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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1343780
審判番号 不服2017-6574  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-09 
確定日 2018-09-05 
事件の表示 特願2015-113336「偏光板及び光学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月29日出願公開、特開2015-187744〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は2012年10月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年10月14日 韓国、2011年12月28日 韓国、2012年6月29日 韓国、2012年10月12日 韓国)を国際出願日とする特願2013-541937号の一部を、平成27年6月3日に新たな特許出願としたものであって、同年9月28日に上申書の提出とともに手続補正がなされ、平成28年6月7日付けで拒絶理由が通知され、同年9月14日に意見書の提出とともに手続補正がなされた。そして、同年12月28日付けで同年9月14日にした手続補正が却下されるとともに拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年5月9日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2 本件発明
本願の請求項1?15に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「 偏光子、前記偏光子の少なくとも一面に形成される接着剤層、及び、前記接着剤層上に形成されるアクリル系フィルムを含む偏光板であって、
前記接着剤層は、接着剤組成物により形成され、
前記接着剤組成物は、
ホモポリマーのガラス転移温度が120℃以上である第1エポキシ化合物100重量部と、
ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物30?100重量部と、
カチオン性光重合開始剤0.5?20重量部と、
を含み、
前記第1エポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物であり、
前記第2エポキシ化合物は脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物からなる群より選択される1種以上であり、
前記第2エポキシ化合物はグリシジルエーテル基を一つ以上含み、
前記第1エポキシ化合物と前記第2エポキシ化合物との重量比が1:1?3:1である、
偏光板。」(以下、「本件発明」という。)

なお、本件発明は、本件補正前の請求項1,2及び14の記載を引用する請求項18に係る発明の透明基材フィルムを、選択肢として挙げられていた「アクリル系フィルム」に限定したものである。

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由として、以下のものを含んでいる。

理由2(新規性)・理由3(進歩性)
この出願の本件補正前の請求項1?4、12?15、17、18に係る発明は、下記引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。または、下記引用文献4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献4.特開2008-257199号公報
(特に、[0031]、[0053]、[0079]、[0081]
、[0094]?[0100]、[0135]、[0155]?[0
196]参照。)

4 引用刊行物の記載及び引用発明
(1) 原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用文献4には、以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付与した。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素または二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に保護膜を貼合するための接着剤であって、
分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ前記エポキシ基のうちの少なくとも1個が脂環式エポキシ基であるエポキシ樹脂(A)の100質量部と、
分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂(B)の5?1000質量部と、
光カチオン重合開始剤(C)の0.5?20質量部と、
を含む、光硬化性接着剤。

(中略)

【請求項3】
前記エポキシ樹脂(A)および前記エポキシ樹脂(B)は芳香族環を実質的に有さない樹脂である、請求項1または2に記載の光硬化性接着剤。

(中略)

【請求項8】
ヨウ素または二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の片面または両面に接着剤を介して保護膜が貼合されてなり、
前記接着剤は、請求項1?7のいずれかに記載の光硬化性接着剤の硬化物である、偏光板。

(中略)

【請求項11】
前記保護膜として、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、脂環式ポリイミド系樹脂から選ばれる少なくともいずれかの透明樹脂のフィルムが前記偏光子の少なくとも片面に貼合されてなる、請求項8に記載の偏光板。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の光硬化性接着剤、該光硬化性接着剤を用いて偏光子の片面または両面に保護膜を貼合してなる偏光板およびその製造方法、さらに、該偏光板を用いた光学部材および液晶表示装置に関する。

(中略)

【0007】
このような透湿度の低い保護膜を従来の装置で貼合する場合、水を主な溶媒とする接着剤、例えば、ポリビニルアルコール水溶液を使用して、ポリビニルアルコール系の偏光子に保護膜を貼合した後に溶媒を乾燥させるいわゆるウェットラミネーションでは、十分な接着強度が得られなかったり、外観が不良になったりする等の問題があった。これは、透湿度の低いフィルムは一般的にトリアセチルセルロースフィルムよりも疎水性であることや、透湿度が低いために溶媒である水を十分に乾燥できないこと等の理由による。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ポリビニルアルコール系の偏光子と透湿度の低い保護膜とをウェットラミネーションにより貼合する場合の、接着強度不足や外観不良等の問題を解決するため、貼合後の乾燥炉長を延長することが考えられるが、単純に乾燥炉長を長くすると偏光子や接着剤の熱劣化による変色がおきやすい問題点がある。そこで、乾燥温度を低くして偏光子や接着剤の熱劣化を起こさないようにすると、十分に乾燥するためには乾燥炉長をさらに延長する必要があり、設備投資が莫大になるという問題点がある。

