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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1343768
審判番号 不服2016-17011  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-14 
確定日 2018-09-05 
事件の表示 特願2014-538720「ビデオのイントラ予測方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年5月2日国際公開、WO2013/062389、平成26年11月20日国内公表、特表2014-531177〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)10月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年10月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 5月12日:拒絶理由(送達日)
同年 8月12日:意見書、手続補正書
平成28年 1月19日:拒絶理由(送達日)
同年 4月19日:意見書、手続補正書
同年 7月12日:拒絶査定(送達日)
同年11月14日:審判請求書、手続補正書
同年12月 8日:前置報告

第2 平成28年11月14日にされた手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年11月14日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、平成28年4月19日付けの手続補正で補正された請求項1(以下、「補正前の請求項1」という。)を、以下の請求項1(以下、「補正後の請求項1」という。)とする補正事項を含むものである。(下線は、補正箇所である。)

(補正前の請求項1)
「【請求項1】
ビデオのイントラ予測方法において、
前記ビデオを構成するピクチャを階層的構造に分割したブロックのうち現在ブロックのイントラ予測に利用される所定個数の周辺ピクセルの利用可能性を判断する段階と、
前記所定個数の周辺ピクセルのうち所定位置の第1周辺ピクセルが利用不可能な場合、前記第1周辺ピクセルを基準にして、前記第1周辺ピクセルより上側に位置し、前記現在ブロックの左側に隣接した周辺ピクセルを下側から上側の一方向に検索し、前記現在ブロックの上側に隣接した周辺ピクセルを左側から右側の一方向に検索して、利用可能な第2周辺ピクセルを検索する段階と、
前記第1周辺ピクセルのピクセル値を、前記検索された第2周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
前記第1周辺ピクセルを除いた前記現在ブロックの左側に位置した周辺ピクセルのうち利用不可能な第3周辺ピクセルを前記第3周辺ピクセルのすぐ下に隣接した周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
前記現在ブロックの上側に位置した周辺ピクセルのうち利用不可能な第4周辺ピクセルを前記第4周辺ピクセルのすぐ左側に隣接した周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
前記代替された周辺ピクセルを含む前記所定個数の周辺ピクセルを利用して、前記現在ブロックに対するイントラ予測を行う段階と、を含むことを特徴とするビデオのイントラ予測方法。」

(補正後の請求項1)
「【請求項1】
ビデオのイントラ予測方法において、
前記ビデオを構成するピクチャを階層的構造に分割したブロックのうち現在ブロックのイントラ予測に利用される所定個数の周辺ピクセルの利用可能性を判断する段階と、
前記所定個数の周辺ピクセルのうち所定位置の第1周辺ピクセルが利用不可能な場合、前記現在ブロックの左側に隣接した周辺ピクセルを下側から上側の一方向に検索し、前記現在ブロックの上側に隣接した周辺ピクセルを左側から右側の一方向に検索して、最初に利用可能な第2周辺ピクセルを検索する段階と、
前記第1周辺ピクセルのピクセル値を、前記検索された第2周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
前記第1周辺ピクセルを除いた前記現在ブロックの左側に位置した周辺ピクセルのうち利用不可能な第3周辺ピクセルを前記第3周辺ピクセルのすぐ下に隣接した周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
前記現在ブロックの上側に位置した周辺ピクセルのうち利用不可能な第4周辺ピクセルを前記第4周辺ピクセルのすぐ左側に隣接した周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
前記代替された周辺ピクセルを含む前記所定個数の周辺ピクセルを利用して、前記現在ブロックに対するイントラ予測を行う段階と、を含むことを特徴とするビデオのイントラ予測方法。」

2.補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1における「下側から上側の一方向に検索」される「現在ブロックの左側に隣接した周辺ピクセル」について、「前記第1周辺ピクセルを基準にして、前記第1周辺ピクセルより上側に位置し、」という事項を削除するものである。
上記補正は、「現在ブロックの左側に隣接した周辺ピクセル」に対し、第1周辺ピクセルとの位置関係の限定を外そうとするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
また、上記補正は、特許法第17条の2第5項における他の各号(第1号(請求項の削除)、第3号(誤記の訂正)、第4号(明りょうでない記載の釈明))のいずれを目的とするものでもない。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年11月14日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年4月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)において「補正前の請求項1」として記載したとおりのものである。以下に再掲する。なお、各構成の符号(A)ないし(G)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成Aないし構成Gと称する。

