未満の角度で斜めに入射する光に対して,基板面上に基板面に対して30°?60°未満の角度でナノ・マイクロ突起を斜めに成長・形成して,紫外光又は可視光又は赤外光を95%以上吸収するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ・マイクロ突起黒体。

【請求項4】
真空中で,基板面に対し30?90°未満の照射角度で,加速電圧2?20kVで高エネルギービームを照射して,亜鉛を主体とする多数のナノ・マイクロ突起を,高エネルギービームの入射方向に成長・形成させて,請求項1又は2又は3に記載の金属ナノ・マイクロ突起黒体を製造することを特徴とする金属ナノ・マイクロ突起黒体の製造方法。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明1?本願発明4は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2011-56638号公報
なお,「入射光に対する挙動を制御するために,ナノ構造物を基板に対して斜めに成長・形成させること。」(以下「周知技術1」という。)が周知であること示す文献として,国際公開第2011/013401号及び特開2004-361906号公報が示されている。

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断において活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,電子的,光学的な用途が期待されるマイクロ・ナノ突起構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子や分子を堆積して特別構造の結晶表面や人工格子等のマイクロ・ナノ物質を作成する場合において,適当な条件のもとでは自己組織化とは相違する非平衡反応を伴うボトムアップ的成長が進行する。この反応を利用すると,その基板表面の微小突起や格子欠陥を核として金属や酸化物の針状結晶を成長させることができるようになる。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は,かかる事情に鑑み,亜鉛を主成分とし,金属銅や銅酸化物に比べて各種デバイスや機能材料等への適用範囲が一段と広い単体としてのマイクロ・ナノ突起構造体及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は,上記目的を達成するため鋭意研究を重ね,その成果を本発明に具現化した。その本発明は,亜鉛基板と,前記亜鉛基板と一体に成長・形成した亜鉛を主体とする突起とからなり,その形状が円錐体及び円柱体を含む横断面丸形であり,突起底面の3μm以下の外径に対する突起高さの比であるアスペクト比が3以上であることを特徴とするマイクロ・ナノ突起構造体である。
…(省略)…
【0012】
さらに,本発明では,前記円錐体突起の数密度が,0.05本/μm^(2)(50,000本/mm^(2))?6本/μm^(2)(6,000,000本/mm^(2))の範囲にあるのが好ましい。
【0013】
加えて,本発明は,真空中で亜鉛基板の表面上に,15?90degの照射角にて加速電圧2?10kVのArイオンビームを照射し,励起した亜鉛原子の表面拡散で前記アスペクト比が3以上である突起を成長・形成させることを特徴とするマイクロ・ナノ突起構造体の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば,イオンビーム照射で励起された亜鉛原子が非平衡反応でナノからミクロンスケールの円錐体に成長した結果,活性な表面特性と大きな比表面積を持つ亜鉛表面をもたらす。その結果,亜鉛からなる本発明に係るマイクロ・ナノ突起構造体は,金属銅や銅酸化物に比べ,各種デバイスや機能材料等への適用範囲が一段と広くなり,高効率電界電子エミッタ,マイクロX線管,高輝度平面ディスプレイ,発光素子,高効率触媒,太陽電池,センサ,電界効果トランジスタ等に利用されることが期待される。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
まず,図1に,本発明に係るマイクロ・ナノ突起構造体を模式的に示す。それは,亜鉛の基板1と,その表面上に当該亜鉛基板1と一体に成長・形成した突起2とで構成されている。
(当合議体注:図1は以下の図である。

)
…(省略)…
【0032】
なお,本発明で得られた亜鉛を主体とする突起構造体は酸化処理すると酸化亜鉛となり,成長数密度を制御した酸化亜鉛突起構造体から様々なナノ・マイクロ・デバイスへの応用展開の道が拓けることは明らかである。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
冷間圧延した亜鉛板から幅2mm×長さ10mm×厚さ0.2mmの試料を切り出して基板を製作した。その基板を濃度が1.6モルの塩酸水溶液にて酸洗した後,真空室に装入し,真空度10^(-3)Paに保持すると共に,Arイオンビームを照射角度40deg,加速電圧7kV,電流0.5mAの条件下で照射した。なお,照射時間は30分とした。
【0034】
その結果,図10(当合議体注:「図10」は「図11」の誤記である。)に示すような亜鉛による突起構造体が得られた。その突起は,平均して高さ(長さ)が6.55μm,底面の外径が0.66μmであった。また,先端の形状は,平均して曲率半径ρが8nm,開き角θが20degであった。
(当合議体注:図11は以下の図である。

)
…(省略)…
【符号の説明】
【0036】
1 亜鉛基板
2 突起
3 Arイオンビーム」

(2) 引用発明
ア 引用発明A
引用文献1の【0001】,【0011】及び【0012】の記載からみて,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。)。
「 電子的,光学的な用途が期待されるマイクロ・ナノ突起構造体であって,
亜鉛基板と,前記亜鉛基板と一体に成長・形成した亜鉛を主体とする突起とからなり,その形状が円錐体及び円柱体を含む横断面丸形であり,突起底面の3μm以下の外径に対する突起高さの比であるアスペクト比が3以上,
数密度が50,000本/mm^(2)?6,000,000本/mm^(2)の範囲にある,
マイクロ・ナノ突起構造体。」