(中略)

【0015】
本発明の目的は、保存安定性に優れ、硬化時における接着剤自体および接着対象物の変色を抑制することが可能で、硬化速度が大きくかつ良好な接着性を与える光硬化性接着剤、および該硬化性接着剤を用いて形成され良好な外観を有する偏光板およびその製造方法、該偏光板を用いた信頼性に優れる液晶表示装置を形成しうる光学部材、ならびに該光学部材を配置した液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ヨウ素または二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に保護膜を貼合するための接着剤であって、分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ該エポキシ基のうちの少なくとも1個が脂環式エポキシ基であるエポキシ樹脂(A)の100質量部と、分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂(B)の5?1000質量部と、光カチオン重合開始剤(C)の0.5?20質量部と、を含む光硬化性接着剤に関する。

(中略)

【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、保存安定性に優れ、硬化時における接着剤自体および接着対象物の変色を抑制することが可能で、硬化速度が大きくかつ良好な接着性を与える光硬化性接着剤を得ることができるため、該硬化性接着剤を用いることにより、例えば透湿度の低い樹脂フィルムを保護膜とする場合においても、良好な外観を有する偏光板を得ることができる。また、該偏光板を用いることにより、信頼性に優れる液晶表示装置を形成しうる光学部材、および該光学部材を配置した液晶表示装置の提供も可能となる。」

ウ 「【0032】
[光硬化性接着剤]
本発明は、分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ該エポキシ基のうちの少なくとも1個が脂環式エポキシ基であるエポキシ樹脂(A)(以下、単にエポキシ樹脂(A)とも記載する)の100質量部と、分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂(B)(以下、単にエポキシ樹脂(B)とも記載する)の5?1000質量部と、光カチオン重合開始剤(C)の0.5?20質量部とを含む光硬化性接着剤を提供する。」

エ 「【0038】
<エポキシ樹脂(A)>
本発明の光硬化性接着剤の必須成分である、分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ該エポキシ基のうちの少なくとも1個が脂環式エポキシ基であるエポキシ樹脂(A)としては、周知一般のエポキシ化合物を用いることができる。脂環式エポキシ基を含むエポキシ樹脂(A)は、本発明の光硬化性接着剤において接着強度の向上に寄与する。
【0039】
エポキシ樹脂(A)は、芳香族環を実質的に有さない樹脂であることが好ましい。この場合、光硬化性が良好であることにより硬化時間の短縮が可能で、かつ耐候性および屈折率が良好な接着剤層を与えることが可能な光硬化性接着剤を得ることができる。なお本発明において、実質的に有さないとは、たとえば製造過程等により不可避的に残留したもの以外には含有されていないことを意味する。
【0040】
本発明においては、エポキシ樹脂(A)が分子中に有する2個以上のエポキシ基のうち少なくとも1個が脂環式エポキシ基であればよいが、エポキシ基がすべて脂環式エポキシ基であることがより好ましい。この場合、エポキシ樹脂(A)を組合せることによる接着強度の向上効果が一層良好に発揮される。
【0041】
エポキシ樹脂(A)としては、分子中にエポキシ基を2個有し、2個の該エポキシ基がともに脂環式エポキシ基であるものが特に好ましい。この場合、接着強度の点で特に有利である。
【0042】
エポキシ樹脂(A)中の脂環式エポキシ基を構成する脂環式環の炭素数は、通常5?7の範囲内である。低コストで入手が容易である点で、脂環式環の炭素数が6であるシクロヘキサン環を有する脂環式エポキシ基(エポキシシクロヘキシル基)が特に好ましい。
【0043】
なお、脂環式環は置換基を有してもよく、典型的には、置換基としてアルキル基を有するものを例示できる。硬化速度および接着強度の点では、該アルキル基の炭素数は20以下であることが好ましい。
【0044】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ基以外の構造部分としては、例えば、飽和炭化水素、不飽和炭化水素、脂環、エステル、エーテル、ケトン、カーボネート等を例示できる。エポキシ基以外の構造部分の炭素数は、例えば8以下とすることができる。この場合、該エポキシ樹脂(A)の粘度が低いので、光硬化性接着剤の製造時や、得られる光硬化性接着剤を塗工する時の取扱いが容易になるという利点が得られる。
【0045】
エポキシ樹脂(A)としては、例えば下記一般式(1)?(22)で表されるものを特に好ましく例示できる。これらの樹脂は、光硬化性が特に良好である点で好ましい。
【0046】
【化3】