(本願発明)
【請求項1】
(A)ビデオのイントラ予測方法において、
(B)前記ビデオを構成するピクチャを階層的構造に分割したブロックのうち現在ブロックのイントラ予測に利用される所定個数の周辺ピクセルの利用可能性を判断する段階と、
(C)前記所定個数の周辺ピクセルのうち所定位置の第1周辺ピクセルが利用不可能な場合、前記第1周辺ピクセルを基準にして、前記第1周辺ピクセルより上側に位置し、前記現在ブロックの左側に隣接した周辺ピクセルを下側から上側の一方向に検索し、前記現在ブロックの上側に隣接した周辺ピクセルを左側から右側の一方向に検索して、利用可能な第2周辺ピクセルを検索する段階と、
(D)前記第1周辺ピクセルのピクセル値を、前記検索された第2周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
(E)前記第1周辺ピクセルを除いた前記現在ブロックの左側に位置した周辺ピクセルのうち利用不可能な第3周辺ピクセルを前記第3周辺ピクセルのすぐ下に隣接した周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
(F)前記現在ブロックの上側に位置した周辺ピクセルのうち利用不可能な第4周辺ピクセルを前記第4周辺ピクセルのすぐ左側に隣接した周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階と、
(G)前記代替された周辺ピクセルを含む前記所定個数の周辺ピクセルを利用して、前記現在ブロックに対するイントラ予測を行う段階と、
(A)を含むことを特徴とするビデオのイントラ予測方法。

2 優先権
本願発明の構成Cは、「前記第1周辺ピクセルを基準にして、前記第1周辺ピクセルより上側に位置し、前記現在ブロックの左側に隣接した周辺ピクセルを下側から上側の一方向に検索し」という事項を含むものである。しかしながら、パリ条約による優先権主張の基礎とされた出願である米国仮特許出願第61/552692号の書類には、第1周辺ピクセルより上側に位置する周辺ピクセルを検索することが記載されていないから、本願発明について優先権主張の効果を認めることはできない。
よって、本願発明に対して、特許法第29条を適用する際の判断の基準となる日は、本願の出願日(国際出願日)の2012年(平成24年)10月29日である。
なお、審判請求人は、審判請求書の3.(4)b)において、「補正後の請求項1に係る発明について、特許法第29条を適用する際の判断の基準となる日は、当該米国仮特許出願第61/552692号に係る優先日である平成23年(2011年)10月28日であります。」と、その根拠とともに主張するものであるが、当該主張は、上記「第2 平成28年11月14日にされた手続補正についての補正却下の決定」において却下された審判請求時の補正についてものであって、上記「第1周辺ピクセルより上側に位置する周辺ピクセルを検索すること」に係る主張(根拠)は示されていないから、当該審判請求人の主張は採用することができない。

3 引用文献、引用発明
(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された Xianglin Wang et al., "AHG16: Padding process simplification", Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 7th Meeting: Geneva, 21-30 Nov, 2011, [JCTVC-G812] (以下、「引用文献」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

「Abstract
This contribution provides a single-pass padding scheme for generating reference samples used for intra prediction. With the proposed scheme, memory access is more regular and consistent than the current one in HM4.0.」
(仮訳:「概要
本稿はイントラ予測に用いられる参照サンプルを生成するための単一通路のパディング方法である。提案法では、HM4.0の方法と比べてメモリアクセスがより整然かつ一貫している。」)