イ 引用発明B
引用文献1の【0001】及び【0013】の記載からみて,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用文献B」という。)。
「 電子的,光学的な用途が期待されるマイクロ・ナノ突起構造体の製造方法であって,
真空中で亜鉛基板の表面上に,15?90degの照射角にて加速電圧2?10kVのArイオンビームを照射し,励起した亜鉛原子の表面拡散でアスペクト比が3以上である突起を成長・形成させる,
マイクロ・ナノ突起構造体の製造方法。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明1と引用発明Aを対比すると,以下のとおりとなる。
ア ナノ・マイクロ突起
引用発明Aの「マイクロ・ナノ突起構造体」は,「亜鉛基板と,前記亜鉛基板と一体に成長・形成した亜鉛を主体とする突起とからなり」,「数密度が50,000本/mm^(2)?6,000,000本/mm^(2)の範囲にある」。
そうしてみると,引用発明Aの「マイクロ・ナノ突起構造体」は,亜鉛からなる基板と,この基板から成長・形成された亜鉛を主体とする多数のナノ・マイクロ突起とからなるものといえる。
したがって,引用発明Aの「亜鉛基板」及び「突起」は,本願発明1の「基板」及び「ナノ・マイクロ突起」に相当する。また,引用発明Aの「マイクロ・ナノ突起構造体」と本願発明1の「金属ナノ・マイクロ突起黒体」は,「亜鉛からなる基板又は亜鉛層を表面に有する基板と,この基板から」「成長・形成された亜鉛を主体とする多数のナノ・マイクロ突起とからなり」という構成を具備する点において共通する。また,両者は,ともに「ナノ・マイクロ突起構造体」と呼ぶことができる。

イ 形状
引用発明Aの「突起」は,「形状が円錐体及び円柱体を含む横断面丸形であり,突起底面の3μm以下の外径に対する突起高さの比であるアスペクト比が3以上」である。
そうしてみると,引用発明Aの「突起」は,本願発明1の「ナノ・マイクロ突起」における,「形状が円錐体及び円柱体を含む横断面丸形であり,ナノ・マイクロ突起の底面の3μm以下の直径に対する高さの比であるアスペクト比が3以上であって」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
以上の対比結果を勘案すると,本願発明1と引用発明Aは,次の構成で一致する。
「 亜鉛からなる基板又は亜鉛層を表面に有する基板と,この基板から成長・形成された亜鉛を主体とする多数のナノ・マイクロ突起とからなり,
このナノ・マイクロ突起の形状が円錐体及び円柱体を含む横断面丸形であり,ナノ・マイクロ突起の底面の3μm以下の直径に対する高さの比であるアスペクト比が3以上である,
ナノ・マイクロ突起構造体。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明Aは,以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明1の「ナノ・マイクロ突起」は,基板から「斜めに」成長・形成されたものであり,また,本願発明1は,「このナノ・マイクロ突起の成長方向に対して30°以内の角度で入射する紫外光又は可視光又は赤外光を95%以上吸収する」「金属ナノ・マイクロ突起黒体」であるのに対して,引用発明Aは,これら構成(かぎ括弧内の構成)が明らかではない点。

(3) 判断
引用文献1には,引用発明Aの「突起」の成長方向に関する記載がない。
また,引用発明Aの用途に「光学的な用途」が含まれるとしても,引用発明Aは,「金属ナノ・マイクロ突起黒体」という用途に限定されたものではない。そして,引用文献1に列挙された引用発明Aの用途は,「高効率電界電子エミッタ,マイクロX線管,高輝度平面ディスプレイ,発光素子,高効率触媒,太陽電池,センサ,電界効果トランジスタ等」(【0014】)というものにとどまる。加えて,引用文献1の「酸化処理すると酸化亜鉛となり,成長数密度を制御した酸化亜鉛突起構造体から様々なナノ・マイクロ・デバイスへの応用展開の道が拓ける」(【0032】)という記載からは,「金属ナノ・マイクロ突起黒体」とは異なる用途に関心が向けられていたこともうかがい知ることができる。
そうしてみると,たとえ前記周知技術1を心得た当業者といえども,引用発明Aの「マイクロ・ナノ突起構造体」を,基板から斜めの方向に対して30°以内の角度で入射する光を95%以上吸収するという光学的特徴を具備する金属ナノ・マイクロ突起黒体に結びつけて考えることができたということはできない。
したがって,本願発明1は,当業者が,引用発明A及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4) 本願発明2及び本願発明3について
本願発明2及び本願発明3は,いずれも,上記相違点1に係る本願発明1の構成を具備する発明である。そうしてみると,本願発明1と同じ理由により,本願発明2及び本願発明3も,当業者が,引用発明A及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5) 本願発明4について
引用文献1には,引用発明Bの「マイクロ・ナノ突起構造体の製造方法」が記載されている。
しかしながら,本願発明4は,本願発明1?本願発明3の金属ナノ・マイクロ突起黒体の製造方法である。そうしてみると,たとえ周知技術1を心得た当業者といえども,引用発明Bの「マイクロ・ナノ突起構造体の製造方法」を,本願発明1等の金属ナノ・マイクロ突起黒体に結びつけて考えて,その製造条件を調整するとはいえない。
したがって,本願発明4は,当業者が,引用発明B及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第3 まとめ
以上のとおり,本願発明1?本願発明4は,当業者が引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということはできない。したがって,原査定の拒絶の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-06 
出願番号 特願2012-168117(P2012-168117)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
樋口 信宏
発明の名称 金属ナノ・マイクロ突起黒体及びその製造方法  
代理人 須田 篤  
代理人 楠 修二  

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