(中略)



(中略)

【0049】
上記一般式(1)?(22)において、R^(1)?R^(44)は各々独立に水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表す。R^(1)?R^(44)がアルキル基の場合、脂環式環に結合する位置は1位?6位の任意の位置である。炭素数1?6のアルキル基は、直鎖でもよく、分岐を有してもよく、脂環式環を有していてもよい。該炭素数が6以下である場合、硬化速度の点で有利である。
【0050】
Y^(1)は、酸素原子またはアルカンジイル基を表し、Y^(2)?Y^(22)は、各々独立に直鎖でもよく、分岐を有していてもよく、脂環式環を有してもよいアルカンジイル基を表す。アルカンジイル基の炭素数は、Y^(2)、Y^(4)、Y^(9)、Y^(10)、Y^(11)、Y^(12)、Y^(13)、Y^(14)、Y^(15)、Y^(18)、Y^(19)、Y^(20)、Y^(21)は、1?20であり、Y^(1)、Y^(3)、Y^(5)、Y^(6)、Y^(7)、Y^(8)、Y^(17)、Y^(18)は、2?20である。Y^(2)?Y^(22)の炭素数が20以下である場合、粘度が低くなる点で有利である。

(中略)

【0053】
a?rは、0?20の整数を表す。a?rが20以下である場合、粘度が低くなる点で有利である。」

オ 「【0055】
<エポキシ樹脂(B)>
本発明の光硬化性接着剤の必須成分である、分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂(B)としては、周知一般のエポキシ化合物を用いることができる。なお、脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂とは、分子中のエポキシ基が脂肪族エポキシ基からなるエポキシ樹脂と言い換えることもできる。
【0056】
脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂(B)は、本発明の光硬化性接着剤において硬化後の接着剤層の可撓性を向上させることに寄与する。
【0057】
エポキシ樹脂(B)としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテルのようなビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラックエポキシ樹脂;クレゾールノボラックエポキシ樹脂;ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂のようなノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノールのような多官能型のエポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂;脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル;脂肪族多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル;脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのポリエステルポリオールのポリグリシジルエーテル;脂肪族多価カルボン酸のポリグリシジルエステル;脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのポリエステルポリカルボン酸のポリグリシジルエステル;グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのビニル重合により得られるダイマー、オリゴマー、ポリマー;グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートと他のビニルモノマーとのビニル重合により得られるオリゴマー、ポリマー;エポキシ化植物油;エポキシ化植物油のエステル交換体;エポキシ化ポリブタジエン、等が挙げられる。
【0058】
上記の脂肪族多価アルコールとしては、例えば炭素数2?20の範囲内のものを例示できる。より具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、3,5-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等の脂環式ジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の三価以上のポリオール、が挙げられる。
【0059】
また、上記のアルキレンオキサイドとして、より具体的には、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。
【0060】
脂肪族多価カルボン酸として、より具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2-メチルコハク酸、2-メチルアジピン酸、3-メチルアジピン酸、3-メチルペンタン二酸、2-メチルオクタン二酸、3,8-ジメチルデカン二酸、3,7-ジメチルデカン二酸、1,20-エイコサメチレンジカルボン酸、1,2-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-ジカルボキシルメチレンシクロヘキサン、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸が挙げられる。
【0061】
エポキシ化植物油としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油が挙げられる。
エポキシ樹脂(B)が芳香族環を実質的に有さない樹脂である場合、光硬化性が良好であることにより硬化時間の短縮が可能で、かつ耐候性および屈折率が良好な接着剤層を与えることが可能な光硬化性接着剤を得ることができる点で好ましい。また、エポキシ樹脂(B)を、脂環式環を実質的に有さない樹脂で構成すれば、被接着物である偏光子と保護層との接着性を一層高めるうえで好ましい。
【0062】
本発明においては、エポキシ樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)がともに芳香族環を実質的に有さない樹脂であることが特に好ましい。この場合、硬化時間の短縮効果が特に良好であるとともに、耐候性および屈折率が特に良好である接着剤層を与えることが可能な光硬化性接着剤を得ることができる。
【0063】
エポキシ樹脂(B)としては、1種類の樹脂または2種類以上の樹脂の混合物を使用することができる。本発明において、エポキシ樹脂(B)の使用量は、前述のエポキシ樹脂(A)100質量部に対して5?1000質量部である。この割合に過不足があると、本発明の光硬化性接着剤の特性である硬化時間の短縮効果が充分に得られない。エポキシ樹脂(B)の好適な使用量は、硬化後に充分な密着性と可撓性とを発現させるために、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、10?500質量部であり、さらに好適な使用量は、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、10?250質量部である。」