「7.1 WD text change based on proposed first scheme
8.3.3.1.1 Reference sample substitution process for intra sample prediction
Inputs to this process are the reference samples p[x, y] with x=-1, y =-1..nS*2-1 and x=0..nS*2-1, y=-1 for intra sample prediction.
Outputs of this process are the modified reference samples p[x, y] with x=-1, y=-1..nS*2-1 and x=0..nS*2-1, y=-1 for intra sample prediction.
The values of the samples p[x, y] with x=-1, y=-1..nS*2-1 and x=0..nS*2-1, y=-1 are modified as follows:
- If all samples p[x, y] with x=-1, y=-1..nS*2-1 and x=0..nS*2-1, y=-1 are marked as “not available for intra prediction,” the value (1<<(BitDepth_(Y)-1)) is substituted for the values of all samples p[x, y].
- Otherwise (at least one but not all samples p[x, y] are marked as “not available for intra prediction”), the following steps are performed:」
(仮訳:「7.1 第1提案法に基づくWDテキスト変更
8.3.3.1.1 イントラサンプル予測の参照サンプル置換手順
本手順に対する入力は、イントラサンプル予測のための参照サンプルp[x, y]、ここで x=-1, y =-1..nS*2-1 及び x=0..nS*2-1, y=-1 である。
本手順の出力は、イントラサンプル予測のための変更された参照サンプル p[x, y] 、ここで x=-1, y=-1..nS*2-1 及び x=0..nS*2-1, y=-1 である。
当該サンプル p[x, y]、ここで x=-1, y=-1..nS*2-1 及び x=0..nS*2-1, y=-1 の値は、次のとおり変更される。
- 全てのサンプル p[x, y] 、ここで x=-1, y=-1..nS*2-1 及び x=0..nS*2-1, y=-1 が“イントラ予測に利用可能ではない”とされている場合には、全サンプル p[x, y] の値として (1<<(BitDepth_(Y)-1)) の値を置換する。
- それ以外の(少なくとも1つかつ全てではないサンプル p[x, y] が“イントラ予測に利用可能ではない”とされている)場合には、次のステップを実行する。」)

「7.2 WD text change based on proposed second scheme

- Otherwise (at least one but not all samples p[x, y] are marked as “not available for intra prediction”), the following steps are performed:
- If p[-1, nS*2-1] is not available, searching sequentially starting from x=-1, y=nS*2-1 to x=-1, y =-1, then from x=0, y=-1 to x=nS*2-1, y=-1. As soon as a sample p[x,y] marked as “available for intra prediction” is found, the search is terminated and the value of p[x,y] is assigned to p[-1, nS*2-1].
- For x=-1, y=nS*2-2…-1, if p[x,y] is marked as “not available for intra prediction”, the value of p[x,y+1] is substituted for the value of p[x,y]
- For x=0…nS*2-1, y=-1, if p[x,y] is marked as “not available for intra prediction”, the value of p[x-1,y] is substituted for the value of p[x,y]」
(仮訳:「7.2 第2提案法に基づくWDテキスト変更

- それ以外の(少なくとも1つかつ全てではないサンプル p[x, y] が“イントラ予測に利用可能ではない”とされている)場合には、次のステップを実行する。
- p[-1, nS*2-1] が利用可能ではない場合には、x=-1, y=nS*2-1 から始めて x=-1, y =-1へ、次いで x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 へ、連続して探索する。“イントラ予測に利用可能である”とされているサンプル p[x, y] が見つかり次第、探索を終了して p[-1, nS*2-1] に対して当該 p[x, y] の値が割り当てられる。
- x=-1, y=nS*2-2…-1 において、p[x, y] が“イントラ予測に利用可能ではない”とされている場合には p[x,y] の値として p[x,y+1] の値が代替される。
- x=0…nS*2-1, y=-1 において、p[x, y] が“イントラ予測に利用可能ではない”とされている場合には p[x,y] の値として p[x-1,y] の値が代替される。」)