カ 「【0064】
<光カチオン重合開始剤(C)>
本発明の光硬化性接着剤の必須成分である光カチオン重合開始剤(C)は、光照射、より具体的には後述するような活性エネルギー線の照射、によりカチオン重合を開始させる物質を放出することが可能な化合物である。本発明においては、エポキシ樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)を硬化させるためのカチオン重合開始剤として光カチオン重合開始剤(C)を用いるため、硬化時における接着剤自体および接着対象物の劣化や変色を防止することが可能な接着剤を得ることができる。

(中略)

【0079】
光カチオン重合開始剤(C)は、1種でまたは2種以上混合して使用することができる。光カチオン重合開始剤(C)の使用量は、前述のエポキシ樹脂(A)100質量部に対して0.5?50質量部である。該使用量が0.5質量部未満であると、光硬化性接着剤の硬化が不十分になり接着強度を十分得ることができない。また該使用量が50質量部を越えると、光硬化性接着剤を硬化させて形成した接着剤層におけるイオン性物質の含有量が増加するために接着剤層の吸湿性が高くなり、接着剤層の耐久性能を十分得ることができない。光カチオン重合開始剤(C)のより好ましい使用量は、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して1質量部?25質量部である。」

キ 「【0111】
[偏光板]
本発明はまた、上述した光硬化性接着剤を用いて偏光子の片面または両面に保護膜が貼合された偏光板をも提供する。本発明の偏光板における偏光子としては、典型的には、一軸延伸され、ヨウ素または二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子を用いることができる。以下、ヨウ素または二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子を用いる場合について、本発明に係る偏光板の好ましい態様を説明する。

(中略)

【0121】
上記のような方法で、ヨウ素または二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子を得ることができる。次いで、この偏光子と保護膜とを、本発明の光硬化性接着剤を用いて貼合する。本発明の偏光板においては、偏光子の片面または両面に保護膜を貼合する。
【0122】
本発明の偏光板は、典型的には、本発明の光硬化性接着剤を未硬化の状態で保護膜に塗工して接着剤塗工面を形成する塗工工程と、保護膜の該接着剤塗工面に偏光子を貼合する貼合工程と、光硬化性接着剤を硬化させる硬化工程とを含む方法によって製造することができる。

(中略)

【0127】
本発明の偏光板において、典型的には、アセチルセルロース系樹脂のフィルムやトリアセチルセルロースよりも透湿度の低い透明樹脂のフィルムが、偏光子の少なくとも片面に貼合されることができる。

(中略)

【0130】
トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い透明樹脂のフィルムの例としては、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、脂環式ポリイミド系樹脂等から選ばれる少なくともいずれかの透明樹脂のフィルムが挙げられる。中でも非晶性ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムが特に好ましい。非晶性ポリオレフィン系樹脂は通常、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーのような環状オレフィンの重合単位を有するものであり、環状オレフィンと鎖状オレフィンとの共重合体であってもよい。このような非晶性ポリオレフィン系樹脂としては、前述の非特許文献1や非特許文献2等に記載されているものを例示できる。なかでも、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂が代表的である。また、極性基が導入されているものも有効である。市販されている非晶性ポリオレフィン系樹脂としては、ジェイエスアール(株)の「アートン」、日本ゼオン(株)の「ZEONEX」および「ZEONOR」、三井化学(株)の「APO」および「アペル」等がある。非晶性ポリオレフィン系樹脂を製膜してフィルムとする際、製膜には、溶剤キャスト法、溶融押出法等、公知の方法が適宜用いられる。これらの非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムは、概ね300g/m^(2)/24hr以下の透湿度を有する。

(中略)

【0132】
より具体的には、一方の保護膜として、トリアセチルセルロースフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、アセチルブチルセルロースフィルム等を用い、他方の保護膜として、非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリサルホン系樹脂フィルム、脂環式ポリイミド系樹脂フィルム等の透湿度の低い樹脂フィルムを用いる形態をとることができる。
【0133】
また、一方の保護膜として、ポリエチレンテレフタレートフィルムやアクリル樹脂フィルムを用い、他方の保護膜として、非晶性ポリオレフィン樹脂からなるフィルムを用いる形態も有効である。」

ク 「【実施例】
【0153】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0154】
なお、各表中の<>内に示す数字は、各成分の配合量をエポキシ樹脂(A)100質量部に対する量に換算した値(単位:質量部)(但し、小数点以下第3位を四捨五入した概算値または有効数字を3桁とした概算値)である。
【0155】
[実施例1,2、比較例1,2]
表1に記載の配合の各成分を混合後、脱泡し、本発明の光硬化性接着剤として、実施例1,2に係る接着剤を得た。なお光カチオン重合開始剤(C)は、50質量%プロピレンカーボネート溶液として配合した。なお、後述の表中のエポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、光カチオン重合開始剤(C)、重合性モノマー(D)、添加剤成分(E)は、本発明で前述の通り定義された意味を有する。なお、実施例および比較例で用いたエポキシ樹脂(A)(すなわち、a-1,a-2,a-3,a-4)およびエポキシ樹脂(B)(すなわち、b-1,b-2,b-3,b-4,b-5)の構造を、下記式に示す。
【0156】
【化8】


(中略)

【0161】
c-3:4,4'-ビス(ジフェニルスルホニオ)フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェート
c-4:4-(フェニルチオ)フェニル-ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート
f-1:3-メチルー2-ブテニルテトラヒドロチオフェニウムヘキサフルオロホスフェート

(中略)

【0171】
[実施例4?24]
表3?9に記載の配合の各成分を混合後、脱泡し、本発明の光硬化性接着剤として実施例4?24に係る接着剤を得た。なお光カチオン重合開始剤(C)は、50質量%プロピレンカーボネート溶液として配合した。
【0172】
上記で得た接着剤を、保護膜となる厚さ80μmの紫外線吸収剤を含む富士フィルム社製TACフィルム(商品名フジタック)上に10μmバーコータで塗工し、その上にポリビニルアルコール-ヨウ素の偏光子を貼合した。また、保護膜となる、表面をコロナ放電処理した厚さ70μmのオプテス社製延伸ノルボルネンフィルム(商品名ZEONOR)に、各々の接着剤を10μmバーコータで塗工し、前述の偏光子のTACフィルムを貼合している面と反対側の面と貼合し、偏光子の両面に保護膜を貼合した。これをベルトコンベア付き紫外線照射装置(ランプ:Fusion Dランプ、積算光量1000mJ/cm^(2))にて紫外線の照射をノルボルネンフィルム側から行なって、偏光子の両面に保護膜が貼合された偏光板とした。これを室温で1時間放置し、偏光子から保護膜であるTACフィルムとノルボルネンフィルムとを剥がし、接着性と硬化性とを下記の基準で評価した。
接着性:偏光子からTACフィルムおよびノルボルネンフィルムを剥がした場合に、界面で剥がれずにフィルムの破壊が起きた場合に接着性を(◎)、フィルムの破壊を伴わずに上記界面で剥がれた場合を(○)、硬化直後に浮きが発生し全く接着していない状況を(×)とした。
硬化性:偏光子からTACフィルムおよびノルボルネンフィルムが剥がれた場合、界面を指触で確認し、べた付きがない場合の硬化性を良好(○)、べた付きがある場合の硬化性を不良(×)とした。
【0173】
なお、接着性の上記評価が◎または○であったものは硬化性も当然に良好であるとみなして硬化性の評価は行なわなかった。
【0174】
本発明の光硬化性接着剤を用いた実施例4?24においては、いずれも接着性は良好であった。その中でも、エポキシ樹脂(B)が脂環式環を有さないものである実施例4?14、実施例18?20、実施例22?24においては、脂環式環を有するものである実施例15?17、実施例21と比べて、特に偏光子とTACフィルムとの接着性が一層良好であった。