(2)技術的事項
上記記載から、引用文献には、次の技術的事項が記載されている。

(ア)Abstract(概要)には、イントラ予測に用いられる参照サンプルを生成するためのパディング方法が記載されている。上記方法は、イントラ予測に用いられることから、当該「イントラ予測に用いられる参照サンプルを生成するためのパディング方法」を含むイントラ予測方法についても上記概要に実質的に記載されていると認められる。加えて、上記イントラ予測において、所定個数の参照サンプルを利用して現在ブロックに対するイントラ予測を行う段階は、イントラ予測に必須の基本構成として周知である。
また、Abstract には、「With the proposed scheme, memory access is more regular and consistent than the current one in HM4.0.」と記載されており、また、HM4 の仕様に関する文書である Ken McCann et al., "HM4: High Efficiency Video Coding (HEVC) Test Model 4 Encoder Description”(仮訳:「HM4:高効率ビデオ符号化(HEVC)の第4次テストモデルの符号化器の説明」), Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 6th Meeting: Torino, IT, 14-22 July, 2011, [JCTVC-F802] には以下の記載がある。
「Abstract
The JCT-VC established a 4th HEVC test model (HM4) at its 6th meeting in Torino from 14 to 22 July 2011.
This document serves as a source of general tutorial information on HEVC and also provides an encoder-side description of HM4.」
(仮訳:「概要
JCT-VC は2011年7月14日から22日のトリノでの第6回会合において第4次 HEVC テストモデル(HM4)を定めた。
本書は、HEVC の一般的な解説情報のソースとしての役目を果たすものであり、またHM4 のエンコーダ側の説明を提供するものでもある。」)

「5.2.1 LCU Partitioning
Pictures are divided into a sequence of largest coding units (LCUs). A LCU consists of an NxN block of luma samples together with two corresponding blocks of chroma samples for a picture that has three sample arrays, or an NxN block of samples of a monochrome plane in a picture that is coded using three separate colour planes. The LCU concept is broadly analogous to that of the macroblock in previous standards such as H.264/AVC [7]. The maximum allowed size of the luma block in a LCU is 64x64.」
(仮訳:「LCU区分化
ピクチャは最大符号化ユニット(LCUs)の列に分割される。LCU は3つのサンプル列を有するピクチャのための彩度サンプルの2つの対応するブロックを伴う輝度サンプルの N×N のブロック、又は、3つの別個の色平面を用いて符号化されたピクチャにおける単色平面のサンプルの N×N のブロックを構成する。LCU のコンセプトは、H.264/AVC のような以前の標準におけるマクロブロックの概念に概ね類似している。LCU における輝度ブロックの最大許容サイズは64×64である。」)

「5.2.4 Coding Unit (CU) structure
The Coding Unit (CU) is the basic unit of region splitting used for inter/intra coding. It is always square and it may take a size from 8x8 luma samples up to the size of the LCU.
The CU concept allows recursive splitting into four equally sized blocks, starting from the LCU. This process gives a content-adaptive coding tree structure comprised of CU blocks, each of which may be as large as the LCU or as small as 8x8.」
(仮訳:「符号化ユニット(CU)の構造
符号化ユニット(CU)は、インタ/イントラ符号化に用いられる分割領域の基本ユニットである。常に正方形状であり大きさは8×8から LCU サイズまでの輝度サンプルをとりうる。
CU の概念は、LCU から4つの均等サイズのブロックへの分割の繰り返しを許容するものである。このプロセスにより、LCUサイズから8×8までの大きさをとりうるCU ブロックからなる内容に適応した符号化の木構造を生じる。」)

「5.2.5 Prediction Unit (PU) structure
The Prediction Unit (PU) is the basic unit used for carrying the information related to the prediction processes. In general, it is not restricted to being square in shape, in order to facilitate partitioning which matches the boundaries of real objects in the picture. Each CU may contain one or more PUs, each of which may be as large as the CU or as small as 8x4 or 4x8 in luma block size.」
(仮訳:「5.2.5 予測ユニット(PU)の構造
予測ユニット(PU)は、予測プロセスに関する情報を持つために用いられる基本ユニットである。一般に、ピクチャ内の実物体の周縁に合わせて容易に区分けするために、正方形状に制限されない。各 CU は1以上の PU を含むことができ、各 PU の輝度ブロックサイズは、CU と同じ、又は8×4、4×8とすることができる。」

以上の記載から、引用文献に記載の方法は、(a)符号化処理対象がビデオであり、かつ、(b)予測処理のブロック単位である予測ユニット(Prediction Unit (PU))がピクチャを分割した最大符号化ユニット(Largest coding Unit (LCU))を繰り返し分割した木構造の符号化ユニット(Coding Unit (CU))に含まれる構成を備えていると認められる。