(中略)

【0179】
【表3】

【0180】
c-1:4,4’-ビス[ビス((β-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニオ]フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェート

(中略)

【0193】
[実施例31?36]
表11記載のエポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、光カチオン重合開始剤(C)として、c-3を1.75質量部、c-4を0.75質量部を混合後、脱泡して光硬化性接着剤を得た。なお、実施例31使用の光硬化性接着剤は、実施例13で使用の光硬化性接着剤と同じ組成である。
【0194】
上記で得た接着剤を、保護膜となる厚さ38μmの東洋紡社製一軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(商品名K1589)上に10μmバーコータで塗工し、その上にポリビニルアルコール-ヨウ素の偏光子を貼合した。また、保護膜となる、表面をコロナ放電処理した厚さ70μmのオプテス社製延伸ノルボルネンフィルム(商品名ZEONOR)に、各々の接着剤を10μmバーコータで塗工し、前述の偏光子のPETフィルムを貼合している面と反対側の面と貼合し、偏光子の両面に保護膜を貼合した。これをベルトコンベア付き紫外線照射装置(ランプ:Fusion Dランプ、積算光量1000mJ/cm^(2))にて紫外線の照射をノルボルネンフィルム側から行い、80℃1分間加熱して、偏光子の両面に保護膜が貼合された偏光板とした。これを室温で1時間放置し、偏光子から保護膜であるPETフィルムを剥がし、接着性を下記の基準で評価した。
接着性:偏光子からPETフィルムを剥がした場合に、界面で剥がれずにフィルムの破壊が起きた場合に接着性を(◎)、フィルムの破壊を伴わずに上記界面で剥がれた場合を(○)、硬化直後に浮きが発生し全く接着していない状況を(×)とした。
【0195】
【表11】

【0196】
上記の結果から、保護膜にPETを用いた場合でも本発明の要件を満たした光硬化性接着剤を用いた実施例31?36は、十分な接着性を示すことが確認できた。」

(2) 上記記載事項クのa-1の構造で示される化合物は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボン酸である。また、b-1の構造で示される化合物は、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルであり、b-5の構造で示される化合物は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルである。
上記記載事項クの【表3】に基づけば、実施例5に係る接着剤は、エポキシ樹脂(A)として、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボン酸を100質量部、エポキシ樹脂(B)として、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを100質量部、光カチオン重合開始剤(C)として、4,4’-ビス[ビス((β-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニオ]フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェートを5質量部を混合したものといえる。

(3) 上記記載事項アの記載及び記載事項クの実施例5の記載に基づけば、引用文献4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ前記エポキシ基のうちの少なくとも1個が脂環式エポキシ基であるエポキシ樹脂(A)として、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボン酸を100質量部、分子中に2個以上のエポキシ基を有しかつ脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂(B)として、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを100質量部、光カチオン重合開始剤(C)として、4,4’-ビス[ビス((β-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニオ]フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェートを5質量部を混合後、脱泡し、得た光硬化性接着剤を、保護膜となる厚さ80μmの紫外線吸収剤を含むTACフィルム上に10μmバーコータで塗工し、その上にポリビニルアルコール-ヨウ素の偏光子を貼合し、また、保護膜となる、表面をコロナ放電処理した厚さ70μmの延伸ノルボルネンフィルムに、接着剤を10μmバーコータで塗工し、偏光子のTACフィルムを貼合している面と反対側の面と貼合し、偏光子の両面に保護膜を貼合し、紫外線の照射をノルボルネンフィルム側から行なうことにより、偏光子の両面に保護膜が貼合された偏光板。」(以下、「引用発明」という。)