(イ)上記「7.2 WD text change based on proposed second scheme」には、以下の記載がある。
「…
- Otherwise (at least one but not all samples p[x, y] are marked as “not available for intra prediction”), the following steps are performed:」
ここで、上記「- Otherwise (at least one but not all samples p[x, y] are marked as “not available for intra prediction”), the following steps are performed:」との条件は、「7.1 WD text change based on proposed first scheme」における「- Otherwise (at least one but not all samples p[x, y] are marked as “not available for intra prediction”), the following steps are performed:」と同じであるから、当該条件より前の処理部分が上記「…」に適用されるものと認められる。
そうすると、上記「7.2 WD text change based on proposed second scheme」の処理は、次のとおりである。

(i) x=-1, y=-1 から x=-1, y=nS*2-1 及び x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 における参照サンプル p[x, y] を処理対象とする。

(ii)参照サンプル p[-1, nS*2-1] がイントラ予測に利用可能ではない場合、x=-1, y=nS*2-1 から x=-1, y =-1 へ、次いで x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 へ利用可能なサンプルを検索し、最初に検出した利用可能な参照サンプルの値が前記 p[-1, nS*2-1] に割り当てられる。

(iii) x=-1, y=nS*2-2 から x=-1, y=-1 において、参照サンプル p[x,y] がイントラ予測に利用可能ではない場合、p[x,y+1]の値 が p[x,y]の値 として代替される。

(iv) x=0, y=-1 から nS*2-1, y=-1 において、参照サンプル p[x,y] がイントラ予測に利用可能ではない場合、p[x-1,y]の値 が p[x,y] の値として代替される。

(3)引用発明
以上より、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、各構成の符号(a)ないし(g)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成aないし構成gと称する。

(引用発明)
(a)ビデオのイントラ予測に用いられる参照サンプルを生成するためのパディング方法を含むイントラ予測方法であって、
(b)ピクチャを繰り返し分割した木構造の符号化ユニットに含まれる予測ユニットに対する x=-1, y=-1から x=-1, y=nS*2-1 及び x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 における参照サンプル p[x, y] の利用可能性を判断する段階と、
(c)参照サンプル p[-1, nS*2-1] がイントラ予測に利用可能ではない場合、x=-1, y=nS*2-1 から x=-1, y =-1 へ、次いで x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 へ利用可能な参照サンプルを検索する段階と、
(d)最初に検出した利用可能な参照サンプルの値が前記 p[-1, nS*2-1] の値として割り当てられる段階と、
(e)x=-1, y=nS*2-2 から x=-1, y=-1 において、参照サンプル p[x,y] がイントラ予測に利用可能ではない場合、p[x,y+1] の値 が p[x,y]の値 として代替される段階と、
(f)x=0, y=-1 から nS*2-1, y=-1 において、参照サンプル p[x,y] がイントラ予測に利用可能ではない場合、 p[x-1,y] の値 が p[x,y] の値として代替される段階と、
(g)所定個数の参照サンプル p[x,y] を利用して現在ブロックに対するイントラ予測を行う段階と、
(a)を含む方法。

4 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)本願発明の構成Aについて
引用発明の構成aの「ビデオのイントラ予測に用いられる参照サンプルを生成するためのパディング方法を含むイントラ予測方法」は、本願発明の構成Aの「ビデオのイントラ予測方法」に相当する。
よって、引用発明の構成aは本願発明の構成Aに相当する。

(イ)本願発明の構成Bについて
引用発明の構成bの「ピクチャを繰り返し分割した木構造の符号化ユニットに含まれる予測ユニット」は、本願発明の構成Bの「ビデオを構成するピクチャを階層的構造に分割したブロック」に相当する。
また、引用発明の構成bの「予測ユニットに対する x=-1, y=-1から x=-1, y=nS*2-1 及び x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 における参照サンプル p[x, y]」は、当該予測ユニットの周辺に位置するものであるから、本願発明の構成Bの「現在ブロックのイントラ予測に利用される所定個数の周辺ピクセル」に相当する。そして、引用発明の構成bの「予測ユニットに対する x=-1, y=-1から x=-1, y=nS*2-1 及び x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 における参照サンプル p[x, y] の利用可能性を判断する段階」は、本願発明の構成Bの「現在ブロックのイントラ予測に利用される所定個数の周辺ピクセルの利用可能性を判断する段階」に相当する。
よって、引用発明の構成bは本願発明の構成Bに相当する。