5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「偏光子」は、その機能からみて、本件発明の「偏光子」に相当する。
また、引用発明の「偏光板」は、「保護膜となる、表面をコロナ放電処理した厚さ70μmの延伸ノルボルネンフィルムに、接着剤を10μmバーコータで塗工し、偏光子のTACフィルムを貼合している面と反対側の面と貼合し、偏光子の両面に保護膜を貼合し、紫外線の照射をノルボルネンフィルム側から行なうことにより、偏光子の両面に保護膜が貼合された」とされることから、偏光子の一面に接着剤からなる層及び延伸ノルボルネンフィルムを含むものである。そうすると、引用発明の「偏光板」と本件発明の「偏光子、前記偏光子の少なくとも一面に形成される接着剤層、及び、前記接着剤層上に形成されるアクリル系フィルムを含む偏光板」とは、「偏光子、前記偏光子の少なくとも一面に形成される接着剤層、及び、前記接着剤層上に形成されるフィルムを含む偏光板」である点で共通する。

(2) 3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボン酸は、ホモポリマーのガラス転位温度が120℃以上であるエポキシ化合物である(本願明細書の段落【0022】)。そうすると、引用発明の「3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボン酸」は、本件発明の「ホモポリマーのガラス転移温度が120℃以上である第1エポキシ化合物」に相当する。また、引用発明の「3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボン酸」は、本件発明の「第1エポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物」とする要件を満たしている。

(3) 1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルは、ホモポリマーのガラス転位温度が60℃以下のエポキシ化合物である(本願明細書の段落【0023】及び【0029】)。そうすると、引用発明の「1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル」は、本件発明の「ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物」に相当する。また、引用発明の「1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル」は、脂肪族エポキシ化合物であるから、本件発明の「第2エポキシ化合物は脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物からなる群より選択される1種以上」とする要件を満たしている。さらに、引用発明の「1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル」は、本件発明の「第2エポキシ化合物はグリシジルエーテル基を一つ以上含」むとする要件を満たしている。

(4) 引用発明の「光カチオン重合開始剤(C)として、4,4’-ビス[ビス((β-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニオ]フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェート」は、その機能からみて、本件発明の「カチオン性光重合開始剤」に相当する。

(5) 引用発明の「光硬化性接着剤」は、「3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボン酸」を「100質量部」、「1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル」を「100質量部」、「4,4’-ビス[ビス((β-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニオ]フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェート」を「5質量部」混合して得たものである。そうすると、引用発明の「光硬化性接着剤」は、本件発明のホモポリマーのガラス転移温度が120℃以上である第1エポキシ化合物を「100重量部」、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物を「30?100重量部」、カチオン性光重合開始剤を「0.5?20重量部」含むとする要件を満たしている。
さらに、引用発明の「光硬化性接着剤」における「3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボン酸」と「1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル」との重量比は1:1であるから、引用発明の「光硬化性接着剤」は、本件発明の「前記第1エポキシ化合物と前記第2エポキシ化合物との重量比が1:1?3:1である」とする要件を満たしている。

(6)以上より、本件発明と引用発明とは、
「偏光子、前記偏光子の少なくとも一面に形成される接着剤層、及び、前記接着剤層上に形成されるフィルムを含む偏光板であって、
前記接着剤層は、接着剤組成物により形成され、
前記接着剤組成物は、
ホモポリマーのガラス転移温度が120℃以上である第1エポキシ化合物100重量部と、
ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物30?100重量部と、
カチオン性光重合開始剤0.5?20重量部と、
を含み、
前記第1エポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物であり、
前記第2エポキシ化合物は脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物からなる群より選択される1種以上であり、
前記第2エポキシ化合物はグリシジルエーテル基を一つ以上含み、
前記第1エポキシ化合物と前記第2エポキシ化合物との重量比が1:1?3:1である、
偏光板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]接着剤層上に形成されるフィルムが、本件発明では「アクリル系フィルム」であるのに対し、引用発明では「ノルボルネンフィルム」である点。