(ウ)本願発明の構成Cについて
引用発明の構成cの「参照サンプル p[-1, nS*2-1]」、「x=-1, y=nS*2-1 から x=-1, y =-1」における参照サンプル、「x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1」における参照サンプル、「利用可能な参照サンプル」は、本願発明の構成Cの「前記所定個数の周辺ピクセルのうち所定位置の第1周辺ピクセル」、「現在ブロックの左側に隣接した周辺ピクセル」、「現在ブロックの上側に隣接した周辺ピクセル」、「利用可能な第2周辺ピクセル」にそれぞれ相当する。ここで、引用発明は、利用可能なサンプルの検索の開始位置を x=-1, y=nS*2-1 としているが、参照サンプル p[-1, nS*2-1] は既に利用可能ではないと判断されていることから、引用発明の構成cの「x=-1, y=nS*2-1 から x=-1, y =-1 へ、次いで x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 へ利用可能な参照サンプルを検索する段階」は、実質的な検索の開始位置が x=-1, y=nS*2-2 であることは自明の事項である。
以上から、引用発明の構成cの「参照サンプル p[-1, nS*2-1] がイントラ予測に利用可能ではない場合、x=-1, y=nS*2-1 から x=-1, y =-1 へ、次いで x=0, y=-1 から x=nS*2-1, y=-1 へ利用可能な参照サンプルを検索する段階」は、本願発明の構成Cの「前記所定個数の周辺ピクセルのうち所定位置の第1周辺ピクセルが利用不可能な場合、前記第1周辺ピクセルを基準にして、前記第1周辺ピクセルより上側に位置し、前記現在ブロックの左側に隣接した周辺ピクセルを下側から上側の一方向に検索し、前記現在ブロックの上側に隣接した周辺ピクセルを左側から右側の一方向に検索して、利用可能な第2周辺ピクセルを検索する段階」に相当する。
よって、引用発明の構成cは本願発明の構成Cに相当する。

(エ)本願発明の構成Dについて
引用発明の構成dの「最初に検出した利用可能な参照サンプルの値が前記 p[-1, nS*2-1] の値として割り当てられる段階」は、本願発明の構成Dの「前記第1周辺ピクセルのピクセル値を、前記検索された第2周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階」に相当する。
よって、引用発明の構成dは本願発明の構成Dに相当する。

(オ)本願発明の構成Eについて
引用発明の構成eの「x=-1, y=nS*2-2 から x=-1, y=-1 において、参照サンプル p[x,y] がイントラ予測に利用可能ではない場合、p[x,y+1] の値 が p[x,y] の値 として代替される段階」は、本願発明の構成Eの「前記第1周辺ピクセルを除いた前記現在ブロックの左側に位置した周辺ピクセルのうち利用不可能な第3周辺ピクセルを前記第3周辺ピクセルのすぐ下に隣接した周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階」に相当する。
よって、引用発明の構成eは本願発明の構成Eに相当する。

(カ)本願発明の構成Fについて
引用発明の構成fの「x=0, y=-1 から nS*2-1, y=-1 において、参照サンプル p[x,y] がイントラ予測に利用可能ではない場合、p[x-1,y] の値 が p[x,y] の値として代替される段階」は、本願発明の構成Fの「前記現在ブロックの上側に位置した周辺ピクセルのうち利用不可能な第4周辺ピクセルを前記第4周辺ピクセルのすぐ左側に隣接した周辺ピクセルのピクセル値に代替する段階」に相当する。
よって、引用発明の構成fは本願発明の構成Fに相当する。

(キ)本願発明の構成Gについて
引用発明の構成gの「所定個数の参照サンプル p[x,y] を利用して現在ブロックに対するイントラ予測を行う段階」は、本願発明の構成Gの「前記代替された周辺ピクセルを含む前記所定個数の周辺ピクセルを利用して、前記現在ブロックに対するイントラ予測を行う段階」に相当する。
よって、引用発明の構成gは本願発明の構成Gに相当する。

(2)以上のことから、引用発明は、本願発明の全ての構成に相当する構成を備えており、本願発明は引用発明と一致する。

したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-27 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2014-538720(P2014-538720)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H04N)
P 1 8・ 113- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 樫本 剛
鳥居 稔
発明の名称 ビデオのイントラ予測方法及びその装置  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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