6 判断
上記[相違点]について検討する。引用文献4の記載事項キには、偏光子に貼合される保護膜について、トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い透明樹脂のフィルムを貼合できること、トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い透明樹脂のフィルムの例としては、アクリル系樹脂が挙げられており、ノルボルネンフィルムを包含する非晶性ポリオレフィン樹脂に代えて、又は、非晶性ポリオレフィン樹脂からなるフィルムと共にアクリル系樹脂からなるフィルムを用いることが記載されている。また、記載事項アの請求項11にも、保護膜としてアクリル系樹脂が選ばれることが記載されている。そうすると、透湿度の低いフィルムとしてアクリル系樹脂からなるフィルムを用いることは、引用文献4が想定する実施形態の範囲内のものであるから、引用発明における接着剤層上に形成されるフィルムを、ノルボルネンフィルムからアクリル系フィルムに置き換えることは、引用文献4の記載に基づき当業者が容易に想到し得たことといえる。
次に、アクリル系フィルムを採用したことの効果について、当業者が予測し得ない格別なものであったかについて検討すると、引用文献4の記載事項イに、「ポリビニルアルコール系の偏光子と透湿度の低い保護膜とをウェットラミネーションにより貼合する場合の、接着強度不足や外観不良等の問題を解決する」、「本発明の目的は、・・・良好な接着性を与える光硬化性接着剤、および該硬化性接着剤を用いて形成され良好な外観を有する偏光板・・・を提供することにある。」と記載されているとおり、引用発明は、特定の成分から構成される保護フィルムに特化したものではないものの、ポリビニルアルコール系の偏光子と透湿度の低い保護膜とをウェットラミネーションにより貼合する場合の良好な接着性を与えることを目的としてなされたものといえる。そして、効果について記載事項イの段落【0031】に「本発明によれば、・・・良好な接着性を与える光硬化性接着剤を得ることができる・・・」と記載されている。引用文献4には、アクリル系フィルムを保護フィルムとした場合の実験例について開示されていない。しかしながら、引用文献4の記載事項イの段落【0007】に記載された従来の「水を主な溶媒とする接着剤・・・では、十分な接着強度が得られなかったり・・・等の問題があった」ことの理由として挙げられた「透湿度の低いフィルムは一般的にトリアセチルセルロースフィルムよりも疎水性であること」、記載事項エの段落【0038】の「脂環式エポキシ基を含むエポキシ樹脂(A)は、本発明の光硬化性接着剤において接着強度の向上に寄与する。」との記載に基づけば、引用発明の光硬化性接着剤が、脂環式エポキシ基を含むエポキシ樹脂(A)により、疎水性である透湿度の低いフィルムに対する良好な接着性を奏するものであり、アクリル系フィルムに対しても同様の効果を奏することは、当然予測し得ることである。引用文献4の記載事項クの段落【0193】?【0196】には実施例31?36として、保護膜としてPETフィルムを用いた実験例も記載されており、保護膜にPETを用いた場合でも本発明の要件を満たした光硬化性接着剤を用いた実施例31?36は、十分な接着性を示すことが確認できたことが示されており、この実験例からも、引用発明の光硬化性接着剤が奏する効果は、保護フィルムとしてノルボルネンフィルムを用いた場合のみに奏されるものではなく、アクリル系フィルムを含む透湿度の低い保護膜を用いた場合にも奏する効果であることが理解できる。
以上のとおりであるから、引用発明において、接着剤層上に形成されるフィルムを、ノルボルネンフィルムからアクリル系フィルムに置き換えることは、引用文献4の記載に基づき当業者が容易に想到し得たことといえる。

よって、本件発明は、引用文献4の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

7 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-03-29 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2015-113336(P2015-113336)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
宮澤 浩
発明の名称 偏光板及び光学素子  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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